特許第6490380号(P6490380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6490380茹で麺の製造方法、茹で麺、及び茹で麺の保存後の食感改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490380
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】茹で麺の製造方法、茹で麺、及び茹で麺の保存後の食感改善方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20190318BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   A23L7/109 C
   A23L3/36 Z
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-204411(P2014-204411)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-73213(P2016-73213A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】秦野 仁志
(72)【発明者】
【氏名】羽石 和明
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−191845(JP,A)
【文献】 特開2000−125792(JP,A)
【文献】 特開2010−172217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たん白質抽出率が30%以下の乾麺を、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬する工程、及び
浸漬後の麺を茹でる工程、
を含むことを特徴とする茹で麺の製造方法であって、
前記茹で麺が、冷蔵又は冷凍保存用である茹で麺の製造方法
【請求項2】
前記乾麺が、タピオカ澱粉を含む請求項1に記載の茹で麺の製造方法。
【請求項3】
前記浸漬後の麺のpHが4.0〜6.0の範囲となるように、前記浸漬水に有機酸を添加する請求項1又は2に記載の茹で麺の製造方法。
【請求項4】
前記茹で麺が、茹で調理後、冷蔵条件下で6時間以上経過後に、再加熱なしで喫食される冷蔵食品用である請求項1〜3のいずれか1項に記載の茹で麺の製造方法。
【請求項5】
前記茹で麺が、茹で調理後、茹で麺の周囲が高水分材料で覆われた状態で、冷蔵又は冷凍条件下で長期間保存された後に、再加熱して喫食する冷蔵又は冷凍食品用である請求項1〜3のいずれか1項に記載の茹で麺の製造方法。
【請求項6】
乾麺を茹でることで得られる茹で麺の、冷蔵又は冷凍保存後の食感を改善する方法であって、
前記乾麺のたん白質抽出率が30%以下であり、
前記乾麺を茹でる前に、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬することを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記乾麺が、タピオカ澱粉を含む請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記浸漬後の麺のpHが4.0〜6.0の範囲となるように、前記浸漬水に有機酸を添加する請求項又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスタ等の茹で麺の製造方法に関し、特に、茹で麺の冷蔵又は冷凍保存後の食感を改善することができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茹で麺は、通常、パスタ、うどん、そば、中華麺等の生麺又は乾麺を沸騰水中で茹でることで製造され、茹で立てが喫食されるか、冷蔵又は冷凍保存後に、冷蔵の場合はそのまま又は再加熱されて、冷凍の場合は再加熱されて喫食されている。一般に、茹で立ての茹で麺は、コシ(弾力)及びなめらかさに優れ、良好な食感を有するが、保存後、特に冷蔵保存後の茹で麺の食感の低下は著しいといわれている。
