【実施例】
【0036】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
【0037】
また、実施例に使用した酸処理アセチル化澱粉および酸処理ヒドロキシプロピル化澱粉は、それぞれ以下の試験例により得られたものを用いた。なお、試験例の説明において、特に断りの無い場合、「部」とは「質量部」である。
【0038】
(RVAによる粘度の測定方法)
(1)澱粉試料を、水分計(研精工業社製、電磁水分計:型番MX50)を用いて、130℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から無水物質量を算出した。
(2)専用のアルミニウム容器中で澱粉試料と水とを混合し、スラリーを調製した。この際、水20gに対し、スラリー中の澱粉試料が無水物換算で40質量%となるように澱粉試料を混合した。専用のパドルを入れ、RVA(ニューポート サイエンティフィック社製;型番RVA4)にセットし、160rpmにて撹拌しながら40℃で1分間撹拌した後、40℃から95℃まで6℃/分の昇温速度で加熱し、その後95℃で10分間維持した時点の粘度を読み取り、試料の粘度とした。
【0039】
(アセチル基含量の定量方法)
(1)澱粉試料を水分計(研精工業社製、電磁水分計:型番MX50)を用いて、130℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から無水物質量を算出した。
(2)無水物換算で5gの澱粉試料に水50mLおよび数滴の1.0w/v%フェノールフタレインエタノール溶液を加えた。
(3)0.1N水酸化ナトリウム水溶液を液が赤色になるまで加えた後、0.45N水酸化ナトリウム水溶液25mLを加え、室温で30分間激しく撹拌した。
(4)0.2N塩酸にて液の赤色が消失するまで滴定し、滴定値A(mL)を求めた。
(5)ブランクとして25mLの0.45N水酸化ナトリウム水溶液を同様に0.2N塩酸にて液の赤色が消失するまで滴定し、滴定値B(mL)を求めた。
(6)アセチル基含量(質量%:以下単に「%」ともいう。)は次式より算定した。
アセチル基含量(質量%)=[(滴定値B−滴定値A)×塩酸規定度×0.043×100]÷試料無水物換算質量(g)
【0040】
(ヒドロキシプロピル基含量の定量方法)
(1)澱粉試料を水分計(研精工業社製、電磁水分計:型番MX50)を用いて、130℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から無水物質量を算出した。
(2)無水物換算で0.1gの澱粉試料に1N硫酸水溶液25mLを加えて、湯浴中で澱粉を溶解した。冷却後、蒸留水で100mLに定容し試料液とした。ヒドロキシプロピル基含量が高い場合は、必要に応じて試料液を希釈した。
(3)試料液1mLを試験管に量り、冷水で冷却しながら濃硫酸8mLを滴下した。
(4)十分に撹拌した後、湯浴中で3分間加熱し、直ちに氷水中で冷却した。
(5)ニンヒドリン1.5gを5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液に溶解し、50mLに定容した試薬0.6mLを加え、25℃水浴中で100分間反応させた。
(6)濃硫酸で全量を25mLとしたものを検液とし、5分後に590nmの吸光度を測定した。
(7)ブランクとして、同じ植物源の未加工澱粉を試料と同様の操作をおこない、吸光度を測定した。
(8)標準液として、プロピレングリコールの10、20、30、40、50μg/mL水溶液を試料液と同様の操作をおこなって吸光度を測定し、標準液の吸光度から検量線を作成した。
(9)検量線から検液中のプロピレングリコール濃度を求めた。
(10)ヒドロキシプロピル基含量(質量%:以下単に「%」ともいう。)は次式より算定した。
ヒドロキシプロピル基含量(質量%)
=(検液中のプロピレングリコール濃度(μg/mL)×0.7763×希釈率)/試料無水物換算質量(g)×100
【0041】
(試験例1)アセチル基含量を変えた酸処理アセチル化タピオカ澱粉の製造
タピオカ澱粉(水分13%)200部に水300部を加えて懸濁液とした。これに19%塩酸水溶液34部(無水物換算澱粉質量に対する塩酸濃度;3.72%)を攪拌しながら加えて、40℃で24時間反応させた。反応後、澱粉を洗浄、ろ過により回収した後、乾燥し酸処理タピオカ澱粉を得た。この酸処理タピオカ澱粉200部に水275部を加えて懸濁液とした。3%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.4とした後、酢酸ビニルモノマーを3〜12部の範囲で加えて1時間反応させた。反応中の懸濁液のpHは、pHコントローラーにより8.4に維持した。反応後、3%塩酸水溶液でpH6に中和した。澱粉を洗浄、ろ過により回収した後、乾燥し酸処理アセチル化タピオカ澱粉AA−1〜AA−3を得た(表1)。
