特許第6484778号(P6484778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484778
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】複合電解質膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1051 20160101AFI20190311BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20190311BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20190311BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20190311BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190311BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/1023 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/1025 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/1027 20160101ALI20190311BHJP
   H01M 8/1032 20160101ALI20190311BHJP
【FI】
   H01M8/1051
   C08J5/22CEZ
   H01B1/06 A
   H01B1/12 Z
   H01B13/00 Z
   H01M8/10 101
   H01M8/1023
   H01M8/1025
   H01M8/1027
   H01M8/1032
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-571402(P2016-571402)
(86)(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公表番号】特表2017-525088(P2017-525088A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】KR2015005967
(87)【国際公開番号】WO2015190887
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2017年11月20日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0072441
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、セオン ホ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジョン−チャン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒュク
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドヨウン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジ フン
(72)【発明者】
【氏名】コ、テユン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、ボ−キュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キヒュン
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−224132(JP,A)
【文献】 Journal of Membrane Science,2011年12月24日,Vol.392−393,pp.157−166
【文献】 Journal of Power Sources,2007年10月13日,Vol.178,No.2,pp.661−666
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1051
C08J 5/22
H01B 1/06
H01B 1/12
H01B 13/00
H01M 8/10
H01M 8/1023
H01M 8/1025
H01M 8/1027
H01M 8/1032
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される繰り返し単位および下記化学式2で表される繰り返し単位を含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体、および
無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むコア−シェル粒子
を含む複合電解質膜:
【化1】
【化2】
前記化学式1および2において、
R1〜R3、およびR8〜R10は各々独立して−O−、−S−、−SO−、−C=O−または−C(CH−であり、
R4〜R7およびR13〜R16は各々独立して水素、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、
R11、R12およびR18のうち少なくとも1つは−SOR17であり、残りは水素、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、
R17はH、Li、NaまたはKであり、
