特許第6489973号(P6489973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6489973
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 53/007 20060101AFI20190318BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20190318BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20190318BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   B24B53/007
   B24B49/16
   B24B7/04 A
   H01L21/304 631
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-150535(P2015-150535)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-30071(P2017-30071A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】禹 俊洙
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真也
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−25653(JP,A)
【文献】 特開2001−96461(JP,A)
【文献】 特開2006−281341(JP,A)
【文献】 特開平5−57610(JP,A)
【文献】 特開平4−354673(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0015215(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/007,49/16,7/04,
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハを保持する保持テーブルと、該保持テーブルに保持されるウエーハを研削する研削砥石を環状に配設した研削ホイールを回転可能に装着するスピンドルを回転させるスピンドルモータを有する研削手段と、該研削砥石とウエーハとに研削水を供給する研削水供給手段と、を備える研削装置であって、
該研削水供給手段とは別に該研削砥石のウエーハに接触する研削面に超音波を伝播する洗浄水を噴射する超音波洗浄水供給手段と、該スピンドルモータの電流値を測定する電流値測定部と、該電流値測定部が測定する該スピンドルモータの電流値に応じて超音波の発振のONとOFFとを切換えるON/OFF手段と、を含み、
該超音波洗浄水供給手段は、該洗浄水を該研削面に噴射する噴射口と超音波を発振する超音波発振部とを備える超音波ノズルと、該超音波発振部に高周波電力を供給する高周波電源と、を備え、
該ON/OFF手段は、該研削手段による研削中に変化し該電流値測定部が測定する該スピンドルモータの該電流値の上限値と下限値とを設定し、
該高周波電源から高周波電力を供給し超音波を伝播する洗浄水を該研削面に噴射しながら研削しているときに該電流値測定部が測定する該電流値が該上限値まで上がったら該高周波電源からの高周波電力の供給を停止し超音波を伝播しない洗浄水を該研削面に供給し、
該高周波電源からの高周波電力の供給が停止され超音波を伝播しない洗浄水を該研削面に噴射しながら研削しているときに該電流値測定部が測定する該電流値が該下限値まで下がったら該高周波電源から高周波電力を供給して超音波を伝播する洗浄水を該研削面に供給し、
該電流値測定部が測定する該スピンドルモータの該電流値の該上限値と該下限値との間で該高周波電源からの高周波電力の供給をON/OFF手段で切換えて研削する研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハに対して研削砥石を当接して研削することができる研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエーハ、サファイア、SiC、リチウムタンタレート(LiTaO3)、ガラス等の各種被加工物は、研削装置によって研削されて所定の厚さに形成された後に、切削装置等により分割されて個々のデバイス等となり、各種電子機器等に利用されている。かかる研削に使用される研削装置は、被加工物であるウエーハに対して回転する研削砥石の研削面を当接させることにより、ウエーハの研削を行うことができる。