(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<ポリウレタンウレア樹脂>
ポリウレタンウレア樹脂は、分子鎖中にウレア結合(−R−NH−CO−NH−)を有するポリウレタン樹脂である。本発明のポリウレタンウレア樹脂は、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が、1.6〜2.4の範囲であることが特徴である。前記のとおり、このように狭い範囲の多分散度を有することによって、本発明のポリウレタンウレア樹脂は、比較的低粘度で、良好な接着力、及び耐熱性を有する。
【0017】
前記のとおり、ポリウレタンウレア樹脂の耐熱性には、低分子量のポリウレタンウレア樹脂の存在によって軟化開始温度が低温となることが原因であると推測される。一方ポリウレタンウレア樹脂の粘度については、高分子量のポリウレタンウレア樹脂の存在によることが原因であると推測される。
【0018】
従って、多分散度の広いポリウレタンウレア樹脂は、低分子量と高分子量のポリウレタンウレア樹脂の混合物となっているため、耐熱性が低く、高粘度になるものと推測される。一方上記のとおり、本発明のポリウレタンウレア樹脂は、多分散度が比較的狭く、その結果、比較的低粘度で、良好な接着力、及び耐熱性を有するものと推測される。
【0019】
なお、多分散度が1.6未満であるポリウレタンウレア樹脂は、工業的製造方法においては実質困難だと考えられ、多分散度が2.4を超える場合には、低分子量のポリウレタンウレア樹脂の影響により、軟化開始温度が低温となるため、多分散度が狭い樹脂と比較して、耐熱性に劣ってしまう。さらに、多分散度が2.4を超える場合には、得られるポリウレタンウレア樹脂溶液の粘度が高くなり過ぎてしまい、塗工性等が損なわれる。また、多分散度が2.4を超える場合には、軟化開始温度が低温になる傾向があるため、高温時の耐熱性が低下する。良好な接着力、耐熱性、及び塗工性の観点から、本発明のポリウレタンウレア樹脂の多分散度は、1.8〜2.2の範囲であることがより好ましい。
【0020】
また、上記本発明のポリウレタンウレア樹脂の分子量は、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が上記範囲を満足するものであれば特に制限されるものではないが、接着力、及び耐熱性の観点から、数平均分子量が5千〜10万、特に8千〜5万であり、1万〜4万であることが最も好ましい。
【0021】
なお、上記ポリウレタンウレア樹脂の数平均分子量、及び重量平均分子量は、ポリエチレンオキシド換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)を用いて、カラム:Shodex KD−806M(昭和電工株式会社製)を2本直列接続、溶離液:LiBr(10mmol/L)/DMF溶液、流速:1ml/min、検出器:RI検出器、ポリウレタンウレア樹脂試料溶液:1.0%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液の条件にて測定し、日本ウォーターズ株式会社製GPC解析ソフト『Empower Personal GPC Option』を用いて算出した値である。また、多分散度は、重量平均分子量/数平均分子量で算出される値であり、上記方法によって求められた数平均分子量、及び重量平均分子量より算出される値である。
【0022】
上記本発明のポリウレタンウレア樹脂としては、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が上記範囲を満足するものであればその構造は特に制限されるものではないが、接着性、及び耐熱性の観点から、
(A)分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと、
(B)分子内に2つ以上のアミノ基を有するポリアミン化合物と、
を反応して得られるものであることが好ましく、さらに、
(C)分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物と、
を反応して得られる樹脂であることが好ましい。このようなポリウレタンウレア樹脂においては、原料である(B)成分としてポリアミン化合物を使用することに起因して、分子内にウレア結合が導入される。以下、これら成分について説明する。
【0023】
<(A)分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー>
本発明のポリウレタンウレア樹脂の構成成分である分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(A成分)としては、公知のウレタンプレポリマーを用いることが可能である。中でも、
(A1)ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールなどの少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物(以下、単にポリオール化合物と称することもある)と、
(A2)分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物(以下、単にジイソシアネート化合物と称することもある)と、
を反応して得られるものであることが好ましい。
【0024】
<(A1)ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールなどの少なくとも2つ以上の水酸基を有するポリオールよりなる群から選ばれる少なくとも1種のポリオール化合物>
上記本発明のポリウレタンウレア樹脂の構成成分の一つであるポリオール化合物(A1成分)としては、生成するポリウレタンウレア樹脂が高架橋体になり過ぎないという理由から分子中に含まれる水酸基数が2〜6であることが好ましく、有機溶剤への溶解性を考慮すれば、分子中に含まれる水酸基数は2〜3であることがより好ましい。また、前述のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールなどのポリオール化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても構わないが、耐熱性、接着性、耐候性、耐加水分解性などの観点から、特にポリカーボネートポリオール、及びポリカプロラクトンポリオールを使用することが好ましい。
以下、A1成分として使用される各種化合物について詳しく説明する。
