特許第6495888号(P6495888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6495888工業製品デザインシステム、方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495888
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】工業製品デザインシステム、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   G06F17/50 612Z
   G06F17/50 634Z
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-505041(P2016-505041)
(86)(22)【出願日】2015年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2015000721
(87)【国際公開番号】WO2015129198
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-33795(P2014-33795)
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「マルチスケール身体モデルに基づく運動評価技術の開発とその応用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】辻 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】岸下 優介
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−178222(JP,A)
【文献】 特開2006−160241(JP,A)
【文献】 特開平07−043261(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/013170(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0157478(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0199167(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0111557(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
A61B 5/0488
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業製品をデザインするシステムであって、
製品使用者が所定の身体部位を動かしてデザイン対象の工業製品を使用するときの当該身体部位の各動作に必要な筋活性度を取得する筋活性度取得部と、
前記取得された筋活性度を正規化する筋活性度正規化部と、
設計値変化率として、所定の関数を用いて前記正規化された筋活性度の写像を計算する関数演算部と、
前記デザイン対象の工業製品の設計値を前記設計値変化率で補正する設計値補正部とを備えている
ことを特徴とする工業製品デザインシステム。
【請求項2】
前記筋活性度取得部が、前記製品使用者の筋骨格モデルに基づいて前記身体部位の各動作に必要な筋活性度を算出するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の工業製品デザインシステム。
【請求項3】
前記設計値が、前記デザイン対象の工業製品の各部分の位置および色、該各部分の操作に対する反力、該各部分の操作時の振動の特性、および該各部分の操作時の接触検出感度の少なくとも一つを含む
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の工業製品デザインシステム。
【請求項4】
コンピュータを利用して工業製品をデザインする方法であって、
筋活性度取得部が、製品使用者が所定の身体部位を動かしてデザイン対象の工業製品を使用するときの当該身体部位の各動作に必要な筋活性度を取得し、
筋活性度正規化部が、前記取得された筋活性度を正規化し、
関数演算部が、設計値変化率として、所定の関数を用いて前記正規化された筋活性度の写像を計算し、
設計値補正部が、前記デザイン対象の工業製品の設計値を前記設計値変化率で修正する
ことを特徴とする工業製品デザイン方法。
【請求項5】
前記筋活性度取得部が、前記製品使用者の筋骨格モデルに基づいて前記身体部位の各動作に必要な筋活性度を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の工業製品デザイン方法。
【請求項6】
