(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔性食品の破砕又は咀嚼時に発生する音及び/又は振動を音響解析し、該音響解析により得られた心理音響評価量を用いて多孔性食品の食感を評価する方法であって、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる2以上の心理音響評価量を決定し、これら心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式をサクミ指標として用いることを特徴とする、官能検査試験を必要としない、前記方法(ただし、該式において、変数がLとSのみの組合せの場合、及び、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と音の変化に関するグループ(R、F)とに分け、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れる場合を除く。)。
ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる3以上の心理音響評価量を決定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
多孔性食品の破砕又は咀嚼時に発生する音及び/又は振動を取得する手段、前記音及び/又は振動に基づいて、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる2以上の心理音響評価量を決定する手段、及び、前記決定された心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式をサクミ指標として用い、前記サクミ指標の数値を算出する手段(ただし、該式において、変数がLとSのみの組合せの場合、及び、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と音の変化に関するグループ(R、F)とに分け、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れる場合を除く。)を含むことを特徴とする、官能検査試験を必要としない、多孔性食品の食感評価システム。
ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる3以上の心理音響評価量を決定することを特徴とする、請求項8に記載のシステム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、官能検査を行うことなく、実験的に多孔性食品の食感を評価する方法及び評価システムを提供することである。より詳細には、複数のパネラーによる官能検査の結果との整合性をより一層向上し、迅速かつ精度良く多孔性食品の食感を評価する方法及び評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために、多孔性食品を音響解析して得られる心理音響評価量と当該多孔性食品の官能検査の結果とを精緻に照合して鋭意研究を行った結果、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる2以上の心理音響評価量を決定し、これら心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式を、サクミ指標(パラメータ)として用いることにより、サクミの有無を正確に評価できることを見出し、本発明を完成させた。特に、前記式において、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と音の変化に関するグループ(R、F)とに分け、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れる場合に互いの効果が打ち消し合わされること見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、多孔性食品の破砕又は咀嚼時に発生する音及び/又は振動を音響解析し、該音響解析により得られた心理音響評価量を用いて多孔性食品の食感を評価する方法であって、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる2以上の心理音響評価量を決定し、これら心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式をサクミ指標として用いる、官能検査試験を必要としない、前記方法(ただし、該式において、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と音の変化に関するグループ(R、F)とに分け、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れる場合を除く。)を提供することができる。
