【文献】
食品成分表2014,女子栄養大学出版部,2014年,p. 232, 233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、高血圧症や高血圧による合併症の予防等を目的に、食塩(ナトリウム分)の摂取量を抑制したいという要求が強い。しかし、食塩の量を削減すると、食品が味気ないものとなってしまうので、食塩の代わりに塩味を呈する、いわゆる代替塩や塩味を増強する塩味増強剤が求められている。
代替塩としては、塩化カリウムを用いることが最も一般的である。しかし、塩化カリウムは塩味以外に独特のエグ味、苦味を有し、食塩の代わりとして充分な素材とはいえない。
そこで、塩化カリウムのエグ味、苦味をマスキングする、あるいは塩化ナトリウムが有している塩味を増強して、より食塩の味に近づけることが考えられる。
例えば、塩化カリウムの苦みをマスキングすることに関連する先行技術として、特許文献1や特許文献2が挙げられる。但し、当該出願は、複数の他の素材の使用を前提としており、他の素材のコスト等が問題となる場合もある。
また、塩化カリウムの使用を前提としており、塩化カリウムの使用量によっては、苦みのマスキングが不十分となる可能性も否定できない。
そこで、塩化カリウムの使用を必ずしも前提とはしない塩化ナトリウム由来の自然な塩味を増強する方法について検討する余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、塩化カリウムを使用することがなくても、塩化ナトリウム由来の自然な塩味を増強する方法について開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、塩味の増強という点で種々の素材を試験したところ、乳系統のスープが、そこに含有する塩化ナトリウムの塩味よりも強く塩味を感じることを見出した。そこで、乳を含む各種食品のアミノ酸組成の結果をもとに、乳に含有されるアミノ酸のうち特徴的なものの検討を行った。その結果、L−プロリンを見出し、実際に試験することで、本発明を完成するに至ったのである。
【0006】
また、乳系統の素材自体を用いると乳の色や香りが開発者の意図なしに付与されるという問題がある。本発明においては、乳自体を利用するものではないため、この点も回避することができる。
すなわち、本願第一の発明は、
「L−プロリンを含有する塩味増強剤。」、である。
【0007】
次に、本発明者らは、塩化ナトリウムとL−プロリンを併存させることによる塩味増強方法についても意図している。
すなわち、本願第二の発明は、
「塩化ナトリウムとL−プロリンを併存させる塩味増強方法。」、である。
また、本発明者らは、前記塩化ナトリウムとL−プロリンについて、塩化ナトリウム100重量部に対してL−プロリンを1〜15重量部の割合で併存させるのが好ましい。
すなわち、本願第三の発明は、
「塩化ナトリウムとL−プロリンについて、塩化ナトリウム100重量部に対してL−プロリンを1〜15重量部の割合で併存させる塩味増強方法。」、である。
【0008】
次に、本発明者らは、塩化ナトリウムとL−プロリンを含有する食塩組成物についても意図している。
すなわち、本願第四の発明は、
「塩化ナトリウムとL−プロリンを含有する食塩組成物。」、である。
次に、前記食塩組成物においては塩化ナトリウム100重量部に対して、L−プロリンを1〜15重量部の割合で含有しているのが好ましい。
すなわち、本願第五の発明は
「塩化ナトリウム100重量部に対して、L−プロリンを1〜15重量部含有する食塩組成物。」、である。
【0009】
次に、本発明者らは、加工食品全体において、食塩とL−プロリンが請求項3に記載の含量となっている場合も意図している。
すなわち、本願第六の発明は、
「食塩及びL−プロリンを含有する加工食品であって、前記含有量について食塩100重量部に対してL−プロリン1〜15重量部の割合で含有することとなる加工食品。」、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明を利用することで、塩化ナトリウム由来の自然な塩味を増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明はこれらの実施の形態に限定されないことは勿論である
【0012】
─対象食品─
本発明の対象とする食品は、加工食品や生鮮食品の固形食品、飲料等の液状食品のあらゆる食品を対象とすることが可能である。特に、加工食品において好適に用いることができる。
【0013】
─塩味増強剤─
本発明にいう塩味増強剤とは、それ自身で塩味を呈することはないが、同時に存在している塩化ナトリウム(食塩)の塩味を増強する効果を有する物質をいう。また、本発明にいう塩味増強方法とは、同時に存在している塩化ナトリウムの塩味を増強する方法をいう。本発明においては、L−プロリンを含有することを特徴とする。
【0014】
─L−プロリン─
本発明の塩味増強剤はL−プロリンを含有することを特徴とする。L-プロリンとはタンパク質を構成するアミノ酸であり、環状構造を持つアミンでもある。
【0015】
─塩味増強剤に含有する他の成分─
