特許第6497675号(P6497675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6497675活動量の低下及び/又は不安の改善用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497675
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】活動量の低下及び/又は不安の改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20190401BHJP
   A61K 36/63 20060101ALI20190401BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20190401BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20190401BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190401BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20190401BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20190401BHJP
【FI】
   A61K31/7048
   A61K36/63
   A61P25/18
   A61P25/22
   A61P43/00 105
   A23L33/10
   A61K127:00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-10545(P2015-10545)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-132657(P2016-132657A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2018年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】593204214
【氏名又は名称】三菱ケミカルフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】室冨 和俊
(72)【発明者】
【氏名】中島 芳浩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 康一
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/191447(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/123436(WO,A1)
【文献】 特開2009−161459(JP,A)
【文献】 特開2008−162986(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/108817(WO,A1)
【文献】 Geriatrics and Gerontology International,2014年,Vol.14,pp.996-1002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K36/00−36/9068
A23L33/10
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Japio−GPG/FX
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレウロペインを主成分として含有するオリーブ葉抽出物を有効成分として含む、精神活動の活発化による運動活動性を促進するための、活動量の低下及び不安の改善用組成物。
【請求項2】
活動量の低下及び不安の原因が老化による精神機能の低下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
活動量の低下及び不安の原因が神経精神疾患である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
組成物が、食品組成物又は医薬組成物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
食品組成物が健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合わせ食品又は高齢者用食品であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活動量の低下及び/又は不安の改善に有効な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の高齢化及びストレス社会を反映し、活動量の低下及び不安感の増加が問題となっている。
【0003】
活動量の低下は社会の生産性を低下させ、不安感の増加は精神疾患の発症や症状の進行を促進し、生活習慣病の発症リスクを上昇させることが知られており、これらを改善する食品、医薬品が求められている。
【0004】
オレウロペインは、皮膚保護、抗酸化、抗菌、抗ウイルスなどの種々の作用が知られている(特許文献1)。
【0005】
特許文献2は、オリーブ又はその抽出物が持久力向上剤、抗疲労剤、運動機能向上剤として有用であることを記載し、特許文献3は、ヒドロキシチロソールと他の成分を含む組成物がエネルギー発生能力を高めること等を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−9226
