特許第6487904号(P6487904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6487904絶縁性不織布およびその製造方法、絶縁材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6487904
(24)【登録日】2019年3月1日
(45)【発行日】2019年3月20日
(54)【発明の名称】絶縁性不織布およびその製造方法、絶縁材
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/009 20120101AFI20190311BHJP
【FI】
   D04H3/009
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-510367(P2016-510367)
(86)(22)【出願日】2015年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2015058842
(87)【国際公開番号】WO2015146953
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2017年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-66207(P2014-66207)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城谷 泰弘
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−041644(JP,A)
【文献】 特開平01−132898(JP,A)
【文献】 特表2015−514165(JP,A)
【文献】 特開平05−311594(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/208671(WO,A1)
【文献】 特開2011−127252(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 − 18/04
D01F 6/74
D21B 1/00 − 1/38
D21C 1/00 − 11/14
D21D 1/00 − 99/00
D21F 1/00 − 13/12
D21G 1/00 − 9/00
D21H 11/00 − 27/42
D21J 1/00 − 7/00
H01B 3/16 − 3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
330℃における溶融粘度が100〜3000Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを主成分とし、以下1)〜3)を満足する不織布。
1)平均繊維径が0.5〜5μm
2)透気度が20秒/100mL以上
3)耐電圧が15kV/mm以上
【請求項2】
タテ強力が15N/15mm以上である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
密度が0.65〜1.25g/cmの範囲内である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の不織布からなる絶縁材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の不織布を製造する方法であって、
対向して配置されたロールの間で、温度150〜300℃、線圧100〜500kg/cmで繊維を連続的に処理する、不織布の製造方法。
【請求項6】
前記対向して配置されたロールが、表面のショアD硬度が85〜95°の弾性ロールと金属ロールである、請求項5に記載の不織布の製造方法。
【請求項7】
メルトブローン法またはスパンボンド法によって前記連続的に処理される繊維を製造する、請求項5に記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有し、かつ、高い電気絶縁性を有する不織布(絶縁性不織布)およびその製造方法、ならびに、当該不織布を用いた絶縁材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般産業資材分野、電気電子材料分野、医療材料分野、農業資材分野、光学材料分野、航空機・自動車・船舶材料分野、アパレル分野などにおいて、特に高い温度環境下に曝される機会の多い用途では、難燃性を有する不織布が極めて有効に用いられる。
【0003】
近年、分割繊維を用いたものやフラッシュ紡糸法、メルトブローン法などにより製造される極細繊維からなる不織布が開発され、フィルター用途などに利用されている。しかしながら、このような極細繊維からなる不織布には、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂が主に使用されているために、難燃性や耐熱性が不十分であり、高温での使用に適さないという課題を有していた。
