(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485811
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】ノード装置および経路表管理方法
(51)【国際特許分類】
H04L 12/70 20130101AFI20190311BHJP
H04L 12/701 20130101ALI20190311BHJP
G06F 16/00 20190101ALI20190311BHJP
G06F 12/00 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
H04L12/70 D
H04L12/701
G06F17/30 110C
G06F12/00 513J
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-28930(P2016-28930)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-147645(P2017-147645A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】坂野 遼平
(72)【発明者】
【氏名】北條 真史
(72)【発明者】
【氏名】首藤 一幸
【審査官】
森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−526056(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0239759(US,A1)
【文献】
宮尾 武裕 他,柔軟な経路表に基づく範囲検索可能な構造化オーバレイ,情報処理学会 研究報告 システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) 2013−OS−126 [online],情報処理学会,2013年 7月24日,p.1〜6
【文献】
播磨 裕太 他,Skip Graphをベースとした高速な挿入と検索が可能な構造化オーバレイの提案,電子情報通信学会技術研究報告,2013年 1月17日,第112巻,第393号,p.57〜62
【文献】
北條 真史 他,柔軟な経路表に基づく二次元平面上の構造化オーバレイ,情報処理学会 論文誌(ジャーナル) Vol.56 No.2 [online],日本,情報処理学会,2015年 2月15日,第56巻,第2号,p.439〜447
【文献】
大西 真晶 他,P2Pドロネーネットワークにおける遠隔接続経路の自律分散生成法,情報処理学会論文誌,日本,社団法人情報処理学会 Information Processing Society of Japan,2007年 6月15日,第48巻,第SIG11TOD34号,p.190〜214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 12/70
G06F 12/00
G06F 16/00
H04L 12/701
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノード装置によりオーバレイネットワークが構成され、前記複数のノード装置それぞれが、全順序関係を持つ値と、前記値とは異なる乱数列と、を有し、前記オーバレイネットワークにより、範囲クエリによって指定される範囲に含まれる値を有するノード装置にメッセージを配信する通信システムにおけるノード装置であって、
他のノード装置に関するノード情報を収集し、前記他のノード装置が有する前記値を含む前記ノード情報を経路表にエントリとして追加する収集手段と、
前記経路表内のエントリの数が閾値を超えるか否かを判定する判定手段と、
前記経路表内のエントリの数が前記閾値を超えると判定された場合に、前記経路表を更新する更新手段であって、
前記経路表内のエントリの中から前記閾値を超える数分のエントリを削除することにより構成される複数の経路表候補を生成し、
自ノード装置の乱数列と経路表候補内のエントリに対応するノードの乱数列とのプレフィックス一致長の頻度分布が最も一様分布に近い経路表候補を選択し、
前記選択した経路表候補を構成するエントリ以外のエントリを前記経路表から削除する
ように構成された更新手段と、
を備えるノード装置。
【請求項2】
複数のノード装置によりオーバレイネットワークが構成され、前記複数のノード装置それぞれが全順序関係を持つ値であるキーを有し、前記オーバレイネットワークにより、範囲クエリによって指定される範囲に含まれるキーを有するノード装置にメッセージを配信する通信システムにおけるノード装置であって、