【0025】
<ポリカーボネートポリオール>
本発明において、A1成分として使用されるポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−4−ブチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA のエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β−ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類の1種類以上のホスゲン化より得られるポリカーボネートポリオール、或いはエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、及びジフェニルカーボネート等によるエステル交換法により得られるポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。この低分子ポリオール類なかでも、最終的に得られるポリウレタンウレア樹脂(A成分)の接着性、及び耐熱性の観点から、直鎖のアルキル鎖を有する低分子ポリオール類がより好ましく、側鎖にアルキル基を有する低分子ポリオールから合成されたポリカーボネートポリオールは、接着性が低下する傾向が見られる。
【0026】
A1成分としてのポリカーボネートポリオールにおいては、最終的に得られるポリウレタンウレア樹脂(A成分)の耐熱性の観点から、数平均分子量は好ましくは400〜2000、より好ましくは500〜1500、最も好ましくは600〜1200である。
【0027】
これらポリカーボネートポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、旭化成ケミカルズ株式会社製「デュラノール(登録商標)」シリーズ、株式会社クラレ製「クラレポリオール(登録商標)」シリーズ、ダイセル化学工業株式会社製「プラクセル(登録商標)」シリーズ、日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、宇部興産株式会社製「ETERNACOLL(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0028】
<ポリカプロラクトンポリオール>
A1成分として使用されるポリカプロラクトンポリオールとしては、ε−カプロラクトンの開環重合により得られる化合物が使用できる。A1成分としてのポリカプロラクトンポリオールにおいては、ポリカーボネートポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は好ましくは400〜2000、より好ましくは500〜1500、最も好ましくは600〜1200である。
【0029】
このようなポリカプロラクトンポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、ダイセル化学工業株式会社製「プラクセル(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0030】
<ポリエーテルポリオール>
ポリエーテルポリオールとしては、分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物とアルキレンオキサイドとの反応により得られるポリエーテルポリオール化合物及び該ポリエーテルポリオール化合物の変性体である、ポリマーポリオール、ウレタン変性ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルコポリマーポリオール等を挙げることが出来る。
【0031】
なお、上記分子中に活性水素含有基を2個以上有する化合物としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの分子中に水酸基を1個以上有するグリコール、グリセリン等のポリオール化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0032】
また、前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物が挙げられ、これらは単独で使用しても2種類以上を混合して使用しても構わない。
【0033】
ポリエーテルポリオールにおいては、ポリカーボネートポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は好ましくは400〜2000、より好ましくは500〜1500、最も好ましくは600〜1200である。
【0034】
このようなポリエーテルポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、旭硝子株式会社製「エクセノール(登録商標)」シリーズ、「エマルスター(登録商標)」、株式会社ADEKA製「アデカポリエーテル」シリーズなどを挙げることができる。
【0035】
<ポリエステルポリオール>
ポリエステルポリオールとしては、多価アルコールと多塩基酸との縮合反応により得られるポリエステルポリオールなどを挙げることができる。ここで、前記多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3−ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。また、前記多塩基酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。
ポリエステルポリオールにおいては、ポリカーボネートポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は好ましくは400〜2000、より好ましくは500〜1500、最も好ましくは600〜1200である。
【0036】
これらポリエステルポリオールは、試薬としてまたは工業的に入手可能であり、市販されているものを例示すれば、DIC株式会社製「ポリライト(登録商標)」シリーズ、日本ポリウレタン工業株式会社製「ニッポラン(登録商標)」シリーズ、川崎化成工業株式会社製「マキシモール(登録商標)」シリーズなどを挙げることができる。
【0037】
<(A2)分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物>
