特許第6491818号(P6491818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6491818
(24)【登録日】2019年3月8日
(45)【発行日】2019年3月27日
(54)【発明の名称】微生物を利用したブタノール生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/16 20060101AFI20190318BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20190318BHJP
   C12R 1/145 20060101ALN20190318BHJP
【FI】
   C12P7/16
   C12N1/20 A
   C12R1:145
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-25671(P2014-25671)
(22)【出願日】2014年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-149931(P2015-149931A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2017年1月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第65回日本生物工学会大会 講演要旨集(2013年8月25日)公益社団法人 日本生物工学会発行第60頁に発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】平野 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松本 伯夫
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−172290(JP,A)
【文献】 特開昭59−216591(JP,A)
【文献】 特表2011−522543(JP,A)
【文献】 電力中央研究所報告V11047,2012年10月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質と前記基質を消費しながらブタノールを含む代謝産物を増殖非連動的に生産するアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属細菌とを含み且つ前記クロストリジウム属細菌が増殖の定常期に相当する菌体密度で添加された培養液の液面に、前記培養液との分離性及びブタノール抽出能を有し且つ前記クロストリジウム属細菌に対して毒性を示さない有機溶媒の層を接触させながら、前記クロストリジウム属細菌を高密度培養する工程と、
さらに酸化体及び還元体の両形態をとり得るビオロゲンまたはビオロゲン誘導体を電子媒体物質として基質消費中期に前記クロストリジウム属細菌に電子を一時的に供給する工程とを含むことを特徴とするブタノール生産方法。
【請求項2】
前記電子を一時的に供給する工程は、前記電子媒体物質を含む前記培養液に電極を浸漬し、前記電極に一時的に還元電位を印加することにより行う、請求項に記載のブタノール生産方法。
【請求項3】
前記有機溶媒はオレイルアルコールである、請求項記載のブタノール生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を利用したブタノール生産方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、ブタノールを含む代謝産物を増殖非連動的に生産するブタノール生産微生物を高密度培養してブタノール生産を行う際に適用して好適なブタノール生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタノールは、エタノールよりもエネルギー含有量が多いことから次世代バイオ燃料として注目されている。また、イソプレン、イソブテン、ブテン等の様々な化学合成物質の原材料としても有用である。さらに、バイオディーゼル燃料の燃焼効率を向上させる添加剤としても有用である。これらのことから、効率的なブタノールの生産プロセスの確立が望まれている(非特許文献1及び2を参照)。
【0003】
近年、ブタノールを生産するための方法の一つとして、C.acetobutylicum等に代表されるクロストリジウム属細菌のアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を利用した方法が注目されている。ABE発酵では、グルコース等の基質を消費して対数増殖期には主に酢酸や酪酸といった有機酸が生成され(酸生成期)、定常期には主にブタノール、アセトン及びエタノールが6:3:1の比で増殖非連動的に生成される(アルコール生成期)。つまり、糖類等の基質からアルコールとしてブタノールとエタノールを同時に生産することができ、特にブタノールを優占的に生産することが可能である(例えば、非特許文献3を参照)。
【0004】
本件出願人である一般財団法人電力中央研究所は、クロストリジウム属細菌のアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を利用したブタノール生産方法に関し、電気培養を利用した方法に関する研究報告を非特許文献4において行っている。具体的には、C.acetobutylicumを高密度に充填した培養液に基質としてグルコースを添加すると共に電子媒体物質としてメチルビオロゲンを添加し、培養液に電極を浸漬して、電極への10分間程度の短時間の通電(還元電位の印加)をグルコースの消費中期に行うことで、非通電時よりもブタノールを増産できることを報告している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pfromma PH, Amanor-Boadub V, Nelson R,Vadlanid P, Madl R., Bio-butanol vs. bio-ethanol: A technical and economicassessment for corn and switchgrass fermented by yeast or Clostridiumacetobutylicum. Biomass and Bioenergy, 2010. 34(4): p. 515-524.
【非特許文献2】Vert A, Qureshi N,Yukawa H, Blaschek HP., Biomass to Biofuels: Strategies for Global Industries,2010.
【非特許文献3】D.T.JONES.1981. SolventProduction and Morphological changes in Clostridium acetobutylicum. Applied andEnvironmental Microbiology.
