特許第6483653号(P6483653)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明治の特許一覧

特許6483653乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6483653
(24)【登録日】2019年2月22日
(45)【発行日】2019年3月13日
(54)【発明の名称】乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/175 20160101AFI20190304BHJP
   A23C 9/13 20060101ALI20190304BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20190304BHJP
【FI】
   A23L33/175
   A23C9/13
   !C12N1/20 A
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-241626(P2016-241626)
(22)【出願日】2016年12月13日
(62)【分割の表示】特願2012-529607(P2012-529607)の分割
【原出願日】2011年8月18日
(65)【公開番号】特開2017-93441(P2017-93441A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-184086(P2010-184086)
(32)【優先日】2010年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】越 智 大 輔
(72)【発明者】
【氏名】木 村 勝 紀
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−508782(JP,A)
【文献】 特開2009−011209(JP,A)
【文献】 特開2004−016046(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/061877(WO,A1)
【文献】 特開2006−246861(JP,A)
【文献】 特開2001−258525(JP,A)
【文献】 特開2002−017254(JP,A)
【文献】 特開2001−271089(JP,A)
【文献】 特開平10−327751(JP,A)
【文献】 特開2001−258501(JP,A)
【文献】 特開2000−197468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00 − 23/00
A01J 1/00 − 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリプトファンであるか、または、トリプトファンと、チロシンおよびヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一種のものとの組合せであるアミノ酸を、有効成分とする、pH2.0〜6.5の範囲の低pH環境下での乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤と
乳酸菌および/またはビフィズス菌含有組成物と
を含んでなる、食品組成物であって、
前記乳酸菌は、Lactobacillus gasseriとLactobacillus amylovorusから選択される少なくとも一種であり、
保存期間1〜4週間における乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性が向上した組成物(ただし、前記生残性向上剤は、L−リジン、L−ロイシンまたはL−スレオニンを含まない)。
【請求項2】
乳酸菌およびビフィズス菌が、プロバイオティクス菌である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヨーグルトまたは発酵乳である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
生残性の向上が、乳酸菌の生残性の向上、または、乳酸菌とビフィズス菌の双方の生残性の向上を意味する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
Zn、葉酸、MgCO、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類をさらに含んでなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
アミノ酸を、pH2.0〜6.5の範囲の低pH環境下の、乳酸菌および/またはビフィズス菌含有組成物に添加することを含んでなる、保存期間1〜4週間における乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性が向上した食品組成物の製造方法であって、
アミノ酸が、トリプトファンであるか、または、トリプトファンと、チロシンおよびヒスチジンからなる群より選択される少なくとも一種のものとの組合せであり、ただし、添加する前記アミノ酸は、L−リジン、L−ロイシンまたはL−スレオニンを含まず、
前記乳酸菌は、Lactobacillus gasseriとLactobacillus amylovorusから選択される少なくとも一種である、方法。
【請求項7】
アミノ酸の前記組成物への添加の後に、組成物の発酵を行うことを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
