特許第6490334号(P6490334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490334
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/20 20060101AFI20190318BHJP
   H01S 5/323 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   H01S5/20 610
   H01S5/323 610
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-136765(P2013-136765)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-12153(P2015-12153A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年4月7日
【審判番号】不服2017-17606(P2017-17606/J1)
【審判請求日】2017年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤村 康史
(72)【発明者】
【氏名】下岡 知祐
【合議体】
【審判長】 森 竜介
【審判官】 星野 浩一
【審判官】 近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−238679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S5/00−5/50,630
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側領域と、活性領域と、p側領域と、を順に備える半導体レーザ素子であって、
前記n側領域又は前記p側領域の少なくとも一方は、
前記n側領域又は前記p側領域中において最小のバンドギャップエネルギーを有する光吸収部と、
前記光吸収部の前記活性領域に近い側に接して設けられ、前記光吸収部に近づくにつれてバンドギャップエネルギーが小さくなると共に前記光吸収部との屈折率差が小さくなる第1組成傾斜部と、
前記光吸収部の前記活性領域から遠い側に接して設けられ、前記光吸収部から離れるにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなると共に前記光吸収部との屈折率差が大きくなる第2組成傾斜部と、
を有し、
前記光吸収部はInGa1−aN(0<a<1)からなる、厚みが10nm以上500nm以下の層であり、
前記第1組成傾斜部及び第2組成傾斜部は、InGa1−bN(0<b≦a)からInGa1−cN(0≦c<b)へ連続的に変化する組成を有し、前記aは前記bと同じ値である、ことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第1組成傾斜部及び第2組成傾斜部は、その厚みが10nm以上250nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記光吸収部の厚みが10nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第1組成傾斜部の前記活性領域側に接して、前記第1組成傾斜部の最低の屈折率よりも低い屈折率を有する第1低屈折率層が設けられ、
前記第2組成傾斜部の前記活性領域と反対の側に接して、前記第2組成傾斜部の最低の屈折率よりも低い屈折率を有する第2低屈折率層が設けられたことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記第1低屈折率層及び前記第2低屈折率層はAlGaNからなることを特徴とする請求項記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記第1組成傾斜部及び第2組成傾斜部は前記n側領域に設けられ、前記n側領域の前記活性領域と反対の側に基板が設けられたことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の上に窒化物半導体層を積層した半導体レーザ素子では、活性領域を、活性領域よりも低屈折率の層で挟むことで光を閉じ込めている。低屈折率の層としてAlGaN層を用いた半導体レーザ素子としては、n側AlGaN層のGaN基板側にInGaN層を設けた構造がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−055683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体レーザ素子は、そのFFP(far field pattern)にリップルが発生しやすい。従来の半導体レーザ素子では、低屈折率のAlGaNクラッド層によって基板への漏れ光を低減することでリップルの低減が図られているが、より一層の低減が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の半導体レーザ素子は、n側領域と、活性領域と、p側領域と、を順に備える半導体レーザ素子であって、n側領域又はp側領域の少なくとも一方は、n側領域又はp側領域中において最小のバンドギャップエネルギーを有する光吸収部と、光吸収部の活性領域に近い側に接して設けられ、光吸収部に近づくにつれてバンドギャップエネルギーが小さくなると共に光吸収部との屈折率差が小さくなる第1組成傾斜部と、光吸収部の活性領域から遠い側に接して設けられ、光吸収部から離れるにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなると共に光吸収部との屈折率差が大きくなる第2組成傾斜部と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
