【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、銀粒子からなる固形分と溶剤とを混練してなる金属ペーストにおいて、前記固形分が、粒径100〜200nmの銀粒子を粒子数基準で30%以上含む銀粒子で構成されており、かつ、銀粒子全体の平均粒径が60〜800nmであり、固形分を構成する銀粒子は、保護剤として炭素数の総和が4〜8のアミン化合物が結合したものであり、更に、添加剤として、数平均分子量が40000〜90000である高分子量エチルセルロースを含む金属ペーストである。
【0012】
本発明に係る金属ペーストは、添加剤として所定の数平均分子量の高分子量エチルセルロースを含むものであり、かつ、溶剤と混練される固形分を構成する銀粒子として、粒径100〜200nmの中程度の粒径範囲を有するものを一定割合以上含むものとしつつ、銀粒子全体の平均粒径が所定範囲内のものである。更に、それら銀粒子は特定のアミン化合物からなる保護剤が結合したものである。本発明者等によると、本願の課題である低温での焼結可能性及び焼結体の低抵抗化は、主要な銀粒子の粒径範囲を上記範囲とすることと、適切な保護剤を選定することとの組合せの結果として有効に達成される。そして、添加剤として高分子量エチルセルロースを含有することで、印刷性を向上しつつ、低抵抗な焼結体を維持できる。以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0013】
本発明における金属ペーストは、添加剤として、高分子量エチルセルロースを含むものである。本発明において、高分子量エチルセルロースは、数平均分子量が40000〜90000のエチルセルロースであり、好ましくは、数平均分子量が55000〜85000のエチルセルロースである。このような高分子量エチルセルロースを適用することで、この金属ペーストを用いて回路パターン等を形成する場合にも、スキージへのペースト不着や、転写不良を生じることなく、設計通りに転写して印刷することが可能になる。このように印刷性が向上する理由として、エチルセルロースの添加により、適度なチキソトロピー性が金属ペーストに付与されることが挙げられる。
【0014】
添加剤であるエチルセルロースの種類を、高分子量のものとしているのは、印刷後の金属ペーストを焼結した焼結体の抵抗値を考慮したことによる。本発明は、上述の通り、回路材料や導電性接合材としての有用性を考慮し、焼結体の抵抗値が低いものとなる金属ペーストの提供を目的の1つとしている。この点につき、本発明者等の検討によれば、エチルセルロースの数平均分子量が小さすぎると、焼結後の抵抗値が高いものとなる場合があった。このような観点から、印刷性の向上のみならず、焼結体の抵抗値も考慮し、添加剤として、上記高分子量エチルセルロースを採用している。具体的な抵抗値としては、本発明の金属ペーストを基板上に印刷した後、焼成されてなる抵抗体について、体積抵抗値が10μΩ・cm以下であることが好ましい。尚、高分子量エチルセルロースの数平均分子量は、高すぎると印刷性向上の効果が得られにくい。
【0015】
本発明の金属ペーストには、高分子量エチルセルロースに加え、低分子量エチルセルロースを追加的に含むことも好ましい。本発明において、低分子エチルセルロースは、数平均分子量が5000〜30000のエチルセルロースであり、好ましくは、数平均分子量が10000〜25000のエチルセルロースである。このような低分子量エチルセルロースを添加した場合、金属ペーストのチキソトロピー性が高まり、印刷性を更に向上できる。低分子量エチルセルロースの数平均分子量は、低すぎると印刷性向上の効果が得られにくく、高すぎると焼結体の抵抗値が高くなりやすい。
【0016】
ここで、低分子量エチルセルロースを追加的に含む場合、上記した焼結体の抵抗値を考慮し、低分子量エチルセルロースの含有量を所定以下にすることが好ましい。具体的には、高分子量エチルセルロースの含有量(C
HIGH)に対する低分子量エチルセルロースの含有量(C
LOW)の割合(C
LOW/C
