特許第6488511号(P6488511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6488511-地盤固結用薬液組成物 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6488511
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】地盤固結用薬液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/18 20060101AFI20190318BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20190318BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20190318BHJP
   C08G 18/18 20060101ALI20190318BHJP
   C08G 18/50 20060101ALI20190318BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20190318BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20190318BHJP
   C09K 103/00 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C09K17/18 P
   C09K17/14 P
   C08G18/00 L
   C08G18/18
   C08G18/50 021
   E02D3/12 101
   C08G101:00
   C09K103:00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-246543(P2014-246543)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-108430(P2016-108430A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232922
【氏名又は名称】日油技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松下 安克
(72)【発明者】
【氏名】安藤 伸行
(72)【発明者】
【氏名】田中 一幸
(72)【発明者】
【氏名】泉 直考
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06288133(US,B1)
【文献】 特開2002−327174(JP,A)
【文献】 特開2001−158881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00− 17/52
E02D 3/12
C08G 18/00− 18/87
C08G 71/00− 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然湧水が発生している含水状態の軟弱地盤に注入され、前記軟弱地盤を固結する薬液組成物が、ポリオール、触媒としての三級アミン触媒及び三量化触媒、粘度低下剤並びに発泡剤を含有するA液と、ポリイソシアネートを含有するB液とからなり、
前記粘度低下剤が水酸基を含有しないものであり、前記A液とB液との各々の25℃での粘度が200mPa・s以下であって
前記A液と前記B液とを空気中で混合した混合液について、その混合開始から発泡による液面上昇が停止するまでのライズタイムTaが40〜120秒であり、前記A液と前記B液とを水中で混合した混合液について、その混合開始から発泡による液面上昇が停止するまでのライズタイムをTw(秒)としたとき、Tw−Ta≦60(秒)であるように前記触媒の配合量が調整され、
且つ前記混合液中のイソシアネート基濃度([NCO])と水酸基濃度([OH])との下記数式(1)で表されるNCO比が230〜400であることを特徴とする地盤固結用薬液組成物。
NCO比=([NCO]/[OH])×100 ・・・(1)
【請求項2】
前記粘度低下剤が、マレイン酸エステル、トリメット酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、及びトリメチルペンタニルジイソブチレートからなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の地盤固結用薬液組成物。
【請求項3】
前記A液の100重量部に対し、前記粘度低下剤の配合量が5〜50重量部であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地盤固結用薬液組成物。
【請求項4】
前記ポリオールが、プロピレンオキシドを付加重合したポリエーテルポリオールを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の地盤固結用薬液組成物。
【請求項5】
前記ポリオールが、アミンポリオールを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の地盤固結用薬液組成物。
