【文献】
グリセリンの接触変換による1−プロパノール生成反応,第112回触媒討論会 討論会A予稿集,2013年 9月11日,P.208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化タングステン−担体複合体が、酸化タングステン前駆体と担体を接触させた生成物を260〜400℃で1〜500時間焼成したものである、請求項1に記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
前記第1工程が、水の存在下で行われる反応であり、前記水の存在量(質量)が、前記グリセリンに対して1〜20倍量である、請求項1〜7の何れか1項に記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、未利用資源であるグリセリンを原料として用い、工業的に有用な化合物を効率的に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体及び水素ガスの存在下で、グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを効率良く製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、以下の項<1>〜<12>から構成される。
<1> 酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体及び水素ガ
スの存在下で、グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを生成する第1工程を含むことを特徴とする、プロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<2> 前記酸化タングステン−担体複合体が、酸化タングステン前駆体と担体を接触さ
せた生成物を260〜400℃で1〜500時間焼成したものである、<1>に記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<3> 前記酸化タングステン前駆体が、メタタングステン酸アンモニウム((NH
4)
6
H
2W
12O
40)である、<2>に記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<4> 前記酸化タングステン前駆体が、タングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)である、<2>に記載のプロピレン及び/又は1−プロ
パノールの製造方法。
<5> 前記担体が銅−アルミナである、<1>〜<4>の何れかに記載のプロピレン及
び/又は1−プロパノールの製造方法。
<6> 前記酸化タングステン−担体複合体の三酸化タングステン(WO
3)の含有量が
、2.0〜20.0質量%である、<1>〜<5>の何れかに記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<7> 前記第1工程の反応温度が、220〜400℃である、<1>〜<6>の何れか
に記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<8> 前記第1工程が、水の存在下で行われる反応であり、前記水の存在量(質量)が
、前記グリセリンに対して1〜20倍量である、<1>〜<7>の何れかに記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<9> 前記第1工程が、連続式であり、水素ガスを供給して行われる工程である、<1
>〜<8>の何れかに記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<10> 前記水素ガスが、前記酸化タングステン−担体複合体1gに対して20〜30
0ml/minの速度で供給される、<1>〜<9>の何れかに記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<11> 前記グリセリンが、前記酸化タングステン−担体複合体1gに対して0.10
〜2.5g/Hrの速度で供給される、<1>〜<10>の何れかに記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<12> プロピレンを製造する方法である、<1>〜<11>の何れかに記載のプロピ
レン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
<13> シリカアルミナの存在下で、前記第1工程で生成した1−プロパノールからプ
ロピレンを生成する第2工程を含む、<12>に記載のプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プロピレン及び/又は1−プロパノールを効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0012】
<プロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法>
本発明の一態様であるプロピレン及び/又は1−プロパノールの製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体及び水素ガスの存在下で、グリセリンからプロピレン及び/又は
1−プロパノールを生成する第1工程を含むことを特徴とする(下記式(I)参照)。
【化1】