ここで、かかる研削を行うと、研削砥石の研削面に研削屑等による目詰まりや目つぶれが生じることで研削砥石の研削力が低下する。そして、研削砥石の目詰まりや目つぶれは、被加工物がいわゆる難研削材である場合に特に多く発生する。難研削材としては、サファイアやSiCのような硬質材と、リチウムタンタレート(LiTaO3)やガラスのような軟質材とがある。例えば、軟質材のリチウムタンタレートを、多くの気孔を備えるビトリファイドボンドで形成された研削砥石で研削すると、気孔内に研削屑が入り込み目詰まりや目つぶれが生じる。そこで、目詰まり等による研削砥石の研削力の低下を防ぐために、被加工物の研削中に研削砥石の研削面にドレッサーボードを押し当てて、研削と同時に研削砥石の研削面をドレスする方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、ドレッサーボードを研削砥石に押し当ててドレスを行う場合には、ドレッサーボードが磨耗するため、ドレッサーボードを定期的に交換する必要が生じる。そこで、ドレッサーボードを用いずに研削砥石の研削力を維持する方法として、被加工物の研削中に、高圧水や2流体等からなる洗浄水を研削砥石の研削面に対して噴射して洗浄する方法があり、さらに、超音波ノズルから洗浄水に超音波を伝播して洗浄水を超音波振動させることで、研削砥石の表面に目詰まりした研削屑のみならず、研削砥石の目つぶれにより砥石表面から砥石内部にまで食い込んだ研削屑をも除去して研削砥石の研削力を維持する研削装置について、本出願人は特許出願を行っている(例えば、特願2014−084198号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−189456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特願2014−084198号に記載されている研削装置を用いてウエーハに研削加工を施す場合に、研削中に超音波発振部から単に超音波を発振し続け洗浄水に超音波を伝播し続けると、研削砥石の研削力が低下するという現象が確認されている。そこで、超音波を伝播させた洗浄水を研削砥石の研削面に対して噴射して研削面を洗浄する研削装置を用いてウエーハを研削する場合において、高い研削力を維持することで、ウエーハを複数枚連続して効率よく研削するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、ウエーハを保持する保持テーブルと、該保持テーブルに保持されるウエーハを研削する研削砥石を環状に配設した研削ホイールを回転可能に装着するスピンドルを回転させるスピンドルモータを有する研削手段と、該研削砥石とウエーハとに研削水を供給する研削水供給手段と、を備える研削装置であって、該研削水供給手段とは別に該研削砥石のウエーハに接触する研削面に超音波を伝播する洗浄水を噴射する超音波洗浄水供給手段と、該スピンドルモータの電流値を測定する電流値測定部と、該電流値測定部が測定する該スピンドルモータの電流値に応じて超音波の発振のONとOFFとを切換えるON/OFF手段と、を含み、該超音波洗浄水供給手段は、該洗浄水を該研削面に噴射する噴射口と超音波を発振する超音波発振部とを備える超音波ノズルと、該超音波発振部に高周波電力を供給する高周波電源と、を備え、該ON/OFF手段は、該研削手段による研削中に変化し該電流値測定部が測定する該スピンドルモータの該電流値の上限値と下限値とを設定し、該高周波電源から高周波電力を供給し超音波を伝播する洗浄水を該研削面に噴射しながら研削しているときに該電流値測定部が測定する該電流値が該上限値まで上がったら該高周波電源からの高周波電力の供給を停止し超音波を伝播しない該洗浄水を該研削面に供給し、該高周波電源からの高周波電力の供給が停止され超音波を伝播しない洗浄水を該研削面に噴射しながら研削しているときに該電流値測定部が測定する該電流値が該下限値まで下がったら該高周波電源から高周波電力を供給して超音波を伝播する洗浄水を該研削面に供給し、該電流値測定部が測定する該スピンドルモータの該電流値の該上限値と該下限値との間で該高周波電源からの高周波電力の供給をON/OFF手段で切換えて研削する研削装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る研削装置は、研削水供給手段とは別に研削砥石のウエーハに接触する研削面に超音波を伝播する洗浄水を噴射する超音波洗浄水供給手段と、スピンドルモータの電流値を測定する電流値測定部と、電流値測定部が測定する該スピンドルモータの電流値に応じて超音波の発振のONとOFFとを切換えるON/OFF手段と、を含み、超音波洗