【文献】
羽多野 忠,極紫外用の高反射率多層膜,光学,2002年,31巻7号,pp. 532-537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板上にEUV光を反射する反射層を形成し、前記反射層上にEUV光を吸収する吸収層を形成するEUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクの製造方法であって、
前記反射層が、前記基板をその中心軸を中心に回転しつつ、スパッタリング法により、低屈折率層と高屈折率層とを交互に複数回積層させてなる多層反射膜であり、
前記多層反射膜の形成時において、前記基板回転速度を略一定に保持し、かつ、
前記低屈折率層の単層の形成時、または、前記高屈折率層の単層の形成時、のいずれか一方のみにおける前記基板の回転数が整数になるように、前記低屈折率層形成時および前記高屈折率層形成時の基板回転速度を10rpm以上75rpm以下の範囲で制御する、EUVL用反射型マスクブランクの製造方法。
前記吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層をさらに形成する、請求項5〜8のいずれかに記載のEUVL用反射型マスクブランクの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、シリコン基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(波長:193nm)の液浸法を用いても、その露光波長は45nm程度が限界と予想される。そこで45nmよりも短い波長を用いる次世代の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線を指し、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度(13.2〜13.8nm程度)の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用できない。このため、EUV光リソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクは、フォトマスク製造に用いられるパターニング前の積層体である。EUVL用マスクブランクの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収層とがこの順で形成された構造を有している。
上記反射層と吸収層の間には、通常、保護層が形成される。該保護層は、吸収層にパターン形成する目的で実施されるエッチングプロセスによって反射層がダメージを受けないように、該反射層を保護する目的で設けられる。
【0005】
反射層としては、EUV光に対して低屈折率となる低屈折率層と、EUV光に対して高屈折率となる高屈折率層と、を交互に積層することで、EUV光をその表面に照射した際の光線反射率が高められた多層反射膜が通常使用される。このような多層反射膜としては、具体的にはたとえば、低屈折率層であるモリブデン(Mo)層と高屈折率層であるケイ素(Si)層とで構成されるbilayerを複数積層させたMo/Si多層反射膜がある。
吸収層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
【0006】
近年、EUVLマスクブランクの光学的な仕様として、高反射率であることだけでなく、EUV波長域の反射光の中心波長(例えば13.5nm)の面内分布が小さいことが年々求められている。例えば、中心波長の面内分布に関しては0.04nm以下を満たすことが求められている。中心波長の面内分布が0.04nm以下を満たすためには、多層反射膜の膜厚の高い面内均一性が必要となる。
従って、近年のEUVLマスクブランクにおいては、高反射率であることだけでなく、中心波長の面内分布特性に影響する多層反射膜の膜厚の面内均一性(面内分布が小さいこと)も求められている。
【0007】
特許文献1では、多層反射膜の膜厚の面内均一性が低下する要因の一つとして、低屈折率層と高屈折率層の成膜開始時と成膜終了時の基板回転の方位角のずれによる多層反射膜の面内膜厚分布を挙げており、低屈折率層と高屈折率層の成膜開始時と成膜終了時の基板回転の方位角のずれによる多層反射膜の面内膜厚分布を抑制するため、低屈折率層と高屈折率層の各成膜レートの経時変化を想定して該低屈折率層と該高屈折率層の成膜条件を設定する、としている。
特許文献1において、低屈折率層と高屈折率層の各成膜レートの経時変化を想定した低屈折率層と該高屈折率層の成膜条件の設定の一態様では、多層反射膜を構成する各低屈折率層と高屈折率層の成膜時の基板回転数を1rpm以上80rpm以下とし、多層反射膜を構成する各層(低屈折率層と高屈折率層)毎に基板回転数を制御することにより、基板回転数を除々に低下させる。
特許文献1において、低屈折率層と高屈折率層の各成膜レートの経時変化を想定した低屈折率層と該高屈折率層の成膜条件の設定の別の一態様では、多層反射膜を構成する各低屈折率層と高屈折率層の成膜時の基板回転数を80rpm以上300rpm以下とし、当該基板回転数で一定または略一定とする。
なお、上記した“基板回転数”は、その単位がrpmで示されているので、“基板回転速度”を指していると考えられる。
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1における低屈折率層と該高屈折率層の成膜条件の設定の一態様では、多層反射膜を構成する各層(低屈折率層と高屈折率層)毎に基板回転数(基板回転速度)を制御する、としているが、特許文献1の
図6に示すように、多層反射膜を構成する80層以上について、1層毎に基板回転数(基板回転速度)を制御することは現実的には困難であり、仮に実施可能であったとしても、各層毎の基板回転数(基板回転速度)が安定するまでの制御に長時間を要するため、スループットが低下する。また、各層毎に基板回転数(基板回転速度)を変えた場合、回転速度の変動に伴う力学的作用で欠点が発生するおそれが増加する。