他のノード装置に関するノード情報を収集し、前記他のノード装置が有する前記キーを含む前記ノード情報を経路表にエントリとして追加する収集手段と、
前記経路表内のエントリの数が閾値を超えるか否かを判定する判定手段と、
前記経路表内のエントリの数が前記閾値を超えると判定された場合に、前記経路表を更新する更新手段であって、
前記経路表内のエントリの中から前記閾値を超える数分のエントリを削除することにより構成される複数の経路表候補を生成し、
キー空間が一次元の距離空間である場合に経路表候補内のキーの頻度分布が指数分布に最も近い経路表候補を選択し、
前記選択した経路表候補を構成するエントリ以外のエントリを前記経路表から削除する
ように構成された更新手段と、
を備えるノード装置。
【請求項3】
前記更新手段は、予め定めた条件に合致するエントリを除いた前記経路表内のエントリの中から、前記閾値を超える数分のエントリを選択することにより、前記複数の経路表候補を生成する、請求項1または請求項2に記載のノード装置。
【請求項4】
前記更新手段は、前記経路表内のエントリに対応するノード装置および自ノード装置を前記値の順に並べた際に自ノード装置の前後に位置するノード装置を選定し、当該選定したノード装置に対応するエントリを除いた前記経路表内のエントリの中から、前記閾値を超える数分のエントリを選択することにより、前記複数の経路表候補を生成する、請求項1または請求項2に記載のノード装置。
【請求項5】
複数のノード装置によりオーバレイネットワークが構成され、前記複数のノード装置それぞれが、全順序関係を持つ値と、前記値とは異なる乱数列と、を有し、前記オーバレイネットワークにより、範囲クエリによって指定される範囲に含まれる値を有するノード装置にメッセージを配信する通信システムにおいて経路表を管理する方法であって、
他のノード装置に関するノード情報を収集し、前記他のノード装置が有する前記値を含む前記ノード情報を経路表にエントリとして追加することと、
前記経路表内のエントリの数が閾値を超えるか否かを判定することと、
前記経路表内のエントリの数が前記閾値を超えると判定された場合に、前記経路表を更新することと、
を備え、
前記経路表を更新することは、
前記経路表内のエントリの中から前記閾値を超える数分のエントリを削除することにより構成される複数の経路表候補を生成し、
自ノード装置の乱数列と経路表候補内のエントリに対応するノードの乱数列とのプレフィックス一致長の頻度分布が一様分布に最も近い経路表候補を選択し、
前記選択した経路表候補を構成するエントリ以外のエントリを前記経路表から削除する
ことを含む、経路表管理方法。
【請求項6】
複数のノード装置によりオーバレイネットワークが構成され、前記複数のノード装置それぞれが全順序関係を持つ値であるキーを有し、前記オーバレイネットワークにより、範囲クエリによって指定される範囲に含まれるキーを有するノード装置にメッセージを配信する通信システムにおいて経路表を管理する方法であって、
他のノード装置に関するノード情報を収集し、前記他のノード装置が有する前記キーを含む前記ノード情報を経路表にエントリとして追加することと、
前記経路表内のエントリの数が閾値を超えるか否かを判定することと、
前記経路表内のエントリの数が前記閾値を超えると判定された場合に、前記経路表を更新することと、
を備え、
前記経路表を更新することは、
前記経路表内のエントリの中から前記閾値を超える数分のエントリを削除することにより構成される複数の経路表候補を生成し、
キー空間が一次元の距離空間である場合に経路表候補内のキーの頻度分布が指数分布に最も近い経路表候補を選択し、
前記選択した経路表候補を構成するエントリ以外のエントリを前記経路表から削除する
ことを含む、経路表管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、範囲クエリを扱う構造化オーバレイ技術におけるノード装置および経路表管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造化オーバレイは、コンピュータ等の多数の計算機(以降、「ノード装置」または単に「ノード」と呼ぶ)が接続されたネットワークにおいて、数学的ルールに基づきオーバレイネットワークを構築することで、ノードが相互に発見や通知を行なうことを可能とする技術である。構造化オーバレイは、ノード情報の集中管理を必要とせず、自律分散的に振る舞うことから、分散データベース等の大規模システムにおいて有用な技術として着目されている。
