特許第6484987号(P6484987)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6484987エビルシフェラーゼの触媒蛋白質の変異遺伝子とその使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6484987
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】エビルシフェラーゼの触媒蛋白質の変異遺伝子とその使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20190311BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20190311BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20190311BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20190311BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190311BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20190311BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C12N15/53ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12Q1/66
   C12N9/02
【請求項の数】16
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2014-210409(P2014-210409)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2015-107108(P2015-107108A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2017年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-218111(P2013-218111)
(32)【優先日】2013年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳一
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−525819(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/078362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09−15/90
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12Q 1/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)に記載のルシフェラーゼ変異体:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される2つまたは3つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される2つまたは3つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換し、4番目、11番目、18番目、27番目、33番目、43番目、68番目、72番目、75番目、90番目、115番目、124番目および166番目の位置以外で1〜10個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェラーゼ活性を有するルシフェラーゼ変異体;
ここで、44番目のバリンと置換する場合の他のアミノ酸は、イソロイシンあり、
54番目のアラニンと置換する場合の他のアミノ酸は、イソロイシンあり、
138番目のチロシンと置換する場合の他のアミノ酸は、イソロイシンある。
【請求項2】
前記(a)の蛋白質が、配列番号:16、配列番号:14、配列番号:12、または配列番号:10のアミノ酸配列を含有するものである、請求項1に記載のルシフェラーゼ変異体。
【請求項3】
請求項1または2記載のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項5】
請求項4記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項6】
請求項5記載の形質転換体を培養し、請求項1または2に記載のルシフェラーゼ変異体を生成させる工程を含む、請求項1または2に記載のルシフェラーゼ変異体の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のルシフェラーゼ変異体、請求項3記載のポリヌクレオチド、請求項4記載の組換えベクターおよび請求項5記載の形質転換体から選択される少なくとも1つを含む、キット。
【請求項8】
さらにルシフェリンを含む、請求項7記載のキット。
【請求項9】
前記ルシフェリンがセレンテラジン類である、請求項8記載のキット。
【請求項10】
前記セレンテラジン類がセレンテラジンである、請求項9記載のキット。
【請求項11】
請求項1または2に記載のルシフェラーゼ変異体とルシフェリンとを接触させることを含む、発光反応を行う方法。
【請求項12】
前記ルシフェリンがセレンテラジン類である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記セレンテラジン類がセレンテラジンである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項3記載のポリヌクレオチドをレポーター遺伝子として用い、当該レポーター遺伝子がコードするルシフェラーゼ変異体をルシフェリンに接触させることを含む、プロモーター制御に関与する配列の活性を測定する方法。
【請求項15】
前記ルシフェリンがセレンテラジン類である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記セレンテラジン類がセレンテラジンである、請求項15記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エビルシフェラーゼの触媒ドメイン蛋白質の変異遺伝子とその使用方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
生物発光は、ルシフェリン(発光基質)−ルシフェラーゼ(発光を触媒する酵素)反応と呼ばれる生体内における化学反応にもとづく現象である。国内外で古くからルシフェリンやルシフェラーゼの同定研究をはじめ、分子レベルでの発光メカニズムの解明など、数多くの研究が行われてきた。海洋性発光生物の中で、深海に生息するエビ由来のオプロフォーラス(Oplophorus gracilirostris)ルシフェラーゼは、体外へ放出される分泌型ルシフェラーゼである(非特許文献1)。オプロフォーラスルシフェラーゼは分子量35 kDaの蛋白質と19 kDaの蛋白質より構成される106 kDa蛋白質である。発光を触媒するドメインは、19 kDa蛋白質にあり、発光基質はセレンテラジンであり、セレンテラジン系ルシフェラーゼに分類される(特許文献1、非特許文献2)。他のセレンテラジン系ルシフェラーゼと異なる点は、基質の特異性が広く、セレンテラジンの類縁体も良い発光基質になることである(非特許文献2)。19 kDa蛋白質遺伝子を常温および低温で大腸菌内発現させた場合、多くは不溶性蛋白質として発現する(非特許文献3)。低温発現系でプロテインA由来のZZドメインとの融合蛋白質として発現すると、可溶性蛋白して発現することが出来る(非特許文献4)。また、動物培養細胞で発現した場合、細胞外へほとんど分泌しないことが報告されている(非特許文献2)。
【0003】
近年、19kDa蛋白質へのアミノ酸の16カ所の変異導入により、天然19kDa蛋白質より高い活性を示す変異19kDa発光触媒蛋白質が開示され、細胞外へ分泌することが示された(特許文献2、非特許文献4、5)。また、天然型セレンテラジンを発光基質とするよりセレンテラジン誘導体が高い活性を示すことも示された(非特許文献4、5)。
【0004】
セレンテラジンを発光基質とする発光反応系は発光基質と酸素のみで発光反応が進むため、現在、セレンテラジン系ルシフェラーゼ遺伝子を用いた動物培養細胞系でのレポーターアッセイが汎用されている。細胞内でのレポーターアッセイには311個のアミノ酸よりなるレニラルシフェラーゼが使用される。細胞外でのレポーターアッセイには、168個のアミノ酸よりなる分泌型ルシフェラーゼであるガウシアルシフェラーゼが使用されている。発光基質をセレンテラジンとして、組換えレニラルシフェラーゼとガウシアルシフェラーゼの比活性を比較するとレニラルシフェラーゼは、ガウシアルシフェラーゼの約1/100である(非特許文献5,6)。一方、変異19kDa発光触媒蛋白質は、ガウシアルシフェラーゼと比較するとその比活性は、1/10であり、分泌蛋白質としてのレポーターアッセイ遺伝子としては、明らかに劣っていることが開示されている。
【0005】
このことより、細胞内発現ルシフェラーゼであり、セレンテラジンのみならず、その類縁体をも基質として、天然型19 kDa蛋白質より高い発光活性を有するレポーター遺伝子が所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4613441号明細書
【特許文献2】特表2012-525819号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】O. Shimomura et al. (1978) Biochemistry 17: 994-998.
【非特許文献2】S. Inouye et al. (2000) FEBS Lett. 481: 19-25.
【非特許文献3】S. Inouye & S. Sasaki (2007) Protein Express. Purif. 56: 261-268.
【非特許文献4】M.P.Hall et al. (2012) ACS Chem Biol. 7: 1848-1857.
【非特許文献5】S. Inouye et al. (2013) Biochem. Biophys. Res. Commun. 437: 23-28.
【非特許文献6】S. Inouye et al. (2013) Protein Express. Purif. 88: 150-156.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記状況の下に、従来のものとは異なるルシフェラーゼが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、既知の変異19kDa発光触媒蛋白質の変異部位すべてについて、検証をおこない、変異の選択および組合せにより、既知の19kDa発光触媒蛋白質より活性の高く、動物培養細胞内で発現したときに細胞外へほとんど分泌しないルシフェラーゼ変異体などを創出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のルシフェラーゼ変異体、ポリヌクレオチド、組換えベクター、形質転換体、ルシフェラーゼ変異体の製造方法、キット、発光反応を行う方法などを提供する。
[1] 以下の(a)または(b)に記載のルシフェラーゼ変異体:
(a)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換し、4番目、11番目、18番目、27番目、33番目、43番目、68番目、72番目、75番目、90番目、115番目、124番目および166番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェラーゼ活性を有するルシフェラーゼ変異体。
[2] 前記(b)のルシフェラーゼ変異体が以下の(c)に記載のものである、上記[1]に記載のルシフェラーゼ変異体:
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換し、4番目、11番目、18番目、27番目、33番目、43番目、68番目、72番目、75番目、90番目、115番目、124番目および166番目の位置以外で1〜16個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェラーゼ活性を有するルシフェラーゼ変異体。
[3] 前記44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸と置換する他のアミノ酸がイソロイシンである、上記[1]または[2]に記載のルシフェラーゼ変異体。
[4] 前記(a)の蛋白質が、配列番号:16、配列番号:14、配列番号:12、配列番号:10、配列番号:8、配列番号:6または配列番号:4のアミノ酸配列を含有するものである、上記[1]に記載のルシフェラーゼ変異体。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
[6] 上記[5]記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
[7] 上記[6]記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
