(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe:0.05〜3.00mass%、Zr:0.01〜0.50mass%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度が1個/mm2以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
前記アルミニウム合金が、Mn:0.1〜3.0mass%、Si:0.1〜0.4mass%、Mg:0.1〜0.4mass%、Cu:0.005〜0.500mass%、Ni:0.1〜3.0mass%及びCr:0.01〜1.00mass%からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
前記アルミニウム合金が、含有量の合計が0.005〜0.500mass%のTi、B及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni−Pめっき処理層とその上の磁性体層が設けられていることを特徴とする磁気ディスク。
請求項1〜4のいずれか一項に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、前記アルミニウム合金を用いて半連続鋳造法によって鋳塊を鋳造する半連続鋳造工程と、半連続鋳造した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を円環状に打ち抜くディスクブランク打抜き工程と、打ち抜いたディスクブランクを加圧焼鈍する加圧焼鈍工程と、加圧焼鈍したディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削工程とを含み、前記鋳造工程において、660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間を5分以下とすることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
前記半連続鋳造工程と熱間圧延工程の間に、半連続鋳造した鋳塊を280〜620℃で0.5〜60時間加熱処理する均質化熱処理工程を更に含む、請求項6に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
前記熱間圧延工程の開始温度が250〜600℃であり、終了温度が230〜450℃である、請求項6又は7に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
前記冷間圧延の前又は途中において、圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程であって、300〜500℃で0.1〜30時間のバッチ焼鈍処理工程、又は400〜600℃で0〜60秒の連続焼鈍処理工程を更に含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
請求項1〜4のいずれか一項に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法であって、前記アルミニウム合金を用いて連続鋳造法によって鋳造板を鋳造する連続鋳造工程と、連続鋳造した鋳造板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延板を円環状に打ち抜くディスクブランク打抜き工程と、打ち抜いたディスクブランクを加圧焼鈍する加圧焼鈍工程と、加圧焼鈍したディスクブランクに切削加工と研削加工を施す切削・研削工程とを含み、前記鋳造工程において、660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間を5分以下とすることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
前記冷間圧延の前又は途中において、鋳造板又は冷間圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程であって、300〜500℃で0.1〜30時間のバッチ焼鈍処理工程、又は400〜600℃で0〜60秒の連続焼鈍処理工程を更に含む、請求項10に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられる磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性が優れる基板を用いて製造される。例えば、JIS5086(Mg:3.5〜4.5mass%、Fe:0.50mass%以下、Si:0.40mass%以下、Mn:0.20〜0.70mass%、Cr:0.05〜0.25mass%、Cu:0.10mass%以下、Ti:0.15mass%以下及びZn:0.25mass%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる)によるアルミニウム合金を基本とした基板などから製造されている。
【0003】
一般的な磁気ディスクの製造は、まず円環状アルミニウム合金基板を作製し、該アルミニウム合金基板にめっきを施し、次いで該アルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることにより行われている。
【0004】
例えば、前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは以下の製造工程により製造される。まず、所定の化学成分としたアルミニウム合金素材を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、必要に応じて冷間圧延の途中等に焼鈍を施すことが好ましい。次に、この圧延材を円環状に打抜き、前記製造工程により生じた歪み等を除去するため、円環状としたアルミニウム合金板を積層し、両端部の両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行って、円環状アルミニウム合金基板が作製される。
【0005】
