特許第6481685号(P6481685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6481685-液状組成物および抗菌性物品 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6481685
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】液状組成物および抗菌性物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20190304BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20190304BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20190304BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20190304BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20190304BHJP
   C08K 5/3475 20060101ALI20190304BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   C08L83/04
   C08K3/08
   C08K5/54
   C08K5/07
   C08K5/3492
   C08K5/3475
   B32B17/10
【請求項の数】16
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2016-516338(P2016-516338)
(86)(22)【出願日】2015年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2015062251
(87)【国際公開番号】WO2015166858
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2018年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-93200(P2014-93200)
(32)【優先日】2014年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】小平 広和
(72)【発明者】
【氏名】米田 貴重
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/123020(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/04
B32B 17/10
C08K 3/08
C08K 5/07
C08K 5/3475
C08K 5/3492
C08K 5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を含む紫外線吸収剤(a)と、
酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とするバインダー成分(b)と、
、亜鉛および抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種の抗菌活性物質(c)と、
液状媒体(d)と、
を含有することを特徴とする液状組成物。
【請求項2】
前記抗菌活性物質(c)が銀であり、銀単体または銀イオンの状態で存在し、その前記液状媒体中の固形分における含有量が0.00001〜1質量%である請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記抗菌活性物質(c)が亜鉛であり、亜鉛単体または亜鉛イオンの状態で存在し、その前記液状媒体中の固形分における含有量が0.00001〜1質量%である請求項1に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記抗菌活性物質(c)が抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物であり、該抗菌活性基が4級アンモニウム基であり、その前記液状媒体中の固形分における含有量が1〜25質量%である請求項1に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記抗菌活性物質(c)が銀および亜鉛から選ばれる金属であって、前記金属とキレート形成能を有する第1のキレート剤(e)を含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記第1のキレート剤(e)が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種のキレート剤である請求項に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記液状組成物のpHが2〜5である請求項1〜のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記紫外線吸収剤(a)として水酸基含有ベンゾフェノン系化合物を含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項9】
前記紫外線吸収剤(a)として、加水分解性基を有するシリル基を含有するベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項10】
前記バインダー成分(b)として、4官能性アルコキシシラン化合物を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項11】
錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、および複合タングステン酸化物から選択される1種以上を含む赤外線吸収剤(f)をさらに含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項12】
表面張力が17.5〜30mN/mのケイ素化合物を含む表面撥油剤(i)をさらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項13】
基体と、前記基体の表面に請求項1〜12のいずれか1項に記載の液状組成物を用いて形成された紫外線吸収・抗菌性膜と、を有することを特徴とする紫外線吸収能を有する抗菌性物品。
【請求項14】
前記基体が、ガラス基材である請求項13に記載の抗菌性物品。
【請求項15】
前記抗菌性物品のJIS R3212(1998年)にしたがい測定される可視光透過率が70%以上であり、ISO−9050(1990年)にしたがい測定される紫外線透過率が3%以下である請求項13または14に記載の抗菌性物品。
【請求項16】
前記紫外線吸収・抗菌性膜の厚みが1.0〜7.0μmである、請求項13〜15のいずれか1項に記載の抗菌性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液状組成物および抗菌性物品に関し、特には、紫外線吸収能および抗菌性を有する被膜を形成するのに好適な液状組成物および該液状組成物を用いて製造された紫外線吸収能を有する抗菌性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器やタッチパネル付表示装置には、衛生性への配慮が求められている。例えば、モバイル機器の筐体は、使用頻度が多いため、菌が付着する可能性が高く、優れた抗菌性が求められる。また、不特定多数の人に利用される駅の券売機や銀行のATM、医療施設内で用いられる機器等のタッチパネル付表示装置は、それら使用環境ゆえ様々な菌が付着する可能性が高いため、同様の問題を有している。
【0003】
例えば特許文献1には、抗菌効果を有するイオンまたはこれらのイオンの前駆体を含む液体を製品の表面に付着させる工程と、前記製品を加熱して、抗菌効果を有する量の金属イオンを素材表面に導入する工程とを有する、抗菌面を有する製品の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、結晶化ガラスからなる基材上に、ガラスと抗菌剤からなる表面層が形成されてなる抗菌性結晶化ガラス物品が開示されている。
【0004】
このような世間の抗菌意識の高まりから、自動車においても、ハンドル、シフトレバーやシートに加え、ガラスへの抗菌処理が求められるようになってきている。しかし、自動車ガラスの場合、透明性を確保することを前提に、紫外線(UV)カット性の要求が強く、抗菌性とUVカット性とを、その他の性能を犠牲にすることなく両立する自動車用ガラスが、付加価値の高いものとして考えられる。ところが、このような特性を両立するものはいまだ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/030665号
【特許文献2】特開平11−60277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記観点からなされたものであって、高い紫外線カット性だけでなく高い抗菌性も併せ持ち、その他の性能を犠牲にすることのない自動車用ガラスを製造できる液状組成物および該液状組成物を用いた抗菌性物品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[16]の液状組成物および抗菌性物品を提供する。
[1]ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を含む紫外線吸収剤(a)と、酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とするバインダー成分(b)と、銀、亜鉛および抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物から選ばれる少ないとも1種の抗菌活性物質(c)と、液状媒体(d)と、を含有することを特徴とする液状組成物。
[2]抗菌活性物質(c)が銀であり、銀単体または銀イオンの状態で存在し、その前記液状媒体中の固形分における含有量が0.00001〜1質量%である[1]に記載の液状組成物。
[3]抗菌活性物質(c)が亜鉛であり、亜鉛単体または亜鉛イオンの状態で存在し、その前記液状媒体中の固形分における含有量が0.00001〜1質量%である[1]に記載の液状組成物。
[4]抗菌活性物質(c)が抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物であり、該抗菌活性基が4級アンモニウム基であり、その前記液状媒体中の固形分における含有量が1〜25質量%である[1]に記載の液状組成物。
【0008】
]抗菌活性物質(c)が銀および亜鉛から選ばれる金属であって、前記金属とキレート形成能を有するキレート剤(e)を含有する[1]〜[]のいずれかに記載の液状組成物。
]前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種のキレート剤である[]に記載の液状組成物。
]液状組成物のpHが2〜5である[1]〜[]のいずれかに記載の液状組成物。
]紫外線吸収剤(a)として水酸基含有ベンゾフェノン系化合物を含有する[1]〜[]のいずれかに記載の液状組成物。
]紫外線吸収剤(a)として、加水分解性基を有するシリル基を含有するベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を含有する[1]〜[7]のいずれかに記載の液状組成物。
10]バインダー成分(b)として、4官能性アルコキシシラン化合物を含む[1]〜[]のいずれかに記載の液状組成物。
【0009】
11]錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、および複合タングステン酸化物から選択される1種以上を含む赤外線吸収剤(f)をさらに含む[1]〜[10]のいずれかに記載の液状組成物。
12]表面張力が17.5〜30mN/mのケイ素化合物を含む表面撥油剤(i)をさらに含む[1]〜[11]のいずれかに記載の液状組成物。
13]基体と、前記基体の表面に[1]〜[12]のいずれかに記載の液状組成物を用いて形成された紫外線吸収・抗菌性膜と、を有することを特徴とする紫外線吸収能を有する抗菌性物品。
14]前記基体が、ガラス基材である[13]記載の抗菌性物品。
15]前記抗菌性物品のJIS R3212(1998年)にしたがい測定される可視光透過率が70%以上であり、ISO−9050(1990年)にしたがい測定される紫外線透過率が3%以下である[13]または[14]に記載の抗菌性物品。
16]前記紫外線吸収・抗菌性膜の厚みが1.0〜7.0μmである、[13]〜[15]のいずれかに記載の抗菌性物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液状組成物によれば、該液状組成物により基体表面に被膜を形成することで、紫外線吸収能(紫外線カット性)に加えて、抗菌性をも有する抗菌性物品を製造できる。
【0011】
本発明の抗菌性物品によれば、紫外線吸収能(紫外線カット性)を有すると共に、抗菌性に優れた物品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である抗菌性物品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、下記説明に限定して解釈されるものではない。
【0014】
[液状組成物]
本実施形態の液状組成物は、紫外線吸収能を有する抗菌性膜の形成に好適であり、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を含む紫外線吸収剤(a)と、酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とするバインダー成分(b)と、銀、銅、亜鉛および抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種の抗菌活性物質(c)と、液状媒体(d)と、を必須成分として含有してなる。なお、本明細書において、上記各成分を符号のみで、例えば、紫外線吸収剤(a)を(a)成分と示すこともある。
【0015】
以下、本実施形態の液状組成物について、該液状組成物が含有する各成分について説明する。
【0016】
<紫外線吸収剤(a)>
紫外線吸収剤(a)は、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物から選択される1種以上を含有する紫外線吸収能を有する材料である。
【0017】