乳酸菌およびビフィズス菌が、プロバイオティクス菌である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
食品組成物が、ヨーグルトまたは発酵乳である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
Zn、葉酸、MgCO、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類をアミノ酸と共に添加することを更に含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国特許出願である特願2010−184086号(出願日:2010年8月19日)に基づくものであって、その優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体は参照することによりここに組み込まれる。
【発明の背景】
【0002】
発明の分野
本発明は、アミノ酸を有効成分とする、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤に関する。本発明はまた、このような生残性向上剤と、乳酸菌および/またはビフィズス菌とを含む食品組成物、および食品組成物の製造方法に関する。さらに本発明は、かかる生残性向上剤を、乳酸菌および/またはビフィズス菌含有食品組成物に添加することを含む、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させる方法に関する。
【0003】
関連技術
消化管内の細菌叢を改善するなど、宿主に有益な作用をもたらしうる有用な微生物は、プロバイオティクス(またはプロバイオティクス菌)と称され注目を集めている。このような有用な微生物として、乳酸菌やビフィズス菌がある。
【0004】
プロバイオティクスのような機能性のある乳酸菌やビフィズス菌は、しばしば各種の食品や医薬品の形態で経口的に摂取される。このとき、発酵乳などの発酵食品では、経口摂取前において、すでに低pH環境となっており、このような環境は、多くの場合、乳酸菌やビフィズス菌などの生残(生存)に適さない。また、経口摂取後についても、胃内部などのpHが低い生体内は、乳酸菌やビフィズス菌などの生残に適さない環境となっている。食品中や生体内での乳酸菌やビフィズス菌の生残性が向上されると、プロバイオティクスの機能に伴う効果が高まることが期待でき、これは、予防医学の観点からも重要であると言える。
【0005】
食品中で乳酸菌の生残性を向上させることについて、これまでに、いくつかの方法が提案されている。
例えば、Int. Dairy Journal 7, 435-443 (1997)、R.I.デイブ等(Rajiv I.Dave and Negendra P.Shah)("Effectiveness of Ascorbic Acid as an Oxygen Scavenger in Improving Viability of Probiotic bacteria in Yoghurts Made with Commercial Starter Cultures")には、抗酸化活性物質のアスコルビン酸(ビタミンC)を添加することによって、発酵乳における乳酸菌(プロバイオティクス)の生残性が改善されたことが報告されている。しかしながら、抗酸化活性物質などの添加は、ヨーグルトや発酵乳の風味や物性への影響が大きく、その使用には限界があった。また抗酸化活性物質は、自己酸化により効果を発揮することから、相当量を使用しないと、その効果の持続性を期待できなかった。
【0006】
特開2002−017254号公報には、システイン、ビタミンC、ヤマモモ抽出物、ルチン、および果汁から選択された化合物によって、過酷な光照射の条件下に保存した発酵乳において、乳酸菌の生残性が向上したことが報告されている。しかしながら、ここには、酸性のような低pH環境における生残性の向上に関しては特に開示されていない。
【0007】
特表2010−505390号公報(WO2008/040872)には、アラビアガムを必要により含硫アミノ酸(例えば、システイン)と組み合わせて用いて、発酵乳製品中のビフィズス菌の生残性を向上させたことが記載されている。しかしながら、ここでは、アラビアガムを必須で使用するものであり、含硫アミノ酸については付加的な成分として使用されているに過ぎない。
【0008】
また、特開平10−327751号公報には、所定の濃度の所定のアミノ酸の混合成分(グルタミン酸、ロイシン、アラニン、セリン、アルギニン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、およびメチオニン)を加えることによって、発酵乳の風味が改善できたことが記載されている。しかしながら、ここには、アミノ酸によって発酵乳中の乳酸菌等の生残性を向上できることについては何ら記載も示唆もされていない。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは今般、酸性(pHが低い)環境にあるプロバイオティクスの乳酸菌およびビフィズス菌に対して、アミノ酸を使用することで、それらの保存中における生残性(生存性)を大幅に改善させることに成功した。また本発明者らは、Zn、葉酸、MgCOのような無機塩類についても同様に検討したところ、これらについてもアミノ酸と同様に、プロバイオティクスの乳酸菌およびビフィズス菌に対して使用することで、それらの生残性を改善させることができた。本発明は、これら知見に基づくものである。
【0010】
