(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複合酸化物が、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン25〜65モル%、酸化ホウ素5〜45モル%及び酸化ビスマス25〜35モル%を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
複合酸化物が、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン15〜40モル%、酸化ホウ素25〜45モル%及び酸化ビスマス25〜60モル%を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書では、「結晶系シリコン」は単結晶及び多結晶シリコンを包含する。また、「結晶系シリコン基板」とは、電気素子又は電子素子の形成のために、結晶系シリコンを平板状など、素子形成に適した形状に成形した材料のことをいう。結晶系シリコンの製造方法は、どのような方法を用いても良い。例えば、単結晶シリコンの場合にはチョクラルスキー法、多結晶シリコンの場合にはキャスティング法を用いることができる。また、その他の製造方法、例えばリボン引き上げ法により作製された多結晶シリコンリボン、ガラス等の異種基板上に形成された多結晶シリコンなども結晶系シリコン基板として用いることができる。また、「結晶系シリコン太陽電池」とは、結晶系シリコン基板を用いて作製された太陽電池のことをいう。
【0028】
太陽電池特性を表す指標として、光照射下での電流−電圧特性の測定から得られる変換効率(η)、開放電圧(Voc:Open Circuit Voltage)、短絡電流(Isc:Short Circuit Current)及び曲線因子(フィルファクター、以下、「FF」ともいう)を用いることが一般的である。また、特に電極の性能を評価する際には、電極と、結晶系シリコンの不純物拡散層との間の電気抵抗である接触抵抗を用いることができる。不純物拡散層(エミッタ層ともいう。)とは、p型又はn型の不純物を拡散した層であって、ベースとなるシリコン基板中の不純物濃度よりも高濃度となるように不純物を拡散させた層である。本明細書において、「一の導電型」とはp型又はn型の導電型を意味し、「他の導電型」とは、「一の導電型」とは異なる導電型を意味する。例えば、「一の導電型の結晶系シリコン基板」がp型結晶系シリコン基板である場合には、「他の導電型の不純物拡散層」はn型不純物拡散層(n型エミッタ層)である。
【0029】
本発明の導電性ペーストは、導電性粉末と、複合酸化物と、有機ビヒクルとを含む結晶系シリコン太陽電池の電極形成用導電性ペーストである。本発明の導電性ペーストの複合酸化物は、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含む。本発明の導電性ペーストを半導体デバイス、例えば結晶系シリコン太陽電池の電極形成に用いることにより、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼさずに、結晶系シリコン基板に対して低接触抵抗の電極を形成することができる。
【0030】
本発明の導電性ペーストは、導電性粉末を含む。導電性粉末としては、任意の単元素又は合金の金属粉末を用いることができる。金属粉末としては、例えば、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛及びスズからなる群より選択される1種以上を含む金属粉末を用いることができる。金属粉末としては、単一元素の金属粉末又はこれらの金属の合金粉末等を用いることができる。
【0031】
本発明の導電性ペーストに含まれる導電性粉末としては、銀、銅及びそれらの合金から選択される1種以上を含む導電性粉末を用いることが好ましい。その中でも特に、銀を含む導電性粉末を用いることがより好ましい。銅粉末は、比較的低価格であり、高い導電率を有するため、電極材料として好ましい。また、銀粉末は、導電率が高く、多くの結晶系シリコン太陽電池用の電極として、従来から用いられており、信頼性が高い。本発明の導電性ペーストの場合も、導電性粉末として、特に銀粉末を用いることにより、信頼性が高く、高性能の結晶系シリコン太陽電池を製造することができる。そのため、銀粉末を、導電性粉末の主要成分として用いることが好ましい。なお、本発明の導電性ペーストには、太陽電池電極の性能が損なわれない範囲で、銀以外の他の金属粉末又は銀との合金粉末を含むことができる。しかしながら、低い電気抵抗及び高い信頼性を得る点から、導電性粉末は銀粉末を導電性粉末全体に対して80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことがより好ましく、導電性粉末は銀粉末からなることがさらに好ましい。
【0032】
銀粉末等の導電性粉末の粒子形状及び粒子寸法は、特に限定されない。粒子形状としては、例えば、球状及びリン片状等のものを用いることができる。粒子寸法は、一粒子の最長の長さ部分の寸法をいう。導電性粉末の粒子寸法は、作業性の点等から、0.05〜20μmであることが好ましく、0.1〜5μmであることがさらに好ましい。
【0033】
一般的に、多数の微小な粒子の寸法は一定の分布を有するので、すべての粒子が上記の粒子寸法である必要はなく、全粒子の積算値50%の粒子寸法(平均粒径:D50)が上記の粒子寸法の範囲であることが好ましい。本明細書に記載されている導電性粉末以外の粒子の寸法についても同様である。なお、平均粒径は、マイクロトラック法(レーザー回折散乱法)によって粒度分布測定を行い、粒度分布測定の結果からD50値を得ることにより求めることができる。
【0034】
また、銀粉末等の導電性粉末の大きさを、BET値(BET比表面積)として表すことができる。導電性粉末のBET値は、好ましくは0.1〜5m
2/g、より好ましくは0.2〜2m
2/gである。
【0035】
本発明の導電性ペーストは、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含む複合酸化物を含む。本発明の導電性ペーストに含まれる複合酸化物は、粒子状の複合酸化物の形態、すなわちガラスフリットの形態とすることができる。
【0036】
図2に、非特許文献1(R. Iordanova, et al., Journal of Non-Crystalline Solids, 357 (2011) pp. 2663-2668)に記載されている酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスからなる三元系ガラスの三元組成図に基づく説明図を示す。酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスからなるガラスのガラス化が可能な組成は、
図2に「ガラス化可能領域」として示す灰色に着色された組成領域である。
図2の「ガラス化不可領域」として示す組成領域の組成では、ガラス化することができないため、このような組成の複合酸化物はガラスとして存在できない。したがって、本発明の導電性ペーストに用いることができる酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含む複合酸化物は、
図2に示す「ガラス化可能領域」内の組成の複合酸化物である。酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含む複合酸化物は、組成にもよるが、ガラス転移点が380〜420℃、融点が420〜540℃程度である。
【0037】
本発明の導電性ペーストに含まれる複合酸化物は、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン25〜65モル%、酸化ホウ素5〜45モル%及び酸化ビスマス25〜35モル%を含む組成範囲とすることが好ましい。
図2では、この組成範囲を、領域1の組成範囲として示している。酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの組成範囲を領域1の組成範囲とすることにより、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼさずに、所定の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極と、不純物拡散層との間の接触抵抗が低く、良好な電気的接触を得ることを確実にできる。