【0004】
難燃性ポリマーからなる繊維を用いて不織布を製造する技術がいくつか試みられてはいるが、極細繊維を得ようとするとメルトフラクチャーの発生や、メルトテンションが高いなどの不都合が生じ、生産性よく難燃性極細繊維不織布を得ることは困難であった。
【0005】
出願人は、たとえば特開2012−41644号公報(特許文献1)において、難燃性を有するポリエーテルイミド(以下、「PEI」と称する場合がある)繊維からなる不織布として、特定の構造を有する非晶性PEI繊維を主たる構成成分とし、三次元交絡している不織布を提案している。出願人はまた、非晶性PEI繊維に関連して、特開2011−127252号公報(特許文献2)では、難燃性、耐熱性に優れるだけでなく、平衡水分率も低い耐熱性難燃紙を、また、国際公開第2012/014713(特許文献3)では、耐熱性、難燃性、寸法安定性に優れた熱融着性繊維、繊維構造体および耐熱性成形体を提案している。
【0006】
このように非晶性PEI繊維は、その分子骨格から融点が高く、耐熱性に優れているばかりでなく、難燃性にも優れている。しかしながら特許文献1の実施例で開示されているのはスパンレース法による不織布のみであり、繊維径は2.2dtex(15μmに相当)と比較的繊度の大きいものである。非晶性PEI繊維を用い、電気絶縁性を有する程度にまで緻密性が高められた不織布についてはこれまで知られていなかったが、難燃性に加えて電気絶縁性を具備する不織布を提供することができれば、電気絶縁紙の分野など、さらに適用できる用途が広がることが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−41644号公報
【特許文献2】特開2011−127252号公報
【特許文献3】国際公開第2012/014713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、難燃性を有し、かつ、電気絶縁性をも有する新規な不織布、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の不織布は、330℃における溶融粘度が100〜3000Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを主成分とし、1)平均繊維径が0.5〜5μm、2)透気度が20秒/100mL以上、3)耐電圧が15kV/mm以上を満足する。
【0010】
本発明の不織布は、タテ強力が15N/15mm以上であることが好ましい。
本発明の不織布は、密度が0.65〜1.25g/cmの範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明は、上述した本発明の不織布からなる絶縁材についても提供する。
本発明は、上述した本発明の不織布を製造する方法であって、対向して配置されたロールの間で、温度150〜300℃、線圧100〜500kg/cmで連続的に処理する、不織布の製造方法についても提供する。
【0012】
本発明の不織布の製造方法において、前記対向して配置されたロールは、表面のショアD硬度が85〜95°の弾性ロールと金属ロールであることが好ましい。
【0013】
本発明の不織布の製造方法において、メルトブローン法またはスパンボンド法によって前記連続的に処理される繊維を製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、難燃性を有し、かつ、電気絶縁性を具備する程度にまで緻密性が高められた不織布(絶縁性不織布)、ならびにその製造方法が提供される。このような本発明の不織布は、絶縁材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の不織布は、330℃における溶融粘度が100〜3000Pa・sである非晶性ポリエーテルイミド(PEI)を主成分とする。本発明で用いる非晶性PEIとは、脂肪族、脂環族または芳香族系のエーテル単位と環状イミドを繰り返し単位として含有するポリマーであり、非晶性、溶融成形性を有すものであれば特に限定されない。ここで、「非晶性」であることは、得られた繊維を示差走査型熱量系(DSC)にかけ、窒素中、10℃/分の速度で昇温し、吸熱ピークの有無で確認することができる。吸熱ピークが非常にブロードであり明確に吸熱ピークを判断できない場合は、実使用においても問題ないレベルであるので、実質的に非晶性と判断しても差し支えない。また、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、非晶性PEIの主鎖に環状イミド、エーテル結合以外の構造単位、たとえば脂肪族、脂環族または芳香族エステル単位、オキシカルボニル単位などが含有されていてもよい。
【0016】