よって本発明は、酸性(pHが低い)環境にあるプロバイオティクスの乳酸菌およびビフィズス菌の生残性を向上させることができる、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤、それを用いた食品組成物、およびその製造方法の提供をその目的とする。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) アミノ酸を有効成分とする、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤;
(2) アミノ酸が、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、アラニン、およびこれらの混合物からなる群より選択されるものである、前記(1)に記載の生残性向上剤;
(3) 乳酸菌およびビフィズス菌が、プロバイオティクス菌である、前記(1)または(2)に記載の生残性向上剤;
(4) pHが2.0〜6.5の範囲の低pH環境下での乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させるものである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の生残性向上剤;
(5) ヨーグルトまたは発酵乳中の乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させるものである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の生残性向上剤;
(6) 乳酸菌が、ラクトバチルス属乳酸菌である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の生残性向上剤;
(7) Zn、葉酸、MgCO、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類をさらに含んでなる、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の生残性向上剤;
(8) 前記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の生残性向上剤と、乳酸菌および/またはビフィズス菌とを含んでなる、組成物;
(9) ヨーグルトまたは発酵乳である、前記(8)に記載の食品組成物;
(10) 生残性向上剤として加えられたアミノ酸が、組成物100g当たり50mg以上で含まれてなる、前記(8)または(9)に記載の食品組成物。
(11) アミノ酸を、pH2.0〜6.5の範囲の低pH環境下の、乳酸菌および/またはビフィズス菌含有組成物に添加することを含んでなる、食品組成物の製造方法。
(12) アミノ酸の前記組成物への添加の後に、組成物の発酵を行うことを更に含む、前記(11)に記載の方法。
(13) アミノ酸が、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、アラニン、およびこれらの混合物からなる群より選択されるものである、前記(11)または(12)に記載の方法。
(14) 乳酸菌およびビフィズス菌が、プロバイオティクス菌である、前記(11)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15) 食品組成物が、ヨーグルトまたは発酵乳である、前記(11)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16) 乳酸菌が、ラクトバチルス属乳酸菌である、前記(11)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17) Zn、葉酸、MgCO、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類をアミノ酸と共に添加することを更に含む、前記(11)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18) アミノ酸の添加量が、組成物100g当たり50mg以上である、前記(11)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19) アミノ酸を、乳酸菌および/またはビフィズス菌含有組成物に添加することを含んでなる、食品組成物において乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させる方法。
(20) アミノ酸を添加する組成物が、pH2.0〜6.5の範囲の低pH環境下にある、前記(19)に記載の方法。
(21) 前記組成物の発酵前に、前記アミノ酸を前記組成物に添加することを含んでなる、前記(19)または(20)に記載の方法。
(22) アミノ酸が、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、アラニン、およびこれらの混合物からなる群より選択されるものである、前記(19)〜(21)のいずれかに記載の方法。
(23) pH2.0〜6.5の範囲の低pH環境下の乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させるための、アミノ酸の使用。
(24) アミノ酸が、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、アラニン、およびこれらの混合物からなる群より選択されるものである、前記(23)に記載の使用。
【0012】
