【文献】
Lijuan Shen et al.,Highly dispersed palladium nanoparticles anchored on UiO-66(NH2) metal-organic framework as a reusable and dual functional visible-light-driven photocatalyst,Nanoscale,2013年10月 7日,Vol. 5, No. 19,pp. 9374-9382
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属微粒子が、前記マトリックスの空隙に露出した部位を備えており、マトリックス中で三次元的に分散した状態で存在している請求項1に記載の金属微粒子分散複合体。
前記固体骨格部における光触媒活性物質の重量分率が10〜90wt%の範囲内であり、アルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物の重量分率が10〜90wt%の範囲内である請求項1に記載の金属微粒子分散複合体。
前記金属微粒子が、平均粒子径が1nm〜100nmの範囲内にあり、かつ粒子径が1nm〜100nmの範囲内にある金属微粒子の割合が50%以上である請求項1に記載の金属微粒子分散複合体。
請求項1から8のいずれか1項に記載の金属微粒子分散複合体と、該金属微粒子分散複合体の表面に接触又は隣接して配置された多孔質の光反射部材と、を備えた複合基板。
請求項12又は13に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサーにおける前記金属微粒子分散複合体を大気中又はガス中に暴露して使用する局在型表面プラズモン共鳴センサーの使用方法。
請求項12又は13に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサーにおける前記金属微粒子分散複合体を液体中に暴露して使用する局在型表面プラズモン共鳴センサーの使用方法。
請求項12又は13に記載の局在型表面プラズモン共鳴センサーを用い、局在型表面プラズモン共鳴によるスペクトルの変化、スペクトル強度の変化又は光強度の変化をもとに無機物質又は有機物質を検出する検知方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[ナノコンポジット]
金属微粒子分散複合体(以下、「ナノコンポジット」ともいう。)は、固体骨格部及び該固体骨格部が形成する空隙を有するマトリックスと、該固体骨格部に固定された金属微粒子と、を有するとともに、固体骨格部が光触媒活性物質を含有し、かつ、三次元的な網目構造を形成しているものであれば限定しない。
好ましい形態のナノコンポジットは、局在型表面プラズモン共鳴を生じさせる金属微粒子分散複合体により構成される。マトリックス内に金属微粒子が分散した金属微粒子分散複合体を、金属微粒子が持つ局在型表面プラズモン共鳴現象を利用した光学式センサー等の用途に適用する場合には、金属微粒子をマトリックスに固定化し安定させる必要がある。また、少なくとも、その吸収スペクトルの強度が大きいことが重要であり、加えて、一般に吸収スペクトルがシャープである程、高感度な検出が可能となる。強度が大きくシャープな吸収スペクトルを得るには、例えば、
1)金属微粒子の大きさが所定の範囲内に制御されていること、
2)金属微粒子の形状が均一であること、
3)金属微粒子が隣り合う金属微粒子とある一定以上の粒子間隔を保った状態でお互いが離れていること、
4)金属微粒子分散複合体に対する金属微粒子の体積充填割合がある一定の範囲で制御されていること、
5)金属微粒子がマトリックスの表層部から存在するとともに、その厚さ方向にも所定の粒子間距離を保ちながら偏りなく分布していること、
などの構造的特性を金属微粒子分散複合体が備えていることが好ましい。
【0031】
また、金属微粒子分散複合体を、金属微粒子の外部環境の変化によって生じる局在型表面プラズモン共鳴の波長変化を高感度に感知するセンサー、つまり、局在型表面プラズモン共鳴センサー用途への適用を図るには、金属微粒子分散複合体は上記特性に加えて、更に、
6)金属微粒子が外部環境に露出した状態であること、
などの構造的特性を備えることが好ましい。
【0032】
そこで、本実施の好ましい形態のナノコンポジットの構成について、
図1〜4を参照しながら詳細に説明する。
図1は、ナノコンポジット10におけるマトリックス1の構造を模式的に示している。
図2は、ナノコンポジット10の厚み方向における断面の金属微粒子3の分散状態を模式的に示しており、
図3は、ナノコンポジット10の表面に平行な面方向における断面の金属微粒子3の分散状態を模式的に示しており、
図4は、金属微粒子3を拡大して説明する図面である。なお、
図4では、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径をD
L、小さい方の金属微粒子3の粒子径をD
Sと表しているが、両者を区別しない場合は単に粒子径Dと表記する。
【0033】
ナノコンポジット10は、固体骨格部1a及び該固体骨格部1aが形成する空隙1bを有するマトリックス1と、該マトリックス1の固体骨格部1aに固定された金属微粒子3とを備えており、該固体骨格部1aが、例えばアルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物などの金属酸化物・水酸化物、及び光触媒活性物質を含有し、かつ、三次元的な網目構造を形成している。
【0034】
また、ナノコンポジット10は、以下のa及びbの少なくとも1つ以上の構成を備えていることが好ましい。
a)金属微粒子3の平均粒子径は1nm〜100nmの範囲内にあり、粒子径Dが1nm〜100nmの範囲内にある金属微粒子の割合が50%以上である;
b)金属微粒子3は、マトリックス1の空隙1bに露出した部位を備えており、マトリックス1中で三次元的に分散した状態で存在している。
【0035】
(マトリックス層)
マトリックス1は、
図1に示したように、固体骨格部1a及び該固体骨格部1aが形成する空隙1bを有している。固体骨格部1aは、アルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物、及び光触媒活性物質を含有し、かつ、三次元的な網目構造を形成している。
【0036】
前記アルミナ水和物は、例えば塩化アルミニウムなどの金属塩化物の気相中における火炎加水分解法など公知の方法で製造することができる。また、アルミナ水和物は、アルミニウムオキシ水酸化物の加熱処理によっても製造することができる。これらは、水に不溶で、耐有機溶媒性、耐酸性及び耐アルカリ性があるので、マトリックス1の固体骨格部1aを構成する成分として有利に利用できる。また、これらの金属酸化物は、水溶液中において高い分散性を持つという特徴があるので、金属酸化物粉末のスラリーを簡便に調製することができる。
【0037】
アルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物と呼ばれているものには、ベーマイト(擬ベーマイトを含む)、ギブサイト、ダイアスポア、アルミナ等の各種のものが知られているが、この中でも特にベーマイト、アルミナが最も好ましい。ここで、ベーマイト(Boehmite)とは、アルミニウムオキシ水酸化物(AlOOH)又はアルミナ水和物(Al
2O
3・H
2O)の結晶性の高い微粒子のことを意味し、擬ベーマイトとは、ベーマイトの結晶性の低い微粒子のことを意味するが、いずれも区別なく広義の意味でベーマイトとして説明する。このベーマイト粉末は、アルミニウム塩の中和法やアルミニウムアルコキシドの加水分解法等による公知の方法で製造することができ、水に不溶で、耐有機溶媒性、耐酸性及び耐アルカリ性があるので、マトリックス1の固体骨格部1aを構成する成分として有利に利用でき、また、酸性の水溶液中において高い分散性を持つという特徴があるので、ベーマイト粉末のスラリーを簡便に調製することができる。
【0038】
前記光触媒活性物質(以下、「光触媒」ともいう。)は、光を吸収することにより触媒活性を発現する物質の総称であり、例えば、酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛などの金属酸化物や、硫化カドミウムなどの金属硫化物などが挙げられる。これらの中でも、特に光触媒活性の高い酸化チタンが好ましい。酸化チタンの結晶構造は、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型のいずれでも良いが、特に好ましくは、光触媒活性の高いアナターゼ型である。また、上記複数の光触媒の混合物でも良い。
【0039】
このようなマトリックス1の構造上の特徴は、マトリックス1が気体や液体に対して透過性を有し、金属微粒子3の利用効率を高める要因となっている。金属微粒子3の高い比表面積や高い活性を効率的に利用するという観点から、ナノコンポジット10の空隙率は、15〜95%の範囲内にあることが好ましい。ここで、ナノコンポジット10の空隙率は、ナノコンポジット10の面積、厚み及び重量より算出した見掛け密度(嵩密度)と、マトリックス1の固体骨格部1aを形成する材料及び金属微粒子3の固有の密度および組成比率より算出した空隙を含まない密度(真密度)を用いて、後述する式(A)にしたがって算出することができる。空隙率が15%未満では、外部環境に対する開放性が低下するので、金属微粒子3の利用効率が低下する場合がある。また、ナノコンポジット10を製造する際に、例えば予め形成したマトリックス1に金属微粒子3の原料となる金属イオンを含有する溶液を含浸させる場合には、マトリックス1全体に含浸させることが困難となり、均一な分散状態を得ることが難しい。一方、空隙率が95%を超えると、固体骨格部1aや金属微粒子3の存在比率が低下するので、機械的強度が低下したり、金属微粒子3による作用(例えば、局在型表面プラズモン共鳴効果)が低下したりする場合がある。
【0040】
また、ナノコンポジット10における金属微粒子3の空隙1bに対する体積割合は、上記と同様に金属微粒子3の高い比表面積や高い活性を効率的に利用するという観点から、ナノコンポジット10の空隙1bの全容量に対し、好ましくは0.08〜50%の範囲内がよい。
【0041】
マトリックス1の厚み(つまり、ナノコンポジット10の厚み)Tは、金属微粒子3の粒子径Dによっても異なるが、局在型表面プラズモン共鳴を利用する用途においては、例えば、20nm〜20μmの範囲内とすることが好ましく、30nm〜10μmの範囲内とすることがより好ましい。
【0042】
ナノコンポジット10が、局在型表面プラズモン共鳴を利用した用途に適用される場合、光反射系又は光透過系のいずれの局在型表面プラズモン共鳴を利用することが可能であるが、光透過系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する場合には、マトリックス1は金属微粒子3の局在型表面プラズモン共鳴を生じさせるために光透過性を有することが好ましい。特に、250nm以上の波長の光を透過する材質であることが好ましい。一方、光反射系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する場合には、250nm以上の波長の光を透過する材質であることが好ましい。
