特許第6492859号(P6492859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6492859液状組成物およびそれからなるエポキシ樹脂用硬化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492859
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】液状組成物およびそれからなるエポキシ樹脂用硬化剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   C08G59/50
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-63482(P2015-63482)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-183230(P2016-183230A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神原 武志
(72)【発明者】
【氏名】徳本 勝美
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−116367(JP,A)
【文献】 特開平06−287297(JP,A)
【文献】 特開昭63−101419(JP,A)
【文献】 特開2007−313739(JP,A)
【文献】 特開2015−189946(JP,A)
【文献】 特開昭57−203042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンのトランス−トランス体(a)を30重量%以上50重量%未満含有するビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体混合物(A)と、ジエチレントリアミン、および1,2−エチレンジアミンからなる群から選択される少なくも1種のアミン化合物(B)とを含むことを特徴とする液状組成物からなるエポキシ樹脂用硬化剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂の硬化剤に用いられるアミン系液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンは、例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる(例えば、非特許文献1参照)。一般に、エポキシ樹脂の形成手順は、エポキシ化合物と硬化剤を混合し、流動性のある状態で塗装等の加工操作を施し、養生または焼付けにより硬化させる。ここで、エポキシ化合物と硬化剤は室温でも反応が進行し、徐々に混合物の硬化が進むため、混合後の成分は速やかに均一化させる必要がある。したがって、各成分は室温で液状であることが好ましく、このため多くの場合、硬化剤は溶剤を用いた塗料の形態で用いられる。しかし近年、環境負荷への配慮や作業時の安全面、そして製造コストの観点から、低溶剤量(ハイソリッド)または無溶剤型のエポキシ硬化樹脂原料が開発されている。そこで、特に無溶剤型の硬化剤の場合には、当該原料が液状であり、自身で流動性を有することが必要である。
【0003】
一方、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの製造方法としては、例えば、グリコールジエーテルを溶媒として、貴金属触媒存在下にビス(4−アミノフェニル)メタンを水素ガスで核水素化する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の方法では、2つのベンゼン環(芳香族)がともにシクロヘキサン環(脂肪族)に変換されることにより、シクロヘキサン環上の置換基(アミノ基およびメチレン基の2置換基)の当該環に対する向きの違いに由来する3つの異性体(すなわち、トランス−トランス体、シス−トランス体、およびシス−シス体)の混合物が生成する。
【0005】
これらの異性体の中で、物性に最も大きな影響を与えるのはトランス−トランス体である。3種の各異性体の融点は、低いもので35℃、高いものでは65℃であり、いずれも室温では固体である(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらを混合した場合、トランス−トランス体の異性体比が18〜24%では共融混合物として室温で液体となり、一方、同比が31〜55%では混合物が固体となることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このように、トランス−トランス体の含有比率が高いビス(アミノシクロヘキシル)メタンは室温で固体の性状をとり、エポキシ樹脂を硬化する際の作業性に問題のあることから、エポキシ樹脂の硬化剤としてはあまり使用されていない。
【0007】
このため、トランス−トランス体の比率が約15〜40%となるビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの製造方法が提案されているが(例えば、特許文献2、3参照)、トランス−トランス体の比率が高くなった場合は、上記した問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−208555号公報
【特許文献2】特公平01−12745号公報
【特許文献3】特開平02−738号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「総説 エポキシ樹脂」,エポキシ樹脂技術協会編,2003年,基礎編I,p124−125(表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、トランス−トランス異性体の含有比率が高い固形状のビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体混合物を、エポキシ樹脂の硬化剤としての作業性が改善されるように液状品として提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トランス−トランス異性体の含有比率が高い固形状のビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体混合物に、特定のアミン化合物を所定量添加したアミン系組成物が液状を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのアミン系液状組成物およびそれからなるエポキシ樹脂用硬化剤である。