【0038】
所定の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極と、不純物拡散層との間の接触抵抗をより低くするために、複合酸化物中の酸化モリブデンは、
図2の領域1の組成範囲において、より好ましくは35〜65モル%、さらに好ましくは40〜60モル%であることができる。また、同様の理由から、複合酸化物中の酸化ビスマスは、
図2の領域1の組成範囲において、より好ましくは28〜32モル%であることができる。
【0039】
本発明の導電性ペーストに含まれる複合酸化物は、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン15〜40モル%、酸化ホウ素25〜45モル%及び酸化ビスマス25〜60モル%を含む組成範囲とすることが好ましい。
図2では、この組成範囲を、領域2の組成範囲として示している。酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの組成範囲を領域2の組成範囲とすることにより、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼさずに、所定の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極と、不純物拡散層との間の接触抵抗が低く、良好な電気的接触を得ることを確実にできる。
【0040】
所定の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極と、不純物拡散層との間の接触抵抗を低くすることを確実にするために、複合酸化物中の酸化モリブデンは、
図2の領域2の組成範囲において、好ましくは20〜40モル%であることができる。また、同様の理由から、複合酸化物中の酸化ホウ素は、
図2の領域2の組成範囲において、好ましくは20〜40モル%であることができる。
【0041】
本発明の導電性ペーストに含まれる複合酸化物は、複合酸化物100モル%中、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を90モル%以上、好ましくは95モル%以上含むことが好ましい。酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの3成分を所定割合以上にすることにより、所定の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極と、不純物拡散層との間の接触抵抗が低く、良好な電気的接触を得ることを、より確実にできる。
【0042】
本発明の導電性ペーストに含まれる複合酸化物は、複合酸化物100重量%中、酸化チタン0.1〜6モル%、好ましくは、0.1〜5モル%をさらに含むことが好ましい。複合酸化物が所定の割合の酸化チタンをさらに含むことにより、より良好な電気的接触を得ることができる。
【0043】
本発明の導電性ペーストに含まれる複合酸化物は、複合酸化物100重量%中、酸化亜鉛0.1〜3モル%、好ましくは、0.1〜2.5モル%をさらに含むことが好ましい。複合酸化物が所定の割合の酸化亜鉛をさらに含むことにより、さらに良好な電気的接触を得ることができる。
【0044】
本発明の導電性ペーストは、導電性粉末100重量部に対し、複合酸化物を好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜8重量部含むことができる。非導電性の複合酸化物が電極中に多く存在する場合には、電極の電気抵抗が上昇することになる。本発明の導電性ペーストの複合酸化物が所定の範囲の添加量であることにより、形成される電極の電気抵抗の上昇を抑制することができる。
【0045】
本発明の導電性ペーストの複合酸化物は、上述の酸化物以外にも、複合酸化物の所定の性能を失わない範囲において、任意の酸化物を含むことができる。例えば、本発明の導電性ペーストの複合酸化物は、Al
2O
3、P
2O
5、CaO、MgO、ZrO
2、Li
2O
3、Na
2O
3、CeO
2、SnO
2及びSrO等から選択される酸化物を適宜含むことができる。
【0046】
複合酸化物の粒子の形状は特に限定されず、例えば球状、不定形等のものを用いることができる。また、粒子寸法も特に限定されないが、作業性の点等から、粒子寸法の平均値(D50)は0.1〜10μmの範囲が好ましく、0.5〜5μmの範囲がさらに好ましい。
【0047】
本発明の導電性ペーストに含まれることができる複合酸化物は、例えば以下の方法により製造することができる。
【0048】
まず、原料となる酸化物の粉末を計量し、混合して、るつぼに投入する。このるつぼを、加熱したオーブンに入れ、(るつぼの内容物を)溶融温度(Melt temperature)まで昇温し、溶融温度で原料が充分に溶融するまで維持する。次に、るつぼをオーブンから取り出し、溶融した内容物を均一に撹拌し、るつぼの内容物をステンレス製の2本ロールを用いて室温で急冷して、板状のガラスを得る。最後に板状のガラスを乳鉢で粉砕しながら均一に分散し、メッシュのふるいでふるい分けることによって所望の粒子寸法を持った複合酸化物を得ることができる。100メッシュのふるいを通過し200メッシュのふるい上に残るものにふるい分けることによって、平均粒径149μm(メジアン径、D50)の複合酸化物を得ることができる。なお、複合酸化物の大きさは、上記の例に限定されるものではなく、ふるいのメッシュの大きさによって、より大きな平均粒径又はより小さな平均粒径を有する複合酸化物を得ることができる。この複合酸化物をさらに粉砕することにより、所定の平均粒径(D50)の複合酸化物を得ることができる。
【0049】
本発明の導電性ペーストは、有機ビヒクルを含む。
【0050】
本発明の導電性ペーストに含まれる有機ビヒクルとしては、有機バインダ及び溶剤を含むことができる。有機バインダ及び溶剤は、導電性ペーストの粘度調整等の役割を担うものであり、いずれも特に限定されない。有機バインダを溶剤に溶解させて使用することもできる。
【0051】
有機バインダとしては、セルロース系樹脂(例えばエチルセルロース、ニトロセルロース等)、(メタ)アクリル系樹脂(例えばポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート等)から選択して用いることができる。有機バインダの添加量は、導電性粉末100重量部に対し、通常0.2〜30重量部であり、好ましくは0.4〜5重量部である。
【0052】
溶剤としては、アルコール類(例えばターピネオール、α−ターピネオール、β−ターピネオール等)、エステル類(例えばヒドロキシ基含有エステル類、2,2,4―トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート、ブチルカルビトールアセテート等)から1種又は2種以上を選択して使用することができる。溶剤の添加量は、導電性粉末100重量部に対し、通常0.5〜30重量部であり、好ましくは5〜25重量部である。
【0053】
本発明の導電性ペーストには、添加剤として、可塑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、安定剤及び密着促進剤などから選択したものを、必要に応じてさらに配合することができる。これらのうち、可塑剤としては、フタル酸エステル類、グリコール酸エステル類、リン酸エステル類、セバチン酸エステル類、アジピン酸エステル類及びクエン酸エステル類などから選択したものを用いることができる。
【0054】
次に、本発明の導電性ペーストの製造方法について説明する。
【0055】
本発明の導電性ペーストの製造方法は、導電性粉末と、複合酸化物と、有機ビヒクルとを混合する工程を有する。本発明の導電性ペーストは、有機バインダ及び溶剤に対して、導電性粉末、上述の複合酸化物、並びに、場合によりその他の添加剤及び添加粒子を、添加し、混合し、分散することにより製造することができる。
【0056】
混合は、例えばプラネタリーミキサーで行うことができる。また、分散は、三本ロールミルによって行うことができる。混合及び分散は、これらの方法に限定されるものではなく、公知の様々な方法を使用することができる。
【0057】
本発明は、上述の導電性ペーストを用いる、結晶系シリコン太陽電池の製造方法である。