【0043】
固体骨格部1aは、アルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物、及び光触媒活性物質を含有するが、更に、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムなどや、複数種類の金属元素を含む無機酸化物を含有してもよく、これらは単独又は複数を混合することもできる。
【0044】
また、固体骨格部1aにおける光触媒活性物質の重量分率が10〜90wt%であることが好ましい。光触媒活性物質の重量分率が10wt%未満であると、クリーニング機能が低くなり、耐久性が低下する傾向にある。光触媒活性物質の重量分率が90wt%を超えると、局在型表面プラズモン共鳴に有効な金属微粒子の担持量が減り、センサーとしての感度が減少する傾向にある。光触媒活性物質の重量分率は、より好ましくは、10〜80wt%である。
【0045】
また、固体骨格部1aにおけるアルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物の重量分率が10〜90wt%であることが好ましい。10wt%未満であると、クリーニング機能が低くなり、耐久性が低下する傾向にある。90wt%を超えると、局在型表面プラズモン共鳴に有効な金属微粒子の担持量が減り、センサーとしての感度が減少する傾向にある。より好ましくは、20〜90wt%である。
【0046】
(金属微粒子)
本実施の形態で用いるナノコンポジット10において、金属微粒子3の種類及びその分散方法は特に限定せず、公知の種類及び分散方法を適用できるが、例えば、局在型表面プラズモン共鳴を利用した用途に適用される場合は、金属微粒子3は、スパッタ、真空蒸着、金微粒子分散液の塗布、含侵もしくはスプレー、またはその前駆体となる金属イオンを加熱還元することによって得られるものが好ましく、金属微粒子3の粒子径Dや粒子間距離Lの制御しやすさの観点から、その前駆体となる金属イオンを加熱還元又は湿式還元することによって得られるものがより好ましい。このようにして得られる金属微粒子3として、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等の金属種を用いることができる。また、これらの金属種の合金(例えば金−銀や白金−コバルト合金など)を用いることもできる。これらの中でも、特に局在型表面プラズモン共鳴を奏する金属種として好適に利用できるものは、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、錫(Sn)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)が挙げられる。250nm以上における紫外及び可視領域の波長の光と相互作用して局在型表面プラズモン共鳴を生じる金属種として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)が好ましく挙げられ、より好ましくは金(Au)及び銀(Ag)であり、特に金(Au)は表面酸化されにくく保存安定性がよいので、最も望ましい。
【0047】
金属微粒子3の形状は、例えば球体、長球体、立方体、切頭四面体、双角錐、正八面体、正十面体、正二十面体等の種々の形状であってよいが、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープになる球形が最も好ましい。ここで、金属微粒子3の形状は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することにより確認できる。また、金属微粒子3の平均粒子径は、任意100粒の金属微粒子3を測定したときの面積平均径とする。また、球体の金属微粒子3とは、形状が球体及び球体に近い金属微粒子で、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。さらに、それぞれの金属微粒子3における長径と短径との関係が、好ましくは長径<短径×1.35の範囲内、より好ましくは長径≦短径×1.25の範囲内がよい。なお、金属微粒子3が球体でない場合(例えば正八面体など)は、その金属微粒子3におけるエッジ長さが最大となる長さを金属微粒子3の長径とし、エッジ長さが最小となる長さを金属微粒子3の短径として、さらに前記長径をその金属微粒子3の粒子径Dと見做すこととする。
【0048】
金属微粒子3の平均粒子径は、特に限定しないが、平均粒子径が1nm〜200nmの範囲内にあり、かつ粒子径が1nm〜200nmの範囲内にある金属微粒子の割合が50%以上であることが好ましい。特に、局在型表面プラズモン共鳴を利用した用途に適用される場合は、上記a)に示したように、金属微粒子3の平均粒子径は1nm〜100nmの範囲内にあり、かつ粒子径Dが1nm〜100nmの範囲内にある金属微粒子3の割合が50%以上であることが好ましい。より好ましくは、金属微粒子3の平均粒子径は3nm〜100nmの範囲内にあり、かつ粒子径Dが1nm〜100nmの範囲内にある金属微粒子3の割合が50%以上である。ここで平均粒子径とは、金属微粒子3の直径の平均値(メディアン径)を意味する。粒子径Dが1nm〜100nmの範囲内にある金属微粒子3の割合(全金属微粒子に対する個数割合)が50%未満になると、局在型表面プラズモン共鳴の高い効果が得られにくい。また、金属微粒子3の粒子径Dが100nmを超えると、充分な局在型表面プラズモン共鳴効果が得られにくいので、平均粒子径を100nm以下とする。また、例えば金属微粒子3の最大粒子径が50〜75nm程度以下であるナノコンポジット10は、その粒子径分布が比較的小さくなるため、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープなものが得られやすい。従って、金属微粒子3の最大粒子径が50〜75nm程度以下であるナノコンポジット10は、金属微粒子3の粒子径分布は特に制限されず、好ましい態様となる。一方、金属微粒子3が粒子径75nmを超えるものを含むナノコンポジット10でも、金属微粒子3の粒子径分布を小さくすることによって、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープなピークとなる。従って、この場合も金属微粒子3の粒子径分布を小さく制御することが好ましいが、金属微粒子3の粒子径分布は特に制限されない。また、金属微粒子3が粒子径D以上の粒子間距離Lで分散している特徴から、例えば金属微粒子3を磁性金属微粒子とすることで、優れた特性を有する磁性体として利用が可能である。
【0049】
金属微粒子3が球形でない場合は、見掛け上の直径が大きくなる程、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがブロードとなる傾向になるので、金属微粒子3が球形でない場合の粒子径Dは、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは10nm以下がよい。また、金属微粒子3が球形でない場合には、マトリックス1に存在する個々の金属微粒子3の形状は他と金属微粒子3の形状と比較して、好ましくは全体の80%以上、より好ましくは90%以上がほぼ同じ形状ものがよく、相対的にほぼ同じ形状のものが特に好ましい。
【0050】
ナノコンポジット10には、粒子径Dが1nm未満の金属微粒子3も存在してもよく、このようなナノコンポジット10は局在型表面プラズモン共鳴に影響を与えにくいので特に問題はない。なお、粒子径Dが1nm未満の金属微粒子3は、ナノコンポジット10における金属微粒子3の全量100重量部に対し、例えば金属微粒子3が金微粒子である場合、好ましくは10重量部以下、より好ましくは1重量部以下とすることがよい。ここで、粒子径Dが1nm未満の金属微粒子3は、例えばXPS(X線光電子分光)分析装置やEDX(エネルギー分散型X線)分析装置により検出することができる。
【0051】
また、より吸収スペクトル強度が高い局在型表面プラズモン共鳴効果を得るためには、金属微粒子3の平均粒子径は、好ましくは1nm以上とし、より好ましくは3nm以上とし、より好ましくは10nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上100nm以下がよい。金属微粒子3の平均粒子径が1nm未満である場合には、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度が小さくなる傾向となる。
【0052】
(金属微粒子の存在状態)
ナノコンポジット10において、金属微粒子3の存在状態に制限はない。例えば、マトリックス1の層の表面上や層内に2次元的に分散して存在していても良いし、3次元的に分散して存在していても良い。好ましくは、マトリックス1の内部に三次元的に分散している状態である。より好ましくは、マトリックス1の中で、金属微粒子3は、各々の金属微粒子3同士が接することなく、隣り合う金属微粒子3における粒子径が大きい方の粒子径以上の間隔で存在している。つまり、隣り合う金属微粒子3の間隔(粒子間距離)Lが、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径D
L以上、すなわち、L≧D
Lである。
図4において、金属微粒子3の粒子間距離Lは、大きい方の金属微粒子3の粒子径D
L以上になっている。つまり、ナノコンポジット10において三次元的な網目構造のマトリックス1の厚み方向における断面及び該厚み方向に直交する方向における断面(マトリックス1の表面に平行な断面)を観察すると、
図2及び
図3に示したように、多数の金属微粒子3が上記粒子径D
L以上の粒子間距離Lをあけて縦方向及び横方向に点在した状態になる。このような状態では、金属微粒子3が有する局在型表面プラズモン共鳴の特性を効率よく発現することができる。
本実施の形態で用いるナノコンポジット10を、上記のような好ましい金属微粒子3の存在状態にするためには、金属微粒子3の前駆体となる金属イオンを加熱還元することが好ましい。この方法により、析出した金属微粒子3の熱拡散が容易となり、隣り合う金属微粒子3における大きい方の粒子径D
L以上の粒子間距離Lでマトリックス1の内部に分散した状態となる。
粒子間距離Lが、大きい方の粒子径D
Lよりも小さい場合には、局在型表面プラズモン共鳴の際に粒子どうしの干渉が生じて、例えば隣接する2つの粒子が一つの大きな粒子のように協働して局在型表面プラズモン共鳴が生じ、シャープな吸収スペクトルが得られなくなる場合がある。一方、粒子間距離Lは大きくても特に問題はないが、熱拡散を利用して分散状態になる金属微粒子3における各々の粒子間距離Lは、金属微粒子3の粒子径Dと後述する金属微粒子3の体積分率と密接な関係があるので、粒子間距離Lの上限は、金属微粒子3の体積分率の下限値によって制御することが好ましい。粒子間距離Lが大きい場合、言い換えるとナノコンポジット10に対する金属微粒子3の体積分率が低い場合は、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度が小さくなる。このような場合は、ナノコンポジット10の厚みを大きくすることによって、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度を大きくすることができる。
