(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
牛乳は、栄養面、風味面で非常に優れた食品であり、それ自体飲料として消費される以外に、乳風味を付与する目的で各種飲食品の原材料として使用されている。
しかし、牛乳の組成はその90%程度が水であり、乳風味の主成分である乳脂含量は3〜8%、無脂乳固形分含量は8〜10質量%と含有量が少ないため、牛乳を飲食品に添加したり、食品加工用として使用する場合、付与できる乳風味は弱いという欠点がある。
【0003】
そのため、飲食品等に乳風味を付与するために、牛乳に代えて、乳風味の主成分である乳脂や乳蛋質が濃縮された濃縮乳や生クリームが使用されることが多い。これらの乳製品は優れた乳のコク味を有するため、各種飲食品の原材料として多量に消費されている。
【0004】
しかし、濃縮乳や生クリームは、牛乳よりは無脂固形分含量が高いとはいえ、水分含量が50〜70質量%程度と、まだ高いため、濃厚な乳風味を求める場合や、水分含量の低い飲食品を製造するには適用が困難な場面がある。また、濃縮乳や生クリームは、牛乳に比べて乳脂含量が高く、そのため、飲食品の原材料として使用した場合に油分分離や濁りなどの問題を生じることに加え、昨今の低カロリー化の風潮の前には問題が生じる場面もある。
【0005】
そこで、濃厚な乳風味を求める場合や、水分含量の低い飲食品を製造する場合などは、牛乳を粉末化した全粉乳や、特に油脂分を含有しない脱脂乳を粉末化した脱脂粉乳、ホエイを粉末化したホエイパウダー、さらには蛋白質を濃縮したWPC・WPI・TMP・カゼイン蛋白質等の乳蛋白質など、乳蛋白質を主体とした乳製品を使用する。このような乳風味の濃縮物を使用する方法であれば、飲食品に対する添加量を極めて低く抑えることができ、飲食品の物性にはあまり影響が出ないため、これらの乳蛋白質を主体とした乳製品は飲食品の原材料として広く利用されている。
【0006】
しかし、これらの乳蛋白質を主体とした乳製品は、分離・濃縮や粉末化の際に風味がやや変化しているため、飲食品に豊かな乳風味を付与することが難しいという問題がある。また、無脂乳固形分の主体である乳蛋白質も乳糖も、水溶性とはいえ溶解度が低いため、水に溶解しにくく、とくに飲料では、経日的に分離したり、沈殿したり、ザラが出たりする問題がある。さらに、乳蛋白質を多く含有する飲食品の製造時に加熱殺菌処理する場合や、乳蛋白質を多く含有する飲食品を加熱調理する場合には、乳蛋白質の変性や、アミノカルボニル反応による褐変、さらにはコゲを生じてしまうという問題もある。
【0007】
そこで、これらの乳蛋白質を主体とした乳製品の添加量は一定量以下に制限されることになるが、その場合であっても豊かな乳風味が要求される場合がある。また、これらの乳蛋白質を主体とした乳製品は一般的に高価であるため、その使用量をできるだけ抑えながら、その場合であっても豊かな乳風味が要求される場合もある。
そのため、飲食品において、乳蛋白質を極力使用せずに、豊かな乳風味を付与する方法、すなわち、飲食品に乳風味を付与する方法が各種研究され、提案されている。
【0008】
まず、一般的には香料が使用される。しかし、香料はたしかに飲食品に乳風味は付与するが、味に厚みがないため、付与した風味が豊かな乳風味にならないという問題があった。そのため、天然の食品素材を使用した乳風味付与材が考案された。例えば、ペプチドとカルボニル化合物とのアミノ−カルボニル反応物(例えば特許文献1参照)、アルカリ処理したビール酵母の乾燥物(例えば特許文献2参照)、スクラロース(例えば特許文献3参照)、コーン粉末と油脂との反応物(例えば特許文献4参照)などを乳風味付与材として用いることが提案されている。
【0009】
しかし、これらの素材は、実際には飲食品に乳風味自体を付与しているのではなく、コク味を付与することにより乳風味を得ている。そのため、乳蛋白質を含有しない飲食品の場合は、コク味は付与されるが、乳風味は付与されないという問題があった。また、乳蛋白質をある程度含有する飲食品の場合であっても、乳風味以外の成分の風味をも同様に増強してしまい、乳風味が付与されたように感じられない、という問題があった。
【0010】
一方、乳蛋白質以外で乳のこく味を凝縮した乳原料として、乳清ミネラルが知られている。そしてこの乳清ミネラルを飲食品に対する乳風味の付与材として使用することが提案されている。(例えば特許文献5参照)
【0011】
しかし、この乳清ミネラルには乳脂や乳蛋白質のもつ豊かな乳風味が含まれないため、飲食品に対し乳のコク味を付与することはできても、豊かな乳風味は付与することができない、という問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の乳風味付与材について好ましい実施形態に基づき詳述する。
