(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
本願において、「(メタ)アクリル」の文言は、アクリル及びメタクリルのいずれか又は両方を意味する。例えば、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミド、メタクリルアミド又はこれらの組み合わせを意味する。また、「(メタ)アクリロイル」の文言はアクリロイル、メタクリロイル又はこれらの組み合わせを意味する。
【0013】
〔1.多孔膜用組成物〕
本発明の二次電池多孔膜用組成物(以下、「多孔膜用組成物」ということがある。)は、非導電性粒子、及び特定の水溶性重合体を含む。多孔膜用組成物はさらに、通常は水を含む。
【0014】
〔1.1.非導電性粒子〕
非導電性粒子は、多孔膜に充填される成分であり、この非導電性粒子同士の隙間が多孔膜の孔を形成しうる。非導電性粒子が非導電性を有するので、多孔膜を絶縁性にでき、そのため、二次電池における短絡を防止することができる。また、通常、非導電性粒子は高い剛性を有し、これにより、多孔膜の機械的強度を高めることができる。そのため、熱によってセパレーター基材等の基材に収縮しようとする応力が生じた場合でも、多孔膜がその応力に抗することができるので、基材の収縮による短絡の発生を防止することが可能である。
非導電性粒子としては、無機粒子を用いてもよく、有機粒子を用いてもよい。
【0015】
無機粒子は、通常、水中での分散安定性に優れ、多孔膜用組成物において沈降し難く、均一なスラリー状態を長時間維持することができる。また、無機粒子を用いると、通常は多孔膜の耐熱性を高くできる。
【0016】
非導電性粒子の材料としては、電気化学的に安定な材料が好ましい。このような観点から、非導電性粒子の無機材料として好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト(AlOOH)、ギブサイト(Al(OH)
3))、ベークライト、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO
3、ZrO、アルミナ−シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;シリカ、タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。
【0017】
これらの中でも、耐熱性(例えば180℃以上の高温に対する耐性)に優れる観点からアルミナ、ベーマイト、及び硫酸バリウムが好ましく、アルミナ及び硫酸バリウムがより好ましく、さらに、吸水性が低いなどの観点から硫酸バリウムが特に好ましい。
【0018】
有機粒子としては、通常は重合体の粒子を用いる。有機粒子は、当該有機粒子の表面の官能基の種類及び量を調整することにより、水に対する親和性を制御でき、ひいては多孔膜に含まれる水分量を制御できる。また有機粒子は、通常は金属イオンの溶出が少ない点で、優れる。
【0019】
非導電性粒子を形成する重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等の各種高分子化合物などが挙げられる。粒子を形成する上記高分子化合物は、単独重合体でも共重合体でもよく、共重合体の場合は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれも使用できる。さらに、少なくとも一部が変性されたものや架橋物であってもよい。そして、これらの混合物であってもよい。架橋物である場合の架橋剤としては、ジビニルベンゼンなどの芳香族環を持つ架橋体、エチレングリコールジメタクリレートなどの多官能アクリレート架橋体、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基を有する架橋体などが挙げられる。
【0020】
非導電性粒子として有機粒子を用いる場合、当該有機粒子は、通常、ガラス転移温度を持たない重合体の粒子であるか、高いガラス転移温度を有する重合体の粒子である。当該重合体がガラス転移温度を有する場合、そのガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、特に好ましくは250℃以上であり、通常500℃以下である。
【0021】
非導電性粒子としての有機粒子の製造方法は特に限定はされず、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの、いずれの方法を用いてもよい。中でも、水中で重合をすることができ、そのまま多孔膜用組成物の材料として使用できるので、乳化重合法および懸濁重合法が好ましい。また、有機粒子を製造する際、その反応系には分散剤を含ませることが好ましい。有機粒子は、通常、実質的に当該有機粒子を構成する重合体からなるが、重合に際して添加した添加剤等の任意の成分を同伴していてもよい。
【0022】
非導電性粒子は、必要に応じて、例えば元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。また、非導電性粒子は、1つの粒子の中に、前記の材料のうち1種類を単独で含むものであってもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含むものであってもよい。さらに、非導電性粒子は、異なる材料で形成された2種類以上の粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
非導電性粒子の形状は、例えば、球状、楕円球状、多角形状、テトラポッド(登録商標)状、板状、鱗片状などが挙げられる。中でも、多孔膜の空隙率を高くして多孔膜によるイオン伝導度の低下を抑制する観点では、テトラポッド(登録商標)状、板状、鱗片状が好ましい。
【0024】
非導電性粒子の比表面積は、好ましくは0.5m
2/g以上、より好ましくは1m
2/g以上、さらにより好ましくは2m
2/g以上であり、一方好ましくは75m
2/g以下、より好ましくは25m
2/g以下、さらにより好ましくは10m
2/g以下である。非導電性粒子の比表面積を前記下限以上とすることにより、小さい粒子径で、多孔膜の充填率を高め、耐熱収縮性を良好なものとすることができる。非導電性粒子の比表面積を前記上限以下とすることにより、多孔膜に吸着する水分量を低い値にすることができる。
【0025】
非導電性粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、一方好ましくは1μm以下である。非導電性粒子の体積平均粒子径を前記範囲の上限値以下にすることにより、小さい粒子径で、多孔膜の充填率を高め、耐熱収縮性を良好なものとすることができる。ここで、粒子の体積平均粒子径とは、レーザー回折法で測定された粒子径分布において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0026】
〔1.2.水溶性重合体(A)〕
本発明の多孔膜用組成物は、(メタ)アクリルアミド単量体単位を含む特定の水溶性重合体を含有する。以下において、この特定の水溶性重合体を、水溶性重合体(A)と言うことがある。
【0027】
水溶性重合体(A)は、水溶性の重合体である。水溶性の重合体とは、25℃において、重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が1.0重量%未満となる重合体をいう。構成要素である単量体単位の割合を適宜調節することにより、このような水溶性の重合体を得ることができる。水溶性重合体(A)は、多孔膜において非導電性粒子同士の間に介在することにより非導電性粒子同士を結着する作用、並びに、非導電性粒子とセパレーター基材又は極板との間に介在することにより多孔膜とセパレーター基材又は極板とを結着する作用を奏しうる。
【0028】
〔1.2.1.水溶性重合体(A):(メタ)アクリルアミド単量体単位〕
水溶性重合体(A)は、(メタ)アクリルアミド単量体単位を含む。(メタ)アクリルアミド単量体単位とは、(メタ)アクリルアミド単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。
本発明の多孔膜用組成物は、(メタ)アクリルアミド単量体単位を含む水溶性重合体(A)を含むことにより、多孔膜用組成物の粘度等の物性を塗布に適した範囲とすることができ、且つ多孔膜の残存水分量を低減させることができる。加えて、(メタ)アクリルアミドによるハロゲン捕捉能の付与及びセパレーターの熱収縮低減等の効果も併せて発揮させることができ、結果的に高温サイクル特性等の電池性能を向上させることができる。
【0029】
(メタ)アクリルアミド単量体の例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0030】
水溶性重合体(A)における(メタ)アクリルアミド単量体単位の割合は、80重量%以上、好ましくは82重量%以上、より好ましくは85重量%以上であり、一方好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。(メタ)アクリルアミド単量体単位の割合を前記下限以上とすることにより、アミド基によるハロゲン等の不純物を捕捉する機能を有効に発揮することができる。(メタ)アクリルアミド単量体単位の割合を前記上限以下とすることにより、水溶性重合体(A)のガラス転移温度及び貯蔵弾性率を所望の高い値に調整することができ、良好な耐熱収縮性を得ることができる。
【0031】
〔1.2.2.水溶性重合体(A):酸基含有単量体単位〕
水溶性重合体(A)は、好ましくは酸基含有単量体単位を含む。酸基含有単量体単位とは、酸基含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。また、酸基含有単量体とは、酸基を含む単量体を示す。
【0032】
酸基の例としては、−COOH基(カルボン酸基);−SO
3H基(スルホン酸基);−PO
3H
2基及び−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)等のホスホン酸基;及びこれらの組み合わせが挙げられる。したがって、酸基含有単量体としては、例えば、これらの酸基を有する単量体が挙げられる。また、例えば、加水分解により前記の酸基を生成しうる単量体も、酸基含有単量体として挙げられる。そのような酸基含有単量体の具体例を挙げると、加水分解によりカルボン酸基を生成しうる酸無水物などが挙げられる。
【0033】
カルボン酸基を有する単量体(カルボン酸単量体)の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、及びこれらの誘導体が挙げられる。モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−エチルアクリル酸、及びイソクロトン酸が挙げられる。ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びメチルマレイン酸が挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。これらの中でもモノカルボン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0034】