本発明者らは、特許文献1、2に記載されている技術を更に発展させ、酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体及び水素ガスの存在下で、グリセリンから工業的に有用なプロピレン及び/又は1−プロパノールを高転化率かつ高選択率で合成できることを見出したのである。近年、地球環境問題とりわけ二酸化炭素による温暖化現象が一段と顕在化してきており、化石燃料を消費し続ける限り、大気中への二酸化炭素の蓄積は解消できないことは確実である。本発明の製造方法は、化石資源を使用せずに工業的に有用なプロピレン及び/又は1−プロパノールを製造できる方法であり、二酸化炭素の削減に貢献できる方法なのである。
なお、「プロピレン及び/又は1−プロパノール」を製造するとは、プロピレン、1−プロパノール、又はプロピレンと1−プロパノールの両方を製造することを意味する。グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを生成する反応は、下記反応式に示されるように水素ガスを利用した脱水反応によって進行するものと考えられ、グリセリンから段階的に1−プロパノール、プロピレンのそれぞれが生成するものと考えられる。
【化2】
1−プロパノールの沸点は97.6℃であり、プロピレンの沸点は−47.7℃であるため、例えば常温で1−プロパノールは液体、プロピレンは気体の状態にある。従って、反応生成物が1−プロパノールとプロピレンの混合物として得られる場合であっても、簡易的な装置で容易に分離することが可能であり、それぞれを最終目的物として製造することができるのである。
また、「酸化タングステン」は、タングステン(W)原子と酸素(O)原子からなる化合物(水素(H)原子は含んでもよい。)であれば、タングステンの酸化数、組成、結晶構造等は特に限定されないものとする。なお、ケイタングステン酸(H
4(SiW
12O
40))やホスホタングステン酸(H
3(PW
12O
40))等のように、タングステン酸(W
mO
n)
x−骨格にヘテロ原子が挿入されたヘテロポリタングステン酸は、本発明における「酸化タングステン」には含まれないものとする。
加えて、「酸化タングステンと担体を複合化した酸化タングステン−担体複合体」とは、酸化タングステンと担体とが物理的又は化学的に結合している物質を意味し、酸化タングステンが担体に担持されている状態であっても、或いは酸化タングステンが担体内部に取り込まれて複合化している状態であってもよいことを意味する。
【0013】
本発明の製造方法は、酸化タングステン−担体複合体及び水素ガスの存在下で、グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを生成する第1工程を含むことを特徴とするが、以下、酸化タングステン−担体複合体について詳細に説明する。
前述のように、酸化タングステンは、タングステン(W)原子と酸素(O)原子からなる化合物(水素(H)原子は含んでもよい。)であれば、その他については特に限定されないが、タングステンの酸化数、組成、結晶構造等について具体例を挙げて説明する。
タングステンの酸化数は、1〜6価の何れであってもよいが、6価であることが好ましい。
酸化タングステンの組成は、酸化タングステン(W
2O
3)、二酸化タングステン(WO
2)、三酸化タングステン(WO
3)、又はこれらの混晶の何れであってもよいが、三酸化タングステン(WO
3)であることが好ましい。
酸化タングステンの結晶構造は、正方晶、斜方晶、単斜晶、三斜晶、非晶質等あるが、非晶質であることが好ましい。
【0014】
担体は、特に限定されず、公知のものを適宜選択することができるが、銅−アルミナ、シリカ(SiO
2)、ゼオライト、チタニア、ジルコニア等が挙げられる。これらの中でも、特に銅−アルミナが好ましい。担体が銅−アルミナであると1−プロパノールの生成が効率よく進行する。なお、担体は市販されているものが存在し、例えば銅−アルミナとしては、Nissan Girdler Co.製のT317が挙げられる。
【0015】
前述のように、酸化タングステンと担体とが物理的又は化学的に結合しているものであれば、その他については特に限定されないが、酸化タングステンが担体に担持されているものであることが好ましい。
【0016】
酸化タングステン−担体複合体の酸化タングステンの含有量は、特に限定されず目的に応じて適宜選択することができるが、通常2.0質量%以上、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上、さらに好ましくは8.0質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。上記範囲内であると、反応の転化率と1−プロパノールとプロピレンの合計の選択率がより高くなる傾向にある。
【0017】
酸化タングステン−担体複合体の調製方法は、特に限定されず、無機化合物を複合化する公知の方法を適宜採用することができるが、例えば酸化タングステン前駆体と担体を接触させた生成物を焼成して調製する方法が挙げられる。より具体的には、酸化タングステン前駆体を含んだ溶液を担体と接触させた後、乾燥させて、再度接触させる操作を繰り返し、その生成物を焼成して調製する方法である。
【0018】
酸化タングステン前駆体としては、塩化タングステン、臭化タングステン、ヨウ化タングステン等のハロゲン化タングステン、タングステン酸ナトリウム(Na
2WO
4)、タングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)、メタタングステン酸アンモニウム((NH
4)
6H
2W
12O
40)等のタングステン酸塩等が挙げられるが、タングステン酸アンモニウム五水和物、メタタングステン酸アンモニウムが特に好ましい。
【0019】
