特許第6485309号(P6485309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6485309-合わせガラス 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485309
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20190311BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20190311BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20190311BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C03C27/12 Z
   B60J1/00 J
   B32B7/02 101
   B32B17/10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-193018(P2015-193018)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65966(P2017-65966A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤史
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−204189(JP,A)
【文献】 特表2013−541484(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02803648(EP,A1)
【文献】 特開2010−235432(JP,A)
【文献】 特表2009−537436(JP,A)
【文献】 特開2001−316140(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/108119(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00−29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の板厚が0.3mm〜1.8mmである1対のガラス板と、
前記ガラス板の間に設けられた、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が2.0×10Pa以上である中間膜と、を有し、
周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点において損失係数が0.2以上である合わせガラスであって、
前記中間膜は、コア層と前記コア層を挟持する1対のアウター層の3層からなり、前記コア層は、前記1対のアウター層に比べて、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が小さい、合わせガラス
【請求項2】
前記1対のガラス板は板厚が異なる請求項1記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記コア層におけるTg(ガラス転移点)が0℃〜20℃の範囲である請求項1または2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記コア層の層厚が0.05mm〜0.30mmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記コア層の前記貯蔵弾性率G’が1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記アウター層の前記貯蔵弾性率G’が5.0×10Pa以上1.3×10Pa以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項7】
自動車用であり、サイドガラス、ルーフガラスまたはリアガラスとして用いる請求項1〜のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項8】
三点曲げ試験により測定される剛性が100N/mm以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項9】
SAE J1400に準拠して測定される音響透過損失が25dB以上である請求項1〜のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関し、特には、軽量化を達成しながら、さらに高い剛性と遮音性を備える合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化を目的として、各種構成部材の軽量化が図られるようになった。その中で、窓ガラスとして用いる合わせガラスについても軽量化が求められている。ここで、合わせガラスは、典型的には、中間膜を2枚のガラス板で挟持した構成であり、自動車用、建築用等の各種用途に用いられており、上記軽量化に関しては、自動車用合わせガラスと同様に建築用合わせガラスにおいても求められる要件である。
【0003】