【0013】
[1]ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンのトランス−トランス体(a)を30重量%以上50重量%未満含有するビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体混合物(A)と、2〜15個の炭素と2〜5個の窒素で構成される少なくも1種のアミン化合物(B)とを含むことを特徴とする液状組成物。
【0014】
[2]アミン化合物(B)が、ジエチレントリアミン、1,2−エチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,2−ジアミノメチルシクロヘキサン、2−メチル−ペンタメチレンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、およびトリエチレンテトラミンからなる群から選択される少なくも1種であることを特徴とする上記[1]に記載の液状組成物。
【0015】
[3]ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンのトランス−トランス体(a)を30重量%以上50重量%未満含有するビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体混合物(A)に、2〜15個の炭素と2〜5個の窒素で構成される少なくも1種のアミン化合物(B)を添加することを特徴とする上記[1]または[2]に記載の液状組成物の製造方法。
【0016】
[4]上記[1]または[2]に記載の液状組成物からなるエポキシ樹脂用硬化剤。
【0017】
以下、本発明をさらに詳しく述べる。
【0018】
本発明の液状組成物は、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンのトランス−トランス体(a)[以下、「トランス−トランス体(a)」と称する。]を30重量%以上50重量%未満含有するビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体混合物(A)[以下、「異性体混合物(A)」と称する。]と、2〜15個の炭素と2〜5個の窒素で構成される少なくも1種のアミン化合物(B)[以下、「アミン化合物(B)」と称する。]とを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の液状組成物において、異性体混合物(A)中に含有される、トランス−トランス体(a)以外のビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの異性体としては、例えば、シス−トランス−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(シス−トランス体)、およびシス−シス−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(シス−シス体)等が挙げられる。
【0020】
これら2種の異性体が含有される量や比率は特に制限はないが、異性体混合物(A)中に、通常35〜65重量%程度含まれ、またシス−トランス体がシス−シス体よりも高比率で含まれる。
【0021】
また、異性体混合物(A)は、主成分であるビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン以外に、その位置異性体を0.01〜15重量%程度含んでいてもよい。位置異性体は主として、2,4’−異性体および2,2’−異性体であり、これらは4,4’−メチレンジアニリンの調製時に副成し、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの製造の際に同様にジアミノジシクロヘキシルメタンの位置異性体を生成する。これらの位置異性体も、本発明の組成物におけるアミン化合物として4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの液状化に寄与し得る。
【0022】
本発明の液状組成物において、アミン化合物(B)としては、液状化された組成物の安定性を考慮すると、ジエチレントリアミン、1,2−エチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,2−ジアミノメチルシクロヘキサン、2−メチル−ペンタメチレンジアミン、およびN−アミノエチルピペラジンからなる群から選択される少なくも1種のアミン化合物が好ましく、1,2−エチレンジアミンまたはジエチレントリアミンが特に好ましい。
【0023】
本発明の液状組成物において、トランス−トランス体(a)の含有量は、異性体混合物(A)とアミン化合物(B)との合計量に対して、30重量%以上50重量%未満であり、組成物が液状であれば特に限定されない。但し、本発明の液状組成物をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する場合、アミン化合物(B)の含有量が少ないことが好ましく、トランス−トランス体(a)の含有量は、異性体混合物(A)とアミン化合物(B)との合計量に対して、少なくとも35重量%であることが好ましい。
【0024】
本発明の液状組成物の製造方法としては特に限定するものではないが、トランス−トランス体(a)を30重量%以上50重量%未満含有する異性体混合物(A)に、2〜15個の炭素と2〜5個の窒素で構成される少なくも1種のアミン化合物(B)を添加することで、液状の組成物が得られる。
【0025】
ここで、使用される異性体混合物(A)は室温では固体状であることから、加熱することにより液状化してから、アミン化合物(B)を添加することが好ましい。
【0026】
次に、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤について説明する。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、上記した本発明の液状組成物をエポキシ樹脂と混合することにより、硬化したエポキシ樹脂を与えることができる。
【0028】