本発明において、上記ジイソシアネート化合物(A2成分)としては、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物、芳香族ジイソシアネート化合物、及びこれらの混合物が使用される。これらの中でも、耐候性の観点から脂肪族ジイソシアネート化合物及び/又は脂環式ジイソシアネート化合物を使用することが好ましい。また、同様の理由からA2成分のジイソシアネート化合物の30〜100質量%、特に50〜100質量%が脂肪族ジイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0038】
A2成分として好適に使用できるジイソシアネート化合物を例示すれば、
テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物;
シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネート、1,9−ジイソシアナト−5−メチルノナン、1,1−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、2−イソシアナト−4−[(4−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]−1−メチルシクロヘキサン、2−(3−イソシアナトプロピル)シクロヘキシルイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート化合物;
フェニルシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)の異性体混合物、トルエン−2,3−ジイソシアネート、トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、フェニレン−1,4−ジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルベンゼン、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメトキシ(1,1’−ビフェニル)、4,4’−ジイソシアナト−3,3’−ジメチルビフェニル、1,2−ジイソシアナトベンゼン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)−2,3,5,6−テトラクロロベンゼン、2−ドデシル−1,3−ジイソシアナトベンゼン、1−イソシアナト−4−[(2−イソシアナトシクロヘキシル)メチル]2−メチルベンゼン、1−イソシアナト−3−[(4−イソシアナトフェニル)メチル)−2−メチルベンゼン、4−[(2−イソシアナトフェニル)オキシ]フェニルイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物
などを挙げることができる。
【0039】
これらの中でも、良好な接着力、耐熱性、及び塗工性の観点から、上記の通り、A2成分のジイソシアネート化合物の30〜100質量%、特に50〜100質量%が、脂肪族ジイソシアネート化合物、及び脂環式ジイソシアネート化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種のジイソシアネート化合物であることが好ましい。好適な化合物を具体的に例示すると、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、オクタメチレン−1,8−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートが挙げられる。これらのイソシアネート化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0040】
<ウレタンプレポリマー(A)の製造方法>
本発明において用いるウレタンプレポリマー(A)は、上記ポリオール化合物(A1成分)と、上記ジイソシアネート化合物(A2成分)とを反応(以下、「プレポリマー反応」ともいう)させることによって製造することができる。
【0041】
A1成分とA2成分を反応させる際の添加順序は特に制限されず、必要に応じて反応途中に適宜、A1成分及びA2成分を追加添加することも可能である。
A1成分とA2成分との反応は、有機溶媒の存在下または非存在下で両者を、好ましくは窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中で、反応温度70〜130℃で反応させればよい。反応温度が70℃未満の場合には反応が完結せず、また130℃を超える場合にはA1成分の一部が分解してしまい、所望の物性のウレタンウレア樹脂を得られなくなってしまう。反応時間は、A1成分とA2成分の仕込み比、及び反応温度によっても変化するが、0.5〜24時間の範囲で反応させればよい。
【0042】
有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。これらの有機溶媒は、2種類以上混合して使用することも出来る。
有機溶媒を使用する場合には、その使用量はA1成分とA2成分の合計量を100質量部とした際に、200質量部以下であることが好ましい。有機溶媒の使用量が200質量部を超える場合には、A1成分とA2成分の反応時間が長くなり、A1成分の一部が分解するおそれがある。
【0043】
反応に際しては、ジイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を用いてもよい。触媒を使用する際の添加量としては、A成分の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0044】
<(B)分子内に2つ以上のアミノ基を有するポリアミン化合物>
本発明において、上記ポリアミン化合物化合物(B成分)として使用されるポリアミン化合物は、分子内に2つ以上のアミノ基(−NH
2、または−NH(R)。但し、Rはアルキル基、特に炭素数1〜5のアルキル基を意味する。)を有するポリアミン化合物である。
該B成分は、ポリウレタンウレア樹脂を合成する際の鎖延長剤として機能するものであり、鎖延長剤として、B成分を用いることによりポリウレタン樹脂中にウレア結合が導入され、ポリウレタンウレア樹脂となる。
得られるポリウレタンウレア樹脂を適度の硬さにし、また、接着性、及び耐熱性を良好に維持するためには、ポリアミン化合物の分子量は、50〜300であることが好ましく、50〜250であることがより好ましく、100〜220であることが最も好ましい。
【0045】
