(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記規格化データと、前記基準形状データまたは過去の測定結果に基づく規格化データとを比較し、前記多数のデータ格納点それぞれの前記径方向の座標の差分値をマップ化すること、をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の容器内検査方法。
前記測定することは、容器の中心軸から前記容器内壁面までの径方向の距離が相対的に小さい容器の狭小部を避けた位置に前記測定器を配置することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の容器内検査方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0014】
図1は、実施の形態に係る炉内検査の様子を模式的に示す鉛直断面図であり、
図2は、水平断面図である。本実施の形態は、廃液燃焼炉70の炉内壁面72を測定器20を用いて検査するための炉内検査方法および炉内検査システムである。廃液燃焼炉70は、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を含む廃液を850℃〜1200℃の高温雰囲気にスプレーして酸化分解することにより無害化するための竪型燃焼炉である。廃液燃焼炉70は、圧力容器を形成する金属製の鉄皮と、鉄皮の内面を被覆する耐火物とを有する。炉内壁面72は、耐火物により構成され、耐熱レンガなどの定形耐火物や、レンガ間の目地を埋めるキャスタブルなどの不定形耐火物が用いられる。
【0015】
廃液燃焼炉70の内部では、850℃〜1200℃の高温雰囲気中で廃液の処理がなされるため、炉内壁面72を構成する耐火材は、廃液燃焼による腐食雰囲気や、運転時の熱負荷等によって減肉、損耗されていく。本実施の形態は、このような炉内壁面72を検査し、廃液燃焼炉70の使用に伴う炉内壁面72の変形量や減肉量を特定する技術を提供する。
【0016】
廃液燃焼炉70は、ウィンドボックス部74と、上部コニカル部75と、直胴部76と、下部コニカル部77と、取合部78とを有する。直胴部76は、軸方向(z方向)に延びる円筒形状の部分である。直胴部76の上側には、上部コニカル部75が設けられ、上部コニカル部75の上側にはウィンドボックス部74が設けられる。直胴部76の下側には、径方向の幅が徐々に小さくなる下部コニカル部77が設けられ、下部コニカル部77の下側には冷却缶と接続するための取合部78が設けられる。
【0017】
本明細書において、廃液燃焼炉70の長手方向である取合部78からウィンドボックス部74に向かう方向を軸方向(z方向)ということがある。また、軸方向に直交する方向を径方向といい、軸方向を包囲する方向を周方向と呼ぶことがある。しかしこれらは、廃液燃焼炉70が回転対称性を有する形状であることを必ずしも意味するものではない。
【0018】
測定器20は、レーザ22を三次元的にスキャンし、レーザスキャンした対象物の位置および形状を特定する三次元レーザスキャナである。測定器20は、炉内壁面72に向けて垂直方向の仰角ψ(
図1参照)および水平方向の方位角θ(
図2参照)を変化させながらレーザ22を照射し、レーザ22が照射される多数の測定点24の三次元座標を取得する。測定器20は、レーザ22を用いて計測される測定器20から測定点24までの距離と、レーザ22の照射方向を規定する仰角ψおよび方位角θとから各測定点24の三次元座標を算出する。
【0019】
測定器20は、廃液燃焼炉70の内部の所定の測定位置に配置される。測定器20は、例えば、廃液燃焼炉70の内部の中央付近に位置するように配置される。ここで、中央付近とは、径方向の位置が廃液燃焼炉70の中心軸付近であって、軸方向の位置が直胴部76が設けられる範囲となるような位置のことである。測定器20は、廃液燃焼炉70の中心軸上に配置されることが好ましいが、必ずしも中心軸上に位置するように配置されなくてもよく、中心軸からずれた位置に配置されてもよい。
【0020】
測定器20は、取付治具26と固定治具28により所定の測定位置に固定される。取付治具26は、ウィンドボックス部74に取り付けられ、固定治具28は、取付治具26から測定器20の測定位置まで軸方向に延びる。測定器20は、固定治具28の先端に固定される。固定治具28は、測定器20の位置が計測中に動かないよう剛性の高い部材で構成されることが望ましく、金属製のパイプなどで構成される。固定治具28は、炉の中心軸上に位置するように取付治具26に取り付けられることが好ましいが、中心軸からずれた位置となってもよいし、炉の軸方向に交差する方向に傾けられて取付治具26に取り付けられてもよい。