【0058】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、上述の本発明の導電性ペーストを、n型又はp型結晶系シリコンからなる結晶系シリコン基板1の不純物拡散層4上に印刷し、乾燥し、及び焼成することによって電極を形成する工程を含む。以下、本発明の太陽電池の製造方法について、さらに詳しく説明する。
【0059】
図1は、光入射側及び裏面側の両方に電極(光入射側電極20及び裏面電極15)を有する結晶系シリコン太陽電池の、光入射側電極20付近の断面模式図を示す。
図1に示す結晶系シリコン太陽電池は、光入射側に形成された光入射側電極20、反射防止膜2、不純物拡散層4(例えば、n型不純物拡散層4)、結晶系シリコン基板1(例えばp型結晶系シリコン基板1)及び裏面電極15を有する。
【0060】
具体的には、本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、一の導電型の結晶系シリコン基板1を用意する工程と、結晶系シリコン基板1の一方の表面に、他の導電型の不純物拡散層4を形成する工程と、不純物拡散層4の表面に、反射防止膜2を形成する工程と、上述の本発明の導電性ペーストを、反射防止膜2の表面に印刷し、及び焼成することによって光入射側電極20を形成する工程とを含む。
【0061】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、一の導電型(p型又はn型の導電型)の結晶系シリコン基板1を用意する工程を含む。結晶系シリコン基板1としては、例えば、B(ボロン)ドープのp型単結晶シリコン基板を用いることができる。
【0062】
なお、高い変換効率を得るという観点から、結晶系シリコン基板1の光入射側の表面は、ピラミッド状のテクスチャ構造を有することが好ましい。
【0063】
次に、本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、上述の工程で用意した結晶系シリコン基板1の一方の表面に、他の導電型の不純物拡散層4を形成する工程を含む。例えば結晶系シリコン基板1として、p型単結晶シリコン基板を用いる場合には、不純物拡散層4としてn型不純物拡散層4を形成することができる。不純物拡散層4は、シート抵抗が60〜140Ω/□、好ましくは80〜120Ω/□となるように形成することができる。本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法では、後の工程で緩衝層30を形成する。緩衝層30が存在することにより、導電性ペーストを焼成する際に、導電性ペースト中の成分又は不純物(太陽電池性能に対して悪影響を及ぼす成分又は不純物)が、不純物拡散層4へ拡散することを防止することができると考えられる。したがって、本発明の結晶系シリコン太陽電池では、従来の不純物拡散層4より浅い(シート抵抗の高い)不純物拡散層4である場合であっても、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼさずに、結晶系シリコン基板1に対して低接触抵抗の電極を形成することができる。具体的には、本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法において、不純物拡散層4を形成する深さは、150nm〜300nmとすることができる。なお、不純物拡散層4の深さとは、不純物拡散層4の表面からpn接合までの深さをいう。pn接合の深さは、不純物拡散層4の表面から、不純物拡散層4中の不純物濃度が10
16cm
−3となるまでの深さとすることができる。
【0064】
次に、本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、上述の工程で形成した不純物拡散層4の表面に、反射防止膜2を形成する工程を含む。反射防止膜2としては、シリコン窒化膜(SiN膜)を形成することができる。シリコン窒化膜を反射防止膜2として用いる場合には、シリコン窒化膜が表面パッシベーション膜としての機能も有する。そのため、シリコン窒化膜を反射防止膜2として用いる場合には、高性能能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。シリコン窒化膜は、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法などにより、成膜することができる。
【0065】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、上述の本発明の導電性ペーストを、上述のようにして形成した反射防止膜2の表面に印刷し、及び焼成することによって光入射側電極20を形成する工程を含む。具体的には、まず、本発明の導電性ペーストを用いて印刷した電極パターンを、100〜150℃程度の温度で数分間(例えば0.5〜5分間)乾燥する。なお、このとき、裏面電極15の形成のため、裏面に対しても所定の裏面電極15用の導電性ペーストをほぼ全面に印刷し、乾燥することが好ましい。
【0066】
その後、導電性ペーストを乾燥したものを、管状炉などの焼成炉を用いて大気中で、上述の焼成条件と同様の条件で焼成する。この場合にも、焼成温度は、400〜850℃、好ましくは450〜820℃であることが好ましい。焼成の際は、光入射側電極20及び裏面電極15を形成するための導電性ペーストを同時に焼成し、両電極を同時に形成することが好ましい。
【0067】
上述のような製造方法によって、本発明の結晶系シリコン太陽電池を製造することができる。本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法によれば、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼさずに、特にn型不純物を拡散した不純物拡散層4(n型不純物拡散層4)に対して、低い接触抵抗の電極(光入射側電極20)を得ることができる。
【0068】
具体的には、上述の本発明の導電性ペーストを用いる結晶系シリコン太陽電池の製造方法によって、電極の接触抵抗が350mΩ・cm
2以下、好ましくは100mΩ・cm以下、より好ましくは25mΩ・cm
2以下、さらに好ましくは10mΩ・cm
2以下である結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。なお、一般的に、電極の接触抵抗が100mΩ・cm
2以下である場合には、単結晶シリコン太陽電池の電極として使用可能である。また、電極の接触抵抗が350mΩ・cm
2以下である場合には、結晶系シリコン太陽電池の電極として使用できる可能性がある。しかしながら、接触抵抗が350mΩ・cm
2超である場合には、結晶系シリコン太陽電池の電極として使用することは困難である。本発明の導電性ペーストを用いて電極を形成することにより、良好な性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。
【0069】
以上の説明では、
図1に示す結晶系シリコン太陽電池のように、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30を含む結晶系シリコン太陽電池を例に説明したが、本発明はこれに限られない。本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法は、結晶系シリコン太陽電池の裏面に、正負両電極が形成される結晶系シリコン太陽電池(裏面電極型の結晶系シリコン太陽電池)を製造する場合にも、適用することができる。
【0070】
本発明の裏面電極型の結晶系シリコン太陽電池の製造方法では、初めに、一の導電型の結晶系シリコン基板1を用意する。次に、結晶系シリコン基板1の一方の表面である裏面の少なくとも一部に、一の導電型及び他の導電型の不純物拡散層を、それぞれ櫛状に、互いに入り込むように形成する。次に、不純物拡散層の表面に、窒化ケイ素薄膜を形成する。次に、上述の本発明の導電性ペーストを、一の導電型及び他の導電型の不純物拡散層が形成された領域に対応する反射防止膜2の表面の少なくとも一部に印刷し、及び焼成することによって、一の導電型及び他の導電型の不純物拡散層に、それぞれ電気的に接続する二つの電極を形成する。以上の工程により、裏面電極型の結晶系シリコン太陽電池を製造することができる。導電性ペーストの焼成は、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30を含む結晶系シリコン太陽電池の製造方法と同様の条件で行うことができる。
