特許第6492968号(P6492968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6492968不織布用水性組成物、不織布および自動車天井材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6492968
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】不織布用水性組成物、不織布および自動車天井材
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20190325BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20190325BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20190325BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20190325BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20190325BHJP
   D06M 15/273 20060101ALI20190325BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20190325BHJP
   D06M 13/02 20060101ALI20190325BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20190325BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20190325BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20190325BHJP
   B60R 13/02 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   C08L33/06
   C08L23/06
   C08L67/00
   C08L91/06
   C08K5/09
   D06M15/273
   D06M15/263
   D06M13/02
   D06M13/224
   D06M13/184
   D06M15/227
   B60R13/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-105222(P2015-105222)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-216662(P2016-216662A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌
【審査官】 岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/208579(WO,A1)
【文献】 特開2007−246798(JP,A)
【文献】 特開2002−294561(JP,A)
【文献】 特開2003−049398(JP,A)
【文献】 特開平10−114851(JP,A)
【文献】 特開昭52−055797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
C08K
C08L
D06M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルバインダーと、
融点が50℃以上の離型剤のエマルジョンと
を含む不織布用水性組成物であって、
前記アクリルバインダーは、
ガラス転移温度が−50℃〜+20℃であって、
エポキシ基とカルボン酸基とを含み、
カルボン酸基含有モノマー単位を20重量%未満含有し、エポキシ基含有モノマー単位を5重量%未満含有し、
前記カルボン酸基含有モノマー単位と前記エポキシ基含有モノマー単位の重量比率が20:80〜95:5である、不織布用水性組成物。
【請求項2】
前記離型剤は、パラフィンワックス、合成ワックス、ポリエチレン系ワックス、エステル系ワックス、脂肪酸系ワックス、金属石鹸の群から選ばれる少なくとも1種類を含む請求項1記載の不織布用水性組成物。
【請求項3】
前記離型剤のエマルジョンの体積平均粒子径は、0.1〜6.0μmである請求項1または2記載の不織布用水性組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の不織布用水性組成物を含浸および/または塗布してなる不織布。
【請求項5】
請求項4記載の不織布を用いた自動車天井材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布用水性組成物に関するものであり、より詳しくは自動車天井材等の自動車内装材用途に好適に用いることのできる不織布用水性組成物、この不織布用水性組成物を用いて得られる不織布および自動車天井材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不織布は、おむつ、生理用ナプキン、マスク、貼付材等のような衛生材料用途や、天井材、シート材等のような自動車内装材、農業用資材、建築用資材、土木用資材の他、電池セパレーター、飲料水用フィルター、工業用フィルター等の広い分野において用いられている。
【0003】