一方、上記した特許文献1における低屈折率層と該高屈折率層の成膜条件の設定の別の一態様では、多層反射膜を構成する各層成膜時の基板回転数(基板回転速度)を80rpm以上300rpm以下に制御する、としているが、このような高速で基板の回転を制御するのは現実的には困難であり、また、仮に実施可能であったとしても、欠点が発生するおそれが増加する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明の方法により製造されるEUVL用反射型マスクブランク(以下、本明細書において、「本発明のEUVL用反射型マスクブランク」という。)の1実施形態を示す概略断面図である。
図1に示すEUVL用反射型マスクブランク1は、基板11上にEUV光を反射する反射層12と、EUV光を吸収する吸収層14とがこの順に形成されている。反射層12と吸収層14との間には、吸収層14へのパターン形成時に反射層12を保護するための保護層13が形成されている。
なお、本発明のEUVL用反射型マスクブランクにおいて、
図1に示す構成中、基板11、反射層12、および、吸収層14のみが必須であり、保護層13は任意の構成要素である。
以下、EUVL用反射型マスクブランク1の個々の構成要素について説明する。
【0023】
基板11は、EUVL用反射型マスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。
そのため、基板11は、低熱膨張係数(0±1.0×10
-7/℃が好ましく、より好ましくは0±0.3×10
-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10
-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10
-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10
-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えば、SiO
2−TiO
2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板も使用できる。また、基板11上に応力補正膜のような膜を形成してもよい。
基板11は、0.15nm rms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが、パターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるために好ましい。
基板11の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では、外形6インチ(152mm)角で、厚さ0.25インチ(6.35mm)のSiO
2−TiO
2系ガラスを用いた。
基板11の成膜面、つまり、反射層12が形成される側の表面には欠点が存在しないことが好ましい。しかし、存在している場合であっても、凹状欠点および/または凸状欠点によって位相欠点が生じないように、凹状欠点の深さおよび凸状欠点の高さが2nm以下であり、かつこれら凹状欠点および凸状欠点の半値幅は、60nm以下が好ましい。
【0024】
EUVL用反射型マスクブランクの反射層12に特に要求される特性は、高EUV光線反射率である。具体的には、EUV光の波長領域の光線を反射層12表面に入射角度6度で照射した際の、EUV波長域の光のピーク反射率(すなわち、波長13.5nm付近の光線反射率の極大値。以下、本明細書において、「EUV光のピーク反射率」という。)は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。また、反射層12の上に保護層13を設けた場合であっても、EUV光のピーク反射率は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。
【0025】
また、EUVL用反射型マスクブランクの反射層12は、EUV波長域の反射光の中心波長の面内分布が0.04nm以下を満たすことが求められている。
なお、EUV波長域の反射光の中心波長とは、EUV波長域の反射率スペクトルにおいて、ピーク反射率の半値幅(FWHM(full width of half maximum))に対応する波長をλ
1およびλ
2とするとき、これらの波長の中央値((λ
1+λ
2)/2)となる波長である。
【0026】
EUVL用反射型マスクブランクの反射層としては、EUV波長域において高反射率を達成できることから、EUV光に対して低屈折率となる層である低屈折率層と、EUV光に対して高屈折率となる層である高屈折率層と、を交互に多層反射膜が広く用いられている。このような多層反射膜としては、低屈折率層としてのモリブデン(Mo)層と、高屈折率層としてのケイ素(Si)層と、を交互に複数積層させたMo/Si多層反射膜が通常用いられる。多層反射膜の他の具体例としては、低屈折率層としてのルテニウム(Ru)層と、高屈折率層としてのケイ素(Si)層と、を交互に複数積層させたRu/Si多層反射膜、低屈折率層としてのモリブデン(Mo)層と、高屈折率層としてのベリリウム(Be)層と、を交互に複数積層させたMo/Be多層反射膜、低屈折率層としてのモリブデン(Mo)化合物層と、高屈折率層としてのケイ素(Si)化合物層と、を交互に複数積層させたMo化合物/Si化合物多層反射膜等が挙げられる。
【0027】
多層反射膜を構成する各層(低屈折率層、高屈折率層)の膜厚、および、各層の積層の繰り返し数は、各層の構成材料や、達成するEUV光線反射率によって異なるが、Mo/Si多層反射膜の場合に、EUV光のピーク反射率が60%以上の反射層12とするには、例えば、膜厚2.5nmのMo層(低屈折率層)と、膜厚4.5nmのSi層(高屈折率層)と、を交互に繰り返し単位数が30〜60になるように積層させることになる。