上記B成分のポリアミン化合物としては、ジアミン、及びトリアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好適に使用し得る。本発明においてポリアミン化合物として好適に使用される化合物を具体的に例示すれば、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジン、フェニレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,2,5−ペンタントリアミン等を挙げることができる。これらの中でも、良好な接着力、耐熱性、及び塗工性の観点から、イソホロンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルナンジアミンを用いることがより好ましく、その中でも、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンを用いることが最も好ましい。
【0046】
<(C)分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物>
本発明のウレタンウレア樹脂を合成する際に、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物(C成分)を併用することも可能である。このC成分を使用することにより、分子鎖の末端がキャッピングされたポリウレタンウレア樹脂となる。前述のイソシアネート基と反応しうる基とは、アミノ基(−NH
2基、及び−NH(R)基)、水酸基(−OH基)、メルカプト基(−SH基:チオール基)、カルボキシル基〔−C(=O)OH基〕、又は酸クロライド基〔−C(=O)OCl基〕が挙げられる。
【0047】
本発明において使用されるC成分は、分子内に少なくとも1つのピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造を有する機能性付与化合物を用いることが好ましい。その理由は、前記のピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構造が、光安定化効果(ピペリジン構造)、酸化防止効果(ヒンダードフェノール構造)、または紫外線吸収効果(トリアジン構造、又はベンゾトリアゾール構造)を発揮する部位となるからである。ただし、最も優れた効果を発揮するのは、ピペリジン構造を有する機能性付与化合物である。
このような機能性付与化合物を用いることによって、ポリウレタンウレア樹脂にピペリジン構造、ヒンダードフェノール構造、トリアジン構造、またはベンゾトリアゾール構を導入することができる。その結果、光安定性能、酸化防止性能、及び紫外線吸収性能等の機能性に優れたポリウレタンウレア樹脂を得ることができる。
【0048】
以下、C成分として使用される各種化合物について、代表例としてピペリジン構造を有する化合物などを詳しく説明する。
【0049】
<ピペリジン構造を有する化合物>
本発明におけるC成分として使用されるピペリジン構造を有する化合物としては、下記一般式(i)で示される構造を分子内に有する化合物が好適に使用できる。
【0051】
(式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ、炭素数1〜4のアルキル基であり、特に、メチル基であることが好ましい。)。そして、上記ピペリジン環の窒素原子、または、4位の炭素原子にイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物が、ピペリジン構造を有する化合物に該当する。
以下、より具体的な化合物について説明する。
【0052】
本発明でC成分として使用される化合物の中で、本発明のポリウレタンウレア樹脂の末端にピペリジン構造を導入しうる化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物などを使用することが好適に挙げられる。
【0054】
(式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、前記一般式(i)におけるものと同義であり、
R
5は、炭素数1〜10アルキル基、または水素原子であり、
R
6は炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、aは0または1であり、
Xは、イソシアネート基と反応しうる基である。)。
【0055】
上記一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であるが、4つのアルキル基全てメチル基であることが好ましい。
【0056】
R
5は、炭素数1〜10アルキル基、または水素原子である。中でも、入手の容易さの観点から、炭素数1〜4アルキル基、または水素原子であることが好ましい。なお、R
1〜R
4が炭素数1〜4のアルキル基であるため、R
5が水素原子であっても、立体障害の影響でR
5が結合している窒素原子とイソシアネート基が反応することはない。
【0057】
R
6は、炭素数1〜20のアルキレン基、又は炭素数3〜20のポリメチレン基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基、又は炭素数3〜10のポリメチレン基である。なお、aは、R6の数を示すが、aが0の場合は、Xが直接ピペリジン環に結合しているものを指す。
【0058】
Xは、イソシアネート基と反応しうる基であり、好ましくは、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基である。中でも、イソシアネート基との反応性、入手の容易さなどの観点からアミノ基、及び水酸基であることが好適である。
【0059】
上記式(1)で示される化合物を具体的に例示すれば、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ヒドロキシピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン、2,2,6,6−テトラメチル−4−アミノピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノメチルピペリジン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノブチルピペリジンなどを挙げることができる。
【0060】
<その他のC成分>
