特許第6490618号(P6490618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許6490618難燃性架橋樹脂成形体及び難燃性架橋性樹脂組成物とそれらの製造方法、難燃性シランマスターバッチ、並びに、難燃性成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6490618
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】難燃性架橋樹脂成形体及び難燃性架橋性樹脂組成物とそれらの製造方法、難燃性シランマスターバッチ、並びに、難燃性成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20190318BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20190318BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20190318BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20190318BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20190318BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20190318BHJP
【FI】
   C08J3/24 ACES
   C08J3/22CET
   C08L23/00
   C08K3/22
   C08K5/14
   C08K5/54
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2016-71732(P2016-71732)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179235(P2017-179235A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】松村 有史
(72)【発明者】
【氏名】西口 雅己
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−118828(JP,A)
【文献】 特開2015−052108(JP,A)
【文献】 特開2015−067708(JP,A)
【文献】 特開平05−170968(JP,A)
【文献】 特開昭49−053235(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/147148(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/188925(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28;99/00
C08J 5/00−5/02;5/12−5/22
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
B29B 7/00−11/14
B29B 13/00−15/06
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する、難燃性架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量
部と、ベーマイト60〜200質量部と、前記ベーマイトと反応し、シラノール縮合
可能な反応部位、及びラジカルの存在下で前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラ
フト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触
媒とを溶融混合して、混合物を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体を水と接触させて難燃性架橋樹脂成形
体を得る工程
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記工程(1)を行うに当たり、下記工程(a−2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)及び工程(c)を有し下記工程(a−2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)、工程(b)及び工程(c)を有する、難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a−1):少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合
して混合物を調製する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸
化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、
記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂とをグラフト化反応させることにより、シ
ラン架橋性樹脂を含む難燃性シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記難燃性シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前
記触媒マスターバッチとを溶融混合する工程
【請求項2】
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂50質量%以下と、エチレンゴム10〜100質量%と、スチレン系エラストマー35質量%以下と、オイル40質量%以下とを含有する、請求項1に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂20〜40質量%と、エチレンゴム10〜60質量%と、スチレン系エラストマー10〜35質量%と、オイル10〜40質量%とを含有する、請求項1又は2に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ベーマイトの配合量が、ベース樹脂100質量部に対して、60〜170質量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量部と、ベーマイト60〜200質量部と、前記ベーマイトと反応し、シラノール縮合可能な反応部位、及びラジカルの存在下で前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合する工程(1)を有する、難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記工程(1)を行うに当たり、下記工程(a−2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)及び工程(c)を有し下記工程(a−2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)、工程(b)及び工程(c)を有する、難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a−1):少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合
して混合物を調製する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸
化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、
記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂とをグラフト化反応させることにより、シ
ラン架橋性樹脂を含む難燃性シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記難燃性シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前
記触媒マスターバッチとを溶融混合する工程
【請求項6】
請求項5に記載の難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法により製造されてなる難燃性架橋性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法により製造されてなる難燃性架橋樹脂成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性成形品。
【請求項9】
ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量部と、ベーマイト60〜200質量部と、前記ベーマイトと反応し、シラノール縮合可能な反応部位、及びラジカルの存在下で前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合してなる難燃性架橋性樹脂組成物の製造に用いられる難燃性シランマスターバッチであって、
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調製し、得られた混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して前記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂とをグラフト化反応させることにより得られる、シラン架橋性樹脂を含む難燃性シランマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性架橋樹脂成形体及び難燃性架橋性樹脂組成物とそれらの製造方法、難燃性シランマスターバッチ、並びに、難燃性架橋樹脂成形体を用いた難燃性成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部配線若しくは外部配線に使用される絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバ心線又は光ファイバコードの各配線材は、用途等に応じて、多種多様なもの用いられている。例えば、低発煙性の難燃性配線材は、導体の周囲に、難燃性を発現する金属水和物を含有する被覆層を備えている。とりわけ、屋外で使用される配線材又は耐酸性が求められる配線材の被覆層には、金属水和物の中でも水酸化アルミニウムが用いられる。
【0003】
上述のような配線材においては、その特性向上のため、被覆層を形成する樹脂を架橋することがある。樹脂の架橋方法としては、電子線架橋法及び化学架橋法等が挙げられる。化学架橋法の中でも、シラン架橋法は、架橋工程にて特殊な設備を要しないため、他の架橋方法に比べて製造上有利である。
シラン架橋法とは、有機過酸化物の存在下で不飽和基を有する加水分解性シランカップリング剤を樹脂にグラフト反応させてシラングラフト樹脂を得た後に、シラノール縮合触媒の存在下でシラングラフト樹脂を水分と接触させることにより、樹脂を架橋する方法である。