【0028】
なお、多層反射膜を構成する各層(低屈折率層、高屈折率層)は、基板をその中心軸を中心に回転しつつ、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法により、所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、Mo/Si多層反射膜を形成する場合、基板をその中心軸を中心に回転しつつ、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、成膜速度1.8〜18.0nm/minで厚さ2.5nmとなるようにMo層(低屈折率層)を成膜する。次に、基板をその中心軸を中心に回転しつつ、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、成膜速度1.8〜18.0nm/minで厚さ4.5nmとなるようにSi層(高屈折率層)を成膜する。上記の手順でMo層およびSi層を30〜60組積層させることによりMo/Si多層反射膜が成膜される。
【0029】
本発明では、多層反射膜の形成時において、基板回転速度を10rpm以上75rpm以下の範囲で略一定に保持する。具体的には、多層反射膜を構成する全ての層の形成時において、基板回転速度を略一定に保持する。そのため、基板回転速度の変更に伴うスループットの低下や、欠点が発生するおそれが解消されている。
本明細書において、略一定に保持するとは、設定した基板回転速度に対して各層の成膜時間の平均基板回転速度が±1%の範囲の変動を許容することを意味する。
上記の範囲の基板回転速度の変動であれば、後述するEUV波長域の反射光の中心波長の面内分布を抑制する作用が阻害されないためである。
【0030】
基板回転速度を10rpm以上とする理由は、一回転当りの膜厚を薄くできるため、回転毎の膜厚にバラツキがあったとしても、1層の膜に成長した際の膜厚均質性に優れるからである。
また、基板回転速度を75rpm以下とする理由は、75rpmより高速で回転させると、欠点が発生するおそれが増加するからである。
基板回転速度は15rpm以上60rpm以下の範囲で略一定に保持することが好ましく、20rpm以上45rpm以下の範囲で略一定に保持することがより好ましい。
【0031】
上述したように、多層反射膜を構成する各層(低屈折率層、高屈折率層)は、基板をその中心軸を中心に回転しつつ、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法により、所望の厚さになるように成膜することにより形成される。本発明では、低屈折率層の単層の形成時、または、高屈折率層の単層の形成時、における基板の回転数が整数になるように、基板回転速度を上記の範囲内で制御する。
低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成時における基板の回転数が整数とは、以下を意味する。
これは低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の成膜時間と基板回転速度の積が整数となることと同義であり、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の成膜開始時と終了時の基板回転角度が一致することを意味する。
上述したように、多層反射膜を構成する全ての層の形成時において、基板回転速度を略一定に保持する。そのため、低屈折率層の単層の形成時、または、高屈折率層の単層の形成時のいずれか一方についてのみ基板の回転数が整数になる。すなわち、低屈折率層の単層の形成時に基板の回転数が整数になる場合は、高屈折率層の単層の形成時は基板の回転数が整数にならない。また、高屈折率層の単層の形成時に基板の回転数が整数になる場合は、低屈折率層の単層の形成時は基板の回転数が整数にならない。
但し、多層反射膜を構成する全ての低屈折率層について、単層の形成時における基板回転数が整数になる、または、多層反射膜を構成する全ての高屈折率層について、単層の形成時における基板回転数が整数になる。Mo/Si多層反射膜の場合、Mo/Si多層反射膜を構成する全てのMo層の形成時における基板回転数が整数になる。または、Mo/Si多層反射膜を構成する全てのSi層の形成時における基板回転数が整数になる。
本発明では、低屈折率層の単層の形成時、または、高屈折率層の単層の形成時、における基板の回転数が整数となることで、EUV波長域の反射光の中心波長の面内分布が抑制される。この理由は、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の成膜開始時と終了時の基板回転角度が一致することで、基板回転方向の全周にわたって膜厚の均質性が高く、したがって中心波長の面内分布が抑制されるためである。
なお、EUV波長域の反射光の中心波長の面内分布を抑制するためには、多層反射膜を構成する低屈折率層、高屈折率層のうち、成膜速度が大きいほうについて、単層の形成時の基板の回転数が整数になるように、基板回転速度を上記の範囲内で制御することが好ましい。Mo/Si多層反射膜の場合、成膜速度が大きいSi層について、単層の形成時の基板の回転数が整数になるように、基板回転速度を上記の範囲内で制御することが好ましい。
【0032】
低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成時における基板の回転数は、基板回転速度と、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成に要する成膜時間と、の積(下記式)で示される。