【0071】
次に、本発明の結晶系シリコン太陽電池の製造方法によって製造された結晶系シリコン太陽電池の構造(以下、単に、「本発明の結晶系シリコン太陽電池」ともいう。)について説明する。
【0072】
本発明者らは、所定の組成の複合酸化物24を含む本発明の導電性ペーストを用いて電極を形成した場合には、光入射側電極20と、結晶系シリコン基板1との間であって、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に、特殊な構造の緩衝層30が形成されることによって結晶系シリコン太陽電池の性能が向上することを見出した。
【0073】
具体的には、本発明者らは、試作した本発明の結晶系シリコン太陽電池の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって詳細に観察した。本発明の結晶系シリコン太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡写真を
図4に示す。比較のため、従来の太陽電池電極形成用の導電性ペーストを用いて製造した、従来の構造の結晶系シリコン太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡写真を
図3に示す。
図4に示すように、本発明の結晶系シリコン太陽電池の場合には、光入射側電極20中の銀22と、p型結晶系シリコン基板1とが接触している部分が、
図3に示す比較例の結晶系シリコン太陽電池の場合よりはるかに多いことは明らかである。本発明の結晶系シリコン太陽電池の構造は、従来の構造の結晶系シリコン太陽電池と比べて異なる構造を有するものであるといえる。
【0074】
本発明者らは、さらに、本発明の結晶系シリコン太陽電池の、結晶系シリコン基板1と、光入射側電極20との界面付近の構造を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて詳細に観察した。
図5に、本発明の結晶系シリコン太陽電池の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示す。また、
図6に、
図5のTEM写真の説明図を示す。
図5及び
図6を参照すると、本発明の結晶系シリコン太陽電池の場合、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30が形成されている。以下、本発明の結晶系シリコン太陽電池の構造について、具体的に説明する。
【0075】
本発明の結晶系シリコン太陽電池は、一の導電型の結晶系シリコン基板1と、結晶系シリコン基板1の光入射側表面に形成された光入射側電極20及び反射防止膜2と、結晶系シリコン基板1の光入射側表面とは反対側の裏面に形成された裏面電極15とを有する結晶系シリコン太陽電池である。一の導電型の結晶系シリコン基板1の一方の表面が、他の導電型の不純物拡散層4を有する。
【0076】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極20は、銀22及び複合酸化物24を含む。複合酸化物24は、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含むことが好ましい。本発明の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極20は、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含む複合酸化物を含む導電性ペーストを焼成することにより得ることができる。複合酸化物24が、酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの3成分を含むことにより、本発明の高性能の結晶系シリコン太陽電池の構造を確実に得ることができる。
【0077】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極20と、結晶系シリコン基板1との間であって、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30をさらに含む。緩衝層30は、結晶系シリコン基板1から光入射側電極20に向かって、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34をこの順で含む。「光入射側電極20の直下の緩衝層30」とは、
図1のように光入射側電極20を上側、結晶系シリコン基板1を下側と見たときに、光入射側電極20の結晶系シリコン基板1(下側)方向に、光入射側電極20と接するように緩衝層30が存在していることを意味する。結晶系シリコン基板1が所定の緩衝層30を有することにより、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。なお、本発明の結晶系シリコン太陽電池において、緩衝層30は、光入射側電極20の直下のみに形成され、光入射側電極20が存在しない部分には形成されていない。
【0078】
緩衝層30中の酸窒化ケイ素膜32は、具体的にはSiO
xN
y膜である。緩衝層30中の酸化ケイ素膜34は、具体的にはSiO
z膜(一般的にz=1〜2)である。また、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34の膜厚は、それぞれ、20〜80nm、好ましくは30〜70nm、より好ましくは40〜60nm、具体的には約50nmであることができる。また、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34を含む緩衝層30の厚さは、40〜160nm、好ましくは60〜140nm、より好ましくは80〜120nm、さらに好ましくは90〜110nm、具体的には約100nmであることができる。酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34、並びにそれらを含む緩衝層30が、上述の組成及び厚さの範囲であることにより、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることが確実にできる。
【0079】
緩衝層30を形成するための、非限定的であるが、確実な形成方法の一例として、次の方法がある。すなわち、緩衝層30は、上述の酸化モリブデン、酸化ホウ素及び酸化ビスマスを含む複合酸化物を含む導電性ペーストを用いて光入射側電極20のパターンを結晶系シリコン基板1上に印刷し、焼成することにより形成することができる。
【0080】
光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30を含むことによって、高性能な結晶系シリコン太陽電池を得ることができる理由を推測するならば、次の通りである。なお、本推測は、本発明を限定するものではない。すなわち、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34は絶縁膜であるものの、何らかの形で、単結晶シリコン基板1と、光入射側電極20との間の電気的接触に寄与しているものと考えられる。また、緩衝層30は、導電性ペーストを焼成する際に、導電性ペースト中の成分又は不純物(太陽電池性能に対して悪影響を及ぼす成分又は不純物)が、不純物拡散層4へ拡散することを防止する役割を担うものであると考えられる。すなわち、緩衝層30は、電極形成のための焼成の際に、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼすことを防止することができるものと考えられる。したがって、結晶系シリコン太陽電池が、光入射側電極20と、結晶系シリコン基板1との間であって、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34をこの順で含む緩衝層30を有する構造であることにより、高い性能の結晶系シリコン太陽電池特性を得ることができるものと推測できる。
【0081】