AおよびA'は各々独立して直接結合、2価のフルオレン基、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、
m、n、o、pおよびrは各々独立して0〜4であり、q、sおよびtは各々独立して0〜3であり、
yは0または1であり、
aおよびbは化学式1および2のモル比として各々独立して0.1〜0.99である。
【請求項2】
前記無機粒子コアは、シリカ粒子、TiOおよびZrOからなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項3】
前記無機粒子コアの直径は20〜900nmである、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項4】
前記無機粒子コアは表面処理された無機粒子を含み、
前記表面処理は、シラン系化合物を用いて、無機粒子とシラン系化合物間の縮合反応によって行われる、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項5】
前記無機粒子の表面にビニル基を含む、請求項4に記載の複合電解質膜。
【請求項6】
前記塩基性有機高分子シェルは、ポリ(4−ビニルピリジン)、および下記構造式の単量体の中から選択される1種以上を用いて製造された高分子からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の複合電解質膜:
【化3】
【請求項7】
前記塩基性有機高分子シェルの厚さは5〜20nmである、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項8】
前記複合電解質膜は燃料電池用である、請求項1に記載の複合電解質膜。
【請求項9】
下記化学式1で表される繰り返し単位および下記化学式2で表される繰り返し単位を含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を準備するステップ、
前記ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体と、無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むコア−シェル粒子とを含む組成物を準備するステップ、および
前記組成物を用いて複合電解質膜を形成するステップ
を含む複合電解質膜の製造方法:
【化4】
【化5】
前記化学式1および2において、
R1〜R3、およびR8〜R10は各々独立して−O−、−S−、−SO−、−C=O−または−C(CH−であり、
R4〜R7およびR13〜R16は各々独立して水素、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、
R11、R12およびR18のうち少なくとも1つは−SOR17であり、残りは水素、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、
R17はH、Li、NaまたはKであり、
AおよびA'は各々独立して直接結合、2価のフルオレン基、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、
m、n、o、pおよびrは各々独立して0〜4であり、q、sおよびtは各々独立して0〜3であり、
yは0または1であり、
aおよびbは化学式1および2のモル比として各々独立して0.1〜0.99である。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合電解質膜を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2014年6月13日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2014−0072441号の出願日の利益を主張し、その内容の全ては本明細書に含まれる。本出願は複合電解質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、石油や石炭のような既存のエネルギー資源の枯渇が予測されており、これらを代替できるエネルギーに対する関心が高まっている。このような代替エネレギーの1つとして、燃料電池は、高効率であり、NOxおよびSOxなどの公害物質を排出せず、用いられる燃料が豊かであるなどの長所によって特に注目されている。
【0003】
燃料電池は燃料と酸化剤の化学反応エネルギーを電気エネルギーに変換させる発電システムであり、燃料としては水素とメタノール、ブタンなどのような炭化水素が、酸化剤としては酸素が代表的に用いられる。
【0004】
燃料電池には高分子電解質型燃料電池(PEMFC)、直接メタノール型燃料電池(DMFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)などがある。この中でも高分子電解質型燃料電池はエネルギー密度が大きく出力が高いために最も活発に研究されている。このような高分子電解質型燃料電池は電解質として液体でない固体高分子電解質膜を用いるという点で他の燃料電池とは違いがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願は、水素イオン伝導度、機械的物性、寸法安定性などに優れた燃料電池用複合体膜およびその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の一実施態様は、
下記化学式1で表される繰り返し単位および下記化学式2で表される繰り返し単位を含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体;および
無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むコア−シェル粒子