基板の回転数(回/層) = 基板回転速度(rpm) × 成膜時間(min/層)
したがって、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成時における基板の回転数を整数にするためには、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成時における基板回転速度、および、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成に要する成膜時間のうちいずれか一方、または、これら両方を制御すればよい。
通常は、目標とする中心波長となる膜厚に合うような成膜時間が決まるため、基板回転速度によって制御する方が好ましい。
上述したように、多層反射膜を構成する全ての層の形成時において、基板回転速度を略一定に保持するため、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成時における基板回転速度を特定の基板回転速度に制御する場合、多層反射膜を構成する全ての低屈折率層および高屈折率層の形成時における基板回転速度をこの特定の基板回転速度に保持することになる。
一方、低屈折率層(または、高屈折率層)の単層の形成に要する成膜時間は、低屈折率層(または、高屈折率層)の形成時における成膜速度により制御できる。低屈折率層(または、高屈折率層)の形成時における成膜速度の制御は、低屈折率層(または、高屈折率層)の形成に使用するスパッタリング法により異なるが、イオンビームスパッタリング法を用いて、Mo/Si多層反射膜を形成する場合は、Mo層成膜時、または、Si層成膜時におけるイオンビーム電流等によって制御できる。
【0033】
なお、上述した低屈折率層または高屈折率層の成膜条件の制御によるEUV波長域の反射光の中心波長の面内分布を抑制する作用は、多層反射膜が上述した低屈折率層および高屈折率層以外の構成要素、例えば、特開2003−303756号公報に記載された増反射層(Ru層、Pd層、Rh層)や、特表2010−518594号公報に記載された第1付加層(増反射層)、第2付加層(拡散防止層)を含む場合にも好ましく発揮される。
【0034】
保護層13は、エッチングプロセス、具体的には、エッチングガスとして塩素系ガスを用いたドライエッチングプロセスにより吸収層14にパターン形成する際に、反射層12がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう反射層12を保護する目的で設けられる。したがって保護層13の材質としては、吸収層14のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収層14よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。
また、保護層13は、保護層13を形成した後であっても反射層12でのEUV光線反射率を損なうことがないように、保護層13自体もEUV光線反射率が高いことが好ましい。
本発明では、上記の条件を満足するため、保護層13として、Ru層、または、Ru化合物層が形成される。Ru化合物層としては、RuB、RuNb、および、RuZrからなる少なくとも1種で構成されることが好ましい。保護層14がRu化合物層である場合、Ruの含有率は50at%以上、80at%以上、特に90at%以上であることが好ましい。但し、保護層13がRuNb層の場合、保護層13中のNbの含有率が5〜40at%、特に5〜30at%が好ましい。
【0035】
反射層12上に保護層13を形成する場合、保護層13表面の表面粗さは、0.5nm rms以下が好ましい。保護層13表面の表面粗さが大きいと、該保護層13上に形成される吸収層14の表面粗さが大きくなり、該吸収層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収層14表面は平滑であることが要求される。
保護層13表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、該保護層13上に形成される吸収層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。保護層13表面の表面粗さは、0.4nm rms以下がより好ましく、0.3nm rms以下がさらに好ましい。
【0036】
反射層12上に保護層13を形成する場合、保護層13の厚さは、EUV光線反射率を高め、かつ耐エッチング特性を得られるという理由から、1〜10nmが好ましい。保護層13の厚さは、1〜5nmがより好ましく、2〜4nmがさらに好ましい。
【0037】
反射層12上に保護層13を形成する場合、保護層13は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いる。
ここで、イオンビームスパッタリング法を用いて、保護層13としてRu層を形成する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガス雰囲気中で放電させればよい。具体的には、以下の条件でイオンビームスパッタリングを実施すればよい。
スパッタリングガス:Ar(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)
成膜速度:1.8〜18.0nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスを使用する場合も上記のガス圧とする。
【0038】
なお、本発明のEUVL用反射型マスクブランクの吸収層を形成する前の状態、すなわち、
図1に示すEUVL用反射型マスクブランク1の吸収層14を除いた構造が本発明のEUVL用反射層付基板である。本発明のEUVL用反射層付基板は、EUVL用反射型マスクブランクの前駆体をなすものである。なお、本発明のEUVL用反射層付基板は、EUVL用マスクブランクの前駆体に限らず、全般的にEUV光を反射する機能を有する光学基板を含めて考えてもよい。