浄水供給手段は、洗浄水を研削面に噴射する噴射口と超音波を発振する超音波発振部とを備える超音波ノズルと、超音波発振部に高周波電力を供給する高周波電源とを備えるものとし、ON/OFF手段は、研削手段による研削中に変化し電流値測定部が測定するスピンドルモータの電流値の上限値と下限値とを設定し、高周波電源から高周波電力を供給し超音波を伝播する洗浄水を研削面に噴射しながら研削しているときに電流値測定部が測定する電流値が上限値まで上がったら高周波電源からの高周波電力の供給を停止し超音波を伝播する洗浄水を研削面に供給し、高周波電源からの高周波電力の供給が停止され超音波を伝播する洗浄水を研削面に噴射しながら研削しているときに電流値測定部が測定する電流値が下限値まで下がったら高周波電源から高周波電力を供給し超音波を伝播する洗浄水を研削面に供給して、電流値測定部が測定するスピンドルモータの電流値の上限値と下限値との間で高周波電源からの高周波電力の供給をON/OFF手段で切換えて研削できるようにしている。このように、研削加工中において、電流値測定部によりスピンドルモータの電流値を監視し、スピンドルモータの電流値によってON/OFF手段で超音波発振部からの超音波の発振と停止とを切換えることにより、超音波発振部から発振した超音波を超音波ノズルから噴射した洗浄水を介して間欠的に研削砥石の研削面に対して伝播させて研削面をドレスすることで、研削砥石の研削力を一定のレベルで維持することが可能となり、複数枚のウエーハを連続して効率よく研削することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】研削装置の一例を示す斜視図である。
図2】保持テーブルに保持されたウエーハを研削ホイールで研削している状態を示す側面図である。
図3】ON/OFF手段を作動させずに高周波電源からの高周波電力の供給を行い超音波を発振し続けながら研削加工を行った比較例1におけるスピンドルモータの電流値を示すグラフである。
図4】ON/OFF手段を作動させずに高周波電源からの高周波電力の供給を行い超音波の発振の停止と再開とを行って研削加工を行った比較例2におけるスピンドルモータの電流値を示すグラフである。
図5】ON/OFF手段を作動させて高周波電源からの高周波の供給をスピンドルモータの電流値の上限値と下限値との間で切換えて研削加工を行った実施例1におけるスピンドルモータの電流値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示す研削装置1は、保持テーブル30上に保持されたウエーハWを、研削手段7によって研削する装置である。研削装置1のベース10上の前方(−Y方向側)は、図示しない搬送手段によって保持テーブル30に対してウエーハWの着脱が行われる領域である着脱領域Aとなっており、ベース10上の後方(+Y方向側)は、研削手段7によって保持テーブル30上に保持されたウエーハWの研削が行われる領域である研削領域Bとなっている。
【0010】
研削領域Bには、コラム11が立設されており、コラム11の側面には研削送り手段5が配設されている。研削送り手段5は、鉛直方向(Z軸方向)の軸心を有するボールネジ50と、ボールネジ50と平行に配設された一対のガイドレール51と、ボールネジ50の上端に連結しボールネジ50を回動させるモータ52と、内部のナットがボールネジ50に螺合し側部がガイドレール51に摺接する昇降板53と、昇降板53に連結され研削手段7を保持するホルダ54とから構成され、モータ52がボールネジ50を回動させると、これに伴い昇降板53がガイドレール51にガイドされてZ軸方向に往復移動し、ホルダ54に保持された研削手段7がZ軸方向に研削送りされる。
【0011】
保持テーブル30は、例えば、その外形が円形状であり、ポーラス部材等からなりウエーハWを吸着する吸着部300と、吸着部300を支持する枠体301とを備える。吸着部300は図示しない吸引源に連通し、吸引源が吸引することで生み出された吸引力が、吸着部300の露出面であり枠体301の上面と面一に形成されている保持面300aに伝達されることで、保持テーブル30は保持面300a上でウエーハWを吸引保持する。また、保持テーブル30は、保持テーブル30の底面側に配設された回転手段31(図1には不図示)により駆動されて回転可能となっており、かつ、保持テーブル30の底面側に配設された図示しないY軸方向送り手段によって、着脱領域Aと研削領域Bとの間をY軸方向に往復移動可能となっている。
【0012】