このようにして作製された円環状アルミニウム合金基板に、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング及びジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解めっきし、該めっき表面にポリッシングを施した後に、Ni−P無電解めっき表面に磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製磁気ディスクが製造される。
【0006】
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化、更に高速化が求められている。大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。
【0007】
しかしながら、薄肉化、高速化に伴い剛性の低下や高速回転による流体力の増加に伴う励振力が増加し、ディスク・フラッタが発生し易くなる。これは、磁気ディスクを高速で回転させると不安定な気流がディスク間に発生し、その気流により磁気ディスクの振動(フラッタリング)が発生することに起因する。このような現象は、基板の剛性が低いと磁気ディスクの振動が大きくなり、ヘッドがその変化に追従できないために発生するものと考えられる。フラッタリングが起きると、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。そのためディスク・フラッタの減少が強く求められている。
【0008】
また、磁気ディスクの高密度化により、1ビット当たりの磁気領域が益々微細化されることになる。この微細化に伴い、ヘッドの位置決め誤差のズレによる読み取りエラーが発生し易くなっており、ヘッドの位置決め誤差の主要因であるディスク・フラッタの減少が強く求められている。
【0009】
更に、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると強度が低下してしまうため、アルミニウム合金基板の高強度化も求められている。また、記憶装置の分野は激しいコスト競争にさらされており、生産性等の向上によるコストダウンも強く求められている。
【0010】
このような実情から、近年では、ディスク・フラッタが小さい特性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板が強く望まれ、検討がなされている。例えば、ハードディスクドライブ内に、ディスクと対向するプレートを有する気流抑制部品を実装することが提案されている。特許文献1には、アクチュエータの上流側にエア・スポイラを設置した磁気ディスク装置が提案されている。このエア・スポイラは、磁気ディスク上のアクチュエータに向かう空気流を弱めて、磁気ヘッドの風乱振動を低減するものである。また、エア・スポイラは、磁気ディスク上の気流を弱めることで、ディスク・フラッタを抑制する。更に、特許文献2では、アルミニウム合金板の剛性向上に寄与するSiを多く含有させて、剛性を向上させる方法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明者らは、基板のフラッタリング特性と基板の素材との関係に着目し、これら特性と基板(磁気ディスク材料)の特性との関係について鋭意調査研究した。この結果、Fe含有量とZr含有量及びAl−Zr系金属間化合物のサイズ分布がフラッタリング特性と強度に大きな影響を与えることを見出した。この結果、本発明者らは、Fe含有量が0.05〜3.00mass%(以下、「%」と略記する)、Zr含有量が0.01〜0.50%の範囲で、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度が1個/mm
2以下である磁気ディスク用アルミニウム合金基板において、フラッタリング特性と強度が向上することを見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは本発明を完成するに至ったものである。
【0029】
A.磁気ディスク用アルミニウム合金基板
以下、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板(以下、「本発明に係るアルミニウム合金基板」又は、単に「アルミニウム合金基板」と略記する)について詳細に説明する。
【0030】
1.合金組成
以下、本発明に係るAl−Fe−Zr系合金を用いた磁気ディスク用アルミニウム合金基板のアルミニウム合金成分及びその含有量について説明する。
【0031】
Fe:
Feは必須元素であり、主として第二相粒子(Al−Fe系金属間化合物等)として、一部はマトリックスに固溶して存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のFe含有量が0.05%未満では、十分な強度とフラッタリング特性が得られない。一方、Fe含有量が3.00%を超えると、粗大なAl−Fe系金属間化合物粒子が多数生成する。Al−Fe系金属間化合物は、アルミニウムマトリックスに比べて硬度が高いため、削り難く、研削加工時の研削レート低下の原因となり、生産コストの増大を招く。また、このような粗大なAl−Fe系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっきピット発生によるめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。そのため、アルミニウム合金中のFe含有量は、0.05〜3.00%の範囲とする。Fe含有量は、好ましくは0.10〜1.80%、より好ましくは0.20〜1.50%の範囲である。
【0032】
Zr:
Zrは必須元素であり、主として第二相粒子(Al−Zr系金属間化合物)として、一部はマトリックスに固溶して存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のZr含有量が0.01%未満では、十分な強度が得られない。一方、Zr含有量が0.50%を超えると、粗大なAl−Zr系金属間化合物粒子が多数生成する。Al−Zr系金属間化合物は、アルミニウムマトリックスに比べて硬度が高いため、削り難く、研削加工時の研削レート低下の原因となり、生産コストの増大を招く。また、このような粗大なAl−Zr系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっきピット発生によるめっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。そのため、アルミニウム合金中のZr含有量は、0.01〜0.50%の範囲とする。Zr含有量は、好ましくは0.02〜0.30%、より好ましくは0.03〜0.30%の範囲である。