本発明におけるC成分としては、前述した化合物以外にも、一般的なアミン、アルコール、チオール、及びカルボン酸を用いることができる。これらの化合物は、分子内にイソシアネート基と反応しうる基を1つ有することにより、ポリウレタンウレア樹脂の末端を、不活性化することができる。
本発明で使用されるその他のC成分の中でも、好ましい化合物としては、下記一般式(2)、及び(3)を挙げることができる。
【0062】
(式中、
R
7は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基または水素原子であり、
R
8は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはエステル基である。)
R
7が水素原子である化合物をC成分として用いた場合には、ポリウレタンウレア樹脂の末端は、−NH(R
8)基となるが、この−NH(R
8)基は、他のポリマー、およびイソシアネート化合物とは実質的に反応しない。そのため、−NH(R
8)基は、イソシアネート基と反応しうる基には該当しない。
【0063】
上記一般式(2)において、R
7は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基または水素原子である。中でも、R
7は、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシカルボニル基、または水素原子であることが好ましい。前記アリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。
【0064】
好適なR
7を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基、又は水素原子等が挙げられる。
【0065】
また、R
8は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基である。中でも、R
8は、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。前記アリール基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。
【0066】
好適なR
8を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、又はカルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0069】
(式中、
R
9は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であり、
Zは、水酸基、カルボキシル基、またはチオール基である。)
で示される化合物も好適に使用できる。
【0070】
上記一般式(3)において、R
9は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であり、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、またはアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。このアリール基、及びアラルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子を置換基として有してもよい。好ましい基としては、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子を有するフェニル基が挙げられる。好適なR
9を例示すれば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、フェニル基、ベンジル基、1,1−ジメチルベンジル基、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、及びカルボキシプロピル基等が挙げられる。
【0071】
上記一般式(3)におけるZは、イソシアネート基と反応しうる基であり、具体的には水酸基、カルボキシル基、またはチオール基であり、好ましくは水酸基である。
【0072】
上記一般式(2)、及び(3)で示される具体的な化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、4−ヘプチルアミン、オクチルアミン、1,1−ジプロピルブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ−tert−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、メチルエチルアミン、メチルブチルアミン、メチルペンチルアミン、メチルヘキシルアミン、メチルヘプチルアミン、メチルオクチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、エチルヘキシルアミン、エチルヘプチルアミン、エチルオクチルアミン、プロピルブチルアミン、イソプロピルブチルアミン、プロピルペンチルアミン、プロピルヘキシルアミン、プロピルヘプチルアミン、プロピルオクチルアミンなどのアミン類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デカノール、2−デカノールなどのアルコール類、メタンチオール、エタンチオール、1−プロパンチオール、2−プロパンチオール、1−ブタンチオール、2−ブタンチオール、プロパンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、2−メチル−1−ブタンチオール、2−メチルプロパンチオール、3−メチル−2−ブテンチオール、1,1−ジメチルヘプタンチオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、ベンゼンチオール、ベンゼンメタンチオール、2,6−ジメチルベンゼンチオールなどのチオール類、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸などのカルボン酸類などが挙げられる。
【0073】
以上のC成分は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いても構わないが、ポリウレタンウレア樹脂の耐久性を向上させるという観点から、ピペリジン構造を有する化合物を用いることが好適である。
【0074】
<ポリウレタンウレア樹脂におけるA1、A2、B、及びC成分の使用量>
