(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10〜60重量%の割合で含有し、ヨウ素価が120以下、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量が100,000以下である高飽和ニトリルゴムのラテックスの製造方法であって、
前記ラテックスに含有される揮発分を除去し、高飽和ニトリルゴムのフィルムとした場合における、該フィルムの50℃における損失正接tanδ(50℃)が0.3〜0.6であり、該フィルムの100℃における100%せん断歪み時の複素トルクS*が、20dNm以下であり、
前記高飽和ニトリルゴムを形成する単量体を乳化重合することによりラテックスを得る際に、
乳化重合の開始時には分子量調整剤を添加せず、乳化重合を開始した後、分子量調整剤を添加する工程を含むことを特徴とする高飽和ニトリルゴムのラテックスの製造方法。
前記高飽和ニトリルゴムが、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位10〜60重量%、酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体単位0.1〜20重量%、ならびに、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位20〜89.9重量%を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高飽和ニトリルゴムのラテックスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
高飽和ニトリルゴムのラテックス
本発明の高飽和ニトリルゴムのラテックスは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を10〜60重量%の割合で含有し、ヨウ素価が120以下、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量が100,000以下である高飽和ニトリルゴムを含有し、かつ、前記ラテックスに含有される揮発分を除去し、高飽和ニトリルゴムのフィルムとした場合における、該フィルムが後述する特定の特性を備えるものである。
【0014】
本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴム中に含有される、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、特に限定されないが、炭素数3〜18のものが好ましく、炭素数3〜9のものが特に好ましい。その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、なかでもアクリロニトリルが好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴム中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、10〜60重量%であり、好ましくは20〜50重量%、より好ましくは25〜45重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、高飽和ニトリルゴムの耐油性が劣るおそれがあり、逆に多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0016】
また、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムは、接着性および耐摩耗性向上の観点から、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体に加えて、酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体単位を含有していることが好ましい。
【0017】
酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体単位を形成する酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体は、分子内にα,β−エチレン性不飽和結合と酸基とを含有する単量体であり、酸基としては、特に限定されず、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のいずれでもよいが、カルボキシル基が好ましい。酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体としては、炭素数3〜18のものが好ましく、炭素数3〜9のものが特に好ましい。
【0018】
カルボキシル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体としては、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルのほか、カルボキシル基を有する化合物に変化し得るα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物が挙げられる。
【0019】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等が例示される。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等が例示される。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノ−2−ヒドロキシエチル、フマル酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等が例示される。
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。
これらのなかでも、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、炭素数3〜9のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸がさらに好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0020】
本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴム中における、酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体単位の含有量は、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%、特に好ましくは1〜6重量%である。酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体を上記範囲で共重合することにより、得られる接着剤層の接着性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムは、ゴム弾性による接着性の向上の観点から、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位をさらに含有していることが好ましい。
【0022】
