特許第6485945号(P6485945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6485945
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】認知状態分析装置
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/20 20180101AFI20190311BHJP
【FI】
   G16H50/20
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-216907(P2014-216907)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2016-85545(P2016-85545A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上村 直人
(72)【発明者】
【氏名】下寺 信次
【審査官】 松田 岳士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−282992(JP,A)
【文献】 特開2013−097748(JP,A)
【文献】 特開2003−141263(JP,A)
【文献】 特開2013−109661(JP,A)
【文献】 特開2011−081708(JP,A)
【文献】 特開2006−031433(JP,A)
【文献】 特開2013−117941(JP,A)
【文献】 特開2011−198271(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0180698(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−99/00
G16H 10/00−80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の認知状態を分析する装置であって、
認知機能、動機付け機能、および感情機能を評価するMENFISの評価表の結果を分析する分析手段を備えており、
該分析手段は、
認知機能の評価点の満点をA、動機づけ機能の評価点の満点をB、感情機能の評価点の満点をCとし、各機能の評価結果の数値を、認知機能の評価結果をa、動機づけ機能の評価結果をb、感情機能の評価結果をcとすると、S1=bc/BCとSc=(ab/AB+ac/AC)とを比較して、被験者のQOLを判断する機能を有しており、
MENFISの評価表の各項目の入力を数値化して、数値化された入力に基づいて各機能の評価結果の数値a、b、cを算出し、
算出された数値a、b、cを用いてS1およびScを算出し、
算出されたS1とScとを比較して、S1>Scの被験者を高QOL、S1<Scの被験者を低QOL、に分類する
ことを特徴とする認知状態分析装置。
【請求項2】
前記分析手段は、
被験者のQOLと各機能の評価結果の数値に基づいて、被験者の精神状態を分類する分類機能を有している
ことを特徴とする請求項1記載の認知状態分析装置。
【請求項3】
被験者に提供する情報が記憶された記憶手段と、
前記分析手段の分析結果および/または前記情報を表示手段に表示させる分析結果表示手段を備えており、
前記記憶手段は、
前記分析手段の分類機能毎に情報が分類されて記憶されており、
前記分析手段は、
前記分類機能によって分類された被験者の状態に応じて、前記表示手段に表示させる情報を選択する選択機能を備えている
ことを特徴とする請求項2記載の認知状態分析装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、
被験者の状態を評価する評価項目を記憶しており、
前記表示手段に前記評価項目を表示させる質問表示手段と、
該質問表示手段によって前記表示手段に表示された前記評価項目に対する回答を入力するための入力手段と、を備えている
ことを特徴とする請求項3記載の認知状態分析装置。
【請求項5】
前記分析結果表示手段は、
被験者の状態を分類する分類表を表示させる分類表表示機能と、
表示された分類表における分類を選択すると、選択された分類に対応する情報を表示する表示機能と、を備えている
ことを特徴とする請求項3または4記載の認知状態分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知状態分析装置に関する。さらに詳しくは、被験者の状態を客観的に評価するために使用される認知状態分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり働きが悪くなったりすることによって、さまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態を意味している。
【0003】
認知症になると、記憶障害や見当識障害、理解・判断力の低下などの種々の症状が現れ、症状が悪化すると、本人はもちろん家族の日常生活にも支障をきたすようになる。このため、認知症となっていることを早期に発見するとともに、認知症の患者に対して認知症を悪化させないための治療や介護を行うことが重要である。適切な治療法や適切な介護を行う上では、認知症であるか否か、また、どの程度の認知症であるか、を正しく、適切に判断することが非常に重要である。現状では、認知症の患者本人との面接やその家族との面接によって、医師が上記判断を行っている。
【0004】
しかし、認知症はその専門医が少なく、専門医がいない地域では、専門医以外が上記判断を行っているのが実情である。専門医以外の医師は、通常、患者の状態を把握するための適切な質問を理解していないので、面接を実施しても患者の状態を判断することは難しい。