【0003】
範囲クエリを扱う構造化オーバレイは、各ノードがキー(全順序関係を持つ値)を有する状況において、キーの範囲を指定することで、当該範囲に含まれるキーを有する全ノードに効率的にメッセージを配送可能な機能を有する構造化オーバレイ技術を指す。
【0004】
非特許文献1は、範囲クエリを扱う構造化オーバレイの一例を提案している。非特許文献1の例では、ノード同士で構成する論理ネットワークにSkip List(スキップリスト)を多重化した構造を持たせることで範囲クエリを可能としている。すなわち、全体が階層構成となっており、最下位レベルはキーをソートした順序で全ノードが並んだ双方向リストとなっている。各ノードはキーとは別にメンバシップベクタと呼ばれるk進数の乱数列を有し、レベルiではメンバシップベクタの接頭i桁までが等しいノード同士で双方向リストを形成する。検索を行なう時は、検索開始ノードの最上位レベルからスタートし、Skip Listと同様に目的のキーを通り過ぎない範囲でホップしてレベルをひとつ下げるという動作を繰り返す。これにより、上位レベルがショートカットリンクとして働き、目的キーまで少ないホップ数で到達することができる。この手法において、各ノードが保持する経路表のサイズと検索時の経路長は、ノード数をNとすると、共にO(log N)である。
【0005】
非特許文献2は、経路表を柔軟に管理可能な構造化オーバレイの一例を提案している。非特許文献2の例では、分散ハッシュテーブルを対象として、経路表間の優劣を表す順序関係を定義し、それに従って経路表の改良を繰り返すことで、ノードID以外の要素を考慮した経路表の構築・管理を可能としている。これによって、ノード数が少ない時には経路長をO(1)とすることや、下位ネットワークにおいてISP(Internet Service Provider)をまたぐ通信を削減する等の効果を得ている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】James Aspnes, Gauri Shah, “Skip Graphs”, ACM Transactions on Algorithms, pp.37:1-37:25, 2007.
【非特許文献2】長尾洋也, 首藤一幸, “柔軟な経路表:経路表空間上の順序関係に基づくオーバレイネットワークルーティング方式”, 先進的計算基盤システムシンポジウム論文集, pp.117-125, 2011年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に示されるような範囲クエリを扱う従来の構造化オーバレイにおいては、経路表に記載すべきノード(エントリ)を特定の要素のみに基づいて選択的に探索する。非特許文献1の場合、各レベルにおいてメンバシップベクタが所定の桁数一致し、かつキーが最近接するノードを探索し、そのノードの情報を経路表エントリとする。このため、キーとメンバシップベクタ以外の要素、例えば相手ノードとの通信遅延や所属ISP・AS(Autonomous System)等を考慮して経路表を構築することができず、クエリの配送遅延が増大してしまう等の問題がある。また、経路表サイズは全ノード共通にO(log N)であり、ノード毎のメモリサイズ等に応じて経路表サイズを変えることはできない。
【0008】
一方で、非特許文献2に示されるような分散ハッシュテーブルを対象として柔軟な経路表管理を実現している手法が存在する。非特許文献2以前の分散ハッシュテーブルでは、経路表構築に際しノードID以外の要素を考慮することが困難であったが、非特許文献2の手法では、相手ノードとの通信遅延や所属ISP・AS等を考慮して経路表を構築することが可能であり、経路表サイズもノード毎に設定可能である。しかしながら、扱うことができるクエリは完全一致クエリに限定され、範囲クエリを扱うことはできない。
【0009】
以上に示したように、構造化オーバレイにおいて、範囲クエリを扱うことおよび柔軟な経路表管理を実現することを両立することは困難である。特に、非特許文献2における手法では、ノードID以外の要素を考慮可能とは言え、ノードIDを対象とした探索においてO(log N)の探索効率を実現するためにはノードIDを考慮することが不可欠であり、このノードIDは数値空間上に一様に分布していることが前提となる。しかしながら、非特許文献1においては探索対象となるキー(非特許文献2におけるノードIDに相当)が一様に分布しているという前提を設けておらず、全順序関係を持つという前提のみを有している。このため、非特許文献2の手法をそのまま非特許文献1の手法に組み合わせることは困難である。