上記本発明のポリウレタンウレア樹脂を構成する上記各成分、即ちA1成分、A2成分、B成分、およびC成分の量比は、ポリウレタンウレア樹脂を使用する用途等を勘案して適宜決定すればよいが、得られるポリウレタンウレア樹脂の耐熱性、接着力などのバランスの観点から、次のような量比とすることが好ましい。すなわち、A1成分に含まれる水酸基の総モル数をn1とし、A2成分に含まれるイソシアネート基の総モル数をn2とし、B成分に含まれるアミノ基の総モル数をn3とし、C成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基(具体的にはアミノ基、水酸基、メルカプト基及び/又はカルボキシル基等)の総モル数をn4としたときに、n1:n2:n3:n4=0.4〜0.8/1.0/0.19〜0.59/0.01〜0.2となる量比、特にn1:n2:n3:n4=0.45〜0.75/1.0/0.23〜0.53/0.02〜0.15となる量比とすることが好ましく、n1:n2:n3:n4=0.65〜0.75/1.0/0.23〜0.33/0.02〜0.1となる量比とすることが最も好ましい。ここで、上記n1〜n4は、各成分として用いる化合物の使用モル数と該化合物1分子中に存在する各基の数の積として求めることができる。
【0075】
本発明のポリウレタンウレア樹脂においては、末端には反応性の基を有さないことが好ましい。特に、末端にイソシアネート基が残存しないように不活性化させることが好ましい。そのため、製造時には、n2=n1+n3+n4となるような配合割合で製造することが好ましい。n2よりもn1、n3、及びn4の合計モル数(n1+n3+n4)が大きい場合には、再沈殿等により、未反応のA1、B、C成分を除去してやればよい。
【0076】
上記A1成分、A2成分、B成分、及び、必要に応じてC成分を反応させて、本発明のポリウレタンウレア樹脂を得る方法としては、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が上記範囲を満足する様に反応させればよく、所謂ワンショット法又はプレポリマー法のいずれの方法もを採用することができる。しかしながら、多分散度を制御し効率良くポリウレタンウレア樹脂を得るという観点から、プレポリマー法が好ましく、特に本発明の製造方法を用いることが好ましい。
次に本発明のポリウレタンウレア樹脂の製造方法について詳述する。
【0077】
<本発明のポリウレタンウレア樹脂の製造方法>
ポリウレタンウレア樹脂は、一般にウレタンプレポリマーとジアミン等のポリアミンとの反応によって製造することができるが、本発明のポリウレタンウレア樹脂の製造方法は、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(A成分)と、少なくとも分子内に2つ以上のアミノ基を有するポリアミン化合物(B成分)とを反応させる際に、前記ウレタンプレポリマーと前記ポリアミン化合物との完全混合時間(θ
M)が30秒以下にすることが特徴である。このような本発明の製造方法により、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6〜2.4の範囲であるポリウレタンウレア樹脂を得ることができる。
【0078】
このように前記ウレタンプレポリマーと前記ポリアミン化合物との完全混合時間を制御することによって多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)が狭い範範囲にあるポリウレタンウレア樹脂を得ることができる理由について詳細は不明であるが、本発明者らは以下のように推測している。
【0079】
分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとポリアミン化合物を混合すると、イソシアネート基とアミノ基の間での反応、即ちウレア結合の形成反応が進行する。該反応は、非常に反応速度が速いために、撹拌効率が低い場合には、局所的に反応が進行するため、分子量が不均一となり、多分散度が広くなると推察する。
【0080】
そこで、本発明の製造方法では、前記ウレタンプレポリマーと前記ポリアミン化合物との完全混合時間を制御することによって、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基とポリアミン化合物を反応系中で速やかに、且つ確実に接触させることにより、上記副反応を抑制しつつウレア化反応が進行させることができ、多分散度が狭い範囲にあるポリウレタンウレア樹脂を得ることができるものと推測される。
本発明の製造方法においては、多分散度の制御の観点から、完全混合時間(θ
M)が15秒以下であることがより好ましい。
【0081】
完全混合時間(θ
M)とは、撹拌槽(反応容器など)における混合特性を表わす指標であり、n・θ
M(nは撹拌翼の回転数(1/秒))とRe(レイノルズ数;液の乱れ状態を表す指標)との関係を示す「n・θ
M−Re曲線」から求められる。完全混合時間(θ
M)及びn・θ
M−Re曲線については、例えば、「住友重機械工業 技報 vol.35 No.104 1987年8月 p74−78」、特開昭61−200842号公報、特開平6−312122号公報などに記載されている。
【0082】
完全混合時間(θ
M)を、30秒以下にするための手段としては、任意の適切な方法を採用すれば良いが、撹拌槽(反応容器など)内に邪魔板等を設置し乱流を発生させる方法や、任意の適切な撹拌翼を用いる方法などが挙げられる。適切な撹拌翼としては、マックスブレンド翼、フルゾーン翼などが挙げられる。
【0083】
また、本発明の製造方法における、上記A成分と、B成分の添加方法や添加順については完全混合時間(θ
M)が上記要件を充足できる限りにおいて、特に制限されず、上記攪拌翼の攪拌効率等を勘案して適宜決定すればよいが、効率良く混合できるという観点から、前記A成分を有機溶剤に溶解させたところに、必要に応じて有機溶剤で希釈した前記B成分を滴下して加える方法が好適である。
【0084】
また、前記の方法にてウレタンプレポリマーを製造した場合には、上記プレポリマー化反応後の反応液にB成分を添加し、連続的にポリウレタンウレア樹脂の製造を行っても良い。
【0085】
本発明のポリウレタンウレア樹脂の製造方法における他の反応条件については、製造設備等を勘案して適宜決定すれば良いが、多分散度が狭い範囲にあるポリウレタンウレア樹脂が得られるという観点から、有機溶媒の存在下で、必要に応じて窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中で、反応温度−20〜40℃の範囲で、より好ましくは、−10〜20℃の範囲で反応させればよい。反応温度が−20℃未満の場合には、鎖延長反応後半で粘度が上昇し撹拌不足となるため、また、反応温度が40℃を超える場合には、ウレア結合の形成反応が速く、A成分とB成分が接触直後に反応することによって不均一な反応となりやすく、多分散度が広がる傾向にある。上記反応温度における反応時間は0.5〜3時間程度で十分である。