【0021】
測定器20は、測定位置が固定されたままの状態で、例えば、垂直視野が305度(
図1に示すψ
0の2倍)、水平視野が360度となる範囲で、炉内壁面72を測定可能となるように構成される。したがって、測定器20の位置を固定したまま三次元レーザスキャンを実行することで、廃液燃焼炉70の炉内壁面72のほぼ全面を短時間で計測できる。測定器20が計測した各測定点24の三次元座標の値は、解析装置30(
図3にて後述)に送られる。
【0022】
図3は、容器内検査システム10の構成を模式的に示すブロック図である。容器内検査システム10は、測定器20と、解析装置30と、を備える。解析装置30は、取得部32と、表示部34と、記憶部36と、受付部38と、内壁面解析部40と、を含む。内壁面解析部40は、立体形状構築部42と、座標変換部44と、規格化部46と、減肉量管理部48と、を有する。
【0023】
本明細書のブロック図において示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組み合わせによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者に理解されるところである。
【0024】
取得部32は、測定器20から炉内壁面72上の多数の測定点24の三次元座標の値を取得する。内壁面解析部40は、取得部32が取得した値を用いて、炉内壁面72の変形量または減肉量が把握可能となるようにデータを処理する。表示部34は、内壁面解析部40が処理したデータをグラフやコンタ図などの形で可視化する。記憶部36は、内壁面解析部40でのデータ処理に必要な情報を記憶する。受付部38は、ユーザからの入力操作を受け付ける。
【0025】
立体形状構築部42は、取得部32が取得した多数の測定点の三次元座標値から炉内壁面72の三次元形状データを構築する。
図4は、立体形状構築部42が構築する三次元形状データ61の一例を模式的に示す図である。立体形状構築部42は、測定器20の測定位置を原点とする三次元空間に各測定点の座標をマッピングし、炉内壁面72の立体形状データを構築する。このときに構築される三次元形状データ61は、測定器20の測定位置や向きに応じて、原点位置が炉の中心軸上からずれていたり、座標軸が炉の中心軸の延びる方向に対して傾いていたりする。
図4では、説明を分かりやすくするために、測定器20の配置に依存した原点位置のずれや軸のずれを誇張して示している。
【0026】
座標変換部44は、立体形状構築部42が構築した三次元形状データ61を基準座標軸を基準とした三次元形状データに座標変換する。座標変換部44は、座標変換処理をすることによって測定器20の測定位置や向きのずれに起因する三次元形状データの位置ずれを補正する。座標変換部44は、記憶部36に予め用意されている炉内壁面72の基準形状データを参照して座標変換処理をする。
【0027】
図5は、基準座標軸を基準とした炉内壁面の基準形状データ60の一例を模式的に示す図である。基準形状データ60は、廃液燃焼炉70の設計時や製造時に用いられる図面データ(例えば、3DCADデータ)に対応する立体形状データであり、検査実施前に予め用意される。基準形状データ60には、例えば、廃液燃焼炉70の上部コニカル部75、直胴部76、下部コニカル部77に対応する形状データが定められる。
【0028】
基準形状データ60には、座標変換をする際のパターンマッチングに利用可能な特徴形状が定められる。第1特徴形状81は、上部コニカル部75と直胴部76の境界部分の形状であり、第2特徴形状82は、直胴部76と下部コニカル部77の境界部分の形状であり、第3特徴形状83は、取合部78の近傍の形状である。これら特徴形状は、廃液燃焼炉70の中心軸から炉内壁面72までの径方向の距離が不定に変化する部分の形状として定められ、炉内壁面72の屈曲部や湾曲部などが選択される。なお、特徴形状として、炉内壁面72から径方向に延びる配管との接続部や、配管と接続される開口などを定めてもよい。
【0029】
基準形状データ60には、基準座標軸の原点位置と座標軸の方向とが定められている。例えば、基準座標軸として、取合部78の中心位置が原点として規定され、廃液燃焼炉70の中心軸に沿った方向がz軸として規定される。また、中心軸に直交する径方向の一つがx軸として規定され、中心軸に直交する径方向のうちx軸に直交する方向がy軸として規定される。なお、基準座標軸として、x軸、y軸、z軸の直交座標ではなく、z軸、径方向軸(R軸)、周方向軸(θ軸)の円筒座標が定められていてもよい。