HIGH)を0.05〜1.0とすることが好ましく、0.1〜0.4が特に好ましい。
【0017】
エチルセルロースの総含有量(高分子量エチルセルロースの含有量と低分子量エチルセルロースの含有量の和)は、ペースト全体に対する質量比で1.2wt%〜3.5wt%が好ましい。1.2wt%未満であると、上記した印刷性の向上効果が得られにくく、3.5wt%を超えると、焼結体の抵抗値を低いものとしにくくなる。
【0018】
尚、エチルセルロースとしては、高分子量エチルセルロース及び低分子量エチルセルロースのいずれについても、任意のエトキシ含有量のものを適用できる。エトキシ含有量は、エトキシ含有率46.0%〜52.0%が好ましく、48.0〜49.5%が特に好ましい。
【0019】
次に、本発明の金属ペーストの主要な構成である、銀粒子について説明する。本発明に係る金属ペーストでは、粒径100〜200nmの銀粒子が、固形分となる銀粒子全体に対して粒子数基準で30%以上存在していることを要する。かかる中程度に微細な銀粒子が低温焼結に寄与するからである。ペーストに含まれる全ての銀粒子が粒径100〜200nmであること、即ち、割合が100%であることが好ましいが、そうである必要はない。粒径100〜200nmの銀粒子が、30%以上あれば、この粒径範囲外の粒子が存在していても良い。例えば、粒径100〜200nmの銀粒子と粒径20〜30nmの銀粒子とが混在した金属ペーストであっても、粒径100〜200nmの銀粒子の割合が30%以上であれば150℃以下での焼結が可能であり、焼結体の抵抗値も低いものとなる。また、粒径100〜200nmの銀粒子に粒径500nm超の粗大な銀粒子が混在した金属ペーストであっても良い。通常、500nm(0.5μm)を超える粗大な銀粒子は200℃以下で焼結することはない。しかし、本発明で適用する粒径100〜200nmの銀粒子が一定割合以上存在すると、こうした粗大粒子も含めて銀粒子全体が低温で焼結する。
【0020】
粒径100〜200nmの銀粒子の粒子数割合については、30%未満の場合、150℃以下で焼結が全く生じないか不十分なものとなる。金属ペースト中の全銀粒子が粒径100〜200nmであるもの、即ち、数割合が100%となるものも当然に本発明の効果を有する。このように、本発明では、粒径100〜200nmを軸としつつ、粒径の相違する銀粒子群が混在する場合があるが、全ての銀粒子を対象とした平均粒径(数平均)が、60〜800nmのものとする。平均粒径が60nm未満であると、粒子が焼結体を形成させる際、クラックが発生しやすいため、密着性の低下により抵抗値が高くなる場合がある。また、平均粒径が800nmを超えると、焼結が進行しにくく、焼結体に割れが発生しやすい。
【0021】
本発明に係るペーストにおいて、粒径100〜200nmの銀粒子の焼結性は、銀粒子と結合する保護剤の作用も関連する。保護剤とは、溶剤中で懸濁する金属粒子の一部又は全面に結合する化合物であって、金属粒子の凝集を抑制するものである。本発明において、銀粒子と結合する保護剤は、炭素数の総和が4〜8のアミン化合物である。
【0022】
銀粒子の保護剤としては、一般にはアミン以外にカルボン酸類等の有機物が適用可能であるが、本発明で適用する保護剤としてアミン化合物に限定するのは、アミン以外の保護剤を適用する場合、150℃以下での銀粒子の焼結が生じないからである。この点、銀粒子の粒径が100〜200nmの範囲内にあっても、アミン以外の保護剤では低温焼結が生じない。
【0023】
また、保護剤であるアミン化合物についてその炭素数の総和を4〜8とするのは、銀粒子の粒径との関連でアミンの炭素数が銀粒子の安定性、焼結特性に影響を及ぼすからである。これは、炭素数4未満のアミンは粒径100nm以上の銀微粒子を安定的に存在させるのが困難であり、均一な焼結体を形成させるのが困難となる。一方、炭素数8超のアミンは、銀粒子の安定性を過度に増大させ焼結温度を高温にする傾向がある。これらから、本発明の保護剤としては炭素数の総和が4〜8のアミン化合物に限定される。
【0024】
