(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願明細書において、「亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含み、Zn/(Zn+Si)の原子数比が0.30〜0.95である非晶質金属酸化物」を、単に「非晶質金属酸化物」とも称する。
【0020】
また、「亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含み、Zn/(Zn+Si)の原子数比が0.30〜0.95である非晶質金属酸化物の薄膜」を「非晶質金属酸化物の薄膜」とも称する。
【0021】
(非晶質金属酸化物の薄膜)
本発明の一実施例では、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含み、Zn/(Zn+Si)の原子数比が0.30〜0.95である非晶質金属酸化物の薄膜が提供される。
【0022】
本発明の一実施例では、非晶質金属酸化物の薄膜において、Zn/(Zn+Si)の原子数比が0.30以上となっている。このため、十分に大きな電子移動度が得られ、有機デバイスの駆動電圧の上昇が抑えられる。
【0023】
非晶質金属酸化物の薄膜において、Zn/(Zn+Si)の原子数比は、0.70〜0.94であってもよく、0.80〜0.92であってもよく、0.85〜0.90であってもよい。
【0024】
非晶質金属酸化物は、xZnO−(1−x)SiO
2(x=0.30〜0.95)で表わされる化学組成で表わされることが好ましい。xは0.70〜0.94であってもよく、0.80〜0.92であってもよく、0.85〜0.90であってもよい。非晶質金属酸化物は、複合酸化物の形態であることが好ましい。
【0025】
非晶質金属酸化物の薄膜は、実質的にZnOおよびSiO
2からなることが好ましい。ただし、非晶質金属酸化物の薄膜は、さらに、スズ(Sn)、チタン(Ti)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、およびアルミニム(Al)からなる群から選択される一以上のその他の金属成分を含んでもよい。その他の金属成分の含有量は、酸化物換算で、ZnO、SiO
2、およびその他の金属成分の酸化物の合計100mol%に対して、好ましくは15mol%以下であり、より好ましくは10mol%以下であり、さらに好ましくは5mol%以下である。なお、酸化物換算時には、SnO
2、TiO
2、In
2O
3、Ga
2O
3、Nb
2O
5、または、Al
2O
3として算出することとする。
【0026】
非晶質金属酸化物の薄膜の組成は、膜厚が200nm以上の場合は、EPMAを用いて基板補正を行うことにより、分析することができる。また、非晶質金属酸化物の薄膜の組成は、膜厚が700nm以上の場合は、SEM−EDXを用いて、10kVの加速電圧で分析することができる。また、XRFを用いて基板補正を行うことでも、分析することができる。また、ICPを使用する場合、非晶質金属酸化物の薄膜は、1mm
3以上の体積を使用することにより、分析することができる。
【0027】
非晶質金属酸化物の薄膜は、X線回折において明確なピークが認められず、下記式(1)で表されるシェラーの式で求められる結晶子径(シェラー径)が5.2nm以下であるという特徴を有する。ZnO(ウルツ型)の格子定数はa=0.33nm、c=0.52nmであるので、これは、結晶子における原子の配列が16列以下である状態を意味する。シェラー径Lはシェラー定数をK、X線波長をλ、半値幅をβ、ピーク位置をθとすると、
L=Kλ/(βcosθ) 式(1)
で表される。シェラー定数Kは0.9である。X線波長λは0.154nmである。
【0028】
非晶質金属酸化物の薄膜は、平坦性に優れた膜である。平坦性は原子間力顕微鏡(AFM)によって測定することができ、本発明においては、20μm平方の測定範囲において自乗平均面粗さ(RMS)が10nm以下であることが好ましい。5nm以下がより好ましく、2nm以下がさらに好ましい。このような平坦度であることによって、化学機械研磨(CMP)工程を省略することができる。20μm平方の測定範囲におけるRMS粗さが10nmより大きい場合、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子のボトム電極とトップ電極が局所的に近くなり、電気的に短絡しやすくなるため好ましくない。
【0029】
非晶質金属酸化物の薄膜の電子移動度は、10
−4cm
2・V
−1s
−1〜10
2cm
2・V
−1s
−1であってもよく、10
−3cm
2・V
−1s
−1〜10
2cm
2・V
−1s
−1であってもよく、10
−2cm
2・V
−1s
−1〜10
2cm
2・V
−1s
−1であってもよい。
【0030】
非晶質金属酸化物の薄膜の電子密度は、1×10
18cm
−3〜1×10
21cm
−3であってもよく、5×10
18cm
−3〜5×10
20cm
−3であってもよく、1×10
19cm
−3〜1×10
20cm
−3であってもよい。
【0031】
このような電子移動度および電子密度を有する非晶質金属酸化物の薄膜は、導電性が高く、電子輸送性が高い。そのため、電子輸送性膜として好適である。
【0032】
非晶質金属酸化物の薄膜の電子移動度は、ホール測定法またはタイムオブフライト(Time−of−Flight(TOF))法等により、求めることができる。非晶質金属酸化物の薄膜の電子密度は、ヨウ素滴定法またはホール測定法等により求めることができる。
【0033】
非晶質金属酸化物の薄膜の電子親和力は、2.0eV〜4.0eVであってもよく、2.2eV〜3.5eVであってもよく、2.5eV〜3.0eVであってもよい。電子親和力が2.0eV以上であると、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子の層部材として用いたときに、非晶質金属酸化物の薄膜の電子注入特性が良好になり、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率が向上する。また、電子親和力が4.0eV以下であると、有機エレクトロルミネッセンス素子から十分な発光が得られ易い。このように、非晶質金属酸化物の薄膜は、電子注入性を有する電子輸送性膜としても好適である。
【0034】
非晶質金属酸化物のイオン化ポテンシャルは、5.5eV〜8.5eVであってもよく、5.7eV〜7.5eVであってもよく、5.9eV〜7.0eVであってもよい。このように大きいイオン化ポテンシャルを有する非晶質金属酸化物の薄膜は、ホールブロック効果が高く、電子のみを選択的に輸送することができる。そのため、非晶質金属酸化物の薄膜は、ホールブロック性を有する電子輸送性膜としても好適である。
【0035】
非晶質金属酸化物の薄膜の厚さは、これに限られるものではないが、10μm以下であってもよく、2μm以下であってもよい。1nm以上であってもよい。
【0036】
非晶質金属酸化物の薄膜の屈折率は、1.50〜2.00であってもよく、1.60〜1.95であってもよく、1.70〜1.90であってもよい。有機物層は、一般に、1.6〜1.8の屈折率を有しており、非晶質金属酸化物の薄膜との屈折率差が小さいため、非晶質金属酸化物の薄膜と有機物層の界面における全反射による損失が少ないという効果が得られる。
【0037】
非晶質金属酸化物の薄膜は、単独で提供されても、基板上に形成された状態で提供されてもよい。後者の場合、基板の材質は、特に限られない。基板は、例えばガラスのような、700℃を超える高温であまり良好な耐熱性を有さない材料で構成されてもよい。
【0038】
非晶質金属酸化物の薄膜は、亜鉛(Zn)およびケイ素(Si)を含むターゲットを用いて、気相蒸着法により、基板上に成膜を行うことにより、形成することができる。
【0039】
本願において、「気相蒸着法」とは、物理気相成膜(PVD)法、PLD法、スパッタリング法、および真空蒸着法を含む、ターゲット原料を気化させてからこの原料を基板上に堆積させる成膜方法の総称を意味する。
【0040】
スパッタリング法には、DC(直流)スパッタリング法、高周波スパッタリング法、ヘリコン波スパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、およびマグネトロンスパッタリング法等が含まれる。スパッタリング法では、大面積領域に、比較的均一に薄膜を成膜することができる。
【0041】
ターゲットは、ZnおよびSiを含むものであればよい。ZnおよびSiは、単独のターゲットに含まれていてもよく、複数のターゲットに別々に含まれていてもよい。ターゲットにおいて、ZnおよびSiは、それぞれ金属または金属酸化物として存在してもよく、合金または複合金属酸化物として存在してもよい。金属酸化物または複合金属酸化物は、結晶であってもよく、非晶質であってもよい。
【0042】
ターゲットは、ZnおよびSiのほかに、Sn、Ti、In、Ga、Nb、およびAlからなる群から選択される一以上のその他の金属成分を含んでもよい。Zn、Siおよびその他の金属成分は、単独のターゲットに含まれていてもよく、複数のターゲットに別々に含まれていてもよい。ターゲットにおいて、Zn、Siおよびその他の金属成分は、それぞれ金属または金属酸化物として存在してもよく、2種以上の金属の合金または複合金属酸化物として存在してもよい。金属酸化物または複合金属酸化物は、結晶であってもよく、非晶質であってもよい。
【0043】
ターゲットの相対密度は90%以上が好ましい。
【0044】
単独のターゲットを用いる場合、ターゲットにおけるZn/(Zn+Si)の原子数比は、0.30〜0.95であってもよく、0.70〜0.94であってもよく、0.80〜0.92であってもよく、0.85〜0.90であってもよい。単独のターゲットが、ZnおよびSiのほかに、Sn、Ti、In、Ga、Nb、およびAlからなる群から選択される一以上のその他の金属成分を含む場合、その他の金属成分の含有量は、酸化物換算で、ZnO、SiO
2およびその他の金属成分の酸化物の合計100mol%に対して、好ましくは15mol%以下であり、より好ましくは10mol%以下であり、さらに好ましくは5mol%以下である。なお、酸化物換算時には、SnO