【0033】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板のフラッタリング特性及び強度、更にはめっき性をより向上させるために、第1の選択的元素として、Mn:0.1〜3.0%、Si:0.1〜0.4%、Mg:0.1〜0.4%、Cu:0.005〜0.500mass%、Ni:0.1〜3.0%及びCr:0.01〜1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有させてもよい。また、第2の選択的元素として、Zn:0.005〜1.000massを更に含有させてもよい。更に、第3の選択的元素として、含有量の合計が0.005〜0.500%のTi、B及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有させてもよい。以下に、これらの選択元素について説明する。
【0034】
Mn:
Mnは、主として第二相粒子(Al−Mn系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のMn含有量が0.1%以上であることによって、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のMn含有量が3.0%以下であることによって、粗大なAl−Mn系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。これにより、金属間化合物が多数生成することに起因する研削レート低下による生産コストの増大を一層抑制することができる。また、このような粗大なAl−Mn系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のMn含有量は、0.1〜3.0%の範囲とするのが好ましく、0.1〜1.0%の範囲とするのがより好ましい。
【0035】
Si:
Siは、主に第二相粒子(Si粒子やMg−Si系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のSi含有量が0.1%以上であることによって、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のSi含有量が0.4%以下であることによって、粗大な第二相粒子が多数生成することを抑制する。これにより、金属間化合物が多数生成することに起因する研削レート低下による生産コストの増大を一層抑制することができる。また、このような粗大な第二相粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のSi含有量は、0.1〜0.4%の範囲とするのが好ましく、0.1〜0.3%の範囲とするのがより好ましい。
【0036】
Mg:
Mgは、マトリックス中に固溶して、又は、第二相粒子(Mg−Si系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のMg含有量が0.1%以上であることによって、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のMg含有量が0.4%以下であることによって、粗大な第二相粒子が多数生成することを抑制する。これにより、金属間化合物が多数生成することに起因する研削レート低下による生産コストの増大を一層抑制することができる。また、このような粗大な第二相粒子がエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のMg含有量は、0.1〜0.4%の範囲とするのが好ましく、0.1%以上0.3%以下の範囲とするのがより好ましい。
【0037】
Ni:
Niは、主として第二相粒子(Al−Ni系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のNi含有量が0.1%以上であることによって、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のNi含有量が3.0%以下であることによって、粗大なAl−Ni系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。これにより、金属間化合物が多数生成することに起因する研削レート低下による生産コストの増大を一層抑制することができる。また、このような粗大なAl−Ni系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のNi含有量は、0.1〜3.0%の範囲とするのが好ましく、0.1〜1.0%の範囲とするのがより好ましい。
【0038】
Cu:
Cuは、主として第二相粒子(Al−Cu系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板の強度とヤング率を向上させる効果を発揮する。また、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させる。更に、ジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっき工程での平滑性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のCu含有量が0.005%以上であることによって、アルミニウム合金基板のヤング率と強度を向上させる効果及び平滑生を向上させる効果とを一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のCu含有量が0.500%以下であることによって、粗大なAl−Cu系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。これにより、金属間化合物が多数生成することに起因する研削レート低下による生産コストの増大を一層抑制することができる。また、このような粗大なAl−Cu系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性を向上させる効果を一層高めることができ、また、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のCu含有量は、0.005〜0.500%の範囲とするのが好ましく、0.005〜0.300%の範囲とするのがより好ましい。