【0042】
【表1】
【0043】
(試験例2)酸処理程度を変えた酸処理アセチル化タピオカ澱粉の製造
タピオカ澱粉(水分13%)200部に水300部を加えて懸濁液とした。これに19%塩酸水溶液34部(無水物換算澱粉質量に対する塩酸濃度;3.72%)を攪拌しながら加えて、40℃で6時間および48時間反応させた。反応後、澱粉を洗浄、ろ過により回収した後、乾燥し酸処理程度を変えたタピオカ澱粉を得た。これらの酸処理タピオカ澱粉200部に水275部を加えて懸濁液とした。3%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.4とした後、酢酸ビニルモノマーを9部加えて1時間反応させた。反応中の懸濁液のpHは、pHコントローラーにより8.4に維持した。反応後、3%塩酸水溶液でpH6に中和した。澱粉を洗浄、ろ過により回収した後、乾燥し酸処理アセチル化タピオカ澱粉AA−4およびAA−5を得た(表2)。
【0044】
【表2】
【0045】
(試験例3)
ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉(株式会社J−オイルミルズ社製)を使用して、試験例1の方法に準じて酸処理をおこない、酸処理ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉を得た(ヒドロキシプロピル基含量2.5%、粘度450cP)。
【0046】
(試験例4)酸処理アセチル化ワキシーコーン澱粉の製造
ワキシーコーン澱粉(株式会社J−オイルミルズ社製)を使用して、試験例1のAA−2の製造方法に準じて酸処理アセチル化ワキシーコーン澱粉を得た(アセチル基含量1.8%、粘度282cP)。
【0047】
(試験例5)酸処理アセチル化馬鈴薯澱粉の製造
馬鈴薯澱粉(株式会社J−オイルミルズ社製)を使用して、試験例1のAA−2の製造方法に準じて酸処理アセチル化馬鈴薯澱粉を得た(アセチル基含量1.8%、粘度1317cP)。
【0048】
(試験例6)酸処理アセチル化コーン澱粉の製造
コーン澱粉(株式会社J−オイルミルズ社製)を使用して、試験例1のAA−2の製造方法に準じて酸処理アセチル化コーン澱粉を得た(アセチル基含量1.8%、粘度1813cP)。
【0049】
(実施例1〜8、比較例1〜8)
表3に示す配合で澱粉試料、薄力粉および他の原材料を混合して衣材を調製した。澱粉試料として、試験例1または3〜6で得られた澱粉、未加工澱粉、あるいは各加工澱粉を用いた。なお、比較例1では、表3の澱粉試料20質量部にかえて薄力粉20質量部を用いた。また、比較例2〜8で使用した澱粉は、いずれも株式会社J−オイルミルズ社製のものである。
調製した衣材100質量部に対して冷水120質量部を加えてバッターを調製した。このバッターを用いてサツマイモを種として170℃の菜種油中にて6分間フライし、イモ天ぷらを得た。
【0050】
【表3】
【0051】
得られたイモ天ぷらのフライ1時間後(フライ直後)および4時間後の食感評価をおこなった。食感評価は、5名のパネルによりおこなった。「衣の硬さ」「衣のサクミ」「衣のドライ感」「衣の口溶け」および「総合評価」の項目について以下に示す5段階で評価をおこない、平均値を評価点とした。これらの評価点がすべて2.5点以上となる衣が、「衣の硬さ」「衣のサクミ」「衣のドライ感」「衣の口溶け」のバランスに優れた衣とした。
結果を表4に示す。
【0052】
(衣の硬さ)
5:とても硬い
4:硬い
3:少し硬い
2:あまり硬さを感じない
1:ほとんど硬さを感じられない
【0053】
(衣のサクミ)
5:サクサク感が強い
4:適度にサクサク感がある
3:少しサクサク感がある
2:サクサク感があまりなく、ひきがある
1:サクサク感がほとんどなく、ひきが強い
【0054】
(衣のドライ感)
5:カラッとしている
4:適度にカラッとしている
3:少しカラッとしている
2:少しベチャついている
1:ベチャついている
【0055】
(衣の口溶け)
5:とても良好
4:良好
3:やや良好
2:やや不良
1:不良
【0056】
(総合評価)
5:非常に好ましい食感
4:好ましい食感
3:やや好ましい食感
2:あまり好ましくない食感
1:好ましくない食感
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示すように、薄力粉のみを用いた比較例1ではフライ直後の時点でも衣の硬さやサクミ、ドライ感、口溶けが好ましくなく、フライ4時間後の評価ではさらに食感が悪くなった。