更に、アミン化合物については、沸点220℃以下のアミン化合物が好ましい。かかる高沸点のアミン化合物が結合した銀粒子は、粒径範囲が適切範囲にあっても焼結の際にアミン化合物が分離し難くなり焼結の進行を阻害することとなる。
【0025】
保護剤であるアミン化合物中のアミノ基の数としては、アミノ基が1つである(モノ)アミンや、アミノ基を2つ有するジアミンを適用できる。また、アミノ基に結合する炭化水素基の数は、1つ又は2つが好ましく、すなわち、1級アミン(RNH
2)、又は2級アミン(R
2NH)が好ましい。そして、保護剤としてジアミンを適用する場合、少なくとも1以上のアミノ基が1級アミン又は2級アミンのものが好ましい。アミノ基に結合する炭化水素基は、直鎖構造又は分枝構造を有する鎖式炭化水素の他、環状構造の炭化水素基であっても良い。また、一部に酸素を含んでいても良い。本発明で適用する保護剤の好適な具体例としては、下記のアミン化合物が挙げられる。
【0026】
【表1】
【0027】
上記したアミン化合物からなる保護剤は、金属ペースト中の全ての銀粒子に結合していることが好ましい。本発明では、粒径100〜200nmの銀粒子を必須とするが、この範囲外の粒径の銀粒子が混在することも許容する。このような異なる粒径範囲の銀粒子が混在する場合であっても、粒径100〜200nmの銀粒子の保護剤が上記アミン化合物であることが当然要求されるが、100〜200nmの範囲外の銀粒子についても上記のアミン化合物の保護剤が結合していることが求められる。但し、全く同一の化合物である必要はなく、炭素数の総和が4〜8のアミン化合物(例えば、表1記載の範囲内)であれば相違する保護剤を含んでいても良い。
【0028】
本発明に係る金属ペーストにおいては、低温焼結性の確保のため、保護剤であるアミン化合物が過不足ない量で含まれており、銀粒子に対して結合していることが好ましい。保護剤が少ない場合、銀粒子への保護効果が足りず、保管時において銀粒子同士が凝集して低温焼結性が損なわれることとなる。また、過剰に保護剤が銀粒子に結合する場合、焼結時にアミン消失による銀焼結体の体積収縮が大きくなり、焼結体にひび割れが多く発生するおそれがある。従って、本発明に係るペースト中の保護剤(アミン化合物)の量に関しては、ペースト中の窒素濃度と銀濃度のバランスが重要である。具体的には、窒素濃度(質量%)と銀粒子濃度(質量%)との比(N(質量%)/Ag(質量%))で0.0003〜0.003であるものが好ましい。0.0003未満では銀粒子への保護効果が不足し、0.003を超えると焼結体に割れが発生するおそれが生じる。尚、金属ペースト中の窒素濃度は、ペーストの元素分析(CHN分析等)により測定可能であり、銀粒子濃度はペースト製造時に使用する銀粒子質量及び溶剤量から容易に求めることができる。
【0029】
そして、上記にて説明した保護剤が結合した銀粒子は、溶剤中で分散・懸濁することで金属ペーストとなる。この溶剤としては、炭素数8〜16で構造内にOH基を有する沸点280℃以下の有機溶剤が好ましい。銀粒子の焼結温度の目標を150℃以下とする場合、沸点280℃を超える溶剤は揮発・除去が困難だからである。この溶剤の好ましい具体例としては、ターピネオール(C10、沸点219℃)、ジヒドロターピネオール(C10、沸点220℃)、テキサノール(C12、沸点260℃)、2,4−ジメチル−1,5−ペンタジオール(C9、沸点150℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチレート(C16、沸点280℃)が挙げられる。溶剤は複数種を混合して使用しても良く、単品で使用しても良い。
【0030】
ペースト全体における溶剤と固形分(銀粒子)との混合比率については、溶剤含有率を質量比で5%〜60%とするのが好ましい。5%未満ではペーストの粘度が高くなりすぎる。また、60%を超えると必要な厚さの焼結体を得るのが困難となる。
【0031】
