特許第6482045号(P6482045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6482045-抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤 図000002
  • 特許6482045-抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482045
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20190304BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20190304BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20190304BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61P1/04
   A61P31/04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-13353(P2018-13353)
(22)【出願日】2018年1月30日
(62)【分割の表示】特願2013-263165(P2013-263165)の分割
【原出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-83844(P2018-83844A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2018年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 泰幸
(72)【発明者】
【氏名】東 直樹
(72)【発明者】
【氏名】向井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 正彦
(72)【発明者】
【氏名】松井 英則
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】西山 啓太
【審査官】 鈴木 理文
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−520038(JP,A)
【文献】 特開2003−95963(JP,A)
【文献】 特開2001−143(JP,A)
【文献】 感染症学雑誌,2007年,Vol.81 No.4,pp.387-393
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/747
A61P 1/04
A61P 31/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリコバクター・ハイルマニーに感染したヒト又は動物に投与される抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤であって、
ラクトバチルス・ガセリ菌及び/又はラクトバチルス・ガセリ菌培養物を有効成分とする抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤を含有する抗ヘリコバクター・ハイルマニー用飲食品、動物用飼料又は医薬組成物。
【請求項3】
さらに生理的に許容可能な担体を含む請求項2に記載の抗ヘリコバクター・ハイルマニー用飲食品、動物用飼料又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Helicobacter Heilmannii(以下、H.heilmanii、又は、ヘリコバクター・
ハイルマニーという場合がある。)に対し、胃内菌数減少作用あるいは除菌作用を有する
ことを特徴とするラクトバチルス属に属する乳酸菌及び/又は乳酸菌培養物を有効成分と
する抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤に関する。
さらに詳しくは、前記ラクトバチルス属に属する乳酸菌がLactobacillus gasseri(以
下、L.gasseri、又は、ラクトバチルス・ガセリという場合がある)である抗ヘリコバク
ター・ハイルマニー剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胃潰瘍は精神的ストレス等が引き金となって発生すると言われていたが、1983年
にマーシャル(Marshall B,J,)らによって初めて慢性胃炎患者よりHelicobacter pyroli
以下、H.pyroli、又は、ヘリコバクター・ピロリという場合がある。)が分離培養され、
本発見以降、胃炎、胃潰瘍の一部はヘリコバクター・ピロリの感染によって起こることが
明らかとなった(非特許文献1参照)。ヘリコバクター・ピロリはヒトで経口により感染
すると考えられている。開発途上国では小児期に既に70−80%以上の高い感染率を示す。
