(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe:0.10〜3.00mass%、Mn:0.1〜3.0mass%、Cu:0.003〜1.000mass%、Zn:0.005〜1.000mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の25%以内を占める領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が50個/mm2以下の分布密度で分散し、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の50%以内を占める領域(B)から領域(A)を除いた領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が0個/mm2であり、Mn固溶量が0.03mass%以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板。
前記アルミニウム合金が、Si:0.1〜0.4mass%、Ni:0.1〜3.0mass%、Mg:0.1〜6.0mass%、Cr:0.01〜1.00mass%及びZr:0.01〜1.00mass%からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
前記アルミニウム合金が、含有量の合計が0.005〜0.500mass%のTi、B及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板からなるアルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni−Pめっき処理層とその上の磁性体層が設けられていることを特徴とする磁気ディスク。
請求項1〜3のいずれか一項に記載される磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法であって、前記アルミニウム合金を用いて鋳造板を連続鋳造する連続鋳造工程と、鋳造板を冷間圧延する冷間圧延工程とを含み、前記鋳造工程において、鋳造板とする鋳造部に溶湯を供給する樋を流れる溶湯量を100kg/分以下とし、かつ、湯表面高さを30mm以下とし、鋳造速度を0.4〜1.5m/分とすることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
前記連続鋳造工程と冷間圧延工程との間に、鋳造板を300〜450℃で0.5〜24時間加熱処理する均質化処理工程を更に含む、請求項5に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
前記冷間圧延の前又は途中において、鋳造板又は冷間圧延板を焼鈍する焼鈍処理工程を更に含む、請求項5又は6に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの記憶装置に用いられる磁気ディスクは、良好なめっき性を有するとともに機械的特性や加工性が優れる基板を用いて製造される。例えば、JIS5086(Mg:3.5〜4.5mass%、Fe:0.50mass%以下、Si:0.40mass%以下、Mn:0.20〜0.70mass%、Cr:0.05〜0.25mass%、Cu:0.10mass%以下、Ti:0.15mass%以下及びZn:0.25mass%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる)によるアルミニウム合金を基本とした基板などから製造されている。
【0003】
一般的な磁気ディスクの製造は、まず円環状アルミニウム合金基板を作製し、該アルミニウム合金基板にめっきを施し、次いで該アルミニウム合金基板の表面に磁性体を付着させることにより行われている。
【0004】
例えば、前記JIS5086合金によるアルミニウム合金製磁気ディスクは以下の製造工程により製造される。まず、所定の化学成分としたアルミニウム合金素材を鋳造し、その鋳塊を熱間圧延し、次いで冷間圧延を施し、磁気ディスクとして必要な厚さを有する圧延材を作製する。この圧延材には、必要に応じて冷間圧延の途中等に焼鈍を施すことが好ましい。次に、この圧延材を円環状に打抜き、前記製造工程により生じた歪み等を除去するため、円環状にしたアルミニウム合金板を積層し、両端部の両面から加圧しつつ焼鈍を施して平坦化する加圧焼鈍を行って、円環状アルミニウム合金基板が作製される。
【0005】
このようにして作製された円環状アルミニウム合金基板に、前処理として切削加工、研削加工、脱脂、エッチング及びジンケート処理(Zn置換処理)を施し、次いで下地処理として硬質非磁性金属であるNi−Pを無電解めっきし、該めっき表面にポリッシングを施した後に、Ni−P無電解めっき表面に磁性体をスパッタリングしてアルミニウム合金製磁気ディスクが製造される。
【0006】
ところで、近年、磁気ディスクには、マルチメディア等のニーズから大容量化及び高密度化、更に高速化が求められている。大容量化のため、記憶装置に搭載される磁気ディスクの枚数が増加しており、それに伴い磁気ディスクの薄肉化も求められている。しかしながら、磁気ディスク用アルミニウム合金基板を薄肉化すると強度が低下してしまうため、アルミニウム合金基板の高強度化が求められている。
【0007】
また、薄肉化、高速化に伴い剛性の低下や高速回転による流体力の増加に伴う励振力が増加し、ディスク・フラッタが発生し易くなる。これは、磁気ディスクを高速で回転させると不安定な気流がディスク間に発生し、その気流により磁気ディスクの振動(フラッタリング)が発生することに起因する。このような現象は、基板の剛性が低いと磁気ディスクの振動が大きくなり、ヘッドがその変化に追従できないために発生するものと考えられる。フラッタリングが起きると、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。そのためディスク・フラッタの減少が強く求められている。
【0008】
また、磁気ディスクの高密度化により、1ビット当たりの磁気領域が益々微小化されることになる。この微細化に伴い、ヘッドの位置決め誤差のズレによる読み取りエラーが発生し易くなっており、ヘッドの位置決め誤差の主要因であるディスク・フラッタの減少が強く求められている。
【0009】