【0039】
吸収層14に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収層14表面に照射した際の、波長13.5nm付近の最大光線反射率は、0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
上記の特性を達成するため、EUV光の吸収係数が高い材料での構成が好ましく、少なくともTaおよびNを含有する層が好ましい。
なお、少なくともTaおよびNを含有する層であれば、結晶状態がアモルファスの膜を形成しやすい点でも好ましい。
TaおよびNを含有する層としては、TaN、TaNH、TaBN、TaGaN、TaGeN、TaSiN、TaBSiN、および、PdTaNからなる群から選択されるいずれか1つを用いることが好ましい。これらの吸収層の好適組成の一例を挙げると以下のとおりである。
【0040】
TaN層
Taの含有率:好ましくは30〜90at%、より好ましくは40〜80at%、さらに好ましくは40〜70at%、特に好ましくは50〜70at%
Nの含有率:好ましくは10〜70at%、より好ましくは20〜60at%、さらに好ましくは30〜60at%、特に好ましくは30〜50at%
【0041】
TaNH層
TaおよびNの合計含有率:好ましくは50〜99.9at%、より好ましくは90〜98at%、さらに好ましくは95〜98at%
Hの含有率:好ましくは0.1〜50at%、より好ましくは2〜10at%、さらに好ましくは2〜5at%
TaとNとの組成比(Ta:N):好ましくは9:1〜3:7、より好ましくは7:3〜4:6、さらに好ましくは7:3〜5:5
【0042】
TaBN層
TaおよびNの合計含有率:好ましくは75〜95at%、より好ましくは85〜95at%、さらに好ましくは90〜95at%
Bの含有率:好ましくは5〜25at%、より好ましくは5〜15at%、さらに好ましくは5〜10at%
TaとNとの組成比(Ta:N):好ましくは9:1〜3:7、より好ましくは7:3〜4:6、さらに好ましくは7:3〜5:5
【0043】
TaBSiN層
Bの含有率:1at%以上5at%未満、好ましくは1〜4.5at%、より好ましくは1.5〜4at%
Siの含有率:1〜25at%、好ましくは1〜20at%、より好ましくは2〜12at%
TaとNとの組成比(Ta:N):8:1〜1:1
Taの含有率:好ましくは50〜90at%、より好ましくは60〜80at%
Nの含有率:好ましくは5〜30at%、より好ましくは10〜25at%
【0044】
PdTaN層
TaおよびNの合計含有率:好ましくは30〜80at%、より好ましくは30〜75at%、さらに好ましくは30〜70at%
Pdの含有率:好ましくは20〜70at%、より好ましくは25〜70at%、さらに好ましくは30〜70at%
TaとNとの組成比(Ta:N):好ましくは1:7〜3:1、より好ましくは1:3〜3:1、さらに好ましくは3:5〜3:1
【0045】
吸収層14表面は、上述のとおり、その表面粗さが大きいと、吸収層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収層14表面は平滑性が要求される。
吸収層14として、少なくともTaおよびNを含有する層を形成した場合、その結晶状態はアモルファスであり、表面の平滑性に優れている。具体的には、吸収層14としてTaN層を形成した場合、吸収層14表面の表面粗さが0.5nm rms以下になる。
吸収層14表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、吸収層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。吸収層14表面の表面粗さは0.4nm rms以下がより好ましく、0.3nm rms以下がさらに好ましい。
【0046】
吸収層14は、少なくともTaおよびNを含有する層であることにより、エッチングガスとして塩素系ガスを用いてドライエッチングを実施した際のエッチング速度が速く、保護層13とのエッチング選択比は10以上を示す。本明細書において、エッチング選択比は、下記式を用いて計算できる。
エッチング選択比
=(吸収層14のエッチング速度)/(保護層13のエッチング速度)
エッチング選択比は、10以上が好ましく、11以上がさらに好ましく、12以上が特に好ましい。
【0047】
吸収層14の膜厚は、5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましく、50nm以上が特に好ましい。
一方、吸収層14の膜厚が大きすぎると、該吸収層14に形成するパターンの精度が低下するおそれがあるため、100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましい。
【0048】
吸収層14は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法のようなスパッタリング法など、周知の成膜方法を使用できる。
吸収層14としてTaN層を形成する場合、マグネトロンスパッタリング法を用いる場合には、Taターゲットを使用し、Arで希釈した窒素(N
2)雰囲気中でターゲットを放電させることによって、TaN層を形成できる。
【0049】
上記例示した方法で吸収層14としてのTaN層を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
スパッタリングガス:ArとN
2の混合ガス(N
2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧0.5×10
-1Pa〜10×10
-1Pa、好ましくは0.5×10