前記設計値が、前記デザイン対象の工業製品の各部分の位置および色、該各部分の操作に対する反力、該各部分の操作時の振動の特性、および該各部分の操作時の接触検出感度の少なくとも一つを含む
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の工業製品デザイン方法。
【請求項7】
コンピュータを、工業製品をデザインするシステムとして機能させるプログラムであって、
製品使用者が所定の身体部位を動かしてデザイン対象の工業製品を使用するときの当該身体部位の各動作に必要な筋活性度を取得する筋活性度取得手段、
前記取得された筋活性度を正規化する筋活性度正規化手段、
設計値変化率として、所定の関数を用いて前記正規化された筋活性度の写像を計算する関数演算部手段、および
前記デザイン対象の工業製品の設計値を前記設計値変化率で補正する設計値補正手段として、コンピュータを機能させる
ことを特徴とする工業製品デザインプログラム。
【請求項8】
前記筋活性度取得手段が、前記製品使用者の筋骨格モデルに基づいて前記身体部位の各動作に必要な筋活性度を算出する
ことを特徴とする請求項7に記載の工業製品デザインプログラム。
【請求項9】
前記設計値が、前記デザイン対象の工業製品の各部分の位置および色、該各部分の操作に対する反力、該各部分の操作時の振動の特性、および該各部分の操作時の接触検出感度の少なくとも一つを含む
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の工業製品デザインプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業製品の設計(デザイン)に関し、特に、製品使用者の運動負担感を考慮した工業製品デザイン技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の身体的特徴や生理学的特徴を工学的に利用しようとする人間工学が各種工業製品のヒューマンインタフェースの開発などに盛んに応用されている。人間工学に基づくデザインは人間にとって使いやすいだけではなく、人間が起こしそうなミスを未然に防いだりするのにも役立っている。
【0003】
人間工学では人体がさまざまなモデルで表され、コンピュータ上で人体のさまざまな動きがモデルによってシミュレートされる。モデルの例として、もっとも複雑なものとして有限要素モデルがあり、簡易なものとして人体の骨格、関節、および骨格筋をモデル化した筋骨格モデルがある。例えば、筋骨格モデルに基づく人体運動評価として、技能や感性を定量的に評価する評価指標を備え、人間の姿勢に近い姿勢を自動的に計算できる評価システムが、本願発明者によって提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−141706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
製品使用者がボタンを押したり、レバーを操作したりするなどして工業製品を使用するとき、使用者は身体部位を動かすことによって運動負担感を感じる。運動負担感が大きければ使用者はその工業製品を使いにくいと感じ、逆に運動負担感が小さければ使用者はその工業製品を使いやすいと感じる。
【0006】
使用者が感じる工業製品の使いやすさは使用者の体格差などによって異なることがある。例えば、標準的な体格の使用者を想定してデザインされた工業製品は背の高い人や背の低い人にとっては使いにくいかもしれない。すなわち、工業製品のデザインが使用者の体格や筋力に適合しなければ、使用者は、その製品を使用する際に運動負担感を多めに感じることで、その製品を使いにくいと感じてしまう。そこで、使用者の運動負担感を軽減させるような工業製品のデザインが求められるが、運動負担感は使用者の主観的なものであり、それを定量的に取り扱うことは難しい。
【0007】
従来の工業製品デザインは、さまざまな設計値で製作した試作品を被験者に試用してもらい、被験者の意見をフィードバックして設計値を変更することが多かった。しかし、この手法は大変な労力と時間を要するものであり、より簡易な工業製品デザインが望まれるところである。
【0008】
上記問題に鑑み、本発明は、客観的指標に基づいて製品使用者の運動負担感を定量的に評価して運動負担感を考慮した工業製品デザイン技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に従った工業製品デザインシステムは、製品使用者が所定の身体部位を動かしてデザイン対象の工業製品を使用するときの当該身体部位の各動作に必要な筋活性度を取得する筋活性度取得部と、前記取得された筋活性度を正規化する筋活性度正規化部と、設計値変化率として、所定の関数を用いて前記正規化された筋活性度の写像を計算する関数演算部と、前記デザイン対象の工業製品の設計値を前記設計値変化率で補正する設計値補正部とを備えている。
【0010】
