(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
安定剤がヒンダードフェノール系安定剤を含み、該ヒンダードフェノール系安定剤の配合量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.01〜0.5質量部である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
安定剤がリン系安定剤を含み、該リン系安定剤の配合量が、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.01〜0.1質量部である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
さらに、紫外線吸収剤を、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.01〜1質量部、離型剤を、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し0.01〜0.5質量部配合する請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
押出成形する際、押出成形機のポリカーボネート樹脂組成物の投入口に不活性ガスを導入しながら成形することを特徴とする、請求項9又は10に記載のポリカーボネート樹脂成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
なお、本願明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂、好ましくは安定剤とともに押出機によって混練するにあたり、押出機の原料投入口に不活性ガスを、単位時間あたりの押出機に供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料量F[kg/hr]と不活性ガス量G[L/min]の比が0.005≦G/F≦0.2となるように導入しながら、混練することを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に用いるポリカーボネート樹脂は、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む。
【化6】
(一般式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜20のアルキル基又は置換若しくは無置換のアリール基を示し、Xは、
【化7】
のいずれかを示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Zは炭素原子(C)と結合して置換基を有していてもよい炭素数6〜12の脂環式炭化水素を形成する基を示す。)
【0018】
一般式(1)において、R
1及びR
2の、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられ、置換若しくは無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、4−メチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、R
1及びR
2は、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、4−メチルフェニル基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0020】
また、一般式(1)におけるR
1、R
2の結合位置は、好ましくはXに対して、5位である。
【0021】
一般式(1)において、XのR
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示すが、メチル基が好ましく、特にはR
3及びR
4がメチル基であるイソプロピリデン基が好ましい。
Zは、一般式(1)において、2個のフェニル基と結合する炭素原子と結合して、置換若しくは無置換の二価の炭素数6〜12の脂環式炭素水素を形成する。二価の脂環式炭素環としては、例えば、シクロペンチリデン基、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基又はアダマンチリデン基等のシクロアルキリデン基(好ましくは炭素数4〜炭素数12)が挙げられ、置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シクロヘキシリデン基のメチル置換体、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0022】
一般式(1)で表される化合物として、例えば、下記式(1a)や(1b)等のビスフェノール化合物が好ましく挙げられる。
【化8】
【化9】
【0023】
これらの中でも、式(1a)に示すビスフェノールC(以下、「BPC」と記載する場合がある。)が特に好ましい。
【0024】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、その末端ヒドロキシ基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼすため、ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量が、100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは、200質量ppm以上、さらに好ましくは400質量ppm以上、最も好ましくは500質量ppm以上である。但し、通常1,500質量ppm以下、好ましくは1,300質量ppm以下、さらに好ましくは1,200質量ppm以下、最も好ましくは1,000質量ppm以下である。ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量が過度に小さいと、成形時の初期色相が悪化する傾向がある。末端ヒドロキシ基量が過度に大きいと、滞留熱安定性や耐湿熱性が低下する傾向がある。
なお、ポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシ基量は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定される値である。
【0025】
また、ポリカーボネート樹脂は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)が、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、Mw/Mnは、3.0以上4.0以下の範囲がより好ましい。Mw/Mnが過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、Mw/Mnが過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0026】
