特許第6494179号(P6494179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494179
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】焙煎油の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 25/00 20160101AFI20190325BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20190325BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20190325BHJP
   C11B 1/02 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   A23L25/00
   A23D9/02
   A23D9/00 506
   C11B1/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-107498(P2014-107498)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-221024(P2015-221024A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年4月24日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊島 尊
(72)【発明者】
【氏名】野坂 直久
(72)【発明者】
【氏名】笠井 通雄
(72)【発明者】
【氏名】生稲 淳一
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−234345(JP,A)
【文献】 特開平05−140583(JP,A)
【文献】 特開平07−034087(JP,A)
【文献】 特開2006−204266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 25/00
A23D 9/00−9/02
C11B 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂原料となる種子を過熱水蒸気を用いて常圧で5〜20分間焙煎する工程により製造され、
前記過熱水蒸気は、焙煎中に焙煎機内に前記焙煎器内の大気の2〜5倍容量で流入され、
前記焙煎する工程における焙煎温度が125〜150℃であり、
該油脂原料となる種子は、大豆である、
煎油用焙煎種子から得られることを特徴とする焙煎油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎油の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焙煎油を得るための焙煎種子を製造するには、原料となる大豆、菜種等の種子を焙煎する必要がある。この焙煎方法としては、従来、外部より電熱、熱風、バーナー、マイクロ波などを介して原料種子を加熱することにより行なわれてきている(例えば、特許文献1の段落〔0019〕参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−204266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の焙煎方法によれば、原料種子を均一に焙煎する点において改善の余地があった。均一に焙煎することで、焙煎程度が異なる種子が混入しなくなるので風味のばらつきが減少するというメリットがある。さらに、一部の原料種子が酸素中で過剰に加熱されることで、原料種子中の油脂がダメージを受けることも考えられていることから、均一に焙煎する必要性がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、油脂原料となる種子を均一に焙煎することができる焙煎油の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]を提供する。
油脂原料となる種子を過熱水蒸気を用いて常圧で5〜20分間焙煎する工程により製造され、
前記過熱水蒸気は、焙煎中に焙煎機内に前記焙煎器内の大気の2〜5倍容量で流入され、
前記焙煎する工程における焙煎温度が125〜150℃であり、
該油脂原料となる種子は、大豆である、
煎油用焙煎種子から得られることを特徴とする焙煎油の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、油脂原料となる種子を均一に焙煎することができる焙煎の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1参考例1の焙煎種子(焙煎大豆)を撮影した写真である。