【0030】
図6は、基準座標軸を基準として座標変換された炉内壁面の三次元形状データ62の一例を模式的に示す図である。座標変換部44は、
図4に示す三次元形状データ61に含まれる特徴形状63、64を、
図5に示す基準形状データ60の対応する特徴形状81、82に位置合わせ(パターンマッチング)することにより、基準座標軸の原点位置および方向を決定する。座標変換部44は、決定した基準座標軸の原点位置および方向にしたがって各測定点の座標値を変換することにより、
図6に示す座標変換後の三次元形状データ62を生成する。なお、座標変換部44は、直交座標系の三次元形状データ62に変換してもよいし、円筒座標系の三次元形状データに変換してもよい。
【0031】
規格化部46は、座標変換された各測定点の座標値を規格化し、円筒座標系の軸方向および周方向に等間隔に配置された多数のデータ格納点ごとの径方向の座標値を算出する。
図7(a)は、円筒座標系の空間にランダムに配置される測定点66を模式的に示す図である。各測定点66の座標値は、測定器20がスキャンするレーザ22の仰角ψ、方位角θ、測定器20からの距離Lにより定められるため、円筒座標系において無作為な位置に配置される。このため、各測定点66の座標値のままでは、基準形状データや過去に計測した三次元形状データとの間で座標位置のずれが生じ、座標値の比較が困難となる。そこで、規格化部46は、各測定点66の座標値を規格化し、基準形状データや過去データとの比較が容易なデータに加工する。
【0032】
図7(b)は、等間隔に配置されたデータ格納点68ごとに径方向の座標値を算出する様子を模式的に示す図であり、z−θ平面上に各測定点66および各データ格納点68を配置した様子を示している。データ格納点68は、z軸方向およびθ軸方向に等間隔に配置される。各データ格納点68の配置は、検査にて必要とする位置精度によって決められ、例えば、z軸方向が25mm、θ方向が0.5度の間隔となるように設定される。各データ格納点68における径方向(R方向)の座標値は、データ格納点68の近傍に位置する複数の測定点66の径方向の座標値を平均化することにより算出される。規格化部46は、例えば、データ格納点68を囲む枠67の内側にある測定点66の径方向の座標の平均値を算出することにより、データ格納点68の径方向の座標値を決定する。これにより、円筒座標系の格子点ごとに径方向の座標値が格納された規格化データに変換できる。できあがった規格化データは、記憶部36に保存される。
【0033】
減肉量管理部48は、規格化部46により生成された規格化データと、基準形状データまたは過去の測定結果に基づく規格化データとを比較して、炉内壁面72の変形量または減肉量を求める。
図8は、炉内壁面72の減肉量をマップ化した等高線図(コンタ図)の一例を示し、炉内壁面72の全周にわたる等高線図の例を示す。減肉量管理部48は、規格化部46が生成した規格化データに含まれる多数のデータ格納点ごとに、径方向の座標の差分値を算出する。表示部34は、減肉量管理部48が算出したデータ格納点ごとの差分値をマップ化し、
図8に示すような等高線図を表示させる。これにより、炉内壁面72の変形量または減肉量を全周にわたって連続的に把握することができる。
【0034】
減肉量管理部48は、
図8に示す等高線図を介して、減肉量または変形量を監視すべき管理ポイント85や管理領域86の指定を受け付けてもよい。管理ポイント85として、例えば、定点観測をすべき複数の場所がz方向およびθ方向に所定の間隔で指定される。また、管理領域86として、他の領域と比べて減肉量または変形量が大きい領域が指定される。指定された管理ポイント85および管理領域86の位置は、記憶部36に保持される。このような管理ポイント85および管理領域86を指定することで、定期検査において監視すべき箇所を容易に特定することができる。また、今回の計測にて新たに管理ポイント85または管理領域86として指定した箇所について、過去の測定結果に基づく規格化データを参照することで、新たに指定した箇所の減肉量または変形量の推移を事後的に検証することもできる。
【0035】
つづいて、本実施の形態に係る容器内検査方法の流れを説明する。