上述のように、緩衝層30は、導電性ペースト中の成分又は不純物(太陽電池性能に対して悪影響を及ぼす不純物)が、不純物拡散層4へ拡散することを防止する役割を担うものと考えられる。したがって、導電性ペースト中の導電性粉末を構成する金属の種類が、不純物拡散層4へ拡散することによって太陽電池特性に悪影響を及ぼす金属の種類である場合には、緩衝層30の存在によって、太陽電池特性に対する悪影響を防止することができる。例えば、銀より銅の方が、不純物拡散層4へ拡散することによって太陽電池特性に悪影響を及ぼす傾向が大きい。したがって、導電性ペーストの導電性粉末として、比較的安価な銅を使用する場合には、緩衝層30の存在による太陽電池特性に対する悪影響を防止するという効果が、特に顕著となる。
【0082】
また、本発明の結晶系シリコン太陽電池は、光入射側電極20が、不純物拡散層4と電気的接触をするためのフィンガー電極部と、フィンガー電極部及び外部へ電流を取り出すための導電性リボンに対して電気的接触をするためのバスバー電極部とを含み、緩衝層30が、フィンガー電極部と、結晶系シリコン基板1との間であって、フィンガー電極部の直下の少なくとも一部に形成されることが好ましい。フィンガー電極部は、不純物拡散層4からの電流を集電する役割を担う。そのため、緩衝層30がフィンガー電極部の直下に形成される構造を有することにより、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることを、より確実にできる。バスバー電極部は、フィンガー電極部に集電された電流を導電性リボンに対して流す役割を担う。バスバー電極部は、フィンガー電極部と、導電性リボンとの良好な電気的接触を有することが必要であるが、バスバー電極部の直下の緩衝層30は必ずしも必要とはされない。
【0083】
本発明の結晶系シリコン太陽電池は、緩衝層30が、導電性微粒子を含むことが好ましい。導電性微粒子は導電性を有するため、緩衝層30が導電性微粒子を含むことにより、電極と、結晶系シリコンの不純物拡散層4との間の接触抵抗を、より低減することができる。そのため、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。
【0084】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の緩衝層30に含まれる導電性微粒子の粒径は、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下、さらに好ましくは10nm以下であることができる。緩衝層30に含まれる導電性微粒子が所定の粒径であることにより、導電性微粒子を緩衝層30内に安定して存在させることができ、光入射側電極20と、結晶系シリコン基板1の不純物拡散層4との間の接触抵抗を、より低減することができる。
【0085】
本発明の結晶系シリコン太陽電池は、導電性微粒子が、緩衝層30の酸化ケイ素膜34中のみに存在することが好ましい。導電性微粒子が、緩衝層30の酸化ケイ素膜34中のみに存在することにより、より高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができるものと推測できる。したがって、導電性微粒子は、酸窒化ケイ素膜32中には存在せず、酸化ケイ素膜34中のみに存在することが好ましい。
【0086】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の緩衝層30に含まれる導電性微粒子は、銀微粒子36であることが好ましい。結晶系シリコン太陽電池の製造の際に、導電性粉末として銀粉末を用いる場合には、緩衝層30内の導電性微粒子が銀微粒子36となる。この結果、信頼性が高く、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。
【0087】
本発明の結晶系シリコン太陽電池の緩衝層30の面積は、結晶系シリコン基板1の直下の面積の5%以上、好ましくは10%以上であることが好ましい。上述のように、結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30を含むことにより、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることを確実にできる。光入射側電極20の直下に緩衝層30が存在する面積が所定割合以上の場合には、高性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることをより確実にできる。
【0088】
以上の説明では、
図1に示す結晶系シリコン太陽電池の場合にはp型結晶系シリコン基板1を結晶系シリコン基板1として用いた例について主に説明したが、結晶系シリコン太陽電池用基板としてn型結晶系シリコン基板1を用いることも可能である。その場合には、不純物拡散層4として、n型不純物拡散層の代わりに、p型不純物拡散層を配置する。本発明の導電性ペーストを用いるならば、p型不純物拡散層及びn型不純物拡散層のいずれにも、低い接触抵抗の電極を形成することができる。
【0089】
以上の説明では、
図1に示す結晶系シリコン太陽電池のように、光入射側電極20の直下の少なくとも一部に緩衝層30を含む場合を例に説明したが、本発明はこれに限られない。本発明の製造方法により、裏面電極型の結晶系シリコン太陽電池を製造した場合にも、所定の裏面電極15直下の少なくとも一部に緩衝層30を形成することができる。この結果、高性能の裏面電極型の結晶系シリコン太陽電池を得ることができる。
【0090】
以上の説明では結晶系シリコン太陽電池を製造する場合を例に説明したが、本発明は、太陽電池以外のデバイスの電極形成の場合にも応用可能である。例えば、上述の本発明の導電性ペーストは、太陽電池以外の、一般的な結晶系シリコン基板1を用いたデバイス、例えば半導体素子及び光発光素子(LED)などの電極形成用導電性ペーストとして用いることができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
実験1として、本発明の導電性ペーストを用いて単結晶シリコン太陽電池を試作し、太陽電池特性を測定した。また、実験2として、本発明の導電性ペーストを用いて接触抵抗測定用電極の作製し、形成した電極と、単結晶シリコン基板の不純物拡散層4との間の接触抵抗を測定することにより、本発明の導電性ペーストの使用の可否を判定した。また、実験3として、試作した単結晶シリコン太陽電池の断面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することによって、本発明の結晶系シリコン太陽電池の構造を明らかにした。さらに実験4〜実験6により、本発明の導電性ペーストを用いて製造した単結晶シリコン太陽電池の電気的特性について評価した。
【0093】
<導電性ペーストの材料及び調製割合>
実験1の単結晶シリコン太陽電池の試作、及び実験2の接触抵抗測定用電極の作製に用いた導電性ペーストの組成は、下記の通りである。
・導電性粉末: Ag(100重量部)。球状、BET値が1.0m
2/g、平均粒径D50が1.4μmのものを用いた。
・有機バインダ: エチルセルロース(2重量部)、エトキシ含有量48〜49.5重量%のものを用いた。
・可塑剤: オレイン酸(0.2重量部)を用いた。
・溶剤: ブチルカルビトール(5重量部)を用いた。
・複合酸化物(ガラスフリット): 表1に、実施例1、実施例2及び比較例1〜6の単結晶シリコン太陽電池の製造に用いた複合酸化物(ガラスフリット)の種類(A1、A2、B1、B2、C1、C2、D1及びD2)を示す。表2に、複合酸化物(ガラスフリット)A1、A2、D1及びD2の具体的な組成を示す。なお、導電性ペースト中の複合酸化物の重量割合は、2重量部とした。また、複合酸化物として、ガラスフリットの形状のものを用いた。ガラスフリットの平均粒径D50は2μmとした。本実施例では、複合酸化物をガラスフリットともいう。
【0094】
複合酸化物の製造方法は、以下の通りである。
【0095】
表1に示す原料となる酸化物の粉末(ガラスフリット成分)を計量し、混合して、るつぼに投入した。なお、表2に複合酸化物(ガラスフリット)A1、A2、D1及びD2の具体的な配合割合を例示する。このるつぼを、加熱したオーブンに入れ、(るつぼの内容物を)溶融温度(Melt temperature)まで昇温し、溶融温度で原料が充分に溶融するまで維持した。次に、るつぼをオーブンから取り出し、溶融した内容物を均一に撹拌し、るつぼの内容物をステンレス製の2本ロールを用いて室温で急冷して、板状のガラスを得た。最後に板状のガラスを乳鉢で粉砕しながら均一に分散し、メッシュのふるいでふるい分けることによって所望の粒子寸法を持った複合酸化物を得ることができた。100メッシュのふるいを通過し200メッシュのふるい上に残るものにふるい分けることによって、平均粒径149μm(メジアン径、D50)の複合酸化物を得ることができた。さらに、この複合酸化物をさらに粉砕することにより、平均粒径D50が2μmの複合酸化物を得ることができた。