上記ベンゾトリアゾール系化合物として、具体的には、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール(市販品としては、TINUVIN 326(商品名、チバ・ジャパン社製)等)、オクチル−3−[3−tert−4−ヒドロキシ−5−[5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル]プロピオネート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド−メチル)−5−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(2H−ベンゾチリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(1−メチル−1−フェニルエチル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられる。これらのなかでも好ましくは、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノールが用いられる。
【0018】
上記トリアジン系化合物として、具体的には、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、TINUVIN477(商品名、チバ・ジャパン株式会社製))等が挙げられる。これらのなかでも好ましくは、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジンが用いられる。
【0019】
上記ベンゾフェノン系化合物として、具体的には、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3(または4、5、6のいずれか)−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−2’,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン等が挙げられる。これらのなかでも好ましくは、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンが用いられる。
【0020】
本実施形態において、紫外線吸収剤(a)として、これらの化合物の1種を単独で用いることも、2種以上を併用することも可能である。また、紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物においては、溶媒への溶解度が高いことおよび吸収波長帯が望ましい範囲にあることから上に例示した化合物のなかでも水酸基含有ベンゾフェノン系化合物が好ましく用いられる。さらに、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の紫外線吸収性材料を併用してもよい。
【0021】
この液状組成物における紫外線吸収剤(a)の含有量は、得られる紫外線吸収・抗菌性膜が十分な紫外線吸収能および抗菌性を有するとともに、該膜における機械的強度を確保する点から、バインダー成分(b)100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜40質量部であることがより好ましく、8〜30質量部であることが特に好ましい。
【0022】
なお、この液状組成物においては、得られる紫外線吸収・抗菌性膜から紫外線吸収剤(a)がブリードアウトするのを防ぐために、必要に応じて、紫外線吸収剤(a)を以下の構成としてもよい。例えば、後述するバインダー成分(b)が反応性基を有し、この反応性基が重合して膜形成が行われる場合には、上記反応性基と反応し得る官能基を紫外線吸収剤(a)の化合物中に導入しておくと、重合鎖中に(a)成分が取り込まれて、ブリードアウトを効果的に防止できる。ここで、この導入に使用する化合物は、紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物における紫外線吸収剤(a)の含有量を計算する際に、バインダー成分(b)の一部とみなす。すなわち、このようにして得られる紫外線吸収剤(a)は、バインダー成分(b)の機能も併せ持つものであり、この点を考慮して、紫外線吸収能を有する残基部分と、それ以外のバインダー機能を有する部分と、を分けて上記含有量を算出する。
【0023】
ここで、バインダー成分(b)の反応性基と反応し得る官能基を有する紫外線吸収剤(a)としては、例えば、上に例示したベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、およびベンゾトリアゾール系化合物に、それぞれ適切な方法で加水分解性基を有するシリル基を導入した化合物が挙げられる。このようにして、加水分解性基を有するシリル基を有する紫外線吸収剤(a)とすると、膜形成の際にバインダー成分の一部として紫外線吸収剤(a)が保持されるようになる。なお、加水分解性基を有するシリル基を含有する上記紫外線吸収剤を、以下、シリル化紫外線吸収剤という。
【0024】
具体的には、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物と、水酸基と反応性を有する基(例えばエポキシ基)を含有する加水分解性ケイ素化合物との反応生成物(以下、「シリル化ベンゾフェノン系化合物」ともいう)を紫外線吸収剤(a)として例示できる。シリル化ベンゾフェノン系化合物を加水分解性ケイ素化合物類とともに紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物に含有させれば、これらは加水分解反応により共架橋して酸化ケイ素系マトリクスを形成する。これにより、シリル化ベンゾフェノン系化合物由来の紫外線吸収能を有する基が酸化ケイ素系マトリクスに固定されて、ブリードアウトが防止される。その結果、得られる紫外線吸収・抗菌性膜は、長期にわたって紫外線吸収能を保持することが可能となる。
【0025】
以下、シリル化紫外線吸収剤について、シリル化ベンゾフェノン系化合物を例に説明する。
上記シリル化ベンゾフェノン系化合物の原料の1つであるベンゾフェノン系化合物としては、下記一般式(A)で示される、水酸基を2〜4個有するベンゾフェノン系化合物が挙げられる。このベンゾフェノン系化合物は、シリル化した後も優れた紫外線吸収能を有する点から好ましく用いられる。特に380nmまでの長波長の紫外線吸収能の点からいえば、このベンゾフェノン系化合物が有する水酸基数は、より好ましくは3個または4個である。
【0026】
【化1】
(式(A)中、Xはそれぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子または水酸基を表し、そのうちの少なくとも1個は水酸基である。)
【0027】
さらに、上記一般式(A)で表される水酸基を有するベンゾフェノン系化合物のうちでも、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3(または4、5、6のいずれか)−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等がより好ましく、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンが特に好ましい。水酸基を有するベンゾフェノン系化合物をシリル化する反応において、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物は1種を単独でまたは2種以上の混合物として用いることが可能である。
【0028】
また、上記シリル化ベンゾフェノン系化合物の原料の1つである水酸基と反応性を有する基を含有する加水分解性ケイ素化合物としては、例えば、3官能性または2官能性の加水分解性ケイ素化合物のケイ素原子にエポキシ基を有する非加水分解性の1価有機基が結合した化合物、が挙げられる。好ましくは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランおよび2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
これらのなかでも、本実施形態の液状組成物への溶解性を高くできる観点から、上記エポキシ基含有加水分解性ケイ素化合物として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン等が、特に好ましいものとして用いられる。なお、水酸基含有ベンゾフェノン系化合物をシリル化する際に使用するエポキシ基含有加水分解性ケイ素化合物は、1種を単独でまたは2種以上の混合物として用いることが可能である。
【0030】
上記のように水酸基含有ベンゾフェノン系化合物とエポキシ基含有加水分解性ケイ素化合物とから、シリル化ベンゾフェノン系化合物を得る方法としては、通常のシリル化反応にかかる方法が特に限定されずに適用可能である。
【0031】
本実施形態において好ましく用いられるシリル化ベンゾフェノン系化合物としては、3個以上の水酸基を含有するベンゾフェノン系化合物の1〜2個の水酸基が、エポキシ基含有加水分解性ケイ素化合物のエポキシ基と反応して得られる反応生成物が挙げられる。このような反応生成物として、例えば、下記式(B)に示される4−[2−ヒドロキシ−3−[(3−トリメトキシシリル)プロポキシ]プロポキシ]−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。なお、下記式(B)中、Meはメチル基を表す。
【0032】
【化2】
【0033】
なお、本実施形態の液状組成物において、バインダー(b)成分が酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とし、紫外線吸収剤(a)として上記シリル化ベンゾフェノン系化合物を含有する場合には、該シリル化ベンゾフェノン系化合物における水酸基含有ベンゾフェノン系化合物残基の量が、上に示す紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物中の紫外線吸収剤の含有量となるように調整すればよい。また、シリル化ベンゾフェノン系化合物における水酸基含有ベンゾフェノン系化合物残基以外の部分は、バインダー(b)成分における酸化ケイ素系マトリクス原料成分として扱うこととする。
【0034】
<バインダー成分(b)>
紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物が含有するバインダー成分(b)は、酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とする膜形成のための原料成分である。なお、バインダー成分(b)が、酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とするとは、バインダー成分(b)の全量に対する酸化ケイ素系マトリクス原料成分の割合が50質量%以上であることをいう。このように、本明細書においては、ある成分(x)を主体とする成分(Y)または材料(Y)とは、成分(Y)または材料(Y)全体に対する成分(x)の含有割合が50質量%以上であることをいう。
【0035】
本実施形態に用いるバインダー成分(b)として、好ましくは、ゾル−ゲル法によって酸化ケイ素系マトリクス膜を形成することができる、酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とするバインダー成分(b)が用いられる。
【0036】
本明細書において、ゾル−ゲル法による「酸化ケイ素系マトリクス」とは、加水分解性ケイ素化合物類が加水分解(共)縮合することで得られる高分子化合物をいい、−Si−O−Si−で表されるシロキサン結合により直線的または3次元的に高分子量化したものである。すなわち、酸化ケイ素系マトリクスの原料成分は、加水分解性ケイ素化合物類から選ばれる少なくとも1種からなる。なお、酸化ケイ素系マトリクスを得るために、加水分解性ケイ素化合物類が加水分解(共)縮合する際には、水、酸触媒等が必要とされるが、本明細書においてこれらは酸化ケイ素系マトリクスの原料成分やバインダー成分(b)とは別成分として扱う。
【0037】
また、本明細書において、「加水分解性ケイ素化合物類」とは、少なくとも1個の加水分解性基がケイ素原子に結合したシラン化合物群およびこのようなシラン化合物群の1種または2種以上の部分加水分解(共)縮合物の総称として用いる。また、以下、加水分解性ケイ素化合物の4官能性、3官能性、2官能性等の官能性の数は、上記シラン化合物群の化合物におけるケイ素原子に結合した加水分解性基の数をいう。また、部分加水分解(共)縮合物は、加水分解性基とシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)を有する化合物であってもよく、シラノール基のみを有する化合物であってもよい。
【0038】
本明細書においては、必要に応じて、部分加水分解縮合物と部分加水分解共縮合物を総称して部分加水分解(共)縮合物の用語を用いる。
【0039】
このバインダー成分(b)に用いられる加水分解性ケイ素化合物類としては、シラン化合物群の化合物(例えば、テトラアルコキシシラン)のみであるよりも、少なくともその一部は部分加水分解(共)縮合物であることが好ましい。これは、上記液状組成物における加水分解性ケイ素化合物類の安定性や均一な反応性の面で有利なためである。そのため、原料として部分加水分解縮合物を使用して液状組成物とするか、シラン化合物群の化合物を原料とし、その化合物の少なくとも一部を部分加水分解縮合させて液状組成物とするか、等により液状組成物を得ることが好ましい。例えば、テトラアルコキシシランを使用する場合、テトラアルコキシシランとその反応触媒と他の成分とを混合した後、その混合物中でテトラアルコキシシランの少なくとも一部を加水分解縮合させる処理を行って、液状組成物とすることが好ましい。このとき、一部を加水分解縮合させる処理としては、例えば、常温下または加熱下に所定時間撹拌する処理が挙げられる。
【0040】
シラン化合物群の化合物として2種以上を使用する場合(例えば、4官能性加水分解性ケイ素化合物と3官能性加水分解性ケイ素化合物)、これらをあらかじめ加水分解共縮合させて部分加水分解共縮合物としておくことにより、液状組成物から紫外線吸収・抗菌性膜を形成する際に均一な膜が得られやすい。また、上記シリル化紫外線吸収剤を使用する場合や後述するシリル化抗菌活性物質を使用する場合にも同様に他の加水分解性ケイ素化合物類とあらかじめ加水分解共縮合させておくことにより、酸化ケイ素系マトリクス中に紫外線吸収剤をより均一に分散できる。
【0041】
本実施形態においては、酸化ケイ素系マトリクスの原料成分は、4官能性加水分解性ケイ素化合物の少なくとも1種(またはその部分加水分解(共)縮合物)を含有することが好ましい。その場合には、本実施形態の液状組成物はバインダー成分(b)としてさらに後述する可撓性付与成分を含有することが好ましい。また、上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分としては、4官能性加水分解性ケイ素化合物および3官能性加水分解性ケイ素化合物のそれぞれ少なくとも1種(または、それぞれの部分加水分解縮合物やそれらの部分加水分解共縮合物)を含有するものであることも好ましい。
【0042】
