【実施例1】
【0013】
まず、電力系統において設備の加熱や異音の発生などの影響を与える高調波は、第5次成分が多い。そこで、以下の説明では、第5次高調波を取り扱う場合を例に説明する。また以下では、
図1に示す配電線モデルを用いた場合を例に説明する。
図1は、配電線モデルの一例の図である。
【0014】
図1の配電線モデルでは、配変変圧器(バンク変圧器)100が、母線に接続している。配変計測では、母線電圧計測地点101の電圧及び母線から配電線に流れる電流102が計測される。そして、配電線上には、電圧及び電流の計測点であるノードとして、母線電圧計測地点101にあたるノードに加えて、ノード111〜116が存在する。ノード111〜116は需要家ノードであり、それぞれ需要家が接続している。需要家には、高圧負荷の需要家である高圧需要家と低圧負荷の需要家である低圧需要家とが存在する。ノード111は、低圧需要家である。ノード112は、三相負荷を有する高圧需要家である。そして、ノード112は、力率改善用コンデンサである直列リアクトル無SC(Static Capacitor)121を有している。ノード113は、低圧需要家である。ノード114は、低圧需要家である。ノード115は、三相負荷を有する高圧需要家である。そして、ノード115は、力率改善用コンデンサである直列リアクトル付SC151を有している。ノード116は、三相負荷を有する高圧需要家である。そして、ノード116は、直列リアクトル無SC161を有している。
【0015】
図2は、実施例1に係る高調波推定装置のブロック図である。本実施例に係る高調波推定装置1は、入力制御部11、記憶部12、高調波電圧推定式生成部13、高調波推定部14及び通知部15を有している。
【0016】
(データ入力)
入力制御部11は、マウスやキーボードなどの入力機器からの入力を受ける。具体的には、入力制御部11は、操作者が入力機器を用いて入力した、需要家の高調波電流特性の情報、配変高調波計測データ、配電線データ及び需要家設備データを受信する。また、入力データを切り替えることで、データベースや遠方の計測機からのデータを受信する。ここで、各入力データについて詳細に説明する。
【0017】
(高調波電流特性)
需要家の高調波電流特性とは、特性グループ、消費電力あたりの高調波電流の発生量、高調波電流の振幅分布モデル及び高調波電流の位相角分布モデルを含む。
【0018】
特性グループとは、高調波の発生源となる需要家から発生する高調波電流の位相角分布の状態によって分類して生成したグループである。ここで、需要家のグループについて説明する。
図3は、需要家で発生した高調波電流の位相角及び振幅のグループを表す図である。
図3は、第5次高調波電流を表す中心から延びるベクトルの回転角で位相角を表し、その長さで振幅を表している。例えば、ベクトル200は、位相角が0度−φであり、振幅がLである。
【0019】
高圧需要家及び低圧需要家における第5次高調波電流の位相角を分析した結果、高圧需要家の三相負荷の第5次高調波電流は、
図3の領域201で表される300〜330度の第4象限を中心に分布していることが分かる。領域201に属する高調波電流は、位相角の期待値がμ
θであり、位相角の標準偏差がσ
θである。すなわち、領域201に属する高調波電流の位相角は、μ
θ−2σ
θ以上μ
θ+2σ
θ以下の間に主に分布する。この位相角の分布がN(μ
θ,σ
θ2)にしたがうとき、位相角がμ
θ−2σ
θ以上μ
θ+2σ
θ以下の間に含まれる確率は95.45%である。また、領域201に属する高調波電流は、振幅の期待値がμ
Aであり、振幅の標準偏差がσ
Aである。すなわち、領域202に属する高調波電流の振幅は、μ
A−2σ
A以上μ
A+2σ
A以下の間に主に分布する。この振幅がN(μ
A,σ
A2)にしたがうとき、位相角がμ
A−2σ
A以上μ
A+2σ
A以下の間に含まれる確率は95.45%である。
【0020】
また、高圧需要家の単相負荷、並びに、低圧需要家の単相負荷及び三相負荷の第5次高調波電流は、
図3の領域202で表される120〜180度の第2象限を中心に分布している。領域202に属する高調波電流は、位相角の期待値がμ
θ’であり、位相角の標準偏差がσ
θ’である。すなわち、領域202に属する高調波電流の位相角は、μ
θ’−2σ
θ’以上μ
θ’+2σ
θ’以下の間に主に分布する。また、領域202に属する高調波電流は、振幅の期待値がμ
A’であり、振幅の標準偏差がσ
A’である。すなわち、領域202に属する高調波電流の振幅は、μ
A’−2σ
A’以上μ
A’+2σ
A’以下の間に主に分布する。
【0021】
すなわち、第5次高調波電流の発生位相角は、領域201のグループと領域202のグループに分類できる。以下では、領域201のグループを「グループA」、領域202のグループを「グループB」と呼ぶ。以上のように、特性グループは、グループA及びグループBに分けられる。例えば、
図1におけるノード112、115及び116がグループAに属する。また、
図1におけるノード111、113及び114がグループBに属する。
【0022】
また、消費電力あたりの高調波の発生量とは、需要家で発生する高調波電流を需要家で消費された電力で割った値である。すなわち、需要家で消費している電力に対する高調波電流の割合であり、単位は例えば、「mA/kW」又は「A/kW」である。本実施例では、この値として特性グループ毎に統計的に求めた固定値を用いる。また、本実施例では、消費電力は、需要家で消費された基本波の電力としている。
【0023】
また、分布モデルは、特性グループ毎の第5次高調波電流の分布状態を表す。グループAの位相角分布は、
図4の正規分布曲線300で表されるように分布していると推定することができる。
図4は、グループAの位相角分布の正規分布モデルである。すなわち、
図3のグループAに属する第5次高調波電流の位相角は、
図4のように分布していると推定することができる。
【0024】
ここで、
図4では、グループAの位相角分布を表したが、この分布モデルは、グループAの振幅分布、並びに、グループBの位相角分布及び振幅分布それぞれの正規分布モデルを含む。
【0025】
特性グループとして、グループA及びグループBの2グループがあるが、高調波電圧及び高調波電流は、いずれのグループも同じ方法で推定されるので、以下では、グループAを例に説明する。