【0096】
次に、上述の、導電性粉末及び複合酸化物等の材料を用いて、導電性ペーストを調製した。具体的には、上述の所定の調製割合の材料を、プラネタリーミキサーで混合し、さらに三本ロールミルで分散し、ペースト化することによって導電性ペーストを調製した。
【0097】
<実験1:単結晶シリコン太陽電池の試作>
実験1として、調製した導電性ペーストを用いて単結晶シリコン太陽電池を試作し、その特性を測定することによって、本発明の導電性ペーストの評価を行った。単結晶シリコン太陽電池の試作方法は次の通りである。
【0098】
基板は、B(ボロン)ドープのp型単結晶シリコン基板(基板厚み200μm)を用いた。
【0099】
まず、上記基板に酸化ケイ素層約20μmをドライ酸化で形成後、フッ化水素、純水及びフッ化アンモニウムを混合した溶液でエッチングし、基板表面のダメージを除去した。さらに、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液で重金属洗浄を行った。
【0100】
次に、この基板表面にウェットエッチングによってテクスチャ(凸凹形状)を形成した。具体的にはウェットエッチング法(水酸化ナトリウム水溶液)によってピラミッド状のテクスチャ構造を片面(光入射側の表面)に形成した。その後、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液で洗浄した。
【0101】
次に、上記基板のテクスチャ構造を有する表面に、オキシ塩化リン(POCl
3)を用い、拡散法によって、リンを温度810℃で30分間拡散させ、n型不純物拡散層4が約0.28μmの深さになるようにn型不純物拡散層4を形成した。n型不純物拡散層4のシート抵抗は、100Ω/□だった。
【0102】
次に、n型不純物拡散層4を形成した基板の表面に、プラズマCVD法によってシランガス及びアンモニアガスを用いて窒化ケイ素薄膜(反射防止膜2)を約60nmの厚みに形成した。具体的には、NH
3/SiH
4=0.5の混合ガス1Torr(133Pa)をグロー放電分解することにより、プラズマCVD法によって膜厚約60nmの窒化ケイ素薄膜(反射防止膜2)を形成した。
【0103】
このようにして得られた単結晶シリコン太陽電池用基板を、15mm×15mmの正方形に切断して使用した。
【0104】
光入射側(表面)電極用の導電性ペーストの印刷は、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板の反射防止膜2上に、膜厚が約20μmになるように2mm幅のバスバー電極部と、6本の長さ14mm、幅100μmのフィンガー電極部とからなるパターンで印刷し、その後、150℃で約60秒間乾燥した。
【0105】
次に、裏面電極15用の導電性ペーストの印刷を、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板の裏面に、アルミニウム粒子、複合酸化物、エチルセルロース及び溶剤を主成分とする導電性ペーストを14mm角で印刷し、150℃で約60秒間乾燥した。乾燥後の裏面電極15用の導電性ペーストの膜厚は約20μmであった。
【0106】
上述のように導電性ペーストを表面及び裏面に印刷した基板を、ハロゲンランプを加熱源とする近赤外焼成炉(DESPATCH社製 太陽電池用高速焼成炉)を用いて、大気中で所定の条件により焼成した。焼成条件は、800℃のピーク温度とし、大気中、焼成炉のイン−アウト60秒で両面同時焼成した。以上のようにして、単結晶シリコン太陽電池を試作した。
【0107】
<太陽電池特性の測定>
太陽電池セルの電気的特性の測定は、次のように行った。すなわち、試作した単結晶シリコン太陽電池の電流−電圧特性を、ソーラーシミュレータ光(AM1.5、エネルギー密度100mW/cm
2)の照射下で測定し、測定結果から曲線因子(FF)、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)及び変換効率η(%)を算出した。なお、試料は同じ条件のものを2個作製し、測定値は2個の平均値として求めた。
【0108】
<実験1の太陽電池特性の測定結果>
表1及び表2に示す複合酸化物(ガラスフリット)を用いた実施例1及び2、並びに比較例1〜6の導電性ペーストを製造した。それらの導電性ペーストを単結晶シリコン太陽電池の光入射側電極20の形成のために用いて、上述のような方法で、実験1の単結晶シリコン太陽電池を試作した。表3に、これらの単結晶シリコン太陽電池の特性である曲線因子(FF)、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)及び変換効率η(%)の測定結果を示す。なお、これらの単結晶シリコン太陽電池に対してさらに、Suns−Vocの測定を行い、再結合電流(J
02)を測定した。Suns−Vocの測定の測定方法及び測定結果から再結合電流J
02を算出する方法は公知である。
【0109】
表3から明らかなように、比較例1〜6の単結晶シリコン太陽電池の特性は、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池と比べて低かった。実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池では、特に曲線因子(FF)が高かった。このことは、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池では、光入射側電極20と、単結晶シリコン基板の不純物拡散層4との間の接触抵抗が低かったことが示唆される。また、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池では、比較例1〜6と比べて、開放電圧(Voc)が高かった。このことは、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池では、比較例1〜6と比べて、キャリアの表面再結合速度が低いことが示唆される。また、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池では、比較例1〜6と比べて、再結合電流J
02が低かった。このことは、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池内部のpn接合の空乏層でのキャリアの再結合速度が低いことが示唆される。すなわち、実施例1及び実施例2の単結晶シリコン太陽電池では、比較例1〜6と比べて、pn接合近傍において、導電性ペースト中に含まれる不純物等の拡散に起因する再結合準位密度が低いことが示唆される。
【0110】
以上のことから、本発明の導電性ペーストを用いた場合には、窒化ケイ素薄膜等を材料とする反射防止膜2を表面に有する単結晶シリコン太陽電池に対して光入射側電極20を形成する際に、光入射側電極20と、エミッタ層との間の接触抵抗が低く、良好な電気的接触を得ることができることが明らかとなった。このことは、本発明の導電性ペーストを用いた場合には、一般的な結晶系シリコン基板1の表面に対して電極を形成する際に、良好な電気的接触の電極を形成することのできることが示唆される。
【0111】
<実験2:接触抵抗測定用電極の作製>
実験2では、本発明の導電性ペーストにおいて、組成の異なる複合酸化物を含む導電性ペーストを用いて、不純物拡散層4を有する結晶系シリコン基板1の表面に電極を形成し、接触抵抗を測定した。具体的には、本発明の導電性ペーストを用いた接触抵抗測定用パターンを、所定の不純物拡散層4を有する単結晶シリコン基板にスクリーン印刷し、乾燥し、焼成することにより、接触抵抗測定用電極を得た。表4に、実験2で用いた導電性ペースト中の複合酸化物(ガラスフリット)の組成を、試料a〜gとして示す。また、
図2の3種類の酸化物の三元組成図上に、試料a〜gの複合酸化物(ガラスフリット)に対応する組成を示す。接触抵抗測定用電極の作製方法は次の通りである。
【0112】
実験1の単結晶シリコン太陽電池の試作の場合と同様に、基板は、B(ボロン)ドープのp型単結晶シリコン基板(基板厚み200μm)を用い、基板表面のダメージを除去し、重金属洗浄を行った。
【0113】