一方、先進国では途上国よりは感染率は低い。我が国のヘリコバクター・ピロリ感染率は
若年者では先進国型で10−40%程であるが、40歳以上の成人では開発途上国型であり高い
感染率(80%以上)を示す。これらは昭和30年までの良好でない衛生状況の中で育ったこ
とが理由のひとつであろうと言われている。
【0003】
1995年に、日本消化器学会よりヘリコバクター・ピロリ除菌ガイドラインが出され、20
00年には、日本ヘリコバクター学会より「ヘリコバクター・ピロリ感染の診断と治療ガイ
ドライン」が発表されている。ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療については、
2000年11月に、胃潰瘍と十二指腸潰瘍の治療で国内保険適用となり、2010年には、胃MALT
リンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病および早期胃がんESDが追加適応された。
【0004】
疫学的調査の結果から、1994年に世界保健機構(WHO)にてヘリコバクター・ピロリが
発がん性物質であると認定され、胃癌との関係が注目されるようになった。一方、ヘリコ
バクター・ピロリ陰性にもかかわらず、胃炎や胃潰瘍となる症例も報告されたため、ヘリ
コバクター・ピロリ菌以外の類縁の感染菌の動態についても種々の検討が行なわれてきた
【0005】
ヘリコバクター属細菌は30種類以上にも分類されるが、1994年には、それらのうちヘリ
コバクター・ハイルマニーが動物の胃内から感染菌として検出されたと報告されている(
非特許文献2参照)。その後、モルグナー(Morgner A.)らにより、胃MALTリンパ腫とヘ
リコバクター・ハイルマニーの関連を示す研究結果(非特許文献3参照)が発表され、ヘ
リコバクター・ピロリ以外にも胃がんの原因菌が存在することが明らかとなった。
【0006】
ヘリコバクター・ハイルマニーは、グラム陰性螺旋型桿菌であり、5〜7巻の螺旋を有
する。両極に、10〜20本の鞭毛を有し、運動性があり、ウレアーゼ活性を有する。ヘリコ
バクター・ピロリ感染者の0.66%、ヘリコバクター・ハイルマニー感染者の1.47%に胃MA
LTリンパ腫が発生することが報告されている。(非特許文献4,5参照)。このような経
過から、今後はヘリコバクター・ピロリとともに、ヘリコバクター・ハイルマニーの感染
予防や除菌効果に関する研究の重要性が高まると考えられている。
【0007】
分類学的には、ヘリコバクター・ハイルマニーは、タイプ1から4に分類され、このう
ち、ヘリコバクター・ハイルマニー タイプ1が、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、サルにも感
染する人畜共通感染症菌であることが明らかにされた(非特許文献6参照)。2008年には
、ヒトから分離されたヘリコバクター・ハイルマニーとブタから分離された菌種をまとめ
て、新種ヘリコバクター・スイス(Helicobacter suis)としてInt J Syst Evol Microbi
olに提案され(非特許文献7参照)、これらの菌がヒトの上部消化器感染や胃MALTリンパ
腫発症原因菌となることが報告された(非特許文献8参照)。
ヘリコバクター・ハイルマニーとヘリコバクター・スイスは分類学的にも、疾病発症の
原因菌としても、将来整理統合される可能性があるが、現時点では同種の菌と考えられる
ので、これらの菌種をヘリコバクター・ハイルマニーとして取り扱うのが妥当である。
【0008】
ヒトから分離されるヘリコバクター・ハイルマニーは、in vitroでの培養方法は確立さ
れておらず、in vivo(感染させたマウスの胃内)で菌の継代が行なわれているのみであ
る(非特許文献3)。特許文献1では、基礎培地にカタラーゼ含む栄養培地を用いること
により、in vitroで、ヘリコバクター・ハイルマニーを培養可能にできるとされている。
しかし、これらの方法でも、ヘリコバクター・ハイルマニーを長期に継代培養・維持する
ことは依然として困難であり、本菌の検出および感染診断には、遺伝子レベルでの技術開
発が急がれている。
【0009】
ヘリコバクター・ハイルマニーはヘリコバクター・ピロリと異なり、ヒト、イヌ、ネコ
、ブタ、サルにも感染する人畜共通感染症であり、ペットなどからヒトに感染する可能性
がある。ヘリコバクター・ハイルマニー感染による、ペットからヒトへの感染予防ならび
にヒトや動物における胃疾患消化器潰瘍やMALTリンパ種発症の予防および治療に用いるた
めにも、ヘリコバクター・ハイルマニー除菌活性を有する医薬や乳酸菌などの開発研究が
必要となっている。
治療方法として、ヒトで胃潰瘍や胃MALTリンパ腫の原因となることが確認されているヘ
リコバクター・ピロリに対しては、クラリスロマイシン、アモキシシリン等の複数の抗生
物質及びプロトンポンプ阻害剤(PPI)の1週間投与による除菌方法が成果を上げてい
る。しかし、ヘリコバクター・ハイルマニーに関しては、その感染経路およびヒトや動物