スルホン酸基を有する単量体(スルホン酸単量体)の例としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、及び2−(N−アクリロイル)アミノ−2−メチル−1,3−プロパン−ジスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
【0035】
ホスホン酸基を有する単量体(ホスホン酸単量体)の例としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、及びリン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
【0036】
また、上述した単量体の塩を、酸基含有単量体として用いてもよい。このような塩の例としては、p−スチレンスルホン酸等のスチレンスルホン酸のナトリウム塩が挙げられる。
酸基含有単量体及び酸基含有単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
酸基は、上述のような酸基含有単量体の重合により導入してもよいが、酸基を有しない水溶性重合体を重合した後、該水溶性重合体中の官能基の一部または全部を酸基に置換することにより導入してもよい。このように導入された酸基を有する水溶性重合体(A)中の繰り返し単位も、酸基含有単量体単位に含まれる。
【0038】
水溶性重合体(A)における酸基含有単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらにより好ましくは1重量%以上であり、一方好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらにより好ましくは12重量%以下である。水溶性重合体(A)における酸基含有単量体単位の割合を前記下限以上とすることより、アニオンによる静電反発作用が得られ、スラリーの保存安定性を向上させることができる。水溶性重合体(A)における酸基含有単量体単位の割合を前記上限以下とすることより、吸着水分を所望の低い値に低減することができ、多孔膜中の水分量を低減することができる。加えて、水溶性重合体(A)のガラス転移及び貯蔵弾性率を所望の高い値に調整することができ、良好な耐熱収縮性を得ることができる。
【0039】
〔1.2.3.水溶性重合体(A):架橋性単量体単位〕
水溶性重合体(A)は、好ましくは架橋性単量体単位を含む。架橋性単量体単位とは、架橋性単量体を重合して得られる構造を有する構造単位である。また、架橋性単量体とは、加熱又はエネルギー線の照射により、重合中又は重合後に架橋構造を形成しうる単量体である。架橋性単量体単位を含むことにより、水溶性重合体(A)の貯蔵弾性率等の物性を所望の範囲に調整することができ、耐熱収縮性の向上等の効果を得ることができる。
【0040】
水溶性重合体(A)の材料としての架橋性単量体の例としては、後述する粒子状重合体に用いられる架橋性単量体や、ジメチルアクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミドが挙げられ、なかでもジメチルアクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミドが好ましい。
架橋性単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
水溶性重合体(A)における架橋性単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、さらにより好ましくは1.0重量%以上であり、一方好ましくは5.0重量%以下、より好ましくは3.0重量%以下、さらにより好ましくは2.0重量%以下である。水溶性重合体(A)における架橋性単量体単位の割合を前記下限以上とすることにより、貯蔵弾性率を所望の高い値とし、良好な耐熱収縮性を得ることができる。水溶性重合体(A)における架橋性単量体単位の割合を前記上限以下とすることにより、架橋形成による分子量の過度の上昇を抑制し、多孔膜用組成物のスラリーの粘度を適度に低い値に保ち、スラリーの塗布を容易にすることができる。
【0042】
〔1.2.4.水溶性重合体(A):その他の単位〕
水溶性重合体(A)は、上述した構造単位以外に、任意の構造単位を含みうる。水溶性重合体(A)が含みうる任意の構造単位の例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びジメチルアミノプロピルアクリレート等の、(メタ)アクリル酸と三級アミノアルコールとのエステルや、粒子状結着剤が含みうる構造単位として後に例示するものと同様の例であって、上述した単量体単位以外のものが挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
〔1.2.5.水溶性重合体(A)の性状〕
水溶性重合体(A)は、その150℃における貯蔵弾性率が2.0×10
5Pa以上、好ましくは3.0×10
5Pa以上、さらに好ましくは4.0×10
5Pa以上である。貯蔵弾性率の上限は、好ましくは1.0×10
7Pa以下である。
水溶性重合体(A)の貯蔵弾性率は、下記の測定方法により求められる。まず、水溶性重合体の水溶液を、適当な容器に入れた状態で室温で乾燥させ、0.5mm厚のフィルムとする。フィルムを直径8mmの円形に打ち抜き、試料とする。動的粘弾性を測定する装置を用いて、当該試料に周波数1Hzの歪みを加え、10℃/分の昇温速度で25℃〜200℃の温度範囲で温度を上げながら動的粘弾性を測定し、この測定結果に基づいて貯蔵弾性率を求める。動的粘弾性の測定装置としては、アントンパール社製、製品名「MCR300」を用いうる。
水溶性重合体(A)の貯蔵弾性率を、前記下限以上とすることにより、良好な耐熱収縮性を得ることができる。一方、水溶性重合体(A)の貯蔵弾性率を、前記上限以下とすることにより、多孔膜に柔軟性を付与することができ、多孔膜が厚い場合でも割れの発生確率を低減することができる。
【0044】
水溶性重合体(A)のガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは155℃以上、さらに好ましくは160℃以上、特に好ましくは165℃以上であり、一方好ましくは200℃以下である。ガラス転移温度としては、動的粘弾性の測定結果から求められる値を採用しうる。
水溶性重合体(A)のガラス転移温度を、前記下限以上とすることにより、貯蔵弾性率を所望の高い値に調整することができ、良好な耐熱収縮性を得ることができる。水溶性重合体(A)のガラス転移温度を、前記上限以下とすることにより、多孔膜に柔軟性を付与することができる。
【0045】
水溶性重合体(A)の重量平均分子量は、好ましくは2.0×10
5以上、より好ましくは2.5×10
5以上、さらにより好ましくは3.0×10
5以上であり、一方好ましくは1.00×10
6以下、より好ましくは7.0×10
5以下、さらにより好ましくは6.0×10
5以下である。水溶性重合体(A)の重量平均分子量を、前記下限以上とすることにより、多孔膜用組成物のスラリーの粘度を適度に高い値に保ち、塗布時にスラリーが垂れてムラが生じるのを防ぐことができる。水溶性重合体(A)の重量平均分子量を、前記上限以下とすることにより、多孔膜用組成物のスラリーの粘度を適度に低い値に保ち、多孔膜用組成物の塗布後に、多孔膜用組成物の層がレベリングされ、その結果、塗布により形成された不所望なスジを低減させることができる。
【0046】
水溶性重合体(A)の貯蔵弾性率及びガラス転移温度は、構成する単量体の種類及び割合並びに/又は重合体の分子量等を適宜調節することにより、上に述べた所望の範囲とすることができる。
【0047】
〔1.2.6.水溶性重合体(A)の含有割合〕
本発明の多孔膜用組成物における水溶性重合体(A)の含有割合は、非導電性粒子100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、さらにより好ましくは1.0重量部以上であり、一方好ましくは5重量部以下、より好ましくは4重量部以下、さらにより好ましくは3重量部以下である。水溶性重合体(A)の含有割合を当該範囲内とすることにより、上に述べた水溶性重合体(A)の効果を良好に得ることができる。
【0048】
〔1.2.7.水溶性重合体(A)の製造方法〕
水溶性重合体(A)は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して、製造しうる。この際、単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、水溶性重合体(A)における構造単位の比率と同様にする。
【0049】
水系溶媒としては、水溶性重合体(A)の分散が可能なものを用いうる。通常、常圧における沸点が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、且つ、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下の水系溶媒から選ばれる。水系溶媒の例としては、粒子状結着剤の製造に用いるものの例と同様のものが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、重合体の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。また、主溶媒として水を使用して、重合体の分散状態が確保可能な範囲において水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0050】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いうる。重合の反応形式は、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれであってもよい。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま多孔膜用組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点から、乳化重合法が特に好ましい。乳化重合は、常法に従い行うことができる。
【0051】
重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などの添加剤は、一般に用いられるものを使用しうる。これらの添加剤の使用量も、一般に使用される量としうる。重合条件は、重合方法および重合開始剤の種類などに応じて適宜調整しうる。
【0052】
〔1.3.粒子状結着剤〕