また、本発明の別の局面に従った工業製品デザイン方法は、筋活性度取得部が、製品使用者が所定の身体部位を動かしてデザイン対象の工業製品を使用するときの当該身体部位の各動作に必要な筋活性度を取得し、筋活性度正規化部が、前記取得された筋活性度を正規化し、関数演算部が、設計値変化率として、所定の関数を用いて前記正規化された筋活性度の写像を計算し、設計値補正部が、前記デザイン対象の工業製品の設計値を前記設計値変化率で修正する。
【0011】
なお、ここで言う「工業製品」とは、家庭電化製品、コンピュータ、携帯端末、各種機械製品など工業的に大量生産されるものを指す。また、工業製品は、製品の完成品だけではなく各種部品類も含む。さらに、工業製品デザインは、タッチパネル画面などに表示されるボタンなど使用者によって操作される各種オブジェクトの配置を含み得る。
【0012】
また、ここで言う「所定の身体部位」とは、腕(上肢)、指、足(下肢)などである。
【0013】
また、ここで言う「各動作」とは、身体部位をさまざまな到達点に移動させること、身体部位にさまざまな軌道で到達運動をさせること、身体部位をさまざまな速度で移動させること、さまざまな負荷条件下で身体部位を移動させることなどを含み得る。
【0014】
上記の工業製品デザインシステム、方法、およびプログラムによると、製品使用時の使用者の運動負担感が筋活性度で評価され、筋活性度に基づいてデザイン対象製品の設計値が補正される。
【0015】
前記筋活性度取得部は、前記製品使用者の筋骨格モデルに基づいて前記身体部位の各動作に必要な筋活性度を算出してもよい。これによると、製品使用者の身体部位に電極を貼り付けて筋電図を計測するといった面倒な作業なしに、比較的簡単に筋活性度を取得することができる。
【0016】
なお、前記設計値は、前記デザイン対象の工業製品の各部分の位置および色、該各部分の操作に対する反力、該各部分の操作時の振動の特性、および該各部分の操作時の接触検出感度の少なくとも一つを含み得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、客観的指標に基づいて製品使用者の運動負担感を定量的に評価して運動負担感を考慮した工業製品デザインが可能となる。これにより、各製品使用者の体格や筋力に合わせて各種工業製品をカスタムメイドすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る工業製品デザインシステムの主要部の機能ブロック図である。
図2図2は、製品使用時の使用者の動作例を説明する図である。
図3図3は、図2に示した各動作に必要な筋活性度の例を示すグラフである。
図4図4は、図3に示した筋活性度を正規化したグラフである。
図5図5は、図4に示した正規化筋活性度から求めた設計値変化率を示すグラフである。
図6図6は、本実施形態に係る工業製品デザインシステムでデザインしたキーボードの一例を示す図である。
図7図7は、本実施形態に係る工業製品デザインシステムでデザインしたキーボードの別例を示す図である。
図8図8は、ユーザーにリアルタイムで筋活性度推定値を提示しながら製品デザインを行う一例を示す図である。
図9図9は、ユーザーにリアルタイムで筋活性度推定値を提示しながら製品デザインを行う別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る工業製品デザインシステム10の主要部の機能ブロック図である。デザイン対象となる工業製品は、家庭電化製品、コンピュータ、携帯端末、各種機械製品など工業的に大量生産されるものである。なお、工業製品は、製品の完成品だけではなく各種部品類も含む。さらに、工業製品デザインは、タッチパネル画面などに表示されるボタンなど使用者によって操作される各種オブジェクトの配置を含み得る。
【0021】
本実施形態に係る工業製品デザインシステム10は、筋活性度取得部11、筋活性度正規化部12、関数演算部13、および設計値補正部14を備えている。なお、工業製品デザインシステム10は、上記各構成要素を半導体集積回路などで構成した専用ハードウェアとして実施することができる。あるいは、上記各構成要素をコンピュータプログラムで記述して、PCなどの汎用コンピュータに当該コンピュータプログラムを実行させることで本システム10を汎用コンピュータ上で実施することもできる。さらに、工業製品デザインシステム10は、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて実施することもできる。
【0022】
筋活性度取得部11は、製品使用者が所定の身体部位を動かしてデザイン対象の工業製品を使用するときの当該身体部位の各動作に必要な筋活性度を取得する。例えば、所定の身体部位は、デザイン対象製品がコンピュータに用いられるキーボードなどの場合には指であり、デザイン対象製品が自転車のペダルなどの場合には足(下肢)であり、デザイン対象製品が自動車のインテリア(ステアリングやシート配置など)やタッチパネルなどの場合には腕(上肢)である。各動作として、身体部位をさまざまな到達点に移動させること、身体部位にさまざまな軌道で到達運動をさせること、身体部位をさまざまな速度で移動させること、さまざまな負荷条件下で身体部位を移動させることなどが挙げられる。