また、ポリカーボネート樹脂は、JIS K5600−5−4(1999年)に準拠した鉛筆硬度が、HB以上であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、より好ましくは、F以上であり、さらに好ましくはH以上であり、最も好ましくは2H以上である。但し、通常、3H以下である。鉛筆硬度がHB未満のポリカーボネート樹脂では表面が傷つきやすく、従来のビスフェノールA型のポリカーボネート樹脂では鉛筆硬度は2Bであり不十分である。
【0027】
また、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常12,000以上、好ましくは15,000以上、より好ましくは18,000以上、特に好ましくは20,000以上、最も好ましくは22,000以上である。また、通常100,000以下、好ましくは50,000以下、より好ましくは35,000以下、特に好ましくは30,000以下である。粘度平均分子量が低すぎると機械的物性が低下したり、フィルムやシートを成形する際、溶融粘度が下がり垂れ落ちが発生し、外観不良や製造トラブルにつながる虞がある。また、粘度平均分子量が高すぎると、溶融粘度が高くなりすぎるため押出機や押出成形機に過剰な負荷がかかったり、押出機や押出成形機内の樹脂温度が上がりゲル状異物や焼けにつながり、異物量が多くなる虞がある。
なお、粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解(濃度6.0g/L)した溶液を用い、ウベローデ粘度管により20℃における比粘度(η
sp)を測定し、下記の式により算出される値である。
η
sp/C=[η](1+0.28η
sp)
[η]=1.23×10
−4Mv
0.83
【0028】
また、ポリカーボネート樹脂は、そのガラス転移温度が145℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、135℃以下であることがさらに好ましい。また110℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が低すぎると耐熱温度が低くなるため、高温下で変形するなどの実用上の問題が発生する虞がある。また、ガラス転移温度が高すぎると、溶融混練する際に過剰に加熱しなければならず、ゲル状異物や焼けにつながり、異物量が多くなる虞がある。
なお、本発明において、ガラス移転温度とは、示差走査熱量測定:Differential scanning calorimetry(DSC)を用い、窒素気流下、室温から10℃/分の速度で昇温した際の変曲点の温度をいう。
【0029】
ポリカーボネート樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記一般式(1)で示される化合物に由来する構造単位以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、「その他の構造単位」と称す。)を含むこともでき、例えば、下記一般式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(例えば、ビスフェノール−A由来の構造単位)、あるいは後述するような他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有していてもよい。
【化10】
(一般式(2)中、Xは一般式(1)におけるXと同義である。)
【0030】
上記一般式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来するポリカーボネート構造単位の好ましい具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノール−A由来のカーボネート構造単位である。
【0031】
ポリカーボネート樹脂は、一般式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外のその他の構造単位を有していてもよい。一般式(2)で表される構造単位以外のその他の構造単位の含有割合は、ポリカーボネート樹脂中の通常50質量%未満、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましく20質量%以下であり、10質量%以下、なかでも5質量%以下が最も好ましい。
【0032】
一般式(2)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外のその他の構造単位としては、例えば、以下のようなジヒドロキシ化合物由来の構造単位を挙げることができる。
例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−6−メチル−3−tert−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂が、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構造単位以外の構造単位を含む場合、一般式(1)で表される化合物由来の構造単位とその他の構造単位を有する共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいし、一般式(1)で表される化合物由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂とその他の構造単位を有するポリカーボネート樹脂との混合物であってもよい。
ポリカーボネート樹脂中の一般式(1)で表される化合物に由来する構造単位の含有割合は、10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、なかでも40質量%以上、とりわけ50質量%以上が特に好ましい。また、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。一般式(1)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が多すぎると、ゲル状異物や焼けがより多く発生する虞がある。また、一般式(1)で表される化合物に由来する構造単位の含有量が少なすぎると表面硬度が低下する虞がある。
【0034】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂が、前記一般式(1)で表される化合物由来の構造単位を有するポリカーボネート樹脂(1)と、前記一般式(2)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(2)の混合物であることが、色調が良化し、表面硬度が向上する傾向となり好ましい。
ポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート樹脂(1)及びポリカーボネート樹脂(2)の混合物を用いる場合の含有割合は、両者の質量比で、ポリカーボネート樹脂(1)/ポリカーボネート樹脂(2)=95/5〜30/70であることが好ましく、90/10〜40/60であることがより好ましく、87/13〜50/50がさらに好ましく、85/15〜60/40が特に好ましい。このような含有割合とすることにより、ゲル状異物や焼けが低減され、表面硬度が高く、耐衝撃性、耐熱性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることが容易となる。ポリカーボネート樹脂(1)の上記質量比が30を下回ると表面硬度が低下する虞がある。一方、質量比が95を超えるとゲル状異物や焼けがより多く発生する虞がある。
