(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下地膜がサーメットからなり、該サーメットが、酸化物分散系サーメット、炭化クロム系サーメット、および硼化物系サーメットのいずれかである、請求項4に記載のガラス搬送用ロール。
前記下地膜の厚みが30〜150μmであり、前記下地膜と前記セラミックス溶射皮膜の厚みの合計が100〜500μmである、請求項4〜6のいずれか1項に記載のガラス搬送用ロール。
前記溶射下地膜のサーメットが、酸化物分散系サーメット、炭化クロム系サーメット、または硼化物系サーメットのいずれかである請求項12または13に記載のガラス搬送用ロールの製造方法。
前記セラミックス溶射皮膜の成膜工程と、前記含浸工程との間に、前記セラミックス溶射皮膜の表面を研磨する研磨工程を有する、請求項10〜14のいずれか1項に記載のガラス搬送用ロールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガラス搬送用ロールは、金属製のロール母材表面が、セラミックス溶射皮膜で被覆されたガラス搬送用ロールであって、
500〜750℃の温度域における、ロール母材の線熱膨張係数をα
sとし、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数をα
cとするとき、α
s−α
c≦2×10
-6/℃であり、8×10
-6/℃≦α
c≦14×10
-6/℃であり、
セラミックス溶射皮膜の常温から750℃までの熱膨張による伸びが、0.6〜1.05%であり、
セラミックス溶射皮膜の厚みが100〜500μmであり、
セラミックス溶射皮膜の断面画像解析法による気孔率が2%以下であることを特徴とする。
【0017】
<ロール母材>
ロール母材の材質は、金属製である限り特に限定されないが、500〜750℃の温度域における、ロール母材の線熱膨張係数α
sが、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cとの関係で、α
s−α
c≦2×10
-6/℃を満たすことが求められる。
以下、本明細書において、線熱膨張係数α
s,α
cと記載した場合、500〜750℃の温度域における線熱膨張係数を指す。なお、線熱膨張率α
cは、以下の方法で測定することができる。セラミックス溶射皮膜は、原料を規定の比率で混合し、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)法を用いて、φ20mm長さ20mmの焼結体を作製した。これを水平示唆検出方式の押し棒式膨張計(NETZSCH社製 TD5000SA)にて焼結体の20〜750℃の温度域における線熱膨張係数を測定し、500〜750℃の温度域における線熱膨張係数α
cを求めた。また、線熱膨張係数α
sは、前述の押し棒式膨張計を用いて測定することができる。
本発明の一態様におけるセラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは、8×10
-6/℃≦α
c≦14×10
-6/℃であるため、ロール母材の線熱膨張係数α
sは、10×10
-6/℃≦α
s≦16×10
-6/℃であることが好ましい。
線熱膨張係数α
sが上記範囲を満たす金属材料としては、フェライト系ステンレス鋼のSUS430、マルテンサイト系ステンレス鋼のSUS410、Ni基合金のインコネル625、ハイス鋼のSKH、工具鋼のSKD、などが例示される。
ロール母材の外径は特に限定されないが、一般的なガラス搬送用ロールにおけるロール母材の外径は200〜500mmである。
【0018】
<セラミックス溶射皮膜>
本発明のガラス搬送用ロールにおいて、金属製のロール母材表面はセラミックス溶射皮膜で被覆されている。
溶射皮膜をなすセラミックスは、ロール母材の線熱膨張係数をα
sとし、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数をα
cとするとき、両者の線熱膨張係数差α
s−α
c≦2×10
-6/℃を満たすことが求められる。
ガラス搬送用ロールの被覆としては、高温においてもガラス、錫、酸化錫等が付着し難いという利点を有することから、酸化ジルコニウム(ZrO
2)を主成分とするジルコニア系セラミックス、または、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を主成分とするアルミナ系セラミックスが好ましい。ここで、“主成分とする”とは、セラミックス相全体に対して、50質量%以上、好ましくは80質量%以上含まれることを意味する。ジルコニア系セラミックスは、特に、添加剤としてY
2O
3、CaO、MgO、CeO
2、その他の酸化物の1種ないし2種以上を、3〜20質量%程度含有する安定化ジルコニアまたは部分安定化ジルコニアが好ましい。以下、本明細書において、「安定化ジルコニア」と記載した場合、安定化ジルコニアおよび部分安定化ジルコニアの両方を指す。
【0019】
本発明では、線熱膨張係数差α
s−α