-1Pa〜5×10
-1Pa、より好ましくは0.5×10
-1Pa〜3×10
-1Pa。)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/min、好ましくは3.5〜45nm/min、より好ましくは5〜30nm/min
【0050】
なお、本発明のEUVL用反射型マスクブランクは、
図1に示した構成(すなわち、基板11、反射層12、保護層13および吸収層14)以外の構成要素を有していてもよい。
図2は、本発明のEUVL用反射型マスクブランクの別の実施形態を示す概略断面図である。
図2に示すEUVL用反射型マスクブランク1´では、吸収層14上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層15が形成されている。
【0051】
本発明のEUVL用反射型マスクブランクからEUVL用反射型マスクを作製する際、吸収層にパターンを形成した後、このパターンが設計どおりに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nmの光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の光の反射率の差、具体的には、吸収層14がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収層14表面と、の反射率の差によって検査される。ここで、前者は保護層13表面であり、反射層12上に保護層13が形成しない場合は反射層12表面(具体的には、Mo/Si多層反射膜の最上層のSi膜表面)である。
したがって、257nm程度の検査光の波長に対する保護層13表面(または反射層12表面)と吸収層14表面との反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査ができない場合がある。
【0052】
上記した構成の吸収層14は、EUV光線反射率が極めて低く、EUVL用反射型マスクブランクの吸収層として優れた特性を有しているが、検査光の波長についてみた場合、光線反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査光の波長での吸収層14表面の反射率と反射層12表面(または保護層13表面)の反射率との差が小さくなり、検査時のコントラストが十分得られないおそれがある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えない場合がある。
図2に示すEUVL用反射型マスクブランク1´のように、吸収層14上に低反射層15を形成することにより、検査時のコントラストが良好となる。別の言い方をすると、検査光の波長での光線反射率が極めて低くなる。このような目的で形成する低反射層15は、検査光の波長領域(257nm近傍)の光線を照射した際の、該検査光の波長の最大光線反射率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
低反射層15における検査光の波長の光線反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。具体的には、保護層13表面(または反射層12表面)における検査光の波長の反射光と、低反射層15表面における検査光の波長の反射光と、のコントラストが、40%以上となる。
【0053】
本明細書において、コントラストは下記式を用いて求められる。
コントラスト(%)=((R
2−R
1)/(R
2+R
1))×100
ここで、検査光の波長におけるR
2は保護層13表面(または反射層12表面)での反射率であり、R
1は低反射層15表面での反射率である。なお、上記R
1およびR
2は、
図2に示すEUVL用反射型マスクブランク1´の吸収層14および低反射層15にパターンを形成した状態で測定する。上記R
2は、パターン形成によって吸収層14および低反射層15が除去され、外部に露出した保護層13表面(または反射層12表面)で測定した値であり、R
1はパターン形成によって除去されずに残った低反射層15表面で測定した値である。
本発明において、上記式で表されるコントラストは、45%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。
【0054】
低反射層15は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収層14よりも低い材料で構成され、その結晶状態はアモルファスが好ましい。
このような低反射層15の具体例としては、Ta、酸素(O)および窒素(N)を以下に述べる原子比率で含有するもの(低反射層(TaON))が挙げられる。
Taの含有率 20〜80at%、好ましくは、20〜70at%、より好ましくは20〜60at%
OおよびNの合計含有率 20〜80at%、好ましくは30〜80at%、より好ましくは40〜80at%
OとNとの組成(O:N) 20:1〜1:20、好ましくは18:1〜1:18、より好ましくは15:1〜1:15
【0055】
低反射層(TaON)は、上記の構成により、その結晶状態はアモルファスであり、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層(TaON)表面の表面粗さが0.5nm rms以下である。
上記したように、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化を防止するため、吸収層14表面は平滑であることが要求される。低反射層15は、吸収層14上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