2、TiO
2、In
2O
3、Ga
2O
3、Nb
2O
5、または、Al
2O
3として算出することとする。ターゲットの組成分析は、XRF法等により行うことができる。なお、形成される非晶質金属酸化物の薄膜における組成は、用いたターゲットの組成比と異なることがある。
【0045】
複数のターゲットを用いる場合、例えば、金属SiのターゲットとZnOのターゲットを同時にスパッタすることで、本発明の非晶質金属酸化物の薄膜を得ることができる。その他の複数のターゲットの組み合わせとしては、ZnOのターゲットとSiO
2のターゲットの組み合わせ、ZnOおよびSiO
2を含み、ZnO比率の異なる複数のターゲットの組み合わせ、金属Znのターゲットと金属Siのターゲットの組み合わせ、金属ZnのターゲットとSiO
2のターゲットの組み合わせ、金属Znまたは金属Siを含むターゲットとZnOおよびSiO
2を含むターゲットの組み合わせなどが挙げられる。
【0046】
複数のターゲットを同時に用いる場合、それぞれのターゲットに印加する電力を調節することで所望の組成を有する非晶質金属酸化物の薄膜を得ることができる。
【0047】
非晶質金属酸化物の薄膜を成膜する際の被成膜基板は、「積極的に」は加熱しない。例えば、被成膜基板設置部付近をヒーターなどで加熱しない。被成膜基板の温度が上昇することで、非晶質金属酸化物の薄膜が得られにくくなるためである。ただし、イオン衝撃などによるスパッタ成膜そのものによって、被成膜基板は「付随的に」加熱されうる。この場合、どの程度被成膜基板の温度が上昇するかは、スパッタ成膜の条件に依存する。被成膜基板の温度上昇を避けるため、被成膜基板を「積極的に」冷却してもよい。被成膜基板の温度は70℃以下で成膜を行うことが好ましい。60℃以下であってもよく、50℃以下であってもよい。基板温度はスパッタ装置のチャンバー内の基板に熱電対の先端を押し当てることで測定できる。
【0048】
被成膜基板を「積極的に」加熱しない場合、基板の材料として、例えばガラスやプラスチックのような、700℃を超える高温側で耐熱性が低下する材料を使用することが可能になる。
【0049】
スパッタリングガスの圧力(スパッタ装置のチャンバー内の圧力)は0.05Pa〜10Paの範囲が好ましく、0.1Pa〜5Paがより好ましく、0.2Pa〜3Paがさらに好ましい。この範囲であれば、スパッタリングガスの圧力が低すぎることがないため、プラズマが安定になる。また、スパッタリングガスの圧力が高すぎることがないため、イオン衝撃が増えることによる被成膜基板の温度上昇を抑制することができる。
【0050】
ターゲットと被成膜基板の間隔(T−S距離)は、2cm〜20cmが好ましく、3cm〜15cmがより好ましく、5cm〜12cmがさらに好ましい。この範囲であれば、T−S距離が小さすぎることがないため、被成膜基板の温度上昇を抑制でき、さらに厚さが均一な薄膜が得られやすい。また、T−S距離が大きすぎることがないため、十分な成膜レートを得ることができ、生産効率を低下させにくい。
【0051】
使用されるスパッタリングガスは、特に限られない。スパッタリングガスは、不活性ガスまたは希ガスであってもよい。酸素を含有してもよい。不活性ガスとしては、例えば、N
2ガスが挙げられる。また、希ガスとしては、He(ヘリウム)、Ne(ネオン)、Ar(アルゴン)、Kr(クリプトン)、およびXe(キセノン)が挙げられる。これらは、単独で使用しても、他のガスと併用してもよい。あるいは、スパッタリングガスは、NO(一酸化窒素)やCO(一酸化炭素)のような還元性ガスであってもよい。
【0052】
本発明の一実施例による非晶質金属酸化物の薄膜は、有機エレクトロルミネッセンス素子や有機太陽電池などの有機デバイス用の層部材等に適用することができる。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子や有機太陽電池において電子輸送性が求められる層、具体的には電子輸送層、電子注入層、およびホールブロック層からなる群から選択される一以上の層に適用した場合、有機デバイスの特性をよりいっそう高めることが可能となる。例えば、良好な安定性を有し、高い信頼性を有する有機デバイスを提供することができる。また、有機エレクトロルミネッセンス素子の場合は、発光効率を高めることが可能になる。また、有機太陽電池の場合は、変換効率を高めることが可能になる。前述の有機太陽電池の場合は、無機太陽電池を含む太陽電池の場合にも、変換効率を高めることが可能になる。
【0053】
(有機エレクトロルミネッセンス素子)
本発明の一実施例による非晶質金属酸化物の薄膜は、有機エレクトロルミネッセンス素子の層部材として用いることができる。本発明の一実施例による有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極である陽極および陰極と、これらの陽極と陰極の間に配置された発光層とを有し、発光層と陰極の間には、「非晶質金属酸化物の薄膜」が配置される。この「非晶質金属酸化物の薄膜」は、電子輸送層、電子注入層、およびホールブロック層から選ばれる一以上の層として配置されればよい。
【0054】
すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、
非晶質金属酸化物の薄膜が電子輸送層として配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が電子注入層として配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜がホールブロック層として配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が電子輸送層と電子注入層とを兼ねて配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が電子輸送層とホールブロック層とを兼ねて配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が電子輸送層と電子注入層とホールブロック層とを兼ねて配置された構造;のいずれかであってよい。
【0055】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に発光層を有し、発光層と陰極の間に、
非晶質金属酸化物の薄膜が陰極に接して配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が発光層に接して配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が陰極および発光層に接して配置された構造;
非晶質金属酸化物の薄膜が陰極と発光層のいずれにも接せずに配置された構造;
のいずれかであってよい。非晶質金属酸化物の薄膜が発光層に接して配置される場合、非晶質金属酸化物の薄膜は発光層との屈折率差が小さいため、非晶質金属酸化物の薄膜と発光層の界面における全反射による損失が少ないという効果が得られる。
【0056】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成としては、例えば下記(a)〜(j)が挙げられる。
(a)陰極\非晶質金属酸化物の薄膜\発光層\陽極
(b)陰極\電子注入層\非晶質金属酸化物の薄膜\発光層\陽極
(c)陰極\電子注入層\非晶質金属酸化物の薄膜\ホールブロック層\発光層\陽極
(d)陰極\非晶質金属酸化物の薄膜\ホールブロック層\発光層\陽極
(e)陰極\非晶質金属酸化物の薄膜\電子輸送層\発光層\陽極
(f)陰極\非晶質金属酸化物の薄膜\電子輸送層\ホールブロック層\発光層\陽極
(g)陰極\電子輸送層\非晶質金属酸化物の薄膜\発光層\陽極
(h)陰極\電子注入層\電子輸送層\非晶質金属酸化物の薄膜\発光層\陽極
(i)陰極\非晶質金属酸化物の薄膜\電子注入層\発光層\陽極
(j)陰極\非晶質金属酸化物の薄膜\電子注入層\ホールブロック層\発光層\陽極
なお、上記の素子構成は例示であり、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成はこれに限定されるものではない。また、陽極と発光層との間には、陽極側から順に、ホール注入層、ホール輸送層、および電子ブロック層からなる群から選択される一以上の層が設けられていてもよい。
【0057】
以下、図面を参照して、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」とも称する)の一実施例について説明する。
図1には、本発明の一実施例による有機EL素子の概略的な断面図を示す。
図1は、上記(c)の素子構成において、さらにホール注入層、ホール輸送層、および電子ブロック層を有する例を示している。
【0058】
図1に示すように、本発明の一実施例による有機エレクトロルミネッセンス素子100は、基板110上に、陰極120、電子注入層130、電子輸送層140、ホールブロック層145、発光層150、電子ブロック層155、ホール輸送層160、ホール注入層170、および陽極180をこの順に積層することにより構成される。
【0059】
ただし、ホール注入層170、ホール輸送層160、電子ブロック層155、ホールブロック層145、および電子注入層130からなる群から選択される一以上の層は、省略されてもよい。
【0060】
本発明の一実施例による有機EL素子100では、電子輸送層140が「非晶質金属酸化物の薄膜」で構成されるという特徴を有する。
【0061】
通常の場合、電子輸送層140は、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)のような有機物で構成される。しかしながら、Alq3のような有機物は比較的電子移動度が低く、導電性が悪い。そのため、この材料を電子輸送層として使用するには、十分な電子輸送性を確保するために、層の厚さを薄くする必要がある。しかしながら、膜厚を薄くすると、前述の金属電極表面におけるエバネッセント光(近接場光)と表面プラズモンによる光損失が生じる。このプラズモンによる損失は、発光部と電極の間隔が近いほど大きく、間隔が30nmでは70%程度、50nmでは30%程度損失する。つまり、発光部と金属電極の間隔が30nmの場合、発光部で発生した光の70%はプラズモンによって吸収されてしまうことを意味している。また、膜厚を薄くすると、層状の薄膜を得ることが難しくなるおそれがある。一方、膜厚を厚くすると、十分な導電性が得られず、電子輸送性が不十分になったり、有機EL素子の発光に必要な電圧が増加したりするおそれがある。