図9は、容器内検査方法の流れを示すフローチャートである。廃液燃焼炉70の内部の所定の測定位置に測定器20を配置し(S10)、測定器20による三次元レーザスキャンをして炉内壁面72上の多数点の座標値を測定する(S12)。解析装置30は、測定器20が測定した多数点の座標値を用いて測定器20の位置を基準とする三次元形状データを構築し(S14)、構築した三次元形状データを基準座標軸を基準とする三次元形状データに座標変換する(S16)。さらに、軸方向および周方向に等間隔に配置されたデータ格納点ごとの径方向の座標値を算出してデータを規格化し(S18)、規格化したデータを比較することにより、減肉量または変形量を表す径方向の差分値をマップ化する(S20)。
【0036】
本実施の形態によれば、測定器20の測定位置および向きが中心軸からずれていたとしても、測定後のデータ処理によって座標軸の補正が可能であるため、測定器20の測定位置を精度良く決める必要がない。その結果、測定器20の位置決めや固定にかかる労力を低減させることができる。具体的には、炉内壁面72の上に載置される取付治具26から金属パイプなどの固定治具28を延ばすだけの簡易な構造を用いて、測定器20の位置精度を気にすることなく測定器20を配置できる。したがって、本実施の形態によれば、測定器20の設置および撤去にかかる時間やコストを低減させることができる。
【0037】
本実施の形態によれば、測定器20の測定位置を固定したまま三次元レーザスキャンすることにより炉内壁面72のほぼ全面の座標値を取得できる。そのため、測定器を鉛直方向に移動させたり周方向に回転させながら計測を行う場合と比べて、計測にかかる時間を大幅に短縮化できる。したがって、炉の運転を停止させて測定するためにかかる全体での検査時間を短くできる。これにより、検査実施のために炉の稼働率が低下してしまう影響を極力小さくすることができる。
【0038】
本実施の形態によれば、三次元レーザスキャンによって炉内壁面72の全面を連続的に測定することができるため、炉内壁面72の減肉量または変形量を全面にわたって連続的に検査できる。したがって、局所的な減肉ないし変形が生じている場合であっても、そのような箇所が測定対象とならずに見逃されてしまうことを防ぐことができる。これにより、炉内検査によって異常を検知する確実性を高めることができる。
【0039】
本実施の形態によれば、測定したデータが所定間隔の格子点に対応するデータ格納点ごとに整列されて規格化されるため、定期検査によって蓄積されていくデータ同士を容易に比較できる。また、炉内壁面72の全面にわたる規格化データが蓄積されていくため、新しく検査をした際に新たに異常が検知された箇所について、過去データを参照して減肉量または変形量の推移を容易に把握できる。したがって、検査すべきポイントを絞って計測を行う検査手法では検査対象とされないような想定外のポイントに過度な損耗が生じるような場合であっても、過度な損耗が生じた箇所の推移を事後的に把握して、必要な対策を取ることができる。
【0040】
(変形例1)
図10は、変形例に係る炉内検査の様子を模式的に示す図である。本変形例では、ガス化炉170を検査対象としている。ガス化炉170は、石炭スラリーや製油所から派生するアスファルトやコークス等を1200℃〜1500℃の高温・高圧下で燃焼させて、一酸化炭素や水素の合成ガスを生成するための竪型燃焼炉である。
【0041】
ガス化炉170は、第1チャンバ部173と第2チャンバ部177を備え、第1チャンバ部173と第2チャンバ部177の間に狭小部175が設けられる。本変形例では、ガス化炉170の炉内壁面の全体を一つの測定位置から検査するのではなく、複数の測定位置121〜126において検査することで、複雑な形状を有する炉の内部を効果的に検査できるようにする。以下、上述の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0042】
ガス化炉170は、上端部171と、ドーム部172と、第1チャンバ部173と、第1絞り部174と、狭小部175と、第2絞り部176と、第2チャンバ部177と、接続管178と、下端部179とを有する。第1チャンバ部173および第2チャンバ部177は、相対的に径方向の幅が大きい空間であり、狭小部175は、第1チャンバ部173や第2チャンバ部177と比べて径方向の幅が小さい空間である。第1絞り部174は、第1チャンバ部173と狭小部175の間をつなぐように鉛直下方に向けて径方向の幅が徐々に小さくなる接続部である。第2絞り部176は、狭小部175と第2チャンバ部177をつなぐように鉛直下方に向けて径方向の幅が徐々に大きくなる接続部である。接続管178は、第2チャンバ部177から径方向に延びる配管である。