研削手段7は、軸方向が鉛直方向(Z軸方向)であるスピンドル70と、スピンドル70を回転可能に支持するスピンドルハウジング71と、スピンドル70を回転駆動させるスピンドルモータ72と、スピンドル70の下端に接続された円形状のマウント73と、マウント73の下面に着脱可能に接続された研削ホイール74とを備える。そして、研削ホイール74は、ホイール基台741と、ホイール基台741の底面に環状に配設された略直方体形状の複数の研削砥石740とを備える。研削砥石740は、例えば、結合材となる有気孔タイプのビトリファイドボンドでダイヤモンド砥粒等が固着されて成形されている。なお、研削砥石740の形状は、環状に一体に形成されているものでもよく、研削砥石740を構成する結合材も、ビトリファイドボンドに限られずレジンボンド又はメタルボンド等でもよい。
【0013】
図2に示すように、スピンドル70の内部には、研削水の通り道となる流路70aが、スピンドル70の軸方向(Z軸方向)に貫通して形成されており、流路70aは、さらにマウント73を通り、ホイール基台741に形成された流路70bに連通している。流路70bは、ホイール基台741の内部においてスピンドル70の軸方向と直交する方向に、ホイール基台741の周方向に一定の間隔をおいて配設されており、ホイール基台741の底面において研削砥石740に向かって研削水を噴出できるように開口している。
【0014】
研削水供給手段8は、例えば、水源となるポンプ等からなる研削水供給源80と、研削水供給源80に接続されスピンドル70内部の流路70aと連通する配管81とから構成されている。
【0015】
図1に示すように、スピンドルモータ72には、電流値測定部14が接続されている。電流値測定部14は、研削ホイール74によるウエーハを研削する際に発生する研削負荷に応じて変化する電流値、すなわち、研削ホイール74に接続されたスピンドル70の回転駆動に供されるスピンドルモータ72の電流値を測定する。また、電流値測定部14には、電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値に応じて超音波の発振のONとOFFとを切換えるON/OFF手段16が接続されている。
【0016】
図1に示す超音波洗浄水供給手段9は、洗浄水を主に研削砥石740の研削面740aに噴射する噴射口900と超音波を発振する超音波発振部901とを備える超音波ノズル90と、超音波発振部901に高周波電力を供給する高周波電源91とを備える。超音波ノズル90の配設位置は、例えば、研削領域B内にある保持テーブル30に隣接する位置であって、かつ研削ホイール74の下方にある位置であり、研削中の研削砥石740の研削面740aに対して超音波ノズル90の先端である噴射口900が対向するように配設されている。なお、超音波ノズル90は、例えば、図示しないZ軸方向移動手段によりZ軸方向に移動可能に配設されてもよい。そして、超音波ノズル90には、ポンプ等で構成され洗浄水を供給する洗浄水供給源92と連通する配管920が接続されている。
【0017】
超音波ノズル90の内部に配設されている超音波発振部901には、超音波発振部901に高周波電力を供給する高周波電源91が、導電線910を介して接続されている。超音波発振部901は、高周波電源91から所定の高周波電力が供給されると、超音波発振部901に備える図示しない振動素子が高周波電力を機械振動に変換することで超音波を発振する。そして、発振された超音波は、超音波ノズル90の内部において、洗浄水供給源92から供給され配管920を通して超音波ノズル90の内部に送られた洗浄水に対して伝播される。超音波が伝播された洗浄水Lは、噴射口900から例えば+Z方向へ向かって噴射されて、研削砥石740の研削面740aに接触する。
【0018】
以下に、図1〜5を用いて、図1に示すウエーハWを研削装置1により連続して複数枚研削する場合の、研削装置1の動作及び研削方法について説明する。
【0019】
図1に示すウエーハWは、例えば、リチウムタンタレート(LiTaO3)で形成される直径が6インチの基板上にSAWデバイス等が配設されたウエーハである。例えば、ウエーハWの表面Waには図示しないSAWデバイス等が配設されており、研削加工が施されるに際してウエーハWの表面Waには保護テープTが貼着され保護された状態となり、ウエーハWの裏面Wbが研削ホイール74で研削される。なお、ウエーハWの形状及び種類は、リチウムタンタレートで形成されるウエーハに限定されず、研削砥石740の種類等との関係で適宜変更可能であり、ガラスのような軟質材で形成されるウエーハや、SiC又はサファイアのような硬質材で形成されるウエーハでもよい。
【0020】