における疾病との関連が明らかにされてきたが、培養や検出が困難な細菌であるため、詳
細が調べられず、現在までに確立された抗菌物質や除菌方法は存在しない。また、マウス
を用いた感染実験においてもヘリコバクター・ピロリの除菌法では、ヘリコバクター・ハ
イルマニーの完全な除菌は不可能であった(非特許文献9)。
なお、ヘリコバクター・ピロリに対しては、乳酸菌などの投与によって消化管内の菌数
低減について開示されている(特許文献2、3参照)。しかし、ヘリコバクター・ピロリ
とヘリコバクター・ハイルマニーは上記のとおり、感染経路も異なる病原菌であり、前記
乳酸菌がヘリコバクター・ピロリ以外の病原菌に対して効果を示すのかどうかについては
一切不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-15664号公報
【特許文献2】特許第3046303号公報
【特許文献3】特開2008-266148号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Marshall BJ & Warren JR, Lancet, Vol.321, pp.1273-1275, 1984
【非特許文献2】Stole M et al.,Scand J Gastroenterol, Vol.29, pp1061-1 064, 1994
【非特許文献3】Morgner A et al., Gastroenterology, Vol.118, pp.821-82 9, 2000
【非特許文献4】Mongner A et al., Lancet Vol.346, pp511-512,1995
【非特許文献5】Mongner A et al., Gastroenterology Vol.118,pp821-828,2000
【非特許文献6】Trebesius K et al., J. Clin Microbiol, Vol.9(4),pp1510-1516,2001
【非特許文献7】Baele M et al., Int J Syst Evol Microbiol, Vol58,pp1350-1358, 2008
【非特許文献8】Yamamono K. et al., Microbes Infect.,Vol.13,pp697-708, 2011
【非特許文献9】Matsui, H.et al., Antimicrob Agents Chemother, vol 52,pp2988-2989,2008
【非特許文献10】日本ヘリコバクター学会誌,Vol.10,pp21-22,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、特許文献2、3では、ヘリコバクター・ピロリ菌について、除菌活性を有
する抗菌剤や除菌方法が開示されているが、ヒトやペット等の動物等に共通感染して、消
化管潰瘍および胃MALTリンパ腫を発症させるとされるヘリコバクター・ハイルマニーに対
して有効な抗菌剤や除菌方法はいまだに開発されていない。
したがって、ヘリコバクター・ハイルマニー除菌活性を有する抗菌剤、医薬および飲食
品などの開発研究が必要となっている。特に、ヘリコバクター・ピロリ除菌治療において
問題となった、複数の抗菌剤の使用による耐性菌出現や下痢の副作用等(非特許文献10
)を回避することが可能で、より安全で効果が期待できる除菌素材(化合物や乳酸菌など
の生物素材)およびこれらを用いた飲食品や医薬の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヘリコバクター・ハイル
マニーに対し、ラクトバチルス属に属する乳酸菌に胃内菌数減少効果あるいは除菌作用を
有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の内容を含む。
【0014】
(1)ラクトバチルス属に属する乳酸菌及び/又は乳酸菌培養物を有効成分とする抗ヘリ
コバクター・ハイルマニー剤。
(2)前記ラクトバチルス属に属する乳酸菌がラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス
・ジョンソニー、ラクトバチルス・ラムノーサスまたはラクトバチルス・ロイテリである
前記(1)に記載の抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤。
(3)前記ラクトバチルス・ガセリがSBT2055(FERM BP-10953)である前記(2)に記載
の抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤。
(4)抗ヘリコバクター・ハイルマニー効果を有するラクトバチルス属に属する乳酸菌及
び/又は乳酸菌培養物を含有してなる抗ヘリコバクター・ハイルマニー飲食品、動物用飼
料又は医薬組成物。
(5)さらに生理的に許容可能な担体を含む前記(4)に記載の飲食品、動物用飼料又は
医薬組成物。