【特許文献2】特開2009−161459
【特許文献3】特表2012−524033
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、活動量の低下及び/又は不安の改善に有効な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の活動量の低下及び/又は不安の改善用組成物を提供するものである。
項1. オレウロペインを含む、活動量の低下及び/又は不安の改善用組成物。
項2. 活動量の低下又は不安の原因が老化による心身機能の低下である、項1に記載の組成物。
項3. 活動量の低下又は不安の原因が神経精神疾患である、項1に記載の組成物。
項4. オレウロペインとして、オリーブ葉抽出物を使用する項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
項5. 組成物が、食品組成物又は医薬組成物である項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
項6. 食品組成物が健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合わせ食品又は高齢者用食品であることを特徴とする項5に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、医薬組成物、食品組成物として摂取することで、活動量を増大させ、不安を軽減することができる。例えば高齢者において、活動量が低下し家に閉じこもるようになると老化を促進するが、本発明の組成物は、積極性、バイタリティを高め、自発的な運動活動性を促進するので、身体機能に良好な影響を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】オープンフィールド試験の概要を示す。
図2】(a)マウスの体重と摂餌量を示す。(b) オリーブ葉抽出物含有食と普通食の摂餌量の比較。
図3】オープンフィールド試験における歩行軌跡。(a)普通食、(b) オリーブ葉抽出物含有食。
図4】不安行動の指標の比較。(a)区分線横断回数、(b)すくみ行動回数、(c)中央エリア侵入回数、(d)中央エリア侵入までに要した時間
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、活動量の増大、不安の改善作用は、自発運動を解析するオープンフィールド試験により評価することができる(図1)。具体的には、候補物質を餌に混ぜて哺乳動物(ラット、マウスなど、特にマウス)に摂取させ、1つのケージに1匹の哺乳動物を収容し、ビデオトラッキングシステムなどにより歩行軌跡を記録する。不安な精神状態や行動の意欲が低下していると歩行の軌跡は少なく(短く)なるが、活動的・行動的になり、不安が少なく精神活動が活発になると歩行軌跡は多く(長く)なる。
【0012】
本発明では、オレウロペインを活動量の増大、不安の改善のために使用する。
【0013】
オレウロペインは、オリーブに多く含まれ、オリーブ抽出物を使用することができ、特にオリーブ葉抽出物がオレウロペインを主成分として含むので好ましい。
【0014】
本明細書において、オリーブとは、モクセイ科(Oleaceae)、オリーブ属(Olea)の植物であるオリーブ(Olea europaea Linne)を意味する。オリーブ葉の抽出の際に茎、枝、枝先などが葉とともに含まれていても差し支えない。またその他の同属種、例えば、オレア・ウェルウィトスキイ(O.welwitschii)、オレア・パニクラタ(O.paniculata)などをオリーブ葉の抽出の原料として用いることもできる。
【0015】
植物体をそのまま或いは必要に応じて乾燥し粉砕後、溶媒で抽出する。抽出溶媒としては、水、低級アルコール類(例えば、メタノール、無水エタノール、含水エタノール、イソプロパノール、ブタノールなど)、グリコール類(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなど)、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、酢酸エチルなどの有機溶媒を、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
オレウロペインとしてオリーブ葉抽出物を使用する場合、乾燥して粉末形態としてもよく、濃縮、或いは希釈、他成分との混合などを任意に行うことができる。
【0017】
抽出は、通常、常圧下で常温から溶媒の沸点の温度範囲で行い、抽出後は濾過、溶媒の留去、カラムなどにより精製して溶液状、ペースト状、ゲル状、又は粉末状の抽出物とすることができる。抽出液について脱臭、脱色などの精製処理を行うこともできる。
【0018】
本発明のオレウロペインは、活動量の増大、不安の改善などの目的で食品(飲料を含む)組成物もしくは医薬組成物、サプリメントなどの組成物に使用することができる。
【0019】
本明細書において、精神神経疾患としては、認知症、パーキンソン病、うつ病、うつ状態、或いは糖尿病、甲状腺機能亢進症などのうつ状態を併発しやすい疾患が挙げられる。老化については高齢化が主であるが、手術後や長期入院などにより体力が低下したときも老化に含まれる。
【0020】
本発明の組成物は、任意の剤形、例えば錠剤、チュアブル錠、トローチ、液剤、ドリンク剤、カプセル剤、粉末剤(散剤)、顆粒剤、細粒剤、乳剤および懸濁剤などであってもよい。これらの剤形に含まれる製剤用担体、希釈剤または賦形剤として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0021】
本発明の組成物において、オレウロペインは、通常、固形分として0.001質量%以上、好ましくは0.01〜20質量%程度含まれる。