ウエーハWの研削においては、まず、図1に示す着脱領域A内において、図示しない搬送手段により保護テープTが貼着されたウエーハWが保持テーブル30上に搬送される。そして、ウエーハWの保護テープT側と保持テーブル30の保持面300aとを対向させて位置合わせを行った後、ウエーハWをウエーハの裏面Wbが上側になるように保持面300a上に戴置する。そして、保持テーブル30に接続された図示しない吸引源により生み出される吸引力が保持面300aに伝達されることにより、保持テーブル30が保持面300a上でウエーハWを吸引保持する。
【0021】
次いで、ウエーハWを保持した保持テーブル30が、図示しないY軸方向送り手段によって着脱領域Aから研削領域B内の研削手段7の下まで+Y方向へ移動して、研削手段7に備える研削ホイール74とウエーハWとの位置合わせがなされる。位置合わせは、例えば、図2に示すように、研削ホイール74の回転中心が保持テーブル30の回転中心に対して所定の距離だけ+Y方向にずれ、研削砥石740の回転軌道が保持テーブル30の回転中心を通るように行われる。そして、研削ホイール74の回転中心から−Y方向の領域では、研削砥石740の研削面740aがウエーハWの裏面Wbに対向している状態となる。また、研削ホイール74の回転中心から+Y方向の領域では、研削砥石740の研削面740aが−Z方向に向かって露出し、超音波ノズル90の先端となる噴射口900と対向している状態となる。
【0022】
研削手段7に備える研削ホイール74とウエーハWとの位置合わせが行われた後、スピンドルモータ72によりスピンドル70が回転駆動されるのに伴って研削ホイール74が回転する。また、研削手段7が研削送り手段5(図2には不図示)により−Z方向へと送られ、研削手段7に備える研削ホイール74が−Z方向へと降下していき、研削ホイール74の回転中心から−Y方向の領域で研削砥石740がウエーハWの裏面Wbに当接することで研削加工が行われる。さらに、研削中は、回転手段31が保持テーブル30を回転させるのに伴って、保持面300a上に保持されたウエーハWも回転するので、研削砥石740がウエーハWの裏面Wbの全面の研削加工を行う。また、研削砥石740がウエーハWの裏面Wbに当接する際に、研削水供給手段8が、研削水をスピンドル70中の流路70aを通して研削砥石740とウエーハWとの接触部位に対して供給して、研削砥石740とウエーハWの裏面Wbとの接触部位を冷却する。
【0023】
さらに、研削中においては、図2に示すように、高周波電源91から超音波発振部901に対して所定の高周波電力が供給されて超音波発振部901から超音波が発振されるとともに、洗浄水供給源92から超音波ノズル90に対して洗浄水が供給されることにより、洗浄水に超音波が伝播され、超音波ノズル90の噴射口900から噴射される洗浄液Lが超音波振動をともなうものとなる。この超音波振動は、洗浄液Lの噴射方向の所定範囲(例えば、噴射口900から+Z方向に向かって幅10mm程度の範囲)内で発生する。この所定範囲の中間領域に研削砥石740の研削面740aが位置するように、超音波ノズル90の鉛直方向(Z軸方向)の位置が決定され、これにより、研削面740aが下降しても研削中に研削ホイール74の回転中心から+Y方向の領域において研削面740aが洗浄液Lにより洗浄されてドレスされる。
【0024】
上記研削加工は、例えば、以下の条件で実施する。
ウエーハWの研削量 :15μm
スピンドル70の回転数 :1000rpm
保持テーブル30の回転数 :300rpm
研削送り手段5の研削送り速度 :0.3μm/秒
超音波発振部901の振動周波数 :500kHz
【0025】
上記条件で一枚のウエーハWを所定の研削量だけ研削して、一枚のウエーハWの研削を完了させた後、図1に示す研削送り手段5により研削手段7を+Z方向へと移動させて研削加工済みのウエーハWから離間させ、さらに図示しないY軸方向送り手段により保持テーブル30を−Y方向に移動させて着脱領域Aの元の位置に戻す。着脱領域Aの元の位置まで戻った保持テーブル30上に載置されている研削加工が施されたウエーハWを、図示しない搬送手段が保持テーブル30から図示しないウエーハカセットへと搬送して収納する。次いで、図示しない搬送手段が、研削加工前の別の新しい一枚のウエーハWを保持テーブル30に搬送して、上記と同様に研削加工を施していく。
【0026】
(比較例1)
比較例1では、ウエーハWの研削中に、研削装置1に備えるON/OFF手段16を作動させずに、例えば、研削ホイール74により複数枚のウエーハWを研削した後、超音波発振部901から超音波の発振を開始し、その後も超音波発振部901から超音波を間断なく洗浄水Lに伝播し続けて、さらに複数枚のウエーハWを継続して研削した。
【0027】
