特許第6492719号(P6492719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6492719ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492719
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 295/023 20060101AFI20190325BHJP
   C07D 295/027 20060101ALI20190325BHJP
   C07D 487/08 20060101ALI20190325BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C07D295/023
   C07D295/027
   C07D487/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-22639(P2015-22639)
(22)【出願日】2015年2月6日
(65)【公開番号】特開2016-145168(P2016-145168A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】粟野 裕
(72)【発明者】
【氏名】若林 保武
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−133971(JP,A)
【文献】 特開平01−143864(JP,A)
【文献】 特開2014−009181(JP,A)
【文献】 Journal of Catalysis,1993年,vol. 144,pp. 556-568
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 295/023
C07D 295/027
C07D 487/08
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエチレントリアミンと、エチレンジアミン、又はトリエチレンテトラミンとを、ジエチレントリアミン 1モルに対して、エチレンジアミン、又はトリエチレンテトラミン 1モル以上10モル以下、及び反応温度が200℃以上290℃以下の条件で、アルカリ金属イオンによるイオン交換率が89%以上であるイオン交換されたZSM−5型ゼオライトと接触させて反応させることを特徴とするピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属イオンが、カリウムイオン、ナトリウムイオン、セシウムイオン及びルビジウムイオンの群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンであることを特徴とする請求項1に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラジン及びトリエチレンジアミンは、医農薬中間体、有機合成用触媒、化学吸着剤、又は抗菌剤として有用な化合物である。
【0003】
従来の製造法としては、エチレンジアミン類をペンタシル型のゼオライト触媒と接触させ、ピペラジンとトリエチレンジアミンとを同時に製造する方法が知られている。
【0004】
例えば、未処理のペンタシル型ゼオライトを触媒に使用して、ポリエチレンポリアミン又はエタノールアミンからトリエチレンジアミン及びピペラジンの混合物を製造した場合、転化率を上げるとトリエチレンジアミンが主生成物となり、ピペラジンの収率が低下することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一般に、ペンタシル型ゼオライトを触媒に用いた場合には、生成するピペラジンとトリエチレンジアミンの選択率は、特に触媒のブレンステッド酸に影響されることが示唆されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
そこで、ブレンステッド酸点が減少したと推定されるアルカリ金属イオン又は骨格中のアルミニウムが鉄に置換されているペンタシル型ゼオライトを触媒としたエチレンジアミンからの反応が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、反応が高転化率に達した場合には、トリエチレンジアミンが主生成物として得られている。
【0007】
さらに、Ca塩で置換したZSM−5型ゼオライト触媒でのエチレンジアミンを原料としたピペラジン合成の例では、高転化率となる360℃以上でもピペラジンがトリエチレンジアミンよりも高い選択率で得られるものの、原料注入速度の影響が大きく、注入速度が変わると転化率及び選択率が低下する傾向があるため、工業的な製造法としてはまだ不十分である(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
他に、高い選択性でピペラジンを含む反応液が得られた例として、トリス(アミノエチル)アミンを原料に用い、ペンタシル型ゼオライトを触媒とした例があるが、原料が非常に高価であり、工業的な製造方法としての適応は困難である(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
一方、ペンタシル型ゼオライトを触媒として、エチレンジアミンの反応を検討した例はあるが、イオン交換したZSM−5型ゼオライトを触媒に用いた検討は行っておらず、また主生成物はトリエチレンジアミンであった(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
以上のように、エチレンジアミン類をZSM−5型ゼオライト触媒と接触させ、ピペラジンとトリエチレンジアミンとを同時に製造する方法において、転化率が高くても、安定的に選択性よく高収率でピペラジンが得られる工業的な製造方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平01−143864号公報
【特許文献2】特開平03−133971号公報
【特許文献3】特開2014−9181公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Applied Catalysis A:General 379(2010),45
【非特許文献2】Chemical Engineering(China),34,6(2006),68