ジエン単量体単位を形成するジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の炭素数が4以上の共役ジエン;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等の炭素数が5〜12の非共役ジエンが挙げられる。これらの中では共役ジエンが好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。α−オレフィン単量体単位を形成するα−オレフィン単量体としては、好ましくは炭素数が2〜12のものであり、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が例示される。
【0023】
本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムにおけるジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位の含有量は、好ましくは20〜89.9重量%、より好ましくは40〜79.5重量%、特に好ましくは49〜74重量%である。
【0024】
さらに、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体、ならびに、ジエンおよび/またはα−オレフィンと共重合可能な他の単量体を更に共重合させたものであってもよい。共重合可能な他の単量体の単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム中、30重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下が特に好ましい。
【0025】
このような共重合可能な他の単量体としては、芳香族ビニル、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステル、フルオロオレフィン、共重合性老化防止剤等が挙げられる。
【0026】
芳香族ビニルとしては、スチレンおよび炭素数8〜18のスチレン誘導体が挙げられ、スチレン誘導体の具体例としてはα−メチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸エステルとしては、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸と炭素数1〜12の脂肪族アルコールとのエステル体が挙げられ、その具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル〔アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸メチルを意味する。以下、同様。〕、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル等が例示される。
フルオロオレフィンとしては、炭素数2〜12の不飽和フッ素化合物が挙げられ、その具体例としては、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル等が例示される。
【0027】
共重合性老化防止剤の具体例としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン等が例示される。
【0028】
本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは10〜300、より好ましくは20〜250、特に好ましくは30〜200である。ムーニー粘度が低すぎると、本発明の接着剤組成物で接着して得られる複合体の機械的特性が低下するおそれがある。一方、高すぎると、加工性が悪化する可能性がある。
【0029】
また、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、120以下であり、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、特に好ましくは30以下である。ヨウ素価が高すぎると、接着剤層とした場合に、得られる接着剤層の耐熱老化性や耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0030】
さらに、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムは、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量(Mw)が100,000以下であり、好ましくは1,0000〜9,0000、より好ましくは2,0000〜8,0000である。クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量が、大きすぎると、得られる接着剤層の引張加工性が悪化してしまう。クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量は、たとえば、高飽和ニトリルゴムをクロロホルムで溶解させ、得られた溶液の可溶分について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いた測定を行うことにより求めることができる。なお、クロロホルムに対する可溶分の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは2〜100、より好ましくは2.5〜50である。
【0031】
なお、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムの、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量を上記範囲にする方法としては、特に限定されないが、たとえば、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムを乳化重合により製造する際において、重合開始時には、分子量調整剤を添加せず、乳化重合の途中で、分子量調整剤を添加する方法が挙げられる。このような方法においては、分子量調整剤を中途添加する際のタイミングと分子量調整剤を中途添加する際の添加量を調整することで、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量を調整することができる。
【0032】
また、本発明のラテックスは、ラテックスに含有される揮発分を除去し、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムをフィルムとした場合における、該フィルムの各特性が以下に説明する範囲にあるものである。
【0033】
すなわち、本発明のラテックスにおいては、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムをフィルムとした場合における、該フィルム(以下、「フィルム化物」とする。)の50℃における損失正接tanδ
(50℃)が、0.3〜0.6の範囲であり、好ましくは0.3〜0.5の範囲である。50℃における損失正接tanδ
(50℃)は流動性を示す指標であり、特に低分子量成分の影響が反映される。損失正接tanδ
(50℃)が小さすぎると、引張加工性が悪化してしまい、一方、損失正接tanδ
(50℃)が大きすぎると、得られる接着剤層の強度が低下してしまい、耐摩耗性が悪化してしまう。なお、損失正接tanδ