非晶性PEIは、下記一般式で示されるポリマーが好適に使用される。但し、式中R1は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、R2は、6〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族残基、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、2〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、および2〜8個の炭素原子を有するアルキレン基で連鎖停止されたポリジオルガノシロキサン基からなる群より選択された2価の有機基である。
【0017】
【化1】
【0018】
非晶性PEIの330℃における溶融粘度は100〜3000Pa・sであることが必要である。非晶性PEIの330℃における溶融粘度が100Pa・s未満であると、紡糸時に、風綿や、繊維を形成できなかったために発生するショットと呼ばれる樹脂粒が多発する場合がある。また非晶性PEIの330℃における溶融粘度が3000Pa・sを超えると、極細繊維化が困難であったり、重合時にオリゴマーが発生したり、重合時や造粒時にトラブルが発生する場合がある。330℃における溶融粘度は、200〜2700Pa・sであることが好ましく、300〜2500Pa・sであることがより好ましい。
【0019】
非晶性PEIは、そのガラス転移温度が200℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が200℃未満の場合は、得られる不織布の耐熱性が劣る場合がある。また、非晶性PEIのガラス転移温度が高いほど、耐熱性に優れた不織布が得られるので好ましいが、高すぎると融着させる場合に、その融着温度も高くなってしまい、融着時にポリマーの分解を引き起こす可能性がある。非晶性PEIのガラス転移温度は、200〜230℃であることがより好ましく、205〜220℃であることが更に好ましい。
【0020】
非晶性PEIの分子量は特に限定されるものではないが、得られる繊維や不織布の機械的特性や寸法安定性、工程通過性を考慮すると、重量平均分子量(Mw)が1000〜80000であることが好ましい。高分子量のものを用いると、繊維強度、耐熱性などの点で優れるので好ましいが、樹脂製造コストや繊維化コストなどの観点から、重量平均分子量が2000〜50000であることが好ましく、3000〜40000であることがより好ましい。
【0021】
本発明では、PEI樹脂として、非晶性、溶融成形性、コストの観点から、下記式で示される構造単位を主として有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましく使用される。このPEIは、「ウルテム」の商標でサービックイノベイティブプラスチックス社から市販されている。
【0022】
【化2】
【0023】
本発明の不織布を構成する非晶性PEI繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤、帯電防止剤、ラジカル抑制剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、無機物、などを含んでいてもよい。かかる無機物の具体例としては、カーボンナノチューブ、フラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、黒鉛などが用いられる。更には、繊維の耐加水分解性を改良する目的で、モノまたはジエポキシ化合物、モノまたはポリカルボジイミド化合物、モノまたはジオキサゾリン化合物、モノまたはジアジリン化合物などの末端基封鎖剤を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の不織布は、平均繊維径が、0.5〜5μmの範囲内である。平均繊維径が0.5μm未満である場合には、吐出量を低減する必要があり、生産性が低下する。また平均繊維径が0.5μm未満である場合には、吐出圧力が不安定になり、糸切れ、ポリマー塊が多発し、ウェブの形成が困難となる。また、平均繊維径が5μmを超える場合には、不織布に電気絶縁性を付与し得る程度の緻密性を実現することができないという不具合がある。中でも、生産安定性と緻密性とを両立させるという理由からは、本発明の不織布の平均繊維径は、1〜4μmの範囲内であることが好ましく、2〜3μmの範囲内であることが特に好ましい。
【0025】
また本発明の不織布は、透気度が20秒/100mL以上であり、「通気度」では数値化できない、高い透気度を有する。透気度が20秒/100mL未満である場合には、不織布の電気絶縁性が得られないという不具合がある。中でも、高い絶縁性能を付与するという理由から、25秒/100mL以上が好ましく30秒/100mL以上が特に好ましい。また、本発明の不織布において透気度は高ければ高いほどよく、その上限値は特に制限されないが、300秒/100mL以下である。
【0026】
また、本発明の不織布は、耐電圧が15kV/mm以上という高い電気絶縁性を有する(絶縁性不織布)。中でも、信頼性の高い絶縁紙を得るという理由からは、20kV/mm以上が好ましく、30kV/mm以上がより好ましく、35kV/mm以上がさらに好ましく、45kV/mm以上が特に好ましい。また、本発明の不織布において耐電圧は高ければ高いほどよく、その上限値は特に制限されないが、200kV/mm以下である。
