【文献】
Clin. Chem.,1988年,Vol.34, No.11,p.2295-2298
【文献】
Eur. J. Clin. Chem. Clin. Biochem.,1994年,Vol.32,p.709-717
【文献】
Clin. Chem.,1994年,Vol.40, No.8,p.1528-1531
【文献】
Clin. Chem.,1993年,Vol.39, No.3,p.500-503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
β−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質が、2−ニトロフェニル−β−D−ガラクトシド、2−ニトロフェニル−β−D−ピラノグリコシド、及び2−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドからなる群より選択される化合物である、請求項1から4の何れか一項に記載の血液分析方法。
前記希釈液が、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるアミノアルコール化合物、並びにHEPESとも称する2- [4- (2-ヒドロキシエチル-1-ピペラジニル] エタンスルホン酸)、TESとも称するN-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、MOPSとも称する3-モルホリノプロパンスルホン酸、及びBESとも称する(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸からなる群から選択される緩衝剤を含む希釈液である、請求項1から6の何れか一項に記載の血液分析方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、採血には、医師等一定の有資格者が注射器を用いて静脈から血液を採取する一般採血と、検査対象者が、自分の手の指等に採血針を刺して血液を採取する自己採血とがある。
【0003】
一般採血により採取された血液は、採取容器に密閉された状態で医療機関又は検査機関に搬送され、そこで検査が行われている。血液を血球と血漿とに分離せずに搬送する場合には、医療機関又は検査機関にて遠心分離機により血液を血球と血漿とに分離した後に検査が行われる。また、検査対象者が行う自己採血では、採血後に分離膜により血液を血球と血漿とに分離し、この分離された状態で検査場所に輸送され、そこで検査が行われる。
【0004】
特許文献1には、自己採血により採取された血液検体の検査方法が記載されている。具体的には、1)容量を定量することなしに採取した定量すべき成分を含有する未知容量の生体試料と一定量の指示物質を含有する一定量の水性溶液とからなる定量用試料を調製する工程、2)一定量の指示物質を含有する一定量の水性溶液中の指示物質の濃度(C
1)と定量用試料中の指示物質の濃度(C
2)とから生体試料の希釈倍率(a)を求める工程、3)定量用試料中の定量すべき成分の濃度(Y)を求める工程、4)上記2)で求めた生体試料希釈倍率(a)と上記3)で求めた定量用試料中の定量すべき物質の濃度(Y)とから生体試料中の定量すべき成分を決定する工程を含む生体試料中の定量すべき成分の定量方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、検体中の分析対象成分量を測定し、さらに、これ以外の恒常的に検体中に元来存在する標準成分の量を測定し、この標準成分の量と、検体中での標準成分の既知濃度とから検体の量を決定し、この検体量と、分析対象成分量とから、検体中の分析対象成分の濃度を決定する定量分析法が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、血液希釈定量器具を用いてヒトや動物から微量血液を採取しそのまま又は希釈したのち一定量を他の機器や容器又は直接試薬に供給することが記載されている。さらに特許文献4には、希釈用水溶液中の指示物質の吸光度を利用して、生物学的試料中の定量すべき成分の濃度を定量する方法が記載されている。
【0007】
一方、溶液試料中の微量のナトリウムイオンを測定する方法としては、炎光光度法、原子吸光法、及びイオン選択電極法等が従来から用いられている。特許文献5及び特許文献6には、溶液中のナトリウムイオンを測定する簡便な方法として、ナトリウムイオンおよびβ−ガラクトシダーゼの存在下において、血清試料の100mmol/リットル以上の濃度のナトリウムイオンを、O−ニトロフェニルーβ−ピラノグリコシドから変換されうるO−ニトロフェノール、又は2−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドから変換されうるp−ニトロフェニルの吸光度によって測定する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法においては、血液検体が微量である場合には、血液検体量に対する希釈液の割合を高くすることが必要になる。しかし、この場合、血液検体を希釈する前後での希釈液の体積変化率が非常に小さくなるため、内部標準物質の濃度の変化率が小さくなり、測定値の繰り返し再現性が低下するという問題がある。
【0010】
特許文献2には、健常者全血約100μLを多孔質膜に滴下し、血球を分離して血清を展開した後に、150μLの生食等張PBS(Phosphate-buffered saline: pH7.4)を添加して得た液を遠心分離して得られた上清を分析試料として分析しているが、100μL未満の採血については記載されていない。
【0011】
特許文献3の方法では、10μLの血液量をマイクロピペットで正確に採取して分析しているが、採血に不慣れな患者が採取する場合には一定量を正確に採取することは難しく、誤差を含む採血で検査をした場合に測定値に誤差が含まれる結果となる。
【0012】
特許文献4に記載の測定方法は希釈倍率が10倍程度の測定であり、希釈倍率をさらに高めて希釈血液量を十分に確保する場合には、特許文献1と同様に、測定値の繰り返し再現性が低下するという問題がある。
【0013】