【非特許文献3】Journal of Catalysis,144(1993),556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記に示した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピペラジンがより選択的且つ高収率で得られるピペラジン及びトリエチレンジアミンの併産製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの併産製造方法について鋭意検討を重ねた結果、400℃以下の低温でも高い転化率で反応し、ピペラジンとトリエチレンジアミンの合計収率が75モル%以上であり、且つ、ピペラジンを選択率60重量%以上で得ることができるピペラジン及びトリエチレンジアミンの併産製造方法を見出して、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのピペラジン及びトリエチレンジアミンの併産製造方法である。
【0016】
[1]ジエチレントリアミンと、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、及びそれらのアルキル化体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン類とを、アルカリ金属イオンによるイオン交換率が50%以上であるイオン交換されたZSM−5型ゼオライトと接触させて反応させることを特徴とするピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0017】
[2]反応温度が200℃以上400℃以下であることを特徴とする上記[1]に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0018】
[3]前記アルカリ金属イオンが、カリウムイオン、ナトリウムイオン、セシウムイオン及びルビジウムイオンの群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0019】
[4]ジエチレントリアミン1モルに対して、1モル以上10モル以下のアミン類を反応させることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【0020】
[5]前記アミン類が、エチレンジアミン又はトリエチレンテトラミンであることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の製造方法は、ピペラジンとトリエチレンジアミンとを同時に製造する方法であり、詳しくは転化率が高い時でも、安定的に選択性よく高収率でピペラジンが得られる工業的な製造方法に関するものであり、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法は、ジエチレントリアミンと、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、及びそれらのアルキル化体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン類とを、アルカリ金属イオンによりイオン交換されたZSM−5型ゼオライトと接触させ反応を行うことをその特徴とする。
【0024】
本発明において、ZSM−5型ゼオライトのSiO/Al(モル比)は特に限定されないが、例えば、20〜500の範囲のSiO/Al(モル比)であれば、触媒活性値がある程度高く、しかも、触媒活性の耐熱性に優れているため好ましい。
【0025】
本発明において、ZSM−5型ゼオライトは、通常、プロトン型として用いられるが、イオン交換法、吸着法等の公知の方法で水素イオンをアルカリ金属イオンでイオン交換したゼオライト等を使用すると、ピペラジンの収率や選択率が高くなり好ましい。
【0026】
本発明において、水素イオンがアルカリ金属イオンとイオン交換した時のアルカリ金属イオン交換率は、アルカリ金属イオン/Al(モル比率)で表され、50%以上の範囲であり、好ましくは60%以上の範囲である。Al原子1モルに対して上記した金属イオン合計の添加量を50%以上とすることで、得られるピペラジンの選択性は向上する。
【0027】
そのアルカリ金属イオンの内、カリウムイオン、ナトリウムイオン、セシウムイオン及びルビジウムイオンの群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属イオンが好ましい。
【0028】
本発明において、上記のゼオライトの形態は、反応形式に応じて自由に選択することができる。例えば、連続反応に用いるときは成型体を使用することができ、また、回分反応に用いるときは粉末又は成型体を使用することができる。成型体の形状は、特に制限されず、球状、円柱状、円筒状、顆粒状、不定形等、反応形式に応じて自由に選択することができる。ゼオライトの成型方法としては、例えば、打錠成型、押出成型、転動造粒、噴霧乾燥等、種々の方法が挙げられるが、特に限定されない。また、ゼオライトを成型する際には、例えば、粘土、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ等の公知の結合剤(バインダー)を用いることができる。
【0029】
本発明において、原料として用いるエチレンアミン類は、エチレンジアミンと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン及びそれらのアルキル化体からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン類との混合物である。好ましくはエチレンジアミンとジエチレントリアミンとの組合せである。エチレンジアミンとジエチレントリアミンとを組合せることで、ジエチレントリアミンがピペラジン及びトリエチレンジアミンへ効率よく転位する効果が発揮される。また、ジエチレントリアミンと上記したアミン類とのいずれの組合せでも同様の効果が得られる。
【0030】
本発明において、ジエチレントリアミンと上記したアミン類とのモル比は、特に限定するものではないが、ジエチレントリアミン1モルに対して上記したアミン類合計の添加量は、通常1モル以上10モル以下の範囲であり、好ましくは1モル以上8モル以下の範囲であり、さらに好ましくは1モル以上6モル以下の範囲である。ジエチレントリアミン1モルに対して上記したアミン類合計の添加量を1モル以上とすることで、アミン類を添加しない場合と比べ、得られるピペラジン及びトリエチレンジアミンの選択性は向上するが、10モルを超えて使用してもさらなる添加効果の向上は望めない。
