特許第6486770号(P6486770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6486770
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/12 20060101AFI20190311BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20190311BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20190311BHJP
   B24B 53/00 20060101ALI20190311BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190311BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20190311BHJP
【FI】
   B24B53/12
   B24B41/06 Z
   B24B27/06 M
   B24B53/00 K
   H01L21/304 601Z
   H01L21/78 F
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-102531(P2015-102531)
(22)【出願日】2015年5月20日
(65)【公開番号】特開2016-215314(P2016-215314A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100137903
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】松山 敏文
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−164533(JP,A)
【文献】 特開2010−098029(JP,A)
【文献】 特開2007−210037(JP,A)
【文献】 特開2014−233796(JP,A)
【文献】 特開2002−103262(JP,A)
【文献】 特開2002−144180(JP,A)
【文献】 特開2009−202265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/00 − 53/12
B24B 27/06
B24B 41/06
H01L 21/301
H01L 21/304
B23Q 3/02 − 3/08
B25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被加工物を吸引保持する吸引面を有する保持テーブルと、該保持テーブルで吸引保持する被加工物に切削水を供給させつつ切削ブレードで被加工物を切削する切削手段と、を備える切削装置であって、
被加工物を吸引保持する該保持テーブルの吸引力を維持させる吸引力維持手段を含み、
該吸引力維持手段は、
該吸引面を第1の吸引源に連通させる第1の配管と、該第1の配管の途中で、該第1の吸引源に向かう上側の流出口と第2の吸引源に向かう下側の流出口とに分岐する分岐管と、該下側の流出口と該第2の吸引源とを連通させる第2の配管と、を備え、
該第1の吸引源と該第2の吸引源とは、エジェクタであって、エアを供給する供給口と、エアを排出する排出口と、該供給口から該排出口にエアを流通させる事で負圧を発生する負圧発生部に連通する吸引口と、を備え、
該分岐管の断面積を該第1の配管の断面積より大きく形成させ、該第1の配管から該第1の配管よりも断面積が大きい該分岐管に移ったときに気体と液体を含む流体の流速が遅くなると共に該分岐管の形状によって、該吸引面から吸引された該流体のうちの、該気体は分岐管の該上側の流出口に向かって進み該第1の吸引源で吸引させ液体は該分岐管の該下側の流出口に向かって下降して該第2の吸引源で吸引させ、該第2の吸引源の該排出口から排水させ、該吸引面の吸引力を維持させることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