[8] 上記[7]記載の形質転換体を培養し、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体を生成させる工程を含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体の製造方法。
[9] 上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のルシフェラーゼ変異体、上記[5]記載のポリヌクレオチド、上記[6]記載の組換えベクターおよび上記[7]記載の形質転換体から選択される少なくとも1つを含む、キット。
[10] さらにルシフェリンを含む、上記[9]記載のキット。
[11] 前記ルシフェリンがセレンテラジン類である、上記[10]記載のキット。
[12] 前記セレンテラジン類がセレンテラジンである、上記[11]記載のキット。
[13] 上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のルシフェラーゼ変異体とルシフェリンとを接触させることを含む、発光反応を行う方法。
[14] 前記ルシフェリンがセレンテラジン類である、上記[13]記載の方法。
[15] 前記セレンテラジン類がセレンテラジンである、上記[14]記載の方法。
[16] 上記[5]記載のポリヌクレオチドをレポーター遺伝子として用い、当該レポーター遺伝子がコードするルシフェラーゼ変異体をルシフェリンに接触させることを含む、プロモーター制御に関与する配列の活性を測定する方法。
[17] 前記ルシフェリンがセレンテラジン類である、上記[16]記載の方法。
[18] 前記セレンテラジン類がセレンテラジンである、上記[17]記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来のものとは異なるルシフェラーゼ変異体を提供する。本発明の好ましい態様のルシフェラーゼ変異体は、セレンテラジン類を発光基質として天然型19 kDa蛋白質及び/又は既知の変異19kDa発光触媒蛋白質よりも高活性を示すこと、動物細胞内で発現したときに細胞外へほとんど分泌しないことなどから選択される少なくとも1つの特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】pColdIIベクターを用いてKAZ変異体を発現した大腸菌粗酵素液の上清及び沈殿画分のSDS-PAGE分析の結果を示す図である。
図2】pCold-ZZ-Pベクターを用いてKAZ変異体を発現した大腸菌粗酵素液のSDS-PAGE分析の結果を示す図である。
図3】pColdIIベクターを用いてKAZ変異体を発現した大腸菌粗酵素液の上清及び沈殿画分のSDS-PAGE分析の結果を示す図である。
図4】pCold-ZZ-Pベクターを用いてKAZ変異体を発現した大腸菌粗酵素液のSDS-PAGE分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
1.本発明のルシフェラーゼ変異体
本発明のルシフェラーゼ変異体とは、オプロフォーラスルシフェラーゼの分子量19 kDaの蛋白質の変異体である。具体的には、本発明のルシフェラーゼ変異体は、配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体と実質的に同質の活性を有するルシフェラーゼ変異体を意味する。
【0015】
実質的に同質の活性とは、ルシフェラーゼ活性、動物細胞内で発現したときに細胞外へほとんど分泌しない活性などから選択される少なくとも1つの活性を意味する。
【0016】
「ルシフェラーゼ活性」とは、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)を基質とする発光活性、すなわち、ルシフェリン(例えば、セレンテラジン類)が酸素分子で酸化されてオキシルシフェリンが励起状態で生成する反応を触媒する活性、を意味する。なお、励起状態で生成したオキシルシフェリンは可視光を発して基底状態となる。
【0017】
このような活性は、例えば、Inouye, S. & Shimomura, O. (1977) Biochem. Biophys. Res. Commun. 233,349-353に記載の方法によって測定することができる。具体的には、本発明のルシフェラーゼ変異体をルシフェリンと混合することにより発光反応を開始させ、発光測定装置を用いて発光触媒活性を測定することができる。発光測定装置としては、市販されている装置、例えばLuminescencer−PSN AB2200(アトー社製)、またはCentro 960 luminometer (ベルトール社製)を使用することができる。
【0018】
本発明で用いられるルシフェリンとしては、本発明のルシフェラーゼ変異体の基質となるルシフェリンであればよい。本発明で用いられるルシフェリンとしては、具体的にはイミダゾピラジノン環を主骨格とするセレンテラジン類が挙げられる。
【0019】
セレンテラジン類は、セレンテラジンまたはその類縁体のことを意味する。セレンテラジン類縁体としては、例えば、bis−セレンテラジン、deoxyfurane-セレンテラジン(フリマジン(furimazine))、h−セレンテラジン、hcp−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、f−セレンテラジン、fcp−セレンテラジン、n−セレンテラジン、MeO−セレンテラジン、e−セレンテラジン、cl−セレンテラジンch−セレンテラジン、3iso-セレンテラジン、3meo-セレンテラジン、cf3-セレンテラジン、i-セレンテラジン、et-セレンテラジン、me-セレンテラジン、3me-セレンテラジン、αmeh-セレンテラジン 8-(1-naphthyl)-セレンテラジン、8-(2-naphthyl)-セレンテラジン、8-(2-thienyl)-セレンテラジン、6,8-di(2-thienyl)-セレンテラジン、8-(4-hydroxyphenyl)-セレンテラジン、8-(2-benzothienyl)-セレンテラジン、8-(b-styryl)-セレンテラジン、8-phenyl-セレンテラジン、6-deoxy-セレンテラジン、8-(3-thienyl)-セレンテラジン、および8-(3-benzo[b]thienyl)-セレンテラジンがあげられる。セレンテラジン類の中でも、本発明では、セレンテラジンが特に好ましい。
【0020】
これらのセレンテラジン類は、公知の方法で合成してもよく、あるいは、市販のものを入手することもできる。
【0021】
セレンテラジン類の合成方法としては、例えば、Shimo mura et al. (1988) Biochem.J. 251, 405-410、Shimomura et al. (1989) Biochem.J. 261, 913-920、Shimomura et al. (1990) Biochem.J. 270, 309-312、Nakamura et al. (1997) Tetrahedron Lett..38:6405-6406、WO2010/090319号公報、もしくはInouye et al.(2010) Anal. Biochem.407, 247-252に記載の方法またはそれに準ずる方法が挙げられる。また、フリマジンは、Hall et al. (2012) ACS Chem. Biol. 16; 848-1857に記載の方法により製造することができる。
【0022】
また、セレンテラジン類の市販品に関しては、例えば、JNC株式会社製のセレンテラジン、cf3-セレンテラジンおよびh−セレンテラジン;ビオチウム(Biotium)社製のhcp−セレンテラジン、cp−セレンテラジン、f−セレンテラジン、fcp−セレンテラジンおよびn−セレンテラジン;ならびにプロメガ社製のセレンテラジン、フリマジンおよびh-セレンテラジンを挙げることができる。
【0023】
「ルシフェリンを基質とする発光触媒活性」は、好ましくは、セレンテラジン類を基質とする発光触媒活性である。「セレンテラジン類を基質とする発光触媒活性」は、好ましくは、セレンテラジンを基質とする発光触媒活性である。
【0024】
「動物細胞内で発現したときに細胞外へほとんど分泌しない活性」とは、動物細胞内で発現したときに、その発現蛋白質の大部分が輸送されずに細胞内にとどまり、細胞外へほとんど分泌されないことを意味する。「細胞外へほとんど分泌しない」とは、具体的には、発現蛋白質のうち、5以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下、または0.005%以下の量(重量)の蛋白質しか細胞外へ分泌しないことを意味する。「動物細胞」は、具体的には、後述のものが挙げられる。
【0025】
「配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体と実質的に同質の活性を有するルシフェラーゼ変異体」は、例えば、下記の(a)または(b)に記載のルシフェラーゼ変異体である。
【0026】
(a)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換し、4番目、11番目、18番目、27番目、33番目、43番目、68番目、72番目、75番目、90番目、115番目、124番目および166番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェラーゼ活性を有するルシフェラーゼ変異体。
【0027】
上記(a)および(b)において「少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換した」とは、配列番号:2のアミノ酸配列中の44番目、54番目および138番目の位置から選択される1〜3個の位置において、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換があることを意味する。
【0028】
上記「少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換した」における「少なくとも1つ」は、具体的には、1個、2個または3個であり、好ましくは、2個または3個であり、より好ましくは、3個である。
【0029】
前記配列番号:2のアミノ酸配列における44番目のバリンと置換する他のアミノ酸は、例えば、イソロイシン、アラニン、メチオニン、ロイシン、システイン、セリン、またはフェニルアラニンであり、好ましくは、イソロイシン、アラニン、メチオニン、ロイシンまたはシステインであり、より好ましくは、イソロイシンである。
前記配列番号:2のアミノ酸配列における54番目のアラニンと置換する他のアミノ酸は、例えば、イソロイシン、バリン、メチオニン、ロイシン、システイン、セリン、フェニルアラニン、であり、好ましくは、イソロイシン、バリン、メチオニン、ロイシンまたはシステインであり、より好ましくは、イソロイシンである。
前記配列番号:2のアミノ酸配列における138番目のチロシンと置換する他のアミノ酸は、例えば、イソロイシン、バリン、ロイシン、メチオニン、、システイン、スレオニン、アルギニン、リジン、ヒスチジンまたはグルタミンであり、好ましくは、イソロイシン、バリン、ロイシン、メチオニン、アルギニンまたはリジンであり、より好ましくは、イソロイシンである。
【0030】
前記配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸と置換する他のアミノ酸は、好ましくは、イソロイシンである。
【0031】
上記(b)において「1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換した」とは、同一配列中の任意かつ1もしくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1または複数のアミノ酸残基の置換があることを意味する。
【0032】
上記「1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換した」における「1〜複数個」の範囲は、例えば、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個または1個である。置換したアミノ酸の数は、一般的に少ないほど好ましい。このような蛋白質は、“Sambrook J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)”、“Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987−1997)”、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
【0033】
配列番号:2のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換位置としては、前記44番目、54番目および138番目の位置の置換位置の他は、4番目、11番目、18番目、27番目、33番目、43番目、68番目、72番目、75番目、90番目、115番目、124番目および166番目の位置以外の位置であれば、特に限定されないが、例えば、1番目、2番目、3番目、13番目、14番目、15番目、25番目、30番目、36番目、70番目、83番目、106番目、128番目、153番目、156番目, 157番目、159番目、162番目、163番目および169番目からなる群から選択される1〜複数個の位置をあげることができる。特には、1番目、2番目、3番目、13番目、14番目、153番目、159番目、163番目および169番目からなる群から選択される1〜複数個の位置をあげることができる。
【0034】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2−アミノブタン酸、メチオニン、o−メチルセリン、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2−アミノアジピン酸、2−アミノスベリン酸;