(50℃)は、たとえば、本発明のラテックスを、所定の基材上に流延させて、乾燥することにより、厚み0.1mm〜0.6mmの高飽和ニトリルゴムのフィルムを得て、得られたフィルムについて、動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0034】
また、本発明のラテックスにおいては、フィルム化物の100℃における100%せん断歪み時の複素トルクS*が、20dNm以下であり、好ましくは5〜19dNm、特に好ましくは10〜19dNmである。100%せん断歪み時の複素トルクS*は、フィルムを比較的大きく変形させた際におけるトルク値であり、剛性を示す指標である。100%せん断歪み時の複素トルクS*が大きすぎると、得られる接着剤層が変形し難くなり過ぎてしまい、引張加工性が悪化してしまう。なお、100%せん断歪み時の複素トルクS*は、たとえば、本発明のラテックスを、所定の基材上に流延させて、乾燥することにより、厚み0.1mm〜0.7mmの高飽和ニトリルゴムのフィルムを得て、得られたフィルムについて、動的せん断ひずみ100%、測定温度100℃の条件にて、動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0035】
なお、損失正接tanδ
(50℃)および100%せん断歪み時の複素トルクS*を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムを乳化重合により製造する際において、重合開始時には、分子量調整剤を添加せず、乳化重合の途中で、分子量調整剤を添加する方法が挙げられる。
【0036】
また、本発明のラテックスにおいては、フィルム化物の損失正接tanδ
(50℃)および100%せん断歪み時の複素トルクS*が、上記範囲にあることに加えて、以下の要件をも満たしていることが好ましく、これにより、得られる接着剤層の引張加工性および耐摩耗性をより向上させることができる。
【0037】
すなわち、本発明においては、フィルム化物の50℃における損失正接tanδ
(50℃)と、150℃における損失正接tanδ
(150℃)との差Δtanδ=tanδ
(150℃)−tanδ
(50℃)が、0.35以下であることが好ましく、0.1〜0.3であることがより好ましい。なお、150℃における損失正接tanδ
(150℃)は、上述した50℃における損失正接tanδ
(50℃)と同様に測定することができる。
【0038】
また、本発明においては、フィルム化物の100℃における貯蔵弾性率G’
(100℃)が、200kPa以下であることが好ましく、50〜150kPaであることがより好ましい。なお、100℃における貯蔵弾性率G’
(100℃)は、硬さを示す指標であり、たとえば、本発明のラテックスを、所定の基材上に流延させて、乾燥することにより、厚み0.1mm〜0.6mmの高飽和ニトリルゴムのフィルムを得て、得られたフィルムについて、動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
【0039】
さらに、本発明においては、フィルム化物の50℃における貯蔵弾性率G’
(50℃)と、150℃における貯蔵弾性率G’
(150℃)との差ΔG’=G’
(50℃)−G’
(150℃)が、350kPa以下であることが好ましく、150〜310kPaであることがより好ましい。なお、50℃における貯蔵弾性率G’
(50℃)および150℃における貯蔵弾性率G’
(150℃)は、上述した100℃における貯蔵弾性率G’
(100℃)と同様に測定することができる。
【0040】
本発明のラテックスを構成する高飽和ニトリルゴムは、上述の単量体を共重合し、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素−炭素二重結合を水素添加することによって得られる。重合方法は、特に限定されず公知の乳化重合法や溶液重合法によればよいが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0041】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜8重量部、特に好ましくは1〜5重量部である。
【0042】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0043】
また、本発明においては、上述の単量体を乳化重合法により共重合する際には、乳化重合の開始時には、分子量調整剤を添加せず、乳化重合を開始した後、5〜60重量%の重合転化率となった段階で、分子量調整剤を添加するような態様とすることが好ましく、これにより、得られる高飽和ニトリルゴムの、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量、ならびに、損失正接tanδ
(50℃)、および100%せん断歪み時の複素トルクS*を上記範囲とすることができる。
【0044】
すなわち、たとえば、本発明の高飽和ニトリルゴムのラテックスを、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体単位、ならびに、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位を含有するものとする場合には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と、酸基含有α,β−エチレン性不飽和単量体と、ジエン単量体および/またはα−オレフィン単量体とを含有する単量体混合物について、分子量調整剤を添加せずに、乳化重合を開始し、次いで、5〜60重量%の重合転化率となった段階で、後述する所定量の分子量調整剤を添加し、乳化重合を継続するような態様とすることが好ましい。
【0045】
分子量調整剤を中途添加するタイミングとしては、乳化重合を開始した後、重合転化率が5〜60重量%となった段階とすることが好ましく、15〜45重量%となった段階とすることがより好ましい。なお、分子量調整剤を中途添加する際における、添加方法としては特に限定されず、添加する分子量調整剤を一括で添加する方法としてもよいし、あるいは、複数回に分けて添加する方法としてもよい。なお、本発明においては、分子量調整剤は、乳化重合を開始した後に、乳化重合の途中で添加することが好ましく、乳化重合の開始時には分子量調整剤を添加しないことが好ましいが、乳化重合の開始時において、分子量調整剤が実質的に含有されていないような態様とすればよく、たとえば、10重量ppm以下程度であれば、分子量調整剤として作用する化合物が含有していても差支えない。
【0046】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは1〜3重量部であり、より好ましくは1〜2重量部である。
【0047】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部、より好ましくは80〜300重量部である。
【0048】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0049】
なお、乳化重合の温度は、0〜80℃が好ましく、0〜30℃が特に好ましい。
【0050】
