(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱サイクル用作動媒体全量に対する前記トリフルオロエチレンと前記2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの合計量の割合が97質量%を超え100質量%以下である、請求項1または2に記載の熱サイクル用作動媒体。
ルームエアコン、店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置、内蔵型ショーケース、別置型ショーケース、業務用冷凍・冷蔵庫、製氷機または自動販売機である、請求項6に記載の熱サイクルシステム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<作動媒体>
本発明の作動媒体は、HFO−1123とHFO−1234yfを含む熱サイクル用作動媒体であって、作動媒体全量中において、含有されるHFO−1123とHFO−1234yfの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、HFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合が21質量%以上39質量%以下である熱サイクル用の作動媒体である。
【0020】
熱サイクルとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器による熱サイクルが特に制限なく用いられる。
【0021】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、HFO−1123とHFO−1234yfと、必要に応じて他の成分を含有する混合媒体である。ここで、HFO−1234yfの地球温暖化係数(100年)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)による値で4であり、HFO−1123の地球温暖化係数(100年)は、IPCC第4次評価報告書に準じて測定された値として、0.3である。本明細書においてGWPは、特に断りのない限りIPCC第4次評価報告書の100年の値である。また、混合物におけるGWPは、組成質量による加重平均として示す。
【0022】
本発明の作動媒体は、GWPの極めて低いHFO−1123とHFO−1234yfを合計で90質量%を超えて含有するものであり、得られる作動媒体のGWPの値も低いものとできる。他の成分のGWPが、例えば、後述の飽和HFCのように、HFO−1123およびHFO−1234yfよりも高い場合には、その含有割合が低いほどGWPが低い組成となる。
【0023】
本発明の熱サイクル用作動媒体に用いられるHFO−1123は、単独で用いた場合に、高温または高圧下で着火源があると、急激な温度、圧力上昇を伴う連鎖的な自己分解反応をおこすことが知られている。本発明の熱サイクル用作動媒体においては、HFO−1123を、HFO−1234yfと混合してHFO−1123の含有量を抑えた混合物とすることで自己分解反応を抑えることができる。ここで、本発明の熱サイクル用作動媒体を、熱サイクルシステムに適用する場合の圧力条件は、通常、5.0MPa以下程度である。そのため、HFO−1123とHFO−1234yfからなる熱サイクル用作動媒体が、5.0MPaの圧力条件下で自己分解性を有しないことで、熱サイクルシステムに適用する場合の一般的な温度条件下において耐久性の高い熱サイクル用作動媒体を得ることができる。
【0024】
また、熱サイクルシステム機器の故障等、不測の事態が生じた場合を考慮しても、7.0MPa程度において自己分解性を有しない組成とすることで、より耐久性の高い熱サイクル用作動媒体を得ることができる。
なお、本発明の熱サイクル用作動媒体においては、自己分解性を有する組成であっても使用条件によっては取り扱いを十分に注意することで熱サイクルシステムに使用することが可能である。
【0025】
この熱サイクル用作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の含有割合は、21質量%以上39質量%以下であり、23質量%以上39質量%以下がより好ましく、23質量%以上35質量%未満がさらに好ましい。
【0026】
上記作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合が21質量%以上の範囲では、実用的な成績係数、冷凍能力を確保できる。23質量%以上の範囲では、成績係数がさらに良好となり好ましい。
また、作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合が39質量%以下の範囲であれば、熱サイクルシステムに適用する場合の温度条件下で自己分解性がなく、耐久性に優れた熱サイクル用作動媒体を得ることができる。さらに、作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfの合計量に対するHFO−1123の割合が35質量%未満の範囲であれば、より高圧力条件下となった場合でも自己分解性がなく、非常に耐久性に優れた熱サイクル用作動媒体を得ることができる。このような作動媒体を熱サイクルシステムに用いれば、実用的な冷凍能力および成績係数を有するものとして、高圧条件となるような場合でも極めて安定して使用できる。
【0027】
また、本発明の熱サイクル用作動媒体は、該作動媒体100質量%中における、HFO−1123とHFO−1234yfの合計の含有量が、90質量%を超え100質量%以下である。HFO−1123とHFO−1234yfの合計の含有量を、この範囲内のように作動媒体中の大部分を占めるようにすることで、熱サイクルシステムに用いた際に一定のサイクル性能を維持しながら耐久性の良好な作動媒体が得られる。作動媒体100質量%中のHFO−1123とHFO−1234yfの合計の含有量は、97質量%を超え100質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
上記のとおり本発明の作動媒体を構成するHFO−1123とHFO−1234yfは、ともにHFOであり地球温暖化への影響が少ない化合物である。また、HFO−1123は作動媒体としての能力に優れるが、成績係数の点で他のHFOに比べて充分でない場合がある。さらに、HFO−1123単体で使用をした場合、高圧条件では、自己分解により作動媒体としての耐久性が低く使用寿命が極端に短くなる場合がある。
【0029】
一方、HFO−1234yfは作動媒体としての冷凍能力および成績係数がバランスよく揃ったHFOである。HFO−1234yfの臨界温度(94.7℃)はHFO−1123に比べて高いものの、単独で用いた場合その冷凍サイクル性能、特に冷凍能力が不充分である。
【0030】
本発明の熱サイクル用作動媒体は、上記のようにそれぞれ単独では実用的でなかったものを、特定の割合で混合して含有させることで特性を改善して実用可能な作動媒体としたものである。
【0031】
[任意成分]