【0027】
また、本発明の不織布は、特に制限されるものではないが、タテ強力(タテ方向(不織布製造における流れ方向)の強度)が15N/15mm以上であることが好ましい。タテ強力が15N/15mm未満である場合には、コイル、ケーブルなどの絶縁材として使用する場合の旋回加工工程において、切断してしまう場合がある。中でも、加工工程において、高い安定性を得るという観点からは、20N/15mm以上がより好ましく、25N/15mm以上が特に好ましい。また、本発明の不織布においてタテ強力は高ければ高いほどよく、その上限値は特に制限されないが、100N/15mm以下である。
【0028】
本発明の不織布は、密度が0.65〜1.25g/cmの範囲内であることが好ましく、0.70〜1.20g/cmの範囲内であることがより好ましい。本発明の不織布では、このような不織布の内部構造を反映するような密度であるにも関わらず、従来は絶縁性の制御が困難な場合があったところ、上述の透気度を有するため、所望の電気絶縁性を有する不織布を実現することができたものである。
【0029】
本発明の不織布の厚みは、特に制限されるものではないが、10〜1000μmの範囲内であることが好ましく、15〜500μmの範囲内であることがより好ましく、20〜200μmの範囲内であることが特に好ましい。不織布の厚みが10μm未満である場合には、厚み方向に貫通する孔が存在してしまうことにより、高い絶縁性能が得られない傾向にあり、また、1000μmを超える場合には、小型、薄型化が進む電子機器類などの絶縁材として使用される際に厚み制限(上限)によって使用制約が生じる。
【0030】
また本発明の不織布の目付けは、特に制限されるものではないが、10〜1000g/mの範囲内であることが好ましく、15〜500g/mの範囲内であることがより好ましく、20〜200g/mの範囲内であることが特に好ましい。不織布の目付けが10g/m未満である場合には、強力が低くなり加工時に破断してしまう可能性があり、また、1000g/mを超える場合には、生産性の観点から好ましくない。
【0031】
上述のような本発明の不織布は、優れた難燃性と優れた電気絶縁性を両立させたものであり、電気絶縁紙の分野も含め、広範な用途への適用が期待できるものである。また本発明は、このような本発明の不織布からなる絶縁材についても提供するものである。
【0032】
上述のような本発明の不織布は、対向して配置されたロールの間で、温度150〜300℃、線圧100〜500kg/cmで連続的に処理することで好適に製造することができる。本発明は、このような不織布の製造方法についても提供するものである。なお、本発明の不織布の製造方法において、ロールは2つのロールが対向して(対になって)配置されていればよく、そのような対のロールを複数用いても勿論よい。
【0033】
本発明の不織布の製造方法において、メルトブローン法またはスパンボンド法によって前記連続的に処理される繊維を製造することが好ましい。これによって、極細繊維からなる不織布の製造が比較的容易にでき、紡糸時に溶剤を必要とせず環境への影響を最小限とすることができるという利点がある。また、本発明では、これらの手法に限定されるものでは決してなく、ESP、フラッシュ紡糸などの公知の手法で極細繊維を製造するようにしても勿論よい。
【0034】
メルトブローン法の場合、紡糸装置は従来公知のメルトブローン装置を用いることができ、紡糸条件としては、紡糸温度300〜500℃、熱風温度(一次エアー温度)300〜500℃、ノズル長1mあたり、エアー量5〜25Nmで行なうことが好ましい。
【0035】
またスパンボンド法の場合、紡糸装置は従来公知のスパンボンド装置を用いることができ、紡糸条件としては、紡糸温度300〜500℃、熱風温度(延伸エアー温度)300〜500℃、延伸エアーは500〜5000m/分で行なうことが好ましい。
【0036】
本発明の不織布の製造方法では、得られた極細繊維を、スパンレースにより水流絡合(三次元交絡)させ、上述したような特定の条件で加熱・加圧処理(カレンダー)することで、優れた難燃性と優れた電気絶縁性を両立させた本発明の不織布を好適に製造することができる。
【0037】
本発明の不織布の製造方法において、上述した対向して配置されたロールを用いた連続的な処理は、150〜300℃の範囲内の温度で行なわれる。温度が150℃未満である場合には、繊維溶着させるための加熱が不足し、圧縮、緻密化できないという傾向があり、また、温度が300℃を超える場合には、ロールと不織布の溶着が強くなり、ロールから不織布を剥離できない(不織布が破断する)という傾向がある。なお、圧縮、緻密化と生産安定性の両立という理由からは、対向して配置されたロールを用いた連続的な処理は、170〜280℃の範囲内の温度で行なわれることが好ましく、190〜260℃の範囲内の温度で行なわれることが特に好ましい。
【0038】