【0003】
麺類の内、パスタ類は、一般に小麦粉に加水したものを混練した生地を、押出機等で押出成形したものである。そして、スパゲッティ、マカロニ等は、保存性が高く、茹で上げ後に独特な食感が得られることから、押出成形後に乾燥した乾燥パスタの形態で流通され、茹で調理されることが多い。また、スパゲッティ、マカロニ等は、例えば、茹でられ、冷却された後、サラダ等に混合され、冷蔵で長時間保存後に、再加熱なしにそのまま喫食される場合もある。この場合、冷蔵保存後の茹で麺の食感の劣化が極めて大きいことが知られている。さらに、茹で麺を冷蔵又は冷凍保存後に、再加熱して喫食する場合であっても、グラタン類のように茹で麺の周囲がソース等の高水分材料で覆われた状態で長期間保存された場合は、再加熱しても食感の劣化が大きいことが知られている。
【0004】
従来から、茹で麺の食感を向上させるために、種々の方法が開発されている。例えば、茹で麺の茹で調理後の食感の経時劣化を低減させるため、バレイショデンプン、ワキシーコーンスターチ、タピオカデンプン等の澱粉、又はこれらの澱粉にエステル化等の加工処理が施された加工澱粉が配合された麺及び麺の製造方法が開発されている(特許文献1及び2)。また、特許文献3には、乾麺から茹でられる茹で麺であって、食感が優れ、茹でのびが遅く、作業性が良く、見栄えの良い茹で麺を製造するため、所定の密度の乾麺を、水に浸漬する等により所定の水分の範囲に調整した後、茹でることを特徴とする茹で麺の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−125858号公報
【特許文献2】特開平03−244357号公報
【特許文献3】特開2004−154002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1〜3に記載されたような方法を用いても、上述のように、乾麺を用いた茹で麺をサラダやグラタン等に混合し、冷蔵又は冷凍保存した場合の茹で麺の食感の低下を抑制することは困難であった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、乾麺を茹でることで得られる茹で麺の製造方法であって、冷蔵又は冷凍保存後の食感が改善された茹で麺が得られる製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、乾麺を茹でることで得られる茹で麺であって、冷蔵又は冷凍保存後の食感が改善された茹で麺を提供することにある。
【0009】
さらに本発明の目的は、乾麺を茹でることで得られる茹で麺の、冷蔵又は冷凍保存後の食感を改善する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、たん白質抽出率が30%以下の乾麺を、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬する工程、及び浸漬後の麺を茹でる工程、を含むことを特徴とする茹で麺の製造方法であって、前記茹で麺が、冷蔵又は冷凍保存用である茹で麺の製造方法によって達成される。これにより、冷蔵又は冷凍保存した後の食感の低下が生じ難い茹で麺が得られる。なお、本発明において、たん白質抽出率は、乾麺の総たん白質含有量に対する、温度30℃の0.05N酢酸溶液に溶解するたん白質量の比率を%で表したものである。
【0011】
この要因は明確ではないが、乾麺を麺の水分が上記の範囲になるように浸漬水に浸漬させた後に茹でることで、麺中の澱粉の糊化が、麺の表面から中心部まで均一に生じることになる上、乾麺が上記の低いたん白質抽出率を有することで、その浸漬中における澱粉の溶出を防止すると共に、得られる茹で麺において、糊化した澱粉の老化を抑制し、冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下が抑制されるものと考えられる。
【0012】