本発明の熱サイクル用作動媒体は、本発明の効果を損なわない範囲でHFO−1123およびHFO−1234yf以外に、通常作動媒体として用いられる化合物を任意に含有してもよい。
【0032】
任意成分としては、HFC、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)が好ましい。
【0033】
(HFC)
任意成分のHFCとしては、例えば、HFO−1123およびHFO−1234yfと組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を下げる作用、能力を向上させる作用または効率をより高める作用を有するHFCが用いられる。本発明の熱サイクル用作動媒体がこのようなHFCを含むと、より良好なサイクル性能が得られる。
【0034】
なお、HFCは、HFO−1123およびHFO−1234yfに比べてGWPが高いことが知られている。したがって、上記作動媒体としてのサイクル性能の向上に加えて、GWPを許容の範囲にとどめる観点から任意成分として用いるHFCを選択する。
【0035】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいHFCとして具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0036】
HFCとしては、HFC−32、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、HFC−125、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0037】
なかでも、HFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、HFC−32、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、およびHFC−125が好ましく、HFC−32、HFC−134a、およびHFC−125がより好ましい。
HFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
なお、上記好ましいHFCのGWPは、HFC−32については675であり、HFC−134aについては1430であり、HFC−125については3500である。得られる作動媒体のGWPを低く抑える観点から、任意成分のHFCとしては、HFC−32が最も好ましい。
【0039】
本発明の熱サイクル用作動媒体を、HFO−1123、HFO−1234yfおよびHFC−32の3つの化合物で構成する場合、HFC−32は0〜10質量%の割合で含有する。相対成績係数の観点からはHFC−32の含有量は5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。
【0040】
(HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFO)
任意成分のHFOとしては、トランス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(E))、シス−1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132(Z))、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
【0041】
なかでも、任意成分のHFOとしては、高い臨界温度を有し、安全性、成績係数が優れる点から、HFO−1234ze(E)、HFO−1234ze(Z)が好ましく、HFO−1234ze(E)がより好ましい。
これらのHFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明の熱サイクル用作動媒体が、任意成分のHFCおよび/または、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOを含む場合、該作動媒体100質量%中のHFCおよび、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOの合計の含有量は、10質量%以下であり、1〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましく、2〜7質量%がさらに好ましい。作動媒体におけるHFC並びに、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOの合計の含有量は、用いるHFC、HFO−1123およびHFO−1234yf以外のHFOの種類に応じて、上記範囲内で適宜調整される。このとき、HFO−1123およびHFO−1234yfと組み合わせて熱サイクルに用いた際に、温度勾配を下げる、能力を向上させるまたは効率をより高める観点、さらには地球温暖化係数を勘案して、調整する。
【0043】
(他の任意成分)
本発明の熱サイクル用作動媒体は、上記任意成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を他の任意成分として含有してもよい。他の任意成分としては、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0044】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明の熱サイクル用作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%以下であり、1〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系冷凍機油の溶解性がより良好になる。
【0046】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明の熱サイクル用作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の熱サイクル用作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は該作動媒体の100質量%に対して10質量%以下であり、1〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましく、2〜7質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0048】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明の熱サイクル用作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明の熱サイクル用作動媒体がHCFOを含む場合、該作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%以下であり、1〜10質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましく、2〜7質量%がさらに好ましい。HCFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0050】