【0053】
さらに、金属微粒子3の90%以上が、上記粒子径D
L以上の粒子間距離Lをあけて点在する単一粒子であることが、さらに好ましい。ここで、「単一粒子」とは、マトリックス1中の各金属微粒子3が独立して存在していることを意味し、複数の粒子が凝集したもの(凝集粒子)は含まない。すなわち、単一粒子とは、複数の金属微粒子が分子間力によって凝集した凝集粒子は含まない。また、「凝集粒子」とは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した場合に、個体の金属微粒子の複数個が寄り集まって、一つの凝集体となっていることが明らかに確認されるものをいう。なお、ナノコンポジット10における金属微粒子3は、その化学構造上、加熱還元して生成する金属原子が凝集によって形成される金属微粒子とも解されるが、このような金属微粒子は金属原子の金属結合によって形成されるものと考えられるので、複数の粒子が凝集した凝集粒子とは区別し、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した場合に、一つの独立した金属微粒子3として確認されるものである。
【0054】
上記のような単一粒子が90%以上存在することにより、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープ且つ安定になり、高い検出精度が得られる。このことは、換言すると、凝集粒子又は上記粒子径D
L以下の粒子間距離Lで分散する粒子が10%未満であることを意味する。このような粒子が10%以上存在する場合、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがブロードになったり、強度が弱くなったり、不安定になったりして、センサー等のデバイスに利用する場合には、高い検出精度が得られにくくなる。また、凝集粒子又は上記粒子径D
L以下の粒子間距離Lで分散する粒子が10%を超えてしまうと、粒子径Dの制御も極めて困難になる。
【0055】
また、マトリックス1中の金属微粒子3の重量分率は、ナノコンポジット10に対して、5〜85wt%とすることが好ましい。ここで、「重量分率」とは、ナノコンポジット10(空隙1bを含む)の全体の重量に占める金属微粒子3の合計の重量を百分率で示した値である。金属微粒子3の重量分率が、5wt%未満であると、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度がかなり小さくなり、仮にナノコンポジット10の厚みを大きくしても効果は得られにくい。一方、重量分率が85wt%を超えると、隣り合う金属微粒子3の間隔(粒子間距離L)が、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径D
Lより狭くなるため、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルのシャープなピークが得られにくくなる。
【0056】
また、マトリックス1中の金属微粒子3の体積分率は、ナノコンポジット10に対して、0.05〜30%とすることが好ましい。ここで、「体積分率」とは、ナノコンポジット10(空隙1bを含む)の一定体積あたりに占める金属微粒子3の合計の体積を百分率で示した値である。金属微粒子3の体積分率が、0.05%未満であると、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルの強度がかなり小さくなり、仮にナノコンポジット10の厚みを大きくしても効果は得られにくい。一方、体積分率が30%を超えると、隣り合う金属微粒子3の間隔(粒子間距離L)が、隣り合う金属微粒子3における大きい方の金属微粒子3の粒子径D
Lより狭くなるため、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルのシャープなピークが得られにくくなる。
【0057】
好ましくは、本実施の形態で用いるナノコンポジット10において、上記b)に示したように、金属微粒子3は、マトリックス1の空隙1bに露出した部位を備えており、マトリックス1中で三次元的に分散した状態で存在している。すなわち、ナノコンポジット10では、金属微粒子3が、比表面積が高い状態で三次元的に効率良く配置されているので、金属微粒子3の利用効率を高めることができる。また、金属微粒子3は、外部環境に連通する空隙1bに露出した部位を備えているため、金属微粒子3の周辺媒質の誘電率ε
m(λ)(=(n
m(λ))
2)(n
mはその屈折率)の変化にも敏感にその特性を発揮することができる。すなわち、金属微粒子3は、金属微粒子3の周辺媒質の誘電率(屈折率)の変化に応じて共鳴する波長が変化する、という特性を充分に利用することが可能となる。このようなナノコンポジット10の構造上の特徴は、ナノコンポジット10が局在型表面プラズモン共鳴を利用した結露センサー、湿度センサー、結露センサー、バイオセンサー、ケミカルセンサー、ガスセンサー、屈折率センサー、味覚センサー、匂いセンサー、アルコールセンサー等への適用を最適なものとしている。
【0058】
上記のような好ましい金属微粒子3の存在状態において、ナノコンポジット10は、例えば透過型の電子顕微鏡等でマトリックス1の断面を観察した場合に、透過した電子線によってマトリックス1中に存在する金属微粒子3同士が重なって見えることがある。しかし、実際には金属微粒子3は一定の距離以上を保った状態となっており、完全に独立した単一の粒子として分散している。また、金属微粒子3は、三次元的な網目状の固体骨格部1aによって物理的又は化学的に固定化されているため、経時変化に伴う金属微粒子3の凝集や脱落が防止できるので、長期保存性にも優れており、ナノコンポジット10の繰り返しの使用においても、金属微粒子3の凝集や脱落が抑制される。
【0059】
以上の構成を有するナノコンポジット10は、金属微粒子3が三次元的な網目構造を有するマトリックス1中で一定以上の粒子間距離Lを保った状態で、三次元的に偏りなく分散した形態を有する。そのため、局在型表面プラズモン共鳴による吸収スペクトルがシャープであるとともに、非常に安定しており、再現性と信頼性に優れている。さらに、金属微粒子3の表面の多くは、マトリックス1中において外部空間に連通する空隙1bに露出しているため、金属微粒子3が有する、金属微粒子3の周辺媒質の誘電率(屈折率)の変化に応じて共鳴する波長が変化するという特性を充分に発現することが可能である。したがって、ナノコンポジット10は、局在型表面プラズモン共鳴センサー、具体的には、光学式システムの湿度センサー、結露センサー、バイオセンサー、ケミカルセンサー、ガスセンサー、屈折率センサー、味覚センサー、匂いセンサー、アルコールセンサー等への利用に適しており、簡易な構成で高精度の検出が可能になる。
【0060】
<ナノコンポジットの製造方法>
ナノコンポジット10の製造方法は、大別すると、マトリックス1を形成する過程で金属微粒子3を分散する方法(I)と、予め形成したマトリックス1に金属微粒子3を分散する方法(II)とがある。ナノコンポジット10の製造工程数を少なくできるとともに、高分散性を保持できるという観点から、(I)の方法が好ましい。
【0061】
(I)の方法の一例は、以下の工程Ia)〜Id)を備える。
Ia)固体骨格部1aを形成するためのアルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物、及び光触媒活性物質を含有するスラリーを調製する工程、
Ib)前記スラリーと、該スラリーの固形分100重量部に対し、金属元素として(本明細書において、金属化合物中に含まれる金属元素を金属の重量に換算する意味で用いる)0.5〜480重量部の範囲内となるように、金属微粒子3の原料となる金属化合物を混合して塗布液を調製する工程、
Ic)前記塗布液を、基材上に塗布し、乾燥して塗布膜を形成する工程、並びに
Id)前記塗布膜を、加熱処理することにより、前記塗布膜から三次元的な網目構造を有する固体骨格部1a及び該固体骨格部1aが形成する空隙1bを備えたマトリックス1を形成するとともに、前記金属化合物の金属イオンを加熱還元して金属微粒子3となる粒子状金属を析出させる工程。
【0062】
(II)の方法の一例は、以下の工程IIa)〜IId)を備える。
IIa)固体骨格部1aを形成するためのアルミナ、アルミニウムオキシ水酸化物又はアルミナ水和物、及び光触媒活性物質を含有するスラリーを調製する工程、
IIb)前記スラリーを、基材上に塗布し、乾燥した後、加熱処理することにより、三次元的な網目構造を有する固体骨格部1a及び該固体骨格部1aが形成する空隙1bを備えたマトリックス1を形成する工程、
IIc)前記マトリックス1に、前記スラリーの固形分100重量部に対し、金属元素として0.5〜480重量部の範囲内となるように、金属微粒子3の原料となる金属イオンを含有する溶液を含浸させる工程、並びに
IId)前記工程IIcの後、加熱処理することにより、前記金属イオンを還元して金属微粒子3となる粒子状金属を析出させる工程。
【0063】
以下、(I)及び(II)の方法における各工程について具体的に説明するが、共通する部分は同時に説明する。ここでは、マトリックス1における固体骨格部1aが、アルミニウムオキシ水酸化物(擬ベーマイトを含むベーマイト)、アルミナ及び酸化チタンにより構成される場合について代表的に例示して説明を行う。
【0064】
マトリックス1を構成する固体骨格部1aは、アルミニウムオキシ水酸化物(又はアルミナ水和物)を含有する市販のベーマイト粉末およびアルミナ粉末を好適に使用可能であり、例えば、大明化学工業株式会社製のベーマイト(商品名)、CONDEA社製のDisperal HP15(商品名)、ユニオン昭和(株)社製のVERSAL(TM)ALUMINA(商品名)、河合石灰工業株式会社製のセラシュール(商品名)、巴工業株式会社製のCAM9010(商品名)、日産化学株式会社製のアルミナゾル520(商品名)、川研ファインケミカル株式会社製のアルミナゾル−10A(商品名)、スイーコインターナショナル株式会社製のSECO−045U、SECO−045D、SECO−080、SECO−100(商品名)、日本アエロジル株式会社製のAEROXIDE Alu C(商品名)等を使用することが可能である。さらに、アルミナ及びベーマイトは市販の分散液を使用することも可能であり、例えば、ビッグケミージャパン株式会社製のNANOBYK−3600、NANOBYK−3601,NANOBYK−3602、NANOBYK−3630(商品名)、NANOBYK−3630(商品名)等を使用することが可能である。
【0065】
また、酸化チタンは、市販の酸化チタン粉末や酸化チタンゾルを使用可能であり、例えば、多木化学社製、タイノックスシリーズ(商品名)、テイカ株式会社製のAMTシリーズ、TITANIX JA−1、TKPシリーズ、TKSシリーズ、TKDシリーズ、TKCシリーズ(以上、全て商品名)、石原産業株式会社製のSTシリーズ(以上、全て商品名)、東亞合成株式会社製のハイチタン(商品名)、日本アエロジル株式会社製のAEROXIDE TiO
2 P25(商品名)等を使用することが可能である。