【0086】
上記本発明の製造方法における有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジオキサン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、2−ブタノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノノルマルプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピル、プロピレングリコールモノノルマルブチルエーテル、プロピレングリコールモノt−ブチルエーテルなどのアルコール系有機溶媒も使用できる。これらの有機溶媒は、2種類以上混合して使用することも出来る。
【0087】
上記有機溶媒の使用量は、効率的に反応を行うとの観点や、残留する有機溶媒の影響等の観点から、最終的に得られるポリウレタンウレア樹脂の合計量を100質量部とした際に、130〜800質量部の範囲であることが好ましく、150〜500質量部の範囲であることがより好ましい。
【0088】
反応に際しては、反応系中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び有機溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を新たに加えても良いし、プレポリマー反応で使用した場合には除去することなくそのまま使用してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、ポリウレタンウレア樹脂の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0089】
本発明のポリウレタンウレア樹脂を合成する際に、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物(C成分)を併用することも可能である。このC成分を使用することにより、分子鎖の末端がキャッピングされたポリウレタンウレア樹脂となる。
【0090】
上記、分子鎖の末端がキャッピングされたポリウレタンウレア樹脂を得る方法(以下、「末端修飾反応」とも言う)は、前述のA成分とB成分の反応が終了し、末端にイソシアネート基を有するポリウレタンウレア樹脂が有機溶剤に溶解している反応液に、必要に応じて有機溶剤で希釈したC成分を滴下して加える方法が好適である。また、前述のA成分とB成分の反応の際に添加したアルコール系有機溶剤をC成分として末端修飾反応に使用する場合には、新たにC成分を添加しなくても良い。
【0091】
本発明の末端修飾反応は、有機溶媒の存在下で、必要に応じて窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中で実施すれば良い。反応温度は、C成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基がアミノ基の場合には、前述のA成分とB成分の反応の時と同様な温度−20〜30℃で反応させればよい。しかしながら、C成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基がアミノ基以外の場合には、イソシアネート基との反応速度が遅いため、30℃を超え130℃以下で反応させることが好ましい。
【0092】
反応時間は、C成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基がアミノ基の場合には0.5〜3時間程度で、C成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基がアミノ基以外の場合には1時間〜24時間程度反応させればよい。
【0093】
有機溶媒としては、前述のプレポリマー反応、及びA成分とB成分の反応に使用した有機溶剤を使用できる。また、当然のことながら、前述のプレポリマー反応、及びA成分とB成分の反応で使用した有機溶剤を含んだ状態で、末端修飾反応を実施しても構わない。
【0094】
末端修飾反応における有機溶媒の使用量は、最終的に得られるA成分の合計量を100質量部とした際に、130〜800質量部の範囲であることが好ましい。
【0095】
反応に際しては、反応系中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び有機溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を新たに加えても良いし、プレポリマー反応までに触媒を使用した場合には除去することなくそのまま使用してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、A成分の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0096】
この末端修飾反応では、C成分に含まれるイソシアネート基と反応しうる基の種類によらず、撹拌効率は特に制限されない。つまりは、本反応は末端にイソシアネート基を有するポリウレタンウレア樹脂とC成分を反応させて末端を修飾するのみなので、撹拌効率が最終的に得られるポリウレタンウレア樹脂の多分散度には影響しないためである。
【実施例】
【0097】
以下に例示するいくつかの実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に、本発明を説明するためのものであり、本発明の精神及び範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
以下に、実施例及び比較例で各成分として使用した化合物等の略号を纏める。
【0098】
A1成分;ポリオール化合物
PL1:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘ
キサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量800)。
PL2:旭化成ケミカルズ株式会社製デュラノール(1,5−ペンタンジオールとヘ