【非特許文献4】電力中央研究所報告V11047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献4で報告されている手法を用いれば、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌だけでなく、このような細菌と同様の性質を有する微生物、即ち、基質を消費しながらブタノールを含む代謝産物を増殖非連動的に生産するブタノール生産微生物の高密度培養を利用したブタノール生産において、ブタノールの増産を図ることができる可能性があるものと考えられる。
【0007】
しかしながら、非特許文献4で報告されている手法では、培養初期においてブタノールを増産することができないという問題がある。ブタノール生産微生物の高密度培養を利用したブタノール生産において、ブタノールをより効率良く生産する上では、培養初期においてもブタノールの増産を図ることのできる技術の確立が望まれる。
【0008】
また、培養液中のブタノールが高濃度になると、ブタノール生産微生物のブタノール生産能力が阻害されることが知られている。したがって、培養初期においてブタノールを増産できた場合、培養液中のブタノール濃度が早期に高濃度化してブタノール生産微生物のブタノール生産能力が阻害される可能性もある。そこで、ブタノール生産微生物の高密度培養を利用したブタノール生産においては、培養初期においてブタノールの増産を図りながらも、培養液中のブタノールの高濃度化によるブタノール生産微生物のブタノール生産能力の阻害を抑制して高いブタノール生産性を確保することのできる技術の確立が望まれる。
【0009】
本発明は、ブタノール生産微生物の高密度培養を利用したブタノール生産方法について、培養初期においてもブタノールの増産を図ることのできる方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、ブタノール生産微生物の高密度培養を利用したブタノール生産方法について、培養液中のブタノールの高濃度化によるブタノール生産微生物のブタノール生産能力の阻害を抑制して高いブタノール生産性を確保することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本願発明者等は鋭意検討を行い、培養液の液面に有機溶媒の層を接触させた状態でブタノール生産微生物の高密度培養を行うことによって、ブタノール生産微生物によって生産されるブタノールを有機溶媒の層に移行させることができ、培養液中のブタノールの高濃度化によるブタノール生産微生物のブタノール生産能力の阻害を抑制できるのではないかと考えた。そこで、この考え方に基づいて種々検討を行った結果、ある意外な知見を得るに至った。
【0012】
即ち、本願発明者等は、培養液の液面に有機溶媒としてオレイルアルコールの層を接触させた状態で基質としてグルコースを与えながらC.acetobutylicumの高密度培養を行うことで、培養液中のブタノールの蓄積が少ない培養初期から、グルコースの分解促進とブタノールの生産促進が生じるという意外な知見を得るに至った。
【0013】
また、本願発明者等は、上記知見を利用してさらなるブタノールの増産を目指し、検討を行った。その結果、酸化体及び還元体の両形態をとり得る電子媒体物質であるメチルビオロゲンを含む培養液に電極を浸漬し、グルコースの消費中期に電極に一時的に還元電位を印加することによって、通電を行った後において、さらなるグルコース分解促進とブタノール生産促進が生じることを知見するに至った。
【0014】
本願発明者等は、上記知見に基づき、C.acetobutylicumに限らず、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌全般について、さらにはブタノールを含む代謝産物を増殖非連動的に生産するブタノール生産微生物全般について、培養液の液面に、培養液との分離性及びブタノール抽出能を有し且つ培養対象たるブタノール生産微生物に対して毒性を示さない有機溶媒の層を接触させながら基質を与えて高密度培養を行うことで、培養初期においてグルコース分解促進効果とブタノール生産促進効果が奏される可能性が導かれることを知見した。さらに、この構成に加えて、酸化体及び還元体の両形態をとり得る電子媒体物質を介して基質消費中期にブタノール生産微生物に電子を一時的に供給することによって、培養初期においてグルコース分解促進効果とブタノール生産促進効果が奏されることに加えて、電子を供給した後において、さらなるグルコース分解促進効果とブタノール生産促進効果が奏される可能性が導かれることを知見した。本願発明者等はこれらに知見についてさらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明のブタノール生産方法は、基質と前記基質を消費しながらブタノールを含む代謝産物を増殖非連動的に生産するアセトン・ブタノール・エタノール発酵(ABE発酵)を行うクロストリジウム属細菌とを含み且つ前記クロストリジウム属細菌が増殖の定常期に相当する菌体密度で添加された培養液の液面に、前記培養液との分離性及びブタノール抽出能を有し且つ前記クロストリジウム属細菌に対して毒性を示さない有機溶媒の層を接触させながら、前記クロストリジウム属細菌を高密度培養する工程と、さらに酸化体及び還元体の両形態をとり得るビオロゲンまたはビオロゲン誘導体を電子媒体物質として基質消費中期に前記クロストリジウム属細菌に電子を一時的に供給する工程とを含むようしている。また、この工程は、電子媒体物質を含む培養液に電極を浸漬し、この電極に一時的に還元電位を印加することにより行うことが好ましい。
