特許第6485724号(P6485724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6485724植毛加工用水性樹脂組成物及び植毛加工品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485724
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】植毛加工用水性樹脂組成物及び植毛加工品
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/00 20060101AFI20190311BHJP
   B32B 5/16 20060101ALI20190311BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20190311BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20190311BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20190311BHJP
   B05D 1/14 20060101ALI20190311BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20190311BHJP
   D06N 3/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   C08L33/00
   B32B5/16
   C08F8/44
   C08J7/04
   C08K5/353
   B05D1/14
   C09D133/02
   D06N3/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-560689(P2018-560689)
(86)(22)【出願日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2018007723
(87)【国際公開番号】WO2018168487
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2018年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2017-52756(P2017-52756)
(32)【優先日】2017年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100159293
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 真
(72)【発明者】
【氏名】綱島 まり子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘行
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−526953(JP,A)
【文献】 特開平10−251474(JP,A)
【文献】 特開2002−302876(JP,A)
【文献】 特開2003−096148(JP,A)
【文献】 特開平01−292179(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/186733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/04
B32B 5/16
C08F 8/44
C08J 7/04
B05D 1/00− 7/26
C09D 133/02
D06N 1/00− 7/06
D06M 13/00− 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する重合体(A)が、金属水酸化物(b1)を必須成分とする塩基性化合物(B)で中和されたアクリル樹脂(C)と、ポリオキサゾリン化合物(D)と、水性媒体(E)とを含有することを特徴とする植毛加工用水性樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物(b1)の含有量が、前記重合体(A)の有するカルボキシル基の10〜80モル%を中和する量である請求項1記載の植毛加工用水性樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系増粘剤(F)を含有する請求項1又は2記載の植毛加工用水性樹脂組成物。
【請求項4】
基材上に、請求項1〜3いずれか1項記載の植毛加工用水性樹脂組成物の塗膜を有することを特徴とする植毛加工品。
【請求項5】
前記基材が塩化ビニルである請求項4記載の植毛加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植毛加工品に用いられる水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植毛加工は、バインダーを塗布した基材に短繊維を静電気の力で付着させる加工方法であり、断熱性や風合い付与のため、家庭用品を中心に様々な用途に使用されている。バインダーには、水性樹脂を用いることが一般的であり、これらの中でもアクリルエマルジョンの使用が多い。しかし、自己架橋型アクリルエマルジョンでは、短繊維との接着強度が低く、十分な植毛強度が得られないため、水溶性架橋剤の添加による強度向上や耐久性の向上が検討されている。
【0003】
このような中、水分散性のアクリル系共重合体、水溶性もしくは水分散性の高分子化合
