(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による単結晶基板の加工方法の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1の(a)および(b)には、本発明による単結晶基板の加工方法によって加工される単結晶基板としての光デバイスウエーハの斜視図が示されている。
図1の(a)および(b)に示す光デバイスウエーハ2は、厚みが400μmのサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aにn型窒化ガリウム半導体層およびp型窒化ガリウム半導体層からなる光デバイス層21がエピタキシャル成長法によって積層して形成されている。なお、光デバイス層21には、格子状に形成された複数の分割予定ライン211によって区画された複数の領域に光デバイス212が形成されている。
【0014】
上述した単結晶基板としての光デバイスウエーハ2を加工する単結晶基板の加工方法について説明する。
先ず、光デバイスウエーハ2を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。即ち、
図2に示すように、環状のフレームFの内側開口部を覆うように外周部が装着されたダイシングテープTの表面に光デバイスウエーハ2の裏面20bを貼着する。従って、ダイシングテープTの表面に貼着された光デバイスウエーハ2は、光デバイス層21の表面21aが上側となる。
【0015】
上述したウエーハ支持工程を実施したならば、単結晶基板であるサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aに積層された膜としての光デバイス層21を分割予定ラインに沿って除去する膜除去工程を実施する。この膜除去工程は、図示の実施形態においては
図3に示す切削装置3を用いて実施する。
図3に示す切削装置3は、被加工物を保持するチャックテーブル31と、該チャックテーブル31に保持された被加工物を切削する切削手段32と、該チャックテーブル31に保持された被加工物を撮像する撮像手段33を具備している。チャックテーブル31は、被加工物を吸引保持するように構成されており、図示しない加工送り手段によって
図3において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに、図示しない割り出し送り手段によって矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
【0016】
上記切削手段32は、実質上水平に配置されたスピンドルハウジング321と、該スピンドルハウジング321に回転自在に支持された回転スピンドル322と、該回転スピンドル322の先端部に装着された切削ブレード323を含んでおり、回転スピンドル322がスピンドルハウジング321内に配設された図示しないサーボモータによって矢印323aで示す方向に回転せしめられるようになっている。切削ブレード323は、アルミニウム等の金属材によって形成された円盤状の基台324と、該基台324の側面外周部に装着された環状の切れ刃325とからなっている。環状の切れ刃325は、基台324の側面外周部に粒径が3〜4μmのダイヤモンド砥粒をニッケルメッキで固めた電鋳ブレードからなっており、図示の実施形態においては厚みが30μmで外径が50mmに形成されている。
【0017】
上記撮像手段33は、スピンドルハウジング321の先端部に装着されており、被加工物を照明する照明手段と、該照明手段によって照明された領域を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた像を撮像する撮像素子(CCD)等を備え、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0018】
上述した切削装置3を用いて上記膜除去工程を実施するには、
図3に示すようにチャックテーブル31上に上記ウエーハ支持工程が実施された光デバイスウエーハ2が貼着されたダイシングテープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、ダイシングテープTを介して光デバイスウエーハ2をチャックテーブル31上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル31に保持された光デバイスウエーハ2は、光デバイス層21が形成された表面21aが上側となる。なお、
図3においてはダイシングテープTが装着された環状のフレームFを省いて示しているが、環状のフレームFはチャックテーブル31に配設された適宜のフレーム保持手段に保持される。このようにして、光デバイスウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル31は、図示しない加工送り手段によって撮像手段33の直下に位置付けられる。
【0019】
チャックテーブル31が撮像手段33の直下に位置付けられると、撮像手段33および図示しない制御手段によって光デバイスウエーハ2の切削すべき領域を検出するアライメント工程を実施する。即ち、撮像手段33および図示しない制御手段は、光デバイスウエーハ2の所定方向に形成されている分割予定ライン211と切削ブレード323との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、切削ブレード323によって切削する切削領域のアライメントを遂行する(アライメント工程)。また、光デバイスウエーハ2に上記所定方向と直交する方向に形成された分割予定ライン211に対しても、同様に切削ブレード323によって切削する切削領域のアライメントが遂行される。