該分岐管が、該第1の配管の水平部分の途中で、該第1の吸引源に向かう上側の流出口と第2の吸引源に向かう該第1の配管の水平部分に対し垂直部分を有し該第1の配管の下側の流出口とに分岐することを特徴とする請求項1に記載の切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレッサーボードを用いて切削ブレードのドレスを行う切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切削装置では、切削加工中に定期的に切削ブレードをドレスして切削ブレードの切削力を維持させている。切削ブレードのドレスは、保持テーブル上に吸引保持された被加工物としてのドレッサーボードの表面に切削ブレードを切り込ませて行われる(例えば、特許文献1参照)。ドレッサーボードの表面に切削ブレードで切削溝が形成されると、ドレッサーボードの表裏の応力バランスに崩れが生じてドレッサーボードの一方の面(上面)が凹状に反る。ドレッサーボードの反りによって保持テーブルの上面とドレッサーボードの下面とに隙間が形成されて、この隙間から切削水が浸入して吸引力が低下する。
【0003】
このため、保持テーブルの上面とドレッサーボードの下面に隙間が形成されないように、切削溝の形成に伴うドレッサーボードの反りを保持テーブルで規制する構成が検討されている。ドレッサーボードの反りを抑える構成としては、保持テーブル上でドレッサーボードの両端を機械的に押えてドレッサーボードの反りを規制する構成が検討されている(例えば、特許文献2参照)。同様に、保持テーブル上でドレッサーボードの一端を機械的に押えると共にドレッサーボードの他端側を強く吸引保持してドレッサーボードの反りを規制する構成も検討されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−22713号公報
【特許文献2】特開2011−258689号公報
【特許文献3】特許第5350908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2、3のようにドレッサーボードの反りを機械的に規制する構成では、保持テーブルの構成が複雑になっていた。ドレッサーボードの反りを抑えるために、強力な吸引ポンプを使用することも考えられるが、大きな設備が必要となるという問題があった。また、大きな吸引ポンプを用いずに吸引力を維持させるために、隙間から浸入した切削水をタンクに溜めて、定期的に排水する構成も考えられる。通常、センサー等で切削水を吸引しているかを検出して、バルブを切換えることでタンクから切削水を排水するが、バルブの切換えの僅かなタイミングで吸引力が低下するという問題がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、保持テーブル上の被加工物に反りが生じても、被加工物に対する吸引力を維持できる切削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削装置は、板状の被加工物を吸引保持する吸引面を有する保持テーブルと、該保持テーブルで吸引保持する被加工物に切削水を供給させつつ切削ブレードで被加工物を切削する切削手段と、を備える切削装置であって、被加工物を吸引保持する該保持テーブルの吸引力を維持させる吸引力維持手段を含み、該吸引力維持手段は、該吸引面を第1の吸引源に連通させる第1の配管と、該第1の配管の途中で、該第1の吸引源に向かう上側の流出口と第2の吸引源に向かう下側の流出口とに分岐する分岐管と、該下側の流出口と該第2の吸引源とを連通させる第2の配管と、を備え、該第1の吸引源と該第2の吸引源とは、エジェクタであって、エアを供給する供給口と、エアを排出する排出口と、該供給口から該排出口にエアを流通させる事で負圧を発生する負圧発生部に連通する吸引口と、を備え、該分岐管の断面積を該第1の配管の断面積より大きく形成させ、該第1の配管から該第1の配管よりも断面積が大きい該分岐管に移ったときに気体と液体を含む流体の流速が遅くなると共に該分岐管の形状によって、該吸引面から吸引された該流体のうちの、該気体は分岐管の該上側の流出口に向かって進み該第1の吸引源で吸引させ液体は該分岐管の該下側の流出口に向かって下降して該第2の吸引源で吸引させ、該第2の吸引源の該排出口から排水させ、該吸引面の吸引力を維持させることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、分岐管の断面積を第1の配管の断面積よりも大きく形成して断面積に違いを生じさせることで、保持テーブルの吸引面から吸引された気体と液体の流速が第1の配管から分岐管に移ったときに遅くなる。この流速の低下により、気体は分岐管の上側の流出口に向かって進み、液体は自重によって分岐管の下側の流出口に向かって下降するため、気体と液体とが適切に分離される。分岐管で分離した液体が第2の吸引源に吸引されることで、保持テーブルの吸引面から気体と共に液体が吸引された場合であっても、被加工物を保持テーブルに吸引保持させる第1の吸引源による吸引力が維持される。よって、吸引力の強いポンプ等の大きな吸引設備を用いる必要がなく、第1の吸引源及び第2の吸引源に比較的吸引力の弱いエジェクタを用いることできる。よって、被加工物の吸引設備を小型化することができる。
