特許第6482543号(P6482543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6482543バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体及びバイオマスナノ繊維の製造方法並びに同高分子樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6482543
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体及びバイオマスナノ繊維の製造方法並びに同高分子樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/40 20190101AFI20190304BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20190304BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20190304BHJP
   B29K 311/00 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
   B29C47/40 Z
   C08J5/04CEP
   C08J5/04CER
   C08J5/04CEZ
   B29K105:12
   B29K311:00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-521162(P2016-521162)
(86)(22)【出願日】2015年5月22日
(86)【国際出願番号】JP2015064748
(87)【国際公開番号】WO2015178483
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2018年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】附木 貴行
(72)【発明者】
【氏名】西田 治男
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−184816(JP,A)
【文献】 特開2010−167692(JP,A)
【文献】 特開2013−110987(JP,A)
【文献】 特開2008−296569(JP,A)
【文献】 特開2013−208728(JP,A)
【文献】 特開2008−037022(JP,A)
【文献】 特開2010−089483(JP,A)
【文献】 特開2014−095049(JP,A)
【文献】 特開2010−180416(JP,A)
【文献】 特開2011−219571(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/133093(WO,A1)
【文献】 特開2015−65829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 47/00 − 47/96
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径50〜500nmのバイオマスナノ繊維100質量部と、3〜12質量%のポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤50〜200質量部と、高分子樹脂400〜3500質量部からなることを特徴とするバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体。
【請求項2】
請求項1記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体において、前記バイオマスナノ繊維となるバイオマスは、竹、エリアンサス、アブラヤシ、及び麦わらから選ばれる1又は2以上からなることを特徴とするバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体。
【請求項3】
バイオマスを、180〜230℃の過熱水蒸気で加熱処理してバイオマス繊維を得る工程と、
多軸押出機を用い、前記バイオマス繊維に3〜12質量%のポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤を配合し、処理温度が10〜120℃、軸回転速度が50〜150rpmで混練しながら押出して径50〜500nmのバイオマスナノ繊維を得る工程と、
を有することを特徴とするバイオマスナノ繊維の製造方法。
【請求項4】
請求項記載のバイオマスナノ繊維の製造方法により得られる前記バイオマスナノ繊維に高分子樹脂を配合して多軸押出成形機で押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を有することを特徴とする請求項1又は2記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法において、前記高分子樹脂が、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であることを特徴とするバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法において、前記高分子樹脂複合体を形成する前記多軸押出成形機での処理温度が、80〜220℃、処理圧力が50MPa以下、軸回転速度が15〜50rpmであることを特徴とするバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
上流側に解繊部が下流側に溶融混練部がそれぞれ形成された一つの多軸押出成形機を用い、前記解繊部で請求項3記載のバイオマスナノ繊維を得る工程、及び前記溶融混練部でバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造を行う工程を、連続的に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法。