【0035】
ポリカーボネート樹脂(1)の粘度平均分子量(Mv)は、15,000〜30,000であることが好ましく、18,000〜29,000がより好ましく、20,000〜27,000がさらに好ましい。粘度平均分子量が低すぎると、機械的物性が低下したり、フィルムやシートを成形する際、溶融粘度が下がり垂れ落ちが発生し、外観不良や製造トラブルにつながる虞がある。また、粘度平均分子量が高すぎると、溶融粘度が高くなりすぎるため押出機や押出成形機に過剰な負荷がかかったり、押出機や押出成形機内の樹脂温度が上がりゲル状異物や焼けにつながり、流動性が低下し、異物量が多くなる虞がある。
また、ポリカーボネート樹脂(2)の粘度平均分子量(Mv)は、12,000〜30,000であることが好ましく、14,000〜28,000がより好ましく、16,000〜26,000がさらに好ましい。粘度平均分子量が低すぎると、機械的物性が低下したり、フィルムやシートを成形する際、溶融粘度が下がり垂れ落ちが発生し、外観不良や製造トラブルにつながる虞がある。また、粘度平均分子量が高すぎると、溶融粘度が高くなりすぎるため押出機や押出成形機に過剰な負荷がかかったり、押出機や押出成形機内の樹脂温度が上がりゲル状異物や焼けにつながり、流動性が低下し、異物量が多くなる虞がある。
【0036】
ポリカーボネート樹脂(1)、(2)の、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)は、3.0以上5.0以下の範囲であることが好ましい。さらに、Mw/Mnは、3.0以上4.0以下の範囲がより好ましい。Mw/Mnが過度に小さいと、溶融状態での流動性が増大し成形性が低下する傾向にある。一方、Mw/Mnが過度に大きいと、溶融粘度が増大し成形困難となる傾向がある。
【0037】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂(1)は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの溶融重合法により得られたものであることが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂(1)の末端ヒドロキシ基量は、熱安定性、加水分解安定性、色調等の点から、100質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは200質量ppm以上、さらに好ましくは400質量ppm以上、最も好ましくは500質量ppm以上である。但し、通常1,500質量ppm以下、好ましくは1,300質量ppm以下、さらに好ましくは1,200質量ppm以下、最も好ましくは1,000質量ppm以下である。ポリカーボネート樹脂(1)の末端ヒドロキシ基量が過度に小さいと、成形時の初期色相が悪化する傾向がある。末端ヒドロキシ基量が過度に大きいと、滞留熱安定性や耐湿熱性が低下する傾向がある。
【0038】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂を製造する方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融重合法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
【0039】
・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0040】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0041】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0042】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族第三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0043】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。
このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0044】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0045】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0046】
・溶融重合法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融重合法(溶融エステル交換法)で製造する場合について説明する。溶融重合交換法では、例えば、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応を行う。
【0047】
芳香族ジヒドロキシ化合物は、それぞれ前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネートが挙げられる。なかでも、ジアリールカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0048】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端ヒドロキシ基量を好適な範囲に調整できる。
【0049】
ポリカーボネート樹脂では、その末端ヒドロキシ基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端ヒドロキシ基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端ヒドロキシ基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0050】
炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端ヒドロキシ基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0051】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0052】
溶融重合法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下(267Pa以下)の減圧条件である。具体的操作としては、この範囲の条件で、ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0053】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0054】
溶融重合法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1質量ppm以上であり、また、通常100質量ppm以下、好ましくは20質量ppm以下である。
【0055】