シラン架橋法を応用した例として、例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂及び無水マレイン酸系樹脂を混合してなる樹脂成分にシランカップリング剤で表面処理した無機フィラー、シランカップリング剤、有機過酸化物及び架橋触媒をニーダーにて十分に溶融混練した後に、単軸押出機にて成形する方法が提案されている。
また、別の方法として、例えば、特許文献2〜4には、水添ブロック共重合体と非芳香族系ゴム用軟化剤等と含有する熱可塑性樹脂又はエラストマー組成物を、シラン表面処理された無機フィラーを介して有機過酸化物を用いて部分架橋する方法が、提案されている。
【0004】
一方、架橋樹脂成形体を被覆層として備えた配線材においても、用途や使用形態によっては、柔軟性が求められる。一般に、脂肪酸処理された金属水和物を用いることにより、架橋樹脂成形体(被覆層)に柔軟性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−101928号公報
【特許文献2】特開2000−143935号公報
【特許文献3】特開2000−315424号公報
【特許文献4】特開2001−240719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記特許文献1〜4に記載の方法を含めて、水酸化アルミニウムを用いる従来のシラン架橋法においては、製造条件等によっては、水酸化アルミニウムとの溶融混合中に発泡して、外観不良を引き起こし、更には機械強度が低下することを、見出した。しかも、上述の方法のように、脂肪酸処理された水酸化アルミニウムを用いると、外観の悪化が顕著になる。
【0007】
本発明は、良好な外観、柔軟性及び耐酸性を兼ね備えた難燃性架橋樹脂成形体を製造できる、難燃性架橋樹脂成形体の製造方法、及び、上記特性を有する難燃性架橋樹脂成形体を提供することを課題とする。
また、本発明は、この難燃性架橋樹脂成形体を形成可能な、難燃性シランマスターバッチ、難燃性架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
更に、本発明は、難燃性架橋樹脂成形体の製造方法で得られた難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、樹脂と無機フィラーとシランカップリング剤とを特定の混合態様で溶融混合して調製したシランマスターバッチと、シラノール縮合触媒とを混合する特定のシラン架橋法において、特定の組成を有するベース樹脂を用い、かつシランカップリング剤と無機フィラーとしてのベーマイトとを併用することにより、良好な外観及び柔軟性、更には耐酸性を兼ね備えた難燃性架橋樹脂成形体を製造できることを見出した。本発明者らはこの知見に基づき更に研究を重ね、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する、難燃性架橋樹脂成形体の製造方法であって、
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量
部と、ベーマイト60〜200質量部と、前記ベーマイトと反応し、シラノール縮合
可能な反応部位、及びラジカルの存在下で前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラ
フト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触
媒とを溶融混合して混合物を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体を水と接触させて難燃性架橋樹脂成形
体を得る工程
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記工程(1)を行うに当たり、下記工程(a−2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)及び工程(c)を有し下記工程(a−2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)、工程(b)及び工程(c)を有する、難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
工程(a−1):少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合
して混合物を調製する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸
化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、
記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂とをグラフト化反応させることにより、シ
ラン架橋性樹脂を含む難燃性シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記難燃性シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前
記触媒マスターバッチとを溶融混合する工程
<2>前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂50質量%以下と、エチレンゴム10〜100質量%と、スチレン系エラストマー35質量%以下と、オイル40質量%以下とを含有する、<1>に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
<3>前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂20〜40質量%と、エチレンゴム10〜60質量%と、スチレン系エラストマー10〜35質量%と、オイル10〜40質量%とを含有する、<1>又は<2>に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
<4>前記ベーマイトの配合量が、ベース樹脂100質量部に対して、60〜170質量部である、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法。
<5>ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量部と、ベーマイト60〜200質量部と、前記ベーマイトと反応し、シラノール縮合可能な反応部位、及びラジカルの存在下で前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合する工程(1)を有する、難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法であって、
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
前記工程(1)を行うに当たり、下記工程(a−2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)及び工程(c)を有し下記工程(a−2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a−1)、工程(a−2)、工程(b)及び工程(c)を有する、難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法。
工程(a−1):少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合
して混合物を調製する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸
化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合して、
記グラフト化反応部位と前記ベース樹脂とをグラフト化反応させることにより、シ
ラン架橋性樹脂を含む難燃性シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記難燃性シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前
記触媒マスターバッチとを溶融混合する工程
<6>上記<5>に記載の難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法により製造されてなる難燃性架橋性樹脂組成物。
<7>上記<1>〜<>のいずれか1項に記載の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法により製造されてなる難燃性架橋樹脂成形体。
<8>上記<7>に記載の難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性成形品。
<9>ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量部と、ベーマイト60〜200質量部と、前記ベーマイトと反応し、シラノール縮合可能な反応部位、及びラジカルの存在下で前記ベース樹脂にグラフト反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤2〜15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合してなる難燃性架橋性樹脂組成物の製造に用いられる難燃性シランマスターバッチであって、
前記ベース樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、前記ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、前記エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有し、
少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調製し、得られた混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において溶融混合してグラフト化反応部位と前記ベース樹脂とをグラフト化反応させることにより得られる、シラン架橋性樹脂を含む難燃性シランマスターバッチ。
【0010】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、従来の方法が有する課題を克服し、外観が良好で、柔軟性及び耐酸性にも優れた難燃性架橋樹脂成形体を製造できる。
したがって、本発明により、良好な外観、柔軟性及び耐酸性を兼ね備えた難燃性架橋樹脂成形体及びその製造方法を提供できる。また、このような特性を有する難燃性架橋樹脂成形体を形成可能な、難燃性シランマスターバッチ、難燃性架橋性樹脂組成物及びその製造方法を提供できる。更には、上述の難燃性架橋樹脂成形体を含む難燃性成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ベース樹脂、有機過酸化物、ベーマイト、シランカップリング剤、シラノール縮合触媒を用い、必要により、キャリア樹脂又は各種の添加剤を用いる。