図2】比較例1の焙煎種子(焙煎大豆)を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔焙煎種子の製造方法〕
本発明の実施の形態に係る焙煎種子の製造方法は、油脂原料となる種子を過熱水蒸気を用いて焙煎する工程を有する。
【0010】
本発明の実施の形態において油脂原料となる種子は、特に限定されるものではないが、ごま、なたね、大豆、ベニバナ種子、ひまわり、アマニ、綿実のいずれかであることが好ましく、ごま、なたね、大豆、ベニバナ種子のいずれかであることがより好ましい。油脂原料となる種子としては、種子そのままのほか、種子を粉砕したもの、割砕したもの又は圧偏したもの等を用いることができる。また、種子の品種、産地等も特に限定されることなく、種々のものが使用できる。
【0011】
油脂原料となる種子を焙煎する工程において、過熱水蒸気を用いて焙煎する方法としては、焙煎中に過熱水蒸気を焙煎機内に流入して焙煎機内を過熱水蒸気雰囲気とする方法、焙煎機内に水を添加し、焙煎機内の温度で水が過熱水蒸気化することで焙煎機内を過熱水蒸気雰囲気とする方法、焙煎機内に水蒸気を流入し機内でさらに加熱されて過熱水蒸気化することで焙煎機内を過熱水蒸気雰囲気とする方法等が挙げられる。焙煎中に過熱水蒸気を焙煎機内に流入して焙煎機内を過熱水蒸気雰囲気とする方法が特に好ましい。なお、一般的には過熱水蒸気は100℃を超えて加熱された水蒸気であるが、本願では、過熱水蒸気と種子が接触して焙煎されるため、接触時の過熱水蒸気の温度は焙煎温度となる。使用する焙煎機は特に限定されないが、例えば、回転流動床式、回転ドラム式、ロータリーキルン式などを使用することができる。
【0012】
焙煎する工程における焙煎温度(品温)は、125〜150℃であることが好ましい
【0013】
焙煎時間は、焙煎温度、焙煎処理量、焙煎処理機等によって異なるが、上記焙煎温度にて1〜30分間程度行うことが好ましく、3〜25分間程度行うことがより好ましく、5〜20分間程度行うことがさらに好ましい。温度上昇の方法は、特に限定されるものではないが、一定の上昇率(例えば、10〜20℃上昇/分)で徐々に温度上昇することが好ましい。
【0014】
過熱水蒸気量は、均一焙煎の効果が得られるよう適宜、調整すればよく、特に限定されない。焙煎対象である種子全体に万遍なく過熱水蒸気が接触するように、焙煎機内の空気がすべて乃至ほぼすべて過熱水蒸気で置換されていることが好ましい。なお、焙煎処理の間に、焙煎機内の大気をその2〜10倍容量の加熱水蒸気で置換することが好ましく、より好ましくは焙煎機内の大気をその2〜5倍容量の過熱水蒸気で置換することが好ましい。
【0015】
〔焙煎種子〕
本発明の実施の形態に係る焙煎種子は、上記の本発明の実施の形態に係る焙煎種子の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0016】
本発明の実施の形態に係る焙煎種子は、焙煎油を得る用途に特に適している。その他、きな粉等の大豆の加工食品、すりごま、ねりごま等のごまの加工食品等を得るために用いることもできる。
【0017】
〔焙煎油〕
本発明の実施の形態に係る焙煎油は、上記の本発明の実施の形態に係る焙煎種子から得られることを特徴とする。
【0018】
焙煎処理された焙煎種子は、圧搾機にて機械的に圧搾され、油分が搾り取られる。油分をろ過することで焙煎油(圧搾粗油)が得られる。
【0019】
圧搾機は、特に型式は問わないが、例えば円筒状に形成されたケーシングとその内部に回転自在に設けられたスクリューよりなるエキスペラー式圧搾機を好適に利用することができる。回転数や処理量は適宜調整することができる。
【0020】
圧搾処理に加えて、又は圧搾処理に換えて、ヘキサン等の有機溶媒を用いた抽出処理、及びその後の減圧蒸留による有機溶媒の除去により、焙煎油(抽出粗油)を得ても良い。抽出処理は、公知の方法で行なうことができる。
【0021】
得られた焙煎油(圧搾粗油又は抽出粗油)は、このまま用いることもできるが、例えば、温度70〜110℃、水添加量約3質量%(対粗油)の条件下、遠心分離機で遠心分離されることで脱ガム処理(以下、水脱ガム処理という)がなされ、再度ろ過されることが好ましい。これにより、焙煎油(原油)が得られる。
【0022】
このようにして得られた焙煎油は、脱酸、脱色、脱臭の精製処理を行わずに食用に供することができる。もちろん、これらの処理を一般的な方法にて行なうこともできるが、圧搾粗油は風味を生かす場合は行わないことが好ましく、抽出粗油は脱有機溶媒の点から脱臭を行うことが好ましい。
【0023】
〔油脂組成物〕
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、上記の本発明の実施の形態に係る焙煎油を含有することを特徴とする。油脂組成物中の上記焙煎油の含有量は、特に限定されるものではないが、1〜100質量%であることが好ましい。
【0024】
含有される上記焙煎油は、1種のみならず、2種以上の焙煎油であってもよい。
【0025】