【0023】
筋活性度取得部11は、筋電計を用いて筋電図を計測することにより筋活性度を直接的に取得することができる。すなわち、使用者の所定の身体部位の表面に複数の電極を貼り付けて最大随意筋発揮時とデザイン対象製品の使用時の筋電図を計測する。その計測結果から得られる随意収縮強度(%MVC)を筋活性度とみなすことができる。
【0024】
あるいは、筋活性度取得部11は、筋骨格モデルを用いて筋活性度を間接的に取得することができる。具体的には、筋活性度取得部11は、モーションキャプチャ(図示せず)からデザイン対象製品を使用中の使用者の動きや姿勢のデータを取り込む。そして、筋活性度取得部11は、入力されたモーションキャプチャのデータについて逆運動学問題を解くことにより、筋骨格モデルにおける各関節の角度を計算する。また、筋活性度取得部11は、外部負荷(外力)のデータも取り込む。そして、筋活性度取得部11は、計算した関節角度と入力された外部負荷データから逆動力学問題を解くことにより、筋骨格モデルにおける各関節のモーメントを算出する。このように算出された関節モーメントτは、一般に次式(1)のように表される。
【0025】
【数1】
【0026】
ただし、式(1)において、右辺第1項のMは慣性力を表し、右辺第2項のCはコリオリ力(遠心力)を表し、右辺第3項のGは重力を表し、右辺第4項のEは外力を表す。また、qは一般化座標を表す。
【0027】
上記算出した関節モーメントから静的最適化を行うことにより筋活性度を求めることができる。関節モーメントと筋活性度との関係は次式(2)で表される。
【0028】
【数2】
【0029】
ただし、nは筋肉数、αは筋活性度、Fは等尺性最大筋力、lは筋肉長、vは筋短縮速度、fは等尺性最大筋力と筋肉長と筋短縮速度を引数とする関数、rはモーメントアーム、τは関節モーメントである。
【0030】
筋活性度αは、各筋肉の活性の度合いを示しており、0から1の間の値を取る。筋活性度αが1に近いほど、その筋肉が活性化していることを示す。
【0031】
人間は筋活性度が最小になるような動きを無意識に選択していると言われている。したがって、関節運動の各瞬間において、筋活性度の二乗和が最小となるように、具体的には次式(3)で表される目的関数Jが最小となるように、式(2)の方程式を解くことにより、より人間の実際の動きに近い筋活性度を算出することができる。
【0032】
【数3】
【0033】
図2は、製品使用時の使用者の動作例を説明する図である。例えば、製品使用者は、デザイン対象製品を使用する際に右手を基準位置(BASE)からA点、B点、C点の各点(到達点)へ移動させるとする。筋活性度取得部11は、そのような右手の各動作(基準位置からA点、B点、C点の各点への移動)に必要な右上腕の筋肉の筋活性度を上述したような手法で直接的または間接的に取得する。なお、筋活性度取得部11が取得する筋活性度は、右上腕の代表的な筋肉のものでもよいし、右上腕の各筋肉の筋活性度を平均したものでもよい。
【0034】
図3は、図2に示した各動作に必要な筋活性度の例を示すグラフである。例えば、右手を基準位置からA点へ移動させる動作に必要な筋活性度(以下、「A点の筋活性度」という)Eは0.1であり、基準位置からB点へ移動させる動作に必要な筋活性度(以下、「B点の筋活性度」という)Eは0.3であり、基準位置からC点へ移動させる動作に必要な筋活性度(以下、「C点の筋活性度」という)Eは0.2である。
【0035】
図1へ戻り、筋活性度正規化部12は、筋活性度取得部11が取得した筋活性度を正規化する。例えば、当該正規化は、次式(4)に従って行うことができる。
【0036】
【数4】
【0037】
ただし、EはX点の筋活性度、EMAXは最大の筋活性度、EMINは最小の筋活性度、Eバーは正規化されたX点の筋活性度である。
【0038】
図4は、図3に示した筋活性度を正規化したグラフである。図3の例では、EMAXはB点の筋活性度Eであり、EMINはA点の筋活性度Eである。正規化後のA点の筋活性度Eバー(最小の筋活性度)は0であり、正規化後のB点の筋活性度Eバー(最大の筋活性度)は1である。正規化後のC点の筋活性度Eバーは0と1の間の値である0.5である。
【0039】
図1へ戻り、関数演算部13は、所定の関数を用いて、筋活性度正規化部12によって正規化された筋活性度の写像を計算し、それを設計値変化率とする。設計値変化率とは、後述するように、デザイン対象製品の各部分の設計値を補正するための係数である。例えば、デザイン対象製品のX点における設計値変化率Rは、次式(5)に従って計算することができる。