【0039】
Cr:
Crは、主として第二相粒子(Al−Cr系金属間化合物等)として存在し、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のCr含有量が0.01%以上であることによって、アルミニウム合金基板の強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のCr含有量が1.00%以下であることによって、粗大なAl−Cr系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。これにより、金属間化合物が多数生成することに起因する研削レート低下による生産コストの増大を一層抑制することができる。また、このような粗大なAl−Cr系金属間化合物粒子がエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のCr含有量は、0.01〜1.00%の範囲とするのが好ましく、0.10〜0.50%の範囲とするのがより好ましい。
【0040】
Zn:
Znは、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっき工程での平滑性及び密着性を向上させる効果を発揮する。また、他の添加元素と第二相粒子を形成し、ヤング率と強度を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のZn含有量が0.005%以上であることによって、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、めっきの平滑性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のZn含有量が1.000%以下であることによって、ジンケート皮膜が均一となりめっき表面の平滑性が低下することを一層抑制することができ、また、めっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のZn含有量は、0.005〜1.000%の範囲とするのが好ましく、0.100〜0.700の範囲とするのがより好ましい。
【0041】
Ti、B、V
Ti、B及びVは、鋳造時の凝固過程において、第二相粒子(TiB
2などのホウ化物、或いは、Al
3TiやTi−V−B粒子等)を形成し、これらが結晶粒核となるため、結晶粒を微細化することが可能となる。その結果、めっき性が改善する。また、結晶粒が微細化することで、第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、アルミニウム合金基板中の強度とフラッタリング特性のバラツキを低減させる効果を発揮する。但し、Ti、B及びVの含有量の合計が0.005%未満では、上記の効果が得られない。一方、Ti、B及びVの含有量の合計が0.500%を超えてもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。そのため、Ti、B及びVを添加する場合のTi、B及びVの含有量の合計は、0.005〜0.500%の範囲とするのが好ましく、0.005〜0.100%の範囲とするのがより好ましい。なお、合計量とは、Ti、B及びVのいずれか1種のみを含有する場合にはこの1種の量であり、いずれか2種を含有する場合にはこれら2種の合計量であり、3種全てを含有する場合にはこれら3種の合計量である。
【0042】
その他の元素:
また、本発明に用いるアルミニウム合金の残部は、Al及び不可避的不純物からなる。ここで、不可避的不純物としてはGa、Snなどが挙げられ、各々が0.10%未満で、かつ合計で0.20%未満であれば、本発明で得られるアルミニウム合金基板としての特性を損なうことはない。
【0043】
2.Al−Zr系金属間化合物の分布状態
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板における金属間化合物の分布状態について説明する。
【0044】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、金属組織において、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度を1個/mm
2以下に規定する。
【0045】
ここで、本発明で規定するAl−Zr系金属間化合物とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)のWDS分析によりアルミニウム(Al)とジルコニウム(Zr)を含有することが確認できる化合物をいう。また、本発明において最長径とは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)の波長分散型X線分光器(WDS)による分析により得られるAl−Zr系金属間化合物の平面画像において、まず、輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を計測し、次に、この最大値を輪郭線上における全ての点について計測し、最後に、これら全最大値のうちから選択される最も大きなものをいう。
→分布密度の測定方法?
【0046】
本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板では、金属組織において、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度が1個/mm
2以下とすることで強度の向上が図られる。
【0047】
Al−Zr系金属間化合物については、微細な化合物であれば転位との相互作用により強度向上に寄与するが、最長径が1μm以上の粗大な化合物は、転位との相互作用が少なく強度向上にほとんど寄与しない。また、粗大な化合物が多数存在すると、Zr固溶量が少なくなり、強度向上が図れない。1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度が1個/mm