を含む複合電解質膜を提供する。
【化1】
【化2】
前記化学式1および2において、
R1〜R3、およびR8〜R10は各々独立して−O−、−S−、−SO−、−C=O−または−C(CH−であり、
R4〜R7およびR13〜R16は各々独立して水素、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、
R11、R12およびR18のうち少なくとも1つは−SOR17であり、残りは水素、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、
R17はH、Li、NaまたはKであり、
AおよびA'は各々独立して直接結合、2価のフルオレン基、または炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキレン基であり、
m、n、o、pおよびrは各々独立して0〜4であり、q、sおよびtは各々独立して0〜3であり、
yは0または1であり、
aおよびbは化学式1および2のモル比として各々独立して0.1〜0.99である。
【0007】
また、本出願の他の実施態様は、
前記化学式1で表される繰り返し単位および前記化学式2で表される繰り返し単位を含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を準備するステップ、
前記ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体と;無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むコア−シェル粒子とを含む組成物を準備するステップ、および
前記組成物を用いて複合電解質膜を形成するステップ
を含む複合電解質膜の製造方法を提供する。
【0008】
なお、本出願の他の実施態様は前記複合電解質膜を含む燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本出願に係る複合電解質膜は、塩基性有機高分子シェルを有するコア−シェル粒子とポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を含むことによって、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体のみを含む高分子電解質膜に比べて、水素イオン伝導度、寸法安定性、機械的強度などを向上させることができる。
【0010】
また、本出願に係る複合電解質膜は、シェル構造を含まない粒子およびポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を含む複合電解質膜に比べて、水素イオン伝導度、寸法安定性などを向上させることができる。
【0011】
なお、本出願に係る複合電解質膜は、酸性高分子シェルを有するコア−シェル粒子とポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を含む複合電解質膜に比べて、水素イオン伝導度、寸法安定性などを向上させることができる。
【0012】
特に、本出願に係る複合電解質膜は、無機コアの大きさ、有機高分子シェルの大きさ、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体とコア−シェル粒子間の含量比などに応じて水素イオン伝導度、機械的物性、寸法安定性などを調節できる柔軟性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本出願の一実施態様による複合電解質膜のコア−シェル粒子を形成する工程を概略的に示す図である。
図2】本出願の一実施態様による複合電解質膜を製造する工程を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本出願をより詳細に説明する。
【0015】
炭化水素系高分子電解質膜は優れた熱および酸化安定性、機械的物性、加工性などを有しているが、概してナフィオンに比べて水素イオン伝導度が落ちるという短所を有している。水素イオン伝導度を高めるために、スルホン酸基の含量を増やしてスルホン化度を過度に高めると、含水率が増加して大きい膨脹率を持つようになり、そのために寸法安定性が低下する。このような寸法安定性の減少を克服するための方法のうちの1つとして、高分子マトリックスに無機物を添加した複合電解質膜の製造が研究されてきた。その中でも吸湿性に優れたシリカ粒子の使用は寸法安定性だけでなく水素イオン伝導度を向上させることができた。
【0016】
従来のシリカ粒子は高分子マトリックス内でよく固まる現象が発生し、そのために電解質膜にも欠陥として作用するという問題点がある。そこで、本出願では、高分子マトリックスと酸−塩基相互作用ができる塩基性有機高分子を導入して形成されたコア−シェル粒子を用いることによって分散性を向上させようとした。
【0017】
また、従来のスルホン酸基を含む高分子シェルを用いたコア−シェルシリカ粒子を含む複合電解質膜は高いIEC(ion exchange capacity)を基に高い水素イオン伝導度を有することができるが、高い膨脹率によって安定性が減少するという問題点がある。そこで、本出願では、塩基性有機高分子シェルを用いることによって、酸−塩基相互作用を通じて寸法安定性と水素イオン伝導度を同時に向上させようとした。
【0018】
本出願の一実施態様による複合電解質膜は、前記化学式1で表される繰り返し単位および前記化学式2で表される繰り返し単位を含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体;および無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むコア−シェル粒子を含むことを特徴とする。