特許文献5および特許文献6に記載されている分光光度計を用いてO−ニトロフェノール又はp−ニトロフェニルの吸光度を測定する方法を、血液検査の希釈倍率の測定に利用することは知られていない。また、30mmol/リットル以下の低濃度については対象としていない。
【0014】
上記の通り、血液検体を使用する場合について測定値の繰り返し再現性が高い血液分析方法が望まれている。本発明は、血液検体において測定値の繰り返し再現性が高い血液分析方法、並びに上記血液分析方法において使用するための血液検査キットを提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、採取された血液検体を希釈液で希釈し、血液中に恒常的に存在する血清及び血漿ナトリウムイオンの標準値及びナトリウムイオンの定量値から希釈倍率を決定し、血液検体中の対象成分の濃度を分析する血液分析方法において、希釈液としてナトリウムイオンを含有しない希釈液を使用し、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液を用いて血液検体の希釈液中のナトリウムイオンを定量し、血液中に恒常的に存在する血清及び血漿ナトリウムイオンの標準値及びナトリウムイオンの定量値から、希釈倍率を決定するという構成によって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
【0016】
(1) 採取された血液検体を希釈液で希釈する工程と、
β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液を用いて血液検体の希釈液中のナトリウムイオンを定量し、血液中に恒常的に存在する血清及び血漿ナトリウムイオンの標準値及びナトリウムイオンの定量値から、希釈倍率を決定する工程と、
決定された希釈倍率と、血液検体中の測定対象成分の濃度の測定値とから、血液検体中の測定対象成分の濃度を分析する工程とを含む、血液分析方法であって、
希釈液がナトリウムイオンを含有しない希釈液である、血液分析方法。
(2) 血液検体の容量が50μL以下である、(1)に記載の血液分析方法。
(3) 採取された血液検体を希釈液で希釈する工程の後に、希釈した血液検体から血漿成分含有試料を回収する工程を含む、(1)または(2)に記載の血液分析方法。
(4) 回収する工程が、分離膜を用いる工程である、(3)に記載の血液分析方法。
(5) 希釈した血液検体から血漿成分含有試料を回収する工程の後に、血漿成分含有試料を輸送する工程を含む、(3)又は(4)に記載の血液分析方法。
(6) 血液検体中の血漿成分の希釈倍率が14倍以上である、(1)から(5)の何れかに記載の血液分析方法。
(7) β−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質が、2−ニトロフェニル−β−D−ガラクトシド、2−ニトロフェニル−β−D−ピラノグリコシド、及び2−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドからなる群より選択される化合物である、(1)から(6)の何れかに記載の血液分析方法。
(8) 希釈液が、pH6.5〜pH8.0のpH域で緩衝作用を有する緩衝液である、(1)から(7)の何れかに記載の血液分析方法。
(9) 希釈液が、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択されるアミノアルコール化合物、並びにHEPESとも称する2- [4- (2-ヒドロキシエチル-1-ピペラジニル] エタンスルホン酸)、TESとも称するN-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸、MOPSとも称する3-モルホリノプロパンスルホン酸、及びBESとも称する(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸からなる群から選択される緩衝剤を含む希釈液である、(1)から(8)の何れかに記載の血液分析方法。
(10) 血液検体を希釈するための希釈液であってナトリウムイオンを含有しない希釈液と、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液と、希釈された血液検体を収容するための容器とを含む、(1)から(9)の何れかに記載の血液分析方法において使用するための血液検査キット。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血液分析方法及び血液検査キットによれば、血液検体の量が少なくても 測定値の繰り返し再現性が高い分析を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
血液検査を行う場合、採血針を被検者の静脈に挿入して血液を採取するか、指先などの皮膚に傷をつけて、皮膚外に流出した血液を採取する方法で血液を入手している。いずれの方法も皮膚に傷をつける侵襲的な行為となるため、患者の痛みを伴うものとなる。そのため、皮膚につける傷を小さくして侵襲性を極力抑え、患者の痛みを和らげる方法で採血して分析を行う方法が多くの患者から望まれている。その場合、傷を小さくすることで痛みは小さくなるが、採血量が微量となるため、検査可能な対象成分の種類が限られてしまうという弊害がある。特許文献1の検査方法にこのような態様を当てはめて、上記弊害を解決しようとする場合、採血量に対する希釈液量の割合を高くすることによって、血液を希釈した希釈液について、検査が必要な分析対象成分の全てを検査することを可能とするのに十分な量を確保することになる。しかし、採血量が少ない場合には血液を希釈する前後での希釈液の体積変化率が非常に小さくなり、内部標準物質として使用する物質の変化率が非常に小さくなるため、計量時の計量誤差や、測定時の測定誤差が相対的に大きくなり、測定精度の悪化や、繰り返し再現性の低下などにより検査の信頼性が損なわれる可能性がある。従って、測定値の再現性の高い検査のためには、血液検体の量をある程度確保する必要があり、被検者にある程度の痛みを伴う採血方法を行う必要があった。
【0020】