また、本発明においては、ポリカーボネート樹脂中、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上がフレーク状の粉末であることが好ましく、上限は好ましくは25質量%、より好ましくは20質量%、さらに好ましくは15質量%である。このような割合でフレーク状の粉末を含むことにより、ポリカーボネート樹脂組成物製造時の、必要に応じて配合される添加剤成分の分級を防ぎ、未溶融物の発生や添加剤の凝集等を抑制し、透明性に優れ、異物の少ない成形品が得られやすい傾向にある。フレーク状粉末の平均粒径は、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。
フレーク状の粉末以外のポリカーボネート樹脂としては、ペレット状のものが好ましい。ペレット長さは好ましくは1〜5mm、より好ましくは2〜4mmであり、断面が楕円形の場合は長径が2〜3.5mm、短径が1〜2.5mm、断面が円形の場合は直径2〜3mmのものが好ましい。ペレットの長さや断面形状は、ポリカーボネート樹脂製造時のストランドカッターの刃の回転数、巻き取り速度、押出機の吐出量により調整することができる。
【0056】
[安定剤]
本発明においては、ポリカーボネート樹脂とともに安定剤を溶融混練することが、熱安定性、湿熱安定性、異物発生抑制の点から好ましい。本発明の製造方法に使用する安定剤としては、各種の安定剤を用いることができるが、ヒンダードフェノール系安定剤やリン系安定剤が好ましい。
【0057】
[ヒンダードフェノール系安定剤]
ヒンダードフェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0058】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系安定剤としては、具体的には、例えば、BASF社製、商品名(以下同じ)「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0059】
ヒンダードフェノール系安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上であり、また、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。0.01質量部未満の場合は、熱安定性、湿熱安定性が低下し成形品に異物が発生したり、色相が悪化する場合があり、0.5質量部を超える場合は、成形時にガスが発生して成形品の外観不良が発生する場合があり好ましくない。
【0060】
[リン系安定剤]
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0061】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製商品名(以下同じ)「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、BASF社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
【0062】
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種類以上を混合して配合することができるが、リン系安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜0.5質量部であって、より好ましくは0.02〜0.1質量部である。0.01質量部未満では安定剤としての効果が不十分であり、成形時の分子量の低下や色相悪化、特に高温度下、高湿熱下での黄変や異物発生が起こりやすく、また0.1質量部を超えると、分子量の低下、色相悪化が更に起こりやすくなる。
【0063】
安定剤としては、上記のヒンダードフェノール系安定剤とリン系安定剤の両方を添加することがより好ましい。ヒンダードフェノール系安定剤は上記した一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が押出機内で酸化し変質することを防ぐと推定され、リン系安定剤は上記した一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が酸化、変質した後に、ゲル状異物や焼けに成長することを防ぐと推定される。これらの安定剤の組み合わせは、本発明の不活性ガスを特定の範囲で導入する方法において顕著に効果を発揮する。これは、本発明の不活性ガスを特定の範囲で導入する方法により、上記した一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂の酸化や変質が大幅に低減される上に、さらに、ごく僅かに発生する酸化、変質物がゲル状異物や焼けへ成長するのを、これらの安定剤で効率的に抑えることができるためと推定される。
【0064】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、上記した一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を、好ましくは安定剤とともに押出機によって混練する際、押出機の原料投入口に不活性ガスを、単位時間あたりの押出機に供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料量F[kg/hr]と不活性ガス量G[L/min]の比が0.005≦G/F≦0.2となるように導入しながら、混練するものである。
【0065】
以下、図面を用いて具体的な例につき説明する。
図1は、本発明に適用可能な押出機の構成の一例を示す概略断面図である。
原料の前記ポリカーボネート樹脂は、原料供給機1に貯蔵され、そこからフィーダー2(定量供給機または定容供給機)によって、内部にスクリュー3を有する押出機5上に設置されたホッパー4に供給される。フィーダー2とホッパー4は、ホッパーシュート7で連結されていることが好ましい。ホッパー4の底部は押出機5の上流側に設けられた押出機の原料投入口6に接続されており、原料のポリカーボネート樹脂は、ホッパーシュート7及びホッパー4から原料投入口6を通じて押出機5内に順次供給され、押出機5の外周部に配設されたバンドヒーター(図示しない)により加熱されると共に、スクリュー3の回転により搬送されつつ混練され、押出ダイにて押出され、冷却され、カッティングマシーン(図示しない)により裁断されてポリカーボネート樹脂組成物のペレットとされる。押出機には、脱気のために、ベント口8が設けられていることが好ましい。
【0066】
ポリカーボネート樹脂と任意で添加される添加剤の混合は押出機に投入される前の任意の段階で行うことができる。例えば、タンブラー、ヘンシェルミキサー、ブレンダーによって全成分を配合したのち、必要に応じてフィーダー2を介してホッパー4又はホッパーシュート7に投入し、押出機5に供給してもよい。押出機には一軸押出機、二軸押出機などが使用出来る。また、任意で添加される添加剤はポリカーボネート樹脂とは別経路でホッパー4又はホッパーシュート7に供給してもよい。このとき添加剤は、単独で供給してもよく、他の添加剤と混合した状態で供給してもよい。
【0067】
本発明においては、押出機の原料投入口6に不活性ガスを導入する。原料投入口6に不活性ガスを導入する方法は、特に制限はないが、例えば、原料投入口6近傍にガスの導入口を設け、原料投入口6に直接不活性ガスを導入する方法、原料ホッパー4に不活性ガスの導入口を設け、ホッパー4から原料投入口に至る部位を不活性ガスで充填する方法、ホッパーシュート7の上部からホッパー4に向けて不活性ガスを導入する方法、ホッパーシュート7の途中にガスの導入口を設け不活性ガスを導入する方法等が挙げられる。