半導体レーザ素子においてFFPのリップルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の一実施形態の半導体レーザ素子の模式的な断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態を説明する模式的な図であって、(a)部分的な断面図、(b)バンドギャップエネルギーを示す図、(c)屈折率を示す図、である。
図3図3は、実施例1の半導体レーザ素子の垂直方向FFPを示すグラフである。
図4図4は、比較例の半導体レーザ素子の垂直方向FFPを示すグラフである。
図5図5は、実施例2の半導体レーザ素子を説明する部分的な断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本件発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明を以下の実施形態に特定するものではない。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0009】
図1は本発明の一実施形態の半導体レーザ素子の模式的な断面図であり、半導体レーザ素子100の共振器方向と垂直な方向における断面を示す。半導体レーザ素子100は、n側領域2と、活性領域3と、p側領域4とが設けられている。活性領域3は、例えば、障壁層と井戸層(発光層)とが交互に配置された多重量子井戸構造である。p側領域4の表面にはリッジ4aが設けられ、リッジ4aに対応する活性領域3及びその近傍に導波路領域が形成されている。リッジ4aの側面とリッジ4aの側面から連続するp側領域4の表面には第1絶縁膜5aが設けられており、第1絶縁膜5a上には第1絶縁膜5aの一部を被覆する第2絶縁膜5bが設けられている。基板1はn型であり、その裏面にはn電極8が設けられている。また、p側領域4表面のリッジ4aに接してp電極6が設けられ、さらにその上にp側パッド電極7が設けられている。
【0010】
図2は本発明の一実施形態を説明する模式的な図であって、(a)部分的な断面図、(b)バンドギャップエネルギーを示す図、(c)屈折率を示す図、である。図2(b)及び図2(c)において、図中の右側ほどバンドギャップエネルギー又は屈折率が大きい。図2(a)に示すように、本実施形態のn側領域2は、第1組成傾斜部22と、光吸収部23と、第2組成傾斜部24と、を有する。光吸収部23は、n側領域2中において最小のバンドギャップエネルギーを有する。図2(b)及び図2(c)に示すように、第1組成傾斜部22では光吸収部23に近づくにつれてバンドギャップエネルギーが小さくなると共に屈折率が変化し、第2組成傾斜部24では光吸収部23から離れるにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなると共に屈折率が変化している。また、図2(a)に示すように、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24の外側に、第1低屈折率層21及び第2低屈折率層25を備えていてもよい。
【0011】
本実施形態の半導体レーザ素子100では、光吸収部23と、第1組成傾斜部22と、第2組成傾斜部24とを有することにより、垂直方向のFFPにおけるリップルを低減することができる。つまり、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24を設けることで、活性領域3からの光が光吸収部23に到達する経路上及び光吸収部23を通過して抜ける経路上において反射及び散乱が生じにくい構造とできる。これにより、活性領域3以外の部分から素子外へ漏れ出る光を低減でき、光吸収部23において効率的に活性領域3からの光を吸収できるので、FFPのリップルを低減することができる。また、n側領域2中において最小のバンドギャップエネルギーを有する光吸収部23は、その周辺との屈折率差が大きくなりやすいが、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24を設けることで屈折率差による反射及び散乱を低減することができるため、リップルを低減することができる。
【0012】
以下、各部材について詳述する。
【0013】
(基板1)