物、及びオキサゾリン基を含有する水溶性高分子化合物を含むアクリル系樹脂水性組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このアクリル系樹脂水性組成物は、植毛加工用基材に多く用いられる塩化ビニルに対して密着性が十分に得られないと共に、経時安定性が不十分であり、増粘や物性変化等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−251474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、経時安定性に優れ、植毛強度及び基材密着性に優れる植毛加工品が得られる植毛加工用水性樹脂組成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の中和されたアクリル樹脂、オキサゾリン基を有する樹脂、及び水性媒体を含有する植毛加工用水性樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、カルボキシル基を有する重合体(A)が、金属水酸化物(b1)を必須成分とする塩基性化合物(B)で中和されたアクリル樹脂(C)と、ポリオキサゾリン化合物(D)と、水性媒体(E)とを含有することを特徴とする植毛加工用水性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の植毛加工用水性樹脂組成物は、植毛強度及び基材密着性に優れる植毛加工品が得られることから、例えば、手袋、自動車の内装材、電気部品等をはじめとする様々な用途で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の植毛加工用水性樹脂組成物は、カルボキシル基を有する重合体(A)が、金属水酸化物(b1)を必須成分とする塩基性化合物(B)で中和されたアクリル樹脂(C)と、ポリオキサゾリン化合物(D)と、水性媒体(E)とを含有するものである。
【0010】
前記カルボキシル基を有する重合体(A)は、カルボキシル基を有する単量体(a1)及びその他の単量体(a2)を共重合することにより得られる。
【0011】
前記カルボキシル基を有する単量体(a1)としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸(無水物)、マレイン酸(無水物)、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸などが挙げられる。これらの単量体(a1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0012】
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方をいい、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタアクリレートの一方又は両方をいい、「酸(無水物)」とは、酸及び酸無水物の一方又は両方をいう。
【0013】
前記その他の単量体(a2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のアルコキシシリル基を有する単量体;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロメチルスチレン、酢酸ビニル等のビニル単量体;アクリロニトリル、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのその他の単量体(a2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできるが、基材密着性、植毛強度及び基材密着性がより向上することから、アクリロニトリルを含むことが好ましい。
【0014】
前記単量体(a1)の使用量は、植毛強度及び皮膜の柔軟性がより向上することから、前記重合体(A)の原料となる単量体成分中、0.3〜5質量%の範囲が好ましく、0.5〜3質量%の範囲がより好ましい。
【0015】
また、基材密着性がより向上することから、前記重合体(A)の原料となる単量体成分中、アクリロニトリルを4〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0016】
前記重合体(A)の酸価としては、植毛強度及び皮膜の柔軟性がより向上することから、2〜40の範囲が好ましく、2〜20の範囲がより好ましい。
【0017】
前記重合体(A)の製造方法としては、水を溶媒として用いる乳化重合法、有機溶剤を溶媒として用いる溶液重合法等が挙げられるが、より簡便に前記重合体(A)の水分散体が得られることから、乳化重合法が好ましい。
【0018】
前記乳化重合法としては、例えば、水性媒体中で、重合開始剤及び界面活性剤存在下、前記単量体(a1)及び前記単量体(a2)を40〜100℃の温度でラジカル重合する方法が挙げられる。
【0019】
前記重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物;tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の無機過酸化物などが挙げられる。これらの重合体開始剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、前記重合開始剤は、前記重合体(A)の原料となる単量体の合計に対して、0.1〜10質量%の範囲内で使用することが好ましい。
【0020】
また、前記重合開始剤は還元剤と併用することもできる。前記還元剤としては、例えば、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホオキシレート、塩化第一鉄、アスコルビン酸、エリソルビン酸及びその塩等が挙げられる。
【0021】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン界面活性剤;高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホン酸塩、アルキルエーテル燐酸塩、アルケニルスルホコハク酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン界面活性剤;N,N−ジメチルラウリルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン等の長鎖アルキル基を有する3級アミンのカルボン酸塩や4級アンモニウム塩等のカチオン界面活性剤;カルボン酸塩基、硫酸塩基、スルホン酸塩基、燐酸塩基等のアニオン性基と二重結合を併有する化合物、ノニオン性基と重合性二重結合を併有する化合物、4級アンモニウム塩基等のカチオン性基と重合性二重結合を併有する化合物等の反応性界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、前記界面活性剤は、前記重合体(A)の原料となる単量体の合計に対して、15質量%以下の範囲で使用するのが好ましく、10質量%以下の範囲がより好ましい。