低反射層15表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、低反射層15表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層15表面の表面粗さは0.4nm rms以下がより好ましく、0.3nm rms以下がさらに好ましい。
【0056】
吸収層14上に低反射層15を形成する場合、吸収層14と低反射層15との合計厚さは、20〜130nmが好ましい。また、低反射層15の厚さが吸収層14の厚さよりも大きいと、吸収層14でのEUV光吸収特性が低下するおそれがあるので、低反射層15の厚さは吸収層14の厚さよりも小さいことが好ましい。このため、低反射層15の厚さは1〜30nmが好ましく、1〜20nmがより好ましい。
【0057】
上記の構成の低反射層(TaON)は、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスで希釈した酸素(O
2)および窒素(N
2)雰囲気中で、Taターゲットを用いたスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法により形成できる。または、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつを含む不活性ガスで希釈した窒素(N
2)雰囲気中でTaターゲットを放電させてTaおよびNを含有する膜を形成した後、例えば酸素プラズマ中にさらしたり、酸素を用いたイオンビームを照射することによって、形成された膜を酸化することにより、上記の構成の低反射層(TaON)としてもよい。
【0058】
上記した方法で低反射層(TaON)を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
スパッタリングガス:ArとO
2とN
2の混合ガス(O
2ガス濃度5〜80vol%、N
2ガス濃度5〜75vol%、好ましくはO
2ガス濃度6〜70vol%、N
2ガス濃度6〜35vol%、より好ましくはO
2ガス濃度10〜30vol%、N
2ガス濃度10〜30vol%。Arガス濃度5〜90vol%、好ましくは10〜88vol%、より好ましくは20〜80vol%、ガス圧1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.1〜50nm/min、好ましくは0.2〜45nm/min、より好ましくは0.2〜30nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスを使用する場合、その不活性ガスの濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。また、複数種類の不活性ガスを使用する場合、不活性ガスの合計濃度を上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。
【0059】
図2に示すEUVL用反射型マスクブランク1´のように、吸収層14上に低反射層15を形成する構成が好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。また、検査光の波長が193nmである場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はない場合がある。さらに、検査光の波長が13.5nmである場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。
【0060】
また、本発明のEUVL用反射型マスクブランクは、反射層12、保護層13、吸収層14、低反射層15以外に、EUVL用反射型マスクブランクの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、特表2003−501823号公報に記載のように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される導電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、
図1の基板11において、反射層12が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す導電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。導電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択できる。例えば、特表2003−501823号公報に記載の導電性(高誘電率)のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、TaSiからなるコーティングを適用できる。導電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmである。
導電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成できる。
【0061】
本発明の方法により製造されるEUVL用反射型マスクブランクの吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)を少なくともパターニングすることで、EUVL用反射型マスクが得られる。吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)のパターニング方法は特に限定されず、例えば、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)上にレジストを塗布してレジストパターンを形成し、これをマスクとして吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)をエッチングする方法を採用できる。レジストの材料やレジストパターンの描画法は、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)の材質等を考慮して適宜選択すればよい。吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)のエッチング方法としては、エッチングガスとして塩素系ガスを用いたドライエッチングを用いる。吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は、吸収層および低反射層)をパターニングした後、レジストを剥離液で剥離することにより、EUVL用反射型マスクが得られる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