このような実情から、近年では、高強度でディスク・フラッタが小さい特性を有する磁気ディスク用アルミニウム合金基板が強く望まれ、検討がなされている。例えば、ハードディスクドライブ内に、ディスクと対向するプレートを有する気流抑制部品を実装することが提案されている。特許文献1には、アクチュエータの上流側にエア・スポイラを設置した磁気ディスク装置が提案されている。このエア・スポイラは、磁気ディスク上のアクチュエータに向かう空気流を弱めて、磁気ヘッドの風乱振動を低減するものである。また、エア・スポイラは、磁気ディスク上の気流を弱めることで、ディスク・フラッタを抑制する。また、特許文献2では、アルミニウム合金板の強度向上に寄与するMgを多く含有させて、強度を向上させる方法が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る磁気ディスクは、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板を材料とする。まず、この磁気ディスク用アルミニウム合金板を作製する。次いで、この磁気ディスク用アルミニウム合金板を円環状のディスクブランクに打ち抜き加圧焼鈍してブランクを作成した後に、切削・研削の加工を施して磁気ディスク用アルミニウム合金基板とする。更に、この磁気ディスク用アルミニウム合金基板に脱脂、エッチング、ジンケート処理、Ni−Pめっき処理を施して磁気ディスク用アルミニウム合金基盤とする。最後に、磁気ディスク用アルミニウム合金基盤に磁性体層を設けて磁気ディスクとする。
【0024】
本発明者らは、磁気ディスクの強度及びフラッタリング特性と、素材であるアルミニウム合金板との関係に着目し、これらの関係について鋭意調査研究した。この結果、アルミニウム合金板のFe含有量とMn含有量、ならびに、Mn固溶量が、磁気ディスクの強度に大きな影響を与えることを見出した。また、アルミニウム合金板のFe含有量や第二相粒子が、空気中又はヘリウム中で測定される磁気ディスクのフラッタリング特性に大きな影響を与えることを見出した。
【0025】
そこで、本発明者らは、磁気ディスク用アルミニウム合金板において、FeとMn含有量、ならびに、金属組織として板厚方向における100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子について検討した結果、Fe:0.1〜3.0mass%(以下、単に「%」と略記する)、Mn:0.1〜3.0%を含有し、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の25%以内を占める領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が50個/mm
2以下の分布密度で分散し、板厚中心部から板の両表面に向かい板厚の50%以内を占める領域(B)から領域(A)を除いた領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が0個/mm
2であり、更に、Mn固溶量が0.03%以上とした磁気ディスク用アルミニウム合金板を素材として用いることによって、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0026】
A.本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板
以下、本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金板(以下、「本発明に係るアルミニウム合金板」又は、単に「アルミニウム合金板」と略記する)について詳細に説明する。
【0027】
1.合金組成
以下、本発明に係るAl−Fe−Mn系合金を用いたアルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金成分及びその含有量について説明する。
【0028】
Fe:
Feは必須元素であり、主として第二相粒子(Al−Fe系金属間化合物等)として、一部はマトリックスに固溶して存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のFe含有量が0.10%未満では、十分な強度とフラッタリング特性が得られない。一方、Fe含有量が3.00%を超えると、粗大なAl−Fe系金属間化合物粒子が多数生成する。このような粗大なAl−Fe系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。そのため、アルミニウム合金中のFe含有量は、0.10〜3.00%の範囲とする。Fe含有量は、好ましくは0.40〜2.00%、より好ましくは0.80〜1.80%の範囲である。
【0029】
Mn:
Mnは必須元素であり、第二相粒子(Al−Mn系金属間化合物等)や固溶元素として存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のMn含有量が0.1%未満では、十分な強度とフラッタリング特性が得られない。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、粗大なAl−Mn系金属間化合物粒子が多数生成する。このような粗大なAl−Mn系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時において脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離を発生させる。また、圧延工程における加工性低下も生じる。そのため、アルミニウム合金中のMn含有量は、0.1〜3.0%の範囲とする。Mn含有量は、好ましくは0.2〜1.0%、より好ましくは0.2〜0.8%の範囲である。
【0030】
Cu:
Cuは必須元素であり、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、また、ジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっき工程での平滑性及び密着性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のCu含有量が0.003%未満では、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき表面にピットが発生し、めっき表面の平滑生を低下させる。また、めっき剥離が生じ易くなる。一方、アルミニウム合金中のCu含有量が1.000%を超えると、粗大なAl−Cu系金属間化合物粒子が多数生成し、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生し、めっき表面にピットが生じ、めっき表面の平滑性が低下する。また、めっき剥離が生じ易くなる。そのため、アルミニウム合金中のCu含有量は、0.003〜1.000%の範囲とする。Cu含有量は好ましくは、0.005〜0.400%の範囲である。
【0031】
Zn:
Znは必須元素であり、ジンケート処理時のAl溶解量を減少させ、またジンケート皮膜を均一に、薄く、緻密に付着させ、次工程のめっき工程での平滑性及び密着性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のZn含有量が0.005%未満では、ジンケート皮膜が不均一となり、めっき表面にピットが発生し、めっき表面の平滑生を低下させる。また、めっき剥離が生じ易くなる。一方、アルミニウム合金中のZn含有量が1.000%を超えるとジンケート皮膜が不均一となり、めっき表面にピットが発生し、めっき表面の平滑生を低下させる。また、めっき剥離が生じ易くなる。そのため、アルミニウム合金中のZn含有量は、0.005〜1.000%の範囲とする。Zn含有量は好ましくは、0.100〜0.700の範囲である。
【0032】
磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を更に向上させるために、アルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金成分の第1の選択的元素として、Si:0.1〜0.4%、Ni:0.1〜3.0%、Mg:0.1〜6.0%、Cr:0.01〜1.00%及びZr:0.01〜1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有させてもよい。また、第2の選択的元素として、含有量の合計が0.005〜0.500%のTi、B及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有させてもよい。以下に、これらの選択元素について説明する。
【0033】
Si:
Siは、主として第二相粒子(Si粒子等)として存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のSi含有量が0.1%以上であることによって、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のSi含有量が0.4%以下であることによって、粗大なSi粒子が多数生成することを抑制する。このような粗大なSi粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のSi含有量は、0.1〜0.4%の範囲とするのが好ましく、0.1〜0.3%の範囲とするのがより好ましい。
【0034】
Ni:
Niは、主として第二相粒子(Al−Ni系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。このような材料に振動を加えると、第二相粒子とマトリックスとの界面における粘性流動により振動エネルギーが速やかに吸収され、極めて良好なフラッタリング特性が得られる。アルミニウム合金中のNi含有量が0.1%以上であることによって、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のNi含有量が3.0%以下であることによって、粗大なAl−Ni系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。このような粗大なAl−Ni系金属間化合物粒子が、エッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のNi含有量は、0.1〜3.0%の範囲とするのが好ましく、0.1〜1.0%の範囲とするのがより好ましい。
【0035】
Mg:
Mgは、主として第二相粒子(Mg−Si系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のMg含有量が0.1%以上であることによって、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のMg含有量が6.0%以下であることによって、粗大なMg−Si系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。このような粗大なMg−Si系金属間化合物粒子がエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のMg含有量は、0.1〜6.0%の範囲とするのが好ましく、0.3%以上1.0%未満の範囲とするのがより好ましい。
【0036】
Cr:
Crは、主として第二相粒子(Al−Cr系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のCr含有量が0.01%以上であることによって、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のCr含有量が1.00%以下であることによって、粗大なAl−Cr系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。このような粗大なAl−Cr系金属間化合物粒子がエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のCr含有量は、0.01〜1.00%の範囲とするのが好ましく、0.10〜0.50%の範囲とするのがより好ましい。
【0037】
Zr:
Zrは、主として第二相粒子(Al−Zr系金属間化合物等)として存在し、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を発揮する。アルミニウム合金中のZr含有量が0.01%以上であることによって、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性を向上させる効果を一層高めることができる。また、アルミニウム合金中のZr含有量が1.00%以下であることによって、粗大なAl−Zr系金属間化合物粒子が多数生成することを抑制する。このような粗大なAl−Zr系金属間化合物粒子がエッチング時、ジンケート処理時、切削加工時や研削加工時に脱落して大きな窪みが発生することを抑制し、めっき表面の平滑性の低下及びめっき剥離が生じることを一層抑制することができる。また、圧延工程における加工性低下を一層抑制することができる。そのため、アルミニウム合金中のZr含有量は、0.01〜1.00%の範囲とするのが好ましく、0.10〜0.50%の範囲とするのがより好ましい。
【0038】
Ti、B、V:
Ti、B及びVは、鋳造時の凝固過程において、第二相粒子(TiB
2などのホウ化物、或いは、Al