【0010】
本発明は、上記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、範囲クエリを扱う構造化オーバレイにおいて経路表構築に関する柔軟性を向上させることができるノード装置および経路表管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、複数のノード装置によりオーバレイネットワークが構成され、前記複数のノード装置それぞれが全順序関係を持つ値を有し、前記オーバレイネットワークにより、範囲クエリによって指定される範囲に含まれる値を有するノード装置にメッセージを配信する通信システムにおいて、他のノード装置に関するノード情報を収集し、前記他のノード装置が有する前記値を含む前記ノード情報を経路表にエントリとして追加し、前記経路表内のエントリの数が閾値を超えるか否かを判定し、前記経路表内のエントリの数が前記閾値を超えると判定された場合に、前記経路表内のエントリの中から前記閾値を超える数分のエントリを選択し、前記選択したエントリを前記経路表から削除するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、範囲クエリを扱う構造化オーバレイにおいて柔軟な経路表管理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る通信システムの構成例を示す図。
【
図2】
図1に示した各ノードの構成例を示すブロック図。
【
図3】
図2に示した経路表更新部による厳選処理の一例を示す図。
【
図4】
図2に示した経路表更新部による厳選処理の他の例を示す図。
【
図5】実施形態に係る経路表を管理する方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。実施形態は、範囲クエリを扱う論理ネットワークにおける経路表を管理する技術に関する。実施形態では、経路表構築の柔軟性を高めるために、必要な経路表エントリを選択的に追加するのではなく、不要な経路表エントリを削除することで経路表を構築する。すなわち、経路表エントリを収集する際には特定の要素に依らずに経路表に追加し、ノード毎に予め設定したエントリ数を超過した時点で超過数分のエントリを破棄する。この時、破棄するエントリの選択においてノード毎に異なる需要を反映させる。以上の動作を反復することにより、各ノードの環境等に対し適応的に経路表を改良し維持することができる。
【0015】
図1は、実施形態に係る通信システムの全体構成の一例を概略的に示している。
図1に示されるネットワーク12は、例えばインターネット等の物理ネットワークであり、複数のノード(
図1では6つのノードA〜F)がネットワーク12を介して互いに通信可能に接続されている。具体的には、ノードAおよびノードEがルータ13に接続され、ノードCおよびノードFがルータ14に接続され、ノードBおよびノードDがルータ15に接続され、ルータ13およびルータ15がルータ14に接続されている。
【0016】
オーバレイネットワーク11は、ネットワーク12上に構築した仮想的なネットワークである。オーバレイネットワーク11はノードA〜Fを含む。なお、オーバレイネットワーク11は、
図1に示される例ではネットワーク12に含まれる全てのノードA〜Fによって構成されているが、これに限らず、ネットワーク12に含まれるノードの一部によって構成されてもよい。
【0017】
オーバレイネットワーク11において、ノードA〜Fの各々は、経路表を保持し、自身の経路表に従って、メッセージの送信または転送を行なう。あるノードから目的ノードへのメッセージ送信は、それぞれのノードが経路表に従ってメッセージの転送を繰り返すことによって達成される。本実施形態では、ノードA〜Fはそれぞれ全順序関係を持つ値(以降、「キー」と呼ぶ)を有し、目的ノードは、範囲クエリにより指定されたキー範囲に含まれるキーを有する全てのノードである。また、本実施形態では、ノードA〜Fはそれぞれ、キーとは独立なk進数の乱数列(以降、「メンバシップベクタ」と呼ぶ)を有していてもよい。ここで、kは2以上の整数である。
【0018】
図2は、実施形態に係るノードの構成例を概略的に示している。
図2に示されるノードは、
図1に示されるノードA〜Fの各々に対応するものである。ここでは、
図2に示されるノードが
図1に示されるノードAであるとして説明を行なう。
【0019】