【請求項6】
前記三級アミン触媒の配合量が前記A液100重量部に対して0.5〜10重量部であり、前記三量化触媒の配合量が前記前記A液100重量部に対して5〜10重量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の地盤固結用薬液組成物。
【請求項7】
自然湧水が発生している含水状態の軟弱地盤に、請求項1〜6のいずれか一項に記載の地盤固結用薬液組成物を注入し、前記軟弱地盤を固結することを特徴とする地盤固結工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含水状態の軟弱地盤に注入しても、地盤を十分に安定化できる地盤固結用薬液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル工事等の土木工事において、軟弱地盤に地盤固結用薬液を注入し地盤を固結させて安定化することが行われている。この地盤固結用薬液として、下記特許文献1に、ポリオール、触媒、発泡剤及び粘度低下剤としての特定のモノオールを含有するA液と、ポリイソシアネートを含有するB液とからなるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−327174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1によれば、地盤固結用薬液の粘度を低下して地盤への浸透性を向上でき、二液が混合されて発泡が開始されるまでの時間が長く且つ発泡が開始されると速やかに硬化して硬質ポリウレタンとなって地盤を十分に固結し、軟弱地盤の安定化に有効であるとされている。
【0005】
しかし、本発明者等の検討によれば、粘度低下剤としてモノオールを用いた地盤固結用薬液は、空気中での反応性に対し水中での反応性が大幅に低下するため、雨水が浸透した程度の低含水状態の軟弱地盤の固結には有効であるものの、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤に注入しても、地盤を十分に固結できないことがわかった。
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、高含水状態の軟弱地盤に注入しても、地盤を十分に固結できる地盤固結用薬液組成物及び地盤固結工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る地盤固結用薬液組成物は、自然湧水が発生している含水状態の軟弱地盤に注入され、前記軟弱地盤を固結する薬液組成物が、ポリオール、触媒としての三級アミン触媒及び三量化触媒、粘度低下剤並びに発泡剤を含有するA液と、ポリイソシアネートを含有するB液とからなり、前記粘度低下剤が水酸基を含有しないものであ、前記A液とB液との各々の25℃での粘度が200mPa・s以下であって、前記A液と前記B液とを空気中で混合した混合液について、その混合開始から発泡による液面上昇が停止するまでのライズタイムTaが40〜120秒であり、前記A液と前記B液とを水中で混合した混合液について、その混合開始から発泡による液面上昇が停止するまでのライズタイムをTw(秒)としたとき、Tw−Ta≦60(秒)であるように前記触媒の配合量が調整され、且つ混合液中のイソシアネート基濃度([NCO])と水酸基濃度([OH])との下記数式(1)で表されるNCO比が230〜400であることを特徴とするものである。
NCO比=([NCO]/[OH])×100 ・・・(1)
【0008】
このように調整された薬液組成物は、高含水状態の軟弱地盤に注入しても、ライズタイムを大幅に遅らせることなく地盤を十分に固結できる。
【0009】
前記粘度低下剤が、マレイン酸エステル、トリメリット酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、及びトリメチルペンタニルジイソブチレートからなる群から選ばれた少なくとも一種であるであることが好ましい。
【0010】
前記A液の100重量部に対し、前記粘度低下剤の配合量が5〜50重量部であることが好ましい。
【0011】
前記ポリオールが、プロピレンオキシドを付加重合したポリエーテルポリオールを含むことが好ましい。
【0012】
前記ポリオールが、アミンポリオールを含むことが好ましい。
【0013】
前記三級アミン触媒の配合量が前記A液100重量部に対して0.5〜10重量部であり、前記三量化触媒の配合量が前記前記A液100重量部に対して5〜10重量部であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る地盤固結工法は、自然湧水が発生している含水状態の軟弱地盤に、前述した地盤固結用薬液組成物を注入し、前記軟弱地盤を固結することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る地盤固結用薬液組成物によれば、粘度低下剤として水酸基を含有しないものを用いたことから、空気中での反応性に対し水中での反応性が大幅に低下することがないため、雨水が浸透した程度の低含水状態の軟弱地盤は勿論、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤中でもA液とB液は反応が進行しつつ拡散して硬質ポリウレタンを形成し、地盤を十分に固結して安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用する地盤固結用薬液組成物を用いたトンネル工事の地盤改良例の配管図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明の地盤固結用薬液組成物は、ポリオール、粘度低下剤、触媒、及び発泡剤を含有するA液と、ポリイソシアネートを含有するB液とからなる。