本発明の塩味増強剤は、上記のL−プロリンを含有することを必須とするが、他に無機塩や有機酸を含有していてもよい。例えば、無機塩としては、硫酸マグネシウム等が挙げられる。また、有機酸としては、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
尚、本発明においては無機塩として塩化カリウムの使用を前提としないが、積極的に塩化カリウムを含有しないという意味ではない。例えば、加工食品であると、複数の素材から構成されるものであるため、すなわち、食品素材等より持ち込まれる塩化カリウムが存在する場合があることは勿論である。
【0016】
─塩味増強方法─
本発明においては、L−プロリンを用いた塩味増強方法についても意図している。本発明の塩味増強方法は、食品中にL−プロリンと塩化ナトリウムを併存させることによって塩味増強の効果を発揮する方法である。
尚、塩化ナトリウムとL−プロリンを併存させる方法としては、特に限定されず、実際に喫食する際に塩化ナトリウムとL−プロリンの両者が併存する状態となれば充分である。このため、塩化ナトリウムとL−プロリンが別々の食品成分に含まれており、喫食時に両者が混合され同時に喫食される等の場合も勿論可能である。
【0017】
─食塩組成物─
本発明においては、食塩とL−プロリンを含有する食塩組成物も意図している。すなわち、食塩とL−プロリンを含有する食塩組成物としておくことで、当該食塩組成物を加工食品の製造や料理に用いることで、食塩とプロリンを密接に存在させておくことができる。従って、このような食塩組成物としておき、当該食塩組成物を使用することで喫食時に両者の併存させた状態を無理なく実現することができる。
【0018】
─塩味増強剤と塩化ナトリウムの存在比又は含有比─
本発明の塩味増強剤と塩化ナトリウムの存在比又は含有比の関係については、塩化ナトリウム100重量部に対して1〜15重量部の存在比又は含有比であると好適である。また、さらに好ましくは、塩化ナトリウム100重量部に対して5〜10重量部である。本発明においては、上記の存在比又は含有比となるように意図的に塩化ナトリウムとL−プロリンを添加する方法が好適に利用される。
【0019】
─本発明の食品中での具体的な形態─
本発明においては上記のように、塩化ナトリウムの塩味をL−プロリンが増強するという形態を有する。
具体的な使用方法としては特に限定されず、喫食時に各成分が併存するように各食品を構成しておけばよい。すなわち、液体に溶解している状態であってもよいし、粉末等の固形の状態であってもよい。また、摂取時の形態についても液体・個体は特に限定されない。
【0020】
─塩化ナトリウムとL−プロリンの調整方法─
本願発明の好適な存在比(含量比)について、加工食品に利用する場合には、本発明の塩化ナトリウムとL−プロリンを含有する食塩組成物を加工食品の原料の食塩に置き換えて用いればよいが、食塩組成物として混合済みのタイプを用いる以外に、加工食品の製造過程で塩化ナトリウムとL−プロリンを別々に添加して、結果的に加工食品中に本発明の食塩組成物が含有されるようにして、機能させることもできる。
具体的に麺類やパン類等の穀物加工品を例に取ると、生地を練るための練り水に、前記の好適な含有比で混合された食塩組成物を同時添加する方法以外に、例えば、塩化ナトリウムだけを練り水に溶解しておき、L−プロリンについては、先に小麦粉等原料粉にそのまま粉体で混合しておいて、結果的に併用する等の方法も可能である。
【0021】
─塩化ナトリウムとL−プロリンの混合方法─
塩化ナトリウムとL−プロリンをそれぞれ粉体で混合して本発明の食塩組成物とする場合には、より均一に混合するために、リボンミキサー等を用いてよく混合すること、及び粒度等によってムラが生じないように、微粉末化し粒度を揃えておくか、適宜油脂などを加えて分級しないようにするのがよい。あるいは、塩化ナトリウムとL−プロリンを水に溶解して均一化し、これを噴霧乾燥等によって乾燥して、粉末又は顆粒状の混合物(食塩組成物)とすることもできる。
【0022】
また、本発明の食塩組成物は、前記のように、塩化ナトリウムとL−プロリンを配合して混合して、そのまま食塩組成物として用いることもできる。また、さらにその他の成分を配合することもできる。
例えば、商品形態を食卓塩とする場合、通常の食卓塩中の食塩の一部のみを本発明の食塩組成物と置換して、本発明の食塩組成物と食塩との混合品とすることもできる。また、その他、塩味増強効果や、塩化カリウムのマスキング効果が知られている物質、例えば、塩化マグネシウムやクエン酸三カリウム等を少量添加することもできる。あるいは、造粒するために、デキストリン等の賦形剤を配合して、各種造粒法によって粒状化することもできる。
【0023】
本発明の食塩組成物は、食塩の代わりに用いられ、前記の食卓塩の他、加工食品の原料として用いられる。加工食品としては、食塩を用いるあらゆる食品、例えば、醤油、味噌、ソース等の調味料や、ダシのもとや麺つゆ、タレ、ルー、ドレッシング等の食品の味付けに用いる調味食品の他、麺類やパン、スナック菓子等の穀類加工品、ハムソーセージ、魚肉練製品等の蓄肉魚肉加工品、スープ、漬物、惣菜類等、食塩を用いるあらゆる食品に使用できる。使用方法としては、前記各加工食品の製造方法の常法において、使用される食塩に替えて用いればよい。
【0024】
─具体的な食品に使用する場合─