【0017】
また、本発明のブタノール生産方法において、有機溶媒はオレイルアルコールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のブタノール生産方法によれば、培養液の液面に有機溶媒の層を接触させた状態でブタノール生産微生物の高密度培養を行うことによって、ブタノール生産微生物によって生産されるブタノールを有機溶媒の層に移行させ、培養液中のブタノールの高濃度化によるブタノール生産微生物のブタノール生産能力の阻害を抑制して高いブタノール生産性を確保することが可能となる。しかも、培養液中の菌体密度を増殖の定常期に相当する菌体密度とすることで、培養開始直後即ち培養液中のブタノールの蓄積が少ない培養初期からグルコースの分解促進とブタノールの生産促進が生じてブタノール生産微生物にブタノールを含む代謝産物を生産させることができるので、培養初期においてもブタノールの増産を図ることが可能となる。
【0019】
また、本発明のブタノール生産方法によれば、さらにグルコースの消費中期に電極に一時的に還元電位を印加することによって、培養初期においてグルコース分解促進効果とブタノール生産促進効果が奏されることに加えて、電子を供給した後にさらなるグルコース分解促進効果とブタノール生産促進効果が奏され、高いブタノール生産性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一の実施形態にかかるブタノール生産方法の概念を示す図である。
図2】本発明の第二の実施形態にかかるブタノール生産方法の概念を示す図である。
図3】使用した有機溶媒種に対するC.acetobutylicumの菌体密度の経時変化を検討した結果を示す図である。
図4】有機溶媒としてオレイルアルコールを使用した場合のブタノールの抽出率を検討した結果を示す図である。
図5】実施例において使用した培養装置の構成概略図である。
図6】本実施例の培養試験において、培養液中のグルコース濃度の経時変化について検討した結果を示す図である。
図7】本実施例の培養試験において、培養液中のエタノール濃度(A)及びブタノール濃度(B)の経時変化について検討した結果を示す図である。
図8】本実施例の培養試験後において、有機溶媒層を備えた際の通電の有無の違いによる各相中でのエタノール容量(A)及びブタノール容量(B)について検討した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
<第一の実施形態>
図1に、本発明のブタノール生産方法の第一の実施形態にかかる概念図を示す。第一の実施形態にかかるブタノール生産方法は、基質3を含み且つ基質3を消費しながらブタノールを含む代謝産物7を増殖非連動的に生産するブタノール生産微生物2が高密度に充填された培養液4の液面に、培養液4との分離性及びブタノール抽出能を有し且つブタノール生産微生物2に対して毒性を示さない有機溶媒の層8を接触させながら、ブタノール生産微生物2を高密度培養する工程を含むようにしている。
【0023】
本発明のブタノール生産方法における高密度培養の対象となるブタノール生産微生物2は、ブタノールを含む代謝産物を増殖非連動的に生産する微生物であれば特に限定されないが、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌が好適である。ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌としては、例えばC.acetobutylicum,C.beijerinckii, C. saccharoperbutylacetonicum, C. saccharobutylicumが挙げられ、特にC.acetobutylicumの使用が好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
ブタノール生産微生物2は、増殖の定常期に相当する菌体密度またはこれに近い菌体密度で培養液4に添加する。例えば、ブタノール生産微生物2としてABE発酵を行うクロストリジウム属細菌を用いる場合には、増殖の定常期において増殖非連動的にソルベント(アセトン、ブタノール、エタノール)が生産されるので、培養液4中の菌体密度を増殖の定常期に相当する菌体密度とすることで、培養開始直後からブタノール生産微生物2にブタノールを含む代謝産物7を生産させることができる。