また、本発明の切削装置においては、該分岐管が、該第1の配管の水平部分の途中で、該第1の吸引源に向かう上側の流出口と第2の吸引源に向かう該第1の配管の水平部分に対し垂直部分を有し該第1の配管の下側の流出口とに分岐する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分岐管の断面積を第1の配管の断面積よりも大きく形成して、気体と液体とを適切に分離することで、保持テーブルの吸引面から気体と共に液体が吸引されても被加工物に対する吸引力を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る切削装置の斜視図である。
図2】本実施の形態に係る保持テーブル及び吸引経路の模式図である。
図3】本実施の形態に係る切削装置によるドレス動作の遷移図である。
図4】本実施の形態に係るドレッサーボードに対するドレス順序の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態に係る切削装置について説明する。図1は、本実施の形態に係る切削装置の斜視図である。なお、本実施の形態に係る切削装置は、図1に示す構成に限定されない。ここでは、一対の切削ブレードを備えた切削装置を例示するが、この構成に限定されない。本発明は、被加工物としてドレッサーボードを用いて切削ブレードのドレッシングを行う切削装置であれば、どのような切削装置にも適用可能である。
【0012】
図1に示すように、切削装置1は、切削ブレード52を有する一対の切削手段5とワークWを保持したチャックテーブル3とを相対移動させてワークWを切削するように構成されている。ワークWは、ダイシングテープ97を介してリングフレーム98に支持された状態で切削装置1に搬入される。なお、ワークWは、シリコン、ガリウム砒素等の半導体基板に半導体デバイスが形成された半導体ウェーハでもよいし、セラミック、ガラス、サファイア系の無機材料基板に光デバイスが形成された光デバイスウェーハでもよい。なお、ワークWは、デバイス形成前の半導体基板や無機材料基板でもよい。
【0013】
切削装置1の基台2の上面中央は、X軸方向に延在するように矩形状に開口されており、この開口を覆うように移動板31及び防水カバー32が設けられている。移動板31上には、Z軸回りに回転可能なチャックテーブル3が設けられている。防水カバー32及び移動板31の下方には、チャックテーブル3をX軸方向に移動させる加工送り手段(不図示)が設けられている。チャックテーブル3の上面にはワークWを保持する保持面33が形成されている。チャックテーブル3の周囲には、ワークWの周囲のリングフレーム98を挟持固定する4つのクランプ部34が設けられている。
【0014】
また、移動板31上のチャックテーブル3の近傍には、吸引面41を有する保持テーブル4が設けられており、吸引面41には板状の被加工物としてのドレッサーボード91が吸引保持されている。保持テーブル4の吸引面41は、多数の吸引溝や吸引孔が形成されており、吸引面41に生じる負圧によってドレッサーボード91が吸引保持される。ドレッサーボード91は、グリーンカーボランダム(GC)、ホワイトアランダム(WA)系の砥粒をレジンボンド等のボンド剤で上面視矩形の板状に固めて成形される。ドレッサーボード91に切削ブレード52を切り込ませることで切削ブレード52がドレスされる。
【0015】
また、基台2の上面には、X軸方向に延在する開口を跨ぐように立設した門型の柱部21が設けられている。門型の柱部21には、一対の切削手段5をY軸方向に移動させるインデックス送り手段7と、一対の切削手段5をZ軸方向に移動させる切り込み送り手段8とが設けられている。インデックス送り手段7は、柱部21の前面に配置されたY軸方向に平行な一対のガイドレール71と、一対のガイドレール71にスライド可能に設置されたモータ駆動の一対のY軸テーブル72とを有している。切り込み送り手段8は、各Y軸テーブル72の前面に配置されたZ軸方向に平行な一対のガイドレール81と、一対のガイドレール81にスライド可能に設置されたモータ駆動のZ軸テーブル82とを有している。
