特許第6491415号(P6491415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6491415多層生麺及びその製造方法並びに該多層生麺を用いたうどん、そば又はパスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491415
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】多層生麺及びその製造方法並びに該多層生麺を用いたうどん、そば又はパスタ
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20190318BHJP
【FI】
   A23L7/109 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-30399(P2014-30399)
(22)【出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-154725(P2015-154725A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年7月5日
【審判番号】不服2018-1149(P2018-1149/J1)
【審判請求日】2018年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】利光 菜由
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美和
【合議体】
【審判長】 松下 聡
【審判官】 窪田 治彦
【審判官】 莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−49425(JP,A)
【文献】 特開平6−276973(JP,A)
【文献】 特開平6−292528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喫食する際に湯戻しされる多層生麺(ただし、該湯戻しよりも前に加熱処理されるものを除く)を湯戻しして製造されたうどん、そば又はパスタであって、
前記多層生麺が、pH4.0以上5.5以下のA層とpH8.5以上11.5以下(ただし、8.5以上9.4以下を除く)のB層とを含む多層構造を有し、該多層構造が、二層のA層の間に一層のB層が介在された積層三層構造である、うどん、そば又はパスタ。
【請求項2】
B層のpHが9.0超10.5以下(ただし、9.0超9.4以下を除く)である請求項1に記載のうどん、そば又はパスタ。
【請求項3】
喫食する際に湯戻しされる多層生麺であって、pH4.0以上5.5以下のA層とpH8.5以上11.5以下(ただし、8.5以上9.4以下を除く)のB層とを含む多層構造を有し、該多層構造が、二層のA層の間に一層のB層が介在された積層三層構造である、うどん、そば又はパスタ用多層生麺(ただし、該湯戻しよりも前に加熱処理されるものを除く)。
【請求項4】
請求項に記載のうどん、そば又はパスタ用多層生麺の製造方法であって、
穀粉とpH調整剤とを用いてA層用麺生地及びB層用麺生地をそれぞれ調製する工程と、
調製したA層用麺生地とB層用麺生地とを重ね合わせ、圧延して多層生地とする工程とを有する、多層生麺の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の層が複合一体化された多層構造を有し、喫食する際に湯戻しされる生麺に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類の製造方法としては、機械製麺法が広く採用されているが、機械製麺法では、手延べ麺類と比較して、一般に、滑らかさ、弾力性、歯切れ感等の食感、光沢や透明感等の外観、茹で延びの遅さ、麺のほぐれ等の点において十分に満足しうる麺類が得られていない。そこで、このような機械製麺法の欠点を解消するために、2種類以上の麺帯を複合一体化して、麺類を二層以上の多層麺とすることが従来行われている。
【0003】
多層麺に関し、例えば特許文献1には、アルギン酸添加麺帯を多層化し、酸液で処理することで、ほぐれの良い生麺類が得られることが記載されている。より具体的には、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩とアルカリ剤とを配合した外層用麺生地と、内層用麺生地とを複合圧延して生麺線としたものを、煮熱、蒸煮等によってα化し、さらにα化した麺線を酸液処理すると、麺線の表面に不溶性のアルギン酸の網目状組織が形成されることによって、麺線の表面は滑らかで肌荒れのない性状となり、その結果、麺線相互の結着の少ないほぐれの良好な生麺類ができるとされている。特許文献1には、外層用麺生地を弱酸性から弱アルカリ性、好ましくはpHを6.5〜9.0に調整する旨記載されているが、内層用麺生地のpH調整については具体的には記載されていない。
【0004】
また特許文献2には、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩とアルカリ剤とを配合した内層用麺生地と、外層用麺生地とを複合圧延して生麺線としたものを、煮熱、蒸煮等によってα化し、さらにα化した麺線を酸液処理すると、腰、粘弾性、滑らかさ、しなやかさが良好な生麺類が得られることが記載されている。特許文献2には、内層用麺生地を中性乃至弱アルカリ性、好ましくはpHを6.5〜9.0に調整する旨記載されているが、外層用麺生地のpH調整については具体的には記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−217722号公報