また、本発明の好ましい一態様によれば、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる3以上の心理音響評価量を決定する、前記方法を提供することができる。
また、本発明の好ましい一態様によれば、上記サクミ指標が、以下の(1)〜(13)の式から選ばれる、前記方法を提供することができる。
(1)N×(L+S)+(L×S)、(2)N+L+S+(R×F)、(3)S×(N+L+R+F)、(4)L×(N+S+R+F)、(5)N+(L×S)+R+F、(6)S×(N+L)+(R×F)、(7)S×(N+L)、(8)N+(L×S)+(R×F)、(9)N/(R+F)+(L×S)、(10)N×(R+F)+(L×S)、(11)L×S、(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F、(13)(N+L+S)/F
また、本発明の一態様によれば、上記サクミ指標の数値が、対応する以下の不等式(1)〜(13)をそれぞれ満たすときにサクミがあると評価する、前記方法を提供することができる。
(1)N×(L+S)+(L×S)>6.0、(2)N+L+S+(R×F)>12、(3)S×(N+L+R+F)>5.5、(4)L×(N+S+R+F)>5.3、(5)N+(L×S)+R+F>5.3、(6)S×(N+L)+(R×F)>5.3、(7)S×(N+L)>5.5、(8)N+(L×S)+(R×F)>5.0、(9)N/(R+F)+(L×S)>4.5、(10)N×(R+F)+(L×S)>4.3、(11)L×S>83、(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F>−2.0、(13)(N+L+S)/F>−2.1
また、本発明の好ましい一態様によれば、多孔性食品を製造するために用いられる油脂が、菜種油又はパーム油のいずれかから選ばれる、上記方法を提供することができる。
また、本発明の好ましい一態様によれば、上記方法により評価された、多孔性食品を提供することができる。
また、本発明の好ましい一態様によれば、上記方法を含む、多孔性食品の製造方法を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、多孔性食品の破砕又は咀嚼時に発生する音及び/又は振動を取得する手段、前記音及び/又は振動に基づいて、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる2以上の心理音響評価量を決定する手段、及び、前記決定された心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式をサクミ指標として用い、前記サクミ指標の数値を算出する手段を含む、官能検査試験を必要としない、多孔性食品の食感評価システム(ただし、該式において、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と音の変化に関するグループ(R、F)とに分け、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れる場合を除く。)を提供することができる。
また、本発明の好ましい一態様によれば、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)及び変動強度(F)からなる群から選ばれる3以上の心理音響評価量を決定する、前記システムを提供することができる。
また、本発明の好ましい一態様によれば、上記サクミ指標が、以下の(1)〜(13)の式から選ばれる、前記システムを提供することができる。
(1)N×(L+S)+(L×S)、(2)N+L+S+(R×F)、(3)S×(N+L+R+F)、(4)L×(N+S+R+F)、(5)N+(L×S)+R+F、(6)S×(N+L)+(R×F)、(7)S×(N+L)、(8)N+(L×S)+(R×F)、(9)N/(R+F)+(L×S)、(10)N×(R+F)+(L×S)、(11)L×S、(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F、(13)(N+L+S)/F
また、本発明の一態様によれば、上記サクミ指標の数値が、対応する以下の不等式(1)〜(12)をそれぞれ満たすときにサクミがあると評価する、前記システムを提供することができる。
(1)N×(L+S)+(L×S)>6.0、(2)N+L+S+(R×F)>12、(3)S×(N+L+R+F)>5.5、(4)L×(N+S+R+F)>5.3、(5)N+(L×S)+R+F>5.3、(6)S×(N+L)+(R×F)>5.3、(7)S×(N+L)>5.5、(8)N+(L×S)+(R×F)>5.0、(9)N/(R+F)+(L×S)>4.5、(10)N×(R+F)+(L×S)>4.3、(11)L×S>83、(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F>−2.0、(13)(N+L+S)/F>−2.1