【0026】
(配変高調波計測データ)
配変高調波計測データは、配電用変電所における計測データである。配変高調波計測データは、
図1のバンク変圧器100の2次側の母線電圧計測地点101の電圧である配電線の送り出し電圧及び配電線の送り出し電流102の2要素を有する。配電線送り出し高調波電圧は、母線電圧計測地点101の電圧を計測し、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform:FFT)を施し、5次の高調波成分を抽出することで取得できる。同様に、配電線送り出し高調波電流は、母線電圧計測地点101からノード111に流れる電流102を計測しFFTを施し、5次の高調波成分を抽出することで取得できる。ここで、
図1では、算出した配電線送り出し高調波電圧を「Vh」とし、配電線送り出し高調波電流を「Ih」として表している。また、電圧と電流にFFTを施し、5次の高調波成分を抽出するときには、同じ地点の電圧と電流とは共に同じ位相角を基準としている。
【0027】
このように、配電線送り出し高調波電圧Vh及び配電線送り出し高調波電流Ihは、計測した波形データにFFTを施すことで求められる。すなわち、配変高調波計測データは基準となる相の基本波電圧の位相角を基準とした複素数で得られる。ここで、極座標系と直交座標系は相互に変換でき、配変高調波計測データはいずれかの座標系で表される。
【0028】
(配電線データ)
配電線データは、配変変圧器に電力を供給するノード、配電線上の母線電圧計測地点及び各ノードのそれぞれの間におけるインピーダンスを含む。以下では、これらのインピーダンスをまとめて、「配電線のインピーダンス」という。例えば、
図1の配電線モデルの場合、配電線データは、配変変圧器100におけるインピーダンス、母線電圧計測地点101とノード111との間の幹線のインピーダンス及びノード111とノード112との間の幹線のインピーダンスを含む。さらに、配電線データは、ノード112とノード113との間の幹線のインピーダンス、ノード113とノード114との間の幹線のインピーダンス、ノード111とノード115との間の分岐線のインピーダンス及びノード112とノード116との間の分岐線のインピーダンスを含む。
【0029】
(需要家設備データ)
需要家設備データは、設備容量及びSC容量を含む。設備容量は、各需要家における負荷又は受電変圧器の容量である。
図1の配電線モデルの場合、ノード111〜116の需要家それぞれが有する負荷又は受電変圧器の容量である。設備容量のうち最大設備容量は、各需要家が有する負荷の最大電力又は受電変圧器の容量であり、設備データから取得することができる。ただし、最大電力が不明な場合は、最大設備容量として、契約電力から想定してもよい。また、最小設備容量は、需要家の最低電力であり、例えば常に消費する電力の最低値が決まっていればその値を使用することができる。ただし、最低電力が決まっていない場合には、最小設備容量として0を用いてもよい。
【0030】
SC容量は、各需要家に配置された力率改善用コンデンサの容量である。
図1の配電線モデルの場合、直列リアクトル無SC121、直列リアクトル有SC151及び直列リアクトル無SC161のそれぞれの容量である。SC容量は、需要家が有する設備データから取得することができる。
【0031】
(高調波電圧推定式の生成)
図2に戻って説明を続ける。入力制御部11は、受信した需要家の高調波電流特性の情報、配変高調波計測データ、配電線データ及び需要家設備データを記憶部12に記憶させる。記憶部12は、ハードディスクなどの記憶装置である。
【0032】
高調波電圧推定式生成部13は、ノードアドミタンス行列生成部31及び推定式生成部32を有する。
【0033】
高調波電圧推定式生成部13は、需要家の高調波電流特性の情報、配変高調波計測データ、配電線データ及び需要家設備データを記憶部12から取得する。
【0034】
そして、高調波電圧推定式生成部13は、配電線のインピーダンス及びSC容量をノードアドミタンス行列生成部31に送信する。また、高調波電圧推定式生成部13は、需要家の高調波電流特性の情報、配変高調波計測データ、配電線データ及び需要家設備データを推定式生成部32に出力する。
【0035】
ノードアドミタンス行列生成部31は、高調波のノードアドミタンス行列Y
hを作成する。具体的には、まず、ノードアドミタンス行列生成部31は、各力率改善用コンデンサの高調波次数に対応するリアクタンスを算出する。
【0036】
力率改善用コンデンサが、直列リアクトル無SCの場合、ノードアドミタンス行列生成部31は、基本波のリアクタンスを1/n倍して高調波のリアクタンスを算出する。ここで、nは、対象とする高調波の次数である。すなわち、本実施例では、n=5である。例えば、設備データから取得した直列リアクトル無SCのコンデンサ容量をQcとし、定格電圧である系統電圧をVbとする。この場合、ノードアドミタンス行列生成部31は、次の数式1を用いて直列リアクトル無SCの高調波のリアクタンスを算出する。数式1におけるXcnは、計算上の直列リアクトル無SCの高調波のリアクタンスを表している。
【0037】
【数1】
【0038】
例えば、
図1の配電線モデルの場合、ノードアドミタンス行列生成部31は、直列リアクトル無SC121及び直列リアクトル無SC161の計算上の高調波のリアクタンスを、数式1を用いて算出する。
【0039】
また、力率改善用コンデンサが、直列リアクトル有SCの場合、ノードアドミタンス行列生成部31は、容量リアクタンスを1/n倍し、誘導リアクタンスをn倍して計算上の高調波のリアクタンスを算出する。例えば、設備データから取得した直列リアクトル有SCのコンデンサ容量をQcとし、定格電圧である系統電圧をVbとする。さらに、基本波における誘導リアクタンスの全リアクタンスに対する比率の絶対値をkとする。この場合、ノードアドミタンス行列生成部31は、次の数式2を用いて計算上の直列リアクトル有SCの高調波のリアクタンスを算出する。数式2におけるXcnは、計算上の直列リアクトル有SCの高調波のリアクタンスを表している。
【0040】
【数2】
【0041】
例えば、
