【実施例】
【0051】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0052】
ガラス転移温度(Tg)
製造例1〜9において得られたアクリルバインダーのラテックスをガラスモールドに流延し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に48時間静置することにより乾燥を行い、厚さ0.3mmの乾燥フィルムを作製した。そして、得られた乾燥フィルムのガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、SSC5200)を用いて、昇温速度10℃/分、測定温度範囲−100℃〜+50℃の条件で測定した。
【0053】
溶剤膨潤度
上記ガラス転移温度の測定と同様にして、乾燥フィルムを作製した。得られた乾燥フィルムを温度160℃で20分間加熱処理した後、縦5mm、横5mmの大きさに細分して、測定用試料とした。次いで、得られた測定用試料0.2gを、80メッシュのステンレス金網製の篭に入れ、篭に入れた状態にて、80mlのテトラヒドロフラン(THF)を入れたビーカ中に浸漬し、23℃で24時間静置し、次いで、取り出し、THFで膨潤したフィルム(THF膨潤フィルム)の重量(W1)を測定した。次いで、THF膨潤フィルムを23℃の室内に1時間静置した後、105℃で1時間加熱し、乾燥したフィルムの重量(W2)を測定した。そして、得られた重量(W1、W2)から、溶剤膨潤度を、下記式(1)にしたがって算出し、表1に示した。
溶剤膨潤度(単位:倍)=W1/W2 (1)
溶剤膨潤度が低いほど、有機溶剤を使用した際における膨潤性が低く、架橋度が高いことを示す。そのため、膨潤性が低いもの程、フィルムとしての弾性が高いことを示す。
【0054】
成膜性
実施例および比較例で得られた不織布用水性組成物の固形分濃度を45%とし、アルミ皿(高さ1cm×縦幅20cm×横幅20cm)に180g流し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に72時間静置することにより乾燥を行い、厚さ2mmの乾燥フィルムを作成した。乾燥フィルムの状態を目視で観察し、クラックが発生しているかどうかを確認した。なお、表2においては、下記の基準により成膜性の評価結果を示した。
○:クラック発生無し
×:クラック発生有り
クラックが発生するフィルムは、不織布のバインダーとしての性能が劣ると判断できる。
【0055】
カレンダーロール後のセロピック試験
実施例および比較例で得られた不織布用水性組成物の固形分濃度を45%とし、アルミ皿(高さ1cm×縦幅20cm×横幅20cm)に180g流し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に72時間静置することにより乾燥を行い、厚さ2mmの乾燥フィルムを作製した。得られた乾燥フィルムを温度160℃で20分間加熱処理した後、厚さ1mmのPETフィルムに貼り付けて固定した。その貼り付けた乾燥フィルムの上に厚み50μmのアルミ箔を被せた。このように作製したものをカレンダーロール用試料とした。
【0056】
次に、カレンダーロール用試料を、ロール圧力0.5MPa、ロール温度140℃、ロール速度10m/分、ロール通過回数5回の条件にてカレンダーロール処理を実施した。その後、アルミ箔を手で剥がした。アルミ箔の剥がれ残りが無い場合、セロピック試験合格レベルとし、アルミ箔の剥がれ残りが有る場合、セロピック試験不合格レベルとした。なお、表2においては、下記の基準によりセロピック試験の評価結果を示した。
アルミ箔の剥がれ残り無し:○
アルミ箔の剥がれ残り有り:×
カレンダーロール後のセロピック試験の評価結果が「○」であれば、高温高圧条件下での金属離型性に優れると判断できる。
【0057】
カレンダーロール後のカール試験
上記のカレンダーロール後のセロピック試験と同様にして、カレンダーロール用試料を作製し、同様の条件でカレンダーロール処理を実施した。その後、カレンダーロール用試料がカールしていないかどうかを目視にて観察した。カールしていない場合は合格レベル、カールしている場合は不合格レベルとした。なお、表2においては、下記の基準によりカール試験の評価結果を示した。
カレンダーロール後にカール無し:○
カレンダーロール後にカール有り:×
カレンダーロール後のカール試験の評価結果が「○」であれば、高温高圧条件下でフィルム弾性が維持されていると判断できる。
【0058】
カレンダーロール前後の厚み復元率
上記のカレンダーロール後のセロピック試験と同様にして、カレンダーロール用試料を作製し、同様の条件でカレンダーロール処理を実施した。その後、アルミ箔とPETフィルムを取り外し、乾燥フィルムの厚み(H1(単位:mm))を測定した。得られた厚み(H1(単位:mm))から、厚み復元率を、下記式(2)にしたがって、算出した。結果を表2に示す。
厚み復元率(単位:%)=H1/2×100 (2)
厚み復元率100%に近い値であれば、高温高圧条件下でフィルム弾性が維持されていると判断できる。
【0059】
製造例1
窒素にて脱気した脱イオン水32部に、アクリル酸n−ブチル94.5部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸3部、およびアクリル酸グリシジル0.5部からなる単量体混合物を入れ、さらにラウリル硫酸ナトリウム0.76部を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。
【0060】
次いで、上記とは別に、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、および撹拌機を備えたガラス製反応容器を準備し、このガラス製反応容器に、窒素にて脱気した脱イオン水70部を入れ、上記にて得られた単量体乳化物のうち、10重量%を添加して、次いで、温度を50℃に昇温させた。そして、50℃を維持した状態で、窒素にて脱気した脱イオン水3部にフロストFeを0.002部、キレスト400Gを0.012部、アスコルビン酸Naを0.1部溶解させた混合水溶液を添加し、その後パラメタンハイドロパーオキサイド(PMHP)を0.005部添加して重合反応を開始した。重合開始後30分経過した時点で、上記にて得られた単量体乳化物の残り(90重量%)と窒素にて脱気した脱イオン水4部に溶解した過硫酸アンモニウム0.05部とを、5時間かけて徐々に添加した。そして、添加終了後、反応容器に窒素にて脱気した脱イオン水3部にフロストFeを0.005部、アスコルビン酸Naを0.05部溶解させた混合溶液を添加し、その後クメンハイドロパーオキサイド(CHP)を0.01部添加し、さらに3時間撹拌を継続した後、冷却して反応を終了させ、アクリルバインダー(P−1)のラテックスを得た。この時の重合転化率は98%以上であり、上記した方法にしたがって、得られたアクリルバインダー(P−1)のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ガラス転移温度(Tg)は−40℃であった。また、得られたアクリルバインダー(P−1)の溶剤膨潤度は12倍であった。
【0061】
得られたアクリルバインダー(P−1)の組成を分析したところ、アクリルバインダー(P−1)を構成するモノマー単位の構成比率は、重合に用いた単量体混合物を構成する各単量体の構成比率とほぼ同様であった。
【0062】
製造例2〜9