この不織布を製造するためのバインダーとしては、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、スチレン−ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン系共重合体等が知られており、これらの重合体の水性分散液に、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を添加したバインダー組成物として用いられている。また、不織布用バインダーとして広く用いられるポリアクリル酸エステル系重合体は、その主原料であるアクリル酸エステル系単量体が、容易に各種の単量体と共重合するため、例えば、N−メチロールアクリルアミド等の架橋性を有する官能性単量体を共重合させて、上記熱硬化性樹脂併用が不要な自己架橋性のバインダーとして用いられることも多い。
【0004】
上記のバインダーないしバインダー組成物は、加熱により、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂又は自己架橋性官能基に縮合反応を起こさせることによって、分子内又は分子間で架橋を生じさせるものである。このような架橋により、得られる不織布の、引張強度、伸び、引裂強度、硬さなどの機械的特性が向上するとともに、寸法安定性、耐水性、耐薬品性、耐熱性などの性能が改善される。
【0005】
例えば、自動車内装材としての自動車天井材は、金型を用いて基材に対して不織布を熱圧着することで得られるが、上記特性に優れるため、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂やN−メチロールアクリルアミド等のメチロール基の縮合を利用する架橋系を有するバインダーが自動車天井材を形成するための不織布用バインダーとして用いられてきた。
【0006】
しかし、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂やN−メチロールアクリルアミド等のメチロール基の縮合を利用する架橋系では、有害なホルマリン(ホルムアルデヒド)が発生する。製造中に生成されるホルマリンの大部分は、乾燥工程等で揮散するものの、相当量が製品である不織布に残留し、また未反応のまま残存するメチロール基等がその後徐々に架橋反応を起こして製品中でホルマリンを発生するため、特に衛生材料用途や自動車内装材、飲料水用フィルターに使用することは、好ましくない。従って、ホルマリンが残留したり、発生したりせず、しかも、各種特性に優れた不織布を得ることができるバインダーないしバインダー組成物が求められている。
【0007】
また、上述のように自動車内装材としての自動車天井材は、例えば、金型を用いて基材に対して不織布を熱圧着することで得られるため、不織布に用いるバインダーないしバインダー組成物には、成膜性の他、高温条件下で熱圧着した後の金型からの金属離型性、高温条件下で熱圧着した前後で不織布の厚みが略変化しない程度のフィルム弾性、高温条件下で熱圧着した前後でカール等の変形がないことが求められる。
【0008】
例えば、特許文献1には、ホルマリンを発生させない自動車内装材に使用する不織布用のバインダー組成物として、エチレン性不飽和酸無水物または、カルボン酸が酸無水基を形成することができるエチレン性不飽和ジカルボン酸からなるラジカル重合により得られるポリマーおよび少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルカノールアミンでヒドロキシ基を架橋成分とする熱架橋剤を含むバインダーと、所定のガラス転移温度を有する水性エマルジョンとを含むバインダー組成物が開示されている。しかし、特許文献1では金属離型性には言及されていなかった。
【0009】
また、特許文献2には、壁紙を構成する不織布上に塗布することにより壁紙に防汚性を付与するための用途として、(メタ)アクリル酸を所定量有し、ラジカル重合性不飽和単量体とを含む合成樹脂エマルジョンと、ワックスとを含む不織布壁紙用加工剤が記載されている。しかし、特許文献2では金属離型性やフィルム弾性等には言及されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−156171号公報
【特許文献2】特開2002−294561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ホルマリンを発生させない不織布用水性組成物であって、ホルマリンの発生源となり得るバインダーを用いた場合と同等の成膜性を有し、熱圧着後の金属離型性および熱圧着後のフィルム弾性に優れ、および熱圧着前後における非変形性を有する不織布用水性組成物、この不織布用水性組成物を用いて得られる不織布および自動車天井材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、エポキシ基とカルボン酸基とを所定量含むアクリルバインダーと離型剤とを用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明によれば、
(1) アクリルバインダーと、融点が50℃以上の離型剤のエマルジョンとを含む不織布用水性組成物であって、前記アクリルバインダーは、ガラス転移温度が−50℃〜+20℃であって、エポキシ基とカルボン酸基とを含み、カルボン酸基含有モノマー単位を20重量%未満含有し、エポキシ基含有モノマー単位を5重量%未満含有し、前記カルボン酸基含有モノマー単位と前記エポキシ基含有モノマー単位の重量比率が20:80〜95:5である、不織布用水性組成物、
(2) 前記離型剤は、パラフィンワックス、合成ワックス、ポリエチレン系ワックス、エステル系ワックス、脂肪酸系ワックス、金属石鹸の群から選ばれる少なくとも1種類を含む(1)記載の不織布用水性組成物、
(3) 前記離型剤のエマルジョンの体積平均粒子径は、0.1〜6.0μmである(1)または(2)記載の不織布用水性組成物、
(4) (1)〜(3)の何れかに記載の不織布用水性組成物を含浸および/または塗布してなる不織布、
(5) (4)記載の不織布を用いた自動車天井材、