酸化ケイ素系マトリクス原料成分に係る特に好ましい態様としては、加水分解性ケイ素化合物類が4官能性加水分解性ケイ素化合物の少なくとも1種(またはその部分加水分解(共)縮合物)のみで構成され、可撓性付与成分ともにバインダー成分(b)として液状組成物に含有される態様、または、4官能性加水分解性ケイ素化合物および3官能性加水分解性ケイ素化合物のそれぞれ少なくとも1種(または、それぞれの部分加水分解縮合物やそれらの部分加水分解共縮合物)で構成され、必要に応じて可撓性付与成分とともにバインダー成分(b)として液状組成物に含有される態様、である。
【0043】
加水分解性ケイ素化合物が有する加水分解性基として、具体的には、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アシルオキシ基、イミノキシ基、アミノキシ基等のオルガノオキシ基が好ましく、特にアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数4以下のアルコキシ基と炭素数4以下のアルコキシ置換アルコキシ基(2−メトキシエトキシ基など)が好ましく、特にメトキシ基とエトキシ基が好ましい。
【0044】
上記シラン化合物群の化合物である4官能性加水分解性ケイ素化合物は、4個の加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物である。加水分解性基の4個は互いに同一であっても異なっていてもよい。加水分解性基は、好ましくはアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数4以下のアルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基とエトキシ基である。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラtert−ブトキシシラン等が挙げられるが、本実施形態おいては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等が好ましく用いられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
上記シラン化合物群の化合物である3官能性加水分解性ケイ素化合物は、3個の加水分解性基と1個の非加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物である。加水分解性基の3個は互いに同一であっても異なっていてもよい。加水分解性基は、好ましくはアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数4以下のアルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基とエトキシ基である。
【0046】
非加水分解性基としては、非加水分解性の官能基を有するまたは官能基を有しない1価有機基であることが好ましく、官能基を有する非加水分解性の1価有機基であることがより好ましい。非加水分解性の1価有機基とは、当該有機基とケイ素原子が炭素−ケイ素結合で結合する有機基をいう。
【0047】
ここで、本明細書に用いる官能基とは、単なる置換基とは区別された、反応性を有する基を包括的に示す用語であり、例えば、飽和炭化水素基のような非反応性の基は、これに含まれない。また、単量体が側鎖に有するような高分子化合物の主鎖形成に関わらない付加重合性の不飽和二重結合(エチレン性二重結合)は官能基の1種とする。また、本明細書に用いる(メタ)アクリル酸エステル等の「(メタ)アクリル…」の用語は、「アクリル…」と「メタクリル…」の両方を意味する用語である。
【0048】
上記非加水分解性の1価有機基のうちでも、官能基を有しない非加水分解性の1価有機基としては、アルキル基、アリール基などの炭化水素基、ハロゲン化アルキル基などのハロゲン化炭化水素基が好ましい。この官能基を有しない非加水分解性の1価有機基の炭素数は、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。この1価有機基としては、炭素数4以下のアルキル基が好ましい。
【0049】
官能基を有しない非加水分解性の1価有機基を有する3官能性加水分解性ケイ素化合物としては具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン等が挙げられる。これらは1種が単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
上記官能基を有する非加水分解性の1価有機基における官能基としては、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、1級または2級のアミノ基、オキセタニル基、ビニル基、スチリル基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられるが、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基、1級または2級のアミノ基、オキセタニル基、ビニル基、ウレイド基、メルカプト基などが好ましい。特に、エポキシ基、1級または2級のアミノ基、(メタ)アクリロキシ基が好ましい。エポキシ基を有する1価有機基としては、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基を有する1価有機基が好ましく、1級または2級のアミノ基を有する有機基としては、アミノ基、モノアルキルアミノ基、フェニルアミノ基、N−(アミノアルキル)アミノ基などを有する1価有機基が好ましい。
【0051】
1価有機基における官能基は2個以上存在していてもよいが、1級または2級のアミノ基の場合を除いて1個の官能基を有する1価有機基が好ましい。1級または2級のアミノ基の場合は、2個以上のアミノ基を有していてもよく、その場合は1個の1級アミノ基と1個の2級アミノ基を有する1価有機基、例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基や3−ウレイドプロピル基などが好ましい。これら官能基を有する1価有機基の全炭素数は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0052】
官能基を有する非加水分解性の1価有機基を有する3官能性加水分解性ケイ素化合物としては具体的には、以下の化合物が挙げられる。
【0053】
炭素数2または3のアルキル基の末端に、グリシドキシ基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基(アルキル基の炭素数は4以下)、フェニルアミノ基、N−(アミノアルキル)アミノ基(アルキル基の炭素数は4以下)、および(メタ)アクリロキシ基のいずれかの官能基を有する1価有機基の1個と、炭素数4以下のアルコキシ基の3個がケイ素原子に結合した3官能性加水分解性ケイ素化合物である。
【0054】
シラン化合物との反応性の点から3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が特に好ましい。これらは1種が単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0055】
酸化ケイ素系マトリクス原料成分は、必要に応じて2官能性加水分解性ケイ素化合物を含有してもよい。2官能性加水分解性ケイ素化合物は、2個の加水分解性基と2個の非加水分解性基がケイ素原子に結合した化合物である。加水分解性基の2個は互いに同一であっても異なっていてもよい。加水分解性基は、好ましくはアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数4以下のアルコキシ基、さらに好ましくはメトキシ基とエトキシ基である。
【0056】
非加水分解性基としては、非加水分解性の1価有機基であることが好ましい。非加水分解性の1価有機基は必要に応じて、上記3官能性加水分解性ケイ素化合物と同様の官能基を有してもよい。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
また、酸化ケイ素系マトリクス原料成分において、上記4官能性加水分解性ケイ素化合物、3官能性加水分解性ケイ素化合物、2官能性加水分解性ケイ素化合物は、それ自体として本実施形態の液状組成物に含有されていてもよく、それぞれの部分加水分解縮合物として含有されていてもよく、これらの2種以上の部分加水分解共縮合物として含有されていてもよい。
【0058】
部分加水分解(共)縮合物は、加水分解性ケイ素化合物が加水分解し次いで脱水縮合することによって生成するオリゴマー(多量体)である。部分加水分解(共)縮合物は通常溶媒に溶解する程度に高分子量化されたオリゴマーである。部分加水分解(共)縮合物は、加水分解性基やシラノール基を有し、さらに加水分解(共)縮合して最終的に硬化物になる性質を有する。ある1種の加水分解性ケイ素化合物のみから部分加水分解縮合物を得ることができ、また2種以上の加水分解性ケイ素化合物からそれらの共縮合体である部分加水分解共縮合物を得ることもできる。
【0059】
なお、4官能性加水分解性ケイ素化合物、3官能性加水分解性ケイ素化合物、2官能性加水分解性ケイ素化合物は、上記何れの状態で液状組成物に含有されていても、最終的に酸化ケイ素系マトリクスを構成する単位として、それぞれ区別されるものである。以下、バインダー成分(b)においては、例えば、4官能性加水分解性ケイ素化合物それ自体と、その部分加水分解縮合物と、部分加水分解共縮合物におけるその加水分解性ケイ素化合物由来の成分とを併せたものを、4官能性加水分解性ケイ素化合物の由来成分という。
【0060】
上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分における加水分解性ケイ素化合物類は、好ましくは上記の通り、(1)4官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分のみで構成されるか、(2)4官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分および3官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分で構成される。なお、(1)の場合、液状組成物は、特に、得られる紫外線吸収・抗菌性膜が一定の厚みを確保しながら十分な耐クラック性を獲得するために、バインダー成分(b)として可撓性付与成分をさらに含有することが好ましい。また、(2)の場合、4官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分と3官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分の含有割合は、4官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分/3官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分として質量比で、30/70〜95/5が好ましく、40/60〜90/10がより好ましく、50/50〜85/15が特に好ましい。
【0061】
また、上記2官能性加水分解性ケイ素化合物由来成分は、(1)、(2)において必要に応じて任意に使用される。その含有量は、加水分解性ケイ素化合物類全量に対して質量%で30質量%以下の量とすることが好ましい。
【0062】
この液状組成物においては、バインダー成分(b)が酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とする場合、この原料成分である加水分解性ケイ素化合物類を加水分解(共)縮合させ乾燥することで紫外線吸収・抗菌性膜を形成する。この反応は、通常、上記加水分解性ケイ素化合物の部分加水分解(共)縮合と同様に、酸触媒と水の存在下で行われる。したがって、本実施形態の液状組成物は、酸触媒と水を含有する。用いる酸触媒の種類、含有量とも上記部分加水分解(共)縮合の場合と同様にできる。
【0063】
バインダー成分(b)は、上記の通り、バインダー成分(b)成分の一部として、酸化ケイ素系マトリクスに可撓性を付与する可撓性付与成分を任意に液状組成物に含有させることが可能であり、好ましい。可撓性付与成分を含有することで、形成される紫外線吸収・抗菌性膜におけるクラック発生の防止に寄与できる。
【0064】
なお、上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分がいずれの構成であっても、可撓性付与成分の配合は有効であるが、特に、4官能性加水分解性ケイ素化合物のみで構成される酸化ケイ素系マトリクスは可撓性が十分でない場合があり、液状組成物が4官能性加水分解性ケイ素化合物と可撓性付与成分とを含有すれば、機械的強度と耐クラック性の双方に優れた紫外線吸収・抗菌性膜を容易に作製することができる。
【0065】
可撓性付与成分としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオキシアルキレン基を含む親水性有機樹脂、エポキシ樹脂などの各種有機樹脂、グリセリン等の有機化合物を挙げることができる。
【0066】
可撓性付与成分として有機樹脂を用いる場合、その形態としては、液状、微粒子状などが好ましい。有機樹脂は、また、上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分の硬化・乾燥等の際に、架橋・硬化するような硬化性樹脂であってもよい。この場合、酸化ケイ素系マトリクスの特性を阻害しない範囲で、上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分の一部と可撓性付与成分である硬化性樹脂が部分的に反応して架橋してもよい。
【0067】
可撓性付与成分としてエポキシ樹脂を使用する場合には、ポリエポキシド類と硬化剤の組合せまたはポリエポキシド類を単独で使用することが好ましい。ポリエポキシド類とは、複数のエポキシ基を有する化合物の総称である。すなわち、ポリエポキシド類の平均エポキシ基数は2以上であるが、本実施形態においては平均エポキシ基数が2〜10のポリエポキシド類が好ましい。
【0068】
このようなポリエポキシド類としては、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエステル化合物、およびポリグリシジルアミン化合物等のポリグリシジル化合物が好ましいものとして挙げられる。また、ポリエポキシド類としては、脂肪族ポリエポキシド類、芳香族ポリエポキシド類のいずれであってもよく、脂肪族ポリエポキシド類が好ましい。
【0069】
これらのなかでもポリグリシジルエーテル化合物が好ましく、脂肪族ポリグリシジルエーテル化合物が特に好ましい。ポリグリシジルエーテル化合物としては、2官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることが好ましく、耐光性を向上できる点から3官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることが特に好ましい。なお、これらアルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、または糖アルコールであることが好ましい。
【0070】