【0025】
培養液4の組成は、培養対象となるブタノール生産微生物2の種類に応じて適宜選択される。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌を用いる場合には、TYA培地、より好適には酢酸を含むTYA培地を用いることが好適である。酢酸を含むTYA培地を用いることで、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌にブタノール生産を早期に行わせることが可能となる。但し、培養液4の組成は、これらには限定されない。また、培養方法としては、流加培養等の連続的な培養方法が挙げられるが、この方法に限定されるものではない。
【0026】
基質3は、ブタノール生産微生物2の代謝産物生成源となる物質であり、培養対象となるブタノール生産微生物2の種類に応じて適宜選択される。ここで、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌を用いる場合には、グルコース等の単糖、デンプン、セルロース及びキシラン等の多糖類を基質として使用できるのは勿論のこと、紙、小麦わら及び稲わら等の植物繊維質、生ごみ、農産廃棄物、焼酎蒸留廃液、余剰汚泥(活性汚泥)の生ごみの混合物、デンプン廃液、並びに廃パーム繊維などといった各種バイオマス系廃棄物を幅広く基質として使用することができる。このようなバイオマス系廃棄物を用いることで、ブタノール生産にかかるコストをさらに低減しながらも、バイオマス系廃棄物の有効利用の促進を図ることができる。
【0027】
基質3の培養液4中の濃度については、ブタノール生産微生物2の高密度培養を行う際に設定される一般的な濃度よりも高濃度としても構わない。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌を用い、基質3をグルコースとする場合、培養液4中のグルコースの濃度を、60〜1110mM、好適には200〜900mM、より好適には400〜700mM、さらに好適には500〜600mM程度とすることができるが、必ずしもこの添加量に限定されるわけではない。
【0028】
有機溶媒の層8を構成する有機溶媒としては、培養液4との分離性及びブタノール抽出能を有し且つこのブタノール生産微生物2に対して毒性を示さないものを適宜用いることができる。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌を用いる場合には、オレイルアルコールを用いることが好適であるが、必ずしもこの有機溶媒に限定されるものではない。
【0029】
第一の実施形態では、培養液4の液面に、培養液4との分離性及びブタノール抽出能を有し且つブタノール生産微生物2に対して毒性を示さない有機溶媒の層8を接触させることによって、ブタノール生産微生物2により生産されるブタノール7が有機溶媒の層8に移行する。その結果、培養液4にブタノールが高濃度に蓄積することによって生じるブタノール生産微生物2のブタノール生産能力の阻害が抑制される。しかも、第一の実施形態では、このような効果だけではなく、培養液中のブタノールの蓄積が少ない培養初期におけるブタノール生産微生物2の基質分解促進効果及びブタノール生産促進効果という予測し得ない効果が奏される。このような効果が奏されることによって、ブタノール生産微生物2の高密度培養を利用したブタノールの生産において、培養初期においてもブタノールを増産することが可能となる。
【0030】
<第二の実施形態>
図2に、本発明のブタノール生産方法の第二の実施形態にかかる概念図を示す。第二の実施形態にかかるブタノール生産方法は、第一の実施形態にかかるブタノール生産方法に加えて、さらに、酸化体及び還元体の両形態をとり得る電子媒体物質5を介して基質消費中期にブタノール生産微生物2に電子を一時的に供給する工程をさらに含むようにしている。具体的には、この工程を、電子媒体物質5を含む培養液4に電極9を浸漬し、電極9に一時的に還元電位を印加することにより行うようにしている。
【0031】
電子媒体物質5としては、酸化体及び還元体の両形態をとり得る物質であり、且つブタノール生産微生物2を失活させることのない物質が適宜選択される。例えば、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌を用いる場合には、電子媒体物質5は、ビオロゲン又はビオロゲン誘導体とすることが好適である。ビオロゲン誘導体としては、メチルビオロゲン、エチルビオロゲン、ベンジルビオロゲン等を用いることができ、メチルビオロゲンを用いることが好適である。但し、電子媒体物質5はこれらに限定されるものではない。
【0032】