本発明に用いる各成分について説明する。
【0013】
<ベース樹脂>
本発明に難燃性架橋樹脂成形体の製造方法に用いるベース樹脂は、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有する。その際に、ベース樹脂は、ポリオレフィン樹脂を100質量%以下、エチレンゴムを100質量%以下、スチレン系エラストマーを35質量%以下、及び、オイルを40質量%以下の割合で含有する樹脂混合物である。
【0014】
(樹脂成分)
ベース樹脂に含まれうる樹脂成分としては、シランカップリング剤のビニル基と、有機過酸化物の存在下で、グラフト反応可能な部位を主鎖中又はその末端に有する樹脂が用いられる。グラフト反応可能な部位としては、例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子が挙げられる。
このような樹脂成分として、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーが挙げられる。本発明においては、ベース樹脂として、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、ポリオレフィン樹脂、エチレンゴム及びスチレン系エラストマーのうちいずれか2つを含有していることが好ましく、すべてを含有していることがより好ましい。中でも、樹脂成分の1つとしてエチレンゴムを含有していることが特に好ましい。
【0015】
− ポリオレフィン樹脂 −
ポリオレフィン樹脂は、エチレン性不飽和結合を有する化合物を重合又は共重合して得られる樹脂であれば特に限定されるものではなく、従来、難燃性樹脂組成物に使用されている公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン−α−オレフィン樹脂とのブロック共重合体、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の各樹脂が挙げられる。また、これら共重合体のゴムないしはエラストマー(エチレンゴム及びスチレン系エラストマーを除く)等も挙げられる。例えば、アクリルゴムが挙げられる。
【0016】
ポリエチレン樹脂は、エチレン成分を主成分とする樹脂であればよく、エチレンのみからなる単独重合体、エチレンと(好ましくは5mol%以下の)α−オレフィンとの共重合体、並びに、エチレンと(好ましくは官能基に炭素、酸素及び水素原子だけを持ち、好ましくは1mol%以下の)非オレフィンとの共重合体の樹脂が包含される(例えば、JIS K 6748)。上述のα−オレフィン及び非オレフィンはポリエチレンの共重合成分として従来用いられる公知のものを特に制限されることなく用いられる。α−オレフィンとしては炭素数4〜12のものが好ましく、後述するものが挙げられる。
本発明に用い得るポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)、直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等が挙げられる。中でも、直鎖型低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンが好ましい。ポリエチレン樹脂は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0017】
酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体における酸共重合成分又は酸エステル共重合成分としては、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル等の各構成成分が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキル構成成分のアルキル基は、炭素数1〜12のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基が挙げられる。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の樹脂(ポリエチレン樹脂に含まれるものを除く。)としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等の各樹脂が挙げられる。この中でも、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体の各樹脂が好ましく、更にはベーマイトの受容性の点から、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂が好ましい。酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体の樹脂は1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリプロピレン樹脂は、プロピレン成分を主成分とする樹脂であればよく、プロピレンの単独重合体の他、ランダムポリプロピレン及びブロックポリプロピレンを包含する。
ここで、ランダムポリプロピレンは、プロピレンとエチレンとの共重合体であって、エチレン成分含有量が1〜5質量%のものをいう。また、ブロックポリプロピレンは、ホモポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体とを含む組成物であって、エチレン成分含有量が5〜15質量%程度で、エチレン成分とプロピレン成分が独立した成分として存在するものをいう。
【0019】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体(なお、上記ポリエチレン及びポリプロピレンに含まれるものを除く。)が挙げられる。
【0020】
アクリルゴム(ACM)は、特に限定されないが、構成成分として、アクリル酸エチル又はアクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと、不飽和炭化水素又は各種官能基を有する単量体とを共重合させて得られる共重合体からなるゴム弾性体が好ましい。アクリル酸アルキルと共重合させる単量体としては、特に限定されないが、エチレン、2−クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル又はブタジエン等を挙げることができる。
【0021】
ポリオレフィン樹脂としては、用途又は必要な特性に応じて、上述の各樹脂を1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
例えば、難燃性架橋樹脂成形体により高度な柔軟性が求められる場合、ベース樹脂は、ポリオレフィン樹脂としての上記各樹脂の中でも、密度が0.915g/cm以下の直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)及びエチレン−α−オレフィン共重合体からなる群より選択される1種又は2種以上の樹脂を含むことが好ましい。特に、ポリオレフィン樹脂としてポリプロピレン樹脂を含有していないと、難燃性架橋樹脂成形体に更に高い柔軟性を付与できる。一方、難燃性架橋樹脂成形体により高い強度又は磨耗特性が求められる場合、ベース樹脂は、上述の各樹脂の中でも、ポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。更に、難燃性架橋樹脂成形体により高度な難燃性が求められる場合、ベース樹脂は、酸共重合成分又は酸エステル共重合成分を有するポリオレフィン共重合体及びアクリルゴムからなる群より選択される1種又は2種以上の樹脂を含むことが好ましい。
【0022】
− エチレンゴム −
エチレンゴムとしては、エチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して得られる共重合体からなるゴム(エラストマーを含む)であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。エチレンゴムとしては、好ましくは、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、エチレンとα−オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムが挙げられる。三元共重合体のジエンは、共役ジエンであっても非共役ジエンであってもよく、非共役ジエンが好ましい。すなわち、三元共重合体は、エチレンとα−オレフィンと共役ジエンとの三元共重合体、及び、エチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体等が挙げられる。エチレンゴムとしてはエチレンとα−オレフィンとの共重合体及びエチレンとα−オレフィンと非共役ジエンとの三元共重合体が好ましい。
α−オレフィンとしては、炭素数3〜12の各α−オレフィンが好ましく、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられ、ブタジエン等が好ましい。非共役ジエンとしては、例えば、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン等が挙げられ、エチリデンノルボルネンが好ましい。
エチレンとα−オレフィンとの共重合体からなるゴムとして、例えば、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴム等が挙げられる。エチレンとα−オレフィンとジエンとの三元共重合体からなるゴムとしては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−ブテン−ジエンゴム等が挙げられる。中でも、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム及びエチレン−ブテン−ジエンゴムが好ましく、エチレン−プロピレンゴム及びエチレン−プロピレン−ジエンゴムがより好ましい。
【0023】
エチレンゴムは、共重合体中のエチレン構成成分量(エチレン含有量という)が45〜75質量%が好ましく、50〜72質量%がより好ましく、55〜70質量%が更に好ましい。エチレン含有量がこの範囲であれば、柔軟性と引張強さとを両立させることができる。エチレン含有量は、ASTM D3900に記載の方法に準拠して、測定される値である。
ベース樹脂中のエチレンゴムの含有量が60質量部以上である場合、エチレンゴムのジエン構成成分量(ジエン含有量という)が0〜3.5質量%が好ましく、0〜3質量%がより好ましく、0〜2.5質量%が更に好ましい。ジエン含有量は、例えば赤外線吸収分光法(FT−IR)、プロトンNMR(H−NMR)法等で測定できる。
【0024】
エチレンゴムは1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0025】
− スチレン系エラストマー −
