(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[リチウムイオン電池用電極材料]
本実施形態のリチウムイオン電池用電極材料(以下、単に電極材料ともいう)は、電極活物質粒子と、該電極活物質粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む電極材料であって、タップ密度が0.95g/cm
3以上1.6g/cm
3以下であり、窒素吸着測定から評価される容積全体に対するミクロ孔の容積比が1.5%以上2.5%以下であることを特徴とする。
【0011】
本実施形態で用いられる電極活物質粒子は、特に限定されないが、オリビン構造の遷移金属リン酸リチウム化合物からなることが好ましく、高放電容量、高エネルギー密度の観点から、一般式Li
x1A
y1D
z1PO
4(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群より選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群より選択される少なくとも1種、0.9<x1<1.1、0<y1≦1、0≦z1<1、0.9<y1+z1<1.1である。)で表される電極活物質粒子であることがより好ましく、一般式LiFe
x2Mn
1−x2−y2M
y2PO
4(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYから選択される少なくとも1種、0.05≦x2≦1.0、0≦y2≦0.14である。)で表される電極活物質粒子であることがさらに好ましい。
【0012】
ここで、一般式Li
x1A
y1D
z1PO
4において、Aは、Co、Mn、Ni及びFeが好ましく、Co、Mn及びFeがより好ましい。また、Dは、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Alが好ましい。電極活物質粒子がこれらの元素を含む場合、高い放電電位、高い安全性を実現可能な正極合材層とすることができる。また、資源量が豊富であるため、選択する材料として好ましい。
【0013】
前記電極活物質粒子は、一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子で構成される。電極活物質の形状は、特に制限されないが、球状、特に真球状であることが好ましい。電極活物質粒子が球状であることで、本実施形態の電極材料を用いて電極形成用ペーストを調製する際の溶媒量を低減させることができるとともに、電極形成用ペーストの集電体への塗工も容易となる。なお、電極形成用ペーストは、例えば、本実施形態の電極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶媒とを混合して調製することができる。
【0014】
前記電極活物質粒子の比表面積は、好ましくは10m
2/g以上、より好ましくは12m
2/g以上、さらに好ましくは14m
2/g以上であり、そして、好ましくは28m
2/g以下、より好ましくは27m
2/g以下、さらに好ましくは26m
2/g以下である。比表面積が10m
2/g以上であると電極活物質の中心粒子の粒径が細かく、リチウムイオン及び電子の移動にかかる時間を短くして大電流や低温での作動時の容量を増加することができる。一方、28m
2/g以下であると電極活物質の高比表面積化による金属溶出の増加を抑制することができる。
なお、上記比表面積は、比表面積計(例えば、株式会社マウンテック製、型番:MacsorbHM MODEL 1208)を用いて測定することができる。
【0015】
前記電極活物質粒子の単位比表面積当たりの炭素含有量は、好ましくは0.4mg/m
2以上、より好ましくは0.5mg/m
2以上、さらに好ましくは0.6mg/m
2以上であり、そして、好ましくは2.0mg/m
2以下、より好ましくは1.9mg/m
2以下、さらに好ましくは1.8mg/m
2以下である。単位比表面積当たりの炭素含有量が0.4mg/m
2以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2.0mg/m
2以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなるのを抑制することができる。
なお、上記単位比表面積当たりの炭素含有量は、炭素分析計(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:EMIA−220V)を用いて測定した炭素含有量を前述の比表面積で除算することで算出することができる。
【0016】
電極活物質粒子の一次粒子及び該一次粒子の集合体である二次粒子を被覆する炭素質被膜は、該炭素質被膜の原料となる有機物を炭化することにより得られる熱分解炭素質被膜である。有機物としては、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、フェノール、フェノール樹脂、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールには、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリンおよびグリセリン等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
炭素質被膜で被覆された電極活物質粒子(以下「炭素質被覆電極活物質粒子」ともいう)の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。一次粒子の平均粒子径が50nm以上であると電極材料の比表面積の増加に起因する炭素量の増加を抑制でき、これによりリチウムイオン電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、500nm以下であると電極材料内を移動するリチウムイオンの移動時間または電子の移動時間を短くすることができる。これにより、リチウムイオン電池の内部抵抗の増加に起因する出力特性の悪化を抑制できる。