本発明の多孔膜用組成物は、水溶性重合体(A)に加えて、粒子状結着剤を含みうる。粒子状結着剤は、酸基を含有する、重合体の粒子としうる。多孔膜用組成物が粒子状結着剤を含むことにより、通常は、以下のような利点を得られる。即ち、多孔膜の結着性が向上し、捲回時、運搬時等の取扱い時に本発明の二次電池用多孔膜を備えるセパレーター又は電極にかかる機械的な力に対する強度を向上させることができる。また、粒子状結着剤は、その形状が粒子状であるので、多孔膜において非導電性粒子に対して面ではなく点で結着しうる。このため、多孔膜における孔を大きくできるので、二次電池の内部抵抗を小さくできる。
【0053】
通常、粒子状結着剤は、非水溶性である。したがって、通常、粒子状結着剤は、水系の多孔膜用組成物において粒子形状を有した状態で分散して存在しうる。粒子状結着剤は、多孔膜においては、その粒子形状の一部又は全部を維持したまま存在しうる。構成要素である単量体単位の割合を適宜調節することにより、このような粒子状の重合体を得ることができる。
【0054】
粒子状結着剤は、酸基含有単量体単位を含む場合、酸基を含有する粒子状結着剤となりうる。粒子状結着剤における酸基含有単量体単位とは、酸基含有単量体を重合して形成される構造を有する構造単位を示す。また、酸基含有単量体とは、酸基を含む単量体を示す。したがって、酸基含有単量体単位を有する粒子状結着剤は、酸基を含む。
【0055】
粒子状結着剤が含みうる酸基の例としては、−COOH基(カルボン酸基);−SO
3H基(スルホン酸基);−PO
3H
2基及び−PO(OH)(OR)基(Rは炭化水素基を表す)等のホスホン酸基;及びこれらの組み合わせが挙げられる。したがって、酸基含有単量体としては、例えば、これらの酸基を有する単量体が挙げられる。また、例えば、加水分解により前記の酸基を生成しうる単量体も、酸基含有単量体として挙げられる。そのような酸基含有単量体の具体例を挙げると、加水分解によりカルボン酸基を生成しうる酸無水物などが挙げられる。
【0056】
カルボン酸基を有する単量体(カルボン酸単量体)の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物、及びこれらの誘導体が挙げられる。モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−エチルアクリル酸、及びイソクロトン酸が挙げられる。ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びメチルマレイン酸が挙げられる。ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。これらの中でもモノカルボン酸が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0057】
スルホン酸基を有する単量体(スルホン酸単量体)の例としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、及び2−(N−アクリロイル)アミノ−2−メチル−1,3−プロパン−ジスルホン酸が挙げられる。これらの中でも、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
【0058】
ホスホン酸基を有する単量体(ホスホン酸単量体)の例としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、及びリン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルが挙げられる。
【0059】
また、上述した単量体の塩を、酸基含有単量体として用いてもよい。このような塩の例としては、p−スチレンスルホン酸等のスチレンスルホン酸のナトリウム塩が挙げられる。
また、酸基含有単量体及び酸基含有単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
酸基は、上述のような酸基含有単量体の重合により導入してもよいが、酸基を有しない粒子状結着剤を重合した後、該粒子状結着剤中の官能基の一部または全部を酸基に置換することにより導入してもよい。このように導入された酸基を有する粒子状結着剤中の繰り返し単位も、酸基含有単量体単位に含まれる。
【0061】
粒子状結着剤における酸基含有単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.2重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上であり、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下である。粒子状結着剤における酸基含有単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、多孔膜とセパレーター基材又は極板との結着性を効果的に高めることができる。また、上限値以下にすることにより、多孔膜の耐久性を高めることができる。
【0062】
粒子状結着剤は、カルボン酸1級アミド単量体単位を含みうる。カルボン酸1級アミド単量体単位とは、カルボン酸1級アミド単量体を重合して形成される構造を有する構造単位をいう。また、カルボン酸1級アミド単量体とは、カルボン酸と第1級アミドとが縮合して形成される構造を有する化合物をいう。粒子状結着剤がカルボン酸1級アミド単量体単位を所定の割合で含むことにより、本発明の多孔膜用組成物を用いて形成される多孔膜を備える二次電池において、ガスの発生を低減することができ、それにより電池の性能を向上させうる。
【0063】
カルボン酸1級アミド単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、α−クロロアクリルアミド、クロトン酸アミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸ジアミド等の、不飽和カルボン酸1級アミド化合物が挙げられる。中でも、(メタ)アクリルアミドが好ましい。カルボン酸1級アミド単量体及びカルボン酸1級アミド単量体単位としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
粒子状結着剤におけるカルボン酸1級アミド単量体単位の割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1.0重量%以上であり、通常10重量%以下、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。粒子状結着剤におけるカルボン酸1級アミド単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、電解液中のハロゲン化物イオンを粒子状結着剤によって効果的に捕捉できる。また、上限値以下にすることにより、二次電池のレート特性を改善することができる。
【0065】
また、粒子状結着剤は、架橋性単量体単位を含みうる。ここで、架橋性単量体単位とは、架橋性単量体を重合して得られる構造を有する構造単位である。また、架橋性単量体とは、加熱又はエネルギー線の照射により、重合中又は重合後に架橋構造を形成しうる単量体である。架橋性単量体単位を含むことにより、粒子状結着剤を架橋させることができるので、多孔膜の強度及び安定性を高めることができる。これにより、粒子状結着剤による作用を安定して発揮させることが可能となる。また、電解液による粒子状結着剤の膨潤度が過度に高くならないようにできるので、通常は、二次電池の出力特性を良好にできる。
【0066】
架橋性単量体の例としては、1分子あたり2以上の反応性基を有する単量体を挙げることができる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0067】
単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、N−メチロールアミド基、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0068】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0069】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエン等のジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセン等のアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル等の不飽和カルボン酸のグリシジルエステル化合物;などが挙げられる。
【0070】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンなどが挙げられる。
【0071】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。
【0072】
2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、及びジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0073】
中でも特に、架橋性単量体としては、N−メチロールアクリルアミド、アリルメタクリレート、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、及びエチレングリコールジメタクリレートが好ましく、N−メチロールアクリルアミド、アリルメタクリレート、エチレンジメタクリレート、アリルグリシジルエーテル及びグリシジルメタクリレートがより好ましい。
また、架橋性単量体及び架橋性単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
粒子状結着剤における架橋性単量体単位の割合は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.15重量%以上、特に好ましくは0.2重量%以上であり、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、特に好ましくは1.0重量%以下である。粒子状結着剤における架橋性単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、粒子状結着剤の機械的強度を強くできるので、多孔膜とセパレーター基材又は極板との結着性を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、多孔膜の耐久性を高めることができる。
【0075】
また、粒子状合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含みうる。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造を有する構造単位である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は強度が高いので、粒子状結着剤の分子を安定化させることができる。
【0076】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル単量体及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0077】