酸化タングステン前駆体と担体を接触させる方法としては、酸化タングステン前駆体溶液に担体を含浸する方法、酸化タングステン前駆体溶液を担体に滴下する方法、酸化タングステン前駆体溶液を担体に吹き付ける方法等が挙げられる。なお、酸化タングステン前駆体を溶解させる溶媒(溶液)は、酸化タングステン前駆体の種類に応じて適宜選択されるべきであるが、タングステン酸アンモニウム五水和物の場合は、30%過酸化水素水溶液が挙げられる。
【0020】
焼成温度は、通常260℃以上、好ましくは275℃以上、より好ましくは290℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは350℃以下、より好ましくは330℃以下である。上記範囲内であると、反応の転化率と1−プロパノールとプロピレンの合計の選択率がより高くなる傾向にある。
【0021】
焼成時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上であり、通常500時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは25時間以下であ
る。上記範囲内であると、反応の転化率と1−プロパノールとプロピレンの合計の選択率がより高くなる傾向にある。
【0022】
酸化タングステン−担体複合体は、寿命が1年以上の触媒となり得る。なお、「寿命」とは、触媒活性が90%まで低下するまでの反応総時間を意味するものとする。
【0023】
本発明の製造方法は、酸化タングステン−担体複合体及び水素ガスの存在下で、グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを生成する第1工程を含むことを特徴とするが、以下、第1工程の詳細について説明する。
【0024】
第1工程の反応温度は、通常220℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは250℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは380℃以下、より好ましくは330℃以下である。
【0025】
第1工程の反応圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.08MPa以上であり、通常0.5MPa以下、好ましくは0.2MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
反応系における水素ガスの分圧は、通常0.006MPa以上、好ましくは0.041MPa以上、より好ましくは0.072MPa以上であり、通常0.47MPa以下、好ましくは0.18MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
【0026】
反応系における水素ガスの存在量(物質量(モル量))は、グリセリンに対して、通常20倍量以上、好ましく95倍量以上、より好ましくは130倍量以上であり、通常400倍量以下、好ましくは300倍量以下、より好ましくは235倍量以下、さらに好ましくは200倍量以下である。
【0027】
第1工程の反応系には、酸化タングステン−担体複合体、グリセリン、水素ガスのほか、水、不活性ガス(プロパン、二酸化炭素等)等が存在していてもよい。
反応系における水の存在量(質量)は、グリセリンに対して、通常0倍量以上、好ましく1倍量以上、より好ましくは1.5倍量以上であり、通常20倍量以下、好ましくは10倍量以下、より好ましくは7倍量以下、さらに好ましくは4倍量以下である。
反応系における不活性ガスの分圧は、通常0.006MPa以上、好ましくは0.041MPa以上、より好ましくは0.072MPa以上であり、通常0.47MPa以下、好ましくは0.18MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
【0028】
第1工程は、特定量のグリセリン及び水素ガスを反応系に投入して、反応後にプロピレン及び/又は1−プロパノールを回収する回分式であっても、グリセリン及び水素ガスを逐次供給して、生成したプロピレン及び/又は1−プロパノールを逐次回収する連続式であってもよいが、工業的な観点から、連続式であることが好ましい。
なお、連続式である場合、グリセリン等を気体として(ガス化して)供給することが好ましく、キャリアーガスを供給して行われることがより好ましい。
キャリアーガスとして、水素ガスを利用することが好ましい。
水素ガスの供給速度は、酸化タングステン−担体複合体1gに対して、通常20mL/min以上、好ましくは60mL/min以上、より好ましくは120mL/min以上であり、通常300mL/min以下、好ましくは280mL/min以下、より好ましくは240mL/min以下である。
グリセリンは、そのまま供給されるほか、水に溶解させたグリセリン水溶液を、液体又は気体として(ガス化して)供給してもよい。
グリセリン水溶液を用いる場合のグリセリンの濃度は、通常1.0質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、通常90質量%以下、好まし
くは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
グリセリン水溶液を用いる場合の供給速度は、酸化タングステン−担体複合体1.0gに対し、液供給速度として、通常0.05g/Hr以上、好ましくは0.1g/Hr以上、より好ましくは1.0g/Hr以上であり、通常10g/Hr以下、好ましくは8.0g/Hr以下、より好ましくは5.0g/Hr以下、さらに好ましくは2.5g/Hrである。
【0029】
