【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、固定床流通式触媒反応による製造装置と、触媒を用いた化学反応プロセスにおいて、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に触媒性能の変化を活性化エネルギーの変化量として算出し、該活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測できる触媒寿命解析装置を備えた触媒反応製造システムを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は固定床流通式触媒反応による製造装置と、触媒を用いた化学反応プロセスにおいて、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に触媒性能の変化を活性化エネルギーの変化量として算出し、該活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測できる触媒寿命解析装置を備えた触媒反応製造システムに関するものである。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の触媒反応製造システムは、固定床流通式触媒反応による製造装置、並びに目的とする生成物の総量を積算する装置、触媒使用時の触媒層温度を検出する装置、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出する装置、活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算装置および触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測する演算装置を有する触媒を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の固定床流通式触媒反応による製造装置は、使用する触媒を反応管に充填し、原料を触媒床に供給する固定床流通式触媒反応による製造装置であり、従来の触媒反応による製造装置を用いることができる。
【0021】
本発明の目的とする生成物の総量を積算する装置は、固定床流通式反応塔の出口から流出する生成物量を分析することによって求めるための装置である。測定された目的とする生成物量を単位時間毎に記録し、使用期間内の生成物量を積算することで、使用期間内の目的とする生成物の総量を求めることができる。
【0022】
本発明の触媒使用時の触媒層温度を検出する装置は、固定床流通式反応塔に設置した触媒層の温度を測定するための装置である。測定された触媒層の温度は触媒層の位置毎および経過時間毎に記録される。
【0023】
本発明の触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出する装置は、使用期間内の目的とする生成物の総量を積算する装置で積算された目的とする生成物の総量を基に触媒層の位置毎に活性化エネルギーの変化量を算出する演算装置である。
【0024】
本発明の活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算装置は、前記活性化エネルギーの変化量を算出する装置で算出した触媒層の各位置における活性化エネルギーの変化量から触媒層の各位置における触媒性能の経時変化をアレニウス式による反応速度定数を用いて解析する演算装置である。
【0025】
本発明の触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測する演算装置は、活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算装置によって算出したアレニウス式による反応速度定数を用いて熱収支および物質収支に従って計算することにより、触媒層温度の予測を行う演算装置である。
【0026】
本発明者は触媒の性能低下現象を反応速度論に基づいて整理し、性能低下は活性化エネルギーの変化に起因するものであることを見出した。すなわち、使用期間が異なる触媒の活性化エネルギーを反応管の位置毎に区別して測定したところ、
図1のような変化を確認した。これは触媒の経時変化に基づく変化であり、その変化をモデル化した。このモデルに基づいて触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出し、該活性化エネルギーの変化量を反応速度論に基づいて整理することで、触媒性能の経時変化を解析することができる。得られた活性化エネルギーの変化量は触媒層の位置で一様でなく、位置毎に異なった値で算出できるため、位置毎の触媒性能の経時変化を解析できる。
【0027】
前記活性化エネルギーの変化量ΔEaは、触媒の使用期間内の目的とする生成物の総量をW、触媒の劣化度合を示す定数をK、反応塔内で触媒が充填された反応管の入口から出口までの長さをL
0、反応管の入口からの位置をLとすると、L、Wの関数として式(1);
ΔEa(L,W)=KW
n ×(L−L
0) (1)
(ここでnは0より大きく1より小さい値である、)
で表される。式(1)のKW
nは
図1の傾きを持つ直線の傾きに相当する値である。
【0028】
図1のように、傾きをWの関数として表されるとして、手順1:触媒の使用開始とともに未使用のEaの線(
図1の破線)上をL方向に始点Mが進み、Mから入口方向へ直線を引き、手順2:入口からMまではΔEaが上昇し式(1)を用いて、Mから出口まではΔEaは不変(即ちΔEa=0)としてΔEaを求める。得られた傾きとWとの関係を調べることで傾きのWに対する変化を関数として与えることができる。
図2のように傾きをプロットしてWとの関係を求めるとKW
nと近似することができ、nは0より大きく1未満であり、
図2に示した例のnは0.5であった。また、Mの移動はWを変数とする関数で表すことができ、Dを定数とすると、通常DW
mと近似することができ、mは0から1である。
【0029】