また、適切な質問を知識として有していたとしても、認知症の専門医でなければ、質問に対する回答から患者の状態を適切に判断することは難しい。
さらに、診察時間が限られている中、認知症の患者の増加により一人の患者に費やすことができる時間はどんどん短くなっており、短時間の面接で患者の状態を適切に判断することは、認知症の専門医であっても難しい。
【0005】
そこで、上記の問題を解決する方法として、認知機能に基づいて認知症であるか否かを判断するコンピュータを利用したツール(自己診断システム)が開発されている(特許文献1、2)。
【0006】
特許文献1には、コンピュータを利用した、物忘れの度合を自動的に算定し、痴呆症(認知症)、とくにアルツハイマー型の診断を行う自己診断システムが開示されている。
この特許文献1の技術では、物忘れの度合を自動的に算定するための質問文として、「言葉の再生、日時の見当識、言葉の記銘、立体図形認識」に関する質問を使用している。そして、各質問文に対する回答に応じた得点を与え、この得点に基づいてアルツハイマー認知症患者か否かを判断している。
【0007】
また、特許文献2には、忘れの度合を自動的に算出して、痴呆症(認知症)の診断を行う自己診断システムが開示されている。
この特許文献2の技術では、データ入力手段として、被験者が問題に対する解答の選択肢を誤入力した場合に、正しい選択肢を再入力させない一方で、誤入力が発生したことを示すデータを入力する機能を有するものを採用している。
そして、特許文献2には、上記構成とすることによって、解答の選択肢を誤入力した場合でも診断を強制的に先に進めることができるので、短時間で診断を終了させることができる旨の記載がある。
また、特許文献2には、できるだけ被験者にストレスのない状態で診断を進めることができるとともに、誤入力されたデータを用いて診断されることにより誤診断が生じることを防止できる旨の記載もある。
【0008】
つまり、特許文献1,2のシステムを使用すれば、専門医でなくても患者の認知機能を短時間で判断できる可能性があり、専門医でなくても患者の認知機能に合わせた治療や介護の方法を指導できる可能性があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3515988号公報
【特許文献2】特許第4171832号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】坂本 誠、石井 徹郎、平田 進英、竹本 泰英江、本間 昭、新名 理恵、窪田 博、篠塚 貴祐、長谷川 和夫、“精神機能障害評価スケール(MENFIS)の臨床的妥当性の検討”、老年精神医学雑誌第4巻第8号 921−925、1993年8月
【非特許文献2】Akira Homma, Kazuko Hasegawa、“RECENT CLINICAL TRIAL OF CHOLINOMIMETICS FOR PATIENTS WITH ALZHEIMER’S DISEASE IN JAPAN”、Alzheimer’s and Parkinson’s Diseases Advances in Behavioral Biology Volume 44, 1995, pp 437-448
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、認知症の患者の状態は、認知機能だけで評価できるものではなく、動機付け機能や感情機能も評価して判断しなければならない。しかも、動機付け機能や感情機能は患者の生活において重要な役割を果たしているので、動機付け機能や感情機能を評価できなければ、患者の生活に適した治療や介護の方法を指導することは難しい。
【0012】
しかし、特許文献1,2のシステムでは、評価対象として認知機能しか採用していないので、特許文献1,2のシステムの結果から患者の状態を判断することは実質的には難しい。
しかも、特許文献1,2のシステムでは、患者自身がシステムを操作しなければならないので、患者が協力しなければ評価することができない。
【0013】
一方、認知症の患者の状態を判断する方法として、MENFIS(Mental Function Impairment Scale)が開発されている(非特許文献1、2)。MENFISは、認知機能だけでなく、動機付け機能や感情機能を含めて判断するので、患者の状態をより適切に判断することができる。
しかも、MENFISでは、患者本人からではなく、介護者から得られた情報に基づいて患者の状態を判断するので、患者の意思に係わらず患者の状態を判断することができる。
【0014】
しかし、現状では、MENFISを採用して認知症の患者の状態を迅速に判断するシステムは開発されていない。このため、MENFISによる評価、つまり、認知機能だけでなく動機付け機能や感情機能を含めて患者の状態を迅速に判断できる判断システムの開発が望まれている。
【0015】
本発明は上記事情に鑑み、MENFISを利用して被験者の状態を判断できる認知状態分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明の認知状態分析装置は、被験者の認知状態を分析する装置であって、認知機能、動機付け機能、および感情機能を評価するMENFISの評価表の結果を分析する分析手段を備えており、該分析手段は、認知機能の評価点の満点をA、動機づけ機能の評価点の満点をB、感情機能の評価点の満点をCとし、各機能の評価結果の数値を、認知機能の評価結果をa、動機づけ機能の評価結果をb、感情機能の評価結果をcとすると、S1=bc/BCとSc=(ab/AB+ac/AC)とを比較して、被験者のQOLを判断する機能を有しており、MENFISの評価表の各項目の入力を数値化して、数値化された入力に基づいて各機能の評価結果の数値a、b、cを算出し、算出された数値a、b、cを用いてS1およびScを算出し、算出されたS1とScとを比較して、S1>Scの被験者を高QOL、S1<Scの被験者を低QOL、に分類することを特徴とする。