【0043】
測定器20は、軸方向に位置の異なる複数の測定位置121〜126に配置される。第1測定位置121は、ドーム部172付近に設けられ、第2測定位置122は、第1チャンバ部173の中央付近に設けられ、第3測定位置123は、第1絞り部174付近に設けられ、第4測定位置124は、第2絞り部176付近に設けられる。第5測定位置125は、第2チャンバ部177の中央もしくは下方付近に設けられ、第6測定位置126は、ガス化炉170の外側であって下端部179の鉛直下方の位置に設けられる。第1測定位置121〜第4測定位置124のそれぞれには、例えば、上端部171に取り付けた取付治具26から軸方向に延ばした固定治具28を用いて測定器20が配置される。第5測定位置125には、例えば、下端部179から鉛直上方に延ばした固定治具を用いて測定器20が配置される。
【0044】
このとき、測定器20が配置される測定位置として、径方向の幅が相対的に小さい狭小部175の位置を避けることが望ましい。レーザにより距離を計測する測定器20には、適切な距離測定のための最低距離が一般に定められており、測定器20を狭小部175に配置すると、測定器20から炉内壁面までの距離が最低距離を下回るおそれが生じる。そうすると、炉内壁面までの距離が短い範囲において計測不能となってしまう。一方で、測定器20を狭小部175から軸方向に離れた位置に配置すれば、狭小部175の炉内壁面に向けて斜め方向にレーザを照射できるため、測定対象とする炉内壁面までの距離を取ることができる。これにより、測定不能となる範囲が生じるのを防ぐことができる。
【0045】
解析装置30は、複数の測定位置121〜126のそれぞれにて測定された多数点の座標値を用いて、ガス化炉170の炉内壁面全体の規格化データを生成する。立体形状構築部42は、複数の測定位置121〜126のそれぞれを原点とする複数の三次元形状データを構築する。座標変換部44は、ガス化炉170の炉内壁面の基準形状データを参照し、複数の三次元形状データを基準座標軸を基準としたデータに座標変換する。
【0046】
座標変換部44は、ガス化炉170の基準形状データに定められる複数の特徴形状181〜185の位置に基づいて、複数の三次元形状データを基準形状データに位置合わせする。第1測定位置121に基づく三次元形状データは、例えば、ドーム部172と第1チャンバ部173の境界部分の第1特徴形状181を用いて位置合わせされる。第2測定位置122に基づく三次元形状データは、例えば、第1チャンバ部173と第1絞り部174の境界部分の第2特徴形状182を用いて位置合わせされる。第3測定位置123および第4測定位置124に基づく三次元形状データは、狭小部175との境界部分である第3特徴形状183や第4特徴形状184を用いて位置合わせされる。また、第5測定位置125および第6測定位置126に基づく三次元形状データは、下端部179付近の第5特徴形状185を用いて位置合わせされる。なお、位置合わせのための特徴形状として、接続管178を利用してもよい。
【0047】
規格化部46は、基準座標軸を基準とした複数の三次元形状データを軸方向につなぎ合わせるとともに、軸方向および周方向に配列されたデータ格納点ごとに径方向の座標値を算出して、炉内壁面全体の規格化データを生成する。規格化部46は、複数の三次元形状データを統合してから規格化処理を行ってもよいし、複数の三次元形状データのそれぞれに対して規格化処理を行ってから複数の規格化データを統合してもよい。減肉量管理部48は、規格化部46が生成したガス化炉170の炉内壁面全体の形状を示す規格化データを用いて、炉内壁面の変形量または減肉量を可視化する。
【0048】
本変形例によれば、複数の測定位置のそれぞれにて計測される多数点の座標値を用いることで、軸方向に長い複雑な形状を有するガス化炉170の炉内壁面の全体プロフィールを把握できる。また、計測後に基準形状データへの位置合わせを行うため、それぞれの測定位置や向きにずれがある場合であっても、計測後にそのずれを補正して一つの規格化データに統合することができる。
【0049】
本変形例によれば、径方向の幅が小さい狭小部を避けて測定位置を設定することで、測定器20の測定可能範囲の下限値よりも径方向の距離が小さい箇所があったとしても適切に炉内壁面のプロフィールを測定することができる。また、狭小部からずれた位置を測定位置とすることで、狭小部との境界部分に位置する特徴形状を測定範囲に含めることができ、基準形状データとの位置合わせや、複数の三次元形状データのつなぎ合わせを容易にできる。これにより、複数の三次元形状データを軸方向につなぎ合わせるときに生じる位置ずれを抑制して、炉内壁面全体としての測定精度を高めることができる。