本発明の茹で麺の製造方法の好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記乾麺が、タピオカ澱粉を含む。得られた茹で麺において、より冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下を抑制することができる。
(2)前記浸漬後の麺のpHが4.0〜6.0の範囲となるように、前記浸漬水に有機酸を添加する。これにより、さらに浸漬時の澱粉の溶出を防止でき、得られた茹で麺において、より冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下を抑制することができる。
(3)前記茹で麺が、茹で調理後、冷蔵条件下で6時間以上経過後に、再加熱なしで喫食される冷蔵食品用である。
(4)前記茹で麺が、茹で調理後、茹で麺の周囲が高水分材料で覆われた状態で、冷蔵又は冷凍条件下で長期間保存された後に、再加熱して喫食する冷蔵又は冷凍食品用である。
これらは本発明の製造方法が特に有効な用途である。
【0014】
さらに、上記目的は、乾麺を茹でることで得られる茹で麺の、冷蔵又は冷凍保存後の食感を改善する方法であって、前記乾麺のたん白質抽出率が30%以下であり、前記乾麺を茹でる前に、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬することを含むことを特徴とする方法によって達成される。上述の通り、上記のたん白質抽出率を有する乾麺を用い、茹でる前に、麺の水分が上記の範囲になるように浸漬水に浸漬させることで、得られる茹で麺の冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下を生じ難くすることができる。
【0015】
本発明の方法の好ましい態様は以下の通りである。
(1)前記乾麺が、タピオカ澱粉を含む。
(2)前記浸漬後の麺のpHが4.0〜6.0の範囲となるように、前記浸漬水に有機酸を添加する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の茹で麺の製造方法では、所定の低いたん白質抽出率の乾麺を用い、麺の水分が所定の範囲になるように浸漬水に浸漬した後に茹でることで、得られる茹で麺の冷蔵及び冷凍保存後の食感の低下を抑制することができる。これにより、製造後、サラダ等の食品に混合された後、いわゆるチルド条件下で一定期間経過した後に、再加熱なしで、そのまま喫食される茹で麺や、グラタン等の茹で麺の周囲をソース等の高水分材料が覆うような食品の冷蔵又は冷凍品に用いられ、再加熱されて喫食される茹で麺において、食感の改善を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の茹で麺の製造方法は、たん白質抽出率が30%以下の乾麺を麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬する工程、及び浸漬後の麺を茹でる工程、を含み、前記茹で麺が、冷蔵又は冷凍保存用である。後述の実施例で示す通り、本発明の製造方法により製造された茹で麺は、冷蔵又は冷凍保存した後、経時的に再加熱なし(冷蔵のみ)又は再加熱して喫食した場合、弾力及びなめらかさ等の食感の低下が生じ難い。この要因は明確ではないが、以下のように考えられる。即ち、乾麺を麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬することで、茹で調理において、麺中の澱粉の糊化が、麺の表面部から中止部まで、均一に生じることになるため、冷蔵又は冷凍保存後の食感改善効果が高まる。これは例えば、一般的な乾燥パスタの茹で調理における、中心部に芯を残すような、いわゆる「アルデンテ」の状態の茹で麺とは全く異なる状態である。そして、用いる乾麺が、30%以下という低いたん白質抽出率を有することから、麺中の溶出しないたん白質(変性しているものと解される)が澱粉の周囲を覆うことで、その浸漬中における澱粉の溶出を防止するとともに、得られる茹で麺において、糊化した澱粉の老化を抑制することができるものと考えられる。浸漬水への浸漬時間が少なく、麺の水分が上記の範囲より低い場合は、本発明の効果が得られず、浸漬水への浸漬時間が長すぎて、麺の水分が上記の範囲を超える場合は、茹で調理直後の食感が低下し、本発明の効果も得られない。なお、麺の水分は、乾燥重量法によって求めることができる。具体的には、麺を一定重量秤量し、乾熱乾燥させた後、計量し、減量分を水分とすることで求めることができる。