本発明の高飽和ニトリルゴムのラテックスは、乳化重合で得られたニトリルゴムのラテックスを水素添加処理に付することによって得られるものが好ましい。なお、ニトリルゴム中の共役ジエン単量体単位の量が少なく、そのため、乳化重合により得られたニトリルゴムのヨウ素価が上述した値以下である場合には、必ずしも、水素添加処理を行なう必要はない。
【0051】
このようにして得られるラテックスの平均粒径は、好ましくは0.01〜0.5μmである。また、ラテックスの固形分濃度は、凝集化を防止するため60重量%以下であることが好ましく、5〜60重量%であることがより好ましく、10〜50重量%であることが特に好ましい。
【0052】
水素添加は公知の方法によればよく、乳化重合で得られたニトリルゴムのラテックスを凝固した後、油層で水素添加する油層水素添加法や、重合で得られたラテックスをそのまま水素添加する水層水素添加法などが挙げられるが、これらのなかでも、水層水素添加法が好ましい。
【0053】
ニトリルゴムの水層水素添加法による水素添加に際しては、乳化重合により調製したニトリルゴムのラテックスに、必要に応じて水を加えて希釈し、水素添加反応を行なうのが好ましい。水層水素添加法としては、水素添加触媒存在下の反応系に水素を供給して水素添加する水層直接水素添加法と、酸化剤、還元剤および活性剤の存在下で還元することにより水素添加する水層間接水素添加法とがあるが、水層直接水素添加法が、より好ましい。
【0054】
水層直接水素添加法に用いる水素添加触媒としては、水で分解しにくい化合物であればよく、特に限定されないが、たとえば、パラジウム触媒などが挙げられる。
パラジウム触媒の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ラウリン酸、コハク酸、オレイン酸、フタル酸等のカルボン酸のパラジウム塩;塩化パラジウム、ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウム等のパラジウム塩素化物;ヨウ化パラジウム等のパラジウムヨウ素化物;硫酸パラジウム・二水和物等が挙げられる。
これらの中でもカルボン酸のパラジウム塩、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム及びヘキサクロロパラジウム(IV)酸アンモニウムが特に好ましい。
水素添加触媒の使用量は、適宜定めればよいが、水素添加前のニトリルゴムに対し、好ましくは5〜10,000重量ppm、より好ましくは10〜5,000重量ppmである。
【0055】
水層直接水素添加法における反応温度は、好ましくは0〜300℃、より好ましくは20〜150℃、特に好ましくは30〜100℃である。反応温度が低すぎると反応速度が低下するおそれがあり、逆に、高すぎるとニトリル基の水素添加等の副反応が起こる可能性がある。
水素圧力は、好ましくは0.1〜30MPa、より好ましくは0.5〜20MPaである。反応時間は、好ましくは1〜15時間、特に好ましくは2〜10時間である。
【0056】
水層直接水素添加法においては、水素添加反応終了後、通常、ラテックス中の水素添加触媒の除去を行なう。水素添加触媒の除去方法としては、たとえば、活性炭、イオン交換樹脂等の吸着剤を水素添加反応終了後のラテックスに添加して攪拌することによって、水素添加触媒を吸着剤に吸着させ、次いでラテックスを濾過または遠心分離する方法を採ることができる。また、水素添加反応終了後のラテックスに、過酸化水素およびジメチルグリオキシムを添加し、pHを8〜11に調整して加温しながら攪拌し、水素添加触媒を、ラテックス中の不溶物として析出させ、除去することもできる。
なお、水層直接水素添加法においては、水素添加触媒を除去せずにラテックス中に残存させてもよい。
【0057】
接着剤組成物
本発明の接着剤組成物は、上述した本発明の高飽和ニトリルゴムのラテックスを含有してなる。
本発明の接着剤組成物における高飽和ニトリルゴムの含有量(固形分量)は、好ましくは5〜50重量%、特に好ましくは10〜40重量%である。
【0058】
本発明の接着剤組成物は、上述した本発明の高飽和ニトリルゴムのラテックスに加えて、接着剤樹脂をさらに含有していることが好ましい。
接着剤樹脂としては、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂およびイソシアネート樹脂を好適に使用することができるが、中でもレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂が好ましい。レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂は、公知のもの(たとえば、特開昭55−142635号公報に開示のもの)が使用できる。レゾルシンとホルムアルデヒドとの反応比率は、「レゾルシン:ホルムアルデヒド」のモル比で、通常、1:1〜1:5、好ましくは1:1〜1:3である。
【0059】
レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂は、上記した本発明の高飽和ニトリルゴムのラテックスの固形分100重量部に対して、乾燥重量基準で、好ましくは5〜30重量部、より好ましくは8〜20重量部の割合で使用される。レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の配合量が過度に多い場合は、接着剤層が硬くなり過ぎて柔軟性が損なわれ、これにより、本発明の接着剤組成物を用いて得られる複合体の耐摩耗性が低下する場合がある。
【0060】
また、本発明の接着剤組成物の接着力をさらに高めるために、必要に応じて、従来から使用されている2,6−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニルメチル)−4−クロロフェノール又は類似の化合物、イソシアネート、ブロックイソシアネート、エチレン尿素、ポリエポキシド、変性ポリ塩化ビニル樹脂等を併用することができる。
さらに、本発明の接着剤組成物には、加硫助剤を含有させることができる。加硫助剤を含有させることにより、本発明の接着剤組成物を用いて得られる複合体の機械的強度を向上させることができる。加硫助剤としては、p−キノンジオキシム等のキノンジオキシム;ラウリルメタクリレートやメチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;TAC(トリアリルシアヌレート)、TAIC(トリアリルイソシアヌレート)等のアリル化合物;ビスマレイミド、フェニルマレイミド、N,N−m−フェニレンジマレイミド、4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3'−ジメチル−5,5'−ジエチル−4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N'−(4−メチル−1,3−フェニレン)ビス(マレインイミド)等のマレイミド化合物;DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、ジアリルマレエート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェートなどの多価酸のアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのトリアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテルなどのアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレートなどの、3〜5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;硫黄;等を挙げることができる。