【0031】
本発明において、原料として用いるエチレンアミン類が、例えば、エチレンジアミンとジエチレントリアミンを含有する場合は、ジエチレントリアミン1モルに対して、エチレンジアミンは、1モル以上10モル以下の範囲であることが好ましく、1モル以上8モル以下の範囲であることがさらに好ましく、1モル以上6モル以下の範囲であることが特に好ましい。
【0032】
本発明において、エチレンジアミンは、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの原料としても、反応の希釈剤としても作用する。したがって、ピペラジン及びトリエチレンジアミンを製造するため、エチレンジアミンが消費された場合は、ジエチレントリアミンに対して消費されたエチレンジアミンを追加して添加すればよい。また、消費されず残存したエチレンジアミンは、ピペラジン及びトリエチレンジアミンへの反応後、蒸留等の公知の方法で分離、回収し、本発明の反応に再び用いることができる。
【0033】
本発明において、反応を行う際には、原料として用いるエチレンアミン類を希釈剤で希釈して反応させることが好ましい。希釈剤としては、特に限定するものではないが、例えば、窒素ガス、水素ガス、アンモニアガス、水蒸気、炭化水素等の不活性ガス、水、不活性な炭化水素等の不活性溶媒が挙げられる。これらのうち単独又は複数を用いて原料を希釈し、反応を進行させることが好ましい。これらの希釈剤は任意の量で使用することができ、その使用量としては特に限定するものではないが、原料であるエチレンアミン類の1〜50重量%の範囲とすることが好ましく、より好ましくは10〜40重量%の範囲である。希釈剤の使用量に対して、エチレンアミン類を1重量%以上とすることでピペラジン及びトリエチレンジアミンの生産性が向上し、50重量%以下とすることでピペラジン及びトリエチレンジアミンの選択性が向上する。
【0034】
本発明において、反応における希釈剤は、原料として用いるエチレンアミン類と同時に反応器内に導入してもよく、予めエチレンアミン類を希釈剤に溶解させた後に、原料溶液として反応器に導入してもよい。
【0035】
本発明において、反応は200〜400℃の温度範囲で実施することが好ましく、さらに250〜350℃の温度範囲で実施することが好ましい。200℃未満でも反応は進行するが、十分な反応速度が得られない場合があり、温度を下げる利点は少ない。また、400℃を越える温度で反応を行うと原料及び生成物が分解するおそれがあり、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの選択率が低下することがある。
【0036】
また、本発明において、反応は、常圧〜50MPaの圧力範囲で実施することが好ましく、さらに0.1〜5MPaの圧力範囲で実施することが好ましい。50MPaを越える圧力で反応させても特別な効果はなく、安全面で工業的に不利となる。
【0037】
本発明において、原料として用いるエチレンアミン類の供給量は、特に限定するものではないが、ZSM−5型ゼオライト1kgに対して、1時間当たり0.01〜10kgの範囲が好ましく、0.05〜5kgの範囲がさらに好ましい。供給量を0.01kg以上とすることでピペラジン及びトリエチレンジアミンの生産性が向上し、10kg以下とすることでピペラジン及びトリエチレンジアミンの選択性が向上する。
【0038】
本発明において、反応は気相反応、液相反応で行うことができる。反応様式は回分式、半回分式、又は固定床のいずれの方法によって実施してもよい。使用する反応器は、例えば、槽型、管型等のいずれの形状でもよい。また、使用する触媒と反応液との分離は、ろ過、デカンテーション等の固体と液体とを分離する一般的な方法を用いることができる。また、蒸留等、公知の方法により触媒と反応液を分離することもできる。特に、触媒と反応液の分離操作が不要である固定床で実施することが好ましい。
【0039】
本発明において、得られたピペラジン及びトリエチレンジアミンと希釈剤とを分離する方法としては特に限定されず、例えば、蒸留等の公知の方法を用いることができる。分離された希釈剤は反応の希釈剤として再び用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0041】
また、本実施例における原料の転化率、生成物の収率は、ガスクロマトグラフ分析で確認した。ガスクロマトグラフ分析は、ガスクロマトグラフGC−2014(島津製作所製)を用い、カラムにはDB−5(アジレント・テクノロジー社製)、検出器にはFIDを用いた。尚、ピペラジン及びトリエチレンジアミンの収率は、原料であるジエチレントリアミンとアミン類からの収率として下式に従って算出し、ピペラジンの選択率は、ピペラジンとトリエチレンジアミン中のピペラジンの割合(重量%)として算出した。
【0042】
【数1】
(触媒調製方法)
以下の方法で実施例及び比較例で使用する触媒層を調製した。
【0043】
市販のZSM−5型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=70)を用いて、公知の方法(例えば、触媒、23、(1981年)232頁)に従って、水素イオンをNaイオンにイオン交換を行い、Naイオン交換率の異なるZSM−5型ゼオライトを得た。
【0044】
また、その際に得られたNa及び他の金属イオンの含有量は、元素分析により確認した。
【0045】
次いで、性能を比較するため、それらを加圧成型器で成型後、乳鉢で破砕、篩で分級し、3.5メッシュの成型体として、直径15mmのガラス反応管に20ml充填し、その上下部にそれぞれセラミックス製ラシヒリング(直径3mm×長さ3mm×厚さ1mm)を詰め、触媒層として反応に使用した。
【0046】
(反応条件)
実施例及び比較例において、以下の方法で、ピペラジン及びトリエチレンジアミンを同時に合成した。
【0047】
上記の触媒層の温度を290℃に保ち、上部よりジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.34ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。
【0048】
最初に、アルカリ金属としてNaイオンでの交換率による影響を検討した。
【0049】
実施例1