【0066】
本発明の一実施の形態で用いるベーマイト粉末は、例えばキュービック状、針状、菱形板状とそれらの中間状、及びリンクルドシート等の粒子形状を有する平均粒子径10nm〜2μmの範囲内のものが好ましく利用でき、これらの微粒子の端面もしくは表面が結合することによって固体骨格部1aを形成し、該固体骨格部1aが三次元的な網目構造を形成することができる。なお、ここでいうベーマイト粉末の平均粒経とは、レーザー回折法により算出した値とする。
【0067】
ベーマイト粉末を含有するスラリーは、ベーマイト粉末及び酸化チタンゾルと、水又はアルコール等の極性溶媒を混合した後、この混合溶液を酸性に調整したものを使用する。(I)の方法では、このスラリーに金属微粒子3の原料となる金属化合物を添加し、均一に混合することによって塗布液を調製する。
【0068】
スラリーの調製は、ベーマイト粉末及び酸化チタンゾル(以下、合わせて「マトリックス前駆体」という。)を、水又は極性有機溶媒等の溶媒に分散することによって行うが、使用するマトリックス前駆体は、溶媒100重量部に対して、好ましくは、5〜40重量部の範囲内、より好ましくは10〜25重量部の範囲内になるように調製することがよい。使用する溶媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール、エトキシエタノール、γ−ブチロラクトン、グリセリン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することも可能である。混合した溶液は、マトリックス前駆体の分散性を向上させるために、分散処理を行うことが望ましい。分散処理は、例えば室温で5分以上攪拌する方法や、超音波を用いる方法等により行うことができる。その際、公知の分散剤を加えても良い。具体的には、ポリビニルアルコール、アルキルアセタール化ポリビニルアルコール、シランカップリング剤、等が挙げられる。また、市販されている分散剤として、ビッグケミージャパン株式会社製のDISPERBYK−102、DISPERBYK−180、DISPERBYK−2015(商品名)等を使用することができる。
【0069】
マトリックス前駆体の均一な分散ができるように、必要に応じ、混合液のpHを5以下に調整する。この場合、pH調整剤としては、例えば、蟻酸、酢酸、グリコール酸、シュウ酸、プロピオン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、グルタル酸、グルコン酸、乳酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、ピメリン酸、スベリン酸等の有機酸や、塩酸、硝酸、燐酸等の無機酸、及びこれらの塩などを適宜添加してよい。なお、pH調整剤は、単独又は複数を混合して使用してもよい。pH調整剤を添加することにより、マトリックス前駆体の粒子径分布が、pH調整剤を添加しない場合と比較して変化することがあるが、特に問題はない。
【0070】
(I)の方法では、上記のようにして調製したスラリーに、さらに金属微粒子3の原料となる金属化合物を加えて塗布液とする。この場合、加える金属化合物の量は、スラリーの固形分100重量部に対して、金属元素として0.5〜480重量部の範囲内となるようにする。なお、調製したスラリーに金属化合物を加えると、塗布液の粘度が高くなることがあるが、その場合は、上記の溶媒を適宜添加することによって最適な粘度に調整することが望ましい。
【0071】
上記の(I)の方法で用意される塗布液中に含有される金属化合物、又は上記の(II)の方法で用意される金属イオンを含有する溶液中に含有される金属化合物としては、金属微粒子3を構成する上述の金属種を含む化合物を特に制限無く用いることができる。金属化合物としては、前記金属の塩や有機カルボニル錯体などを用いることができる。金属の塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などを挙げることができる。また、上記金属種と有機カルボニル錯体を形成し得る有機カルボニル化合物としては、例えばアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン類、アセト酢酸エチル等のβ−ケトカルボン酸エステルなどを挙げることができる。
【0072】
金属化合物の好ましい具体例としては、H[AuCl
4]、Na[AuCl
4]、AuI、AuCl、AuCl
3、AuBr
3、NH
4[AuCl
4]・n2H
2O、Ag(CH
3COO)、AgCl、AgClO
4、Ag
2CO
3、AgI、Ag
2SO
4、AgNO
3、Ni(CH
3COO)
2、Cu(CH
3COO)
2、CuCl
2、CuSO
4、CuBr
2、Cu(NH
4)
2Cl
4、CuI、Cu(NO
3)
2、Cu(CH
3COCH
2COCH
3)
2、CoCl
2、CoCO
3、CoSO
4、Co(NO
3)
2、NiSO
4、NiCO
3、NiCl
2、NiBr
2、Ni(NO
3)
2、NiC
2O
4、Ni(H
2PO
2)
2、Ni(CH
3COCH
2COCH
3)
2、Pd(CH
3COO)
2、PdSO
4、PdCO
3、PdCl
2、PdBr
2、PdI
2、Pd(NO
3)
2、Pd(CH
3COCH
2COCH
3)
2、H
2PdCl
4、PtCl
2、PtCl
4、H
2PtCl
6、Pt(C
5H
7O
2)
2、PtBr
2、PtCl
2、PtCl4、Pt(NH
3)
2Cl
2、PtI
2、SnCl
2、IrCl
3、RhCl
3などを挙げることができる。
【0073】
調製したスラリーや塗布液には、マトリックス1の強度、透明性、光沢性等を向上する目的で、必要に応じてバインダー成分を配合することも可能である。
バインダー成分として好適なものは、例えばポリビニルアルコールまたはその変性体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、水溶性セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンまたはその変性体、ゼラチンまたはその変性体、デンプンまたはその変性体、カゼインまたはその変性体、無水マレイン酸またはその共重合体、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸およびその共重合体、ポリアミド酸(ポリイミドの前駆体)、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシラン化合物、ポリ塩化アルミニウム、アルミニウムトリ−sec−ブトキシドなどのアルミニウム化合物、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムエトキシドなどのチタン化合物などを挙げることができる。これらは、特にアルミニウムオキシ水酸化物の分散性に優れ、好適に使用できる。また、上記のシラン化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物は、形成したマトリックスの個体骨格部の強度を向上させる効果もある。
これらのバインダー成分は単独又は複数混合して用いることができる。なお、これらのバインダー成分は、金属化合物の有無に関わらず、適宜配合することができ、配合量は、スラリーの固形分100重量部に対して、好ましくは3〜100重量部の範囲内、より好ましくは4〜20重量部の範囲内がよい。
【0074】
上記スラリーや塗布液には、バインダーの他に、必要に応じて、例えば増粘剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、耐水化剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを本発明の効果を損なわない範囲内で添加することも可能である。
【0075】
金属化合物を含有する塗布液又は金属化合物を含有しないスラリーを塗布する方法は、特に制限されるものではなく、例えばリップコーター、ナイフコーター、コンマコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター、スピンコーター、スプレー等によって塗布することができる。
【0076】
塗布に用いる基材としては、ナノコンポジット10に基材を付けた状態で光透過系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する場合は、基材は、光透過性であることが好ましく、例えばガラス基板、透明な合成樹脂製基板等を用いることができる。透明な合成樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、PET樹脂、アクリル樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、シロキサン樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。一方、ナノコンポジット10を基材から剥離してセンサー等に使用する場合は、例えば、特に制限はないが、上記の透明な合成樹脂や、ポリエステル、PTFE、植物性繊維、動物性繊維等の有機材料基板、ガラス、アルミナ、金属等の無機基板が挙げられる。また、ナノコンポジット10に基材を付けた状態で光反射系の局在型表面プラズモン共鳴を利用する場合は、上記の材質であって、かつ多孔質である光反射部材を用いても良い。このような光反射部材の例としては、例えば、不織布、織物、メッシュ、メンブランフィルター、粒子の焼結体、発泡シートなどの他、例えば、非孔質基板にドリル、パンチング、プラズマ等の物理エッチング、化学エッチング等の方法で貫通孔を形成したものなどを挙げることができる。
【0077】
金属化合物を含有する塗布液又は金属化合物を含有しないスラリーを塗布した後は、乾燥させて塗布膜を形成する。乾燥させる方法としては、特に制限されず、例えば、60〜150℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間をかけて行うことがよい。
【0078】
次に、塗布膜を好ましくは150℃以上、より好ましくは170℃以上で加熱処理することにより、マトリックス1を形成する。加熱処理温度が150℃未満では、マトリックス1の三次元的な網目構造の形成が十分に起こらない場合がある。加熱処理温度の上限は、金属微粒子3の分解、溶融などによる金属微粒子3の粒子径及び粒子間距離の制御に影響を与えない範囲で行うことが好ましく、例えば600℃以下とすることができる。
【0079】
また、金属イオンの還元及び析出した金属微粒子3の分散は、好ましくは150〜600℃の範囲内、より好ましくは170〜550℃の範囲内、更に好ましくは200〜400℃での加熱処理によって行うことができる。ここで、加熱処理温度が150℃未満では、金属イオンの還元が十分に行われず、金属微粒子3の平均粒子径を前述の下限(1nm)以上にすることが困難となる場合がある。また、加熱処理温度が150℃未満では、還元によって析出した金属微粒子3のマトリックス1中での熱拡散が十分に起こらない場合がある。
【0080】