【請求項8】
複数の連結された多軸押出成形機のうちの上流側に位置する多軸押出成形機で、請求項3記載のバイオマスナノ繊維を得る工程を、及び前記複数の連結された多軸押出成形機のうちの下流側に位置する多軸押出成形機で、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を、連続的に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法において、前記多軸押出成形機は二軸押出成形機であることを特徴とする請求項1又は2記載のバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源を利用したバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体及びバイオマスナノ繊維の製造方法並びに同高分子樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源から再生可能な資源への転換が注目されており、特にバイオマス資源への注目度は高く、広く利用されてきている。現在、日本は一次資源のほとんどを輸入に頼っているが、身近なところにも一次資源はあり、その代表的なものとして竹や麦わら等が挙げられる。日本は世界でも有数の森林面積比率を有しているが、価格の安い海外のバイオマスに取って代わられたことに伴う国内生産の激減により、森林や竹林の多くは手入れが行われず、竹に関しては「放置竹林」や「竹公害」が拡大の一歩を辿る。
【0003】
しかし、竹を工業資源という観点からみると、竹は西日本を中心に広く分布しており、その賦存量は膨大であり、しかも成長が速いという特徴を持っている。また、材料の観点からも非常に優れており、プラスチックとの複合材料の研究が盛んに行われ、コンポジット特性の向上も多数報告されている。つまり、工業資源としての利用は竹林の問題に対する有効な解決策となると同時に化石燃料の代替資源としても非常に有効である。
【0004】
CO2固定化の目的でバイオマスファイバーを基に高物性材料の研究開発が行われている。その中でセルロース系ナノコンポジットの開発が急速に進んできている。その基本要素として、高強度、高弾性、低熱膨張のナノ構造繊維に注目が集まっている。このナノ構造繊維では、いかにして、1)ナノ構造繊維を簡便に得ることができるか、2)その機能を失わずかつ機能を大きく発揮しうるものにするか、3)特に有機高分子との複合化など工業的に加工し易いものにするか、4)それら複合化などの加工中にナノ構造繊維としての形態を失わずかつ分散性の高いことを実証するか、などを着眼として開発することが求められている。
【0005】
その中でも、竹、木材パルプ、ケナフなど植物系繊維材料からのセルロース単体とリグノセルロースについてのナノ繊維の製造及び有機高分子との複合材料化については、各種の技術が公表されている。
また、パルプなどの植物繊維を解繊して、ミクロフィブリル化を図ることができる。そして、得られるミクロフィブリルを有する繊維と有機高分子を複合化する技術が検討されている。
【0006】
従来の複合化技術では、グラインダー、ミキサーなどを用いて繊維をナノサイズまで解繊すること、ナノサイズの繊維表面を化学薬品により処理したものとPP、PEなどの汎用樹脂を混合して相溶性向上を図ること、及び成形時に繊維の再凝集を防ぐために表面改質を行うこと、の3段階の工程を必要とする。
【0007】
例えば、次亜塩素酸系の酸化剤を用いることで、ナノ繊維の反発を制御して、分散性の高い繊維を得る技術や(特許文献1)、ミクロフィブリル表面に導入された負の電荷を有するカルボキシル基の存在により、ミクロフィブリル間の反発力を誘引し、分散体中で安定して分散する技術(特許文献2)等が開示されている。
【0008】
しかし、これらの技術は、いずれも上記した3段階の工程を簡略化するものではない。また、得られるミクロフィブリルを有するナノ繊維を高分子樹脂中に高分散して成形することは難しい。
【0009】
これに対して、本発明者らは、アブラヤシ由来の原料を過熱水蒸気で処理してバイオマス粉末を得、さらに、バイオマス粉末に熱可塑性樹脂等のプレポリマーを配合して溶融成形してバイオマス複合成形体を得る技術を開示している(特許文献3)。このとき、50質量%以上が長径1〜500μmの範囲にあるバイオマス粉末が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−1728号公報
【特許文献2】特開2009−293167号公報
【特許文献3】WO2013/076960号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3記載の技術においては、ナノオーダーの寸法のバイオマス粉末を得るまでには至っていない。
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、バイオマス原料からナノオーダーのバイオマスナノ繊維を製造する方法、これを用いた高分子樹脂複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的に沿う第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、径50〜500nmのバイオマスナノ繊維100質量部と、3〜12質量%のポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤50〜200質量部と、高分子樹脂400〜3500質量部からなる
【0013】
【0014】
【0015】
第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体において、前記バイオマスナノ繊維となるバイオマスは、竹、エリアンサス、アブラヤシ、及び麦わらから選ばれる1又は2以上からなるのが好ましい。
【0016】