【0020】
以上のようにしてチャックテーブル31上に保持されている光デバイスウエーハ2の分割予定ライン211を検出し、切削領域のアライメントが行われたならば、光デバイスウエーハ2を保持したチャックテーブル31を切削領域の切削開始位置に移動する。このとき、
図4の(a)で示すように光デバイスウエーハ2は切削すべき分割予定ライン211の一端(
図4の(a)において左端)が切削ブレード323の直下より所定量右側に位置するように位置付けられる。
【0021】
このようにして切削装置3のチャックテーブル31上に保持された光デバイスウエーハ2が切削加工領域の切削開始位置に位置付けられたならば、切削ブレード323を
図4の(a)において2点鎖線で示す待機位置から矢印Z1で示すように下方に切り込み送りし、
図4の(a)において実線で示すように所定の切り込み送り位置に位置付ける。この切り込み送り位置は、
図4の(a)および
図4の(c)に示すように切削ブレード323の下端が光デバイスウエーハ2を構成するサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aに達する位置に設定されている。
【0022】
次に、切削ブレード323を
図4の(a)において矢印323aで示す方向に所定の回転速度で回転せしめ、チャックテーブル31を
図4の(a)において矢印X1で示す方向に所定の切削送り速度で移動せしめる。そして、分割予定ライン211の他端(
図4の(b)において右端)が切削ブレード323の直下より所定量左側に位置するまで達したら、チャックテーブル31の移動を停止する。このようにチャックテーブル31を切削送りすることにより、
図4の(d)で示すように光デバイスウエーハ2を構成する光デバイス層21には分割予定ライン211に沿ってサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aに達する切削溝213が形成される。この結果、単結晶基板であるサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aに積層された膜としての光デバイス層21は、分割予定ライン211に沿って除去される(膜除去工程)。
【0023】
次に、切削ブレード323を
図4の(b)において矢印Z2で示すように上昇させて2点鎖線で示す待機位置に位置付け、チャックテーブル31を
図4の(b)において矢印X2で示す方向に移動して、
図4の(a)に示す位置に戻す。そして、チャックテーブル31を紙面に垂直な方向(割り出し送り方向)に分割予定ライン211の間隔に相当する量だけ割り出し送りし、次に切削すべき分割予定ライン211を切削ブレード323と対応する位置に位置付ける。このようにして、次に切削すべき分割予定ライン211を切削ブレード323と対応する位置に位置付けたならば、上述した膜除去工程を実施する。そして、上述した膜除去工程を光デバイスウエーハ2に形成された全ての分割予定ライン211に実施する。
【0024】
なお、上記膜除去工程は、例えば以下の加工条件で行われる。
切削ブレード :外径50mm、厚み30μm
切削ブレードの回転速度:20000rpm
切削送り速度 :50mm/秒
【0025】
上述した膜除去工程を実施したならば、膜が除去された領域に後述するパルスレーザー光線の波長(例えば1030nm)に対して透過性を有する透過膜を被覆する透過膜被覆工程を実施する。この透過膜被覆工程は、
図5の(a)に示す透過膜被覆装置4を用いて実施する。即ち、透過膜被覆装置4のスピンナーテーブル41上に上記膜除去工程が実施された光デバイスウエーハ2をダイシングテープTを介して載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、スピンナーテーブル41上にダイシングテープTを介して光デバイス212を吸引保持する。従って、スピンナーテーブル41上にダイシングテープTを介して保持された光デバイスウエーハ2は、光デバイス層21の表面21aが上側となる。なお、環状のフレームFは、スピンナーテーブル41に配設された図示しないクランプによって固定される。そして、スピンナーテーブル41の上方に配設された樹脂液供給手段42の樹脂供給ノズル421から光デバイスウエーハ2を構成する光デバイス層21の表面21aにおける中央部に所定量の被覆膜形成液40を滴下する。被覆膜形成液40としては、例えばポリビニールアルコール(PVA)、ポリアリルアミン(PAA)、ポリエチレンイミン(PEI)、食用オイル、機械オイル等を用いることができる。
【0026】
このようにして、光デバイスウエーハ2を構成する光デバイス層21の表面21aにおける中央領域へ所定量の被覆膜形成液40を滴下したならば、
図5の(b)に示すようにスピンナーテーブル41を矢印41aで示す方向に例えば100rpmで5秒間程度回転する。この結果、光デバイスウエーハ2を構成する光デバイス層21の表面21aにおける中央領域に滴下された被覆膜形成液40は、遠心力の作用で外周に向けて流動し光デバイス層21の表面21aの全面に拡散せしめられ、
図5の(c)に示すように光デバイス層21における分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213によって除去された領域が後述するパルスレーザー光線の波長(例えば1030nm)に対して透過性を有する透過膜400によって被覆される。