特許文献2では、約100μLの血液量を採取しているが、100μLの血液を患者が自分で採血をする場合、指先などの皮膚につける傷は大きくする必要があり、患者は痛みを伴い、人によっては強い痛みとして感じる場合もある。また、傷も深いので止血が遅くなる懸念もある。さらに特許文献2では、恒常性成分量として血液中の恒常性の中心値が0.9mmol/Lのマグネシウムイオン、4.7mmol/Lのカルシウムイオン、7.5g/100mLの総タンパク質を用いて希釈倍率を測定している。しかし、患者が採血をする血液量が少なくなると、希釈液中の恒常性成分の濃度が低くなり、恒常性成分を測定する際に無視できない測定誤差を含む結果となってしまう。結果として希釈倍率の測定値にも誤差を含むことになり、測定の信頼性が損なわれる。
【0021】
特許文献3の方法では、10μLと少ない血液量をマイクロピペットで一定量を正確に採取して分析しているが、患者が採取する場合には、採血に不慣れな患者も多いため一定量を正確に常に採取することは難しい。患者が採取する場合には、繰り返し採血するため、多くの血液量を皮膚外に流出されることになるか、誤差を含む採血で検査をした場合に測定値に誤差が含まれる結果となってしまう。
【0022】
特許文献4には、2波長の光を利用して、乳ビの影響を補正して測定精度をあげる技術が開示されているが、希釈倍率が10倍程度の測定である。特許文献4の方法は、希釈した血液量が100μL以下の分析には有効であるが、分析対象成分が少なく、さまざまな多くの分析対象成分の情報を入手して、臓器の状態、生活習慣の予測などに使用する目的の検査には対応できない。この場合、希釈倍率をさらに高めて希釈血液量を十分に確保する場合には、特許文献1と同様の課題に直面する。
【0023】
一方、ナトリウムイオンを測定する方法として炎光光度計、原子吸光法、イオン選択電極法等の測定方法が使用されているが、血液中の分析対象成分であるタンパク質や酵素などの測定と、ナトリウムイオンを一つの血液検体から同時に測定する場合には、それぞれ専用の高価な測定装置を別個に用意する必要があり、また測定のスペースを広く取る必要もある等の制約があった。また、特許文献5及び特許文献6に記載された方法を、血液の希釈倍率の測定に利用することは知られていない。
【0024】
本発明は、上記した問題点を考慮して検討されたものである。本発明の血液分析方法及び血液検査キットによれば、採血時の侵襲性を低減して患者の負担を和らげるために採取する血液量を微量とした場合であっても、希釈倍率を高くして分析すべき希釈液量を十分に確保した時の再現性良い希釈倍率を実現でき、対象成分の分析を精度よく行うことができる。特に、採取する血液量が微量であり、希釈倍率が高い場合において、希釈液として低濃度ナトリウムイオンを含有しない希釈液を使用し、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液を用いて血液検体の希釈液中のナトリウムイオンを定量し、血液中に恒常的に存在する血清及び血漿ナトリウムイオンの標準値及びナトリウムイオンの定量値から、希釈倍率を決定することによって、測定値の繰り返し再現性が高い分析を行うことができることは、先行技術文献からは予想できない全く意外な効果である。
【0025】
[1]血液分析方法
本発明の血液分析方法は、
採取された血液検体を希釈液で希釈する工程と、
β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液を用いて血液検体の希釈液中のナトリウムイオンを定量し、血液中に恒常的に存在する血清及び血漿ナトリウムイオンの標準値及びナトリウムイオンの定量値から、希釈倍率を決定する工程と、
決定された希釈倍率と、血液検体中の測定対象成分の濃度の測定値とから、血液検体中の測定対象成分の濃度を分析する工程とを含む、血液分析方法であって、
希釈液がナトリウムイオンを含有しない希釈液である方法である。
【0026】
本発明では、血液検体を採取して、血液検体中の対象成分を分析する。 本発明の血液分析方法は、対象者自身が血液を採取する自己採血で実施してもよいし、医師等の有資格者が注射器を使用して血液を採取する一般採血においても実施してもよい。
【0027】
好ましい態様としては、患者本人が、ランセットなどのナイフ付の器具を用いて指先などを傷つけて皮膚外にでた血液を採取する。患者の負担を減らすために、侵襲性低く血液を採取することが好ましく血液を採取するときに無痛、あるいは、痛みが非常に少ない状態で採血できることが望ましく、その場合、傷の深さ、大きさは小さいことが望ましく、採取できる血液も非常に少なくなる。従って、本発明の血液分析方法で用いる血液検体の容量(即ち、採血量)は微量であり、50μL以下の血液が好ましく、40μL以下がより好ましく、30μL以下がさらに好ましく、20μL以下が最も好ましく、下限は特に限定されないが血液分析を行うための必要な血液量として、一般的には5μL以上であることが好ましい。本発明においては、上記した血液検体が微量の場合でも、測定精度よく対象成分の分析を行うことが可能である。
【0028】
本発明では、採取された血液検体を希釈液で希釈する。
血液検査として、肝機能、腎機能、メタボリズムなど、特定の臓器、特定の疾患を検査する場合には、臓器や疾患に特有の複数の測定対象成分の情報を入手して、臓器の状態、生活習慣の予測などを行うために、一般的には、複数の対象成分の分析が同時に行われる。たとえば、肝臓の状態を検査するためには、一般的には、ALT(アラニントランスアミナーゼ)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、γ−GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)、ALP(アルカリホスファターゼ)、総ビリルビン、総タンパク質、アルブミン等の数種類以上の成分の血液中の濃度が測定される。このように、複数の対象成分を一つの血液検体から測定するためには、再測定の可能性も考慮すると、希釈された血液の量はある程度必要となる。従って、採取した血液量にかかわらず、使用する希釈液の量は、複数の対象成分を測定するためには、250μL以上が好ましく、300μL以上がより好ましく、350μL以上がさらに好ましく、400μL以上であることが最も好ましく、希釈液の量の上限は特に限定されないが、測定に有効な希釈率を実現するため、一般的には1000μL以下が好ましい。
【0029】