ここで、一次粒子の平均粒子径とは、個数平均粒子径のことである。上記一次粒子の平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)観察により測定した200個以上の粒子の粒子径を個数平均することで求めることができる。
【0018】
前記炭素質被覆電極活物質粒子の二次粒子の平均粒子径は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上であり、そして、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上であると電極材料と導電助剤とバインダー樹脂(結着剤)と溶剤とを混合してリチウムイオン電池用電極材料ペーストを調製する際、導電助剤及び結着剤が多量に必要となることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の正極の正極合材層における単位質量あたりのリチウムイオン電池の電池容量を高くすることができる。一方、20μm以下であるとリチウムイオン電池の正極の正極合材層中の導電助剤や結着剤の分散性及び均一性を高くすることができる。その結果、リチウムイオン電池の高速充放電における放電容量が高くなる。
ここで、二次粒子の平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。上記二次粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0019】
前記炭素質被覆電極活物質粒子に含まれる炭素含有量は、好ましくは0.8質量%以上、より好ましくは1.2質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上であり、そして、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.8質量%以下である。炭素含有量が0.8質量%以上であるとリチウム電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、十分な充放電レート性能を実現することが可能になる。一方、4.0質量%以下であると電極活物質中の炭素含有量増加による単位質量あたりの電池容量低下を抑制することができる。
なお、上記炭素含有量は、炭素分析計(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:EMIA−220V)を用いて測定することができる。
【0020】
前記電極活物質粒子を被覆する炭素質被膜の厚み(平均値)は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.4nm以上であり、そして、好ましくは10.0nm以下、より好ましくは7.0nm以下である。炭素質被膜の厚みが1.0nm以上であると炭素質被膜中の電子の移動抵抗の総和が高くなることを抑制できる。これによりリチウムイオン電池の内部抵抗の上昇を抑制でき、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。一方、10.0nm以下であるとリチウムイオンが炭素質被膜中を拡散することを妨害する立体障害の形成を抑制することができ、これによりリチウムイオンの移動抵抗が低くなる。その結果、電池の内部抵抗の上昇が抑えられ、高速充放電レートにおける電圧低下を防止することができる。
【0021】
前記電極活物質粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が十分に得られる。
なお、上記炭素質被膜の被覆率は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、エネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive X−ray microanalyzer、EDX)等を用いて粒子を観察し、粒子表面を覆っている部分の割合を算出し、その平均値から求めることができる。
【0022】
炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は、好ましくは0.3g/cm
3以上、より好ましくは0.4g/cm
3以上であり、そして、好ましくは2.0g/cm
3以下、より好ましくは1.8g/cm
3以下である。炭素質被膜を構成する炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度とは、炭素質被膜が炭素のみから構成されると想定した場合に、炭素質被膜の単位体積当たりの質量である。
炭素質被膜の密度が0.3g/cm
3以上であると炭素質被膜が十分な電子伝導性を示すことができる。一方、2.0g/cm
3以下であると炭素質被膜中に層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン電池用電極材料のタップ密度は、0.95g/cm
3以上1.6g/cm
3以下である。タップ密度が0.95g/cm
3未満では電極活物質と電解液との接触面積が大きくなり過ぎてしまい、電極活物質からの金属溶出量が多くなり、得られるリチウムイオン電池の満充電状態での高温保管における容量低下が著しくなるおそれがある。一方、1.6g/cm
3を超えると電極活物質と電解液との接触面積が小さくなり過ぎてしまい、電極活物質へのリチウムイオンの脱挿入が著しく困難となるため容量低下が大きくなるおそれがある。このような観点から、タップ密度は好ましくは1.0g/cm
3以上、より好ましくは1.2g/cm
3以上であり、そして、好ましくは1.5g/cm