【0050】
(変形例2)
図11(a)〜(c)は、測定器20を炉内の測定位置に配置する様子を模式的に示す鉛直断面図である。本変形例では、ガス化炉270を検査対象としている。ガス化炉270は、上述のガス化炉170と同様、石炭スラリーや製油所から派生するアスファルトやコークス等を1200℃〜1500℃の高温・高圧下で燃焼させて、一酸化炭素や水素の合成ガスを生成するための竪型燃焼炉である。本変形例では、このようなガス化炉270の内壁面を検査するための炉内検査方法について示す。
【0051】
ガス化炉270は、バーナー取付用ノズル274と、チャンバ部276と、ボトム開口部278とを有する。ガス化炉270の上端に設けられるバーナー取付用ノズル274は開口部が小さいため、測定器20をバーナー取付用ノズル274から炉内に搬入することができない。そこで、本変形例では、測定器20をボトム開口部278から搬入して炉内の測定位置に配置する。
【0052】
測定器20は、固定治具228に固定される。固定治具228は、
図11(a)に示すように、複数の治具パイプ228a〜228jにより構成される。本変形例では、固定治具228が10本の治具パイプ228a〜228jにより構成される場合を示す。複数の治具パイプ228a〜228jは、バーナー取付用ノズル274に挿通されて直列的に接続される。固定治具228は、その先端がボトム開口部278から下方に突出する長さとなる本数の治具パイプにより構成される。ボトム開口部278から炉外に突出する第1パイプ228aには、測定器20が取り付けられる。
【0053】
第1パイプ228aに測定器20を取り付けた後、固定治具228を軸方向に引き上げながら固定治具228を短くしていく。まず、
図11(b)に示すように、第10パイプ228jが完全にガス化炉270の外に出るまで引き出された後、第10パイプ228jが固定治具228から取り外される。つづいて、固定治具228を軸方向にさらに引き上げることで、第9パイプ228iが固定治具228から取り外される。このようにして、順に必要な数のパイプが取り外されて、
図11(c)に示すように、測定器20を炉内の中心付近に配置するのに必要な数の治具パイプ228a〜228eが残される。
図11(c)の状態で上端に位置する第5パイプ228eは、バーナー取付用ノズル274の上に配置される取付治具などに固定される。
【0054】
本変形例によれば、バーナー取付用ノズル274の開口が小さいガス化炉270であっても、測定器20を上から吊り下げて固定できるため、測定器20の配置に必要な治具を簡素化できる。仮に、測定器20を設置するための治具をボトム開口部278から上方に向けて組み立てなければならないとすると、治具の規模が大きくなるとともに設置に要する工数も大きくなる。また、高所での設置作業が必要となるため、作業員の安全面にも配慮する必要がある。本変形例によれば、ガス化炉270の上部にバーナー取付用ノズルなどの内径寸法が小さい開口しかない場合であっても、簡素な固定治具を用いて測定器20を所望の測定位置に配置できる。
【0055】
(変形例3)
図12は、変形例に係る解析装置30の構成を示すブロック図である。本変形例に係る解析装置30は、配管解析部50をさらに含む。配管解析部50は、中心座標特定部52と、湾曲量算出部54とを有する。配管解析部50は、炉内に設置される配管の外表面の三次元座標を解析して、配管の湾曲度を算出する。
【0056】
図13は、配管90の外表面を測定する様子を模式的に示す図である。測定器20は、炉内でz軸方向に延びる配管90の外表面に向けてレーザ22をスキャンして、外表面上の多数の測定点24の座標値を取得する。配管90の座標位置は、上述した炉内壁面の計測と同時になされてもよいし、炉内壁面の計測とは別になされてもよい。
【0057】
図14は、配管90の中心92の座標を算出する様子を模式的に示す断面図である。図示されるように、測定器20から照射されるレーザ22は、配管90の外表面のうち測定器20と対向する一部範囲のみに照射される。その結果、測定器20は、配管90の外表面のうち測定器20と対向する範囲の測定点24について座標値を取得する。中心座標特定部52は、配管90の長手方向(z軸方向)の座標値が同じである複数の測定点24を通る円の関数を導出し、その円の関数から中心92の座標値を算出する。この円の関数は、配管90の断面形状を近似する関数である。中心座標特定部52は、z軸方向の位置が異なる複数の測定点24に対して円関数のフィッティングを行うことで、異なるz軸方向の位置ごとに中心92の座標を算出する。