第2の発明に係るバイオマスナノ繊維の製造方法は、バイオマスを、180〜230℃の過熱水蒸気で加熱処理してバイオマス繊維を得る工程と、多軸押出機を用い、前記バイオマス繊維に3〜12質量%のポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンからなる分散剤を配合し、処理温度が10〜120℃、軸回転速度が50〜150rpmで混練しながら押出して径50〜500nmのバイオマスナノ繊維を得る工程と、を有する。
【0017】
第2の発明に係るバイオマスナノ繊維の製造方法において、前記加熱処理は、180〜230℃の過熱水蒸気で1〜5時間行われるのが好ましい。
【0018】
第2の発明に係るバイオマスナノ繊維の製造方法において、前記バイオマス100質量部に対して、50〜200質量部の前記分散剤を配合するのが好ましい。
【0019】
【0020】
第3の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法であって、第2の発明に係るバイオマスナノ繊維の製造方法により得られる前記バイオマスナノ繊維に高分子樹脂を配合して多軸押出成形機で押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を有する。
【0021】
第3の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法において、前記高分子樹脂が、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であるのが好ましい。
【0022】
【0023】
第3の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法において、前記高分子樹脂複合体を形成する前記多軸押出成形機での処理温度が、80〜220℃、処理圧力が50MPa以下、軸回転速度が15〜50rpmであるのが好ましい。
【0024】
第4の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法であって、上流側に解繊部が下流側に溶融混練部がそれぞれ形成された一つの多軸押出成形機を用い、前記解繊部で第2の発明に係るバイオマスナノ繊維を得る工程、及び前記溶融混練部でバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造を行う工程を、連続的に行う。
【0025】
第5の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法であって、複数の連結された多軸押出成形機のうちの上流側に位置する多軸押出成形機で、第2の発明に係るバイオマスナノ繊維を得る工程を、及び前記複数の連結された多軸押出成形機のうちの下流側に位置する多軸押出成形機で、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を、連続的に行う。
【0026】
第4、第5の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法において、前記多軸押出成形機は二軸押出成形機であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
第1の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、バイオマスナノ繊維と高分子樹脂とを混合して形成されているので、圧縮成形や射出成形によって強度を有する複雑な成形品を得ることができる。
ここで、ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンは相溶性を高める物質として作用する。即ち、バイオマス繊維がいかに強度が高くても、高分子樹脂(例えば、PP)とバイオマス繊維は性質が全く異なるので、その界面には接着性はなく、接着性がないとバイオマス繊維による繊維強化は発揮しない。そこで、適切に界面に相溶性(接着性)を高める相溶化剤は不可欠である。従って、第1の発明においては、通常の高分子樹脂の物性にバイオマス繊維の繊維強化を発現させるために、以上の相溶化剤(即ち、分散剤)が添加されている。
【0028】
また、粉体はその断面径が可視光の波長(370〜780nm)より小さくなると目に見えなくなる。つまり高分子樹脂複合体(樹脂成形品)に透明性が出てくる。また、繊維状のバイオマス繊維の断面径が小さくなると屈曲性を持ち、かつアスペクト比(長さ/断面積の比)が大きくなって、互いに絡まり合いが生じ、これによって高分子樹脂複合体の機械的強度が向上する。
【0029】
第2の発明に係るバイオマスナノ繊維の製造方法は、例えば、竹、エリアンサス、アブラヤシ及び麦わらから選ばれる1又は2以上のバイオマスを過熱水蒸気で加熱処理してバイオマス繊維を得る工程と、多軸押出機を用い、バイオマス繊維にポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンを配合して混練しながら押出してバイオマスナノ繊維を得る工程と、を有するため、ナノサイズのバイオマスナノ繊維を好適に得ることができる。
【0030】
第3の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、上記のバイオマスナノ繊維の製造方法により得られるバイオマスナノ繊維に高分子樹脂を配合して多軸押出成形機で押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を有するため、高分子樹脂中にバイオマスナノ繊維が高分散されて、高い力学的特性を備えるバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を好適に得ることができる。
【0031】