3以下、より好ましくは1.4g/cm
3以下である。
なお、上記タップ密度は、JIS R 1628:1997 ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法に則った手法にて測定することができる。
【0024】
本実施形態のリチウムイオン電池用電極材料の窒素吸着測定から評価される容積全体に対するミクロ孔の容積比は1.5%以上2.5%以下である。容積全体に対するミクロ孔の容積比が1.5%未満では炭素質被覆電極活物質粒子内に電解液が浸透しにくく、良好な電池特性が得られないおそれがある。一方、2.5%を超えると電極活物質と電解液との接触面積が大きくなり過ぎてしまい、電極活物質からの金属溶出量が多くなり、得られるリチウムイオン電池の満充電状態での高温保管における容量低下が著しくなるおそれがある。このような観点から、容積全体に対するミクロ孔の容積比は、好ましくは1.6%以上、より好ましくは1.7%以上、さらに好ましくは1.9%以上であり、そして、好ましくは2.4%以下、より好ましくは2.3%以下である。
なお、上記容積全体に対するミクロ孔の容積比は、実施例に記載の方法により測定し、算出することができる。
【0025】
(リチウムイオン電池用電極材料の製造方法)
本実施形態のリチウムイオン電池用電極材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、電極活物質粒子を得る工程(A)と、前記工程(A)で得られた電極活物質粒子に有機化合物を添加して混合物を調製する工程(B)と、混合物を焼成鞘に入れて焼成する工程(C)とを有する。
【0026】
〔工程(A)〕
工程(A)において、上記電極活物質粒子を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、電極活物質粒子が前記一般式Li
x1A
y1D
z1PO
4で表される場合、固相法、液相法、気相法等の従来の方法を用いることができる。このような方法で得られたLi
x1A
y1D
z1PO
4としては、例えば、粒子状のもの(以下、「Li
x1A
y1D
z1PO
4粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
Li
x1A
y1D
z1PO
4粒子は、例えば、Li源と、A源と、P源と、水と、必要に応じてD源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、Li
x1A
y1D
z1PO
4は、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、Li
x1A
y1D
z1PO
4の前駆体であってもよい。この場合、Li
x1A
y1D
z1PO
4の前駆体を焼成することで、目的のLi
x1A
y1D
z1PO
4粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0027】
水熱合成の反応条件としては、例えば、加熱温度は、好ましくは110℃以上200℃以下、より好ましくは115℃以上195℃以下、さらに好ましくは120℃以上190℃以下である。加熱温度を上記範囲内とすることで、電極活物質粒子の比表面積を上述の範囲内とすることができる。
また、反応時間は、好ましくは20分以上169時間以下、より好ましくは30分以上24時間以下、さらに好ましくは1時間以上10時間以下である。さらに、反応時の圧力は、好ましくは0.1MPa以上22MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上17MPa以下である。
【0028】
Li源、A源、D源及びP源のモル比(Li:A:D:P)は、好ましくは2.5〜4.0:0〜1.0:0〜1.0:0.9〜1.15、より好ましくは2.8〜3.5:0〜1.0:0〜1.0:0.95〜1.1である。
【0029】
ここで、Li源としては、例えば、水酸化リチウム(LiOH)等の水酸化物;炭酸リチウム(Li
2CO
3)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸リチウム(LiNO
3)、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸水素二リチウム(Li
2HPO
4)およびリン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)等のリチウム無機酸塩;酢酸リチウム(LiCH
3COO)、蓚酸リチウム((COOLi)
2)等のリチウム有機酸塩;ならびに、これらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
なお、リン酸リチウム(Li
3PO
4)は、Li源およびP源としても用いることができる。
【0030】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Li
x1A
y1D
z1PO
4におけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)等の鉄化合物またはその水和物や、硝酸鉄(III)(Fe(NO
3)
3)、塩化鉄(III)(FeCl
3)、クエン酸鉄(III)(FeC
6H
5O
7)等の3価の鉄化合物や、リン酸鉄リチウム等が挙げられる。
【0031】
D源としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、Li
x1A
y1D
z1PO
4におけるDがCaである場合、Ca源としては、水酸化カルシウム(II)(Ca(OH)
2)、塩化カルシウム(II)(CaCl
2)、硫酸カルシウム(II)(CaSO
4)、硝酸カルシウム(II)(Ca(NO
3)
2)、酢酸カルシウム(II)(Ca(CH
3COO)
2)、及びこれらの水和物等が挙げられる。