採取する血液には、血漿成分と血球成分が含まれるが、血漿成分中の対象成分の濃度を測定するために、血液から血球成分を除いた血漿成分と希釈液とを混合することが好ましい。あらかじめ血液から血球成分を分離した後に希釈液と混合してもよいし、採取した血液を希釈液で混合してから、分離膜などを用いて血球成分を分離してもよい。
【0030】
血液が希釈された状態で長時間放置される場合には、例えば、赤血球の溶血が起こると、血球内の濃度が高い物質や酵素などが血漿あるいは血清中に溶出し、検査結果に影響を与えたり、色調により対象成分を測定する場合にヘモグロビン成分が検査に影響を与える可能性がある。従って、本発明においては、患者が採取した血液から血球を分離して血漿を回収する工程を行ってから希釈を行うことができる。また、本発明においては、採取された血液検体を希釈液で希釈する工程の後に、希釈した血液検体から血漿成分含有試料を回収する実施態様が好ましい。血漿成分含有試料とは、血漿成分と希釈液とを含む試料である。この場合、上記で回収した血漿成分含有試料を、例えば検査場所まで輸送することができる。
【0031】
血液から血球を分離して血漿を回収する方法、並びに希釈した血液から血球を分離して血漿成分含有試料を回収する方法は、特に制限はない。抗凝固剤入り採血管で採血した後に遠心分離を行って血液を血球成分と血漿成分に分離してもよいし、血液成分に圧力を加えて濾過膜などの分離膜を通過させて、血球成分を分離膜に捕捉させて血液から血球成分を分離してもよい。この場合、抗凝固剤を用いてもよい。血漿成分を回収する工程は、上記の中でも好ましくは、分離膜を用いる工程である。また、測定の精度を確保するために、血球成分を除いた血液の溶液部分と物理的に隔離することが好ましく、この場合、具体的には、特開2003−270239号広報に記載の逆流防止手段を有する生体試料分離器具等を用いることができる。
【0032】
本発明では、侵襲性低く血液を採取することが好ましく、微量の血液検体から血液の希釈液を調製することが重要であり、採取した血液を希釈液で希釈する際における、血液検体中の血漿成分の希釈倍率が高いことが好ましい。ここでいう希釈倍率とは、血液成分から血球成分を除去した血漿成分の希釈倍率であり、希釈倍率は本発明において特に限定されないが、14倍以上が好ましく、17倍以上がより好ましく、21倍以上がさらに好ましく、25倍以上が最も好ましく、上限は特に限定されないが、高い精度の測定を可能にするため、一般的には100倍以下が好ましい。実際の血液を希釈液で希釈する場合の血液の希釈倍率では、6倍以上からの高倍率でも、希釈液で希釈した場合の希釈倍率測定の繰り返し再現性が良好であり、患者が採血を行うときの痛みを少なくするためには採血量を少なくなるため、血液の希釈倍率としては、8倍以上が好ましく、10倍以上がより好ましく、13倍以上が更に好ましく、18倍以上が最も好ましく、上限は特に限定されないが、高い精度の測定を可能にするため、 一般的には50倍以下が好ましい。
【0033】
上記のように、血漿成分の希釈倍率の高い希釈血漿の希釈後の対象成分について、希釈前の血液の血漿中に存在する濃度を正確に分析するためには、希釈液中にあらかじめ存在する物質の濃度の変化率から求める方法では、濃度の変化の割合が非常に小さくなるために測定誤差が大きく、また、測定の再現性が悪化する弊害がある。従って本発明では、測定精度を高めるために、血液中に恒常的に存在する標準成分の標準値を用いて希釈倍率を決定する。なお、血液中に恒常的に存在する標準成分のことは、外部標準物質とも称する。
【0034】
血液中に恒常的に存在する標準成分は、たとえば、ナトリウムイオン、塩化物イオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、総蛋白質、及びアルブミン等が挙げられる。血液検体の血清及び血漿中に含まれるこれらの標準成分の濃度は、ナトリウムイオン濃度は、134〜146mmol/リットル(平均値:142mmol/リットル)、塩化物イオン濃度は、97〜107mmol/リットル(平均値:102mmol/リットル)、カリウムイオン濃度は、3.2〜4.8mmol/リットル(平均値:4.0mmol/リットル)、マグネシウムイオン濃度は、0.75〜1.0mmol/リットル(平均値:0.9mmol/リットル)、カルシウムイオン濃度は、4.2〜5.1mmol/リットル(平均値:4.65mmol/リットル)、総タンパク質濃度は、6.7〜8.3g/100mL(平均値:7.5g/100mL)、アルブミン濃度は、4.1〜5.1g/100mL(平均値:4.6g/100mL)である。本発明では、血液検体の血清及び血漿中に恒常的に含有されている成分の中で最も高濃度に存在する、ナトリウムイオン(Na+)を用いることを特徴とする。ナトリウムイオンは、平均値が標準値(基準範囲の中央値)を表し、その値は、142mmol/リットルであり、血漿中の総陽イオンの90%以上を占める。
【0035】
患者である被検者の血液中における血漿成分の占有率は、容積の比率で約55%であるが、被検者の塩分摂取量の変化などで変動し、また被検者ごとにも異なる。そのため、本発明においては、血液中に恒常的に存在する標準成分の標準値を用いて希釈倍率を決定し、決定された希釈倍率を用いて血液検体中の対象成分の濃度を分析する。希釈倍率を決定する方法としては、血漿の希釈液中の外部標準物質(ナトリウムイオン)の測定値(濃度X)と、血漿中の上記外部標準物質(ナトリウムイオン)の既知濃度値(濃度Y;ナトリウムイオンについての142mmol/リットル)とから、血液検体中の血漿成分の希釈倍率(Y/X)を算出することにより希釈倍率を求めることができる。この希釈倍率を用いて、血漿の希釈液中の対象成分の測定値(濃度Z)を測定し、この測定値に希釈倍率を掛け合わせることにより、実際に血液検体中に含まれる分析対象成分の濃度[Z×(Y/X)]を測定することが可能となる。
【0036】
本発明において、血液検体中の対象成分の濃度を分析するとは、対象成分の濃度を決定すること(即ち、対象成分を定量すること)、又は対象成分の濃度が所定の基準値以上であるか所定の基準値以下であるかを決定すること、ある程度の濃度を含むことを検出する定性を行うこと、などを包含し、分析の形態は特に限定されない。
【0037】