本発明の熱サイクル用作動媒体が上記のような任意成分および他の任意成分を含有する場合、その合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%以下である。
【0051】
以上説明した本発明の熱サイクル用作動媒体は、ともに地球温暖化への影響が少ないHFOであって、作動媒体としての能力に優れるHFO−1123と、作動媒体としての能力および効率がバランスよく揃ったHFO−1234yfを、両者を特定の割合で混合して得られるものである。そして、このように得られる本発明の熱サイクル用作動媒体は、耐久性の観点を加味して、それぞれサイクル性能を確保する割合となるように組み合わせて得られるものであり、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用的なサイクル性能を有するものである。
【0052】
[熱サイクルシステムへの適用]
(熱サイクルシステム用組成物)
本発明の熱サイクル用作動媒体は、熱サイクルシステムへの適用に際して、通常、冷凍機油と混合して本発明の熱サイクルシステム用組成物として使用することができる。本発明の熱サイクルシステム用組成物は、これら以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0053】
(冷凍機油)
冷凍機油としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステム用組成物に用いられる公知の冷凍機油が特に制限なく採用できる。冷凍機油として具体的には、含酸素系冷凍機油(エステル系冷凍機油、エーテル系冷凍機油等)、フッ素系冷凍機油、鉱物系冷凍機油、炭化水素系冷凍機油等が挙げられる。
【0054】
エステル系冷凍機油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油等が挙げられる。
【0055】
二塩基酸エステル油としては、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。この二塩基酸エステル油としては、具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0056】
ポリオールエステル油としては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオール等)または水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等)と、炭素数6〜20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等)とのエステルが好ましい。
なお、これらのポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0057】
ポリオールエステル油としては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスルトール等)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート等)が好ましい。
【0058】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0059】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、上述と同様のジオールや上述と同様のポリオールが挙げられる。また、ポリオール炭酸エステル油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0060】
エーテル系冷凍機油としては、ポリビニルエーテル油やポリオキシアルキレン油が挙げられる。
【0061】
ポリビニルエーテル油としては、アルキルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマーを重合して得られたものや、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られた共重合体がある。
ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオール、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのアルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのエステル化物等が挙げられる。
【0065】
ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化アルカリなどの触媒の存在下、水や水酸基含有化合物などの開始剤に炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を開環付加重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレン鎖中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0066】
反応に用いる開始剤としては、水、メタノールやブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロール等の多価アルコールが挙げられる。
【0067】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールの、アルキルエーテル化物やエステル化物が好ましい。また、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。特に、ポリグリコール油と呼ばれる、ポリオキシアルキレングリコールの末端水酸基がメチル基等のアルキル基でキャップされた、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテル化物が好ましい。
【0068】
フッ素系冷凍機油としては、合成油(後述する鉱物油、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油等が挙げられる。
【0069】
鉱物系冷凍機油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた冷凍機油留分を、精製処理(溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等)を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等が挙げられる。
【0070】
炭化水素系冷凍機油としては、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
【0071】
冷凍機油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