【0019】
本出願において、前記化学式1で表される繰り返し単位はスルホン酸基を含まない単量体であり、前記化学式2で表される繰り返し単位はスルホン酸基を含む単量体であって、これらのモル比を調節して共重合体内のスルホン化度を調節することができる。
【0020】
本出願において、前記化学式2で表される繰り返し単位のモル比が低すぎる場合には、水素イオン伝導度が十分に確保されないため、前記化学式2で表される繰り返し単位のモル比を最大限高めることが好ましい。スルホン酸基を含まない繰り返し単位とスルホン酸基を含む繰り返し単位のモル比を1:1に合成する場合には、ナフィオンと類似するか若干低い水素イオン伝導度を有し、スルホン酸基を含む繰り返し単位のモル比がそれ以上に多くなると、共重合体の重合度を高め難く、その共重合体を用いて製造した電解質膜の寸法安定性が急激に低下しうる。本出願では、化学式1で表される繰り返し単位:化学式2で表される繰り返し単位のモル比が1:0.1〜2:3であってもよいが、これのみに限定されるものではない。
【0021】
本出願において、前記化学式2は下記化学式2−1で表されることができる。
【化3】
前記化学式2−1において、R8〜R16、R18、A'、q、r、s、t、yおよびbは前記化学式2の定義と同様である。
【0022】
本出願において、前記化学式1および化学式2で表される繰り返し単位を主鎖として含む共重合体は、ジヒドロキシ単量体、ジフルオロ単量体、下記構造式の単量体などを用いて製造することができる。
【化4】
【0023】
本出願において、前記架橋されたポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体の粘度は1.23dL g−1であってもよいが、これのみに限定されるものではない。
【0024】
また、本出願において、前記架橋されたポリ(アリーレンエーテルスルホン)のスルホン化度は0超過0.6以下であってもよいが、これのみに限定されるものではない。
【0025】
本出願において、前記共重合体の重量平均分子量は10,000〜3,000,000であり、具体的には50,000〜1,000,000であることが好ましく、50,000〜800,000であることがより好ましい。前記範囲内にある時に高い溶解度と優れた機械的物性を有することができる。
【0026】
一般に、芳香族炭化水素系高分子電解質膜は寸法安定性と機械的物性に優れる反面、水素イオン伝導度が高いのが短所であるといえる。それを克服するためにスルホン化度を高めると、電解質膜の寸法安定性と機械的物性が低下するという問題が発生する。本出願の一実施態様による架橋されたポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体は、スルホン酸基を含有する架橋構造を含むため、電解質膜全体のスルホン化度を高めることができ、それにより、水素イオン伝導度に有利な効果をもたらすと同時に架橋を通じて電解質膜の寸法安定性と機械的物性の低下を防止する効果をもたらす。すなわち、本出願の一実施態様による架橋された電解質膜は水素イオン伝導度だけでなく寸法安定性および機械的物性も向上した性能を示すことができる。
【0027】
本出願において、前記コア−シェル粒子は無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むことを特徴とする。
【0028】
前記無機粒子コアはシリカ粒子、TiO、ZrOなどを含むことができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0029】
前記無機粒子コアは無機粒子または表面処理された無機粒子を用いることができる。前記表面処理は、ビニルトリメトキシシランなどのようなシラン系化合物を用いて、無機粒子とシラン系化合物間の縮合反応によって行われることができ、前記表面処理によって無機粒子表面にビニル基を含むことが好ましいが、これのみに限定されるものではない。
【0030】
前記無機粒子のコアの直径は20nm〜900nm、具体的には700〜800nmであってもよいが、これのみに限定されるものではない。無機粒子コアの直径は無機粒子の合成時に溶液のpHを変化して調節することができる。前記無機粒子コアの直径が前記範囲内にある時、分散度を高めて無機粒子の固まりを防止し、電解質膜の優れた表面特性を有することができる。
【0031】
本出願の一実施態様によれば、前記塩基性有機高分子シェルにおける「塩基」は、ルイス(Lewis)定義によって非共有電子対を有し、前記電子を与えることができる電子供与体(electron donor)であると解釈できる。前記塩基性有機高分子シェルはスルホン酸基を含んで酸基を有する共重合体と酸−塩基相互作用をすることができる。
【0032】
前記塩基性有機高分子シェルはポリ(4−ビニルピリジン);下記構造式の単量体の中から選択される1種以上を用いて製造された高分子などを含むことができるが、これのみに限定されるものではない。
【化5】
【0033】
前記塩基性有機高分子シェルの厚さは5〜20nmであってもよいが、これのみに限定されるものではない。
【0034】
前記コア−シェル粒子は無機粒子表面のビニル基と有機高分子間のラジカル重合によって形成することができる。
【0035】
本出願において、前記コア−シェル粒子の含量はポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体の総重量を基準に0超過10重量%であってもよいが、これのみに限定されるものではない。
【0036】
本出願に係る複合電解質膜は水素イオン伝導度だけでなく機械的物性、寸法安定性などを向上させるという特徴がある。