第1工程に使用する反応器は、特に限定されず、回分反応器、連続槽型反応器、連続管型反応器の何れであってもよいが、グリセリン等を気体として供給する連続式である場合には、固定床常圧気相流通反応装置を使用することが好ましい。なお、反応器の材質は、ステンレスが好ましいが、その他、高温に耐え得る材質であれば何れの材料でも使用可能である。また、触媒は所定の反応温度に加熱した後、水素ガス等を供給して、1〜2時間程度保持することにより活性化することができる。
【0030】
この製造方法は、プロピレンと1−プロパノールを、同時に得たい時に、特に有効である。しかも、プロピレンは常温で気体であり、1−プロパノールは常温で液体であるため、分離工程を必要とせずに、反応させるだけで、2つの目的物を得られるということになる。
【0031】
本発明の製造方法は、プロピレン及び/又は1−プロパノールを製造する方法であるが、プロピレンを製造する、即ちプロピレンを最終目的物とする場合には、シリカアルミナの存在下で、第1工程で生成した1−プロパノールからプロピレンを生成する第2工程(下記式(II)参照)を含むことが好ましい。以下、第2工程の詳細について説明する。
【化3】
【0032】
「シリカアルミナ」とは、ケイ素原子(Si)とアルミニウム原子(Al)を含む複合酸化物を意味し、ケイ素原子とアルミニウム原子を含む複合酸化物であれば、ゼオライト等のように細孔の有無や結晶構造等のその他については特に限定されないものとする。なお、シリカアルミナのシリカ/アルミナ質量比は、通常3.0以上、好ましくは5.0以上である。
シリカアルミナは、特に限定されず、公知のものを適宜選択することができるが、日揮触媒化成製のN631Lが好ましい。
【0033】
第2工程の反応温度は、通常220℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは240℃以上、さらに好ましくは250℃以上であり、通常350℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下である。
【0034】
第2工程の反応圧力は、通常0.01MPa以上、好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.08MPa以上であり、通常0.5MPa以下、好ましくは0.25MPa以下、より好ましくは0.15MPa以下である。
【0035】
第2工程の反応系には、シリカアルミナや1−プロパノールのほか、水、グリセリン、水素ガス、不活性ガス(プロパン、二酸化炭素等)等が存在していてもよい。
反応系における水の存在量(質量)は、1−プロパノールに対して、通常0倍量以上、好ましく1倍量以上、より好ましくは1.5倍量以上であり、通常20倍量以下、好ましくは10倍量以下、より好ましくは7倍量以下、さらに好ましくは4倍量以下である。
反応系における水素ガスの分圧は、通常0.006MPa以上、好ましくは0.041
MPa以上、より好ましくは0.072MPa以上であり、通常0.47MPa以下、好ましくは0.18MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
反応系における不活性ガスの分圧は、通常0.006MPa以上、好ましくは0.041MPa以上、より好ましくは0.072MPa以上であり、通常0.47MPa以下、好ましくは0.18MPa以下、より好ましくは0.12MPa以下である。
【0036】
第2工程は、第1工程で生成した1−プロパノールを反応系に投入して、反応後にプロピレンを回収する回分式であっても、第1工程で生成した1−プロパノールを逐次供給して、プロピレンを逐次回収する連続式であってもよいが、工業的な観点から、連続式であることが好ましい。
なお、連続式である場合、1−プロパノール等を気体として(ガス化して)供給することが好ましく、キャリアーガスを供給して行われることがより好ましい。
キャリアーガスとしては、水素ガスが挙げられる。
キャリアーガスの供給速度は、シリカアルミナ1gに対して、通常20mL/min以上、好ましくは50L/min以上、より好ましくは100mL/min以上であり、通常300mL/min以下、好ましくは250mL/min以下、より好ましくは200mL/min以下である。
【0037】
第2工程に使用する反応器は、特に限定されず、回分反応器、連続槽型反応器、連続管型反応器の何れであってもよいが、第1工程が連続式である場合には、第2工程も連続式とすることが好ましい。例えば、固定床常圧気相流通反応装置を使用し、第1工程の反応器の下流側に第2工程の反応器を直列に接続することが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0039】
<酸化タングステン−担体複合体の調製>
タングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)を酸化タングステンの前駆体として用い、銅−アルミナT317(第2酸化銅:15質量%、Nissan Girdler Co製)上に三酸化タングステン(WO
3)を所定の質量%担持した酸化
タングステン−担体複合体を調製した(なお、三酸化タングステン(WO
3)の担持量(含有量)は、WO
3質量/複合体質量(担体質量+WO
3質量)で計算されるWO
3質量%である。WO
3質量は前駆体質量×化学組成式中のWO
3の量論割合から算出した。)。
酸化タングステン−担体複合体の詳細な調製手順は、以下の通りである。
【0040】
30質量%過酸化水素溶液にタングステン酸アンモニウム五水和物((NH
4)
10W
12O
41・5H