図1の配電線モデルの場合、ノードアドミタンス行列生成部31は、直列リアクトル有SC151の計算上の高調波のリアクタンスを、数式2を用いて算出する。
【0042】
次に、ノードアドミタンス行列生成部31は、算出した計算上の力率改善用コンデンサの計算上の高調波のリアクタンス及び配電線のインピーダンスを用いて高調波のノードアドミタンス行列Yhを生成する。そして、ノードアドミタンス行列生成部31は、生成したノードアドミタンス行列Yhを推定式生成部32へ送信する。また、ノードアドミタンス行列生成部31は、生成したノードアドミタンス行列Yhを高調波推定部14へ送信する。
【0043】
ここで、ノードアドミタンス行列について詳細に説明する。高調波の次数をhとし、ノードiの高調波電圧をVhiとし、ノードiに注入する高調波電流をIhiとすると、次の数式3が成り立つ。
【0044】
【数3】
【0045】
そして、本実施例では、各ノードiにおける電圧Vh
iは、次の数式4で表される。
【0046】
【数4】
【0047】
ここで、EhiとFhiとはノードiの第h次高調波電圧の実数部と虚数部である。
【0048】
また、ノードアドミタンス行列Yhの各要素Yh
ijは次の数式5で表される。
【0049】
【数5】
【0050】
ここで、i≠jのとき,yh
ijは、ノードiとノードjの間のブランチのアドミタンスである。gh
ijは、ノードiとノードjとの間のブランチのアドミタンスの実数部である。bh
ijは、ノードiとノードjとの間のブランチのアドミタンスの虚数部である。zh
ijは、ノードiとノードjとの間のブランチのインピーダンスである。rh
ijは、ノードiとノードjとの間のブランチのインピーダンスの実数部である。xh
ijは、ノードiとノードjとの間のブランチのインピーダンスの虚数部である。
【0051】
また、i=jのとき,yh
iiは、ノードiのブランチのアドミタンスである。gh
iiは、ノードiのブランチのアドミタンスの実数部である。bh
iiは、ノードiのブランチのアドミタンスの虚数部である。zh
iiは、ノードiのブランチのインピーダンスである。rh
iiは、ノードiのブランチのインピーダンスの実数部である。xh
iiは、ノードiのブランチのインピーダンスの虚数部である。
【0052】
ここで、基本波のインピーダンスに基づき、第h次の高調波のインピーダンスの設定例を示す。基本波のインピーダンスzがr+jxのとき、この虚数部が正の場合はr+jx×hと設定する。一方、基本波のインピーダンスr+jxの虚数部が負の場合はr+jx/hと設定する。
【0053】
この場合、ノードアドミタンス行列Yhは、次の数式6で表される。
【0054】
【数6】
【0055】
推定式生成部32は、需要家の高調波電流特性の情報、配変高調波計測データ、配電線データ及び需要家設備データを高調波電圧推定式生成部13から受信する。さらに、推定式生成部32は、ノードアドミタンス行列Yhをノードアドミタンス行列生成部31から受信する。
【0056】
推定式生成部32は、ノードアドミタンス行列Yhの各要素を用いて、計測方程式h(x)を生成する。計測方程式h(x)は、状態変数を用いて、配変における高調波電圧及び電流の値、並びに、各需要家における高調波電圧及び電流の値を算出するための式である。xは状態変数であり、各ノードにおける高調波の電圧を状態変数xとしている。
【0057】
ここで、計測方程式h(x)について詳細に説明する。まずノード電流の計測方程式について説明する。ノードiに注入する第h次高調波電流Ih
iの振幅は、次の数式7で表される。
【0058】
【数7】
【0059】
ここで、Ch
iは、ノードiに注入する第h次高調波電流Ih
iの実数部である。Dh
iは、ノードiに注入する第h次高調波電流Ih
iの虚数部である。
【0060】
また、Gh
ijとBh
ijは、Yh
ijの実数部と虚数部の要素である。Gh
ijとBh
ijは、次の数式8で表される。
【0061】
【数8】
【0062】
一方、ノードiに注入する第h次高調波電流Ih
iの位相角は、次の数式9で表される。
【0063】
【数9】
【0064】
さらに、計測方程式h(x)の感度H(x)は次の数式10のように計測方程式h(x)を偏微分することで求められる。
【0065】
【数10】
【0066】
ここで、状態変数xは、数式4で示したノードiの第h次高調波電圧の実数部Eh
iと虚数部Fh
iとで表される。そこで、数式7を数式10に代入して、次の数式11及び12のようにノードiに注入する第h次高調波電流Ih
iの振幅の計測方程式の感度H(x)が得られる。
【0067】
【数11】
【0068】
【数12】
【0069】
さらに、数式9を数式10に代入して、次の数式13及び14のようにノードiに注入する第h次高調波電流Ih
iの位相角の計測方程式の感度H(x)得られる。
【0070】
【数13】
【0071】
【数14】
【0072】
次に、ノード電圧の計測方程式について説明する。ノードiの第h次高調波電圧Vh
iの実数部及び虚数部の計測方程式は次の数式15で表される。
【0073】
【数15】
【0074】
ここで、配電高調波計測値の計測誤差をzerrとし各ノードにおける高調波電圧の計測値Vzh
iの最大誤差をσVzh
i=zerrVzh
i/2として計測誤差を考慮する。そして、ノード電圧の計測方程式の感度H(x)も数式10で表される。そこで、数式15を数式10に代入して、i=jの場合、次の数式16のようにノード電圧の計測方程式の感度H(x)が得られる。
【0075】
【数16】
【0076】
また、i≠jの場合、次の数式17のようにノード電圧の計測方程式の感度H(x)が得られる。
【0077】
【数17】
【0078】
さらに、ノードiとノードjとを接続するブランチにおいて、ノードiからノードjに流れる第h次高調波電流の計測方程式について説明する。ノードiとノードjとを接続するブランチに流れる第h次高調波電流Ih
ijの実数部及び虚数部の計測方程式は、次の数式18で表される。
【0079】
【数18】
【0080】
そして、ブランチに流れる第h次高調波電流の計測方程式の感度H(x)も数式10で表される。そこで、数式18を数式10に代入してブランチに流れる第h次高調波電流の計測方程式の感度H(x)が、次の数式19で得られる。
【0081】
【数19】
【0082】