【0040】
【数5】
【0041】
ただし、f(Z)はZの関数である。関数fとして、線形関数(f(Z)=a・Z)、指数関数(f(Z)=a・eb・Z)、対数関数(f(Z)=a・logZ)などを採用することができる。いずれの関数を使用するかはデザイン対象製品に応じて決定することができる。
【0042】
図5は、図4に示した正規化筋活性度から求めた設計値変化率を示すグラフである。図5の例は、関数fとして線形関数を採用したものである。
【0043】
図1へ戻り、設計値補正部14は、デザイン対象製品の設計値を設計値変化率で補正する。例えば、設計値の補正は、次式(6)に従って行うことができる。
【0044】
【数6】
【0045】
ここで、IBASEはデザイン対象製品の設計基準値(例えば、図2に示した基準位置における設計値)、Iはデザイン対象製品の設計変更基準値、Iはデザイン対象製品のX点における修正後の設計値である。
【0046】
設計値は、デザイン対象の工業製品の各部分の位置および色、該各部分の操作に対する反力、および該各部分の操作時の振動の特性、接触検知感度の少なくとも一つを含む。例えば、デザイン対象製品がメカニカルキーボードである場合、設計値は、各ボタンの高さや位置、色(明度、彩度、色相など)、反力の大きさ、バネの硬さなどである。また、例えば、デザイン対象製品がタッチパネル式キーボードである場合、設計値は、各ボタンを押したときの振動特性(周波数、振幅、振動時間など)や、どの程度の接触強度で接触を検知するかの感度(接触検知感度)なども含み得る。
【0047】
≪実施例≫
図6は、工業製品デザインシステム10でデザインしたキーボードの一例を示す。ホームポジションから遠いに位置にある1列目の各ボタンやエンターキーなどを押す場合には筋活性度が比較的大きくなるため、それらボタンの高さが標準値よりも若干高くされている。これにより、ホームポジションから押しにくい位置にあるボタンが押しやすくなり、製品使用者の運動負担感を軽減することができる。
【0048】
図7は、工業製品デザインシステム10でデザインしたキーボードの別例を示す。図7上段(a)は、ボタンの基準色を黒として設計値変化率が大きいほどボタンを白くした例を示す。人間は黒いものよりも白いものの方が浮き出て見えるため、ホームポジションから押しにくい位置にあるボタンを白くすることにより、視覚面から製品使用者の運動負担感を軽減することができる。一方、図7下段(b)は、ボタンの基準色を白として設計値変化率が大きいほどボタンを黒くした例を示す。人間は黒いものを白いものよりも軽く感じるため、ホームポジションから押しにくい位置にあるボタンを黒くすることにより、視覚面から製品使用者の運動負担感を軽減することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態によると、客観的指標に基づいて製品使用者の運動負担感を定量的に評価して運動負担感を考慮した工業製品デザインが可能となる。これにより、各製品使用者の体格や筋力に合わせて各種工業製品をカスタムメイドすることができる。
【0050】
なお、本実施形態に係る工業製品デザインシステム10を用いて製品デザインを行う際に、筋活性度取得部11によって計算(推定)された身体各部位の筋活性度をユーザー(ここでは、工業製品デザインシステム10を用いて製品デザインを行う者)にリアルタイムで提示するようにしてもよい。具体的には、AR(Augmented Reality)技術を利用して、カメラで撮影したユーザーの映像に筋活性度推定値を重ねてモニターに表示する。ユーザーは、筋活性度推定値が重畳された映像を見ながら製品デザインを行うことができる。
【0051】
図8は、ユーザーにリアルタイムで筋活性度推定値を提示しながら製品デザインを行う一例を示す図である。例えば、制御盤や制御パネルのように製品使用者が上腕を動かして手先で操作するような製品をデザインする場合には、図8に示したように、ユーザーの手先に筋活性度の計算結果(推定値)を表示するとよい。また、図9は、ユーザーにリアルタイムで筋活性度推定値を提示しながら製品デザインを行う別例を示す図である。例えば、自動車の最適なシート位置を決定するような場合には、図9に示したように、自動車のシートに座ってハンドルを握るユーザーの手先に、筋活性度の計算結果(推定値)を表示するとよい。
【0052】
図8および図9のいずれの例でも、ユーザーの上腕の動きに応じて筋活性度が変化するため、例えば、色を変えて筋活性度推定値を提示するとよい。このように、筋活性度取得部11によって得られた筋活性度をユーザーにリアルタイムに提示することで、工業製品デザインがより容易になる。
【符号の説明】
【0053】
10 工業製品デザインシステム
11 筋活性度取得部
12 筋活性度正規化部
13 関数演算部
14 設計値補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9