特に耐光性を向上できる点から、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、およびソルビトールポリグリシジルエーテル等の3個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子あたり平均のグリシジル基(エポキシ基)数が2を超えるもの)が好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本実施形態においては、上記可撓性付与成分のうちでも、エポキシ樹脂、特にポリエポキシド類、ポリエチレングリコール(PEG)、グリセリン等が、得られる紫外線吸収・抗菌性膜に、機械的強度も保持しながら十分な可撓性を付与できる点から好ましい。また、上記エポキシ樹脂、特にポリエポキシド類、PEG、グリセリン等は、長期間に亘る光照射による、クラックの発生を防止する機能に加えて、得られる紫外線吸収・抗菌性膜の無色透明性を確保しながら上記赤外線吸収能や紫外線吸収能の低下を防止することで耐光性を向上させる機能も有するものである。なお、本実施形態においては、これらのなかでもポリエポキシド類が特に好ましい。
【0072】
本実施形態の液状組成物における上記可撓性付与成分の含有量は、その効果を損なわずに、得られる紫外線吸収・抗菌性膜に可撓性を付与し耐クラック性を向上できる量であれば特に制限されないが、上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分100質量部に対して、0.1〜20質量部となる量が好ましく、1.0〜20質量部となる量がより好ましい。
【0073】
また、本実施形態の液状組成物において、バインダー成分(b)の含有量としては、該組成物における全固形分量に対して、3〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0074】
ここで、本明細書において全固形分とは、紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物が含有する成分のうち、紫外線吸収・抗菌性膜の形成成分をいい、膜形成過程において加熱等により揮発してしまう液状媒体(d)等の揮発性成分以外の全成分を示す。
【0075】
また、液状組成物における酸化ケイ素系マトリクス原料成分の含有量は、該組成物全量に対して、該酸化ケイ素系マトリクス原料成分に含まれるケイ素原子をSiOに換算したときのSiO含有量として、1〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは3〜15質量%である。この液状組成物全量に対する酸化ケイ素系マトリクス原料成分の含有量が、SiO換算で1質量%未満であると、所望の厚みとするために液状組成物の塗布量を多くする必要があり、その結果外観が悪化するおそれがある。また、この含有量が20質量%を超えると、液状組成物を塗布した状態での塗膜の厚みが厚くなり得られる紫外線吸収・抗菌性膜にクラックが発生するおそれがある。
【0076】
<抗菌活性物質(c)>
抗菌活性物質(c)は、銀、銅、亜鉛および抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物から選ばれる少なくとも1種の抗菌活性を有する物質である。以下、この抗菌活性物質を、金属系の抗菌活性物質と有機化合物系の抗菌活性物質とに分けてそれぞれ説明する。
【0077】
(金属系抗菌活性物質)
本実施形態における金属系の抗菌活性物質としては、銀、銅および亜鉛が挙げられる。これら金属系抗菌活性物質は、抗菌活性を有していることが既に知られているものである。本実施形態において、これら金属を用いる場合には、本実施形態の液状組成物中に、上記金属を含有させればよい。
【0078】
これら銀、銅および亜鉛の金属系抗菌活性物質は、上記液状組成物中に、金属単体、イオン状態、コロイド状態等で含有されていることが好ましい。また、金属は酸化物や水酸化物等の金属化合物として含有されていてもよい。特に、イオン状態で含有させると効果的であり、このとき、金属イオンをゼオライト等に担持して含有させてもよい。なお、金属単体として用いる場合には、粒子径が0.001〜0.15μmの金属粒子として含有させることが、分散安定性の点等から好ましい。
【0079】
これら金属系抗菌活性物質は、発現する抗菌活性と紫外線吸収・抗菌性膜の機能維持とのバランスを考慮して配合される。
【0080】
金属系抗菌活性物質が銀である場合、その液状組成物の固形成分における含有割合は0.00001〜1質量%であることが好ましい。なお、銀化合物を用いる場合には、銀化合物ではなく金属銀に換算した質量が上記範囲となるようにすればよい。
【0081】
金属系抗菌活性物質が銅である場合、その液状組成物の固形成分における含有割合は0.00001〜1質量%であることが好ましい。なお、銅化合物を用いる場合には、銅化合物ではなく金属銅に換算した質量が上記範囲となるようにすればよい。
【0082】
金属系抗菌活性物質が亜鉛である場合、その液状組成物の固形成分における含有割合は0.00001〜1質量%であることが好ましい。なお、亜鉛化合物を用いる場合には、亜鉛化合物ではなく金属亜鉛に換算した質量が上記範囲となるようにすればよい。
【0083】
(有機化合物系抗菌活性物質)
本実施形態における有機化合物系の抗菌活性物質は、抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物である。本実施形態において、抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物を用いる場合には、紫外線吸収・抗菌性膜の形成に用いる液状組成物中に、上記抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物を含有させればよい。
【0084】
ここで、抗菌活性基としては、公知の抗菌活性を有する有機基が挙げられ、例えば、4級アンモニウム基、ビグアナイド基、イミダゾール基等が好ましい。
【0085】
抗菌活性物質が、有機化合物系の抗菌活性物質である場合、その液状組成物の固形成分における含有量は1〜25質量%であることが好ましい。
【0086】
また、この抗菌活性基を有する加水分解性ケイ素化合物は、上記した紫外線吸収剤(a)と同様に加水分解性ケイ素化合物と抗菌活性基含有化合物とを反応させて得ることができる。すなわち、後述するバインダー成分(b)が反応性基を有し、この反応性基が重合して膜形成が行われる場合には、上記反応性基と反応し得る官能基を抗菌活性物質(c)の化合物中に導入しておくと、重合鎖中に(c)成分が取り込まれて、ブリードアウトを効果的に防止できる。この場合、組成物全体において抗菌活性物質(c)が占める加水分解性ケイ素化合物由来成分の割合は低いため、抗菌活性物質(c)に含まれる(b)成分の割合は考慮せず、抗菌活性物質(c)全量を(c)成分として算出してもよい。
【0087】
ここで、バインダー成分(b)の反応性基と反応し得る官能基を有する抗菌活性物質(c)としては、例えば、上に例示した第4級アンモニウム基を有する化合物に、それぞれ適切な方法で加水分解性基を有するシリル基を導入した化合物が挙げられる。このようにして、加水分解性基を有するシリル基を有する抗菌活性物質(c)とすると、膜形成の際にバインダー成分の一部として抗菌活性物質(c)が保持されるようになる。なお、加水分解性基を有するシリル基を含有する上記抗菌活性物質(c)は、以下、シリル化抗菌活性物質という。
【0088】
具体的には、水酸基を含有する第4級アンモニウム塩化合物と、水酸基と反応性を有する基(例えばエポキシ基)を含有する加水分解性ケイ素化合物との反応生成物(以下、「シリル化第4級アンモニウム塩化合物」ともいう)を抗菌活性物質(c)として例示できる。シリル化第4級アンモニウム塩化合物を加水分解性ケイ素化合物類とともに紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物に含有させれば、これらは加水分解反応により共架橋して酸化ケイ素系マトリクスを形成する。これにより、シリル化第4級アンモニウム塩化合物由来の抗菌活性を有する基が酸化ケイ素系マトリクスに固定されて、ブリードアウトが防止される。その結果、得られる紫外線吸収・抗菌性膜は、長期にわたって抗菌活性を保持することが可能となる。
【0089】
以下、シリル化抗菌活性物質について、シリル化第4級アンモニウム塩化合物を例に説明する。
【0090】
本実施形態において好ましく用いられるシリル化第4級アンモニウム塩化合物としては、例えば、下記式(C)に示される化合物等が挙げられる。なお、下記式(C)中、RC4はメチル基、エチル基が好ましい。また、下記式(C)では陰イオンとして塩化物イオンを示しているが、他のハロゲン、炭酸イオン、硫酸イオン等の陰イオンにより形成される塩であってもよい。
【0091】
【化3】
(式中、RC1〜RC3は、それぞれ同一または異なって、炭素数1〜30のアルキル基、フェニル基等の有機基を、RC4は炭素数1〜3のアルキル基を、RC5は2価の炭素数1〜20のアルキル鎖、2価の炭素数1〜20のエーテル基、アミド基、カルボニル基、エステル基を含有する炭化水素鎖、等を表す。)
【0092】
このシリル化第4級アンモニウム塩化合物は、市販のものを使用してもよく、例えば、Polon−MF50(信越化学工業株式会社製)、Etak(キャンパスメディコ社製)等が挙げられる。
【0093】
なお、本実施形態の液状組成物において、バインダー(b)成分が酸化ケイ素系マトリクス原料成分を主体とし、抗菌活性物質(c)として上記シリル化第4級アンモニウム塩化合物を含有する場合には、シリル化第4級アンモニウム塩化合物の含有量は該シリル化第4級アンモニウム塩化合物における水酸基含有第4級アンモニウム塩化合物残基の量が、上に示す本実施形態の液状組成物中の紫外線吸収剤の含有量となるように調整すればよい。また、シリル化抗菌活性物質の水酸基含有第4級アンモニウム塩化合物残基以外の部分は、バインダー(b)成分における酸化ケイ素系マトリクス原料成分として扱うこととする。
【0094】
<液状媒体(d)>
紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物は、必須成分である紫外線吸収剤(a)、バインダー成分(b)および抗菌活性物質(c)を所定の量で配合し、さらに後述する任意成分等を任意の量で配合し、これらを液状媒体(d)中に溶解、分散して調製される。上記紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物中の全固形分が液状媒体(d)に安定に溶解、分散することが必要である。
【0095】
液状媒体(d)とは、必須成分の紫外線吸収剤(a)、バインダー成分(b)、抗菌活性物質(c)および任意成分を溶解または分散させて含有させる媒体を意味し、比較的低沸点の常温で液状の化合物をいう。液状媒体(d)はアルコールなどの有機化合物や水などの無機化合物からなり、2種以上の混合物であってもよい。2種以上の液状媒体を使用する場合、紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物における液状媒体(d)はそれらの混合物である。この場合、該混合物が均一な混合物となるように相溶性を有する組合せで用いられる。
【0096】
紫外線吸収剤(a)、バインダー成分(b)および抗菌活性物質(c)の必須成分、さらには、後述する任意成分、の各配合成分が、個別に溶液や分散液の状態で提供される場合には、それら溶液や分散液に用いられる溶媒や分散媒を除去せずにそのまま使用して、紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物としてもよい。このとき、上記溶媒や分散媒は液状媒体(d)の一部となる。
【0097】
紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物が含有する各成分が安定して溶解または分散した状態を得るために、液状媒体(d)は少なくとも20質量%以上、好ましくは50質量%以上のアルコールを含有する。このような液状媒体(d)に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノール等が好ましく、これらのうちでも、上記酸化ケイ素系マトリクス原料成分の溶解性が良好な点、基材への塗工性が良好な点から、沸点が80〜160℃のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノールが好ましい。
【0098】
また、本実施形態の液状組成物に用いる液状媒体(d)としては、バインダー成分(b)を製造する過程で用いた溶媒や副生成物、例えば、加水分解性ケイ素化合物の部分加水分解(共)縮合物を含む場合には、その製造過程で、原料加水分解性ケイ素化合物(例えば、アルコキシ基を有するシラン類)を加水分解することに伴って発生する低級アルコール等や溶媒として用いたアルコール等をそのまま含んでもよい。
【0099】
さらに、紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物においては、上記以外の液状媒体(d)として、水/アルコールと混和することが可能なアルコール以外の他の液状媒体を併用してもよく、このような液状媒体(d)としては、上記アセトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
【0100】
本実施形態の液状組成物に含まれる液状媒体(d)の量は、該液状組成物における全固形分濃度が3.5〜50質量%となる量が好ましく、9〜30質量%となる量がより好ましい。液状媒体(d)の量を上記範囲とすることで、作業性が良好となる。
【0101】
本実施形態の液状組成物は、上記必須成分以外に、任意成分として、(c)抗菌活性物質の安定性を高める第1のキレート剤(e)や、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、および複合タングステン酸化物から選択される1種以上を含む赤外線吸収剤(f)を含有することが好ましい。ただし、赤外線吸収剤(f)を含有する場合、赤外線吸収剤(f)は紫外線吸収剤(a)とキレート結合することで黄色に発色することがある。そこで、液状組成物に、さらに分散剤(g)および赤外線吸収剤(f)と錯体を形成しうる第2のキレート剤(h)から選ばれる少なくとも1種の成分を配合することが好ましく、両成分を配合し、赤外線吸収剤(f)の分散性を確保しながら、さらに赤外線吸収剤(f)と紫外線吸収剤(a)とのキレート結合を抑制することがより好ましい。以下、これらの任意成分について説明する。
【0102】
<第1のキレート剤(e)>
第1のキレート剤(e)は、抗菌活性物質(c)のうち金属系抗菌活性物質と錯体を形成しうる化合物である。この第1のキレート剤(e)としては、上記した銀、銅および亜鉛の抗菌活性物質(c)とキレート錯体を形成するものであり、例えば、エチレンジアミン4酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、クエン酸、ヘキサメタリン酸、リンゴ酸、グルコン酸、シュウ酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等やそれらの塩が挙げられる。