第2発明の認知状態分析装置は、第1発明において、前記分析手段は、被験者のQOLと各機能の評価結果の数値に基づいて、被験者の精神状態を分類する分類機能を有していることを特徴とする。
第3発明の認知状態分析装置は、第2発明において、被験者に提供する情報が記憶された記憶手段と、前記分析手段の分析結果および/または前記情報を表示手段に表示させる分析結果表示手段を備えており、前記記憶手段は、前記分析手段の分類機能毎に情報が分類されて記憶されており、前記分析手段は、前記分類機能によって分類された被験者の状態に応じて、前記表示手段に表示させる情報を選択する選択機能を備えていることを特徴とする。
第4発明の認知状態分析装置は、第3発明において、前記記憶手段は、被験者の状態を評価する評価項目を記憶しており、前記表示手段に前記評価項目を表示させる質問表示手段と、該質問表示手段によって前記表示手段に表示された前記評価項目に対する回答を入力するための入力手段と、を備えていることを特徴とする。
第5発明の認知状態分析装置は、第3または第4発明において、前記分析結果表示手段は、被験者の状態を分類する分類表を表示させる分類表表示機能と、表示された分類表における分類を選択すると、選択された分類に対応する情報を表示する表示機能と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1発明によれば、認知機能、動機付け機能、および感情機能を評価するMENFISの評価表の項目を使用して被験者のQOLを把握できる。すると、被験者のQOLの状態を客観的に判断できるので、医師だけでなく、介護者も患者のQOLを客観的評価として把握できる。そのため、介護者が自己の介護方法が適切か否かを把握することも可能となるので、介護者の介護方法に対する不安を軽減することができる。しかも、各評価の数値に基づくQOLの判断を、QOL判断に適した評価式を用いて実施するので、QOL判断の精度を向上することができる。
第2発明によれば、被験者のQOLと各機能の評価結果の数値とを利用して、被験者の状態が分類されるので、被験者の状態をより客観的に判断することができる。
第3発明によれば、分析手段の分析結果および/または情報を表示手段で確認できるので、医師だけでなく、被験者本人や介護者も被験者の状態に関する情報を把握することができる。
第4発明によれば、表示手段に表示される質問に対して、入力手段を使用して被験者または介護者が回答すれば、QOLを含めた被験者の情報を、被験者または介護者が把握することができる。しかも、医師の面接を実施する場合と同様の回答を被験者または介護者から得ることができるので、面接に伴う医師や被験者、介護者の負担を軽減することができる。
第5発明によれば、分類が表で表示されるので、分類に基づいて、被験者の現状について、認知症の進行度合いなどを把握しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の認知状態分析装置1の概略ブロック図である。
図2】MENFISの精神機能障害評価表の一例を示した図である。
図3】QOLの判断を行う原理を示した図である。
図4】分析手段40が被験者の分類を行うツリー図である。
図5】各分類の情報を表にした一例である。
図6】結果表示画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、認知症患者等の被験者の状態を分析する装置に関するものであり、MENFISの評価表を利用することによって、感情や動機づけなどを含めて、被験者の状態を評価(とくにQOLを評価)できるようにしたことに特徴を有している。
【0020】
なお、本発明の認知状態分析装置は、認知症患者の状態を評価する装置に適しているが、軽度認知障害(前認知症)の有無などを評価する装置としても使用することは可能である。
【0021】
また、以下の説明では、以下の略称を使用する場合があり、各略称の正式名称は、以下のとおりである。
BPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementiaの略):認知症に伴う精神症状・行動障害
AD(Alzheimer's Diseaseの略):アルツハイマー型認知症、
VaD(Vascular Dementiaの略):血管性認知症
DLB(Dementia with Lewy body diseaseの略):レビー小体型認知症
FTD :前頭側頭型認知症
CDR(Clinical Dementia Ratingの略):認知症の重症度評価尺度
MCI(Mild Cognitive Impairmentの略):軽度認知障害
【0022】
(MENFISの説明)
まず、本発明の装置を説明する前に、本発明の装置において、被験者の状態を評価するために使用されるMENFIS(精神機能障害評価票:Mental Function Impairment Scale)について簡単に説明する。
【0023】
MENFISは、本間らにより開発された精神機能評定尺度である。MENFISは、老年者および認知症患者の中核症状の重症度を評価することを目的として開発されており、知的機能の正常な老人から質問法では検査不可能な高度の認知症患者までの幅広い対象について、その精神機能の評価に用いることができる評価手法である(非特許文献1参照)。
【0024】