【0032】
P源としては、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウム及びリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0033】
〔工程(B)〕
工程(B)では、前記工程(A)で得られた電極活物質粒子に有機化合物を添加して混合物を調製する。
まず、上記電極活物質粒子に有機化合物を添加し、次いで、溶媒を添加する。
電極活物質粒子に対する有機化合物の配合量は、この有機化合物の全質量を炭素元素に換算したとき、電極活物質粒子100質量部に対して、好ましくは0.15質量部以上15質量部以下、より好ましくは0.45質量部以上4.5質量部以下である。
電極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が0.15質量部以上であると、この有機化合物を熱処理することにより生じる炭素質被膜の電極活物質粒子表面における被覆率を80%以上にすることができる。これにより、リチウムイオン電池の高速充放電レートにおける放電容量を高くすることができ、十分な充放電レート性能を実現できる。一方、電極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、相対的に電極活物質粒子の配合比が低下してリチウムイオン電池の容量が低くなることを抑制できる。また、電極活物質粒子に対する有機化合物の配合量が15質量部以下であると、電極活物質粒子に対する炭素質被膜の過剰な担持により、電極活物質粒子の嵩密度が高くなることを抑制できる。なお、電極活物質粒子の嵩密度が高くなると電極密度が低下し、単位体積あたりのリチウムイオン電池の電池容量が低下する。
【0034】
混合物の調製に使用する有機化合物としては、上述したものを用いることができる。
ここで、上記有機化合物として、スクロースやラクトースなどの低分子の有機化合物を用いることで、電極材料の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成することが容易になるが、一方で熱分解によって得られる炭素質被膜の炭化度が低くなる傾向があり、十分な抵抗低下を達成可能な炭素質被膜の形成が難しい。また、このような低分子の有機化合物を用いることで、炭素質被膜中のミクロ孔の量が増加し、孔全体のミクロ孔比が増加する。一方で、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの高分子の有機化合物やフェノール樹脂などのベンゼン環構造を有する有機化合物を用いることで、熱分解によって得られる炭素質被膜の炭化度が高くなる傾向があり、十分な抵抗低下を達成できるが、一方で電極材料の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成することが難しくなる傾向があり、電極材料の十分な抵抗低下の達成が難しいなどの問題ある。また、このような高分子の有機化合物やベンゼン環構造を有する有機化合物を用いることで、炭素質被膜中のミクロ孔の量が減少し、孔全体のミクロ孔比が低下する。そのため、低分子の有機化合物と高分子の有機化合物、ベンゼン環構造を有する有機化合物を適宜混合して用いることが好ましい。
特に、低分子の有機化合物については粉末状で用いることが、電極活物質粒子と有機化合物とを混合し易く、電極活物質粒子の一次粒子表面に満遍なく炭素質被膜を形成された電極材料を得ることができるため好ましい。また、低分子の有機化合物は、高分子の有機化合物と異なり溶液中に溶解し易く、事前の溶解作業などが必要ないために作業工程の削減や溶解作業に掛かるコストの低減が可能である。
【0035】
上記電極活物質粒子に溶媒を添加する際、その固形分が好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは25〜50質量%となるように調整する。固形分を上記範囲内とすることで、得られる電極材料のタップ密度を上述の範囲内とすることができる。
【0036】
上記溶媒としては、たとえば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド類;ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの溶媒の中で、好ましい溶媒は水である。
なお、必要に応じて分散剤を添加してもよい。
【0037】
電極活物質粒子と有機化合物とを、溶媒に分散させる方法としては、電極活物質粒子が均一に分散し、かつ有機化合物が溶解または分散する方法であれば、とくに限定されない。このような分散に使用する装置としては、たとえば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、アトライタ等の媒体粒子を高速で撹拌する媒体撹拌型分散装置が挙げられる。
【0038】
噴霧熱分解法を用いて、上記混合物を高温雰囲気中、たとえば、110℃以上200℃以下の大気中に噴霧し、乾燥して、混合物の造粒体を生成してもよい。
この噴霧熱分解法では、速やかに乾燥して略球状の造粒体を生成するためには、噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0039】
〔工程(C)〕
工程(C)では、前記工程(B)で得られた混合物を焼成鞘に入れて焼成する。
焼成鞘として、たとえば、カーボン等の熱伝導性に優れる物質からなる焼成鞘が好適に用いられる。
焼成温度は、好ましくは630℃以上790℃以下であり、より好ましくは680℃以上770℃以下ある。
焼成温度が630℃以上であると、有機化合物の分解及び反応が十分に進行し、有機化合物を十分に炭化させることができる。その結果、得られた電極材料に低抵抗の炭素質被膜を形成することができる。一方、焼成温度が790℃以下であると、電極材料の粒成長が進行せず十分に高い比表面積を保つことができる。その結果、リチウムイオン電池を形成した場合に高速充放電レートにおける放電容量が大きくなり、十分な充放電レート性能を実現することができる。