また、本発明の好ましい一態様によれば、多孔性食品を製造するために用いられた油脂が、菜種油又はパーム油のいずれかから選ばれる、前記システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、複数のパネラーによる官能評価と相関性が高く、有用かつ実用的なサクミ指標(パラメータ)が得られたので、多孔性食品につき単回の音響解析を行い、2つ以上の心理音響評価量を決定するだけで、面倒な官能検査を一切行うことなく、多孔性食品の食感(サクミ)を迅速かつ精度良く評価することができる。特に本発明では、音響心理パラメータを1つ用いる場合よりも、相関係数が高いサクミ指標(パラメータ)を用いることができるので、従来よりも精度よく評価することができるともに、サクミ指数の数値からサクミの状態をも正確に測定することができる。本発明は、例えば、多数の多孔性食品を短時間に評価しなければならない場合に特に有用である。また、本発明は、多孔性食品の種類を問わず、どのようなものであっても利用できるので、その応用性、汎用性はきわめて高いということができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の「多孔性食品の食感評価方法」について順を追って説明する。
<多孔性食品>
本発明における「多孔性食品」とは、材料中の蒸発成分の拡散、又は材料に注入したガスの微細気泡の膨化により生じた多孔性組織を有する食品のことであり、例えば、ビスケット、クラッカー、プレッシェル、クッキー、コーンパフ、コーンフレーク、ポップコーン及びポテトチップス等のスナック菓子、せんべい、あられ等の米菓、天ぷら、かき揚げ、コロッケ、トンカツ、エビフライ等のフライ食品が挙げられる。特に、コロッケ、天ぷら、かき揚げが好ましい。
【0012】
<多孔性食品の食感>
食品の食感は、通常、ハードネス(硬さ)、スプリンジネス(弾力性)、ブリットルネス(脆さ)、チューイネス(咀嚼性)、スティキッネス(粘り)、クリスプネス(サクミ)等で評価される。多孔性食品の場合、上記食感のうち、特にサクミが重要であり、本発明において、「多孔性食品の食感」とは、特に断りがなければ、原則、サクミのことを指す。
【0013】
<多孔性食品の食感の評価>
本発明の多孔性食品の食感評価方法は、多孔性食品の破砕又は咀嚼時に発生する音及び/又は振動を音響解析し、該音響解析により得られた2つ以上の心理音響評価量を決定し、これら心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式を用いることを特徴とする。
ここで、「心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式」とは、心理音響評価量が変数であり、これら変数が四則演算(つまり、掛け算、割り算、足し算及び引き算)で表された式のことを意味するが、前記変数にはそれぞれ係数がかけられている場合が含まれている。本明細書において、例えば、N+L+Sは係数の表記を省略した「式」であり、この「式」にはαN+βL+γSである場合も含まれている(ここで、NとLとSは変数、αとβとγは係数)。つまり、αN+βL+γSは、心理音響評価量であるラウドネス(N)とラウドネスレベル(L)とシャープネス(S)が足し算された式であり、NとLとSは多孔性食品ごとに変わる変数であって、サクミの評価に当たっては、音響分析により測定された心理音響評価量の値がこの「式」に代入されることになる。その際、NとLとSのそれぞれには、αとβとγという係数がかけあわされている場合がある。さらに、上記「式」には、αN+βL+γS+Xのように定数(X)が含まれている場合もある。上記係数及び定数は最適な値となるように当業者であれば誰でも容易に決定できるものであり、本発明においては特に制限されない。
本発明では特に、以下の式(1)〜(13)で表されるサクミ指標を用いて、多孔性食品の食感を評価することが好ましい。なお、後述するように、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と、音の変化に関係するグループ(R、F)とに分けて、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れる場合は、互いの効果が打ち消されてしまうので、このような場合は本発明から除かれる。
なお、以下の式のうち、さらに相関係数の高い、式(1)〜(9)のサクミ指標を用いることがより好ましい。また、式中、「+」は足し算、「×」は掛け算、「/」は割り算を意味する。また、引き算はマイナスの係数として足し算の中に含まれる。
(1)N×(L+S)+(L×S)
(2)N+L+S+(R×F)
(3)S×(N+L+R+F)
(4)L×(N+S+R+F)
(5)N+(L×S)+R+F
(6)S×(N+L)+(R×F)
(7)S×(N+L)
(8)N+(L×S)+(R×F)
(9)N/(R+F)+(L×S)