cが上記範囲を満たすことが求められることから、上記の添加剤を3〜20質量%程度含有する安定化ジルコニアに対し、さらに、フッ化イットリウムを所定量含有させたもの、または、複数の金属酸化物を含み、金属酸化物は線熱膨張係数が11×10
-6/℃以下の金属酸化物と、線熱膨張係数が11×10
-6/℃よりも大きい金属酸化物とを、それぞれひとつ以上含む金属酸化物を用いることが好ましい。
フッ化イットリウムは、安定化ジルコニアの線熱膨張係数を高める作用があり、7〜23wt.%含有させることで、線熱膨張係数差α
s−α
cが上記範囲となる。
フッ化イットリウムの含有量が7wt.%未満だと、安定化ジルコニアの線熱膨張係数を高める作用が不十分であり、線熱膨張係数差α
s−α
cが2×10
-6/℃よりも高くなることがある。
一方、フッ化イットリウムの含有量が23wt.%超だと、セラミックス溶射被覆の硬度が低下し、ガラス搬送用ロールの被覆として使用不可となる。なお、セラミックス溶射皮膜の硬度は、セラミック溶射皮膜の断面において荷重300gでマイクロビッカース硬度を10回測定した平均値から求めた。
線熱膨張係数が11×10
-6/℃以下の金属酸化物としては、ジルコニア(ZrO
2)やアルミナ(Al
2O
3)を用いることが好ましく、線熱膨張係数が11×10
-6/℃よりも大きい金属酸化物としては、マグネシア(MgO)やカルシア(CaO)を用いることが好ましい。また、さらにシリカ(SiO
2)を含んでもよい。シリカ(SiO
2)を添加することで酸化物を混合した溶射原料の焼結が容易になる。
なお、本発明の一態様におけるセラミックス溶射被覆の硬度は、ビッカース硬さ (Hv)で600以上であることが好ましく、650以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明のガラス搬送用ロールは、線熱膨張係数差α
s−α
c≦2×10
-6/℃ときわめて小さいため、両者の線熱膨張係数の差異に起因するセラミックス溶射皮膜の剥離が格段に抑制できる。これにより、セラミックス溶射皮膜からの粒子脱落、および、該セラミックス溶射皮膜自体の剥離を格段に抑制できる。
ここで、500〜750℃の温度域における、線熱膨張係数差α
s−α
cを規定しているのは、ガラス搬送用ロールの使用時に想定される温度域だからである。
本発明の一態様において、線熱膨張係数差α
s−α
c≦2×10
-6/℃を満たすことが好ましく、線熱膨張係数差α
s−α
c≦1×10
-6/℃を満たすことがより好ましい。
【0021】
本発明において、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cを、8×10
-6/℃≦α
c≦14×10
-6/℃とするのは、線熱膨張係数差α
s−α
cを上記の範囲とするうえで好適であり、かつ、セラミックス溶射皮膜の熱膨張による伸び、具体的には、常温からガラス搬送用ロールの使用時に想定される温度域までの熱膨張による伸びも、セラミックス溶射皮膜の剥離に影響するからである。セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cが上記範囲であれば、常温からガラス搬送用ロールの使用時に想定される温度域までの熱膨張による伸びが後述する範囲となり、セラミックス溶射皮膜の剥離が抑制されるからである。
線熱膨張係数α
cが8×10
-6/℃未満だと、溶射後の皮膜中にクラックが発生し、温度上昇に伴って微細なクラックが発生し、場合によっては皮膜が母材の膨張に追随できなくなり剥離を生じる点で問題がある。
一方、14×10
-6/℃超だと、皮膜の機械的特性が落ちる点で問題がある。
本発明の一態様において、線熱膨張係数α
cは、8×10
-6/℃≦α
c≦14×10
-6/℃であることが好ましく、11×10
-6/℃≦α
c≦13×10
-6/℃であることがより好ましい。
【0022】
本発明におけるセラミックス溶射皮膜は、常温から750℃までの熱膨張による伸びが、0.6〜1.05%である。なお、線膨張による伸びは、線熱膨張係数に温度を掛けて求めることができる。常温から750℃までの熱膨張による伸びは、ガラス搬送用ロールの熱上げ時のセラミックス溶射皮膜の熱膨張による伸びに相当する。セラミックス溶射皮膜はガラス搬送用ロールの熱上げ時に熱膨張による伸びが最大になるため、この時点で皮膜の剥離が起こりやすい。
常温から750℃までの熱膨張による伸びが上記範囲であれば、ガラス搬送用ロールの熱上げ時に熱膨張による伸びが適度であり、セラミックス溶射皮膜の剥離が抑制される。
【0023】
本発明におけるセラミックス溶射皮膜の厚みは100〜500μmである。
セラミックス溶射皮膜の厚みが100μm以上であると、熱衝撃の緩衝層としての効果が充分に得られやすく、熱サイクルによるセラミックス溶射皮膜の剥離が生じ難い。
一方、セラミックス溶射皮膜の厚みが500μm以下であると、メンテナンスなどの際の機械的な力による亀裂が生じ難い。
本発明の一態様におけるセラミックス溶射皮膜の厚みは100〜500μmであることが好ましく、150〜300μmであることがより好ましい。