【0018】
本発明において、用いる乾麺は、上記ではパスタを例に挙げて、説明したが、どのような種類の乾麺でも良い。例えば、スパゲッティ、マカロニ等のパスタ、うどん、そば、冷麦、そうめん、中華そば等が挙げられる。特に本発明が有効な点で、パスタが好ましい。生地を押出成形して製造されるパスタは、ロール製麺機などで製麺されるその他の麺類に比べて、脆い特徴があり、茹で調理後に冷蔵または冷凍保存した場合の食感の劣化が著しいため、本発明の効果をより顕著に得ることができる。
【0019】
本発明において、乾麺のたん白質抽出率は、乾麺の総たん白質含有量に対する、温度30℃の0.05N酢酸溶液に溶解するたん白質量の比率を%で表したものである。例えば、乾麺を粉砕したサンプルを精秤し、過剰量(例えば50倍量)の0.05N酢酸溶液を投入し、30℃、1時間振とう抽出した後、遠心分離により得られた上清のたん白質量を測定し、抽出に用いた乾麺の総たん白質含有量と、抽出されたたん白質量からたん白質抽出率を算出できる。乾麺のたん白質抽出率は、28%以下が好ましく、特に25%以下が好ましい。下限については、特に制限は無いが、通常5%以上であり、特に15%以上が好ましい。
【0020】
一般に、乾麺中のたん白質の変性度が高く成る程、たん白質抽出率は低下する。そして、乾麺のたん白質抽出率は、乾麺の種類、乾麺に用いる原料、乾燥前の水分、乾燥温度、乾燥時間等に影響を受ける。たん白質抽出率を調整するには、例えばパスタやうどんの場合、乾麺を製造する際の乾燥温度によって調整することが容易である点で好ましい。乾燥温度は、特に制限は無いが、60〜90℃が好ましい。
【0021】
本発明において、乾麺を浸漬水に浸漬する工程は、麺の水分を上記の範囲に調整できれば良く、通常の浸漬手段を用いることができる。例えば、常温又は冷温の浸漬水を張ったバットに、乾麺を浸漬し、上記の麺の水分となるまで浸漬することができる。浸漬水は、通常、水であり、塩水を用いても良く、後述するように添加剤を配合しても良い。浸漬水の温度は、特に制限は無く、通常4〜30℃、好ましくは10〜25℃である。浸漬時間は、特に制限は無く、浸漬水の温度との関係で調整することができる。浸漬時間は通常1〜24時間、好ましくは2〜10時間、さらに好ましくは2〜5時間である。また、浸漬後の麺を茹でる工程は、十分な量の沸騰水中に麺を投入し、茹で上げるといった、通常の茹で調理手段を用いれば良い。沸騰水には、食塩やその他の添加剤を添加しても良い。茹で時間は、麺が喫食に好ましい状態になれば良く、本発明においては、通常、乾麺をそのまま茹でるよりも短時間で茹で上がる。茹で時間は、茹で調理中の麺の水分を確認することで判断することもできる。
【0022】
本発明において、用いる乾麺は、タピオカ澱粉を含むことが好ましい。タピオカ澱粉とは、キャッサバ又はマニオカから得られる澱粉である。本発明において、タピオカ澱粉は、その澱粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工澱粉を含むものとする。特許文献1及び2においても、澱粉を配合することで、食感の経時劣化を防止することが開示されていたが、後述する実施例に示す通り、本発明の茹で麺の製造方法において、タピオカ澱粉を含有した乾麺を用いると、従来技術と比較して著しい効果が発揮される。即ち、乾麺をそのまま茹でる、一般的な製造方法に、タピオカ澱粉を含有した乾麺を用いた場合は、本発明の食感改善効果は全く認められないが、本発明の、乾麺を浸漬水に浸漬し、所定の麺の水分にした後に茹でる製造方法に、タピオカ澱粉を含有した乾麺を用いた場合、茹で麺の冷蔵保存後の食感改善効果が、さらに高められる。この要因は明確ではないが、乾麺を浸漬水に浸漬した後で茹でることで、乾麺に含有するタピオカ澱粉も十分に糊化され、タピオカ澱粉に多く含まれるアミロペクチンが乾麺中の澱粉の老化防止に十分に寄与するものと考えられる。一方、乾麺をそのまま茹でる場合は、乾麺の中心部に含有されるタピオカ澱粉が十分に糊化されず、澱粉の老化防止効果が十分発揮されないものと考えられる。