(10)N×(R+F)+(L×S)
(11)L×S
(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F
(13)(N+L+S)/F
また好ましくは、上記(1)〜(13)の式に、音響解析により得られた心理音響評価量の値を代入し、その結果の値が、以下の不等式をそれぞれ満たしている場合にサクミがあると評価することを特徴とする。
なお、以下の式のうち、さらに相関係数の高い、式(1)〜(9)のサクミ指標を用いることがより好ましい。また、式中、「+」は足し算、「×」は掛け算、「/」は割り算を意味する。また、引き算はマイナスの係数として足し算の中に含まれる。
(1)N×(L+S)+(L×S)>6.0
(2)N+L+S+(R×F)>12
(3)S×(N+L+R+F)>5.5
(4)L×(N+S+R+F)>5.3
(5)N+(L×S)+R+F>5.3
(6)S×(N+L)+(R×F)>5.3
(7)S×(N+L)>5.5
(8)N+(L×S)+(R×F)>5.0
(9)N/(R+F)+(L×S)>4.5
(10)N×(R+F)+(L×S)>4.3
(11)L×S>83
(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F>−2.0
(13)(N+L+S)/F>−2.1
【0014】
ここで、例えば、式(1)をサクミ指標として選択した場合の評価について説明する。まず、音響解析することにより、ラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス及び変動強度の値をそれぞれ決定する。次に、式(1)、すなわちN×(L+S)+(L×S)に前記心理音響評価量の値を代入し、その結果の数値を求める。前記数値(以下、「サクミ指標の数値」ともいう。)が、6.0以下であるときは、当該多孔性食品はサクミがあると評価する。このような評価ができるのは、式(1)と官能評価によるサクミの相関性が高いためである。後述するように、
図1によれば、菜種油及びパーム油をフライ油に用いたいずれの場合においても、3段階(1時間後、3時間後、5時間後)によるサクミ指標の数値はほぼ同じ値となって塊状となり、各段階に沿って階段状に表れている。このような図が得られたことは、式(1)に基づく数値が、官能評価によるサクミと極めて高い相関性を有していることを示すものである。特に、サクミが強い場合に高い相関性を有している。
なお、このような評価は、他の式(2)〜(13)についても同様に行うことができる。以上により、式(1)〜(13)へ心理音響評価量の値を代入することで、多孔性食品の食感、すなわち、サクミという食感を客観的に評価することができる。そして、式(1)〜(13)のサクミ指標の変数にはそれぞれ、適当な値を有する係数がかけあわされていることがより好ましい。
【0015】
<多孔性食品の破砕>
本発明の多孔性食品の食感評価方法において多孔性食品を破砕するには食品破砕装置を用いる。食品破砕装置とは、食品を圧縮及び切断する装置の総称であり、その装置は食品を圧縮、切断する際に破砕音を発生させ、装置に音や振動を伝えるものである。本発明において用いられる食品破砕装置の一例としては、特許第4111723号公報に開示されている食品破砕装置やレオメーターが挙げられる。前記公報において詳しく説明されているので、ここでは詳細を割愛する。なお、前記公報の内容は、本明細書の中に取り込まれる。以下、本発明の食品破砕装置の特徴を要約して説明する。
【0016】
<食品破砕装置>
特許第4111723号公報に開示されている食品破砕装置には、コンタクトマイクが備え付けられているか、食品破砕部の近くにこのようなマイクが設置されている。これにより、食品破砕時の音及び/又は振動を測定することができる。食品破砕部はアダプター式となっており、食品の種類に応じて形状を任意に変えることができる。一例を挙げると、アダプターは格子型又はフォーク型のものが挙げられる。格子型のアダプターは、コロッケ及び天ぷら等を破砕する際によく用いられ、フォーク型のアダプターは春巻き及びクッキー等を破砕する際によく用いられる。また、このような食品破砕装置としては、破砕音を正確に測定するため、破砕音を測定する際の振動音ができるだけ小さいものが好ましい。アダプターの押し込み速度は20〜300mm/秒で測定することが好ましい。
【0017】
<レオメーター>
また、本発明において用いられる食品破砕装置の一種としてはレオメーターも用いることができる。レオメーターとは、物質の力学的性状を測定する装置であり、レオメーターによれば、圧縮破砕強度(荷重)、引張強度、切断強度、弾性、粘弾性、脆さ、粘着性、応力緩和及びクリーム等の測定が可能である。本発明においては、レオメーターを用いて、多孔性食品をプランジャーにより一定の速度で押し潰し、その荷重を測定する単軸圧縮破砕強度試験を行うと共に、多孔性食品を押し潰す際に発生する音及び/又は振動の収集し解析する。上述したレオメーターを用いた単軸圧縮破砕試験において、プランジャーの押込み速度を0.1〜10mm/秒として測定することが好ましく、プランジャーの形状は特に制限されない。また、データ収集間隔(距離分離能)は特に制限されないが、データ収集間隔が小さく、データ収集数が多い方が好ましい。例えばデータ収集間隔としては0.01〜0.001mmであることが好ましい。