【0016】
各Z軸テーブル82の下部には、ワークWを切削する切削手段5が設けられている。また、各Y軸テーブル72の背面側には、図示しないナット部が形成され、これらナット部にボールネジ73が螺合されている。また、各Z軸テーブル82の背面側には、図示しないナット部が形成され、これらナット部にボールネジ83が螺合されている。Y軸テーブル72用のボールネジ73、Z軸テーブル82用のボールネジ83の一端部には、それぞれ駆動モータ74、84が連結されている。これら駆動モータ74、84によりボールネジ73、83が回転駆動されることで、一対の切削手段5がガイドレール71、81に沿ってY軸方向及びZ軸方向に移動される。
【0017】
一対の切削手段5は、ハウジング51から突出したスピンドル(不図示)の先端に切削ブレード52を回転可能に装着して構成される。切削ブレード52は、例えば、ダイヤモンド砥粒をレジンボンドで固めて円板状に成形されている。また、切削手段5のハウジング51には、ワークWの上面を撮像する撮像手段53が設けられており、撮像手段53の撮像画像に基づいてワークWに対して切削ブレード52がアライメントされる。一対の切削手段5は、切削ノズル(不図示)からワークWに切削水を噴射しながら、切削ブレード52でワークWを切削する。
【0018】
このように構成された切削装置1では、切削ブレード52の切削に寄与した箇所から消耗し始めて切削ブレード52の先端形状が崩れるので、定期的に切削ブレード52の先端に対してドレッサーボード91を用いてドレスが実施される。切削ブレード52のドレスは、保持テーブル4の吸引面41で吸引保持するドレッサーボード91に切削水を供給させつつ、高速回転した切削ブレード52でドレッサーボード91を切削することで行われる。これにより、切削ブレード52が目立てされると共に、切削加工によって消耗した切削ブレード52の先端形状が整えられる。
【0019】
このとき、ドレッサーボード91と保持テーブル4の間には、砥粒の凹凸によって微細な隙間が空けられているが、微量の切削水が進入するだけであり、保持テーブル4の吸引力に悪影響を及ぼすことがない。しかしながら、ドレスが繰り返されてドレッサーボード91に凹状に反りが生じると、ドレッサーボード91と保持テーブル4の間に比較的大きな隙間が空けられて気体と共に切削水も吸引されて吸引力を維持できないおそれがある。このため、ドレッサーボード91の反りを抑えて保持テーブル4内への液体の進入を防いで吸引力を維持する構成が検討されているが、保持テーブル4が複雑な構成となってしまう。
【0020】
そこで、本発明者は、ドレッサーボード91が反った状態でも、ドレッサーボード91に対する吸引力を維持する構成を検討した。切削装置1では、吸引面41から吸引源に向かう管路の途中にT字形状の分岐管61(図2参照)を設けて気体の通る経路と切削水が通る経路を分け、一方の吸引源で気体を吸引してドレッサーボード91を保持すると共に、他方の吸引源で切削水を排水して吸引力の低下を抑えるようにしている。これにより、保持テーブル4から気体と共に液体が吸引されても、保持テーブル4の吸引力を維持できるため、ドレッサーボード91が反った状態でも、保持テーブル4にドレッサーボード91を吸引保持し続けることができる。
【0021】
以下、保持テーブルの吸引経路について詳細に説明する。図2は、本実施の形態に係る保持テーブル及び吸引経路の模式図である。なお、本実施の形態に係る保持テーブル及び吸引経路はこの構成に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0022】
保持テーブル4の下方には、ドレッサーボード91に対する保持テーブル4の吸引力を維持させる吸引力維持手段6が設けられている。吸引力維持手段6は、保持テーブル4の吸引面41を第1の吸引源64に連通させる第1の配管65と、第1の配管65の途中で第1の吸引源64に向かう上側の流出口62と第2の吸引源66に向かう下側の流出口63とに分岐するT字形状の分岐管61と、下側の流出口63と第2の吸引源66とを連通させる第2の配管67とを備えている。すなわち、第1の配管65の途中に設けた分岐管61によって、第1の吸引源64に向かう吸引経路と第2の吸引源66に向かう吸引経路に分岐されている。
【0023】