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ホルマリンを発生させない不織布用水性組成物であって、ホルマリンの発生源となり得るバインダーを用いた場合と同等の成膜性を有し、熱圧着後の金属離型性および熱圧着後のフィルム弾性に優れ、および熱圧着前後の非変形性を有する不織布用水性組成物、この不織布用水性組成物を用いて得られる不織布および自動車天井材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の不織布用水性組成物について説明する。本発明の不織布用水性組成物は、アクリルバインダーと、融点が50℃以上の離型剤のエマルジョンとを含む不織布用水性組成物であって、前記アクリルバインダーは、ガラス転移温度が−50℃〜+20℃であって、エポキシ基とカルボン酸基とを含み、カルボン酸基含有モノマー単位を20重量%未満含有し、エポキシ基含有モノマー単位を5重量%未満含有し、前記カルボン酸基含有モノマー単位と前記エポキシ基含有モノマー単位の重量比率が20:80〜95:5である。
【0016】
(アクリルバインダー)
本発明の不織布用水性組成物に用いるアクリルバインダーは、ガラス転移温度が−50℃〜+20℃であって、エポキシ基とカルボン酸基とを含み、カルボン酸基含有モノマー単位を20重量%未満含有し、エポキシ基含有モノマー単位を5重量%未満含有し、前記カルボン酸基含有モノマー単位と前記エポキシ基含有モノマー単位の重量比率が20:80〜95:5である。
【0017】
アクリルバインダーは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを重合してなるモノマー単位を含む重合体である。重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーの単独重合体、これと共重合可能なモノマーとの共重合体が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルのことを意味する。
【0018】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、本発明の効果がより一層顕著になることから、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーおよび(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルモノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーが特に好ましい。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、アクリル酸エチルおよびアクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
本発明に用いるアクリルバインダーにおける(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位の含有割合は、好ましくは50〜99重量%、より好ましくは70〜99重量%、さらに好ましくは80〜98重量%である。(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位の含有割合が低すぎると、得られる不織布の形状保持性や強度が低下する虞がある。なお、アクリルバインダーを構成するモノマー単位の構成比率は、重合に用いる単量体混合物を構成する各モノマーの構成比率とほぼ同様である。
【0022】
また、本発明で用いるアクリルバインダーは、上述した(メタ)アクリル酸エステルモノマー単位に加えて、カルボン酸基含有モノマー単位とエポキシ基含有モノマー単位をさらに含有する。
【0023】
カルボン酸基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸等の一価のカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸の多価カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の多価カルボン酸無水物;マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノブチルなどの多価カルボン酸の部分エステル等をあげることができ、メタクリル酸が好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明に用いるアクリルバインダーにおけるカルボン酸基含有モノマー単位の含有割合は、20%重量未満、好ましくは10重量%以下である。アクリルバインダー中のカルボン酸基含有モノマー単位の含有割合が上記範囲であることにより、アクリルバインダーの重合時に発生する凝集物を低減することができる。
【0025】
また、エポキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル;アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有エーテル;等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、得られる不織布の形状保持性や強度の向上効果が大きい観点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく、アクリル酸グリシジルがより好ましい。
【0026】
本発明に用いるアクリルバインダーにおけるエポキシ基含有モノマー単位の含有割合は、5重量%未満、好ましくは2重量%以下である。アクリルバインダー中のエポキシ基含有モノマー単位の含有割合が上記範囲であることにより成膜性とフィルム弾性とを高度にバランスさせることができる。
【0027】
また、本発明に用いるアクリルバインダーにおけるカルボン酸基含有モノマー単位とエポキシ基含有モノマー単位の重量比率は20:80〜95:5であり、85:15〜95:5であることが好ましい。カルボン酸基含有モノマー単位とエポキシ基含有モノマー単位の重量比率が上記範囲であることにより、アクリルバインダーにおいて、架橋構造を形成することができる。その結果、100℃〜200℃等の高温条件下で熱圧着した後のフィルム弾性および金属離型性に優れる不織布用水性組成物を得ることができる。