なお、ここでの、第h次高調波電流Ih
ijは、ノードiとノードjとを接続するブランチに流れる第h次高調波電流であるから、i=jの条件はない。
【0083】
このように求めた計測方程式h(x)及びその感度H(x)を用いて推定式生成部32は高調波推定式を求めていく。そこで、計測方程式h(x)及びその感度H(x)を用いた高調波推定式の求め方の説明を続ける。
【0084】
各需要家で高調波電圧を計測した場合、高調波電圧の計測値には計測ノイズが混ざる。そこで、各需要家で高調波電圧の計測値をzとした場合、計測値zと計測方程式h(x)の関係は、次の数式20で表すことができる。数式20におけるeは計測ノイズである。
【0085】
【数20】
【0086】
そして、各需要家における高調波電圧の推定値xeは、数式20における計測ノイズを最小化する状態変数xである。この場合、計測ノイズeを最小化する状態変数xは、次の数式21で表される評価関数Jを最小とする状態変数xである。
【0087】
【数21】
【0088】
ここで、Rは、計測ノイズの共分散行列である。Rは、対角項が分散σ
2であり、非対角項が共分散である。すなわち、数式21は、次の数式22として表される。ここで、数式21の第3項の行列が行列Dにあたる。
【0089】
【数22】
【0090】
そして、
図3に示すように、μ
Aは、需要家で発生する高調波電流の振幅の期待値である。また、σ
Aは、需要家で発生する高調波電流の振幅の標準偏差である。
【0091】
また、推定式生成部32は、高調波電流の振幅の期待値μ
Aを次の数式23で求めることができる。Kは、操作者により入力された消費電力あたりの高調波電流の発生量である。また、P
maxは、需要家の最大設備容量であり、P
minは、需要家の最小設備容量である。
【0092】
【数23】
【0093】
また、推定式生成部32は、高調波電流の振幅の標準偏差σ
Aを次の数式24で求めることができる。
【0094】
【数24】
【0095】
また、μ
θは、需要家で発生する高調波電流の位相角の期待値である。また、σ
θは、需要家で発生する高調波電流の位相角の標準偏差である。推定式生成部32は、操作者から入力された特性グループ、すなわち
図3の各特性グループの高調波電流のデータから統計的に算出しμ
θ及びσ
θを取得する。
【0096】
また、σ
Vhは、高調波電圧の計測値の標準偏差であり、高調波電圧の計測値が有する誤差である。また、σ
Ihは、高調波電流の計測値の標準偏差であり、高調波電流の計測値が有する誤差である。推定式生成部32は、配電線送り出し高調波電圧の標準偏差σ
Vh及び配電線送り出し高調波電流の標準偏差σ
Ihを、配変高調波計測値の計測誤差をzerrとした場合に次の数式25で求める。ここで、zは、配変高調波計測値であるVh又はIhである。例えば、配変高調波計測値zが保証する最大誤差を、偏差2σとしてもよい。配電線送り出し高調波電圧の標準偏差σ
Vh及び配電線送り出し高調波電流の標準偏差σ
Ihを用いることで、推定値xeの算出において計測誤差で重み付けすることができる。
【0097】
【数25】
【0098】
そして、推定式生成部32は、高調波電流の振幅の期待値μ
A、高調波電流の振幅の標準偏差σ
A、高調波電流の位相角の期待値μ
θ、高調波電流の位相角の標準偏差σ
θ、配電線送り出し高調波電圧Vh、配電線送り出し高調波電流Ih、配電線送り出し高調波電圧の標準偏差σ
Vh及び配電線送り出し高調波電流の標準偏差σ
Ihを数式22に代入することで数式21を生成する。
【0099】
言い換えれば、次の数式26のように、数式21の各項を置くことで評価関数Jが得られる。ここで、数式26におけるz、h(x)及びdiag(R)上の破線は、説明のために付加したもので、破線より上の部分は高調波の計測結果であり、下の部分は高調波電流モデルから求めた値である。また、高調波の計測数と需要家の数に応じてz、h(x)、diag(R)及びxを拡張することで、推定式が拡張できる。
【0100】
【数26】
【0101】
そして、Jを最小化する条件として、次の数式27を用いる。
【0102】
【数27】
【0103】
そこで、推定式生成部32は、生成した数式21に数式27の条件を用いて、次の数式28を生成する。この数式28が、需要家で発生する高調波電圧を推定するための高調波推定式にあたる。tは自然数であり、t=0,1,2,3・・・である。
【0104】
【数28】
【0105】
その後、推定式生成部32は、生成した高調波推定式である数式28を高調波推定部14へ送信する。
【0106】
(高調波電圧の推定)
高調波推定部14は、高調波推定式である数式28を推定式生成部32から受信する。また、高調波推定部14は、予め決められた状態変数xの初期値x
0を記憶している。例えば、計測値z及び期待値μをIhとして数式3から求めたVhを初期値x
0として用いる。
【0107】
高調波推定部14は、初期値x
0を数式28に代入しx
1を算出する。次に、状態変数x
1を用いてx
2を算出する。このように、高調波推定部14は、状態変数xを順次更新して数式28を収束させる。例えば、高調波推定部14は、x
iの変動が予め決められた閾値内に収まった場合に収束したと判定する。そして、高調波推定部14は、x
iの収束値を状態変数の推定値xeとする。xeは、各ノードの高調波電圧で構成されており、xeは、各ノードの高調波電圧の推定値である。
【0108】
さらに、高調波推定部14は、ノードアドミタンス行列Yhをノードアドミタンス行列生成部31から取得する。そして、高調波推定部14は、ノードアドミタンス行列Yh及び高調波電圧の推定値xeを用いて、次の数式29から需要家から発生する高調波電流の推定値ieを求める。
【0109】
【数29】
【0110】
また、ノードiからノードjに流れる高調波電流は、ノードjとノードiの高調波電圧の差にノードiとノードjの間のアドミタンスを乗じることで求めることができる。
【0111】
その後、高調波推定部14は、求めた、需要家で発生する高調波電圧の推定値xe及び高調波電流の推定値ieを通知部15へ送信する。
【0112】
高調波電圧推定式生成部13及び高調波推定部14は、以上に説明した高調波電流及び高調波電圧の推定処理を、一括して実行する。
【0113】