本発明において、エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂硬化物の製造に一般的に用いられる未硬化のエポキシ樹脂でよく、特に限定するものではないが、例えば、1分子当たり2以上の1,2−エポキシ基を含有する未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂等が例示され、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのエポキシ樹脂は無溶媒のものでも、溶媒で希釈したものでも使用することができる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤に含まれる、本発明の液状組成物中のアミン化合物(B)の水素原子の総モル数(AH)と、エポキシ樹脂中のエポキシ基の総モル数(E)とのモル比は、AH/E(モル比)として、好ましくは1/1.5以上1.5/1以下(モル比)の範囲であり、1/1.2以上1.2/1以下(モル比)の範囲がより好ましい。この範囲内で用いることにより、良好なエポキシ樹脂の硬化物性を発揮させることができる。なお、本発明において、「アミン化合物(B)の水素原子」とは、アミノ基中の窒素原子に結合している水素原子をいう。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤には、本発明の液状組成物、エポキシ樹脂の他に、従来公知の硬化促進剤を併用することができる。このような硬化促進剤としては特に限定するものではないが、例えば、有機酸化合物、アルコール化合物、フェノール、第三アミン、ヒドロキシルアミンの他、これらに類する化合物が挙げられる。これらのうち、有用な硬化促進剤としては、例えば、フェノール、ノニルフェノール、クレゾール、ビスフェノールA、サリチル酸、ジメチルアミノメチルフェノール、ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の液状組成物は、室温において液状が保持され、例えば、エポキシ樹脂の硬化剤として使用した場合の作業性が改善されるため、産業上極めて有用である。
【0032】
また、本発明によれば、室温において固体状になっている、トランス−トランス体(a)を30重量%以上50重量%未満含む異性体混合物(A)を、エポキシ樹脂の硬化剤としての機能を低下させることなく液状化することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1〜2
窒素雰囲気にしたグローブボックス内で、内容積30mLのサンプル管に、予め60℃に加熱して溶解した異性体混合物(A)(和光純薬社製、トランス−トランス体(a)を50重量%含有)と、表1に示すアミン化合物(B)とを秤量し、表1に示す重量比で混合した。室温で1週間静置した評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなとおり、ジエチレントリアミンを用いた場合は、トランス−トランス体(a)を48重量%含有する場合でも液状を保っており、1,2−エチレンジアミンを用いた場合は、トランス−トランス体(a)を43重量%含有する場合でも液状を保っていた。
【0037】
比較例1〜2
表1に示すアミン化合物(B)の代わりに、表2に示すアミン化合物(B’)を使用した以外は、実施例1〜2と同様に異性体混合物(A)とアミン化合物(B’)を秤量し、表2に示す重量比で混合した。室温で1週間静置した結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2から明らかなとおり、本発明におけるアミン化合物(B)に該当しないアミン化合物(B’)を使用すると、トランス−トランス体(a)を30重量%含有する場合であっても一部析出が見られた。
【0040】
実施例3〜11
表1に示すアミン化合物(B)の代わりに、表3に示すアミン化合物(B)を使用した以外は、実施例1〜2と同様に異性体混合物(A)とアミン化合物(B)を秤量し、表3に示す重量比で混合した。室温で1週間静置した結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3から明らかなとおり、本発明におけるアミン化合物(B)を使用すると、トランス−トランス体(a)を30重量%含有する場合でも液状を保っていた。
【0043】
また、表3から明らかなとおり、m−キシリレンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,2−ジアミノメチルシクロヘキサン、2−メチル−ペンタメチレンジアミン、およびN−アミノエチルピペラジンは、トランス−トランス体(a)を35重量%含有する場合でも液状を保っていた。
【0044】
続いて、本発明の液状組成物を用いてエポキシ樹脂の硬化を行った。
【0045】
エポキシ樹脂の硬化剤としての評価は、以下の方法で行った。
【0046】
<ポットライフの測定>
液状組成物6.8g、および、エポキシ樹脂(エピコート828、三菱化学社製、ビスフェノールA型)23.2g(AH/E=1.05/1)を100mLのサンプル瓶に秤量し、スパチュラで均一になるまで混合した後、25℃の一定条件において静置し、振動式粘度計(商品名:VM−1G−MJ、山一電機社製)、データ収集システム(商品名:NR−1000、Keyence社製)を用いて粘度の経時変化を測定した。粘度値が初期粘度値の2倍に到達した時間をポットライフとした。ポットライフが長いほど作業可能時間が長いことを意味する。
【0047】
<ゲル化時間の測定>
液状組成物6.8g、および、エポキシ樹脂(エピコート828、三菱化学社製、ビスフェノールA型)23.2g(AH/E=1.05/1)を100mLのサンプル瓶に秤量し、スパチュラで均一になるまで混合した。混合物を100℃の鉄板上の穴(直径2cm、深さ2mm)に流し込んだ後、金属製かき混ぜ棒で円状にかき混ぜ続け、ゲル状になり、かき混ぜられなくなった時間をゲル化時間とした。ゲル化時間が短いほど硬化性が高いことを意味する。
【0048】
<ショアD硬度>
液状組成物6.8g、および、エポキシ樹脂(エピコート828、三菱化学社製、ビスフェノールA型)23.2g(AH/E=1.05/1)を100mLのサンプル瓶に秤量し、スパチュラで均一になるまで混合した。混合物を直径4cm、厚さ6mmの金型に流し込んだ後、23℃で7日間、100℃で1時間硬化させて試験片を作成した。JIS K7215に準拠したショアD硬度計により測定した。
【0049】
実施例12〜14
実施例1および実施例2で用いた異性体混合物(A)とアミン化合物(B)の液状組成物について、上記方法によって硬化剤の評価を行った結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
液状化させたエポキシ樹脂用硬化剤は、固体状態のビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン(トランス−トランス体比率=50%)が示すエポキシ硬化特性を大きく変えなかった。