上記の(I)の方法では、マトリックス1の形成と、金属イオンの還元による金属微粒子3の形成及び分散を一つの加熱工程で同時に行うことができる。上記(II)の方法では、マトリックス1を形成した後、そこに金属イオンを含有する溶液を含浸させ、さらに加熱をすることによって、金属イオンの還元による金属微粒子3の形成及び分散を行う。
【0081】
上記の(II)の方法で用いる金属イオンを含有する溶液中には、金属元素として1〜20重量%の範囲内で金属イオンを含有することが好ましい。金属イオンの濃度を上記範囲内とすることで、スラリーの固形分100重量部に対して、金属元素として0.5〜480重量部の範囲内とすることができる。
【0082】
上記の(II)の方法における含浸方法は、形成したマトリックス1の少なくとも表面に金属イオンを含有する溶液が接触することができる方法であれば、特に限定されず、公知の方法を利用することができ、例えば、浸漬法、スプレー法、刷毛塗り又は印刷法等を用いることができる。含浸の温度は0〜100℃、好ましくは20〜40℃付近の常温でよい。また、含浸時間は、浸漬法を適用する場合、例えば5秒以上浸漬することが望ましい。
【0083】
上記の(II)の方法において、金属イオンの還元及び析出した金属微粒子3の分散は、好ましくは150〜600℃の範囲内、より好ましくは170〜550℃の範囲内での加熱処理によって行う。加熱処理温度が150℃未満では、金属イオンの還元が十分に行われず、金属微粒子3の平均粒子径を前述の下限(1nm)以上にすることが困難となる場合がある。また、加熱処理温度が150℃未満では、還元によって析出した金属微粒子3のマトリックス1中での熱拡散が十分に起こらない場合がある。
【0084】
ここで、加熱還元による金属微粒子3の形成について説明する。金属微粒子3の粒子径D及び粒子間距離Lは、還元工程における加熱温度及び加熱時間並びにマトリックス1に含まれる金属イオンの含有量等によって制御できる。本発明者らは、加熱還元における加熱温度及び加熱時間が一定であって、マトリックス1中に含有する金属イオンの絶対量が異なる場合には、析出する金属微粒子3の粒子径Dが異なるという知見を得ていた。また、加熱温度及び加熱時間の制御なしに加熱還元を行った場合には、粒子間距離Lが隣接する金属微粒子3の大きい方の粒子径D
Lより小さくなることがあるという知見も得ていた。
【0085】
また、上記知見を応用し、例えば還元工程における熱処理を複数の工程に分けて実施することもできる。例えば、第1の加熱温度で金属微粒子3を所定の粒子径Dまで成長させる粒子径制御工程と、第1の加熱温度と同じか、又は異なる第2の加熱温度で、金属微粒子3の粒子間距離Lが所定の範囲になるまで保持する粒子間距離制御工程を行うことができる。このようにして、第1及び第2の加熱温度と加熱時間を調節することにより、粒子径D及び粒子間距離Lをさらに精密に制御することができる。
【0086】
還元方法として加熱還元を採用する理由は、還元の処理条件(特に加熱温度と加熱時間)の制御によって比較的簡便に粒子径D及び粒子間距離Lを制御できることや、ラボスケールから生産スケールに至るまで特に制限なく簡便な設備で対応できること、また枚葉式のみならず連続式にも特段の工夫なくとも対応できることなど、工業的に有利な点が挙げられることにある。加熱還元は、例えば、Ar、N
2などの不活性ガス雰囲気中、1〜5KPaの真空中、又は大気中で行うことができ、水素などの還元性ガスを用いる気相還元も利用することが可能である。
【0087】
加熱還元では、マトリックス1中に存在する金属イオンを還元し、熱拡散によって個々の金属微粒子3を独立した状態で析出させることができる。このように形成された金属微粒子3は、一定以上の粒子間距離Lを保った状態でしかも形状が略均一であり、マトリックス1中で金属微粒子3が三次元的に偏りなく分散している。特に、本工程で還元した場合、金属微粒子3の形や粒子径Dが均質化され、マトリックス1中に金属微粒子3が略均一な粒子間距離Lで均等に析出、分散したナノコンポジット10を得ることができる。また、マトリックス1を構成する無機酸化物の構造単位を制御することや、金属イオンの絶対量及び金属微粒子3の体積分率を制御することで、金属微粒子3の粒子径Dとマトリックス1中での金属微粒子3の分布状態を制御することもできる。
【0088】
また、加熱還元の際に、金属イオンとともにポリビニルアルコールを共存させることによって、金属微粒子3の粒子径Dを小さく抑制でき、さらにより均一化できるとともに、塗布膜中の金属イオン量を多くしても、凝集粒子の生成を防ぐことができる。これは、金属イオンの加熱還元の際に、多数の−OH基を有するポリビニルアルコールが電子供与体となり、還元剤として機能して金属イオンの還元を促進する結果、ポリビニルアルコールが存在しない場合に比べ、より多くの金属核が形成され、それぞれが独自に成長して金属微粒子3を形成するためであると考えられる。また、ポリビニルアルコールの効果により、加熱処理の温度が高い場合(例えば450〜600℃の範囲内)であっても、金属イオンの加熱還元時に形成する金属微粒子3を肥大化させることなく、金属微粒子3の分散を進行させることができる。従って、還元剤としてポリビニルアルコールを添加することによって、ナノコンポジット10のLSPRによる吸収スペクトル及び散乱光スペクトルがシャープになり、各種センシング用デバイスに利用する場合に高精度の検出が可能になる。このような機能を発揮させるために、ポリビニルアルコールは、生成する金属微粒子3に近接した状態で存在していることが好ましいと考えられる。従って、ポリビニルアルコールと金属イオンとが十分な混合状態であることがよく、方法(I)の金属化合物を含有する塗布液や、方法(II)の金属イオンを含有する溶液にポリビニルアルコールを添加し、混合状態としておくことが有利である。また、還元処理後、ポリビニルアルコールの熱分解温度以上で加熱を行うことにより、ポリビニルアルコールがガス化し、消失するが、金属化合物を含有する塗布液や金属イオンを含有する溶液にポリビニルアルコールを添加し、十分な混合状態にしておくことで、金属微粒子3に近接してポリビニルアルコールの痕跡である多数の空隙が形成される。これらの空隙によって、金属微粒子3の露出空間が確保されるため、周囲環境の変化に対してLSPRに由来する光学特性が顕著に変化し、センシング特性の効果が向上するものと考えられる。なお、上記ポリビニルアルコールの作用からも明らかなように、本実施の形態において、ポリビニルアルコールは、マトリックス1の固体骨格部1aを補強するバインダーとしての機能は有していない。
【0089】
ポリビニルアルコールは、工程Id、IIdの加熱処理より前に添加すればよい。方法(I)では、例えば、工程Iaのスラリーを調製する工程、又は工程Ibの塗布液を調製する工程で、ポリビニルアルコールを添加することが好ましい。方法(II)では、工程IIdの加熱還元処理より前にポリビニルアルコールを添加すればよく、例えば、工程IIcの金属イオンを含有する溶液を含浸させる工程における金属イオンを含有する溶液の段階で、ポリビニルアルコールを添加することができる。ポリビニルアルコールは水溶性高分子であるため、例えば水に溶解させることによって、上記スラリーや塗布液中で容易に混ざり合うことができる。なお、ポリビニルアルコールを添加した後、上記スラリーや塗布液を均一に攪拌することが好ましい
【0090】
還元剤として使用するポリビニルアルコールの重合度は、例えば、10〜5000の範囲内であることが好ましく、50〜3000の範囲内がより好ましい。また、ポリビニルアルコールの分子量は、例えば、440〜220000の範囲内が好ましく、2200〜132000の範囲内がより好ましい。ポリビニルアルコールの重合度又は分子量が上記下限値よりも小さくなると、加熱によるナノコンポジット製造時に、還元剤として作用するより早くポリビニルアルコールが蒸発してしまう可能性がある。また、ポリビニルアルコールの重合度又は分子量が上記上限値より高くなりすぎると、ポリビニルアルコールの溶解性が著しく低下し、上記スラリーまたは塗布液への添加、混合が困難になる場合がある。
【0091】
また、ポリビニルアルコールのケン化度は、ケン化によって生成する−OH基が金属イオンの還元に作用することから高いほうが好ましく、例えば30%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。
【0092】
還元反応において、ポリビニルアルコールの1つの−OH基は、2つの電子を供給できることから、金属化合物の配合量に応じて、金属イオンの還元剤として機能させる上で必要なポリビニルアルコールの使用量を概ね決定できる。例えば、塩化金酸4水和物のAuイオンを還元するために必要な電子は3つであり、上記のとおりポリビニルアルコールは−OH基1つあたり2つの電子を供給できるので、計算上、塩化金酸4水和物一つに対し、ポリビニルアルコールの−OH基が3/2個必要となる。このことから、金属化合物に対するポリビニルアルコールの使用量(計算上の重量比)を重量比によって求めることができる。ただし、ポリビニルアルコールの−OH基がすべて還元に使用されるとは限らず、熱分解なども同時に起こると考えられるため、上記計算上の重量比の値に対して過剰量のポリビニルアルコールを添加しておくことが好ましい。一方、ポリビニルアルコールの添加量が上記計算上の重量比の値に比べてあまりにも多すぎる場合には、ナノコンポジット10中にポリビニルアルコールが多量に残存したり、ポリビニルアルコールの分解により発生する余分な排ガスが多くなる等の不都合が生じたりすることが懸念される。以上のことから、ポリビニルアルコールを還元剤として機能させる場合の添加量は、ポリビニルアルコールのケン化度にもよるが、例えばポリビニルアルコールのケン化度を88%とすると、金属化合物1重量部に対し、0.1〜50重量部の範囲内とすることが好ましく、0.15〜20重量部の範囲内とすることがより好ましい。
【0093】
本実施の形態のナノコンポジット10の製造方法は、上記以外に任意の工程を含むことができる。例えば、還元剤としてポリビニルアルコールを添加した場合には、ナノコンポジット10を、ポリビニルアルコールの熱分解開始温度以上の温度で熱処理する工程を含んでもよい。ナノコンポジット10を再度加熱することにより、ナノコンポジット10中に残存するポリビニルアルコールに由来する有機物(以下、「ポリビニルアルコール由来成分」ともいう。)を熱分解させてガス化させて除去することができる。LSPRを利用したセンサー用途へナノコンポジット10を適用する場合、ナノコンポジット10中に残存するポリビニルアルコール由来成分は検出感度を低下させる原因となるため、これを除去することが好ましい。ポリビニルアルコール由来成分の熱分解開始温度は、およそ200℃前後であるため、本工程では、ナノコンポジット10を200℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくはポリビニルアルコール由来成分をほぼ完全に分解できる450℃以上の温度に加熱する。熱処理は、ナノコンポジット10を構成する固体骨格部1aや金属微粒子3に分解、溶融などの影響を与えない温度範囲で行うことが好ましく、熱処理温度の上限は例えば600℃以下とすることができる。ここで、ポリビニルアルコールに由来する有機物とは、還元剤として消費されなかったポリビニルアルコールを含め、例えば、加熱処理時にポリビニルアルコールが酸化される等(例えば、アルコール部分がケトンとなる等)によって、その構造が変化したポリビニルアルコールの変性物又は分解物などをいう。