電子媒体物質5の添加量は、電子媒体物質5の種類、使用するブタノール生産微生物2の種類、菌体密度等に応じてその最適量が適宜変化するが、概ね0.5〜10mM、好適には0.5〜5mM、より好適には0.5〜3mM、さらに好適には2mM程度とすればよい。電子媒体物質5の添加量が少なすぎるとブタノールの増産効果が得られにくくなる。また、電子媒体物質5の添加量が多すぎると、電子媒体物質5の種類によってはブタノール生産微生物2の活性が阻害されることもあり得る。例えば、電子媒体物質5をビオロゲン誘導体とし、その濃度を0.5〜3mM、特に1〜2mMとすることで、ABE発酵を行うクロストリジウム属細菌が極めて顕著なブタノール生産性向上効果を奏し得る。
【0033】
尚、電子媒体物質5の培養液4への添加のタイミングは、電極9に通電を行う前であれば特に限定されるものではなく、培養開始時から電子媒体物質5の培養液4中に含ませるようにしても構わない。
【0034】
電極9としては、例えば炭素板やグラッシーカーボン等の炭素電極、白金電極等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
電極9に還元電位を印加することで、培養液4中の電子媒体物質5が酸化体から還元体に還元される。そして、還元型の電子媒体物質5からブタノール生産微生物2への電子の供給が起こり、その際に還元型の電子媒体物質5は酸化体に酸化される。つまり、ブタノール生産微生物2への電子媒体物質5を介した電子の供給が起こる。
【0036】
電極9に印加する還元電位の値は、電子媒体物質5のサイクリックボルタモグラムに基づいて求めることができる。電子媒体物質5をメチルビオロゲン(MV)とした場合を例に挙げて説明すると、サイクリックボルタモグラムから、MVの酸化還元反応は、−0.61V、−0.93Vを酸化ピーク、−0.68V、−1.0Vを還元ピークとした2電子反応であり、MVの2電子還元体(MV)は不溶化することから、1電子還元体生成のための還元電位は−0.7V程度とすればよいと判断することができる。他の電子媒体物質を用いた場合にも、同様の考え方で還元電位を設定することができる。
【0037】
ここで、本発明においては、電極9への還元電位の印加を一時的に行うようにして、ブタノール生産微生物2への電子媒体物質5を介した電子の供給を一時的に行うようにしている。このようにすることで、電極9に連続的に還元電位を印加した場合に生じる基質消費抑制作用を回避することができる。さらには、細胞内還元力の増加、NADHの増加が生じる一方で、ブタノールやエタノール以外の代謝副産物の合成抑制、菌体構成成分(アミノ酸や核酸)の合成抑制が生じる。つまり、不要な炭素や還元力の浪費を抑制し、ブタノール(さらにはエタノール)が生産されやすい状態とすることができる。これにより、基質3に対するブタノール生産性が向上する。
【0038】
換言すれば、本発明におけるブタノール生産微生物2への電子媒体物質5を介した一時的な電子の供給は、ブタノール生産微生物2の代謝経路をブタノールを生産し易い代謝経路へスイッチングする役割、あるいはブタノール生産微生物2の代謝経路をブタノールを生産し易い状態へ誘導するトリガーとしての役割を果たしていると言える。
【0039】
ここで、通電開始タイミングは、ブタノール生産微生物2の基質消費期間中とすればよいが、培養液4の液面に有機溶媒の層8を接触させた際の基質消費期間全体を1としたときに、基質消費期間のうち0.1〜0.9の期間内に通電を開始することが好適であり、0.3〜0.7の期間内に通電を開始することがより好適であり、0.4〜0.6の期間内に通電を開始することがさらに好適である。
【0040】
また、通電時間については、短すぎると投入した基質に対するブタノール生産量を向上させる効果が得られ難くなり、長すぎると基質の消費抑制が起こることによりブタノールの生産量が減少する虞がある。したがって、培養環境中の電子媒体物質5の全量を還元させることができる時間、例えば、5分間〜15分間、好適には7分間〜13分間、より好適には9分から11分間程度、さらに好適には10分間程度とすればよいが、必ずしもこれらの時間に限定されるものではなく、本発明の効果を奏し得る範囲でこれらの時間を逸脱しても構わない。
【0041】
また、本発明において、ブタノール生産微生物2への電子媒体物質5を介した一時的な電子の供給は、1回行えば十分な効果が得られうるが、上記期間内に複数回行うようにしてもよい。これにより、投入した基質に対するブタノールの生産性をさらに向上させ得る。但し、1回目の通電から次回の通電までの間隔が短すぎると基質の消費が抑制されてブタノール生産量が減少する虞があるので、2〜4時間程度、好適には3時間程度の間隔を設けることが好適である。
【0042】
第二の実施形態にかかるブタノール生産方法によれば、第一の実施形態にかかるブタノール生産方法により奏される効果、即ち、培養液4にブタノールが高濃度に蓄積することによって生じるブタノール生産微生物2のブタノール生産能力の阻害が抑制される効果、培養初期におけるブタノール生産微生物2の基質分解促進効果及びブタノール生産促進効果に加えて、通電を行った後におけるさらなるグルコース分解促進効果とブタノール生産促進効果が奏される。したがって、ブタノール生産微生物2の高密度培養を利用したブタノールの生産において、ブタノールの大幅な増産が可能となる。