MENFISの特徴は、認知症患者にみられる認知機能障害、動機づけ機能障害、感情機能障害の重症度をそれぞれ個別に評価するとともに、各機能障害の評価点を合計した値を使用することにある。そして、各機能障害の評価点を合計した値を使用するので、認知症で引き起こされる認知機能のみではなく、非認知機能(動機づけ機能、感情機能)を的確に評価できるから、全般的な重症度を算出できるのである。
【0025】
そして、MENFISでは、患者に対する質問式の認知機能検査(つまり面接による検査)を行うことなく、認知症患者の精神機能障害を多面的に評価でき、しかも、精神機能障害を数量化できるという特徴がある。このため、MENFISを利用すれば、面接を行う場合に比べて、面接に伴う労力軽減や診察時間の短縮などにより、医師や専門職の負担を軽減できるという利点が得られる。
【0026】
さらに、MENFISを利用することによって精神機能障害を数量化できるので、認知症の専門の医師だけでなく、認知症の専門外の医師や、認知症患者を介護している介護者(家族など)も認知症患者の精神機能障害を把握することができる。すると、介護者が自己の介護方法が適切か否かを把握することも可能となるので、介護者の介護方法に対する不安を軽減することができる。
【0027】
具体的には、MENFISでは、図2に示すような精神機能障害評価表(非特許文献1より引用)を使用し、介護者に各質問に対する回答を、点数として記入してもらう方式を採用している。そして、各質問に対する回答は、上部の線上に記入してもらう方式を採用しているので、中間的な数値も採用できるようになっている。このため、細かな評価ができるとともに、複数回の評価を実施すると、時系列の変化を把握することが可能となる。
【0028】
例えば、「a.認知機能障害」の「1.場所の見当識障害」の場合に、「0 全く障害なし」と「2 少し障害あり」の中間的な症状の場合には、「1」に丸を付けることができる。また、「2 少し障害あり」に近い場合には、「1」と「2」の中間に丸を付ければよいし、介護者の感覚として、「2」までではないが「2」に近いと感じられる場合には、「2」の近傍に丸を付ければよい。つまり、図2示すような精神機能障害評価表を使用することにより、介護者の現実的な介護やケアの感覚に合わせて、細かく評価を実施することができる。
【0029】
(本実施形態の認知状態分析装置1の説明)
つぎに、本実施形態の認知状態分析装置1について説明する。
まず、図1に基づいて、本実施形態の認知状態分析装置1の構成を簡単に説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の認知状態分析装置1は、表示手段2と、記憶手段10と、質問表示手段20と、入力手段30と、分析手段40と、分析結果表示手段50と、を備えている。
【0031】
本実施形態の認知状態分析装置1では、質問表示手段20によって記憶手段10に記憶されている評価項目や質問などを表示手段2に表示させる(図2参照)。表示手段2に表示された質問等について、入力手段30を使用して質問等に被験者や介護者が回答すると、その回答に基づいて被験者のQOL等を分析手段40が分析する。そして、分析手段40の分析結果は、記憶手段10に記憶されるとともに分析結果表示手段50によって表示手段2に表示される(図6参照)。
【0032】
かかる構成であるので、本実施形態の認知状態分析装置1を使用することによって、医師が面談を行わなくても、被験者や介護者が被験者のQOL等を客観的評価として把握できる。すなわち、介護者が自己の介護方法が適切か否かを把握することも可能となるので、介護者の介護方法に対する不安を軽減することができる。
【0033】
しかも、本実施形態の認知状態分析装置1を使用することによって、家庭や介護の現場などでも、医師が面接を実施する場合と同様の回答を被験者または介護者から得ることができる。すなわち、医師の診断を受ける際に、本実施形態の認知状態分析装置1の分析結果を提示すれば、医師が面接をしなくても(または面接時間を短くしても)、被験者の状態を適切に判断できる。つまり、医師が診察に要する時間を短縮することも可能となるので、面接に伴う医師や被験者、介護者の負担を軽減することができる。
【0034】
また、分析手段40の分析結果および/または情報を表示手段2で確認できるので、医師だけでなく、被験者本人や介護者も被験者の状態に関する情報を把握することができる。
【0035】
なお、本実施形態の認知状態分析装置1は、上述したように、表示手段2と、記憶手段10と、質問表示手段20と、入力手段30と、分析手段40と、分析結果表示手段50と、を備えていることが望ましい。
【0036】
しかし、質問表示手段20は必ずしも設けなくてもよい。つまり、表示手段2と、記憶手段10と、入力手段30と、分析手段40と、分析結果表示手段50と、だけで本実施形態の認知状態分析装置1を構成してもよい。例えば、予め紙など(例えばマークシート等)に質問の回答を記載させておき、この紙に記載されている回答を入力手段30が読み取るようにしてもよい。この場合でも、入力手段30が読み取った情報を分析手段40に供給すれば、被験者の状態を分析手段40によって分析することができる。もちろん、既に電子データ化された電子ファイルを入力手段30が受信するようにしてもよい。
【0037】
また、本実施形態の認知状態分析装置1自体は、表示手段2を有しなくてもよい。つまり記憶手段10と、入力手段30と、分析手段40と、だけで本発明の認知状態分析装置1を構成してもよい。この場合でも、評価項目や質問などが記憶手段10に記憶されていれば、評価項目や質問などを別途設けられた表示手段等に表示させれば、評価項目や質問などに対する回答を入力手段30から入力させることができる。つまり、表示手段2がなくても分析を実施することができる。そして、分析手段40の分析結果を記憶手段10に記憶させておけば、その情報を別途設けられた表示手段等に表示させることによって、医師や介護者などが分析結果を確認することができる。