第1、第2の吸引源64、66は、いわゆるエジェクタであり、供給口11a、15aから供給されたエアが排出口11b、15bから排出される。供給口11a、15aにはそれぞれバルブ12、16を介してエア供給源13、17が接続されており、排出口11b、15bにはそれぞれ排気ボックス14、18が接続されている。また、供給口11a、15aと排出口11b、15bの中間部分には、断面積を狭めて供給口11a、15aから排出口11b、15bにエアを流通させて負圧を発生する負圧発生部11c、15cが形成されている。第1、第2の吸引源64、66の側面には、負圧発生部11c、15cに連通する吸引口11d、15dが形成されている。
【0024】
第1の配管65の吸引路は、吸引口11dを通じて第1の吸引源64の負圧発生部11cに連通している。エア供給源13から供給されたエアが供給口11aから排出口11bに流れることで、吸引口11dを通じて第1の配管65の吸引路から流体が引き寄せられる。同様に、第2の配管67の吸引路は、吸引口15dを通じて第2の吸引源66の負圧発生部15cに連通している。エア供給源17から供給されたエアが供給口15aから排出口15bに流れることで、吸引口15dを通じて第2の配管67の吸引路から流体が引き寄せられる。排出口11b、15bから排出された流体は、排気ボックス14、18のフィルタによって流体に混入する塵や水分が捕集される。
【0025】
このように、第1、第2の配管65、67の吸引路が負圧にされることで、保持テーブル4の吸引面41に吸引力が発生する。分岐管61の断面積S1は、第1の配管65の断面積S2より大きく形成されている。分岐管61の断面積と第1の配管65の断面積の違いによって、保持テーブル4の吸引面41から吸引された流体が第1の配管65から分岐管61に移ったときに流体の流速が遅くなる。よって、ドレッサーボード91に反りが生じて保持テーブル4の吸引面41からエア(気体)と切削水(液体)を含む流体が吸引されても、分岐管61での流体の流速の低下によってエアと切削水とが適切に分離される。
【0026】
そして、分岐管61の分岐形状によって、吸引面41から吸引されたエアは分岐管61の上側の流出口62に向かって進み、吸引面41から吸引された切削水は分岐管61の下側の流出口63に向かって自重によって下降する。分岐管61で分離された切削水は第2の吸引源66に吸引されて第2の配管67から排出されることで、第1の吸引源64による吸引面41の吸引力が維持される。よって、ドレッサーボード91に反りが生じても(図中2点鎖線)、第1の吸引源64による吸引面41の吸引力が低下することがなく、保持テーブル4にドレッサーボード91を吸引保持し続けることが可能になっている。
【0027】
次に図3及び図4を参照して、ドレッサーボードを用いた切削ブレードのドレスについて詳細に説明する。図3は、本実施の形態に係るドレス動作の遷移図である。図4は、本実施の形態に係るドレッサーボードに対する切削順序の説明図である。
【0028】
図3Aに示すように、バルブ12、16が開かれてエア供給源13、17からエアが供給され、第1、第2の吸引源64、66によって第1、第2の配管65、67内の流体が引き込まれる。第1、第2の吸引源64、66によって保持テーブル4の吸引面41に負圧が発生され、保持テーブル4上のドレッサーボード91が吸引面41に吸引保持される。そして、切削ブレード52によってドレッサーボード91の一端側から切り込まれて切削溝92が形成される。切削ブレード52によるドレッサーボード91に対する切り込みによって、切削ブレード52の外周面が目立てられると共に、切削ブレード52の先端形状が整えられる。
【0029】
ドレッサーボード91には、切削ブレード52による切り込みによって切削溝92が形成されるが、この切削溝92がドレッサーボード91の表面側にだけ形成されることでドレッサーボード91の表裏の応力バランスが崩れ始めている。しかしながら、このドレス動作の初期段階では、ドレッサーボード91の表面側の収縮力よりも、ドレッサーボード91自体の剛性や吸引面41による吸引力が強いため、ドレッサーボード91が反ることなく保持テーブル4上に保持される。よって、吸引面41を通じて第1、第2の吸引源64、66に切削水が引き込まれることがない。
【0030】
図3Bに示すように、切削ブレード52によるドレッサーボード91に対する切り込みが繰り返されるにつれて、ドレッサーボード91の表面側の収縮力が大きくなる。ドレッサーボード91の表面側の収縮力がドレッサーボード91自体の剛性や吸引面41による吸引力よりも強くなることでドレッサーボード91の応力バランスが完全に崩れて、ドレッサーボード91の一端側に反りが発生する。これにより、保持テーブル4の吸引面41とドレッサーボード91の下面との間に隙間が形成されて、この隙間から破線矢印に示すエアと実線矢印に示す切削水を含む流体が吸引面41に吸引される。