【0023】
乾麺におけるタピオカ澱粉の含有量は、特に制限は無いが、少な過ぎると効果が得られず、多過ぎると茹で麺の初期の食感が低下するため、乾麺の質量を基準として、4〜15質量%が好ましく、さらに4〜10質量%が好ましく、特に4〜8質量%が好ましい。なお、乾麺には、タピオカ澱粉の他、グルテン、増粘多糖類等、他の副材料を配合しても良い。
【0024】
本発明において、浸漬水に浸漬する工程は、浸漬後の麺のpHが4.0〜6.0の範囲となるように、前記浸漬水に有機酸を添加することが好ましい。後述する実施例に示す通り、麺のpHを上記の範囲とすることで、より浸漬時の澱粉の溶出を防止することができ、得られた茹で麺において、より食感の低下を抑制することができる。この要因は明確ではないが、麺のpHが弱酸性となることで、澱粉の周囲に溶出しないたん白質がより多くなり、澱粉の溶出を防止できるものと考えられる。なお、麺のpHが低過ぎると、麺に酸味が生じる上、逆に澱粉の溶出が多くなり、食感の改善効果が低下する場合がある。浸漬後の麺のpHは、例えば、ポリ袋に浸漬後の麺10gと、蒸留水90gを投入し、麺を潰して蒸留水と均一に混合した後、30分間静置し、上清のpHをpH計で測定することによって求めることができる。
【0025】
浸漬水に含有させる有機酸としては、食品用であれば特に制限はない。例えば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酢酸等、及びこれらの混合物が挙げられる。また、これらの有機酸の塩を併用しても良く、これらの有機酸や有機酸の塩を含む市販のpH調整剤を用いても良い。有機酸の添加量は、乾麺の種類等により、得られる浸漬後の麺のpHに応じて調整することができる。有機酸は、通常、浸漬液の質量を基準として0.01〜2.0質量%、好ましくは0.05〜1.0質量%、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%で用いることができる。
【0026】
本発明において、得られる茹で麺は、茹で調理後、冷蔵条件下で6時間以上経過後に、再加熱なしで喫食される冷蔵食品用であることが好ましい。例えば、茹で調理後、冷却され、サラダ等に混合されるスパゲッティ、マカロニ等のパスタ、及び茹で調理後、冷却され、調味液をかけて喫食される冷やしうどん等は、工場で製造され、チルド流通され、各小売店にて冷蔵ケースにおいて一定期間経過後、購入した消費者により再加熱なしで喫食される場合がある。このような茹で麺類は、通常、茹で調理後、冷蔵条件下で6時間以上経過しており、一般に茹で麺の食感は著しく低下している。本発明の製造方法により製造された茹で麺であれば、このような茹で麺の食感が最も低下し易い条件下であっても、食感の低下が抑制され、十分な弾力となめらかさを有しているので好ましい。
【0027】
また、本発明において、得られる茹で麺は、茹で調理後、茹で麺の周囲が高水分材料で覆われた状態で、冷蔵又は冷凍条件下で長期間保存された後に、再加熱して喫食する冷蔵又は冷凍食品用であることも好ましい。例えば、茹で調理後、グラタン類の具材としてホワイトソース等に混合されるマカロニ等のパスタ等は、工場で製造され、冷蔵又は冷凍されて流通され、長期間経過後、購入した消費者により再加熱されて喫食される場合がある。一般に、ソース等の高水分材料で覆われた茹で麺は、長期間冷蔵又は冷凍保存された場合、再加熱しても食感の低下は大きい。本発明の製造方法により製造された茹で麺であれば、このような条件下であっても、食感の低下が抑制され、十分な弾力となめらかさを有しているので好ましい。
【0028】
また、本発明は、本発明の製造方法により製造された茹で麺を提供する。本発明の茹で麺は、上述の通り、冷蔵又は冷凍保存後の食感が改善された茹で麺であり、上述の用途に最適である。
【0029】