通知部15は、各需要家から発生する高調波電圧の推定値及び高調波電流の推定値を高調波推定部14から受信する。そして、通知部15は、各需要家の高調波電圧の推定値及び高調波電流の推定値をモニタに表示するなどして、操作者に各需要家の高調波電圧及び高調波電流の推定結果を通知する。
【0114】
以上に説明したように、高調波電圧推定式生成部13及び高調波推定部14は、最小二乗法により、配変の高調波電圧の計測値、配変の高調波電流の計測値及び需要家の高調波電流の期待値と計測方程式との誤差を最小化する各ノードの電圧を求め、求めた各ノードの電圧を用いて各ノードに注入される電流を求めている。
【0115】
次に、
図5を参照して、本実施例に係る高調波推定装置1による高調波推定処理の流れについて説明する。
図5は、実施例1に係る高調波推定装置による高調波推定処理のフローチャートである。
【0116】
高調波電圧推定式生成部13は、各需要家の高調波電流特性を記憶部12から取得する(ステップS1)。すなわち、高調波電圧推定式生成部13は、消費電力あたりの高調波電流の発生量K、高調波電流位相角分布モデル及び特性グループを取得する。
【0117】
次に、高調波電圧推定式生成部13は、配変高調波計測データを記憶部12から取得する(ステップS2)。すなわち、高調波電圧推定式生成部13は、配電線送り出し高調波電圧Vh及び配電線送り出し高調波電流Ihを取得する。
【0118】
次に、高調波電圧推定式生成部13は、配電線データを記憶部12から取得する(ステップS3)。すなわち、高調波電圧推定式生成部13は、配電線のインピーダンスを取得する。
【0119】
次に、高調波電圧推定式生成部13は、需要家を1つ選択する(ステップS4)。
【0120】
次に、高調波電圧推定式生成部13は、選択した需要家の需要家設備データを記憶部12から取得する(ステップS5)。すなわち、高調波電圧推定式生成部13は、需要家の設備容量(P
max,P
min)及びSC容量を取得する。
【0121】
高調波電圧推定式生成部13は、特性グループを1つ選択する(ステップS6)。
【0122】
推定式生成部32は、需要家の高調波電流モデルを生成する(ステップS7)。具体的には、推定式生成部32は、需要家で発生する高調波電流の位相の期待値μ
θ及び標準偏差σ
θを高調波電流位相角分布モデルから求める。また、推定式生成部32は、消費電力あたりの高調波電流の発生量K及び需要家の設備容量(P
max,P
min)を用いて、需要家で発生する高調波電流の振幅の期待値μ
A及び標準偏差σ
Aを求める。
【0123】
高調波電圧推定式生成部13は、選択している需要家に属する全ての特性グループについて処理が完了したか否かを判定する(ステップS8)。処理を行っていない特性グループが残っている場合(ステップS8:否定)、高調波電圧推定式生成部13は、ステップS6へ戻る。
【0124】
これに対して、全ての特性グループについて処理が完了した場合(ステップS8:肯定)、高調波電圧推定式生成部13は、全ての需要家について処理が完了したか否かを判定する(ステップS9)。処理を行っていない需要家が残っている場合(ステップS9:否定)、高調波電圧推定式生成部13は、ステップS4へ戻る。
【0125】
これに対して、全ての需要家について処理が完了した場合(ステップS9:肯定)、ノードアドミタンス行列生成部31は、配電線のインピーダンス及び各需要家のSC容量からノードアドミタンス行列Yhを生成する(ステップS10)。そして、ノードアドミタンス行列生成部31は、生成したノードアドミタンス行列Yhを推定式生成部32へ送信する。
【0126】
推定式生成部32は、配電線送り出し高調波電圧Vh及び配電線送り出し高調波電流Ihと予め決められた計測誤差zerrを用いて、配電線送り出し高調波電圧の標準偏差σ
Vh及び配電線送り出し高調波電流の標準偏差σ
Ihを求める。さらに、推定式算生成部32は、ノードアドミタンス行列Yhを用いて、計測方程式h(x)を求める。そして、推定式生成部32は、求めた各値を数式26に用いて数式21を生成する。その後、推定式生成部32は、数式21に数式27の条件を用いて数式28で表される高調波推定式を作成する(ステップS11)。そして、推定式生成部32は、生成した高調波推定式を高調波推定部14へ送信する。
【0127】
高調波推定部14は、高調波推定式を推定式生成部32から受信する。そして、高調波推定部14は、高調波推定式から高調波電圧の推定値を算出する(ステップS12)。具体的には、高調波推定部14は、状態変数を更新して高調波推定式を収束させ、収束値を高調波電圧の推定値として取得する。
【0128】
さらに、高調波推定部14は、算出した高調波電圧の推定値にノードアドミタンス行列を用いて高調波電流の推定値を算出する(ステップS13)。
【0129】
高調波推定部14は、推定結果を通知部15に送信する。通知部15は、高調波推定部14から受信した推定結果を操作者に通知する(ステップS14)。
【0130】
次に、本実施例に係る高調波推定装置1による高調波の推定結果の確度についてまとめて説明する。以下では、
図1の配電線モデルを用いて高調波を推定した場合について説明する。ここでは、回線容量を4000kVAとし、幹線の長さを約4kmとして設定した場合で説明する。
【0131】
まず、高調波推定装置1による高調波の推定を説明するための前提条件を決定する。
図6は、特性グループ毎の各需要家の高調波特性の設定を表す図である。
図6における、特性グループは、
図3で表した特性グループA及びBにあたる。そして、
図6では、特性グループ毎に、消費電力あたりの高調波電流の発生量(K)、並びに、発生する高調波の位相の期待値(μ
θ)及び標準偏差(σ
θ)が表されている。ノード112,115及び116がグループAに属する。また、ノード111,113及び114がグループBに属する。
【0132】
また、
図7は、バンク変圧器と配電線のインピーダンスの設定を表す図である。幹線101−111は、
図1における母線電圧計測地点101とノード111との間のインピーダンスを表している。また、幹線111−112、112−113及び113−114は、それぞれの符号を有するノード間のインピーダンスを表している。また、分岐線111−115及び112−116も、それぞれの符号を有するノード間のインピーダンスを表している。