【0024】
本発明におけるセラミックス溶射皮膜は断面画像解析法による気孔率が2%以下である。セラミックス溶射皮膜の気孔率が上記範囲であると、ロール母材とセラミックス溶射皮膜と線熱膨張係数の差異に起因する剥離を抑制できる。また、ガラス搬送用ロールを、酸素や硫黄酸化物が存在する雰囲気下で使用した場合でも、これらの金属腐食性ガスがセラミックス溶射皮膜を通過して、ロール母材に接触するのを長期にわたって抑制できる。
セラミックス溶射皮膜の気孔率が2%超だと、セラミックス溶射皮膜の剥離を抑制できない。また、ガラス搬送用ロールが設置された雰囲気中に存在する酸素や硫黄酸化物によるロール母材の侵食が問題となる。気孔率は、セラミック溶射皮膜を切断した断面を粒度1μmのダイヤモンドペーストを用いて研磨した後、光学顕微鏡(200倍)の視野で画像解析法により算出した。
【0025】
本発明の一態様におけるセラミックス溶射皮膜は、プラズマ溶射、高速フレーム溶射、粉末式フレーム溶射などの公知の溶射法で形成できる。但し、高い溶融温度が実現でき、溶射粒子を半溶融状態にすることができるという点で、プラズマ溶射により形成することが好ましい。
セラミックス溶射皮膜の形成に用いる原料は粉末原料が好ましい、粉末原料は、予め混合、造粒、焼結、粉砕、分級などを行い造粒焼結粉や焼結粉砕粉として、溶射に用いることが好ましい。
但し、溶射法により形成されるセラミックス皮膜は、原料が溶融した液滴粒子が基材(ロール母材表面)へ衝突し、急速凝固することによって形成されるため一般に気孔を有する。
上述したように、本発明におけるセラミックス溶射皮膜は気孔率が2%以下であることが求められる。
このため、溶射により、好ましくは、プラズマ溶射により、形成されたセラミックス皮膜は、封孔処理を施すことで気孔率を2%以下にする必要がある。
【0026】
上記の目的で実施する封孔処理の一態様は、シリカ前駆体溶液の含浸によりなされる。
【0027】
<シリカ前駆体溶液>
シリカ前駆体とは、物理的、化学的変化によりシリカ(SiO
2)を生じる化合物をいう。シリカ前駆体の例としてはアルコキシシランやそのオリゴマー、ポリシラザン、アルカリケイ酸塩、ポリケイ酸が挙げられる。ここでアルコキシシランのオリゴマーとは、アルコキシシランの部分加水分解縮合物をいう。アルコキシシランのオリゴマーとしては、例えばアルコキシシランを部分的に加水分解縮合して得られる2〜20量体がある。ポリシラザンとしてはパーヒドロポリシラザンが好ましい。アルコキシシランの具体例としてはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(珪酸エチル)、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシランやそのオリゴマー;メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のオルガノアルコキシシランやそれらのオリゴマー等が挙げられる。これらアルコキシシランは、前駆体溶液中で加水分解された形で用いることが好ましい。ポリシラザンの具体例としては、パーヒドロポリシラザンが好ましい。
【0028】
シリカ前駆体溶液として、シリカ前駆体を含有する公知のコーティング液を適宜使用できる。具体例としては、アルコキシシランやそのオリゴマーのアルコール溶液、ポリシラザンの有機溶媒溶液、アルカリケイ酸塩水溶液(水ガラス)、ポリケイ酸水溶液等が挙げられる。シリカ前駆体溶液は、必要に応じて触媒、界面活性剤、収縮抑制剤等の他の成分を適宜含有してもよい。
【0029】
アルカリケイ酸塩水溶液(水ガラス)からなる前駆体溶液は、セラミックス溶射皮膜表面に塗布し大気中で適当な温度で保持すると二酸化ケイ素を析出して、巨視的には表面の塗膜となるとともに、一部は溶射皮膜の粒子境界に滲入する。水溶液の濃度などを調整することによって、この滲入効果を大きくすることが可能である。しかし、これらの二酸化ケイ素物質はセラミック溶射粒子間の結合力を向上させる効果が若干弱い場合がある。また溶射皮膜表面に塗膜状に形成したものは、高温保持によって亀甲状のわれを不可避に生じるとともに、その組織内に容易に液相が出現する。
【0030】
また、アルコキシシラン(代表的にはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン)は加熱履歴によってシリカに転じるものの微細粉末のゲル状を呈する。これらは凝集性に乏しくかつ外力が働いたとき、その環境中にしばしば脱離する場合がある。ただし、アルコキシシランオリゴマーの使用やシリカゾルなどの収縮抑制剤の併用によりこれら問題を解決することができる。
【0031】
一方、アルコキシシラン類から形成される酸化ケイ素に比較して、ポリシラザン類から形成される酸化ケイ素は緻密な構造を有し、高い機械的耐久性やガスバリヤ性を有し、セラミックス溶射皮膜の封孔剤として用いた場合に、セラミックス粒子の結合力を高め、粒子の脱落防止への効果が大きい。
【0032】
本発明の一態様で用いるシリカ前駆体は、アルコキシシランやそのオリゴマー、ポリシラザンまたはアルカリケイ酸塩に限定されるものではなく、他のシリカ前駆体を用いることが出来る。