本発明においては、血液中に恒常的に存在する標準成分(以下、恒常性物質とも言う)であるナトリウムイオンを希釈液で希釈後に測定し、上記した通り希釈倍率を決定して、血液検体中の対象成分の濃度を分析することができる。血液検体を希釈するための希釈液は、希釈倍率を求めるために使用する「血液中に恒常的に存在する標準成分」であるナトリウムイオンを含有しない希釈液である。本明細書において「含有しない」とは、「実質的に含有しない」ことを意味する。ここで、「実質的に含有しない」とは、希釈倍率を求める時に使用する恒常性物質をまったく含まないか、あるいは含まれていたとしても、血液検体を希釈した後の希釈液の恒常性物質の測定に影響を及ぼさない程度の極微量の濃度で含まれる場合を意味する。上記の通り本発明では、希釈液としては、ナトリウムイオンを実質的に含有しない希釈液を使用する。
【0038】
本発明においては、患者が採血した血液検体を希釈した後、医療機関又は検査機関に輸送して対象成分の濃度を分析することができる。採血から分析までには長時間かかる可能性があることから、その間に、血液の希釈液中において対象成分が分解や変性することを防止することが好ましい。血液のpHは、健常者では通常pH7.30〜7.40程度で一定に保たれている。従って、対象成分が分解や変性を防止するために、希釈液は、pH6.5〜pH8.0、好ましくはpH7.0〜pH7.5、更に好ましくはpH7.3〜pH7.4のpH域で緩衝作用を有する緩衝液であることが好ましく、希釈液は、pHの変動を抑える緩衝成分を含有する緩衝液であることが好ましい。
【0039】
緩衝液の種類としては、酢酸緩衝液(Na)、リン酸緩衝液(Na)、クエン酸緩衝液(Na)、ホウ酸緩衝液(Na)、酒石酸緩衝液(Na)、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン)緩衝液(Cl)、HEPES([2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸])緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(Na)等が知られている。これらの中で、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、HEPES緩衝液が、pH7.0〜pH8.0付近の緩衝液として好ましい代表的な緩衝液である。しかしながら、リン酸のナトリウム塩が含まれているリン酸緩衝液、あるいは、イオン強度一定での緩衝溶液を調整するために通常は水酸化ナトリウムと塩化ナトリウムと混合されるHEPES緩衝液の使用態様については、pHを一定に保つ作用を有する緩衝液としては有用であるが、外部標準物質として用いることが好ましい物質であるナトリウムイオンを含有することから、本発明への適用は好ましくない。
【0040】
本発明の希釈液としては、ナトリウムイオンを含有しない緩衝液を用いることが重要である。本発明で用いる希釈液は好ましくは、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、2-エチルアミノエタノール、N-メチル-D-グルカミン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミノアルコール化合物、並びにGood's緩衝液(グッドバッファー)でpKaが7.4付近の緩衝剤であるHEPESとも称する2- [4- (2-ヒドロキシエチル-1-ピペラジニル] エタンスルホン酸) (pKa=7.55)、TESとも称するN-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(pKa=7.50)、MOPSとも称する3-モルホリノプロパンスルホン酸(pKa=7.20)、及びBESとも称する(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(pKa=7.15)からなる群から選択される緩衝剤を含む希釈液である。上記の中でも、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール(AMP)とHEPES、TES、MOPS又はBESの組み合わせが好ましく、さらに、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール(AMP)とHEPESの組み合わせが最も好ましい。
【0041】
上記緩衝液を調製するためには、アミノアルコールとGood‘s緩衝液を1:2〜2:1、好ましくは1:1.5〜1.5:1、更に好ましくは1:1の濃度比で混合すればよい。緩衝液の濃度は限定されないが、アミノアルコールまたはGood‘s緩衝液の濃度は、0.1〜1000mmol/L、好ましくは、1〜500mmol/L、さらに好ましくは10〜100mmol/Lである。
【0042】
緩衝液中には、分析対象成分を安定に保つことを目的にキレート剤、界面活性剤、抗菌剤、防腐剤、補酵素、糖類等が含有されていてもよい。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、クエン酸塩、シュウ酸塩等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤または非イオン界面活性剤が挙げられる。防腐剤としては、たとえば、アジ化ナトリウムや抗生物質等が挙げられる。補酵素としては、ピリドキサールリン酸、マグネシウム、亜鉛等が挙げられる。赤血球安定化剤の糖類としては、マンニトール、デキストロース、オリゴ糖等が挙げられる。特に、抗生物質の添加により、手指採血時に手指表面から一部混入する細菌の増殖を抑えることができ、生体成分の細菌による分解の安定化を図ることができる。
【0043】
血液検体に全血を使用する場合には、希釈した血液中の血球成分をフィルター濾過する必要から、緩衝液の浸透圧を血液と同等(285mOsm/kg(mOsm/kg:溶液の水1kgが持つ浸透圧で、イオンのミリモル数))またはそれ以上とすることにより血球の溶血を防止することができる。浸透圧は、対象成分の測定、および血液中に恒常的に存在する標準成分の測定に影響しない塩類、糖類又は緩衝剤等により、等張に調整することができる。
【0044】
ナトリウムイオン濃度は、例えば、炎光光度法、ガラス電極法、滴定法、イオン選択電極法、酵素活性法等により測定することができる。