【0038】
さらに、表示手段2を有しない場合でも、本発明の認知状態分析装置1は質問表示手段20および/または分析結果表示手段50を有していることが望ましい。この場合には、質問表示手段20および/または分析結果表示手段50によって、本実施形態の認知状態分析装置1が表示手段2を有する場合と同等の質問画面および/または結果表示画面を別途設けられた表示手段等に表示させることができる。
【0039】
さらに、記憶手段10を本実施形態の認知状態分析装置1と別体として(例えばUSB等)、本実施形態の認知状態分析装置1に着脱可能としてもよい。この場合には、記憶手段10に記憶されている情報を、別な装置などで利用することができる。
【0040】
そして、本実施形態の認知状態分析装置1自体が記憶手段10を有していなくてもよい。つまり、表示手段2と、質問表示手段20と、入力手段30と、分析手段40と、分析結果表示手段50と、により本実施形態の認知状態分析装置1を構成してもよい。また、表示手段2も設けない場合には、入力手段30と分析手段40だけ(または、質問表示手段20と入力手段30と分析手段40と分析結果表示手段50だけ)で本実施形態の認知状態分析装置1を構成してもよい。この場合でも、本実施形態の認知状態分析装置1と分離された記憶手段を設けておき、この記憶手段に、評価項目や質問を記憶させておく。すると、無線や物理的接続等の方法で記憶手段と認知状態分析装置1を接続すれば、認知状態分析装置1に評価項目や質問を供給することができる。また、無線や物理的接続等の方法で記憶手段と認知状態分析装置1を接続すれば、入力情報、分析結果等を記憶手段に供給して記憶させることもできる。
【0041】
(各部手段の説明)
以下では、本発明の認知状態分析装置1を構成する各部を説明する。
【0042】
(表示手段2)
表示手段2は、質問表示手段20や分析結果表示手段50から供給される情報を表示する機能を有するものである。この表示手段2は、前記情報を表示できるものであればよく、とくに限定されない。例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等ように、画像等を表示できる機器を表示手段2として挙げることができる。
【0043】
(入力手段30)
入力手段30は、表示手段2に表示されている質問に対する回答を入力したり、表示手段2に表示されているボタンや表示手段2上の特定の領域等を指定したりする等の機能を有するものである。この入力手段30は、被験者や介護者などが回答等を入力または指定するための入力部31を備えている。この入力部31はとくに限定されず、例えば、キーボードやマウス等の公知の入力手段を利用することができる。
【0044】
また、入力手段30は書き込み部32を備えている。この書き込み部32は、入力部31によって入力された回答等を、被験者の情報や評価項目等の情報と対応付けして記憶手段10に供給する機能を有している。例えば、入力部31としてキーボードを使用した場合には、書き込み部32は、入力部31からキー入力された数値等を評価項目の情報と対応させて記憶手段10に記憶させる機能を有している。また、入力部31としてマウスを使用した場合には、書き込み部32は、ポインターの位置に対応する数値等を評価項目の情報と対応させて記憶手段10に記憶させる機能を有している(図2の矢印x参照)。
【0045】
なお、表示手段2として、ディスプレイと入力装置とが一体化したタッチパネルを利用した場合には、表示手段2を入力手段30として機能させることができる。すると、表示手段2に表示された画像などに触れるだけで、質問に対する回答などを入力できるので、操作が容易になり、介護者等が使用しやすくなる。
【0046】
(質問表示手段20)
質問表示手段20は、記憶手段10に記憶されている評価項目の情報やその他の情報を表示手段2に表示させる機能を有するものである。この質問表示手段20は、評価項目の情報やその他の情報が予め定められた配列で表示されるように質問表示用データを作成する質問データ作成部21と、この質問データ作成部21で作成された質問表示用データを後述する表示手段2に表示させる質問表示部22と、を備えている。
【0047】
質問データ作成部21によって形成される質問表示用データの形式はとくに限定されない。つまり、質問表示用データを表示手段2に表示させたときに、評価項目の情報やその他の情報をどのように表示させるか(つまり、評価項目の情報等をどのように配列するか)はとくに限定されず、どのような形で表示してもよい。例えば、質問がMENFISの質問の場合であれば、図2に示すような形式の表、つまり、MENFISの精神機能障害評価表と同じ形の表を表示手段2に表示させるようにしてもよい。また、精神機能障害評価表の各項目(a.認知機能障害など)の各質問(「1.場所の見当識障害」など)を順次表示させるようにしてもよい。
【0048】
(分析結果表示手段50)
分析結果表示手段50は、記憶手段10に記憶されている分析手段40による分析結果を表示手段2に表示させる機能を有するものである。この分析結果表示手段50は、分析結果が予め定められた配列などで表示されるように結果表示用データを作成する分析データ作成部51と、この分析データ作成部51で作成された結果表示用データを後述する表示手段2に表示させる結果表示部52と、を備えている。
【0049】