3TiやTi−V−B粒子等)を形成し、これらが結晶粒核となるため、結晶粒を微細化することが可能となる。その結果、めっき性が改善する。また、結晶粒が微細化することで、第二相粒子のサイズの不均一性を小さくし、磁気ディスクの強度とフラッタリング特性のバラツキを低減させる効果を発揮する。但し、Ti、B及びVの含有量の合計が0.005%未満では、上記の効果が得られない。一方、Ti、B及びVの含有量の合計が0.500%を超えてもその効果は飽和し、それ以上の顕著な改善効果が得られない。そのため、Ti、B及びVを添加する場合のTi、B及びVの含有量の合計は、0.005〜0.500%の範囲とするのが好ましく、0.005〜0.100%の範囲とするのがより好ましい。なお、合計量とは、Ti、B及びVのいずれか1種のみを含有する場合にはこの1種の量であり、いずれか2種を含有する場合にはこれら2種の合計量であり、3種全てを含有する場合にはこれら3種の合計量である。
【0039】
その他の元素:
また、本発明に用いるアルミニウム合金の残部は、Al及び不可避的不純物からなる。ここで、不可避的不純物としてはGa、Snなどが挙げられ、各々が0.10%未満で、かつ合計で0.20%未満であれば、本発明で得られるアルミニウム合金板としての特性を損なうことはない。
【0040】
2.第二相粒子の分布状態
次に、本発明に係るアルミニウム合金板における第二相粒子の分布状態について説明する。
【0041】
本発明に係るアルミニウム合金板では、金属組織において、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の25%以内を占める領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が50個/mm
2以下の分布密度で分散しており、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の50%以内を占める領域(B)から領域(A)を除いた領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子の分散密度が0個/mm
2である。
【0042】
なお、領域(A)を
図2に示します。
図2において、領域(A)は板厚中心面から板の両表面に向かい板厚方向に0.1mm+0.1mm=0.2mmの領域であり、板厚(0.8mm)の25%({0.2/0.8}×100)を占めている例を示します。また、領域(B)を
図3に示します。
図3において、領域(B)は板厚中心面から板の両表面に向かい板厚方向に0.2mm+0.2mm=0.4mmの領域であり、板厚(0.8mm)の50%({0.4/0.8}×100)を占めている例を示します。また、領域(C)を
図4に示します。
図4において、領域(C)は、領域(B)から領域(A)を除いた部分であり、領域(A)を介して離間した二つの部分からなります。それぞれの部分は、板の表面に向かい板厚方向に0.2mm−0.1mm=0.1mmの領域です。
【0043】
ここで、第二相粒子とは析出物や晶出物を意味し、具体的には、Al−Fe系金属間化合物(Al
3Fe、Al
6Fe、Al
6(Fe、Mn)、Al−Fe−Si、Al−Fe−Mn−Si、Al−Fe−Ni、Al−Cu−Fe等)、Al−Mn系金属間化合物(Al
6Mn、Al−Mn−Si)、Si粒子、Al−Ni系金属間化合物(Al
3Ni等)、Al−Cu系金属間化合物(Al
2Cu等)、Mg−Si系金属間化合物(Mg
2Si等)、Al−Cr系金属間化合物(Al
7Cr等)、Al−Zr系金属間化合物(Al
3Zr等)などの粒子等をいう。
【0044】
本発明に係るアルミニウム合金板の金属組織において、板厚中心部から板の両表面に向かい板厚の25%以内を占める領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が50個/mm
2以下の分布密度で分散し、板厚中心部から板の両表面に向かい板厚の50%以内を占める領域(B)から領域(A)を除いた領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が0個/mm
2の分布密度とすることにより、アルミニウム合金板の平坦度が良好となり、優れたフラッタリング特性が発揮される。第二相粒子は、Alマトリックスよりも硬度が大幅に高いため、板厚中心部付近又はその周辺に粗大な第二相粒子が存在すると、加圧焼鈍を行っても良好な平坦度を得ることが出来ない。このような平坦度が大きいアルミニウム合金材を用いた磁気ディスクは、その作動時における空気抵抗が大きくなり、フラッタリング特性が低下する。一方、この平坦度が小さいアルミニウム合金材を用いた磁気ディスクは、フラッタリング特性の低下を抑制することができる。
【0045】
本発明に係るアルミニウム合金板の金属組織において、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の25%以内を占める領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が50個/mm
2を超える場合は、粗大な第二相粒子が多数存在するため、加圧焼鈍を行っても良好な平坦度を得ることが出来ない。そのため、磁気ディスク装置作動時の空気抵抗が大きくなり、フラッタリング特性が低下する。なお、領域(A)における上記第二相粒子の分布密度は、好ましくは25個/mm
2以下である。また、この第二相粒子の分布密度の下限値は特に限定されるものではないが、用いるアルミニウム合金や製造方法によって自ずと決まるものであり、本発明では1個/mm
2程度である。
【0046】
また、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の50%以内を占める領域(B)から領域(A)を除いた領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が0個/mm
2を超える、即ち、1個でも存在する場合は、加圧焼鈍を行っても良好な平坦度を得ることが出来ない。そのため、磁気ディスク装置作動時の空気抵抗が大きくなり、フラッタリング特性が低下する。上記のように、領域(A)においては、粗大な第二相粒子が50個/mm
2以下であれば存在していても支障はないが、領域(C)においては板厚中心面から離間する距離が大きいため、粗大な第二相粒子が平坦度に与える影響は大きく、粗大な第二相粒子が1個でも存在すると良好な平坦度が得られない。
【0047】
なお、上記領域(A)、(C)において、対象とする第二相粒子の最長径を100μm以上300μm以下とするのは以下の理由による。最長径が100μm未満の第二相粒子は、大きさが小さいために平坦度に大きな影響を及ぼさない。一方、最長径が300μmを超える第二相粒子は、平坦度に影響を及ぼすというより、冷間圧延時に第二相粒子を起点として穴が開き磁気ディスクとしてそもそも不適となる。従って、対象とする第二相粒子の最長径を100μm以上300μm以下とするものである。