【0061】
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体
本発明の接着剤組成物で接着して得られる複合体としては、たとえば、繊維基材と高飽和ニトリルゴムからなる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を挙げることができる。このような繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体は、通常、繊維基材と高飽和ニトリルゴムとを上述した本発明の接着剤組成物で接着することにより得ることができる。
なお、以下においては、本発明の接着剤組成物を構成するラテックスに含有される高飽和ニトリルゴムを、「接着剤高飽和ニトリルゴム」とし、繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体のゴム層を形成する高飽和ニトリルゴムを、「被着体高飽和ニトリルゴム」として、説明する。
【0062】
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の形態は、特に限定されず、上述した本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を介して、繊維基材と被着体高飽和ニトリルゴムとが互いに接着されてなるものであればよいが、繊維基材と被着体高飽和ニトリルゴムとを貼り合わせたものや、被着体高飽和ニトリルゴムに繊維基材の一部または全部を埋め込んだもの等を例示することができる。
【0063】
繊維基材を構成する繊維の種類は、特に限定されず、その具体例としては、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)等のポリアミド繊維、PBO繊維、フッ素系繊維、ガラス繊維、炭素繊維、綿、レーヨン等が挙げられる。これらは、その用途に応じて、適宜選定される。繊維基材の形状は特に限定されず、その具体例としては、ステープル、フィラメント、コード状、ロープ状、織布(帆布等)等を挙げることができ、繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の用途に応じて適宜選定される。たとえば、繊維基材としてコード状のものを用いて芯線入りの高飽和ニトリルゴム製歯付きベルトとすることができ、また帆布等の基布状の繊維基材を用いて基布被覆高飽和ニトリルゴム製歯付きベルトとすることができる。
【0064】
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体に用いる被着体高飽和ニトリルゴムは、共役ジエンおよびα,β−エチレン性不飽和ニトリルを必須成分単量体とし、必要に応じて、これら必須成分単量体と共重合可能な単量体を共重合し、必要に応じて水素化することにより得られる共重合体である。共重合可能な単量体としては、上述した接着剤高飽和ニトリルゴムと同様のものを挙げることができる。
【0065】
被着体高飽和ニトリルゴムの具体例としては、高飽和ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、カルボキシル基含有高飽和ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和イソプレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和イソプレン−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和ブタジエン−アクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和ブタジエン−アクリル酸−アクリロニトリル共重合ゴム、高飽和ブタジエン−エチレン−アクリロニトリル共重合ゴム、アクリル酸ブチル−アクリル酸エトキシエチル−ビニルノルボルネン−アクリロニトリル共重合ゴム等が挙げられる。これらのうち、特に、繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を、自動車用途に用いる場合には、耐油性および耐熱性の観点から、高飽和ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴムが好ましい。
【0066】
被着体高飽和ニトリルゴムの水素化率は、ヨウ素価で120以下、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である。ヨウ素価が高すぎると、得られる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の耐熱性が低下するおそれがある。
被着体高飽和ニトリルゴムのアクリロニトリル単量体単位の含有量は、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは12〜55重量%、特に好ましくは15〜50重量%である。アクリロニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の耐油性が劣るおそれがあり、逆に多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
また、被着体高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ML
1+4、100℃)は、好ましくは10〜300、より好ましくは20〜250、特に好ましくは30〜200である。ムーニー粘度が低すぎると成形加工性や機械的特性が低下するおそれがあり、高すぎると成形加工性が低下する可能性がある。
【0067】
被着体高飽和ニトリルゴムには、硫黄、過酸化物系架橋剤、ポリアミン系架橋剤等の架橋剤のほか、ゴム加工に際して通常配合される、カーボンブラック、シリカ、短繊維等の補強剤;架橋促進剤;老化防止剤;可塑剤;顔料;粘着付与剤;加工助剤;スコーチ防止剤;シランカップリング剤等の配合剤を適宜添加することができる。
【0068】
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得る方法は特に限定されないが、たとえば、浸漬処理等により、上述した本発明の接着剤組成物を付着させた繊維基材を被着体高飽和ニトリルゴム上に載置し、これを加熱および加圧する方法を示すことができる。
加圧は圧縮(プレス)成形機、金属ロール、射出成形機等を用いて行なうことができる。加圧の圧力は、好ましくは0.5〜20MPa、より好ましくは2〜10MPaであり、加熱の温度は、好ましくは130〜300℃、より好ましくは150〜250℃で、操作時間は、好ましくは1〜180分、より好ましくは5〜120分である。
この方法により、被着体高飽和ニトリルゴムの加硫及び成形、並びに、繊維基材と被着体高飽和ニトリルゴムとの間の接着を同時に行なうことができる。
なお、この場合においては、繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を構成する被着体高飽和ニトリルゴムが、所望の表面形状を有するものとなるように、圧縮機の型の内面やロールの表面に、目的とする表面形状を実現する型を形成させておくとよい。