【0027】
次に、単結晶基板であるサファイア(Al
2O
3)基板20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を分割予定ライン211に沿って照射し、細孔と該細孔をシールドする非晶質とからなるシールドトンネルを分割予定ライン211に沿って形成するシールドトンネル形成工程を実施する。このシールドトンネル形成工程は、図示の実施形態においては
図6に示すレーザー加工装置5を用いて実施する。
図6に示すレーザー加工装置5は、被加工物を保持するチャックテーブル51と、該チャックテーブル51上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52と、チャックテーブル51上に保持された被加工物を撮像する撮像手段53を具備している。チャックテーブル51は、被加工物を吸引保持するように構成されており、図示しない加工送り手段によって
図6において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに、図示しない割り出し送り手段によって
図6において矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
【0028】
上記レーザー光線照射手段52は、実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521を含んでいる。レーザー光線照射手段52は、
図7に示すように上記ケーシング521内に配設されたパルスレーザー光線発振手段522と、該パルスレーザー光線発振手段522から発振されたパルスレーザー光線の出力を調整する出力調整手段523と、該出力調整手段523によって出力が調整されたパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル51の上面である保持面に保持された被加工物としての光デバイスウエーハ2に照射する集光器524を具備している。パルスレーザー光線発振手段522は、パルスレーザー光線発振器522aと、パルスレーザー光線発振器522aが発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定手段522b、およびパルスレーザー光線発振器522aが発振するパルスレーザー光線のパルス幅を設定するパルス幅設定手段522cとから構成されている。このように構成されたパルスレーザー光線発振手段522は、図示の実施形態においては波長が1030nmのパルスレーザー光線LBを発振する。なお、パルスレーザー光線発振手段522および上記出力調整手段523は、図示しない制御手段によって制御されるようになっている。
【0029】
上記集光器524は、パルスレーザー光線発振手段522から発振され出力調整手段523によって出力が調整されたパルスレーザー光線LBを下方に向けて方向変換する方向変換ミラー524aと、該方向変換ミラー524aによって方向変換されたパルスレーザー光線LBを集光してチャックテーブル51の上面である保持面に保持された被加工物Wに照射する集光レンズ524bとからなっている。この集光器524の集光レンズ524bの開口数(NA)を単結晶基板の屈折率(N)で除した値が0.05〜0.4の範囲となっている場合にシールドトンネルが形成されることが本発明者によって確認されている。ここで、開口数(NA)と屈折率(N)と開口数(NA)を屈折率(N)で除した値(S=NA/N)との関係について、
図8を参照して説明する。
図8において集光レンズ524bに入光したパルスレーザー光線LBは光軸に対して角度(α)をもって集光される。このとき、sinαが集光レンズ524aの開口数(NA)である(NA=sinα)。集光レンズ524bによって集光されたパルスレーザー光線LBが単結晶基板からなる光デバイスウエーハ2に照射されると、光デバイスウエーハ2を構成する単結晶基板は空気より密度が高いのでパルスレーザー光線LBは角度(α)から角度(β)に屈折する。このとき、光軸に対する角度(β)は、光デバイスウエーハ2を構成する単結晶基板の屈折率(N)によって異なる。屈折率(N)は(N=sinα/sinβ)であるから、開口数(NA)を単結晶基板の屈折率(N)で除した値(S=NA/N)はsinβとなる。そして、sinβを0.05〜0.4の範囲(0.05≦sinβ≦0.4)に設定すると良好なシールドトンネルが形成されることが実験において確認され、sinβが設定した範囲を脱すると後述するピークエネルギー密度の範囲であっても良好なシールドトンネルが形成されないことが実験によって確認されている。なお、レーザー光線照射手段42は、集光器524の集光レンズ524bによって集光されるパルスレーザー光線の集光点位置を調整するための集光点位置調整手段(図示せず)を備えている。
【0030】
上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部に装着された撮像手段53は、可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0031】
上述したレーザー加工装置5を用いて、上述したシールドトンネル形成工程を実施する第1の実施形態について
図6および
図9を参照して説明する。シールドトンネル形成工程の第1の実施形態は、上記膜除去工程が実施され上記透過膜被覆工程を実施しない光デバイスウエーハ2に対して実施する。