A液に用いるポリオールとしては、例えば、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の2価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ひまし油、ソルビトール、蔗糖等の単独若しくは混合物;これらにプロピレンオキシドやエチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加重合したポリオールを挙げることができる。また、A液として、エチレンジアミン、アニリン、トリレンジアミン、モノ、ジ又はトリエタノールアミン等にプロピレンオキシドやエチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加重合したアミンポリオール類を含んでいてもよい。アミンポリオール類は触媒の役割を奏することができ有効である。特に、プロピレンオキシドを付加重合したポリオール又はアミンポリオール類を好適に用いることができ、エチレンオキシドを付加重合したポリオール又はアミンポリオール類が15重量%以下含有されていてもよい。
【0019】
また、粘度低下剤としては、水酸基を含有しないものを用いる。この粘度低下剤としては、例えば、ジオクチルマレエート、ジブチルマレエート等のマレイン酸エステル;トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリイソデシル等のトリメリット酸エステル;ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ビス(ジブチルグリコール)アジペート、ビス(ジブチルグリコール)アジペート等のアジピン酸エステル;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート等のリン酸エステル;2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオールジイソブチラート等のトリメチルペンタニルジイソブチレートからなる群から選ばれた少なくとも一種を好適に用いることができる。このような粘度低下剤は、ポリオールを含有するA液の25℃での粘度が200mPa・s以下(好ましくは150mPa・s以下)となるように添加する。通常、A液100重量部に対して粘度低下剤の添加量は5〜50重量部の範囲とすることが好ましい。尚、A液の25℃での粘度が200mPa・sを超えると、A液とB液との混合液の粘度が高くなって、混合液の地盤中への拡散が遅くなり、地盤中に広く硬質ポリウレタンを形成できなくなる。
【0020】
触媒としては三級アミン触媒及び三量化触媒とを併用する。三級アミン触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、2−メチルトリエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス−(ジメチルアミノエチル)エーテル、ヘキサヒドロ−S−トリアジン、N,N−ジメチルアミノエチルモルホリン、ジメチルアミノプロピルイミダゾール、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ヘキサメチルトリプロピレンテトラミン、N,N,N−トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミン等の第三級アミンが挙げられ、これらは単独、若しくは2種以上併せて用いることができる。特に好ましい三級アミン触媒はトリエチレンジアミンである。トリエチレンジアミンは固体であるため、ジプロピレングリコール等のポリオールに溶解して用いることが好ましい。
【0021】
三量化触媒としては、例えば、アルカリ性脂肪酸塩、第4級アンモニウム塩等のイソシアネートを三量化させる触媒が用いられる。特に好ましい三量化触媒はオクチル酸のアルカリ金属塩であり、より具体的にはオクチル酸カリウムである。オクチル酸カリウムは固体であるためトリエチレングリコール等のポリオールに溶解して用いることが好ましい。
【0022】
このような三級アミン触媒及び三量化触媒の添加量は、A液とB液とを空気中で混合した混合開始から発泡による液面の上昇が停止するまでのライズタイムが40〜120秒(好ましくは60〜70秒)となる量とする。三級アミン触媒の添加量は、特に限定するものではないが、A液100重量部に対して0.1〜5重量部の範囲とすることが好ましく、三量化触媒の添加量はA液100重量部に対して0.5〜10重量部の範囲とすることが好ましい。ここで、ライズタイムが40秒未満の触媒量では、触媒量が過大なため、A液とB液の反応速度が速過ぎ、地盤中に広く均質な硬質ポリウレタンを形成し難くなる。他方、ライズタイムが120秒を超える触媒量では、触媒量が過少なため、A液とB液の反応速度が遅過ぎ、地盤中に十分な硬質ポリウレタンを形成し難くなる。