【0022】
前記塩基性化合物(B)は、前記重合体(A)の有するカルボキシル基の中和剤として使用されるが、得られる植毛加工品に優れた基材密着性を付与する上で、金属水酸化物(b1)を含有することが重要である。さらに、基材密着性と植毛強度とのバランスがより向上することから、前記金属水酸化物(b1)の含有量は、前記重合体(A)の有するカルボキシル基の10〜80モル%を中和する量が好ましく、30〜70モル%を中和する量がより好ましく、40〜60モル%を中和する量がさらに好ましい。
【0023】
前記金属水酸化物(b1)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられるが、基材密着性がより向上することから、水酸化ナトリウムが好ましい。これらの金属水酸化物(b1)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0024】
前記塩基性化合物(B)としては、前記金属水酸化物(b1)以外のその他の塩基性化合物(b2)を併用することができるが、その他の塩基性化合物(b2)としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン等のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、2−(ジメチルアミノ)−2−メチルプロパノール、N−メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の多価アミン等の有機アミンやアンモニア(水)などが挙げられる。これらの中和剤(b2)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0025】
前記アクリル樹脂(C)は、前記カルボキシル基を有する重合体(A)が、塩基性化合物(B)で中和されたものであるが、例えば、前記重合体(A)の水分散体と前記塩基性化合物(B)とを混合することで容易に得ることができる。
【0026】
前記ポリオキサゾリン化合物(D)としては、水性媒体に容易に溶解又は分散するものが好ましく、例えば、株式会社日本触媒製の「エポクロス WS−300」(水溶性タイプ)、「エポクロス WS−500」(水溶性タイプ)、「エポクロス WS−700」(水溶性タイプ)、「エポクロス K−2010E」(水分散タイプ)、「エポクロス K−2020E」(水分散タイプ)、「エポクロス K−2030E」(水分散タイプ)等が挙げられる。これらのポリオキサゾリン化合物(D)は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。
【0027】
前記水性媒体(E)としては、水、水と混和する有機溶剤、及び、これらの混合物が挙げられる。水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール及びイソプロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル;N-メチル−2−ピロリドン等のラクタム等が挙げられる。本発明では、水のみを用いても良く、また水及び水と混和する有機溶剤との混合物を用いても良く、水と混和する有機溶剤のみを用いても良い。安全性や環境に対する負荷の点から、水のみ、または、水及び水と混和する有機溶剤との混合物が好ましく、水のみを使用することが特に好ましい。
【0028】
本発明の植毛加工用水性樹脂組成物は、前記アクリル樹脂(C)と、前記ポリオキサゾリン化合物(D)と、前記水性媒体(E)とを含有するものであるが、例えば、前記アクリル樹脂(C)の水分散体と前記ポリオキサゾリン化合物(D)とを混合することで容易に得ることができる。
【0029】
前記ポリオキサゾリン化合物(D)の使用量は、経時安定性、植毛強度及び基材密着性、柔軟性のバランスがより向上することから、前記アクリル樹脂(C)の有するカルボキシル基1モルに対し、前記ポリオキサゾリン化合物(D)の有するオキサゾリン基が0.1〜5モルの範囲が好ましく、0.3〜2モルの範囲がより好ましい。
【0030】
また、本発明の植毛加工用水性樹脂組成物は、作業性、及び植毛強度がより向上することから、前記アクリル樹脂(C)、前記ポリオキサゾリン化合物(D)、前記水性媒体(E)以外の成分として、アクリル系増粘剤(F)を含有していることが好ましい。
【0031】
前記アクリル系増粘剤(F)は、作業性、植毛強度及び基材密着性がより向上することから、酸価が150〜500mgKOH/gの範囲のものが好ましく、200〜400mgKOH/gの範囲のものがより好ましい。
【0032】
また、本発明の植毛加工用水性樹脂組成物は、上記した以外の成分として、その他の増粘剤、顔料、充填剤、難燃剤、レベリング剤、分散剤、湿潤剤、消泡剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤等の添加剤を混合することもできる。
【0033】
本発明の植毛加工用水性樹脂組成物を塗布する基材としては、特に限定されないが、密着性がより向上することから、塩化ビニル基材が好ましい。
【0034】
本発明の植毛加工用水性樹脂組成物の塗膜を有する植毛加工品としては、植毛強度及び基材密着性に優れることから、例えば、手袋、パッケージ材、衣料品、靴、エアコンやコタツ等の冷暖房機器部品、カメラ等の電気機器部品、自動車内装材、タイルカーペットなどに好適に使用される。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を、実施例及び比較例により具体的に説明する。
【0036】