本発明によれば、酸性環境における、プロバイオティクスの乳酸菌やビフィズス菌の(冷蔵)保存中における生残性を大幅に向上させることができる。それによって、それら菌体の活性を長期間で持続させることが可能となる。本発明による生残性向上剤を食品組成物において使用することで、食品組成物の風味や物性に影響を与えることなく、菌体の生残性を向上させることができる。さらに本発明によれば、菌体の活性を長時間で、高く持続できることから、使用する菌体の使用量(発酵乳などの食品組成物への添加量)を低減させることが可能となり、その結果、コストダウンに加えて、発酵乳などの食品組成物の風味や物性の改善(もしくは劣化抑制)も期待できる。
【0013】
乳酸菌の発酵乳中での生残性は溶存酸素、過酸化水素、低pHなどに対する強さにより菌株ごとに大きく異なることがわかっている。本発明によって、プロバイオティクス乳酸菌の製品中での生残性を高めることができれば、生理効果が優れているのに発酵乳中での生残性が低いことによって菌株を使用できないということは少なくなり、またプロバイオティクス商品の消費期限(賞味期限)の延長も期待できる。
【発明の具体的説明】
【0014】
生残性向上剤
本発明による乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤は、アミノ酸を有効成分とするものである。
ここで、「乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤」とは、乳酸菌およびビフィズス菌の両方または少なくともいずれか一方の生残性を向上させる薬剤(食品添加剤等を含む)を意味する。なお、この意味において、生残性向上剤は、生残性向上用組成物または生残性向上用添加剤と言い換えることもできる。
【0015】
またここで、「生残性向上」とは、乳酸菌やビフィズス菌がそれら菌体の成長または維持が可能な環境下にあるときに、菌体に作用して、その死滅を抑え、生存して残っている菌体の数量を維持、向上させることを言う。したがって、生残性向上という語は、典型的には、菌体数の減少抑制の意味であるが、それに加えて、菌体数の維持、増殖促進を含む概念で使用することができる。
【0016】
本発明において、生残性向上剤は、酸性(低pH)環境下での保存における乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させることができるものである。発酵乳等を代表とする乳酸菌やビフィズス菌を含有する食品組成物では、一般的に、酸性(低pH)環境となっており、乳酸菌の増殖または生存には適さないことが多い。本発明による生残性向上剤は、このような酸性(低pH)環境においても、菌体の生残性を向上する機能を発揮できるので、発酵乳等のような食品組成物において乳酸菌やビフィズス菌の生残性を向上する上で有用である。したがって、本発明の生残性向上剤は、酸性(低pH)環境において、より効果的に機能を発揮できる。
【0017】
ここでいう酸性(低pH)環境とは、pH値で表すと、典型的にはpHが2.0〜6.5の範囲であり、好ましくはpHが2.5〜6.0の範囲であり、より好ましくはpHが3.0〜5.5の範囲であり、さらに好ましくはpHが3.5〜5.0の範囲であり、さらにより好ましくはpHが3.8〜4.8の範囲である。あるいは、酸性(低pH)環境を酸度で表すと、食品組成物が発酵乳などの場合、乳酸の酸度として、例えば、0.1〜1.3の範囲であり、好ましくは0.3〜1.2の範囲であり、より好ましくは0.5〜1.1の範囲であり、さらに好ましくは0.7〜1.1の範囲である。なお、このような酸度は、食品組成物中の乳酸を公知の方法にて定量し、それによって求めることができる。
【0018】
また、本発明の生残性向上剤は、前記したように、酸性(低pH)環境下での保存における乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させることができるものである。ここで、「保存」は、乳酸菌やビフィズス菌が生育もしくは維持されるのに適した温度条件での保存を意味する。保存条件として、好ましくは冷蔵保存条件であり、具体例を挙げると、1〜10℃、好ましくは1〜5℃、より好ましくは約4℃程度の温度条件での保存である。また生残性の向上が期待できる保存時間は、例えば、1ヶ月以内であり、好ましくは、1〜4週間であり、より好ましくは1〜3週間であり、さらに好ましくは2〜3週間の期間である。
【0019】
ここでアミノ酸は、食用として摂取可能であって、乳酸菌またはビフィズス菌の生残性を改善可能なものであれば特に制限されない。使用可能なアミノ酸の好ましい例としては、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、アラニンが挙げられ、これらは2以上組み合わせた混合物を使用しても良い。より好ましくは、アミノ酸は、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、システイン、またはこれらの混合物である。さらに好ましくは、アミノ酸は、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、またはこれらの混合物である。なお、システインでは、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性を向上させる効果は高いが、食品などの風味への影響の大きさが懸念される場合がある。一方、使用可能なアミノ酸としては、ORAC(Oxygen Radical Absorpotion Capacity(活性酸素消去能))値の大きいアミノ酸が望ましい。
【0020】