中でも、ホッパー4下に位置する原料投入口6の近傍にガス導入口(図示しない)を設け不活性ガスを導入する方法が、押出機に原料が供給される直前に原料が不活性ガスと接することとなり、また、ホッパー下部の雰囲気中に占める不活性ガスの濃度が、押出機の運転可能な範囲においてより高く維持されるため好ましい。
不活性ガスの導入口はホッパー4側に設けてもよいし、押出機本体側から取り付けられていてもよい。不活性ガスを流す方向は、落下するポリカーボネート樹脂組成物原料に対し上向きに向流状態にすることが好ましい。また、ホッパー4は、その内部雰囲気の不活性ガス濃度を高く維持する程度の気密性を有することが好ましい。また、不活性ガスの導入口は二か所以上に取り付けられていてもよい。
【0068】
ホッパーシュート7の長さは、特に限定はないが、50cm以上が好ましく、1m以上がより好ましく、1.5m以上がさらに好ましい。このような長さのホッパーシュート7を設けることにより、ポリカーボネート樹脂組成物原料が、分散した状態で不活性ガスと接する時間がより長くなり、原料が含む空気と不活性ガスとの置換がより進行し、本発明の異物低減効果がより顕著となり、好ましい。
ホッパーシュート7の材質は、特に制限はなく、ステンレス鋼等の金属であってもよいし、ポリエチレン等の樹脂であってもよいが、本発明においては、ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0069】
そして、本発明においては、単位時間あたりの押出機に供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料量F[kg/hr]と不活性ガス量G[L/min]の比が0.005≦G/F≦0.2の範囲となるようすることが必要である。G/Fが0.005を下回ると異物の発生を減少させることが困難であり、G/Fが0.2を超えるとポリカーボネート樹脂原料の供給が安定せず、得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質が安定しなかったり、押出機の運転が困難となる虞がある。G/Fは、好ましくは0.009以上、より好ましくは0.02以上であり、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下、中でも0.1以下とすることが好ましい。このような範囲でポリカーボネート樹脂と不活性ガスを押出機に供給することにより、ホッパー4及びホッパーシュート7内で置換された空気を排出させつつ、内部雰囲気の酸素濃度をより低い状態で維持できるため、シート又はフィルム等の成形品に異物が発生しにくく、より好ましい。なお、ガラス繊維等の無機充填材を押出機の途中からサイドフィードする場合は、サイドフィードされるこれらの原料は、原料量Fには含めない。
【0070】
ホッパー4内(ホッパーの中央部)の酸素濃度としては、好ましくは20容量%以下、より好ましくは10容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下、最も好ましくは1容量%以下であり、好ましくは0.01容量%以上、より好ましくは0.1容量%以上、最も好ましくは0.5%容量以上である。ホッパー4内の酸素濃度が高すぎると、ゲル状異物や焼けの発生を十分に抑えることができない虞があり好ましくない。また、ホッパー4内の酸素濃度が低すぎると、過剰な不活性ガス量を供給する必要が生じ、ポリカーボネート樹脂原料の供給が安定せず、得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質が安定しなかったり、押出機の運転が困難となる虞があり好ましくない。
【0071】
不活性ガスとしては、窒素ガス、二酸化炭素ガス、希ガス等が挙げられるが、窒素ガスが好ましく用いられる。不活性ガスは、上記G/Fの範囲にある限り、連続して供給してもよいし、間欠的に供給してもよい。
【0072】
本発明で用いる押出機としては、一軸押出機でも二軸押出機でよいが、二軸押出機が好ましい。また、本発明で用いる押出機としては、ベント式であるものも好ましい。ベントの数は1箇所でも2箇所以上であってもよい。製造中のベントの減圧度は、好ましくは−0.01MPa以下、より好ましくは−0.05MPa以下、最も好ましくは−0.1MPa以下である。ベント減圧度が高すぎると、樹脂内部からの脱揮が不十分となり、ストランドに気泡が生じてストランド切れが起こる虞があり好ましくない。ベント減圧度が低すぎると樹脂がベントアップしやすくなり、安定的な製造が困難となる虞があり好ましくない。
【0073】
押出機のスクリューのL/Dとしては、10〜80が好ましく、より好ましくは15〜70、さらに好ましくは20〜60である。押出機のスクリューのL/Dが小さすぎると混練不足となり、得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質が安定しなくなる虞があり好ましくない。押出機のスクリューのL/Dが大きすぎると、押出機内での滞留時間が長くなったり、樹脂温度が上昇したりするため、ゲル状異物や焼けが生成する虞があり好ましくない。
【0074】
本発明で用いる押出機には、必要に応じてフィルターを用いることが好ましい。フィルターとしては、キャンドルフィルター、リーフフィルター、スクリーンチェンジャー式メッシュフィルターなどが好適に用いられる。なお、本発明の製造方法を用いることにより、ゲル状異物や焼けを低減可能であるが、更にごくわずかな異物原因(微細な埃、外部混入物)などを除くためには、フィルターを併用する方が良い場合もある。但し、フィルターのみの使用では、特にゲル状異物を十分に除くことは困難である。
【0075】
溶融混練時の樹脂温度としては、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂は高温状態にあるとゲル化したり焼けを起こしやすいので、押出機の出口における樹脂温度で340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下がさらに好ましく、通常240℃以上、好ましくは260℃以上である。このような樹脂温度となるように混練することにより、異物の発生をより抑制し、また、混練性と機械的物性とを良好に維持しやすくなる。
【0076】
[その他の添加剤]
本発明の製造方法には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記した安定剤以外に、更に種々の添加剤を使用していても良い。このような添加剤としては、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤、染顔料、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0077】
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、得られるポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0078】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等がこのましく挙げられる。