即ち、上述した
図6に示すレーザー加工装置5のチャックテーブル51上に光デバイスウエーハ2が貼着されたダイシングテープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、ダイシングテープTを介して光デバイスウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル51に保持された光デバイスウエーハ2は、光デバイス層21が形成された表面21aが上側となる。なお、
図6においてはダイシングテープTが装着された環状のフレームFを省いて示しているが、環状のフレームFはチャックテーブル51に配設された適宜のフレーム保持手段に保持される。このようにして、光デバイスウエーハ2を吸引保持したチャックテーブル51は、図示しない加工送り手段によって撮像手段53の直下に位置付けられる。
【0032】
チャックテーブル51が撮像手段53の直下に位置付けられると、撮像手段53および図示しない制御手段によって光デバイスウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段53および図示しない制御手段は、光デバイスウエーハ2の所定方向に形成されている分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213と、切削溝213に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器524との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する(アライメント工程)。また、光デバイスウエーハ2に上記所定方向と直交する方向に形成された分割予定ライン211沿って形成された切削溝213に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0033】
上述したアライメント工程を実施したならば、
図9の(a)で示すようにチャックテーブル51をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器524が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定の分割予定ライン211沿って形成された切削溝213を集光器524の直下に位置付ける。このとき、
図9の(a)で示すように光デバイスウエーハ2は、分割予定ライン211沿って形成された切削溝213の一端(
図9の(a)において左端)が集光器524の直下に位置するように位置付けられる。そして、集光器524の集光レンズ524bによって集光されるパルスレーザー光線LBの集光点Pが単結晶基板としてのサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aから厚み方向の所望の位置に位置付けられるように図示しない集光点位置調整手段を作動して集光器524を光軸方向に移動する(位置付け工程)。なお、図示の実施形態においては、パルスレーザー光線の集光点Pは、光デバイスウエーハ2におけるパルスレーザー光線が入射されるサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aから所望位置(例えば表面20aから5〜10μm裏面20b側の位置)に設定されている。
【0034】
上述したように位置付け工程を実施したならば、レーザー光線照射手段52を作動して集光器524からパルスレーザー光線LBを照射して光デバイスウエーハ2を構成する単結晶基板としてのサファイア(Al
2O
3)基板20に位置付けられた集光点P付近(表面20a)から裏面20bに向けて細孔と該細孔をシールドする非晶質とを形成させてシールドトンネルを形成するシールドトンネル形成工程を実施する。即ち、集光器524から光デバイスウエーハ2を構成する単結晶基板としてのサファイア(Al
2O
3)基板20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを照射しつつチャックテーブル51を
図9の(a)において矢印X1で示す方向に所定の送り速度で移動せしめる(シールドトンネル形成工程)。そして、
図9の(b)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光器524のレーザー光線照射位置に分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213の他端(
図9の(b)において右端)が達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル51の移動を停止する。
【0035】
上述したシールドトンネル形成工程を実施することにより、光デバイスウエーハ2を構成する単結晶基板としてのサファイア(Al
2O
3)基板20の内部には、
図9の(c)に示すようにパルスレーザー光線LBの集光点P付近(表面20a)から裏面20bに向けて細孔231と該細孔231の周囲に形成された非晶質232が成長し、分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213に沿って所定の間隔(図示の実施形態においては10μmの間隔(加工送り速度:1000mm/秒)/(繰り返し周波数:100kHz)で非晶質のシールドトンネル23が形成される。このように形成されたシールドトンネル23は、