次に、この基板表面にウェットエッチングによってテクスチャ(凸凹形状)を形成した。具体的にはウェットエッチング法(水酸化ナトリウム水溶液)によってピラミッド状のテクスチャ構造を片面(光入射側の表面)に形成した。その後、塩酸及び過酸化水素を含む水溶液で洗浄した。
【0114】
次に、実験1の単結晶シリコン太陽電池の試作の場合と同様に、上記基板の表面に、オキシ塩化リン(POCl
3)を用い、拡散法によって、リンを温度810℃で30分間拡散させ、100Ω/□のシート抵抗になるようにn型不純物拡散層4を形成した。このようにして得られた接触抵抗測定用基板を、接触抵抗測定用電極の作製のために使用した。
【0115】
接触抵抗測定用基板への導電性ペーストの印刷は、スクリーン印刷法によって行った。上述の基板上に、膜厚が約20μmになるように接触抵抗測定用パターンを印刷し、その後、150℃で約60秒間乾燥した。接触抵抗測定用パターンは、
図7に示すように、幅0.5mm、長さ13.5mmの5つの長方形の電極パターンを、間隔がそれぞれ1、2、3及び4mmになるように配置したパターンを用いた。
【0116】
上述のように導電性ペーストによる接触抵抗測定用パターンを表面に印刷した基板を、ハロゲンランプを加熱源とする近赤外焼成炉(DESPATCH社製 太陽電池用高速焼成炉)を用いて、大気中で所定の条件により焼成した。焼成条件は、実験1の単結晶シリコン太陽電池の試作の場合と同様に、800℃のピーク温度とし、大気中、焼成炉のイン−アウト60秒で焼成した。以上のようにして、接触抵抗測定用電極を試作した。なお、試料は同じ条件のものを3個作製し、測定値は3個の平均値として求めた。
【0117】
接触抵抗の測定は、上述のように
図7に示す電極パターンを用いて行った。接触抵抗は、
図7に示す所定の長方形の電極パターン間の電気抵抗を測定し、接触抵抗成分と、シート抵抗成分とを分離することにより求めた。接触抵抗が100mΩ・cm
2以下である場合には、単結晶シリコン太陽電池の電極として使用可能である。接触抵抗が25mΩ・cm
2以下である場合には、結晶系シリコン太陽電池の電極として好ましく使用することができる。接触抵抗が10mΩ・cm
2以下である場合には、結晶系シリコン太陽電池の電極としてより好ましく使用することができる。また、接触抵抗が350mΩ・cm
2以下である場合には、結晶系シリコン太陽電池の電極として使用できる可能性がある。しかしながら、接触抵抗が350mΩ・cm
2超である場合には、結晶系シリコン太陽電池の電極として使用することは困難である。
【0118】
表4から明らかなように、試料b〜fの複合酸化物(ガラスフリット)を含む本発明の導電性ペーストを用いた場合には、20.1mΩ・cm
2以下の接触抵抗を得ることができる。
図2に、試料b〜fの複合酸化物(ガラスフリット)の組成範囲を含む領域を、領域1及び領域2として示す。
図2の領域1の組成範囲は、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン35〜65モル%、酸化ホウ素5〜45モル%及び酸化ビスマス25〜35モル%の範囲の組成領域である。また、
図2の領域2の組成範囲は、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン15〜40モル%、酸化ホウ素25〜45モル%及び酸化ビスマス25〜60モル%の範囲の組成領域である。
【0119】
表4から明らかなように、試料c、d及びeの複合酸化物(ガラスフリット)を含む本発明の導電性ペーストを用いた場合には、7.3mΩ・cm
2以下というより低い接触抵抗を得ることができる。すなわち、
図2の領域1の組成範囲うち、酸化ホウ素及び酸化ビスマスの合計を100モル%として、酸化モリブデン35〜65モル%、酸化ホウ素5〜35モル%及び酸化ビスマス25〜35モル%の範囲の組成領域の複合酸化物(ガラスフリット)を用いる場合には、より低い接触抵抗を得ることができるといえる。
【0120】
<実験3:結晶系シリコン太陽電池の構造>
表4に示す試料dの複合酸化物(ガラスフリット)を含む導電性ペーストを用いて、複合酸化物の組成以外は、上述の実施例1と同様の方法で試作した単結晶シリコン太陽電池の断面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することによって、本発明の結晶系シリコン太陽電池の構造を明らかにした。
【0121】
図4に、本発明の結晶系シリコン太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)であって、単結晶シリコン基板と、光入射側電極20との界面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す。比較のため、
図3に、比較例5と同様の方法で試作した結晶系シリコン太陽電池の断面の走査型電子顕微鏡であって、単結晶シリコン基板と、光入射側電極20との界面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図5には、
図4に示す結晶系シリコン太陽電池の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真であって、単結晶シリコン基板と、光入射側電極20との界面付近を拡大した写真を示す。なお、
図6に、
図5の透過型電子顕微鏡写真を説明するための模式図を示す。
【0122】
図3から明らかなように、比較例5の単結晶シリコン太陽電池の場合には、光入射側電極20中の銀22と、p型結晶系シリコン基板1との間の多くに複合酸化物24が存在している。銀22と、p型結晶系シリコン基板1とが接している部分は極くわずかであり、多く見積もったとしても、光入射側電極20と、単結晶シリコン基板との間であって、光入射側電極20の直下の面積の5%未満であることが見て取れる。これに対して、本発明の実施例である
図4に示す単結晶シリコン太陽電池の場合には、光入射側電極20中の銀22と、p型結晶系シリコン基板1とが接触している部分が、
図3に示す比較例の単結晶シリコン太陽電池の場合よりはるかに多いことは明らかである。
図3から、本発明の実施例である
図4に示す単結晶シリコン太陽電池の場合、光入射側電極20中の銀22と、p型結晶系シリコン基板1とが接触している部分の面積は、少なく見積もったとしても、光入射側電極20と、単結晶シリコン基板との間であって、光入射側電極20の直下の面積の5%以上、概ね10%程度以上であることが見て取れる。
【0123】
さらに、詳細に光入射側電極20と、単結晶シリコン基板との間の構造を観察するために、
図4に示す結晶系シリコン太陽電池の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を撮影した。
図5に、このTEM写真を示す。また、
図6に、
図5のTEM写真の構造を説明するための模式図を示す。
図5及び
図6から明らかなように、単結晶シリコン基板1と、光入射側電極20との間には、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34を含む緩衝層30が存在していることが見て取れる。すなわち、
図4で示す走査型電子顕微鏡において、入射側電極20中の銀22と、p型結晶系シリコン基板1とが接触していると思われた部分には、詳細にTEMを用いて観察するならば、緩衝層30が存在することが明らかとなった。また、酸化ケイ素膜34中には、20nm以下の銀微粒子36(導電性微粒子)が多く存在することが見て取れる。なお、TEM観察の際の組成分析は、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy、EELS)によって行った。
【0124】
非限定的な推測によると、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34は絶縁膜であるものの、何らかの形で、単結晶シリコン基板1と、光入射側電極20との間の電気的接触に寄与しているものと考えられる。また、緩衝層30は、導電性ペーストを焼成する際に、導電性ペースト中の成分又は不純物が、p型又はn型不純物拡散層4へ拡散し、太陽電池特性に対して悪影響を及ぼすことを防止する役割を担うものであると考えられる。したがって、結晶系シリコン太陽電池の光入射側電極20の直下の少なくとも一部に、酸窒化ケイ素膜32及び酸化ケイ素膜34をこの順で含む緩衝層30を有する構造であることにより、高い性能の結晶系シリコン太陽電池特性を得ることができるものと推測できる。さらに、緩衝層30に含まれる銀微粒子36が、単結晶シリコン基板1と、光入射側電極20との間の電気的接触に、さらに寄与しているものと推測できる。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