Na交換率が100%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が55モル%、トリエチレンジアミンの収率が45モル%から、ピペラジンの選択率は65重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。結果をまとめて表1に示した。
【0050】
実施例2
Na交換率が92%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が55モル%、トリエチレンジアミンの収率が42モル%から、ピペラジンの選択率は67重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0051】
実施例3
Na交換率が89%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が53モル%、トリエチレンジアミンの収率が42モル%から、ピペラジンの選択率は66重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は1%であった。
【0052】
実施例4
Na交換率が74%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が54モル%、トリエチレンジアミンの収率が43モル%から、ピペラジンの選択率は64重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は21%であった。
【0053】
実施例5
Na交換率が69%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が53モル%、トリエチレンジアミンの収率が43モル%から、ピペラジンの選択率は62重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は32%であった。
【0054】
実施例6
Na交換率が62%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が56モル%、トリエチレンジアミンの収率が44モル%から、ピペラジンの選択率は64重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は31%であった。
【0055】
実施例7
Na交換率が50%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が52モル%、トリエチレンジアミンの収率が47モル%から、ピペラジンの選択率は60重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は35%であった。
【0056】
比較例1
Na交換率が40%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が51モル%、トリエチレンジアミンの収率が47モル%から、ピペラジンの選択率は59重量%と60重量%以下であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は41%であった。
【0057】
比較例2
Na交換率が1%のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液の反応を行った。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が47モル%、トリエチレンジアミンの収率が43モル%から、ピペラジンの選択率は59重量%と60重量%以下であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は60%であった。
【0058】
実施例1〜7及び比較例1〜2の結果を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】
上記表1から、ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した系で反応した場合、触媒であるZSM−5型ゼオライトのNaイオン交換率が50%以上であれば、ピペラジンとトリエチレンジアミンの合計収率が95モル%以上、選択率が60重量%以上となり、交換率の低い場合に比べて明らかに収率と選択性が向上することが判明した。
【0060】
次に、アルカリ金属として、Naイオン以外であるLiイオン、Kイオン、Rbイオン、及びCsイオンでの交換率による影響を検討した。
【0061】
実施例8
公知の方法で水素イオンを20%の交換率でNaイオンに交換したZSM−5型ゼオライトと、50%の交換率でLiイオン交換した市販のZSM−5型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=70)とを触媒に用いたこと以外は実施例1と同様の操作により反応を行った。
【0062】
得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が56モル%、トリエチレンジアミンの収率が36モル%、ピペラジンの選択率が69重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は15%であった。
【0063】
実施例9
公知の方法で水素イオンを76%の交換率でKイオン交換した市販のZSM−5型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=70)を触媒に用いたこと以外は実施例1と同様の操作により反応を行った。
【0064】
得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が63モル%、トリエチレンジアミンの収率が36モル%、ピペラジンの選択率が72重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は15%であった。
【0065】
実施例10
公知の方法で水素イオンを66%の交換率でRbイオン交換した市販のZSM型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=70)を触媒に用いたこと以外は実施例1と同様の操作により反応を行った。
【0066】
得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が60モル%、トリエチレンジアミンの収率が40モル%、ピペラジンの選択率が67重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は16%であった。