【0133】
また、
図8は、各需要家に配置されたSC容量の設定を表す図である。
図1に示すように、ノード112,115及び116にSCが配置されている。ノード112の直列リアクトル無SC121は、300kvarの容量である。また、ノード115の直列リアクトル有SC151は、100kvarのSC容量を有し、さらに6%の直列リアクトルが配置されている。この直列リアクトル6%は、数式2においてk=0.06となる。また、ノード116の直列リアクトル無SC161は、600kvarのSC容量を有する。
【0134】
また、
図9Aは、グループAに属する需要家の設備容量の設定を表す図である。また、
図9Bは、グループBに属する需要家の設備容量の設定を表す図である。ここでは、
図9A及び9Bに示す各需要家の設備容量を用いる。
【0135】
ここでの説明では、バンク変圧器100の上位の第5次高調波電圧の位相角を
図10に示すように、無負荷時の母線電圧計測地点101の基本波電圧の位相角を基準として、0度とする。また、第5次高調波電圧のひずみ率は基本波電圧の振幅に対し1.0%とする。
図10は、系統の第5次高調波電圧の設定を表す図である。
【0136】
さらに、推定結果の検証のために、実際の負荷を想定して
図11に示すように各需要家の負荷を設定し、設定した負荷に基づいて、シミュレーションを行い各ノードの高調波電圧及び各ノードに注入される高調波電流の結果を真値とする。
図11は、実際の負荷を想定して設定した需要家負荷の値を示す図である。そして、求めた真値から変電所の配電線の送り出し電圧及び電流を計測データとして取り出し、取り出した計測データを用いて本実施例に係る高調波推定装置1により算出された各ノードの高調波電圧及び各ノードに注入される高調波電流を推定値とする。
【0137】
図12は、第5高調波電圧の真値と推定値をベクトルで表した図である。
図12には、実線矢印と破線矢印とが組になっている矢印対500〜507が記載されており、各矢印対に含まれる実線矢印が真値を表し、破線矢印が推定値を表している。矢印対500は、バンク変圧器100の上位において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対501は、母線電圧計測地点101において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対502は、ノード111において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対503は、ノード112において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対504は、ノード113において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対505は、ノード114において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対506は、ノード115において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。矢印対507は、ノード116において発生する第5次高調波電圧の真値と推定値を表している。ここに表したベクトルは、振幅を実効値で表している。
【0138】
また、
図13Aは、第5次高調波電圧の実効値の比較を表す図である。
図13Bは、第5次高調波電圧の位相角の比較を表す図である。
図13A及び13Bは、
図12のベクトルをそれぞれ振幅と位相角に分けた図である。
図13Aは、縦軸で高調波電圧実効値、すなわち、高調波電圧の振幅を表し、横軸で高調波電圧の発生場所を表している。また、
図13Bは、縦軸で高調波電圧位相角を表し、横軸で高調波電圧の発生場所を表している。そして、
図13A及び13Bともに、黒塗りの棒グラフが真値を表し、白抜きの棒グラフが推定値を表している。
【0139】
さらに、
図12の高調波電圧の真値と推定値の振幅及び位相を個別に数値比較したものが、
図14で表される。
図14は、第5次高調波電圧の真値と推定値の数値比較の図である。
【0140】
図12〜14で示すように、各箇所で発生する第5次高調波電圧の真値と推定値とは、よく一致していることが確認できる。
【0141】
図15は、第5高調波電流の真値と推定値をベクトルで表した図である。
図15には、実線矢印と破線矢印とが組になっている矢印対510〜516が記載されており、各矢印対に含まれる実線矢印が真値を表し、破線矢印が推定値を表している。矢印対510は、母線電圧計測地点101からノード111に流れる第5次高調波電流の真値と推定値を表している。矢印対511は、ノード111において発生する第5次高調波電流の真値と推定値を表している。矢印対512は、ノード112において発生する第5次高調波電流の真値と推定値を表している。矢印対513は、ノード113において発生する第5次高調波電流の真値と推定値を表している。矢印対514は、ノード114において発生する第5次高調波電流の真値と推定値を表している。矢印対515は、ノード115において発生する第5次高調波電流の真値と推定値を表している。矢印対516は、ノード116において発生する第5次高調波電流の真値と推定値を表している。ここに表したベクトルは、振幅を実効値で表している。
【0142】
また、
図16Aは、第5次高調波電流の実効値の比較を表す図である。
図16Bは、第5次高調波電流の位相角の比較を表す図である。
図16A及び16Bは、
図12のベクトルをそれぞれ振幅と位相角に分けた図である。
図16Aは、縦軸で高調波電流実効値、すなわち、高調波電流の振幅を表し、横軸で高調波電流の発生場所を表している。また、
図16Bは、縦軸で高調波電流位相角を表し、横軸で高調波電流の発生場所を表している。そして、
図16A及び16Bともに、黒塗りの棒グラフが真値を表し、白抜きの棒グラフが推定値を表している。
【0143】
さらに、
図15の高調波電流の真値と推定値の振幅及び位相角を個別に数値比較したものが、
図17で表される。
図17は、第5次高調波電流の真値と推定値の数値比較の図である。
【0144】
図15〜17で示すように、各箇所で発生する第5次高調波電流の真値と推定値とは、よく一致していることが確認できる。