【0069】
また、繊維基材−高飽和ニトリルゴムの一態様として、繊維基材−高飽和ニトリルゴム−繊維基材複合体を挙げることができる。繊維基材−高飽和ニトリルゴム−繊維基材複合体は、たとえば、繊維基材(2種以上の繊維基材の複合体であってもよい。)と繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体とを組み合わせてなる。繊維基材−高飽和ニトリルゴム−繊維基材複合体は、たとえば、繊維基材としての芯線、および基布としての繊維基材に、本発明の接着剤組成物を付着させ、接着剤組成物を付着させた芯線、被着体高飽和ニトリルゴムおよび接着剤組成物を付着させた繊維基材を、この順に重ね、加熱加圧することにより得ることができる。
【0070】
本発明の接着剤組成物で処理された繊維基材は、耐摩耗性および耐動的疲労性に優れる。また、被着体高飽和ニトリルゴムが耐油性、耐熱性等に優れるので、本発明の接着剤組成物を用いて得られる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体は、自動車用接油部材として、特に、ベルトとしては、平ベルト、Vベルト、Vリブドベルト、丸ベルト、角ベルト、歯付ベルト、油中ベルト等のベルト用に好適である。
また、本発明の接着剤組成物を用いて得られる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体は、ホース、チューブ、ダイアフラム等にも好適に使用できる。ホースとしては、単管ゴムホース、多層ゴムホース、編上式補強ホース、布巻式補強ホース等が挙げられる。ダイアフラムとしては、平形ダイアフラム、転動形ダイアフラム等が挙げられる。
本発明の接着剤組成物を用いて得られる繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体は、上記の用途以外にも、シール、ゴムロール等の工業用製品として用いることができる。シールとしては、回転用、揺動用、往復動等の運動部位シール及び固定部位シールが挙げられる。運動部位シールとしては、オイルシール、ピストンシール、メカニカルシール、ブーツ、ダストカバー、ダイアフラム、アキュムレータ等が挙げられる。固定部位シールとしては、O−リング、各種ガスケット等が挙げられる。ゴムロールとしては、印刷機器、コピー機器等のOA機器の部品であるロール;紡糸用延伸ロール、紡績用ドラフトロール等の繊維加工用ロール;ブライドルロール、スナバロール、ステアリングロール等の製鉄用ロール;等が挙げられる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0072】
ヨウ素価
高飽和ニトリルゴムのラテックスに過剰量のメタノールを添加し、析出したゴムを取り出し、減圧下60℃で24時間乾燥することにより、高飽和ニトリルゴムを得た。そして、得られた高飽和ニトリルゴムを用いて、JIS K 6235に準じて測定した。
【0073】
クロロホルム可溶分の重量平均分子量Mw
ガラス板に、高飽和ニトリルゴムのラテックスを流し込み、20℃で72時間静置することで乾燥させた。そして、乾燥により形成された皮膜を、ガラス板から剥がし取り、剥がし取った皮膜を、減圧下60℃で24時間さらに乾燥することにより、厚み約0.3mmの高飽和ニトリルゴムのフィルム(フィルム化物)を得た。このフィルムをクロロホルムに浸漬して25℃で48時間静置することで溶解させ、メンブレンフィルター(孔径0.5μm)を通した後、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定し、クロロホルム可溶分の重量平均分子量Mwを求めた。なお、Mwは標準ポリスチレン換算である。
測定器:HLC−8220(東ソー社製)
カラム:商品名「GMH−HR−H」(東ソー社製)2本と商品名「G3000H−HR」(東ソー社製)1本を直列に接続。
検出器:示差屈折計
溶離液:クロロホルム
カラム温度:40℃
【0074】
損失正接tanδ、貯蔵弾性率G’
上述した重量平均分子量および分子量分布の測定と同様にして、厚み約0.3mmの高飽和ニトリルゴムのフィルム(フィルム化物)を得た。そして、得られたフィルムに対して、動的粘弾性測定機:商品名「RPA2000」(アルファテクノロジーズ社製)を用いて、ダイ形状に合わせフィルムを切り取り、約5gとなるようフィルムを重ねて測定に供し、動的せん断ひずみ6.98%、周波数1.7Hzで、50℃、100℃、150℃における損失正接tanδ
(50℃)、tanδ
(100℃)、tanδ
(150℃)、および、貯蔵弾性率G’
(50℃)、G’
(100℃)、G’
(150℃)を測定した。
さらに、以下の式において、ΔtanδおよびΔG’を求めた。
Δtanδ=(150℃におけるtanδ
(150℃))−(50℃におけるtanδ
(50℃))
ΔG’ =(50℃におけるG’
(50℃))−(150℃におけるG’
(150℃))
【0075】
100%せん断歪み時の複素トルクS*
上述した重量平均分子量の測定と同様にして、厚み約0.3mmの高飽和ニトリルゴムのフィルム(フィルム化物)を得た。そして、得られたフィルムに対して、動的粘弾性測定機:商品名「RPA2000」(アルファテクノロジーズ社製)を用いて、ダイ形状に合わせフィルムを切り取り、約5gとなるようフィルムを重ねて測定に供し、動的せん断ひずみ100%、周波数1Hz、100℃の条件で、100℃における100%せん断歪み時の複素トルクS*を測定した。
【0076】
接着剤組成物処理繊維基材の引張試験
接着剤組成物処理ナイロン基材を幅2.5cm、長さ10cmの短冊型に裁断し、試験片とした。引張試験機を用いて、この短冊型試験片を50mm/分の速度で、引っ張り試験を行った。本試験においては、試験開始時のチャック間距離を4.4cmとし、チャック間距離が6.6cmになるときを50%ひずみとして、この時の荷重を求めた。この荷重が低いほど、接着剤組成物処理繊維基材が変形しやすく、複雑な繊維−ゴム複合体を形成しやすく引張加工性に優れる。
【0077】
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の耐摩耗性試験
繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体について、カーペット用テーバー摩耗試験機を用いて耐摩耗性を試験した。試験条件は荷重1kg、摩耗表面温度120℃(赤外線ランプ照射)、ディスク回転数1万回の条件で行った。評価の基準は、下記の通りとした。評価基準の数値が高いほど耐摩耗性が優れる。
5 : 摩耗が認められない、または、摩耗が認められるものの、ナイロンの表面積の25%以下である。
4 : ナイロン基材の表面積の25%超、50%以下の範囲に摩耗が認められる。
3 : ナイロン基材の表面積の50%超、75%以下の範囲に摩耗が認められる。
2 : ナイロン基材の表面積の75%超、90%以下の範囲に摩耗が認められる。
1 : ナイロン基材の表面積の90%超の範囲に摩耗が認められる。
【0078】
実施例1
〔高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)の製造〕