2O)を溶解した原料溶液を調製し、これを担体(銅−アルミナT317)に滴下した後、80℃に加熱して水分を蒸発させた。必要量の原料溶液を滴下する操作を繰り返して、得られた試料を110℃で12時間乾燥させた。さらに320℃(焼成温度)で3時間焼成して酸化タングステン−担体複合体を調製した。
【0041】
<グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを生成する反応>
以下の実施例における反応は、内径17mm、全長300mmの反応器を備えた固定床常圧流通反応装置を用いて行った。該反応器は、上部にキャリアーガス導入口と原料供給口が、下部に反応粗液捕集容器(冷却)と接続した反応ガス流出口を備えている。捕集容器に捕集された液状反応粗液及び気体捕集器に捕集された反応粗気体は、ガスクロマトグラフィー(島津GC−2014型、検出限界:0.01%)を用いて分析され、検量線に
て補正した後、未反応のグリセリン、1−プロパノール、プロピレン等の生成物の収量を決定し、この値から転化率(モル%)、選択率(モル%)及び収率(モル%)を算出した。
【0042】
(実施例1)
三酸化タングステン(WO
3)の含有量が3.1質量%の酸化タングステン−担体複合体1.0gを前述の固定床常圧流通反応装置に充填し、酸化タングステン−担体複合体を充填した触媒層を250℃に加熱して、水素ガス雰囲気下で1時間保持して、酸化タングステン−担体複合体を活性化した。
次にキャリアーガス(水素ガス)を60mL/minで供給するとともに、20質量%のグリセリン水溶液を反応器上部より液供給速度1.32g/Hrで供給して、250℃にて5時間反応させた。触媒層を通過した原料のグリセリンと生成物を含む反応粗液をドライアイス−アセトンで捕集し、捕集できなかった気体を気体捕集器にて捕集して(反応粗気体)、ガスクロマトグラフィー(島津GC)にて分析した。
反応粗液および反応粗気体に含まれる主な化合物は、未反応のグリセリン、アセトン、メタノール、1−プロパノール、ヒドロキシアセトン、プロピオンアルデヒド、1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、プロピレン、プロパン、エチレン、エタン、二酸化炭素であることが確認された。
反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表1に示す。なお、表1の数値は1時間毎に回収した反応粗液の分析結果の平均値である。
【0043】
(実施例2)
酸化タングステン−担体複合体を三酸化タングステン(WO
3)の含有量が6.2質量%のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
酸化タングステン−担体複合体を三酸化タングステン(WO
3)の含有量が9.3質量%のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
酸化タングステン−担体複合体を三酸化タングステン(WO
3)の含有量が12.3質量%のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
酸化タングステン−担体複合体を担体である銅−アルミナT317(法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞ第2酸化銅:15質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
酸化タングステン−担体複合体を担体である銅−アルミナN242(第2酸化銅:55質量%)に変更した以外は、実施例1と同様の方れの生成物の転化率と選択率の結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
1−プロパノールとプロピレンの選択率の合計が、プロピレン製造には重要である。三酸化タングステン(WO
3)の含有量が9.3%のものが、一番良好で選択率の合計が70.7%であった。
【0050】
<キャリアーガス(水素ガス)流量の影響>
(実施例5)
キャリアーガス(水素ガス)の供給量を30mL/minに変更した以外は、実施例3と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0051】
(実施例6)
キャリアーガス(水素ガス)の供給量を120mL/minに変更した以外は、実施例3と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0052】
(実施例7)
キャリアーガス(水素ガス)の供給量を180mL/minに変更した以外は、実施例3と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0053】
(実施例8)
酸化タングステン−担体複合体の使用量を4.0gに変更した以外は、実施例7と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0054】
(実施例9)
キャリアーガス(水素ガス)の供給量を240mL/minに変更した以外は、実施例3と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
キャリアーガス(水素ガス)の供給量を増やすことにより、1−プロパノールとプロピレンの選択率の合計が増加し、供給量180mL/min以上で最大値に達するものと考えられる。
また、酸化タングステン−担体複合体の使用量を増やしても、1−プロパノールやプロピレンの選択率にあまり影響がなかった。
【0057】
<酸化タングステンの効果>
(比較例3)