合わせガラスを軽量化するにはガラス板の板厚を減少させればよいが、ガラス板の薄板化に伴い強度も低減する点が大きな問題であった。また、合わせガラス、特に自動車用合わせガラスには遮音性が求められているが、上記同様にガラス板の板厚を減少させれば遮音性が低減する点も問題であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、合わせガラスの強度、具体的には、合わせガラスにした際に破壊強度、耐衝撃性、耐貫通性に優れる合わせガラス中間膜用の多層シートが記載されている。特許文献1に記載の多層シートを中間膜に用いた場合、ガラス板の板厚を薄くしても得られる合わせガラスは剛性を有し強度の面では向上しているが、遮音性が殆ど確保できないという問題があった。さらに、自動車用に遮音性を向上させた中間膜が知られている。該中間膜を用いた合わせガラスではガラス板の板厚を薄くしても、遮音性の確保は可能であるが、サイドガラス等に使用した場合、自動車の高速走行時にガラスの車外側が負圧となることによりガラスが外側へ吸い出される現象、いわゆる吸い出し時の剛性不足が問題であった。軽量化を達成しながら、さらに高い剛性と遮音性を備える合わせガラスが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5089497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記観点からなされたものであり、軽量でありながら、剛性と遮音性をともに有する合わせガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の合わせガラスは、各々の板厚が0.3mm〜1.8mmである1対のガラス板と、前記ガラス板の間に設けられた、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が2.0×10Pa以上である中間膜と、を有し、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点において損失係数が0.2以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軽量でありながら、剛性と遮音性をともに有する合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の合わせガラスの実施形態の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。
【0011】
本発明の合わせガラスは、各々の板厚が0.3mm〜1.8mmである1対のガラス板と、前記ガラス板の間に設けられた、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が2.0×10Pa以上である中間膜と、を有し、合わせガラスに対して測定される損失係数について、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数が0.2以上である。
【0012】
本発明の合わせガラスは、1対のガラス板の各々の板厚が0.3mm〜1.8mmであり、従来の合わせガラスで用いられる2mm前後のガラス板を用いた場合に比べて、軽量化された合わせガラスである。また、本発明の合わせガラスにおける中間膜は、合わせガラスにおける中間膜が通常有する1対のガラス板を接着して合わせガラスとして一体化する機能を有するものであって、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が上記範囲であることで、上記板厚のガラス板を組み合わせて合わせガラスとした場合においても、充分な剛性を有する。本明細書において、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’を、単に「貯蔵弾性率」と呼ぶこともある。
【0013】
さらに、中間膜は、上記板厚のガラス板と組み合わせた合わせガラスにおいて、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数を上記範囲とできる機能を有する中間膜である。言い換えれば、該中間膜を有することで、本発明の合わせガラスは、1対のガラス板が上記板厚であっても充分な遮音性を有する。
【0014】
本発明の合わせガラスにおいて、中間膜は貯蔵弾性率G’が上記範囲にあり、上記板厚のガラス板と組みわせて合わせガラスとした際の損失係数の特徴が上記を満たせば、単層膜であってもよく、複数の層を積層した積層膜であってもよい。中間膜が複数の層からなる積層膜の場合、層数は2〜5が好ましく、上記2つの特性をバランスよく実現しやすい点から3層が特に好ましい。
【0015】
以下、本発明の合わせガラスの実施の形態について、中間膜として3層の積層膜を用いた場合を例に、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の合わせガラスの実施形態の一例における断面図である。
【0016】
図1に示す合わせガラス10は、互いに対向する1対のガラス板1A、1Bと、1対のガラス板1A、1Bに挟持されるように配置される中間膜2を有する。中間膜2は、1対のアウター層2A、2Bと、アウター層2A、2Bに挟持されるように配置されるコア層2Cの3層からなる。合わせガラス10において、中間膜2は、アウター層2Aがガラス板1A側に、アウター層2Bがガラス板1B側に位置するように配置されている。合わせガラス10において、1対のガラス板1A、1Bおよび、中間膜を構成する3層2A、2B、2Cは略同形、同寸の主面を有する。