【0018】
本発明の多孔性食品の食感評価方法においては、食品破砕装置を用いて一定荷重により多孔性食品の破砕を行い、音及び/又は振動が求められる。また、本発明の多孔性食品の食感評価方法においては、レオメーターを使用して一定速度により多孔性食品の破砕を行い、音及び/又は振動が求められる。本発明の多孔性食品の食感評価方法においては、多孔性食品の破砕時に発生する音及び/又は振動を音響解析し、該音響解析により得られた心理音響評価量の数値を用いることにより多孔性食品の食感が評価される。
【0019】
<収音>
本発明の多孔性食品の食感評価方法においては、多孔性食品を破砕する際に発生する音及び/又は振動を収音して音響解析を行う。音及び/又は振動を収音する装置としては録音装置が用いられる。用いられる録音装置としては、音を評価するための試験において通常に用いられるものが使用可能である。例えば、マイクロフォン、パーソナルコンピューター及び記録媒体からなる。マイクロフォンとは、マイク及びコンタクトマイクを含み、前記マイクとは騒音計をも含む概念である。
【0020】
上記マイクとは、空気中の振動、いわゆる“音”を電気振動に変換することにより収音するものであり、騒音計を含む、コンタクトマイクとは骨や食品破砕装置等の固体を伝わる振動を測定するものである。コンタクトマイクとしては、例えば、骨伝導マイクHG17A((株)テムコジャパン製)等が挙げられる。
【0021】
音及び/又は振動を収音する際に用いられるマイクロフォン等の録音装置の設置位置として、一例を挙げると、破砕又は咀嚼される多孔性食品から3〜50cm程度の距離に設置し、コンタクトマイクにより収音する際には、食品破砕装置の食品切断部分から1〜30cmの距離に装着する。マイクロフォン等の録音装置の設置位置としては、上記距離に限定されることはなく、多孔性食品破砕又は咀嚼する音を安定に収音することができる位置であればよい。
【0022】
また、本発明の多孔性食品の食感評価方法においては、上記のように音及び/又は振動を音響解析し、心理音響評価量である、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)、シャープネス(S)、ラフネス(R)、及び/又は変動強度(F)を決定する。
<ラウドネス>
本発明において音響解析を行う「ラウドネス」とは、人が感じる音の大きさ、すなわち“音の大きさ感”(単位:sone)であり、定常音については、ISO532Bで規格化されている。音の強度を表す物理量である音圧とは区別されるものであり、例えば、同じ音圧レベルでも周波数が異なれば音の大きさに違いが生じる。ラウドネス(本明細書では「N」ともいう。)は、例えば、音質評価ソフトウェアWS−5160((株)小野測器社製)を用いて算出することができる。
【0023】
<ラウドネスレベル>
本発明において音響解析を行う「ラウドネスレベル」とは、ラウドネスを対数表示したものであり、人が感じる音の大きさ、すなわち“音の大きさ感”(単位:phon)を表す点は上記ラウドネスと同じである。なお、ラウドネスレベル(本明細書では「L」ともいう。)は、次の式で表すことができる。L=10・log
2(N)+40。ラウドネスレベルは、例えば、音質評価ソフトウェアWS−5160((株)小野測器社製)を用いて算出することができる。
【0024】
<シャープネス>
本発明において音響解析を行う「シャープネス」とは、いわゆる“音の鋭さ感(甲高さ)”(単位:acum)のことであり、低域と高域の音のバランスが高域側に偏った時に感じるものである。周波数成分に依存する評価量であり、低周波数、高周波数間におけるスペクトルバランスを示す。シャープネス(本明細書では「S」ともいう。)は、例えば、音質評価ソフトウェアWS−5160((株)小野測器社製)を用いて算出することができる。
【0025】
シャープネス(S)の定義式を以下に示す。
【0027】
式中、N’:各臨界帯域番号(Bark)におけるラウドネス
すなわち、分母はトータルラウドネスである。
g(z):臨界帯域番号に依存する重み関数
z :臨界帯域番号
すなわち上記は、g(z)にて重みのかかったN’を臨界帯域番号軸に並べた時の重心位置を表わす。
【0028】
<ラフネス>
本発明において音響解析を行う「ラフネス」とは、いわゆる“音の粗さ感(ざらざら、ぶるぶる感)”(単位:asper)のことであり、ラウドネスが短い周期で変動する時に感じるものである。音が早く変動する際のその変動を知覚することができないために生じる粗さ感の評価量である。ラフネス(本明細書では「R」ともいう。)は、例えば、音質評価ソフトウェアWS−5160((株)小野測器社製)を用いて算出することができる。