また、第4、第5の発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、一つの又は複数が連結された多軸押出成形機を用い、一つの多軸押出成形機の上流側で又は複数の連結された多軸押出成形機のうちの上流側に位置する多軸押出成形機で、バイオマスナノ繊維を得る工程を、及び一つの多軸押出成形機の下流側で又は複数の連結された多軸押出成形機のうちの下流側に位置する多軸押出成形機で、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を、連続的に行うため、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を効率的なプロセスで得ることができる。また、得られるバイオマスナノ繊維を装置から一旦取り出した後に別の装置で高分子樹脂に配合する場合は配合するバイオマスナノ繊維が凝集する不具合が生じるおそれがあるが、本発明によれば、そのおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実験例及び比較例で使用した二軸押出成形機の概略構成を示す説明図である。
図2】実験例5で得られたバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを液体窒素で固化し、断面をSEMにより鏡査したSEM写真である。
図3】実験例6で得られたバイオマスナノ繊維の凍結乾燥物をFE−SEMにより鏡査したFE−SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
続いて、本発明を具体化した実施例について、図を参照しながら説明する。まず、本発明の一実施例に係るバイオマスナノ繊維の製造方法について説明する。
本実施例に係るバイオマスナノ繊維の製造方法は、竹、エリアンサス、アブラヤシ及び麦わらから選ばれる1又は2以上のバイオマスを過熱水蒸気で加熱処理してバイオマス繊維を得る工程と、多軸押出機を用い、バイオマス繊維にポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンを配合して混練しながら押出してバイオマスナノ繊維を得る工程と、を有する。
【0034】
竹やエリアンサスは生産性(生長)の効率が良く、バイオマス天然資源として好ましい。また、エリアンサスは永続的に生産が可能でCO2量の固定化が非常に高いため、バイオマス天然資源として植栽することにより、森林伐採により地球上の炭素固定能力が衰え、地球温暖化に進むことを抑制できる能力が高い。アブラヤシと麦わらは、バイオマス資源として活用することで、産業未利用廃棄物の発生量の抑制に寄与する。
【0035】
過熱水蒸気で加熱処理するための装置としては、適宜の反応器を用いることができる。
過熱水蒸気の温度は180〜230℃であることが好ましい。加熱処理時間は、装置条件や処理するバイオマスの条件にもよるが、1〜5時間程度が好ましい。得られるバイオマス繊維は、多軸押出機での処理が容易に行える適宜の寸法に破砕、粉砕あるいは篩い分けなどを行う。
【0036】
多軸押出機は、三軸以上のものを用いてもよいが、二軸のもので十分であり、かつ好ましい。二軸押出機を含む多軸押出機は、温度調節可能なシリンダーと、シリンダー内に回転可能に配備された複数本の軸(以下、これをスクリューという。)と、複数本のスクリューを回転させる図示しないモーター及び減速機からなる回転駆動機構とを備える。シリンダーの上流側にはバイオマス(繊維)及び分散剤(ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトン)の供給口が配備されている。
【0037】
多軸押出機のスクリュー長さ/スクリュー直径比(L/D)は20〜60程度とすることができる。多軸押出機での処理温度が10〜120℃、処理圧力が50MPa以下、軸回転速度が50〜150rpmであると好ましい。また、処理時間は30〜60分程度であることが好ましい。
多軸押出機のニーディングディスク部分あるいはスクリュー部分により、バイオマスが剪断され、バイオマスナノ繊維が得られる。多軸押出機は、分画された各ゾーンで加熱や混練を行うだけでなく、減圧による揮発成分の除去も可能である。
【0038】
竹、エリアンサス、アブラヤシ及び麦わらは、ヘミセルロースにより強靭な構造を保持するバイオマスであるため、通常、繊維化は容易ではない。本実施例では、これらのバイオマスを多軸押出機で処理し易い適当な寸法、例えば幅1〜3mm、長さ1〜5cm程度に粉砕したうえで、多軸押出機に投入する。このとき、バイオマスとともにポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンを配合する。
【0039】
ポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンは、バイオマス繊維を細かく分散しかつ界面の相溶性を改善させる分散剤として作用する。なお、これらのもの以外でも、粘度範囲が1000〜2500cpで、水分量、加熱、分子量制御で調製可能な物質であることと、押出機内で繊維とよく絡み合う物質を分散剤として用いることができる。ポリビニルアルコール水溶液を用いる場合、水溶液の濃度は3〜12質量%が解繊に与える影響の粘性が良く、9質量%濃度のポリビニルアルコール水溶液が特に好ましい。
バイオマス100質量部に対して、好ましくはポリビニルアルコール水溶液、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、又は低分子量ポリカプロラクトンを50〜200質量部配合する。これにより、数十〜数百nmオーダーの寸法のバイオマスナノ繊維を得る。
【0040】
次に、本発明の第1の実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法について説明する。