【0033】
含浸条件は、溶射により、好ましくは、プラズマ溶射により、形成されたセラミックス皮膜表面に存在する全部の気孔内にシリカ前駆体溶液が浸透するように設定するのが好ましい。該気孔内にシリカ前駆体溶液が浸透する浸透深さは、酸素および腐食性ガスの透過を良好に防止するうえで10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。セラミックス溶射皮膜の全厚にわたって浸透してもよい。シリカ前駆体溶液の浸透深さは、シリカ前駆体溶液の粘度、含浸時間、雰囲気温度等によって調整できる。
【0034】
シリカ前駆体溶液を含浸させた後、好ましくは、セラミックス溶射皮膜上に付着しているシリカ前駆体溶液を拭き取り、該セラミックス溶射皮膜の表面上に残っているシリカ前駆体溶液層が硬化して形成されるシリカ皮膜の厚さ(残渣膜厚)を5μm以下とすることが好ましい。セラミックス溶射皮膜の表面上において該残渣膜厚がゼロの領域、すなわち硬化前において、気孔内にはシリカ前駆体溶液が浸透しており、表面にはシリカ前駆体溶液が付着していない領域が存在してもよい。
上記したシリカ前駆体溶液の拭き取りは必須ではないが、後述するシリカ前駆体溶液の硬化の前に拭き取りを行うことにより、加熱時に表面で硬化したシリカ前駆体の亀裂発生を抑制することができる。
【0035】
なお、セラミックス溶射皮膜の形成後、上述したシリカ前駆体溶液の含浸による封孔処理を実施する前に、該セラミックス溶射皮膜の表面を研磨することが好ましい。シリカ前駆体溶液の含浸の前に研磨を行うことによりシリカ前駆体硬化後の皮膜中の亀裂発生を抑制できる。
研磨後のセラミックス溶射皮膜の表面の粗さ(Ra)は0.2〜0.8μmが好ましい。溶射皮膜の脆弱な最表層を除去し、平滑な面が得られればよい。
尚、シリカ前駆体溶液の含浸後のセラミックス溶射皮膜の表面の粗さ(Ra)は、含浸後の表面のポリシラザンを払拭することにより、シリカ前駆体溶液の含浸前のセラミックス溶射皮膜の表面の粗さ(Ra)とほぼ同等となる。
研磨方法は特に限定されず、例えば耐水性研磨紙を用いた手研磨、ダイヤモンド工具による機械的研磨等を用いることができる。
【0036】
またセラミックス溶射皮膜の気孔率を2%以下にする処理の別の一態様は、爆発溶射によりなされる。
爆発溶射は、溶射ガンの内部で酸素とアセチレンなどの可燃性ガスを混合し爆発させ、その燃焼炎中に微粉末の溶射材料を混入することで、溶射材料を母財の表面に吹き付けて皮膜を形成するプロセスであり、爆発エネルギーにより高温で高速度な燃焼フレームを得ることができるため、皮膜の気孔率が非常に小さくなる。
【0037】
本発明の一態様のガラス搬送用ロールにおいて、ロール母材と、セラミックス溶射皮膜と、の間に、サーメットまたは金属からなり、500〜750℃の温度域における、線熱膨張係数をα
bとするとき、α
c≦α
b≦α
sを満たす下地膜を形成してもよい。
このような下地膜を形成した場合、硫黄酸化物のような腐食性ガスの存在下で搬送用ロールを使用した場合に、セラミックス溶射皮膜を通過した腐食性ガスによるロール母材の腐食を抑制できる。
なお、下地膜の線熱膨張係数α
bは、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cと、ロール母材の線熱膨張係数α
sと、の中間に位置するため、上述したロール母材と、セラミックス溶射皮膜と、の線熱膨張係数の差異に起因するセラミックス溶射皮膜の剥離を抑制する作用をさらに向上させることができる。線熱膨張係数α
bは、前述と同様に押し棒式膨張計を用いて測定することができる。
【0038】
(サーメット)
下地膜をなすサーメットとしては、線熱膨張係数α
bが上記範囲を満たす限り特に限定されず、ガラス搬送用ロールにおける下地膜として公知のサーメットを適宜用いることができる。
例えば炭化クロム系サーメット、硼化物系サーメット、酸化物分散系サーメット等が好適に用いられる。
【0039】
炭化クロム系サーメットは炭化クロムが主体であるセラミックス相と、バインダーとなる金属相とからなる。セラミックス相は主としてCr
3C
2からなるが、不可避不純物としてCr
23C
6、Cr
7C
3等を含有していてもよい。なお、本発明における主体とは、セラミック溶射被膜又はセラミックス層を構成するうえで中心となる化合物を指し、その含有率が50%以上の化合物である。
また、“主としてCr
3C
2からなる”とは、セラミックス相中で、Cr
3C
2を最も多く含むことを意味し、具体的には、セラミックス相全体に対して、50質量%以上、好ましくは、80量%以上含まれることを意味する。ここで金属相はCo、Ni、およびCrから選ばれる2種以上の金属を含む耐熱合金からなる。
炭化クロム系サーメットにおけるセラミックス相の含有率が45〜95質量%で、金属相の含有率が5〜55質量%であることが好ましい。セラミックス相および金属相の割合は、断面写真に基づき、各相の面積率を求め、質量率に換算することにより求めることができる(以下、同様)。