【0103】
この第1のキレート剤(e)を、本実施形態の液状組成物に含有させることで、抗菌活性物質(c)とキレート錯体を形成できる。抗菌活性物質(c)はキレート化されても抗菌活性を失うことなく、成膜後の紫外線吸収・抗菌性膜中において、安定して存在させることができる。そのため、抗菌活性物質(c)として金属系抗菌活性物質を使用する場合に、第1のキレート剤(e)を含有させることで可視光透過率や黄色度が悪化するのを抑制し、より透明度の良好な紫外線吸収・抗菌性膜を形成可能な液状組成物が得られる。
【0104】
この第1のキレート剤(e)の含有量は、上記金属活性物質(c)100質量部に対して10〜400質量部の割合となる量が好ましい。この含有量が10質量部未満となると、金属系抗菌活性物質を十分に安定化できなおそれがある。また、この含有量が400質量部を超えると、紫外線吸収・抗菌性膜の透明性が低下してしまうおそれがある。
【0105】
<赤外線吸収剤(f)>
赤外線吸収剤(f)は、複合タングステン酸化物、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、および錫ドープ酸化インジウム(ITO)から選択される1種以上を含有する。なお、これら赤外線吸収剤(f)は、微粒子の形状で用いられる。
【0106】
複合タングステン酸化物として、具体的には、一般式:M(ただし、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snのうちから選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物が挙げられる。上記一般式で示される複合タングステン酸化物においては、十分な量の自由電子が生成されるため赤外線吸収剤として有効に機能する。
【0107】
なお、上記複合タングステン酸化物微粒子の表面は、Si、Ti、Zr、Al等から選ばれる金属の酸化物で被覆されていることが、耐候性の向上の観点から好ましい。被覆方法は特に限定されないが、複合タングステン酸化物微粒子を分散した溶液中に、上記金属のアルコキシドを添加することで、複合タングステン酸化物微粒子の表面を被覆することが可能である。
【0108】
上記複合タングステン酸化物微粒子、ATO微粒子、およびITO微粒子は、赤外線吸収剤(f)として単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。本実施形態においては、透過率損失および環境安全性の点からITO微粒子が好ましく用いられる。さらに、上記複合タングステン酸化物微粒子、ATO微粒子、およびITO微粒子から選ばれる少なくとも1種とこれら以外の赤外線吸収性の微粒子を組合せて赤外線吸収剤(f)として使用してもよい。
【0109】
赤外線吸収剤(f)の微粒子における平均一次粒子径は100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。
【0110】
平均一次粒子径を100nm以下とすれば、これを含む液状組成物中で微粒子同士の凝集傾向が強まらず、微粒子の沈降を回避できる。また、液状組成物により紫外線吸収・抗菌性膜を形成した際に、散乱による曇りの発生(曇価、ヘイズの上昇)を抑制でき、透明性維持の点で上記粒子径とすることが好ましい。なお、平均一次粒子径の下限については特に限定されないが、現在の技術において製造可能な2nm程度の赤外線吸収剤(f)微粒子も使用可能である。ここで、微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察像から測定されるものをいう。
【0111】
ここで、液状組成物における赤外線吸収剤(f)の含有量は、得られる紫外線吸収・抗菌性膜に、さらに十分な赤外線吸収能を付加するとともに、該膜の機械的強度を確保する点から、バインダー成分(b)100質量部に対して1〜80質量部であることが好ましく、5〜60質量部であることがより好ましく、5〜40質量部であることが特に好ましい。
【0112】
なお、上記紫外線吸収剤(a)が含有する紫外線吸収性有機化合物における光の極大吸収波長は、325〜425nmの範囲にあり、概ね325〜390nmの範囲にあるものが多い。このように、比較的長波長の紫外線に対しても吸収能を有する紫外線吸収性有機化合物は、その特性から好ましく用いられるが、これらの化合物は、フェノール性水酸基を有することで上記赤外線吸収剤(f)を構成する無機微粒子とキレート結合し黄色に発色しやすいと考えられる。
【0113】
そこで、赤外線吸収剤(f)は紫外線吸収剤(a)とキレート結合することで黄色に発色することを抑制するために、本実施形態の液状組成物に、さらに分散剤(g)および赤外線吸収剤(f)と錯体を形成しうる第2のキレート剤(h)の少なくとも1つの成分を配合することが好ましく、さらに、両成分を配合し、赤外線吸収剤(f)の分散性を確保しながら、赤外線吸収剤(f)と紫外線吸収剤(a)とのキレート結合を抑制することがより好ましい。
【0114】
<分散剤(g)>
本実施形態の液状組成物に配合する分散剤(g)は、分子量1,000〜100,000の分散剤(g)が好ましい。配合量は、上記赤外線吸収剤(f)100質量部に対して5〜15質量部の割合となる量が好ましい。
【0115】
本明細書において分散剤(g)は、少なくとも分子中に、赤外線吸収剤(f)を構成する微粒子の表面と吸着する部位と、該微粒子に吸着した後は吸着した部位から分散媒(液状媒体(d)の一部となる)中に伸びてそれ自体が有する電荷の反発や立体的な障害により該微粒子を紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物中に安定して分散させる部位を有することで、赤外線吸収剤(f)の微粒子の分散安定性を増大させる機能を有する化合物を総称するものである。分散剤(g)と後述の第2のキレート剤(h)とは第2のキレート剤(h)が赤外線吸収剤(f)の微粒子に吸着するものの分散安定性を増大させる機能を有しない点で相違する。
【0116】
分散剤(g)の分子量は、1,000〜100,000が好ましく、1,500〜100,000がより好ましく、2,000〜100,000が特に好ましい。なお、分散剤(g)の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定される質量平均分子量である。本明細書において、特に断りのない限り、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)による質量平均分子量をいう。
【0117】
本実施形態において、用いられる分散剤(g)の高分子鎖の種類は、液状媒体(d)の種類により適宜選択される。上記のとおり液状媒体(d)は水/アルコールを含有することから、分散剤(g)としては、ポリエチレンオキシド基を含む高分子分散剤等が好ましい。分散剤(g)としては、スチレン系分散剤の使用も好ましい。
【0118】
<第2のキレート剤(h)>
本実施形態の液状組成物において、第2のキレート剤(h)は、赤外線吸収剤(f)と錯体を形成しうるキレート剤である。したがって、赤外線吸収剤(f)を含有させない場合には、第2のキレート剤(h)も使用しなくてよい。なお、この第2のキレート剤(f)がバインダー(b)のマトリックス形成におけるゾル・ゲル反応の酸触媒として寄与する場合には、キレート剤としてではなく、酸触媒として含有させる場合もある。この第2のキレート剤(h)としては、分子量が1,000〜100,000のキレート剤であって、上記形成される錯体が可視光波長の光に対して実質的に吸収を示さないキレート剤が好ましい。
【0119】
ここで、「実質的に吸収を示さない」とは、例えば、赤外線吸収剤(f)100質量部に対して第2のキレート剤(h)を50質量部加えた液状組成物を、赤外線吸収剤(f)が基体上に0.7g/mの量で堆積するように成膜し、得られる被膜付き基板に対してJIS K7105(1981年)に基づいて測定したYIの値と、基板のみに対して測定したYIとの差が2.0以下となることを意味する。
【0120】
なお、本明細書において第2のキレート剤(h)とは、1分子で赤外線吸収剤(f)の微粒子の表面の複数箇所に配位結合できる化合物であって、分子構造に起因した微粒子への吸着後の立体障害が小さく、赤外線吸収剤(f)の微粒子の分散安定性を増大させる機能を有しない化合物を総称するものである。
【0121】
本実施形態の液状組成物において、分散剤(g)は、赤外線吸収剤(f)の微粒子の表面に吸着する部分と分散媒(液状媒体(d)の一部となる)中に伸びて分散安定性を確保する部分とを有するものであって、該組成物における赤外線吸収剤(f)の微粒子の分散安定性が確保される適量が含有される。通常、このような分散剤(g)の適量は、必ずしも赤外線吸収剤(f)の微粒子の表面を十分に覆い、紫外線吸収剤(a)とのキレート結合を抑制できる十分な量ではない。本実施形態の液状組成物に第2のキレート剤(h)を含有させれば、第2のキレート剤(h)と分散剤(g)とが相まって赤外線吸収剤(f)の微粒子の表面を十分に覆うことができ、紫外線吸収剤(a)の赤外線吸収剤(f)微粒子へのキレート結合を十分に抑制できる。
【0122】
本実施形態に用いる第2のキレート剤(h)は、上記のように赤外線吸収剤(f)と錯体を形成しうるキレート剤である。また、該形成される錯体が可視光波長の光に対して実質的に吸収を示さないものが好ましく、その分子量は1,000〜100,000が好ましい。分子量は、1,500〜100,000がより好ましく、2,000〜100,000が特に好ましい。第2のキレート剤(h)の分子量が上記範囲にあれば、分散剤(g)とともに赤外線吸収剤(f)微粒子の表面に吸着、配位して、赤外線吸収剤(f)の微粒子に紫外線吸収剤(a)がキレート結合するのを十分に抑制できる量を用いても、紫外線吸収・抗菌性膜形成後に第2のキレート剤(h)が該層からブリードアウトすること、分子に対して吸着点が少なくなること、さらには、紫外線吸収・抗菌性膜の硬度が低下すること、などが殆どない。
【0123】
紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物における第2のキレート剤(h)の含有量は、上記のように赤外線吸収剤(f)100質量部に対して1〜13質量部の割合が好ましく、上記分散剤(g)の含有量に合わせて、上記範囲内で適宜調整すればよい。第2のキレート剤(h)の上記含有量は、上記分子量の第2のキレート剤(h)を上記分散剤(g)とともに使用した場合に、本実施形態の液状組成物において赤外線吸収剤(f)の微粒子に紫外線吸収剤(a)がキレート結合するのを十分に抑制しながら、得られる紫外線吸収・抗菌性膜から第2のキレート剤(h)のブリードアウトが発生しにくい量である。
【0124】
第2のキレート剤(h)は、上記赤外線吸収剤(f)の微粒子と分散剤(g)と分散媒(液状媒体(d)の一部となる)を含む分散液に含有されてもよいが、通常、該分散液とは別に準備される紫外線吸収剤(a)やバインダー成分(b)が液状媒体(d)に溶解した溶液に含有されることが、赤外線吸収剤(f)と紫外線吸収剤(a)のキレート結合を効率よく抑制する点から好ましい。
【0125】
第2のキレート剤(h)は、液状媒体(d)の種類により適宜選択される。上記のとおり液状媒体(d)は水/アルコールを含有することから、これらの極性溶媒に可溶な第2のキレート剤(h)が好ましい。
【0126】
このような第2のキレート剤(h)として、具体的には、マレイン酸、アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上を単量体とする重合体、好ましくは上記分子量の範囲の重合体、等が挙げられる。この重合体は、ホモポリマーであってもよくコポリマーであってもよい。本実施形態においては好ましくは、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸が用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0127】
本実施形態においては上記第2のキレート剤(h)として市販品を用いることが可能である。市販品としては、例えば、ポリマレイン酸として、ノンポールPMA−50W(商品名、日油社製、分子量:1,200、固形分40〜48質量%の水溶液)等が、ポリアクリル酸としてアクアリックHL(商品名、日本触媒社製、分子量:10,000、固形分45.5質量%の水溶液)等が挙げられる。
【0128】
なお、第2のキレート剤(h)と第1のキレート剤(e)とは同一の化合物であってもよい。すなわち、抗菌活性金属および赤外線吸収剤の両方と錯体を形成し得る化合物である場合には、キレート剤として1種類のものを使用する場合もある。その場合、両機能を十分に発現させるために、添加方法、添加量等を適宜調整することができる。
【0129】
本実施形態の液状組成物において、表面撥油剤(i)は、表面張力が17.5〜30mN/mのケイ素化合物であれば、特に限定されずに使用できる。この表面撥油剤(i)の表面張力がこの範囲内であると、被膜の表面に十分な防汚性を付与でき、かつ、組成物中の他の成分との相溶性が良好であり、均一な被膜を形成できる。この表面張力は、好ましくは17.6〜25mN/mであり、より好ましくは、17.7〜20mN/mである。ここで、本明細書における「表面張力」は、バブルプレッシャー法(最大泡圧法)で測定される値をいう。具体的には、温度22℃、気体空気を用いて測定される値である。より具体的に、本明細書において基準とされるのは、表面張力計(英弘精機社製:Science line t60)を用いて、上記条件で測定した表面張力である。
【0130】
本発明の液状組成物における表面撥油剤(i)の含有量は、液状組成物中の固形分全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、表面撥油剤(i)の種類にもよるが、0.1〜3質量%がより好ましい。ここで、本明細書において固形分とは、液状組成物が含有する成分のうち、被膜形成成分をいい、溶剤(d)等の被膜形成過程における加熱等により揮発する揮発性成分以外の全成分を示す。
【0131】
この表面撥油剤(i)としては、例えば、加水分解性シラン化合物(i1)、加水分解性シラン化合物(i2)、ジオルガノシリコーンオイル(i3)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。表面撥油剤(i)として、上記のような加水分解性シラン化合物(i1)、(i2)を用いれば、表面撥油剤(i)はバインダー成分(b)とともに加水分解反応により水酸基(シラノール基)を有する化合物となり、ついで、分子間で縮合反応してSi−O−Si結合を形成することで、表面撥油剤(i)は被膜に固定化されやすくなる。
【0132】
加水分解性シラン化合物(i1)は、下記一般式(i1)に示される化合物であり、表面張力が17.5〜30mN/mのケイ素化合物である。
(A−R−Si(R(4−a−b) …(i1)