【0023】
発泡剤としては、特に限定するものではないが、水が好適である。水はB液のポリイソシアネートと反応して炭酸ガスを発生することから発泡剤として作用する。水の配合量は、特に限定するものではないが、A液100重量部に対して0.5〜5重量部の範囲とすることが好ましい。
【0024】
更に、A液には、均一なセル構造を持つ硬質ポリウレタンを得るべく、整泡剤を配合することが好ましい。整泡剤としては、特に限定するものではないが、シリコーン整泡剤が好適であり、硬質ポリウレタンに通常用いられるポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサンコポリマーが特に好ましい例として挙げられる。整泡剤の配合量は、通常、A液100重量部に対して0.1〜2重量部の範囲である。
【0025】
また、B液に用いるポリイソシアネートとしては、特に限定するものではないが、ポリメリックMDIが好適である。特に、二核体や異性体を含む低粘度のポリメリックMDIが好ましい。このようなポリイソシアネートを含有するB液は、25℃での粘度が200mPa・s以下(好ましくは150mPa・s以下)となるように調整される。B液には、必要に応じ、低粘度化や難燃性を付与するため、ポリメリックMDIにハロゲン化リン酸エステル等の難燃剤や可塑剤を配合してもよい。尚、B液の25℃での粘度が200mPa・sを超えると、A液とB液との混合液の粘度が高くなって、混合液の地盤中への拡散が遅くなり、地盤中に広く硬質ポリウレタンを形成できなくなる。
【0026】
このようなA液とB液とは、その混合液中のイソシアネート基濃度([NCO])と水酸基濃度([OH])との下記数式(2)で表されるNCO比が230〜400、好ましくは300〜400、特に好ましくは340〜400となるように混合する。具体的には、A液とB液との混合重量比(A液/B液)は1/1〜1/3の範囲とすることが好ましい。
NCO比=([NCO]/[OH])×100 ・・・(2)
【0027】
ここで、NCO比が230未満の場合、A液とB液との混合液中に水酸基(OH)が過剰に存在し、イソシアネート基(NCO)との反応により発熱し易く、フリーの反応が速まり、触媒を多用できなくなり、且つ触媒として用いる三級アミン触媒及び三量化触媒は水溶性であることも相俟って、水中での反応が遅くなり、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤での施工で固結不良になる。一方、NCO比が400を超えた場合、A液とB液との混合液中にイソシアネート基(NCO)が過剰に存在し、未反応のイソシアネート基(NCO)が残存し、反応が完結し難くなる。
【0028】
A液とB液との混合液中のNCO比は、A液に水酸基を含有しない粘度低下剤を用いたことにより、モノオール等の水酸基を有する粘度低下剤を用いた従来の場合に比較して、A液中の水酸基濃度([OH])が低下し、NCO比が高くなる。また、A液とB液とを空気中で混合した混合液のライズタイムが40〜120秒の範囲内となるように触媒としての三級アミン触媒及び三量化触媒の添加量等で調整していることから、雨水が浸透した程度の低含水状態の軟弱地盤に注入することにより、混合液が地盤中を拡散しつつ反応が進行し硬質ポリウレタンを形成して地盤を十分に固結できる。更に、A液とB液とを水中で混合した混合液のライズタイム(Tw)と、空気中で混合した混合液のライズタイム(Ta)との差が60秒以内であると(ただし、Tw≧Ta)、混合液を水中に投入しても、反応速度が著しく低下することなく反応が完結して硬質ポリウレタンを生成できることから、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤に注入しても、地盤を十分に固結できる。
【0029】
本発明の地盤固結用薬液組成物には、上記した各成分の他に、必要に応じて、顔料、無機充填材、スコーチ防止剤等の安定剤等を添加することができる。
【0030】
本発明の地盤固結用薬液組成物を用いた地盤固結方法を、図1に示すトンネル工事の地盤固結例で説明する。トンネル10を掘削する地盤18に複数本の注入管12が設けられている。注入管12には、地盤固結用薬剤組成物の注入装置20と接続されている。注入装置20では、ポリオール、粘度低下剤、触媒、及び発泡剤を含有するA液が貯留されたタンク22と、ポリイソシアネートを含有するB液が貯留されたタンク24とから、サクションホース26、26を介してA液とB液とが別々に注入ポンプ28に送液される。また、注入ポンプ28からも、デリバリホース30、30を介してA液とB液とが別々にY字管32に送液される。Y字管32で両者を混合して混合液とする。混合液は、反応が混合直後から開始し、注入管12内で発泡しつつ、地盤18内に注入される。注入された混合液は、地盤内を更に発泡しつつ浸透し、混合されてから数分で完全硬化して、樹脂である硬質ポリウレタンとなり、地盤を固結する。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を適用する地盤固結用薬液組成物を調整した例を実施例に示し、本発明適用外の薬液組成物を調整した例を比較例に示す。