【0062】
また、Alq3のような有機物は、比較的安定性が悪く、大気に触れると容易に劣化してしまう問題がある。このため、Alq3製の電子輸送層のハンドリングは、制御された環境下で実施する必要があり、その結果、製造プロセスが煩雑となるおそれがある。
【0063】
また、Alq3のような有機物は、比較的ホールの移動度が高いという性質がある。このため、Alq3製の電子輸送層を使用すると、発光層150で電子と再結合しなかったホールが電子輸送層140を通過し陰極120に到達してしまい、発光効率が低下するおそれがある。
【0064】
このように、電子輸送層に十分な導電性が得られなかった場合、電子輸送層に劣化が生じた場合、またはホールが電子輸送層を通過してしまった場合、有機エレクトロルミネッセンス素子に所望の発光特性が得られなくなったり、有機エレクトロルミネッセンス素子の信頼性が低下したりする可能性がある。
【0065】
これに対して、本発明の一実施例による有機EL素子100では、電子輸送層140として非晶質金属酸化物の薄膜が配置される。非晶質金属酸化物の薄膜は、良好な導電性を有する。従って、電子輸送層140として非晶質金属酸化物の薄膜を使用した場合、従来のAlq3のように、層の厚さを50nm程度にする必要はなくなる。
【0066】
また、非晶質金属酸化物の薄膜は、安定な無機材料で構成されるため、空気に触れても変質したり、劣化したりすることがない。従って、従来のAlq3製の電子輸送層のように、制御された環境化でハンドリングを行わなければならず、製造プロセスが煩雑になるという問題が解消される。
【0067】
さらに、非晶質金属酸化物の薄膜は、陰極120から発光層150への電子注入障壁を緩和させるのに良好な電子親和力を有する。そのため、本発明では、発光効率の高い有機EL素子を得ることができる。
【0068】
加えて、非晶質金属酸化物の薄膜は、イオン化ポテンシャルが大きいという特徴を有する。従って、非晶質金属酸化物の薄膜はいわゆるホールブロック効果を有する。すなわち、発光層150で電子と再結合しなかったホールが電子輸送層140を通過し陰極120に到達することを防ぎ、電子とホールの再結合確率が高くなる。そのため、本発明では、発光効率の高い有機EL素子を得ることができる。
【0069】
電子輸送層140として非晶質金属酸化物の薄膜が配置されることにより、ハンドリングが容易で、信頼性の高い有機EL素子を提供することが可能になる。
【0070】
次に、
図1に示した有機EL素子100を構成する各層の構成について、より詳しく説明する。
【0071】
(基板110)
基板110は、上部に有機EL素子100を構成する各層を支持する役割を有する。基板110の材質は特に限られない。
図1において、有機EL素子100の光取り出し面を下側(すなわち基板110側)とする場合、基板110は、透明な材料で構成される。例えば、基板110として、ガラス基板またはプラスチック基板等が使用される。
【0072】
(陰極120)
陰極120は、通常、金属で構成される。なお、有機EL素子100の光取り出し面を下側(すなわち基板110側)とする場合、陰極120は、透明な材料で構成される。陰極120として、例えばITO(インジウムスズ酸化物)のような透明金属酸化物薄膜が使用される。
【0073】
陰極120は、例えば、アルミニウム、銀、金、マグネシウム、カルシウム、チタニウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、イッテルビウム、ルテニウム、マンガン、モリブデン、バナジウム、クロム、タンタル、または、前述の金属の合金のような金属材料であってもよい。あるいは、陰極120は、例えば、ITO、アンチモン酸化物(Sb
2O
3)、ジルコニウム酸化物(ZrO
2)、スズ酸化物(SnO
2)、亜鉛酸化物(ZnO)、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(ZnO−Al
2O
3:アルミニウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、GZO(ZnO−Ga
2O
3:ガリウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、NbドープTiO
2、TaドープTiO
2、およびIWZO(In
2O
3−WO
3−ZnO:三酸化タングステンおよび酸化亜鉛がドーピングされたインジウム酸化物)等の金属酸化物であってもよい。
【0074】
陰極120の成膜方法は、特に限られない。陰極120は、蒸着法(真空蒸着法、電子ビーム蒸着法)、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法およびスパッタリング法等により、成膜してもよい。
【0075】
典型的には、陰極120の厚さは、50nm〜150nmの範囲である。透明電極として金属材料を使用する場合の陰極120の厚さは、2nm〜50nmの範囲であるのが好ましい。
【0076】
(電子注入層130)
電子注入層130は、電子注入性を有する材料から選定される。電子注入層130は、フッ化リチウム、炭酸セシウム、塩化ナトリウム、フッ化セシウム、酸化リチウム、酸化バリウム、炭酸バリウム、および8−キノリノラトリチウムからなる群から選ばれる一以上であってもよい。
【0077】
電子注入層130は、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜により形成されてもよい。
【0078】
ここで、「非晶質酸化物のエレクトライド」とは、カルシウム原子、アルミニウム原子および酸素原子から構成される非晶質を溶媒とし、電子を溶質とする溶媒和からなる非晶質固体物質を意味する。非晶質酸化物中の電子は、陰イオンとして働く。電子はバイポーラロンとして存在してもよい。「非晶質酸化物のエレクトライド」の薄膜におけるアルミニウム原子とカルシウム原子のモル比(Ca/Al)は、0.3〜5.0の範囲が好ましく、0.55〜1.00の範囲がより好ましい。
【0079】
電子注入層130の成膜方法は、特に限られないが、蒸着法で成膜してもよい。例えば、10
−3Pa〜10
−7Paの真空中で電子注入材料を加熱し、蒸着してもよい。また、スパッタリング法等により、成膜してもよい。
【0080】
電子注入層130の厚さは、一般的に0.5nm〜2.0nmが好ましい。薄すぎると電子注入の効果が小さく、厚過ぎると体積電気抵抗が高くなってしまうためである。
なお、電子注入層130は、省略してもよい。
【0081】
(電子輸送層140)
前述のように、有機EL素子100において、電子輸送層140には、非晶質金属酸化物の薄膜が配置される。
【0082】
非晶質金属酸化物の薄膜で構成される電子輸送層140は、前述のとおり、良好な電子移動度を有する。この電子移動度は、従来の電子輸送層140に使用されるAlq3のような有機電子輸送層と比較して、数桁大きい。非晶質金属酸化物の薄膜を使用すれば、電子輸送層140の膜厚を厚くしても、有機EL素子の発光に必要な電圧が増加しにくいため、有機電子輸送層では困難な厚い層とすることができる。
【0083】
非晶質金属酸化物の薄膜で構成される電子輸送層140の厚さは、例えば、70nm〜2000nmであってもよく、100nm〜1500nmが好ましく、200nm〜1000nmがより好ましく、300nm〜500nmがさらに好ましい。電子輸送層140をこのような厚さとすることで、前述のプラズモンによる光損失を低減することができ、光学設計によって光取出し効率を改善すれば、外部量子効率を改善することができる。また、有機物からなる電子輸送層を用いる場合と比較して、有機EL素子の短絡を抑制することが可能である。これにより、有機EL素子の信頼性や歩留まりを向上させることができる。この有機EL素子の短絡の抑制効果は、アクティブマトリクスなどの細かい画素からなるディスプレイ用途でも効果があるが、特に大きな画素からなる照明用途で、より顕著な効果となる。また、電子輸送層140は上述のような厚さとすることで、薄膜の作製に長時間を要さず、製造コストを抑制することができる。電子輸送層140は上述した成膜方法により成膜できる。
【0084】
(ホールブロック層145)
ホールブロック層145は、ホールブロック性を有する材料から選定される。ホールブロック層は、例えばHOMO準位の高い材料等であってもよい。あるいは、無機酸化物、金属酸化物等であってもよい。例えば、IGZO(In−Ga−Zn−O)、ITO(In−Sn−O)、ISZO(In−Si−Zn−O)、IGO(In−Ga−O)、ITZO(In−Sn−Zn−O)、IZO(In−Zn−O)、およびIHZO(In−Hf−Zn−O)等であってもよい。
【0085】
また、ホールブロック層145は、前述のような、「非晶質酸化物のエレクトライド」の薄膜により形成されてもよい。「非晶質酸化物のエレクトライド」の薄膜におけるアルミニウム原子とカルシウム原子のモル比(Ca/Al)は、0.3〜5.0の範囲が好ましく、0.55〜1.00の範囲がより好ましい。
【0086】
なお、ホールブロック層145は、省略してもよい。
【0087】
(発光層150)
発光層150は、有機エレクトロルミネッセンス素子用の発光材料として知られる材料で構成されてもよい。
【0088】