ラフネス(R)の定義式を以下に示す。
【0030】
c 正規化係数(約0.3;信号に依存)
ri 各臨界帯域番号におけるラフネス
Δz 臨界帯域幅
ki-1 臨界帯域番号iとi-1番目とのラウドネスの時間変化の相関係数
k1 臨界帯域番号iとi+1番目とのラウドネスの時間変化の相関係数
g(z) 臨界帯域番号に依存する重み係数
m 時間包絡信号の時間変動に依存する係数
【0031】
<変動強度>
本発明において音響解析を行う「変動強度」とは、人が感じる音の大きさの変動であり、いわゆる“変動感、滑らかさ感の逆”(単位:vacil)のことであり、ラウドネスがゆっくりとした周期で変動する時に感じるものである。変動強度(本明細書では「F」ともいう。)は、例えば、音質評価ソフトウェアWS−5160((株)小野測器社製)を用いて算出することができる。
【0032】
本発明の多孔性食品の食感評価方法においては、上記音響解析により算出した値と、多孔性食品の官能検査により求めた官能評価値とを相関分析することにより多孔性食品の食感を評価する。
<官能検査>
官能検査は、熟練したパネラーにより行なう。官能評価用紙を用いて、サクミを1〜5の5段階で採点する。これを油ちょう完了後から一定時間後に複数回行う。次いで、パネラーの平均点を算出し、所定の判断基準に従ってサクミを評価する。平均点が3.0以上のものをサクミがあるものと評価する。
【0033】
<音響解析>
上記官能検査に用いた多孔性食品と同時に製造されたものを音響解析に供する。音響解析では、食品破砕装置により多孔性食品を破砕した際に生じる音又は振動を、マイク又はコンタクトマイクを通じてパーソナルコンピューターに取り込み、データをラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス、変動強度という心理音響評価量を解析し、それぞれの値を求める。
【0034】
<使用する油脂>
本発明において使用する「油脂」は特に制限されないが、例えば、大豆油、菜種油、パーム油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、エゴマ油、アマニ油、ぶどう種子油等の植物性油脂、並びに、それらの油脂の硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。本発明で使用する「油脂」として、最も好ましいものは、菜種油とパーム油である。
【0035】
<多孔性食品データ処理装置>
本発明の多孔性食品データ処理装置は、多孔性食品の破砕及び/又は咀嚼時に発生する音及び/又は振動からラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス、変動強度からなる群から選ばれる2以上(より好ましくは3以上)の心理音響評価量を決定し、前記心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式をサクミ指標として用いて多孔性食品の食感を評価する手段を有する。音及び/又は振動からラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス及び/又は変動強度を決定するソフトウェア等は市販されており、これらを用いて心理音響評価量を誰でも容易に決定することができる。また、例えば、本発明の式(1)〜(13)で表されるサクミ指標に心理音響評価の値を代入すれば、サクミ指標の数値を容易に算出することができる。したがって、このような手段を有するデータ処理装置は誰でも容易に作成することができる。
【0036】
<多孔性食品評価システム>
本発明の多孔性食品評価システムは、上述した本発明の多孔性食品データ処理装置を備えることを特徴とする。本発明の多孔性食品評価システムによれば、多孔性食品を破砕、又は咀嚼した際に発生する音及び/又は振動からラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス、変動強度からなる群から構成される2以上(より好ましくは3以上)の心理音響評価量を決定し、前記心理音響評価量を変数とする四則演算で表される式をサクミ指標として用い、前記心理音響評価量の値を前記式に代入することにより、前記サクミ指標の数値を算出する。このことにより、多孔性食品の食感、特にサクミについての客観的な評価が可能となる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また、計算においても何ら制限されるものではない。
【0038】
[実施例1]菜種油を用いた場合の官能検査
1Lのフライヤーに1kgの菜種油を入れ、180℃で5分間、市販の冷凍コロッケを油ちょう調理して、揚げたてのコロッケを製造した。製造後、1時間経過したものについて、熟練のパネラー7名による官能検査を行なった。下記表1の判断基準に基づいて、コロッケのサクミを1〜5の5段階で採点した。また、このような官能検査は1時間経過したものについて行うだけでなく、3時間経過したもの、5時間経過したものについても同様に行った。次いで、パネラーの点数から平均点を算出し、各時間後のコロッケのサクミとした。その結果を下記表2に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