まず本発明の乳風味付与材は乳蛋白濃縮物を含有する。
上記乳蛋白濃縮物としては、WPC(ホエイ蛋白濃縮物)、WPI(ホエイ蛋白分離物)、MPC(ミルクプロテインコンセントレート)、MPI(ミルクプロテイン分離物)、TMP(トータルミルクプロテイン)、MCI(ミセラカゼイン分離物)、アルカリカゼイン、酸カゼイン、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイ、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、脱脂粉乳、全粉乳、などが挙げられるが、本発明では乳蛋白含有量を50質量%以上に高めた乳蛋白濃縮物を使用することが好ましく、70質量%以上に高めた乳蛋白濃縮物を使用することがより好ましい。
すなわち本発明では、上記乳蛋白濃縮物として、WPC(ホエイ蛋白濃縮物)、WPI(ホエイ蛋白分離物)、MPC(ミルクプロテインコンセントレート)、MPI(ミルクプロテイン分離物)、TMP(トータルミルクプロテイン)、MCI(ミセラカゼイン分離物)、アルカリカゼイン(カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等)、酸カゼインのうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0017】
なお、乳蛋白質にはホエイ蛋白質とカゼイン蛋白質があり、牛乳や生クリームにおける含有量の質量比はカゼイン蛋白質:ホエイ蛋白質がおおよそ80:20であるが、本発明では、より乳風味がぼやけることなくはっきりとした良好な乳風味を付与することが可能であることから、上記乳蛋白濃縮物中のホエイ蛋白質に対するカゼイン蛋白質の質量比(カゼイン蛋白質/ホエイ蛋白質)が3以下又は9以上であることが好ましく、より好ましくは1以下又は9以上である。
すなわち本発明では、乳蛋白濃縮物として、WPC(ホエイ蛋白濃縮物)、WPI(ホエイ蛋白分離物)、MCI(ミセラカゼイン分離物)、アルカリカゼイン(カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム等)、酸カゼインのうちの1種又は2種以上を使用することが特に好ましい。
【0018】
さらに、本発明の風味付与材においては、水溶性が良好であるため汎用性の高い乳風味付与材が得られることから、カゼイン蛋白質よりもホエイ蛋白質含量が高いことが好ましく、そのため、ホエイ蛋白質のみを使用するか、併用する場合は上記乳蛋白濃縮物中のホエイ蛋白質に対するカゼイン蛋白質の質量比(カゼイン蛋白質/ホエイ蛋白質)が3以下、より好ましくは1以下とすることが好ましい。
すなわち本発明では、乳蛋白濃縮物として、WPC(ホエイ蛋白濃縮物)、WPI(ホエイ蛋白分離物)を使用することが特に好ましい。
【0019】
更に、本発明で使用する乳清ミネラルについて詳述する。
乳清ミネラルとは、乳又はホエイ(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、そのため、高濃度に乳の灰分(ミネラル)を含有し、且つ、固形分に占める灰分の割合が極めて高いという特徴を有する。そして、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエイ中のミネラル組成に近い比率となる。
【0020】
本発明で使用する乳清ミネラルとしては、食品加工用としての汎用性が高い乳風味付与材が得られることから、純度が高いこと、即ち蛋白質や乳糖等の不純物含量が低いことが好ましい。即ち、固形分に占める灰分含量が30%以上である乳清ミネラルを使用することが好ましく、固形分に占める灰分含量が50%以上である乳清ミネラルを使用することがより好ましい。尚、該灰分含量は高いほど好ましい。
【0021】
また、本発明で使用する乳清ミネラルとしては、特に良好な乳風味を付与できること、及び、加熱工程を有する飲食品に使用した場合でも沈殿や濁りを生じない点で、固形分中のカルシウム含量が好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、更に好ましくは0.5質量%未満の乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエイから、膜分離及び/又はイオン交換、更には冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエイを用いる方法、或いは、甘性ホエイから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得ることができるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエイから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用する脱カルシウムの方法としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0022】