ここで、研削加工中に、研削砥石740の研削面740aが目詰まりしたり目つぶれしたりすることによって研削砥石740の研削力が低下すると、研削加工中におけるウエーハWの裏面Wbからの抵抗が増大し、それにともないスピンドルモータ72の電流値も上昇していく。そして、超音波発振部901からの超音波の発振を開始した後、ウエーハWの研削中に超音波発振部901から間断なく洗浄水Lに超音波を伝播し続けて研削砥石740の研削面740aの洗浄を続けると、研削ホイール74の回転力を生み出し電流値測定部14により測定されるスピンドルモータ72の電流値は、図3に示すグラフに見られるように上昇していく。すなわち、研削砥石740の研削力が低下する現象が確認され、それ以降は、超音波を発振し続けている限りにおいては、スピンドルモータ72の電流値が下降することがないことが確認された。したがって、比較例1においては、研削砥石740の研削力を維持できず、ウエーハWを複数枚連続して研削するのには不適格となる。なお、図3に示すグラフでは、縦軸においては、ウエーハWを図示しない搬送手段で交換する際の研削ホイール74の空転による電流値の低下は示しておらず、また、横軸においては、研削砥石740によりウエーハWを複数枚研削した後、洗浄液Lに継続して超音波が伝播され研削面740aが洗浄されてドレスされた後を示している。
【0028】
(比較例2)
比較例2では、ウエーハWの研削中に、研削装置1に備えるON/OFF手段16を作動させず、超音波発振部901からの超音波の発振を行わないこととした。まず、比較例1における場合と同様に、研削ホイール74により複数枚のウエーハWを研削した後、超音波発振部901から超音波の発振を開始し、その後も超音波発振部901から超音波を間断なく洗浄水Lに伝播し続けて、さらにウエーハWの研削を複数枚継続して行う。
【0029】
そしてウエーハWの研削を継続して行っていき、比較例1で確認できたスピンドルモータ72の電流値が上昇する現象が起こった後に、高周波電源91からの高周波電力の供給を停止し、超音波発振部901からの超音波の発振を停止させる。すると、図4に示すグラフに見られるように、再びスピンドルモータ72の電流値が下降する、つまり研削砥石740の研削力が上昇する現象が確認された。
【0030】
しかし、その後、超音波発振部901からの超音波の発振を停止させた状態でさらに複数枚のウエーハWを研削し続けると、再びスピンドルモータ72の電流値が上昇する、つまり研削砥石740の研削力が下降していく現象が確認された。そして、スピンドルモータ72の電流値が上昇した後に、再度高周波電源91からの高周波電力の供給を再開し、超音波発振部901から超音波を発振させて洗浄水Lに超音波を伝播させても、スピンドルモータ72の電流値は下降せず研削砥石740の研削力が上昇することはないことが確認された。したがって、比較例2では、研削砥石740の研削力を維持できず、ウエーハWを複数枚連続して研削するのには不適格となる。なお、図4に示すグラフでは、縦軸においては、ウエーハWを図示しない搬送手段で交換する際の研削ホイール74の空転による電流値の低下は示しておらず、また、横軸においては、洗浄液Lに継続して超音波が伝播され研削面740aが洗浄されてドレスされつつ研削砥石740によりウエーハWを複数枚研削した後を示している。
【0031】
(実施例1)
実施例1では、ウエーハWの研削中に研削装置1に備えるON/OFF手段16を作動させて研削を行う場合について説明する。
【0032】
まず、ON/OFF手段16には、研削手段7による研削中に変化し電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値の上限値と下限値とを予め設定しておく。
【0033】
スピンドルモータ72の電流値の下限値は、例えば、上記比較例2において確認できた超音波の発振を停止した後のスピンドルモータ72の電流値の最低値よりは少なくとも高い電流値であり、当該最低値より1A程度高い電流値であると好ましい。本実施例1においては、例えば、スピンドルモータ72の電流値の下限値を8.5Aと設定する。
【0034】
一方、スピンドルモータ72の電流値の上限値は、例えば、9Aと設定する。スピンドルモータ72の電流値の上限値は、例えば、スピンドルモータ72の電流値の下限値を元に決定され、スピンドルモータ72の電流値の下限値より1A程度大きい範囲で決定すると好ましい。なお、スピンドルモータ72の電流値の上限値及び下限値は、本実施例1に限定されるものではなく、ウエーハWの形状及び種類並びに研削砥石740の種類等により適宜変更可能となる。
【0035】