【0037】
シリカ粒子のような無機粒子を高分子電解質膜に導入する場合には、高分子と無機粒子間の相互作用によって安定性および機械的物性が向上できる。特に、本出願では無機粒子に塩基性高分子シェルを導入した。スルホン酸基を持っていて酸性を帯びるポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体は、このように導入された塩基性高分子シェルと酸−塩基相互作用をしてコア−シェルシリカ粒子がよりよく混合されるようにする。それのみならず、酸−塩基相互作用によって安定性および機械的物性がさらに向上できる。電解質膜の水素イオン伝導度が向上するためにはスルホン酸基の量が多くなければならない。塩基性シェルのスルホン酸基が水素イオンを抑えておくため、酸性シェルを導入した時よりは有効なスルホン酸基の量が少ない。しかし、塩基性シェルを有する無機粒子を導入して複合電解質膜を製造する場合には、シェルと共重合体間の酸−塩基相互作用の影響により、電解質膜が水を含んだ状態で膨張が少なく発生するようになる。その結果、水を含んだ電解質膜の単位体積当たりのスルホン酸基の個数は、塩基性シェルを有する無機粒子が導入された電解質膜の場合の方が、酸性シェルが導入された場合よりも多くなる。それにより、安定性および物性の向上と水素イオン伝導度の向上を図ることができる。
【0038】
また、本出願の一実施態様による複合電解質膜の製造方法は、前記化学式1で表される繰り返し単位および前記化学式2で表される繰り返し単位を含むポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を準備するステップ、前記ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体と;無機粒子コアおよび塩基性有機高分子シェルを含むコア−シェル粒子とを含む組成物を準備するステップ、および前記組成物を用いて複合電解質膜を形成するステップを含む。
【0039】
本出願において、前記組成物は有機溶媒をさらに含むことができ、前記有機溶媒は当技術分野で周知のものを制限なしで用いることができる。すなわち、前記組成物はポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体とコア−シェル粒子を有機溶媒に溶かして製造することができる。
【0040】
前記複合電解質膜を形成する方法は溶液工程を利用することができるが、これのみに限定されるものではない。
【0041】
本出願の一実施態様において、前記溶液工程はDMF(N,N−dimethylformamide)にコア−シェル粒子を入れ、超音波処理して粒子を分散させる工程によって行われることができる。この溶液をDMFにポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体が溶けられた溶液に入れて混合した後、この溶液をガラス板にキャスティングして60℃で12時間熱処理して溶媒を揮発させて複合電解質膜を製造することができる。
【0042】
本出願は前記複合電解質膜を含む膜電極接合体を提供する。より具体的には、前記膜電極接合体は、前記複合電解質膜の一面に備えられるカソード、および前記複合電解質膜の他面に備えられるアノードをさらに含むことができる。
【0043】
前記カソードおよびアノードは各々触媒層および気体拡散層を含むことができ、前記高分子電解質膜はカソード触媒層とアノード触媒層との間に備えられることができる。前記高分子電解質膜はカソード触媒層とアノード触媒層と接触して備えられることができる。
【0044】
本出願において、前記複合電解質膜はカソード触媒層とアノード触媒層との間に備えられることができ、水素イオンが通じる媒介体であると同時に空気と水素ガスの分離膜の役割をすることができる。複合電解質膜の水素イオン移動度が高いほど、膜電極接合体の性能を高くなる。
【0045】
本出願において、前記カソードおよびアノードは本明細書の燃料電池用電極であってもよい。
【0046】
前記アノードの触媒層では燃料の酸化反応が起こり、前記カソードの触媒層では酸化剤の還元反応が起こる。
前記触媒層は触媒を含むことができる。
【0047】
前記触媒は燃料電池における触媒の役割をすることができるものであればその種類は限定されないが、白金、遷移金属および白金−遷移金属合金のうち1つを含むことができる。
【0048】
ここで、遷移金属は周期律表上の3〜11族元素であり、例えば、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、モリブデンおよびロジウムのうちいずれか1つであってもよい。
【0049】
具体的には、前記触媒は白金、ルテニウム、オスミウム、白金−ルテニウム合金、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金、白金−モリブデン合金および白金−ロジウム合金からなる群より選択されるものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
前記触媒層の触媒は、そのもので触媒層として用いられるだけでなく、炭素系担体に担持されて用いられてもよい。
【0051】
前記炭素系担体としては、黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、ケッチェンブラック、活性炭素、メソ多孔性炭素、炭素ナノチューブ、炭素ナノ繊維、カーボンナノホーン、カーボンナノリング、カーボンナノワイヤー、フラーレン(C60)およびスーパーPブラック(Super P black)からなる群より選択されるいずれか1つまたは2つ以上の混合物が好ましい例として挙げられる。
【0052】
前記触媒層はアイオノマーをさらに含むことができる。