尚、本発明に係る金属ペーストは、添加剤として高分子量エチルセルロースを必須的に含むが、エチルセルロース以外の添加剤を必要に応じて添加しても良い。エチルセルロース以外の添加剤として、高分子樹脂からなるバインダーを用いることができる。この高分子樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。本発明に係る金属ペーストにこのようなバインダーを添加することで、液晶ポリマーに対する密着性の向上を図ることができる。このバインダーについては、本発明に係る金属ペーストに対する質量比で0.8〜2.5%含有することが好ましく、1.0〜1.5%含有することが特に好ましい。但し、本発明に係る金属ペーストは、多様な基材に対して密着性が良好であるので、バインダーの添加は必須ではない。
【0032】
次に、本発明に係る金属ペーストの製造方法について説明する。本発明に係る金属ペーストは、上記した粒径100〜200nmの銀粒子を30%以上含む固形分を溶剤に混練することで製造されるものであり、金属ペースト中には、添加剤として数平均分子量が40000〜90000である高分子量エチルセルロースを含む。粒径100〜200nmの銀粒子を30%以上含む銀粒子からなる固形分を製造するためには、粒径及び粒度分布を調整しつつ銀粒子を製造することが要求される。本発明の反応系は、前駆体である銀−アミン錯体、水分のみを基本として構成されることが好ましい。任意で、後述する均一化剤を含むものとしてもよい。尚、反応には関与しないが、金属ペーストの添加剤であるエチルセルロースを、任意に反応系中に含むものとしてもよい。
【0033】
ここで本発明では、銀粒子の製造方法として、銀錯体を前駆体とした熱分解法を採用する。熱分解法は、シュウ酸銀(Ag
2C
2O
4)等の熱分解性を有する銀化合物を出発原料とし、これに保護剤になる有機化合物とで銀錯体を形成し、これを前駆体として加熱し、銀粒子を得る方法である。熱分解法は上記特許文献2でも適用されている方法であり、液相還元法(特許文献1に記載の方法)等の他の銀粒子製造方法より粒径調整が容易であり、比較的粒径の揃った銀粒子の製造が可能である。
【0034】
但し、本発明者等によれば、これまでの熱分解法は、平均粒径で数nm〜十数nmとなる微細な銀粒子の製造に好適であるが、本発明の対象となる粒径100〜200nmの中程度に大きな粒径範囲を有する銀粒子を優先的に製造することは困難であった。本発明者等は熱分解法による銀粒子の生成機構を考慮し、銀錯体を熱分解して銀粒子とする際の反応系中の水分量を調整することで、粒径100〜200nmの銀粒子を優先的に製造できるとした。
【0035】
即ち、本発明における銀粒子の製造方法は、熱分解性を有する銀化合物とアミンとを混合して前駆体である銀−アミン錯体を製造し、前記前駆体を含む反応系を加熱することで銀粒子を製造する方法であって、前記加熱前の反応系の水分含有量を銀化合物100質量部に対して5〜100質量部とする。
【0036】
本発明の銀粒子の製造方法において、出発原料となる熱分解性を有する銀化合物としては、シュウ酸銀、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、亜硝酸銀、安息香酸銀、シアン酸銀、クエン酸銀、乳酸銀等を適用できる。これら銀化合物のうち、特に好ましいのは、シュウ酸銀(Ag
2C
2O
4)又は炭酸銀(Ag
2CO
3)である。シュウ酸銀や炭酸銀は、還元剤を要することなく比較的低温で分解して銀粒子を生成することができる。また、分解により生じる二酸化炭素はガスとして放出されることから、溶液中に不純物を残留させることも無い。
【0037】
尚、シュウ酸銀については、乾燥状態において爆発性があることから、水又は有機溶媒(アルコール、アルカン、アルケン、アルキン、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、脂肪酸、芳香族、アミン、アミド、ニトリル等)からなる分散溶媒を混合し、湿潤状態にしたものを利用するのが好ましい。湿潤状態とすることで爆発性が著しく低下し、取り扱い性が容易となる。このとき、シュウ酸銀100質量部に対して、5〜200質量部の分散溶媒を混合したものが好ましい。分散溶媒の種類としては、水のみを適用することが好ましい。また、上記のとおり、本発明は反応系の水分量を厳密に規定しているため、水の混合は、規定量を超えない範囲にする必要がある。