2を超える場合には、Zr固溶量が少なくなり強度が低下する。強度が低下すると、研削加工時やめっき処理後の研磨加工時等に基板が変形して、磁気ディスクとし不適である。そのため、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度を1個/mm
2以下に規定する。また、この分布密度は、0個/mm
2とするのが好ましい。
【0048】
3.フラッタリング特性
次にフラッタリング特性であるが、フラッタリング特性は、ハードディスクドライブのモーター特性によっても影響を受ける。本発明においては、フラッタリング特性は、空気中では、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。50nm以下であれば一般的なHDD向けの使用に耐え得ると判断される。50nmを超える場合は、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。
【0049】
また、フラッタリング特性は、ヘリウム中では、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。30nm以下であれば一般的なHDD向けの使用に耐え得ると判断される。30nmを超える場合は、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。
【0050】
ここで、使用するハードディスクドライブによって必要なフラッタリング特性が異なるため、このフラッタリング特性に対して、適宜、金属間化合物の分布状態を決定すれば良い。これらは、添加元素の含有量、ならびに、以下に述べる鋳造時の冷却速度を含めた鋳造方法、その後の熱処理と加工による熱履歴及び加工履歴、をそれぞれ適正に調整することによって得られる。
【0051】
本発明の実施態様においては、アルミニウム合金基板の厚さは、0.35mm以上であることが好ましい。アルミニウム合金基板の厚さが0.35mm未満であると、ハードディスクドライブの取り付け時などに発生する落下などによる加速力により基板が変形する虞がある。但し、耐力を更に増加することによって変形が抑制できればこの限りではない。なお、アルミニウム合金基板の厚さが1.30mmを超えると、フラッタリング特性は改善するがハードディスク内に搭載できるディスク枚数が減ってしまうため好適ではない。従って、アルミニウム合金基板の厚さは、0.35〜1.30mmとするのがより好ましく、0.50〜1.00mmとするのが更に好ましい。
【0052】
なお、ハードディスク内にヘリウムを充填することで流体力を下げることができる。これは、ヘリウムのガス粘度が空気と比べるとその約1/8と小さいためである。ハードディスクの回転に伴うガスの流れによって発生するフラッタリングを、ガスの流体力を小さくすることによって低減するものである。
【0053】
4.基板の耐力
次に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の耐力について説明する。本発明に係るアルミニウム合金基板は、
図1(a)、(b)に示すS108までのステップで作製されるが、その後のS111までのステップにおいて加熱処理される。このような加熱によって機械的強度が変化するが、最終的に得られる磁気ディスクとして必要な機械的強度を、大気中における270℃で3時間の加熱後の耐力として規定するものである。なお、以下において、ステップの番号は特に断らない限り
図1の(a)と(b)の両方を指すものとする。
【0054】
本発明に係るアルミニウム合金基板では、大気中において270℃で3時間の加熱後の耐力が80MPa以上であることが好ましい。この場合には、磁気ディスク製造時の基板の変形をより一層抑制する効果が発揮される。アルミニウム合金基板の耐力が80MPa未満では、搬送時や取付け時等において外力が加わることで変形する虞がある。そのため、大気中における270℃で3時間の加熱後のアルミニウム合金基板の耐力が80MPa以上であるのが好ましく、90MPa以上であるのがより好ましく、100MPa以上が更に好ましい。
【0055】
上記耐力を示す加熱温度を270℃としたのは、磁気ディスク用アルミニウム合金基板の作製(
図1のステップS108)から磁性体の付着(
図1のステップS111)までの工程において実施される加熱処理では、その温度が最高でも270℃程度のため、270℃で加熱した際における耐力として規定するものである。なお、上記耐力の上限は特に限定されるものではないが、合金組成や製造条件によって自ずと決まるものであり、本発明においては、300MPa程度である。
【0056】
B.磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造方法
以下に、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板の製造工程の各工程及びプロセス条件を詳細に説明する。
【0057】
アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクの製造方法を、
図1のフローに従って説明する。ここで、(a)のアルミニウム合金溶湯の溶製(ステップS101)〜冷間圧延(ステップS105)、ならびに、(b)のアルミニウム合金溶湯の溶製(ステップS101)、アルミニウム合金の連続鋳造(ステップS102)及び冷間圧延(ステップS105)は、アルミニウム合金板を製造する工程であり、ディスクブランクの作製(ステップS106)〜磁性体の付着(ステップS111)は、製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクとする工程である。いずれのステップもAl−Zr系金属間化合物の分布状態に影響を与えるが、本発明者らは、(a)におけるステップS102の半連続鋳造工程、ならびに、(b)におけるステップS102の連続鋳造工程における保持時間と温度に特に注目した。
【0058】
最初に、アルミニウム合金板を製造する工程について説明する。まず、上述の成分組成を有するアルミニウム合金素材の溶湯を、常法に従って加熱・溶融によって溶製する(ステップS101)。次に、溶製されたアルミニウム合金素材の溶湯から半連続鋳造(DC鋳造)法又は連続鋳造(CC鋳造)法によりアルミニウム合金を鋳造する(ステップS102)。ここで、DC鋳造法とCC鋳造法は、以下の通りである。