【0079】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が好ましく挙げられる。
【0080】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が好ましく挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が好ましく挙げられる。
トリアジン化合物としては、例えば1,3,5−トリアジン骨格を有する化合物等が挙げられる。
【0081】
オギザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が好ましく挙げられる。
【0082】
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく挙げられ、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。
【0083】
紫外線吸収剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。0.01質量部未満の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、2質量部を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0084】
・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0085】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0086】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族又は脂環式飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。
【0087】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0088】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0089】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
【0090】
離型剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜0.5質量部、より好ましくは0.05〜0.3質量部である。0.01質量部未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、0.5質量部を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0091】
[成形品]
本発明の方法で得られたポリカーボネート樹脂組成物は、ペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して各種の成形品を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
【0092】
成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
成形品の製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。中でも、射出成形法、押出成形法を採用することが好ましい。特に、押出成形法を採用し、シートやフィルムを製造する場合に、異物低減効果が大きく発現する。
【0093】
シートやフィルム等を製造する場合には、本発明の製造方法により得られたポリカーボネート樹脂組成物を、押出成形機にてシート又はフィルム状に成形することが好ましく、その際には、ポリカーボネート樹脂組成物の製造の際と同様に、押出機のポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)の投入口に不活性ガスを導入することが好ましい。不活性ガスを導入しながらシートやフィルムを押出成形する方法については、後述する。
【0094】
本発明のもう一つの態様は、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物を、押出成形機を用いてシート又はフィルムを成形する方法であって、押出成形機の原料投入口に不活性ガスを、単位時間あたりの押出成形機に供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料量F’[kg/hr]と不活性ガス量G’[L/min]の比が0.005≦G’/F’≦0.2となるように導入する方法に関する。
G’/F’が0.005を下回ると異物の発生を減少させることが困難であり、G’/F’が0.2を超えるとポリカーボネート樹脂組成物の供給が安定せず、得られるポリカーボネートシート及びポリカーボネートフィルムの品質が安定しなかったり、押出成形機の運転が困難となる虞がある。G’/F’は、好ましくは0.009以上、より好ましくは0.02以上であり、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下、中でも0.1以下とすることが好ましい。このような範囲でポリカーボネート樹脂組成物と不活性ガスを押出機に供給することにより、ホッパー及びホッパーシュート内で置換された空気を排出させつつ、内部雰囲気の酸素濃度をより低い状態で維持できるため、シート又はフィルム等の成形品に異物が発生しにくく、より好ましい。
【0095】
ホッパー内(ホッパーの中央部)の酸素濃度としては、好ましくは20容量%以下、より好ましくは10容量%以下、さらに好ましくは5容量%以下、最も好ましくは1容量%以下であり、好ましくは0.01容量%以上、より好ましくは0.1容量%以上、最も好ましくは0.5%容量以上である。ホッパー内の酸素濃度が高すぎると、ゲル状異物や焼けの発生を十分に抑えることができない虞があり好ましくない。また、ホッパー内の酸素濃度が低すぎると、過剰な不活性ガス量を供給する必要が生じ、ポリカーボネート樹脂原料の供給が安定せず、得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質が安定しなかったり、押出機の運転が困難となる虞があり好ましくない。
【0096】
不活性ガスとしては、窒素ガス、二酸化炭素ガス、希ガス等が挙げられるが、窒素ガスが好ましく用いられる。不活性ガスは、好ましくは上記G’/F’となるように、連続して供給してもよいし、間欠的に供給してもよい。
【0097】
押出成形用の押出機は、単軸、二軸以上の多軸、ベント口、ベント口なしのいずれの押出機でもよい。ポリカーボネート樹脂組成物原料を加熱溶融させ押し出すスクリューについても特に制限はなく、フルフライトスクリュー、各種ミキシング機能付きスクリュー、多段スクリュー等のいずれでも構わない。樹脂組成物をシート又はフィルム状に拡幅するダイについても特に制限はなく、例えば、フィッシュテール型Tダイ、コートハンガー型Tダイ、ストレートマニホールド型Tダイ、積層ダイ等が挙げられる。
【0098】