【0048】
本発明において、第二相粒子の最長径とは、光学顕微鏡で観測される第二相粒子の平面画像において、まず、輪郭線上における一点と輪郭線上の他の点との距離の最大値を計測し、次に、この最大値を輪郭線上における全ての点について計測し、最後に、これら全最大値のうちから選択される最も大きなものを云うものとする。
【0049】
3.Mn固溶量
次に、本発明に係るアルミニウム合金板におけるMn固溶量について説明する。
【0050】
本発明に係るアルミニウム合金板では、Mn固溶量を0.03%以上と規定する。Mn固溶量が0.03%以上の場合には、固溶強化によりアルミニウム合金板の耐力が向上する。アルミニウム合金板の耐力が低いと、搬送時や取付け時等において外力が加わることで変形し、フラッタリング特性が低下する。なお、Mn固溶量の上限は特に限定されるものではないが、合金組成や製造条件によって自ずと決まるものであり、本発明においては1.00%程度である。従って、Mn固溶量は0.03%以上とする。Mn固溶量は、0.05%以上とするのが好ましい。
【0051】
4.厚さ
本発明の実施態様においては、アルミニウム合金板の厚さは、0.35mm以上であることが好ましい。アルミニウム合金板の厚さが0.35mm未満であると、ハードディスクドライブの取り付け時などに発生する落下などによる加速力により変形する虞がある。但し、耐力を更に増加することによって変形が抑制できればこの限りではない。なお、アルミニウム合金板の厚さが1.90mmを超えると、フラッタリング特性は改善するがハードディスク内に搭載できるディスク枚数が減ってしまうため好適ではない。従って、アルミニウム合金板の厚さは、0.35〜1.90mmとするのがより好ましく、0.50〜1.40mmとするのが更に好ましい。
【0052】
B.本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法
以下に、本発明に係るアルミニウム合金板の製造工程の各工程及びプロセス条件を詳細に説明する。本発明に係るアルミニウム合金板及び磁気ディスクの製造方法を、
図1に示すフローに従って説明する。ここで、アルミニウム合金溶湯の調製(ステップS101)〜冷間圧延(ステップS104)によって、アルミニウム合金基板が作製される(ステップS105)。
【0053】
1.アルミニウム合金溶湯の調製及び鋳造
まず、上述の成分組成を有するアルミニウム合金素材の溶湯を、常法に従って加熱・溶融することによって調製する(ステップS101)。次に、調製されたアルミニウム合金素材の溶湯から連続鋳造法(CC法)により、2.0〜10.0mm程度の厚さのアルミニウム合金の薄板である鋳造板を連続鋳造(CC)法によって鋳造する(ステップS102)。
【0054】
ここで、CC法では、一対のロール(又は、ベルトキャスタ、ブロックキャスタ、以下「ロール等」又は「鋳造板とする鋳造部」と記す)の間に鋳造ノズルを通して溶湯を供給し、ロール等からの抜熱でアルミニウム合金の鋳造板を直接鋳造する。このように、鋳造ノズルは上記鋳造板とする鋳造部の溶湯入側に設置されており、鋳造ノズルにはその手前に配置された樋によって溶解炉からの溶湯が供給される。CC法によるアルミニウム合金の鋳造板の鋳造においては、樋を流れる溶湯量を100kg/分以下とし、かつ、湯表面高さを30mm以下とし、かつ、鋳造速度を0.4〜1.5m/分とする。このような条件で、鋳造することによって、板厚中心部付近又はその周辺部に存在する粗大な第二相粒子の個数を低減することが可能で、且つ、Mn固溶量を高めることができるため、フラッタリング特性と強度の向上効果を図ることができる。
【0055】
CC法は、半連続鋳造(DC)法に比べて凝固時の冷却速度が大幅に速いが、板厚中心部付近又はその周辺部に粗大な第二相粒子が生成する虞がある。このような粗大な第二相粒子の生成を抑制するためには、上述のように、樋を流れる溶湯の湯表面高さ及び鋳造速度を制御する必要がある。
【0056】
樋を流れる溶湯量が100kg/分を超える場合には、溶湯の圧力が高くなり、ロール等により溶湯が冷却される際に不均一な冷却となる。その結果、上記領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が多数生成し、加圧焼鈍を行っても良好な平坦度を得ることが出来ず、磁気ディスク装置作動時の空気抵抗が大きくなってフラッタリング特性が低下する。従って、樋を流れる溶湯量は、100kg/分以下と規定する。なお、この樋を流れる溶湯量は、50kg/分以下とするのが好ましい。また、樋を流れる溶湯量の下限は特に限定されないが、1kg/分未満の場合には、溶湯の量が少ないため、溶湯温度が直ちに低下し、ロール等接触前に溶湯が固化してしまい鋳造を行うことが出来ない可能性がある。そのため、樋を流れる溶湯量は1kg/分以上が好ましい。一方、この樋を流れる溶湯の湯表面高さが、樋の底から30mmを超える場合には、溶湯の圧力が高くなり、ロール等により溶湯が冷却される際に不均一な冷却となる。その結果、上記領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が多数生成し、加圧焼鈍を行っても良好な平坦度を得ることが出来ず、磁気ディスク装置作動時の空気抵抗が大きくなってフラッタリング特性が低下する。従って、鋳造ロール等の溶湯入側に設置されたノズルの手前に配置された樋を流れる溶湯の湯表面高さは、樋の底から30mm以下と規定する。なお、この溶湯の湯表面高さは、25mm以下とするのが好ましい。なお、溶湯の湯表面高さの下限は特に限定されないが、5mm未満の場合には、溶湯の量が少ないため、溶湯温度が直ちに低下し、ロール等接触前に溶湯が固化してしまい鋳造を行うことが出来ない可能性がある。そのため、溶湯の湯表面高さは5mm以上が好ましい。
【0057】
鋳造速度が0.4m/分未満の場合には、鋳造速度が遅過ぎるため溶湯温度が直ちに低下する。その結果、ロール等接触前に溶湯が固化してしまい鋳造を行うことが出来ない。一方、鋳造速度が1.5m/分を超える場合には、領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が多数生成し、加圧焼鈍を行っても良好な平坦度を得ることが出来す、磁気ディスク装置作動時の空気抵抗が大きくなってフラッタリング特性が低下する。また、鋳造速度が1.5m/分を超える場合は、溶湯の冷却速度が遅くなるため、Mn固溶量が低下して十分な耐力を得ることが出来ない。従って、鋳造速度は0.4〜1.5m/分と規定する。なお、この鋳造速度は、0.5〜1.2m/分とするのが好ましい。