重合に用いる単量体混合物の組成を、表1に示す組成とした以外は、製造例1と同様にして、アクリルバインダー(P−2)〜(P−9)のラテックスをそれぞれ得た。この時の重合転化率は、いずれも98%以上であり、また、得られた重合体(P−2)〜(P−9)のガラス転移温度(Tg)と溶剤膨潤度は、表1に示すとおりであった。また、得られたアクリルバインダー(P−2)〜(P−9)の組成を分析したところ、アクリルバインダー(P−2)〜(P−9)を構成するモノマー単位の構成比率は、重合に用いた単量体混合物を構成する各単量体の構成比率とほぼ同様であった。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、上記方法にしたがって、成膜性、カレンダーロール後のセロピック試験、カレンダーロール後のカール試験、およびカレンダーロール前後の厚み復元率の各測定を行った。結果を表2に示す。
【0065】
実施例2
エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部の代わりに、エマルジョンタイプのポリエチレン系ワックス(製品名「ポリロンL788」、中京油脂株式会社製)を3部使用した以外は、実施例1と同様にして、不織布用水性組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
実施例3
エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部の代わりに、エステルワックスとしてのエマルジョンタイプのカルバナワックス(製品名「セロゾール524」、中京油脂株式会社製)を3部使用した以外は、実施例1と同様にして、不織布用水性組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
実施例4
エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部の代わりに、脂肪酸系ワックスとしてのエマルジョンタイプのステアリン酸(製品名「セロゾール920」、中京油脂株式会社製)を3部使用した以外は、実施例1と同様にして、不織布用水性組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
実施例5
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分97部に対して、金属石鹸としてのエマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物液を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
実施例6
製造例2で得られたアクリルバインダー(P−2)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
実施例7
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分80部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)20部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
実施例8
製造例3で得られたアクリルバインダー(P−3)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0072】
実施例9
製造例4で得られたアクリルバインダー(P−4)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0073】
比較例1
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスのみで構成された不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
比較例2
製造例5で得られたアクリルバインダー(P−5)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
比較例3
製造例6で得られたアクリルバインダー(P−6)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
比較例4
製造例7で得られたアクリルバインダー(P−7)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
比較例5
製造例8で得られたアクリルバインダー(P−8)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
比較例6
製造例9で得られたアクリルバインダー(P−9)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
比較例7
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分97部に対して、水溶性タイプのフッ素系界面活性剤(製品名「サーフロンS−242」、AGCセイミケミカル株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、カルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを含み、且つカルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを所定の含有量および所定の比率で含むアクリルバインダーは、溶剤膨潤度が低く、架橋構造が十分であることが分かった。また、このアクリルバインダーと種々のエマルジョンタイプの離型剤とを含む不織布用水性組成物は、成膜性に優れ、カレンダーロール後のセロピック試験でアルミ箔が剥がれ残りがなく、カレンダーロール後のカール試験でカールも見られず、カレンダーロール前後の厚み復元率に優れるものであった。(実施例1〜実施例9)
【0082】
一方、カルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを含み、且つカルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを所定の含有量および所定の比率で含むアクリルバインダーのみで構成される不織布用水性組成物は、カレンダーロール後のセロピック試験でアルミ箔が剥がれず、高温高圧条件での金属離型性に劣るものであった。(比較例1)
【0083】
カルボン酸基含有モノマー、あるいはエポキシ基含有モノマーの少なくとも一方を使用していないアクリルバインダーを用いた場合には、エマルジョンタイプの離型剤を混合しても、カレンダーロール前後の厚み復元率が不足(比較例2)、あるいはカレンダーロール後のフィルムのカールが発生(比較例3)し、さらに、高温条件下でのフィルム弾性が不足するものであった。
【0084】
カルボン酸含有モノマーとエポキシ基含有モノマーを含んでいるが、所定の比率、あるいはカルボン酸含有モノマーとエポキシ基含有モノマーの含有量が所定量より外れたアクリルバインダーを用いた場合、エマルジョンタイプの離型剤を混合しても、カレンダーロール後のフィルムのカール発生(比較例4)、成膜性(比較例5〜比較例6)に劣るものであった。
【0085】
カルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーを含み、且つ所定の含有量と比率を満たすアクリルバインダーを用いた場合でも、水溶性タイプの離型剤を3部混合した不織布用水性組成物は、カレンダーロール後のセロピック試験に劣るものであった。(比較例7)