粒子状結着剤における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、特に好ましくは58重量%以上であり、好ましくは98重量%以下、より好ましくは97重量%以下、特に好ましくは96重量%以下である。粒子状結着剤における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合を上記範囲の下限値以上にすることにより、多孔膜のセパレーター基材又は極板への結着性を高くすることができる。また、上限値以下にすることにより、多孔膜の柔軟性を高めることができる。
【0078】
さらに、粒子状結着剤は、上述した構造単位以外に任意の構造単位を含みうる。粒子状結着剤が含みうる任意の構造単位の例としては、下記の単量体を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。即ち、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン等の肪族共役ジエン単量体;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン単量体;並びに、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体;の1以上を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0079】
また、粒子状結着剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0080】
粒子状結着剤を構成する重合体の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。粒子状結着剤を構成する重合体の重量平均分子量を上記範囲に収めることにより、多孔膜の強度及び非導電性粒子の分散性を良好にし易い。ここで、粒子状結着剤を構成する重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、テトラヒドロフランを展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めうる。
【0081】
粒子状結着剤のガラス転移温度は、好ましくは−75℃以上、より好ましくは−55℃以上、特に好ましくは−35℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、さらにより好ましくは20℃以下、特に好ましくは15℃以下である。粒子状結着剤のガラス転移温度を上記範囲に収めることにより、多孔膜を備えたセパレーター及び電極の柔軟性及び捲回性、並びに多孔膜とセパレーター基材又は極板との結着性などの特性が高度にバランスされ、好適である。粒子状結着剤のガラス転移温度は、例えば、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。なお、前記粒子状結着剤のガラス転移温度は、JIS K7121に基づいて示差走査熱量分析により測定される値である。
【0082】
粒子状結着剤の体積平均粒径D50は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらにより好ましくは0.1μm以上であり、一方好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.8μm以下、さらにより好ましくは0.5μm以下である。粒子状結着剤の体積平均粒径を上記範囲に収めることにより、多孔膜の強度及び柔軟性を良好にできる。
【0083】
本発明の多孔膜用組成物における粒子状結着剤の量は、非導電性粒子100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上であり、さらにより好ましくは1重量部以上であり、一方好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下、さらにより好ましくは8重量部以下である。粒子状結着剤の量を前記下限値以上にすることにより、非導電性粒子同士、及び非導電性粒子と基材との接着性を向上させ、多孔膜からの粉落ちなどの不具合の発生を低減することができる。また、上限値以下にすることにより、粒子状結着剤が基材の孔をふさぎガーレー値が増加するのを抑制することができる。
【0084】
粒子状結着剤は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造しうる。
重合反応における単量体組成物中の各単量体の含有割合は、通常、所望の粒子状結着剤における繰り返し単位の含有割合と同様にする。
【0085】
水系溶媒としては、その中で粒子状結着剤が粒子状態で分散しうるものを選択しうる。水系溶媒としては、常圧における沸点が好ましくは80〜350℃、より好ましくは100〜300℃ものを選択しうる。
【0086】
水系溶媒の例としては、水;ダイアセトンアルコール、γ−ブチロラクトンなどのケトン類;エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどのアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル、ブチルセロソルブ、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられる。中でも水は可燃性がなく、粒子状結着剤の粒子の分散体が容易に得られやすいという観点から特に好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、粒子状結着剤の粒子の分散状態が確保可能な範囲において上記の水以外の水系溶媒を混合して用いてもよい。
【0087】
重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。重合の反応形式は、例えばイオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などのいずれであってもよい。高分子量体が得やすいこと、並びに、重合物がそのまま水に分散した状態で得られるので再分散化の処理が不要であり、そのまま本発明の多孔膜用組成物の製造に供することができることなど、製造効率の観点から、乳化重合法が特に好ましい。乳化重合は、常法に従い行うことができる。
【0088】
重合に使用される乳化剤、分散剤、重合開始剤、重合助剤などの添加剤は、一般に用いられるものを使用しうる。これらの添加剤の使用量も、一般に使用される量としうる。重合条件は、重合方法および重合開始剤の種類などに応じて適宜調整しうる。
【0089】
〔1.4.水〕
本発明の多孔膜用組成物は、通常、水を含む。水は、多孔膜用組成物において媒体即ち溶媒又は分散媒として機能する。通常、多孔膜用組成物では、非導電性粒子及び粒子状結着剤は水に分散しており、水溶性重合体(A)の一部又は全部は水に溶解している。
【0090】
また、媒体として、水以外の媒体を水とを組み合わせて用いてもよい。水と組み合わせて用いうる媒体としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素化合物;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物;エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のエステル化合物;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル化合物:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール化合物;N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド化合物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。水以外の媒体の量は、水100重量部に対して5重量部以下であることが好ましい。
【0091】
多孔膜用組成物における溶媒の量は、多孔膜用組成物の固形分濃度が所望の範囲に収まるように設定することが好ましい。具体的な多孔膜用組成物の固形分濃度は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらにより好ましくは20重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下、さらにより好ましくは70重量%以下、特に好ましくは65重量%以下である。ここで、組成物の固形分とは、その組成物の乾燥を経て残留する物質のことをいう。固形分濃度を前記下限以上とすることにより、多孔膜の製造に際しての水の除去を容易に行ない、多孔膜中の水分量を低減させることができる。固形分濃度を前記上限以下とすることにより、良好な塗布を行うことができる。
【0092】
〔1.5.分散剤〕
多孔膜用組成物は、分散剤を含みうる。分散剤を含むことにより、非導電性粒子及び粒子状結着剤等の成分を多孔膜用組成物内で安定して分散させることができる。分散剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム等の既知の分散剤を用いうる。
【0093】
分散剤としては、通常、その水溶液の粘度が所定以下の低い値となるものを用いる。具体的には、分散剤の2重量%水溶液の粘度は、好ましくは15mPa・s未満、より好ましくは10mPa・s以下、さらにより好ましくは5mPa・s以下である。このような低粘度の分散剤を用いることにより、分散性を向上させることができる。分散剤の水溶液の粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した値である。分散剤の2重量%水溶液の粘度の下限は、特に限定されないが、0.1mPa・sとしうる。
【0094】
多孔膜用組成物における分散剤の量は、非導電性粒子100重量部に対する分散剤の量として、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、さらにより好ましくは0.2重量部以上であり、一方好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下、さらにより好ましくは2重量部以下である。分散剤の量を前記上限以下とすることにより、多孔膜中の水酸基の量を適切な範囲に保ち、多孔膜に吸着する水分量を低い値とすることができる。分散剤の量を前記下限以上とすることにより、非導電性粒子の分散を良好なものとし、良好な塗布を達成することができる。
【0095】
〔1.6.他の任意の成分〕
本発明の多孔膜用組成物は、上述した成分以外に、任意の成分を含みうる。このような任意の成分としては、電池反応に過度に好ましくない影響を及ぼさないものを用いうる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。例えば、水溶性重合体(A)以外の結着剤、並びにレベリング剤、酸化防止剤、消泡剤、湿潤剤、及び電解液分解抑制の機能を有する電解液添加剤を含んでいてもよい。