【0058】
2.冷間圧延
次に、鋳造板を冷間圧延して(ステップS104)、1.8mmから0.35mm程度の厚さのアルミニウム合金板を作製する(ステップS105)。冷間圧延によって所要の製品板厚に仕上げる。冷間圧延の条件は特に限定されるものではなく、必要な製品板強度や板厚に応じて定めれば良く、圧延率を10〜95%とするのが好ましい。なお、冷間圧延の前、或いは、途中で、冷間圧延加工性を確保するために焼鈍処理を施してもよい。焼鈍処理を実施する場合には、例えばバッチ式の加熱ならば、200℃以上380℃以下で0.1〜10時間の条件で行うことが好ましく、連続式の加熱ならば、300℃以上600℃以下で0〜60秒間保持の条件で行うことが好ましい。ここで、連続式において処理時間が0秒とは、処理温度に到達後に直ちに加熱を止めて冷却することを意味する。
【0059】
3.均質化処理
次に、必要に応じて、連続鋳造工程と冷間圧延工程との間に鋳造板の均質化処理工程を実施してもよい(ステップS103)。均質化処理工程における加熱処理条件は、300〜450℃で0.5〜24時間、好ましくは310〜440℃で0.5〜20時間である。
【0060】
C.本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基板
次いで、ステップ5のアルミニウム合金板を用いて、ディスクブランクの作製(ステップS106)と加圧平坦化処理(ステップS107)によって、磁気ディスク用アルミニウム合金基板(以下、単に「アルミニウム合金基板」と記す)が作製される(ステップS108)。まず、アルミニウム合金板を円環状に打ち抜き、ディスクブランクを作成する(ステップS106)。次に、ディスクブランクを大気中にて、例えば100℃以上350℃未満で30分以上の加圧焼鈍を行い平坦化したブランクを作成する(ステップS107)。次に、ブランクに切削加工、研削加工を施し、ならびに、好ましくは、250〜400℃の温度で5〜15分の歪取り加熱処理をこの順序で施して、アルミニウム合金基板を作製する(ステップS108)。
【0061】
D.本発明に係る磁気ディスク用アルミニウム合金基盤
次いで、ステップ8のアルミニウム合金基板の表面に脱脂、酸エッチング処理、デスマット処理を施した後にジンケート処理(Zn置換処理)を施す(ステップS109)。更に、ジンケート処理した表面に下地処理としてNi−Pめっき処理を施す(ステップS110)。このようにして、アルミニウム合金基盤が作製される(ステップS111)。
【0062】
脱脂処理は市販のAD−68F(上村工業製)脱脂液等を用い、温度40〜70℃、処理時間3〜10分、濃度200〜800mL/Lの条件で脱脂を行うことが好ましい。酸エッチング処理は、市販のAD−107F(上村工業製)エッチング液等を用い、温度50〜75℃、処理時間0.5〜5分、濃度20〜100mL/Lの条件で酸エッチングを行うことが好ましい。酸エッチング処理の後、デスマット処理として、HNO
3を用い、温度15〜40℃、処理時間10〜120秒、濃度:10〜60%の条件でデスマット処理を行うことが好ましい。
【0063】
1stジンケート処理は市販のAD−301F−3X(上村工業製)のジンケート処理液等を用い、温度10〜35℃、処理時間0.1〜5分、濃度100〜500mL/Lの条件で行うことが好ましい。1stジンケート処理の後、HNO
3を用い、温度15〜40℃、処理時間10〜120秒、濃度:10〜60%の条件でZn剥離処理を行うことが好ましい。その後、1stジンケート処理と同じ条件で2ndジンケート処理を実施する。
【0064】
2ndジンケート処理したアルミニウム合金基材表面に、下地めっき処理として無電解でのNi−Pめっき処理工程が施される(ステップS110)。無電解でのNi−Pめっき処理は、市販のニムデンHDX(上村工業製)めっき液等を用い、温度80〜95℃、処理時間30〜180分、Ni濃度3〜10g/Lの条件でめっき処理を行うことが好ましい。このような無電解でのNi−Pめっき処理工程によって、下地めっき処理したアルミニウム合金基盤が得られる(ステップS111)。
【0065】
E.磁気ディスク
最後に、下地めっき処理したアルミニウム合金基盤の表面を研磨により平滑し、表面に下地層、磁性層、保護膜及び潤滑層等からなる磁性媒体をスパッタリングにより付着させる工程によって磁気ディスクとする(ステップS112)。
【0066】
なお、冷間圧延(ステップS104)工程後のステップS105で作製したアルミニウム合金板とした後は、第二相粒子を構成する金属間化合物種やその分布及び固溶量が変化することはほぼない。従って、ステップS105で作製したアルミニウム合金板に代えて、加圧平坦化処理(ステップS107)工程後のステップS108で作製したアルミニウム合金基板や、Ni−Pめっき処理(ステップS110)工程後のステップS111で作製したアルミニウム合金基盤や、磁性体を付着した(ステップS112)工程後の磁気ディスクを用いて第二相粒子を構成する金属間化合物種やその分布及び固溶量の評価を行ってもよい。
【0067】
F.フラッタリング特性
フラッタリング特性は、ハードディスクドライブのモーター特性によっても影響を受ける。本発明においては、フラッタリング特性は、空気中では、50nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。50nm以下であれば一般的なHDD向けの使用に耐え得ると判断される。50nmを超える場合は、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。
【0068】
また、フラッタリング特性は、ヘリウム中では、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。30nm以下であればより高密度記録容量のHDD向けの使用に耐え得ると判断される。30nmを超える場合は、読み取り部であるヘッドの位置決め誤差が増加する。
【0069】
ここで、使用するハードディスクドライブによって必要なフラッタリング特性が異なるため、このフラッタリング特性に対して、第二相粒子の分布状態を適宜決定すれば良い。これらは、上述の添加元素の含有量、後述の鋳造時の冷却速度を含めた鋳造方法、並びに、その後の熱処理と加工による熱履歴及び加工履歴、をそれぞれ適正に調整することによって得られる。
【0070】
なお、ハードディスク内にヘリウムを充填することで流体力を下げることができる。これは、ヘリウムのガス粘度が空気と比べるとその約1/8に小さいためである。ハードディスクの回転に伴うガスの流れによって発生するフラッタリングを、ガスの流体力を小さくすることによって低減するものである。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