例えば、即席麺に用いられる粉末スープの場合、原料となる各種粉末エキス、粉末醤油、調味料、香料、甘味料、食塩等とともに、本発明の塩化ナトリウムと、L−プロリンを、それぞれ塩化ナトリウム100重量部に対して、L−プロリンを1〜15重量部添加し、粉体混合する等の製造方法が例示できる。
また、このように配合したものを水等に溶解した後、これを噴霧乾燥して一体化、粉末化する方法や、加水及び賦形剤等を付加しスラリー状にし、押出し造粒等によって一体化、顆粒化することもできる。また、前記各種粉末エキス、調味料等とともに本発明の食塩組成物を混合しながら、流動層造粒法によって顆粒化して、一体化した顆粒状のスープとすることもできる。
【0025】
─即席麺のスープに本発明を利用する場合─
即席麺に用いられるスープであると、和風系(うどん、そば)、しょうゆ系(ラーメン)、塩系(ラーメン)、みそ系(ラーメン)、とんこつ系(ラーメン)等の種類のスープが挙げられる。
ここで、和風系(うどん、そば)、しょうゆ系(ラーメン)、塩系(ラーメン)のスープについて塩分低減の目的で乳成分を添加した場合、乳成分の色、香り、風味がスープに付与されてしまう。このため、乳成分の使用が困難であるという問題があった。特に“和風系”がもっとも乳成分の悪影響が大きく、その次に、“しょうゆ系”、さらに“塩系”の順にこの問題が生じている。
一方、本発明を利用すれば、乳成分を対象スープに持ち込むことがないため、このような乳成分を使用することが困難なスープにおいても塩味を増強することによって、塩分を低減することができる。
【0026】
また、乳成分を添加するとスープが白濁化する場合がある。このため、本発明ついては、上記の各種スープのうち透明系のスープ(特に和風系、しょうゆ系、塩系のスープ)に好適に利用することができる。
尚、通常、即席麺のスープであると0.4〜1.5%程度の塩分濃度を有する。
このため、即席麺用のスープ(粉末及び/又は液体)一食分当たり、塩化ナトリウムを2.0〜6.0g、L−プロリンを0.05〜0.6g程度(0.8%〜30%)程度を含有させる方法が有効である。
また、本発明を利用して塩味を増強することによって、通常の塩分濃度の5〜15%程度低減したスープとすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例を記載する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<試験例1> 塩化ナトリウムとL−プロリンの含量比(存在比)の検討
塩化ナトリウム100gに対してプロリンの最適含量を検討するために、種々の量を添加してその塩味評価を行った。また、L−プロリンを添加していくと甘みを呈するため当該甘味の評価も行った。さらに、前記の塩味評価と甘味評価を総合して総合評価を行った。また、これと共に塩味増強率を計算した。
試験方法は以下のように行った。塩化ナトリウム(食塩)100gに表1に記載のように各添加量のL−プロリン(MCフードスペシャリティーズ株式会社製)を混合して、900mlのお湯を注いで溶解させて、熟練のスープ開発担当者5名において官能評価に供した。
塩味評価は、各実施例及び比較例を喫食した際に、塩味を強く感じるものの順番に1〜5の五段階で評価した。
甘味評価は、各実施例及び比較例を喫食した際に、甘味を強く感じるものの順番に1〜5の五段階で評価した。
総合評価は、塩味評価と甘味評価を総合して(×(不可)、○(可)、◎(良)、◎(最良))の四段階で評価した。
また、塩味増強率は、プロリンを添加した場合に感じる各実施例の塩味について、プロリンを添加せずに、当該増強された塩味と同等の塩味にしようとした場合、必要となる追加する塩の重量(X)と、もとに添加していた塩の量(Y)を用いて、X/Yとして計算した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
プロリンによる塩味増強効果が確認できた。
【0030】
<試験例2> 各社の塩味増強剤と本発明の効果の比較
各社の塩味増強剤と、本発明の塩味増強効果との比較を行った。X社〜W社はそれぞれ国内の塩味増強剤を販売するメーカーであり、各社が販売する塩味増強剤(減塩素材)と本発明の塩味増強について比較した。
試験方法は以下のように行った。塩化ナトリウム(食塩)100gに表1に記載のように各添加量のL−プロリン(MCフードスペシャリティーズ株式会社製)を混合して、900mlのお湯を注いで溶解させて、熟練のスープ開発担当者5名において官能評価に供した。
また、官能評価においては、以下の評価項目について判断した。
・先味の強さ(喫食直後に感じる立ち上がりの味の部分の強度)
・中味の強さ(前記先味の後に持続的に感じる味の部分の強度)
・味の自然さ(塩化ナトリウムの塩味を基準として、当該塩化ナトリウムの塩味に比較して、苦み等の違和感を感じる程度)
のそれぞれとこれらの総合評価をそれぞれ、三段階(×(無し)、△(微少)、○(良好))で評価した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
L−プロリンに対比として各社の塩味増強剤を比較すると、L−プロリンの方が、先味、中味、味の自然さのいずれにおいても各社の塩味増強剤よりも優れていた。