【特許文献2】特開平7−8194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、湯戻し直後の食感が良好で、且つ湯戻し後の経時的な食感低下が抑制された多層生麺及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、pH7.0未満のA層とpH7.0以上のB層とを含む多層構造を有し、該多層構造が三層以上の層からなる場合は、A層が該多層構造の最外層を構成する多層生麺である。また本発明は、前記多層生麺を用いて製造された食品である。
【0008】
また本発明は、前記多層生麺の製造方法であって、穀粉とpH調整剤とを用いてA層用麺生地及びB層用麺生地をそれぞれ調製する工程と、調製したA層用麺生地とB層用麺生地とを重ね合わせ、圧延して多層生地とする工程とを有する、多層生麺の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、湯戻し直後の食感が良好で、且つ湯戻し後の経時的な食感低下が抑制された多層生麺が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多層生麺は、喫食する際に湯戻しされる生麺であって、pH7.0未満のA層とpH7.0以上のB層とを含む多層構造を有する。この多層構造は、A層及びB層のうちの一方の一面側に他方が積層された積層構造からなる。A層とB層とは、少なくともpHが互いに異なっていれば良く、組成、厚さ等の他の特性は互いに同じでも異なっていても良い。本明細書においてA層又はB層のpHは、多層生麺を湯戻しする前の該多層生麺におけるA層又はB層のpHを意味する。A層又はB層のpHは、当該層又は当該層に対応する生地(A層用麺生地又はB層用麺生地)から1gを採取して試験片とし、この試験片を常温(25℃程度)の水10mLに懸濁させて懸濁液を得、この懸濁液のpHを常法に従って測定することで求められる。
【0011】
本発明の多層生麺が有する多層構造には、A層及びB層をそれぞれ一層ずつ含む積層二層構造(A層/B層)と、三層以上の層からなる積層多層構造とが含まれる。前者の場合、A層及びB層は何れも麺線の表面を形成する最外層である。後者の場合、A層が積層多層構造の両最外層(積層多層構造の厚さ方向の一端側の層及び他端側の層)を構成し、B層が両外層に挟まれた該積層多層構造の内層を構成する。本発明の多層生麺が有する多層構造の好ましい一実施形態として、二層のA層(最外層)の間に一層のB層が介在された積層三層構造(A層/B層/A層)が挙げられる。
【0012】
pHが7.0未満であるA層は、弱酸性であることが好ましく、pHが好ましくは4.0以上5.5以下、さらに好ましくは4.0以上5.0以下である。一方、pHが7.0以上であるB層は、弱アルカリ性であることが好ましく、pHが好ましくは8.5以上11.5以下、さらに好ましくは9.0超10.5以下である。多層生麺を構成するA層及びB層それぞれのpHを斯かる範囲に調整することにより、該多層生麺の湯戻し直後の食感、特に「粘り」が向上すると共に、該多層生麺の老化耐性が向上し、湯戻し後の経時的な食感低下が抑制される。
【0013】
A層及びB層のpH調整は、pH調整剤を用いて行うことができる。通常、pH7.0未満のA層にはpH調整剤として酸を用い、pH7.0以上のB層にはpH調整剤としてアルカリ剤を用いるが、酸とアルカリ剤の使用態様はこれに限定されず、所望のpHが得られるようにすれば良い。
【0014】
pH調整剤として使用可能な酸としては、例えば、醸造酢、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
pH調整剤として使用可能なアルカリ剤としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
A層及びB層はいずれも穀粉を含有する。穀粉としては、この種の麺の製造に通常用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉の他、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、そば粉、米粉、豆粉等が挙げられ、多層生麺の用途等に応じてこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。A層及びB層それぞれにおいて、穀粉の含有量は、好ましくは50〜100質量%、さらに好ましくは60〜100質量%である。
【0017】
A層及びB層は、穀粉以外の他の原料粉として澱粉類を含有していても良い。澱粉類としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉、及びこれらにα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉が挙げられ、多層生麺の用途等に応じてこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。A層及びB層それぞれにおいて、澱粉類の含有量は、好ましくは0〜50質量%、さらに好ましくは10〜40質量%である。
【0018】
A層及びB層は、原料粉(穀粉、澱粉類)の他に、副原料を含有していても良い。副原料としては、例えば、小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;かんすい、食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、酵素剤等が挙げられ、多層生麺の用途等に応じてこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明の多層生麺の厚さは、該多層生麺を構成する層の数によって異なる。本発明の多層生麺が「A層/B層/A層」からなる積層三層構造の三層麺の場合、三層麺全体の厚さは1.2〜3mmであることが好ましく、各層の厚さの比は、粘弾性のバランスを良好にし且つ食感を向上させる観点から、好ましくはA層/B層/A層=1/1/1〜1/6/1、さらに好ましくはA層/B層/A層=1/2/1〜1/4/1である。積層三層構造において、その両外層を構成する二層のA層の厚さは、互いに異なっていても良いが、同程度の厚さであることが好ましい。