本発明の生残性向上剤を食品組成物に加える場合において、有効成分であるアミノ酸が食品組成物中に溶けにくい場合には、必要に応じて予め水や食品分野で通常に用いられる溶媒、例えば、アルコール類、炭化水素類、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基、超臨界流体等を単独あるいは複数を組み合わせて用いて溶解させて使用することができる。すなわち、アミノ酸が疎水性であって、食品組成物が親水性である場合などが挙げられる。
【0021】
本発明の生残性向上剤は、プロバイオティクス菌である乳酸菌および/またはビフィズス菌に好ましく適用できる。すなわち、発酵乳などの食品組成物では、乳酸菌やビフィズス菌として、スターターとして使用されるものと、食品組成物に機能性を付与しうるプロバイオティクスとして使用されるものとがあるが、本発明の生残性向上剤は、主として、後者のプロバイオティクス菌の生残性向上を目的とするものである。ここで、乳酸菌やビフィズス菌は、市販品を使用しても良く、また一般的なもしくは公的な菌の保存機関から入手しても良いが、腸内等より得られたサンプルを培養したものを用いても良い。
【0022】
本発明による生残性向上剤が適用されうる乳酸菌は、好ましくはラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌であり、より具体的な例を挙げれば、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus amylovorus、Lactobacillus bulgaricus、Lactobacillus lactis、Lactobacillus mucosae、Lactobacillus salivarius、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus caucasicus、Lactobacillus themophilus、Lactobacillus fermentum、Lactobacillus crispatus、Lactobacillus brevis、Lactobacillus casei、Lactobacillus jensenii、Lactobacillus oris、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus reuteri、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus ruminis、Lactobacillus pentosus等を挙げられる。このうち、好ましい例として、Lactobacillus gasseri、Lactobacillus amylovorusを挙げられる。
【0023】
また、ラクトバチルス属以外の乳酸菌としては、ストレストコッカス(Streptococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、およびラクトコッカス(Lactococcus)属等に属するものが含まれ、これらの具体例として、Streptococcus themophilus、Leuconostoc mesenteroides、Pediococcus pentosaceus、Enterococcus faecalis、Lactococcus lactis、Enterococcus faecium、Leuconostoc lactis、Lactococcus cremoris等を挙げられる。
【0024】
本発明による生残性向上剤が適用されうるビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属に属する菌であり、具体的な例を挙げれば、Bifidobacterium lactis、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium infantis、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium animalis、Bifidobacterium catenulatum、Bifidobacterium dentium等を挙げられる。このうち、好ましい例として、Bifidobacterium lactisが挙げられる。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、有効成分とするアミノ酸に加えて、Zn、葉酸、MgCO、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類をさらに含んでなる、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤が提供される。このような追加成分としては、さらにアスコルビン酸なども挙げられる。
【0026】
本発明の別の態様によれば、Zn、葉酸、MgCO、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類を有効成分とする、乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上剤が提供される。
【0027】
乳酸菌には酸や酸素に対する防御機構があると考えられており、その強弱によって酸や酸素に強い菌や弱い菌がいるとされる。細胞内の酵素反応を補助するような無機塩類などによる細胞活性の増加によって、生残性が向上されたものと考えられた。なお、これらは理論であって、本発明を限定するものではない。このように、アミノ酸にさらに、これら無機塩類を添加することは、生残性を向上させる上で、より有益であると言える。
【0028】
組成物、および生残性の向上方法