発光層150は、例えば、エピドリジン、2,5−ビス[5,7−ジ−t−ペンチル−2−ベンゾオキサゾリル]チオフェン、2,2’−(1,4−フェニレンジビニレン)ビスベンゾチアゾール、2,2’−(4,4’−ビフェニレン)ビスベンゾチアゾール、5−メチル−2−{2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル}ベンゾオキサゾール、2,5−ビス(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)チオフェン、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、ペリノン、1,4−ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、2−(4−ビフェニル)−6−フェニルベンゾオキサゾール、アルミニウムトリスオキシン、マグネシウムビスオキシン、ビス(ベンゾ−8−キノリノール)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリノラールト)アルミニウムオキサイド、インジウムトリスオキシン、アルミニウムトリス(5−メチルオキシン)、リチウムオキシン、ガリウムトリスオキシン、カルシウムビス(5−クロロオキシン)、ポリ亜鉛−ビス(8−ヒドロキシ−5−キノリノリル)メタン、ジリチウムエピンドリジオン、亜鉛ビスオキシン、1,2−フタロペリノン、1,2−ナフタロペリノン等であってもよい。
【0089】
発光層150は、蒸着法または転写法などの乾式プロセスで成膜してもよい。あるいは、発光層150は、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア印刷法などの湿式プロセスで成膜してもよい。
【0090】
典型的には、発光層150の厚さは、1nm〜100nmの範囲である。また、発光層はホール輸送層と兼用されてもよい。
【0091】
(電子ブロック層155)
電子ブロック層155は、電子ブロック性を有する材料から選定される。
【0092】
電子ブロック層155は、有機材料、例えばLUMO準位の低い材料であってもよい。例えば、トリス(フェニルピラゾール)イリジウム(Tris(phenylpyrazole)iridium:Ir(ppz)3))等であってもよい。
【0093】
(ホール輸送層160)
ホール輸送層160は、ホール輸送性を有する材料から選定される。
【0094】
ホール輸送層160は、例えば、アリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物およびフルオレン誘導体を含むアミン化合物などであってもよい。具体的には、ホール輸送層160は、4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどであってもよい。
【0095】
ホール輸送層160は、従来の一般的な成膜プロセスを用いて成膜することができる。
【0096】
典型的には、ホール輸送層160の厚さは、1nm〜100nmの範囲である。
【0097】
なお、ホール輸送層160は、省略してもよい。
【0098】
(ホール注入層170)
ホール注入層170は、ホール注入性を有する材料から選定される。
【0099】
ホール注入層170は、有機物、例えば、CuPcおよびスターバーストアミン等であってもよい。あるいは、ホール注入層170は、金属酸化物、例えば、モリブデン、タングステン、レニウム、バナジウム、インジウム、スズ、亜鉛、ガリウム、チタンおよびアルミニウムから群から選定される一以上の金属を含む酸化物材料であってもよい。
【0100】
一般に、有機物層の上に成膜されるトップ電極をスパッタリング法により成膜する場合、有機物層のスパッタダメージにより有機EL素子の特性が劣化することが知られている。金属酸化物は、有機物よりもスパッタ耐性が高いため、有機物層の上に金属酸化物層を成膜することで、有機物層へのスパッタダメージを軽減することができる。
【0101】
ホール注入層170の成膜方法は、特に限られない。ホール注入層170は、蒸着法または転写法などの乾式プロセスで成膜してもよい。あるいは、ホール注入層170は、スピンコート法、スプレーコート法、グラビア印刷法などの湿式プロセスで成膜してもよい。
【0102】
典型的には、ホール注入層170の厚さは、1nm〜50nmの範囲である。
なお、ホール注入層170は、省略してもよい。
【0103】
(陽極180)
陽極180としては、通常、金属または金属酸化物が使用される。使用材料は、仕事関数が4eV以上であるものが好ましい。有機EL素子100の光取り出し面を陽極180側とする場合、陽極180は、透明である必要がある。
【0104】
陽極180は、例えば、アルミニウム、銀、錫、金、炭素、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、タングステン、バナジウム、または、前述の金属の合金のような金属材料であってもよい。あるいは、陽極180は、例えば、ITO、アンチモン酸化物(Sb
2O
3)、ジルコニウム酸化物(ZrO
2)、スズ酸化物(SnO
2)、亜鉛酸化物(ZnO)、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(ZnO−Al
2O
3:アルミニウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、GZO(ZnO−Ga
2O
3:ガリウムがドーピングされた亜鉛酸化物)、NbドープTiO
2、TaドープTiO
2およびIWZO(In
2O
3−WO
3−ZnO:三酸化タングステンおよび酸化亜鉛がドーピングされたインジウム酸化物)等の金属酸化物であってもよい。
【0105】
陽極180の成膜方法は、特に限られない。陽極180は、蒸着法、スパッタリング法、塗布法等の公知の成膜技術により、形成してもよい。
【0106】
典型的には、陽極180の厚さは、50nm〜150nmの範囲である。透明電極として金属材料を使用する場合の陽極180の厚さは、2nm〜50nmの範囲であるのが好ましい。
【0107】
なお、
図1の例では、陰極120が基板110により近い側に配置され、陽極180が基板110からより遠い側に配置される場合を例に、有機EL素子の構成について説明した。
【0108】
しかしながら、本発明において、有機EL素子の構成は、これに限られるものではない。例えば、
図1の構成とは反対に、陽極180が基板110により近い側に配置され、陰極120が基板110からより遠い側に配置されてもよい。この場合、有機EL素子は、
図1において、基板110を除く層120〜180の部分が上下反転されたような構成となる。
【0109】
一般に、有機EL素子において、陰極と陽極の間に存在する各層(以下、まとめて「有機層」と称する)は、水分などの環境成分によって特性が劣化する傾向にある。このため、有機層は、なるべく水分などの環境因子から遮蔽することが好ましい。また、有機層は、物理的な接触にも比較的弱いため、機械的強度を高めることが好ましい。
【0110】
この点、本発明の一実施形態による有機EL素子では、化学的耐久性に優れる非晶質金属酸化物の薄膜(140)によって、有機層を表面安定化(passivation)することができる。また、機械的強度に優れる非晶質金属酸化物の薄膜(140)によって、有機層を物理的にも保護することができる。
【0111】
例えば、
図1に示した有機EL素子100の構成では、非晶質金属酸化物の薄膜(140)により、陰極120および電子注入層130を化学的および物理的に保護することができる。また、例えば、
図1において、基板110を除く層120〜180の部分が上下反転された構成の場合、非晶質金属酸化物の薄膜(140)により、ホールブロック層145〜陽極180までの各層を、化学的および物理的に保護することができる。
【0112】
本発明の一実施形態では、このような効果により、有機EL素子の製造過程においても、半製品を大気中で容易に搬送することが可能になり、有機EL素子の製造が簡便となる。
【0113】
本発明の有機EL素子は、以下のいずれかの構成であってよい。
(1)基板、陰極、および陽極をこの順に有し、基板側を光取出し面とする構成;
(2)基板、陰極、および陽極をこの順に有し、陽極側を光取出し面とする構成;
(3)基板、陽極、および陰極をこの順に有し、基板側を光取出し面とする構成;
(4)基板、陽極、および陰極をこの順に有し、陰極側を光取出し面とする構成。
【0114】
本発明の有機EL素子は、開口率の観点から、上記(2)および(4)の構成をとるのが好ましい。また、有機EL素子の輝度安定性の観点から、上記(1)または(2)の構成をとるのが好ましい。
【0115】
本発明の有機EL素子の他の実施例として、有機EL素子100は、電子注入層130として非晶質金属酸化物の薄膜が配置された構成であってもよい。非晶質金属酸化物の薄膜は、陰極120から発光層150への電子注入障壁を緩和させるのに良好な電子親和力を有しているため、電子注入層として好適に機能できる。
【0116】
また、本発明の有機EL素子の他の実施例として、有機EL素子100は、ホールブロック層145として非晶質金属酸化物の薄膜が配置された構成であってもよい。非晶質金属酸化物の薄膜は、ホールブロック効果が高い、大きなイオン化ポテンシャルを有するため、ホールブロック層として好適に機能できる。
【0117】
なお、有機EL素子100において、電子輸送層140として非晶質金属酸化物の薄膜を配置しない場合、電子輸送層140は、電子輸送性を有する材料で構成されてもよい。電子輸送性を有する材料としては、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、バトクプロイン(BCP)、ビス(2−メチル−8−キノリノレート)−4−(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)が挙げられる。あるいは、発光層と兼用される電子輸送層を配置してもよい。
【0118】
有機EL素子を構成する各材料の化学的安定性において、一般的には、仕事関数の低い陰極および電子注入層の化学的安定性が乏しく、長期間使用した場合に酸化などの化学反応を生じ劣化することが、有機ELデバイスそのものの長期安定性を律速していると考えられる。そのため、本発明の有機EL素子のように、化学的に安定でガス透過性の低い非晶質金属酸化物の薄膜により構成された電子輸送層で陰極および電子注入層を覆うことで、Alq3のような有機物を使用した場合に比べて、有機EL素子の寿命が長くなる効果も得られる。
【0119】
なお、本発明の有機EL素子は、カルシウム原子およびアルミニウム原子を含む非晶質酸化物のエレクトライドの薄膜である電子輸送層または陰極が配置されない構成であってもよい。
【0120】