本発明の乳風味付与材は上記乳蛋白濃縮物及び乳清ミネラルを固形分として、30:70〜80:20、好ましくは45:55〜80:20の質量比(前者:後者)で含有する。
ここで乳蛋白濃縮物の含有比が30質量%未満であると飲食品に豊かな乳風味を付与することができず、80質量%超であると、飲食品にえぐ味が感じられるようになってしまうことに加え、本発明の主旨から外れることとなる。
【0023】
本発明の乳風味付与材は上記乳蛋白濃縮物及び乳清ミネラルに加え、より厚みのある乳風味が得られる点で、糖類及び/又は高甘味度甘味料を含有するものであることが好ましい。
本発明で使用することができる糖類としては、乳糖をはじめ、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、還元水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖、還元パラチノース、ソルビトール、還元乳糖、L-アラビノース、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノース、パラチノースオリゴ糖等の糖類や糖アルコール等が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明では、乳風味付与材に、牛乳、濃縮乳やクリームを使用した場合とほとんど同等の風味を求める場合は、上記糖類の中でも、乳糖を選択し、使用する糖類の固形分中の好ましくは70質量%以上、より好ましくは全部に乳糖を使用する。
【0025】
また、本発明では、乳風味付与材を加熱殺菌時等の加熱工程を有する飲食品に使用する場合は、加熱工程の際の褐変が抑制される点で、上記糖類の中でも、還元澱粉糖化物、還元水飴、還元パラチノース、ソルビトール、還元乳糖、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、パラチノース、パラチノースオリゴ糖等の糖アルコールを使用し、上記糖類の固形分中の一部、好ましくは50%以上、より好ましくは70質量%以上又は全部が糖アルコールとなるように使用する。
【0026】
さらに、本発明では、低温での摂食時でもはっきりした乳風味を呈する飲食品を得るための乳風味付与材を求める場合は、上記糖類の中でも、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖、高果糖液糖などの果糖を使用し、上記糖類の固形分中の果糖含有量が好ましくは25質量%以上、より好ましくは50質量%以上となるように使用する。
【0027】
本発明において、上記糖類の使用量は、乳蛋白濃縮物、糖類及び乳清ミネラルが固形分として、乳蛋白濃縮物:糖類:乳清ミネラルで、好ましくは5〜35:45〜95:3〜20の質量比(但し、質量比の合計を100とする)、より好ましくは5〜30:45〜90:5〜20の質量比、さらに好ましくは5〜25:60〜80:5〜15となる量である。
【0028】
さらに本発明において、加熱工程の際の褐変の抑制や甘味度の調整、低カロリー化などの目的で、糖類の一部又は全部を高甘味度甘味料に置換することも可能である。
なお、本発明で使用することができる高甘味度甘味料としては、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、甘草、羅漢果、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、ジヒドロカルコン、ソーマチン、モネリン等が挙げられる。
本発明において、上記高甘味度甘味料の使用量は、乳蛋白濃縮物及び乳清ミネラルの合計量100質量部に対し固形分として、0.005〜10質量部、より好ましくは0.05〜3質量部である。
【0029】
本発明の乳風味付与材は、乳脂等の油脂を実質的に含有しないものである。
飲食品における乳風味は、乳脂を含有するものでないと良好な乳風味とはならないと従来考えられていたが、本発明の乳風味付与材は、乳脂を含有していないにも係らず、飲食品に対し乳蛋白濃縮物、濃縮乳、生クリーム等の乳製品を添加した際と同等の乳風味を付与することが可能であることが特徴である。