【0096】
〔1.7.多孔膜用組成物の物性〕
本発明の多孔膜用組成物は、塗布に適した粘度を有するスラリーとして調製されうる。本発明の多孔膜用組成物の粘度は、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上、さらにより好ましくは15mPa・s以上であり、一方好ましくは200mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下、さらにより好ましくは40mPa・s以下である。多孔膜用組成物の粘度を前記下限以上とすることにより、多孔膜用組成物のスラリーの塗布時にスラリーが垂れて塗布にムラが生じるのを防ぐことができる。多孔膜用組成物の粘度を前記上限以下とすることにより、多孔膜用組成物のスラリーの粘度を適度に低い値に保ち、多孔膜用組成物の塗布後に、多孔膜用組成物の層がレベリングされ、その結果、塗布により形成された不所望なスジを低減させることができる。多孔膜用組成物の粘度は、B型粘度計を用いて温度25℃、回転数60rpmにて測定した値である。多孔膜用組成物の粘度は、水溶性重合体(A)の分子量、及び水溶性重合体(A)及びその他の成分の含有量を調整することにより調整しうる。
【0097】
本発明の多孔膜用組成物のpHは、好ましくは6以上、より好ましくは6.5以上であり、一方好ましくは10以下、より好ましくは9.5下である。多孔膜用組成物のpHが前記下限以上であることにより、多孔膜用組成物のスラリー中での、非導電性粒子の安定性を高め、非導電性粒子の凝集物の発生を抑制することができる。多孔膜用組成物のpHが前記上限以下であることにより、多孔膜用組成物を、既に形成した多孔膜用組成物の層に重ねて塗布する際に、既に形成した層が溶解することを防ぐことができ、得られる多孔膜の剥離強度と耐熱収縮性を向上させることができる。また、形成した多孔膜の上に、さらに水系媒体を含んだ接着剤を塗布する場合、形成した多孔膜が水系媒体に侵されることを防ぎ、多孔膜の剥離強度を保つことができる。多孔膜用組成物のpHは、水溶性重合体(A)及びその他の成分の含有量を調整することにより、また必要に応じてpHを調整する酸又は塩基を添加することにより調整しうる。
【0098】
〔1.8.多孔膜用組成物の製造方法〕
多孔膜用組成物の製造方法は、特に限定はされないが、通常は、上述した各成分を混合して得られる。混合順序には特に制限は無い。また、混合方法にも特に制限は無い。通常は、非導電性粒子を速やかに分散させるため、混合装置として分散機を用いて混合を行う。
【0099】
分散機は、上記成分を均一に分散及び混合できる装置が好ましい。分散機の例を挙げると、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。中でも、高い分散シェアを加えることができることから、ビーズミル、ロールミル、フィルミックス等の高分散装置が特に好ましい。
【0100】
〔2.多孔膜〕
本発明の二次電池用多孔膜(以下において単に本発明の多孔膜という場合がある。)は、前記本発明の二次電池多孔膜用組成物の層を形成し、これを乾燥させてなる。
【0101】
多孔膜用組成物の層は、基材上に多孔膜用組成物を塗布して得うる。基材は、多孔膜用組成物の膜を形成する対象となる部材である。基材に制限は無く、例えば剥離フィルムの表面に多孔膜用組成物の膜を形成し、その膜から溶媒を除去して多孔膜を形成し、剥離フィルムから多孔膜を剥がしてもよい。しかし、通常は、多孔膜を剥がす工程を省略して製造効率を高める観点から、基材として電池の構成要素を用いる。このような電池の構成要素の例としては、セパレーター基材及び極板が挙げられる。
【0102】
塗布法としては、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。中でも、均一な多孔膜が得られる点で、ディップ法及びグラビア法が好ましい。本発明の多孔膜用組成物は、特定の水溶性重合体(A)を含有しているので、その塗布が容易であり、高品質な層を容易に得ることができ、且つ多孔膜中に残存する水分量を低減させることができる。
【0103】
多孔膜用組成物の層を乾燥させる具体的な方法の例としては、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、及び電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。
【0104】
乾燥の際の温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。乾燥温度を前記範囲の下限以上にすることにより多孔膜用組成物からの溶媒及び低分子化合物を効率よく除去できる。また、上限以下とすることにより基材の熱による変形を抑えることができる。
【0105】
本発明の多孔膜の製造方法においては、上述した以外の任意の操作を行ってもよい。
例えば、金型プレス及びロールプレス等のプレス方法によって、多孔膜に加圧処理を施してもよい。加圧処理を施すことにより、基材と多孔膜との結着性を向上させることができる。ただし、多孔膜の空隙率を好ましい範囲に保つ観点では、圧力および加圧時間が過度に大きくならないように適切に制御することが好ましい。
また、残留水分除去のため、例えば真空乾燥やドライルーム内で乾燥することが好ましい。
【0106】
本発明の多孔膜の厚みは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、特に好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下である。多孔膜の厚みを前記範囲の下限値以上とすることにより、多孔膜の耐熱性を高くすることができる。また上限値以下とすることにより、多孔膜によるイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0107】
〔3.二次電池用セパレーター〕
基材として、セパレーター基材を用いた場合、セパレーター基材及び本発明の多孔膜を備える二次電池用セパレーターが得られる。本発明の多孔膜は、セパレーター基材の片方の面だけに設けられていてもよく、両方の面に設けられていてもよい。
二次電池において、セパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーターを用いた場合、多孔膜中の残存水分量が少なく、多孔膜の熱収縮が少なく、且つ多孔膜がハロゲン捕捉能を発揮しうるため、二次電池の使用におけるセルの体積変化を低減することができ、且つ二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0108】
セパレーター基材としては、例えば、微細な孔を有する多孔性基材を用いうる。このようなセパレーター基材を用いることにより、二次電池において電池の充放電を妨げることなく短絡を防止することができる。セパレーター基材の具体例を挙げると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微孔膜または不織布などが挙げられる。
【0109】
セパレーター基材の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。この範囲であると二次電池内でのセパレーター基材による抵抗が小さくなり、また、電池製造時の作業性に優れる。
【0110】
〔4.二次電池用電極〕
基材として極板を用いた場合、極板及び本発明の多孔膜を備える二次電池用電極が得られる。本願において、「極板」とは、多孔膜を備える電極のうち、多孔膜以外の部材をいう。極板は、通常、集電体及び電極活物質層を備える。極板及び本発明の多孔膜を備える二次電池用電極は、通常、集電体、電極活物質層及び本発明の多孔膜をこの順に備える。例えば、極板において、集電体の片面のみに電極活物質層が設けられている場合、集電体/電極活物質層/多孔膜の層構成をとりうる。また例えば、極板において、集電体の両面に電極活物質層が設けられている場合、多孔膜/電極活物質層/集電体/電極活物質層/多孔膜の層構成をとりうる。
【0111】
二次電池において、電極として本発明の多孔膜を備える電極を用いた場合、多孔膜中の残存水分量が少なく、多孔膜の熱収縮が少なく、且つ多孔膜がハロゲン捕捉能を発揮しうるため、二次電池の使用におけるセルの体積変化を低減することができ、且つ二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0112】
〔4.1.集電体〕
極板の集電体としては、電気導電性を有し、且つ、電気化学的に耐久性のある材料を用いうる。通常、この集電体の材料としては、金属材料を用いる。その例を挙げると、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、正極に用いる集電体としてはアルミニウムが好ましく、負極に用いる集電体としては銅が好ましい。また、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0113】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。
【0114】
〔4.2.電極活物質層〕
電極活物質層は、集電体上に設けられた層であり、電極活物質を含む。電極活物質の種類は二次電池の種類に応じて様々であり、ここでは、特にリチウムイオン二次電池用の電極活物質について説明する。ただし、電極活物質は以下で挙げるものに限定されない。
【0115】
リチウムイオン二次電池の電極活物質は、電解液中で電位をかけることにより可逆的にリチウムイオンを挿入又は放出できるものを用いうる。電極活物質は、無機化合物を用いてもよく、有機化合物を用いてもよい。
【0116】
正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等の遷移金属酸化物などが挙げられる。一方、有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性重合体が挙げられる。
【0117】
さらに、無機化合物及び有機化合物を組み合わせた複合材料からなる正極活物質を用いてもよい。
また、例えば、鉄系酸化物を炭素源物質の存在下において還元焼成することで、炭素材料で覆われた複合材料を作製し、この複合材料を正極活物質として用いてもよい。鉄系酸化物は電気伝導性に乏しい傾向があるが、前記のような複合材料にすることにより、高性能な正極活物質として使用できる。
さらに、前記の化合物を部分的に元素置換したものを正極活物質として用いてもよい。
これらの正極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、前述の無機化合物と有機化合物との混合物を正極活物質として用いてもよい。
【0118】
正極活物質の粒子径は、二次電池の他の構成要件との兼ね合いで選択されうる。負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、正極活物質の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。正極活物質の体積平均粒子径がこの範囲であると、充放電容量が大きい電池を得ることができ、かつ電極スラリー組成物および電極を製造する際の取扱いが容易である。