(有機太陽電池)
前述した本発明の「非晶質金属酸化物の薄膜」は、有機太陽電池の層部材として用いることができる。有機太陽電池は、一対の電極と、一対の電極の間に有機物で構成された光電変換層とを有する。一対の電極は、電子を取り出す側の電極およびホールを取り出す側の電極からなる。本発明の有機太陽電池は、光電変換層と電子を取り出す側の電極の間に、「非晶質金属酸化物の薄膜」が配置される。
【0121】
この非晶質金属酸化物の薄膜は、電子輸送層、電子注入層、およびホールブロック層から選ばれる一以上の層として配置されてよい。
【0122】
本発明の有機太陽電池の構成は、前述の有機EL素子で説明した(a)〜(h)であってもよく、
図1の有機EL素子100の構成であってもよい。有機太陽電池のホールを取り出す側の電極は、有機EL素子の陽極と読み替えればよい。有機太陽電池の電子を取り出す側の電極は、有機EL素子の陰極と読み替えればよい。有機太陽電池の光電変換層は、有機EL素子の発光層と読み替えればよい。
【0123】
非晶質金属酸化物の薄膜を、電子輸送層、電子注入層、およびホールブロック層から選ばれる一以上の層として配置することで、良好な安定性を有し、高い信頼性を有する有機太陽電池を提供することができる。また、変換効率を向上させることが可能となる。
【0124】
前述の有機太陽電池に対する場合は、一例であって、無機太陽電池を含む太陽電池の場合でも、良好な安定性を有し、高い信頼性を有する太陽電池を提供でき、変換効率を向上させることが可能となる。
【0125】
以上、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)および酸素(O)を含み、Zn/(Zn+Si)の原子数比が0.30〜0.95である金属酸化物の薄膜が、非晶質で構成される場合を例に、本発明の一実施例について説明した。しかしながら、この組成を有する金属酸化物の薄膜は、必ずしも全てが非晶質である必要はない。すなわち、本発明において、金属酸化物の薄膜は、微結晶であっても良く、あるいは非晶質と微結晶が混在する形態であっても良い。そのような金属酸化物の薄膜に対しても、前述の(非晶質金属酸化物の薄膜)の欄、(有機エレクトロルミネッセンス素子)の欄、および/または(有機太陽電池)の欄等に関する記載が適用できることは当業者には明らかであろう。
【0126】
なお、本発明における金属酸化物の薄膜は、非晶質または非晶質の状態が支配的である方が薄膜の平坦性が向上しやすい。また、金属酸化物の薄膜は、非晶質または非晶質の状態が支配的である方が電子親和力と組成との関係が線形性を有しやすいため、光電変換素子として複数のバンドを選択しやすい。さらに、金属酸化物の薄膜は、非晶質または非晶質の状態が支配的である方が均質な膜が得られやすい。一方、本発明における金属酸化物の薄膜は、非晶質に比べて微結晶の方が膜厚方向に配向しやすいため、微結晶が支配的である方が膜厚方向の電子的な特性を向上しやすい。
【実施例】
【0127】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。例1〜7、11、12および14は実施例であり、例8、9、13および15は比較例である。
【0128】
(例1〜例9)
各例において、以下の方法により、被成膜基板上に金属酸化物の薄膜を成膜したサンプルを作製し、その特性を評価した。
【0129】
(成膜条件)
成膜装置には、RFマグネトロンスパッタ装置(アルバック社製)を使用した。スパッタリングターゲットには、直径Φ2インチで、酸化物換算のモル%表記で、所定の比率でZnOとSiO
2の焼結体を含むターゲットをサンプル毎に使用した。
【0130】
まず、被成膜基板をスパッタ装置のチャンバー内に導入した。
【0131】
スパッタ装置のチャンバー内を10
−5Pa以下の真空度にしたのち、チャンバー内に所定のスパッタリングガスを20sccm導入した。スパッタリングガスとして、アルゴン(Ar)ガス(G1グレード:純度99.99995vol.%)、または、酸素(O
2)ガス(G1グレード:純度99.99995vol.%)とArガス(G1グレード)の混合ガスを使用した。すなわち、スパッタリングガスとして、Arガス、または、酸素濃度20%のO
2/Ar混合ガスを使用した。
【0132】
スパッタリングガスの圧力を所定の圧力とし、ターゲットと被成膜基板の間隔(T−S距離)を所定の間隔とし、スパッタカソードに電力50Wを印加した。成膜時の基板温度は70℃以下であった。
例1〜9における、スパッタの成膜条件を表1に示す。
【0133】
(評価1 原子数比)
被成膜基板としてニッケル基板を用いた。ニッケル基板上に成膜された、金属酸化物の薄膜について、原子数比(Zn/(Zn+Si))を求めた。原子数比は、薄膜をSEM−EDX分析することによって求めた。なお、基板の影響を小さくするために、加速電圧は10kVとした。結果を、表2に示す。
【0134】
(評価2 XRD)
被成膜基板として石英ガラス基板を用いた。石英ガラス基板上に成膜された、金属酸化物の薄膜について、RIGAKU製X線回折装置RINT−2000を用いて、ゼーマンボーリン法によりX線回折スペクトルを測定した。ゼーマンボーリン法については、日本金属学会会報第27巻第6号461〜465頁(1988)に示されている。加速電圧50kV、放電電流300mAの条件で電子線をCuに照射し、発生したCuKα線を入射角0.5°に固定してサンプルに照射し、回折パターンを得た。
図2に得られた回折パターンを示す。いずれの回折パターンもウルツ型ZnOに由来するハローパターンが認められた。2θが33°付近のウルツ型ZnOの(002)面におけるシェラー径を表2に示す。例1〜7で得られた薄膜は、いずれもシェラー径5nm以下であり、X線回折的に非晶質であることが確認された。一方、例8、9では、シェラー径が5nmより大きく、X線回折的に結晶質であることが確認された。
【0135】
(評価3 UPS)
被成膜基板として、無アルカリ基板上に150nmのITOが成膜されたITO基板を用いた。ITO基板(ITOが成膜された面)上に、厚さ10nmの金属酸化物の薄膜を成膜した。この薄膜について、紫外光電子分光(UPS)によってイオン化ポテンシャルを測定した。測定は10
−7Pa以上の高真空中で、薄膜にHeランプの紫外線(He(I)、21.22eV)を照射した。例1において得られた薄膜のスペクトルを
図3、
図4に示す。
図3は光電子のカウント数と光電子の運動エネルギーの関係であり、仕事関数は3.9eVと見積もられた。
図4は光電子のカウント数と結合エネルギーの関係であり、イオン化ポテンシャルは、結合エネルギーと仕事関数の和で求められ、6.6eVと見積もられた。
【0136】
(評価4 光吸収係数)
評価2と同様に、被成膜基板として石英ガラス基板を用いた。石英ガラス基板上に成膜された、金属酸化物の薄膜について、反射率および透過率を測定することで光吸収係数を求めた。さらに、得られた光吸収係数のTaucプロットから光学バンドギャップを求めた。一例として、
図5、
図6に例1、2で成膜された非晶質金属酸化物の薄膜のTaucプロットを示す。例1〜7について得られた光学バンドギャップは3.2〜4.0であった。表2に得られた光学バンドギャップを示す。UPSで得られたイオン化ポテンシャルの結果とあわせると、例1で成膜された非晶質金属酸化物の薄膜の電子親和力は2.6eVと見積もられる。例2〜7で成膜された非晶質金属酸化物の薄膜においても、同程度のイオン化ポテンシャルとすると電子親和力は3.3〜3.4eV程度と見積もられる。
【0137】
(評価5 抵抗率)
評価2と同様に、被成膜基板として石英ガラス基板を用いた。石英ガラス基板上に成膜された、非晶質金属酸化物の薄膜について、4端子法で抵抗率を測定した。なお、金属酸化物の薄膜上に、幅1mm、2mm間隔でNd含有アルミニウムをスパッタ成膜し、電極とした。ターゲットには、コベルコ科研製の直径2インチの2mol%Nd含有アルミニウム(製品名:AD20)ターゲットを用いた。例2〜7で成膜された非晶質金属酸化物の薄膜について、4端子法で抵抗率を測定した。表2に、抵抗率の測定結果を示す。
【0138】
(評価6 電子輸送性の評価)
一方、以下の方法により、電子オンリー素子10を作製し、その特性を評価した。電子オンリー素子10は、ガラス基板上にボトム電極として陰極を配置し、ボトム電極上に電子輸送層を厚さ150nmで配置し、電子輸送層上にトップ電極として陽極を、ボトム電極と直交するように配置した。陰極は、コベルコ科研製の直径2インチの2mol%Nd含有アルミニウム(製品名:AD20)ターゲットを用い、Nd含有アルミニウムを厚さ80nm、幅1mmとなるようにスパッタ成膜して形成した。電子輸送層として、厚さ150nmのAlq3の層を形成した。陽極は、アルミニウムを厚さ80nmとなるように真空蒸着して形成した。電子オンリー素子10の陰極と陽極に電圧を印加し、流れる電流値を測定した。
図7に、得られた電流−電圧特性を、「Alq3」の曲線として示す。
【0139】
一方、
図7に、例2〜7の抵抗率から求めた算出値の電流−電圧特性を示す。算出には下記式(2)を用いた。ここでIは電流密度、Aは面積、Eは電圧、ρは抵抗率、Lは電子輸送層の厚さである。電子輸送層の厚さは150nmとした。
I/A=E/(ρ・L) 式(2)
図7から、印加電圧20Vの範囲において、例2〜7は、電子輸送層にAlq3を用いた電子オンリー素子10に比べ数桁以上電流が流れやすいことがわかる。また、例2〜7の非晶質金属酸化物の薄膜を電子輸送層に用いた場合、厚さが150nmであっても有機EL素子として充分な電子輸送性を有することがわかる。なお、20V以上の電圧印加は、素子が劣化するため実用的でない。
【0140】
【表1】
【0141】
【表2】
(例11)
以下の方法により、有機EL素子200を作製し、その特性を評価した。有機EL素子は、ガラス基板110上にボトム電極として陰極120を配置し、その上に順に、電子輸送層140、発光層150、ホール輸送層160、ホール注入層170およびトップ電極としての陽極180を配置し、陽極側から光を取り出す構造とした。なお、上述の記号は、
図1を参照している。ただし、有機エレクトロルミネッセンス素子100を有機EL素子200と読み替える。また、例11においては、電子注入層130、ホールブロック層145および電子ブロック層155の形成は省略した。