中でも、本発明で用いる押出成形機としてはベント式であることが好ましい。ベントの数は1箇所でも2箇所以上であってもよい。また製造中のベントの減圧度は、好ましくは−0.01MPa以下、より好ましくは−0.05MPa以下、最も好ましくは−0.1MPa以下である。ベント減圧度が高すぎると、樹脂内部からの脱揮が不十分となり、気泡が生じて外観不良が発生する虞があり好ましくない。ベント減圧度が低すぎると樹脂がベントアップしやすくなり、安定的に製造が困難となる虞があり好ましくない。
【0099】
押出成形機のスクリューのL/Dとしては、15〜30が好ましく、より好ましくは18〜28、さらに好ましくは20〜25である。押出成形機のスクリューのL/Dが小さすぎると混練不足となり、得られるポリカーボネートシート及びポリカーボネートフィルムの品質が安定しなくなる虞があり好ましくない。押出成形機のスクリューのL/Dが大きすぎると押出機内での滞留時間が長くなったり、樹脂温度が上昇したりするため、ゲル状異物や焼けが生成する虞があり好ましくない。
【0100】
本発明で用いる押出成形機には必要に応じてフィルターを用いることが好ましい。フィルターとしてはキャンドルフィルター、リーフフィルター、スクリーンチェンジャー式メッシュフィルターなどが好適に用いられる。なお、本発明の方法においては、ゲル状異物や焼けを低減可能であるが、更にごくわずかな異物原因(微細な埃、外部混入物)などを除くためにはフィルターを用いる方が良い場合もある。但し、フィルターのみの使用では異物、特にゲル状異物を十分に除くことは困難である。
【0101】
押出成形時の樹脂温度としては、前記一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂は高温状態にあるとゲル化したり焼けを起こしやすいので、押出成形機の出口における樹脂温度で320℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、280℃以下がさらに好ましく、通常220℃以上、好ましくは240℃以上である。このような樹脂温度とすることにより、異物の発生をより抑制し、また、安定的にポリカーボネートシートやポリカーボネートフィルムを製造しやすくなる。
【0102】
本発明の第2の態様においては、ポリカーボネートシートやポリカーボネートフィルムの押出成形の際に、前記した方法で不活性ガスを導入しながら押出成形しさえすればよいが、本発明の第1の態様に記載の製造方法により得られたポリカーボネート樹脂組成物を用いて、不活性ガスを導入しながらポリカーボネートシートやフィルムを押出成形することも好ましい一態様である。
【0103】
本発明により製造されるポリカーボネートシート及びポリカーボネートフィルムの厚みは、通常3〜2,000μm、好ましくは5〜1,000μmであり、より好ましくは20〜700μm、より好ましくは40〜500μm、さらに好ましくは50〜300μmである。このような厚みとすることにより、黄色度の低減や、透明性の向上、光学歪の低減等の光学特性が向上しやすいため好ましい。
【0104】
また、本発明により製造されるポリカーボネートシート及びポリカーボネートフィルムは、他の樹脂と積層した多層構造の積層体にも好適に用いられる。これらの多層ポリカーボネートシート及び多層ポリカーボネートフィルムの厚みは、通常3〜2,000μm、好ましくは5〜1,000μmであり、より好ましくは20〜700μm、より好ましくは40〜500μm、さらに好ましくは50〜300μmである。この時、製品の取り扱い上、傷が付く可能性がある面には、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物を用いることで、表面硬度が高く、傷が付きにくい多層ポリカーボネートシート及び多層ポリカーボネートフィルムが得られる。
【0105】
多層ポリカーボネートシート及び多層ポリカーボネートフィルムとする場合は、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物の層の厚みが通常3〜1,000μm、好ましくは10〜500μm、より好ましくは50〜300μm、最も好ましくは80〜200μmである。一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物の層の厚みが小さすぎると表面硬度が低くなり、傷が付きやすくなる虞がある。また、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物の層の厚みが大きすぎると、耐衝撃性が低下したり、ゲル状異物や焼け等が増えて外観不良となる虞があり好ましくない。
【0106】
本発明によれば、焼けや異物が少なく、表面硬度が高い優れた樹脂成形品及びポリカーボネートシートやポリカーボネートフィルムが得られるので、各種の用途、例えば、電気電子機器の筐体またはそのカバー、表示装置用部材または表示装置用カバー、保護具、車載用部品等に特に好適である。
【0107】
電気・電子機器の筐体またはそのカバーとしては、例えば、テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、オーディオプレーヤー、DVDプレーヤー、多機能携帯、スマートホン、PDA、タブレット型端末、パソコン、電卓、複写機、プリンター、ファクシミリ等の電気・電子機器の筐体またはカバーが挙げられる。
表示装置用部材としては、例えば、各種表示(ディスプレイ)装置(液晶パネル、タッチパネル)の構成部材等、また表示装置用カバーとしては、これら各種表示装置或いは、多機能携帯、スマートホン、PDA、タブレット型端末、パソコン等々の保護カバーや前面パネル等が、また例えば次世代電力計の表示部のカバー等も挙げられる。
透明保護具としては、例えば、ヘルメット等のフェイスカバー(フェイスガード)や透明シールド等が挙げられる。
また、車載用透明部品としては、例えば、グレージング、樹脂窓、ヘッドランプレンズ、カーナビ(カーオーディオ、カーAV等)の前面(外側)部材、筐体等、またコンソールボックス、センタークラスター、メータークラスターの前面部材等の自動車内装部品が挙げられる。
さらに、単層または多層の押出成形により単層または多層シート、フィルムとして、硬度・耐衝撃性・透明性が求められる用途(液晶表示装置部材、透明シート・フィルム、建材等)に好適である。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0109】
以下の実施例及び比較例で使用した原料は、下記表1の通りである。
なお、一般式(1)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂としては、以下の製造例1で製造したポリカーボネート樹脂(A1)を使用した。
【0110】
<ポリカーボネート樹脂(A1)の製造>
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.66モル(5.71kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積40リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(Cs
2CO
3)を、BPC1モルに対し1.5×10