【0059】
また未加工のタピオカ澱粉やアセチル化またはヒドロキシプロピル化のみの加工を施した加工タピオカ澱粉を配合した比較例2〜4でも、同様に衣の硬さやサクミ、ドライ感が十分ではなかった。
酸処理澱粉、酸化アセチル化澱粉、リン酸架橋澱粉、ならびに、酸化アセチル化澱粉およびリン架橋タピオカ澱粉を1:1で混合したものを用いた比較例5〜8では、フライ直後の食感が比較例1よりは改善されるものの十分とはいえなかった。また、4時間後には衣が硬い一方、サクミ、ドライ感、口溶けが悪いなど、食感のバランスが悪いため、ぼそぼそとして引きがある好ましくない食感になった。
【0060】
一方、酸処理アセチル化タピオカ澱粉および酸処理ヒドロキシプロピル化タピオカ澱粉を用いた実施例1および2では、フライ直後の衣の硬さ、サクミ、ドライ感および口溶けのバランスに優れ、4時間後も良好な食感を有していた。
澱粉種を変えた実施例3〜5や、酸処理澱粉またはリン酸架橋澱粉と併用した実施例6〜8においても、良好なサクミおよび食感のバランスを有しており、保存後の劣化も抑制されていた。また、酸処理澱粉またはリン酸架橋澱粉を併用することで、特にフライ4時間後の食感のバランスが向上することが判った。
【0061】
(実施例9〜13)
澱粉試料として試験例1で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−2を用い、表3に示す配合において、澱粉試料および薄力粉について、澱粉試料を5〜80部、薄力粉を10〜85部と変更した。この他の原材料については実施例1の配合で混合して衣材を調製した。調製した衣材100質量部に対して冷水120質量部を加えてバッターを調製した。このバッターを用いてサツマイモを種として170℃の菜種油中にて6分間フライし、イモ天ぷらを得た。食感評価は、実施例1〜8に準じておこなった。結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5より、実施例9〜13の割合で澱粉試料と薄力粉とを混合した場合においても、フライ直後および保存後の食感のバランスに優れていた。
【0064】
また、実施例1、11、12および比較例1のイモ天ぷらについて、フライ1時間後にチャック付のポリエチレン袋に入れて密封後、−20℃の冷凍庫で3週間冷凍保管した。室温で解凍した後、食感評価をおこなった(室温解凍)。また、同様に冷凍保管した後、イモ天ぷら3つをマイクロ波(出力500W)で2分間加熱して解凍し、食感評価をおこなった(マイクロ波解凍)。解凍後の評価結果を表4および5に示したフライ直後の評価結果とともに表6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
表6に示すように、薄力粉のみを使用した比較例1では、冷凍後に室温で解凍すると硬さやサクミが無く、ドライ感の無いベチャっとした食感となった。また、マイクロ波加熱で解凍した場合にも、衣の硬さやドライ感に劣る歯応えの無い食感となった。一方、実施例1、11および12では、いずれも、室温で解凍しても硬さ、サクミ、ドライ感、口溶けのバランスに優れた良好な食感であった。また、マイクロ波加熱による解凍の後でも同様に良好な食感であった。
【0067】
(実施例14および15)
澱粉試料として試験例1で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−1〜AA−3を用い、表3に示す配合で澱粉試料と他の原材料とを混合して衣材を調製した。調製した衣材100質量部に対して冷水120質量部を加えてバッターを調製した。このバッターを用いてサツマイモを種として170℃の菜種油中にて6分間フライし、イモ天ぷらを得た。食感評価は、実施例1に準じておこなった。結果を表7に示す。
【0068】
【表7】
【0069】
表7より、アセチル基含量を変更した実施例14および15においても良好な食感を示し、アセチル基含量1.8%以上で保存後の食感のバランスにさらに優れていた。
【0070】
(実施例16および17)
澱粉試料として試験例1および2で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−2、4または5を用い、表3に示す配合で澱粉試料と他の原材料とを混合して衣材を調製した。調製した衣材100質量部に対して冷水120質量部を加えてバッターを調製した。このバッターを用いてサツマイモを種として170℃の菜種油中にて6分間フライし、イモ天ぷらを得た。食感評価は、実施例1に準じて実施した。結果を表8に示す。
【0071】
【表8】
【0072】