ここで、「油脂を実質的に含有しない」とは、レーゼゴットリーブ法で測定した場合、乳風味付与材における油脂の含有量が、1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下となる含量である。ここで油脂の含量が1.0質量%を超えると、乳風味付与効果が阻害されるおそれがあり、また、乳化の問題から食品加工用としての汎用性が損なわれることに加え、低カロリー化の要請にもこたえられないものとなってしまう。
【0030】
本発明の乳風味付与材は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、その他の成分を使用することができる。該その他の成分としては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、カシアガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリデキストロース等のゲル化剤や安定剤、レシチン、酵素処理レシチン等の天然乳化剤、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の乳化剤、金属イオン封鎖剤、食塩、岩塩等の塩味剤、無機塩、有機酸塩、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン・難消化性デキストリン等のデキストリン類、水、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤、酵素、を配合してもよい。
なお、本発明では、上記その他の原料は、乳風味付与材の固形分中、固形分として80質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは50質量%以下とする。
【0031】
本発明の乳風味付与材の形態としては、特に制限されず、固形、顆粒状、粉末状、ペースト状、流動状、液状のいずれの形態であってもよいが、粉末状又は液状であることが好ましい。
【0032】
本発明の乳風味付与材がペースト状、固形、顆粒状、粉末状のいずれかの形態である場合の、乳蛋白濃縮物と乳清ミネラルの合計した含有量は、本発明の乳風味付与材中、固形分として、好ましくは0.5〜100質量%、より好ましくは10〜100質量%、さらに好ましくは10〜50質量%である。
本発明の乳風味付与材が流動状又は液状の形態である場合の、乳蛋白濃縮物と乳清ミネラルの合計した含有量は、本発明の乳風味付与材中、固形分として、好ましくは0.5〜40質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0033】
また、本発明の乳風味付与材が糖類及び/又は高甘味度甘味料を含有するものである場合であって、本発明の乳風味付与材がペースト状、固形、顆粒状、粉末状のいずれかの形態である場合の、乳蛋白濃縮物、乳清ミネラル、糖類及び高甘味度甘味料の合計した含有量は、本発明の乳風味付与材中、固形分として、好ましくは0.5〜100質量%、より好ましくは10〜100質量%、さらに好ましくは20〜100質量%、最も好ましくは50〜100質量%である。
この範囲内とすることにより、乳風味付与材を、乳蛋白濃縮物や粉乳類、とくにWPC、WPI、TMP、MPC、MPIなどの蛋白質含有量の高い乳蛋白濃縮物の代替として一般的に使用することができる。
【0034】
また、本発明の乳風味付与材が糖類及び/又は高甘味度甘味料を含有するものである場合であって、本発明の乳風味付与材が流動状又は液状の形態である場合、乳蛋白濃縮物、乳清ミネラル、糖類及び高甘味度甘味料の合計した含有量は、本発明の乳風味付与材中、固形分として、好ましくは0.5〜40質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、さらに好ましくは3〜20質量%、最も好ましくは3.5〜10質量%である。
この範囲内とすることにより、乳風味付与材を、牛乳、生クリーム、濃縮乳など液状の乳や乳製品の代替として一般的に使用することができる。
【0035】
本発明の乳風味付与材は、乳風味を必要とする様々な飲食品に適用可能である。そして、本発明の乳風味付与材がペースト状、固形、顆粒状、粉末状のいずれの形態である場合は乳蛋白濃縮物や粉乳類の代替として、本発明の乳風味付与材がペースト状、流動状、液状のいずれの形態である場合は牛乳や生クリームあるいは濃縮乳の代替として使用することができる。