【0058】
図15は、配管90の湾曲量を可視化したグラフの一例を示す。湾曲量算出部54は、中心座標特定部52が算出したz軸方向の異なる位置ごとの中心92の座標値をグラフ化する。湾曲量算出部54は、例えば、配管90の下端における中心92の座標値を基準として、その座標値との径方向の位置のずれを湾曲量として算出してグラフ化する。これにより、配管90の湾曲量および湾曲の形状を可視化して、配管90の補修や交換といったメンテナンスの必要性を判断できるようにする。
【0059】
本変形例によれば、三次元レーザスキャンを利用して炉内に配置される配管の湾曲量を算出できる。配管の湾曲量を計測するための従来の方法では、炉内に足場を設置し、ピアノ線を用いた下げ振りによって湾曲量が計測されていた。そのため、ピアノ線の下げ振りの状態やピアノ線と配管との距離の計測の仕方などによって、計測精度や計測の再現性に難点がある場合があった。一方、本変形例によれば、配管90の断面における中心92の三次元座標を推定できるため、配管90の湾曲量を三次元的に求めることができる。これにより、湾曲量の計測精度を高めて、検査の確実性を向上させることができる。
【0060】
なお、本変形例に係る湾曲量の算出方法は、炉内に設置される配管のみならず、炉外に設置される配管に適用してもよい。また、z軸方向に配設される配管のみならず、任意の方向に延在する配管に対して適用してもよい。その場合、配管の長手方向がz軸方向となるように座標変換を施して、z軸方向の異なる位置における管断面の中心座標を算出すればよい。
【0061】
(変形例4)
図16は、基準座標軸を基準とした三次元形状データから生成される炉内壁面の画像の一例を示す。本図に示す画像は、測定器20を用いて計測した規格化される前の三次元形状データから生成できる。三次元レーザ計測器である測定器20は、短時間に大量の測定点の三次元座標を取得できるとともに、各測定点の照度の違いを利用して測定対象の色情報を取得することも可能である。本図は、三次元レーザ計測器のこのような機能を利用して生成することができる。図示されるように、規格化される前の生データを画像化することにより、炉内壁面をカメラで撮影したような画像を生成することができる。このような画像を生成することにより、目視検査の代わりとして、この画像を使用できる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0063】
上述の実施の形態および変形例では、廃液燃焼炉およびガス化炉の炉内壁面を測定対象とする場合を示した。さらなる変形例においては、コークドラムといった反応容器の内壁面の検査に本手法を適用してもよい。コークドラムは、重質油を熱分解してコークスを生成するための反応容器であり、上述した廃液燃焼炉やガス化炉などの竪型燃焼炉とは異なり、コークドラムの内壁面には耐火材が被覆されていない。しかしながら、熱分解のために500℃程度の温度に加熱する工程と、冷却水を注入して固化させたコークスを取り出す工程とが繰り返し行われるため、経年使用に伴う熱負荷の蓄積によって、鉄皮にバルジング変形が生じたり、鉄皮の周溶接線に熱疲労割れが生じたりしうる。本手法による検査方法を適用することで、コークドラム内壁面の変形や割れなどの有無を好適に検査することができる。
【0064】
また、さらなる変形例においては、鉄鉱石から銑鉄を生成するための高炉や、廃棄物等をガス化溶融させるためのシャフト炉、各種産業(製鐵、石油化学、製紙、製薬などを含む)のプラントにてなされる燃焼反応等に用いられる燃焼炉といった異なる種類の炉の内壁面の検査に本手法を適用してもよい。また、廃液燃焼炉、ガス化炉といった竪型燃焼炉以外にも、横型反応容器や、キルン等の横型燃焼炉の内壁面の検査に本手法を適用してもよい。
【0065】
本明細書において、「容器」とは、燃焼炉をはじめとする内壁面に耐火物が被覆される「炉」と、コークドラムをはじめとする内壁面に耐火物が被覆されない「反応容器」の双方を含むものとする。したがって、「容器内壁面」には、「炉内壁面」および「反応容器の内壁面」の双方が含まれ、「容器内検査」とは、「炉内検査」が含まれるものとする。また、上述の実施の形態および変形例にて示した「炉内検査」が「容器内検査」に適用可能であり、変形例にて示した「容器内検査」が「炉内検査」に適用可能であることは当業者であれば容易に理解されよう。