【0067】
実施例11
公知の方法で水素イオンを87%の交換率でCsイオン交換した市販のZSM−5型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=70)を触媒に用いたこと以外は実施例1と同様の操作により反応を行った。
【0068】
得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が99%、ピペラジンの収率が60モル%、トリエチレンジアミンの収率が40モル%、ピペラジンの選択率が65重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は3%であった。
【0069】
【表2】
この結果から、同程度のイオン交換率であるNaイオンと比較して、Liイオン、Kイオン、Rbイオンで交換するとPIP選択率が向上し、また、Csイオンで交換してもPIP+TEDAの収率が向上することが明らかとなった。
【0070】
さらに、Na交換率が60%以上のZSM−5型ゼオライトを用いて、ジエチレントリアミン1モルに対して添加するエチレンジアミンのモル比、反応温度、ZSM−5型ゼオライトのSiO/Alのモル比、及び、ジエチレントリアミンの濃度を変えた実施例及び比較例を以下に示す。
【0071】
実施例12
ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン2モルとしたこと以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。充填した触媒層の温度を290℃に保ち、上部よりジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン2モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.34ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が50モル%、トリエチレンジアミンの収率が46モル%、ピペラジンの選択率が62重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0072】
実施例13
ジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン6モルとしたこと以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。充填した触媒層の温度を290℃に保ち、上部よりジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン6モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.34ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%であり、ピペラジンの収率が57モル%、トリエチレンジアミンの収率が35モル%、ピペラジンの選択率が69重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0073】
実施例14
公知の方法で水素イオンをNaイオン交換した市販のZSM−5型ゼオライト(東ソー社製、SiO/Al=28)を触媒とし、反応温度を320℃にしたこと以外は実施例1に記載の方法と同様の操作により反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が98%、ピペラジンの収率が48モル%、トリエチレンジアミンの収率が34モル%、ピペラジンの選択率が65重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は47%であった。
【0074】
実施例15
実施例1で使用したZSM−5型ゼオライトのSiO/Al比を40の触媒としたこと以外は実施例1に記載の方法と同様の操作により反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が59モル%、トリエチレンジアミンの収率が41モル%、ピペラジンの選択率が66重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は9%であった。
【0075】
実施例16
実施例1で使用したZSM−5型ゼオライトのSiO/Al比を52の触媒としたこと以外は実施例1に記載の方法と同様の操作により反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が55モル%、トリエチレンジアミンの収率が45モル%、ピペラジンの選択率が64重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は9%であった。
【0076】
実施例17
実施例1で使用したZSM−5型ゼオライトのSiO/Al比を200の触媒としたこと以外は実施例1に記載の方法と同様の操作により反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が98%、ピペラジンの収率が47モル%、トリエチレンジアミンの収率が36モル%、ピペラジンの選択率が67重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0077】
実施例18
実施例1で使用したZSM−5型ゼオライトのSiO/Al比を50の触媒とし、反応温度を350℃としたこと以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が50モル%、トリエチレンジアミンの収率が38モル%、ピペラジンの選択率が62重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は94%であった。
【0078】
比較例3
反応温度を410℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が27モル%、トリエチレンジアミンの収率が73モル%、ピペラジンの選択率が31重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は100%であった。
【0079】
比較例4