すなわち、上記飲食品の具体例としては、例えばカフェオレ・ミルクティー・抹茶ミルク・ミルクココア・アイスミルクココア・ホットチョコレート・乳酸菌飲料・炭酸入り乳酸菌飲料・発酵乳飲料・ドリンクヨーグルト・無脂肪乳・低脂肪乳・いちごミルク・果汁飲料・果実飲料・カルーアミルク・ベイリーズミルク等の各種飲料、カスタードクリーム・フラワーペースト・ホワイトクリーム・バタークリーム等のクリーム類、シチュー・カレー・ホワイトソース・グラタン等のクリーム状食品、コーンスープ・クラムチャウダー等のスープ類、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス・ゼリー・杏仁豆腐・ババロア・ムース・プリン等のデザート類、マーガリン類、マヨネーズ・ドレッシング等のドレッシング類、チーズ様食品、パン類、ドーナツ類・キャラメル・キャンディー・チョコレート・ビスケット・クッキー・スポンジケーキ・バターケーキ等の菓子類・ハム・ソーセージその他加工食品を挙げることができる。
【0036】
上記飲食品における、本発明の乳風味付与材の添加量は、特に限定されず、使用する飲食品や、求める乳風味の強さに応じて適宜決定されるが、飲食品100質量部に対し、乳蛋白濃縮物及び乳清ミネラルの合計した固形分として、好ましくは0.2〜20質量部、より好ましくは0.2〜10質量部、さらに好ましくは0.3〜5質量部となる量である。本発明の乳風味付与材の添加量が0.2質量部未満、又は、20質量部を超えると、乳風味付与効果が認められ難く、また20質量部を超えると、乳清ミネラルの苦味が感じられるおそれがある。
【0037】
また、本発明の乳風味付与材が糖類及び/又は高甘味度甘味料を含有するものである場合の、本発明の乳風味付与材の飲食品に対する添加量は、飲食品100質量部に対し、乳蛋白濃縮物、乳清ミネラル、糖類及び高甘味度甘味料の合計した固形分として好ましくは0.3〜20質量部、より好ましくは0.4〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部となる量である。
【0038】
次に、本発明の飲食品について述べる。
本発明の飲食品は、上記本発明の乳風味付与材を添加して得られた飲食品であり、乳や乳製品の使用量が少ないにもかかわらず、飲食品に豊かな厚みのある乳風味を付与されているという特徴を有するものである。
【0039】
飲食品における上記本発明の乳風味付与材の添加方法はとくに制限されず、飲食品の製造時、加工時、調理時、飲食時等に、飲食品またはその素材に混合、散布、噴霧、溶解等任意の手段により行なわれる。
なお、本発明の飲食品における上記本発明の乳風味付与材の添加量は、上述のとおりである。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0041】
<乳清ミネラルの製造>
〔製造例1〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエイをナノ濾過膜分離した後、更に逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、これを更にエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、粉末状の乳清ミネラルAを得た。得られた乳清ミネラルAの固形分中の灰分量は35質量%、カルシウム含量は2.2質量%であった。尚、レーゼゴットリーブ法で測定した油脂含量は1質量%未満であった。
【0042】
〔製造例2〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエイをナノ濾過膜分離した後、更に逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、80℃、20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去し、これを更にエバポレーターで濃縮し、スプレードライ法により、粉末状の乳清ミネラルBを得た。得られた乳清ミネラルBの固形分中の灰分量は55質量%、カルシウム含量は0.4質量%であった。尚、レーゼゴットリーブ法で測定した油脂含量は1質量%未満であった。
【0043】
<乳風味付与材の製造>
〔実施例1〜16、及び、比較例1〜5〕
ミセラカゼイン分離物(MCI)(カゼイン:ホエイ=90:10)、ホエイ蛋白濃縮物(WPC)(カゼイン:ホエイ=7:93)、ホエイ蛋白分離物(WPI)(カゼイン:ホエイ=3:97)、トータルミルクプロテイン(TMP)(カゼイン:ホエイ=60:40)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)(カゼイン:ホエイ=80:20)、還元水飴(固形分=70質量%)、粉末還元水飴、乳糖、高果糖液糖(果糖含有量:固形分中75質量%(固形分=75質量%)、スクラロース、上記乳清ミネラルA及びB、デキストリン、水を使用し、表1の配合にしたがって混合・溶解し、乳風味付与材A〜Uを製造した。なお、乳蛋白濃縮物のカゼイン:ホエイについては、pH4.6及び20℃で可溶な乳蛋白質をホエイ、凝集し沈殿する乳蛋白質をカゼインとして算出した。