−6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
【0111】
次に、反応器内を60分かけて温度を280℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに80分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は300℃、攪拌動力は0.90kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を二軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp−トルエンスルホン酸ブチルを二軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を二軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂のペレットを得た。得られたペレットの粘度平均分子量(Mv)は24,000、鉛筆硬度は2H、末端ヒドロキシ基量は800〜900質量ppmであった。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)、末端ヒドロキシ基量の測定方法は前述した通りである。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、ポリカーボネート樹脂及び得られたポリカーボネート樹脂組成物の鉛筆硬度は、下記の方法により評価した。
・ポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂組成物を、100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製J55AD−60H)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度70℃の条件下にて、厚み3mm、縦60mm、横60mmのポリカーボネート樹脂のプレート(成形品)又はポリカーボネート樹脂組成物のプレート(成形品)を射出成形した。この成形品について、JIS K5600−5−4(1999年)に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、1,000g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0114】
(実施例1)
図1に示すような構成からなる二軸スクリューベント式押出機(東芝機械社製TEM48SS、シリンダー長さ38D(Dはシリンダー内径))を使用し、溶融ゾーン25D、混練ゾーン4D、減圧ゾーン9Dのスクリューを用いて、表2に記載した条件にて混練を行った。なお、ポリカーボネート樹脂中のフレーク状粉末の含有量は15質量%である。
ポリエチレン製の筒状のホッパーシュート7(長さ2m、直径150mm)を作成し、フィーダー2とホッパー4とを接続した。二軸押出機の原料投入口近傍から上向きに、供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料と向流となるようにして、窒素ガス(純度99.9%)を10L/minで供給しながら、バレル設定温度260℃、スクリュー回転数200rpmの条件で、溶融混練した。ホッパー4内(ホッパー中央部)の酸素濃度を測定すると0.6容量%であり、ベントの減圧度は−0.1MPaであった。また、押出機出口における樹脂温度を測定したところ、270℃であった。運転状態は安定していた。
【0115】
また、得られたポリカーボネート樹脂組成物を100℃で5時間乾燥した後、以下のようにしてフィルムを製造し、発生した異物数を評価した。
先端に200mm幅のダイとフィルム引き取り装置を取り付けた直径30mmの単軸押出機(いすず化工機(株)製、L/D=22)を使用し、得られたポリカーボネート樹脂組成物を8kg/hrで供給しながら、バレル温度280℃にて製膜し、厚さ70μm±5μmのポリカーボネート樹脂フィルムを得た。なお、この時、単軸押出機ホッパーには不活性ガスは導入せず、押出成形機出口における樹脂温度を測定したところ、279℃であった。このポリカーボネート樹脂フィルムについて、光学式異物検査装置((株)ダイアインスツルメンツ製「GX40K」)を使用し、フィルムの中心から選択された幅80mm×長さ1.7mの領域に存在する異物数(大きさ50μm以上の全異物数と、大きさ200μm以上の異物数)を測定した。測定は2回行い、その平均値を表2に示した。異物数は表2に記載するように少なく、良好なフィルムが得られた。
【0116】
(比較例1)
溶融混練の際、窒素ガスを導入しない以外は、実施例1と同様に混練を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。溶融混練時のホッパー4内(ホッパーの中央部)の酸素濃度を測定すると21容量%であり、押出機出口における樹脂温度は270℃であり、混練運転は安定していた。
得られたペレットを実施例1と同様にフィルム製膜して(押出成形機出口における樹脂温度は279℃)、異物測定をしたところ、異物数が表2に記載のとおり、多かった。
【0117】
(比較例2)
導入する窒素ガス量を増やし、バレル設定温度を310℃とした以外は、実施例1と同様に混練を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。混練時のホッパー4内(ホッパーの中央部)の酸素濃度を測定すると0.1容量%未満であり、押出機出口における樹脂温度は320℃であった。
ガスの上方への吹き上げが強く、供給されるポリカーボネート樹脂組成物原料の落下が不安定となり、安定した混練運転ができなかった。
【0118】
(実施例2)
バレル設定温度を320℃、スクリュー回転数を400rpmとした以外は、実施例1と同様に混練を行い、ポリカーボネート樹脂組成物を得た。混練時のホッパー4内(ホッパーの中央部)における酸素濃度を測定すると0.6容量%、押出機出口における樹脂温度は340℃であり、混練運転は安定していた。
得られたペレットを実施例1と同様にフィルム製膜して(押出成形機出口における樹脂温度は279℃)、異物測定をしたところ、異物数は表2に記載するとおり、実施例1に比べ若干多かったが、実フィルムとして問題のないレベルであった。
【0119】
(実施例3)
フィルム製膜の際に、押出成形機のホッパー内に窒素ガスを1L/minで供給した以外は、実施例1と同様にポリカーボネート樹脂組成物及びフィルムを製造した。フィルム製膜時の窒素供給のために、ポリエチレン製の筒状のホッパーシュート(長さ50cm、直径50mm)を使用し、単軸押出機の原料投入口近傍から上向きに、供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料と向流となるようにして、窒素ガス(純度99.9%)を1L/minで供給した。なお、フィルム製膜時の、単位時間あたりの押出成形機に供給されるポリカーボネート樹脂組成物の原料量F’[kg/hr]と不活性ガス量G’[L/min]の比G’/F’は、0.125、ホッパー内(ホッパーの中央部)における酸素濃度を測定すると0.9容量%、押出成形機出口における樹脂温度は279℃であった。
以上の結果を以下の表2に示す。
【0120】
【表2】