本発明のさらに別の態様によれば、本発明による生残性向上剤と、乳酸菌および/またはビフィズス菌とを含んでなる組成物が提供される。このような組成物は、好ましくは食品組成物であり、具体例としては、清涼飲料、乳性飲料、発酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料等を挙げられる。
【0029】
本発明による生残性向上剤と、乳酸菌および/またはビフィズス菌とを含んでなる組成物は、そのまま使用したり、さらに他の食品や他の成分を混合したりすることで、通常の食品組成物におけるように常法に従って用いることができる。また、その性状についても通常で用いられる飲食品の状態や形態、例えば、固体状(粉末、顆粒状、その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでも良い。
【0030】
本発明の一つの好ましい態様によれば、アミノ酸を、pH2.0〜6.5の範囲の低pH環境下の、乳酸菌および/またはビフィズス菌含有組成物に添加することを含んでなる、食品組成物の製造方法が提供される。得られる食品組成物は、本発明における生残性向上機能を有するものである。
【0031】
ここで、アミノ酸の添加の時期と組成物の発酵時期との関係は、アミノ酸添加を、該組成物の発酵前、発酵中、発酵後のいずれにおいて行っても構わないが、製品全体で効果や作用などを均一に管理しやすいことから、好ましくは該組成物の発酵前であり、添加するアミノ酸等を衛生的に管理しやすいことから、より好ましくは該組成物の殺菌前である。
すなわち、本発明のより好ましい態様によれば、食品組成物の製造方法は アミノ酸の前記組成物への添加の後に、組成物の発酵を行うことを更に含む。
本発明のさらに好ましい態様によれば、食品組成物の製造方法は、Zn、葉酸、MgCO3、およびこれらの混合物からなる群より選択される無機塩類をアミノ酸と共に添加することを更に含む。
【0032】
本発明の組成物に加えることが可能な他の成分として、例えば、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を挙げられる。さらには、ゲル化剤、安定剤等の添加成分も挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0033】
本発明による組成物において、生残性向上剤として加えられたアミノ酸は、好ましくは、該組成物100g当たり50mg以上で含まれてなり、より好ましくは該組成物100g当たり50mg〜300mg、さらに好ましくは該組成物100g当たり50mg〜200mgで含まれてなるように、生残性向上剤を使用する。該組成物中におけるアミノ酸含有量が、上記範囲内あることは、アミノ酸による生残性向上効果が十分に奏される上で有益であり、またアミノ酸の多量の使用による組成物の風味や物性への悪影響を及ぼさせない上で有効である。
【0034】
本発明による組成物(好ましくは食品組成物)においては、乳酸菌を、好ましくは10CFU/g以上、より好ましくは10〜10CFU/gの範囲、さらに好ましくは、10〜10CFU/gの範囲で含むことができ、またビフィズス菌を、好ましくは10CFU/g以上、より好ましくは10〜10CFU/gの範囲、さらに好ましくは、10〜10CFU/gの範囲で含むことができる。
【0035】
本発明の別の態様によれば、本発明による生残性向上剤を、乳酸菌および/またはビフィズス菌含有組成物に添加することを含んでなる、食品組成物において乳酸菌および/またはビフィズス菌の生残性向上させる方法が提供される。ここで、生残性向上剤の添加の時期としては、該組成物の発酵前、発酵中、発酵後のいずれでも構わないが、製品全体で効果や作用などを均一に管理しやすいことから、好ましくは該組成物の発酵前であり、添加するアミノ酸等を衛生的に管理しやすいことから、より好ましくは該組成物の殺菌前である。
【0036】
なお、本明細書において、「約」や「程度」を用いた値の表現は、その値を設定することによる目的を達成する上で、当業者であれば許容することができる値の変動を含む意味である。
【実施例】
【0037】
本発明を以下の例によって詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0038】
(1) 供試菌株および培養方法
乳酸菌として、低pH環境下(例えば、発酵乳中)での生残性の異なるL. gasseri OLL203195 (FERM BP-11005)、L. gasseri MEP22040001、L. gasseri MEP22040002、L. gasseri JCM1131T およびL. amylovorus OLL2880 (FERM BP-11006)を使用した。このとき、L. gasseri OLL203195は、低pH環境下での生残性が比較的低い菌体の代表として、L. gasseri MEP22040001は、低pH環境下での生残性が中程度の菌体の代表として、L. gasseri MEP22040002は、低pH環境下での生残性が比較的高い菌体の代表として、L. gasseri JCM1131Tは、ラクトバチルス(Lactobacillus)属の乳酸菌の代表あるいはガセリ(Lactobacillus gasseri)菌の代表として使用した。
なお、L. gasseri OLL203195(Lactobacillus gasseri OLL203195)は、独立行政法人
産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに2008年9月2日に寄託され、本微生物は、受託番号で FERM BP-11005 として受託されている。