原料のジエチレントリアミンにエチレンジアミンを添加しなかった以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が99%、ピペラジンの収率が22モル%、トリエチレンジアミンの収率が25モル%、ピペラジンの選択率が47重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0080】
比較例5
原料のジエチレントリアミンにエチレンジアミンを添加せず、反応温度を320℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が30モル%、トリエチレンジアミンの収率が61モル%、ピペラジンの選択率が27重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0081】
比較例6
原料のジエチレントリアミンにエチレンジアミンを添加せず、反応温度を350℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が20モル%、トリエチレンジアミンの収率が74モル%、ピペラジンの選択率が17重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は0%であった。
【0082】
以下の表3に実施例12〜18及び比較例3〜6の結果を纏めて示す。
【0083】
【表3】
以上の通り、エチレンジアミンをジエチレントリアミンに対して添加しなかった場合は、添加した場合と比べると、ピペラジンの選択率も60重量%を大きく下回り、明らかに低下した。
【0084】
さらに、原料のアミン水溶液の滴下速度を変えて、反応を検討した。
【0085】
実施例19
原料のアミン水溶液の滴下速度を半分に減速し、反応温度を300℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。即ち、充填した触媒層の温度を300℃に保ち、上部よりジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.17ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が52モル%、トリエチレンジアミンの収率が48モル%、ピペラジンの選択率が60重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は54%であった。
【0086】
実施例20
原料のアミン水溶液の滴下速度を倍に加速し、反応温度を300℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。即ち、充填した触媒層の温度を300℃に保ち、上部よりジエチレントリアミン1モルに対してエチレンジアミン4モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.68ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が56モル%、トリエチレンジアミンの収率が44モル%、ピペラジンの選択率が68重量%であった。尚、添加したエチレンジアミンの転化率は13%であった。
【0087】
【表4】
この表4から、原料のアミン水溶液の滴下速度を変化させても、ピペラジンの収率、トリエチレンジアミンの収率、及び、ピペラジンの選択率は余り変化しないことが分かった。
【0088】
次いで、前記のようにして得られたアルカリ金属イオン交換率60%以上のZSM−5型ゼオライトを触媒として、原料のアミン類の種類をエチレンジアミンからトリエチレンテトラミンに代えた影響を検討した。
【0089】
実施例21
原料のアミン類の種類をエチレンジアミンからトリエチレンテトラミンに代えた以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。即ち、充填した触媒層の温度を290℃に保ち、上部よりNa交換率が100%のZSM−5型ゼオライトを用いて、トリエチレンテトラミン1モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.34ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が97%、ピペラジンの収率が50モル%、トリエチレンジアミンの収率が25モル%、ピペラジンの選択率が74重量%であった。尚、添加したトリエチレンテトラミンの転化率は3%であった。
【0090】
実施例22
原料のアミン類の種類をエチレンジアミンからトリエチレンテトラミンに代え、反応温度を300℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。即ち、Na交換率が100%のZSM−5型ゼオライトを用いて、トリエチレンテトラミン1モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.34ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が60モル%、トリエチレンジアミンの収率が33モル%、ピペラジンの選択率が71重量%であった。尚、添加したトリエチレンテトラミンの転化率は12%であった。
【0091】
実施例23
原料のアミン類の種類をエチレンジアミンからトリエチレンテトラミンに代え、反応温度を310℃とした以外は、実施例1に記載の方法と同様に反応した。即ち、充填した触媒層の温度を310℃に保ち、上部よりNa交換率が100%のZSM型ゼオライトを用いて、トリエチレンテトラミン1モルを添加した10%ジエチレントリアミン水溶液を0.34ml/分の速度で滴下した。得られた反応混合ガスをコンデンサーで冷却し、反応混合液を得た。生成物を分析した結果、ジエチレントリアミンの転化率が100%、ピペラジンの収率が60モル%、トリエチレンジアミンの収率が40モル%、ピペラジンの選択率が67重量%であった。尚、添加したトリエチレンテトラミンの転化率は23%であった。
【0092】
【表5】
以上から、本触媒を用いた反応方法は、原料がジエチレントリアミンとトリエチレンテトラミンの場合にも、ピペラジンを主とするトリエチレンジアミンの併産方法として有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のピペラジン及びトリエチレンジアミンの製造方法は、工業的に利用可能なピペラジンをより選択的且つ高収率で得るトリエチレンジアミンとの併産方法であるため、アミン製造工業において有用である。