【0022】
本発明の組成物は哺乳動物、例えばヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ヤギ、ラット、マウスなど、好ましくはヒトの活動量の増大或いは不安の軽減もしくは解消に有効である。哺乳動物(特にヒト)では、不安の軽減もしくは解消が活動量の増大につながる。このような作用を示すためのオレウロペインの成人1日あたりの摂取量としては、0.01mgから10g程度、好ましくは0.1mgから1g程度、より好ましくは1mgから500mg程度であり、1日に1回から4回程度の頻度で摂取することが好ましいが、2日に1回、3日に1回、4日に1回などの頻度で摂取してもよい。
【0023】
本発明の組成物が飲料の場合、炭酸飲料、果汁飲料、乳性飲料、乳酸菌飲料、茶類飲料、アルコール飲料、機能性食品素材含有飲料などが挙げられる。
【0024】
本発明の組成物が食品組成物の場合、具体例としては、飲料類(清涼飲料(コーヒー、ココア、ジュース、ミネラル飲料、茶飲料、緑茶、紅茶、烏龍茶等)、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、酒類(日本酒、洋酒、果実酒等)等)、スプレッド(カスタードクリーム、ピーナツクリーム、チョコレートクリーム等)、ペースト(フルーツペースト、野菜ペースト、ゴマペースト等)、洋菓子(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、スナック菓子、ケーキ、プリン等)、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット、かき氷等)、レトルト食品(カレー、雑炊、おかゆ、ミートソース、デミグラスソース、ミートボール、ハンバーグ、おでん種、赤飯等)、即席食品(即席ラーメン、即席焼きそば、即席スパゲティ、ホットケーキミックス等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、生クリーム等)、加工果実(ジャム、マーマレード、干し果実等)等を挙げることができる。本発明の食品組成物は、いわゆる健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合わせ食品、高齢者用食品などを含む。
【実施例】
【0025】
次に実施例により本発明を更に具体的に説明する。しかし下記の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
実施例1
5週齢のTSOD (Tsumura Suzuki Obese Diabetes) マウスを2群に分け、一方には普通食(CE-2, 日本クレア株式会社)を与え、他方にはオリーブ葉抽出物(商品名:オピエース、エーザイフードケミカル株式会社製、オレウロペイン含量35質量%以上)含有食(0.2%オピエース+CE-2)を与え、37週齢(9ヶ月齢)まで各群6匹を個別飼育した。マウスは恒温、(23±2℃)、恒湿(50±10%)、明暗サイクル12時間(明期8:00-20:00)の部屋で、自由摂食、自由摂水の条件下で飼育した。図2a、bに示したように、各個体の体重および摂餌量を毎週計測し、両群間の差を統計学的に解析した。その結果、体重は全週齢を通じて有意差はなく(図2a)、摂餌量はオピエース含有食マウスで一過的に増加したが(図2b)、累積摂餌量は両群間に差がなかった(図2c)。以上の結果より、オピエースによる食事量への影響はなく、オピエースは肥満を誘発しないことが示唆された。
【0027】
実施例2
自発運動能および不安様行動解析方法として、新規環境下でのマウスの自発的な行動を解析するオープンフィールド試験を行った。オープンフィールド試験では、新規で広くて明るい環境中にマウスを入れ、一定時間自由に探索させる。マウスは壁際を好む性質があり、臆病なマウスほどこの傾向が強くなるため、中央部分を探索する程度が高いほど、積極的かつ活動的であり、不安レベルが低いとされる。オープンフィールド試験開始30分前より、マウスを実験室に移動させて馴化させた。プラスチック製の箱(大きさ;幅35×奥行35×高さ20cm)を準備し、webカメラと行動試験解析用ソフトANY-maze vide tracking system(株式会社ブレインサイエンス・イデア)を用い、パソコン上で中央に15×15cmの正方形(中央エリア)とフィールドを4区画する線を引き、エリアを設定した。馴化させたマウスをフィールドの角に置き、10分間の行動をビデオで録画した。図3a、bは代表的なフィールド内におけるマウスの歩行軌跡を示す。普通食を与えたマウスよりもオピエース含有食を与えたマウスの方が高い活動量を示し、中央エリアにも多く侵入することが明らかとなった(図3a, b)。
【0028】
実施例3
続いて自発運動能および不安様行動に及ぼすオピエースの効果を解析するために、撮影したビデオデータから、自発運動能指標として、区分線横断回数(図4a)、不安様行動の指標として、すくみ行動回数(図4b)、中央エリア侵入回数(図4c)、中央エリア侵入までに要した時間(図4d)を行動試験解析用ソフトANY-maze vide tracking systemで数値化し、統計処理としてt検定を行った。普通食マウスと比較した結果、オピエース含有食を与えたマウスは区分線横断回数が多く、活動量が高いことが明らかとなった(図4a)。さらに、オピエース含有食によって、すくみ行動回数の減少(図4b)、中央エリア侵入回数の増加(図4c)および中央エリア侵入までに要した時間の短縮(図4d)が認められた。以上の結果より、オピエース含有食を与えることで、TSODマウスの活動量低下や不安様行動が抑制されることが明らかとなり、オリーブ葉抽出物が活動量亢進および抗不安作用を有することが示唆された。
図1
図2
図3
図4