焼成時間は、有機化合物が十分に炭化する時間であればよく、とくに制限はないが、たとえば、0.1時間以上100時間以下である。
焼成雰囲気は、好ましくは窒素(N
2)およびアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気または水素(H
2)等の還元性ガスを含む還元性雰囲気である。混合物の酸化をより抑えたい場合には、焼成雰囲気は還元性雰囲気であることがより好ましい。
【0040】
工程(C)の焼成により、有機化合物は焼成により分解および反応して、炭素が生成する。そして、この炭素は電極活物質粒子の表面に付着して炭素質被膜となる。これにより、電極活物質粒子の表面は炭素質被膜により覆われる。
【0041】
本実施形態では、工程(C)で、電極活物質粒子より熱伝導率が高い熱伝導補助物質を混合物に添加した後、混合物を焼成することが好ましい。これにより、焼成中の焼成鞘内の温度分布をより均一にすることができる。その結果、焼成鞘内の温度ムラによって有機化合物の炭化が不十分な部分が生じたり、電極活物質粒子が炭素で還元される部分が生じたりすることを抑制できる。
【0042】
熱伝導補助物質は、上記電極活物質粒子より熱伝導率が高い物質であればとくに限定されないが、電極活物質粒子と反応し難い物質であることが好ましい。これは熱伝導補助物質が電極活物質粒子と反応することで、焼成後に得られる電極活物質粒子の電池活性を損なうおそれがあることや、熱伝導補助物質を焼成後に回収して、再利用することができなくなるおそれがあるためである。
【0043】
熱伝導補助物質としては、たとえば、炭素質材料、アルミナ質セラミックス、マグネシア質セラミックス、ジルコニア質セラミックス、シリカ質セラミックス、カルシア質セラミックスおよび窒化アルミニウム等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
熱伝導補助物質は好ましくは炭素質材料であり、例えば、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、気相法炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)およびグラフェン等が挙げられる。これらの熱伝導補助物質は1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの炭素質材料の中で、黒鉛が熱伝導補助物質としてより好ましい。
【0045】
熱伝導補助物質の寸法はとくに限定されない。しかし、熱伝導効率の点で、焼成鞘内の温度分布を十分に均一にすることができ、かつ、熱伝導補助物質の添加量を減少させるために、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均は、好ましくは1mm以上100mm以下であり、より好ましくは5mm以上30mm以下である。また、熱伝導補助物質の長手方向の長さの平均が1mm以上100mm以下であると、篩を用いて、電極材料から熱伝導補助物質を分離することが容易になる。
また、電極材料より比重が大きい方が気流式分級機等を用いた分離が容易であるため好ましい。
【0046】
熱伝導補助物質の添加量は、熱伝導補助物質の寸法にも影響されるが、上記混合物を100体積%とした場合、好ましくは1体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上30体積%以下である。熱伝導補助物質の添加量が1体積%以上であると、焼成鞘内の温度分布を十分に均一にすることができる。一方、熱伝導補助物質の添加量が50体積%以下であると、焼成鞘内で焼成する電極活物質粒子および有機化合物の量が少なくなることを抑制できる。
【0047】
焼成の後、熱伝導補助物質と電極材料との混合物を篩等に通し、熱伝導補助物質と電極材料とを分離することが好ましい。
【0048】
[リチウムイオン電池]
本実施形態のリチウムイオン電池は、正極と、負極と、電解質とを有するリチウムイオン電池であって、前記正極が、上述の電極材料を用いてなる正極合材層を有する。
【0049】
〔正極〕
正極を作製するには、上記の電極材料(正極材料)と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極形成用塗料又は正極形成用ペーストを調製する。この際、必要に応じてカーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等の導電助剤を添加してもよい。
結着剤、すなわちバインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
正極材料とバインダー樹脂との配合比は、特に限定されないが、例えば、正極材料100質量部に対してバインダー樹脂を1質量部〜30質量部、好ましくは3質量部〜20質量部とする。
【0050】
正極形成用塗料又は正極形成用ペーストに用いる溶媒としては、バインダー樹脂の性質に合わせて適宜選択すればよい。
例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等を挙げることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
次いで、正極形成用塗料又は正極形成用ペーストを、アルミニウム箔の一方の面に塗布し、その後、乾燥し、上記の正極材料とバインダー樹脂との混合物からなる塗膜が一方の面に形成されたアルミニウム箔を得る。
次いで、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、アルミニウム箔の一方の面に正極合材層を有する集電体(正極)を作製する。