【0017】
ここで、本明細書において、「略同形、同寸」とは、人の見た目において同じ形状、同じ寸法を有することをいう。他の場合においても、「略」は上記と同様の意味を示す。
以下、合わせガラス10を構成する各要素について説明する。
【0018】
[ガラス板]
合わせガラス10における1対のガラス板1A、1Bの板厚は、それぞれ0.3mm〜1.8mmの範囲にある。ガラス板1A、1Bの板厚が、0.3mm以上であることで以下の中間膜と組み合わせて合わせガラスとした際の剛性を確保できる。ガラス板1A、1Bの板厚が1.8mm以下であることで、合わせガラスとした際の軽量化が達成できる。ガラス板1A、1Bの板厚は、それぞれ1.0mm〜1.8mmの範囲にあることが好ましく、1.5mm〜1.8mmの範囲にあることがより好ましい。
【0019】
1対のガラス板1A、1Bの板厚は、互いに同じであってもよく、異なってもよい。ガラス板1A、1Bにおいて板厚が異なる場合には、合わせガラス10が窓等に設置される際に内側に位置するガラス板、例えば、自動車の窓ガラスであれば車内側、建築物の窓ガラスであれば屋内側に位置するガラス板の板厚が外側に位置するガラス板の板厚より小さいことが好ましい。
【0020】
例えば、合わせガラス10において、使用に際して内側に位置するガラス板が、ガラス板1Aである場合、ガラス板1Aの板厚は、0.3mm〜1.8mmであり、1.0mm〜1.8mmが好ましく、1.5mm〜1.8mmがより好ましい。また、ガラス板1Aの板厚は、ガラス板1Bの板厚より小さいことが好ましい。ガラス板1Aの板厚とガラス板1Bの板厚の差は0.0〜1.5mmが好ましく、0.0〜1.3mmがより好ましい。またこの場合、ガラス板1Bが外側に位置するガラス板であり、板厚は0.3mm〜1.8mmであり、1.0mm〜1.8mmが好ましく、1.5mm〜1.8mmがより好ましい。
【0021】
合わせガラスの使用に際して内側に位置するガラス板が外側に位置するガラス板より小さい板厚を有すると、耐飛び石性の点で好ましい。
【0022】
合わせガラス10に用いるガラス板1A、1Bの材質としては、透明な無機ガラスや有機ガラス(樹脂)が挙げられる。無機ガラスとしては通常のソーダライムガラス(ソーダライムシリケートガラスともいう)、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が特に制限なく用いられる。これらのうちでもソーダライムガラスが特に好ましい。成形法についても特に限定されないが、例えば、フロート法等により成形されたフロート板ガラスであってもよい。また、ガラス板1A、1Bが風冷強化や化学強化といった強化処理がなされていることが好ましい。
【0023】
有機ガラス(樹脂)としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。これらのなかでも芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、ガラス板は、上記のような樹脂を2種以上含んで構成されてもよい。
【0024】
上記ガラスとしては、着色成分を添加しない無色透明な材質を用いてもよく、あるいは、本発明の効果を損なわない範囲で着色された着色透明な材質を用いてもよい。さらには、これらのガラスは1種類もしくは2種類以上を組合せて用いてもよく、例えば、2層以上に積層された積層基板であってもよい。合わせガラスの適用箇所にもよるがガラスとしては、無機ガラスが好ましい。
【0025】
合わせガラス10に用いる1対のガラス板1A、1Bは、互いに異なった種類の材質から構成されてもよいが、同一であることが好ましい。ガラス板1A、1Bの形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。ガラス板1A、1Bには、大気に晒される表出面に、撥水機能、親水機能、防曇機能等を付与するコーティングが施されていてもよい。また、ガラス板1A、1Bの互いに対向する対向面には、低放射性コーティング、赤外線遮蔽コーティング、導電性コーティング等の通常金属層を含む機能コーティングが施されていてもよい。
【0026】
なお、ガラス板1A、1Bの対向面が上記機能コーティングを有する場合には、以下の中間膜2のアウター層2A、2Bはガラス板1A、1Bの対向面上の該機能コーティングに接する構成となる。
【0027】
[中間膜]
合わせガラス10における中間膜2は、1対のアウター層2A、2Bと、アウター層2A、2Bに挟持されるように配置されるコア層2Cの3層からなる。中間膜2は、ガラス板1A、1Bの間に配置され、ガラス板1A、1Bを接着して合わせガラス10として一体化する機能を有するものである。
【0028】
中間膜2は、周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’が2.0×10Pa以上である。貯蔵弾性率G’は中間膜2の剛性を示す指標であり、中間膜2の貯蔵弾性率G’が2.0×10Pa以上であれば、上記板厚のガラス板1A、1Bと組み合わせて合わせガラス10とした場合であっても、充分に高い剛性が確保できる。中間膜2の貯蔵弾性率G’は、3.0×10Pa以上が好ましく、4.0×10Pa以上がより好ましい。