本発明の不織布の製造方法において、上述した対向して配置されたロールを用いた連続的な処理は、100〜500kg/cmの線圧で行なわれる。線圧が100kg/cm未満である場合には、繊維溶着させるための加熱が不足し、圧縮、緻密化できないという傾向があり、また、線圧が500kg/cmを超える場合には、不織布が破壊されてしまうという傾向がある。なお、圧縮、緻密化と生産安定性の両立という観点からは、対向して配置されたロールを用いた連続的な処理は、130〜400kg/cmの範囲内の線圧で行なわれることが好ましく、160〜330kg/cmの範囲内の線圧で行なわれることが特に好ましい。
【0039】
本発明の不織布の製造方法において用いられる、対向して配置されたロールは、金属ロール同士の組み合わせであってもよい。金属ロールとしては、金属で形成されていれば、金属の種類には特に制限されるものではなく、従来公知の適宜の金属ロールを用いることができ、たとえばSUSからなる金属ロールを好適に用いることができる。このような金属ロール同士の組み合わせであっても、たとえば、100g/m以上の高い目付けにするという理由により、上述した高い電気絶縁性を有する不織布を製造することができる。
【0040】
本発明の不織布の製造方法において、対向して配置されたロールは、表面のショアD硬度が85〜95°(好ましくは87〜95°、特に好ましくは91〜94°)の弾性ロールと金属ロールとの組み合わせであることが好ましい。このように、適度な硬度(高硬度)の弾性ロールと金属ロールとの組み合わせによって、厚みが十分に減少された不織布を製造することができ、また、不織布への追随性がよいため、斑のない加工が可能となり、上述のように電気絶縁性の高い不織布がより好適に得られる。
【0041】
表面のショアD硬度が95°を超える弾性ロールを金属ロールと組み合わせて用いた場合、また、金属ロール同士を組み合わせて用いた場合には、不織布を十分に圧縮でき、厚み自体は減少させることはできるが、ロールの表面硬度が高過ぎてロールの不織布への追随性が悪いため、不織布の斑(凹凸や地合)がそのまま残り、電気絶縁性の低い不織布しか得られない可能性がある。
【0042】
また表面のショアD硬度が85°未満である弾性ロールを金属ロールと組み合わせて用いた場合、不織布を十分に圧縮することができず、電気絶縁性を付与できる程度にまで緻密性を高めることができない虞がある。また、弾性ロールの表面のショアD硬度が95°を超える場合と同様に、弾性ロールの表面硬度が低過ぎても上述した不織布の斑は解消されず残り、やはり電気絶縁性の低い不織布しか得られない可能性がある。
【0043】
本発明の不織布の製造方法に用いられる弾性ロールは、上述した範囲内の表面のショアD硬度を有するものであればその素材は特に制限されるものではなく、ゴム、樹脂、ペーパー、コットン、アラミド繊維などで形成された従来公知の適宜の弾性ロールを用いることができる。このような弾性ロールは、市販品を用いても勿論よく、具体的には、由利ロール株式会社製の樹脂製の弾性ロールなどを好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0045】
〔溶融粘度〕
東洋精機キャピログラフ1B型を用いて、温度330℃、剪断速度r=1200sec−1の条件下で測定した。
【0046】
〔紡糸性〕
紡糸時のポリマー吐出の様子、得られた不織布を観察し、下記の基準にしたがって紡糸性を評価した。
【0047】
A:風綿、ショットの発生、ノズル詰まりがない
B:風綿、ショットの発生もしくはノズル詰まりのいずれかが発生
〔平均繊維径(μm)〕
不織布を走査型電子顕微鏡で拡大撮影し、任意の100本の繊維の径を測定し、平均値を算出し、平均繊維径とした。
【0048】
〔不織布の目付け(g/m)〕
JIS L 1906に準じ、縦20cm×横20cmの試料片を採取し、電子天秤にて質量を測定し、試験片面積400cmで除して、単位面積当たりの質量を目付けとした。
【0049】
〔不織布の厚み(μm)〕
JIS L 1906に準じ、目付け測定と同試料片を用い、各試料片において、直径16mm、荷重20gf/cmのデジタル測厚計((株)東洋精機製作所製:B1型)で各5箇所測定し、15点の平均値をシートの厚みとした。
【0050】
〔不織布の密度(g/cm)〕
〔不織布の目付け(g/m)〕/〔不織布の厚み(μm)〕にて、不織布の密度を算出した。
【0051】
〔タテ強力(タテ方向(流れ方向)における強度)〕
不織布を幅15mmにカットし、島津製作所製オートグラフを使用し、JIS L 1906に準じ、引張り速度10cm/分で伸長し、切断時の荷重値をタテ強力(/15mm)とした。
【0052】
〔不織布の透気度(秒/100mL)〕
JIS L 1906に準じ、(株)東洋精機製作所製の透気度試験機(ガーレ式デンソメーター)を用い、加圧シリンダーが100mL通過する時間を透気度とした。
【0053】
〔不織布の耐電圧(kV/mm)〕
JIS C 2111に準拠し、直径25mm、質量250gの円盤状の電極間に不織布を挟んだ。試験媒体には空気を用いた。1.0kV/秒で昇圧させながら、周波数60Hzの交流電圧を印加させ、絶縁破壊したときの電圧を測定した。得られた値を不織布の厚みで割り、耐電圧とした。