冷凍機油としては、作動媒体との相溶性の点から、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油およびポリグリコール油から選ばれる1種以上が好ましい。
【0072】
冷凍機油の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0073】
(安定剤)
安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。
【0074】
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、ジ−2−ナフチルアミン、N−アルキルフェノチアジン、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメルカプトチアジアゾール、サリシリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズイミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0076】
安定剤の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0077】
(漏れ検出物質)
漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0078】
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、熱サイクルシステムに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0079】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0080】
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0081】
漏れ検出物質の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0082】
<熱サイクルシステム>
本発明の熱サイクルシステムは、本発明の熱サイクル用作動媒体を用いたシステムである。本発明の熱サイクル用作動媒体を熱サイクルシステムに適用するにあたっては、通常、上記作動媒体を含有する熱サイクルシステム用組成物として適用する。本発明の熱サイクルシステムは、凝縮器で得られる温熱を利用するヒートポンプシステムであってもよく、蒸発器で得られる冷熱を利用する冷凍サイクルシステムであってもよい。
【0083】
本発明の熱サイクルシステムとして、具体的には、冷凍・冷蔵機器、空調機器、発電システム、熱輸送装置および二次冷却機等が挙げられる。なかでも、本発明の熱サイクルシステムは、より高温の作動環境でも安定して熱サイクル性能を発揮できるため、屋外等に設置されることが多い空調機器として用いられることが好ましい。また、本発明の熱サイクルシステムは、冷凍・冷蔵機器として用いられることも好ましい。
【0084】
空調機器として、具体的には、ルームエアコン、パッケージエアコン(店舗用パッケージエアコン、ビル用パッケージエアコン、設備用パッケージエアコン等)、ガスエンジンヒートポンプ、列車用空調装置、自動車用空調装置等が挙げられる。
【0085】
冷凍・冷蔵機器として、具体的には、ショーケース(内蔵型ショーケース、別置型ショーケース等)、業務用冷凍・冷蔵庫、自動販売機、製氷機等が挙げられる。
【0086】
発電システムとしては、ランキンサイクルシステムによる発電システムが好ましい。
発電システムとして、具体的には、蒸発器において地熱エネルギー、太陽熱、50〜200℃程度の中〜高温度域廃熱等により作動媒体を加熱し、高温高圧状態の蒸気となった作動媒体を膨張機にて断熱膨張させ、該断熱膨張によって発生する仕事によって発電機を駆動させ、発電を行うシステムが例示される。
【0087】
また、本発明の熱サイクルシステムは、熱輸送装置であってもよい。熱輸送装置としては、潜熱輸送装置が好ましい。
【0088】
潜熱輸送装置としては、装置内に封入された作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象を利用して潜熱輸送を行うヒートパイプおよび二相密閉型熱サイフォン装置が挙げられる。ヒートパイプは、半導体素子や電子機器の発熱部の冷却装置等、比較的小型の冷却装置に適用される。二相密閉型熱サイフォンは、ウィッグを必要とせず構造が簡単であることから、ガス−ガス型熱交換器、道路の融雪促進および凍結防止等に広く利用される。
【0089】
以下、本発明の実施形態の熱サイクルシステムの一例として、冷凍サイクルシステムについて、上記で大枠を説明した
図1に概略構成図が示される冷凍サイクルシステム10を例として説明する。冷凍サイクルシステムとは、蒸発器で得られる冷熱を利用するシステムである。
【0090】
図1に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0091】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
【0092】
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0093】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、
図2に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0094】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、
図2においてAB線で示される。
【0095】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、
図2においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点T
1が凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点T
2が凝縮沸点温度である。ここで、HFO−1123とHFO−1234yfの混合媒体のような非共沸混合媒体の温度勾配はT
1とT
2の差として示される。
【0096】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、
図2においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をT
3で示せば、T
2−T
3が(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(以下、必要に応じて「SC」で示す。)となる。
【0097】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、
図2においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点T