C群:アスパラギン、グルタミン;
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸;
E群:プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン;
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;
G群:フェニルアラニン、チロシン。
【0035】
本発明の好ましい態様のルシフェラーゼ変異体は、配列番号:16、配列番号:14、配列番号:12、配列番号:10、配列番号:8、配列番号:6または配列番号:4のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体であり、より好ましくは、配列番号:16、配列番号:14、配列番号:12または配列番号:10のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体であり、さらに好ましくは、配列番号:16のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体である。
【0036】
本発明のルシフェラーゼ変異体は、さらに他のペプチド配列をN末端および/またはC末端、好ましくはN末端に含んでいてもよい。他のペプチド配列としては、精製のためのペプチド配列、本発明のルシフェラーゼ変異体を可溶性蛋白質として発現するためのペプチド配列、抗体認識可能なエピトープ配列などからなる群から選択される少なくとも1つのペプチド配列を挙げることができる。他のペプチド配列は、好ましくは、精製のためのペプチド配列である。本発明の別の好ましい態様では、他のペプチド配列は、精製のためのペプチド配列、および本発明のルシフェラーゼ変異体を可溶性蛋白質として発現するための配列からなる群から選択される少なくとも1つの配列である。
【0037】
精製のためのペプチド配列としては、当技術分野において用いられているペプチド配列を使用することができる。精製のためのペプチド配列としては、例えば、ヒスチジン残基が4残基以上、好ましくは6残基以上連続したアミノ酸配列を有するヒスチジンタグ配列、グルタチオン S−トランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインのアミノ酸配列またはプロテインAのアミノ酸配列などが挙げられる。
【0038】
本発明のルシフェラーゼ変異体を可溶性蛋白質として発現するためのペプチドとしては、例えば式(Z)nで表されるポリペプチドを挙げることができる。式(Z)nで表されるポリペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、例えば、特開2008−99669号公報に記載している。
【0039】
抗体認識可能なエピトープ配列としては、当技術分野において用いられているペプチド配列を使用することができる。
【0040】
本発明のルシフェラーゼ変異体の取得方法については特に制限はない。本発明のルシフェラーゼ変異体としては、化学合成により合成した蛋白質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換え蛋白質であってもよい。本発明のルシフェラーゼ変異体を化学合成する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等により合成することができる。また、アドバンスドケムテック社製、パーキンエルマー社製、ファルマシア社製、プロテインテクノロジーインストゥルメント社製、シンセセルーベガ社製、パーセプティブ社製、島津製作所社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。本発明のルシフェラーゼ変異体を遺伝子組換え技術により作製する場合には、通常の遺伝子組換え手法により作製することができる。より具体的には、本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA)を適当な発現系に導入することにより、本発明のルシフェラーゼ変異体を作製することができる。本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド、本発明のルシフェラーゼ変異体の発現系での発現などについては、後記する。
【0041】
2.本発明のポリヌクレオチド
本発明は、前述した本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドも提供する。本発明のポリヌクレオチドとしては、本発明のルシフェラーゼ変異体をコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよいが、好ましくはDNAである。DNAとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、細胞・組織由来のcDNA、細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAなどが挙げられる。ライブラリーに使用するベクターは、特に制限はなく、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。また、前記した細胞・組織からtotalRNAまたはmRNA画分を調製したものを用いて直接Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction(以下、RT−PCR法と略称する)によって増幅することもできる。
【0042】
本発明のポリヌクレオチドには、以下のポリヌクレオチドが含まれる。
(i)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;または
(ii)配列番号:2のアミノ酸配列において44番目のバリン、54番目のアラニンおよび138番目のチロシンからなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸と置換し、4番目、11番目、18番目、27番目、33番目、43番目、68番目、72番目、75番目、90番目、115番目、124番目および166番目の位置以外で1〜複数個のアミノ酸が他のアミノ酸と置換したアミノ酸配列を含有し、かつルシフェラーゼ活性を有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
【0043】
上記(i)および(ii)のルシフェラーゼ変異体は、前述の通りである。
【0044】
あるアミノ酸配列に対して、1〜複数個のアミノ酸が置換したアミノ酸配列を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドは、部位特異的変異導入法(例えば、Gotoh, T. et al., Gene 152, 271−275 (1995)、Zoller, M.J., and Smith, M., Methods Enzymol. 100, 468−500 (1983)、Kramer, W. et al., Nucleic Acids Res. 12, 9441−9456 (1984)、Kramer W, and Fritz H.J., Methods. Enzymol. 154, 350−367 (1987)、Kunkel,T.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82, 488−492 (1985)、Kunkel, Methods Enzymol. 85, 2763−2766 (1988)、など参照)、アンバー変異を利用する方法(例えば、Gapped duplex法、Nucleic Acids Res. 12, 9441−9456 (1984)、など参照)などを用いることにより得ることができる。
【0045】
また目的の変異(欠失、付加、置換および/または挿入)を導入した配列をそれぞれの5’端に持つ1組のプライマーを用いたPCR(例えば、HoS. N. et al., Gene 77, 51 (1989)、など参照)によっても、ポリヌクレオチドに変異を導入することができる。
【0046】
また欠失変異体の一種である蛋白質の部分断片をコードするポリヌクレオチドは、その蛋白質をコードするポリヌクレオチド中の作製したい部分断片をコードする領域の5’端の塩基配列と一致する配列を有するオリゴヌクレオチドおよび3’端の塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、その蛋白質をコードするポリヌクレオチドを鋳型にしたPCRを行うことにより取得できる。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドとして、好ましくは、配列番号:16、配列番号:14、配列番号:12、配列番号:10、配列番号:8、配列番号:6または配列番号:4のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを挙げることができ、より好ましくは、配列番号:16、配列番号:14、配列番号:12または配列番号:10のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを挙げることができ、さらに好ましくは、配列番号:16のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0048】
配列番号:16のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:15の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号:14のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:13の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号:12のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:11の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号:10のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:9の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号:8のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:7の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号:6のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:5の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。配列番号:4のアミノ酸配列を含有するルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドとしては、配列番号:3の塩基配列を含有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0049】
本発明いくつかの態様のポリヌクレオチドは、好ましくは、配列番号:15、配列番号:13、配列番号:11、配列番号:9、配列番号:7、配列番号:5または配列番号:3の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであり、より好ましくは、配列番号:15、配列番号:13、配列番号:11または配列番号:9の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号:15の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドである。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドは、さらに他のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを、5’末端および/または3’末端、好ましくは5’末端に含んでいてもよい。他のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、精製のためのペプチド配列、本発明のルシフェラーゼ変異体を可溶性蛋白質として発現するためのペプチド配列、抗体認識可能なエピトープ配列などからなる群から選択される少なくとも1つのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0051】
精製のためのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、当技術分野において用いられている精製のためのペプチド配列をコードする塩基配列を含有するポリヌクレオチドを使用することができる。精製のためのペプチド配列としては、前記したものなどが挙げられる。
【0052】
本発明のルシフェラーゼ変異体を可溶性蛋白質として発現するためのペプチド配列をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば式(Z)nで表わされるポリペプチドを挙げることができる。式(Z)nで表わされるポリペプチドのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列としては、前記したものなどが挙げられる。
【0053】