(式(i1)中、Rは、少なくとも1つのフルオロアルキレン基を含むエーテル性酸素原子を有してもよい炭素数1〜20の2価有機基、Aはフッ素原子または−Si(R(3−b)であり、Rはフッ素原子を有しない、置換または非置換の炭素数1〜10の炭化水素基であり、Xは加水分解性基を示す。aは1または2、bは0または1、a+bは1または2である。A−RおよびXが複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。)
【0133】
化合物(i1)は、2または3官能性の加水分解性シリル基を1個または2個有する含フッ素加水分解性シラン化合物である。
【0134】
加水分解性シラン化合物(i1)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
F(CF)CHCHSi(OCH(表面張力;23.4mN/m)、
F(CFCHCHSi(OCH
F(CFCHCHSi(OCH
F(CFCHCHSi(OCH
F(CFCHCHSi(OCH
F(CFCHCHCHSi(OCH
【0135】
(CHO)SiCHCH(CFCHCHSi(OCH
(CHO)SiCHCH(CFCHCHSi(OCH
(CHO)SiCHCH(CFCHCHCHSi(OCH
【0136】
加水分解性シラン化合物(i1)としては、なかでも、F(CFCHCHSi(OCH(表面張力;18.4mN/m)が特に好ましい。
【0137】
加水分解性シラン化合物(i2)は、下記一般式(i2)に示される化合物であり、表面張力が17.5〜30mN/mのケイ素化合物である。
−(SiRO)−SiR−Y−Si(Rn2(X3−n2 …(i2)
(式(i2)中、Rは炭素数10以下のアルキル基または−Y−Si(Rn2(X3−n2基を、Rはそれぞれ独立して炭素原子数3以下のアルキル基を、Yはそれぞれ独立して炭素原子数2〜4のアルキレン基を、Rはフッ素原子を有しない、置換または非置換の炭素数1〜20の炭化水素基を、Xは加水分解性基を示す。kは10〜200の整数であり、n2は0、1または2である。RおよびXが複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。)
【0138】
化合物(i2)は、片末端または両末端に、アルキレン基を介して加水分解性シリル基が結合した、直鎖状のポリオルガノシロキサンである。Rが炭素原子数10以下のアルキル基である場合、化合物(i2)は、片末端に加水分解性シリル基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサンである。この場合、Rは炭素原子数1〜5のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1〜5の直鎖状アルキル基がより好ましい。
【0139】
化合物(i2)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。なお、各化合物中kは10〜150の整数である。
CH(Si(CHO)Si(CHSiCl
CH(Si(CHO)Si(CHSi(OCH
CH(Si(CHO)Si(CHSi(OC
(Si(CHO)Si(CHSiCl
(Si(CHO)Si(CHSi(OCH
(Si(CHO)Si(CHSi(OC
ClSiC(Si(CHO)Si(CHSiCl
(CHO)SiC(Si(CHO)Si(CHSi(OCH
(CO)SiC(Si(CHO)Si(CHSi(OC
【0140】
化合物(i2)は、公知の方法、例えば、末端にヒドロシリル基を有する直鎖状のポリジオルガノシロキサンに、ヒドロシリル化触媒の存在下、ケイ素原子にビニル基含有基と加水分解性基が結合したシラン化合物を反応させる、あるいは、末端にビニル基含有基を有する直鎖状のポリジオルガノシロキサンに、ヒドロシリル化触媒の存在下、ケイ素原子に水素原子と加水分解性基が結合したシラン化合物を反応させる等により製造可能である。
【0141】
ジオルガノシリコーンオイル(i3)としては、一般的にジオルガノシリコーンオイルに分類されるケイ素化合物のうち、表面張力が17.5〜30mN/mであるケイ素化合物が特に制限なく適用できる。
ジオルガノシリコーンオイル(i3)として、具体的には、下記式(i3)に示される化合物(i3)(ただし、表面張力が17.5〜30mN/mである。)が挙げられる。
Si−O−(SiRO)m1−(SiRO)m2−SiR …(i3)
(式(i3)中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基を、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基、アラルキル基を、Rはポリオキシアルキレン基、アミド基、またはエステル基を有する炭素数1〜20の1価有機基を示す。m1は0〜200、m2は0〜200、m1+m2は10〜200の整数である。)
【0142】
本発明において、ジオルガノシリコーンオイル(i3)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ジオルガノシリコーンオイル(i3)は、公知の方法により製造可能である。ジオルガノシリコーンオイル(i3)としては、市販品、例えば、BYK307(商品名、ビックケミー社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、表面張力;26.4mN/m)、等を用いてもよい。
【0143】
表面撥油剤(i)としてジオルガノシリコーンオイル(i3)を用いる場合、その含有量は、液状組成物中の固形分全量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。液状組成物におけるジオルガノシリコーンオイル(i3)の含有量が、上記範囲にあると、得られる紫外線吸収性の被膜の上面に十分な防汚性を付与できるとともに、該被膜の透明性、厚さムラ等による外観を損なうおそれがない。
【0144】
<液状組成物のpH>
液状組成物のpHは、2〜5の範囲であることが好ましい。液状組成物のpHが2より小さいと紫外線吸収・抗菌性膜の着色が大きくなったり、硬化が充分進まなくなったり等の問題が発生するおそれがある。一方、液状組成物のpHが5を超えると液の安定性が低下し保存性が悪化するおそれがある。
また、液状組成物のpHを高くすると、可視光透過率や黄色度が改善される傾向にあるため、透明基体を用いる場合には、上記範囲内でpHを高めることが好ましい。このときのpHは、3.4以上が好ましく、3.7以上がより好ましく、3.9以上が特に好ましい。
【0145】
<液状組成物の製造方法>
本実施形態の液状組成物は、上記の必須成分である(a)成分〜(d)成分、任意成分である(e)成分〜(i)成分、さらには必要に応じてその他の添加成分を、液状媒体(d)中に、均一に混合して得られる。このとき液状媒体(d)は、単一のものでも複数種からなるものでもよく、複数種の液状媒体(d)を用いる場合には、それら液状媒体同士の相溶性が高いものを選択し、均一に混合できるようにする。
【0146】
また、これら(a)成分〜(i)成分およびその他の添加成分を、成分ごとに、同一または異なる液状媒体(d)に溶解または分散して原材料溶液または原材料分散液として調製しておき、それらを混合して液状組成物としてもよい。このとき、原材料溶液または原材料分散液としては、複数の成分を含有させたものとしたり、所定の処理を行ったりしてもよい。これらは最終的に全て混合され、原材料溶液または原材料分散液に用いられる液状媒体(d)は、液状組成物における液状媒体(d)の一部を構成することとなる。
【0147】
なお、第1のキレート剤(e)を含有させる際には、キレート錯体を形成させる成分と予め混合してキレート錯体を形成しておき、その後に液状組成物を製造することが好ましい。一方、第2のキレート剤(h)は赤外線吸収剤(f)と予めキレート化させないことが、液状組成物中の混合安定性の点から好ましい。その後、他の成分を混合して、液状組成物とすることが好ましい。
【0148】
[抗菌性物品]
本実施形態の抗菌性物品は、基体の表面に、紫外線吸収能および抗菌性を有する紫外線吸収・抗菌性膜を有してなるものである。図1に、本発明の一実施形態である抗菌性物品を示した。この抗菌性物品1は、基体2の一方の主面上に、以下で説明する紫外線吸収・抗菌性膜3を有してなる。ここで、紫外線吸収・抗菌性膜3は、本実施形態の紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物を用いて形成されたものである。以下、本実施形態の抗菌性物品の構成について、詳細に説明する。
【0149】
(1)基体
本実施形態の抗菌性物品に用いられる基体としては、一般に抗菌性の付与が求められている材質からなる基体であれば特に制限されない。ここで、基体としては、ガラス、プラスチック、金属、セラミック、木材、金属酸化物等の基体が挙げられ、中でも、ガラス、プラスチック等の透明基体が好ましく、ガラスからなる透明基体が特に好ましい。
【0150】
ガラスとしては、通常のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられ、これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。また、プラスチックとしては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂やポリフェニレンカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられ、これらのうちでもポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンカーボネート等が好ましい。上記各種透明基体のうちでも、ソーダライムガラスからなる透明基体が特に好ましい。
【0151】
基体の形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。また、基体は複数枚の基材を中間膜等の接着層を挟んだ構成であってもよい。例えば、材質がガラスの場合には合わせガラスを指す。基体の厚さは抗菌性物品の用途により適宜選択できるが、一般的には1〜10mmであることが好ましい。
【0152】
なお、基体が透明基体である場合、その透明基体の可視光透過率は、JIS R3212(1998年)にしたがって測定された可視光線透過率として、70%以上であることが好ましく、74%以上であることがより好ましい。
【0153】
また、基体は、表面に反応性基を有することが好ましい。反応性基としては、親水性基が好ましく、親水性基としては水酸基が好ましい。また、基体に酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施し、表面に付着した有機物を分解除去したり、表面に微細な凹凸構造を形成させたりすることにより、基体表面を親水性としてもよい。なお、ガラスや金属酸化物は通常、表面に水酸基を有している。
【0154】
(2)紫外線吸収・抗菌性膜
本実施形態の抗菌性物品1が有する紫外線吸収・抗菌性膜3は、上記基体の表面に設けられる膜である。紫外線吸収・抗菌性膜は、通常、基体のいずれか一方の表面に設ければよいが、両面に設けてもよい。
【0155】
この紫外線吸収・抗菌性膜3は、上記した紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物を用いて形成される膜である。紫外線吸収・抗菌性膜3は、具体的には、紫外線吸収・抗菌膜形成用の液状組成物を基体の被膜形成面に塗布し乾燥することで、液状媒体(d)が除去されるとともにバインダー成分(b)が硬化する際に、紫外線吸収剤(a)および抗菌活性物質(c)が膜全体に分散された形で形成される。
【0156】
このとき、紫外線吸収・抗菌性膜3は、酸化ケイ素マトリックスを主体とするマトリックスが非反応成分を包含する形で構成される。紫外線吸収・抗菌性膜3は紫外線遮蔽機能および抗菌性を有し、任意に赤外線吸収機能を有しながら、無色透明性が確保され、さらに耐候性にも優れ、ブリードアウトの発生が抑制された膜である。
【0157】
この紫外線吸収・抗菌性膜3の厚みは、1.0〜7.0μmであることが好ましく、より好ましくは1.5〜5.5μmである。紫外線吸収・抗菌性膜3の厚みが1.0μm未満であると、紫外線吸収や任意に有する赤外線吸収の効果が不十分となることがある。また、紫外線吸収・抗菌性膜3の厚みが7.0μmを越えるとクラックが発生することがある。また、紫外線吸収・抗菌性膜3の厚みは、膜の着色が抑制出来る点からは2.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0158】
このようにして得られる紫外線吸収・抗菌性膜3は、紫外線遮蔽能に優れ、かつ、抗菌性を有し、被形成面、特にガラスに対して優れた密着性を有する膜である。
【0159】
なお、この抗菌性物品1は、基体2が透明基体であるガラスである場合には、自動車用のガラス、建築物等のガラス等の通常透明性が求められる用途に使用できる。特に自動車用では安全面から高い透明性が求められ、色味等も厳しく制限されている。本抗菌性物品であればその他の性能を犠牲にすることなく紫外線を遮蔽することができ、さらに、抗菌性によりガラス自体の細菌による汚染を防止できる。このような抗菌性物品は、屋外用抗菌性ガラス物品、例えば、自動車等の車輌用の窓材や家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓材などへの適用が可能である。なお、建築用窓材に適用する場合には、室内側の基体表面に紫外線吸収・抗菌性膜を形成することが好ましく、車輌用窓材に適用する場合には車内側の基体表面に形成することが好ましい。これにより、建物内や、自動車の車内を長期間清浄に保つのに有効である。
【0160】
なお、上記の抗菌性物品1は、優れた抗菌性を有し、紫外線吸収能にも優れる。さらにこの抗菌性物品1が紫外線遮蔽性に加え、赤外線吸収剤(f)を含有して赤外線吸収能も有する場合には、熱線遮蔽性にも優れたものとなる。
【0161】
抗菌性物品1における紫外線遮蔽能は、具体的には、分光光度計(日立製作所製:U−4100)を用いて、ISO−9050(1990年)にしたがって測定される紫外線透過率として評価できる。この紫外線透過率が、5.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが特に好ましい。
【0162】
また、本実施形態の抗菌性物品における分光光度計(日立製作所製:U−3500)を用いて測定した波長380nmの光の透過率が21.0%以下であることが好ましく、14.3%以下がより好ましく、6.3%以下が特に好ましい。
【0163】
さらに、本実施形態の抗菌性物品における可視光透過率は、JIS R3212(1998年)にしたがって測定される可視光線透過率として、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、71.5%以上であることが特に好ましい。
【0164】
また、紫外線吸収・抗菌性膜が赤外線吸収剤(f)を含有する場合の抗菌性ガラス物品における日射透過率はJIS R3106(1998年)にしたがって測定された日射透過率として、45.0%以下であることが好ましく、44.0%以下であることがより好ましく、43.0%以下であることが特に好ましい。
【0165】