【0054】
〔難燃性〕
JIS A1322試験法に準拠して、45℃に配置した試料の下端に対して、試料の下端から50mm離れたメッケルバーナーで10秒間加熱したときの炭化長を測定した。その炭化長の結果から、下記の基準にしたがって難燃性を評価した。
【0055】
C:炭化長が5cm未満
D:炭化長が5cm以上
<実施例1>
330℃での溶融粘度が500Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、押し出し機により押し出し、ノズル孔径D(直径)0.3mm、L(ノズル長さ)/D=10、ノズル孔ピッチ0.67mmのノズルを有するメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.15g/分、紡糸温度420℃、熱風温度430℃、ノズル幅1mあたり15Nm/分でエアーを吹き付けて、目付が25g/mの不織布を得た。次いで、得られた不織布を水流絡合機にて、ノズル孔径(直径)0.1mm、孔ピッチ0.6mmの水絡ノズルを使用し、圧力2MPaの水を不織布の両面に噴出させ、繊維を三次元絡合させ、160℃で乾燥処理した。さらに、得られた不織布を200℃に加熱した金属ロールと表面のショアD硬度が86°の樹脂製の弾性ロール(由利ロール株式会社製)間に通し、線圧200kg/cmで加圧カレンダーした。得られた不織布の平均繊維径は2.2μm、厚みは35μm、タテ強力は25N/15mm、透気度は22秒/100mL、耐電圧は23kV/mmであり、難燃性を有し、高強力な絶縁性不織布が得られた。
【0056】
<実施例2>
表面のショアD硬度が90°の樹脂製の弾性ロール(由利ロール株式会社製)を使用する以外は実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0057】
<実施例3>
表面のショアD硬度が93°の樹脂製の弾性ロール(由利ロール株式会社製)を使用する以外は実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0058】
<実施例4>
表面のショアD硬度が95°の樹脂製の弾性ロール(由利ロール株式会社製)を使用する以外は実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0059】
<実施例5>
金属ロール温度を160℃とする以外は実施例3と同様の方法で不織布を得た。
【0060】
<実施例6>
金属ロール温度を280℃とする以外は実施例3と同様の方法で不織布を得た。
【0061】
<実施例7>
線圧を150kg/cmとする以外は実施例3と同様の方法で不織布を得た。
【0062】
<実施例8>
線圧を450kg/cmとする以外は実施例3と同様の方法で不織布を得た。
【0063】
<実施例9>
330℃での溶融粘度が500Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、押し出し機により押し出し、ノズル孔径D(直径)0.1mm、L(ノズル長さ)/D=20、ノズル孔ピッチ0.67mmのノズルを有するメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.05g/分、紡糸温度420℃、熱風温度430℃、ノズル幅1mあたり20Nm/分でエアーを吹き付けて、目付が25g/mの不織布を得た。次いで、得られた不織布を水流絡合機にて、ノズル孔径(直径)0.1mm、孔ピッチ0.6mmの水絡ノズルを使用し、圧力2MPaの水を不織布の両面に噴出させ、繊維を三次元絡合させ、160℃で乾燥処理した。更に、得られた不織布を200℃に加熱した金属ロールと実施例3と同じ表面のショアD硬度93°の樹脂製の弾性ロール間に通し、線圧200kg/cmで加圧カレンダーした。得られた不織布の平均繊維径は0.7μm、厚みは25μm、タテ強力は34N/15mm、透気度は100秒/100mL、耐電圧は58kV/mmであり、難燃性を有し、高強力な絶縁性不織布が得られた。
【0064】
<実施例10>
330℃での溶融粘度が2200Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、押し出し機により押し出し、ノズル孔径D(直径)0.3mm、L(ノズル長さ)/D=10、ノズル孔ピッチ0.67mmのノズルを有するメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.15g/分、紡糸温度455℃、熱風温度465℃、ノズル幅1mあたり20Nm/分でエアーを吹き付けて、目付が25g/mの不織布を得た。次いで、得られた不織布を水流絡合機にて、ノズル孔径(直径)0.1mm、孔ピッチ0.6mmの水絡ノズルを使用し、圧力2MPaの水を不織布の両面に噴出させ、繊維を三次元絡合させ、160℃で乾燥処理した。さらに、得られた不織布を200℃に加熱した金属ロールと表面のショアD硬度が95°の樹脂製の弾性ロール間に通し、線圧200kg/cmで加圧カレンダーした。得られた不織布の平均繊維径は2.7μm、厚みは25μm、タテ強力は22N/15mm、透気度は24秒/100mL、耐電圧は48kV/mmであり、難燃性を有し、高強力な絶縁性不織布が得られた。