【0145】
このように、本実施例に係る高調波推定装置を用いて求めた配電線上の各場所における高調波電圧及び電流の推定値は、実測値と近似することが分かる。すなわち、本実施例に係る高調波推定装置を用いて求めた配電線上の各場所における高調波電圧及び高調波電流の推定値は、配電線全体の高調波を把握して、メカニズムの解析に用いることができ、電圧ひずみの発生の対策に寄与することができる。
【0146】
以上に説明したように、本実施例に係る高調波推定装置は、需要家の高調波電流特性、配変高調波計測データ、配電線データ及び需要家設備データを用いて、最小二乗法により高調波計測値と計算値との誤差を最小化する各ノードの電圧の推定値を求める。さらに、本実施例に係る高調波推定装置は、求めた各ノードの電圧の推定値を用いて各ノードの電流を求めている。このように、本実施例に係る高調波推定装置は、需要家から発生する高調波の計測値を用いずに配電線に接続する各需要家から発生する高調波を求めることができる。したがって、多数の高調波の計測という手間を省くことができ、容易に配電系統の高調波の状態を推定することができる。
【実施例2】
【0147】
本実施例に係る高調波推定装置は、変電所計測データを用いて推定した基本波の各ノードの電圧を用いて、基本波の電力潮流に起因する需要家から発生する高調波電流の位相角のずれを補正する。
図18は、実施例2に係る高調波推定装置のブロック図である。以下の説明では、実施例1と同じ各部の機能については説明を省略する。
【0148】
本実施例に係る高調波推定装置1は、入力制御部11、記憶部12、高調波電圧推定式生成部13、高調波推定部14及び通知部15に加えて、位相ずれ算出部16を有している。
【0149】
入力制御部11は、実施例1で説明した各情報に加えて、配変計測データの入力を受ける。配変計測データは、配電線送り出しの基本波の電圧及び配電線送り出しの基本波の電流の入力を操作者から受ける。具体的には、入力制御部11は、配電線送り出し電圧及び配電線送り出し電流として、母線電圧と配電線の送り出し潮流の有効電力Pと無効電力Qとで表された情報の入力を受ける。そして、入力制御部11は、受信した配変計測データを記憶部12に記憶させる。
【0150】
位相ずれ算出部16は、配変計測データ、配電線のインピーダンス、需要家の設備容量及び需要家のSC容量を記憶部12から取得する。さらに、位相ずれ算出部16は、ノードアドミタンス行列Yhをノードアドミタンス行列生成部31から取得する。
【0151】
また、位相ずれ算出部16は、配変計測データの測定値の推定式生成部と同様に計測誤差zerrを予め記憶している。そして、位相ずれ算出部16は、測定値の標準偏差として、数式25を用いて基本波の送り出し電圧の標準偏差及び基本波の送り出し電流の標準偏差を求める。同様に、数式25を用いて、配電線の送り出し潮流の有効電力P及び無効電力Qの標準偏差を求める。
【0152】
また、位相ずれ算出部16は、各需要家の最大設備容量P
maxを有効電力の最大値として、最小設設備容量P
minを有効電力の最小値として、次の数式30を用いて各需要家における有効電力の期待値μ
Pを求める。
【0153】
【数30】
【0154】
また、位相ずれ算出部16は、各需要家の最大設備容量P
max及び最小設設備容量P
minから次の数式31を用いて各需要家における有効電力の標準偏差σ
Pを求める。
【0155】
【数31】
【0156】
次いで、位相ずれ算出部16は、力率pfを想定して、各需要家における無効電力の最大値Q
maxを次の数32で算出する。
【0157】
【数32】
【0158】
また、位相ずれ算出部16は、各需要家における無効電力の最小値Q
minを次の数式33で算出する。
【0159】
【数33】
【0160】
そして、位相ずれ算出部16は、無効電力の最大値及び最大値から次の数式34を用いて各需要家における無効電力の期待値μ
Qを算出する。
【0161】
【数34】
【0162】
さらに、位相ずれ算出部16は、無効電力の最大値及び最大値から次の数式35を用いて各需要家における無効電力の標準偏差σ
Qを算出する。
【0163】
【数35】
【0164】
ここで、計測方程式h(x)について詳細に説明する。ノードiに注入する有効電力P
iは、次の数式36で表される。
【0165】
【数36】
【0166】
また、ノードiに注入する無効電力Q
iは、次の数式37で表される。
【0167】
【数37】
【0168】
さらに、数式36及び数式37を数式10に代入して、次の数式38及び39のようにノードiに注入する有効電力P
i及び無効電力Q
iの計測方程式の感度H(x)得られる。
【0169】
【数38】
【0170】
【数39】
【0171】
ここで、計測方程式h(x)について詳細に説明する。ノードiにおいて,ノードiからノードjに流れる有効電力P
ijは、次の数式40で表される。
【0172】
【数40】
【0173】
また、ノードiにおいて,ノードiからノードjに流れる無効電力Q
ijの計測方程式は、次の数式41で表される。
【0174】
【数41】
【0175】
さらに、数式40及び数式41を数式10に代入して、次の数式42及び43のようにノードiにおいてノードiからノードjに流れる有効電力P
ij及び無効電力Q
ijの計測方程式の感度H(x)得られる。
【0176】
【数42】
【0177】
【数43】
【0178】
数式42及び43では、i=jの条件は無い。
【0179】
そして、位相ずれ算出部16は、高調波次数n=1とし、数式5を基本波の電圧に関する式に修正した数式を用いて、基本波推定式を生成する。
【0180】
具体的には、以下のように、数式21が修正される。すなわち、配電線送り出し高調波電圧の計測値Vhが、基本波の送り出し電圧の計測値に変換される。また、配電線送り出し高調波電流の計測値Ihが、基本波の送り出し潮流P
ij及びQ
ijの計測値に変換される。さらに、σ
Vhが、基本波の送り出し電圧の標準偏差に変換され、σ
Ihが、基本波の送り出し潮流の標準偏差に変換される。また、需要家で発生する高調波電流の振幅の期待値μ
Aは、需要家における有効電力の期待値μ
Pに変換される。また、需要家で発生する高調波電流の位相角の期待値μ