該活性化エネルギーの変化量を用いて触媒性能の経時変化を解析する場合には一般にアレニウス式による反応速度定数を用いることができる。使用期間経過後の反応速度定数をkとして、頻度因子をA、初期の活性化エネルギーをEa
0、気体定数をR、触媒層温度をT(L,W)とすると、L、Wの関数として式(2);
k(L,W)=Aexp(−(Ea
0+ΔEa(L,W))/RT(L,W)) (2)
で表される。
【0030】
前記反応速度定数kと初期の反応速度定数k
0と比較することによって触媒性能の経時変化を解析できる。
【0031】
また、反応管入口にある触媒層において、算出される反応速度によって反応原料が反応生成物を生成する際、その反応量に従って反応熱が生じる。この反応熱は反応管外へ除熱され、あるいは次の触媒層に流通ガスとともに移動する。この熱収支および物質収支によって次の触媒層の温度が決定し、反応速度を計算することができる。この繰り返しによって反応管入口から出口までの全ての触媒層温度を予測することができる。
【0032】
予測した触媒層温度の分布から、触媒性能の低下による反応塔への影響を解析することができる。また、算出した触媒層温度の予測値と触媒の使用時の触媒層温度を検出する触媒層温度検出手段によって測定された実測温度を比較することで、この触媒寿命を予測するための触媒寿命予測方法およびこの予測方法を用いた触媒寿命解析装置の精度を知ることができる。
【0033】
さらにこの触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測する演算装置では、予め計画した交換時期に達するまで触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮する運転条件の探索と最適化を行うために、触媒層温度の将来予測を行うことができる。
【0034】
本発明の触媒反応製造システムは、前記のような活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測する化学反応プロセス用触媒寿命解析装置を備える触媒反応製造システムであり、固定床流通式触媒反応による製造装置、並びに目的とする生成物の総量を積算する装置、触媒使用時の触媒層温度を検出する装置、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出する装置、活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算装置および触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測する演算装置を有する触媒を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置を備える触媒反応製造システムである。
【0035】
このような触媒寿命を予測できる触媒寿命解析装置を備えた触媒反応製造システムによって、最大限の触媒性能を発揮するように生産計画に従って製造装置の運転条件の最適化を行うことができる。
【0036】
たとえば、現行の製造装置の運転条件によって運転継続したときの将来予測では生産計画に従った生産量が得られないことが予測される場合、運転条件を変更して生産量を増加しなければならない。その時、触媒寿命解析装置によって運転条件を変更した場合の将来予測を解析し、最適な運転条件を探索してその条件に製造装置の運転条件を変更することで、生産計画に従った生産量を得ることができかつ触媒性能を生かした効率の良い生産を行うことができる。
【0037】
あるいは反応塔が可能な運転条件の探索を行い、触媒層温度の将来予測を行うとともに、生産計画に従った生産量を得ることができないと判断された場合には運転条件を再設定し直して触媒性能の経時変化を解析するために必要な情報を入力する装置に再入力して再計算させる。このようにして再計算させても、もはや反応塔が可能な運転条件の範囲では生産計画に従った生産量を得ることができないと判断された場合、触媒寿命と判断することになる。
【0038】
従って、前記のように触媒寿命と判断された時期を次回交換時期に設定すれば、それまでの期間は触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮するように生産計画を立てることが可能になる。
【0039】
また、次回交換時期まで製造装置において現行の運転条件で運転継続すると触媒寿命となり、運転継続ができなくなる場合には製造装置を次回交換時期まで運転継続できるように触媒寿命解析装置によって運転条件の変更した場合の将来予測を解析し、最適な運転条件を探索してその条件に製造装置の運転条件を変更することで、製造装置の反応塔に充填されている触媒は次回交換時期まで触媒寿命に達せず、かつその期間の生産量を維持できるように効率よく生産調整をすることができる。
【0040】
また、触媒寿命解析装置は、解析結果を出力する手段及び解析結果を記録する手段を備えていても良い。
【0041】
解析結果を出力する手段は、前記解析によって得られた触媒層の各位置における触媒性能の経時変化および触媒性能の経時変化から予測される触媒層温度を出力するための装置である。
【0042】
解析結果を記録する手段は、前記解析に必要な情報および前記解析によって得られた触媒層の各位置における触媒性能の経時変化および触媒性能の経時変化から予測される触媒層温度を触媒寿命解析プログラムを格納したコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録するための装置である。
【0043】
ここでいう「記録媒体」とは、プログラムを記録することができるコンピューターで読み取り可能な媒体を意味する。例えば、半導体メモリ、ICカード、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、デジタルビデオディスクなどを含む。
【0044】
本発明による触媒を用いた化学を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置を備えた触媒反応製造システムは、特にエチレン、塩化水素および酸素を反応させて1,2−ジクロロエタンを製造するプロセスに好適に用いることができる。