【0028】
また、本発明に用いるアクリルバインダーには、上述した各モノマー単位に加えて、これらと共重合可能な他のモノマー単位を含有させてもよい。
【0029】
共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定されないが、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等の芳香族モノビニルモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミドモノマー;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンモノマー;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステルモノマー;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルモノマー;塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデンモノマー;ビニルピリジン;等が挙げられる。
【0030】
本発明に用いるアクリルバインダーにおける、共重合可能な他のモノマー単位の含有割合は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0031】
本発明に用いるアクリルバインダーは、アクリルバインダーが水系溶媒に安定に分散したエマルジョンの状態、即ちラテックスで用いられることが好ましい
【0032】
アクリルバインダーのラテックスの製造方法は、特に限定されないが、上述した各モノマーを含有する単量体混合物を、水媒体中で、乳化重合法により共重合する方法が簡便で好ましい。重合方式は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方式でもよい。重合圧力、重合温度および重合時間は特に限定されず、公知の条件が採られる。乳化重合に際しては、乳化重合反応に一般に使用される、界面活性剤、重合開始剤、連鎖移動剤、キレート剤、電解質、脱酸素剤などの各種添加剤を、重合用副資材として使用することができる。
【0033】
乳化重合に用いる界面活性剤としては、一般に公知の界面活性剤を用いることができ、具体的には、ロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウム等のロジン酸塩;オレイン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどのアルキルエーテル硫酸塩;などのアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル、アルキルエーテルまたはアルキルフェニルエーテルなどのノニオン性界面活性剤、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の親水性合成高分子物質;ゼラチン、水溶性でんぷん等の天然親水性高分子物質;カルボキシメチルセルロース等の親水性半合成高分子物質;などの分散安定剤などが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。界面活性剤の使用量は、重合に用いる単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0034】
乳化重合における単量体混合物の重合転化率は、通常、90重量%以上、好ましくは97重量%以上である。また、生成する共重合体の組成は、通常、単量体混合物の組成とほぼ同じものとなる。
【0035】
乳化重合を行う際における、界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、界面活性剤は、反応系に一括で、あるいは、分割して、または連続的に添加することができる。また、単量体混合物と界面活性剤とは、混合して反応系に添加してもよいし、あるいは、別々に反応系に添加してもよいが、単量体混合物と界面活性剤とを水媒体とともに混合し、乳化物の状態として、反応系に添加することが好ましい。
【0036】
また、乳化重合に用いる重合開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パラメタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0037】
また、本発明で用いるアクリルバインダーのガラス転移温度(Tg)は、−50℃〜+20℃である。アクリルバインダーのガラス転移温度が上記範囲にない場合には、成膜性に劣り、不織布用バインダーとしての性能が劣る可能性がある。
【0038】
本発明で用いるアクリルバインダーがラテックスである場合における、ラテックス中のアクリルバインダーの粒子の体積平均粒子径は、50〜300nmが好ましく、100〜200nmがより好ましい。また、アクリルバインダーのラテックスの固形分濃度は、10〜60重量%が好ましく、30〜50重量%がより好ましい。
【0039】
(離型剤)
本発明の不織布用水性組成物に用いる離型剤は、融点が50℃以上であり、エマルジョンとして用いられる。離型剤の融点が上記範囲を満たさない場合には、成膜後に離型剤のブリードが起こり易くなり、不織布にした際にべた付き等の欠陥となる可能性がある。
【0040】
離型剤は、離型性能を有する限りは、特に限定されないが、パラフィンワックス、合成ワックス、ポリエチレン系ワックス、エステル系ワックス、脂肪酸系ワックス、金属石鹸の群から選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。これらのなかでも、金属石鹸がより好ましく、ステアリン酸亜鉛がさらに好ましい。