【0142】
まず、ガラス基板110上に、陰極120を形成した。ガラス基板110としては、無アルカリガラス基板を用いた。洗浄したガラス基板110およびメタルマスクを、スパッタ装置のチャンバー内に設置した。また、陰極120成膜用のターゲットを、スパッタ装置のチャンバー内に設置した。陰極用のターゲットとしては、コベルコ科研製の直径2インチの2mol%Nd含有アルミニウム(製品名:AD20)ターゲットを用いた。メタルマスクを用いて、ガラス基板110上に、陰極120を厚さ80nm、幅1mmとなるようにスパッタ成膜した。スパッタリングガスはAr、スパッタリングガスの圧力は0.3Paとし、スパッタカソードに電力50Wを印加した。
【0143】
次に、陰極120上に、電子輸送層140を形成した。メタルマスクは動かさずに、例7におけるスパッタ条件で、陰極120が形成されたガラス基板110上に、電子輸送層140として厚さ100nmの非晶質金属酸化物の薄膜を成膜した。
【0144】
次に、電子輸送層140上に、発光層150、ホール輸送層160、ホール注入層170を形成した。電子輸送層140(および陰極120)が形成されたガラス基板110を、10
−4Pa以下の高真空の雰囲気下で、スパッタ装置のチャンバーから真空蒸着用のチャンバーに搬送した。続けて、電子輸送層140上に発光層150としてAlq3を厚さ50nm蒸着した。続けて、発光層150上にホール輸送層160としてα―NPDを厚さ50nm蒸着した。続けて、ホール輸送層160上にホール注入層170としてMoO
xを厚さ0.8nm蒸着した。
【0145】
次に、ホール注入層170上に、陽極180を形成した。ホール注入層170が形成されたガラス基板110上に、陽極として金を厚さ10nm、幅1mmで蒸着した。蒸着時の真空度は約8×10
−6Paであった。陽極180は可視光を透過するので、陽極180(トップ電極)側から光を取り出す構造となっている。
【0146】
なお、発光層150、ホール輸送層160およびホール注入層170は、陰極120および電子輸送層140を完全に覆うように、メタルマスクを用いて形成した。陽極180は、陰極120と直交するように、メタルマスクを用いて形成した。幅1mmの陰極120と直交するように蒸着された幅1mmの陽極180の重複する1mm×1mmの領域が、電圧印加により発光する領域である。
【0147】
以上の工程を経て、ガラス基板、2mol%ネオジウムを含有したアルミニウムからなる陰極、非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層、Alq3からなる発光層、α−NPDからなるホール輸送層、MoO
xからなるホール注入層、および金からなる陽極を備える有機EL素子200を作製した。
【0148】
(有機EL素子の特性評価)
次に、得られた有機EL素子200について、直流電圧を印加し、電流および輝度を測定した。測定は、窒素パージしたグローブボックス内において、有機EL素子200の陰極120と陽極180の間に所定の値の電圧を印加した際に得られる輝度および電流値を測定することにより実施した。輝度測定には、TOPCOM社製の輝度計(BM−7A)を使用した。
【0149】
図8に、得られた電流−電圧−輝度特性を示す。有機EL素子200は、8Vから輝度および電流密度が増加し、12Vで輝度1500cd/m
2、電流密度2.6A/cm
2であった。この結果から、厚さ100nmの非晶質金属酸化物の薄膜は、電子輸送層として機能することが確認された。
【0150】
(例12)
以下の方法により、有機EL素子300を作製し、その特性を評価した。有機EL素子300は、ガラス基板110上に、ボトム電極として陰極120を配置し、その上に順に、電子注入層130、電子輸送層140、発光層150、ホール輸送層160、ホール注入層170およびトップ電極としての陽極180を配置し、陽極側から光を取り出す構造とした。なお、上述の記号は、
図1を参照している。ただし、有機エレクトロルミネッセンス素子100を有機EL素子300と読み替える。また、例12においては、ホールブロック層145および電子ブロック層155の形成は省略した。
【0151】
各層の材質は、陰極120を2mol%Nd含有アルミニウム、電子注入層130をLiF、電子輸送層140を非晶質金属酸化物、発光層150をAlq3、ホール輸送層160をα−NPD、ホール注入層170をMoO
x、陽極180を金とした。
【0152】
まず、ガラス基板110をスパッタ装置のチャンバー内に導入し、チャンバー内を10
−5Paまで排気した。次に、スパッタリングガスとしてArを20sccm導入し、スパッタリングガスの圧力を0.3Paとした。陰極用のターゲットとして2mol%Nd含有アルミニウムターゲットを用い、スパッタカソードに電力100Wを印加し、プラズマを発生させて、陰極120をスパッタ成膜した。厚さは80nmとした。
【0153】
次に、陰極120が形成されたガラス基板110を、大気暴露することなく真空一貫で真空蒸着用のチャンバーに移動させ、電子注入層130としてLiF層を成膜した。チャンバー内の真空度は10
−6Paであった。LiFの厚さは0.5nmとした。
【0154】
さらに、電子注入層130が形成されたガラス基板110を真空一貫でスパッタ装置のチャンバーに戻した。スパッタリングターゲットをZnO/SiO
2(90/10mol%)の焼結体に変更し、陰極120および電子注入層130の上に、電子輸送層140として、非晶質金属酸化物の薄膜を厚さが約100nmとなるように成膜した。成膜時の基板温度は70℃以下であった。
【0155】
これらの成膜を施したガラス基板110を再び真空蒸着用チャンバーに導入し、発光層150として厚さ30nmのAlq3層を成膜した。続けて、ホール輸送層160として厚さ30nmのα−NPD層を成膜した。さらに、ホール注入層170として厚さ0.8nmのMoO
x層を成膜した。
【0156】
なお、LiF層、Alq3層、α−NPD層、およびMoO
x層は、陰極において端子部となる部分を除き発光領域となる部分を完全に覆うように、メタルマスクを用いて、20mm×20mmの領域として形成した。蒸着時の真空度は約8×10
−6Paであった。
【0157】
次に、幅1mmの陽極180を、陰極120と直交するように蒸着した。すなわち、陰極120と陽極180の重複する1mm×1mmの領域が電圧印加により通電される領域である。陽極180として、厚さ10nmの金の層を成膜した。
【0158】
以上の工程を経て、ガラス基板、2mol%ネオジウムを含有したアルミニウムからなる陰極、LiFからなる電子注入層、非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層、Alq3からなる発光層、α−NPDからなるホール輸送層、MoO
xからなるホール注入層、および金からなる陽極を備える有機EL素子300を作製した。
【0159】
(例13)
例12と同様の方法で、有機EL素子400を作製し、その特性を評価した。ただし、例12では、厚さが約100nmの非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層、および厚さ30nmのAlq3層を形成したのに対し、例13では、非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層を形成せず、厚さ50nmのAlq3からなる電子輸送層兼発光層を形成した点が異なる。
【0160】
すなわち、ガラス基板、厚さ80nmの2mol%Nd含有アルミニウムからなる陰極、厚さ0.5nmのLiFからなる電子注入層、厚さ50nmのAlq3からなる電子輸送層兼発光層、厚さ30nmのα−NPDからなるホール輸送層、厚さ0.8nmのMoO
xからなるホール注入層、および厚さ10nmの金からなる陽極を備える有機EL素子400を作製した。
【0161】
(有機EL素子の特性評価)
有機EL素子300、400について、直流電圧を印加し、輝度の長期安定性を評価した。測定は、窒素パージしたグローブボックス内において、有機EL素子300、400の陰極と陽極の間に定電流を流したときの輝度が半減するまでの時間を測定することにより実施した。輝度測定には、TOPCOM社製の輝度計(BM−7A)を使用した。電子輸送層に非晶質金属酸化物の薄膜を用いた有機EL素子300は、電子輸送層にAlq3を用いた有機EL素子400に比べ、輝度半減時間が有意に長く、信頼性が改善することが確認された。
【0162】
(例14)
例12と同様の方法で、有機EL素子500を作製し、その特性を評価した。ただし、例12では、電子注入層として厚さ0.5nmのLiFからなる層を形成したのに対し、例14では、電子注入層として厚さ約2nmのエレクトライドの薄膜とした点が異なる。
【0163】
すなわち、例12と同様にして、ガラス基板110上に、陰極120を形成した。次に、陰極120付きのガラス基板110をスパッタ成膜室に導入し、陰極120の上に、電子注入層130として、エレクトライドの薄膜を成膜した。
【0164】
エレクトライドの薄膜は、電子密度が1.4×10
21cm
−3の結晶質C12A7エレクトライドを直径2インチのターゲットとし、スパッタリング法により成膜した。スパッタ成膜時の雰囲気は、約4.3×10
−7Pa未満の酸素分圧とした。スパッタリングガスはArとし、スパッタリングガスの圧力は、0.5Paとした。サンプルとターゲットの間隔(T−S距離)は10cmとした。また、スパッタカソードに電力50Wを印加した。ガラス基板は積極的に加熱しなかった。得られたエレクトライドの薄膜の厚さは、約2nmである。
【0165】
電子注入層130を形成した後は、例12と同様に、非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層140、Alq3からなる発光層150、α−NPDからなるホール輸送層160、MoO
xからなるホール注入層170、および陽極180を積層した。
【0166】
以上の工程を経て、ガラス基板、2mol%ネオジウムを含有したアルミニウムからなる陰極、エレクトライドからなる電子注入層、非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層、Alq3からなる発光層、α−NPDからなるホール輸送層、MoO