しかし、微量のナトリウムイオンの濃度を、精度よくしかも簡便に測定するという観点から、並びにナトリウムイオンに加えて複数の分析対象成分を同時に測定するという観点から、測定装置は兼用が可能な測定方法が好ましく、特に、吸光度によりナトリウムイオンを測定することが可能であることが好ましい。このような吸光度の測定方法としては、β−ガラクトシダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質の少なくとも1種を含む溶液を用いて、血液検体の希釈液中のナトリウムイオンを定量する方法が挙げられる。
【0045】
本発明におけるβ−ガラクトシダーゼを用いてナトリウムイオンを定量する工程においては、固相および液相、好ましくは水性媒体中でβ−ガラクトシダーゼと、β−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質(以下、β−ガラクトシダーゼの基質とも称する)を反応させ、反応液中で減少するβ−ガラクトシダーゼの基質量、又は増加するβ−ガラクトシダーゼ反応の生成物量を測定することによりβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し、上記活性に対応するナトリウムイオン量を算出することができる。あるいは、ある時間を置いて上記の試薬を反応させた後に、測定された吸光度によりナトリウムイオン濃度を算出することができる。
【0046】
水性媒体としては、緩衝液、生理食塩水等を含有する液体があげられ、緩衝液としては、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、フタル酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グリシン緩衝液、バルビタール緩衝液またはグッド(GOOD)の緩衝液等があげられる。
【0047】
本発明におけるβ−ガラクトシダーゼとはラクトースを分解する酵素であり、分子量が116kDaである。動物、微生物または植物から採取したβ−ガラクトシダーゼあるいはそれらを遺伝子工学により改変し製造した酵素等を用いることが可能である。
【0048】
本発明で用いることが可能なβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質(β−ガラクトシダーゼの基質)とは、例えば、β−D−ガラクトシド、アリール−β−D−ガラクトシド、アルキル−β−D−ガラクトシド、3,6−ジヒドロキシフルオラン−β−D−ガラクトシド、ニトロフェニル−β−D−ピラノグリコシド、ニトロフェニル−β−D−ガラクトシド、2−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド、ラクチノール、ラクトース、4−メチルウムベリフェリル−β−D−ガラクトシド等を用いることができる。またβ−ガラクトシダーゼの活性化剤として、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム等を用いてもよい。安定化剤としてはN−アセチルシステインを用いても良い。
【0049】
この中でも好ましいβ−ガラクトシダーゼの基質は、ニトロフェニル−β−D−ピラノグリコシド、ニトロフェニル−β−D−ガラクトシド、及び2−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシドであり、2−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシドが最も好ましい。
【0050】
反応液中で生成するβ−ガラクトシダーゼ反応により生成する反応生成物の量を測定することにより、ナトリウムイオンを定量することが可能であり、例えば、2−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドから変換されるo−ニトロフェノールの量は、黄色に吸収帯を持つ化合物であることから、420nm程度の波長による吸光度を測定することにより、ナトリウムイオン量の定量が可能となる。
【0051】
本発明における分析の対象成分は限定されず、血液中に含まれるあらゆる物質が対象となる。例えば臨床診断に用いられる血液中の生化学検査項目、腫瘍マーカーや肝炎のマーカー等各種疾患のマーカー等が挙げられ、タンパク質、糖、脂質、低分子化合物等が挙げられる。また、測定は物質濃度だけでなく、酵素等の活性を有する物質の活性も対象となる。各対象成分の測定は、公知の方法で行うことができる。
【0052】
[2]血液検査キット
本発明の血液検査キットは、 血液検体を希釈するための希釈液であってナトリウムイオンを含有しない希釈液と、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液と、希釈された血液検体を収容するための容器とを含む、上記した本発明の血液分析方法において使用するための血液検査キットである。
容器の材料は、破損しにくさ、衛生面、価格等の観点から、合成樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、アクリル樹脂 (PMMA)、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0053】
本発明の血液検査キットの一例としては、血液検体を希釈するための希釈液であってナトリウムイオンを含有しない希釈液、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液、希釈液が収容された第一の収容器具、希釈液で希釈された血液検体から血漿を分離回収するための分離器具、分離器具を保持するための保持器具、回収した血漿を収容するための第二の収容器具、及び収容した血漿を第二の収容器具内に維持するための封止器具、皮膚に傷をつけて血液を皮膚外に染み出させる針や、ランセット、傷に貼る絆創膏又は消毒部材(例えば、イソプロパノール(70質量%イソプロパノールなど)又はエタノールなどを含浸させた不織布)、取扱説明書、等を備えることができる。
【0054】
血液検体を希釈するための希釈液であってナトリウムイオンを含有しない希釈液は本明細書中上記した通りである。