分析データ作成部51によって形成される結果表示用データの形式はとくに限定されない。つまり、結果表示用データを表示手段2に表示させたときに、分析結果をどのように表示させるか(つまり、分析結果をどのように配列するかなど)はとくに限定されない。例えば、図6に示すように、表の形式で結果が表示されるようにしてもよいし、図形状に結果が表示されるようにしてもよい(図2図4参照)。例えば、図2のようにMENFISの精神機能障害評価表の各項目の点数を図形上に表示すれば、後述するように被験者のQOL等を一目で把握できる。また、図4に示すように、分類過程を表示してどの分類径路で分類されたかが把握できるようにすれば、被験者の精神状態のどの部分が問題になっているのか、また、以前と比べてどのような点が変化したのか等を把握しやすくなる。
【0050】
また、分析データ作成部51は、過去の分析結果を、被験者名と分析結果、分析した日時などと互いに関連づけたデータを作成する機能を有していてもよい。この場合、結果表示部52によって、各項目の分析結果(積算値など)の時系列変化を表示手段2に表示させることができるので、各項目について被験者の状態がどのように変化したかを一目で把握できる。すなわち、医師や介護者が、治療や介護の方針が適切であったか否かなどを検討しやすくなる。
【0051】
また、後述するように、人の精神状態を複数に分類したデータが記憶手段10に記憶されている場合には、分析データ作成部51は、このデータに基づいて分類表を作成する機能を有していることが望ましい(図6参照)。この場合、分類表のデータを結果表示部52によって表示手段2に表示させれば、被験者の状態だけでなく、人の精神状態の分類全体を表の状態で確認できる。すなわち、他の精神状態と比較して被験者の精神状態を把握できるので、被験者の現状や認知症の進行度合いなどを把握しやすくなる。
【0052】
とくに、表示された分類表とともに、被験者の状態に関する情報とその情報に対応したアドバイス等が表示される機能を有していることが望ましい。例えば、図6に示すような表を表示させた上で、コメントを表示させるようにすれば、被験者の現状や認知症の進行度合いや対処方法などを把握しやすくなる。そして、図6に示すような表の各項目に最初から情報を提示するのではなく、各項目を指定するとその情報(図5参照)が表示されるようにすれば、情報が見やすくなるので、好ましい。
【0053】
分析データ作成部51の上記機能が、特許請求の範囲にいう、分類表表示機能と表示機能に相当する。
【0054】
なお、分析データ作成部51によって表示される分析手段40による分析結果や被験者の精神状態を分類したデータの詳細は後述する。
【0055】
(記憶手段10)
記憶手段10は、被験者の状態を評価するための情報や、被験者の精神状態に関連する情報が記憶されたものである。この記憶手段10は、質問表示手段20や分析手段40、分析結果表示手段50からの要求に応じて、記憶されている情報を各手段に提供する機能を有している。
【0056】
(被験者の状態を評価するための情報)
被験者の状態を評価する評価項目の情報としては、上述したMENFISの評価表(精神機能障害評価表)の項目などの複数の質問項目を挙げることができる。例えば、図2に示すMENFISの評価表の各項目(a.認知機能障害、b.動機づけ機能障害、c.感情機能障害)と、各項目の質問(「1.場所の見当識障害」など)および各項目の質問における障害程度の説明(例えば、「1.場所の見当識障害」の「0 全く障害なし」や「2 少し障害あり」など)が互いに関連づけられた状態で保存されている。
【0057】
また、被験者の状態を評価する評価項目の情報としては、上述したMENFISの評価表の各項目以外にも、臨床診断に関する情報を挙げることができる。臨床診断に関する情報とは、認知症の各状態(AD、VaD、DLB、FTD、MCI等)を確認するための情報などである。例えば、医師が診察によって判断した被験者の状態を入力するための項目や医師が所見を入力する欄を質問表示手段20によって表示手段2に表示させるための情報などを、臨床診断に関する情報として挙げることができる。
【0058】
さらに、被験者の状態を評価する評価項目の情報としては、上記以外の質問項目が記憶されていてもよいのは、いうまでもない。例えば、一般的な質問(食事の量や体重、血圧など)や、精神状態を評価するMENFIS以外の手法に使用される質問(長谷川式簡易知的機能スケールや認知機能検査などの簡易知能検査に使用される質問など)が記憶されていてもよい。
【0059】
(被験者の精神状態に関連する情報)
また、記憶手段10は、精神状態に関連する情報を記憶している。精神状態に関連する情報とは、被験者の精神状態を複数の分類(例えば8分類)に分類した場合、各分類に該当する人の一般的な症状や認知症の進行度合いなどに関する情報である(図5参照)。この記憶手段10では、各分類と各分類の精神状態に関連する情報とが関連付けられて記憶されている。そして、精神状態に関連する情報には、各分類の人を介護する際のアドバイスなどが記憶されていてもよい。
【0060】
(その他機能)
もちろん記憶手段10は、入力手段30や分析手段40から供給される情報(回答結果や分析結果等)を記憶する機能と、記憶されている情報を質問表示手段20や分析手段40、分析結果表示手段50からの指令に応じて供給する機能を有している。
【0061】
そして、入力手段30や分析手段40から供給される情報、つまり、被験者の情報を、その他の情報と関連付けて記憶する機能を有している。つまり、ある被験者の情報を供給するように分析結果表示手段50などから記憶手段10に指令があれば、その被験者に関して記憶されている情報(過去の回答に関する情報や分析結果、臨床診断に関する情報など)を分析結果表示手段50に供給する機能を記憶手段10は有している。
【0062】
なお、記憶手段10は、上記機能を満たすものであればよく、とくに限定されない。例えば、ハードディスクやDVD、フラッシュメモリーなどの公知の記憶媒体を採用することができる。
【0063】
