【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、化学量論組成において電気的に絶縁である酸化ニオブ(V)からなる焼結体の導電性と製造プロセスについて鋭意検討を行った結果、常圧焼結法の手法を用いて高密度で導電性のある焼結体を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は
(1)焼結体密度が95%以上であり、バルク抵抗が1000Ω・cm以下であり、ターゲット面の面積が500cm
2以上であり、X線回折でNbO
2相に帰属される酸化ニオブ(IV)が存在しないことを特徴とする酸化ニオブ焼結体。
(2)形状が円筒形であることを特徴とする(1)に記載の酸化ニオブ焼結体。
(3)形状が平板形であり、ターゲット面の面積が1000cm
2以上であることを特徴とする(1)に記載の酸化ニオブ焼結体。
(4)常圧焼結法で酸化ニオブ焼結体を製造する方法であって、昇温時の雰囲気を酸化性雰囲気とし、降温時の雰囲気を非酸化性雰囲気に切り替えることを特徴とする酸化ニオブ焼結体の製造方法。
(5)非酸化性雰囲気に切り替える温度が900℃〜1450℃であることを特徴とする(4)に記載の酸化ニオブ焼結体の製造方法。
に関するものである。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明は、酸化ニオブからなる焼結体であって、焼結体密度が95%以上であり、バルク抵抗値が1000Ω・cm以下であり、ターゲット面の面積が500cm
2以上であり、X線回折でNbO
2相に帰属される酸化ニオブ(IV)が存在しないことを特徴とする酸化物焼結体である。
【0010】
本発明の焼結体密度は、相対密度で95%以上であることを特徴とする。焼結体密度が低いと、スパッタリングターゲットとして用いた場合にアーキング発生の頻度が高くなるため、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
【0011】
また、本発明の酸化物焼結体は、スパッタリングターゲットとして使用する場合、安定的にDC放電を行うため、バルク抵抗が1000Ω・cm以下であることが必要であり、250Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明の酸化物焼結体中の酸素欠損量は、焼結体の抵抗と相関が高く、バルク抵抗が低いことは、焼結体中の酸素欠損が多く存在することを意味する。酸素欠損が多いターゲットでは、スパッタリング時にスパッタガスとして酸素を多く導入する必要があるため、酸素の導入によって成膜レートが急激に低下するという問題が生じる。このため、バルク抵抗値の下限としては0.05Ω・cmが好ましく、より好ましくは0.5Ωcmで、さらに好ましくは1Ω・cmである。
【0013】
また、本発明の酸化物焼結体は、HP法を使用しないために、そのターゲット面の面積が500cm
2以上とすることが可能である。ここで言うターゲット面の面積とは、スパッタリングされる側の焼結体表面の面積を言う。なお、複数の焼結体から構成される多分割ターゲットの場合、それぞれの焼結体の中でスパッタリングされる側の焼結体表面の面積が最大のものを多分割ターゲットにおけるターゲット面の面積とする。焼結対の形状は特に制限はなく、平板形状、円筒形状のいずれであっても問題ない。平板形状の焼結体であれば、ターゲット面の面積が1000cm
2以上のものも製造可能であり、2000cm
2以上のものも製造可能である。
【0014】
さらに、本発明の酸化物焼結体の結晶相は、XRDで酸化ニオブ(IV)相が存在しないことを特徴とする。酸化ニオブ(V)(密度4.542g/cm
3)と酸化ニオブ(IV)(密度5.916g/cm
3)は密度差が大きく、酸化ニオブ(IV)が生成されると体積変化で焼結体中に内部応力やマイクロクラックが内在し、特に大型の焼結体では割れ易く、歩留りよく焼結体を製造することができない。また、このような焼結体を用いて、スパッタリングで高パワーを投入した場合、放電中に割れが発生し易く、成膜工程の生産性を低下させる原因となるため、好ましくない。
【0015】
なお、ターゲットへの投入負荷は、投入電力を平板型ターゲットではエロージョン面積で、円筒型ターゲットではプラズマが発生する面積で割った電力密度(W/cm
2)で規格化される。通常、平板型ターゲットの生産における一般的な電力密度は1〜5W/cm
2程度であるが、本発明においては10W/cm
2以上の高パワー条件においても割れのない、高品質なターゲット材となる酸化物焼結体が得られる。
【0016】
本発明の酸化ニオブ焼結体の製造方法は、酸化ニオブ(V)粉末を成形した後、得られた成形体を酸化性雰囲気で常圧焼結し、焼結体の冷却を非酸化性雰囲気とすることを特徴とする。酸化ニオブ(V)を常圧焼結する場合、非酸化性雰囲気では焼結体が低密度となるため、少なくとも昇温時(室温から焼成温度まで)は酸化性雰囲気とする。一方、降温時(焼成温度から室温まで)は焼結体のバルク抵抗に影響するため、焼結体の冷却は非酸化性雰囲気で行う。酸化ニオブ(V)は通常室温付近において電気的に絶縁の化学量論組成が安定相であるが、高温下では化学量論組成に対して酸素欠損を有する導電相が安定相であると考えられ、冷却にともない雰囲気から酸素が供給され、低温で安定の化学量論組成になると考えられる。すなわち、降温時の雰囲気を酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えることで、高温安定の導電相が酸化するのを防止し、容易に導電性焼結体を得ることが可能となる。
【0017】
本発明の焼成に用いる酸化性雰囲気とは、3%以上の酸素濃度を有する雰囲気であり、コストの面から大気雰囲気が好ましい。また、冷却時に用いる非酸化性雰囲気とは、0.1%以下の酸素濃度を有する雰囲気であって、水素などの還元作用を有する還元雰囲気は含まない。これらの雰囲気は、大気や酸素、及び窒素やアルゴンなどのガスを適宜フローすることで調整することが出来る。