例えば半導体レーザ素子100が窒化ガリウム系半導体レーザ素子である場合には、基板1として、サファイア等からなる異種基板のほか、GaNやAlGaN等からなる半導体基板を用いることができる。GaN等の窒化物半導体からなる基板を用いる場合には、n側領域2等の半導体層と基板1との屈折率差が小さいため光が基板へしみ出しやすく、リップルが増大しやすい。また、半導体レーザ素子100の発振波長のピーク波長を長くするほど光閉じ込めが困難となり、基板1への漏れ光が増大しやすい傾向がある。これらへの対策として、基板1と発光層との間に設ける低屈折率層の屈折率をさらに低下させると、低屈折率層(例えばAlGaN層)とそれに近接して設けられる応力緩和層(例えばInGaN層)との屈折率差が増大し、これらの界面における反射及び散乱により却ってリップルを増大させることがある。第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24を設ける本実施形態の構造であれば、屈折率差による反射及び散乱を低減することができ、リップルを低減することができる。基板1の材料としては、典型的にはGaNを用いることができる。
【0014】
(n側領域2、p側領域4)
n側領域2及びp側領域4は、窒化物半導体層からなる単層又は多層構造で形成することができる。n側領域に含まれるn型半導体層としては、Si、Ge等のn型不純物が含有されたn型窒化物半導体層を挙げることができる。p側領域4に含まれるp型半導体層としては、Mg、Zn等のp型不純物が含有されたp型窒化物半導体層を挙げることができる。基板1は、n側領域2又はp側領域4のいずれか一方の側に配置される。基板1への漏れ光を抑制する構造を基板1と活性領域3との間に設けることを考慮すると、低屈折率層21,25を設けた側に基板1を配置することが好ましい。典型的には、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24がn側領域2に設けられ、n側領域2の活性領域3と反対の側に基板1が設けられる。なお、上記では、第1低屈折率層21、第1組成傾斜部22、光吸収部23、第2組成傾斜部24、第2低屈折率層25をn側領域2に設ける例を説明したが、同様の構造をp側領域4に設けてもよく、n側領域2及びp側領域4の両方に設けてもよい。
【0015】
(活性領域3)
活性領域3は発光層を含む層であり、井戸層(発光層)と、これを挟む障壁層とを備えた量子井戸構造とすることが好ましい。例えば、複数の障壁層と複数の井戸層とが交互に積層された多重量子井戸構造とすることができる。井戸層としては、InGa1−xN(0<x<1)を用いることができ、障壁層としては、井戸層よりバンドギャップエネルギーが大きいInGaN、GaN、又はAlGaN等を用いることができる。半導体レーザ素子の発振波長のピーク波長は、例えば420nm〜600nmとすることができる。このような半導体レーザ素子の井戸層としては、InGa1−xN(0.10≦x<0.50)を用いることができる。このとき、障壁層としては、InGa1−yN(0≦y<0.07)を用いることができる。
【0016】
(第1低屈折率層21、第2低屈折率層25)
第1低屈折率層21及び第2低屈折率層25は、少なくとも発光層よりも低屈折率の層であり、さらには基板1よりも低屈折率の層であることが好ましい。第1低屈折率層21及び第2低屈折率層25は、GaN又はAlGaNからなる層とすることができ、好ましくはAlGaNからなる層とする。発振波長のピーク波長が420nm〜600nmの半導体レーザ素子100の場合には、AlGa1−zN(0.01<z≦0.15)からなる層であることが好ましく、さらにはAlGa1−zN(0.06≦z≦0.10)からなる層であることが好ましい。
【0017】
第1低屈折率層21と第2低屈折率層25の組成は同じでもよく、異なるものであってもよい。基板1と活性領域3の間に第1低屈折率層21及び第2低屈折率層25を設ける場合には、基板1に近い方を基板1と格子定数が近い組成とすることが好ましく、例えばGaNやAl組成比が小さいAlGaNとすることが好ましい。また、AlGaN層のように応力が大きい層を低屈折率層として設ける場合、十分な光閉じ込め効果を得るためにその膜厚を大きくするとクラックが発生しやすい。このため、低屈折率層を2層としてその間にInGaN領域のような応力緩和領域を設けることで、十分な光閉じ込め効果とクラック発生の抑止とを両立させることができる。
【0018】
また、半導体レーザ素子においては、低屈折率の層を設けることで光閉じ込めを増大させることができるが、一方で、このような低屈折率の層は隣接する層との屈折率差が大きいために、反射及び散乱を増大させ、活性領域以外の領域から光が素子外へ漏れ出ることでFFPのリップルを増大させることがある。本実施形態においては、光吸収部23との屈折率差が大きい低屈折率の層(第1低屈折率層21や第2低屈折率層25)を設ける場合にも、これらの間を繋ぐ第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24を設けることで、反射及び散乱を低減させることができ、FFPのリップルを低減することができる。第1低屈折率層21及び/又は第2低屈折率層25を光を閉じ込めるための層として設ける場合には、ある程度の厚みを有する層とすることが好ましく、具体的には10nmより大きいことが好ましい。さらには、100nm以上の膜厚であることが好ましく、1.5μm以下の膜厚とすることができる。さらに好ましくは、500nm以上、1μm以下とする。
【0019】
(第1組成傾斜部22、第2組成傾斜部24)