スチレン系エラストマーとしては、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック共重合体及びランダム共重合体の各エラストマー、又は、それらの水素添加物等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、p−(t−ブチル)スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−(t−ブチル)スチレン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物は、これらの中でも、スチレンが好ましい。この芳香族ビニル化合物は、単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物は、これらの中でも、ブタジエンが好ましい。この共役ジエン化合物は、単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。また、スチレン系エラストマーとして、同様な製法で、スチレン成分が含有されてなく、スチレン以外の芳香族ビニル化合物を含有するエラストマーを使用してもよい。
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(水素化SBS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、水素化SIS、水素化スチレン・ブタジエンゴム(HSBR)等からなるものを挙げることができる。
スチレン系エラストマーは1種単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0026】
(オイル)
ベース樹脂が含有しうるオイルは、特に限定されないが、有機油又は鉱物油が挙げられる。ベース樹脂が有機油を含有していると、ブツ(表面に突出したツブ状物)の発生を抑制して優れた外観を有する難燃性架橋樹脂成形体を製造することができる。
有機油又は鉱物油として、大豆油、パラフィンオイル、ナフテンオイル、アロマオイルが挙げられ、パラフィンオイル又はナフテンオイルが好ましく、機械強度の点でパラフィンオイルがより好ましい。
【0027】
ベース樹脂は、ベース樹脂中の各成分の含有率を100質量%としたときに、ポリオレフィン樹脂を50質量%以下の範囲で、エチレンゴムを10〜100質量%の範囲で、スチレン系エラストマーを35質量%以下の範囲で、オイルを40質量%以下の範囲で、含有することが好ましく、ポリオレフィン樹脂を20〜40質量%の範囲で、エチレンゴムを10〜60質量%の範囲で、スチレン系エラストマーを10〜35質量%の範囲で、オイルを10〜40質量%の範囲で、含有することが更に好ましい。
ベース樹脂の組成を上記通りにすることにより、柔軟性と強度を両立することができる。
【0028】
なお、ベース樹脂は、他の成分、例えば、後述する各種添加剤、溶媒等を含有していてもよい。
【0029】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、シランカップリング剤の樹脂成分へのラジカル反応によるグラフト反応を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤の反応部位が例えばエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基と樹脂成分とのラジカル反応(樹脂成分からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R−OO−R、R−OO−C(=O)R、RC(=O)−OO(C=O)Rで表される化合物が好ましい。ここで、R〜Rは各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR〜Rのうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0030】
このような有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド等を挙げることができる。これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3が好ましい。
【0031】
有機過酸化物の分解温度は、80〜195℃が好ましく、125〜180℃が特に好ましい。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0032】
<ベーマイト>
ベーマイトとは、酸化アルミニウム水和物(Al・HO)のことをいう。ベーマイトは、その表面に、シランカップリング剤の反応部位と水素結合若しくは共有結合等、又は分子間結合により、化学結合しうる部位(例えば、酸素原子)を有している。
本発明において、ベーマイトは、シランカップリング剤を保持し、フィラー又は難燃剤として作用する。
本発明において、ベーマイトは、表面未処理で使用することが好ましい。
ベーマイトの平均1次粒径は、特に限定されないが、0.3〜5μmが好ましく、0.4〜2μmがより好ましい。平均1次粒径が0.3〜5μmであると、伸びと強度を損なうことなく、難燃性を付与することができる。また、シランカップリング剤との混合時にベーマイトが2次凝集しにくく、外観に優れたものとなる。平均1次粒径は、ベーマイトをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
ベーマイトの形状は、特に限定されず、粒状、板状、針状などのものを使用することができ、板状のものが好ましい。板状である場合、アスペクト比は、1〜60が好ましく、強度と柔軟性のバランスの観点から、1〜3が好ましい。
ベーマイトのBET比表面積は、特に限定されないが、引張強さ又は柔軟性の点で、0.8〜30m/gが好ましく、1.2〜25m/gがより好ましい。BET比表面積は、JIS Z 8830:2013の「キャリアガス法」に準拠して、吸着質として窒素ガスを用いて、測定される値である。例えば、比表面積・細孔分布測定装置「フローソーブ」(島津製作所社製)を用いて測定した値である。
【0033】
<シランカップリング剤>
本発明に用いられるシランカップリング剤は、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で樹脂成分にグラフト反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)と、ベーマイトの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解して生成する部位を含む。例えばシリルエステル基等)とを、少なくとも有するものであればよい。このようなシランカップリング剤として、従来、シラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
【0034】
このようなシランカップリング剤としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0035】
【化1】
【0036】
一般式(1)中、Ra11はエチレン性不飽和基を含有する基、Rb11は脂肪族炭化水素基、水素原子又はY13である。Y11、Y12及びY13は加水分解しうる有機基である。Y11、Y12及びY13は互いに同じでも異なっていてもよい。
【0037】
a11は、グラフト化反応部位であり、エチレン性不飽和基を含有する基が好ましい。エチレン性不飽和基を含有する基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキレン基又はp−スチリル基を挙げることができる。中でも、ビニル基が好ましい。
【0038】
b11が採り得る脂肪族炭化水素基としては、脂肪族不飽和炭化水素基を除く炭素数1〜8の1価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。Rb11は、好ましくは後述のY13である。
【0039】
11、Y12及びY13は、シラノール縮合可能な反応部位(加水分解しうる有機基)であり、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数1〜4のアシルオキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。加水分解しうる有機基としては、具体的には例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、アシルオキシ等を挙げることができる。この中でも、シランカップリング剤の反応性の点から、メトキシ又はエトキシが更に好ましく、メトキシが特に好ましい。
【0040】
シランカップリング剤としては、好ましくは、加水分解速度の速いシランカップリング剤であり、より好ましくは、Rb11がY13であり、かつY11、Y12及びY13が互いに同じであるシランカップリング剤、又は、Y11、Y12及びY13の少なくとも1つがメトキシ基である加水分解性シランカップリング剤である。
【0041】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシシランを挙げることができる。
上記シランカップリング剤の中でも、末端にビニル基とアルコキシ基を有するシランカップリング剤が更に好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0042】
シランカップリング剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、そのままで用いても、溶媒等で希釈して用いてもよい。
【0043】
<シラノール縮合触媒>
シラノール縮合触媒は、樹脂成分にグラフトしたシランカップリング剤を水分の存在下で縮合反応させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して、樹脂成分同士が架橋される。その結果、上述の優れた特性を有する難燃性架橋樹脂成形体が得られる。
【0044】
本発明に用いられるシラノール縮合触媒としては、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。一般的なシラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ナフテン酸鉛、硫酸鉛、硫酸亜鉛、有機白金化合物等が用いられる。これらの中でも、特に好ましくは、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物である。
【0045】
<キャリア樹脂>
シラノール縮合触媒は、所望により樹脂又はゴムに混合されて、用いられる。このような樹脂又はゴム(キャリア樹脂ともいう)としては、特に限定されないが、ベース樹脂で説明した樹脂成分を用いることができる。キャリア樹脂は、エチレンゴムが好ましい。
【0046】
<添加剤>