【0029】
中間膜2の貯蔵弾性率G’の上限は特に制限されるものではない。ただし、中間膜2の貯蔵弾性率G’が高くなると、上記板厚の1対のガラス板1A、1Bと組み合わせて合わせガラス10とした際に、以下に説明する所定の遮音性能を併せて有することができない場合がある。また、中間膜2の貯蔵弾性率G’が高すぎると、切断等の加工において特殊な機器を要する等、生産性が低下することがある。さらに中間膜が脆くなり耐貫通性が低下する。このような点を考慮すると、中間膜2の貯蔵弾性率G’は、1.5×10Pa以下が好ましく、1.3×10Pa以下がより好ましい。なお、本明細書における中間膜の貯蔵弾性率G’は、周波数1Hz、温度20℃の条件下、せん断法、例えばアントンパール社製レオメーターMCR301により測定される動的粘弾性試験における貯蔵弾性率である。
【0030】
さらに、中間膜2は、上記板厚の1対のガラス板1A、1Bと組み合わせて合わせガラス10とした際に、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数を0.2以上とする遮音性能を有する中間膜である。中間膜の遮音性能は、上記条件において損失係数を0.25以上とできることが好ましく、0.3以上とできることがより好ましい。
【0031】
中間膜の遮音性能を示す上記条件における損失係数の上限は特に制限されるものではない。ただし、中間膜2の遮音性能が高くなると、上に説明した所定の貯蔵弾性率G’を満足できない場合がある。この点を考慮すると、中間膜2の遮音性能を示す上記条件における損失係数は、最大でも0.6以下が好ましい。
【0032】
なお、本明細書における中間膜の遮音性能は、評価対象の中間膜について、該中間膜を上記板厚の1対のガラス板と組み合わせて合わせガラスとして、周波数3〜6KHz、温度20℃における損失係数を、例えば小野測器社製、中央加振法測定システム(MA−5500、DS−2000)により測定した値をもとに評価される。
【0033】
合わせガラス10における中間膜2は、コア層2Cとコア層2Cを挟持する1対のアウター層2A、2Bの3層からなり、これらが一体化された中間膜2として、本発明の合わせガラスの中間膜における所定の貯蔵弾性率G’および所定の遮音性能を満足するものである。
【0034】
上記性能を有する中間膜2を構成する3層の特性については、中間膜2として上記性能を確保できる限り特に制限されないが、コア層2Cの貯蔵弾性率G’は、1対のアウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’より小さいことが好ましい。例えば、コア層2Cの周波数1Hz、温度20℃における貯蔵弾性率G’は、1.0×10Pa以上1.0×10Pa以下が好ましく、1.0×10Pa以上5.0×10Pa以下がより好ましい。
【0035】
アウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’は、それぞれ、コア層2Cの貯蔵弾性率G’より大きいという条件を確保した上で、周波数1Hz、温度20℃において5.0×10Pa以上1.3×10Pa以下が好ましく、1.0×10Pa以上1.3×10Pa以下がより好ましい。1対のアウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’は、コア層2Cの貯蔵弾性率G’より大きい値を有する限り、同一であってもよく、異なってもよい。樹脂成形の容易さの観点から同一であることが好ましい。
【0036】
なお、コア層2Cの貯蔵弾性率G’とアウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’の関係は、コア層2Cの貯蔵弾性率G’に対するアウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’の比の値として、10〜10000が好ましく、100〜3000がより好ましい。コア層2Cの貯蔵弾性率G’とアウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’を上記関係とすることで、中間膜2における貯蔵弾性率G’および遮音性能を上記所定の範囲内に調整することが容易となる。
【0037】
中間膜2における遮音性能は、アウター層2A、2Bおよびコア層2Cの各層の貯蔵弾性率G’と厚みにより調整される。中間膜2の膜厚は、合わせガラス用等に通常用いられる中間膜と同様に、0.1〜1.6mmが好ましく、0.5〜1.2mmがより好ましい。中間膜2の膜厚が0.1mm未満であると、強度が不十分となることがあり、また、ガラスミスマッチが大きい場合、剥離が発生しやすくなる。中間膜2の膜厚が1.6mmを超えると、後述する合わせガラス10作製時の圧着工程や、耐久試験(実暴試験や高温試験)おいて、これが挟み込まれる1対のガラス板1A、1Bのずれが生じる現象、いわゆる板ずれ現象が発生することがある。
【0038】