図9の(d)および(e)に示すように中心に形成された直径がφ1μm程度の細孔231と該細孔231の周囲に形成された直径がφ10μmの非晶質232とからなり、図示の実施形態においては互いに隣接する非晶質232同士がつながるように連接して形成される形態となっている。なお、上述したシールドトンネル形成工程において形成される非晶質のシールドトンネル23は、光デバイスウエーハ2を構成する単結晶基板としてのサファイア(Al
2O
3)基板20の表面20aから裏面20bに亘って形成することができるため、単結晶基板としてのサファイア(Al
2O
3)基板20の厚みが厚くてもパルスレーザー光線を1回照射すればよいので、生産性が極めて良好となる。また、シールドトンネル形成工程においてはデブリが飛散しないので、デバイスの品質を低下させるという問題も解消される。
【0036】
上述したように所定の分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213に沿って上記シールドトンネル形成工程を実施したら、チャックテーブル51を矢印Yで示す方向に光デバイスウエーハ2に形成された分割予定ライン211の間隔だけ割り出し移動し(割り出し工程)、上記シールドトンネル形成工程を遂行する。このようにして所定方向に形成された全ての分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213に沿って上記シールドトンネル形成工程を実施したならば、チャックテーブル51を90度回動せしめて、上記所定方向に形成された分割予定ライン211沿って形成された切削溝213に対して直交する方向に延びる分割予定ライン211に沿って形成された切削溝213に沿って上記シールドトンネル形成工程を実行する。
【0037】
さらに、本実施形態では、図10に示す
如く、上記膜除去工程を実施した後に膜としての光デバイス層21が分割予定ライン211に沿って除去された領域に被覆された透過膜400を通してパルスレーザー光線LBを照射する。従って、光デバイスウエーハ2を構成する膜としての光デバイス層21が分割予定ライン211に沿って除去された領域の上面がパルスレーザー光線の透過を妨げる状態(例えば、面が粗面の状態、サファイア基板の上面にPSS構造と称する複数の微細な凹凸が形成されている状態)になっていても、透過膜400によってパルスレーザー光線の透過が可能となり、シールドトンネルを確実に形成することができる。
【0038】
上述したシールドトンネル形成工程において、良好なシールドトンネル23を形成するには、パルスレーザー光線LBのピークエネルギー密度を1TW/cm
2〜100TW/cm
2の範囲に設定することが望ましい。
なお、ピークエネルギー密度は、
平均出力(W)/{繰り返し周波数(Hz)×スポット面積(cm
2)×パルス幅(s)}によって求めることができる。
以下、パルスレーザー光線LBのピークエネルギー密度を1TW/cm
2〜100TW/cm
2の範囲に設定された理由について説明する。
【0039】
[実験:1]
条件1・・・単結晶基板:サファイア基板(厚み400μm)
条件2・・・パルスレーザー光線の波長を1030nmに設定
条件3・・・パルスレーザー光線の繰り返し周波数を100kHzに設定
条件4・・・パルスレーザー光線のスポット径を10μmに設定
条件5・・・パルスレーザー光線の平均出力を5Wに設定
条件6・・・変数:パルスレーザー光線のパルス幅
上記条件に従ってパルス幅を0.1〜100psまで変化させながらサファイア基板にパルスレーザー光線を照射し、加工状態を観察した。
パルス幅が0.1〜0.6psまではサファイア基板の内部にボイドが形成された。
パルス幅が0.7〜63psまではサファイア基板の内部に細孔と細孔をシールドする非晶質とからなるシールドトンネルが形成された。
パルス幅が64〜100psまではサファイア基板の内部が溶融した。
以上の実験結果から、パルス幅が0.7〜63psの範囲においてサファイア基板の内部に細孔と細孔をシールドする非晶質とからなるシールドトンネルが形成されることが判った。
従って、上記条件においてパルス幅を0.7〜63psにしてピークエネルギー密度を求めると、1TW/cm
2〜100TW/cm
2の範囲に設定することでシールドトンネルが形成される。
【0040】
[実験:2]
条件1・・・単結晶基板:サファイア基板(厚み400μm)
条件2・・・パルスレーザー光線の波長を1030nmに設定
条件3・・・パルス幅10psに設定
条件4・・・パルスレーザー光線のスポット径を10μmに設定
条件5・・・パルスレーザー光線の平均出力を5Wに設定
条件6・・・変数:パルスレーザー光線の繰り返し周波数
上記条件に従って繰り返し周波数を1〜1000kHzまで変化させながらサファイア基板にパルスレーザー光線を照射し、加工状態を観察した。
繰り返し周波数が1〜6kHzまではサファイア基板の内部が破壊されクラックが放射状に形成された。
繰り返し周波数が7〜640kHzまではサファイア基板の内部に細孔と細孔をシールドする非晶質とからなるシールドトンネルが形成された。
繰り返し周波数が650〜1000kHzまではサファイア基板の内部ボイドが形成されシールドトンネルは形成されなかった。
以上の実験結果から、繰り返し周波数が7〜640kHzの範囲においてサファイア基板の内部に細孔と細孔をシールドする非晶質とからなるシールドトンネルが形成されることが判った。
従って、上記条件において繰り返し周波数が7〜640kHzにしてピークエネルギー密度を求めると、1TW/cm