【0094】
また、熱処理は、工程Id、工程IIdにおける加熱処理と同時に行うことができる。すなわち、熱処理を加熱処理と同時に一工程で行うことによって、金属化合物の金属イオンを加熱還元して金属微粒子3となる粒子状金属を析出させるとともに、ポリビニルアルコール由来成分を熱分解させてガス化させて除去する。ここでの加熱処理の温度の下限は、好ましくは200℃以上、より好ましくは300℃以上とし、加熱処理の温度の上限は、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下にすることがよい。
【0095】
以上のようにして、ナノコンポジット10を製造することができる。なお、マトリックス1として、ベーマイト以外の物質を用いる場合についても、上記製造方法に準じて製造することができる。
【0096】
<複合基板>
本発明の第1の実施の形態に係る複合基板の断面構造を
図5Aに示す。本実施の形態の複合基板100は、ナノコンポジット10と、ナノコンポジット10の受光面側の表面に接触又は隣接して配置された光透過層20とを有する。ナノコンポジット10を光学式センサーに用いる場合、ナノコンポジット10の受光面側の表面上に接触又は隣接して光透過層20を配置し、重ね合わせて複合基板100とすることが好ましい。複合基板100に用いる光透過層20は、LSPRを生じさせる波長(例えば、金属微粒子3が金、銀で構成されている場合は300nm〜900nmの範囲内、パラジウム、白金で構成されている場合は250nm〜900nmの範囲内)の光を透過させる性質を有する材料で形成することができる。このような材料としては、例えば、ガラス、石英などの無機透明基板、インジウムスズオキサイド(ITO)、酸化亜鉛などの透明導電性膜、あるいはポリイミド樹脂、PET樹脂、アクリル樹脂、MS樹脂、MBS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、シロキサン樹脂、エポキシ樹脂などの透明合成樹脂等を挙げることができる。
【0097】
複合基板100において、ナノコンポジット10の厚みTは、LSPRの検出感度を高くする観点から、例えば20nm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。厚みTが20nm未満では、金属微粒子3の含有量が少なくなり、また、金属微粒子3の粒子径も小さくなるため、LSPRによる散乱光が十分に得られない。一方、厚みTが5μmを超えると、光の透過性が悪くなるほか、検体(気体又は液体)のナノコンポジット10中への拡散能も低下するため、検出感度が低くなる。また、光透過層20の厚みは、特に制限はないが、例えば1μm〜10mmの範囲内とすることができる。
【0098】
複合基板100は、以上のような構成により、優れたLSPRを発生さることができる。外部の光源から照射された光は、ナノコンポジット10に入射し、LSPRによる散乱光を生じさせる。これらの散乱光は、受光部(図示せず)によって検出され、吸収スペクトルの強度やピークシフトが測定される。このように、ナノコンポジット10による散乱光を利用することによって、装置全体を小型化できるとともに、同じ強度のLSPRの吸収を得るために必要な照射光の光量を低減できるので、省電力で高感度の測定を実現できる。
【0099】
第1の実施の形態の複合基板100は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、第1の方法は、ナノコンポジット10を作製する過程で使用する基材を、そのまま光透過層20として用いる方法である。例えば、光透過層20となる基材の表面に、固体骨格部1aを形成するためのスラリーと金属化合物とを混合してなる塗布液を塗布した後に、あるいは、光透過層20となる基材の表面に固体骨格部1aを形成するためのスラリーを塗布し、固体骨格部1aを形成してから金属イオンを含有する溶液を含浸させた後に、それぞれ熱処理することにより、固体骨格部1a及び空隙1bを有するマトリックス1の形成と、金属微粒子3の析出とを行うことができる。このように光透過層20を基材として用いることによって、ナノコンポジット10の製造と同様の工程で、複合基板100を作製できる。
【0100】
複合基板100を製造する第2の方法は、ナノコンポジット10と、光透過層20と、をそれぞれ別々に作製した後、ナノコンポジット10を光透過層20の表面に重ねて配置し、固定する方法である。ナノコンポジット10と光透過層20は、LSPRの発生に影響を与えないように、例えばナノコンポジット10の周縁部において任意の手段(例えば、接着剤による接着、プレスによる接着など)で固定することができる。
【0101】
本発明の第2の実施の形態に係る複合基板の断面構造を
図5Bに示す。本実施の形態の複合基板100Aは、ナノコンポジット10と、ナノコンポジット10の受光面側の表面に接触又は隣接して配置された光透過層20と、ナノコンポジット10に積層された多孔質の光反射部材30と、を備えている。ナノコンポジット10及び光透過層20の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0102】
光反射部材30は、多孔質であり、好ましくは、局在型表面プラズモン共鳴を生じさせる波長(例えば金属微粒子3が金又は銀で構成されている場合は300nm〜900nmの範囲内、パラジウム、白金で構成されている場合は250nm〜900nmの範囲内)の光を反射させる性質を有する材料で形成する。このような材料としては、例えば、ポリエステル、PTFE、植物性繊維、動物性繊維等の有機材料基板、ガラス、アルミナ、金属等の無機基板であって、かつ多孔質であるものが挙げられる。ここで多孔質の形態例としては、不織布、織物、メッシュ、メンブランフィルター、粒子の焼結体、発泡シート等や、非孔質基板にドリル、パンチング、プラズマ等の物理エッチング、化学エッチング等により貫通孔を形成したもの等が挙げられる。より好ましくは、ろ紙、ポリエステル製の不織布、ガラス繊維ろ紙、PTFE製メンブランフィルター、ポーラスアルミナメンブランフィルターである。
【0103】
なお、
図5Bでは、ナノコンポジット10と光反射部材30とを密着させて積層した積層体を例示したが、ナノコンポジット10と、光反射部材30とは、必ずしも密着させて設ける必要はなく、ナノコンポジット10に対して光反射部材30を任意の距離で離間させて設けてもよい。
【0104】
光反射部材30は、光反射系センサーの光反射部材として好適に使用される。そのため、光反射部材30は、光源やセンサーの種類に応じて、特定の波長の光を反射できるものであればよい。例えば、複合基板100Aを局在型表面プラズモン共鳴センサーに適用する場合、光反射部材30は、局在型表面プラズモン共鳴波長(例えば金属微粒子が金または銀で形成されている場合は300〜900nmの範囲内、パラジウム、白金で構成されている場合は250nm〜900nmの範囲内)で反射するものを使用することができる。この場合、例えば、波長590nmにおける光反射率が大気中で10%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上である。光反射部材30がこのような光反射率であると、複合基板100Aを局在型表面プラズモン共鳴センサーにおける光反射部材として好ましく利用できる。光反射部材30の光反射率が10%未満の場合は、局在型表面プラズモン共鳴センサーにおける反射部材として使用する場合に、受光部に光が十分到達せず、センサーとしての感度が低くなる傾向にある。ただし、波長は590nmに限定されるものではなく、使用する波長に合わせて反射率が上記範囲に入るものであればよい。また、複合基板100Aを局在型表面プラズモン共鳴センサー以外の光反射系センサーに使用する場合も、光反射部材30は、使用する波長に合わせて上記反射率と同程度の反射率を有するものであればよい。
【0105】
光反射部材30は、光反射部材としての役割に加え、センシング対象である蒸気、ガス、液体等の媒質の導入口の役割を担う。その観点では、光反射部材30は、膜厚に応じて、前記媒質を効率良く透過させることが可能な空隙率を有すること好ましい。また、光反射部材30は、フィルターの役割を担い、前記媒質によるナノコンポジット10の汚染を抑制する作用も有しており、そのような観点では、前記媒質中の不純物を除去できることが好ましい。以上の理由から、光反射部材30の膜厚T1は、例えば1000μm以下であることが好ましく、10〜1000μmの範囲内であることがより好ましい。
【0106】
第2の実施の形態の複合基板100Aは、例えば以下のようにして製造することができる。まず、第1の方法は、複合基板100を作製した後、光反射部材30を積層することによって複合基板100Aを作製できる。この場合、複合基板100と光反射部材30を任意の方法(例えば、専用の冶具を使って固定しても良いし、接着剤を使用しても良い)によって積層することができる。
【0107】
複合基板100Aを製造する第2の方法は、ナノコンポジット10を作製する過程で使用する基材を、そのまま光透過層20又は光反射部材30として用いる方法である。例えば、光透過層20又は光反射部材30となる基材の表面に、固体骨格部1aを形成するためのスラリーと金属化合物とを混合してなる塗布液を塗布した後に、あるいは、光透過層20又は光反射部材30となる基材の表面に固体骨格部1aを形成するためのスラリーを塗布し、固体骨格部1aを形成してから金属イオンを含有する溶液を含浸させた後に、それぞれ熱処理することにより、固体骨格部1a及び空隙1bを有するマトリックス1の形成と、金属微粒子3の析出とを行うことができる。そして、ナノコンポジット10に重なるように、光透過層20又は光反射部材30のうち、基材として使用しなかったものを積層すればよい。このように光透過層20又は光反射部材30を基材として用いることによって、ナノコンポジット10の製造と同様の工程で、複合基板100Aを作製できる。
【0108】
複合基板100Aを製造する第3の方法は、ナノコンポジット10と、光透過層20と、光反射部材30と、をそれぞれ別々に作製した後、ナノコンポジット10の片側に光透過層20を、他の側に光反射部材30を重ねて配置し、固定する方法である。ナノコンポジット10と光透過層20と光反射部材30は、LSPRの発生に影響を与えないように、例えばナノコンポジット10の周縁部において任意の手段(例えば、接着剤による接着、プレスによる接着、専用の冶具を使用する、など)で固定することができる。
【0109】
複合基板100,100Aは、その構成部分として光源や受光部を備えた構成とすることもできる。この場合、光源、受光部は、ナノコンポジット10のLSPRを生じさせる波長(例えば、金属微粒子3が金、銀で構成されている場合は300nm〜900nmの範囲内、パラジウム、白金で構成されている場合は250nm〜900nmの範囲内)の光を照射できる光源(図示省略)と、ナノコンポジット10で発生する散乱光や光反射部材30からの反射光を受光する受光部(図示省略)とを備えることができる。また、光源は、ナノコンポジット10の固体骨格部1aに含まれる光触媒活性物質に固有のバンドギャップを考慮して、照射する光の波長を選択してもよい。さらに、光源として、LSPRを生じさせる波長の光を複合基板100,100Aに対して照射するLSPR用光源と、光触媒活性を発現させる波長の光を複合基板100,100Aに対して照射するクリーニング用光源とを別々に設けてもよい。なお、光源と受光部とを一体に設け、レンズなどの集光手段を介して散乱光や反射光を集光するようにしてもよいし、光源と受光部を別々に設け、複合基板100,100Aに対して任意の角度で入射させ、その散乱光や反射光を受光部で受光するようにしてもよい。