【0041】
本発明に用いる離型剤のエマルジョンの体積平均粒子径は、好ましくは0.1〜6.0μmである。また、離型剤のエマルジョンの固形分濃度は好ましくは15〜55%である。
【0042】
(不織布用水性組成物)
本発明の不織布用水性組成物は、アクリルバインダー及び離型剤を含む。不織布用水性組成物中のアクリルバインダーと離型剤との含有量の比率は、重量比にて好ましくは99:1〜75:25、より好ましくは99:1〜80:20である。
【0043】
また、本発明の不織布用水性組成物は、必要に応じて、消泡剤、消臭剤、耐水化剤、湿潤剤、柔軟剤、帯電防止剤、難燃剤、増粘剤を含有してもよい。
【0044】
本発明の不織布用水性組成物の調製方法は特に限定されないが、例えば、アクリルバインダーのエマルジョン(ラテックス)と離型剤のエマルジョンとを混合し、攪拌することにより得ることができる。ここで、アクリルバインダーおよび離型剤の両方をエマルジョンとして混合すると、混合時の分散性や相溶性の観点から、本発明の不織布用水性組成物を容易に調製することができる。
【0045】
本発明の不織布用水性組成物の固形分濃度は、10〜60重量%が好ましく、30〜50重量%がより好ましい。
【0046】
また、本発明の不織布用水性組成物をエマルジョンとして用いる場合のエマルジョンの平均粒子径は、好ましくは0.05〜6.0μm、より好ましくは0.2〜5.0μmである。
【0047】
本発明の不織布用水性組成物は、通常、繊維、ウェブに含浸、塗布などして使用される。本発明を適用できる繊維としては、絹、麻、綿等の天然繊維;ポリエステル、ポリアミド等の合成繊維;アセテート等の半合成繊維;レーヨン、キュプラ等の再生繊維;炭素繊維;ガラス繊維などが挙げられる。
【0048】
また、不織布用水性組成物の使用量は、固形分換算で、繊維100重量部に対して、通常5〜40重量部である。量が少ないと不織布の強度が低下し、逆に多いと不織布の伸びが小さくなる。
【0049】
本発明の不織布用水性組成物は、不織布製造用のバインダーとして用いられるが、自動車天井材用の不織布の製造に特に好ましく用いることできる。ここで、自動車天井材用の不織布は、例えば金型を用いて基材に対して不織布を熱圧着することにより製造することができる。
【0050】
本発明の不織布用水性組成物によれば、ホルマリンを発生させない不織布用水性組成物であって、ホルマリンの発生源となり得るバインダーを用いた場合と同等の成膜性を有し、熱圧着後の金属離型性および熱圧着後のフィルム弾性に優れ、および熱圧着前後の非変形性を有する不織布用水性組成物が提供される。また、特に100〜200℃の条件下で熱圧着を行った後の金属離型性およびフィルム弾性に優れ、100〜200℃で熱圧着を行った後において非変形性に優れる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0052】
ガラス転移温度(Tg)
製造例1〜9において得られたアクリルバインダーのラテックスをガラスモールドに流延し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に48時間静置することにより乾燥を行い、厚さ0.3mmの乾燥フィルムを作製した。そして、得られた乾燥フィルムのガラス転移温度を、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、SSC5200)を用いて、昇温速度10℃/分、測定温度範囲−100℃〜+50℃の条件で測定した。
【0053】
溶剤膨潤度
上記ガラス転移温度の測定と同様にして、乾燥フィルムを作製した。得られた乾燥フィルムを温度160℃で20分間加熱処理した後、縦5mm、横5mmの大きさに細分して、測定用試料とした。次いで、得られた測定用試料0.2gを、80メッシュのステンレス金網製の篭に入れ、篭に入れた状態にて、80mlのテトラヒドロフラン(THF)を入れたビーカ中に浸漬し、23℃で24時間静置し、次いで、取り出し、THFで膨潤したフィルム(THF膨潤フィルム)の重量(W1)を測定した。次いで、THF膨潤フィルムを23℃の室内に1時間静置した後、105℃で1時間加熱し、乾燥したフィルムの重量(W2)を測定した。そして、得られた重量(W1、W2)から、溶剤膨潤度を、下記式(1)にしたがって算出し、表1に示した。
溶剤膨潤度(単位:倍)=W1/W2 (1)
溶剤膨潤度が低いほど、有機溶剤を使用した際における膨潤性が低く、架橋度が高いことを示す。そのため、膨潤性が低いもの程、フィルムとしての弾性が高いことを示す。
【0054】
成膜性
実施例および比較例で得られた不織布用水性組成物の固形分濃度を45%とし、アルミ皿(高さ1cm×縦幅20cm×横幅20cm)に180g流し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に72時間静置することにより乾燥を行い、厚さ2mmの乾燥フィルムを作成した。乾燥フィルムの状態を目視で観察し、クラックが発生しているかどうかを確認した。なお、表2においては、下記の基準により成膜性の評価結果を示した。
○:クラック発生無し
×:クラック発生有り
クラックが発生するフィルムは、不織布のバインダーとしての性能が劣ると判断できる。
【0055】
カレンダーロール後のセロピック試験
実施例および比較例で得られた不織布用水性組成物の固形分濃度を45%とし、アルミ皿(高さ1cm×縦幅20cm×横幅20cm)に180g流し、温度20℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に72時間静置することにより乾燥を行い、厚さ2mmの乾燥フィルムを作製した。得られた乾燥フィルムを温度160℃で20分間加熱処理した後、厚さ1mmのPETフィルムに貼り付けて固定した。その貼り付けた乾燥フィルムの上に厚み50μmのアルミ箔を被せた。このように作製したものをカレンダーロール用試料とした。
【0056】