β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液は、本明細書中上記したβ−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を、上記した水性媒体に溶解した溶液である。
【0055】
第一の収容器具、及び第二の収容器具は、1つの器具を第一の収容器具及び第二の収容器具として兼用してもよいし、別々の器具を備える態様であってもよい。収容器具内にある血液を希釈した希釈液を、患者、あるいは、希釈倍率の測定や分析対象成分の分析を行う測定者に確認可能とするために、第一の収容器具、及び第二の収容器具は、透明な素材でできていることが好ましい。なお、本発明で言う透明とは、観測者が内部の液量を確認できる程度に透明であればよく、半透明などを含む概念である。
【0056】
血漿を分離するための分離器具としては、分離膜である態様が好ましく、血球成分を分離可能な細孔を有するフィルタがより好ましい。分離器具を保持する保持器具は、ガスケットである態様が好ましい。また、封止器具としては、収容器具が筒状の形状をした器具などの場合には、開口に蓋をすることが可能なキャップや、螺旋状の溝を有する蓋、あるいはゴム栓などを使用することができる。
【0057】
本発明の好ましい態様においては、微量の血液である50μL以下の採血量であっても、測定精度よく分析対象成分を分析できる方法を実現可能とするものであり、患者に、50μL以下の少ない採血量でも精度よく測定することが可能であるとの情報が記載された取り扱い説明書を含むキットであることが好ましい。
【0058】
希釈液が収容された第一の収容器具、希釈液で希釈された血液検体から血漿を分離回収するための分離器具、分離器具を保持するための保持器具、回収した血漿を収容するための第二の収容器具、及び収容した血漿を第二の収容器具内に維持するための封止器具についての具体的な構成例としては、例えば、特許第3597827号公報の
図1から
図13に記載された器具を使用することができる。特許第3597827号公報の
図1を、本願の
図1として援用する。
【0059】
血液分離器具1は採血容器2(希釈液が収容された第一の収容器具)と、採血容器2に嵌挿可能な筒体3(回収した血漿を収容するための第二の収容器具)と、筒体3に冠着可能なキャップピストン4と、キャップピストン4の下端に設けられた密閉蓋5(封止器具)とを備え、使用前は、
図1に示すように、採血容器2の上端開口部はキャップ6によりパッキン7を介して密閉されている。本発明における希釈された血液検体を収容するための容器は、
図1の構成においては、採血容器2と筒体3の組み合わせに対応する。即ち、希釈された血液検体を収容するための容器は1個でも2個以上の組み合わせでもよい。
【0060】
採血容器2は透明な材質製で円筒状を成し、その上端部には、外面に螺子部8が形成され、内面に係止部9が突設されている。また、採血容器2の下端部には、逆円錐状の底部10が形成され、底部10の周囲に円筒状の脚部11が形成されている。脚部11は、血液の分析検査時に使用するサンプルカップと同一外径を有しており、好ましくは、その下端の対向する位置にそれぞれ鉛直方向にスリット溝12が形成されている。さらに、採血容器2内には、
図1に示されているように、所要量、例えば、500mm
3の希釈液13が予め入れられていてもよい。
【0061】
筒体3は透明な材質製で円筒状を成し、その上端部には拡径部14が形成されている。拡径部14は薄肉部15を介して本体部16と接続されている。筒体3の下端部には、縮径部18が形成され、縮径部18の内面には係止突起部19が形成されている。さらに、縮径部18の下端部には外鍔部20(保持器具)が形成され、外鍔部20の下端開口部は濾過膜21(分離器具)により覆われ、濾過膜21は血液中の血漿の通過を許容し、血球の通過を阻止するようになっている。
【0062】
縮径部18の外周にはシリコンゴム製のカバー22が装着されている(
図1)。
【0063】
キャップピストン4は、略円筒状の摘み部26と、摘み部26と同心で下方に延びる心棒部27とで構成されている。摘み部26の内側上端部には筒体3の拡径部14が嵌合可能な円筒状の空間28が形成され、また、その下方は螺刻され、螺子に螺合可能となっている。心棒部27はその下端部29がピン状に形成され、下端部29に密閉蓋5が着脱可能に設けられている(
図1参照)。密閉蓋5はシリコンゴム製である。
【0064】
上記した器具による血液分離方法の詳細は、特許第3597827号公報の段落番号0023〜0026並びに
図12及び
図13に記載されており、その内容は本明細書に引用される。
【0065】
本発明の血液検査キットに含まれる各々の要素の個数は特に限定されず、各々1個でもよいし、2個以上の複数でもよい。
【0066】
本発明の血液検査キットは、血液検体を希釈するための希釈液であってナトリウムイオンを含有しない希釈液と、β−ガラクトシダーゼ及びβ−ガラクトシダーゼにより変換されうる基質のうちの少なくとも1種を含む溶液と、希釈された血液検体を収容するための容器と、さらに上記した任意の要素とを、これらを収納する収納容器に収納した形態として提供することができる。
【0067】
以下の実施例により本発明を説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
(参考例1)
1.微量血液検体を希釈した希釈液の調製
ボランティアの患者から、インフォームドコンセントを行った後に静脈から注射器で採取した7mLの血液を採血管に得た。この採血した血液から、80μL、60μL、40μL、30μL、20μLをそれぞれ10回ずつマイクロピペットで正確に秤量し、下記の通り調製した希釈液−1の360μLにそれぞれ混合した。得られた混合物をフィルターを通過させることにより血球成分を分離して、希釈血漿を得た。得られた希釈血漿を試料として、生化学自動分析装置を用いて、生体成分の各濃度を測定した。
【0069】
(希釈液−1の組成)
希釈液−1を以下の組成で調製した。浸透圧は、OSMOATAT OM−6040(アークレイ(株)社製)を用いて測定した値を表示した。浸透圧の単位は、溶液の水1kgが持つ浸透圧で、イオンのミリモル数をあらわす。
HEPES 50mmol/L