【0038】
銀粒子の前駆体となる銀−アミン錯体は、上記銀化合物とアミン化合物とを混合・反応させて生成する。ここで使用するアミンは、上記の炭素数の総和が4〜8のアミン化合物が適用される。
【0039】
アミン化合物の混合量は、アミン化合物(保護剤)の質量と銀化合物中の銀の質量との比(アミン化合物(保護剤)の質量/Ag質量)で2〜5となるようにしてアミン化合物量を調整する。未反応の銀化合物を生じさせることなく、十分な銀−アミン錯体を生成させるためである。尚、銀粒子に過剰なアミン化合物が結合していても、銀粒子製造後の洗浄により除去されることとなる。
【0040】
銀化合物とアミン化合物との反応により銀−アミン錯体が生成し、銀粒子製造のための反応系が形成される。その後、この反応系を加熱することで銀粒子は生成するが、本発明ではこの段階において反応系中の水分量を規定する。反応系中の水分は、錯体の分解工程において加熱を均一に進行させる緩衝剤として作用すると考えられる。本発明では、水の緩衝作用を利用して、加熱時の反応系内の温度差を緩和しつつ、銀粒子の核生成や核成長を均一化しつつ促進するものである。
【0041】
反応系の水分含有量は、銀化合物100質量部に対して5〜100質量部の範囲内であることが必要である。水分含有量の好適範囲は5〜95質量部であり、さらに好適な範囲は5〜80質量部である。水分量が少ない(5質量部未満)と、得られる銀粒子の粒径は100nm未満の微小なものが主体となり、100〜200nmの銀粒子の割合が少なくなる。一方、水分量が多い(100質量部を超える)と、銀粒子の粒径バラつきが大きくなりすぎ100〜200nmの銀粒子の割合が少なくなる傾向となる。
【0042】
尚、この反応系の水分含有量とは、加熱工程の直前段階における水分量であり、それまでに反応系に添加された水の量を考慮する必要がある。上記の通り、銀化合物としてシュウ酸銀を適用するときには、予め水を添加した湿潤状態で使用する場合があるが、この予め添加した水の量も、水分量に含められる。このため、銀化合物や均一化剤に予め添加された量だけで、水分含有量の規定範囲内となる場合、別途反応系の水分量を調節することなく、そのまま加熱することができる。一方、予め添加された量が、水分含有量の下限値(5質量部)より少なければ、別途単独で水を添加する等、水分量の調整が必要となる。水を添加するタイミングは、加熱工程の前であればよく、銀−アミン錯体の形成前、あるいは錯体形成後の、いずれの段階で添加してもよい。
【0043】
そして、本発明は、銀−アミン錯体と適正範囲の水分で反応系を構成しつつ、添加剤としてエチルセルロース(高分子量、低分子量)を適用するものである。エチルセルロースは、金属ペースト製造のいずれのタイミングで添加してもよく、銀粒子からなる固形分と溶剤とを混錬した後に添加することが好ましい。金属ペースト中に、エチルセルロースが均一に分散しやすいためである。尚、高分子量エチルセルロースと、低分子量エチルセルロースとは、混合してから一度に添加しても良く、別々に添加しても良い。
【0044】
また、本発明の銀粒子の製造方法においては、エチルセルロース以外に添加できる添加剤として、粒径分布の調整(100〜200nmの銀粒子の割合の増大)、銀錯体の更なる安定化を図るための添加剤を含むこともできる。具体的には、粒径分布を調整するための均一化剤を適用できる。この均一化剤は、アミドを骨格として有する化1で示される有機化合物である。この均一化剤は、反応系中の銀−アミン錯体の安定性を均一なものとして、錯体分解により銀粒子が生成する際の核生成・成長のタイミングを揃えることで、銀粒子の粒径を揃える添加剤である。
【0045】
【化1】
【0046】