【0053】
前記アイオノマーは、水素やメタノールのような燃料と触媒間の反応によって生成されたイオンが複合電解質膜に移動するための通路を提供する役割をする。
【0054】
前記アイオノマーは、具体的には、ナフィオンアイオノマーまたはスルホン化ポリトリフルオロスチレンのようなスルホン化したポリマーが用いられることができる。
【0055】
本明細書の一実施態様において、前記燃料電池用電極は触媒層の一面に備えられた気体拡散層をさらに含むことができる。前記気体拡散層は電流伝導体としての役割と共に反応ガスと水の移動通路になるものであり、多孔性の構造を有する。よって、前記気体拡散層は導電性基材を含んでなる。
【0056】
前記導電性基材としては当技術分野で周知の通常の材料を用いることができるが、例えば、カーボンペーパー(Carbon paper)、炭素布(Carbon cloth)または炭素フェルト(Carbon felt)が好ましく用いられることができ、これらのみに限定されるものではない。
【0057】
本出願は前記複合電解質膜を含む燃料電池を提供する。
【0058】
本出願の一実施態様は、前記2以上の膜電極接合体と膜電極接合体の間に備えられたセパレーターとを含むスタック;燃料をスタックに供給する燃料供給部;および酸化剤をスタックに供給する酸化剤供給部を含む燃料電池を提供する。
【0059】
前記スタックは上述した膜電極接合体を1つまたは2つ以上含み、膜電極接合体が2つ以上含まれる場合にはこれらの間に介在するセパレーターを含む。セパレーターは、膜電極接合体が電気的に接続されるのを防止し、外部から供給された燃料および酸化剤を膜電極接合体に伝達する役割をする。
【0060】
前記酸化剤供給部は酸化剤をスタックに供給する役割をする。酸化剤としては酸素が代表的に用いられ、酸素または空気をポンプで注入して用いることができる。
【0061】
燃料供給部は燃料をスタックに供給する役割をし、燃料を貯蔵する燃料タンクおよび燃料タンクに貯蔵された燃料をスタックに供給するポンプで構成されることができる。燃料としては気体または液体状態の水素または炭化水素燃料が用いられることができる。炭化水素燃料の例としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールまたは天然ガスが挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下では実施例を通じて本明細書をより詳細に説明する。但し、以下の実施例は本明細書を例示するためのものに過ぎず、本明細書を限定するためものではない。
【0063】
<実施例1>
1)ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体の製造
【化6】
【0064】
ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体は、4,4'−ジヒドロキシビフェニル単量体と3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4−ジフルオロジフェニルスルホン単量体間の求核性置換反応によって合成された。本出願において、3,3'−ジスルホネート−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホンと4,4−ジフルオロジフェニルスルホンを1:1のモル比で用いた。合成された共重合体は50%のスルホン化度を有しており、「PAES−50」と命名した。
【0065】
2)コア−シェル粒子の製造
図1に示すように、常温で蒸留水にビニルトリメトキシシラン(VTMS)を入れ、攪拌しながらアンモニア水をいれた。12時間の経過後に得たシリカ粒子を蒸留水とエタノールで洗浄した。このように得られたシリカ粒子は「Si」と表記し、この粒子は表面にビニル基を持っていてラジカル反応をすることができる。
【0066】
シリカ粒子と4−ビニルピリジンをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶かした溶液に開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(azobisisobutyronitrile、AIBN)を入れ、60℃で2日間ラジカル重合を行った。
【0067】
反応後、シリカ粒子を蒸留水とエタノールで洗浄し、このように作ったシリカ粒子は塩基性高分子であるポリ(4−ビニルピリジン)シェルを有するコア−シェルシリカ粒子であり、「P−Si」と命名した。
【0068】
<比較例1>
前記実施例1において、コア−シェル粒子の製造時、4−ビニルピリジンの代わりにスチレン−4−スルホン酸ナトリウム塩を用いて同一反応を行った。ポリ(スチレン−4−スルホン酸基)のナトリウムイオンを水素イオンに変えるために、常温で24時間1M硫酸で処理した後に蒸留水で洗浄した。このように作ったシリカ粒子は酸性高分子であるポリ(スチレン−4−スルホン酸基)シェルを有するコア−シェルシリカ粒子であり、「S−Si」と命名した。
【0069】
<実験例>複合電解質膜の製造
図2に示すように、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)にシリカ粒子を入れ、超音波処理をして分散させた。シリカがDMFに分散された溶液をPAES−50がDMFに15重量%で溶けられた溶液に入れた後に24時間攪拌した。
【0070】
この混合溶液をドクターブレードによってガラス板に250μmでキャスティングした後、オーブンで60℃で12時間熱処理した。上記のように作られた電解質膜は蒸留水に含浸してガラス板から引き離した後、常温で1M硫酸水溶液で24時間処理し、沸く蒸留水で洗浄した。
【0071】