第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24は、光吸収部23に近づくにつれて又は離れるにつれてバンドギャップエネルギー及び屈折率が変化する組成傾斜部である。
第1組成傾斜部22は、光吸収部23に近づくにつれてバンドギャップエネルギーが小さくなると共に光吸収部23との屈折率差が小さくなり、第2組成傾斜部24は、光吸収部23から離れるにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなると共に光吸収部23との屈折率差が大きくなる。第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24を設けることで、光吸収部からその周辺部への屈折率変化をなだらかにすることができる。バンドギャップエネルギー及び屈折率は組成を変えることで変化させることができ、その変化は連続的でもよく段階的(階段状の変化)でもよい。例えば、膜厚50nmの層を形成するときに、エピタキシャル成長に用いるガスの流量を一定の間隔で5〜50回程度変化させて形成することができる。
【0020】
また、光吸収部23と接する側の屈折率を、光吸収部23と同じかそれよりも低いものとできる。界面での反射及び散乱を抑制するためには、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24の光吸収部23と接する側の屈折率は、光吸収部23の屈折率と同程度とすることが好ましい。また、具体的な組成としては、光吸収部23がInGa1−aN(0<a<1)であれば、第1組成傾斜部22は、光吸収部23側をInGa1−bN(0<b≦a)とし、光吸収部23から最も遠い側をInGa1−cN(0≦c<b)とすることが好ましく、さらに好ましくはaとbを同じ値とする。第2組成傾斜部24についても同様に、光吸収部23側をInGa1−bN(0<b≦a)とし、光吸収部23から最も遠い側をInGa1−cN(0≦c<b)とすることが好ましく、さらに好ましくはaとbを同じ値とする。第1組成傾斜部22と第2組成傾斜部24は、その組成や膜厚が同じであってもよく異なっていてもよい。第1組成傾斜部22と第2組成傾斜部24の構造を、光吸収部に対して対称性を有するものとすることができる。また、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24は、光吸収部23と接する側をInAlGaN(例えばIn0.1Al0.05Ga0.85N)とすることができる。この場合、光吸収部23もInAlGaN(例えばIn0.1Al0.05Ga0.85N)としてよい。
【0021】
また、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24は、第1低屈折率層21及び第2低屈折率層25よりも屈折率が高い領域を含むことで、膜厚を増大させると光の閉じ込め効果が低下し、リップル低減効果が弱まることがある。このため、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24の厚みは、それぞれ250nm以下とすることが好ましく、さらには100nm以下とすることが好ましく、これによって光の閉じ込め効果の低下を抑制することができる。屈折率差による散乱及び反射を低減するためには、10nm以上の厚みであることが好ましい。また、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24は、第1低屈折率層21及び第2低屈折率層25の少なくともいずれか一方、好ましくは両方よりも、厚みが小さいことが好ましい。特に、活性領域3と基板1の間に設ける場合にこのような構造とする。
【0022】
(光吸収部23)
光吸収部23は、n側領域2(又はp側領域4)中において最小のバンドギャップエネルギーを有する。このような光吸収部23は、n側領域2(又はp側領域4)中において、活性領域3に含まれる発光層に最も近いバンドギャップエネルギーを有するため、活性領域3からの光を吸収しやすい。光吸収部のバンドギャップエネルギーは、活性領域3における最外の障壁層よりも小さくてもよい。つまり、光吸収部23と、活性領域3中において最も光吸収部23との距離が小さい井戸層(発光層)との間に、光吸収部23よりもバンドギャップエネルギーの小さい層がない構造としてもよい。
【0023】
光吸収部23は、活性領域3からの光を吸収するにはある程度の厚みがあることが好ましいため、第1組成傾斜部22と第2組成傾斜部24を繋ぐ中間層として設けることが好ましい。光吸収部23は、第1組成傾斜部22と第2組成傾斜部24との間に設けられ、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24と接する。光吸収部23の厚みは、10nm以上であることが好ましく、500nm以下であることが好ましい。このような厚みの層であれば、n側領域2中に設ける場合はn型不純物を含有させたn型層とし、p側領域4中に設ける場合はp型不純物を含有させたp型層とすることが好ましい。また、光吸収部23と、第1組成傾斜部22及び第2組成傾斜部24を、すべて同じ厚みとすることができる。
【0024】