【0018】
さらに、非酸化性雰囲気に切り替える温度で焼結体のバルク抵抗を調整することが可能である。これは、高温下での酸素欠損量がその温度によって異なり、温度が高いほど酸素欠損量が多いためであると考えられ、処理温度(雰囲気の切替温度)が高いほど焼結体のバルク抵抗は低い値を示す。雰囲気の切り替えを行う場合、確実に行うため切替温度で保持してガス置換を行うことが好ましく、保持する時間は、焼成炉の大きさ、雰囲気を調整するガス流量によって適宜最適な時間を設定する。具体的には、酸素濃度計を用いて焼成の加熱前にガスの置換に必要な時間を確認する等により、保持時間を設定する。
【0019】
以下、本発明の酸化物焼結体の製造方法について、工程毎に説明する。
【0020】
(1)原料調整工程
原料粉末は酸化ニオブ(V)粉末を用いる。原料粉末の純度は99.9%以上が好ましく、より好ましくは99.99%以上である。不純物が含まれると、焼成工程における異常粒成長の原因となる。
【0021】
原料粉末は成形性の改善のため、圧密、粉砕や造粒処理することが好ましい。圧密、粉砕処理としては特に限定されるものではないが、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式、湿式のメディア撹拌型ミルや機械撹拌式ミル等の方法が例示される。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル、二軸遊星撹拌式混合機等が挙げられる。湿式法のボールミルやビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル等を用いる場合には、粉砕後のスラリーを乾燥する必要がある。この乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば、濾過乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥等が例示でき、乾燥と同時に造粒することもできる。
【0022】
最終的に得られる酸化ニオブ(V)粉末としては、BET比表面積が4〜15m
2/gのものを使用することが好ましい。BET比表面積が4m
2/g未満であると焼結体密度が上がり難く、15m
2/gを超えると成形性が悪化し、凝集等により粉末の取り扱いも困難になる。なお、成形性を考慮して、ポリビニルアルコール、アクリル系ポリマー、メチルセルロース、ワックス類、オレイン酸等の成形助剤を原料粉末に添加しても良い。
【0023】
(2)成形工程
成形方法は、原料粉末を目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが可能であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込み成形法、射出成形法等が例示できる。
【0024】
成形圧力は成形体にクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な強度を有する成形体であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り高めた方が好ましい。そのために冷間静水圧プレス(CIP)成形等の方法を用いることも可能である。CIP圧力は充分な圧密効果を得るため1ton/cm
2以上が好ましく、さらに好ましくは2ton/cm
2以上、とりわけ好ましくは2〜3ton/cm
2である。
【0025】
(3)焼成工程
次に得られた成形体を少なくとも昇温時(室温から焼成温度まで)は酸化性雰囲気で常圧焼結し、焼結体の降温時の雰囲気を非酸化性雰囲気に切り替える。昇温時の酸化性雰囲気は、3%以上の酸素濃度を有する雰囲気であり、降温時に用いる非酸化性雰囲気とは、0.1%以下の酸素濃度を有する雰囲気であって、窒素やアルゴンなどのガスをフローすることで調整することが出来る。酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への切替温度は、目標とする焼結体のバルク抵抗に応じて設定することができるが、DC放電可能なスパッタリングターゲットを得るためには、900℃〜1450℃が好ましい。切替温度での保持時間は焼成炉の大きさや流量によって適宜設定されるが、0.5〜5時間程度で雰囲気の切替を完了するように設計した方が、生産性の面で好ましい。焼成設備としては、電気炉、ガス炉及びマイクロ波炉等が例示できる。焼成温度は1150〜1450℃とすることが好ましい。焼成温度が1150℃未満では高密度化が不十分となるおそれがあり、1450℃を超える温度では焼結体の異常粒成長などが顕著となり、焼結体密度が低下するおそれがある。
【0026】
なお、水分やバインダーを含む成形体の場合、特に大型の成形体では水分やバインダー成分が揮発する際に、急激な体積膨張を伴うと成形体が割れることがある。このため、水分やバインダー成分が揮発している温度領域、例えば100〜400℃の温度域においては昇温速度を20〜100℃/時間とすることが好ましい。
【0027】
(4)ターゲット化工程
得られた焼結体は、平面研削盤、円筒研削盤、旋盤、切断機、マシニングセンター等の機械加工機を用いて、板状、円状、円筒状等の所望の形状に研削加工する。さらに、必要に応じて無酸素銅やチタン等からなるバッキングプレート、バッキングチューブにインジウム半田等を用いて接合(ボンディング)することにより、本発明の焼結体をターゲット材としたスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0028】
本発明によれば従来から知られた常圧焼結法を利用して焼結体を製造できるため、大型のターゲットを製造することが可能となる。平板型スパッタリングターゲットの場合、ターゲット面の面積1000cm
2以上の大型の焼結体を作製することができ、さらに複雑な形状である円筒型スパッタリングターゲットも作製することができる。