キサンジオールを原料とするポリカーボネートジオール、数平均分子量1000)。
【0099】
A2成分;ジイソシアネート化合物
NCO1:イソホロンジイソシアネート。
NCO2:4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合
物。
【0100】
B成分;ポリアミン化合物
CE1:イソホロンジアミン。
CE2:ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン。
【0101】
C成分;分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物
HA1:1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン。
HA2:ノルマルブチルアミン。
【0102】
有機溶媒
D1:イソプロピルアルコール。
D2:プロピレングリコール−モノメチルエーテル。
D3:トルエン。
D4:ジエチルケトン。
D5:t−ブチルアルコール。
【0103】
実施例1
(ウレタンプレポリマーの製造)
翼径135mmのマックスブレンド翼、邪魔板を備える内径260mm、高さ280mm、仕込用量10Lの反応容器に、冷却管、温度計、窒素ガス導入管を接続した。マックスブレンド翼は100rpmで撹拌した。
【0104】
この反応容器に、数平均分子量800のポリカーボネートジオール1770g、イソホロンジイソシアネート700g、トルエン500gを仕込み、窒素雰囲気下、100℃で7時間反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成した。反応の終点は、イソシアネート基の逆滴定法により確認した。
(ポリウレタンウレア樹脂の製造)
反応終了後、反応液を0℃付近まで冷却し、イソプロピルアルコール1430g、ジエチルケトン2670gに溶解させた後、液温を0℃に保持した。次いで、鎖延長剤であるビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン
171.0gとジエチルケトン145gの混合溶液を30分以内に滴下し、0℃で1時間反応させた。その後さらに、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−アミノピペリジン42gを滴下し、0℃で1時間反応させることにより、ポリウレタンウレア樹脂のジエチルケトン溶液を得た。得られたポリウレタンウレア樹脂は、数平均分子量が19,000であり、重量平均分子量が41,000であり、多分散度が2.16であり、軟化点が105℃(軟化開始温度;約80℃)であり、動粘度が15,000cStであった。
【0105】
なお、ポリアミン化合物であるビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンの滴下開始時の反応液の粘度が0.06kg/m・s、密度が900kg/m
3であり、レイノルズ数(Re)が456となり、マックスブレンド翼におけるn・θ
M−Re曲線より、混合時間数(n・θ
M)が14であることから、完全混合時間(θ
M)が8秒であった。
【0106】
<評価方法>
上記実施例1における、数平均分子量、重量平均分子量、多分散度、軟化点、及び動粘度については以下の方法によって測定した。
【0107】
(数平均分子量、重量平均分子量、及び多分散度)
数平均分子量、重量平均分子量、及び多分散度に関しては、本文中に記載の方法に分析を実施した。
すなわち、ポリエチレンオキシド換算によるゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)を用いて、カラム:Shodex KD−806M(昭和電工株式会社製)を2本直列接続、溶離液:LiBr(10mmol/L)/DMF溶液、流速:1ml/min、検出器:RI検出器、ポリウレタンウレア樹脂試料溶液:1.0%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液の条件にて測定し、日本ウォーターズ株式会社製GPC解析ソフト『Empower Personal GPC Option』を用いて算出した。また、多分散度は、重量平均分子量/数平均分子量で算出される値であり、上記方法によって求められた数平均分子量、及び重量平均分子量より算出した。
【0108】
(軟化点)
ポリウレタンウレア樹脂溶液を、ステンレスの容器に流し込み、40℃で10時間、60℃で10時間、さらに真空乾燥機にて60℃で12時間乾燥させることにより、厚み1mmの試験片を作製した。得られた試験片を、熱機械測定装置(セイコーインスツルメント社製、TMA120C)を用い、昇温速度:10℃/分、測定温度範囲:30〜200℃、プローブ:先端径0.5mmの針入プローブの条件にて軟化点を測定した。
【0109】
(動粘度)
ポリウレタン樹脂溶液約10gを、キャノンフェンスケ粘度計(#600)に入れ、このキャノンフェンスケ粘度計(柴田科学株式会社製)を25℃±0.1℃に制御した恒温水槽に15分浸した後、動粘度を測定した。
【0110】
実施例2〜16、比較例1
表1に示すポリオール化合物(A1成分)、ジイソシアネート化合物(A2成分)、ポリアミン化合物(B成分)、分子内に1つのイソシアネート基と反応しうる基を有する化合物(C成分)及び反応溶媒を用い、表1、及び表2に示す反応条件を用いた以外は、実施例1の合成方法と同様にして、実施例2〜16のポリウレタンウレア樹脂を合成した。評価結果を表2に示す。なお、完全混合時間(θ
M)は、ポリアミン化合物(B成分)を滴下開始する際のウレタンプレポリマー(A成分)の反応液の粘度、密度、及びマックスブレンド翼の回転数からレイノルズ数(Re)を算出し、その後マックスブレンド翼におけるn・θ
M−Re曲線から導きだされるn・θ
Mより算出した。
【0111】
【表1】
【0112】
【表2】
【0113】
上記実施例1〜16から明らかなように、本発明のポリウレタンウレア樹脂は、多分散度が狭く、良好な耐熱性を有していることが分かる。また、本発明のポリウレタン樹脂の製造方法においては、ウレタンプレポリマーとポリアミン化合物を混合する際の完全混合時間が短時間となっているため、前述の様な良好な物性を有するポリウレタン樹脂が得られている。
【0114】
一方、比較例1に示すように、ウレタンプレポリマーとポリアミン化合物を混合する際完全混合時間が30秒を超えると、得られるポリウレタンウレア樹脂の多分散度が広くなるとともに、耐熱性が良好なポリウレタンウレア樹脂を得ることができなかった。