次に、カレンダーロール用試料を、ロール圧力0.5MPa、ロール温度140℃、ロール速度10m/分、ロール通過回数5回の条件にてカレンダーロール処理を実施した。その後、アルミ箔を手で剥がした。アルミ箔の剥がれ残りが無い場合、セロピック試験合格レベルとし、アルミ箔の剥がれ残りが有る場合、セロピック試験不合格レベルとした。なお、表2においては、下記の基準によりセロピック試験の評価結果を示した。
アルミ箔の剥がれ残り無し:○
アルミ箔の剥がれ残り有り:×
カレンダーロール後のセロピック試験の評価結果が「○」であれば、高温高圧条件下での金属離型性に優れると判断できる。
【0057】
カレンダーロール後のカール試験
上記のカレンダーロール後のセロピック試験と同様にして、カレンダーロール用試料を作製し、同様の条件でカレンダーロール処理を実施した。その後、カレンダーロール用試料がカールしていないかどうかを目視にて観察した。カールしていない場合は合格レベル、カールしている場合は不合格レベルとした。なお、表2においては、下記の基準によりカール試験の評価結果を示した。
カレンダーロール後にカール無し:○
カレンダーロール後にカール有り:×
カレンダーロール後のカール試験の評価結果が「○」であれば、高温高圧条件下でフィルム弾性が維持されていると判断できる。
【0058】
カレンダーロール前後の厚み復元率
上記のカレンダーロール後のセロピック試験と同様にして、カレンダーロール用試料を作製し、同様の条件でカレンダーロール処理を実施した。その後、アルミ箔とPETフィルムを取り外し、乾燥フィルムの厚み(H1(単位:mm))を測定した。得られた厚み(H1(単位:mm))から、厚み復元率を、下記式(2)にしたがって、算出した。結果を表2に示す。
厚み復元率(単位:%)=H1/2×100 (2)
厚み復元率100%に近い値であれば、高温高圧条件下でフィルム弾性が維持されていると判断できる。
【0059】
製造例1
窒素にて脱気した脱イオン水32部に、アクリル酸n−ブチル94.5部、アクリロニトリル2部、メタクリル酸3部、およびアクリル酸グリシジル0.5部からなる単量体混合物を入れ、さらにラウリル硫酸ナトリウム0.76部を混合、撹拌して、単量体乳化物を得た。
【0060】
次いで、上記とは別に、還流冷却器、滴下ロート、温度計、窒素吹込口、および撹拌機を備えたガラス製反応容器を準備し、このガラス製反応容器に、窒素にて脱気した脱イオン水70部を入れ、上記にて得られた単量体乳化物のうち、10重量%を添加して、次いで、温度を50℃に昇温させた。そして、50℃を維持した状態で、窒素にて脱気した脱イオン水3部にフロストFeを0.002部、キレスト400Gを0.012部、アスコルビン酸Naを0.1部溶解させた混合水溶液を添加し、その後パラメタンハイドロパーオキサイド(PMHP)を0.005部添加して重合反応を開始した。重合開始後30分経過した時点で、上記にて得られた単量体乳化物の残り(90重量%)と窒素にて脱気した脱イオン水4部に溶解した過硫酸アンモニウム0.05部とを、5時間かけて徐々に添加した。そして、添加終了後、反応容器に窒素にて脱気した脱イオン水3部にフロストFeを0.005部、アスコルビン酸Naを0.05部溶解させた混合溶液を添加し、その後クメンハイドロパーオキサイド(CHP)を0.01部添加し、さらに3時間撹拌を継続した後、冷却して反応を終了させ、アクリルバインダー(P−1)のラテックスを得た。この時の重合転化率は98%以上であり、上記した方法にしたがって、得られたアクリルバインダー(P−1)のガラス転移温度(Tg)を測定したところ、ガラス転移温度(Tg)は−40℃であった。また、得られたアクリルバインダー(P−1)の溶剤膨潤度は12倍であった。
【0061】
得られたアクリルバインダー(P−1)の組成を分析したところ、アクリルバインダー(P−1)を構成するモノマー単位の構成比率は、重合に用いた単量体混合物を構成する各単量体の構成比率とほぼ同様であった。
【0062】
製造例2〜9
重合に用いる単量体混合物の組成を、表1に示す組成とした以外は、製造例1と同様にして、アクリルバインダー(P−2)〜(P−9)のラテックスをそれぞれ得た。この時の重合転化率は、いずれも98%以上であり、また、得られた重合体(P−2)〜(P−9)のガラス転移温度(Tg)と溶剤膨潤度は、表1に示すとおりであった。また、得られたアクリルバインダー(P−2)〜(P−9)の組成を分析したところ、アクリルバインダー(P−2)〜(P−9)を構成するモノマー単位の構成比率は、重合に用いた単量体混合物を構成する各単量体の構成比率とほぼ同様であった。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例1
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、上記方法にしたがって、成膜性、カレンダーロール後のセロピック試験、カレンダーロール後のカール試験、およびカレンダーロール前後の厚み復元率の各測定を行った。結果を表2に示す。
【0065】
実施例2
エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部の代わりに、エマルジョンタイプのポリエチレン系ワックス(製品名「ポリロンL788」、中京油脂株式会社製)を3部使用した以外は、実施例1と同様にして、不織布用水性組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
実施例3
エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部の代わりに、エステルワックスとしてのエマルジョンタイプのカルバナワックス(製品名「セロゾール524」、中京油脂株式会社製)を3部使用した以外は、実施例1と同様にして、不織布用水性組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0067】
実施例4