[実施例2]菜種油を用いた場合の破砕試験及び音響解析
(1)破砕試験
コロッケの破砕試験は、特許第4111723号公報に開示されている食品破砕装置を用いて行った。コロッケの破砕条件は、油圧シリンダーの抵抗により一定速度で運動する装置に、重量6kgの重りを搭載し、試料(コロッケ)に約10kgの力が加わるようにしてコロッケを破砕した。コロッケを破砕するアダプターとしては、先端が尖ったプランジャーを使用し、コロッケを咀嚼することを想定した測定を行った。
(2)音響解析
上記破砕試験における破砕音を騒音計(リオン(株)製NL−15)を用い、音質評価ソフトウェアWS−5160((株)小野測器社製)を使用して、パーソナルコンピューター内蔵ハードディスク内にデータを収集した。当該データを解析し、ラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス、変動強度の値をそれぞれ決定した。
(3)まとめ
以上の破砕試験及び音響解析を、コロッケ製造後、1時間後、3時間後、5時間後の各段階において、それぞれ10個のコロッケについて行った。その結果をまとめて下記表3に示した。なお、N(sone)はラウドネス、L(phon)はラウドネスレベル、S(acum)はシャープネス、R(asper)はラフネス、F(vacil)は変動強度をそれぞれ表す(以下同様)。
【0042】
【表3】
【0043】
心理音響評価量である、ラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス及び変動強度の値はいずれも、官能評価のサクミが低下するとともに低下していたので、官能評価と心理音響評価量との間には一定の相関があることが予測された。そこで、サクミの評価に当たっては、単に音の大きさだけではなく、上記のような心理音響評価量を含めた総合的検討が必要であると考えられた。
【0044】
[実施例3]パーム油を用いた場合の官能検査
次に、油ちょう調理に用いる油脂を、菜種油からパーム油に代えて、実施例1と同様に官能検査を行った。パネラーの採点の平均点を算出し、各時間後のコロッケのサクミを官能評価した。その結果を下記表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
[実施例4]パーム油を用いた場合の破砕試験及び音響解析
(1)破砕試験
パーム油を用いて製造したコロッケの破砕試験及び音響解析は、実施例2と同様に行った。その結果を下記表5に示した。
【0047】
【表5】
【0048】
菜種油の場合と同様にパーム油においても、心理音響評価量である、ラウドネス、ラウドネスレベル、シャープネス、ラフネス、変動強度の値はいずれも、官能評価のサクミが低下するとともに低下していたので、油の種類に関係なく、サクミと心理音響評価量との間には相関があることが予測された。そして、サクミの評価に当たっては、単に音の大きさだけではなく、様々な心理音響評価量を含めた総合的検討が必要であることが確認された。
【0049】
[実施例5]サクミ指標(パラメータ)の確立
上記表3及び表5に示された各サンプルコロッケ(合計60個)における心理音響評価量の測定値を用いて、官能評価のサクミと相関性の高いサクミ指標(パラメータ)を確立することを試みた。サクミがないと評価されるサンプル(官能評価が3.0未満)は、表3の「菜種油5時間後」だけであることを考慮し、これらのサンプルが他のサンプルと区別されるような、心理音響評価量を変数とする新たな式(サクミ指標)の開発に取り組んだ。
【0050】
まず、官能評価によるサクミと相関性の高いサクミ指標の抽出を行った。様々な四則演算で表される式を作製し、EXCEL多変量解析Ver.7.0(株式会社エスミ)を用いて解析を行った結果、下記表6にあるような高い相関係数を有するサクミ指標(パラメータ)の確立に成功した。そして、シャープネス(S)単独よりも相関係数が高いサクミ指標(パラメータ)は13種類発見された。これを本明細書では、(1)〜(13)の式ともいう。
【0051】
【表6】
【0052】
次に、サクミ音の大きさに関係する、ラウドネス(N)、ラウドネスレベル(L)及びシャープネス(S)と、音の変動に関係するラフネス(R)及び変動強度(F)とに分けて検討した。その理由は、表3及び5の結果から、音の大きさに関係する心理音響評価量の大きさは、サクミの官能評価とある程度直線性を有しているのに対し、音の変動に関係する心理音響評価量の大きさはサクミの官能評価と直線性を有していないと考えられたためである。また、同じような性質を有する心理音響評価量が分母と分子の両方に現れた場合、その効果は互いに相殺され、「菜種油5時間後」のサンプルと他のサンプルとを明確に区別することが難しくなると予測された。実際、(N+L)/S、R/F及びS/Lをサクミ指標とした場合は、「菜種油5時間後」のサンプルと他のサンプルとを明確に区別することができなかった。以上の結果を、下記表7〜10にまとめて示した。なお、表6〜10中、「+」は足し算、「*」は掛け算、「/」は割り算を表す。