このようにして、電極活物質からの金属溶出量が低減され、満充電状態での高温保管による容量低下を抑制することができる正極を作製することができる。
【0052】
〔負極〕
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金及びLi
4Ti
5O
12、Si(Li
4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0053】
〔電解質〕
電解質は、特に制限されないが、非水電解質であることが好ましく、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、例えば、濃度1モル/dm
3となるように溶解したものが挙げられる。
【0054】
〔セパレータ〕
本実施形態の正極と負極とは、セパレータを介して対向させることができる。セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0055】
本実施形態のリチウムイオン電池は、正極が、本実施形態のリチウムイオン電池用電極材料を用いてなる正極合材層を有することから、電池構成部材のいずれの周囲においてもLiイオン移動に優れ、かつ電極活物質からの金属溶出量を低減することができ、満充電状態での高温保管による容量低下を抑制することができる。そのため、電気自動車駆動用バッテリーやハイブリッド自動車駆動用バッテリーなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
〔リチウムイオン電池用電極材料の合成〕
Li源、P源としてLi
3PO
4、Fe源としてFeSO
4水溶液、Mn源としてMnSO
4水溶液、Mg源としてMgSO
4水溶液、Co源としてCoSO
4水溶液、Ca源としてCa(OH)
2水溶液を用い、これらをモル比でLi:Fe:Mn:Mg:Co:Ca:P=3:0.2448:0.70:0.05:0.0002:0.005:1となるように混合して1000Lの原料スラリーを作製し、耐圧容器に入れた。その後、145℃で2.5時間加熱反応を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。そして、この沈殿物を蒸留水で複数回十分に水洗し、ケーキ状の電極活物質を得た。
次いで、この電極活物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したポリビニルアルコール水溶液371.8g、スクロース粉末59.4g、フェノール樹脂溶液135.8gと、媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。その後、スラリーの固形分が40質量%となるように水を添加した。
次いで、このスラリーを150℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が9μmの有機物で被覆された、電極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体100体積%に対して5体積%となるように、長手方向の長さの平均が10mmである黒鉛焼結体を熱伝導補助物質として造粒体に添加し混合して焼成用原料を得た。この焼成用原料2.5kgを容積が10Lの黒鉛鞘に敷き詰め、700℃の非酸化性ガス雰囲気下にて2.5時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、焼成物を得た。この焼成物をφ75μmの篩に通し、黒鉛焼結体を取り除いて、実施例1のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
【0058】
〔リチウムイオン電池の作製〕
得られたリチウムイオン電池用電極材料と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)とを、質量比が90:5:5となるように混合し、さらに溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて流動性を付与し、スラリーを作製した。
次いで、このスラリーを厚み30μmのアルミニウム(Al)箔(集電体)上に塗布し、乾燥した。その後、ロールプレス機にて印加総圧5t/250mmで加圧し、正極を作製した。
【0059】
上記で得られたリチウムイオン電池の正極に対し、負極としてリチウム金属を配置し、これら正極と負極の間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレータを配置し、電池用部材とした。
一方、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを1:1(質量比)にて混合し、さらに1MのLiPF
6溶液を加えて、リチウムイオン伝導性を有する電解質溶液を作製した。
次いで、上記の電池用部材を上記の電解質溶液に浸漬し、実施例1のリチウムイオン電池を作製した。
【0060】
(実施例2)
スクロース粉末の添加量を29.7gとし、フェノール樹脂溶液の添加量を203.4gとした以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例2のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン電池を得た。
【0061】
(実施例3)
スクロース粉末の添加量を103.4gとし、フェノール樹脂溶液の添加量を101.7gとした以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例3のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン電池を得た。
【0062】
(実施例4)
