【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.乾麺の作製方法
(1)乾燥うどん
各実施例に用いた乾燥うどんを、以下のように作製した。まず、小麦粉に水を加えて混練して得た生地を、ロール製麺機(角10番、麺厚2.0mm)を使用して常法により製麺した。その後、表に記載した乾燥温度で乾燥した。乾燥うどんの水分は12〜13質量%に調整した。
(2)乾燥スパゲッティ
各実施例に用いた乾燥スパゲッティを、以下のように作製した。まず、デュラムセモリナ(タピオカ澱粉を含有させた実施例の場合は、表に記載した通りタピオカ澱粉及びグルテンを配合)に水を加えて真空下で混練して得た生地を、押出製麺機(ダイス径1.6mm)を使用して常法により製麺した。その後、表に記載した乾燥温度で乾燥した。乾燥スパゲッティの水分は11〜12質量%に調整した。
(3)乾燥マカロニ
各実施例に用いた乾燥マカロニを、以下のように作製した。まず、デュラムセモリナに水を加えて混練して得た生地を、押出製麺機(マカロニ用ダイス)を使用して常法により製麺した。その後、表に記載した乾燥温度で乾燥した。乾燥マカロニの水分は11〜12質量%に調整した。
【0031】
2.茹で麺の作製方法
(1)乾麺の浸漬水への浸漬
バットに乾麺200g、及び常温の浸漬水(水、又は有機酸あるいはpH調整剤を含有させた実施例の場合は、表に記載した通り、有機酸あるいはpH調整剤を添加した)600g(乾麺の3倍量)を投入し、各実施例で設定した麺の水分になるように、浸漬時間を調整して浸漬した。浸漬温度は25℃で実施した。
(2)茹で調理
浸漬後、各実施例の麺の水を切り、2Lの沸騰水中で茹で調理した。茹で時間は、うどん、スパゲッティの場合、麺の水分が69〜71質量%、マカロニの場合、63〜65質量%になるように調整した。なお、浸漬する工程が無い比較例の場合は、乾麺をそのまま同様な水分になるように茹で調理した。
【0032】
3.評価用サンプルの作製方法
(1)冷蔵保存用(再加熱なしの喫食用(サラダ想定))サンプルの作製
茹で上がった茹で麺を冷水で冷却し、水切りした後、サラダ油を茹で麺に対して、1質量%添加し、混ぜ合わせた。これを密閉パックに入れ、冷蔵庫(約7℃)にて表に記載した期間保存した。
(2)冷蔵又は冷凍保存用(再加熱ありの喫食用(グラタン想定))サンプルの作製
茹で上がった茹で麺(乾燥マカロニから得た茹で麺を使用)を冷水で冷却し、水切りした後、サラダ油を茹で麺に対して、1質量%添加し、混ぜ合わせた。得られた茹で麺75gにホワイトソース75gを絡めたものを耐熱性紙容器(容量266cc)に投入し、さらにホワイトソース75gを上掛けした。蓋をして、冷蔵庫(約7℃)及び冷凍庫(約−20℃)にて、表に記載した期間保存した。
なおホワイトソースは、鍋にハインツホワイトソース500g、牛乳500g、食塩3g、コンソメ3g、白コショウ1gを投入し、混ぜ合わせた後、ソース重量が5%減少するまで加熱することにより調製した。得られたホワイトソースは、冷蔵庫で約10℃に冷却した後使用した。
【0033】
4.分析、評価方法
(1)たん白質抽出率の測定
試料乾麺を粉砕し、蓋付きサンプル瓶に、粉砕したサンプル30mg、及び0.05N酢酸溶液1.5mlを投入した。これを30℃の水浴中で1時間振とうし、たん白質を抽出した後、遠心分離(13000rpm、10分)し、上清を得た。得られた上清のたん白質量を、Protein Assay Rapid Kit(和光純薬社製)を用いて、測定した。たん白質抽出率は、以下の式:
たん白質抽出率(%)=(上清(1.5ml分)のたん白質量/サンプル30mgの総たん白質含有量)×100
により算出した。
(2)浸漬後の麺のpHの測定
ポリ袋に浸漬後の麺10gと、蒸留水90gとを投入し、麺を潰して蒸留水と均一に混合した後、30分間静置し、上清のpHをpH計で測定することによって求めた。
(3)浸漬後または茹で後の麺の水分測定
麺の水分の測定は、ブラベンダー社製水分計を用いて行った。麺を10g秤量し、130℃で3時間乾熱乾燥させた。乾熱乾燥後の麺の質量を計量し、減量分を水分とすることで、水分(質量%)を算出した。
(4)浸漬後の澱粉溶出状態の評価
浸漬後の浸漬水について澱粉の溶出状態(濁り)を目視観察し、以下の通り評価した。
◎:ほとんど溶出が認められない。○:わずかに溶出が認められる。△:溶出がやや多く認められる。×:溶出が多く認められる。
(5)茹で麺の保存後の食感の官能評価
上記保存茹で麺サンプルについて、表に記載した所定の期間保存後、3.(1)の冷蔵保存用の場合は、再加熱なしで、サラダ用ドレッシングをかけて試食し、3.(2)の冷蔵又は冷凍保存用の場合は、電子レンジで、喫食に適した温度まで再加熱した後、試食した。食感を、10名のパネルにより、以下の評価基準に従い、点数をつけ、平均の評価点を算出した。なお、評価点は小数点以下第二位を四捨五入した。
(i)弾力
1点:ほとんど弾力が感じられない。2点:弾力は感じられるが弱い。3点:弾力が感じられる。4点:やや弾力が強く感じられる。5点:極めて弾力が強く感じられる。
(ii)なめらかさ
1点:ほとんどなめらかさが感じられず、極めてぼそつき感が強い。2点:ややなめらかさが感じられるがぼそつき感が強い。3点:なめらかさが感じられる。4点:ややなめらかさが強く感じられる。5点:極めてなめらかさが強く感じられる。
【0034】
5.評価結果