【0043】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、ブタノール生産微生物2を含む培養液中で電極9に還元電位を印加して電子媒体物質5を還元するようにしているが、電子媒体物質5を別の処理槽内にて電気化学的に還元して還元体として、これをブタノール生産微生物2が生息する培養液中に添加するようにしてもよい。この場合にも、ブタノール生産微生物2に電子媒体物質5を介した電子の供給が生じて、投入した基質に対するブタノール生産量の向上効果が奏され得る。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0045】
<実施例1>
培養液4との分離性及びブタノール抽出能を有し、且つクロストリジウム アセトブチリカム(C.acetobutylicum)に対して毒性を示さない有機溶媒の選定を行った。
【0046】
使用菌株は、製品評価技術基盤機構より購入したクロストリジウム アセトブチリカム(C.acetobutylicum) NBCR13948とした。
【0047】
C.acetobutylicumは、以下に示す組成を有するチオグリコール酸培地を使用し、嫌気条件下(培養容器であるガラスバイアル瓶内の気相部分を窒素置換)にて、30℃で振とう培養してから培養試験に供した。
[チオグリコール酸培地組成(g/L)]
・L−システイン :0.5
・塩化ナトリウム :2.5
・グルコース :5.0
・酵母エキス :5.0
・カゼインペプトン:15.0
・チオグリコール酸:0.5
pH7.0
【0048】
培養試験は、以下のようにして実施した。まず、100mL容のガラスバイアル瓶に培養液4としてTYA培地を40mL収容した。
[TYA培地の組成(g/L)]
・グルコース :10.0
・トリプトン :6.0
・酵母エキス :2.0
・酢酸アンモニウム :3.0
・リン酸二水素カリウム :0.5
・硫酸マグネシウム七水和物:0.3
・硫酸鉄七水和物 :0.01
pH7.0
【0049】
培養液4に、チオグリコール酸培地で振とう培養したC.acetobutylicumを初期菌体密度1×10cells/mLとなるように添加した。さらに、以下の6種類の有機溶媒を培養液4に8mL添加し、培養液4の液面に有機溶媒の層8を接触させて、嫌気条件下(ガラスバイアル瓶内の気相部分を窒素置換)にて、30℃で振とう培養した。
[検討した有機溶媒]
・1−ペンタノール
・シクロヘキサノール
・2−エチル−1−ヘキサノール
・酢酸イソアミル
・1−ドデカノール
・オレイルアルコール
【0050】
菌体密度の経時変化を光学顕微鏡を用いて直接計測した結果を図3に示す。有機溶媒をオレイルアルコールとした場合には、有機溶媒を添加していない場合と同様の増殖傾向を示したことから、オレイルアルコールについてはC.acetobutylicumに対して毒性を示さないことが明らかとなった。
【0051】
次に、菌体非存在下において、培養液4にブタノールを1mM添加し、有機溶媒としてオレイルアルコールを用いた場合のブタノールのオレイルアルコールへの移行(抽出)状態について検討した。培養液4のブタノール濃度は液体クロマトグラフィー(Lachrome Elite, Hitachi)、Gelpackカラム(GL−C610H−S)、検出器としてはRI検出器を用いて分析を行った。有機溶媒4のブタノール濃度はガスクロマトグラフィー(GC400、GLサイエンス)、InertCap5カラムを用いて分析を行った。
【0052】
ブタノール濃度の分析結果を図4に示す。培養液4にオレイルアルコールの層を接触させることで、培養液4中のブタノールがオレイルアルコール層に移行することが確認できた。また、ブタノールの抽出効率(培養液4とオレイルアルコール層の双方に含まれるブタノール量の総和に対する、オレイルアルコール層に含まれるブタノール量)が69%となり、ブタノール抽出効率も高いことが明らかとなった。
【0053】
そこで、以降の実施例では、有機溶媒としてオレイルアルコールを用いることとした。
【0054】
<実施例2>
有機溶媒としてオレイルアルコールを用い、C.acetobutylicumを培養対象として各種培養試験を実施した。
【0055】
使用菌株は実施例1と同様とし、実施例1と同様にチオグリコール酸培地で嫌気条件下で30℃で振とう培養してから培養試験に供した。
【0056】
実施例2において使用した培養装置1の構成を図5に示す。側面に2つの開口部を設けた250mL容のDuran製ガラスバイアル瓶(以下、容器20と呼ぶ)を培養槽とした。容器20には蓋30を取り付けた。蓋30の上面30aにはシリコーンゴム栓を設けて、配線等を通した際の容器20の密閉性を確保した。
【0057】