難燃性架橋樹脂成形体及び難燃性架橋性樹脂組成物は、電線、電気ケーブル、電気コード等の各種配線材、シート、発泡体、チューブ、パイプにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で含有してもよい。このような添加剤として、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、又は、上記ベーマイト以外の充填剤(難燃(助)剤を含む。)等が挙げられる。
【0047】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又は硫黄酸化防止剤等が挙げられる。アミン酸化防止剤としては、例えば、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等が挙げられる。フェノール酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。硫黄酸化防止剤としては、例えば、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンズイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等が挙げられる。
酸化防止剤は、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜15.0質量部、更に好ましくは0.1〜10質量部で加えることができる。
【0048】
次に、本発明の製造方法を具体的に説明する。
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法及び本発明の難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法は、いずれも、少なくとも下記の工程(1)を行う。したがって、本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法及び本発明の難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法を併せて以下に説明する(両製造方法に共通する説明においては、本発明の製造方法ということがある。)。
本発明の難燃性架橋樹脂成形体は、この製造方法により得られる成形体である。
また、本発明の難燃性シランマスターバッチは、下記工程(a−1)及び工程(a−2)(両工程を併せて工程(a)という)により製造される。したがって、本発明の難燃性シランマスターバッチの製造方法を本発明の製造方法において説明する。
【0049】
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法は、下記工程(1)〜(3)を含む。
工程(1):ベース樹脂100質量部に対して、有機過酸化物0.01〜0.6質量
部と、ベーマイト60〜200質量部と、シランカップリング剤2〜15質量部と、
シラノール縮合触媒とを溶融混合して混合物を得る工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を成形して成形体を得る工程
工程(3):前記工程(2)で得られた成形体を水と接触させて難燃性架橋樹脂成形
体を得る工程
【0050】
そして、この工程(1)が、下記工程(a−2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合には少なくとも工程(a−1)、工程(a−2)及び工程(c)を有し、下記工程(a−2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には少なくとも下記工程(a−1)、工程(a−2)、工程(b)及び工程(c)を有する。
工程(a−1):少なくとも前記ベーマイト及び前記シランカップリング剤を混合
して混合物を調製する工程
工程(a−2):前記混合物と前記ベース樹脂の全部又は一部とを、前記有機過酸
化物の存在下で前記有機過酸化物の分解温度以上の温度において、溶融混合して難
燃性シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記ベース樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、
触媒マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記難燃性シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前
記触媒マスターバッチとを溶融混合する工程
ここで、混合するとは、均一な混合物を得ることをいう。
【0051】
本発明の製造方法において、ベース樹脂とは、難燃性架橋樹脂成形体又は難燃性架橋性樹脂組成物を形成するための樹脂である。したがって、本発明の製造方法においては、工程(1)で得られる混合物に100質量部のベース樹脂が含有されていればよい。例えば、工程(a−2)において、ベース樹脂の全量(100質量部)が配合される態様と、ベース樹脂の一部が配合される態様とを含む。
【0052】
工程(a−2)でベース樹脂の一部を配合する場合、工程(1)におけるベース樹脂の配合量100質量部は、工程(a−2)及び工程(b)で混合されるベース樹脂の合計量である。
ここで、工程(b)でベース樹脂の残部が配合される場合、ベース樹脂は、工程(a−2)において、好ましくは80〜99質量%、より好ましくは94〜98質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜6質量%が配合される。
【0053】
工程(1)において、ベース樹脂の組成は、上記した通りである。
すなわち、ベース樹脂として、ポリオレフィン樹脂及びエチレンゴムの少なくとも1種を含有し、かつ、ポリオレフィン樹脂を0〜100質量%の範囲、エチレンゴムを0〜100質量%の範囲、スチレン系エラストマーを0〜35質量%の範囲、及び、オイルを0〜40質量%の範囲から、合計で100質量%となるように、それぞれ、選択して、用いる。
【0054】
工程(1)において、有機過酸化物の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、0.01〜0.6質量部であり、0.1〜0.5質量部が好ましい。有機過酸化物の配合量が0.01質量部未満では、グラフト反応が進行せず、また未反応のシランカップリング剤同士が縮合して、機械特性又は耐熱性、場合によっては補強性を十分に得ることができないことがある。一方、0.6質量部を超えると、副反応によって樹脂成分の多くが直接的に架橋してブツを形成し、外観不良が生じることがある。すなわち、有機過酸化物の配合量をこの範囲内にすることにより、適切な範囲でグラフト反応を行うことができ、ゲル状のブツ(凝集塊)も発生することなく押し出し性に優れた組成物を得ることができる。
【0055】
ベーマイトの配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、60〜200質量部であり、好ましくは60〜170質量部である。ベーマイトの配合量が60質量部未満では、得られる難燃性架橋樹脂成形体の難燃性に劣ることがある。また、シランカップリング剤のグラフト反応が不均一となることがある。これにより、外観が低下し、更には耐熱性が低下することがある。一方、200質量部を超えると、得られる難燃性架橋樹脂成形体の柔軟性に劣ることがある。また、成形時や混練時の負荷が非常に大きくなり、2次成形が難しくなることがある。
【0056】
シランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、2〜15質量部である。シランカップリング剤の配合量が2質量部未満では、架橋反応が十分に進行せず、機械特性又は耐熱性が得られないことがある。一方、15質量部を超えると、ベーマイトの表面に過剰なシランカップリング剤が吸着しきれず、シランカップリング剤が縮合して成形体にブツや焼けが生じて外観が悪化するおそれがある。また、経済的でない。
上記観点から、シランカップリング剤の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは3〜12質量部であり、より好ましくは4〜12質量部である。
【0057】
シラノール縮合触媒の配合量は、特に限定されず、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0.0001〜0.5質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上述の範囲内にあると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応がほぼ均一に進みやすく、難燃性架橋樹脂成形体の耐熱性、外観及び物性が優れ、生産性も向上する。すなわち、シラノール縮合触媒の配合量が少なすぎると、機械強度、場合によっては十分な耐熱性を得ることができないことがある。一方、多すぎると、シランカップリング剤の縮合反応による架橋反応が不均一になり、外観及び生産性が劣る場合がある。
【0058】
本発明の製造方法においては、工程(1)を行う。
この工程(1)において、ベース樹脂の全部又は一部、有機過酸化物、ベーマイト、シランカップリング剤及びシラノール縮合触媒の溶融混合は、特定の混合順で、行われる。
【0059】
本発明においては、まず、少なくともベーマイト及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する(工程(a−1))。すなわち、シランカップリング剤は、無機フィラーと前混合等される。このようにして前混合されたシランカップリング剤は、ベーマイトの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部がベーマイトに吸着又は結合する。これにより、後の溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減できる。また、シランカップリング剤が縮合して溶融混合が困難になることも防止できる。更に、押出成形の際に所望の形状を得ることもできる。
【0060】
このような混合方法として、好ましくは、任意の温度、例えば有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは室温(25℃)で、少なくともベーマイトとシランカップリング剤を、数分〜数時間程度、乾式又は湿式で混合(分散)した後に、この混合物とベース樹脂と有機過酸化物とを溶融混合させる方法が挙げられる。この混合は、好ましくは、バンバリーミキサーやニーダー等のミキサー型混練機で行われる。このようにすると、樹脂成分同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観が優れたものとなる。
ベーマイトとシランカップリング剤の混合方法においては、ベース樹脂が存在していてもよく、有機過酸化物が共存する場合には上記分解温度未満の温度を保持する。この場合、ベース樹脂とともにベーマイト及びシランカップリング剤を上記温度で混合(工程(a−1))した後に溶融混合することが好ましい。
【0061】