本実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、上記のバイオマスナノ繊維の製造方法により得られるバイオマスナノ繊維に高分子樹脂を配合して多軸押出成形機で押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を有する。多軸押出成形機は、基本的に多軸押出機と同様の構成であるが、目的とする形状に成形するための金型(別置きでも可)をさらに備える。多軸押出成形機(一例として二軸押出成形機)はその処理温度が、80〜220℃、処理圧力が50MPa以下、軸回転速度が15〜50rpmであるのが好ましい。
【0041】
高分子樹脂の種類は特に限定するものではないが、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂であるのが好ましい。バイオマスナノ繊維100質量部に対して高分子樹脂を400〜3500質量部配合するのが好ましい。これにより、高分子樹脂中にバイオマスナノ繊維が高均一に分散され、高い力学的特性を備えるバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体が得られる。
【0042】
また、本発明の第2の実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法は、一つの又は複数が連結された多軸押出成形機(具体的には二軸押出成形機)を用い、一つの多軸押出成形機の上流側で又は複数の連結された多軸押出成形機のうちの上流側に位置する多軸押出成形機で、バイオマスナノ繊維を得る工程を、及び一つの多軸押出成形機の下流側で又は複数の連結された多軸押出成形機のうちの下流側に位置する多軸押出成形機で、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を得る工程を、連続的に行う。
一つの多軸押出成形機を使用する場合、上流側に解繊部を、下流側に溶融混練部を形成し、解繊部でバイオマスナノ繊維の製造を行い、連続して溶融混練部でバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造を行う。
【0043】
これにより、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を効率的なプロセスで得ることができる。また、得られるバイオマスナノ繊維を装置から一旦取り出した後に別の装置で高分子樹脂に配合する場合は、配合するバイオマスナノ繊維が凝集する不具合が生じるおそれがあるが、本実施例によれば、そのおそれがない。
【0044】
第1、第2の実施例に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の製造方法により得られるバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体は、家電製品、携帯電話等の筐体、自動車の内装、建築資材、梱包資材、3Dプリンターの樹脂補強材など幅広い分野への応用が期待される。
なお、多軸押出整形機で得られた例えばペレット形状の高分子樹脂複合体を原料として、圧縮成形や射出成形によって所望の複雑な形状の成形品を得ることは、好ましい実施態様である。
【0045】
[実験例]
以下、本発明の作用、効果を明確にした実験例及び比較例を説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されるものではない。
まず、得られるバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の評価方法について説明する。
【0046】
<引張試験>
バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体を短冊状(長さ:40mm、幅:5mm、厚さ:0.3mm)に切り出し、引張試験片とした。引張試験は、JUSK−6732に従い、井元製作所製のIMC−18E0型引張圧縮試験機を用いて、得られた応力−歪曲線より、引張強度、引張弾性率、及び伸び率の算出をした。
【0047】
<形態観察>
観察用サンプルは、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体の試験片を液体窒素で凍結し、破断面を走査型電子顕微鏡(SME、日立製、S−3000N)で観察をし、ナノ構造繊維状態を電界放出形電子顕微鏡(FE−SEM、日立製、S−5200)により観察した。
【0048】
(比較例、実施例に用いた装置の説明)
図1に示す二軸押出成形機10(井元製作所製:二軸混練押出機160B型、同方向回転、スクリュー直径20mm、L/D=25、ベント口数2)を用いた。二軸押出成形機10は、上流側の解繊部と下流側の溶融混練部で構成される。解繊部には水蒸気処理されたバイオマスと分散剤としてのポリビニルアルコール水溶液等の投入口(供給口)11を有し、溶融混練部には高分子樹脂(高分子材料)の投入口(ベント口)12と揮発成分を脱気するベント口13を有する。なお、図1において、14は温度調節可能なシリンダー、15はシリンダー14内に回転可能に配備された複数本のスクリュー(軸)を示す。ベント口13の更に下流側には、シリンダー14に連接して金型を有する。
以下の実験例、比較例においても特に断らない限り、この二軸押出成形機10を用いた。
【0049】
(比較例1)
ポリプロピレン(PP、日本ポリプロピレン株式会社、FY6 MFR2.5)を二軸押出成形機の投入口に投入し、スクリュー回転数15rpm、シリンダー温度を200℃で5分かけて押出成形して、成形体サンプルを得た。
【0050】
(実験例1)
竹を処理し易い寸法に裁断して、反応器(直本工業株式会社製 過熱水蒸気処理装置NHL−1型)に投入し、210℃の過熱水蒸気で3h処理した。これにより予備解繊されたバイオマスを更に破砕機(株式会社フジテックス製 木材粉砕機)を用いて粉砕し、粉砕竹粉(幅1〜3mm、長さ1〜5cm)を得た。以下の他の実験例における粉砕竹粉もこの方法で得たものである。
【0051】
ポリビニルアルコール(PVA 東京化成株式会社、けん化度80moL%:重合度2000)の9質量%濃度の水溶液(粘度:1800cp)を撹拌機(アズワン、撹拌棒径状:錨型)を用いて、80℃で1時間、500rpmで撹拌して調製した。なお、デジタル粘度計(ブルックフィールド社、DV−I prime)を用いて、温度:22℃、回転速度:10rpmで90秒後の値を水溶液の粘度とした。