また、本実施形態の抗菌性物品におけるJIS K7105(1981年)にしたがって算出されるYIは、黄色味の指標であり、20以下が好ましく、12以下がより好ましい。
【0166】
以上は、透明基体を用いた場合の特性であるが、本実施形態の抗菌性物品は、基体が不透明な基体であってもよい。このような基体が用いられる場合、上記紫外線吸収・抗菌性膜を通して基体の材質が外部から視認でき、基体の風合いをそのまま活かした製品とできる。その際、紫外線吸収能を有していることから、屋外に設置され太陽光等に照らされるような場合であっても、基体が紫外線により劣化されるのを抑制でき、製品寿命を改善することができる。
【0167】
<抗菌性物品の製造方法>
本実施形態の抗菌性物品の製造方法を以下に説明する。抗菌性物品1は、基体2の一方の主面上に、紫外線吸収能および抗菌性を有する紫外線吸収・抗菌性膜3を有して構成され、その製造については上記したように、基体2の表面に本実施形態の液状組成物を塗布し、これを乾燥することで得られる。このとき、乾燥により液状媒体(d)が除去されるとともにバインダー成分(b)が硬化する際に、紫外線吸収剤(a)および抗菌活性物質(c)が膜全体に分散された形で形成される。
【0168】
基体2上に紫外線吸収・抗菌性膜3を形成させる具体的な方法としては、(A1)基体2上に紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物を塗布し塗膜を形成する工程と、(B1)得られた塗膜から液状媒体(d)を除去し、さらに用いたバインダー成分(b)の膜形成条件に応じた硬化処理を行い、紫外線吸収・抗菌性膜3を形成する工程と、を含む方法が挙げられる。
【0169】
なお、本明細書においては、基体2上に塗布された液状媒体(d)を含む紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物からなる膜を「塗膜」といい、該塗膜から液状媒体(d)が除去され硬化等の用いるバインダー成分(b)に応じた処理を行うことにより製膜が完全に終了した状態を「紫外線吸収・抗菌性膜」という。
【0170】
まず(A1)工程において、本実施形態の液状組成物を基体2上に塗布して該組成物の塗膜を形成する。なお、ここで形成される塗膜は上記液状媒体(d)を含む塗膜である。基体2上への本実施形態の液状組成物の塗布方法は、均一に塗布される方法であれば特に限定されず、フローコート法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ロールコート法、メニスカスコート法、ダイコート法など、公知の方法を用いることができる。塗布液の塗膜の厚さは、最終的に得られる紫外線吸収・抗菌性膜の厚みを考慮して決められる。
【0171】
次いで行われる(B1)工程において、基体2上の紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物の塗膜から液状媒体(d)を除去するとともに上記加水分解性ケイ素化合物等の酸化ケイ素系マトリクス原料成分を硬化させて紫外線吸収・抗菌性膜3を形成する。
【0172】
この場合、(B1)工程における塗膜からの液状媒体(d)の除去は、加熱および/または減圧乾燥によって行うことが好ましい。基体2上に塗膜を形成した後、室温〜120℃程度の温度下で仮乾燥を行うことが塗膜のレベリング性向上の観点から好ましい。通常この仮乾燥の操作中に、これと並行して液状媒体(d)が気化して除去されるため、液状媒体(d)の除去の操作は仮乾燥に含まれることになる。仮乾燥の時間、すなわち液状媒体(d)の除去のための操作の時間は、膜形成に用いる紫外線吸収・抗菌性膜形成用の液状組成物にもよるが3秒〜2時間程度であることが好ましい。
【0173】
なお、この際、液状媒体(d)が十分除去されることが好ましいが、完全に除去されなくてもよい。つまり、最終的に得られる紫外線吸収・抗菌性膜3の性能に影響を与えない範囲で紫外線吸収・抗菌性膜3に液状媒体(d)の一部が残存することも可能である。また、上記液状媒体(d)の除去のために加熱を行う場合には、上記液状媒体(d)の除去のための加熱、すなわち一般的には仮乾燥と、その後、以下のようにして必要に応じて行われる酸化ケイ素系化合物の作製のための加熱と、を連続して実施してもよい。
【0174】
上記のようにして塗膜から液状媒体(d)を除去した後、上記加水分解性ケイ素化合物等の酸化ケイ素系マトリクス原料成分を硬化させる。この反応は、常温下ないし加熱下に行うことができる。加熱下に硬化物(酸化ケイ素系マトリクス)を生成させる場合、硬化物が有機成分を含むことより、その加熱温度の上限は250℃が好ましく、特に210℃が好ましい。常温においても硬化物を生成させることができることより、その加熱温度の下限は特に限定されるものではない。ただし、加熱による反応の促進を意図する場合は、加熱温度の下限は60℃が好ましく、80℃がより好ましい。したがって、この加熱温度は60〜250℃が好ましく、80〜210℃がより好ましい。加熱時間は、膜形成に用いる液状組成物の組成にもよるが、数分〜数時間であることが好ましい。
【0175】
このようにして、基体2上に上記紫外線吸収・抗菌性膜3が形成された本実施形態の抗菌性物品1が得られる。以上、抗菌性物品1を例に本実施形態の抗菌性物品およびその製造方法を説明したが、製造方法はこれに限定されず、本発明の趣旨および範囲を逸脱することのない範囲で変更可能である。
【実施例】
【0176】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、例1〜3、5〜12、14〜19が実施例であり、例4、13が比較例である。
【0177】
各例において各膜形成用組成物の調製に使用した化合物、市販品(商品名)等を以下に示す。
【0178】
<紫外線吸収剤(a)>
・シリル化紫外線吸収剤溶液: 2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン(BASF社製) 49.2g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製) 123.2g、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム(純正化学社製) 0.8g、酢酸ブチル(純正化学社製) 100gを仕込み、撹拌しながら60℃に昇温して溶解させ、さらに120℃まで加熱して4時間反応させることにより、紫外線吸収剤である4−[2−ヒドロキシ−3−[3−(トリメトキシシリル)プロポキシ]プロポキシ]−2,2’,4’−トリヒドロキシベンゾフェノンを含有する固形分濃度63質量%のシリル化紫外線吸収剤溶液を得た。シリル化紫外線吸収剤溶液の固形分は69%が(a)紫外線吸収剤成分、31%が(b)バインダー成分として算出される。
・TINUVIN360分散液: TINUVIN360(BASF社製、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]) 4g、DISPERBYK−190(ビックケミー・ジャパン社製、酸価10mgKOH/g、分子量2,200の分散剤の40質量%水溶液) 5.0g、純水 31gを仕込み48時間ボールミルで攪拌したのち所定量の純水で希釈し、固形分濃度8質量%のTINUVIN360分散液を得た。
【0179】
<バインダー成分(b)>
・テトラエトキシシラン(TEOS):純正化学社製、商品名:テトラエトキシシラン
・SiO微粒子分散液: 日産化学工業社製、商品名:メタノールシリカゾル
<抗菌活性物質(c)>
・硝酸銀水溶液: 硝酸銀(純正化学赦社製)を純水に溶解し、金属銀換算で1質量%濃度または10質量%濃度の硝酸銀水溶液を調整した。
・酢酸銀水溶液: 酢酸銀(純正化学赦社製)を純水に溶解し、金属銀換算で1質量%濃度の硝酸銀水溶液を調整した。
・Polon MF−50:信越化学工業株式会社製、商品名;4級アンモニウム塩含有シランカップリング剤
【0180】
<液状媒体(d)>
・ソルミックスAP−1(日本アルコール販売社製、商品名;エタノール:2−プロパノール:メタノール=85.5:13.4:1.1(質量比)の混合溶媒)
<第1のキレート剤(e)>
・エチレンジアミン四酢酸二アンモニウム塩一水和物(純正化学社製:分子量344.32;EDTA−2NH)。なお、以下の実施例および比較例において、第1のキレート剤は、液状組成物を調製する前に、硝酸銀または酢酸銀水溶液に、硝酸銀、または酢酸銀と等モル量添加することでキレート化硝酸銀水溶液またはキレート化酢酸銀水溶液を予め調製して用いた。
【0181】
<赤外線吸収剤(f)>
・ITO分散液: ITO超微粒子(三菱マテリアル社製;平均一次粒子径20nm)の11.9g、DISPERBYK−190(ビックケミー・ジャパン社製、酸価10mgKOH/g、分子量2,200の分散剤の40質量%水溶液)の3.0g、ソルミックスAP−1の24.2gをボールミルを用いて48時間分散処理し、その後さらにソルミックスAP−1を添加してITO固形分濃度が20質量%となるように希釈し、赤外線吸収剤であるITO超微粒子を含有するITO分散液を得た。
【0182】
<第2のキレート剤(h)>
・第2のキレート剤:ノンポールPMA−50W(日油社製 固形分濃度50%のマレイン酸重合物水溶液)
<表面撥油剤(i)>
・TSL8257(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、商品名:フルオロアルキルシラン;バインダー成分(b)15%、表面撥油剤成分(i)85%)
【0183】
<その他>
<酸触媒>
・マレイン酸(純正化学社製、商品名:マレイン酸)
・塩酸水溶液:純正化学社製 塩酸特級 を純水で0.7質量%濃度に希釈し、塩酸水溶液を得た。
<樹脂;可撓性付与成分>
・SR−SEP: 阪本薬品工業社製、商品名;ソルビトール系ポリグリシジルエーテル
・ポリオールG300: ADEKA社製 ポリエーテルポリオール
<表面調整剤>
・BYK307(ビックケミー・ジャパン社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)
【0184】
[紫外線吸収能を有する抗菌膜の製造]
(例1)
シリル化紫外線吸収剤 12.8g、テトラエトキシシラン 15.3g、SiO微粒子分散液 0.7g、ソルミックスAP−1 50.6g、純水 19.5g、SR−SEP 1.1g、マレイン酸 0.116g、ノンポールPMA−50W 0.081g、BYK307 0.060gを仕込み、50℃で2時間撹拌した後に1質量%濃度硝酸銀水溶液 0.1g、を添加して、紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液1を得た(該塗布液1の固形分中の銀含有量は0.01質量%である)。
【0185】
その後、表面を清浄にした10cm×10cm×3.5mmの高熱線吸収グリーンガラス(旭硝子社製、通称UVFL)上に、抗菌膜形成用塗布液1をスピンコート法によって塗布した後、大気中、200℃で30分間乾燥させて、紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板1を得た。
【0186】
(例2)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を0.7g、純水を19.0gとした以外は例1と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液2を得た(該塗布液2の固形分中の銀含有量は0.05質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液1を抗菌膜形成用塗布液2とした以外は例1と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板2を得た。
【0187】
(例3)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を2.8g、純水を16.9gとした以外は例1と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液3を得た(該塗布液3の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液1を抗菌膜形成用塗布液3とした以外は例1と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板3を得た。
【0188】
[紫外線吸収能を有する膜の製造]
(例4)
硝酸銀水溶液を使用せず(0.0g)、純水を19.7gとした以外は例1と同一の操作により紫外線吸収能を有する膜形成用の液状組成物塗布液4を得た(該塗布液4の固形分中の銀含有量は0.0質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液1を膜形成用塗布液4とした以外は例1と同一の操作により紫外線吸収能を有する膜付きガラス板4を得た。
【0189】
[紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜の製造]
(例5)
シリル化紫外線吸収剤 11.7g、テトラエトキシシラン 14.0g、ソルミックスAP−1 53.7g、純水 17.9g、SR−SEP 1.0g、マレイン酸 0.012g、ノンポールPMA−50W 0.081g、BYK307 0.060gを仕込み、50℃で2時間撹拌した後にITO分散液 7.0g、1質量%濃度硝酸銀水溶液 0.14g、を添加して、紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液5を得た(該塗布液5の固形分中の銀含有量は0.01質量%である)。
【0190】
その後、表面を清浄にした10cm×10cm×3.5mmの高熱線吸収グリーンガラス(旭硝子社製、通称UVFL)上に、抗菌膜形成用塗布液5をスピンコート法によって塗布した後、大気中、200℃で30分間乾燥させて、紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板5を得た。
【0191】
(例6)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を0.0014g、純水を18.1gとした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液6を得た(該塗布液6の固形分中の銀含有量は0.0001質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液6とした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板6を得た。
【0192】
(例7)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を0.70g、純水を17.4gとした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液7を得た(該塗布液7の固形分中の銀含有量は0.05質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液7とした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板7を得た。