炭化クロム系サーメット溶射皮膜を形成するための原料としては、炭化クロムセラミックスと、バインダーとなる耐熱合金との混合物を焼結し、粉砕整粒して粒子径を30〜150μm程度に調整した粉末を用いることが好ましい。市販の炭化クロム系サーメット溶射材料を用いてもよい。
【0040】
硼化物系サーメットは、MoおよびWの少なくとも一方、Co、Cr及びBを含有する複合硼化物が主体であるセラミックス相と、CoおよびCrを主体とする金属相とからなる。ここで、“複合硼化物が主体であるセラミックス相”とは、セラミックス相中で、複合硼化物を最も多く含むことを意味し、具体的には、セラミックス相全体に対して、50質量%以上、好ましくは、80量%以上含まれることを意味する。
セラミック相を構成する各元素の好ましい含有量は、Mo:60質量%以下、W:74質量%以下、Co:15〜36質量%、Cr:3〜16質量%、B:4〜7質量%であり、MoとWの合計が65質量%以上である。セラミックス相には、これらの各元素のほかに、不可避不純物としてNb、Ta、Vなどが含まれてもよい。
金属相におけるCoとCrの含有量の合計は75質量%以上であることが好ましい。また該金属相における、Cr含有量とCo含有量の質量比(Cr:Co)は1:0.15〜1:0.40であることが好ましい。金属相にはCoおよびCrのほかに、不可避不純物としてTi、Al、Ta、Nbなどが含まれてもよい。
硼化物系サーメットにおけるセラミックス相の好ましい含有率は、40〜80質量%であり、50〜75質量%がより好ましい。金属相の好ましい含有率は、20〜60質量%であり、25〜50質量%がより好ましい。
【0041】
酸化物分散系サーメットは、酸化物が主体であるセラミックス相と、バインダーとなる金属相とからなる。セラミックス相は主としてAl
2O
3からなるが、高温でも溶融しないZrO
2、Cr
2O
3等を含有していてもよい。ここで、“主としてAl
2O
3からなる”とは、セラミックス相中で、Al
2O
3を最も多く含むことを意味し、具体的には、セラミックス相全体に対して、50質量%以上、好ましくは、80量%以上含まれることを意味する。金属相はCo、Ni、およびCrから選ばれる2種以上の金属を含む耐熱合金からなり、例えばNi基合金、Co基合金等が好適に用いられる。Ni基合金としては、例えば約20〜70質量%のCrを含有するCr−Ni合金が挙げられる。Co基合金としては、例えば15〜30質量%のCrと、5〜16%のAlと、0.1〜1質量%のYを含有するCo合金が挙げられる。また公知のMCrAlY合金(MはNi及びCoの少なくとも1種)等を使用することもできる。
酸化物分散系サーメットにおけるセラミックス相の含有率が5〜20質量%で、金属相の含有率が80〜95質量%であることが好ましい。
酸化物分散系サーメット溶射皮膜を形成するための原料としては、粒子径を10〜100μm程度に調整した酸化物と、バインダーとなる耐熱合金を混合して用いることが好ましい。
【0042】
(金属)
下地膜をなす金属としては、線熱膨張係数α
bが上記範囲を満たす限り特に限定されず、ガラス搬送用ロールにおける下地膜として公知の金属材料を適宜用いることができる。
【0043】
下地膜の金属材料としては、例えばNi基合金、Co基合金等が好適に用いられる。Ni基合金としては、例えば約20〜70質量%のCrを含有するCr−Ni合金が挙げられる。Co基合金としては、例えば15〜30質量%のCrと、5〜16質量%のAlと、0.1〜1質量%のYを含有するCo合金が挙げられる。また公知のコバルト基合金であるステライト合金やトリバロイ合金等を使用することもできる。
【0044】
下地膜の構成材料としては、ロール母材との密着力が高い点でサーメットがより好ましい。
【0045】
上記の下地膜は、プラズマ溶射、高速フレーム溶射などの公知の溶射法で形成できる。但し、高い溶融温度が実現でき、溶射粒子を半溶融状態にすることができるという点で、プラズマ溶射により形成することが好ましい。
下地膜の形成に用いる原料は粉末原料が好ましい、粉末原料は、予め混合、造粒、焼結、粉砕、分級などを行い造粒焼結粉や焼結粉砕粉として、溶射に用いることが好ましい。
【0046】
下地膜の厚さは30〜150μmが好ましく、50〜80μmがより好ましい。下地膜の厚さが上記範囲であるとセラミックス溶射皮膜の密着力が得られやすい。
また、ロール母材と、セラミックス溶射皮膜と、の間に、下地膜を形成する場合、下地膜とセラミックス溶射皮膜の厚みの合計が100〜500μmであることが好ましい。
【0047】
本発明の一態様における下地膜は、断面画像解析法による気孔率が0.5〜5%であることが好ましい。下地膜の気孔率が上記の範囲であれば、硫黄酸化物のような腐食性ガスの存在下で搬送用ロールを使用した場合に、セラミックス溶射皮膜を通過した腐食性ガスによるロール母材の腐食を比較的長期にわたって抑制できる。
【0048】
ロール母材と、セラミックス溶射皮膜と、下地膜を形成する場合、下地膜の形成に先立って、ロール母材の表面を粗化するブラスト処理を行うことが好ましい。ブラスト処理後のロール母材の表面粗さ(JIS B0601:2001に規定される算術平均高さRa、以下同様。)は2.0〜5.0μmが好ましい。