(分析手段40)
分析手段40は、記憶手段10に記憶されている入力手段30から入力された質問に対する回答を分析する機能を有している。具体的には、記憶手段10に記憶されている各質問に対する回答(つまり数値)を積算したり数式に当てはめたりするなどの処理を行って数値化した分析結果を算出し、この分析結果を記憶手段10に記憶させる機能を有している。例えば、各質問に対する回答(つまり数値)項目ごとに集計して、集計値を記憶手段10に記憶させることも、分析手段40による分析に相当する。この場合には、集計値が分析結果に相当する。
【0064】
なお、入力手段30から入力された質問に対する回答は、直接、分析手段40に入力されるようにしてもよい。この場合でも、分析手段40による分析結果は記憶手段10に記憶される。
【0065】
(分析手段40による分析)
分析手段40では、MENFISの評価項目の評価点数を利用して、(1)QOLの判断、(2)精神状態の分類、の順番で分析を行う。
【0066】
(QOLの評価)
分析手段40は、質問に対する回答を分析して被験者のQOLを推定する機能を有しており、この機能により被験者のQOLを推定する。具体的には、質問表示手段20によって表示手段2に表示されたMENFISの評価項目に対する回答が入力手段30によって入力されると、その入力を数値化して、QOLを算出する。例えば、MENFISの評価項目では、認知機能、動機付け機能、および感情機能をそれぞれ評価する項目が設けられている。このため、各機能を評価する項目に対して回答を行えば、認知機能、動機付け機能、および感情機能をそれぞれ数値化することができる。
【0067】
そして、本実施形態の認知状態分析装置1では、分析手段40が、各評価点とQOLの関係を考慮して、認知機能以外(非認知機能)の評価点と、認知機能の評価点とを適切に関係づけることによって、被験者のQOLを客観的かつ適切に評価できるようにしている。
以下、分析手段40が被験者のQOLを評価する評価原理を説明する。
【0068】
(分析手段40によるQOLの評価原理の説明)
まず、各機能の評価結果の数値を、認知機能の評価結果a、動機づけ機能の評価結果b、感情機能の評価結果cとする。また、各評価点の満点を、認知機能の評価結果はA、動機づけ機能の評価結果はB、感情機能の評価結果はCとする。
【0069】
なお、MENFIS評価表では、加点方式で各機能の低下を評価している。つまり、点数が高くなると状態が悪いことを示しており、健全な状態は0点になる。しかし、以下では、説明を分かりやすくするために、減点方式で各機能を評価する場合を使用して説明する。つまり、点数が多い方が健全な状態に近い場合と判断する方法を使用した場合を代表として説明する。
【0070】
各機能の評価結果の数値が得られると、各項目数値を図3に示すような3軸を有するグラフの軸状に、各評価点をプロットする。この各軸x〜z上の点を結べば、各軸x〜z上の点を結ぶ線分と2軸によって囲まれた3角形が3つ形成される(S1〜S3)。
【0071】
ここで、3軸は、その交点Oから認知機能の軸X上の点Aまでの距離(L1)と、認知機能の軸Xを反対側に伸ばした線と線分BCの交点から交点Oまでの距離(L2)が同じ長さとなるようにする。このように設定すれば、認知機能が関連しない面積S1と、認知機機能が関連する面積S2、S3は、Sc=S2+S3とすれば、S1=Scの関係になる。
【0072】
ここで、被験者のQOLは、認知機能が低下しても、非認知機能(動機づけ機能および感情機能)が維持されていると(評価点が高いと)、QOLが高いと考えられる。また、認知機能が低下していない人の場合であれば、認知機能と非認知機能がバランスしていると考えれば、S1=Scの状態は、認知機能が低下していない人において、通常のQOLの状態と判断できる。すると、認知機能が低下した人でも、S1=Scとなっていれば、通常のQOLの状態であると判断できる。一方、S1>Scであれば、認知機能が低下しても、非認知機能が維持されていると(評価点が高いと)、被験者のQOLが高い(高QOL)と判断することができる。逆に、S1<Scであれば、認知機能が高くても、非認知機能が低下しており(評価点が低い)、被験者のQOLが低い(低QOL)と判断することができる。
【0073】
このような原理に基づいて、分析手段40によるQOLの評価する場合、分析手段40は、各機能の評価結果のa〜cと、各評価点の満点A〜Cに基づいて、以下の式からQOLを判断する。
【0074】
まず、図3において、面積S1は、S1=bc/BCとなる。また、面積S2及び面積S3は、S2=ab/AB、S3=ac/ACとなる。ここで、Sc=ab/AB+ac/AC=(b/B+c/C)×a/Aとなる。したがって、分析手段40は、bc/BCの値と、(b/B+c/C)×a/Aの値で、いずれが大きいかを演算して、被験者を、高QOLと低QOLに分類することができる。
【0075】
MENFIS評価表をつかってより具体的に説明する。
例えば、図2の表であれば、正常な状態では各評価点が0点であるので、分析手段40では、各評価点の最大点をA〜Cとする。つまり、A=42、B=C=18、とする。
【0076】
一方、MENFIS評価表の各評価点をam〜cmすると、図3上にプロットする点a〜cは、a=A−am、b=B−bm、c=cm、となる。
すると、図2の表の結果からは、S1、Scは以下のようになる。

S1=bc/BC=(B−bm)(C−cm)/BC
=(18−bm)(18−cm)=18×18
Sc=(b/B+c/C)×a/A
=((B−bm)/B+(C−cm)/C)×(A−am)/A
=((18−bm)+(18−cm))×(42−am)/42×18
【0077】