xからなるホール注入層、および金からなる陽極を備える有機EL素子500を作製した。
【0167】
(例15)
次に、例14と同様の方法で、有機EL素子600を作製し、その特性を評価した。ただし、例14では、厚さが約100nmの非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層、および厚さ30nmのAlq3層を形成したのに対し、例15では、非晶質金属酸化物の薄膜からなる電子輸送層を形成せず、厚さ50nmのAlq3からなる電子輸送層兼発光層を形成した点が異なる。
【0168】
すなわち、ガラス基板、厚さ80nmの2mol%Nd含有アルミニウムからなる陰極、厚さ2nmのエレクトライドの薄膜からなる電子注入層、厚さ50nmのAlq3からなる電子輸送層兼発光層、厚さ30nmのα−NPDからなるホール輸送層、厚さ0.8nmのMoO
xからなるホール注入層、および厚さ10nmの金からなる陽極を備える有機EL素子600を作製した。
【0169】
(有機EL素子の特性評価)
次に、有機EL素子500、600について、直流電圧を印加し、電流および輝度を測定した。測定は、窒素パージしたグローブボックス内において、各有機EL素子の陰極と陽極の間に所定の値の電圧を印加した際に得られる輝度および電流を測定することにより実施した。輝度測定には、TOPCOM社製の輝度計(BM−7A)を使用した。電子輸送層に非晶質金属酸化物の薄膜を用いた有機EL素子500は、電子輸送層(兼発光層)にAlq3を用いた有機EL素子600に比べ、単位電流あたりの輝度が高く、すなわち電流効率(cd/A)が改善することが確認された。
【0170】
(例21)
スパッタリング法により、シリカガラス製の基板上に、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物の薄膜を形成し、その特性を評価した。
【0171】
成膜には、ターゲットとして、ZnOとSiO
2のモル比で85%と15%の組成を有する焼結体を使用した。スパッタリングガスはArとし、圧力は2Paとし、ターゲットと基板間の距離を10cmとした。
【0172】
得られた非晶質金属酸化物の薄膜は、非晶質であることが確認された。また、ホール効果により、薄膜の電子移動度を求めたところ、電子移動度は、0.2cm
2/V/sであった。キャリア密度は、5×10
16cm
−3であり、導電率は、2×10
−3S/cmであった。また、Taucプロットにより求めたバンドギャップは、3.21eVであり、可視域で透明であった。
【0173】
(例22)
スパッタリング法により、シリカガラス製の基板上に、金属酸化物の薄膜を形成し、その特性を評価した。
【0174】
成膜には、ターゲットとして、ZnOとSiO
2のモル比で85%と15%の組成を有する焼結体を使用した。スパッタリングガスはArとし、圧力は3Paとし、ターゲットと基板間の距離を10cmとした。
【0175】
得られた金属酸化物の薄膜は、非晶質であることが確認された。また、ホール効果により、薄膜の電子移動度を求めたところ、電子移動度は、1.4cm
2/V/sであった。キャリア密度は、4×10
16cm
−3であった。
【0176】
以下の表3には、例21および例22における薄膜の特性評価結果をまとめて示した。
【0177】
【表3】
(例31)
以下の方法により、有機EL素子を模擬したサンプルAを作製した。サンプルAは、ガラス基板、陽極(ITO)、電子輸送層(非晶質金属酸化物の薄膜)、電子注入層(LiF)、陰極(Al:厚さ80nm)をこの順に有する。
【0178】
まず、無アルカリガラス基板上に、一般的なスパッタリング方法で、ITO層(厚さ100nm)を成膜した。次に、ITO層上に、電子輸送層として、非晶質金属酸化物の薄膜(厚さ100nm)を成膜した。成膜条件は、前述の例21の場合と同様とした。
【0179】
次に、非晶質金属酸化物の薄膜の上に、スパッタリング法によりLiF層(厚さ0.5nm)を成膜した。次に、抵抗加熱蒸着法により、LiF層の上にAl層を成膜した。蒸着源にはAg顆粒を使用し、成膜速度は、1.0nm/秒とした。
【0180】
チャンバー内の真空度は、いずれも2×10
−6Paとした。
【0181】
なお、サンプルAは、電子輸送特性を測定するためのサンプルであり、このため発光層、ホール輸送層、およびホール注入層は、形成していない。
【0182】
同様の方法により、有機EL素子を模擬したサンプルBを作製した。
【0183】
ただし、サンプルBでは、電子輸送層として、非晶質金属酸化物の薄膜の代わりに、Alq3層を使用した。Alq3層は、前述のような真空蒸着法により成膜した。その他の層構成は、サンプルAと同様である。
【0184】
作製したサンプルAおよびBを用いて、電子輸送特性を評価した。結果を
図9に示す。
【0185】
図9には、両サンプルA、Bの電流電圧特性が示されている。
【0186】
図9に示すように、サンプルAは、各電圧において、サンプルBに比べて電流密度が向上していることがわかる。このように、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物を電子輸送層として用いた場合、有機EL素子の駆動電圧が低減できることが確認された。
【0187】
(例32)
以下の方法により、非晶質金属酸化物の薄膜と、陰極材料との間の接合特性を評価した。なお、陰極材料には、Al金属の他、一般に陽極材料として用いられるFTOおよびITOを使用した。
【0188】
まず、例21と同様の方法で、ガラス基板上に非晶質金属酸化物の薄膜(厚さ120nm)を形成した。次に、この薄膜上にAl層を形成した。得られたサンプルC−1を用いて、2端子法および4端子法で電流−電圧特性を評価した。
【0189】
その結果、サンプルC−1において、非晶質金属酸化物の薄膜とAl層の間の接合は、オーミック接合であることがわかった。
【0190】
一方、常圧CVD法により、ガラス基板上にFTO層を形成した。次に、このFTO層上に、例21と同様の方法で、非晶質金属酸化物の薄膜(厚さ100nm)を形成した。さらに、この非晶質金属酸化物の薄膜上に、ドット状のAl層(1mm×1mm)を形成し、サンプルC−2を作製した。
【0191】
コンタクトプローバーを用いて、サンプルC−2の電流−電圧特性を評価したところ、FTO層と非晶質金属酸化物の薄膜の間には、オーミック接合が形成されていることがわかった。
【0192】
ITO層についても同様な評価を行ったところ、ITO層と非晶質金属酸化物の薄膜の間に、オーミック接合が形成されていることが確認された。
【0193】
図10には、一例として、サンプルC−2において得られた、電流−電圧特性の測定結果を示した。
【0194】
これらの結果から、電子輸送層として非晶質金属酸化物の薄膜を使用した場合、陰極から電子輸送層に向かって、電子の良好な注入特性が得られることがわかった。
【0195】
一般に、電子輸送層としてAlq3層を使用した場合、このAlq3層と陰極材料との間に、電子注入層を介在させなければ、電子輸送層と陰極材料の間にオーミック接合が得られないことが知られている。
【0196】
これに対して、上記結果が示すように、電子輸送層として非晶質金属酸化物の薄膜を使用した場合、電子注入層を介在させなくても、電子輸送層と陰極材料の間にオーミック接合を形成することができる。このため、電子輸送層として、非晶質金属酸化物の薄膜を用いた場合、有機EL素子の駆動電圧を低下させることが可能となる。また、有機EL素子の製造プロセスを簡略化することが可能となる。
【0197】
なお、この実験から、一般に陽極材料として用いられるFTOおよびITOを、陰極材料として使用できることがわかった。
【0198】
(例33)
以下の方法により、有機EL素子を模擬したサンプルDを作製した。サンプルDは、ガラス基板、
陰極(ITO)、電子輸送層(非晶質金属酸化物の薄膜)、発光層(CBP+Ir(ppy)
3)、ホール輸送層(α−NPD)、ホール注入層(MoO
x)、および
陽極(Ag)をこの順に有する。
【0199】
まず、無アルカリガラス基板上に、一般的なスパッタリング方法で、ITO層(厚さ100nm)を成膜した。次に、ITO層上に、電子輸送層として、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物の薄膜(厚さ50nm)を成膜した。成膜条件は、前述の例21の場合と同様とした。
【0200】
次に、非晶質金属酸化物の薄膜の上に、蒸着法によりCBP+Ir(ppy)
3層(厚さ35nm)を成膜した。蒸着源には、モリブデン製の第1のるつぼに添加したCBP粉末と、第2のるつぼに添加したIr(ppy)
3粉末を使用し、成膜の際には、Ir(ppy)
3が6wt%となるようにして、2物質を共蒸着させた。成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0201】
次に、抵抗加熱蒸着法により、この発光層の上にα−NPD層(厚さ40nm)を成膜した。蒸着源には、モリブデン製のるつぼに添加したNPD粉末を使用し、成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0202】
次に、抵抗加熱蒸着法により、α−NPD層の上に、MoO
x層(厚さ0.8nm)を形成した。蒸着源にはMoO
3粉末を使用し、成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0203】
次に、抵抗加熱蒸着法により、MoO
x層上にAg層(厚さ80nm)を成膜した。蒸着源には、Ag顆粒を使用し、成膜速度は、1.0nm/秒とした。
【0204】
チャンバー内の真空度は、いずれも2×10
−6Paとした。
【0205】
同様の方法により、機EL素子を模擬したサンプルEを作製した。
【0206】
ただし、サンプルEでは、電子輸送層として、非晶質金属酸化物の薄膜の代わりに、Alq3層(厚さ50nm)を使用した。Alq3層は、前述のような真空蒸着法により成膜した。その他の層構成は、サンプルDと同様である。
【0207】
作製したサンプルDおよびEを用いて、輝度特性を評価した。結果を