【0031】
吸引面41から吸引された流体は、保持テーブル4の内部流路42を通り、第1の配管65の途中に設けられた分岐管61に送られる。分岐管61の流路の断面積は第1の配管65の流路の断面積よりも大きく形成されており、第1の配管65から分岐管61に流体が入り込んだときに流体の速度が低下する。そして、流体内のエアは分岐管61を直進して上側の流出口62から第1の吸引源64に吸引され、流体内の切削水は分岐管61で自重によって下方に引き寄せられて下側の流出口63から第2の吸引源66に吸引される。このようにして、分岐管61においてエアと切削水とが適切に分離されて、それぞれ別々の吸引路で吸引される。
【0032】
このように、第2の吸引源66に主に切削水を吸引させて、第1の吸引源64にはエアを吸引させることで、第1の吸引源64による吸引力の低下を抑えている。よって、ドレッサーボード91に反りが生じて保持テーブル4の吸引面41からエアと切削水が吸引された場合であっても、切削水は第2の吸引源66に吸引させて第1の吸引源64にエアを吸引させ続けることができる。よって、吸引源として吸引ポンプ等の吸引力の強い吸引設備を設ける必要がなく、比較的吸引力の弱いエジェクタを用いてドレッサーボード91を吸引保持することができる。
【0033】
第1、第2の吸引源64、66として同一のエジェクタを使用してもよいし、第1、第2の吸引源64、66として吸引力の異なるエジェクタを使用してもよい。例えば、第1の吸引源64として既存のエジェクタを使用して、第2の吸引源66として少なくとも切削水を吸引可能な吸引力を有するエジェクタを使用してもよい。よって、第2の吸引源66として、第1の吸引源64よりも吸引力が弱い小型のエジェクタを使用することも可能である。このような構成であっても、第1の吸引源64の吸引力の低下が抑えられるため、ドレッサーボード91が反った場合でも適切に吸引保持し続けることができる。
【0034】
続いて、ドレッサーボード91に対する切削ブレード52のドレス順序について説明する。図4Aは、ドレッサーボード91の中央から両側に向かって、ドレッサーボード91を左右バランスよくドレスに使用する場合を示している。この場合、ドレッサーボード91の中央から切り込みを行い、ドレッサーボード91の切削溝92が左右一方に偏らないようにすることで、ドレッサーボード91の表面側の収縮力が部分的に強くならないようにしている。しかしながら、ドレッサーボード91に多数の切削溝92が形成されることで、ドレッサーボード91の両端に小さな反りが生じて、保持テーブル4とドレッサーボード91の間に隙間が形成される。
【0035】
保持テーブル4とドレッサーボード91の間に隙間が形成されても、ドレッサーボード91を吸引面41に吸引保持することができるが、ドレッサーボード91に反りが生じた箇所を切削ブレード52のドレスに使用することはできない。すなわち、このドレス順序では、切削ブレード52に切り込まれていないドレッサーボード91の両端側の領域A1を、切削ブレード52のドレスに使用することができない。よって、切削ブレード52のドレスに使用可能な残りの領域は、領域A1の内側の領域A2に限定されてしまう。このようなドレス順序ではドレッサーボード91を有効利用することはできない。
【0036】
図4Bは、板状のドレッサーボード91の一端側から順にドレスに使用する場合を示している。この場合、ドレッサーボード91の一端側から切り込みを行い、ドレッサーボード91の切削溝92が一端側に集中的に形成される。このため、早い段階でドレッサーボード91の応力バランスが崩れて、ドレッサーボード91の一端側に大きな反りが生じて、保持テーブル4の吸引面41とドレッサーボード91の下面との間に隙間が形成される。なお、ドレッサーボード91の一端側には切削溝92が既に形成されており、切削ブレード52のドレスに使用することはない。
【0037】
上記したように、保持テーブル4とドレッサーボード91の間に隙間が形成されても、ドレッサーボード91を吸引面41に吸引保持することができる。このとき、ドレッサーボード91に反りが生じた箇所は、既に切削ブレード52のドレスに使用した箇所であり、切削ブレード52のドレスに使用していない箇所には反りが生じていない。すなわち、このドレス順序では、ドレッサーボード91の既に切削溝92が形成した領域A3に反りが生じるため、反りが生じていない残りの領域A4を切削ブレード52のドレスに使用することができる。このようなドレス順序によりドレッサーボード91を有効活用することができる。