6は蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をT
7で示せば、T
7−T
6が(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(以下、必要に応じて「SH」で示す。)となる。なお、T
4は作動媒体Dの温度を示す。
【0098】
ここで、作動媒体のサイクル性能は、例えば、作動媒体の冷凍能力(以下、必要に応じて「Q」で示す。)と成績係数(以下、必要に応じて「COP」で示す。)で評価できる。作動媒体のQとCOPは、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h
A、h
B、h
C、h
Dを用いると、下式(1)、(2)からそれぞれ求められる。
【0099】
Q=h
A−h
D …(1)
COP=Q/圧縮仕事=(h
A−h
D)/(h
B−h
A) …(2)
【0100】
なお、COPは冷凍サイクルシステムにおける効率を意味しており、COPの値が高いほど少ない入力、例えば圧縮機を運転するために必要とされる電力量、により大きな出力、例えば、Qを得ることができることを表している。
【0101】
一方、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味している。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表しており、システムの小型化が可能となる。
【0102】
本発明の熱サイクル組成物を用いた本発明の熱サイクルシステムによれば、例えば、
図1に示される冷凍サイクルシステム10において、従来から空調機器等で一般的に使用されているR410A(HFC−32とHFC−125の質量比1:1の混合媒体)を用いた場合に比べて、地球温暖化係数を格段に低く抑えながら、QとCOPをともに実用的なレベルに設定することが可能である。
【0103】
(水分濃度)
なお、熱サイクルシステムの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0104】
熱サイクルシステム内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や冷凍機油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、冷凍機油がポリグリコール油、ポリオールエステル油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、冷凍機油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、冷凍機油の加水分解を抑えるためには、熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する必要がある。
【0105】
熱サイクルシステム内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト、塩化リチウム等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の作動媒体と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、作動媒体と接触させることが好ましい。
【0106】
乾燥剤としては、乾燥剤と作動媒体との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0107】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系冷凍機油に比べて吸湿量の高い冷凍機油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(3)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0108】
M
2/nO・Al
2O
3・xSiO
2・yH
2O …(3)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0109】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
作動媒体の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0110】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体を吸着することなく、熱サイクルシステム内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、熱サイクルシステムを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0111】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると熱サイクルシステムの弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0112】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
作動媒体に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
熱サイクルシステム内の水分濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で、10000ppm未満が好ましく、1000ppm未満が更に好ましく、100ppm未満が特に好ましい。
【0113】
(不凝縮性気体濃度)
さらに、熱サイクルシステム内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や冷凍機油と反応し、分解を促進する。
【0114】
不凝縮性気体濃度は、熱サイクル作動媒体に対する質量割合で、10000ppm未満が好ましく、1000ppm未満が更に好ましく、100ppm未満が特に好ましい。
【0115】
(塩素濃度)
熱サイクルシステム内に塩素が存在すると、金属との反応による堆積物の生成、軸受け部の磨耗、熱サイクル用作動媒体や冷凍機油の分解等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の塩素濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で100ppm以下が好ましく、50ppm以下が特に好ましい。
【0116】
(金属濃度)
熱サイクルシステム内にパラジウム、ニッケル、鉄などの金属が存在すると、HFO−1123の分解やオリゴマー化等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の金属濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で5ppm以下が好ましく、1ppm以下が特に好ましい。
【0117】
(酸分濃度)