【0049】
<板ガラスの製造方法>
本発明の一態様の板ガラスの製造方法は、建築用板ガラス、自動車ガラス、ディスプレイ用板ガラスなどの公知の種々の製造方法や、ガラスの組成によらず利用できる。例えば、板ガラスの製造方法は一般に、原材料を溶解して溶融ガラスを得る溶融工程と、溶融ガラスを成形する成形工程と、成形後のガラスを移動させながら徐々に冷却して応力を除去する徐冷工程と、そのガラスを切断する切断工程と、を有する。上記成形工程は、フロート法、ロールアウト法、ダウンドロー法、フュージョン法など種々のものがある。本発明の搬送用ロールは、上記工程中の搬送を目的とする工程中であればどこでも利用することができ、おもに成形工程以降の各工程内および各工程間での高温、好ましくは550〜750℃の雰囲気下にあるガラスリボンならびに切断後の板ガラスの搬送に利用する。
【0050】
さらに、前述の切断工程後に物理強化工程を含む場合では、上記切断後の板ガラスを搬送用ロールを用いて移動し、強化炉で軟化点以上に加熱後に冷却空気で急冷、または必要に応じて軟化点以上に加熱後に成形をした板ガラスを冷却空気で急冷する。急冷は通常、ガラス表面に対向させた複数のノズルから冷却空気を吹き付けることによって行う。これによって、ガラスの表面に圧縮性の残留応力が付与され、いわゆる物理強化法あるいは風冷強化法による強化板ガラスになる。上記物理強化工程は、前記の切断工程と連続していてもよいし、板ガラスを貯蔵後に板ガラスを取り出し、必要に応じて切断後に行ってもよい。本発明の搬送用ロールは、上記工程中の搬送を目的とするところであればどこでも利用することができる。
板ガラスの製造方法において物理強化工程以外に、イオン交換によって化学的にガラス表面に圧縮応力を付与するいわゆる化学強化工程がある。本発明の一態様の搬送用ロールは、この化学強化工程中の搬送を目的とするところでも利用することができる。
以上の本発明のガラス搬送用ロールを用いた板ガラスの製造方法によって、高品質の板ガラスを提供することができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を用いて本発明の一態様における搬送用ロールと搬送用ロールの製造方法をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、18質量%程度のCrを含有するステンレス(SUS430相当、高温用)からなるロール母材を用意した。このロール母材の500〜750℃の温度域における線熱膨張係数α
sは、12×10
-6/℃である。ロール母材の形状は、後述する試験に用いるために便宜上、外径150mm×厚み20mmの円板状とし、ロール外周面の半径方向断面は外方に凸状の曲面とし、該曲面の曲率半径は50mmとした。
ロール母材の線熱膨張係数は前述の押し棒式膨張計を用いて測定した。
次に、ロール母材の外周面に対して、平均粒子径300μm程度のアルミナ粒子を用いてブラスト処理を施し、表面粗さ(Ra)を3.0μmとした。表面粗さは、表面粗さ・輪郭形状測定器(東京精密社製SURFCOM130A)にて測定した。
ブラスト処理後、プラズマ溶射法によりAl
2O
3−CoNiCrAlYからなる下地膜を形成した。溶射原料として、粒子径50〜150μmの粉末を用いた。得られた下地膜の膜厚は80μmであった。
【0052】
500〜750℃の温度域における下地膜の線熱膨張係数α
bを下記手順で測定する。
カーボン製平板の表面に膜厚1mmの溶射皮膜を成膜させた後、皮膜のみを機械的に剥がしとり、押し棒式膨張計を用いてアルゴン雰囲気で測定する。
下地膜の線熱膨張係数α
bは12×10
-6/℃である。
【0053】
次に、下地膜上に、プラズマ溶射法により、セラミックス溶射皮膜を形成した。溶射原料として、イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)に、フッ化イットリウムを7wt.%添加した、粒子径10〜60μmの粉末を用いた。得られたセラミックス溶射皮膜の膜厚は400μm、表面粗さ(Ra)は2.0μm、気孔率は8%であった。
続いて、セラミックス溶射皮膜の表面を手研磨にて研磨した。研磨後のセラミックス溶射皮膜の膜厚は300μm、表面粗さ(Ra)は0.5μm、気孔率は8%であった。
【0054】
次いで、研磨後のセラミックス溶射皮膜上にシリカ前駆体溶液を塗布し、セラミックス溶射皮膜の気孔にシリカ前駆体溶液を含浸させた。シリカ前駆体溶液としては、溶射皮膜の気孔に含浸しやすく、大気中の酸素および水分と容易に反応して非晶質シリカを形成するポリシラザン系のパーヒドロポリシラザンのキシレン溶液(パーヒドロポリシラザンの含有量:10質量%)を用いた。塗布方法としては刷毛を用いて塗りこむことによって行った。塗布方法は噴霧、ロールコート、液浸漬などの方法を用いても同様の結果を得ることができる。塗布は溶液がセラミックス溶射皮膜に十分に染込み、溶液のセラミックス溶射皮膜上への残存が目視で確認されるまで行い、塗布量の制御はこの目視観察によって行なった。