対極槽として小容器21を用いた。具体的には、15mL容プラスチックチューブを縦に切断し、切断面に陰イオン交換膜6(株式会社アストム製、型番:ネオセプタ AMX)を接着して半筒状に加工したものを小容器21とした。陰イオン交換膜6の面積は12cmとした。小容器21の内部には電解液4aを収容すると共に対電極10を収容して電解液4aに浸した。小容器21の上部はシリコン系接着剤で埋めて密閉した。
【0058】
容器20に培養液4を収容し、培養液4に小容器21と作用電極9を浸漬した。作用電極9と対電極10の配線は、蓋30に設けたシリコーンゴム栓を介して容器20の外側に引き出した。銀・塩化銀参照電極11(RE−1B、BAS株式会社)は容器20の側面に設けられた二つの開口部のうちの下方から差し込んで培養液4と接触させた。
【0059】
培養期間中に容器20内にて発生したガスは、容器20の上部に設置したアルミニウム製サンプリングバッグ(ジーエルサイエンス製、商品名:アルミニウムバッグ、1L、図示省略)に回収した。
【0060】
作用電極9と対電極10は共に炭素板(7.5cm×2.5cm)とした。
【0061】
容器20に収容した培養液4はTYA培地とした。また、培養液4には、電子媒体物質5として、酸化型のメチルビオロゲン(MV)を最終濃度2mMとなるように添加した。尚、図5中、符号5aは電子媒体物質5の還元体であり、符号5bは電子媒体物質5の酸化体である。さらに、培養液4には、グルコースを100g/L(555mM)添加した。
【0062】
小容器21に収容した電解液4aは100mMリン酸緩衝液(pH4.5、10mL)とした。
【0063】
尚、培養液4としてのTYA培地には、40mMの酢酸を添加し、定常期に到達したC. acetobutylicumのブタノール生産能の長期間培養による失活を抑制した(Paredes CJ, Jones SW,Senger RS, Borden JR, Sillers R, Papoutsakis ET., Molecular Aspects of ButanolFermentation. Bioenergy, 2008)。また、C. acetobutylicumは、pH4.7以下の条件においてアルコール生成が誘導されることが報告されていることから、培養液4のpHを1MのHClにより4.5に調整した。
【0064】
さらに、培養液4には、有機溶媒としてオレイルアルコールを40mL添加し、培養液4の液面に有機溶媒(オレイルアルコール)の層8を接触させた。
【0065】
容器20を密栓した後、容器20の側面に設けられた二つの開口部のうちの上方の開口部から窒素ガス通気を1時間行った。培養装置1を恒温槽内に設置後、作用電極9と対電極10と参照電極11とを3電極式の定電位設定装置(ポテンシオスタット)12に結線して、作用電極9の電位を厳密に制御可能とした。
【0066】
植菌源としては、チオグリコール酸培地(1.2L)を用いて前培養を行い定常期に移行した菌体を回収、新しい培地で洗浄後、190mLの培養液4を含む培養装置1’に初期菌体密度1×10cells/mL(定常期の菌体密度に相当)となるように植菌を行って培養液4の総量を200mLとし、各種条件で培養試験を実施した。試験中、培養液4の温度は30℃に制御した。また、培養液4には撹拌子を入れて、試験中は培養液4を撹拌し続けた。
【0067】
上記の構成により、以下の培養試験(a)〜(e)を実施した。培養試験(a)及び(b)が有機溶媒層有りの二相式の条件であり、その他が有機溶媒層無しの一相式の条件である。
(a)MV添加有り、有機溶媒層有り、通電有り(作用電極9の電位:−0.7V)
(b)MV添加有り、有機溶媒層有り、通電無し
(c)MV添加無し、有機溶媒層無し、通電無し
(d)MV添加有り、有機溶媒層無し、通電無し
(e)MV添加有り、有機溶媒層無し、通電有り(作用電極9の電位:−0.7V)
【0068】
尚、通電は、培養3日目から1日3回(11時、14時、17時)、10分間行うようにした。
【0069】
培養試験期間中は、定期的に容器20の側面の開口部から培養液4を抜き取り、培養液4の成分の分析を行った。培養液4の成分のうちグルコースはグルコースCIIテストワコー(Wako)を用い、エタノールとブタノールは液体クロマトグラフィー(Lachrome Elite, Hitachi)、Gelpackカラム(GL−C610H−S)、検出器としてはRI検出器を用い定量分析を行った。また、培養試験終了後に有機溶媒を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC400、GLサイエンス)、InertCap5カラムにてエタノールとブタノールの分析を行った。
【0070】
図6に、培養試験(a)〜(e)における培養液4中のグルコース濃度の経時変化を示す。二相式の条件である培養試験(a)及び(b)と、一相式の条件である培養試験(c)〜(e)とを比較すると、二相式の条件である培養試験(a)及び(b)の方がグルコース濃度の低下が起こりやすいことが明らかとなった。しかも、意外なことに、二相式の条件である培養試験(a)及び(b)では、培養液4中のブタノールの蓄積が少ない培養初期から、グルコースの分解促進が起こっていることが明らかとなった。以上の結果から、ブタノール生産微生物2の高密度培養を利用したブタノール生産において、培養液4の液面に有機溶媒の層8を接触させることによって、培養初期からグルコース分解促進効果が奏されることが明らかとなった。尚、培養初期においては、MVの還元にともなう培養液4の色の変化は殆ど見られなかったことから、培養初期におけるグルコース分解促進効果に対して、MVが関与している可能性は低いと考えられた。