スクロース粉末の添加量を89.1gとし、フェノール樹脂溶液の添加量を167.8gとした以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例4のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン電池を得た。
【0063】
(実施例5)
原料スラリーを作製し、耐圧容器に入れた後、反応温度を170℃に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例5のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン電池を得た。
【0064】
(実施例6)
原料スラリーを作製し、耐圧容器に入れた後、反応温度を120℃に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例6のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン電池を得た。
【0065】
(実施例7)
電極活物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したポリビニルアルコール水溶液185.9g、スクロース粉末29.7g、フェノール樹脂溶液67.8gと、媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例7のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオン電池を得た。
【0066】
(実施例8)
電極活物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したポリビニルアルコール水溶液557.7g、スクロース粉末89.1g、フェノール樹脂溶液203.4gと媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例8のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン電池を得た。
【0067】
(実施例9)
スラリーの固形分が50質量%となるように水を添加した以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例9のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオン電池を得た。
【0068】
(実施例10)
Li源、P源としてLi
3PO
4、Fe源としてFeSO
4水溶液を用い、これらをモル比でLi:Fe:P=3:1:1となるように混合して1000Lの原料スラリーを作製し、耐圧容器に入れた。その後、190℃で2.0時間加熱反応を行った。この反応後に室温(25℃)になるまで冷却して、沈殿しているケーキ状態の反応生成物を得た。そして、この沈殿物を蒸留水で複数回十分に水洗し、ケーキ状の電極活物質を得た。
次いで、この電極活物質5kg(固形分換算)に、炭素質被膜の原料となる有機化合物として、予め固形分20質量%に調整したポリビニルアルコール水溶液247.9g、スクロース粉末39.6g、フェノール樹脂溶液90.5gと、媒体粒子としての直径1mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。その後、スラリーの固形分が50質量%となるように水を添加した。
次いで、このスラリーを150℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が9μmの有機物で被覆された、電極活物質の造粒体を得た。
得られた造粒体100体積%に対して5体積%となるように、長手方向の長さの平均が10mmである黒鉛焼結体を熱伝導補助物質として造粒体に添加し混合して焼成用原料を得た。この焼成用原料2.5kgを容積が10Lの黒鉛鞘に敷き詰め、700℃の非酸化性ガス雰囲気下にて2.5時間焼成した後、40℃にて30分間保持し、焼成物を得た。この焼成物をφ75μmの篩に通し、黒鉛焼結体を取り除いて、実施例10のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例10のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例10のリチウムイオン電池を得た。
【0069】
(実施例11)
スクロース粉末の添加量を19.8gとし、フェノール樹脂溶液の添加量を135.6gとした以外は実施例10と同様にして、実施例11のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、実施例11のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例11のリチウムイオン電池を得た。
【0070】
(比較例1)
スクロース粉末の添加量を118.8gとし、フェノール樹脂溶液の添加量を0gとした以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、比較例1のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン電池を得た。
【0071】
(比較例2)
スラリーの固形分が20質量%となるように水を添加した以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、比較例2のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン電池を得た。
【0072】
(比較例3)
スクロース粉末の添加量を79.2gとし、フェノール樹脂溶液の添加量を0gとした以外は実施例10と同様にして、比較例3のリチウムイオン電池用電極材料を得た。
また、比較例3のリチウムイオン電池用電極材料を用いた以外は実施例10と同様にして、比較例3のリチウムイオン電池を得た。
【0073】