(合成例1:アクリル樹脂(C−1)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管および滴下槽を備えた反応容器に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム3.0質量部、イオン交換水263質量部を仕込み、80℃まで昇温した。この温度を保持しつつ、滴下槽から、n−ブチルアクリレート442.5質量部、アクリロニトリル40.0質量部、メタクリル酸5.0質量部、アクリルアミド5.0質量部、イタコン酸2.5質量部、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩 5.0質量部、イオン交換水125質量部からなるモノマー混合物を、4時間かけて連続滴下した。これと合わせて、過硫酸アンモニウム 1.3質量部、イオン交換水 5.0質量部からなる水溶液を4時間かけて連続滴下した。滴下終了の30分後に過硫酸アンモニウム 1.3質量部、イオン交換水 30質量部からなる水溶液を1時間かけて連続滴下し、さらに1時間反応させた。次いで、10質量%水酸化ナトリウム水溶液18.0質量部及び25質量%アンモニア水1.5質量部で中和することで、不揮発分が50.0%のアクリル樹脂(C−1)の水分散体を得た。中和剤として使用した塩基性化合物中の水酸化ナトリウムは67質量%であった。また、水酸化ナトリウムの含有量は、重合体の有するカルボキシル基の47モル%を中和する量であった。
【0037】
(合成例2:アクリル樹脂(RC−1)の合成)
合成例1で用いた10質量%水酸化ナトリウム水溶液18.0質量部及び25質量%アンモニア水1.5質量部を、25質量%アンモニア水3.0質量部に変更した以外は、合成例1と同様にして、不揮発分が50.0%のアクリル樹脂(RC−1)の水分散体を得た。中和剤として使用した塩基性化合物中に、金属水酸化物は含まれなかった。
【0038】
(合成例3:アクリル系増粘剤(F−1)の合成)
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管および滴下槽を備えた反応容器に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム30.0質量部、イオン交換水945質量部を仕込み、80℃まで昇温した。この温度を保持しつつ、滴下槽から、エチルアクリレート210.0質量部、メタクリル酸72質量部からなるモノマー混合物を、4時間かけて連続滴下した。これと合わせて、過硫酸アンモニウム 1.8質量部、イオン交換水 60.0質量部からなる水溶液を4時間かけて連続滴下した。さらに1時間反応させることで、不揮発分が23.0%のアクリル系増粘剤(F−1)を得た。
【0039】
(実施例1:植毛加工用水性樹脂組成物(1)の調製及び評価)
攪拌機を備えた容器に、合成例1で得たアクリル樹脂(C−1)の水分散体100質量部、イオン交換水 40.0質量部を仕込み、均一になるまで攪拌した。次いで、アクリル系増粘剤(F−1)2.5質量部を添加し、25質量%アンモニア水でpH8.0に調整した。その後、ポリオキサゾリン化合物(日本触媒株式会社製「エポクロス WS−700」、水溶性タイプ、不揮発分25質量%、オキサゾリン基量4.5mmol/g(solid))6.0質量部を添加し、均一になるまで攪拌した。得られた水性樹脂組成物を200メッシュ金網で濾過し、植毛加工用水性樹脂組成物(1)を得た。
【0040】
(比較例1:植毛加工用水性樹脂組成物(R1)の調製及び評価)
実施例1で添加したオキサゾリン基を有する樹脂を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、植毛加工用水性樹脂組成物(R1)を得た。
【0041】
(比較例2:植毛加工用水性樹脂組成物(R2)の調製及び評価)
実施例1で用いたアクリル樹脂(C−1)を、アクリル樹脂(RC−1)に変更した以外は、実施例1と同様にして、植毛加工用水性樹脂組成物(R2)を得た。
【0042】
(比較例3:植毛加工用水性樹脂組成物(R3)の調製及び評価)
実施例1で添加したオキサゾリン基を有する樹脂を、ポリカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社「カルボジライトE−02」に変更した以外は、実施例1と同様にして、植毛加工用水性樹脂組成物(R3)を得た。
【0043】
[経時安定性の評価]
上記で得た植毛加工用水性樹脂組成物を23℃にて1ヶ月静置した後、樹脂組成物を25℃に調整し、そのときの粘度(東機産業株式会社製「TVB10形粘度計」)が調製直後の粘度(初期粘度)と比べて、変化率が10%未満であるものを「〇」、10%以上であるものを「×」と評価した。
粘度変化率(%)=100×(V2−V1)/V1
V1:初期粘度(m・Pas)
V2:23℃で1ヶ月間静置した後の粘度(m・Pas)
【0044】
[植毛加工品の作製]
上記で得た植毛加工用水性樹脂組成物を、塩化ビニル基材上に膜厚100μmとなるように塗布し、静電植毛加工機(株式会社グリーンテクノ製「小型高電圧電源GT80N」、簡易静電植毛実験装置)を用いて、植毛加工を施した。その後、160℃で10分間乾燥し、植毛加工品を得た。
【0045】
[植毛強度の評価]
上記で得た植毛加工品について、学振型磨耗試験機を用い、磨耗試験(荷重;200g、磨耗回数;2500)を行った。磨耗後の植毛加工品の短繊維が脱落していないものを「〇」、脱落しているものを「×」と評価した。
【0046】
[基材密着性の評価]
上記で得た植毛加工用水性樹脂組成物を塩化ビニル基材上に膜厚100μmとなるように塗布し、160℃で10分間乾燥し、基材密着性評価用の試験片を得た。この試験片上に接着剤(東亜合成株式会社製「アロンアルファ」)を用いて、チェック端子を貼り付けた。接着剤が固化した後、オートグラフ(株式会社島津製作所製「AG−X plus 1kN」)を用いて、180°方向に引張試験を行い、剥離強度を測定した。
【0047】
上記の実施例及び比較例で得られた植毛加工用水性樹脂組成物の評価を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例1の本発明の植毛加工用水性樹脂組成物は、経時安定性に優れ、植毛強度及び基材密着性に優れる植毛加工品が得られることが確認された。
【0050】
一方、比較例1は、架橋剤を用いなかった例であるが、植毛加工品の植毛強度に劣ることが確認された。
【0051】
比較例2は、塩基性化合物として、金属水酸化物を用いなかった例であるが、植毛加工品の植毛強度及び基材密着性に劣ることが確認された。
【0052】
比較例3は、ポリオキサゾリン化合物の代わりに、ポリカルボジイミド化合物を用いた例であるが、経時安定性に劣ることが確認された。