ベーマイトとシランカップリング剤との混合方法として、湿式処理又は乾式処理等が挙げられる。具体的には、アルコールや水等の溶媒にベーマイトを分散させた状態でシランカップリング剤を加える湿式処理、加熱又は非加熱で両者を加え混合する乾式処理、及び、その両方が挙げられる。本発明においては、ベーマイト、好ましくは乾燥させたベーマイト中にシランカップリング剤を、加熱又は非加熱で加え混合する乾式処理が好ましい。
湿式混合では、シランカップリング剤とベーマイトとの結力合が強くなるため、シランカップリング剤の揮発を効果的に抑えることができるが、シラノール縮合反応が進みにくくなることがある。一方、乾式混合では、湿式混合の場合よりもシランカップリング剤が揮発しやすいが、ベーマイトとシランカップリング剤の結合力が比較的弱くなるため、効率的にシラノール縮合反応が進みやすくなる。これにより、難燃性架橋樹脂成形体に柔軟性を付与できる。
【0062】
有機過酸化物を混合する方法としては、特に限定されず、ベーマイト等と同時に混合しても、またベーマイトとシランカップリング剤との混合段階において混合してもよい。
例えば、有機過酸化物は、シランカップリング剤と混合した後にベーマイトと混合されてもよいし、シランカップリング剤と分けて別々にベーマイトに混合されてもよい。有機過酸化物をシランカップリング剤と混合する場合、有機過酸化物とシランカップリング剤とは実質的に一緒に混合した方がよい。一方、生産条件によっては、シランカップリング剤のみをベーマイトに混合し、次いで有機過酸化物を混合してもよい。
また、有機過酸化物は、他の成分と混合させたものでもよいし、単体でもよい。
【0063】
本発明の製造方法においては、次いで、得られた混合物とベース樹脂の全部又は一部と、工程(a−1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上に加熱しながら、溶融混合する(工程(a−2))。
【0064】
工程(a−2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう)する温度(混合温度ともいう)は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25〜110)℃の温度である。この混合温度は樹脂成分が溶融してから設定することが好ましい。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なグラフト反応が進行する。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混合装置は、例えばベーマイトの配合量に応じて適宜に選択される。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。樹脂成分の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
また、通常、ベーマイトがベース樹脂100質量部に対して100質量部を超えて混合される場合、連続混練機、加圧式ニーダー、バンバリーミキサーで混練りするのがよい。
ベース樹脂の混合方法も特に限定されない。例えば、予めベース樹脂を調製して用いてもよく、各成分をそれぞれ別々に用いてもよい。
【0065】
工程(a−1)及び工程(a−2)、特に工程(a−2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を混練することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることができ、溶融混合しやすく、また押出成形の際に所望の形状を得ることができる。ここで、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずとは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a−2)において、シラノール縮合触媒は、ベース樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0066】
工程(1)においては、上記成分の他に用いることができる他の樹脂や上記添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で、適宜に設定される。工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤や金属不活性剤は、いずれの工程で混合されてもよく、またいずれの成分に混合されてもよいが、キャリア樹脂に混合されるのがよい。
工程(1)、特に工程(a−1)及び工程(a−2)において、架橋助剤は実質的に混合されないことが好ましい。架橋助剤が実質的に混合されないと、溶融混合中に樹脂成分同士の架橋が生じにくく、難燃性架橋樹脂成形体の外観、更には耐熱性が優れる。
【0067】
このようにして、工程(a−1)及び工程(a−2)を行い、難燃性シランマスターバッチ(シランMBともいう)が調製される。このシランMBは、後述するように、工程(1)で調製される混合物(難燃性架橋性樹脂組成物)の製造に、好ましくは、シラノール縮合触媒又は後述する触媒マスターバッチとともに、用いられる。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤が樹脂成分にグラフトしたシラン架橋性樹脂(シラングラフトポリマー)を含有している。
【0068】
本発明の製造方法において、次いで、工程(a−2)でベース樹脂の一部を溶融混合する場合には、ベース樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MBともいう)を調製する工程(b)を行う。したがって、工程(a−2)でベース樹脂の全部を溶融混合する場合は、工程(b)を行わなくてもよく、また他の樹脂とシラノール縮合触媒とを混合してもよい。
【0069】
キャリア樹脂としてのベース樹脂とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、ベース樹脂の溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a−2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、80〜250℃、より好ましくは100〜240℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
【0070】
工程(b)において、ベース樹脂の残部に代えて、又は、加えて他の樹脂をキャリア樹脂として用いることができる。
キャリア樹脂が他の樹脂である場合、工程(a−2)においてグラフト反応を促進させることができるうえ、成形中にブツが生じにくい。他の樹脂の配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜60質量部、より好ましくは2〜50質量部、更に好ましくは2〜40質量部である。
【0071】
また、工程(b)において、ベーマイトを用いてもよい。この場合、ベーマイトの配合量は、特には限定されないが、キャリア樹脂100質量部に対し、350質量部以下が好ましい。ベーマイトの配合量が多いとシラノール縮合触媒が分散しにくく、架橋が進行しにくくなるためである。
【0072】
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂、所望により添加されるベーマイト等の混合物である。
この触媒MBは、シランMBとともに、工程(1)で調製される難燃性架橋性樹脂組成物の製造に、マスターバッチセットとして、用いられる。
【0073】
本発明の製造方法において、次いで、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとを混合して、混合物を得る工程(c)を行う。
混合方法は、上述のように均一な混合物を得ることができれば、どのような混合方法でもよい。
【0074】
工程(c)における混合は、工程(a−2)の溶融混合と基本的に同様である。DSC等で融点が測定できない樹脂成分、例えばエラストマーもあるが、少なくとも樹脂成分等いずれかが溶融する温度で混練する。溶融温度は、ベース樹脂又はキャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80〜250℃、より好ましくは100〜240℃である。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
【0075】
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
【0076】
この工程(c)は、難燃性シランマスターバッチとシラノール縮合触媒とを混合して混合物を得る工程であればよく、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂を含有する触媒マスターバッチと難燃性シランマスターバッチとを溶融混合する工程である。
【0077】
このようにして、工程(a)〜(c)(工程(1))、すなわち本発明の難燃性架橋性樹脂組成物の製造方法を行い、混合物として、本発明の難燃性架橋性樹脂組成物が製造される。この難燃性架橋性樹脂組成物は、架橋方法の異なるシラン架橋性樹脂を含有する。このシラン架橋性樹脂において、シランカップリング剤の反応部位は、ベーマイトと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラン架橋性樹脂は、ベーマイトと結合又は吸着したシランカップリング剤がベース樹脂にグラフトした架橋性樹脂と、ベーマイトと結合又は吸着していないシランカップリング剤がベース樹脂にグラフトした架橋性樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋性樹脂は、ベーマイトが結合又は吸着したシランカップリング剤と、ベーマイトが結合又は吸着していないシランカップリング剤とがグラフトしていてもよい。更に、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分を含んでいてもよい。
上記のように、シラン架橋性樹脂は、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られる難燃性架橋性樹脂組成物について、少なくとも工程(2)での成形における成形性が保持されたものとする。
【0078】
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法は、次いで、工程(2)及び工程(3)を行う。
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法において、得られた混合物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。この工程(2)は、混合物を成形できればよく、本発明の難燃性成形品の形態に応じて、適宜に成形方法及び成形条件が選択される。成形方法は、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、本発明の難燃性成形品が電線又は光ファイバケーブルである場合に、好ましい。
【0079】