したがって、上記式に、各評価点am〜cmを入れて、S1とScの大きさを比較すれば、MENFIS評価表の各評価点am〜cmを用いて、被験者のQOLを判断することができる。
【0078】
(分類)
被験者のQOLが推定されると、被験者のQOLによって、被験者の精神状態を分類する。具体的には、図4に示すような方法で、被験者の精神状態を分類する。なお、以下では、分類が8つの場合を説明する。
【0079】
まず、被験者のQOLによって、高QOLグループと低QOLグループのいずれかに分類される。
【0080】
ついで、認知機能の評価結果Aによって、認知機能の高いグループと認知機能の低いグループのいずれかに分類される。つまり、この時点で、4つに分類分けされたグループのいずれかに被験者が分類される。
【0081】
さらに、各グループ内で、非認知機能が高いグループと非認知機能が低いグループに分類される。この段階になると、グループは8つに分類されるので、被験者は、8つに分類分けされたグループのいずれかに分類されることになる。
【0082】
つまり、以上の手順を踏むことで、被験者を以下の1〜8のグループに分類できるのである。
1.高QOL、高認知機能、高非認知機能
2.高QOL、高認知機能、低非認知機能
3.高QOL、低認知機能、高非認知機能
4.高QOL、低認知機能、低非認知機能
5.低QOL、高認知機能、高非認知機能
6.低QOL、高認知機能、低非認知機能
7.低QOL、低認知機能、高非認知機能
8.低QOL、低認知機能、低非認知機能
【0083】
ここで、各グループは、それぞれ特徴を有している。このため、各グループでは、なぜQOLが高いのか(または低いのか)を推定できる。また、各グループについて、将来そのように症状が進行する可能性があるのか(将来像)が予見でき、適切に認知症の悪化を防ぐ方法や対処方法がある程度予測できる(図5参照)。被験者を上記8グループに分類することによって、被験者本人や医師、介護者が、適切な対策や介護方法を検討することができる(図5参照)。つまり、各グループについて、今後の介護方針等に関するある程度一般化されたアドバイス(コメント)を提供することができる(図5参照)。
【0084】
したがって、上述したように、記憶手段10に各分類の人を介護する際のアドバイス(積極的に実施することや注意すべき事項など)を記憶しておく。そして、分析終了後、被験者の分類に適したアドバイスを、被験者等の求めに応じて表示手段2に表示させることができるようにしておく(図6参照)。すると、被験者や介護者などがこれからの指針を得ることができるので、安心して生活や介護を実施することができる。
【0085】
アドバイスを表示する方法はとくに限定されない。例えば、図6(A)に示すように、言葉として、現状と課題、今後の方針を合わせて表示すると、被験者や介護者などの理解が深まるので、望ましい。
また、図6(B)に示すように、8分類を全て表示し、被験者がどの分類に入るかを色を変えて示すようにしてもよい。この場合、分類表のマス目を指摘すると、コメント等(図5参照)が表示されるようにしてもよい。
【0086】
なお、上記例では、MENFISの結果に基づいて8つのグループに分類したが、分類するグループの数は、限定されない。例えば、MENFISの結果だけでなく、医師による臨床診断の結果を利用して、より細かく被験者を分類してもよい。臨床診断の結果を利用した場合には、被験者の状態を医学的な見地を含めてより客観的に判断することができる。かかる分類に使用される臨床診断の結果とは、面談等によって医師が判断した被験者の状態であり、例えば、BPSDやAD、VaD、DLB、FTD、MCI、CDR等を挙げることができる。
【0087】
(本発明の認知状態分析装置1について)
本発明の認知状態分析装置1は、上述した各機能を有する手段を備えたものであればよく、どのような機器で構成してもよい。例えば、パーソナルコンピュータや携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末などは、上述した表示手段2や入力手段30、記憶手段10の機能(つまり、表示機能や記憶機能、入力機能)は有している。したがって、上記質問表示手段20や分析手段40、分析結果表示手段50の機能を発揮するソフトウェアをインストールしておけば、これらの機器を本発明の認知状態分析装置1として使用することができる。
【0088】
とくに、スマートフォン、タブレット型端末を使用すれば、介護者が通常の介護を行っている状態で情報を入力でき、その情報に基づく分析結果を専門医が遠隔地で判断することも可能となる。従って、被験者の日常の状態を反映した分析結果を得ることができるので、医師が適切な診断を行いやすくなる。また、介護者も適宜分析結果を確認できるので、遠方や単身でも安心して介護を実施できる。
【0089】
上記のように、本発明の認知状態分析装置1における質問表示手段20や分析手段40、分析結果表示手段50は、それぞれ同様の機能を発揮するソフトウェアを含む概念である。そして、各手段の機能を発揮するソフトウェアをインストールした機器は、本発明の認知状態分析装置1に相当する機器となるのである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の認知状態分析装置は、知的機能の正常な老人から高度の認知症患者までの幅広い対象について精神状態を分析する装置として適している。
【符号の説明】
【0091】
1 認知状態分析装置
2 表示手段
10 記憶手段
20 質問表示手段
21 質問データ作成部
22 質問表示部
30 入力手段
31 入力部
32 書き込み部
40 分析手段
50 分析結果表示手段
51 分析データ作成部
52 結果表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6