【0119】
電極活物質層における正極活物質の割合は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であり、また、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99重量%以下である。正極活物質の量を上記範囲とすることにより、二次電池の容量を高くでき、また、正極の柔軟性並びに集電体と正極活物質層との結着性を向上させることができる。
【0120】
負極活物質は、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、メゾカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維等の炭素質材料;ポリアセン等の導電性重合体;などが挙げられる。また、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄およびニッケル等の金属並びにこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物;前記金属又は合金の硫酸塩;なども挙げられる。また、金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン等を使用してもよい。さらに、電極活物質は、機械的改質法により表面に導電材を付着させたものを使用してもよい。これらの負極活物質は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0121】
負極活物質の粒子径は、二次電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択される。初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、負極活物質の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0122】
負極活物質の比表面積は、出力密度向上の観点から、好ましくは2m
2/g以上、より好ましくは3m
2/g以上、さらに好ましくは5m
2/g以上であり、また、好ましくは20m
2/g以下、より好ましくは15m
2/g以下、さらに好ましくは10m
2/g以下である。負極活物質の比表面積は、例えばBET法により測定しうる。
【0123】
電極活物質層における負極活物質の割合は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは88重量%以上であり、また、好ましくは99重量%以下、より好ましくは97重量%以下である。負極活物質の量を上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも優れた柔軟性及び結着性を示す負極を実現できる。
【0124】
電極活物質層は、電極活物質の他に、電極用バインダーを含むことが好ましい。電極用バインダーを含むことにより、電極活物質層の結着性が向上し、電極の撒回時等の工程においてかかる機械的な力に対する強度が上がる。また、電極活物質層が集電体及び多孔膜から剥がれにくくなることから、剥れた脱離物による短絡の危険性が小さくなる。
【0125】
電極用バインダーとしては、例えば重合体を用いうる。電極用バインダーとして用いうる重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などを用いてもよい。
【0126】
さらに、以下に例示する軟質重合体の粒子を、粒子状結着剤として使用してもよい。軟質重合体としては、例えば、
(i)ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ブチルアクリレート・スチレン共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート・アクリロニトリル・グリシジルメタクリレート共重合体などの、アクリル酸またはメタクリル酸誘導体の単独重合体またはそれと共重合可能な単量体との共重合体である、アクリル系軟質重合体;
(ii)ポリイソブチレン、イソブチレン・イソプレンゴム、イソブチレン・スチレン共重合体などのイソブチレン系軟質重合体;
(iii)ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン・スチレンランダム共重合体、イソプレン・スチレンランダム共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体などジエン系軟質重合体;
(iv)ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、ジヒドロキシポリシロキサンなどのケイ素含有軟質重合体;
(v)液状ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのオレフィン系軟質重合体;
(vi)ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、酢酸ビニル・スチレン共重合体などビニル系軟質重合体;
(vii)ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エピクロルヒドリンゴムなどのエポキシ系軟質重合体;
(viii)フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴムなどのフッ素含有軟質重合体;
(ix)天然ゴム、ポリペプチド、蛋白質、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどのその他の軟質重合体;などが挙げられる。これらの軟質重合体は、架橋構造を有したものであってもよく、変性により官能基を導入したものであってもよい。
また、前記の重合体は、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。
さらに、電極用バインダーは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0127】
電極活物質層における電極用バインダーの量は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは0.5重量部以上であり、好ましくは5重量部以下、より好ましくは3重量部以下である。電極用バインダーの量が前記範囲であることにより、電池反応を阻害せずに、電極から電極活物質が脱落するのを防ぐことができる。
【0128】
電極活物質層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、電極活物質及び電極用バインダー以外にも、任意の成分が含まれていてもよい。その例を挙げると、導電材、補強材などが挙げられる。また、任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0129】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボン;黒鉛等の炭素粉末;各種金属のファイバー及び箔;などが挙げられる。導電材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、サイクル特性等の電池特性を改善できる。
【0130】
導電材の比表面積は、好ましくは50m
2/g以上、より好ましくは60m
2/g以上、特に好ましくは70m
2/g以上であり、好ましくは1500m
2/g以下、より好ましくは1200m
2/g以下、特に好ましくは1000m
2/g以下である。導電材の比表面積を前記範囲の下限値以上にすることにより、二次電池の低温出力特性を向上させることができる。また、上限値以下にすることにより、電極活物質層と集電体との結着性を高めることができる。
【0131】
補強材としては、例えば、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより、強靭で柔軟な電極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を得ることができる。
【0132】
導電材及び補強剤の使用量は、電極活物質100重量部に対して、それぞれ、通常0重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。
【0133】
電極活物質層の厚みは、正極及び負極のいずれも、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下である。
【0134】
電極活物質層の製造方法は特に制限されない。電極活物質層は、例えば、電極活物質及び溶媒、並びに、必要に応じて電極用バインダー及び任意の成分を含む電極スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて製造しうる。溶媒としては、水及び有機溶媒のいずれも使用しうる。
【0135】
〔5.二次電池〕
本発明の二次電池は、前記本発明の多孔膜を備える。二次電池は、通常、正極、負極及び電解液を備え、下記の要件(A)を満たすか、要件(B)を満たすか、要件(A)及び(B)の両方を満たす。
(A)本発明の二次電池の正極及び負極の少なくとも一方が、極板及び本発明の多孔膜を備える電極である。
(B)本発明の二次電池がセパレーターを備え、且つ、そのセパレーターがセパレーター基材及び本発明の多孔膜を備えるセパレーターである。
【0136】
本発明の多孔膜は、残存水分量が少なく、熱収縮が少なく、且つハロゲン捕捉能を発揮しうる。従って、本発明の多孔膜を備える電極及び/又はセパレーターを二次電池の構成要素として用いた場合、かかる二次電池の使用におけるセルの体積変化を低減することができ、且つ二次電池の高温サイクル特性を向上させることができる。
【0137】
〔5.1.セパレーター〕
本発明の二次電池は、原則として、セパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーターを備える。ただし、本発明の二次電池が正極及び負極の少なくとも一方として本発明の多孔膜を備えるものを備える場合には、セパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーター以外のセパレーターを備えていてもよい。また、本発明の多孔膜を備える電極における多孔膜はセパレーターとしての機能を有するので、電極が本発明の多孔膜を備える場合、セパレーターを省略してもよい。
【0138】
〔5.2.電極〕
本発明の二次電池は、原則として、正極及び負極の一方又は両方として、本発明の多孔膜を備える電極を備える。ただし、本発明の二次電池がセパレーターとして本発明の多孔膜を備えるセパレーターを備える場合には、正極及び負極の両方として本発明の多孔膜を備えない電極を備えていてもよい。