具体的には、各乳蛋白濃縮物を20℃条件下で10質量%水溶液とし、1M酢酸−酢酸Na緩衝液を用い得てpH4.6として、カゼインを凝縮・沈殿させ、遠心分離(3.000×g、20℃、20分)して上清(ホエイ)を得た。
ここで、乳蛋白濃縮物の乳蛋白質含量及びホエイ蛋白質含量は、キエルダール法による全窒素含量測定値に係数6.38を乗じて算出し、一方、カゼイン蛋白質含量はその差引で算出し、カゼインとホエイの蛋白質量の比率を算出した。
得られた乳風味付与材A〜Uの、乳蛋白濃縮物と乳清ミネラルの質量比、乳蛋白濃縮物と乳清ミネラルを合計した含有量(質量%)、カゼイン蛋白質とホエイ蛋白質の質量比については表2に記載し、乳蛋白濃縮物、糖類、及び乳清ミネラルの質量比については表3に記載した。また、得られた乳風味付与材A〜Uの、レーゼゴットリーブ法で測定した油脂含量はいずれも0.3質量%以下であり、乳風味付与材A〜Uはいずれも油脂を実質的に含有しないものであった。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
<乳風味付与試験1(コーヒー飲料)>
〔実施例17〜22、28〜32及び、比較例6〜10〕
市販のレギュラーコーヒー(粉)40gをお湯700gで抽出し、コーヒー抽出液を得た。このコーヒー抽出液420gに、砂糖30g及び上記実施例1〜6、12〜16及び比較例1〜5で得られた乳風味付与材A〜F、L〜U各50gを添加、60℃で加温溶解混合し、コーヒー飲料A〜F、L〜Uを得た。得られたコーヒー飲料A〜F、L〜Uは、乳風味付与材無添加のコーヒー飲料、及び、乳風味付与材に代えて同量の牛乳(乳蛋白質含量=2.9質量%、無脂乳固形分含量=8.1%)を添加したコーヒー飲料と乳風味の比較を行なった。
乳風味付与材無添加のコーヒー飲料との比較については、下記の評価基準にしたがって評価を行い、結果を表4に記載した。
また、乳風味付与材に代えて同量の牛乳を添加したコーヒー飲料との比較については、60℃における乳風味の味質の比較評価を行い、その結果を表4に記載した。
【0048】
【表4】
【0049】
表4の結果からわかるように、本発明の乳風味付与材は牛乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、本発明の乳風味付与材を使用したコーヒー飲料は、牛乳を使用したコーヒー飲料に比べ、同等以上の乳風味強度及び乳風味質を有していた。
<パネラーの乳風味強度評価基準>
対照に比べ強い乳風味を感じる・・・・・・・・・・・・・・・・・・2点
対照に比べやや強い乳風味を感じる・・・・・・・・・・・・・・・・1点
対照とほぼ同じ程度の乳風味である・・・・・・・・・・・・・・・・0点
対照と異なる風味を感じる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・−1点
<評価基準>
◎ :9人のパネラーの合計点が 15点以上
○ :9人のパネラーの合計点が9〜14点
△ :9人のパネラーの合計点が5〜8点
× :9人のパネラーの合計点が0〜4点
××:9人のパネラーの合計点が 0点未満
【0050】
<乳風味付与試験2(コーヒー飲料)>
〔実施例23〕
上記コーヒー抽出液420gに、砂糖30g、水45g及び上記実施例7で得られた乳風味付与材G5gを添加、60℃で加温溶解混合し、コーヒー飲料Gを得た。得られたコーヒー飲料Gは乳風味付与材無添加のコーヒー飲料、及び、乳風味付与材に代えて同量の脱脂粉乳(乳蛋白質含有量=34%)を添加したコーヒー飲料と上記乳風味付与試験1と同様の方法で乳風味の比較を行い、その結果を表5に記載した。
【0051】
【表5】
【0052】
表5の結果からわかるように、本発明の乳風味付与材は脱脂粉乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、本発明の乳風味付与材を使用したコーヒー飲料は、牛乳を使用したコーヒー飲料に比べ、優れた乳風味強度及び乳風味質を有していた。
【0053】
<乳風味付与試験3(コーヒー飲料)>
〔実施例24〕
上記コーヒー抽出液420gに、砂糖25g、水31g及び上記実施例8で得られた乳風味付与材H24gを添加、60℃で加温溶解混合し、コーヒー飲料Hを得た。得られたコーヒー飲料Hは乳風味付与材無添加のコーヒー飲料、及び、乳風味付与材に代えて同量の無糖練乳(乳蛋白質含量=6.2質量%、糖類含量=28質量%)を添加したコーヒー飲料と上記乳風味付与試験1と同様の方法で乳風味の比較を行い、その結果を表6に記載した。