【0020】
本発明の多層生麺は、この種の多層生麺と同様の方法に従って製造することができる。本発明の多層生麺の製造方法の一例として、穀粉とpH調整剤とを用いてA層用麺生地及びB層用麺生地をそれぞれ調製する工程と、調製したA層用麺生地とB層用麺生地とを重ね合わせ、圧延して多層生地とする工程とを有するものが挙げられる。
【0021】
A層用麺生地及びB層用麺生地は、それぞれ、常法に従って調製可能であり、具体的には、麺原料に加水し混捏することにより調製することができる。麺原料としては、少なくとも穀粉を用い、必要に応じさらに、澱粉類及び副原料からなる群から選択される1種以上を用いる。麺原料への加水量は、麺原料100質量部に対し、好ましくは30〜50質量部、さらに好ましくは35〜45質量部である。pH調整剤は、A層用麺生地及びB層層用麺生地を調製する際に、粉体、水溶液等の任意の形態で麺原料に添加すれば良く、また、その添加量は、A層用麺生地及びB層用麺生地それぞれが所望のpHとなるように適宜調整すれば良い。pH調整剤の添加時期は特に限定されず、麺原料に水及びpH調整剤を添加後に混捏して麺生地としても良く、あるいはpH未調整の麺生地を調製し、該麺生地にpH調整剤(例えばpH調整剤の水溶液)を添加しても良い。
【0022】
A層用麺生地の調製工程の一例として、麺原料(穀粉、澱粉類、副原料)と酸(pH調整剤)と水とを混捏して、pH7.0未満、好ましくは弱酸性のpH、より具体的には好ましくは4.0以上5.5以下、さらに好ましくは4.0以上5.0以下のpHを呈するA層用麺生地を調製する工程が挙げられる。
B層用麺生地の調製工程の一例として、麺原料(穀粉、澱粉類、副原料)とアルカリ剤(pH調整剤)と水とを混捏して、pH7.0以上、好ましくは弱アルカリ性のpH、より具体的には好ましくは8.5以上11.5以下、さらに好ましくは9.0超10.5以下のpHを呈するB層用麺生地を調製する工程が挙げられる。
【0023】
本発明の多層生麺の製造方法の一例においては、A層用麺生地及びB層用麺生地それぞれをロール圧延等の常法により圧延して、帯状のA層用麺帯及びB層用麺帯を得、両麺帯を、目的とする多層生麺の多層構造に応じた形態で重ね合わせて複合麺帯を得、該複合麺帯をロール圧延等の常法により圧延して、帯状の多層構造の麺帯(多層生地)を得る。この多層構造の麺帯から常法に従って麺線を切り出すことで、目的とする多層生麺が得られる。
【0024】
本発明が適用可能な麺の種類は特に限定されないが、本発明は特に、うどん、そば、中華麺、パスタに好適である。即ち、本発明の多層生麺を用いて製造された食品としては、例えば、うどん、そば、中華麺、パスタが挙げられる。
【実施例】
【0025】
本発明を具体的に説明するために実施例及び比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
【0026】
〔実施例1〜4及び比較例1〜6〕
以下の手順により、積層三層構造(外層/内層/外層)有する多層生麺を製造した。
先ず、小麦粉(日清製粉社製、商品名「特雀」)100質量部に対して食塩4質量部、水38質量部を加え混捏して、麺生地を調製した。麺生地のpHを酸性側に調整する場合(前記A層用麺生地を調製する場合)は、pH調整剤の酸として醸造酢(ミツカン社製、商品名「MHVS」〕を麺原料に添加・混捏した。麺生地のpHをアルカリ性側に調整する場合(前記B層用麺生地を調製する場合)は、pH調整剤のアルカリ剤として炭酸カリウムの水溶液を麺原料に添加・混捏した。麺生地のpHを前記方法により測定し、その測定値を、該生地を用いた多層生麺における層(外層又は内層)のpHとした(下記表1参照)。
次いで、調製した麺生地をロール圧延により麺帯とし、三層の麺帯を重ね合わせて複合麺帯を得、該複合麺帯をロール圧延して三層麺帯を得、該三層麺帯を10番の切り刃で切り出して、厚さ3mmの三層構造の生麺線からなる多層生麺を得た。得られた生麺線において、三層の厚さの比は(外層/内層/外層)=1/1/1であった。
【0027】
〔評価試験〕
評価対象の生麺100gを歩留まり280%になるまで熱湯で茹でることにより湯戻しし、湯戻し直後の麺の食感を10名のパネラーに下記評価基準(5点満点)により評価してもらった。また別途、同様に湯戻しした麺を気温10℃の環境下で24時間保存し、その保存後の麺の食感を10名のパネラーに同様に評価してもらった。それらの評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1に示す。
【0028】
(食感の評価基準)
5点:粘り、弾力感のバランスが非常に良く、極めて良好。
4点:粘り、弾力感があり、やや良好。
3点:粘りはあり、やや弾力感に欠けるが、良好。
2点:やや粘りに欠け、しかもやや硬く、不良。
1点:粘りに欠け、しかも硬くボキボキとした食感であり、極めて不良。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示す通り、pH7.0未満の外層(前記A層に相当)とpH7.0以上の内層(前記B層に相当)とを含む三層生麺である各実施例は、外層及び内層がいずれもpH7.0未満である比較例1〜4、外層及び内層がいずれもpH7.0以上である比較例5、並びに各実施例とは逆に外層pHが7.0以上で内層pHが7.0未満である比較例6に比して、湯戻し直後の食感が良好であった。また比較例1〜5は、湯戻し直後の食感評価点と湯戻し後24時間経過後の食感評価点との差が1.5点以上あったのに対し、各実施例における両評価点の差は1点以下に抑えられていたことから、各実施例は老化耐性が大きく向上していることがわかる。