【0139】
〔5.3.電解液〕
電解液としては、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものを使用しうる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0140】
支持電解質の量は、電解液における濃度として、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。支持電解質の量をこの範囲に収めることにより、イオン伝導度を高くして、二次電池の充電特性及び放電特性を良好にできる。
【0141】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させうるものを用いうる。このような溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のアルキルカーボネート化合物;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル化合物;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物;などが用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートが好ましい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0142】
また、電解液は必要に応じて添加剤を含みうる。添加剤としては、例えばビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0143】
〔5.4.二次電池の製造方法〕
本発明の二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した負極と正極とをセパレーターを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口してもよい。さらに、必要に応じてエキスパンドメタル;ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子;リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0144】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及び均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、以下の説明において量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、重量基準である。
【0145】
実施例及び比較例において、水溶性重合体(A)の分子量、貯蔵弾性率及びガラス転移温度の測定;多孔膜用組成物のpH及び粘度の測定;非導電性粒子の粒子径の測定;セパレーターの塗布性、水分量及び耐熱収縮性の評価;並びに二次電池における高温サイクル特性、セルの体積変化量及びハロゲン捕捉量の評価は、それぞれ以下のように行った。
【0146】
[分子量測定法]
実施例及び比較例で得られた水溶性重合体(A)の水溶液を希釈して、濃度を0.5重量%に調整した後、pH10〜12になるまで苛性ソーダを添加し、80℃以上の湯浴に1時間浸した後、溶離液(下記)で0.025重量%に希釈して試料を調製した。この試料を、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより分析し、水溶性重合体(A)の重量平均分子量を求めた。
GPC装置本体:東ソー(株)製
カラム:東ソー(株)製ガードカラムPWXL1本およびGMPWXL2本(温度40℃)
溶離液:0.5mol/l酢酸緩衝液(0.5mol/l酢酸(和光純薬工業(株)製)+0.5mol/l酢酸ナトリウム(キシダ化学(株)製)水溶液、pH約4.2)
流速:0.8ml/分
検出器:ビスコテック社製TDA MODEL301(濃度検出器および90°光散乱検出器および粘度検出器(温度40℃))RALLS法
【0147】
[pH測定法]
卓上型pHメーター(HORIBA製F−51)を、pH標準液(pH4、pH7及びpH9)で校正した後、これを用いて、多孔膜用組成物のスラリーのpHを測定した。
【0148】
[貯蔵弾性率及びガラス転移温度]
実施例及び比較例で得られた水溶性重合体(A)の水溶液を、室温で乾燥させ、0.5mm厚のフィルムとした。フィルムを直径8mmの円形に打ち抜き、試料とした。下記の装置を用いて、当該試料に周波数1Hzの歪みを加え、下記の昇温速度で温度を上げながら動的粘弾性を測定し、この測定結果に基づいて貯蔵弾性率及びガラス転移温度を求めた。
装置:アントンパール社製、製品名「MCR300」
設定温度範囲:25℃〜200℃
設定昇温速度:10℃/分
測定周波数:1Hz
【0149】
[粘度]
多孔膜用組成物のスラリーの粘度は、B型粘度計を用いて25℃、回転数60rpmで測定した。
【0150】
[塗布性評価]
実施例及び比較例で得られたセパレーター(セパレーター基材及びその一方の面上に形成された多孔膜)の、多孔膜の状態を、セパレーター基材側の面から光を当て、多孔膜側から観察し、スジや塗布ムラの有無を評価した。
【0151】
[非導電性粒子及び粒子状結着剤の粒子径の測定方法]
非導電性粒子又は粒子状結着剤を、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いて超音波分散した後、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD−7100」)により分析して、粒子径D50を求めた。
【0152】
[水分量測定]
実施例及び比較例で得られたセパレーターを、幅10cm×長さ10cmの大きさに切り出して、試験片とした。この試験片を、温度25℃、露点温度−60℃で24時間放置した。その後、電量滴定式水分計を用い、カールフィッシャー法(JIS K−0068(2001)水分気化法、気化温度150℃)により、試験片の水分量を測定した。これを、多孔膜の水分量とし、下記の基準により評価した。
【0153】
A:多孔膜水分量が200ppm未満
B:多孔膜水分量が200ppm以上300ppm未満
C:多孔膜水分量が300ppm以上400ppm未満
D:多孔膜水分量が400ppm以上
【0154】
[耐熱収縮性]
実施例及び比較例で得られたセパレーターを、幅12cm×長さ12cmの正方形に切り、正方形内部に1辺が10cmの正方形を描き試験片とした。試験片を130℃の恒温槽に入れ1時間放置することにより加熱処理した。加熱処理後、内部に描いた正方形の面積を測定し、加熱処理前後の面積の変化を熱収縮率として求め、下記の基準により評価した。熱収縮率が小さいほどセパレータの耐熱収縮性が優れることを示す。
【0155】
A:熱収縮率が1%未満である
B:熱収縮率が1%以上5%未満である
C:熱収縮率が5%以上10%未満である
D:熱収縮率が10%以上である
【0156】
[高温サイクル特性]
実施例及び比較例で得られた電池10個を60℃雰囲気下、0.2Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3Vまで放電する充放電を50回(=50サイクル)繰り返し、電気容量を測定した。10個の電池の測定結果の平均値を測定値とし、5サイクル終了時の電気容量に対する200サイクル終了時の電気容量の割合を百分率で算出して充放電容量保持率を求め、これを高温サイクル特性の評価基準とし、下記の基準により評価した。この値が高いほど高温サイクル特性に優れることを示す。
【0157】
A:充放電容量保持率が80%以上である。
B:充放電容量保持率が70%以上80%未満である。
C:充放電容量保持率が60%以上70%未満である。
D:充放電容量保持率が60%未満である。
【0158】
[セルの体積変化量の測定方法]
実施例及び比較例で得られた電池を、25℃の環境下で24時間静置した。その後、25℃の環境下で、0.1Cで4.35Vまで充電し0.1Cで2.75Vまで放電する充放電の操作を行った。その後、電池を流動パラフィンに浸漬し、その体積V0を測定した。
さらに、60℃環境下で、0.1Cで4.35Vまで充電し0.1Cで2.75Vまで放電する充放電を1サイクルとする操作を1000サイクル繰り返した。その後、電池を流動パラフィンに浸漬し、その体積V1を測定した。
充放電を1000サイクル繰り返す前後での電池セルの体積変化量ΔVを、式「ΔV=(V1−V0)/V0×100(%)」により算出し、下記の基準により評価した。この体積変化量ΔVの値が小さいほど、ガスの発生を抑制する能力に優れていることを示す。
【0159】
A:ΔVの値が22%未満である。
B:ΔVの値が22%以上24%未満である。
C:ΔVの値が24%以上26%未満である。
D:ΔVの値が26%以上である。
【0160】
[ハロゲン捕捉量]
高温サイクル試験後の電池から電解液を取り出し、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)にてフッ素イオン濃度及び塩化物イオン濃度を測定し、これらの総量をハロゲン濃度とし、下記の基準により評価した。電解液中のハロゲン濃度が少ないほど電池内部でハロゲンを捕捉できる能力が高く、電池の寿命の延長及びガス発生の低減に寄与できると考えられる。
【0161】
A:電解液中のハロゲン濃度が100ppm未満である。
B:電解液中のハロゲン濃度が100ppm以上120ppm未満である。
C:電解液中のハロゲン濃度が120ppm以上140ppm未満である。
D:電解液中のハロゲン濃度が140ppm以上である。
【0162】
<実施例1>
(1−1.水溶性重合体(A)の製造)
攪拌機、温度計、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、アクリルアミド89.5部、メタクリル酸9部、及びジメチルアクリルアミド1.5部からなる単量体組成物、並びにイオン交換水365部及びイソプロピルアルコール5部を仕込み、窒素ガスで反応系内の酸素を除去した。次いで、攪拌下、重合開始剤として5%過硫酸アンモニウム水溶液7部および5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液3部をフラスコに投入した後、室温から80℃まで昇温し、3時間保温した。その後、イオン交換水162部を加え、48%苛性ソーダでpHを5に調整し、固形分15.2%、粘度(25℃)が3050mPa・s、重量平均分子量が361100の、水溶性重合体(A)の水溶液を得た。
【0163】
得られた水溶性重合体(A)について、重量平均分子量を測定した。さらに、動的粘弾性を測定し、貯蔵弾性率及びガラス転移温度を求めた。
【0164】
(1−2.粒子状結着剤の製造)