抗体認識可能なエピトープ配列をコードするポリヌクレオチドとしては、当技術分野において用いられている抗体認識可能なエピトープ配列をコードする塩基配列を含有するポリヌクレオチドを使用することができる
【0054】
3.本発明の組換えベクターおよび形質転換体
さらに、本発明は、上述した本発明のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターおよび形質転換体を提供する。
【0055】
組換えベクターの作製
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のポリヌクレオチド(DNA)を連結(挿入)することにより得ることができる。より具体的には、精製されたポリヌクレオチド(DNA)を適当な制限酵素で切断し、適当なベクターの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入して、ベクターに連結することにより得ることができる。本発明のポリヌクレオチドを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミド、バクテリオファージ、動物ウイルス等が挙げられる。プラスミドとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pBR325, pUC118, pUC119等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、および酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)があげられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージがあげられる。動物ウイルスとしては、例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、および昆虫ウイルス(例えば、バキュロウイルス)があげられる。また、pCold Iベクター、pCold IIベクター、pCold IIIベクター、pCold IVベクター(以上、タカラバイオ社製)、pcDNA3ベクター、PICZ aベクター(インビトロジェン社製)なども好適に使用することができる。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドは、通常、適当なベクター中のプロモーターの下流に、発現可能なように連結される。用いられるプロモーターとしては、形質転換する際の宿主が動物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、Trpプロモーター、T7プロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADH1プロモーター、GALプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0057】
また、低温で発現誘導可能なプロモーターも好適に使用することができる。低温で発現誘導可能なプロモーターとしては、例えば、コールドショック遺伝子のプロモーター配列が挙げられる。コールドショック遺伝子としては、例えば、大腸菌コールドショック遺伝子(例えば、cspA、cspB、cspG、cspI、およびcsdA)、Bacillus caldolyticusコールドショック遺伝子(例えば、Bc−Csp)、Salmonella entericaコールドショック遺伝子(例えば、cspE)、およびErwinia carotovoraコールドショック遺伝子(例えば、cspG)が挙げられる。低温で発現誘導可能なプロモーターとしては、なかでも、cspAプロモーター、cspBプロモーター、cspGプロモーター、cspIプロモーター、csdAプロモーターなどを好適に使用することができる。
【0058】
本発明の組換えベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子があげられる。
【0059】
形質転換体の作成
このようにして得られた、本発明のポリヌクレオチドを含有する組換えベクターを、適当な宿主中に導入することによって、形質転換体を作成することができる。宿主としては、本発明のポリヌクレオチド(DNA)を発現できるものであれば特に限定されるものではなく、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、シュードモナス属菌、リゾビウム属菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などがあげられる。エシェリヒア属菌としては、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)などがあげられる。バチルス属菌としては、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などがあげられる。シュードモナス属菌としては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)などがあげられる。リゾビウム属菌としては、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)などがあげられる。酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などがあげられる。動物細胞としては、COS細胞、CHO細胞、HeLa細胞などがあげられる。昆虫細胞としては、Sf9、Sf21などがあげられる。
【0060】
組換えベクターの宿主への導入方法およびこれによる形質転換方法は、一般的な各種方法によって行うことができる。組換えベクターの宿主細胞への導入方法としては、リン酸カルシウム法(Virology, 52, 456−457 (1973))、リポフェクション法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987))、エレクトロポレーション法(EMBO J., 1, 841−845 (1982))などがあげられる。エシェリヒア属菌の形質転換方法としては、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)、Gene, 17, 107 (1982)などに記載の方法などがあげられる。バチルス属菌の形質転換方法としては、Molecular & General Genetics,168, 111 (1979)に記載の方法などがあげられる。酵母の形質転換方法としては、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1929 (1978)に記載の方法などがあげられる。動物細胞の形質転換方法としては、Virology,52, 456 (1973)に記載の方法などがあげられる。昆虫細胞の形質転換方法としては、Bio/Technology, 6, 47−55 (1988)に記載の方法などがあげられる。このようにして、本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド(本発明のポリヌクレオチド)を含有する組換えベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
【0061】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターおよび形質転換体
発現ベクターとしては、なかでも低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターが好ましい。
【0062】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターとは、具体的には、次のプロモーター配列、およびコード配列を含有する発現ベクターを意味する:
(1)低温で発現誘導可能なプロモーター配列;および
(2)本発明のポリヌクレオチドを含有するコード配列。
低温で発現誘導可能なプロモーター配列とは、宿主細胞を増殖させる培養条件から、温度を下げることによって蛋白質の発現を誘導可能なプロモーター配列を意味する。低温で発現誘導可能なプロモーターとしては、例えば、コールドショック蛋白質をコードする遺伝子(コールドショック遺伝子)のプロモーターが挙げられる。コールドショック遺伝子のプロモーターとしては、前記したものが挙げられる。
【0063】
本発明で用いられる低温で発現誘導可能なプロモーターが発現誘導しうる温度としては、通常30℃以下、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下、特に好ましくは15℃以下である。ただし、より効率良く発現を誘導させるため、通常は5℃以上、好ましくは10℃以上、特に好ましくは約15℃で発現誘導させる。
【0064】
本発明の低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターを作製する場合、本発明のポリヌクレオチドを挿入するためのベクターとしては、pCold Iベクター、pCold IIベクター、pCold IIIベクター、pCold IVベクター(以上、タカラバイオ社製)などを好適に使用することができる。これらのベクターを使用して、原核細胞を宿主として発現させた場合、蛋白質を宿主細胞の細胞質中に可溶性蛋白質として産生させることができる。
【0065】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターを導入する宿主としては、原核細胞が好ましく、さらに大腸菌が好ましく、特にBL21株、JM109株が好ましく、なかでもBL21株が好ましい。
【0066】
低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターが導入された形質転換体を細胞増殖させる培養温度は、通常25〜40℃、好ましくは30〜37℃である。発現誘導させる温度は、通常4〜25℃、好ましくは10〜20℃、より好ましくは12〜18℃、特に好ましくは15℃である。
【0067】
4.本発明のルシフェラーゼ変異体の製造
また、本発明は、前記形質転換体を培養し、本発明のルシフェラーゼ変異体を生成させる工程を含む、本発明のルシフェラーゼ変異体の製造方法を提供する。本発明のルシフェラーゼ変異体は、例えば、前記形質転換体を本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド(DNA)が発現可能な条件下で培養し、本発明のルシフェラーゼ変異体を生成・蓄積させ、分離・精製することによって製造することができる。
【0068】
形質転換体の培養
本発明の形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。該培養によって、形質転換体によって本発明のルシフェラーゼ変異体が生成され、形質転換体内または培養液中などに本発明のルシフェラーゼ変異体が蓄積される。
【0069】
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する培地としては、該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプンなどの炭水化物、酢酸、プロピオン酸などの有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカーなどが用いられる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウムなどが用いられる。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)などを、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)などを培地に添加してもよい。
【0070】
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加える。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行ない、必要により通気や撹拌を加える。
【0071】
宿主が酵母である形質転換体を培養する培地としては、たとえばバークホールダー(Burkholder)最小培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980))や0.5%(w/v)カザミノ酸を含有するSD培地(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5330 (1984))があげられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20℃〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0072】
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する培地としては、たとえば約5〜20%(v/v)の胎児牛血清を含むMEM培地(Science, 122, 501 (1952)),DMEM培地(Virology, 8, 396 (1959))などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0073】
宿主が昆虫細胞である形質転換体を培養する培地としては、Grace's Insect Medium(Nature,195,788(1962))に非働化した10%(v/v)ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0074】