コア層2Cの層厚は、コア層Cの貯蔵弾性率G’や組み合わせるアウター層2A、2Bの層厚および貯蔵弾性率G’にもよるが、0.05〜0.30mmが好ましく、0.07〜0.27mmがより好ましい。また、アウター層2A、2Bの層厚は、アウター層2A、2Bの貯蔵弾性率G’や組み合わせるコア層Cの層厚および貯蔵弾性率G’にもよるが、それぞれ、0.1〜0.7mmが好ましく、0.2〜0.5mmがより好ましい。
【0039】
コア層2Cの層厚と、アウター層2A、2Bの層厚の関係は、3層の合計厚みとして、上記中間膜2の膜厚として好ましいとされる範囲とすることが好ましい。さらに、コア層2Cの層厚は、アウター層2A、2Bの層厚よりも小さいことが好ましい。アウター層2A、2Bの層厚は、それぞれコア層2Cの層厚の1〜5倍の範囲にあることが好ましい。
【0040】
アウター層2A、2Bの層厚は、同一であっても異なってもよい。例えば、合わせガラス10において、使用に際して内側に位置するガラス板がガラス板1Aである場合、アウター層2Aが内側に位置するアウター層となる。この場合、内側のアウター層2Aの層厚が、外側のアウター層2Bの層厚より小さくてもよく、アウター層2Aの層厚はアウター層2Bの層厚の、0.3〜1.0倍の範囲にあることが好ましい。
【0041】
コア層2C、アウター層2A、2Bは、合わせガラスに通常用いられる中間膜を構成する主材料である熱可塑性樹脂から、各層ごとに上記好ましい貯蔵弾性率G’が得られるように樹脂を適宜選択して構成される。上記好ましい貯蔵弾性率G’に調整できれば、用いる熱可塑性樹脂の種類は特に制限されない。
【0042】
このような熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体樹脂、シクロオレフィンポリマー(COP)等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、例えば、可塑剤量等を調整することで、上記好ましい貯蔵弾性率G’に調整できる。熱可塑性樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0043】
また、熱可塑性樹脂は、貯蔵弾性率G’の条件に加えて、合わせガラスの用途に応じて、透明性、耐候性、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性等の諸性能のバランスを考慮して選択される。このような観点から、コア層2Cを構成する熱可塑性樹脂としては、PVB、EVA、ポリウレタン樹脂等が好ましい。コア層2Cを構成する熱可塑性樹脂のTg(ガラス転移点)は0℃〜20℃の範囲にあることが好ましい。また、アウター層2A、2Bは、それぞれ、PVB、EVA、ポリウレタン樹脂等が好ましい。
【0044】
コア層2C、アウター層2A、2Bの作製には、このような熱可塑性樹脂を主成分として含有する熱可塑性樹脂含有組成物が用いられる。該熱可塑性樹脂含有組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で各種目的に応じて、例えば、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、脱水剤、消泡剤、帯電防止剤、難燃剤等の各種添加剤の1種類もしくは2種類以上を含有していてもよい。これらの添加剤はコア層2C、アウター層2A、2Bにおいて、全体に均一に含有される。
【0045】
なお、上記添加剤のうちでも特に、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、蛍光剤等のコア層2C、アウター層2A、2Bに追加の機能を付与するための添加剤の含有については、3層において、いずれか1層のみが含有する構成であっても、2層以上が含有する構成であってもよく、さらに2層以上が含有する場合、同種の添加剤を同量、または異なる量含有してもよく、異なる添加剤をそれぞれ含有してもよい。
【0046】
中間膜2は、例えば、コア層2C、アウター層2A、2Bを、それぞれに適した熱可塑性樹脂含有組成物からシート状に製膜して準備し、得られたアウター層2A、2Bの間にコア層2Cを挟持させて、加圧下に加熱することで作製される。加熱、加圧の条件は熱可塑性樹脂の種類により適宜選択される。
【0047】
[合わせガラス]
合わせガラス10は、上記所定の板厚の1対のガラス板1A、1Bと、その間に挟持されるように配置される、上記特性を有する中間膜2を有する。これにより合わせガラス10は、軽量でありながら、剛性と遮音性をともに有する合わせガラスである。
【0048】
本発明の合わせガラスは、上記のとおり、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数が0.2以上である。合わせガラスの該特性は上記のとおり中間膜の遮音性能によるところが大きい。本発明の合わせガラスは、該特性を有することで、1対のガラス板が上記板厚であっても充分な遮音性を有する。
【0049】
合わせガラスの温度20℃、周波数3〜6KHzの範囲での共振点における損失係数は、例えば、上記中間膜の遮音性能で示したのと同様の方法で測定できる。なお、本発明の合わせガラスにおいて、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点における損失係数は0.25以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。また、本発明の合わせガラスの周波数3〜6KHz、温度20℃で測定される共振点における損失係数は、最大でも0.6以下が好ましい。