【0071】
また、培養試験(a)及び(b)の結果を比較すると、培養試験(a)において通電後にさらなるグルコース分解促進効果が奏されることが明らかとなった。
【0072】
次に、培養試験(a)〜(e)における培養液4中のエタノール濃度とブタノール濃度の経時変化を図7に示す。図7中、(A)がエタノール濃度の経時変化であり、(B)がブタノール濃度の経時変化である。ブタノール濃度の経時変化は、図6に示すグルコース濃度の経時変化を反映するものとなっていた。即ち、二相式の条件である培養試験(a)及び(b)と、一相式の条件である培養試験(c)〜(e)とを比較すると、二相式の条件である培養試験(a)及び(b)の方がブタノールの生産が促進されることが明らかとなった。しかも、二相式の条件である培養試験(a)及び(b)では、培養液4中のブタノールの蓄積が少ない培養初期から、ブタノールの生産促進が起こっていることが明らかとなった。以上の結果から、ブタノール生産微生物2の高密度培養を利用したブタノール生産において、培養液4の液面に有機溶媒の層8を接触させることによって、培養初期からグルコース分解促進効果及びブタノール生産促進効果が奏されることが明らかとなった。
【0073】
また、培養試験(a)及び(b)の結果を比較すると、培養試験(a)において通電後にさらなるブタノール生産促進効果が奏されることが明らかとなった。具体的には、通電によって、2.5倍程度のブタノール増産効果が奏されることが明らかとなった。しかも、培養試験(a)における培養液4中のブタノール濃度は、C. acetobutylicumの発酵阻害が生じると言われているブタノール濃度である2%(250mM)に迫る濃度まで向上していたことから、有機溶媒の層8の使用と電極9への通電の組み合わせによって、極めて優れたブタノール増産効果が得られることが明らかとなった。
【0074】
尚、培養試験(a)及び(b)の結果を比較すると、培養試験(a)において通電後にエタノール生産促進効果が奏されることが明らかとなった。具体的には、通電によって、2倍程度のエタノール増産効果が奏されることが明らかとなった。
【0075】
次に、培養試験(a)及び(b)の終了後における培養液4中及び有機溶媒(オレイルアルコール)中のエタノール容量とブタノール容量の測定結果を図8に示す。図8中、(A)がエタノール容量の測定結果であり、(B)がブタノール容量の測定結果である。また、図中の棒グラフは、左から、培養液中の容量、オレイルアルコール中の容量、培養液及びオレイルアルコール中の総量である。通電を行うことで、エタノール容量及びブタノール容量ともに増加することが明らかとなった。また、通電を行った場合のブタノール容量は、培養液中とオレイルアルコール中の総量で325mMと極めて高濃度まで到達していることが明らかとなった。C. acetobutylicumはブタノール濃度250mMでブタノール生産阻害が起こることが知られており、本実施例では、C. acetobutylicumのブタノール生産阻害が起こる濃度を超えてブタノールを生産できることが明らかとなった。また、一相式で通電を行った場合のブタノール生産量と比較すると、約6.5倍ものブタノール生産量を確保できることが明らかとなった。以上の結果から、有機溶媒の層8の使用と電極9への通電の組み合わせによって、極めて優れたブタノール増産効果が得られることが明らかとなった。
【0076】
次に、通電による投入エネルギーに対し、通電により増産したブタノールの熱量(エネルギー)の比率(ΔWButanol/Win)を、二相式の培養試験(a)及び(b)の結果から、以下の式により計算した。
ΔWButanol=(ブタノールの燃焼熱量)×(ブタノールの増産量)
in=Eap×C
ここで、ブタノールの燃焼熱量は2675.9[kJ/mol]である。ブタノールの増産量は、通電時のブタノール生産量[mol]から非通電時のブタノール生産量[mol]を引いた場合である。Eapは印加電圧[V]である。Cは電気量[C]である。
計算した結果、ΔWButanol/Winは3.72となり、1を超える値となった。このことから、通電によるブタノールの増産効果は、エネルギー的にみても優れていることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0077】
2 ブタノール生産微生物
3 基質
4 培養液
5 電子媒体物質
7 ブタノール
8 有機溶媒の層
9 電極(作用電極)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8