2〜100TW/cm
2の範囲に設定することでシールドトンネルが形成される。
【0041】
上記実験1および実験2はサファイア(Al
2O
3)基板に対して実施した例を示したが、単結晶基板としての炭化珪素(SiC)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、リチウムタンタレート(LiTaO
3)基板、リチウムナイオベート(LiNbO
3)基板、ダイヤモンド基板、石英(SiO
2)基板に対しても上記実験1および実験2と同様の実験を行ったが、略同じ結果であった。
【0042】
上述したシールドトンネル形成工程を実施したならば、光デバイスウエーハ2に外力を付与し細孔231と該細孔231の周囲に形成された非晶質232とからなるシールドトンネル23が連続して形成された分割予定ライン211に沿って光デバイスウエーハ2を個々の光デバイス212に分割するウエーハ分割工程を実施する。ウエーハ分割工程は、
図10に示す分割装置6を用いて実施する。
図10に示す分割装置6は、上記環状のフレームFを保持するフレーム保持手段61と、該フレーム保持手段61に保持された環状のフレームFに装着された光デバイスウエーハ2を拡張するテープ拡張手段62と、ピックアップコレット63を具備している。フレーム保持手段61は、環状のフレーム保持部材611と、該フレーム保持部材611の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ612とからなっている。フレーム保持部材611の上面は環状のフレームFを載置する載置面611aを形成しており、この載置面611a上に環状のフレームFが載置される。そして、載置面611a上に載置された環状のフレームFは、クランプ612によってフレーム保持部材611に固定される。このように構成されたフレーム保持手段61は、テープ拡張手段62によって上下方向に進退可能に支持されている。
【0043】
テープ拡張手段62は、上記環状のフレーム保持部材611の内側に配設される拡張ドラム621を具備している。この拡張ドラム621は、環状のフレームFの内径より小さく該環状のフレームFに装着されたダイシングテープTに貼着される光デバイスウエーハ2の外径より大きい内径および外径を有している。また、拡張ドラム621は、下端に支持フランジ622を備えている。図示の実施形態におけるテープ拡張手段62は、上記環状のフレーム保持部材611を上下方向に進退可能な支持手段623を具備している。この支持手段623は、上記支持フランジ622上に配設された複数のエアシリンダ623aからなっており、そのピストンロッド623bが上記環状のフレーム保持部材611の下面に連結される。このように複数のエアシリンダ623aからなる支持手段623は、
図11の(a)に示すように環状のフレーム保持部材611を載置面611aが拡張ドラム621の上端と略同一高さとなる基準位置と、
図11の(b)に示すように拡張ドラム621の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめる。
【0044】
以上のように構成された分割装置6を用いて実施するウエーハ分割工程について
図11を参照して説明する。即ち、光デバイスウエーハ2が貼着されているダイシングテープTが装着された環状のフレームFを、
図11の(a)に示すようにフレーム保持手段61を構成するフレーム保持部材611の載置面611a上に載置し、クランプ612によってフレーム保持部材611に固定する(フレーム保持工程)。このとき、フレーム保持部材611は
図11の(a)に示す基準位置に位置付けられている。次に、テープ拡張手段62を構成する支持手段623としての複数のエアシリンダ623aを作動して、環状のフレーム保持部材611を
図11の(b)に示す拡張位置に下降せしめる。従って、フレーム保持部材611の載置面611a上に固定されている環状のフレームFも下降するため、
図11の(b)に示すように環状のフレームFに装着されたダイシングテープTは拡張ドラム621の上端縁に接して拡張せしめられる(テープ拡張工程)。この結果、ダイシングテープTに貼着されている光デバイスウエーハ2には放射状に引張力が作用するため、上述したシールドトンネル23が連続して形成され強度が低下せしめられた分割予定ライン211に沿って個々の光デバイス212に分離されるとともに光デバイス212間に間隔Sが形成される。
【0045】
次に、
図11の(c)に示すようにピックアップコレット63を作動して光デバイス212を吸着して、ダイシングテープTから剥離してピックアップし、図示しないトレーまたはダイボンディング工程に搬送する。なお、ピックアップ工程においては、上述したようにダイシングテープTに貼着されている個々の光デバイス212間の隙間Sが広げられているので、隣接する光デバイス212と接触することなく容易にピックアップすることができる。
【0046】
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変形は可能である。
上述した実施形態において膜除去工程は、外周に環状の切れ刃325を有する切削ブレード323によって膜としての光デバイス層21を分割予定ライン211に沿って切削することにより除去する例を示したが、半導体ウエーハの裏面に金属膜からなっている場合には、金属膜上に分割予定ライン211と対応する領域が抜かれたマスキングを装着してエッチングすることにより膜としての金属膜の分割予定ライン211と対応する領域を除去するようにしてもよい。