ノードAは、通信処理部21、ノード情報収集部22、更新開始判定部23、経路表更新部24、クエリ処理部25、および経路表格納部26を備える。通信処理部21、ノード情報収集部22、更新開始判定部23、経路表更新部24、およびクエリ処理部25は、図示しないメモリに格納されるコンピュータプログラムを図示しないプロセッサに実行させることにより実現することができる。経路表格納部26は、図示しないメモリにより実現することができる。経路表格納部26は、経路表を格納する。
【0020】
通信処理部21は、他のノードと通信するための処理を行なう。具体的には、通信処理部21は、他のノードへメッセージを送信したり、他のノードからメッセージを受信したりする。
【0021】
ノード情報収集部22は、通信処理部21を通じて、他のノードに関するノード情報を収集する。具体的には、ノード情報収集部22は、経路表格納部26内の経路表に未だ登録されていないノード(例えばノードB)に関するノード情報を収集する。ノード情報収集部22は、何らの制約を設けずにノード情報の収集を行なうことができる。ノード情報は、例えば、IPアドレス、ポート番号、およびキーを含む。IPアドレスは、下位ネットワーク(
図1に示されるネットワーク12)上の所在を示す所在情報の一例である。下位ネットワークは、TCP/IPベースのネットワークに限らず、他のプロトコルに基づくネットワークであってもよい。ノード情報は、メンバシップベクタをさらに含んでいてもよい。
【0022】
ノード情報の収集は、経路表に既に登録されている既知のノード(例えばノードC)を経由してノード情報収集要求を送出し、ノードBまたはノードBを知るノード(例えばノードD)からノード情報を受け取るなどのように、能動的に行なわれてもよい。また、ノード情報の収集は、ノードEからノードA宛てに送信された範囲クエリなどの他の目的で行なわれる通信の際に、通信内容に含まれる情報を読み取るなどのように、受動的に行なわれてもよい。
ノード情報収集部22は、収集したノード情報を経路表にエントリとして追加する。
【0023】
更新開始判定部23は、経路表内のエントリの数が予め定めた経路表サイズ(閾値)を超えているか否かを判定する。経路表サイズは、ノード毎に異なっていてもよい。また、経路表サイズは、システム稼働中に変更されてもよい。更新開始判定部23は、経路表内のエントリ数が経路表サイズを超えていると判定すると、経路表更新部24に対して更新処理の開始要求を与える。
【0024】
経路表更新部24は、更新開始判定部23から更新処理の開始要求を受けて、経路表を更新する。経路表更新部24は、予め定めた規則に基づいて経路表サイズの超過数分のエントリを選択し、選択したエントリを経路表から削除する。この処理を経路表エントリの厳選と呼ぶ。上記の規則は、下記(1)から(4)に示す更新方法例のいずれか1つまたは2以上の組み合わせに基づいていることができる。経路表の更新により、経路表内のエントリの数が経路表サイズ以下になる。
【0025】
(1)削除するエントリの選択において、ノード毎に異なる様々な需要を反映させることができる。例えば、可能な限り同じ自律システム(AS;Autonomous System)内のノードを残すこと、ラウンドトリップタイム(RTT;Round Trip Time)の値が小さいノードを残すこと等の規則を設けることができる。このような規則を設けることにより、メッセージの配送遅延を小さくすることができる。
【0026】
(2)経路表更新部24は、
図3(a)に示すように、予め定めた基準に従って複数の経路表を比較する経路表比較部31を含んでもよい。経路表更新部24は、厳選によって構成し得る全ての経路表を生成し、経路表比較部31を用いてこれらの経路表から最も望ましい経路表を選択し、選択した経路表を構成するように厳選を行なう。経路表比較部31は、経路表内のキーの頻度分布に基づいて比較を行なうことができる。例えば、経路表比較部31は、キー空間が1次元の距離空間である場合に、ノードAの経路表内のキーをマップした時のノードAのキーを基点とした頻度分布が指数分布に近いほど望ましい経路表である、という基準を用いてもよい。例えば、経路表1および経路表2のキーの頻度分布が
図3(b)に示されるものである場合、経路表2のキーの頻度分布のほうが指数分布に近いため、
図3(a)に示すように、経路表比較部31の出力は経路表2となる。
【0027】
(3)経路表更新部24は、スティッキーエントリを除いたエントリ群を対象として厳選を行なってもよい。スティッキーエントリは、経路表内のエントリのうちの、予め定めた条件に合致するエントリである。例えば、経路表に登録されている全ノードおよび自身(自ノード)をキー順に並べた際に、自ノードの前後に位置するノードをスティッキーエントリとして選択する。この場合、非特許文献1におけるレベル0の双方向リストが再現され、到達性が保証される。