(6)前記ラクトバチルス属に属する乳酸菌がラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス
・ジョンソニー、ラクトバチルス・ラムノーサスまたはラクトバチルス・ロイテリである
前記(4)又は(5)に記載の飲食品、動物用飼料又は医薬組成物。
(7)前記ラクトバチルス・ガセリがラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM BP-10953)
である前記(6)に記載の飲食品、動物用飼料又は医薬組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、抗ヘリコバクター・ハイルマニー活性を有するラクトバチルス属に属する乳
酸菌を摂取する事により、上部消化管内感染により、胃炎、胃潰瘍、MALTリンパ腫疾患の
発症原因となる、ヘリコバクター・ハイルマニーの有意な菌数減少又は除菌に、有効な効
果が期待できる。
同時に、食経験のある材料から分離された乳酸菌を使用するため、いわゆる抗生物質の
ような副作用がなく安全性が高いという特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マウスへのラクトバチルス・ガセリの投与および感染菌の感染方法についての実験スケジュールを示す。
図2】ラクトバチルス・ガセリのヘリコバクター・ハイルマニーに対する感染防御効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の抗ヘリコバクター・ハイルマニー剤の有効成分である乳酸菌としてはラクトバ
チルス属に属する乳酸菌であって、ヘリコバクター・ハイルマニーに対して菌数減少、増
殖抑制、感染防御又は除菌効果を有するものであればいずれも利用することができる。
ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、ラクトバチルス・ガセリ、ラクトバチルス
・ジョンソニー、ラクトバチルス・ラムノーサスまたはラクトバチルス・ロイテリが挙げ
られ、そのうちでも、ラクトバチルス・ガセリに属する乳酸菌が好ましい。ラクトバチル
ス・ガセリに属する乳酸菌としては、ラクトバチルス・ガセリSBT2055を用いることが好
ましい。なお、ラクトバチルス・ガセリSBT2055株は、独立行政法人産業技術総合研究所
特許生物寄託センターに平成8年3月27日に国内寄託され(受託番号FERM P-15535)、その
後国際寄託に移管され、受託番号BP-10953が付与されている。
ラクトバチルス属乳酸菌、ラクトバチルス・ガセリSBT2055株を培養する培地には、乳
培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地等種々の培地を用いることができ
る。このような培地としては、脱脂粉乳を還元して加熱殺菌した還元脱脂乳培地を例示す
ることができるが特に限定されるものではない。
【0018】
本発明のラクトバチルス属乳酸菌の培養法は、静置培養あるいはpHを一定にコントロー
ルした中和培養を用いることができるが、菌が良好に生育する条件であれば特に培養法に
制限はない。ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、培養物をそのまま用いても良い
し、培養物から遠心分離等の集菌手段によって分離された菌体をそのまま用いることもで
きる。なお、菌体は、死菌体を用いることもできるが、生菌体を用いることが好ましい。
また、前記菌体や培養物を濃縮したり、乾燥(凍結、噴霧、真空等)したり、懸濁した
り、希釈したり、一定の加工処理を施したものを用いることもできる。
【0019】
本発明のラクトバチルス属乳酸菌はどのような飲食品に含有させても良く、飲食品の製
造工程中の原料に添加しても良い。飲食品の例として、乳飲料、発酵乳、乳製品、果汁飲
料、清涼飲料、炭酸飲料、菓子、ゼリー等の飲食品を挙げることができるが、特に限定さ
れるものではない。
【0020】
食品添加剤として用いる場合には、その添加量については、特に限定的ではなく、食品
の種類に応じ適宜決めればよい。例えば、清涼飲料、炭酸飲料などの液体食品や菓子類や
その他の各種食品等の固形食品に添加して用いることができるが、これらの場合の添加量
については、食品の種類に応じて適宜決めればよく、一例としては、乳酸菌乾燥重量とし
て、含有量が0.005重量%〜5重量%の範囲内となるように添加すればよい。
【0021】
また、本発明のラクトバチルス属乳酸菌は動物用飼料としてどのような飼料に配合して
も良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。動物用飼料として用いる場合には、
その添加量については、特に限定的ではなく、動物用飼料の種類に応じ適宜決めればよい
。一例としては、乳酸菌乾燥重量として、含有量が0.005重量%〜5重量%の範囲内とな
るように添加すれば良い。
【0022】