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名:エマール(登録商標)2F)0.15部、並びに重合開始剤としてペルオキソ二硫酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、並びに、単量体組成物としてn−ブチルアクリレート94.8部、メタクリル酸1部、N−メチロールアクリルアミド1.2部、アクリロニトリル2部、及びアリルグリシジルエーテル1部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、粒子状結着剤を含む水分散液を製造した。
得られた粒子状結着剤の体積平均粒子径D50は0.37μm、ガラス転移温度は−45℃であった。
【0165】
(1−3.多孔膜用組成物のスラリーの製造)
硫酸バリウム(体積平均粒子径0.5μm、比表面積5.5g/m
2)を100部、ポリカルボン酸アンモニウム塩(分散剤、東亜合成製、商品名「アロンA-6114」)を0.5部、及び水を混合した。水の量は、固形分濃度が50%となるように調整した。メディアレス分散装置を用いて混合物を処理し、硫酸バリウムを分散させた。得られた分散液に、工程(1−1)で得た固形分15.2%の水溶性重合体(A)の水溶液を、1.5部(固形分相当)添加し混合した。添加した水溶性重合体(A)は、混合物中で溶解した。次いで、工程(1−2)で得た粒子状結着剤5部(固形分相当)と、湿潤剤(サンノプコ社製、商品名「SNウェット366」)0.2部とを添加し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し多孔膜用組成物のスラリーを製造した。
得られた多孔膜用組成物のスラリーについて、pH及び粘度を測定した。
【0166】
(1−4.セパレーターの製造)
幅250mm、長さ1000m、厚さ12μmの湿式法により製造された単層のポリエチレン製セパレーター基材を用意した。工程(1−3)で得た多孔膜用スラリーを、セパレーター基材の一方の面上に、乾燥後の厚さが2.5μmになるようにグラビアコーターを用いて20m/minの速度で塗布し、次いで50℃の乾燥炉で乾燥し、巻き取ることにより、セパレーター基材及びその一方の面上に形成された多孔膜を備えるセパレーターを作製した。
【0167】
得られたセパレーターについて、塗布性、水分量及び耐熱収縮性を評価した。
【0168】
(1−5.正極の製造)
正極活物質としてLiCoO
2(体積平均粒子径D50:12μm)を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、HS−100)を2部、正極活物質層用結着剤としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、#7208)を固形分相当で2部、及びNMP(N−メチルピロリドン)を混合し全固形分濃度が70%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を得た。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、正極原反をロールプレスで圧延して、正極活物質層の厚みが95μmの正極を得た。
【0169】
(1−6.負極の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33.5部、イタコン酸3.5部、スチレン62部、2−ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極活物質層用結着剤(SBR)を含む混合物を得た。上記負極活物質層用結着剤を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の負極活物質層用結着剤を含む水分散液を得た。
人造黒鉛(体積平均粒子径D50:15.6μm)100部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(日本製紙社製、MAC350HC)の2%水溶液を固形分相当で1部との混合物をイオン交換水で固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調整した後、25℃で15分間混合した。上記の負極活物質層用結着剤(SBR)を固形分相当量で1.5部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を調製した。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、負極原反をロールプレスで圧延して、負極活物質層の厚みが100μmの負極を得た。
【0170】
(1−7.リチウムイオン二次電池の製造)
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。工程(1−5)で得られた正極を、4.6cm×4.6cmの正方形に切り出し、矩形の正極を得た。工程(1−4)で得られたセパレーターを、5.2cm×5.2cmの正方形に切り出し、矩形のセパレーターを得た。さらに、工程(1−6)で得られた負極を、5cm×5cmの正方形に切り出し、矩形の負極を得た。矩形の正極を、その集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように、包材外装内に配置した。矩形の正極の正極活物質層側の面上に、矩形のセパレーターを、多孔膜側の面が矩形の正極に接するよう配置した。さらに、矩形の負極を、セパレーター上に、負極活物質層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:EC/EMC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF
6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。
このリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性、セルの体積変化量及びハロゲン捕捉量を評価した。
【0171】
<実施例2>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド97部、メタアリルスルホン酸ソーダ2部、及びジメチルアクリルアミド1.0部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0172】
<実施例3>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド83部、メタアリルスルホン酸ソーダ9部、ジメチルアクリルアミド1.0部、及びジメチルアミノエチルアクリレート7部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0173】
<実施例4>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド85部、メタクリル酸10部、及びジメチルアミノエチルアクリレート5部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0174】
<実施例5>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド88.5部、ジメチルアクリルアミド2.5部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0175】
<実施例6>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド90.5部、ジメチルアクリルアミド0.5部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0176】
<実施例7>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド89.0部、メタクリル酸9部、及びジメチルアクリルアミド2.0部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0177】
<実施例8>
工程(1−3)の多孔膜用組成物のスラリーの製造において、硫酸バリウムに代えてアルミナ(比表面積5.0g/m
2、体積平均粒子径0.55μm)を用いた他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0178】
<比較例1>
工程(1−1)の水溶性重合体(A)の製造において、単量体組成物を、アクリルアミド75部、メタクリル酸9.8部、ジメチルアクリルアミド0.2部、及びジメチルアミノエチルアクリレート15部に変更した他は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0179】
<比較例2>
工程(1−3)の多孔膜用組成物のスラリーの製造において、工程(1−1)で得た水溶性重合体(A)の水溶液に代えてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(製品名「ダイセルD1220」、ダイセルファインケム社製、エーテル化度0.8〜1.0)を用いた他は、実施例1の工程(1−2)〜(1−7)と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、リチウムイオン二次電池及びその構成要素についての測定及び評価を行なった。
【0180】
実施例及び比較例における評価結果を表1〜表2に示す。
【0181】
【表1】
【0182】
【表2】
【0183】
表中の略語の意味は、それぞれ下記の通りである。
比表面積:非導電性粒子の比表面積、単位g/m
2。
粒子径:非導電性粒子の粒子径、単位μm。
アクリルアミド量:水溶性重合体(A)の調製のための単量体組成物中のアクリルアミドの割合、単位重量%。
酸基単位種類:水溶性重合体(A)の調製のための単量体組成物中の酸基含有単量体の種類。MAA:メタクリル酸。SAS(D):メタアリルスルホン酸ソーダ。
酸基単位量:水溶性重合体(A)の調製のための単量体組成物中の酸基含有単量体の割合、単位重量%。
DMAA量:水溶性重合体(A)の調製のための単量体組成物中のジメチルアクリルアミドの割合、単位重量%。
DMAEA量:水溶性重合体(A)の調製のための単量体組成物中のジメチルアミノエチルアクリレートの割合、単位重量%。
貯蔵弾性率:水溶性重合体(A)の貯蔵弾性率、単位Pa。
Tg:水溶性重合体(A)のガラス転移温度、単位℃。
分子量:水溶性重合体(A)の分子量。
粘度:多孔膜用組成物の粘度、単位mPa・s。
【0184】
表1〜表2の結果により示される通り、特定の水溶性重合体(A)を有する多孔膜用組成物を用いた実施例においては、多孔膜用組成物の塗布性が良好であり、多孔膜水分量が低く、多孔膜の耐熱収縮性が良好であり、得られた電池において高温サイクル特性が良好であり、セル体積変化が少なく、且つ電解液中の多くのハロゲンが捕捉された。ただ実施例8では、多孔膜水分量が他の実施例に比べると多く、それによりセルの体積変化も大きかったが、これは非導電性粒子としてアルミナを採用したことに起因するものと思われるが、水溶性重合体(A)を用いたことにより、硫酸バリウムとカルボキシメチルセルロースを用いた比較例3に比べても低い水分量であった。