【0028】
(4)経路表更新部24は、経路表内のエントリのメンバシップベクタに基づいて厳選を行なってもよい。この場合、経路表内の各エントリは、メンバシップベクタをさらに含み、経路表更新部24は、
図4(a)に示すように、予め定めた基準に従って複数の経路表を比較する経路表比較部41を含む。経路表更新部24は、自身のメンバシップベクタと経路表内のエントリのメンバシップベクタとの一致度に基づいて厳選を行なうことができる。一致度としては、例えば、プレフィックス一致長がある。プレフィックス一致長は、自身のメンバシップベクタと経路表内のエントリのメンバシップベクタとの間で接頭が一致する桁数を示す。例えば、
図4(b)に示すように、自身(ノードA)のメンバシップベクタが「001011・・・」である場合、メンバシップベクタ「011101・・・」については、接頭の「0」が一致するので、プレフィックス一致長は1となり、メンバシップベクタ「001000・・・」接頭の「0010」が一致するので、プレフィックス一致長は4となる。経路表比較部41は、メンバシップベクタのプレフィックス一致長の頻度分布が一様分布に近いほど望ましい経路表である、という基準を用いてもよい。例えば、経路表1および経路表2のプレフィックス一致長の頻度分布が
図4(b)に示されるようなものである場合、経路表2のキーの頻度分布のほうが一様分布に近いため、
図4(a)に示すように、経路表比較部41の出力は経路表2となる。この場合において、メンバシップベクタのプレフィックス一致長毎に、ノードAのキーに最近接のキーを有するノード2つが経路表に含まれていれば、非特許文献1において示されている経路長および経路表サイズがO(log N)となるトポロジが再現される。
【0029】
クエリ処理部25は、キーの範囲を指定する範囲クエリを受け付け、必要に応じて、経路表を参照してメッセージの転送先を決める。通信処理部21は、クエリ処理部25によって決定された転送先にメッセージを転送する。
【0030】
次に、
図5を参照して実施形態に係る経路表を管理する方法例について説明する。
【0031】
図5のステップS501では、ノード情報収集部22は、経路表エントリとなるノードに関するノード情報を収集する。ステップS502では、ノード情報収集部22は、収集したノード情報を経路表に追加する。ステップS503では、更新開始判定部23は、経路表エントリの数が予め定めた経路表サイズを超えているか否かを判定する。経路表エントリ数が経路表サイズ以下である場合、ステップS501に戻り、経路表エントリ数が経路表サイズを超えている場合、ステップS504に進む。ステップS504では、経路表更新部24は、経路表を更新する。具体的には、経路表更新部24は、経路表エントリの中から経路表サイズを超過した数のエントリを選択し、選択したエントリを経路表から削除する。
図5に示される動作を継続的に繰り返すことにより、各ノードの環境等に対し適応的に経路表を改良し維持することができる。
【0032】
なお、ステップS503に示される判定処理は、経路表にエントリが追加された後に実行される場合に限らず、例えば、各ノードにおいて経路表サイズが変更されるたびに実行されてもよい。
【0033】
以上のように、本実施形態によれば、複数のノードによりオーバレイネットワークが構成され、複数のノード装置それぞれが全順序関係を持つ値を有し、オーバレイネットワークにより、範囲クエリによって指定される範囲に含まれる値を有するノードにメッセージを配信する通信システムにおいて、他のノードに関する、このノードが有するキーを含むノード情報を収集し、このノード情報を経路表にエントリとして追加し、経路表内のエントリの数が経路表サイズを超える場合に、経路表内のエントリの中から経路表サイズを超える数分のエントリを選択し、選択したエントリを経路表から削除する。これにより、範囲クエリを扱う構造化オーバレイにおいて、ノード毎に経路表サイズを設定することができる等、柔軟な経路表管理を実現することができる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0035】
11…オーバレイネットワーク、12…ネットワーク、13,14,15…ルータ、21…通信処理部、22…ノード情報収集部、23…更新開始判定部、24…経路表更新部、25…クエリ処理部、26…経路表格納部、31,41…経路表比較部。