なお、低温で発現誘導可能なプロモーター配列を含有する発現ベクターが導入された形質転換体を細胞増殖させる培養温度および発現誘導させる温度は、前記した通りである。
【0075】
本発明のルシフェラーゼ変異体の分離・精製
上記培養物から、本発明のルシフェラーゼ変異体を分離・精製することによって、本発明のルシフェラーゼ変異体を得ることができる。ここで、培養物とは、培養液、培養菌体もしくは培養細胞、または培養菌体もしくは培養細胞の破砕物のいずれをも意味する。本発明のルシフェラーゼ変異体の分離・精製は、通常の方法に従って行うことができる。
【0076】
具体的には、本発明のルシフェラーゼ変異体が培養菌体内もしくは培養細胞内に蓄積される場合には、培養後、通常の方法(例えば、超音波、リゾチーム、凍結融解など)で菌体もしくは細胞を破砕した後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により本発明のルシフェラーゼ変異体の粗抽出液を得ることができる。本発明のルシフェラーゼ変異体がペリプラズムスペース中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば浸透圧ショック法など)により本発明のルシフェラーゼ変異体を含む抽出液を得ることができる。本発明のルシフェラーゼ変異体が培養液中に蓄積される場合には、培養終了後、通常の方法(例えば、遠心分離、ろ過など)により菌体もしくは細胞と培養上清とを分離することにより、本発明のルシフェラーゼ変異体を含む培養上清を得ることができる。
【0077】
このようにして得られた抽出液もしくは培養上清中に含まれる本発明のルシフェラーゼ変異体の精製は、通常の分離・精製方法に従って行うことができる。分離・精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、透析法、限外ろ過法などを単独で、または適宜組み合わせて用いることができる。本発明のルシフェラーゼ変異体が上述した精製のためのペプチド配列を含有する場合、これを用いて精製するのが好ましい。具体的には、本発明のルシフェラーゼ変異体がヒスチジンタグ配列を含有する場合にはニッケルキレートアフィニティークロマト法、S−トランスフェラーゼのグルタチオンへの結合ドメインを含有する場合にはグルタチオン結合ゲルによるアフィニティークロマト法、プロテインAのアミノ酸の配列を含有する場合には抗体アフィニティークロマト法を用いることができる。
【0078】
5.本発明のルシフェラーゼ変異体の利用
発光による検出マーカーとしての利用
本発明のルシフェラーゼ変異体は、ルシフェリン存在下、発光による検出マーカー(以下、「本発明の検出マーカー」)として利用することができる。本発明の検出マーカーは、イムノアッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイなどにおける目的物質の検出に利用することができる。
【0079】
本発明のルシフェラーゼ変異体は、例えば、目的蛋白質との融合蛋白質として発現させ、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入することによって、前記目的蛋白質の分布を測定するために利用することもできる。このような目的タンパク質などの分布の測定は、発光イメージング等の検出法などを利用して行うこともできる。なお、本発明のルシフェラーゼ変異体は、マイクロインジェクション法などの手法により細胞内に導入する以外に、細胞内で発現させて用いることもできる。
【0080】
用いる発光基質(ルシフェリン)は、前述の通り、セレンテラジン類であるのが好ましく、セレンテラジンであるのが特に好ましい。
【0081】
レポーター蛋白質としての利用
本発明のルシフェラーゼ変異体は、レポーター蛋白質としてプロモーターなどの転写活性の測定に利用することもできる。この場合、本発明のポリヌクレオチドをレポーター遺伝子として用い、当該レポーター遺伝子がコードするルシフェラーゼ変異体をルシフェリンに接触させる。ここで、「接触」とは、本発明のルシフェラーゼ変異体とルシフェリンとを同一の反応系または培養系に存在させることを意味し、例えば、本発明のルシフェラーゼ変異体を発現する細胞の培養容器にルシフェリンを添加すること、前記細胞とルシフェリンとを混合すること、前記細胞をルシフェリンの存在下で培養することが含まれる。本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド(すなわち、本発明のポリヌクレオチド)を、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列(例えば、エンハンサー)に融合したベクターを構築する。前記ベクターを宿主細胞に導入し、ルシフェリン(発光基質)存在下、本発明のルシフェラーゼ変異体に由来する発光を検出することにより、目的のプロモーターまたは他の発現制御配列の活性を測定することができる。さらに、発現したルシフェラーゼ変異体をセレンテラジン類と反応させ、生成する発光を高感度検出装置により可視化、画像化することもできる。
【0082】
用いるルシフェリンは、前述の通り、セレンテラジン類であるのが好ましく、セレンテラジンであるのが特に好ましい。
【0083】
用いる細胞は、動物細胞であるのが好ましい。動物細胞の場合、本発明の好ましい態様のルシフェラーゼ変異体は、細胞外にほとんど分泌しない。
【0084】
本発明のポリヌクレオチドは、上述のようにして、レポーター遺伝子として利用することができる。
【0085】
アミューズメント用品の材料
本発明のルシフェラーゼ変異体は、ルシフェリンが酸素分子で酸化されてオキシルシフェリンが励起状態で生成される反応を触媒する活性を有する。励起状態のオキシルシフェリンは可視光を発して基底状態となる。よって、本発明のルシフェラーゼ変異体は、アミューズメント用品の材料の発光基材として好適に使用することができる。アミューズメント用品としては、たとえば、発光シャボン玉、発光アイス、発光飴、発光絵の具等があげられる。本発明のアミューズメント用品は、通常の方法によって製造することができる。
【0086】
用いるルシフェリンは、前述の通り、セレンテラジン類であるのが好ましく、セレンテラジンであるのが特に好ましい。
【0087】
生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法
本発明のルシフェラーゼ変異体は、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)法による分子間相互作用の原理を利用した生理機能の解析や酵素活性の測定等の分析方法に利用することができる。
【0088】
例えば、本発明のルシフェラーゼ変異体をドナーとして使用し、蛍光物質(例えば、有機化合物、および蛍光蛋白質)をアクセプターとして使用して、両者の間で生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を起こすことによりドナーとアクセプターとの間の相互作用を検出することができる。
【0089】
本発明のある態様では、アクセプターとして使用する有機化合物は、Hoechist3342、Indo−1、DAP1などである。本発明の別の態様では、アクセプターとして使用する蛍光蛋白質は、緑色蛍光蛋白質(GFP)、青色蛍光蛋白質(BFP)、変異GFP蛍光蛋白質、フィコビリンなどである。
【0090】
本発明の好ましい態様において、解析する生理機能は、オーファン受容体(特にG蛋白質共役受容体)、アポトーシス、または遺伝子発現による転写調節などである。また、本発明の好ましい態様において、分析する酵素は、プロテアーゼ、エステラーゼまたはリン酸化酵素などである。
【0091】
BRET法による生理機能の解析は、公知の方法で行うことができ、例えば、Biochem. J. 2005, 385, 625−637、またはExpert Opin. Ther Tarets, 2007 11: 541−556に記載の方法に準じて行うことができる。また、酵素活性の測定も、公知の方法で行うことができ、例えば、Nature Methods2006, 3:165−174、またはBiotechnol.J. 2008, 3:311−324に記載の方法に準じて行うことができる。
【0092】
用いる発光基質(ルシフェリン)は、前述の通り、セレンテラジン類であるのが好ましく、セレンテラジンであるのが特に好ましい。
【0093】
6.本発明のキット
本発明は、本発明ルシフェラーゼ変異体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の組換えベクター、本発明の形質転換体から選択されるいずれかを含むキットも提供する。本発明のキットには、さらにルシフェリンを含んでいてもよい。
【0094】
ルシフェリンは、前述の通り、セレンテラジン類であるのが好ましく、セレンテラジンであるのが特に好ましい。
【0095】
本発明のキットは、通常用いられる材料および方法で製造することができる。本発明のキットは、例えば、サンプルチューブ、プレート、キット使用者に対する指示書、溶液、バッファー、試薬、標準化のために好適なサンプルまたは対照サンプルを含んでもよい。本発明のキットには、さらに、ハロゲン化物イオンを含む塩などを含んでいてもよい。
本発明のキットは、上述したレポーター蛋白質もしくはレポーター遺伝子を用いた測定、発光による検出マーカー、BRET法による生理機能の解析または酵素活性の測定などに利用することができる。また、後述の発光反応方法に用いることもできる。
【0096】
7.発光反応方法
発光活性
本発明のルシフェラーゼン変異体は、ルシフェリンを酸素分子で酸化して励起状態のオキシルシフェリンを生成させる反応を触媒する活性を有する。励起状態のオキシルシフェリンは、基底状態となる際に可視光を発する。すなわち、本発明のルシフェラーゼ変異体は、ルシフェリンを基質とする発光反応を触媒し、発光を生じさせる活性を有する。この活性を、本明細書において、「発光活性」と称することがある。
【0097】
発光反応
本発明のルシフェラーゼ変異体を用いた、ルシフェリンを基質とする発光反応は、本発明のルシフェラーゼ変異体とルシフェリンとを接触させることにより行うことができる。ここで、「接触」とは、本発明のルシフェラーゼ変異体とルシフェリンとを同一の反応系に存在させることを意味し、例えば、ルシフェリンを収容した容器に本発明のルシフェラーゼ変異体を添加すること、本発明のルシフェラーゼ変異体を収容した容器にルシフェリンを添加すること、本発明のルシフェラーゼ変異体とルシフェリンとを混合することが含まれる。反応条件としては、オプロフォーラスルシフェラーゼを用いた発光反応に通常用いられる条件またはそれに準じた条件で行うことができる。
【0098】
具体的には、反応溶媒としては、Tris−HCl緩衝液、リン酸ナトリウム緩衝液などの緩衝液、水、などが用いられる。
【0099】
反応温度は、通常約4℃〜約40℃、好ましくは約4℃〜約25℃である。
反応溶液のpHは、通常約5〜約10、好ましくは約6〜約9、より好ましくは約7〜約8、特に好ましくは約7.5である。
【0100】
ルシフェリンとしては、前述の通り、セレンテラジン類が好ましく、特にセレンテラジンが好ましい。
【0101】
ルシフェリンは、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド等の極性溶媒や、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールの溶液として反応系に加えてもよい。
【0102】
発光活性の活性化
本発明のルシフェラーゼ変異体の、ルシフェラーゼ活性は、ハロゲン化物イオン、非イオン性界面活性剤などにより活性化され得る。
【0103】
ハロゲン化物イオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどがあげられ、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが好ましい。
【0104】
ハロゲン化物イオンの濃度は、通常約10μM〜約100mM、好ましくは約100μM〜約50mM、特に好ましくは約1mM〜約20mMである。
【0105】
反応系にハロゲン化物イオンを添加する方法としては、塩として添加する方法などがあげられる。用いられる塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などのアルカリ土類金属塩などがあげられる。より具体的には、NaF、NaCl、NaBr、NaI、KF、KCl、KBr、KI、CaF2、CaCl2、CaBr2、CaI2、MgF2、MgCl2、MgBr2、MgI2などがあげられる。
【0106】
非イオン性界面活性剤の市販品(商品名)としては、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、TritonX-100(ポリエチレングリコール−p−イソオクチルフェニルエーテル)、Briji-58 (ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル)、Nonidet P-40 (エチルフェノールポリ(エチレングリコールエーテル)n)などがあげられ、Tween20、TritonX-100などが好ましい。
【0107】
非イオン性界面活性剤の濃度は、通常約0.0002%(w/v)〜約0.2%(w/v)、好ましくは約0.001%(w/v)〜約0.1%(w/v)、特に好ましくは約0.05%(w/v)〜約0.02%(w/v)である。
【0108】
なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。