2−アミノー2−メチル−1−プロパノール(AMP) 50mmol/L
D-マンニトール 284mmol/L
塩化リチウム 1mmol/L
EDTA−2K 0.8mmol/L
PALP(ピリドキサールリン酸) 0.05mmol/L
チアベンダゾール 0.0001質量%
アミカシン硫酸塩 0.0003質量%
硫酸カナマイシン 0.0005質量%
メロペネム三水和物 0.0005質量%
浸透圧 355mOsm/kg
pH 7.4
【0070】
2.ナトリウムイオン濃度の測定
1.で調製したそれぞれの希釈液について、ナトリウムイオン濃度の測定を行った。測定には、β−ガラクトシダーゼがナトリウムで活性化することを利用し、それぞれの希釈液中のナトリウムイオン濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性が比例関係にあることを利用した酵素活性法により測定した。具体的には、血液の希釈液にナトリウムイオンを含まない精製水5倍希釈した後、3μLを秤量し、下記のように調製した第一試薬52μLを加えて、37℃で5分間加温した。この混合物に、下記のように調製した第二試薬を26μL加え、1分間の吸光度の変化をJCA-BM6050型生化学自動分析装置(日本電子(株)社製)を用いて主波長410nm、副波長658nmで吸光度を測定することにより求めた。あらかじめ作成した検量線から、ナトリウムイオン濃度を測定した。
【0071】
(ナトリウムイオン測定試薬の調製)
以下の組成のナトリウムイオン測定試薬を調製した。
第一試薬
HPEPS・LiOH(pH8.0) 100mmol/L
D−マンニトール 60mmol/L
N−アセチルシステイン 30mmol/L
硫酸マグネシウム 1.52mmol/L
β−ガラクトシダーゼ 1.1kU/L
Triton(登録商標)X−100 0.05質量%
第二試薬
HPEPS・LiOH(pH8.0) 100mmol/L
o−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド 15mmol/L
【0072】
上記のように求めた希釈液中のナトリウムイオン濃度(X)と、血液の血漿中のナトリウムイオン濃度の標準値(Y)とからそれぞれの希釈液の希釈倍率(Y/X)を求め、採血した血液(80μL、60μL、40μL、30μL、20μL)のそれぞれについて10本ずつ作製した試料の希釈倍率の平均値と希釈倍率の変動係数CV(coefficient of variation)(%)を求めた。結果を表1に示した。
【0073】
【表1】
【0074】
(希釈液中のリチウムイオンの測定)
希釈液に添加したリチウムイオンの測定は、キレート比色法(ハロゲン化ポリフィリンキレート法:パーフルオロ-5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H,-ポリフィリン)により行った。具体的には、血液の希釈液を、リチウムイオンを含まない精製水で4.5倍に希釈した後、5μLを秤量し下記のように調製した第三試薬55μLを加えて、37℃で10分間加温した。この混合物について、1分間の吸光度の変化を、JCA-BM6050型生化学自動分析装置(日本電子(株)社製)を用いて、主波長545nm、副波長596nmで吸光度を測定することにより求めた。あらかじめ作成した検量線から、リチウムイオンの濃度を測定した。
【0075】
(リチウムイオン用測定試薬の調製)
以下の組成のリチウムイオン用測定試薬を調製した。
第三試薬
パーフルオロ-5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H,-ポリフィリン 0.05質量%
ジメチルスルホキシド 5質量%
トリエタノールアミン 2質量%
ポリエチレングリコール−t−オクチルフェニルエーテル 2質量%
ドデシル硫酸ナトリウム 2質量%
【0076】
上記のように求めた血液検体を希釈した希釈後の希釈液中のリチウムイオン濃度(A)と、血液を希釈する前の希釈液中のリチウムイオン濃度(B)とからそれぞれの希釈液の希釈倍率[B/(B−A)]を求め、採血した血液(80μL、60μL、40μL、30μL、20μL)のそれぞれについて10本ずつ作製した試料の希釈倍率の平均値と希釈倍率の変動係数であるCV(%)を求めた。結果を表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
表1および表2の結果から、希釈液中に存在する標準物質を用いて希釈倍率を測定する場合には、採血量が40μL以下で、希釈倍率が14倍以上であると、繰り返し再現性のばらつきが大きくなるが、血液中に存在する恒常性のある成分であるナトリウムイオンを標準物質に用いた場合には、採血量80μLで希釈倍率9.1倍から、採血量20μLで希釈倍率33.7倍においても、希釈倍率の測定値の繰り返し再現性は非常に良好であることがわかる。
【0079】
(実施例)
1.ALT(アラニントランスアミナーゼ)及びAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)の測定
20μL〜40μL程度の液体を吸収できるスポンジを用いて、参考例1で採血した同じ患者の指先から、参考例1で注射器を用いて静脈から採血した直後に、ランセットを用いて、血液を指先の皮膚外ににじませた血液を患者に吸い取ってもらい、参考例1で使用した希釈液と同じ組成の希釈液360μL中に血液を吸収したスポンジを浸し、十分にスポンジから血液を希釈液中に抽出し、フィルターで濾過して血球成分を分離し、血液検体の血漿成分の希釈液を得た。この希釈液を密閉して、検査が可能な別の施設へと搬送し、その後、希釈液を取り出して、参考例1の血液中のナトリウムイオンを用いた希釈倍率の測定方法と同様にして、β−ガラクトシダーゼを用いた測定方法において希釈倍率を測定したところ、22.3倍の希釈倍率であった。このことから、採血量は30μL弱であることがわかった。この希釈検体中のALT、ASTの濃度を、市販の測定キット(トランスアミナーゼCII−テストワコー:和光純薬工業(株)社製)を
用いて測定したところ、参考例1の採血量が80μLから20μLでのサンプルでナトリウムイオン濃度を用いて測定した希釈倍率を基にして分析した、ALT、ASTの測定値と、ほぼ一致した結果が得られた。