【0050】
本発明の合わせガラスはさらに、三点曲げ剛性が100N/mm以上であることが好ましい。三点曲げ剛性は、三点曲げ試験により得られる剛性であり、例えば、圧縮引張試験機により測定できる。三点曲げ剛性は120N/mm以上が特に好ましい。合わせガラスの三点曲げ強度剛性が100N/mm以上であれば、車両高速走行時のガラス開閉を妨げないレベルの剛性であり好ましい。
【0051】
本発明の合わせガラスはまた、SAE J1400に準拠して測定されるコインシデンス領域における音響透過損失が25dB以上であることが好ましく、30dB以上であることが特に好ましい。合わせガラスの音響透過損失が25dB以上であれば、遮音性に優れると評価できる。
【0052】
(その他の層)
実施形態の合わせガラスは、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の層として、1対のガラス板の間に機能フィルムを有してもよい。機能フィルムを有する場合は、例えば、中間膜を複数層で構成し、中間膜の間に機能フィルムを挟持させる構成が好ましい。
【0053】
機能フィルムとしては、例えば、赤外線遮蔽フィルム等が挙げられる。赤外線遮蔽フィルムとして、具体的には、25〜200μm程度の厚みのPETフィルム等の支持フィルム上に、赤外線反射膜として膜厚100〜500nm程度の、誘電体多層膜、液晶配向膜、赤外線反射材含有コーティング膜、金属膜を含む単層または多層の赤外線反射膜等の従来公知の赤外線反射膜が形成されたものが挙げられる。赤外線遮蔽フィルムとしては、さらに屈折率の異なる樹脂フィルムを積層した合計膜厚が25〜200μm程度の誘電多層フィルム等が挙げられる。
【0054】
実施形態の合わせガラスは、その他の層として、例えば、合わせガラスの枠体等への取り付け部分や配線導体等を隠蔽する目的で、その周縁部の一部または全部に帯状に、黒色セラミックス層を有してもよい。黒色セラミックス層の幅は、合わせガラスの用途に応じて適宜選択される。例えば、合わせガラスが、自動車の天井部位に使用されるルーフガラスの場合には、黒色セラミックス層は、通常、幅が10〜100mm程度の額縁状に形成される。また、自動車のサイドガラスに用いる場合は、通常、幅が30〜200mm程度の帯状に形成されることがある。
【0055】
黒色セラミックス層は、例えば、合わせガラスが有する1対のガラス板のうちのいずれか1方のガラス板の大気側または中間接着層側の主面に、通常の方法で、上記の形状に形成できる。黒色セラミックス層の形成箇所は使用用途に応じて適宜選択される。
【0056】
なお、黒色セラミックス層の「黒色」は、例えば、色の三属性等で規定された黒を意味するものではなく、少なくとも隠蔽が求められる部分が隠蔽できる程度に可視光線を透過させないように調整された黒色と認識可能な範囲を含む。したがって、黒色セラミックス層においては、この機能が果たせる範囲内で、必要に応じて黒色に濃淡があってもよく、色味が色の三属性で規定された黒とは若干異なってもよい。同様の観点から、黒色セラミックス層は配設される箇所に応じて層全体が連続した一体膜となるように構成されてもよく、形状や配置等の設定で可視光透過の割合を容易に調整できるドットパターン等により構成されてもよい。
【0057】
[合わせガラスの製造]
本発明の実施形態の合わせガラスは、一般的に用いられる公知の技術により製造できる。合わせガラス10においては、上記のようにしてアウター層2A、2Bの間にコア層2Cを挟持させて中間膜2を作製し、これを1対のガラス板1A、1Bの間に挿入して、ガラス板1A、中間膜2(アウター層2A/コア層2C/アウター層2B)、ガラス板1Bの順に積層された圧着前の合わせガラスである合わせガラス前駆体を準備する。その他の層を有する場合も、同様に得られる合わせガラスと同様の積層順にガラス板と各層を積層してガラス前駆体を準備する。
【0058】
この合わせガラス前駆体をゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約−65〜−100kPaの減圧度(絶対圧力)となるように減圧吸引(脱気)しながら温度約70〜110℃で接着することで実施形態の合わせガラスを得ることができる。さらに、例えば、100〜140℃、圧力0.6〜1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。
【0059】
本発明の合わせガラスの用途は特に限定されない。建築用合わせガラス、自動車用合わせガラス等として使用できるが、自動車用合わせガラとして用いればより顕著な効果が達成できる。さらに、自動車用合わせガラスの中でも、サイドガラス、ルーフガラスまたはリアガラスとして用いることが好ましく、サイドガラスとして用いることが特に好ましい。自動車のサイドガラスにおいては、軽量化とともに、吸い出し時の剛性および窓を閉じた際の高い遮音性が要求されるが、本発明の合わせガラスは、これらの全てを満足する機能を有する合わせガラスである。
【0060】