本発明の乳酸菌を、健康食品や医薬組成物として人体に投与する場合には、次のような
投与方法及び投与量が例示される。投与は、種々の方法で行うことができ、例えば、錠剤
、カプセル剤、顆粒剤、シロップ剤等の剤型による経口投与とすることができる。投与量
については、経口投与の場合には、通常、成人において、有効成分量として体重1kgあ
たり0.01〜1000mg/kg程度が適当であり、これを1日1回〜数回に分けて投与すればよい
。乳酸菌の含有割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量等に合わせて
適宜調節すれば良い。
経口投与剤は、通常の製造方法に従って製造することができる。例えば、デンプン、乳
糖、マンニット等の賦形剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピ
ルセルロース等の結合剤、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の
崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、軽質無水ケイ酸等の流動性向上
剤等の生理的に許容可能な担体と適宜組み合わせて処方することにより、錠剤、カプセル
剤、顆粒剤等として製造することができる。本発明の乳酸菌を有効成分として含有する抗
ヘリコバクター・ハイルマニーの製剤は、いずれも公知の方法により製造することができ
る。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単
に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0024】
[試験例1]
1. 実験動物
C57BL/6Jマウス、雌性、6週齢以降(チャールズリバー社製)を用いた。
【0025】
2.被験菌と実験群の設定
実験群は、以下の乳酸菌菌株を投与する群で構成し、1群4匹又は5匹で実験を行った(1
群5匹で1回目の実験を行い、その後、1群4匹で2回実験を繰り返し、再現性を確認した)

ラクトバチルス・ラムノーサス(L.rhamnosus)ATCC53103
ラクトバチルス・ジョンソニー(L.johnsonii)KZ1002
ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)KZ1201
ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)JCM1081
ラクトバチルス・ガセリ(L.gasseri)SBT2055
コントロールとして、0.01%のゼラチンを含むPBS溶液(pH7.4)(以下,BSGということが
ある)を用いた。
なお、KZ1002、KZ1201は北里大学の管理番号であり、JCM1081は独立行政法人理化学研
究所、ATCC53103はAmerican Type Culture Collectionに保存されている株名であり、SBT
2055は前述のとおりである。
【0026】
3.乳酸菌の調製
上記2.に列挙した乳酸菌の、-85℃の凍結菌体をLactobacillus-MRS 寒天平板 (Difco
Laboratories社製) に塗布し37°C、10% CO2, 6% H2, 84% N2で培養した。生じたコロニ
ーをLactobacillus-MRS液体培地で37°C、10% CO2, 6% H2, 84% N2で1昼夜、振とう培養
し、遠心分離した菌の沈殿をBSGに溶解し投与乳酸菌液とした。
マウスには経口ゾンデを用いて用時調製の前記投与乳酸菌液を1日1回0.1ml (1x108〜1x
109 CFU)を実験スケジュール(図1)にしたがって投与した。
【0027】
4. 感染菌の調製、感染方法および実験スケジュール
4-1.感染菌(H.heilmannii TKY株)の調製と感染方法
Nakamuraらの方法(Nakamura, M.et.al., Infect. Immun. vol75,p1214-1222, 2007,)
に基づき、H.heilmannii TKY株が感染しているC57BL/6Jマウスの胃粘膜をスライドガラス
により剥離し、BSGで懸濁し、感染菌液とした。マウスには経口ゾンデを用いて感染菌液0
.1ml (約1 x 104 コピー の H.heilmannii 16S rRNA 遺伝子)を投与した。
4-2.実験スケジュール
図1に示す。感染の2日前より、乳酸菌の投与を開始し、感染菌投与後2週間乳酸菌の投
与を継続した。
【0028】
5. 検査項目
(1) マウス胃内の細菌の16S rRNA遺伝子のコピー数
(2) マウス胃内のH.heilmannii TKYの16S rRNA遺伝子のコピー数
【0029】
6.菌数の算定方法(非特許文献9およびMukai, T., et al., FEMS Immunol Med Microbiol
vol32,pp105-110,2002参照)
感染2週間後にマウスを解剖し、胃粘膜をスライドガラスにより剥離し、BSGで懸濁しDN