また、工程(2)は、工程(c)と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、工程(c)の溶融混合の一実施態様として、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又は、その直前に、成形原料を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、ドライブレンド等のペレット同士を常温又は高温で混ぜ合わせて成形機に導入(溶融混合)してもよいし、混ぜ合わせた後に溶融混合し、再度ペレット化をして成形機に導入してもよい。より具体的には、シランMBとシラノール縮合触媒又は触媒MBとの混合物(成形原料)を被覆装置内で溶融混合し、次いで、導体等の外周面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
【0080】
本発明において、成形条件は、特に限定されず、従来採用されている条件を採用できる。
このようにして、難燃性架橋性樹脂組成物の成形体が得られる。この成形体は難燃性架橋性樹脂組成物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する部分架橋状態にある。したがって、この発明の難燃性架橋樹脂成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋された成形体とされる。
【0081】
本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法においては、工程(2)で得られた成形体を水と接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤の反応部位が加水分解されてシラノールとなり、成形体中に存在するシラノール縮合触媒によりシラノールの水酸基同士が縮合して架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋した難燃性架橋樹脂成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合は、水分存在下であれば常温で保管するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体を水に積極的に接触させる必要はない。
この架橋反応を促進させるために、成形体を水分と積極的に接触させることもできる。例えば、常温水への浸漬、高湿度環境での保管等が挙げられる。更に、速やかに縮合反応を進行させために、必要に応じて、温水(例えば、50〜90℃)への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水に接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0082】
このようにして、本発明の難燃性架橋樹脂成形体の製造方法が実施され、本発明の難燃性架橋性樹脂組成物から難燃性架橋樹脂成形体が製造される。この難燃性架橋樹脂成形体は、シラン架橋性樹脂がシロキサン結合を介して縮合した架橋樹脂を含んでいる。この難燃性架橋樹脂成形体の一形態は、シラン架橋樹脂とベーマイトとを含有する。ここで、ベーマイトはシラン架橋樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、このシラン架橋樹脂は、複数の架橋樹脂がシランカップリング剤によりベーマイトに結合又は吸着して、ベーマイト及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)した架橋樹脂と、上記架橋性樹脂のシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋した架橋樹脂とを少なくとも含む。また、シラン架橋樹脂は、ベーマイト及びシランカップリング剤を介した結合(架橋)と、シランカップリング剤を介した架橋とが混在していてもよい。更に、シランカップリング剤と未反応の樹脂成分及び/又は架橋していないシラン架橋性樹脂を含んでいてもよい。
【0083】
本発明の製造方法における反応機構の詳細についてはまだ定かではないが、以下のように考えられる。すなわち、樹脂成分を、有機過酸化物の存在下、ベーマイト及びシランカップリング剤とともに有機過酸化物の分解温度以上で加熱混練すると、有機過酸化物が分解してラジカルを発生し、樹脂成分に対してシランカップリング剤のグラフト反応が起こる。
【0084】
工程(a−2)の加熱により、部分的には、シランカップリング剤とベーマイトの表面での水酸基等の化学結合しうる部位との共有結合による化学結合の形成反応も起きる。
本発明では、工程(c)で、最終的な架橋反応を行うこともあり、ベース樹脂にシランカップリング剤を上述のように特定量配合すると、成形時の押し出し加工性を損なうことなくベーマイトを多量に配合することが可能になり、優れた難燃性を確保しながらも、機械特性、更に耐熱性等を併せ持つことができる。
【0085】
また、本発明の上記プロセスの作用のメカニズムはまだ定かではないが次のように推定される。すなわち、ベース樹脂との混練り前及び/又は混練り時に、ベーマイト及びシランカップリング剤を用いることにより、シランカップリング剤は、化学結合しうる基でベーマイトと結合して、保持される。又は、ベーマイトと結合することなく、ベーマイトの穴や表面に物理的又は化学的に吸着して、保持される。このように、ベーマイトに対して強い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、ベーマイト表面の水酸基等との化学結合の形成が考えられる)と弱い結合で結びつくシランカップリング剤(その理由は、例えば、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が考えられる)を形成できる。この状態で、有機過酸化物を加えて混練りを行うと、後述するようにシランカップリング剤がほとんど揮発することなく、ベーマイトとの結合が異なるシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応したシラン架橋性樹脂が形成される。
【0086】
上述の混練りにより、シランカップリング剤のうちベーマイトと強い結合を有するシランカップリング剤は、ベーマイトとの結合が保持され、かつ、架橋基であるグラフト反応しうる基が樹脂成分の架橋部位とグラフト反応する。特に、1つのベーマイト粒子の表面に複数のシランカップリング剤が強い結合を介して結合した場合、このベーマイト粒子を介して樹脂成分が複数結合する。これらの反応又は結合により、このベーマイトを介した架橋ネットワークが広がる。すなわち、ベーマイトに結合しているシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応してなるシラン架橋性樹脂が形成される。
ベーマイトと強い結合を有するシランカップリング剤は、このシラノール縮合触媒による水存在下での縮合反応が生じにくく、ベーマイトとの結合が保持される。ベーマイトとシランカップリング剤の結合エネルギーが高く、シラノール縮合触媒下にあっても縮合反応が起こらないと考えられる。このように、樹脂成分とベーマイトの結合が生じ、シランカップリング剤を介した樹脂成分の架橋が生じる。これにより樹脂成分とベーマイトの密着性が強固になり、機械強度が高く、更には耐摩耗性及び傷付性を備えた成形体が得られる。特に、1つのベーマイト粒子表面に複数のシランカップリング剤を複数結合でき、高い機械強度を得ることができる。このように、ベーマイトに対して強い結合で結合したシランカップリング剤は、高い機械特性、場合によっては耐摩耗性、耐傷付性等に寄与すると考えられる。
【0087】
一方、シランカップリング剤のうちベーマイトと弱い結合を有するシランカップリング剤は、ベーマイトの表面から離脱して、樹脂成分にグラフト反応する。これにより、シラノール縮合可能な反応部位が遊離したシランカップリング剤が樹脂成分にグラフト反応したシラン架橋性樹脂が形成される。このシランカップリング剤は、その後、シラノール縮合触媒により、水分と接触して縮合反応(架橋反応)が生じる。この架橋反応により得られた難燃性架橋樹脂成形体は、柔軟性が高く、更には耐熱性も向上する。このように、ベーマイトに対して弱い結合で結合したシランカップリング剤は、ベーマイトを介しない架橋による柔軟性の発現、更には架橋度(耐熱性)の向上に寄与すると考えられる。
【0088】
本発明において、無機フィラーとしてベーマイトを用いると、シランカップリング剤はベーマイトと弱く結合する傾向が強い。したがって、ベーマイトと弱く結合するシランカップリング剤と、強く結合するシランカップリング剤との存在比が、無機フィラーとしてベーマイト以外の金属水和物等を用いたときに対して、変化する。これにより、十分な柔軟性を発現する。
しかも、上述したように、シランカップリング剤の揮発、ベース樹脂又はシランカップリング剤同士の架橋反応も抑えることができる。更には、上述の溶融混合中、ベーマイトは安定に存在し、溶融混合中の発泡を効果的に抑えることができる。
このように、特定の混合態様で上述のベース樹脂とシランカップリング剤とを溶融混合するシラン架橋法において、ベーマイトとシランカップリング剤とを併用することにより、難燃性と外観と耐酸性と柔軟性とを高い水準で兼ね備えたものとなる。
【0089】
特に、本発明では、工程(c)における、水存在下でのシラノール縮合触媒を使用した縮合による架橋反応を、成形体を形成した後に行う。これにより、従来の最終架橋反応後に成形体を形成する方法と比較して、成形体形成までの工程での作業性が優れる
【0090】
本発明の製造方法は、難燃性が要求される製品(半製品、部品、部材も含む。)、柔軟性が要求される製品、耐酸性が要求される製品の構成部品又はその部材の製造に適用することができる。また、強度が求められる製品、ゴム材料等の製品等にも適用することができる。したがって、本発明の難燃性成形品は、このような製品とされる。このとき、難燃性成形品は、難燃性架橋樹脂成形体を含む製品でもよく、難燃性架橋樹脂成形体のみからなる製品でもよい。
本発明の難燃性成形品として、例えば、耐熱性難燃絶縁電線等の電線又は耐熱難燃ケーブルの被覆材料、ゴム代替電線・ケーブルの材料、その他、耐熱難燃電線部品、難燃耐熱シート、難燃耐熱フィルム等が挙げられる。また、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、クッション材、防震材、電気・電子機器の内部配線及び外部配線に使用される配線材、特に電線や光ケーブルが挙げられる。耐酸性が要求される製品としては、例えば、屋外用電線又は自動車用配線が挙げられる。
【0091】
本発明の製造方法は、上記製品の中でも、特に電線及び光ケーブルの製造に好適に適用され、これらの被覆材料(絶縁体、シース)を製造することができる。