表1〜表3に示す成分組成の各合金素材を常法に従って溶解し、アルミニウム合金溶湯を調製した(ステップS101)。表1〜表3中「−」は、測定限界値未満を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
次に、アルミニウム合金溶湯をCC法によって鋳造して、板厚7mmの鋳造板を作製した(ステップS102)。鋳造ロール等の溶湯入側に設置されたノズルの手前に配置された樋を流れる溶湯の樋の底からの湯表面高さ、鋳造速度を表4〜6に示す。なお、合金No.A8〜A10及びAC8〜AC12については、380℃×3時間の均質化処理を施した(ステップS103)。
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
次に、均質化処理を施した、或いは、施さない全ての鋳造板を、冷間圧延により最終板厚の0.8mmまで圧延してアルミニウム合金板とした(ステップS104)。なお、実施例3〜6は、冷間圧延の途中(板厚3.0mm)に、実施例11は冷間圧延の前に焼鈍処理を実施した。実施例3は、バッチ式の加熱炉で200℃×9.5時間の条件で、実施例4は、バッチ式の加熱炉で370℃×0.1時間の条件で、実施例5は、連続式の加熱炉で350℃×60秒の条件で、実施例6は、連続式の加熱炉で390℃×0秒の条件で、実施例11は、バッチ式の加熱炉で250℃×3.0時間の条件で、焼鈍処理を実施した。このようにして、アルミニウム合金板を作製した(ステップS105)。このようにして作製したアルミニウム合金板から外径96mm、内径24mmの円環状に打抜き、ディスクブランクを作製した(ステップS106)。
【0081】
上記のようにして作製したディスクブランクを370℃で3時間加圧焼鈍を施した(ステップS107)。次いで、加圧平坦化処理したディスクブランクに端面加工を行い外径95mm、内径25mmとし、グラインディング加工(表面10μm研削)を行ってアルミニウム合金基板を作製した(ステップS108)。その後、AD−68F(商品名、上村工業製)により60℃で5分の脱脂を行った後、AD−107F(商品名、上村工業製)により65℃で1分の酸エッチングを行い、さらに30%HNO
3水溶液(室温)で20秒間デスマット処理を行なった(ステップS109)。
【0082】
このようにして表面状態を整えた後に、ディスクブランクをAD−301F−3X(商品名、上村工業製)の20℃のジンケート処理液に0.5分間浸漬して表面にジンケート処理を施した(ステップS109)。なお、ジンケート処理は合計2回行い、ジンケート処理の間に室温の30%HNO
3水溶液に20秒間浸漬して表面を剥離処理した。ジンケート処理した表面に無電解Ni−Pめっき処理液(ニムデンHDX(商品名、上村工業製))を用いてNi−Pを11.5μm厚さに無電解めっきした後、羽布により仕上げ研磨(研磨量1.5μm))を行った(ステップS110)。このようにして、アルミニウム合金基盤を作製した(ステップS111)。
【0083】
冷間圧延(ステップS104)後のアルミニウム合金板、或いは、めっき処理研磨(ステップS110)工程後のアルミニウム合金基盤の各試料について以下の評価を行った。なお、比較例14、15、18、19では、鋳造前に溶湯が固化してしまい、鋳造を行うことができなかったため、評価は行っていない。また、各試料では、同一の条件で作製した3枚のディスクをめっき処理まで実施しているが、比較例2、4〜13のディスクでは、3枚共にめっき剥離が発生した。そのため、これらの比較例においては、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0084】
〔100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子の分布密度〕
冷間圧延(ステップS104)後のアルミニウム合金板断面を研磨後、光学顕微鏡により1000倍の倍率で1mm
2の視野を観察し、粒子解析ソフトA像くん(商品名、旭化成エンジニアリング(株)社製)を用いて領域(A)と領域(C)の第二相粒子の分布密度(個/mm
2)を算出した。観察は、アルミニウム合金基板のL−ST断面(圧延方向と板厚方向からなる断面)とした。なお、視野観察は、合計が1.0mm
2となる複数の箇所について行ない、各視野における個数を合計して分布密度とした。結果を表7〜9示す。
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
【表9】
【0088】
〔Mn固溶量〕
Mn固溶量の測定は、冷間圧延(ステップS104)後のアルミニウム合金板を用い、次の手順により行った。熱フェノール溶解抽出法により得られた残渣から、アルミニウム合金板におけるMn総析出量を分析測定し、Mn成分分析値から差し引いた値をMn固溶量とした。つまり、アルミニウム合金に含有されるMnは、固溶状態のものと、第二相粒子として金属間化合物の状態のものとからなるものとして、後者を熱フェノール溶解抽出法により測定し、これを全Mn含有量から差し引いてMn固溶量を求めるものである。なお、Mn析出量の分析方法については、「佐藤,泉:軽金属学会第68回春期大会講演概要,(1985),55.」の学術文献、「村松,松尾,小松ら:軽金属学会第76回春期大会講演概要,(1989),51.」の学術文献を参照して行なった。
【0089】
熱フェノール溶解抽出法に関して説明する。アルミニウム合金板から2gの試験片を採取した。なお、試験片は、アルミニウム合金板から小片を切り出し、合計で2gとなるように秤量した。次いで、フェノール50mlを入れたビーカーをホットプレート上に載置してフェノールを170〜180℃に加熱した後、試験片を投入して溶解させた。次いで、上記溶液が入ったビーカーをホットプレート上から移して冷却した。次いで、固化防止のため、上記冷却した溶液にベンジルアルコールを添加した。次いで、上記ベンジルアルコールを添加した溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルター(孔径0.1μm)により濾過し、第二相粒子を残渣として得た。次いで、この熱フェノール溶解抽出法により得られた残渣中のSiを10%−NaOH溶液によって溶解させた後に、この溶液に王水(体積比で濃塩酸:濃硝酸=3:1)を加えた混合液によってMnを溶解させた。このようにして、溶解したSi、Mnを含む混合液を得た。次いで、この混合液を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)によって定量分析した。これにより、第二相粒子として析出したMn析出量を求めた。