表8より、実施例1で用いた酸処理アセチル化澱粉とアセチル基含量が同じで粘度の異なる酸処理アセチル化澱粉を用いた実施例16および17においても、良好な食感を示した。
【0073】
(実施例18、比較例9)
表9に示す配合で、薄力粉と試験例1で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−2と他の原材料とを混合して衣材を調製した。調製した衣材100質量部に対して冷水120質量部を加えてバッターを調製した。このバッターを用いて、調味料で下味をつけた鶏モモ肉(15g/個)を種として170℃の菜種油中にて3分間フライし、鶏唐揚げを得た(実施例18)。また、酸処理アセチル化澱粉AA−2の代わりに、薄力粉を使用したものを比較例9とした。これらの鶏唐揚げのフライ1時間後(フライ直後)、フライ4時間後、および、フライ4時間後に鶏唐揚げ3個を500Wのマイクロ波で1分間再加熱した後(マイクロ波再加熱)の食感評価をおこなった。食感評価は、フライ直後およびフライ4時間後について4名のパネルで官能評価をおこない、マイクロ波再加熱後について3名のパネルで官能評価をおこなった。評価項目については実施例1に準じた。結果を表10に示す。
【0074】
【表9】
【0075】
【表10】
【0076】
表10に示す通り、薄力粉のみを用いた比較例9の唐揚げの衣は、フライ直後においても硬さ、サクミおよびドライ感に欠けた噛み応えの弱い衣であった。フライ4時間後にはさらにサクミやドライ感が低下しており、マイクロ波再加熱後も食感は優れなかった。一方、澱粉試料として酸処理アセチル化澱粉AA−2を用いた実施例18の唐揚げの衣は、フライ直後の硬さ、サクミ、ドライ感および口溶けに優れたバランスの良い食感の衣であった。さらに、フライ4時間後も良好であり、マイクロ波再加熱後であっても良好な食感を維持していた。
【0077】
(実施例19、比較例10)
調味料で下味をつけた鶏モモ肉(15g/個)に試験例1で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−2と馬鈴薯澱粉とを1:1(質量比)で混合した衣材を打ち粉として付着させた。得られた鶏モモ肉を170℃の菜種油中にて3分間フライし、鶏の竜田揚げを得た(実施例19)。また、実施例19の衣材を馬鈴薯澱粉のみとした他は実施例19に準じた方法で作成した鶏の竜田揚げを比較例10とした。これらの鶏の竜田揚げのフライ1時間後(フライ直後)、フライ4時間後、および、フライ4時間後に鶏の竜田揚げ3個を500Wのマイクロ波で1分間再加熱した後(マイクロ波再加熱)の食感評価をおこなった。食感評価は、実施例18に準じて実施した。結果を表11に示す。
【0078】
【表11】
【0079】
実施例19の鶏の竜田揚げの衣は、硬さ、サクミ、ドライ感および口溶けに優れ、フライ4時間後およびマイクロ波再加熱後も良好な食感であった。
【0080】
(実施例20、比較例11)
鶏モモ肉(30g/個)300質量部に、表12に示す配合で、薄力粉と試験例1で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−2により構成される衣材と他の原材料とを混合して調製したバッターをよく絡めた。その後、表面に薄く薄力粉をまぶし、スチームコンベクションオーブンで180℃、13分間過熱水蒸気にて加熱し、鶏唐揚げ様食品を得た(実施例20)。また、酸処理アセチル化澱粉AA−2の代わりに薄力粉を使用したものを比較例11とした。
【0081】
【表12】
【0082】
薄力粉のみを使用した比較例11の鶏唐揚げ様食品の衣は、硬いがひきが強くて口溶けが悪く、好ましくない食感であった。一方、実施例20の鶏唐揚げ様食品の衣は、硬さ、サクミ、ドライ感および口溶けの良い良好な食感であった。
【0083】
(実施例21、比較例12)
鶏モモ肉(30g/個)300質量部に、表13に示す配合で、薄力粉および試験例1で得られた酸処理アセチル化澱粉AA−2から構成される衣材と、他の原材料とを混合して調製したバッターをよく絡めた。その後、表面に薄く薄力粉をまぶして、マイクロ波(出力500W)で4分間加熱し、鶏唐揚げ様食品を得た(実施例21)。また、酸処理アセチル化澱粉AA−2の代わりに薄力粉を使用したものを比較例12とした。
【0084】
【表13】
【0085】
比較例12の鶏唐揚げ様食品の衣は軟らかく、べたついた好ましくない食感であった。一方、実施例21の鶏唐揚げ様食品の衣は、硬さ、サクミ、ドライ感および口溶けに優れていた。
【0086】
この出願は、2014年4月22日に出願された日本出願特願2014−088318号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。