【0032】
(実施例1)
下記表1に示す原料及び配合量で準備したA液とB液とを、容積比(A液/B液)で1/2で空気中又は水中で混合し、その反応性としてクリームタイム、ライズタイム及び発泡率を測定した。
【0033】
空気中でのクリームタイム、ライズタイム及び発泡倍率は次のように測定した。すなわち、液温を15℃に調整したA液35gとB液82gを1リットルのポリカップに採り、スリーワンモーター(攪拌機)で10秒間攪拌した。攪拌による混合開始から発泡による液面上昇が開始されるまでの時間をクリームタイム、攪拌による混合開始から発泡による液面上昇が停止するまでの時間をライズタイム、発泡後の体積を発泡前の体積で除したものを発泡倍率とした。
【0034】
また、水中でのクリームタイム、ライズタイム及び発泡倍率は次のように測定した。すなわち、液温を15℃に調整したA液35gとB液82gを1リットルのポリカップに採り、スリーワンモーターで10秒間攪拌した(攪拌までは空気中での場合と同様)。攪拌直後の液を、500ccの水が入った1リットルのポリカップに投入し、攪拌による混合開始から発泡による液面上昇が開始されるまでの時間をクリームタイム、攪拌による混合開始から発泡による液面上昇が停止するまでの時間をライズタイム、発泡後の体積を発泡前の体積で除したものを発泡倍率とした。
【0035】
その結果を表1に併せて示す。尚、表1には、A液とB液との混合液のNCO比(([NCO]/[OH])×100)も併せて示した。
【0036】
【表1】
【0037】
表1中のポリオールは三洋化成工業株式会社製のサンニックスHS−211、難燃化剤は大八化学工業株式会社製のTMCPP、粘度低下剤Aはポリオキシエチレンジメチルエーテル(三洋化成工業株式会社製のDM−200)、粘度低下剤Bはトリメチルペンタニルジイソブチレート(イーストマンケミカルジャパン株式会社製のTXIB)、整泡剤はTEGOSTAB B−8110(エボニック・ジャパン株式会社製)、三級アミン触媒は東ソー株式会社製のTOYOCAT LE91、三量化触媒はエアプロダクツジャパン株式会社製のDABCO TMR−7、ポリイソシアネートは東ソー株式会社製のMR−200を用いた。尚、粘度の測定はB型回転粘度計にて計測した。
【0038】
A液とB液との混合液の水中でのクリームタイム及びライズタイムで表される反応速度は、空気中でのものよりも遅くなるものの、その差が60秒以内であり、許容される範囲内である。また、水中での発泡率は、空気中よりも増大し、A液とB液とは水中で十分に反応していることを示す。このことから表1に示すA液とB液とからなる地盤固結用薬液組成物は、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤の地盤固結用薬液として用いることが可能である。
【0039】
(比較例)
表1に示すA液の粘度低下剤A,Bを下記表2に示す粘度低下剤C〜Fに変更し、三級アミン触媒及び三量化触媒の添加量を表2に示すように変更した他は、表1に示すと同様にしてA液及びB液を準備した。また、実施例と同様にしてA液とB液との混合液の空気中及び水中での反応性を測定し表2に併せて示した。
【0040】
【表2】
【0041】
表2において、粘度低下剤Cは日油株式会社製のPKA−5001(EO付加アリルアルコール)、粘度低下剤Dは日本乳化剤株式会社製のBzG−20(EO付加ベンジルグリコール)、粘度低下剤Eは日本乳化剤株式会社製のEHDG(EO付加2−エチルヘキシルジグリコール)、粘度低下剤Fは三洋化成工業株式会社製のLB−65(PO付加ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル)を用いた。尚、表2のポリオール、難燃剤、整泡剤、三級アミン触媒、三量化触媒、ポリイソシアネートは表1に示すもの同様なものを用いた。
【0042】
表2に示すA液とB液との混合物は、空気中では表1に示すA液とB液との混合物と同様な反応性を示すものの、水中では表1に示すA液とB液との混合物の反応性、特にライズタイムが大幅に低下する。このような表2に示すA液とB液とは、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤の地盤固結用薬液として用いることはできない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の地盤固結用薬液組成物は、雨水が浸透した程度の低含水状態の軟弱地盤の地盤固結用薬液として用いることができ、また、自然湧水が発生しているような高含水状態の軟弱地盤の地盤固結用薬液として用いることができる。従って、本発明の地盤固結用薬液組成物は、トンネル工事等の湧水が発生し易い土木工事に用いることができる。
【符号の説明】
【0044】
10:トンネル、12:注入管、18:地盤、20:注入装置、22,24:タンク、26:サクションホース、28:注入ポンプ、30:デリバリホース、32:Y字管
図1