【0053】
【表7】
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
【表10】
【0057】
表7〜10の各式における通し番号(#)とサクミ指数の数値に関する結果を
図1〜16に表した(なお、図中「+」は足し算、「*」は掛け算、「/」は割り算を表す。)。なお、サクミ指数の数値を算出するに当たっては、
図17、18に示した係数をかけあわせて行っている。ただし、(11)L×Sは係数が不要。
図1〜16の結果から明らかであるように、上記で作成した式のうち、以下の式(1)〜(13)で表されるものは、サクミが無と評価される「菜種油5時間」のものとそれ以外のものとを明確に区別できるものであった(本発明では、これを実施例1〜13として挙げる。)。
(1)N×(L+S)+(L×S)
(2)N+L+S+(R×F)
(3)S×(N+L+R+F)
(4)L×(N+S+R+F)
(5)N+(L×S)+R+F
(6)S×(N+L)+(R×F)
(7)S×(N+L)
(8)N+(L×S)+(R×F)
(9)N/(R+F)+(L×S)
(10)N×(R+F)+(L×S)
(11)L×S
(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F
(13)(N+L+S)/F
一方、残りの式、(N+L)/S、S/L及びR/Fは、係数を用いても用いなくても、「菜種油5時間」のものとそれ以外のものと明確に区別することができなかった(本発明では、これを比較例1〜3として挙げる。)。この理由は、同じ音の大きさに関係する心理音響評価量であるN、L、Sが分母と分子の両方にあるため、互いの効果が相殺され、「菜種油5時間」のものを他のサンプルから区別できなくなったと考えられる。したがって、音の大きさに関係するグループ(N、L、S)と音の変化に関するグループ(R、F)とに分け、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れていないものをサクミ指標として使用する必要がある。すなわち、本発明の式(1)〜(13)は、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れていないので、サクミ指標として用いることができるものであり、これを用いれば、官能評価を行うことなく、誰でも簡単に多孔性食品のサクミを客観的に評価することができる。もちろん、同じグループ内の心理音響評価量が分母と分子の両方に現れていかければよいので、本発明の式(1)〜(13)以外の式であっても、サクミ指標として用いられるものはあるが、単独で用いられるシャープネス(S)よりも高い相関係数を有するサクミ指数は式(1)〜(13)に限定されると思われる。
【0058】
また、表7〜10および
図1〜13により、サクミが無と評価される「菜種油5時間」を対象として、各サクミ指標における値の大小を比較すると、以下の不等式を満たすときに、サクミがあると評価することができることもわかった。この場合、
図17、18の係数を用いる必要がある。
(1)N×(L+S)+(L×S)>6.0
(2)N+L+S+(R×F)>12
(3)S×(N+L+R+F)>5.5
(4)L×(N+S+R+F)>5.3
(5)N+(L×S)+R+F>5.3
(6)S×(N+L)+(R×F)>5.3
(7)S×(N+L)>5.5
(8)N+(L×S)+(R×F)>5.0
(9)N/(R+F)+(L×S)>4.5
(10)N×(R+F)+(L×S)>4.3
(11)L×S>83
(12)(N+L+S)/R+(N+L+S)/F>−2.0
(13)(N+L+S)/F>−2.1
【0059】
各心理音響評価量の値を上記式に代入した数値が、この不等式に示す関係を満たすか否かを検討することによって、多孔性食品がサクミを有するかどうかを客観的に評価できるようになる。このような評価ができるのは、上記式が官能評価によるサクミと極めて高い相関性を有しているからである。事実、
図1〜13によれば、菜種油及びパーム油をフライ油に用いたいずれの場合においても、3段階(1時間後、3時間後、5時間後)によるサクミ指標の数値はほぼ同じ値となって塊状となり、各段階にしたがって階段状に表れている。このような図が得られたことは、式(1)に基づく数値が、官能評価によるサクミと極めて高い相関性を有していることを示すものである。
以上まとめると、本発明は、これまでに知られていなかった、式(1)〜(13)で表されるサクミ指標を提供するものである。これにより、官能試験を行うことなく、音響解析を行うだけで、多孔性食品のサクミの評価が迅速かつ精度良く行われるようになる。