【0059】
DC鋳造法においては、スパウトを通して注がれた溶湯が、ボトムブロックと、水冷されたモールドの壁、ならびに、インゴット(鋳塊)の外周部に直接吐出される冷却水で熱を奪われ、凝固し、鋳塊として下方に引き出される。
【0060】
CC鋳造法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロールからの抜熱で薄板を直接鋳造する。
【0061】
DC鋳造法とCC鋳造法の大きな相違点は、鋳造時の冷却速度にある。冷却速度が大きいCC鋳造法では、第二相粒子のサイズがDC鋳造に比べ小さいのが特徴である。
【0062】
本発明では、鋳造工程において、660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間を5分以下とすることを特徴とする。Al−Zr系金属間化合物は、660〜680℃の温度範囲で生成し易く、長時間保持した場合は粗大化する。そのため、粗大なAl−Zr系金属間化合物の生成を抑制するには、660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間を短くすることが有効で、鋳造工程の開始から終了までにおいて、溶湯が上記温度範囲にある時間が5分以下になるように温度管理を行い制御している。これによって、粗大なAl−Zr系金属間化合物の生成を抑制することが出来る。溶湯温度が660℃未満では、原料が完全に溶解しないため、磁気ディスクとして不適である。従って、溶湯温度は660〜680℃の温度範囲とする必要がある。また、溶湯温度が660〜680℃の場合において、保持温度が5分を超えると粗大なAl−Zr系金属間化合物が生成し易くなる。その結果、Zr固溶量が少なくなり強度が低下する。強度が低下すると、研削加工時やめっき処理後の研磨加工時等に基板が変形し、磁気ディスクとし不適である。従って、660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間を5分以下に規定する。660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間は、好ましくは3分以下である。下限は特に限定されるものではないが、本発明においては、1分程度である。
【0063】
図1(a)に示すように、DC鋳造されたアルミニウム合金鋳塊については、必要に応じて均質化処理を実施する(ステップS103)。均質化処理を行う場合は、280〜620℃で0.5〜60時間の加熱処理を行うことが好ましく、300〜620℃で1〜24時間の加熱処理を行うことがより好ましい。均質化処理時の加熱温度が280℃未満又は加熱時間が0.5時間未満の場合は、均質化処理が不十分で、アルミニウム合金基板毎の減衰比のバラツキが大きくなり、フラッタリング特性のバラつきも大きくなる虞がある。均質化処理時の加熱温度が620℃を超えると、アルミニウム合金鋳塊に溶融が発生する虞がある。均質化処理時の加熱時間が60時間を超えてもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。
【0064】
次に、DC鋳造されたアルミニウム合金鋳塊では、必要に応じて均質化処理を施した、或いは、均質化処理を施していない鋳塊を、熱間圧延工程によって板材とする(
図1(a)のステップS104)。熱間圧延するに当たっては、特にその条件は特に限定されるものではないが、熱間圧延開始温度を好ましくは250〜600℃とし、熱間圧延終了温度を好ましくは230〜450℃とする。
【0065】
次に、上記のようにDC鋳造で鋳造した鋳塊を熱間圧延した圧延板、又は、CC鋳造法で鋳造した鋳造板を、冷間圧延によって1.3mmから0.35mm程度のアルミニウム合金板とする(ステップS105)。冷間圧延によって、所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めれば良く、圧延率を10〜95%とするのが好ましい。冷間圧延の前、或いは、冷間圧延の途中において、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の加熱ならば、300〜500℃で0.1〜30時間の条件で行うことが好ましく、連続式の加熱ならば、400〜600℃で0〜60秒間保持の条件で行うことが好ましい。ここで、保持時間が0秒とは、所望の保持温度に到達後直ちに冷却することを意味する。
【0066】
次に、上述のようにして製造されたアルミニウム合金板を磁気ディスクに製造する工程について説明する。アルミニウム合金板を磁気ディスク用として加工するには、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作製する(ステップS106)。次に、ディスクブランクを大気中にて、例えば100〜380℃で30分以上の加圧焼鈍を行い平坦化したブランクを作製する(ステップS107)。次に、ブランクに切削加工、研削加工、ならびに、好ましくは、250〜400℃の温度で5〜15分の歪取り加熱処理をこの順序で施して、アルミニウム合金基板を作製する(ステップS108)。次に、アルミニウム合金基板表面に脱脂、酸エッチング処理、デスマット処理を施した後に、ジンケート処理(Zn置換処理)を施す(ステップS109)。
【0067】
脱脂処理段階は市販のAD−68F(上村工業製)脱脂液等を用い、温度40〜70℃、処理時間3〜10分、濃度200〜800mL/Lの条件で脱脂を行うことが好ましい。酸エッチング処理段階は、市販のAD−107F(上村工業製)エッチング液等を用い、温度50〜75℃、処理時間0.5〜5分、濃度20〜100mL/Lの条件で酸エッチングを行うことが好ましい。酸エッチング処理の後、化合物除去工程が既に適用された場合では、通常のデスマット処理として、HNO
3を用い、温度15〜40℃、処理時間10〜120秒、濃度:10〜60%の条件でデスマット処理を行うことが好ましい。化合物除去工程が適用されていない場合には、デスマット処理に代えて、又は、これに加えて上述の化合物除去処理を実施しても良い。
【0068】
1stジンケート処理段階は市販のAD−301F−3X(上村工業製)のジンケート処理液等を用い、温度10〜35℃、処理時間0.1〜5分、濃度100〜500mL/Lの条件で行うことが好ましい。1stジンケート処理段階の後、HNO