SiとPAES−50を混ぜて作った複合電解質膜を「Si50」、S−SiとPAES−50を混ぜて作った複合体膜を「S−Si50」、P−SiとPAES−50を混ぜて作った複合体膜を「P−Si50」と命名し、各々、PAES−50の重さに対比して5重量%の粒子が用いられた。シェル構造を導入していないシリカ粒子(Si)を5重量%以上添加した時に複合電解質膜内でシリカ粒子同士で固まる現象が示されるため、5重量%において比較を行った。
【0072】
1)水素イオン伝導度
本出願では、コア−シェルシリカ粒子を導入することによって複合電解質膜の水素イオン伝導度を向上させることができる。
【0073】
シリカ粒子は高分子マトリックスと複合体膜を形成して寸法安定性と機械的物性を強化させつつも優れた吸湿性を基に水素イオン伝導度を向上させることができ、スルホン酸基を有する高分子シェルを有するコア−シェルシリカ粒子は水素イオンを伝達するスルホン酸基がより多いため、電解質膜の伝導度をさらに向上させることができる。このことは80℃、90%湿度、80℃、50%湿度で測定した水素イオン伝導度データから知ることができる。その反面、塩基性高分子は高分子マトリックスのスルホン酸基から出る水素イオンを抑えておくため、水素イオン伝導度が減少すると知られているが、本出願において、P−Si50はS−Si50と比較して80℃、90%湿度および50%湿度においていずれもさらに高い水素イオン伝導度を示した。これは、P−SiとPAES−50間の酸−塩基相互作用によって水素イオンが移動できるイオンチャネルがよりよく発達したことだけでなく、P−Siと硫酸間の酸−塩基相互作用によってP−Siが硫酸を強く抑えておくことの影響であるといえる。
【0074】
このような理由により、「Vehicle mechanism」に比べて「Grotthuss mechanism」の影響がより重要となる低温(30℃)においてP−Si50とS−Si50の水素イオン伝導度差はより大きく示される。
【0075】
【表1】
【0076】
2)水吸収特性
含水率および膨脹率は電解質膜を30℃の蒸留水に24時間浸した後に測定した。
【0077】
全般的にシリカ粒子が導入されることによって含水率、膨脹率、IECv(wet)が減少した。
【0078】
S−Si50と比較してP−Si50はほぼ同じ含水率を示しつつも低い膨脹率を示している。含水率が高いほど、水素イオンが移動できる媒介体が多くなるため、水素イオン伝導度の面では有利であるが、膨脹率も高くなるにつれて寸法安定性を無くす傾向がある。しかし、本出願において、P−Si50はS−Si50と同じ含水率を有しつつも膨脹率が低いため、寸法安定性の面にも向上した様子を示した。
【0079】
IECv(wet)は、電解質膜が水に濡れた状態で高分子の単位体積当たり何mmolのスルホン酸基があるかを示す値である。本出願において、Siはスルホン酸基がないため、PAES−50に添加された時にIECv(wet)値が減少する。S−Siはスルホン酸基を有する高分子シェルがあるため、Si50に比べてS−Si50のIECv(wet)値が増加する。P−Siはスルホン酸基の水素イオンを抑えておく塩基性高分子シェルを有しているため、PSi50はS−Si50より自由な水素イオンが少ない。しかし、膨脹率が低いため、P−Si50のIECv(wet)値がS−Si50より高い。このような結果は、スルホン酸基が少なくてもP−Si50がS−Si50と類似するかより高い水素イオン伝導度を示すことに反映されている。これとは異なり、PAES−50よりはP−Si50のIECv(wet)が低い反面、P−Si50の水素イオン伝導度が高いことから、P−Si50内のイオンチャネルがよりよく発達したと結論付けることができ、これはP−SiとPAES−50間の酸−塩基相互作用の影響のためである。
【0080】
【表2】
【0081】
3)機械的物性
機械的物性はUTM(universal testing machine)を用いて測定した。標本は電解質膜をASTM standard D639を用いてdog−bone状に切ったものであった。測定条件は25℃、40%湿度であった。
【0082】
3種類のシリカ粒子Si、S−Si、P−Siを添加した結果、膜の引張強度とモジュラスが増加し、elongationが減少した。
【0083】
【表3】
【0084】
本出願に係る複合電解質膜は、塩基性有機高分子シェルを有するコア−シェル粒子とポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を含むことによって、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体のみを含む高分子電解質膜に比べて、水素イオン伝導度、寸法安定性、機械的強度などを向上させることができる。
【0085】
また、本出願に係る複合電解質膜は、シェル構造を含まない粒子およびポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を含む複合電解質膜に比べて、水素イオン伝導度、寸法安定性などを向上させることができる。
【0086】
なお、本出願に係る複合電解質膜は、酸性高分子シェルを有するコア−シェル粒子とポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体を含む複合電解質膜に比べて、水素イオン伝導度、寸法安定性などを向上させることができる。
【0087】
特に、本出願に係る複合電解質膜は、無機コアの大きさ、有機高分子シェルの大きさ、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)共重合体とコア−シェル粒子間の含量比などに応じて水素イオン伝導度、機械的物性、寸法安定性などを調節できる柔軟性を有している。
図1
図2