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル35部、メタクリル酸4部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン61部を仕込んだ。反応器を10℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、重合反応を開始させ、攪拌しながら重合反応を継続した。重合転化率が20%となった時点で、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)1.5部を添加し、さらに重合反応を継続した。重合転化率が90%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で残留単量体を除去し、ニトリルゴム(X1)のラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0079】
そして、上記にて得られたニトリルゴム(X1)のラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ニトリルゴム(X1)のラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、固形分濃度を調整して高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)(固形分濃度30重量%)を得た。
【0080】
高飽和ニトリルゴム(A1)の各単量体単位の含有割合を、
1H−NMR測定により求めたところ、アクリロニトリル単位34.2重量%、メタクリル酸単位3.3重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)62.5重量%であった。また、ヨウ素価は28であった。また、上記方法にしたがって、クロロホルム可溶分の重量平均分子量Mw、損失正接tanδ、貯蔵弾性率G’、100%せん断歪み時の複素トルクS*を測定した。そして、Δtanδ、ΔG’を計算により求めた。
結果を表1に示す。
【0081】
〔接着剤組成物の調製〕
レゾルシン6.5部、ホルムアルデヒド(濃度37%)9.4部、および水酸化ナトリウム(濃度10%)3部を水139.6部に溶解し、25℃で6時間反応させ、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂液(RF液)を得た。
【0082】
そして、上記にて製造したて高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)(固形分濃度30%)60.9部に、上記にて調製したレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂液(RF液)27.7部、および蒸留水11.4部を添加し、室温で1分間攪拌した後、25℃で24時間熟成させることにより、接着剤組成物(LS1)を得た。
【0083】
〔接着剤組成物処理繊維基材の調製〕
繊維基材としてのナイロン66からなる基布を、上記にて得られた接着剤組成物(LS1)に浸漬し、引き上げることにより、基布上に接着剤組成物を塗布した。この際、ナイロン66の基布100部に対して、接着剤組成物中のゴムが20部付着するようにした。次いで、接着剤組成物を塗布した基布を、空気循環式オーブンにて110℃で10分間加熱し、次いで、150℃で3分間加熱することで硬化させることにより、接着剤組成物処理繊維基材(接着剤組成物処理ナイロン基材)を得た。そして、得られた接着剤組成物処理繊維基材について、上記方法にしたがって、引張試験を行った。結果を表1に示す。
【0084】
〔繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体の調製〕
また、上記とは別に、上記にて得られた接着剤組成物(LS1)400部に、HAFカーボン(商品名「シースト3」、東海カーボン社製)の水分散体(25重量%濃度)40部を添加してHAFカーボン混合液とした後、繊維基材としてのナイロン66からなる基布を、得られたHAFカーボン混合液に浸漬し、引き上げることにより、基布上に接着剤組成物を塗布した。この際、ナイロン66の基布100部に対して、接着剤組成物中のゴムが20部付着するようにした。次いで、接着剤組成物を塗布した基布を、空気循環式オーブンにて150℃で3分間加熱して、接着剤組成物で前処理した基布を得た。
【0085】
次いで、表2に記載の配合処方でバンバリーミキサーにより15分間混練することにより調製したゴム配合物を、上記にて得られた接着剤組成物で前処理した基布15cm×15cmの上に重ね、ロールにて厚さ1mmに展延した後、圧縮機で圧力0.1MPa、温度160℃にて30分間プレスすることで、繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体(ナイロン基材−ゴム複合体)を得た。そして、得られた繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体について、上記方法にしたがって、耐摩耗性試験を行った。結果を表1に示す。
【0086】
実施例2
重合反応器の温度を10℃から15℃に変更し、重合転化率が20%となった時点における、t−ドデシルメルカプタンの添加量を1.5部から1.2部に変更したこと以外は実施例1と同様にして高飽和ニトリルゴム(A2)のラテックス(L2)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A2)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位33.5重量%、メタクリル酸単位3.5重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)63.0重量%であり、ヨウ素価は37であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0087】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A2)のラテックス(L2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
実施例3
t−ドデシルメルカプタン1.5部を添加するタイミングを、重合転化率が20%となった時点から、重合転化率が40%になった時点に変更した以外は、実施例1と同様にして、高飽和ニトリルゴム(A3)のラテックス(L3)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A3)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位33.8重量%、メタクリル酸単位3.5重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)62.7重量%であり、ヨウ素価は45であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0089】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A3)のラテックス(L3)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
実施例4