図11に示す。
【0208】
図11には、両サンプルD、Eの輝度−電圧特性が示されている。この図から、サンプルDの場合、10cd/m
2の輝度が得られる際の駆動電圧は、約13V程度であるのに対して、サンプルEの場合、同輝度が得られる際の駆動電圧は、約29V程度であることがわかる。
【0209】
このように、電子輸送層として、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物を用いた有機EL素子の場合、駆動電圧を有意に低減できることが確認された。
【0210】
(例34)
以下の方法により、有機EL素子を模擬したサンプルFを作製した。サンプルFは、ガラス基板、陰極(ITO)、電子輸送層(非晶質金属酸化物の薄膜)、発光層(Alq3)、ホール輸送層(α−NPD)、ホール注入層(MoO
x)、および陽極(Ag)をこの順に有する。
【0211】
まず、無アルカリガラス基板上に、一般的なスパッタリング方法で、ITO層(厚さ100nm)を成膜した。次に、ITO層上に、電子輸送層として、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物の薄膜(厚さ50nm)を成膜した。成膜条件は、前述の例22の場合と同様とした。
【0212】
次に、非晶質金属酸化物の薄膜の上に、発光層としてAlq3層(厚さ50nm)を成膜した。Alq3層は、前述のような真空蒸着法により成膜した。
【0213】
次に、抵抗加熱蒸着法により、この発光層の上にα−NPD層(厚さ450nm)を成膜した。蒸着源には、モリブデン製のるつぼに添加したNPD粉末を使用し、成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0214】
次に、抵抗加熱蒸着法により、α−NPD層の上に、MoO
x層(厚さ5nm)を形成した。蒸着源にはMoO
3粉末を使用し、成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0215】
次に、抵抗加熱蒸着法により、MoO
x層上にAg層(厚さ80nm)を成膜した。蒸着源には、Ag顆粒を使用し、成膜速度は、1.0nm/秒とした。
【0216】
チャンバー内の真空度は、いずれも2×10
−6Paとした。
【0217】
得られたサンプルFを用いて、輝度特性を評価した。結果を
図12に示す。
【0218】
図12には、サンプルFの輝度−電圧特性が示されている。この図から、サンプルFの場合、10cd/m
2の輝度が得られる際の駆動電圧は、約6.1V程度であり、十分に低いことがわかる。
【0219】
このように、電子輸送層として、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物を用いた有機EL素子の場合、駆動電圧を有意に低減できることが確認された。
【0220】
(例35)
以下の方法により、有機EL素子を模擬したサンプルGを作製した。サンプルGは、ガラス基板、陰極(ITO)、電子輸送層(非晶質金属酸化物の薄膜)、電子注入層(非晶質C12A7エレクトライド薄膜)、発光層(Alq3)、ホール輸送層(α−NPD)、ホール注入層(MoO
x)、および陽極(Ag)をこの順に有する。
【0221】
まず、無アルカリガラス基板上に、一般的なスパッタリング方法で、ITO層(厚さ100nm)を成膜した。次に、ITO層上に、電子輸送層として、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物の薄膜(厚さ100nm)を成膜した。成膜条件は、前述の例21の場合と同様とした。
【0222】
次に、非晶質金属酸化物の薄膜の上に、非晶質C12A7エレクトライド薄膜(厚さ4nm)を形成した。
【0223】
この薄膜は、スパッタリング法により形成した。ターゲットには、72mm×72mmの寸法の、結晶質C12A7エレクトライド焼結体を使用した。成膜には、対向ターゲットスパッタリング装置を用い、アルゴンガス圧を0.1Paとし、RFパワーは100Wとした。
【0224】
次に、非晶質C12A7エレクトライド薄膜の上に、発光層としてAlq3層(厚さ50nm)を成膜した。Alq3層は、前述のような真空蒸着法により成膜した。
【0225】
次に、抵抗加熱蒸着法により、この発光層の上にα−NPD層(厚さ50nm)を成膜した。蒸着源には、モリブデン製のるつぼに添加したNPD粉末を使用し、成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0226】
次に、抵抗加熱蒸着法により、α−NPD層の上に、MoO
x層(厚さ5nm)を形成した。蒸着源にはMoO
3粉末を使用し、成膜速度は、0.1nm/秒とした。
【0227】
次に、抵抗加熱蒸着法により、MoO
x層上にAg層(厚さ80nm)を成膜した。蒸着源には、Ag顆粒を使用し、成膜速度は、1.0nm/秒とした。
【0228】
チャンバー内の真空度は、いずれも2×10
−6Paとした。
【0229】
得られたサンプルGを用いて、輝度特性を評価した。結果を
図13に示す。
【0230】
図13には、サンプルGの輝度−電圧特性が示されている。この図から、サンプルGの場合、10cd/m
2の輝度が得られる際の駆動電圧は、約5.2V程度であり、十分に低いことがわかる。
【0231】
このように、電子輸送層として、Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物を用いた有機EL素子の場合、駆動電圧を有意に低減できることが確認された。
【0232】
(例36)
以下の方法により、有機EL素子を模擬したサンプルH〜Mを作製した。これらのサンプルは陰極から電子が注入されるが、陽極から正孔は注入されにくい構成になっており、電子の流れやすさを評価している。以下に各サンプルの構成を示す。
【0233】
サンプルHは、ガラス基板、陰極(ITO、厚み100nm)、電子輸送層(Zn−Si−O系の非晶質金属酸化物の薄膜、厚み40nm)、ホールブロック層兼電子注入層(非晶質C12A7エレクトライド薄膜、厚み4nm)、電子輸送層(Alq3、厚み160nm)、ホールブロック層(BCP、厚み20nm)および陽極(Al、厚み100nm)をこの順に有する。
【0234】
サンプルIは、ガラス基板、陽極(Al、厚み80nm)、ホールブロック層(BCP、厚み20nm)、電子輸送層(Alq3、厚み160nm)、電子注入層(LiF、厚み0.5nm)および陰極(Al、厚み80nm)をこの順に有する。
【0235】
サンプルJは、ガラス基板、陰極(Al、厚み80nm)、電子注入層(LiF、厚み0.5nm)、電子輸送層(Alq3、厚み160nm)、ホールブロック層(BCP、厚み20nm)および陽極(Al、厚み80nm)をこの順に有する。
【0236】
サンプルKは、ガラス基板、陰極(ITO、厚み100nm)、電子輸送層(Alq3、厚み160nm)、ホールブロック層(BCP、厚み20nm)および陽極(Al、厚み100nm)をこの順に有する。
【0237】
サンプルLは、ガラス基板、陽極(Al、厚み80nm)、ホールブロック層(BCP、厚み20nm)、電子輸送層(Alq3、厚み160nm)および陰極(Al、厚み80nm)をこの順に有する。
【0238】
サンプルMは、ガラス基板、陰極(Al、厚み80nm)、電子輸送層(Alq3、160nm)、ホールブロック層(BCP、20nm)および陽極(Al、80nm)をこの順に有する。
【0239】
各層の成膜方法について以下に示す。
【0240】
サンプルHおよびKにおけるITOはジオマテック社製のFLAT ITO、比抵抗140μΩ・cmとした。
【0241】
サンプルHにおける非晶質金属酸化物の薄膜は、スパッタリングターゲットとして、ZnOとSiO
2がモル比で80%と20%の組成を有する直径7.6mm(3インチ)の焼結体を使用した。チャンバー内を5×10
−7Paにクライオポンプを用いて排気した後、0.25%のO
2と99.75%のArをスパッタリングガスとして導入した。ターゲットと基板間の距離を10cmとしてRFマグネトロンスパッタ法により成膜した。圧力は0.4Paとした。RFパワーは100Wとした。
【0242】
サンプルHにおける非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、スパッタリングターゲットとして、電子密度1.4×10
21cm
−3の多結晶質C12A7エレクトライドの焼結体を使用して、対向ターゲットスパッタリング法により成膜した。焼結体サイズは85mm×85mm×厚み4mmとした。チャンバー内を5×10
−5Paにターボポンプを用いて排気した後、100%のArをスパッタリングガスとして導入した。対向したターゲットと垂直に基板を配置し、ターゲットの下端と基板の距離を1.7cmとした。圧力は0.1Paとした。
【0243】
サンプルH〜MにおけるAlq3およびBCPは、チャンバー内を5×10
−6Paにクライオポンプを用いて排気した後、真空蒸着法によって成膜した。成膜速度は0.1nm/秒とした。
【0244】
サンプルH〜MにおけるAlは、チャンバー内を5×10
−6Paにクライオポンプを用いて排気した後、真空蒸着法によって成膜した。成膜速度は1nm/秒とした。
【0245】
サンプルIおよびJにおけるLiFは、チャンバー内を5×10
−6Paにクライオポンプを用いて排気した後、真空蒸着法によって成膜した。成膜速度は0.1nm/秒とした。
【0246】
得られたサンプルH〜Mの電流密度−電圧特性を
図14に示す。0.2μA/cm
2となる電圧は低い順に、サンプルH、サンプルI、サンプルJ、サンプルL、サンプルM、サンプルKとなっており、サンプルHの構成が最も電子を流しやすい構成であることがわかる。
【0247】
従来、基板側の電極を陰極とし電子注入層としてLiFを蒸着した構成(サンプルJ)では、有機層上に電子注入層としてLiFを蒸着した構成(サンプルI)よりも電子を流しにくかった。ITOにZn−Si−O系の非晶質金属酸化物の薄膜および非晶質C12A7エレクトライド薄膜をスパッタ成膜した構成(サンプルH)とすることで、基板側の電極を陰極とした構成でも、有機層上に電子注入層と陰極を配置した構成よりも電子を流しやすくすることができる。