均一化剤として機能する有機化合物は、その骨格にアミド(カルボン酸アミド)(N−C=O)を有することを要件とする。アミドの置換基(R、R’、R’’)には、Rとして水素、炭化水素、アミノ基又はこれらの組合せからなるアミノアルキル等を、また、R’、R’’として水素又は炭化水素を適用できる。本発明者等によれば、均一化剤である有機化合物のアミドが、銀−アミン錯体のアミン部分に作用して錯体が安定する。均一化剤である有機化合物の具体例としては、尿素及び尿素誘導体の他、N,N−ジメチルフォルムアミド(DMF:(CH
3)
2NCHO)、N,N−ジエチルフォルムアミド(DEF:(C
2H
5)
2NCHO)、N,N−ジメチルアセトアミド(C
4H
9NO)、N,N−ジメチルプロピオンアミド(C
5H
11NO)、N,N−ジエチルアセトアミド(C
6H
13NO)等が挙げられる。尿素誘導体としては、1,3-ジメチル尿素(C
3H
8N
2O)、テトラメチル尿素(C
5H
12N
2O)、1,3-ジエチル尿素(C
5H
12N
2O)などが挙げられる。
【0047】
均一化剤を反応系への添加する場合、その量は銀化合物の銀のモル数(mol
Ag)に対する均一化剤のモル数(mol
均一化剤)の比(mol
均一化剤/mol
Ag)で、0.1以上とするのが好ましい。均一化剤として複数の有機化合物を同時に用いる場合は、その合計添加量を0.1以上とするのが好ましい。上記モル比が0.1未満であると、その効果が生じ難い。一方、上記モル比の上限値(均一化剤の上限量)については特に規定されるものではないが、銀粒子の純度を考慮すると銀化合物の銀に対して4以下とするのが好ましい。均一化剤は、液体の有機化合物の場合はそのまま添加するのが好ましい。また、尿素等のような固体の化合物の場合、固体のまま添加しても良く、水溶液で添加しても良い。但し、水溶液とする場合には、反応系の水分量を考慮する必要がある。
【0048】
そして、反応系について、水分含有量の確認がなされ、必要に応じて添加剤を添加した後、反応系を加熱することで銀粒子が析出する。このときの加熱温度は、銀−アミン錯体の分解温度以上とするのが好ましい。上述の通り、銀−アミン錯体の分解温度は、銀化合物に配位するアミンの種類によって相違するが、本発明で適用されるアミン化合物の銀錯体の場合、具体的な分解温度は、90〜130℃となる。
【0049】
反応系の加熱工程において、加熱速度は析出する銀粒子の粒径に影響を及ぼすことから、加熱工程の加熱速度の調整により銀粒子の粒径をコントロールすることができる。ここで、加熱工程における加熱速度は、設定した分解温度まで、2.5〜50℃/minの範囲で調整することが好ましい。
【0050】
以上の加熱工程を経て銀粒子が析出する。析出した銀粒子は、固液分離を経て回収されて金属ペーストの固形分となる。ここで重要なのは回収される銀粒子に過剰なアミン化合物が結合しないように洗浄を行うことである。上記の通り、本発明においては銀粒子に対するアミン化合物の結合量(ペースト中の窒素含有量)を適切にすることが好ましい。そのため、銀粒子表面の保護に必要最低限のアミン化合物を残し、余剰のアミン化合物を系外へ除去することが必要となる。そのため、本発明では析出した銀粒子の洗浄が重要となる。
【0051】
この銀粒子の洗浄は、溶媒としてメタノール、エタノール、プロパノール等の沸点が150℃以下のアルコールを適用するのが好ましい。そして、洗浄の詳細な方法としては、銀粒子合成後の溶液に溶媒を加え、懸濁するまで攪拌した後、デカンテーションで上澄み液を除去することが好ましい。アミンの除去量は、加える溶媒の体積と洗浄回数で制御可能である。上述の一連の洗浄作業を洗浄回数1回とする場合、好ましくは、銀粒子合成後の溶液に対して1/20〜3倍の体積の溶媒を使用し、1〜5回洗浄する。
【0052】
回収した銀粒子は固形分として適宜の溶剤と共に混練することで金属ペーストとすることができる。溶剤については上記したものが適用できる。尚、上記の工程による銀粒子の製造を2系統以上で行い、それらで製造される2種以上の銀粒子を混合したものを固形分とし、これを溶剤と混練して金属ペーストを製造しても良い。