【0193】
(例8)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を2.79g、純水を15.3gとした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液8を得た(該塗布液8の固形中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液8とした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板8を得た。
【0194】
(例9)
シリル化紫外線吸収剤 11.5g、テトラエトキシシラン 13.7g、ソルミックスAP−1 54.5g、純水 14.9g、SR−SEP 1.0g、マレイン酸 0.116g、ノンポールPMA−50W 0.081g、BYK307 0.060gを仕込み、50℃で2時間撹拌した後にITO分散液 6.9g、10質量%濃度硝酸銀水溶液 2.75g、を添加して、紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液9を得た(該塗布液9の固形分中の銀含有量は1.96質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液9とした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板9を得た。
【0195】
(例10)
1質量%濃度硝酸銀水溶液 2.79gを1質量%濃度酢酸銀水溶液 2.79gとした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液10を得た(該塗布液10の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液10とした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板10を得た。
【0196】
(例11)
シリル化紫外線吸収剤 11.7g、テトラエトキシシラン 8.0g、PolonMF−50 6.93g、ソルミックスAP−1 64.6g、純水 10.2g、マレイン酸 0.116g、ノンポールPMA−50W 0.081g、BYK307 0.060gを仕込み、50℃で2時間撹拌した後にITO分散液 7.0g、を添加して、紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液11を得た(該塗布液11の固形分中のPolonMF50含有量は19.8質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液11とした以外は例5と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板11を得た。
【0197】
(例12)
TINUVIN360分散液 34.6g、テトラエトキシシラン 39.6g、ソルミックスAP−1 21.7g、ポリオールG300 0.63g、0.7質量%濃度塩酸水溶液 3.2gを仕込み50℃で2時間撹拌した後に10質量%濃度硝酸銀水溶液 0.23gを添加して、紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液12を得た。該塗布液12の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を抗菌膜形成用塗布液12とした以外は例5と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板12を得た。
【0198】
[紫外線赤外線吸収膜の形成]
(例13)
硝酸銀水溶液を使用せず(0.00g)、純水を18.1gとした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する膜形成用塗布液13を得た(該塗布液13の固形分中の銀含有量は0.0質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液5を膜形成用塗布液13とした以外は例5と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する膜付きガラス板13を得た。
【0199】
[紫外線吸収能、赤外線吸収能および表面撥水性を有する抗菌膜の製造]
(例14)
シリル化紫外線吸収剤 11.7g、テトラエトキシシラン 14.0g、ソルミックスAP−1 53.5g、純水 17.9g、SR−SEP 1.0g、マレイン酸 0.012g、ノンポールPMA−50W 0.081g、TSL8257 0.14g、BYK307 0.060gを仕込み、50℃で2時間撹拌した後にITO分散液 7.0g、1質量%濃度硝酸銀水溶液 0.14g、を添加して、紫外線吸収能、赤外線吸収能および表面撥水性を有する抗菌膜形成用塗布液14を得た(該塗布液14固形分中の銀含有量は0.01質量%である)。
【0200】
その後、表面を清浄にした10cm×10cm×3.5mmの高熱線吸収グリーンガラス(旭硝子社製、通称UVFL)上に、抗菌膜形成用塗布液14をスピンコート法によって塗布した後、大気中、200℃で30分間乾燥させて、紫外線吸収能、赤外線吸収能および表面撥水性を有する抗菌膜付きガラス板14を得た。
【0201】
例1〜例14の液状組成物の組成について、表1および表2にまとめて示した。なお、これらの表では、固形分中における各成分の含有量も併せて示した。なお、例1〜例4では、赤外線吸収剤を含有するITO分散液を使用していないが、バインダー成分のゾル−ゲル反応における酸触媒として機能するためITOキレート剤を添加している。
【0202】
【表1】
【0203】
【表2】
【0204】
[試験例]
〈抗菌活性〉
例1〜3,5〜12、14により得られた抗菌膜付きガラス板1〜3,5〜12、14および例4,13により得られた膜付きガラス板4,13について、JIS Z 2801:2010(抗菌性試験方法)に基づき、フィルム密着法による抗菌活性試験を実施した。比較用の抗菌未処理試験として被覆フィルムのみでの試験を実施した結果を用いて抗菌活性値を算出した。
【0205】
〈光学特性〉
例1〜3,5〜12、14により得られた抗菌膜付きガラス板1〜3,5〜12、14および例4,13により得られた膜付きガラス板4,13について、分光光度計(日立製作所製、商品名:U−4100)を用いて測定し、JIS R 3212:1998に従って可視光線透過率(Tv(%))および紫外線透過率(Tuv(%))を算出し、さらにJIS K 7105:1981に従って黄色度(YI(%))を算出した。
【0206】
〈接触角〉
注射針から1μLの水またはオレイン酸を1.5cm間隔で6箇所に滴下し、水平方向より撮影した水滴の半径と高さからθ/2法により、それぞれの接触角を算出し、6点の平均値をその膜の接触角とした。
これらの結果を表3および表4に併せて示した。
【0207】
【表3】
【0208】
【表4】
【0209】
これらの結果から、銀または4級アンモニウム塩の抗菌活性物質を含有させることで、紫外線や赤外線の吸収能に加え、抗菌活性をも有するコーティング膜が形成できた。すなわち、例1〜例3、例5〜例12および例14は、いずれも銀を含有していない例4,13のガラス板に対して大腸菌の抗菌活性値が向上しており、また、例1〜例3、例5、例7〜例9においてはその上限値まで到達しており、良好な抗菌活性を有することが確認できた。なお、例1〜14における抗菌活性値は、大腸菌に対しては6.0が、黄色ブドウ球菌に対しては4.1が上限値であり、接種した細菌が全滅した状態となっている。
【0210】
[色味の改善]
例7〜例9,例12に示したように、紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜において、銀含有量が増加することで可視光線透過率Tvおよび黄色度YIが悪化し、着色が生じる傾向があり、透明性を求められるガラスにおいて色味が低下する傾向があることがわかった。そこで、本発明者らは、その改善方法について検討した。
【0211】
〈キレート剤による安定化〉
(例15)
シリル化紫外線吸収剤 11.7g、テトラエトキシシラン 14.0g、ソルミックスAP−1 53.7g、純水 15.2g、SR−SEP 1.0g、マレイン酸 0.116g、ノンポールPMA−50W 0.081g、BYK307 0.060gを仕込み、50℃で2時間撹拌した後にITO分散液 7.0g、1質量%濃度硝酸銀水溶液 2.79g、を添加して、紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液15を得た(該塗布液15の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。
【0212】
その後、表面を清浄にした10cm×10cm×3.5mmの高熱線吸収グリーンガラス(旭硝子社製、通称UVFL)上に、抗菌膜形成用塗布液15をスピンコート法によって塗布した後、大気中、200℃で30分間乾燥させて、紫外線・赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板15を得た。
【0213】
(例16)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を2.79gを1質量%濃度硝酸銀水溶液2.79gと第1のキレート剤0.057gを混合したキレート化硝酸銀水溶液2.847gとした以外は例15と同一の操作により紫外線および赤外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液16を得た(該塗布液16固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液15を抗菌膜形成用塗布液16とした以外は例15と同一の操作により紫外線・赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板16を得た。
【0214】
(例17)
1質量%濃度硝酸銀水溶液を2.79gを1質量%濃度酢酸銀水溶液2.79gと第1のキレート剤0.058gを混合したキレート化酢酸銀水溶液2.848gとした以外は例15と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液17を得た(該塗布液17の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液15を抗菌膜形成用塗布液17とした以外は例15と同一の操作により紫外線・赤外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板17を得た。
【0215】
例15〜例17の液状組成物の組成について、表5にまとめて示した。なお、これらの表では、固形分中における各成分の含有量も併せて示した。
【0216】
【表5】
【0217】
得られた抗菌膜付きガラス板15〜17について、上記と同様に、抗菌活性、可視光線透過率、紫外線透過率および黄色度を算出し、その結果を表6に示した。なお、例15〜17における抗菌活性値は、大腸菌に対しては6.2が、黄色ブドウ球菌に対しては4.1が上限値であり、接種した細菌が全滅した状態となっている。この結果から、キレート剤を添加することで可視光透過率および黄色度がいずれも改善されることがわかった。
【0218】
【表6】
【0219】
〈組成物溶液のpHの調整〉
(例18)
マレイン酸を0.046gとした以外は例15と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液18を得た(該塗布液18の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液15を抗菌膜形成用塗布液18とした以外は例15と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板18を得た。
【0220】
(例19)
マレイン酸を使用しない(0.000g)こと以外は例15と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜形成用塗布液19を得た(該塗布液19の固形分中の銀含有量は0.2質量%である)。また、抗菌膜形成用塗布液15を抗菌膜形成用塗布液19とした以外は例15と同一の操作により紫外線吸収能を有する抗菌膜付きガラス板19を得た。
【0221】
例18〜例19の液状組成物の組成について、表7にまとめて示した。なお、これらの表では、固形分中における各成分の含有量も併せて示した。
【0222】
【表7】
【0223】
得られた抗菌膜付きガラス板18、19とこれらと液状組成物のpHを対比するものとして抗菌膜付きガラス板8、15について、上記と同様に、抗菌活性、可視光線透過率、紫外線透過率および黄色度を算出し、その結果を表8に示した。なお、例18〜19における抗菌活性値は、大腸菌に対しては6.0が、黄色ブドウ球菌に対しては4.1が上限値であり、接種した細菌が全滅した状態となっている。この結果から、液状組成物のpHを上げることで可視光透過率および黄色度がいずれも改善されることがわかった。また、それぞれ同一の組成で、抗菌性膜の膜厚のみを変えた例(例8’、例15’、例18’、例19’)を表9に示した。この結果から膜厚が薄くなることで可視光透過率および黄色度がいずれも改善されることがわかった。
【0224】
【表8】
【表9】
【0225】
〈色味の経時変化〉
次に、例3,6〜8,13の抗菌膜付きガラス板3,6〜8,13について、黄色度の経時変化を、促進耐候性試験(SXe照射試験)および50℃95%RH環境における高温高湿試験により調べた。その結果を表10に示した。
【0226】
【表10】
この結果から、銀含有量が低いほど黄色度の経時変化が生じにくいことがわかった。
【0227】
なお、促進耐候試験1000時間後のガラス板と、50℃95%RH環境下1000時間後のガラス板について、抗菌活性を調べたところ、上限値であり抗菌活性が十分に保持されていることがわかった。なお、各例における抗菌活性(大腸菌)の初期値は、6.0が、SXeWOM1000時間後の値は、5.3が上限値であり、接種した細菌が全滅した状態となっている。
【0228】
以上の結果から、本実施形態の液状組成物を用いて形成した抗菌性物品は、良好な抗菌性を有しており、紫外線吸収能を併せて有するものである。また、基体としてガラス等の透明基体を用いた場合には、その可視光透過率や黄色度等も良好で、自動車用ガラスや建築用ガラスとして好適なものである。
【産業上の利用可能性】
【0229】
本発明の液状組成物は、基体上に紫外線吸収能および抗菌性を有する樹脂膜を簡便に形成でき、例えば、自動車等の車輌用の窓材や建材用の窓材等のように内部に紫外線を透過させないようにすると共に、表面を清浄に保つことが求められる製品や、基体自体の紫外線による劣化を防止すると共に、表面を清浄に保つことが求められる製品等、様々な製品に広く適用できる。
【符号の説明】
【0230】
1…抗菌性物品、2…基体、3…紫外線吸収・抗菌性膜。
図1