【0090】
次に、熱フェノール溶解抽出法より得られたMn析出量をMn総析出量とし、アルミニウム合金板のMn成分分析値からMn総析出量を差し引いた値をMn固溶量とて求めた。結果を表7〜9示す。
【0091】
〔耐力〕
耐力は、JIS Z2241に準拠し、冷間圧延(ステップS104)後のアルミニウム合金板を370℃で3時間の焼鈍(加圧焼鈍模擬加熱)を行った後、圧延方向に沿ってJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。強度の評価は、耐力が80MPa以上の場合をA(優)、60MPa以上80MPa未満をB(良)、60MPa未満をC(劣)とした。結果を表7〜9示す。
【0092】
〔ディスク・フラッタの測定〕
めっき処理研磨(ステップS110)工程後のアルミニウム合金基盤を用いディスク・フラッタの測定を行った。ディスク・フラッタの測定は、市販のハードディスクドライブに空気の存在下、アルミニウム合金基板を設置し、測定を行った。ドライブはSeagate製ST2000(商品名)を用いて、モーター駆動はテクノアライブ製SLD102(商品名)をモーターに直結することにより駆動させた。回転数は7200rpmとし、ディスクは常に複数枚設置してその上部の磁気ディスクの表面にレーザードップラー計である小野測器製LV1800(商品名)によって表面の振動を観察した。観察した振動は、小野測器製FFT解析装置DS3200(商品名)によってスペクトル分析した。観察はハードディスクドライブの蓋に孔を開けることにより、その穴からディスク表面を観察して行った。また、市販のハードディスクに設置されていたスクイーズプレートは外して評価を行っている。
【0093】
フラッタリング特性の評価は、フラッタリングが現れる300〜1500Hzの付近のブロードなピークの最大変位(ディスクフラッタリング(nm))によって行った。このブロードなピークはNRRO(Non−Repeatable Run Out)と呼ばれ、ヘッドの位置決め誤差に対して大きな影響があることがわかっている。フラッタリング特性の評価は、空気中にて、30nm以下の場合をA(優)、30nmを超えて40nm以下をB(良)、40nmを超えて50nm以下をC(可)、50nmより大きい場合はD(劣)とした。結果を表7〜9示す。
【0094】
表7〜9に示すように、実施例1〜42は良好な強度とフラッタリング特性を得ることが出来た。これに対して、比較例1〜21では、強度とフラッタリング特性の少なくともいずれかい一方が劣っており、或いは、鋳造不可で、強度及びフラッタリング特性の評価を行うことができず、或いは、めっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0095】
具体的には、比較例1では、Fe含有量が少な過ぎたため、強度及びフラッタリング特性が劣った。
【0096】
比較例2では、Fe含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。また、領域(A)における第二相粒子の分散密度が多過ぎた。
【0097】
比較例3では、Mnが含有されていなかったためMn固溶量がなく、強度及びフラッタリング特性が劣った。
【0098】
比較例4では、Mn含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0099】
比較例5では、Cuが含有されていなかったためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0100】
比較例6では、Cu含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0101】
比較例7では、Znが含有されていなかったためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0102】
比較例8では、Zn含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0103】
比較例9では、Si含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0104】
比較例10では、Ni含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。また、領域(A)における第二相粒子の分散密度が多過ぎた。
【0105】
比較例11では、Mg含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0106】
比較例12では、Cr含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0107】
比較例13では、Zr含有量が多過ぎたためにめっき剥離が生じ、フラッタリング特性の評価を行うことができなかった。
【0108】
比較例14、15では、樋を流れる溶湯量が多過ぎたため、領域(C)において100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が多数生成した。その結果、フラッタリング特性が劣った。
【0109】
比較例16、17では、溶湯の湯表面高さが高過ぎたため、領域(C)において100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が多数生成した。その結果、フラッタリング特性が劣った。
【0110】
比較例18、19では、鋳造速度が遅過ぎたため、鋳造前に溶湯が固化してしまい、鋳造を行うことができず、フラッタリング特性と強度の評価を行うことができなかった。
【0111】
比較例20、21では、鋳造速度が速過ぎたため、領域(A)において100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が多数生成した。その結果、フラッタリング特性が劣った。また、Mn固溶量が低過ぎたため、強度が劣った。
【解決手段】Fe:0.1〜3.0mass%(以下、単に「%」)、Mn:0.1〜3.0%、Cu:0.003〜1.000%、Zn:0.005〜1.000%を含有し、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の25%以内を占める領域(A)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が50個/mm
以下の分布密度で分散し、板厚中心面から板の両表面に向かい板厚の50%以内を占める領域(B)から領域(A)を除いた領域(C)において、100μm以上300μm以下の最長径を有する第二相粒子が0個/mm