(1)乾麺のたん白質抽出率の影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、用いた乾麺のたん白質抽出率の影響について検討した結果を表1に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示した通り、乾麺のたん白質抽出率が30%以下の実施例1〜6(浸漬後の麺の水分は48〜49質量%)は、浸漬後の澱粉溶出が生じ難く、茹で麺の冷蔵保存後に、再加熱なしで喫食する、極めて食感低下が生じ易い条件下で、弾力、なめらかさの評価が良好であった。一方、乾麺のたん白抽出率が30%を超えている比較例1〜3(浸漬後の麺の水分は49〜50質量%)では、浸漬後の澱粉溶出が生じ、冷蔵保存後の評価が実施例に比較して大幅に低い結果であった。これにより、本発明において、上記の乾麺のたん白質抽出率が必須要件であることが示された。
【0037】
(2)浸漬後の麺の水分の影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、乾麺を浸漬水に浸漬する工程における、浸漬後の麺の水分の影響について検討した結果を表2に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示した通り、乾麺を浸漬後の麺の水分が44〜53質量%の実施例7〜9(乾麺のたん白質抽出率は18%に調整した)は、茹で麺の冷蔵保存後に、再加熱なしで喫食する、極めて食感低下が生じ易い条件下で、弾力、なめらかさの評価が良好であった。一方、乾麺の浸漬後の麺の水分が低い比較例4及び5、並びに乾麺の浸漬後の麺の水分が高い比較例6(乾麺のたん白質抽出率は18%に調整した)では、冷蔵保存後の評価が実施例に比較して低い結果であった。比較例6においては、浸漬後の澱粉の溶出もやや多く認められた。これにより、本発明において、上記の浸漬後の麺の水分が必須要件であることが示された。
【0040】
(3)乾麺へのタピオカ澱粉の添加の影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、乾麺へのタピオカ澱粉の添加の影響について検討した結果を表3に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示した通り、タピオカ澱粉を含有させた乾麺を用いた実施例11〜14は、タピオカ澱粉を含まない実施例10(実施例8と同じ)よりも冷蔵保存時の経時的な食感の低下を抑制していた。一方、乾麺をそのまま茹でる、一般的な製造方法の場合、タピオカ澱粉を含まない、比較例7とタピオカ澱粉を含有させた比較例8〜11を比較すると、冷蔵保存後の食感に改善は認められなかった。これにより、本発明の茹で麺の製造方法において、タピオカ澱粉を含有した乾麺を用いると、従来技術では認められなかった、茹で麺の冷蔵保存後の食感改善効果が、さらに高められることが示された。また、タピオカ澱粉の配合率を4〜10質量%に調製すると、より高い食感改善効果が得られた。
【0043】
(4)浸漬水への有機酸の添加による浸漬後の麺のpHの影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、浸漬水への有機酸の添加による浸漬後の麺のpHの影響について検討した結果を表4に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示した通り、浸漬水に有機酸を含有させ、浸漬後の麺のpHを4.0〜6.0の範囲に調整した実施例16、17、19、20は、浸漬水に有機酸を添加していない実施例15(実施例8と同じ)よりも冷蔵保存時の経時的な食感の低下を抑制していた。pHが4.0未満の実施例18は、浸漬後の澱粉の溶出もやや多く認められ、浸漬による食感改善効果が認められるものの、やや低かった。これにより、本発明の茹で麺の製造方法において、浸漬後の麺のpHを4.0〜6.0の範囲とすることで、より浸漬時の澱粉の溶出を防止することができ、茹で麺の冷蔵保存後の食感改善効果が、さらに高められることが示された。
【0046】
(5)高水分材料で覆われた茹で麺の冷蔵又は冷凍保存後の食感改善効果
上記3.(2)の冷蔵又は冷凍保存用(再加熱ありの喫食用(グラタン想定))サンプルについて、保存後の食感を評価した結果を表5及び6に示す。実施例21、22及び比較例12、14のマカロニの乾燥温度は、85℃で実施し、比較例13、15のマカロニの乾燥温度は、60℃で実施した。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
表5及び6に示した通り、高水分材料(ホワイトソース)に覆われた茹で麺を冷蔵又は冷凍保存後に再加熱して試食した場合、本発明の製造方法により作製した実施例21及び22の茹で麺は、浸漬水への浸漬をしない比較例12及び14と比較して、冷蔵又は冷凍保存による経時的な食感の低下を抑制していた。一方、たん白抽出率が30%を超える乾麺を用いて浸漬を行った、比較例13及び比較例15では、浸漬後の澱粉溶出が生じ、冷蔵又は冷凍保存による経時的な食感の低下も大きかった。これにより、本発明の製造方法により製造された茹で麺は、ソース等の高水分材料で覆われた茹で麺を、長期間冷蔵又は冷凍保存した後、再加熱して喫食する場合でも、食感の低下が抑制され、食感改善効果が得られることが示された。
【0050】
以上の実施例により、たん白質抽出率が30%以下の乾麺を用い、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬した後、茹でるという本発明の製造方法により得られた茹で麺は、冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下が抑制され、優れた保存後の食感改善効果を有することが示された。また、その効果は、用いる乾麺にタピオカ澱粉を配合すること、及び浸漬水に有機酸を添加し、浸漬後の麺のpHを4.0〜6.0に調整することで、さらに向上することが示された。
【0051】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。