【0052】
粉砕竹粉10gに対し、ポリビニルアルコール水溶液を10gの割合でプリブレンドし、二軸押出成形機の供給口から投入し、解繊部において、常温、スクリュー回転速度95rpmで1hかけて解繊した。さらに、溶融混練部において、スクリュー回転速度15rpm、シリンダー温度を200℃とし、上流部のベント口からポリプロピレン(PP 日本ポリプロピレン株式会社、FY6 MFR=2.5)を180g投入し、下流部のベント口から水分を50KPaで脱気し、5分かけて押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。
【0053】
(実験例2)
二軸押出成形機を2基(第1押出機、第2押出機)連結して用いた。
第1押出機は解繊専用として、実験例1と同様の処理条件で処理してバイオマスナノ繊維を得た。得られたバイオマスナノ繊維はPVA水溶液中で分散状態を保持し、第2押出機にてポリプロピレンを投入し、スクリュー回転速度15rpm、シリンダー温度を200℃とし、下流部のベント口から水分を50KPaで脱気し、5分かけて押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。
【0054】
(実験例3)
実験例1の9質量%濃度のポリビニルアルコール水溶液に代えて無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MA−PP、三洋化成工業、ユーメックス1010)を使用した点とシリンダー温度常温で解繊したほかは実験例1と同じ条件で処理してバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。
【0055】
(実験例4)
シリンダー温度100℃、スクリュー回転速度100rpmで解繊し、スクリュー回転速度25rpmでバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得たほかは実験例3と同じ条件で処理してバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。
【0056】
(比較例2)
高分子量ポリカプロラクトン(H−PCL、ALDRICH、分子量:90000、ペレット状)を100g、押出成形機の投入口に投入し、スクリュー回転数15rpm、シリンダー温度を200℃で5分かけて押出成形して、成形体サンプルを得た。なお、この比較例2は実施例5の比較対象データである。
【0057】
(実験例5)
粉砕竹粉10gに対してポリビニルアルコール水溶液に代えて低分子量ポリカプロラクトン(L−PCL、ダイセル化学工業株式会社、PLACCEL L220AL、分子量:2000、液状)10gをプルブレンドして、二軸押出成形機の投入口に投入し、解繊部において、シリンダー温度60℃、スクリュー回転速度95rpmで1hで解繊した。ついで、溶融混練部において、高分子量ポリカプロラクトン(H−PCL、ALDRICH、分子量:90000、ペレット状)を100gを投入し、シリンダー温度100℃、スクリュー回転速度15rpmで5分かけて押出成形し、バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。
バイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルのSEM写真を図2に示す。白い糸状に見える300〜500nm程度のバイオマスナノ繊維が高分子樹脂中に分散していることが分かる。
【0058】
(比較例3)
ポリビニルアルコールを用いなかった他は実験例1と同じ処理を行った。粉砕竹粉は十分に解繊せず、このため、その後の成形処理も行えなかった。
【0059】
(実験例6)
実験例1と同じ条件で二軸押出成形機で解繊してバイオマスナノ繊維を得た。水溶性樹脂であるPVAの過剰分を取り除くために、水分を加えて希釈し、上澄みのバイオマスナノ繊維を凍結乾燥機(東京理科機械FDU−1200)を用いて凍結乾燥した。ついで、これを破砕した凍結乾燥粉10gに対してポリプロピレン90gの割合で配合して二軸押出成形機に投入して成形したほかは実験例1と同じ条件で処理してバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体サンプルを得た。
バイオマスナノ繊維の凍結乾燥物のFE−SEM写真を図3に示す。バイオマスナノ繊維が絡み合ってネットワークが形成されていることが分かる。
上記の実験例及び比較例の複合体又は成形体の各成分配合割合(重量比)を表1に示す。そして、サンプル又は成形体サン複合体プルの力学物性を表2に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表2より、実験例1〜4、6では引張強度に優れる複合体が得られていることが分かる。特に、実験例4では、解繊時に熱を加えることによって、固体表面間の接触熱抵抗が低下し、MA−PPがさらに効率よく繊維表面に密着し、PPとの相溶化が高まった結果、引張強度が大幅に向上した。
一方、実験例5では、弾性率が3倍以上の向上を得ることができた。
【0063】
本発明は以上の実施例及び実験例に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で、改良、変更することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係るバイオマスナノ繊維を含む高分子樹脂複合体及びバイオマスナノ繊維の製造方法並びに同高分子樹脂複合体の製造方法によって、より精密で強度を有する高分子樹脂複合体を形成でき、しかも、この高分子樹脂複合体を安価に製造できる。
【符号の説明】
【0065】
10:二軸押出成形機、11:投入口、12:投入口、13:ベント口、14:シリンダー、15:スクリュー

図1
図2
図3