3を用い、温度15〜40℃、処理時間10〜120秒、濃度:10〜60%の条件でZn剥離処理を行うことが好ましい。その後、1stジンケート処理と同じ条件で2ndジンケート処理段階を実施する。
【0069】
2ndジンケート処理したアルミニウム合金基材表面に、下地めっき処理として無電解でのNi−Pめっき処理工程が施される(
図1(a)、(b)のS110)。無電解でのNi−Pめっき処理は、市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80〜95℃、処理時間30〜180分、Ni濃度3〜10g/Lの条件でめっき処理を行うことが好ましい。このような無電解でのNi−Pめっき処理工程によって、下地めっき処理した磁気ディスク用のアルミニウム合金基盤が得られる。
【0070】
C.磁気ディスク
最後に、下地めっき処理した磁気ディスク用のアルミニウム合金基盤の表面を研磨により平滑し、表面に下地層、磁性層、保護膜及び潤滑層等からなる磁性媒体をスパッタリングにより付着させ磁気ディスクとする(ステップS111)。
【0071】
なお、アルミニウム合金板(S105)とした後は、冷間圧延のように組織が変化する工程はないため、化合物の分布や成分が変化することはない。従って、アルミニウム合金基板(S108)の代わりに、アルミニウム合金板(S105)やディスクブランク(ステップS106)、アルミニウム合金基盤(ステップS110)、磁気ディスク(ステップS111)を用いて化合物の分布や成分等の評価を行ってもよい。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
磁気ディスク用アルミニウム合金基板の実施例について説明する。表1〜3に示す成分組成の各合金素材を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を溶製した(ステップS101)。表1〜3中「−」は、測定限界値未満を示す。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
次に、表4〜6の条件でNo.A40〜42及びAC14以外は、アルミニウム合金溶湯をDC法により鋳造し、厚さ230mmの鋳塊を作製してその両面を15mm面削した(
図1(a)のステップS102)。No.A40〜42及びAC14は、アルミニウム合金溶湯をCC法により鋳造し、厚さ8mmの鋳造板を作製した(
図1(b)のステップS102)。次に、No.A3〜5とA40〜42及びAC14以外は、380℃で2時間の均質化熱処理を施した(
図1(a)のステップS103)。次に、A40〜42及びAC14以外は、熱間圧延開始温度380℃とし、熱間圧延終了温度を300℃とする熱間圧延を行ない、熱間圧延板とした(
図1(a)のステップS104)。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
No.A1、A3の合金については熱間圧延後に、A40の合金についてはCC鋳造後に、360℃で2時間の条件で焼鈍(バッチ式)処理を施した。以上のようにして作製したA1〜A39、A43〜A48、AC1〜AC13、AC15及びAC16の熱間圧延板、ならびに、A40〜A42及びAC14のCC鋳造板は、冷間圧延により最終板厚の0.8mmまで圧延し、アルミニウム合金板とした(ステップS105)。このアルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状のものを打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS106)。
【0082】
このようにして作製したディスクブランクに、0.5MPaの圧力下において270℃で3時間の加圧平坦化処理を施した(ステップS107)。次いで、加圧平坦化処理したディスクブランクに端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面50μm研削)を行ってアルミニウム合金基板を作製した(ステップS108)。その後、AD−68F(商品名、上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD−107F(商品名、上村工業製)により65℃で1分の酸エッチングを行い、さらに30%HNO
3水溶液(室温)で20秒間デスマットした(ステップS109)。
【0083】
このようにして表面状態を整えた後に、ディスクブランクをAD−301F−3X(商品名、上村工業製)の20℃のジンケート処理液に0.5分間浸漬して表面にジンケート処理を施した(ステップS109)。なお、ジンケート処理は合計2回行い、ジンケート処理の間に室温の30%HNO
3水溶液に20秒間浸漬して表面を剥離処理した。ジンケート処理した表面に無電解Ni−Pめっき処理液(ニムデンHDX(商品名、上村工業製))を用いてNi−Pを11.5μm厚さに無電解めっきした後、羽布により仕上げ研磨(研磨量1.5μm))を行って磁気ディスク基板ディスク用のアルミニウム合金基盤とした(ステップS110)。
【0084】
冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板、加圧平坦化処理(ステップS107)工程後のディスクブランク、研削加工(ステップS108)工程後のアルミニウム合金基板、ならびに、めっき処理研磨(ステップS110)工程後のアルミニウム合金基盤について以下の評価を行った。なお、各試料については、3枚のディスクをめっき処理まで実施しているが、比較例4〜12のディスクでは、3枚全てでめっき剥離が生じていたため、これら比較例ではディスク・フラッタの測定を行うことが出来なかった。
【0085】
〔1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度〕
研削加工(ステップS108)後のアルミニウム合金基板表面を10μm研磨し、SEMにより、倍率1000倍にて撮影すると同時に化合物の成分分析を行い、最長径が1μm以上のAl−Zr系金属間化合物の分布密度を算出した。なお、撮影は、合計が1.0mm
2となる複数の撮影視野について行ない、各視野における個数を合計して分布密度とした。