エマルジョンタイプのパラフィンワックス(製品名「セロゾール686」、中京油脂株式会社製)3部の代わりに、脂肪酸系ワックスとしてのエマルジョンタイプのステアリン酸(製品名「セロゾール920」、中京油脂株式会社製)を3部使用した以外は、実施例1と同様にして、不織布用水性組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0068】
実施例5
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分97部に対して、金属石鹸としてのエマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物液を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
実施例6
製造例2で得られたアクリルバインダー(P−2)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0070】
実施例7
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分80部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)20部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
実施例8
製造例3で得られたアクリルバインダー(P−3)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0072】
実施例9
製造例4で得られたアクリルバインダー(P−4)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0073】
比較例1
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスのみで構成された不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
比較例2
製造例5で得られたアクリルバインダー(P−5)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
比較例3
製造例6で得られたアクリルバインダー(P−6)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0076】
比較例4
製造例7で得られたアクリルバインダー(P−7)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
比較例5
製造例8で得られたアクリルバインダー(P−8)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0078】
比較例6
製造例9で得られたアクリルバインダー(P−9)のラテックスの固形分97部に対して、エマルジョンタイプのステアリン酸亜鉛(製品名「ハイドリンZ−8−36」、中京油脂株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
比較例7
製造例1で得られたアクリルバインダー(P−1)のラテックスの固形分97部に対して、水溶性タイプのフッ素系界面活性剤(製品名「サーフロンS−242」、AGCセイミケミカル株式会社製)3部を添加し、撹拌することで、不織布用水性組成物を得た。そして、得られた不織布用水性組成物を用いて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示すように、カルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを含み、且つカルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを所定の含有量および所定の比率で含むアクリルバインダーは、溶剤膨潤度が低く、架橋構造が十分であることが分かった。また、このアクリルバインダーと種々のエマルジョンタイプの離型剤とを含む不織布用水性組成物は、成膜性に優れ、カレンダーロール後のセロピック試験でアルミ箔が剥がれ残りがなく、カレンダーロール後のカール試験でカールも見られず、カレンダーロール前後の厚み復元率に優れるものであった。(実施例1〜実施例9)
【0082】
一方、カルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを含み、且つカルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーとを所定の含有量および所定の比率で含むアクリルバインダーのみで構成される不織布用水性組成物は、カレンダーロール後のセロピック試験でアルミ箔が剥がれず、高温高圧条件での金属離型性に劣るものであった。(比較例1)
【0083】
カルボン酸基含有モノマー、あるいはエポキシ基含有モノマーの少なくとも一方を使用していないアクリルバインダーを用いた場合には、エマルジョンタイプの離型剤を混合しても、カレンダーロール前後の厚み復元率が不足(比較例2)、あるいはカレンダーロール後のフィルムのカールが発生(比較例3)し、さらに、高温条件下でのフィルム弾性が不足するものであった。
【0084】
カルボン酸含有モノマーとエポキシ基含有モノマーを含んでいるが、所定の比率、あるいはカルボン酸含有モノマーとエポキシ基含有モノマーの含有量が所定量より外れたアクリルバインダーを用いた場合、エマルジョンタイプの離型剤を混合しても、カレンダーロール後のフィルムのカール発生(比較例4)、成膜性(比較例5〜比較例6)に劣るものであった。
【0085】
カルボン酸基含有モノマーとエポキシ含有モノマーを含み、且つ所定の含有量と比率を満たすアクリルバインダーを用いた場合でも、水溶性タイプの離型剤を3部混合した不織布用水性組成物は、カレンダーロール後のセロピック試験に劣るものであった。(比較例7)