塗布後、ワイピングクロスを用いてセラミックス溶射皮膜の表面上のシリカ前駆体溶液を拭き取り、セラミックス溶射皮膜の表面上におけるシリカ前駆体溶液の残渣膜厚を1μm以下とした。これらの作業は、温度を5〜35℃、相対湿度を35〜60%の大気環境で実施した。この後、室温大気中で24時間保持してシリカ前駆体溶液を硬化させることにより、セラミックス溶射皮膜の気孔が封孔処理された溶射皮膜を得た。封孔処理後の気孔率は1%以下であった。
なお、温度100℃の大気中で1時間保持することによっても、室温大気中24時間保持の場合と同様の結果を得ている。
【0055】
500〜750℃の温度域におけるセラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
c、および、常温から750℃までの熱膨張による伸びを下記手順で評価した。
イットリア安定化ジルコニア(3YSZ)に、フッ化イットリウムを規定の比率で混合し、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)法を用いて、φ20mm長さ20mmの焼結体を作製した。リガク製熱機械分析装置(TMA)にて焼結体の20〜750℃の温度域における線熱膨張係数を測定し、500〜750℃の温度域における線熱膨張係数α
cを求めた。また、この線熱膨張係数測定時における熱膨張による伸びを、常温から750℃までの熱膨張による伸びとした。
セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは12×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.9%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は0×10
-6/℃である。
【0056】
(実施例2)
セラミックス溶射皮膜の原料に粒子径10〜60μmのイットリア安定化ジルコニア(8YSZ)粉末を用いた以外は、実施例1と同様の手順を実施した。
封孔処理後のセラミックス溶射皮膜の気孔率は1%であった。
また、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は2×10
-6/℃であった。
(実施例3)
溶射原料として、マグネシア(MgO)に、ジルコニア(ZrO
2)を12.5wt.%、シリカ(SiO
2)を6.5wt.%の比率で混合した焼結、粉砕した、粒子径10〜60μmの焼結粉砕粉を用い、封孔処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の手順を実施した。
封孔処理を行わなかったセラミックス溶射皮膜の気孔率は8%であった。
また、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは12×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.9%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)はなかった(0×10
-6/℃)。
【0057】
(比較例1)
比較例は全て、25質量%程度のCrを含有するステンレス(SUS310相当、高温用)からなるロール母材を使用した。このロール母材の500〜750℃の温度域における線熱膨張係数α
sは、17×10
-6/℃である。
また、比較例は全て、セラミックス溶射皮膜の原料にフッ化イットリウムを添加していない、粒子径10〜60μmのイットリア安定化ジルコニア(8YSZ)の粉末を使用した。
研磨後のセラミックス溶射皮膜の気孔率が8%であり、封孔処理後のセラミックス溶射皮膜の気孔率は1%であった。
また、セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は7×10
-6/℃であった。
【0058】
(比較例2)
研磨後のセラミックス溶射皮膜の気孔率が2%であり、封孔処理後のセラミックス溶射皮膜の気孔率は1%である点以外は比較例1と同様である。
セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は7×10
-6/℃であった。
【0059】
(比較例3)
研磨後のセラミックス溶射皮膜を封孔処理しなかった以外は、比較例1と同様である。
セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は7×10
-6/℃であった。
【0060】
(比較例4)
研磨後のセラミックス溶射皮膜を封孔処理しなかった以外は、比較例2と同様である。
セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は7×10
-6/℃であった。
【0061】
(比較例5)
封孔処理後のセラミックス溶射皮膜の表面を手研磨にて20μm研磨した以外は比較例1と同様である。研磨後のセラミックス溶射皮膜の表面粗さ(Ra)は0.5μm、気孔率は1%であった。
セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は7×10
-6/℃であった。
【0062】
(比較例6)
封孔処理後のセラミックス溶射皮膜の表面を手研磨にて200μm研磨した以外は比較例1と同様である。研磨後のセラミックス溶射皮膜の表面粗さ(Ra)は0.5μm、気孔率は1%であった。
セラミックス溶射皮膜の線熱膨張係数α
cは10×10
-6/℃であり、常温から750℃までの熱膨張による伸びは0.75%であった。
セラミックス溶射皮膜と、ロール母材と、の線熱膨張係数α
c,α
sの差(α
s−α
c)は7×10
-6/℃であった。
【0063】
(粒子の付着性の評価)
以上のサンプルに基づいてガラス搬送用ロールの性能を評価するため、下記の方法で、高温におけるガラス板への粒子の付着性を評価した。
図1は該評価に用いた試験装置を説明するための概略図である。この試験装置はロール・オン・ディスク型転動摩擦試験機(以下、単に試験機ということもある。)1(高千穂精機社製)と電気炉(図示略)とを組み合わせて構成されている。
ロール・オン・ディスク型転動摩擦試験機1は、周方向に回転する円板状のガラス板2の上面に、ガラス搬送用ロール(以下、単にロールということもある。)3の周面が接触するように設けられている。ロール3は周方向に回動自在であり、回転軸方向がガラス板2の径方向と同じであり、かつ回転軸方向に進退可能に設けられている。
該試験機1において、ガラス板2の上面とロール3の周面とを接触させ、ロール3に対して、ロール3の中心からガラス板2へ向かう方向に一定の荷重をかけた状態で、ガラス板2を回転させると、その回転に伴ってロール3がガラス板2上を転がるように回転する。そしてガラス板2を回転させつつ、ロール3をその回転軸方向にガラス板2の中心に向かって前進させることにより、ロール3はガラス板2上面に螺旋状の摩擦痕を描きながら転がる。また上記実施例および比較例ではロールの外周面を、外方に凸状の曲面としたため、ガラス板2の上面とロール3の周面との接触は点接触となり、摩擦痕は線状となる。
試験機1は電気炉内に収容されており試験機1の雰囲気温度が所定の温度に制御されるようになっている。
【0064】
試験条件は、雰囲気温度600℃、ロール3に対する荷重500gf、ガラス板2の半径90mm、ガラス板2の回転速度0.5rps、摩擦痕の幅(ガラス板2とロール3との点接触直径に相当する)0.12mm、ガラス板2の径方向における摩擦痕の間隔(摩擦痕の幅方向の中心間距離)0.125mmとした。
まず、ガラス板2とロール3を試験機1にセットした。ガラス板2とロール3とが接触しない状態として、電気炉内の温度を600℃に昇温した。600℃で30分保持後、ガラス板2およびロール3の温度が充分に均一になったところで、ガラス板2の上面の端縁にロール3の周面を接触させ、ロール3に所定の荷重をかけた状態で、ガラス板2の回転とロール3の軸方向への前進(軸送り)を同時に開始した。ロール3の軸送り速度は、摩擦痕の間隔が所定の値となるように設定する。ロール3がガラス板2の中心に達したら両者の接触を解除し、ガラス板2の回転を止めた。そしてガラス板2が割れないように電気炉内の温度を徐々に降下させ、室温まで下げてからガラス板2を取り出した。
【0065】
こうして得たガラス板2の上面にどの程度のZrO
2粒子が付着しているかを、以下の方法で評価した。
得られたガラス板2の上面において、端縁から中心に向かう径方向に沿って、10mm間隔で観察点を決めた。ガラス板2から、該観察点の全部を含む適宜の大きさのガラス板片を切り出し、その上面をカーボンコートした。この後、電子顕微鏡により各観察点を中心とする反射電子像を一定倍率でそれぞれ撮影し、各撮影像(観察領域)中に存在するZrO
2粒子の面積と撮影像の全面積に基づき、下式(1)により各観察領域における粒子付着率を算出した。
粒子付着率(%)=(ZrO
2粒子の面積合計/撮影像の全面積)×100…(1)
【0066】
このようにして、実施例1〜4および比較例1〜6で得られたガラス搬送用ロールについて、ガラス板へのZrO
2粒子の付着率を測定した結果を
図2に示す。
図2において、横軸はガラス板2の端縁(外周)から各観察点までの距離を示し、縦軸はガラス板への粒子付着率(単位:%)を示す。
【0067】
図2のグラフに示されるように、比較例1〜6のガラス搬送用ロールは、ロールからガラス板へのZrO
2粒子の付着が多く生じたのに対して、実施例1と2のガラス搬送用ロールは、かかる粒子の付着率がほぼ0%、実施例3と4も付着率は0.05%以下であり、付着が良好に抑えられた。比較例5と6は封孔処理後に研磨を行ったため、皮膜表面の研磨屑や加工応力による皮膜中のクラックにより異物が付着した。
【0068】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2013年6月18日出願の日本特許出願2013−127591に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。