<実験4:低不純物濃度のn型不純物拡散層4を用いた単結晶シリコン太陽電池の試作>
実験4の実施例として、n型不純物拡散層4(エミッタ層)を形成する際に、n型不純物濃度を8×10
19cm
−3(接合深さ250〜300nm、シート抵抗:130Ω/□)とし、電極形成のための導電性ペーストの焼成温度(ピーク温度)を750℃とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の単結晶シリコン太陽電池を試作した。すなわち、実施例3で用いた導電性ペースト中の複合酸化物(ガラスフリット)は、表2に記載のA1だった。また、導電性ペーストの焼成温度(ピーク温度)を775℃とした以外は、実施例3と同様にして、実施例4の単結晶シリコン太陽電池を試作した。なお、太陽電池は同じ条件のものを3個作製し、測定値は3個の平均値として求めた。
【0130】
実験4の比較例として、導電性ペースト中の複合酸化物(ガラスフリット)として、表2に記載のD1を用いた以外は、実施例3と同様にして、比較例7の単結晶シリコン太陽電池を試作した。また、導電性ペーストの焼成温度(ピーク温度)を775℃とした以外は、比較例7と同様にして、比較例8の単結晶シリコン太陽電池を試作した。なお、太陽電池は同じ条件のものを3個作製し、測定値は3個の平均値として求めた。
【0131】
なお、通常、単結晶シリコン太陽電池のエミッタ層の不純物濃度は2〜3×10
20cm
−3(シート抵抗:90Ω/□)である。したがって、実施例3、実施例4、比較例7及び比較例8の単結晶シリコン太陽電池のエミッタ層の不純物濃度は、通常の太陽電池のエミッタ層の不純物濃度と比較すると、1/3〜1/4程度という低い不純物濃度である。一般に、エミッタ層の不純物濃度が低い場合には、電極と結晶系シリコン基板1との間の接触抵抗が高くなるため、良好な性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることが困難になる。
【0132】
表5に、実施例3、実施例4、比較例7及び比較例8の単結晶シリコン太陽電池の太陽電池特性を示す。表5に示すように、比較例7及び比較例8のフィルファクターは、0.534及び0.717という低い値だった。これに対して実施例3及び実施例4のフィルファクターは、0.76を超えていた。また、実施例3及び実施例4の単結晶シリコン太陽電池の変換効率は、18.9%以上と非常に高かった。したがって、本発明の単結晶シリコン太陽電池は、エミッタ層の不純物濃度が低い場合でも、高い性能の結晶系シリコン太陽電池を得ることができるといえる。
【0133】
【表5】
【0134】
<実験5:n型不純物拡散層4の不純物濃度と、電極直下でのエミッタの飽和電流密度>
実験5として、エミッタ層の不純物濃度を変化させた以外は実施例1と同様に、実施例5〜7の単結晶シリコン太陽電池を試作した。すなわち、実施例5〜7のための導電性ペースト中の複合酸化物(ガラスフリット)は、表2のA1を用いた。また、導電性ペースト中の複合酸化物(ガラスフリット)として表2のD1を用いた以外は実施例5〜7と同様に、比較例9〜11の単結晶シリコン太陽電池を試作した。実験5として得られた太陽電池の、光入射側電極20の直下のエミッタ層の飽和電流密度(J
01)を測定した。なお、太陽電池は同じ条件のものを3個作製し、測定値は3個の平均値として求めた。その測定結果を
図8に示す。なお、光入射側電極20の直下のエミッタ層の飽和電流密度(J
01)が低いということは、光入射側電極20の直下でのキャリアの表面再結合速度が小さいことを示している。表面再結合速度が小さい場合には、光入射により発生したキャリアの再結合が小さくなるため、高い性能の太陽電池を得ることができる。
【0135】
図8に示すように、実験5の実施例5〜7の単結晶シリコン太陽電池の場合には、比較例9〜11と比べて、光入射側電極20の直下のエミッタ層の飽和電流密度(J
01)が低かった。このことは、本発明の結晶系シリコン太陽電池の場合には、光入射側電極20の直下でのキャリアの表面再結合速度が小さいことを示しているといえる。したがって、本発明の結晶系シリコン太陽電池の場合には、光入射により発生したキャリアの再結合が小さくなるため、高い性能の太陽電池を得ることができるといえる。
【0136】
【表6】
【0137】
<実験6:ダミー電極部の面積と、開放電圧及びエミッタの飽和電流密度との関係>
実験6として、エミッタ層上のダミー電極部の面積を変化させて、単結晶シリコン太陽電池を試作し、太陽電池特性の一つである開放電圧、及びエミッタの飽和電流密度を測定した。なお、ダミー電極部とは、バスバー電極部に電気的に接続していない(バスバー電極部に接続していない)電極である。ダミー電極部の面積に比例して、ダミー電極部でのキャリアの表面再結合が増加することになる。したがって、ダミー電極部の面積の増加と、開放電圧及びエミッタの飽和電流密度との関係を知ることにより、光入射側電極20の直下のエミッタ層表面での、キャリアの表面再結合に起因する太陽電池性能の低下の様子を明らかにすることができる。
【0138】
ダミー電極部の面積を変化させるために、光入射側電極20として、バスバー電極部50及びそれに接続するフィンガー電極部(接続フィンガー電極部52)に加え、接続フィンガー電極部52の間のダミーフィンガー電極部54の数を0〜3本と変化させて、所定の太陽電池を作製した。参考のため、
図11、
図12及び
図13に、接続フィンガー電極部52の間のダミーフィンガー電極部54を1本、2本及び3本とした電極形状の模式図を示す。なお、実際に用いた電極形状では、1本のバスバー電極部50(幅2mm、長さ140mm)に対して、64本の接続フィンガー電極部52(幅100μm、長さ140mm)が中心で直交するように、バスバー電極部50及び接続フィンガー電極部52を配置した。接続フィンガー電極部52の中心間隔は2.443mmとした。ダミーフィンガー電極部54としては、長さ5mm、幅100μmのものを、間隔1mmで連続的に配置した破線状の形状とした。この破線状のダミーフィンガー電極部54を、各接続フィンガー電極部52の間に所定本数、等間隔で配置した。バスバー電極部50及び接続フィンガー電極部52は、外部へ電流の取り出しが可能なように接続されており、太陽電池測定を測定することができる。ダミーフィンガー電極部54は、バスバー電極部50には接続されておらず、孤立している。
【0139】
表7に示すように、実験6−1、実験6−2、及び実験6−3では、バスバー電極部50及び接続フィンガー電極部52、並びにダミーフィンガー電極部54に対して所定の導電性ペーストを用いて単結晶シリコン太陽電池を試作した。なお、太陽電池の製造条件は、導電性ペースト中のガラスフリットとして表7に示すものを用いた以外は、実施例1と同様である。各条件について、それぞれ3つの太陽電池を作製し、その平均値を所定のデータの値とした。その結果を、表7に示す。また、実験6の開放電圧(Voc)の測定結果を
図9に図示する。実験6の飽和電流密度(J
01)の測定結果を
図10に示す。
【0140】
表7から明らかなように、本発明の実施例であるA1の複合酸化物(ガラスフリット)を含む導電性ペーストを用いてダミーフィンガー電極部54を作製した実験6−1の太陽電池の場合には、従来の導電性ペーストであるD1の複合酸化物(ガラスフリット)を含む導電性ペーストを用いた実験6−2及び実験6−3に比べて、高い開放電圧(Voc)及び低い飽和電流密度(J
01)を得ることができることが明らかになった。このことは、本発明の導電性ペーストを用いて太陽電池の電極を形成することにより、電極直下でのキャリアの表面再結合速度を低くすることができたためであると推測される。
【0141】
【表7】
【0142】
[符号の説明]
1 結晶系シリコン基板(p型結晶系シリコン基板)
2 反射防止膜
4 不純物拡散層(n型不純物拡散層)
15 裏面電極
20 光入射側電極(表面電極)
22 銀
24 複合酸化物
30 緩衝層
32 酸窒化ケイ素膜
34 酸化ケイ素膜
36 銀微粒子
50 バスバー電極部
52 接続フィンガー電極部
54 ダミーフィンガー電極部