【0110】
以上の構成を有する第1又は第2の実施の形態の複合基板100,100Aにおいて、ナノコンポジット10は、金属微粒子3が三次元的な網目構造を有するマトリックス1中で一定以上の粒子間距離Lを保った状態で、三次元的に偏りなく分散した形態を有する。そのため、LSPRによる吸収スペクトルがシャープであるとともに、非常に安定しており、再現性と信頼性に優れている。さらに、金属微粒子3の表面の多くは、マトリックス1中において外部空間に連通する空隙1bに露出しているため、金属微粒子3が有する、金属微粒子3の周辺媒質の誘電率(屈折率)の変化に応じて共鳴する波長が変化するという特性を充分に発現することが可能である。したがって、複合基板100,100Aは、例えばバイオセンサー、ケミカルセンサー、湿度センサー、結露センサー、ガスセンサー、味覚センサー、匂いセンサー、アルコールセンサー等の各種センシング用デバイスに適している。複合基板100,100Aをセンシング用デバイスに利用することにより、簡易な構成で高精度の検出が可能になる。
【0111】
本発明の第3の実施の形態に係る複合基板の断面構造を
図5Cに示す。本実施の形態の複合基板100Bは、ナノコンポジット10と、ナノコンポジット10に積層された多孔質の光反射部材30と、を備えている。ナノコンポジット10の構成は、第1の実施の形態と同様であり、光反射部材30の構成は、第2の実施の形態と同様である。つまり、複合基板100Bは、光透過層20を有しない以外は、第2の実施の形態の複合基板100Aと同様であり、光透過層20を設けない以外は、第2の実施の形態の複合基板100Aと同様に製造することができる。
【0112】
複合基板100Bは、固体骨格部1a及び該固体骨格部1aが形成する空隙1bを有するマトリックス1と、多孔質の光反射部材30とを積層した構造を有するため、これらの積層方向に、液体、気体などの流体を通過させることができる。従って、複合基板100Bは、例えば、各種のフィルターとしての利用が可能である。この場合、例えば、光触媒活性物質によるセルフクリーニング機能と、局在型表面プラズモン共鳴を利用したフィルター能力の自己検知機能とを有し、フィルター寿命を局在型表面プラズモン共鳴によってモニタできるスマートフィルターとすることができる。すなわち、このスマートフィルターは、光触媒活性による有機物分解能によって、ろ過の対象となる有機物の蓄積による目詰まりを抑制できるとともに、前記有機物の蓄積による局在型表面プラズモン共鳴の変化によって、ろ過能力を自己判定することが可能になる。このスマートフィルターは、複合基板100Aと同様に、例えば光源や受光部を備えた構成とすることができる。この場合、光源、受光部は、ナノコンポジット10のLSPRを生じさせる波長(例えば、金属微粒子3が金、銀で構成されている場合は300nm〜900nmの範囲内、パラジウム、白金で構成されている場合は250nm〜900nmの範囲内)の光を照射できる光源(図示省略)と、光反射部材30からの反射光を受光する受光部(図示省略)とを備えることができる。
【0113】
<LSPRセンサー>
次に、
図6Aを参照して、複合基板100を利用した光学式センサーの一形態例である局在型表面プラズモン共鳴センサー(以下、「LSPRセンサー」と記すことがある)の一例について説明する。LSPRセンサー200は、複合基板100と、光源101と、分光器102と、投光・受光部103と、集光手段としてのレンズ104と、を備えている。光源101は、LSPRを発生させ得る波長の光を照射できるとともに、ナノコンポジット10の固体骨格部1aに含まれる光触媒活性物質のバンドギャップに相当するエネルギーの光を照射できるように、照射光の波長を選択することが好ましい。また、光源101として、LSPRを生じさせる波長の光を複合基板100に対して照射するLSPR用光源と、光触媒活性を発現させる波長の光を複合基板100に対して照射するクリーニング用光源とを別々に設けてもよい。分光器102は、投光・受光部103で受光した散乱光のスペクトルを検出する。投光・受光部103は、例えば投光及び受光が可能な同軸Y型光ファイバーにより構成されている。レンズ104は、投光・受光部103からの照射光110及び複合基板100のナノコンポジット10で発生した散乱光120を集光する光学レンズである。LSPRセンサー200では、投光・受光部103及びレンズ104は、複合基板100の積層方向(ナノコンポジット10の表面や光透過層20の表面に対して垂直な方向)に対し、斜め方向から光を照射するように配置されている。このように、複合基板100の積層方向に対し、斜め方向から光を照射することによって、正反射光を受光せずに散乱光120のみの集光が容易になり、散乱光のLSPRによる吸収スペクトルの検出感度を向上させることができる。なお、LSPRセンサー200では、ミラーなどの光反射手段を用いて複合基板100へ入射する光の角度を調節することもできる。
【0114】
LSPRセンサー200では、光透過層20が、レンズ104及び投光・受光部103に向き合うように配置される。これによって、レンズ104を介して集光された照射光110は、光透過層20を透過し、ナノコンポジット10へ入射する。また、ナノコンポジット10においてLSPRにより発生した散乱光120は、その一部が光透過層20を透過し、さらに透過した散乱光120の一部がレンズ104で集光され、投光・受光部103で受光される。この場合、光透過層20は、レンズ104及び投光・受光部103と被検体を隔離する測定窓として機能する。すなわち、ナノコンポジット10を、ガスや液体などの検体中に暴露して使用する場合などに、光透過層20を設けることによって、レンズ104及び投光・受光部103が検体中に暴露されることを防ぎ、ナノコンポジット10からのLSPRによる散乱光120を効率良く集光することが可能になる。
【0115】
図6Bは、LSPRセンサーの別の構成例を示している。このLSPRセンサー200Aは、ナノコンポジット10と、このナノコンポジット10の片側に積層された光反射部材30と、この光反射部材30とは反対側でナノコンポジット10に積層された光透過層20と、を有する複合基板100Aを備えている。また、LSPRセンサー200Aは、複合基板100Aの積層方向に対して角度を変化させて光線を照射できる光源101と、この光源101から複合基板100Aへ向けて照射された光線の反射光を検出する光検出器105と、を備えている。光源101は、光透過層20に向けて光線を照射する。LSPRセンサー200Aは、光反射部材30の表面(ナノコンポジット10と積層されている面とは反対側の面)に沿って検体となる気体又は液体が流れるように構成されている。検体中の無機物質又は有機物質は、光反射部材30の細孔を通過してナノコンポジット10に到達する。
【0116】
以上の構成を有するLSPRセンサー200,200Aでは、LSPRによる散乱光や反射光のスペクトルの変化、スペクトル強度の変化、又は散乱光や反射光の強度の変化をもとに、気体もしくは液体に存在する無機物質又は有機物質を検出することができる。
【0117】
<変形例>
次に、
図7を参照して上記実施の形態の金属微粒子分散複合体の変形例について説明する。
図7は、変形例のナノコンポジットの概略断面図である。変形例のナノコンポジット10Aは、本体10aと、光触媒活性物質からなるコーティング層10bとを有している。
【0118】
(本体)
本体10aは、固体骨格部1a中に光触媒活性物質を含有しない点以外は、
図1〜
図3に示したナノコンポジット10と同様の構成を有するものである。
【0119】
(コーティング層)
コーティング層10bを構成する光触媒活性物質としては、上記実施の形態で挙げたものを利用できる。コーティング層10bは、センシング対象である蒸気、ガス、液体等の媒体の導入の役割を担うことに加え、センシング対象物以外の有機物の汚れを捕集して分解除去するという観点から多孔質であることが好ましい。この場合、コーティング層10bは空隙率が10〜95%の範囲内、平均細孔径が5〜70nmの範囲内とすることが好ましい。
また、コーティング層10bの厚みは、例えば50nm〜200μmの範囲内とすることが好ましく、100nm〜100μmの範囲内とすることがより好ましい。コーティング層10bの厚みが50nm未満であると、センシング対象物以外の有機物が十分捕集できないことがあり、200μmを超えるとセンシング対象となる蒸気、ガス、液体等の媒質の導入が不十分となり正確にセンシングできなくなることがある。
また、本体10aとコーティング層10bの間に、本体10aとコーティング層10bの混合層が存在しても良い。また、本体10aは、光触媒活性物質を含有した構造(つまり、ナノコンポジット10と同様の構造)であっても良い。
【0120】
(製造方法)
本変形例のナノコンポジット10Aにおいて、本体10aは、光触媒活性物質を配合しない点以外は、上記実施の形態(
図1〜
図3)に示したナノコンポジット10と同様にして製造することができる。
【0121】
一方、コーティング層10bは、得られた本体10aの表面に、例えば酸化チタンなどの光触媒活性物質を含有する塗布液を塗布し、例えば150〜600℃の温度で焼成することによって形成することができる。また、本体10aを形成するための塗布液を塗布、乾燥した後、乾燥した膜表面に、酸化チタンなどの光触媒活性物質を含有する塗布液を塗布、乾燥し、150〜600℃の温度で焼成することによって、一括してナノコンポジット10Aを形成することができる。
【0122】
本変形例のナノコンポジット10Aは、
図1〜
図3に示したナノコンポジット10と同様に局在型表面プラズモン共鳴センサー、具体的には、光学式システムの湿度センサー、結露センサー、バイオセンサー、ケミカルセンサー、ガスセンサー、屈折率センサー、味覚センサー、匂いセンサー、アルコールセンサー等への利用に適しており、簡易な構成で高精度の検出が可能になる。
【0123】
また、本変形例のナノコンポジット10Aは、複合基板の形態をとることができる。この場合、
図5A,
図5Bに示した複合基板100,100Aにおいて、ナノコンポジット10に代えて、ナノコンポジット10Aを配置すればよい。ナノコンポジット10Aを用いた複合基板は、その構成部分として光源や受光部を備えた構成とすることもできる。この場合、光源、受光部は、ナノコンポジット10AのLSPRを生じさせる波長(例えば、金属微粒子3が金、銀で構成されている場合は300nm〜900nmの範囲内、パラジウム、白金で構成されている場合は250nm〜900nmの範囲内)の光を照射できる光源101(図示省略)と、ナノコンポジット10Aで発生する散乱光や光反射部材30からの反射光を受光する受光部(図示省略)とを備えることができる。
【0124】