本発明の難燃性成形品が電線、ケーブル等の押出成形品である場合、好ましくは、成形原料を押出機(押出被覆装置)内で溶融混合して難燃性架橋性樹脂組成物を調製しながら、この難燃性架橋性樹脂組成物を導体等の外周に押し出して導体等を被覆し、次いで架橋反応させる方法等により、製造できる。この方法においては、ベーマイトを大量に加えても難燃性架橋性樹脂組成物を電子線架橋機等の特殊な機械を使用することなく汎用の押出被覆装置を用いて、導体の周囲に、又は抗張力繊維を縦添え若しくは撚り合わせた導体の周囲に押出被覆することにより、成形することができる。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いることもできる。導体の周りに形成される絶縁層(本発明の難燃性架橋性樹脂成形体からなる被覆層)の肉厚は特に限定されないが、通常、0.15〜5mm程度である。
【実施例】
【0092】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表1及び表2において、各例の配合量に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。
【0093】
実施例1〜20及び比較例1〜4は、下記成分を用いて、それぞれの諸元を表1及び表2に示す条件に設定して実施し、表1及び表2に後述する評価結果を併せて示した。
【0094】
表1及び表2中に示す各化合物の詳細を以下に示す。
<ベース樹脂>
PE:「NUC7641」(商品名、日本ユニカー社製、直鎖型低密度ポリエチレンの樹脂)
EVA:「EV360」(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン−酢酸ビニル共重合体の樹脂)
EPゴム1:「ノーデル3640」(商品名、ダウ・ケミカル社製、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネンゴム、エチレン含有量60質量%、ジエン含有量1.8質量%)
EPゴム2:「EPT3092」(商品名、三井化学社製、エチレン−プロピレン−エチリデンノルボルネンゴム、エチレン含有量65質量%、ジエン含有量4.6質量%)
SEPS:「セプトン4077」(商品名、クラレ社製、スチレン系エラストマー、スチレン含有量30質量%)
OIL:「コスモニュートラル500」(商品名、コスモ石油ルブリカンツ社製、パラフィンオイル)
<ベーマイト>
水酸化アルミニウム(日本軽金属社製、商品名:B703)に対して水熱処理(210℃、2MPaの雰囲気下で3時間加熱)を行い、脱水、乾燥させた後、ボールミルで粉砕し、下記のベーマイト1〜3を得た。
ベーマイト1:平均1次粒径1.5μm、アスペクト比2.5、BET表面積比5
ベーマイト2:平均1次粒径0.9μm、アスペクト比2.5、BET表面積比15
ベーマイト3:平均1次粒径2.5μm、アスペクト比2.0、BET表面積比3
<無機フィラー>
水酸化アルミニウム1:「ハイジライト42M」(商品名、昭和電工社製、表面未処理水酸化アルミニウム)
水酸化アルミニウム2:「ハイジライト42S」(商品名、昭和電工社製、脂肪酸(ステアリン酸)処理水酸化アルミニウム)
<シランカップリング剤>
KBM:「KBM−1003」(商品名、信越化学工業社製、ビニルトリメトキシシラン)
<有機過酸化物>
「Perkadox BC−FF」(商品名、化薬アクゾ社、ジクミルパーオキサイド(DCP)、分解温度151℃)
<酸化防止剤(ヒンダードフェノール酸化防止剤)>
「イルガノックス1010」(商品名、BASF社製、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
<シラノール縮合触媒>
「アデカスタブOT−1」(商品名、ADEKA社製、ジオクチルスズジラウレート)
【0095】
(実施例1〜20及び比較例1〜4)
実施例1〜19及び比較例1〜4において、ベース樹脂を構成する樹脂成分の内、EPゴムを触媒MBのキャリア樹脂として用いた。実施例20においては、キャリア樹脂としてPEを用いた。
【0096】
まず、ベーマイト又は無機フィラーと、シランカップリング剤を、表1又は表2のシランMB欄に示す質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で5分混合して、粉体混合物を得た(工程(a−1))。
次に、このようにして得られた粉体混合物と、表1又は表2のシランMB欄に示す樹脂成分と、有機過酸化物とを、表1又は表2に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には200℃において5分混練りし、シランMBを得た(工程(a−2))。得られたシランMBは、樹脂成分にシランカップリング剤がグラフト反応したシラン架橋性樹脂を含有している。
【0097】
一方、キャリア樹脂とシラノール縮合触媒と酸化防止剤とを、表1又は表2の触媒MB欄に示す質量比で、180℃でバンバリーミキサーにて溶融混合、触媒MBを得た(工程(b))。この触媒MBは、キャリア樹脂及びシラノール縮合触媒の混合物である。
【0098】
次いで、シランMBと触媒MBを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で3分ドライブレンドしてドライブレンド物を得た。シランMBと触媒MBとの混合比は各例において、シランMBのベース樹脂が95質量部で、触媒MBのキャリア樹脂が5質量部となる割合とした。
【0099】
次いで、得られたドライブレンド物を、下記押出成形条件(1)又は(2)で溶融混合、成形して、被覆導体をそれぞれ得た(工程(c)及び工程(2))。
<押出成形条件(1)>
得られたドライブレンド物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24、スクリュー直径40mmのスクリューを備えた押出機(送り出し部スクリュー温度160℃、圧縮部スクリュー温度190℃、ヘッド温度190℃)に投入した。この押出機内でドライブレンド物を溶融混合しながら(溶融混合時間5分)、7/0.6A(導体径1.8mm)の外周に被覆厚さ1mmとなるように線速20m/分で押し出して、導体の周囲に難燃性架橋性樹脂組成物の押出成形体を有する、外径3.8mmの被覆導体を得た(工程(c)及び工程(2))。
【0100】
<押出成形条件(2):高温押出条件>
押出成形条件(1)において、圧縮部スクリュー温度を210℃に、ヘッド温度を210℃にしたこと以外は押出成形条件(1)と同様にして、被覆導体を得た(工程(c)及び工程(2))。
【0101】
上記押出成形条件(1)又は(2)により得られた被覆導体を60℃、湿度95%の雰囲気下で48時間放置して電線を製造した(工程(3))。
このようにして、上記被覆導体から、難燃性架橋樹脂成形体の被覆層を備えた電線を製造した。この難燃性架橋樹脂成形体は上述のシラン架橋樹脂を有している。
【0102】
製造した各電線について、下記試験をし、その結果を表1及び表2に示した。
【0103】
<外観試験1>
上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を水と接触させることにより製造した各電線において、押出機からドライブレンド物を押出後20分経過した部分の外観を観察した。電線としての外観が優れていたものを「A」、電線としての外観に問題がないもの(電線外観として許容可能な程度)を「B」、電線としての外観に問題があるものを「C」とした。評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
<外観試験2>
上記押出成形条件(2)により得られた被覆導体を水と接触させることにより製造した各電線において、押出機からドライブレンド物を押出後20分経過した部分の外観を観察した。電線としての外観が優れていたものを「A」、電線としての外観に問題がないものを「B」、電線としての外観に問題があるものを「C」とした。評価が「B」以上であることが本試験の合格レベルである。
【0104】
<引張特性(機械特性)>
上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を水と接触させることにより製造した各電線から抜き取った被覆層(管状片)について引張試験を行った。
この引張試験はJIS C 3005に準じて、標線間25mm、引張速度200mm/分の条件で、引張強さ(MPa)、100%モジュラス(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。
本試験において、引張強さは、12MPa以上であったものを特に優れたレベルとして「AA」で表し、10MPa以上12MPa未満であったものを優れたレベルとして「A」で表し、8MPa以上10MPa未満であったものを本試験の合格レベルとして「B」で表し、8MPa未満であったものを本試験の不合格レベルとして「C」で表した。
100%モジュラスは、柔軟性の指標となるものであり、本試験において、6MPa以下であったものを特に優れたレベルとして「AA」で表し、6MPaを超え7MPa以下であったものを優れたレベルとして「A」で表し、7MPaを超え8MPa以下であったものを本試験の合格レベルとして「B」で表し、8MPaを超えたものを本試験の不合格レベルとして「C」で表した。
本試験において、引張伸びは、300%以上であったものを優れたレベルとして「AA」で表し、200%以上300%未満であったものを本試験の合格レベルとして「A」で表し、200%未満であったものを本試験の不合格レベルとして「C」で表した。
【0105】
<難燃性試験>
難燃性試験は、JIS C 3005に規定の「傾斜難燃試験」に準じて行った。
試験電線として、上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を水と接触させることにより製造した各電線を用いた。
傾斜角は60°、燃焼時間は30秒とした。
評価は、炎が自消したものを「A」、炎が自消しなかったものを「C」とした。
【0106】
<耐酸性試験>
試験片として、上記押出成形条件(1)により得られた被覆導体を水と接触させることにより製造した各電線から抜き取った被覆層(管状片)を用いた。
上記電線5gを量り取り、下記4種の酸液50mLそれぞれに、50℃で168時間浸漬させた。その後、試験片を取出し、その質量W(g)を測定した。各酸液について、試験片の、浸漬前後の質量変化率(%)を下記式から求めた。
式:質量変化率(%)=[W(g)−5(g)]/5(g)×100
本試験において、すべての酸液において浸漬前後の質量変化率が5%以内であったものを「A」、1つ以上の酸液において5%を超えたものを「C」とした。
酸液:10質量%硫酸、10質量%硝酸、10質量%塩酸及び10質量%酢酸
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表1及び表2の結果から、以下のことが分かった。
無機フィラーとして水酸化アルミニウムを用いた場合、及び、ベーマイトを用いてもその配合量が多すぎる場合は、いずれも、外観及び柔軟性の少なくとも一方に劣り、これらを両立できなかった(比較例2〜4)。また、ベーマイトを用いてもその配合量が少なすぎる場合は、難燃性が十分ではなかった(比較例1)。
これに対して、特定組成のベース樹脂を用い、所定量のベーマイトをシランカップリング剤と併用した場合は、いずれも、外観、柔軟性及び耐酸性を高い水準で兼ね備えていた(実施例1〜20)。特に、高温押出条件であっても外観低下を効果的に防止することができた。更には、機械特性(引張強さ及び引張伸び)にも十分な性能を示した。