【0054】
【表6】
【0055】
表6の結果からわかるように、本発明の乳風味付与材は無糖練乳と比べて、乳脂を含有しないにもかかわらず、本発明の乳風味付与材を使用したコーヒー飲料は、無糖練乳を使用したコーヒー飲料に比べ、優れた乳風味強度及び乳風味質を有していた。
【0056】
<乳風味付与試験4(コーヒー飲料)>
〔実施例25〜27〕
上記コーヒー抽出液420gに、砂糖30g及び上記実施例9〜11で得られた乳風味付与材I〜K各50gを添加、60℃で加温溶解混合し、コーヒー飲料I〜Kを得た。得られたコーヒー飲料I〜K、さらに上記実施例18で得られたコーヒー飲料Bについて、乳風味付与材無添加のコーヒー飲料、及び、乳風味付与材に代えて同量の牛乳を添加したコーヒー飲料と、60℃での評価を10℃での評価に変更した以外は上記乳風味付与試験1と同様の方法で乳風味の比較を行い、その結果を表7に記載した。
【0057】
【表7】
【0058】
表7の結果からわかるように、本発明の乳風味付与材は牛乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、本発明の乳風味付与材を使用したコーヒー飲料は、牛乳を使用したコーヒー飲料に比べ、同等以上の乳風味強度及び乳風味質を有していた。特に低温域においては高果糖液糖を使用したコーヒー飲料が特に優れた乳風味を示した。なお、高甘味度甘味料を使用したコーヒー飲料は、やや甘味が強いものの、牛乳とほぼ同等の乳風味であった。
【0059】
<乳風味付与試験5(カルーアミルク)>
〔実施例33〕
市販カルーア125gに、実施例2で得た乳風味付与材B375gを添加、混合、溶解し、カルーアミルクAを得た。得られたカルーアミルクAは、乳風味付与材Bに代えて同量の市販牛乳(乳蛋白質含量=2.9質量%、無脂乳固形分含量=8.1%)を使用したカルーアミルクBと乳風味の比較を行った。その結果、乳風味付与材Bは牛乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、カルーアミルクAは、カルーアミルクBに比べ、同等以上の乳風味強度及び乳風味質を有していた。
【0060】
<乳風味付与試験6(発酵乳サワー)>
〔実施例34〕
グラニュー糖55gを水36.5gに溶解し、さらに実施例2で得た乳風味付与材B10g、発酵乳20g、95%醸造用アルコール28g、香料0.5gを添加、混合、溶解し、クエン酸NaでpHを3.4に調整した後、炭酸水350gと混合し、発酵乳サワーAを得た。得られた発酵乳サワーAは、乳風味付与材Bに代えて同量の市販牛乳(乳蛋白質含量=2.9質量%、糖分含量=4.5%、無脂乳固形分含量=8.1%)を使用した発酵乳サワーBと乳風味の比較を行った。その結果、乳風味付与材Bは牛乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、発酵乳サワーAは、発酵乳サワーBに比べ、同等以上の乳風味強度及び乳風味質を有していた。
【0061】
<乳風味付与試験7(乳酸菌飲料)>
〔実施例35〕
グラニュー糖55gを水414.5gに溶解し、さらに実施例2で得た乳風味付与材B10g、発酵乳20g、香料0.5gを添加、混合、溶解し、クエン酸NaでpHを3.4に調整し、乳酸菌飲料Aを得た。得られた乳酸菌飲料Aは、乳風味付与材Bに代えて同量の市販牛乳(乳蛋白質含量=2.9質量%、糖分含量=4.5%、無脂乳固形分含量=8.1%)を使用した乳酸菌飲料Bと乳風味の比較を行った。その結果、乳風味付与材Bは牛乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、乳酸菌飲料Aは、乳酸菌飲料Bに比べ、同等以上の乳風味強度及び乳風味質を有していた。
【0062】
<乳風味付与試験8(果汁入り乳酸菌飲料)>
〔実施例36〕
脱脂乳200g、砂糖55g、リンゴ果汁100g、クエン酸1g、増粘剤1.5g、着色料0.005g、着香料0.5g、水42g、及び実施例2で得た乳風味付与材B100gを混合、溶解し、果汁入り乳酸菌飲料Aを得た。得られた果汁入り乳酸菌飲料Aは、乳風味付与材Bに代えて同量の市販牛乳(乳蛋白質含量=2.9質量%、糖分含量=4.5%、無脂乳固形分含量=8.1%)を使用した果汁入り乳酸菌飲料Bと乳風味の比較を行った。その結果、乳風味付与材Bは牛乳と比べて乳脂を含有せず、乳蛋白質含量も1/3程度しかないにもかかわらず、果汁入り乳酸菌飲料Aは、果汁入り乳酸菌飲料Bに比べ、同等以上の乳風味強度及び乳風味質を有していた。