【0065】
<実施例11>
樹脂製の弾性ロールの代わりに金属ロールを使用し、目付けを100g/mとした以外は実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の平均繊維径は2.2μm、厚みは135μm、タテ強力は96N/15mm、透気度は21秒/100mL、耐電圧は22kV/mmであり、難燃性を有し、高強力な絶縁性不織布が得られた。
【0066】
<比較例1>
表面のショアD硬度が80°の樹脂製の弾性ロールを使用した以外は実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0067】
<比較例2>
樹脂製の弾性ロールの代わりに金属ロールを使用した以外は実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0068】
<比較例3>
金属ロール温度を100℃とした以外は実施例3と同様の方法で不織布を得た。
【0069】
<比較例4>
金属ロール温度を350℃とした以外は実施例3と同様の方法でカレンダー加工を実施したが、カレンダーロールに張り付き、加工できなかった。
【0070】
<比較例5>
線圧を60kg/cmとした以外は実施例3と同様の方法で不織布を得た。
【0071】
<比較例6>
線圧を800kg/cmとした以外は実施例3と同様の方法でカレンダー加工を実施したが、線圧が高すぎるため、不織布が破れてしまい、加工できなかった。
【0072】
<比較例7>
実施例1において、水流絡合処理を行わず、弾性樹脂ロールの代わりに金属ロールを使用した。
【0073】
<比較例8>
330℃での溶融粘度が80Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、押し出し機により押し出し、ノズル孔径D(直径)0.3mm、L(ノズル長さ)/D=10、ノズル孔ピッチ0.67mmのノズルを有するメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.15g/分、紡糸温度420℃、熱風温度430℃、ノズル幅1mあたり15Nm/分で吹き付けて、目付が25g/mの不織布を得たが、溶融粘度が低すぎてノズル圧力が安定せず、繊維形状にならないポリマー塊がウェブ上に多発し、紡糸性が悪かった。
【0074】
<比較例9>
330℃での溶融粘度が3100Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、押し出し機により押し出し、ノズル孔径D(直径)0.3mm、L(ノズル長さ)/D=10、ノズル孔ピッチ0.67mmのノズルを有するメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.15g/分、紡糸温度435℃、熱風温度445℃、ノズル幅1mあたり15Nm/分で吹き付けて、目付が25g/mの不織布を得たが、溶融粘度が高いため、ノズル詰まりが発生し、紡糸性が悪かった。
【0075】
<比較例10>
330℃での溶融粘度が500Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、押し出し機により押し出し、ノズル孔径D(直径)0.1mm、L(ノズル長さ)/D=20、ノズル孔ピッチ0.67mmのノズルを有するメルトブローン不織布製造装置に供給し、単孔吐出量0.01g/分、紡糸温度450℃、熱風温度460℃、ノズル幅1mあたり25Nm/分で吹き付けて、平均繊維径0.4μmの繊維を得たが、風綿(糸切れ)が多発し、不織布の採取は困難であった。
【0076】
<比較例11>
330℃での溶融粘度が900Pa・sである非晶性ポリエーテルイミドを使用し、紡糸温度390℃により繊維径15μm、200℃における乾熱収縮率3.5%のマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントに捲縮を施した後、切断して繊維長51mmの短繊維を作製し、この短繊維をカードにかけ、目付け28g/mの繊維ウェブを作製し、このウェブを水流交絡機の支持ネットに乗せ、水圧力20〜100kgf/cmの水を両面噴出して、ステープル同士を絡合、一体化させた後、温度110〜160℃で乾燥熱処理を行い、不織布を得た。さらに、得られた不織布を200℃に加熱した金属ロールと表面のショアD硬度が93°の樹脂製の弾性ロール間に通し、線圧200kg/cmで加圧カレンダーした。得られた不織布の平均繊維径は15μm、厚みは35μm、タテ強力は15N/15mであり、難燃性を有するものであったが、繊維径が太く、緻密性が低く、透気度は0秒/100mL、耐電圧は1kV/mmと低いものであった。
【0077】
実施例1〜11についての結果を表1に、比較例1〜9、11についての結果を表2にそれぞれ示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】