(油脂組成物中のその他の油脂)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、上記焙煎油以外に、通常の食用油脂を含有することができる。通常の食用油脂としては、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、藻類油、品種改良によって低飽和化されたこれらの油脂、これらの分別油脂、これらの水素添加油脂、及びこれらのエステル交換油脂等があり、これらの混合油脂であってもよい。これらの食用油脂は、精製油であることが好ましく、また、未焙煎油であることが好ましい。
【0026】
(油脂組成物中のその他の成分)
また、本発明の実施の形態に係る油脂組成物には、本発明の効果を奏する限りにおいて、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸パルミテート、カロテン類等の酸化防止剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、シュガーエステル、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、シリコーンオイル等の消泡剤を添加することもできる。
【0027】
(用途)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物は、例えば、フライ油、炒め油、スプレー油等の加熱調理用油脂として好適に使用することができる。
【0028】
〔加工食品〕
本発明の実施の形態に係る加工食品は、上記の本発明の実施の形態に係る油脂組成物を使用して製造されたことを特徴とする。当該加工食品としては、例えば、揚げ物、天ぷら、炒め物、せんべい、菓子類、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング等を挙げることができる。これらの食品は公知の常法で製造することができる。
【0029】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
参考例1
家庭用ウォーターオーブン(商品名:ヘルシオAX−HC1、シャープ(株)製)のオーブン庫内温度(焙煎温度)を250℃に予加熱した後、オーブン庫内のトレー上に160gの大豆原料(皮付き大豆)を載せて15分間焙煎した。予加熱及び焙煎時に過熱水蒸気を発生させ、オーブン庫内に充満させて、250℃で焙煎を行った(蒸気発生量:約430g/h、オーブン庫内の体積:約25L)。
【0031】
(比較例1)
予加熱及び焙煎を過熱水蒸気の非存在下で行った以外は、参考例1と同様に行った。
【0032】
参考例1及び比較例1にて製造した焙煎大豆の焙煎状態を目視にて確認した。確認結果を表1に示す。また、図1は、参考例1の焙煎大豆を撮影した写真であり、図2は、比較例1の焙煎大豆を撮影した写真である。
【0033】
【表1】
【0034】
参考例2
参考例1の条件で5回実施し、5回分の焙煎大豆を混合し、粗砕した。さらに、スクリュー式中型電動搾油機(株式会社サン精機:S100−400)にて搾油し、圧搾油を得た。
【0035】
(比較例2)
比較例1の条件で5回実施し、5回分の焙煎大豆を混合し、粗砕した。さらに、スクリュー式中型電動搾油機(株式会社サン精機:S100−400)にて搾油し、圧搾油を得た。
【0036】
参考例2及び比較例2の圧搾油(焙煎油)の風味を比較したところ、比較例2の圧搾油は、参考例2より苦味が強かった。
【0037】
実施例1及び2並びに参考例3
家庭用ウォーターオーブン(商品名:ヘルシオAX−HC1、シャープ(株)製)のオーブン庫内温度を表2に示す各焙煎温度に予加熱した後、オーブン庫内のトレー上に100gの大豆原料(皮付き大豆)を載せて10分間焙煎した。予加熱及び焙煎は過熱水蒸気の存在下で行った(蒸気発生量:約430g/h、オーブン庫内の体積:約25L)。実施例1及び2並びに参考例3にて製造した焙煎大豆の焙煎状態を目視にて確認したところ、ほぼ均一に焙煎されていた。
【0038】
【表2】
【0039】
参考例8
家庭用ウォーターオーブン(商品名:ヘルシオAX−HC1、シャープ(株)製)のオーブン庫内温度を250℃に予加熱した後、オーブン庫内のトレー上に100gの大豆原料(皮むき、粗砕大豆)を載せて20分間焙煎した。予加熱及び焙煎は過熱水蒸気の存在下で行った(蒸気発生量:約430g/h、オーブン庫内の体積:約25L)。参考例8にて製造した焙煎大豆の焙煎状態を目視にて確認したところ、ほぼ均一に焙煎されていた。
【0040】
【表3】
【0041】
参考例1013
家庭用ウォーターオーブン(商品名:ヘルシオAX−HC1、シャープ(株)製)のオーブン庫部温度を表4に示す各焙煎温度に予加熱した後、オーブン庫内のトレー上に100gの菜種原料を載せて10分間焙煎した。予加熱及び焙煎は過熱水蒸気の存在下で行った(蒸気発生量:約430g/h、オーブン庫内の体積:約25L)。参考例1013にて製造した焙煎菜種の焙煎状態を目視にて確認したところ、ほぼ均一に焙煎されていた。
【0042】
【表4】
図1
図2