【0109】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (4th edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2012); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0110】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。
【0111】
発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【実施例】
【0112】
以下に実施例により本発明を説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
【0113】
実施例1:変異19kOLase遺伝子の調製法
19k OLase(以降KAZと記載)遺伝子への部位特異的変異法によるアミノ酸置換は、Ho et al., Gene (1989) 77: 51-59記載の方法に従い、PCR法により行った。KAZの塩基配列およびアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:1および配列番号:2に示す通りである。具体的には、KAZ遺伝子を有するpCold-KAZまたはpCold-ZZ-KAZを鋳型として、2種のPCRプライマーを用いて、PCRキット(タカラバイオ社製)にてPCR(サイクル条件25サイクル;1分/94℃、1分/50℃、1分/72℃)を実施した。
【0114】
例えば、1アミノ酸置換変異体KAZ-Q18Lの遺伝子の作製は、次のようにして行った。先ず、pCold-KAZを鋳型として、以下のプライマーで増幅したDNA断片を調製した。
【0115】
1ヶ所目のDNA断片の調製に用いたプライマー:
pCold-F(5' ACG CCA TAT CGC CGA AAG G 3')(配列番号:17)
KAZ:Q18L-R(5' TAA CAC TTG ATC TAG GTT GTA TCC AGC 3')(配列番号:18)
【0116】
2ヶ所目のDNA断片の調製に用いたプライマー:
KAZ:Q18L-F(5' GCT GGA TAC AAC CTA GAT CAA GTG TTA 3')(配列番号:19)
KAZ-5C/XbaI(5’CCGC TCT AGA TTA GGC AAG AAT GTT CTC GCA AAG CCT 3’)(配列番号:20)
【0117】
上記で得られた2カ所のDNA断片を用いて以下のKAZ-8N/EcoRIおよびKAZ-5C/XbaIのPCRプライマーを用いて、2回目のPCRを実施した。
【0118】
プライマー:
KAZ-8N/EcoRI(5’GCG GAA TTC TTT ACG TTG GCA GAT TTC GTT GGA 3’)(配列番号:21)
KAZ-5C/XbaI(配列番号:20)
【0119】
その結果、配列番号:2のアミノ酸配列のうち、18番目のアミノ酸をグルタミンからロイシンへ置換したKAZ遺伝子領域(KAZ-Q18L)を増幅した。
【0120】
以下同様にして、表1に記載の鋳型及びプライマーを用いて、アミノ酸置換したKAZ遺伝子領域を取得した。
【0121】
表1 KAZ蛋白質のアミノ酸の1置換に使用した鋳型とPCRプライマーのリスト
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0122】
実施例2:16ヶ所の変異を有する変異19k OLase遺伝子(dnKAZ)の調製法
Inouye et al (2013) Biochem. Biophys.Res.Commun. 437: 23-28.に記載のpCold-ZZ-P-nanoKAZを鋳型として、以下のプライマーを用いて、PCR法により遺伝子増幅した。
【0123】
プライマー:
nanoKAZ-1N/EcoRI(5’ gcgGAATTCTTCACCCTGGAGGACTTCGTCGGC 3’: アンダーラインEcoRI 配列)(配列番号:50)
nanoKAZ-3C/XbaI(5’ gccTCTAGATTAGGCCAGGATTCTCTCGCACAGTCT 3’:アンダーラインXbaI 配列)(配列番号:51)
【0124】
実施例3: pColdIIベクターによるKAZ変異体の大腸菌発現ベクターの構築
実施例1及び2で得られたDNA断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、発現ベクターpColdII(タカラバイオ社)の制限酵素EcoRI/XbaI部位に連結する事によって、以下のKAZ変異体ベクターを構築した:pCold-KAZ-A4E、pCold-KAZ-Q11R、pCold-KAZ-Q18L、pCold-KAZ-L27V、pCold-KAZ-A33N、pCold-KAZ-K43R、pCold-KAZ-V44I、pCold-KAZ-A54I、pCold-KAZ-F68D、pCold-KAZ-L72Q、pCold-KAZ-M75K、pCold-KAZ-I90V、pCold-KAZ-P115E、pCold-KAZ-Q124K、pCold-KAZ-Y138I、pCold-KAZ-N166R、およびpCold-dnKAZ。DNAシークエンサー(ABI社製)にて塩基配列を決定する事により、インサートDNAの確認を行った。
【0125】
KAZ変異体のアミノ酸配列のうち、置換アミノ酸及び塩基を表2に示す。
表2.KAZ変異体の置換アミノ酸及び塩基
【0126】
【表2】
【0127】
ここで、KAZ変異体のうち、KAZ-V44Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:3および配列番号:4に示す。KAZ-A54Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:5および配列番号:6に示す。KAZ- Y138Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:7および配列番号:8に示す。
【0128】
実施例4:KAZ変異体の大腸菌での発現と粗酵素液の調製
KAZ変異体を大腸菌において発現させるため、実施例3で作製した組換えプラスミドを用いた。宿主大腸菌株としてBL21(Novagen, Madison, WI)を用いた。組換えプラスミドを含むBL21株をアンピシリン(50μg/mL)を含有する5 mLのLuria−Bertani培地(以降LB培地と記載)で、37℃で18時間、培養した。この種培養0.1mLを、10 mLのLB培地に植菌し、3時間培養した。その後、氷中で、1時間冷却した。その培養液に、最終濃度が1mMとなるようにIPTGを加えた後、さらに15℃で20時間培養した。培養後、1 mLの培養液を回収し、10,000 rpmで2分間の遠心分離により大腸菌を回収し、0.5 mLの30 mM Tris-HCl (pH7.6)-10 mM EDTA(和光純薬製)(以降TEと記載)中に懸濁した。Branson model 250 sonifire(Danbury, CT)を用い、3秒間の超音波処理することにより大腸菌を破壊し、粗酵素液を調製した。更に粗酵素液0.5mLを10,000回転で2分間遠心分離して上清と沈殿に分離後、沈殿を0.5mLのTEに懸濁した。上清及び沈殿20μLをSDS-PAGE分析に供し、可溶性蛋白質及び不溶性蛋白質の有無を確認した。その結果を図1に示す。図1中、Mおよび1〜17は次の通りである:M: 分子量サイズマーカー;1: KAZ; 2 KAZ-A4E;3: KAZ-Q11R;4: KAZ-Q18L;5: KAZ-L27V;6: KAZ-A33N; 7:KAZ-K43R; 8: KAZ-V44I;9: KAZ-A54I;10: KAZ-F68D;11: KAZ-L72Q;12: KAZ-M75K;13: KAZ-I90V;14: KAZ-P115E;15: KAZ-Q124K;16: KAZ-Y138I;17: KAZ-N166Rおよび18: dnKAZ。図1より、dnKAZ(18)のみ可溶性蛋白質として発現し、他の蛋白質(1〜16)はほとんど不溶性蛋白質として発現していることが明らかとなった。
【0129】
実施例5:KAZ変異体粗酵素液の発光活性測定法
実施例4にて得られた上清及び沈殿5μLを、0.5μg のセレンテラジン(JNC社製)を含む100μLのTEに加え、発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、60秒間で測定し、相対発光活性(Imax) で表記した。
【0130】
表3.KAZ変異体粗酵素液の上清及び沈殿画分の発光活性
【表3】
【0131】
dnKAZは、可溶性蛋白質として発現し、上清で高い発光活性を示した。一方、KAZ変異体は、ほとんど不溶性蛋白質として発現し、上清及び沈殿画分での発光活性は低かった。しかし、その中でもKAZ-A54I変異体はdnKAZの約1/12倍の活性を示し、54番目のアラニンをイソロイシンへ置換することにより、発光活性が上昇した。
【0132】
実施例6:ZZ融合KAZ変異体の大腸菌発現ベクターの構築
可溶性蛋白質として発現させるために、発現ベクターpCold-ZZ-X(Inouye & Sahara, Protein Express. Purif. (2009) 66:52-57に記載)を使用した。この発現ベクターのEcoRI/XbaI制限酵素部位に、実施例1及び2で取得したDNA断片を制限酵素EcoRI/XbaIにて消化、連結し、以下の融合KAZ変異体発現ベクターを構築した:pCold-ZZ-P-KAZ-A4E、pCold-ZZ-P-KAZ-Q11R、pCold-ZZ-P-KAZ-Q18L、pCold-ZZ-P-KAZ-L27V、pCold-ZZ-P-KAZ-A33N、pCold-ZZ-P-KAZ-K43R、pCold-ZZ-P-KAZ-V44I、pCold-ZZ-P-KAZ-A54I、pCold-ZZ-P-KAZ-F68D、pCold-ZZ-P-KAZ-L72Q、pCold-ZZ-P-KAZ-M75K、pCold-ZZ-P-KAZ-I90V、pCold-ZZ-P-KAZ-P115E、pCold-ZZ-P-KAZ-Q124K、pCold-ZZ-P-KAZ-Y138I、pCold-ZZ-P-KAZ-N166R、およびpCold-ZZ-P-dnKAZ。
【0133】
実施例7:ZZ融合KAZ変異体の大腸菌での発現と粗酵素液の調製
ZZ融合KAZ変異体を大腸菌において発現させるため、実施例6で作製した組換えプラスミドを用いた。宿主大腸菌株としてBL21(Novagen, Madison, WI)を用いて、実施例4と同様の方法で粗酵素液を調製した。得られた粗酵素液5μLをSDS-PAGE分析に供し、蛋白質の発現を確認した(図2)。図2中のMおよび1〜18は、図1で説明した通りである。
【0134】
実施例8:ZZ融合KAZ変異体粗酵素液の発光活性測定法
実施例7で得られた粗酵素液に最終濃度が1 mM になるようにDTTを加え、氷中に5時間以上静置した。その粗酵素液1μLを、1μg のセレンテラジン(JNC社製)を含む100μLのTEに加え、発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、60秒間で測定し、最大発光強度(Imax)を相対発光活性で表記した。
【0135】
その結果を表4に示す。表4の結果から、3種の変異体であるKAZ-V44I、KAZ-A54I、KAZ-Y138Iで、天然型KAZに比べて6.6、8.9、5.9倍の活性上昇が確認された。特に1ヶ所の変異であるKAZ-A54Iは、16ヶ所の変異であるdnKAZと同等の発光活性を示した。この3ヶ所の置換が、高活性化への変異である可能性を示した。
【0136】
表4. ZZ融合KAZ変異体粗酵素液の発光活性
【表4】
【0137】
実施例9:ガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列を使用してKAZ変異体を分泌発現するベクター
KAZ変異体発現ベクターの構築は以下の通りである。先ず、動物培養細胞での新規発現ベクターpcDNA3-GLspを構築した。具体的には、pcDNA3-GLucベクター(プロルミ社製)よりガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列を以下のプライマーを用いPCR法により取得した。
【0138】
プライマー:
GLsp-1R/EcoRI (5' ggc GAA TTC GGT GGG CTT GGC CTC GGC CAC 3'、アンダーラインEcoRI 配列)(配列番号:52)
T7プライマー(5' TAATACG ACTCACTATAGGG 3')(配列番号:53)
【0139】
得られた分泌シグナル配列をHindIII/EcoRIで消化後、得られた断片を、pcDNA3ベクター(インビトロジェン社製)の制限酵素部位であるHindIII/EcoRI部位に挿入することにより、新規発現ベクターpcDNA3-GLspを構築した。すなわち、新規発現ベクターは、CMVのプロモーターに制御され、その下流にコザック配列、ガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列、マルチクローニングサイト配列を有する。
【0140】