また、L. amylovorus OLL2880(Lactobacillus amylovorus OLL2880)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに2008年9月2日に寄託され、本微生物は、受託番号で FERM BP-11006 として受託されている。
そして、JCMは、理化学研究所 微生物系統保存施設 (Japan Collection of Microorganisms)の意味であり、現在では、独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター (RIKEN BRC) 微生物材料開発室となっている。
各菌株はMRS培地において、嫌気培養システム(アネロパック(商品名、三菱ガス化学株式会社製)を用いて嫌気培養(37℃、24時間)した。次いで、これら得られた培養液を10倍に濃縮し、0.85%生理食塩水で懸濁して、菌体濃縮液(菌体濃度:約1010CFU/g)として使用した。
【0039】
(2) バルクスターターの調製
脱脂粉乳の10重量%水溶液を95℃、10分間で殺菌してから、そこへスターター(明治十勝ヨーグルトから分離した混合スターター)の0.15重量%を接種し、酸度が0.75に達するまで37℃で発酵させた後に、4℃に冷やして、バルクスターターとした。
【0040】
(3) 発酵乳での生残性の測定
ヨーグルトミックス(原料乳)(表1)を95℃の達温にて殺菌してから、そこへ前記のバルクスターターの3重量%および各乳酸菌の1重量%を接種し、酸度が0.75に達するまで43℃で発酵させた。
生残性向上剤またはその比較例として、アミノ酸(チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン、システイン、アラニン)(各100mg/100g)、ビタミンC(100mg/100g)、MgCO(200mg/100g)、葉酸(200μg/100g)、亜鉛(Zn)(1mg/100g)をそれぞれ使用した。これら生残性向上剤および比較例は、原則として、前記の発酵前かつ殺菌前に所定量で加えた(ただし、ビタミンCと葉酸は熱に弱いため、殺菌後に添加した)。発酵の終了後に、各サンプルを、セミバリアカップの容器に入れ、これを4℃に冷やした後に、ヒートシーラーを用いて、アルミ蓋をした。
これら得られたアルミ蓋をした各サンプルの発酵乳を、4℃にて保存した。
発酵乳中における生残性(保存温度:4℃)を、保存開始から1日後および16日後にそれぞれBL(+)好気培養(馬脱繊血を5%で添加したBL培地において、好気条件で培養すること)と、LBS嫌気培養(LBS培地において、嫌気培養システム(アネロパック(商品名、三菱ガス化学株式会社製)を用いて嫌気条件で培養すること)にて、72hで確認した。
具体的には、各サンプルにおける生菌数を求め、生残率は16日後の菌数を1日目の菌数で割り、%に換算して求めた。ここでの菌数は、使用した培地の中で菌数が最も高かった培地での平均値を使用した。
【0041】
【表1】
【0042】
実験結果は下記の表2および表3に示される通りであった。
なお、表2と表3では、製造日時が異なるため、コントロール群での生残性の違いは日ごとの実験誤差による。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
また、ビタミンC、MgCO、葉酸、および亜鉛(Zn)の各場合について、実験結果は下記の表4および表5に示される通りであった。
【0046】
【表4】

【表5】
【0047】
(4) 生残性の測定(アミノ酸量の違いによる影響)
乳酸菌としてL. gasseri OLL2680を使用し、かつ生残性向上剤としてのアミノ酸の種類と添加量を下記の表の通りとした以外は、前記(3)の実験と同様にして、生残性(生残率)を求めた。
結果は下記の表6に示される通りであった。
【0048】
【表6】
【0049】
(5) 生残性の測定(アミノ酸量の違いによる影響)
乳酸菌としてL. gasseri OLL2802とL. gasseri OLL2680を使用し、かつ生残性向上剤としてアミノ酸(トリプトファン)を使用して、その添加量を1、10、50、および100mg/100gとした以外は、前記(3)の実験と同様にして、生残率を求めた。
実験結果は下記の表7に示される通りであった。
【0050】
【表7】
【0051】
上記の結果から、トリプトファン(アミノ酸)の濃度が50mg/100g以上の場合に、乳酸菌の生残性向上効果が認められた。
【0052】
(6) 生残性測定(アミノ酸の混合物を用いた場合)
乳酸菌としてL. gasseri OLL2802とL. gasseri OLL2680を使用し、かつ生残性向上剤として、下記のような2種類のアミノ酸の組み合わせ(混合物)を使用した以外は、前記(3)の実験と同様にして、生残率を求めた。
実験したアミノ酸の組合せは下記の通りであった。
(a) トリプトファン:50mg/100g + ヒスチジン:50mg/100g
(b) トリプトファン:50mg/100g + チロシン: 50mg/100g
(c) トリプトファン:50mg/100g + システイン:50mg/100g
実験結果は下記の表8に示される通りであった。
【0053】
【表8】
【0054】
(7) 生残性測定(ビフィズス菌を使用した場合)
乳酸菌の代わりにビフィズス菌(B.animalis subsp. lactis JCM10602T)を使用し、かつ生残性向上剤としてアミノ酸(トリプトファン)を使用して、その添加量を50、100、および200mg/100gとした以外は、前記(3)の実験と同様にして、生残率を求めた。
実験結果は下記の表9に示される通りであった。
【0055】
【表9】