酸化タングステン−担体複合体を酸化バナジウム−担体複合体に変更した以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表3に示す。なお、酸化バナジウム−担体複合体は、前述の「酸化タングステン−担体複合体の調製」と同様の方法により、銅−アルミナT317(第2酸化銅:15wt.%、Nissan Girdler Co製)上に酸化バナジウム(V
2O
5)を4.4質量%担持したものである。
【0058】
【表3】
【0059】
酸化タングステン−担体複合体が1−プロパノールとプロピレンの合成に優れていることが明らかである。
【0060】
<反応温度の影響>
(実施例10)
反応温度を235℃に変更した以外は、実施例7と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表4に示す。
【0061】
(実施例11)
反応温度を265℃に変更した以外は、実施例7と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
反応温度250℃が、1−プロパノールとプロピレンの選択率の合計が一番高くなることが明らかである。
【0064】
<グリセリン水溶液濃度の影響>
(実施例12)
グリセリン水溶液の濃度を40質量%に変更した以外は、実施例7と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表5に示す。
【0065】
(実施例13)
グリセリン水溶液の濃度を60質量%に変更した以外は、実施例7と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
グリセリンの濃度が60質量%になると、ヒドロキシアセトンの副生量が増え、1−プロパノールとプロピレンの選択率の合計が大幅に悪くなることが明らかである。
【0068】
<プロピレンを生成する反応>
実施例8の結果から、酸化タングステン−担体複合体は、1−プロパノールを脱水してプロピレンに変換する作用が十分でないものと考えられる。そこで、プロピレンを最終目的物として製造する方法について検討した。
なお、以下の実施例における反応は、前述の「グリセリンからプロピレン及び/又は1−プロパノールを生成する反応」と同様に、固定床常圧流通反応装置を用いて行った。反応器は、同様に内径17mm、全長300mmのものであるが、グリセリンから1−プロパノールを生成する第1工程用の反応器(以下、「第1反応器」と略す場合がある。)と第1工程で生成した1−プロパノールからプロピレンを生成する第2工程用の反応器(以下、「第2反応器」と略す場合がある。)を備え、第1反応器の下流側に第2反応器を直列に接続している。
【0069】
(実施例14)
三酸化タングステン(WO
3)の含有量が9.3質量%の酸化タングステン−担体複合体1.0gを第1反応器に充填し、さらにシリカアルミナ(日揮触媒化成製N631L)1.0gを第2反応器に充填し、第1反応器及び第2反応器の触媒層をそれぞれ250℃に加熱して、水素ガス雰囲気下で1時間保持して、酸化タングステン−担体複合体及びシリカアルミナを活性化した。
次にキャリアーガス(水素ガス)を180mL/minで供給するとともに、20質量%のグリセリン水溶液を反応器上部より液供給速度1.32g/Hrで供給して、第1反
応器及び第2反応器の温度を250℃として5時間反応させた。第2反応器を通過した原料のグリセリンと生成物を含む反応粗液をドライアイス−アセトンで捕集し、捕集できなかった気体を気体捕集器にて捕集して(反応粗気体)、ガスクロマトグラフィー(島津GC)にて分析した。
反応粗液および反応粗気体に含まれる主な化合物は、未反応のグリセリン、アセトン、メタノール、1−プロパノール、ヒドロキシアセトン、プロピオンアルデヒド、1,2−プロパンジオール、エチレングリコール、プロピレン、プロパン、エチレン、エタン、二酸化炭素であることが確認された。
反応開始から5時間後まで(反応初期)の転化率とそれぞれの生成物の選択率の結果を表6に示す。なお、表6の数値は1時間毎に回収した反応粗液の分析結果の平均値である。
【0070】
(実施例15)
第2反応器の温度(第2工程反応温度)を290℃に変更した以外は、実施例14と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表6に示す。
【0071】
(実施例16)
第2反応器に充填するシリカアルミナの量を2.0gに変更した以外は、実施例14と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表6に示す。
【0072】
(実施例17)
第2反応器の温度(第2工程反応温度)を255℃に、第2反応器に充填するシリカアルミナの量を3.0gに変更した以外は、実施例14と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表6に示す。
【0073】
(実施例18)
第1反応器の温度(第1工程反応温度)を240℃に、第1反応器に充填するシリカアルミナの量を2.0gに変更し、さらに第2反応器の温度(第2工程反応温度)を245℃に、第2反応器に充填するシリカアルミナの量を3.0gに変更した以外は、実施例14と同様の方法で反応をおこなった。反応開始から5時間後までのそれぞれの生成物の転化率と選択率の結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
第1工程の反応温度を250℃、第2工程の反応温度を5℃上げて255℃にし、第2反応器に充填するシリカアルミナの量を増やすと、第1工程で生成する1−プロパノールが全てプロピレンに変換され、プロピレンの選択率も89%に向上した。
なお、実施例1〜5は、参考例1〜5とする。