本変形例のナノコンポジット10Aの他の構成及び効果は、ナノコンポジット10と同様である。
【0125】
[実施例]
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例、比較例において特にことわりのない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0126】
<金属微粒子の平均粒子径の測定>
金属微粒子の平均粒子径の測定は、試料を砕いてエタノールに分散させたのち、得られた分散液をカーボン支持膜付き金属性メッシュへ滴下して作製した基板を、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子社製、JEM−2000EX)により観測した。また、金属微粒子の平均粒子径は面積平均径とした。
【0127】
<金属微粒子分散複合体の空隙率の測定>
金属微粒子分散複合体の空隙率は、金属微粒子分散複合体の面積、厚み及び重量より算出した見掛け密度(嵩密度)と、マトリックスの固体骨格部を形成する材料及び金属微粒子の固有の密度および組成比率より算出した空隙を含まない密度(真密度)を用いて、下記式(A)にしたがって空隙率を算出した。
【0128】
空隙率(%)=(1−嵩密度/真密度)×100 …(A)
【0129】
金属微粒子分散複合体の空隙サイズ(細孔径)の平均値は、水銀ポロシメーター法による細孔分布測定により求めた。
【0130】
<透過吸収スペクトルの測定>
金属微粒子分散複合体の透過吸収スペクトルは、瞬間マルチ測光システム(大塚電子社製、MCPD−3700)を用いて測定した。
<センシングの感度の評価>
金属微粒子分散複合体のセンシングの感度は、波長590nmにおける、空気中及び水中での透過吸収スペクトルを測定し、その透過率の差が8%以上の場合は「◎(優良)」、3〜7%の場合は「○(可)」、3%未満の場合は「×(不可)」とした。
【0131】
<付着物分解性評価>
金属微粒子分散複合体の付着物分解性評価は、以下の条件で、付着物を塗布した金属微粒子分散複合体に光を照射し、光照射による透過率の変化率から行った。
付着物を塗布した複合基板(以下、「光照射前基板」という。)は、透明ガラス基板と金属微粒子分散複合体(1cm×1cmサイズ)とを有する複合基板(以下、「塗布前基板」という。)の金属微粒子分散複合体に、付着物として0.2wt%ポリビニルアセタール(積水化学社製、エスレックBM−1)のエタノール溶液を50μl塗布した後、室温で3時間、真空乾燥することで作製した。
【0132】
透過率の測定は、
図8に示すように、光源301としてハロゲンランプの可視光光源、光検出器302として上記瞬間マルチ測光システムを用いて行った。金属微粒子分散複合体303と透明ガラス基板304とを積層した光照射前基板100Cを、光源301と光検出器302の間に配置した。そして、光源301から照射した光305を光照射前基板100Cの金属微粒子分散複合体303側から垂直方向に入射させ、透明ガラス基板304側からの透過光306を光検出器302で検出することにより透過率の測定を行った。さらに、上記光源301により光照射を900分間行い、その間、光が照射された部分の透過率変化を連続して測定した。以下、900分間の光照射後の複合基板を「光照射後基板」という。
【0133】
付着物分解性評価は、以下の式により、波長590nmにおける、光照射前基板と比較した光照射後基板の透過率の変化率Aを算出し、Aが50%以上の場合は「◎(優良)」、10〜49%の場合は「○(可)」、9%以下の場合は「×(不可)」とした。
A={(D−C)/(B−C)}×100
A:変化率(%)
B:塗布前基板の透過率(%)
C:光照射前基板の透過率(%)
D:光照射後基板の透過率(%)
【0134】
[実施例1]
15gの擬ベーマイト粉末(スイーコインターナショナル社製、商品名;SECO−045U、平均一次粒子径;4.5nm、平均二次粒子径;25nm)に、81.61gの純水と3.4gの酢酸を加え、機械撹拌(回転数400rpm、4時間)を行い、15wt%のベーマイト分散液1を調製した。次に、1.035gのベーマイト分散液1に対して、0.988gのエタノール、0.345gの酸化チタンゾル(多木化学社製、タイノックスAM−15)、0.188gのポリビニルアルコール(平均分子量8000、重合度210、ケン化度65%)の50wt%水溶液、及び1.0gのエタノールに0.388gの塩化金酸・四水和物を溶解した溶液を加え、金錯体含有スラリーを調製した。なお、前記金錯体含有スラリーの調製に際しては、各試薬をそれぞれ加えるたびに、撹拌子による撹拌(回転数1000rpm、20分間)を行った。
【0135】
次に、透明ガラス基板(厚み0.7mm)に、前記金錯体含有スラリーをスピンコーター(ミカサ株式会社製、商品名;SPINCOATER 1H−DX2)を用いて塗布した後、70℃で3分間及び130℃で10分間乾燥し、さらに280℃、10分間および500℃、1時間加熱処理することによって、赤色に呈色した金属金微粒子分散複合体層(厚さ0.44μm)を持つ金微粒子分散複合基板を作製した。金属金微粒子分散複合体層中に形成した金属金微粒子は、該金属金微粒子分散複合体層の表層部から厚さ方向に至るまでの領域内で、概ね、隣り合う金属金微粒子における大きい方の粒子径以上の間隔で分散していた。この金属金微粒子分散複合体層の特徴は、次のとおりであった。
1)金属金微粒子の形状;ほぼ球状、平均粒子径;15.8nm、最小粒子径;5.1nm、最大粒子径;46.2nm、粒子径1nm〜100nmの範囲内にある粒子の割合;100%。
2)金属金微粒子分散複合体層に対する金属金微粒子の重量分率;47.3wt%
3)マトリックスの個体骨格部における酸化チタンの重量分率;25wt%
【0136】
また、金属金微粒子分散複合体層の金属金微粒子によるLSPRの空気中における透過吸収スペクトルは、最大吸収波長が530nm、波長590nmにおける透過率が16.5%の吸収ピークが観測された。
上記評価方法に従い、金微粒子分散複合基板の付着物分解性及びセンシング感度を評価した結果を、表1に示した。
【0137】
[実施例2]
実施例1で作製したベーマイト分散液1を0.690gとし、酸化チタンゾルを0.690gとした他は、実施例1と同様の条件で、赤紫色に呈色した金属金微粒子分散複合体層(厚さ0.42μm)を持つ金微粒子分散複合基板を作製した。金属金微粒子分散複合体層中に形成した金属金微粒子は、該金属金微粒子分散複合体層の表層部から厚さ方向に至るまでの領域内で、概ね、隣り合う金属金微粒子における大きい方の粒子径以上の間隔で分散していた。この金属金微粒子分散複合体層の特徴は、次のとおりであった。
1)金属金微粒子の形状;ほぼ球状、平均粒子径;16.2nm、最小粒子径;5.8nm、最大粒子径;42.0nm、粒子径1nm〜100nmの範囲内にある粒子の割合;100%。
2)金属金微粒子分散複合体層に対する金属金微粒子の重量分率;47.3wt%
3)マトリックスの個体骨格部における酸化チタンの重量分率;50wt%
【0138】
また、金属金微粒子分散複合体層の金属金微粒子によるLSPRの空気中における透過吸収スペクトルは、最大吸収波長が529nm、波長590nmにおける透過率が21.6%の吸収ピークが観測された。
上記評価方法に従い、金微粒子分散複合基板の付着物分解性及びセンシング感度を評価した結果を、表1に示した。
【0139】
[実施例3]
実施例1で作製したベーマイト分散液1を0.345gとし、酸化チタンゾルを1.035gとした他は、実施例1と同様の条件で、紫色に呈色した金属金微粒子分散複合体層(厚さ0.38μm)を持つ金微粒子分散複合基板を作製した。金属金微粒子分散複合体層中に形成した金属金微粒子は、該金属金微粒子分散複合体層の表層部から厚さ方向に至るまでの領域内で、概ね、隣り合う金属金微粒子における大きい方の粒子径以上の間隔で分散していた。この金属金微粒子分散複合体層の特徴は、次のとおりであった。
1)金属金微粒子の形状;ほぼ球状、平均粒子径;15.9nm、最小粒子径;6.9nm、最大粒子径;48.2nm、粒子径1nm〜100nmの範囲内にある粒子の割合;100%。
2)金属金微粒子分散複合体層に対する金属金微粒子の重量分率;47.3wt%
3)マトリックスの個体骨格部における酸化チタンの重量分率;75wt%
【0140】
また、金属金微粒子分散複合体層の金属金微粒子によるLSPRの空気中における透過吸収スペクトルは、最大吸収波長が536nm、波長590nmにおける透過率が18.7%の吸収ピークが観測された。
上記評価方法に従い、金微粒子分散複合基板の付着物分解性及びセンシング感度を評価した結果を、表1に示した。
【0141】
[比較例1]
実施例1で作製したベーマイト分散液1を1.380gとし、酸化チタンゾルを用いなかった他は、実施例1と同様の条件で、濃赤色に呈色した金属金微粒子分散複合体層(厚さ0.43μm)を持つ金微粒子分散複合基板を作製した。金属金微粒子分散複合体層中に形成した金属金微粒子は、該金属金微粒子分散複合体層の表層部から厚さ方向に至るまでの領域内で、概ね、隣り合う金属金微粒子における大きい方の粒子径以上の間隔で分散していた。この金属金微粒子分散複合体層の特徴は、次のとおりであった。
1)金属金微粒子の形状;ほぼ球状、平均粒子径;15.8nm、最小粒子径;6.0nm、最大粒子径;35.1nm、粒子径1nm〜100nmの範囲内にある粒子の割合;100%。
2)金属金微粒子分散複合体層に対する金属金微粒子の重量分率;47.3wt%
3)マトリックスの個体骨格部における酸化チタンの重量分率;0wt%
【0142】
また、金属金微粒子分散複合体層の金属金微粒子によるLSPRの空気中における透過吸収スペクトルは、最大吸収波長が529nm、波長590nmにおける透過率が28.3%の吸収ピークが観測された。
上記評価方法に従い、金微粒子分散複合基板の付着物分解性及びセンシング感度を評価した結果を、表1に示した。
【0143】
[比較例2]
ベーマイト分散液1を用いず、酸化チタンゾルを1.380gとした他は、実施例1と同様の条件で、青紫色に呈色した金属金微粒子分散複合体層(厚さ0.35μm)を持つ金微粒子分散複合基板を作製した。金属金微粒子分散複合体層中に形成した金属金微粒子は、該金属金微粒子分散複合体層の表層部から厚さ方向に至るまでの領域内で、概ね、隣り合う金属金微粒子における大きい方の粒子径以上の間隔で分散していた。この金属金微粒子分散複合体層の特徴は、次のとおりであった。
1)金属金微粒子の形状;ほぼ球状、平均粒子径;17.5nm、最小粒子径;6.3nm、最大粒子径;60.1nm、粒子径1nm〜100nmの範囲内にある粒子の割合;100%。
2)金属金微粒子分散複合体層に対する金属金微粒子の重量分率;47.3wt%
3)マトリックスの個体骨格部における酸化チタンの重量分率;100wt%
【0144】
また、金属金微粒子分散複合体層の金属金微粒子によるLSPRの空気中における透過吸収スペクトルは、最大吸収波長が564nm、波長590nmにおける透過率が5.1%の吸収ピークが観測された。
上記評価方法に従い、金微粒子分散複合基板の付着物分解性及びセンシング感度を評価した結果を、表1に示した。
【0146】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。