次に、新規発現ベクターpcDNA3-GLspを用いたKAZ変異体発現ベクターの構築は以下の通りである。KAZ変異体遺伝子断片を常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、pcDNA3-GLspのEcoRI-XbaI 部位に連結することによって、以下の発現ベクターを構築した:pcDNA3-GLsp-KAZ-A4E、pcDNA3-GLsp-KAZ-Q11R、pcDNA3-GLsp-KAZ-Q18L、pcDNA3-GLsp-KAZ-L27V、pcDNA3-GLsp-KAZ-A33N、pcDNA3-GLsp-KAZ-K43R、pcDNA3-GLsp-KAZ-V44I、pcDNA3-GLsp-KAZ-A54I、pcDNA3-GLsp-KAZ-F68D、pcDNA3-GLsp-KAZ-L72Q、pcDNA3-GLsp-KAZ-M75K、pcDNA3-GLsp-KAZ-I90V、pcDNA3-GLsp-KAZ-P115E、pcDNA3-GLsp-KAZ-Q124K、pcDNA3-GLsp-KAZ-Y138I、pcDNA3-GLsp-KAZ-N166R、およびpcDNA3-GLsp-dnKAZ。なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定することにより、インサート遺伝子配列の確認を行った。
【0141】
実施例10:動物培養細胞へのベクターの導入および測定用酵素の調製法
(1)発現プラスミドの精製
実施例9にて得られた組換えプラスミドを用いて以下の実験を行った。組換えプラスミドは大腸菌JM83より、プラスミド精製キット(QIAGEN社製)を用いて精製し、滅菌水に溶解した。同様にして、内部標準のためのホタルルシフェラーゼベクター(pGL4.13 [Luc2/sv40]:プロメガ社製)を使用した。
【0142】
(2)トランスフェクションおよび測定用酵素の調製法
チャイニーズハムスター卵巣由来の細胞株CHO-K1株を、10%(v/v)牛胎児血清(バイオウエスト社製)を含むHam’s F-12培地(和光純薬社製)にて培養した。CHO-K1細胞を1 x 10 細胞/ウエル/2 mL培地にて6 ウエルプレートに播種し(n = 2)、インキュベーター中37 ℃、5 %(v/v) CO2にて培養した。24時間後、精製した組換えプラスミドをFuGene HD(プロメガ社製)トランスフェクションキットを用いて、CHO-K1細胞にトランスフェクションし、次の実験に用いた。具体的には、100μL の培地に、組換えプラスミド1μgとpGL4.13 [Luc2/sv40]内部標準ベクター0.1μgと、FuGene HD 3μLを加え、室温で15分間放置した。100μLのDNA-FuGene 複合体溶液を、6ウエルの細胞に添加した。48時間培養後、培養液を回収した。一方、細胞内で発現したKAZ変異体については、細胞を3mLの1x PBSで3回洗浄後、1 mLの1x PBSに懸濁し、氷上で超音波破砕処理して得られたものを、細胞抽出KAZ変異体酵素液とした。
【0143】
実施例11:動物培養細胞発現KAZ変異体の発光活性測法
実施例10で得られた培養液及び細胞抽出液5μLを、0.5μg のセレンテラジン(JNC社製)を含む100μLの30mM Tris-HCl (pH 7.6)-10 mM EDTA(和光純薬)に加え、発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、60秒間で測定し、最大発光強度(Imax)を百分率で表記した。その結果を表5に示す。表5の結果から、いずれの1アミノ酸置換KAZ変異体においても、細胞からの分泌は認められなかった。
【0144】
一方、トランスフェクションの効率を確認するための内部標準で使用したホタルルシフェラーゼについては、実施例10で得られた細胞抽出液5μLを、100μL の酵素アッセイ用試薬(プロメガ社)に加え、発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、10秒間での最大発光強度(rlu)を測定した。その結果、トランスフェクション効率は、ほぼ同一であることが確かめた。
【0145】
表5. 動物培養細胞発現KAZ変異体の発光活性
【表5】
【0146】
実施例12:KAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体遺伝子の作製
実施例8で、3ヶ所のアミノ酸置換(V44I、A54I、Y138I)が発光活性上昇に関与している可能性が示唆されたため、これらのアミノ酸の2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体を作製し、発光活性を検討した。
【0147】
KAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体遺伝子の作製は、実施例5にて作製した、KAZの1アミノ酸置換変異体を鋳型として、表6に記載のPCRプライマーを用いて、実施例1と同様の方法にて行った。
【0148】
上記方法により、3種類の2アミノ酸置換変異体遺伝子領域(KAZ-V44I-A54I、KAZ-V44I-Y138I、KAZ-A54I-Y138I)と1種類の3アミノ酸置換変異体遺伝子領域(KAZ-V44I-A54I-Y138I)を取得した。
【0149】
表6. KAZ蛋白質のアミノ酸の2及び3置換に使用した鋳型とPCRプライマーのリスト
【表6-1】
【表6-2】
【0150】
実施例13: pColdIIベクターによるKAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体の大腸菌発現ベクターの構築
実施例12で得られたDNA断片をPCR精製キット(キアゲン社製)で精製し、常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、発現ベクターpColdII(タカラバイオ社)の制限酵素EcoRI/XbaI部位に連結することによって、pCold-KAZ-V44I-A54I、pCold-ZZ-V44I-Y138I、pCold-KAZ-A54I-Y138I、pCold-KAZ-V44I-A54I-Y138IのKAZ変異体発現ベクターを構築した。DNAシークエンサー(ABI社製)にて塩基配列を決定する事により、インサートDNAの確認を行った。
【0151】
KAZ変異体のアミノ酸配列のうち、置換アミノ酸及び塩基を表7に示す。
【0152】
表7.KAZ変異体の置換アミノ酸及び塩基
【表7】
【0153】
ここで、KAZ- V44I-A54Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:9および配列番号:10に示す。KAZ- V44I-Y138Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:11および配列番号:12に示す。KAZ- A54I-Y138Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:13および配列番号:14に示す。KAZ- V44I-A54I-Y138Iの塩基配列およびアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号:15および配列番号:16に示す。
【0154】
実施例14:KAZ変異体の大腸菌での発現と粗酵素液の調製
KAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体を大腸菌において,
pColdIIベクターを用いて発現させるため、実施例13で作製した組換えプラスミドと実施例3にて作製したpCold-V44I-KAZ、pCold-A54I-KAZ、pCold-Y138I-KAZを用いた。宿主大腸菌株としてBL21(Novagen, Madison, WI)を用いて、実施例4と同様の方法で粗酵素液の上清及び沈殿を調製した。上清及び沈殿20μLをSDS-PAGE分析に供し、可溶性蛋白質及び不溶性蛋白質の有無を確認した。その結果を図3に示す。図3中のMおよび1〜9は次の通りである。M: 分子量サイズマーカー;1: dnKAZ;2: KAZ;3: KAZ-V44I-A54I;4: KAZ-V44I-Y138I;5: KAZ-A54I-Y138I;6: KAZ-V44I-A54I-Y138I;7: KAZ-V44I;8: KAZ-A54I;および9: KAZ-Y138I。図3の結果から、dnKAZのみ可溶性蛋白質として発現し、他の変異体及びKAZは不溶性蛋白質として発現していることが明らかとなった。
【0155】
実施例15:KAZ変異体粗酵素液の発光活性測定法
実施例14にて得られた上清及び沈殿5μLを、実施例5と同様の方法で発光活性を測定した。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、60秒間で測定し、最大発光強度(Imax)を相対活性で表記した。
【0156】
その結果を表8に示す。表8から、KAZ変異体は、不溶性蛋白質として発現しているにもかかわらず、2アミノ酸置換変異体と3アミノ酸置換変異体の上清で、天然型KAZと比べて、KAZ-V44I-A54I、KAZ-V44I-Y138I、KAZ-A54I-Y138Iで、295、71、982倍の活性を示した。特にKAZの3アミノ酸置換変異体は、dnKAZと同等の高い発光活性を示した。この3アミノ酸が、KAZの発光活性上昇に関与していることが示唆された。
【0157】
表8. KAZ変異体粗酵素液の上清及び沈殿画分の発光活性
【表8】
【0158】
実施例16:ZZ融合KAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体の大腸菌発現ベクターの構築
実施例12で得られたDNA断片をZZドメインに結合させ、可溶性蛋白質として発現させるために、実施例6と同様の方法で、pCold-ZZ-Pベクターを用いて、ZZドメインと融合したKAZ変異体を発現できるpCold-ZZ-P-KAZ-V44I-A54I、pCold-ZZ-P-KAZ-V44I-Y138I、pCold-ZZ-P-KAZ-A54I-Y138I、pCold-ZZ-P-KAZ-V44I-A54I-Y138Iの4種類の発現ベクターを構築した。
【0159】
実施例17:KAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体の大腸菌での発現と粗酵素液の調製
ZZ融合KAZ変異体を大腸菌において発現させるため、実施例16で作製した組換えプラスミドと実施例6にて作製したpCold-ZZ-P-V44I-KAZ、pCold-ZZ-P-A54I-KAZ、pCold-ZZ-P-Y138I-KAZを用いた。宿主大腸菌株としてBL21(Novagen, Madison, WI)を用いて、実施例7と同様の方法で粗酵素液を調製した。粗酵素液に最終濃度が1 mM になるようにDTTを加え、氷中に5時間以上静置後、発光活性を測定した。活性の測定法は、実施例8と同様の方法にて行った。また、得られた粗酵素液5μLをSDS-PAGE分析に供し、蛋白質の発現を確認した(図4)。図4中、Mおよび1〜9は次の通りである。M: 分子量サイズマーカー;1: ZZ-P-KAZ;2: ZZ-P-KAZ-V44I;3: ZZ-P-KAZ-A54I;4: ZZ-P-KAZ-Y138I;5: ZZ-P-KAZ-V44I-A54I;6: ZZ-P-KAZ-V44I-Y138I;7: ZZ-P-KAZ-A54I-Y138I;8: ZZ-P-KAZ-V44I-A54I-Y138I;および9: ZZ-P-dnKAZ。
【0160】
表9. ZZ融合KAZ変異体粗酵素液の発光活性
【表9】
【0161】
表9の結果から、3種類の2アミノ酸置換変異体であるKAZ-V44I-A54I、KAZ-V44I-Y138I、KAZ-A54I-Y138Iは、天然型KAZと比べて15、17、23倍の活性を示し、3アミノ酸置換変異体のKAZ-V44I-A54I-Y138Iは、67倍の活性を示した。
【0162】
また、dnKAZの相対活性9.4に対して、2アミノ酸置換変異体のKAZ-V44I-A54I、KAZ-V44I-Y138I、KAZ-A54I-Y138Iは、それぞれ1.6、1.8、2.5倍の活性を示し、3アミノ酸置換変異体のKAZ-V44I-A54I-Y138Iは、7.1倍の活性を示した。このことから、これらの3アミノ酸が、KAZの発光活性の上昇に関与していることが明らかとなった。
【0163】
実施例18:KAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体の基質特異性
基質特異性実験に使用したセレンテラジン類縁体は、それぞれ論文記載の方法で合成した。具体的には、bis-セレンテラジン はNakamura et al. (1997) Tetrahedron Lett.. 38:6405-6406, フリマジン(Furimazine)は、Hall et al. (2012) ACS Chem. Biol. 16; 848-1857, 6h-セレンテラジン、f-セレンテラジン、6h-f-セレンテラジンは、Inouye et al (2013) Biochem. Biophys. Res. Commun. 437: 23-28 に記載の方法で合成した。
【0164】
実施例8と同様に、実施例17で得られた粗酵素液に最終濃度が1 mM になるようにDTTを加え、氷中に5時間以上静置した。その粗酵素液1μLを、1μg のセレンテラジン(JNC社製)またはその類縁体を含む100μLのTEに加え、発光反応を開始させた。発光活性は、発光測定装置(アトー社製:AB2200)で、60秒間で測定し、最大発光強度(Imax)を相対発光活性で表記した。
【0165】
その結果を表10に示す。表10の結果から、セレンテラジンを基質に使用した場合、2アミノ酸置換変異体と3アミノ酸置換変異体は、dnKAZよりも高い発光活性を示し、特に3アミノ酸置換変異体で高い発光活性を示すことが明らかとなった。
【0166】
また、3アミノ酸置換変異体のKAZ-V44I-A54I-Y138Iは、6h-セレンテラジンにおいても、dnKAZより高い発光活性を示した。
【0167】
KAZ-V44I-A54I、KAZ-V44I-Y138I、KAZ-A54I-Y138I、KAZ-V44I-A54I-Y138Iは、基質セレンテラジンに高い特異性を示す変異体であることが明らかとなった。