(比較例1)
本実施例では、EUVL用反射層付基板を作製した。このEUVL用反射層付基板は、
図1に示すマスクブランク1の吸収層14および保護層13を除いた構造である。
成膜用の基板11として、SiO
2−TiO
2系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.35mm)を使用する。このガラス基板の熱膨張率は0.05×10
-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×10
7m
2/s
2である。このガラス基板を研磨により、rmsが0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成した。
【0063】
基板11の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の導電性コーティング(図示していない)を施した。
平板形状をした通常の静電チャックに、上記の手順で形成されるCr膜を用いて基板11(外形6インチ(152mm)角、厚さ6.35mm)を固定して、該基板11の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いて、膜厚2.5nmのMo層と、膜厚4.5nmのSi層と、で構成されるbilayerを、繰り返し単位数が40となるように積層させて、合計膜厚280nm((2.5nm+4.5nm)×40)のMo/Si多層反射膜(反射層12)を形成した。Mo/Si多層反射膜は、基板11表面の152mm角の領域に形成した。
【0064】
Mo層およびSi層の成膜条件は以下のとおりである。
Mo層の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタリングガス:Arガス(Arガス濃度100vol%、ガス圧0.02Pa)
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.5nm
Si層の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタリングガス:Arガス(Arガス濃度100vol%、ガス圧0.02Pa)
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo層形成時およびSi層形成時の基板回転速度は29.000rpmに保持した。
Mo層単層の成膜時間は、39.063sec/層となる。Mo層単層形成時における基板回転数は18.880回/層となる。
Si層単層の成膜時間は、58.442sec/層となる。Si層単層形成時における基板回転数は28.247回/層となる。
【0065】
上記の手順で形成したMo/Si多層反射膜の表面に、EUV光を入射角6度で照射した。この時のEUV波長域の反射光を、EUV反射率計(AIXUV社製MBR)を用いて測定し、同波長域のピーク反射率と、同波長域の反射光の中心波長の面内分布を評価した。ピーク反射率は64.5%であり、中心波長の面内分布0.050nmであった。
【0066】
(実施例1)
本実施例では、Mo層形成時およびSi層形成時の基板回転速度は29.773rpmに保持した。
Mo層単層の成膜時間は、39.063sec/層となる。Mo層単層形成時における基板回転数は19.384回/層となる。
Si層単層の成膜時間は、58.442sec/層となる。Si層単層形成時における基板回転数は29.000回/層となる。
上記と同様の手順でEUV波長域のピーク反射率と、同波長域の反射光の中心波長の面内分布を評価した。ピーク反射率は65%であり、中心波長の面内分布0.030nmであった。
【0067】
(実施例2)
本実施例では、Mo層形成時およびSi層形成時の基板回転速度は29.184rpmに保持した。
Mo層単層の成膜時間は、39.063sec/層となる。Mo層単層形成時における基板回転数は19.000回/層となる。
Si層単層の成膜時間は、58.442sec/層となる。Si層単層形成時における基板回転数は28.426回/層となる。
上記と同様の手順でEUV波長域のピーク反射率と、同波長域の反射光の中心波長の面内分布を評価した。ピーク反射率は65%であり、中心波長の面内分布0.032nmであった。
【0068】
(実施例3)
上述したように、特許文献1では、多層反射膜の膜厚の面内均一性の低下の要因の一つとして、低屈折率層と高屈折率層の成膜開始時と成膜終了時の基板回転の方位角のずれによる多層反射膜の面内膜厚分布を挙げている。実施例3では、成膜開始時の回転角度のずれによる影響を評価するため、Si層成膜開始時の回転角度を連続するSi層間で3°以内に揃えた以外は実施例1と同様の手順を実施した。
上記と同様の手順でEUV波長域のピーク反射率と、同波長域の反射光の中心波長の面内分布を評価した。ピーク反射率は65%であり、中心波長の面内分布0.030nmであった。
【0069】
比較例1は中心波長の面内分布が0.04nm以下を満たさなかったのに対し、実施例1〜3はいずれも中心波長の面内分布が0.04nm以下を満たしていた。