easy Blood & Tissue kit (No. 69506; Qiagen社製) を用いてDNA溶液を調製した(調整DN
A:マウス1匹当たり100μl)。NanoDrop 1000(ナノドロップND-1000、Thermo Fisher Sci
entific社製)による、前記DNA溶液のDNA濃度測定後、1μl を用いてリアルタイム PCR法
により、胃内の全ての細菌とH.heilmanniiの16S rRNA遺伝子のコピー数を計算した。リア
ルタイム PCR法による感染菌のコピー数の計算は、以下のように行った。 PCR反応により
増幅するH.pyloriの16S rRNA遺伝子は、染色体上に2セット存在する。そこで、H.heilman
nii及び他の細菌の16S rRNA遺伝子も同じく2セットと仮定して、H.pyloriの一定量の菌体
DNA当たりの菌数(CFU)を調べ、細菌共通16S rRNA遺伝子プライマーセットを用いて、PCR
反応により100, 1,000, 10,000コピーに相当するDNA量で検量線を作成した。調製したDNA
溶液1μlの検査菌のコピー数を検量線より計算し、100倍してマウス1匹当たりのコピー数
を求めた。
【0030】
7.PCRに使用したプライマーセット
(1)H.heilmannii 16S rRNA 遺伝子
HeilF (5'aagtcgaacgatgaagccta3')
HeilR (5'atttggtattaatcaccatttc3')
(2)細菌共通16S rRNA遺伝子
16S universal 341F (5'ctacgggaggcagcagtggg3')
16S universal 519R (5'attaccgcggckgctg3')
【0031】
8.PCR反応(非特許文献9参照)
PCR反応は以下の条件で、95℃ 15 sec、55℃ 15 secおよび72℃ 30 secの条件で50サイ
クル行った(TaKaRa Thermal Cycler Dice Real Time System)。
(条件)
全液量(20μl)
2xSYBR(登録商標) green PCR master mix (Bio-Rad社製) 10μl
プライマーセット 5μl (5μM)
調製DNA (100倍希釈) 1μl
dDW(double distilled water) 4μl
【0032】
9. データ処理
乳酸菌投与群と非投与群(1群5匹;n=5)のH.heilmanniiの平均コピー数を求めた。そ
の結果を図2に示す。
【0033】
10. 結果
ラクトバチルス属に属する乳酸菌を投与した結果、コントロールに比べて、H.heilmann
iiに対する胃内菌数減少効果が確認された。特に、L.gasseri SBT2055 投与群において、
有意な感染防御効果を示した。
【実施例1】
【0034】
(食品の製造)
ラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM BP-10953)をヨーグルトミックス(生乳に2%
脱脂粉乳を添加し溶解した後、ホモジナイザーで均質化し、100℃で10分間加熱した後、4
1℃まで冷却)に5重量%接種し、100gずつカップに充填後、37℃で6時間培養し、抗ヘリ
コバクター・ハイルマニー効果を有する発酵乳を製造した。
【実施例2】
【0035】
(医薬組成物の製造)
ラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM BP-10953)を食用可能な合成培地(0.5%酵母
エキス、0.1%トリプチケースペプト添加)に5重量%接種し、38℃で15時間培養後、遠心
分離で菌体を回収した。この菌体1gを乳糖5gと混合し、顆粒状に成型し、抗ヘリコバク
ター・ハイルマニー効果を有する顆粒剤を得た。
【実施例3】
【0036】
(飲料の製造)
10%還元脱脂乳溶液を85℃で25分間殺菌した後、ホモゲナイズし、冷却した。これにス
ターターとしてラクトバチルス・ガセリSBT2055(FERM BP-10953)の培養物を3.5%加え
、38℃で16時間発酵させ、乳酸含量2%の酸乳(脱脂乳培地における培養物)を得た。つ
いで、生じたカードを砕きながら、5℃に冷却し、これを酸乳とした。別に、ショ糖15%
のほかに適量の酸味料、香料、色素を有する糖液を調合し、ホモジナイズし、80℃で25分
間殺菌した後、5℃に冷却し、糖液とした。このようにして得た酸乳30部に対して糖液70
部の割合で混合し、抗ヘリコバクター・ハイルマニー効果を有する酸乳飲料を製造した。
【実施例4】
【0037】
(飼料の製造)
収穫したアルファルファを軽く乾燥し、マウンドカッターで15〜25mmに切断し、ラクト
バチルス・ガセリSBT2055(FERM BP-10953)の純培養物を材料となる草1gあたり105cfu
以上となるように接種した。サイレージ用フィルムで包装し、30℃で10日間貯蔵して、抗
ヘリコバクター・ハイルマニー効果を有するサイレージを調製した。
図1
図2