光吸収部23は、InGa1−aN(0<a<1)からなる層とすることができる。さらには、活性領域3中の井戸層(発光層)がInGa1−xN(0<x<1)であるときに、光吸収部23はInGa1−aN(0<a<x)からなる層とすることができる。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
実施例1として、図1に示す半導体レーザ素子100を作製した。n型GaN基板1の裏面にはn電極6が設けられ、表面側には半導体層が積層され、その上面にp電極7が設けられている。実施例1の半導体レーザ素子100は、n型窒化物半導体層(n側領域2)として、基板1の側から順に、膜厚約1μmのSiドープAl0.02Ga0.98N層(第1低屈折率層21)、GaNからIn0.05Ga0.95Nまで連続的に変化させた膜厚約50nmのSiドープ組成傾斜部(第1組成傾斜部22)、膜厚約50nmのSiドープIn0.05Ga0.95N層(光吸収部23)、In0.05Ga0.95NからGaNまで連続的に変化させた膜厚約50nmのSiドープ組成傾斜部(第2組成傾斜部24)、膜厚約1μmのSiドープAl0.07Ga0.93N層(第2低屈折率層25)、膜厚約300nmのSiドープGaN層、が積層されている。その上には、SiドープInGaN障壁層、In0.15Ga0.85N井戸層(発光層)、GaN障壁層、In0.15Ga0.85N井戸層(発光層)、InGaN障壁層がこの順に積層された多重量子井戸構造(MQW)の活性領域3と、MgドープAlGaN層、MgドープAlGaN層、MgドープGaN層がこの順に積層されたp型窒化物半導体層(p側領域4)を備える。
【0026】
(比較例)
比較例として、第1組成傾斜部及び第2組成傾斜部を設けず、光吸収部の膜厚を約150nmとした以外は実施例1と同様とした半導体レーザ素子を作製した。
【0027】
実施例1及び比較例の半導体レーザ素子について、まず、各層の屈折率の値から電界強度分布のシミュレーションを行ったところ、実施例1の方が基板への漏れ光が増大するという結果であった。しかし、実際の半導体レーザ素子において、実施例1及び比較例の半導体層積層方向のFFP、つまり活性領域(発光層)に対して垂直方向のFFPを測定したところ、実施例1の半導体レーザ素子とすることでリップルを低減することができた。図3が実施例1の垂直方向FFPを示すグラフであり、図4が比較例の垂直方向FFPを示すグラフである。図3及び図4において、図中の左側がp電極側であり、右側がn電極側(GaN基板側)である。図4に示す比較例の半導体レーザ素子では−20度付近や+20度付近に大きなリップルが確認されたが、図3に示す実施例1の半導体レーザ素子ではこれらが低減されており、リップルがほとんど確認されなかった。このように、シミュレーションと実測値とでまったく異なる結果が得られたことから、シミュレーションにおいてはリップル増減への寄与が極めて小さいと考えられていた各層の界面における散乱が、実際の半導体レーザ素子ではリップル増減に大きく寄与しているものと思われる。
【0028】
(実施例2)
実施例2として以下の半導体レーザ素子を作製する。n型GaN基板上に積層されたn型窒化物半導体層(n側領域)は、基板側から順に、膜厚約2.5nmのアンドープAl0.15Ga0.85N層と膜厚約2.5nmのSiドープGaN層とを交互に200層ずつ積層した総膜厚約1μmの多層膜(超格子構造)と、膜厚約300nmのSiドープGaN層である。その上の活性領域は実施例1と同様である。さらに、その上のp型窒化物半導体層(p側領域4)は、その一部の模式的な断面図を図5に示す。図5は、実施例2の半導体レーザ素子を説明する部分的な断面模式図である。
【0029】
図5に示すように、膜厚約10nmのMgドープAlGaN層、膜厚約150nmのアンドープAl0.03Ga0.97N層(第1低屈折率層)、GaNからIn0.05Ga0.95Nまで連続的に変化させた膜厚約50nmのMgドープ組成傾斜部(第1組成傾斜部42)、膜厚約50nmのMgドープIn0.05Ga0.95N層(光吸収部43)、In0.05Ga0.95NからGaNまで連続的に変化させた膜厚約50nmのMgドープ組成傾斜部(第2組成傾斜部44)、膜厚約250nmのMgドープAl0.03Ga0.97N層(第2低屈折率層)、膜厚約15nmのMgドープGaN層がこの順に積層されている。実施例2の半導体レーザ素子とすることで、p型窒化物半導体層中における光の反射及び散乱を低減でき、InGaNによって効率よく光を吸収できるので、FFPのリップルを低減することができる。
【0030】
(実施例3)
実施例3の半導体レーザ素子は、n側領域及び活性領域を実施例1と同様とし、p型領域を実施例2と同様とする。実施例3の半導体レーザ素子とすることで、n側領域及びp側領域の両方において光の反射及び散乱を低減できると共に光吸収部によって効率よく光を吸収できるので、FFPのリップルをより低減することができる。
【符号の説明】
【0031】
100 半導体レーザ素子
1 基板
2 n側領域
21 第1低屈折率層
22 第1組成傾斜部
23 光吸収部
24 第2組成傾斜部
25 第2低屈折率層
3 活性領域
4 p側領域
4a リッジ
5a 第1絶縁膜、5b 第2絶縁膜
6 p電極
7 p側パッド電極
8 n電極
図1
図2
図3
図4
図5