以下に、予めスピンドルモータ72の電流値の上限値を9Aとし、かつ電流値の下限値を8.5Aとして設定したON/OFF手段16を作動させて、研削手段7によりウエーハWを研削していく場合について、図5のグラフを用いて説明する。図5には図示していないが、複数枚のウエーハWを研削した後、高周波電源91から高周波電力を超音波発振部901に供給し超音波発振部901から超音波が伝播されて超音波振動をともなう洗浄水Lを研削砥石740の研削面740aに噴射しながら研削していく。そうすると、研削砥石740の研削面740aに対する洗浄水Lの供給により、超音波振動が研削面740aに伝播して、研削砥石740を形成するビトリファイドボンドの気孔中に入り込んだ研削屑が気孔中からかき出される。そのため、研削砥石740の研削抵抗が低下してスピンドルモータ72の電流値は下降していく、つまり研削砥石740の研削力は上がっていく。しかし、その後、超音波発振部901から超音波を発振し続けると、図5に示すように、スピンドルモータ72の電流値は上昇していく。
【0036】
そして、例えば、図5のグラフに示すように、電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値が上限値である9Aまで上がった時点において、ON/OFF手段16が作動して高周波電源91からの高周波電力の供給を停止する。そうすると、超音波発振部901からの超音波の発振が停止し、超音波が伝播されない洗浄水Lが研削砥石740の研削面740aに供給される。
【0037】
ON/OFF手段16により高周波電源91からの高周波電力の供給が停止され超音波が伝播されない洗浄水Lを研削砥石740の研削面740aに噴射させながら研削していくと、図5のグラフに示すように、電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値が下限値である8.5Aまで下がる。この時点において、ON/OFF手段16が高周波電源91からの高周波電力の供給を再開して超音波発振部901からの超音波の発振を再開し、超音波が伝播される洗浄水Lを研削砥石740の研削面740aに供給する。
【0038】
こうして研削砥石740の研削面740aへの洗浄水Lを介した超音波の伝播が再開されると、図5のグラフに示すように、電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値が再び上昇していく。そして、電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値が上限値である9Aまで上がった時点において、ON/OFF手段16が高周波電源91からの高周波電力の供給を停止し、超音波発振部901からの超音波の発振が停止する。そうすると、超音波が伝播されない洗浄水Lが研削砥石740の研削面740aに供給される。このように、ON/OFF手段16は、スピンドルモータ72の電流値が上限値と下限値との間の値をとるように超音波の発振を制御しながら研削を続行する。
【0039】
なお、高周波電源91からの高周波電力の供給をON/OFF手段16が切換えるに際しては、ON/OFFの切換えと同時に、ウエーハWの交換も行うと好ましい。すなわち、例えば、一枚のウエーハWに対して常に高周波電源91からの高周波電力の供給をON(又はOFF)にした状態で、所定の研削量を研削して研削加工を行うと好ましい。
【0040】
このように、研削装置1は、実施例1において示すように、ON/OFF手段16を作動させ、研削加工中において、電流値測定部14が測定するスピンドルモータ72の電流値の上限値と下限値との間で高周波電源91からの高周波電力の供給をON/OFF手段16で切換え、間欠的に超音波発振部901から超音波を発振させ洗浄水Lに超音波を伝播させることで、研削砥石740の研削力を一定範囲に保つことが可能となり、ウエーハWを複数枚連続して研削することが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1:研削装置 10:ベース 11:コラム 14:電流値測定部
16:ON/OFF手段
30:保持テーブル 300:吸着部 300a:保持面 301:枠体
31:回転手段
5:研削送り手段 50:ボールネジ 51:ガイドレール 52:モータ
53:昇降板 54:ホルダ
7:研削手段 70:スピンドル 70a:流路 70b:流路
72:スピンドルモータ 73:マウント
74:研削ホイール 740:研削砥石 740a:研削面 741:ホイール基台
8:研削水供給手段 80:研削水供給源 81:配管
9:超音波洗浄水供給手段
90:超音波ノズル 900:噴射口 901:超音波発振部
91:高周波電源 910:導電線 92:洗浄水供給源 920:配管
W:ウエーハ Wa:ウエーハの表面 Wb:ウエーハの裏面 T:保護テープ
A:着脱領域 B:研削領域
図1
図2
図3
図4
図5