重合反応器の温度を10℃から15℃に変更し、重合転化率が20%となった時点における、t−ドデシルメルカプタンの添加量を1.5部から1.2部に変更したこと以外は実施例1と同様にして高飽和ニトリルゴム(A4)のラテックス(L4)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A4)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位34.4重量%、メタクリル酸単位3.2重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)62.4重量%であり、ヨウ素価は44であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0091】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A4)のラテックス(L4)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
実施例5
アクリロニトリルの配合量を35部から42部に、1,3−ブタジエンの配合量を61部から54部に変更した以外は、実施例1と同様にして高飽和ニトリルゴム(A5)のラテックス(L5)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A5)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位40.1重量%、メタクリル酸単位3.2重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)56.7重量%であり、ヨウ素価は31であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0093】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A5)のラテックス(L5)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
比較例1
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル35部、メタクリル酸4部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン61部を仕込んだ。反応器を10℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、重合反応を開始させ、攪拌しながら重合反応を継続し、重合転化率が90%になった時点で、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止した。次いで、水温60℃で残留単量体を除去し、ニトリルゴム(X6)のラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
【0095】
そして、上記にて得られたニトリルゴム(X6)のラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対するパラジウム含有量が1000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ニトリルゴム(X6)のラテックスおよびパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、固形分濃度を調整して高飽和ニトリルゴム(A6)のラテックス(L6)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A6)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位34.1重量%、メタクリル酸単位3.4重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)62.5重量%であり、ヨウ素価は31であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0096】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A6)のラテックス(L6)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
比較例2
重合開始時における、t−ドデシルメルカプタンの配合量を0.5部から0.8部に変更した以外は、比較例1と同様にして、高飽和ニトリルゴム(A7)のラテックス(L7)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A7)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位34.0重量%、メタクリル酸単位3.3重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)62.7重量%であり、ヨウ素価は38であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0098】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A7)のラテックス(L7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
比較例3
重合開始時における、t−ドデシルメルカプタンの配合量を0.5部から1.5部に変更した以外は、比較例1と同様にして、高飽和ニトリルゴム(A8)のラテックス(L8)(固形分濃度30重量%)を得た。
高飽和ニトリルゴム(A8)の各単量体単位の含有割合は、アクリロニトリル単位33.7重量%、メタクリル酸単位3.5重量%、1,3−ブタジエン単位(水素化された部分も含む)62.8重量%であり、ヨウ素価は47であった。また、実施例1と同様にして各測定を行った結果を表1に示す。
【0100】
そして、高飽和ニトリルゴム(A1)のラテックス(L1)に代えて、上記にて得られた高飽和ニトリルゴム(A8)のラテックス(L8)を用いた以外は、実施例1と同様にして、接着剤組成物、接着剤組成物処理繊維基材、および繊維基材−高飽和ニトリルゴム複合体を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
表1より、本発明所定の高飽和ニトリルゴムのラテックスを含有する本発明の接着剤組成物を用いた場合には、得られる繊維基材は引張加工性に優れるものであり、また、得られる繊維基布−高飽和ニトリルゴム複合体は、耐摩耗性に優れるものであった(実施例1〜5)。
これに対して、高飽和ニトリルゴムのラテックスとして、クロロホルムに対する可溶分の重量平均分子量が100,000超であり、フィルム化物とした際における、50℃における損失正接tanδ
(50℃)が0.3未満であり、100℃における100%せん断歪み時の複素トルクS*が20dNmを超えるものを用いた場合には、得られる繊維基材は50%伸長時の荷重が大きく、引張加工性に劣るものであった(比較例1,2)。
また、高飽和ニトリルゴムのラテックスとして、フィルム化物とした際における、50℃における損失正接tanδ
(50℃)が0.6超であるものを用いた場合には、得られる繊維基布−高飽和ニトリルゴム複合体は、耐摩耗性に極めて劣るものであった(比較例3)。