熱サイクルシステム内に酸分が存在すると、HFO−1123の酸化分解、自己分解反応が促進する等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の酸分濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で1ppm以下が好ましく、0.2ppm以下が特に好ましい。
【0118】
また、熱サイクル組成物から酸分を除去する目的で、NaFなどの脱酸剤による酸分除去を行う手段を熱サイクルシステム内に設けることで、熱サイクル組成物から酸分を除去することが好ましい。
【0119】
(残渣濃度)
熱サイクルシステム内に金属粉、冷凍機油以外の他の油、高沸分などの残渣が存在すると、気化器部分の詰まりや回転部の抵抗増加等、好ましくない影響をおよぼす。
熱サイクルシステム内の残渣濃度は、熱サイクル用作動媒体に対する質量割合で1000ppm以下が好ましく、100ppm以下が特に好ましい。
【0120】
残渣は、熱サイクルシステム用作動媒体をフィルター等でろ過することで除去することができる。また、熱サイクルシステム用作動媒体とする前に、熱サイクルシステム用作動媒体の各成分(HFO−1123、HFO−1234yf等)ごとにフィルターでろ過を行って残渣を除去し、その後に混合して熱サイクルシステム用作動媒体としてもよい。
【0121】
以上説明した本発明の熱サイクルシステムにあっては、本発明の熱サイクルシステム用組成物を用いることで、地球温暖化への影響を抑えつつ、実用的なサイクル性能が得られ、耐久性の高いものとできる。
【実施例】
【0122】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例1〜4が実施例、例5〜8が比較例である。
【0123】
[例1〜8]
常法に従い、HFO−1123およびHFO−1234yfを、それぞれ表1に示す割合で混合して熱サイクル用の作動媒体(例1〜8)を得た。なお、作動媒体全量におけるHFO−1123およびHFO−1234yfの合計量の割合は100質量%である。
【0124】
【表1】
【0125】
次に、本発明の作動媒体について、以下説明するように、自己分解性の有無、成績係数、冷凍能力、GWP、の各特性について調べた。
【0126】
(自己分解性の評価)
上記で得られた作動媒体の例1〜8について、表2に示す試験圧力で自己分解性の評価の試験(試験1−1〜8−1)を行った。自己分解性の評価は、高圧ガス保安法における個別通達においてハロゲンを含むガスを混合したガスにおける燃焼範囲を測定する設備として推奨されているA法に準拠した設備を用いて行った。
【0127】
外部からのヒーター加熱によって反応器内部の温度を190℃〜210℃の範囲に制御した内容積650cm
3の球形耐圧容器内に、作動媒体の例1〜8を、表2に示す圧力まで封入した。その後、球形耐圧容器内部に設置された白金線(外径0.5mm、長さ25mm)を10V、50Aの電圧、電流で溶断した(ホットワイヤー法)。溶断後に発生する耐圧容器内の温度と圧力変化を測定した。また、試験後のガス組成を分析した。試験後に、球形耐圧容器内の圧力上昇並びに温度上昇が認められ、試験後のガス分析で仕込んだHFO−1123の100モル%に対して20モル%以上の自己分解反応生成物(CF
4、HF、コーク)が検出された場合に自己分解反応ありと判断した。結果を、圧力条件とともに表2および
図3に示す。なお表2および
図3中の圧力はゲージ圧である。また、
図3は、作動媒体中のHFO−1123の含有量と圧力との関係における自己分解性の有無を示したグラフである。
【0128】
【表2】
【0129】
表2および
図3より、熱サイクル用作動媒体におけるHFO−1123とHFO−1234yfの合計量におけるHFO−1123の含有される割合が、39質量%以下の組成を有する作動媒体では、圧力が5MPa以下では自己分解性を有さないことが確認され、35質量%未満の組成を有する作動媒体では、圧力が7MPa以下では自己分解性を有さないことが確認された。なお、
図3において示した実線は、本実施例の作動媒体について、自己分解性の有無の境界と推測される補助線である。
【0130】
(冷凍サイクル性能の評価)
実施例と同様の操作により、表3に示す割合のHFO−1123およびHFO−1234yfからなる熱サイクル用作動媒体を得た。これら作動媒体の冷凍サイクル性能の測定は、
図1の冷凍サイクルシステム10に、上記熱サイクル用作動媒体を適用して、
図2に示す熱サイクル、すなわちAB過程で圧縮機11による断熱圧縮、BC過程で凝縮器12による等圧冷却、CD過程で膨張弁13による等エンタルピ膨張、DA過程で蒸発器14による等圧加熱を実施した場合について行い、サイクル性能(能力および効率)として冷凍サイクル性能(冷凍能力および成績係数)を評価した。
【0131】
評価は、蒸発器14における熱サイクル用作動媒体の平均蒸発温度を0℃、凝縮器12における熱サイクル用作動媒体の平均凝縮温度を40℃、凝縮器12における熱サイクル用作動媒体の過冷却度を5℃、蒸発器14における熱サイクル用作動媒体の過熱度を5℃として実施した。また、機器効率および配管、熱交換器における圧力損失はないものとした。
【0132】
冷凍能力および成績係数は、熱サイクル用作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態のエンタルピhを用いて、上記式(1)、(2)から求めた。
【0133】
冷凍サイクル性能の算出に必要となる熱力学性質は、対応状態原理に基づく一般化状態方程式(Soave−Redlich−Kwong式)、および熱力学諸関係式に基づき算出した。特性値が入手できない場合は、原子団寄与法に基づく推算手法を用い算出を行った。
【0134】
冷凍能力および成績係数は、R410Aの冷凍能力および成績係数をそれぞれ、1.000とした場合の相対比として求めた。
【0135】
また、作動媒体のGWPを、原料とした各化合物のGWP(HFO−1123は0.3、HFO−1234yfは4)をもとに、組成質量による加重平均として求めた。すなわち、作動媒体を構成する各化合物の質量%とGWPの積を合計した値を100で除すことで該作動媒体のGWPを求めた。
【0136】
冷凍能力(対R410A)および成績係数(対R410A)の結果、並びにGWPの計算結果を表3に示す。
【0137】
【表3】
【0138】
表3の結果から、本発明の熱サイクル用作動媒体では、R410Aと同等かそれ以上の成績係数が得られ、冷凍能力はR410Aと比べて低いものの実用可能な範囲である。なお、ここで実用可能な範囲とは、R410Aと比べて冷凍能力が0.590以上をいい、この範囲であれば熱サイクル用作動媒体として使用可能である。また、HFO−1123とHFO−1234yfを含むことで、HFO−1123のみに比べて、成績係数が向上したことが確認された。また、GWPも低いものとなっていることがわかる。
【0139】
上記結果から本発明の実施例である例1〜4の作動媒体は、GWPが低く、R410Aを基準として、サイクル性能は実用的であり、かつ、高圧状態になった際にも自己分解性を抑制できる耐久性に優れた作動媒体であることがわかった。