なお、本発明の合わせガラスを自動車用に用いる場合、JIS R3212(1998年)にしたがって測定された可視光線透過率が70%以上であることが好ましく、74%以上であることがより好ましい。ISO13837―2008にしたがって測定されたTts(Total solar energy transmitted through a glazing)が66%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明は、以下で説明する実施形態および実施例に何ら限定されるものではない。例1〜6が実施例であり、例7〜10が比較例である。
【0062】
[中間膜の製造または準備]
本発明の実施例または比較例に使用する表1に示す中間膜1〜6(実施例用)、中間膜cf1〜cf4(比較例用)を準備または作製し、評価した。
なお、中間膜は中間膜1〜6、中間膜cf1については全て図1に示す中間膜2と同様のコア層2Cとそれを挟持するアウター層2A、2Bからなる3層構造であり、合わせガラス10とする際には、アウター層2Aが内側のアウター層、アウター層2Bが外側のアウター層となる設計とした。
【0063】
なお、コア層に用いたPVBは中間膜1〜6、中間膜cf1については全ての中間膜において、以下の方法で測定した条件(1)での貯蔵弾性率が、0.3×10Paであった。内側アウター層、外側アウター層に用いたPVBは全ての中間膜において、以下の方法で測定した条件(1)での貯蔵弾性率が、1.2×10Paであった。
【0064】
中間膜1として、内側アウター層/コア層/外側アウター層として、硬質PVB(350μm)/軟質PVB(150μm)/硬質PVB(350μm)の順に積層された中間膜を準備した。内側アウター層、外側アウター層、コア層のそれぞれの膜厚はホットプレス成形機にて、150℃、300秒間、プレス圧50kg/cmでプレスし調整した。
【0065】
中間膜2〜6、中間膜cf1として、表1に厚みを示すPVBからなるコア層を、同様に表1に厚みを示す2枚のPVBからなる内側アウター層および外側アウター層で挟持し、た。内側アウター層、外側アウター層、コア層のそれぞれの膜厚は中間膜1と同様に調整した。
【0066】
中間膜cf2〜cf4は、単層膜であり、膜厚と以下の方法で測定した条件(1)での貯蔵弾性率が、それぞれ表1に示されるPVB膜で構成されたものである。
【0067】
(中間膜の評価)
得られた中間膜の貯蔵弾性率および遮音性能を以下の方法で評価した。
(1)貯蔵弾性率G’
上記中間膜について、アントンパール社製、レオメーターMCR301を用いて周波数1Hz、温度20℃の条件(条件(1))下、せん断法で測定される動的粘弾性試験における貯蔵弾性率G’を測定した。得られた貯蔵弾性率を条件(1)での貯蔵弾性率として表1に結果を示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から明らかなように、中間膜1〜6は貯蔵弾性率G’が2.0×10Pa以上、かつ、以下の表2に示すとおり、1.8mmの板厚の1対のソーダライムガラス板に挟持された合わせガラスとして損失係数を測定した場合に、周波数3〜6KHz、温度20℃における少なくとも1つの共振点において損失係数が0.2以上となる中間膜である。中間膜cf1〜中間膜cf4は、いずれかの要件を満たさない中間膜である。
【0070】
[例1〜例10]
上記で準備した中間膜1〜6、中間膜cf1〜中間膜cf4を用いて、表2に示す構成の合わせガラスを作製した。ガラス板における内板とは合わせガラスとした際に内側に位置するガラス板を意味し、外板とは合わせガラスとした際に外側に位置するガラス板を意味する。図1に示す合わせガラス10に対応させた場合、内板をガラス板1A、外板をガラス板1Bとして、上記中間膜と組み合わせた。
【0071】
図1の合わせガラス10と同様の構成となるように、ガラス板1A、中間膜2、ガラス板1Bを積層し、この積層体を真空バッグに入れ、絶対圧力−60kPa以下の減圧下で脱気しながら110℃で予備圧着を行った後、温度140℃、圧力1.3MPaの条件でさらに本圧着を行うことにより合わせガラスを得た。なお、用いたガラス板は全てソーダライムガラスであった。
【0072】
(評価)
例1〜10で得られた合わせガラスの遮音性および強度を以下のようにして測定した。
(2)遮音性
上記で得られた合わせガラスについて、周波数3〜6KHz、温度20℃における損失係数を、小野測器社製、中央加振法測定システム(MA−5500、DS−2000)を用いて測定した。この周波数の範囲における共振点における損失係数の最大値を、条件(2)での損失係数の最大値として表2に示す。
【0073】
(3)遮音性(SAE基準)
SAE J1400に準拠して、20℃にて合わせガラスの音響透過損失(STL)を測定した。結果を表2に示す
(4)三点曲げ試験
圧縮引張試験機を用いて、長さ300mm、幅100mmの試験片を、スパン(支点間距離)200mmの支持台上に設置し、温度23℃の条件下、荷重速度毎分1mmで圧子を降下させて、破壊時の強度(荷重)を測定した。ここで1mm降下させた時の荷重(N)を剛性としN/mmと表した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2から、実施例の合わせガラスは、ガラス板の板厚が薄く軽量化されているにも関わらず、遮音性に優れるとともに、機械的強度にも優れることが明らかである。
【符号の説明】
【0076】
10…合わせガラス、1A,1B…ガラス板、2…中間膜、2A,2B…アウター層、2C…コア層。
図1