さらに、本発明は、乾麺を茹でることで得られる茹で麺の、冷蔵又は冷凍保存後の食感を改善する方法であって、前記乾麺のたん白質抽出率が30%以下であり、前記乾麺を茹でる前に、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬することを含むことを特徴とする方法を提供する。上述の通り、上記のたん白質抽出率を有する乾麺を用い、茹でる前に、麺の水分が上記の範囲になるように浸漬水に浸漬させることで、得られる茹で麺の冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下を生じ難くすることができる。なお、本発明の方法の好ましい態様は、上述の本発明の茹で麺の製造方法と同様である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.乾麺の作製方法
(1)乾燥うどん
各実施例に用いた乾燥うどんを、以下のように作製した。まず、小麦粉に水を加えて混練して得た生地を、ロール製麺機(角10番、麺厚2.0mm)を使用して常法により製麺した。その後、表に記載した乾燥温度で乾燥した。乾燥うどんの水分は12〜13質量%に調整した。
(2)乾燥スパゲッティ
各実施例に用いた乾燥スパゲッティを、以下のように作製した。まず、デュラムセモリナ(タピオカ澱粉を含有させた実施例の場合は、表に記載した通りタピオカ澱粉及びグルテンを配合)に水を加えて真空下で混練して得た生地を、押出製麺機(ダイス径1.6mm)を使用して常法により製麺した。その後、表に記載した乾燥温度で乾燥した。乾燥スパゲッティの水分は11〜12質量%に調整した。
(3)乾燥マカロニ
各実施例に用いた乾燥マカロニを、以下のように作製した。まず、デュラムセモリナに水を加えて混練して得た生地を、押出製麺機(マカロニ用ダイス)を使用して常法により製麺した。その後、表に記載した乾燥温度で乾燥した。乾燥マカロニの水分は11〜12質量%に調整した。
【0031】
2.茹で麺の作製方法
(1)乾麺の浸漬水への浸漬
バットに乾麺200g、及び常温の浸漬水(水、又は有機酸あるいはpH調整剤を含有させた実施例の場合は、表に記載した通り、有機酸あるいはpH調整剤を添加した)600g(乾麺の3倍量)を投入し、各実施例で設定した麺の水分になるように、浸漬時間を調整して浸漬した。浸漬温度は25℃で実施した。
(2)茹で調理
浸漬後、各実施例の麺の水を切り、2Lの沸騰水中で茹で調理した。茹で時間は、うどん、スパゲッティの場合、麺の水分が69〜71質量%、マカロニの場合、63〜65質量%になるように調整した。なお、浸漬する工程が無い比較例の場合は、乾麺をそのまま同様な水分になるように茹で調理した。
【0032】
3.評価用サンプルの作製方法
(1)冷蔵保存用(再加熱なしの喫食用(サラダ想定))サンプルの作製
茹で上がった茹で麺を冷水で冷却し、水切りした後、サラダ油を茹で麺に対して、1質量%添加し、混ぜ合わせた。これを密閉パックに入れ、冷蔵庫(約7℃)にて表に記載した期間保存した。
(2)冷蔵又は冷凍保存用(再加熱ありの喫食用(グラタン想定))サンプルの作製
茹で上がった茹で麺(乾燥マカロニから得た茹で麺を使用)を冷水で冷却し、水切りした後、サラダ油を茹で麺に対して、1質量%添加し、混ぜ合わせた。得られた茹で麺75gにホワイトソース75gを絡めたものを耐熱性紙容器(容量266cc)に投入し、さらにホワイトソース75gを上掛けした。蓋をして、冷蔵庫(約7℃)及び冷凍庫(約−20℃)にて、表に記載した期間保存した。
なおホワイトソースは、鍋にハインツホワイトソース500g、牛乳500g、食塩3g、コンソメ3g、白コショウ1gを投入し、混ぜ合わせた後、ソース重量が5%減少するまで加熱することにより調製した。得られたホワイトソースは、冷蔵庫で約10℃に冷却した後使用した。
【0033】
4.分析、評価方法
(1)たん白質抽出率の測定
試料乾麺を粉砕し、蓋付きサンプル瓶に、粉砕したサンプル30mg、及び0.05N酢酸溶液1.5mlを投入した。これを30℃の水浴中で1時間振とうし、たん白質を抽出した後、遠心分離(13000rpm、10分)し、上清を得た。得られた上清のたん白質量を、Protein Assay Rapid Kit(和光純薬社製)を用いて、測定した。たん白質抽出率は、以下の式:
たん白質抽出率(%)=(上清(1.5ml分)のたん白質量/サンプル30mgの総たん白質含有量)×100
により算出した。
(2)浸漬後の麺のpHの測定
ポリ袋に浸漬後の麺10gと、蒸留水90gとを投入し、麺を潰して蒸留水と均一に混合した後、30分間静置し、上清のpHをpH計で測定することによって求めた。
(3)浸漬後または茹で後の麺の水分測定
麺の水分の測定は、ブラベンダー社製水分計を用いて行った。麺を10g秤量し、130℃で3時間乾熱乾燥させた。乾熱乾燥後の麺の質量を計量し、減量分を水分とすることで、水分(質量%)を算出した。
(4)浸漬後の澱粉溶出状態の評価
浸漬後の浸漬水について澱粉の溶出状態(濁り)を目視観察し、以下の通り評価した。
◎:ほとんど溶出が認められない。○:わずかに溶出が認められる。△:溶出がやや多く認められる。×:溶出が多く認められる。
(5)茹で麺の保存後の食感の官能評価
上記保存茹で麺サンプルについて、表に記載した所定の期間保存後、3.(1)の冷蔵保存用の場合は、再加熱なしで、サラダ用ドレッシングをかけて試食し、3.(2)の冷蔵又は冷凍保存用の場合は、電子レンジで、喫食に適した温度まで再加熱した後、試食した。食感を、10名のパネルにより、以下の評価基準に従い、点数をつけ、平均の評価点を算出した。なお、評価点は小数点以下第二位を四捨五入した。
(i)弾力
1点:ほとんど弾力が感じられない。2点:弾力は感じられるが弱い。3点:弾力が感じられる。4点:やや弾力が強く感じられる。5点:極めて弾力が強く感じられる。
(ii)なめらかさ
1点:ほとんどなめらかさが感じられず、極めてぼそつき感が強い。2点:ややなめらかさが感じられるがぼそつき感が強い。3点:なめらかさが感じられる。4点:ややなめらかさが強く感じられる。5点:極めてなめらかさが強く感じられる。
【0034】
5.評価結果
(1)乾麺のたん白質抽出率の影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、用いた乾麺のたん白質抽出率の影響について検討した結果を表1に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示した通り、乾麺のたん白質抽出率が30%以下の実施例1〜6(浸漬後の麺の水分は48〜49質量%)は、浸漬後の澱粉溶出が生じ難く、茹で麺の冷蔵保存後に、再加熱なしで喫食する、極めて食感低下が生じ易い条件下で、弾力、なめらかさの評価が良好であった。一方、乾麺のたん白抽出率が30%を超えている比較例1〜3(浸漬後の麺の水分は49〜50質量%)では、浸漬後の澱粉溶出が生じ、冷蔵保存後の評価が実施例に比較して大幅に低い結果であった。これにより、本発明において、上記の乾麺のたん白質抽出率が必須要件であることが示された。
【0037】
(2)浸漬後の麺の水分の影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、乾麺を浸漬水に浸漬する工程における、浸漬後の麺の水分の影響について検討した結果を表2に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示した通り、乾麺を浸漬後の麺の水分が44〜53質量%の実施例7〜9(乾麺のたん白質抽出率は18%に調整した)は、茹で麺の冷蔵保存後に、再加熱なしで喫食する、極めて食感低下が生じ易い条件下で、弾力、なめらかさの評価が良好であった。一方、乾麺の浸漬後の麺の水分が低い比較例4及び5、並びに乾麺の浸漬後の麺の水分が高い比較例6(乾麺のたん白質抽出率は18%に調整した)では、冷蔵保存後の評価が実施例に比較して低い結果であった。比較例6においては、浸漬後の澱粉の溶出もやや多く認められた。これにより、本発明において、上記の浸漬後の麺の水分が必須要件であることが示された。
【0040】
(3)乾麺へのタピオカ澱粉の添加の影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、乾麺へのタピオカ澱粉の添加の影響について検討した結果を表3に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0041】