【0086】
〔ディスク・フラッタの測定〕
めっき処理研磨(ステップS110)工程後のアルミニウム合金基盤を用いディスク・フラッタの測定を行った。ディスク・フラッタの測定は、市販のハードディスクドライブに空気の存在下、アルミニウム合金基盤を設置して測定を行った。ドライブはSeagate製ST2000(商品名)を用いて、モーター駆動はテクノアライブ製SLD102(商品名)をモーターに直結することにより駆動させた。回転数は7200rpmとし、ディスクは常に複数枚設置してその上部の磁気ディスクの表面にレーザードップラー計である小野測器製LV1800(商品名)によって表面の振動を観察した。観察した振動は、小野測器製FFT解析装置DS3200(商品名)によってスペクトル分析した。観察はハードディスクドライブの蓋に孔を開けることにより、その穴からディスク表面を観察して行った。また、市販のハードディスクに設置されていたスクイーズプレートは外して評価を行った。
【0087】
フラッタリング特性の評価は、フラッタリングが現れる300〜1500Hzの付近のブロードなピークの最大変位(ディスクフラッタリング(nm))によって行った。このブロードなピークはNRRO(Non−Repeatable Run Out)と呼ばれ、ヘッドの位置決め誤差に対して大きな影響があることがわかっている。フラッタリング特性の評価は、空気中にて、30nm以下の場合をA(優)、30nmを超えて40nm以下をB(良)、40nmを超えて50nm以下をC(可)、50nmより大きい場合はD(劣)とした。
【0088】
〔耐力〕
耐力は、JISZ2241に準拠し、冷間圧延(ステップS105)後のアルミニウム合金板を280℃で3時間の焼鈍(加圧焼鈍模擬加熱)を行った後、270℃で3時間の大気中加熱を行い、圧延方向に沿ってJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。強度の評価は、耐力が100MPa以上の場合をA(優)、90MPa以上100MPa未満をB(良)、80MPa以上90MPa未満をC(可)、80MPa未満はD(劣)とした。
【0089】
なお、研削加工後のアルミニウム合金基板や磁気ディスクのめっきを剥離し、表面を10μm研削した基板から試験片を採取し、270℃で3時間の大気中加熱を行い、耐力を評価することも可能である。その際の試験片の寸法は、平行部の幅5±0.14mm、試験片の原標点距離10mm、肩部の半径2.5mm、平行部長さ15mmとする。
【0090】
以上の評価結果を、表7〜9に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
【表8】
【0093】
【表9】
【0094】
表7、8に示すように、実施例1〜48では金属間化合物の分布密度が本発明で規定する範囲を満たし、良好なフラッタリング特性及び強度を得ることが出来た。
【0095】
これに対して、比較例1では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎたために、フラッタリング特性と強度が劣った。
【0096】
比較例2では、アルミニウム合金のZrが含有されていないために、強度が劣った。
【0097】
比較例3では、アルミニウム合金のFe含有量が少な過ぎ、Zrが含有されていないために、フラッタリング特性と強度が劣った。
【0098】
比較例4では、アルミニウム合金のFe含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0099】
比較例5では、アルミニウム合金のZr含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。また、Al−Zr系金属間化合物の分布密度も多過ぎた。
【0100】
比較例6では、アルミニウム合金のMn含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0101】
比較例7では、アルミニウム合金のSi含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0102】
比較例8では、アルミニウム合金のNi含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0103】
比較例9では、アルミニウム合金のCu含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0104】
比較例10では、アルミニウム合金のMg含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0105】
比較例11では、アルミニウム合金のCr含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0106】
比較例12では、アルミニウム合金のZn含有量が多過ぎたために先述の通りめっき剥離が生じ、フラッタリング特性が評価できず磁気ディスクとして不適であった。
【0107】
比較例13〜16では、660〜680℃の温度範囲での溶湯保持時間が長過ぎたため、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物が多数生成し、強度が劣った。
【課題】良好なフラッタリング特性と強度を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びその製造方法、ならびに、この磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスクを提供する。
【解決手段】Fe:0.05〜3.00mass%、Zr:0.01〜0.50mass%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなるアルミニウム合金からなり、1μm以上の最長径を有するAl−Zr系金属間化合物の分布密度が1個/mm
以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板及びその製造方法、ならびに、当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni−Pめっき処理層とその上の磁性体層が設けられている磁気ディスク。