【0038】
本実施の形態のように、ドレッサーボード91が保持テーブル4上で反ることを前提とした構成では、図4Aに示すドレス順序よりも図4Bに示すドレス順序でドレスすることで、ドレッサーボード91の全体を有効活用することが可能になっている。
【0039】
以上のように、本実施の形態に係る切削装置1では、分岐管61の断面積を第1の配管65の断面積よりも大きく形成して断面積に違いを生じさせることで、保持テーブル4の吸引面41から吸引されたエアと切削水の流速が第1の配管65から分岐管61に移ったときに遅くなる。この流速の低下により、エアは分岐管61の上側の流出口62に向かって進み、切削水は自重によって分岐管61の下側の流出口63に向かって下降するため、エアと切削水とが適切に分離される。分岐管61で分離した切削水が第2の吸引源66に吸引されることで、保持テーブル4の吸引面41からエアと共に切削水が吸引された場合であっても、ドレッサーボード91を保持テーブル4に吸引保持させる第1の吸引源64による吸引力が維持される。よって、吸引量の大きいポンプ等の大きな吸引設備を用いる必要がなく、第1の吸引源64及び第2の吸引源66に比較的吸引量の小さいエジェクタを用いることできる。
【0040】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0041】
例えば、上記した実施の形態においては、第1、第2の吸引源64、66のそれぞれに対して個別にエア供給源13、17及びバルブ12、16を接続したが、この構成に限定されない。例えば、第1、第2の吸引源64、66に共通のエア供給源及びバルブを設けてもよい。第1、第2の吸引源64、66でエア供給源及びバルブを共通にすることにより、装置構成を簡略化することができる。このような構成でも、保持テーブル4上でドレッサーボード91に反りが生じた時の保持テーブル4における吸引力の低下を抑えることができる。
【0042】
また、上記した実施の形態においては、T字形状の分岐管61を使用したが、分岐管61の形状はT字形状に限定されない。分岐管61は、第1の配管65よりも断面積が大きく、上側の流出口62と下側の流出口63によって気体と液体を分離可能に分岐していればよい。例えば、分岐管61が斜め上方と斜め下方に分岐した横向きY字形状に形成されてもよいし、分岐管61が上下に分岐した横向きT字形状に形成されてもよい。また、分岐管61は、気体と液体を分離可能であれば二股以上に分岐されていてもよい。
【0043】
また、上記した実施の形態においては、切削装置1としてブレードダイシング用の切削装置を例示したが、この構成に限定されない。切削装置1は、エッジトリミング用の切削装置であってもよい。エッジトリミング用の切削装置の場合には、切削ブレードの先端をフラットに整形するフラットドレスが実施されてもよい。
【0044】
また、上記した実施の形態においては、被加工物としてドレッサーボード91を例示して説明したが、この構成に限定されない。被加工物は、保持テーブル4の吸引面41に保持される板状の物体であればよく、例えば、セットアップ用のサンプルとして使用されるダミーワークであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明は、保持テーブル上の被加工物に反りが生じても、被加工物に対する吸引力を維持できるという効果を有し、特に、ドレッサーボードを用いて切削ブレードのドレッシングを行う切削装置に有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 切削装置
4 保持テーブル
5 切削手段
6 吸引力維持手段
11a 第1の吸引源の供給口
11b 第1の吸引源の排出口
11c 第1の吸引源の負圧発生部
11d 第1の吸引源の吸引口
15a 第2の吸引源の供給口
15b 第2の吸引源の排出口
15c 第2の吸引源の負圧発生部
15d 第2の吸引源の吸引口
41 保持テーブルの吸引面
52 切削ブレード
61 分岐管
62 分岐管の上側の流出口
63 分岐管の下側の流出口
64 第1の吸引源(エジェクタ)
65 第1の配管
66 第2の吸引源(エジェクタ)
67 第2の配管
91 ドレッサーボード(被加工物)
W ワーク
図1
図2
図3
図4