【0168】
表10. KAZ変異体の基質特異性
【表10】
【0169】
実施例19:ガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列を使用してKAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体を分泌発現するベクターの構築
ガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列を使用してKAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体を分泌発現するベクターの構築は、実施例8にて作製したpcDNA3-GLsp-ベクターを用いて、実施例12にて作製したKAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体遺伝子断片及び実施例2で作製したdnKAZ遺伝子断片を常法により制限酵素EcoRI/XbaIにて消化した後、pcDNA3-GLspのEcoRI-XbaI 部位に連結することによって、発現ベクターpcDNA3-GLsp-KAZ-V44I-A54I、pcDNA3-GLsp-KAZ-V44I-Y138I、pcDNA3-GLsp-KAZ-A54I-Y138I、pcDNA3-GLsp-KAZ-V44I-A54I-Y138I、pcDAN3-GLsp-dnKAZを構築した。なお、DNA シークエンサー(ABI社製)により塩基配列を決定することにより、インサート遺伝子配列の確認を行った。
【0170】
実施例20:動物培養細胞へのベクターの導入および測定用酵素の調製法
(1)発現プラスミドの精製
実施例19にて得られた組換えプラスミドを実施例10と同様にして精製し、滅菌水に溶解した。同様にして、内部標準のためのホタルルシフェラーゼベクター(pGL4.13 [Luc2/sv40]:プロメガ社製)を使用した。
【0171】
(2)トランスフェクションおよび測定用酵素の調製法
実施例10と同様の方法にて、2アミノ酸置換KAZ変異体及び3アミノ酸置換KAZ変異体の培養液と細胞抽出KAZ変異体酵素液を得た。
得られた酵素溶液と細胞抽出KAZ変異体酵素液は、実施例11と同様の方法にて発光活性を測定した。
【0172】
その結果を表11に示す。表11の結果から、ガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列を使用してKAZ変異体を分泌発現させた2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換KAZ変異体は、細胞質内で発現しているにもかかわらず、dnKAZに比べ、細胞からの分泌はほとんど認められなかった。
【0173】
表11. ガウシアルシフェラーゼの分泌シグナル配列を使用してKAZ変異体を分泌発現するベクターを用いて発現させたKAZ変異体の発光活性
【表11】
【0174】
実施例21:動物培養細胞で分泌シグナル配列を有しないKAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体発現ベクターの構築
コザック配列を含むKAZの2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換変異体遺伝子断片及びnanoKAZ遺伝子断片を制限酵素Asp718とXbaI で消化後、pcDNA3ベクター(インビトロジェン社製)のAsp718-XbaI部位に挿入し、pcDNA3-KAZ-V44I、pcDNA3-KAZ-A54I、pcDNA3-KAZ-Y138I、pcDNA3-KAZ-V44I-A54I、pcDNA3-KAZ-V44I-Y138I、pcDNA3-KAZ-A54I-Y138I、pcDNA3-KAZ-V44I-A54I-Y138Iベクターを構築した。
【0175】
実施例22:動物培養細胞へのベクターの導入および測定用酵素の調製法
(1)発現プラスミドの精製
実施例21にて得られた組換えプラスミドを実施例10と同様にして精製し、滅菌水に溶解した。同様にして、内部標準のためのホタルルシフェラーゼベクター(pGL4.13 [Luc2/sv40]:プロメガ社製)を使用した。
【0176】
(2)トランスフェクションおよび測定用酵素の調製法
実施例10と同様の方法にて、2アミノ酸置換KAZ変異体及び3アミノ酸置換KAZ変異体の培養液と細胞抽出KAZ変異体酵素液を得た。
【0177】
得られた酵素溶液と細胞抽出KAZ変異体酵素液は、実施例11と同様の方法にて発光活性を測定した。
【0178】
その結果を表12に示す。表12を見ると、分布シグナルを有しないKAZ変異体の発現ベクターを用いて発現させた2アミノ酸置換変異体及び3アミノ酸置換KAZ変異体は、細胞抽出液で、天然型KAZに比べて、KAZ-V44Iは3.7倍、KAZ-A54Iは6.7倍、KAZ-Y138Iは6.4倍、KAZ-V44I-A54Iは23倍、KAZ-V44I-Y138Iは15倍、KAZ-A54I-Y138Iは22倍、KAZ-V44I-A54I-Y138Iは56倍の発光活性を示した。特に2アミノ酸置換KAZ変異体と3アミノ酸置換KAZ変異体で、天然型KAZに比べて高い活性を示した。
【0179】
一方、いずれの変異株においても、細胞質内では、天然型KAZに比べて高い発光活性を示したにも関わらず、細胞からの分泌はほとんど認められなかった。
【0180】
表12. 分泌シグナル配列を有しないKAZ変異体の発現ベクターを用いて発現させたKAZ変異体の発光活性
【表12】
【0181】
これらの結果より、KAZの2アミノ酸置換変異体である、KAZ-V44I-A54I、KAZ-V44I-Y138I、KAZ-A54I-Y138Iと3アミノ酸置換変異体のKAZ-V44I-A54I-Y138Iは、セレンテラジンを基質にした場合、天然型KAZに比べて、非常に高い発光活性を示し、さらに動物培養細胞においては、分泌しないという特性を有しているため、細胞質内におけるレポーターアッセイ等に好適である。
【配列表フリーテキスト】
【0182】
[配列番号:1]KAZの塩基配列である。
[配列番号:2]KAZのアミノ酸配列である。
[配列番号:3] KAZ-V44Iの塩基配列である。
[配列番号:4] KAZ-V44Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:5] KAZ-A54Iの塩基配列である。
[配列番号:6] KAZ-A54Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:7] KAZ- Y138Iの塩基配列である。
[配列番号:8] KAZ-Y138Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:9] KAZ- V44I-A54Iの塩基配列である。
[配列番号:10] KAZ- V44I-A54Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:11] KAZ- V44I-Y138Iの塩基配列である。
[配列番号:12] KAZ- V44I-Y138Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:13] KAZ- A54I-Y138Iの塩基配列である。
[配列番号:14] KAZ- A54I-Y138Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:15] KAZ- V44I-A54I-Y138Iの塩基配列である。
[配列番号:16] KAZ- V44I-A54I-Y138Iのアミノ酸配列である。
[配列番号:17] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(pCold-F)。
[配列番号:18] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Q18L-R)。
[配列番号:19] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Q18L-F)。
[配列番号:20] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ-5C/XbaI)。
[配列番号:21] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ-8N/EcoRI)。
[配列番号:22] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:A4E-F)。
[配列番号:23] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Q11R-F)。
[配列番号:24] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:L27V-R)。
[配列番号:25] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:L27V-F)。
[配列番号:26] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(A33N-R)。
[配列番号:27] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(A33N-F)。
[配列番号:28] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:K43R-R)。
[配列番号:29] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:L43R-F)。
[配列番号:30] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:V44I-R)。
[配列番号:31] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:V44I-F)。
[配列番号:32] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:A54I-R)。
[配列番号:33] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:A54I-F)。
[配列番号:34] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(pCold-R)。
[配列番号:35] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:F68D-R)。
[配列番号:36] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:F68D-F)。
[配列番号:37] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:L72Q-R)。
[配列番号:38] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:L72Q-F)。
[配列番号:39] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:M75K-R)。
[配列番号:40] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:M75K-F)。
[配列番号:41] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:I90V-R)。
[配列番号:42] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:I90V-F)。
[配列番号:43] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:P115E-R)。
[配列番号:44] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:P115E-F)。
[配列番号:45] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Q124K-R)。
[配列番号:46] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Q124K-F)。
[配列番号:47] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Y138I-R)。
[配列番号:48] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:Y138I-F)。
[配列番号:49] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(KAZ:N166R-R)。
[配列番号:50] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(nanoKAZ-1N/EcoRI)。
[配列番号:51] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(nanoKAZ-3C/XbaI)。
[配列番号:52] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(GLsp-1R/EcoRI)。
[配列番号:53] 実施例で用いたプライマーの塩基配列である(T7プライマー)。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]