【表3】
【0042】
表3に示した通り、タピオカ澱粉を含有させた乾麺を用いた実施例11〜14は、タピオカ澱粉を含まない実施例10(実施例8と同じ)よりも冷蔵保存時の経時的な食感の低下を抑制していた。一方、乾麺をそのまま茹でる、一般的な製造方法の場合、タピオカ澱粉を含まない、比較例7とタピオカ澱粉を含有させた比較例8〜11を比較すると、冷蔵保存後の食感に改善は認められなかった。これにより、本発明の茹で麺の製造方法において、タピオカ澱粉を含有した乾麺を用いると、従来技術では認められなかった、茹で麺の冷蔵保存後の食感改善効果が、さらに高められることが示された。また、タピオカ澱粉の配合率を4〜10質量%に調製すると、より高い食感改善効果が得られた。
【0043】
(4)浸漬水への有機酸の添加による浸漬後の麺のpHの影響
茹で麺の冷蔵保存後の食感に及ぼす、浸漬水への有機酸の添加による浸漬後の麺のpHの影響について検討した結果を表4に示す。スパゲッティの乾燥温度は、80℃で実施した。
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示した通り、浸漬水に有機酸を含有させ、浸漬後の麺のpHを4.0〜6.0の範囲に調整した実施例16、17、19、20は、浸漬水に有機酸を添加していない実施例15(実施例8と同じ)よりも冷蔵保存時の経時的な食感の低下を抑制していた。pHが4.0未満の実施例18は、浸漬後の澱粉の溶出もやや多く認められ、浸漬による食感改善効果が認められるものの、やや低かった。これにより、本発明の茹で麺の製造方法において、浸漬後の麺のpHを4.0〜6.0の範囲とすることで、より浸漬時の澱粉の溶出を防止することができ、茹で麺の冷蔵保存後の食感改善効果が、さらに高められることが示された。
【0046】
(5)高水分材料で覆われた茹で麺の冷蔵又は冷凍保存後の食感改善効果
上記3.(2)の冷蔵又は冷凍保存用(再加熱ありの喫食用(グラタン想定))サンプルについて、保存後の食感を評価した結果を表5及び6に示す。実施例21、22及び比較例12、14のマカロニの乾燥温度は、85℃で実施し、比較例13、15のマカロニの乾燥温度は、60℃で実施した。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
表5及び6に示した通り、高水分材料(ホワイトソース)に覆われた茹で麺を冷蔵又は冷凍保存後に再加熱して試食した場合、本発明の製造方法により作製した実施例21及び22の茹で麺は、浸漬水への浸漬をしない比較例12及び14と比較して、冷蔵又は冷凍保存による経時的な食感の低下を抑制していた。一方、たん白抽出率が30%を超える乾麺を用いて浸漬を行った、比較例13及び比較例15では、浸漬後の澱粉溶出が生じ、冷蔵又は冷凍保存による経時的な食感の低下も大きかった。これにより、本発明の製造方法により製造された茹で麺は、ソース等の高水分材料で覆われた茹で麺を、長期間冷蔵又は冷凍保存した後、再加熱して喫食する場合でも、食感の低下が抑制され、食感改善効果が得られることが示された。
【0050】
以上の実施例により、たん白質抽出率が30%以下の乾麺を用い、麺の水分が44〜53質量%の範囲になるように浸漬水に浸漬した後、茹でるという本発明の製造方法により得られた茹で麺は、冷蔵又は冷凍保存後の食感の低下が抑制され、優れた保存後の食感改善効果を有することが示された。また、その効果は、用いる乾麺にタピオカ澱粉を配合すること、及び浸漬水に有機酸を添加し、浸漬後の麺のpHを4.0〜6.0に調整することで、さらに向上することが示された。
【0051】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、サラダ等の食品に混合後、チルド条件下で一定期間経過した後に、再加熱なしで、そのまま喫食される茹で麺や、グラタン等の茹で麺の周囲をソース等の高水分材料が覆うような食品の冷蔵又は冷凍品に用いられ、再加熱されて喫食される茹で麺として、保存後の食感が改善された茹で麺を提供することができる。