以下の方法により、得られたリチウムイオン電池用電極材料について評価を行った。結果を表1に示す。
(1)比表面積
比表面積計(株式会社マウンテック製、型番:MacsorbHM MODEL 1208)を用いて、リチウムイオン電池用電極材料の比表面積を測定した。
【0074】
(2)炭素含有量
炭素分析計(商品名:EMIA−220V、株式会社堀場製作所製)を用いてリチウムイオン電池用電極材料における炭素含有量を測定した。
【0075】
(3)単位比表面積当たりの炭素含有量
上記(2)で求めた炭素含有量を上記(1)で測定した比表面積で除算して、リチウムイオン電池用電極材料における単位比表面積当たりの炭素含有量を求めた。
【0076】
(4)タップ密度
リチウムイオン電池用電極材料のタップ密度はJIS R 1628:1997ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法に則った手法にて測定した。
【0077】
(5)細孔容積
窒素吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、型番:BELSORP−max)を使用して窒素吸着測定を実施した。リチウムイオン電池用電極材料のミクロ孔容積は、測定した窒素吸着測定結果を0.7nm以上2.0nm以下の細孔径の範囲における細孔分布をHK法にて解析し、0.7nm以上2.0nm以下の細孔径の範囲における細孔径に対応する相体圧を求め、吸着等温線の窒素の細孔吸着量から求めた。さらに、リチウムイオン電池用電極材料のメソ孔およびマクロ孔の容積として、2.4nm以上194nm以下の細孔径の範囲における細孔分布をBJH法にて解析し、2.4nm以上194nm以下の細孔径の範囲における細孔径に対応する相体圧を求め、吸着等温線の窒素の細孔吸着量から2.4nm以上194nm以下の細孔容積を求めた。
【0078】
(6)ミクロ孔の容積比
ミクロ孔の容積比は、上記(5)で求めたミクロ孔、メソ孔、マクロ孔の細孔容積の和を孔全体の容積として、ミクロ孔容積を孔全体の容積で除することで算出した。
【0079】
(7)金属溶出量
硫酸酸性水溶液(pH4)30gに電極材料3gを浸漬し、25℃にて24時間静置後、フィルタリングして粉体除去したろ液を検体とした。検体を塩酸酸性とし、Fe、MnについてICP測定を行った。ICP測定には、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:SPS3500DD)を用いた。
【0080】
〔リチウムイオン電池の評価〕
以下の方法により、得られたリチウムイオン電池について評価を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(1)放電容量および高温保管後の保存容量
リチウムイオン電池の寿命試験は以下のように行った。
まず、電池のエージングとして、環境温度25℃にて、実施例1〜9、比較例1、2では正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3V、実施例10、11、比較例3では正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.2Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、所定電圧に到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度25℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行った。この操作を3サイクル繰り返し、エージングとした。
その後、環境温度60℃にて、実施例1〜9、比較例1、2では正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3V、実施例10、11、比較例3では正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.2Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、所定電圧に到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、1分間休止した後、環境温度40℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行い、この値を表2中の放電容量とした。さらに環境温度25℃にて、実施例1〜9、比較例1、2では正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.3V、実施例10、11、比較例3では正極の電圧がLiの平衡電圧に対して4.2Vになるまで電流値1CAにて定電流充電を行い、所定電圧に到達した後、電流値が0.1CAになるまで定電圧充電を行った。その後、2週間休止した後、環境温度40℃、正極の電圧がLiの平衡電圧に対して2.5Vになるまで1CAの定電流放電を行い、この放電容量の値を表2中の高温保管後の保存容量とした。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
(結果のまとめ)
タップ密度が0.95g/cm
3以上1.6g/cm
3以下の範囲を満たし、かつ窒素吸着測定から評価される容積全体に対するミクロ孔の容積比が1.5%以上2.5%以下の範囲を満たす、実施例1〜11のリチウムイオン電池用電極材料は、いずれも金属溶出量が低減され、当該リチウムイオン電池用電極材料を用いたリチウムイオン電池は放電容量が高く、高温保管後の保存容量の低減を抑制できることが分かる。
【課題】高比表面積である電極活物質を電極材料として用いても金属溶出量の低減が可能であり、満充電状態での高温保管による容量低下が抑制されたリチウムイオン電池を得ることができるリチウムイオン電池用電極材料、及びリチウムイオン電池を提供する。