θは、需要家における無効電力の期待値μ
Qに変換される。さらに、σ
Aが、需要家における有効電力標準偏差σ
Pに変換され、σ
θが、需要家における無効電力の標準偏差σ
Qに変換される。具体的には、次の数式44のように数式21の各項を置くことで、基本波推定式を生成するための評価関数Jが求められる。ここで、数式44におけるz、h(x)及びdiag(R)に記載した破線は、説明のために付加したもので、破線より上の部分は配電線送り出しの計測結果であり下の部分は需要家データから求めた値を示している。また、基本波の計測数と需要家の数に応じて、z、h(x)、diag(R)及びxを拡張することにより、推定式が拡張できる。
【0181】
【数44】
【0182】
そして、この評価関数Jを用いて、位相ずれ算出部16は、実施例1で説明した推定式生成部32による高調波推定式の生成と同様の方法で基本波推定式を生成することができる。
【0183】
さらに、位相ずれ算出部16は、生成した基本波推定式を用いて、実施例1で説明した高調波推定部14による推定値の算出と同様の方法で、各需要家における基本波の電圧を求めることができる。すなわち、位相ずれ算出部16は、最小二乗法により配変における基本波の計測値と基本波の計算値との誤差を最小化する基本波の各ノードの電圧を求める。
【0184】
ここで、各ノードの電圧の推定値は、電圧の大きさと位相角で表される。そこで、位相ずれ算出部16は、基本波の送り出し電圧の位相角と各需要家における推定値の位相角との差分を求め、各需要家における位相角のずれを算出する。そして、位相ずれ算出部16は、算出した各需要家における位相角のずれを推定式生成部32へ送信する。
【0185】
推定式算出部32は、各需要家における位相角のずれを位相ずれ算出部16から受信する。そして、推定式算出部32は、各需要家で発生する高調波電流の位相角の期待値μθに各需要家における位相角のずれを高調波の次数倍、すなわち、5次であれば5倍した値を加算して各需要家で発生する高調波電流の位相角の期待値μ
θを補正する。このようにして、推定式算出部32は、各需要家で発生する高調波電流の位相角の分布を補正する。
【0186】
次の数式45は、基本波の送り出し電圧の位相角θ
0を基準として、各需要家における基本波の電圧の位相角の推定値θ
iを用いて、需要家で発生する第h次の高調波電流の位相角の期待値μ
θ-を補正した期待値μ
θ-’である。
【0187】
【数45】
【0188】
そして、推定式算出部32は、補正した位相角の分布を用いて、実施例1と同様の方法で、各需要家で発生する高調波電圧の高調波推定式を生成する。その後、高調波推定部14は、推定式算出部32が生成した高調波推定式を用いて、各需要家で発生した高調波電圧及び高調波電流の推定値を求める。
【0189】
次に、
図19を参照して、本実施例に係る高調波推定装置1による高調波推定処理の流れについて説明する。
図19は、実施例2に係る高調波推定装置による高調波推定処理のフローチャートである。
【0190】
また、位相ずれ算出部16は、配電用変電所の計測データである配変計測データを記憶部12から取得する(ステップS101)。配変計測データには配電線送り出し電圧と配電線送り出し潮流とが含まれる。
【0191】
さらに、位相ずれ算出部16は、配電線データを記憶部12から取得する(ステップS102)。
【0192】
位相ずれ算出部16は、需要家を選択する(ステップS103)。次に、位相ずれ算出部16は、需要家設備データを取得する(ステップS104)。そして、位相ずれ算出部16は、全ての需要家を選択したか判定する(ステップS105)。未選択の需要家がある場合(ステップS105:否定)、位相ずれ算出部16は、ステップS103に戻る。
【0193】
これに対して、全ての需要家を選択した場合(ステップS105:肯定)、ノードアドミタンス行列生成部31は、配電線のインピーダンス及び各需要家のSC容量からノードアドミタンス行列Yhを生成する(ステップS106)。そして、ノードアドミタンス行列生成部31は、生成したノードアドミタンス行列Yhを位相ずれ算出部16へ送信する。
【0194】
位相ずれ算出部16は、需要家における基本波の電圧を推定する基本波電圧推定式を生成する(ステップS107)。次に、位相ずれ算出部16は、需要家における基本波電圧の推定値を算出する(ステップS108)。
【0195】
そして、位相ずれ算出部16は、需要家における基本波電圧の推定値及び配変における基本波電圧の推定値から需要家における基本波電圧の位相角のずれを算出する(ステップS109)。
【0196】
次に、位相ずれ算出部16は、需要家の高調波電流の位相角分布の補正のため、配電線に接続する全ての需要家における基本波電圧の位相角のずれを算出した後、これを高調波次数h倍して推定式生成部32に送信する(ステップS110)。
【0197】
その後、高調波推定装置1は、
図5のステップS1〜14の処理を実行し各需要家の高調波電圧及び高調波電流の推定値を算出する。ステップS7の処理を実行する際に、推定式生成部32において、需要家の高調波電流の位相角分布の補正処理が実行される。通知部15は、算出された各需要家で発生する高調波電圧及び電流の推定値を操作者に通知する(ステップS111)。
【0198】
以上に説明したように、本実施例に係る高調波推定装置は、基本波の電圧の位相角のずれを用いて補正を加えた高調波電流の位相角分布モデルを用いて各需要家で発生する高調波電圧及び高調波電流の推定値を算出する。
【0199】
この点、線路の誘導リアクタンス成分により、有効電力に対応する負荷電流が増加すると、線路末端の基本波の電圧位相角は配電線の送り出しの母線電圧に対し数度遅れる。このとき高調波電流を発生する負荷機器は、その機器が接続する地点の電圧位相角を基準として高調波電流を生じるため、基本波電圧の位相角にずれが生じると、発生する高調波電流の位相角には、基本波電圧の位相角のずれの高調波の次数倍のずれが生じる。この基本波の電圧の位相角のずれは、高調波の電圧の推定結果に影響を与える。
【0200】
そのため、本実施例に係る高調波推定装置のように、基本波の電圧の位相角のずれで高調波電流の位相角分布を補正することで、より実態に即した位相角分布とすることができ、より確度の高い高調波電圧及び電流の推定値を求めることができる。